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○ 印 : 長母音。e の長母音と o の長母音に付けています。 ‥ 印 : ウムラウト。ö(oウムラウト)とü(uウムラウト) に付けています。 逐 語 訳 (冠) 冠詞。ただし、指示性の強い冠詞には「その」「あ の」などの訳語をつけています。 (関代) 関係代名詞。 (再代) 再帰代名詞。 (前綴) 分離動詞の前綴り。動詞と結びついて、動詞の 意味内容を広げます。 (形主) 形式主語。非人称の主語で、自然現象など主語 が漠然としている場合などに使われます。 (穴埋) 穴埋めの es。「定動詞第 2 位の法則」を満たすた めに文頭に置かれる意味内容のない es のこと。 「母音+ R」の発音について 語幹に含まれる: 「あ」「い」「う」「え」「お長母音かつ語尾: 「あー」「いー」「うー」「え 」「お 接頭辞 er-/her-/ver-/zer-/vor-: 「え」「お※ -er 冠詞 der 「で語尾 -er: 「あ※ 本資料はそら団員用 HP「周知事項」ページに掲載しています。 ※ 別資料として、原詩・歌詞の対照表も作成しました。 こちらも「周知事項」ページに掲載してます。 何かお気づきの点がございましたら川村までご連絡ください。 Felix Mendelssohn Bartholdy Sechs Lieder op.88 1. Neujahrslied 新年の歌 2 2. Der Glückliche 5 3. Hirtenlied 羊飼いの歌 6 4. Die Waldvögelein 森の小鳥 8 5. Deutschland ドイツ国 10 6. Der wandernde Musikant さすらいの音楽家 12 6つの歌

Felix Mendelssohn Bartholdy Sechs Lieder...Felix Mendelssohn Bartholdy Sechs Lieder op.88 1. Neujahrslied 新年の歌 2 2. Der Glückliche 幸 福 5 3. Hirtenlied 羊飼いの歌

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Page 1: Felix Mendelssohn Bartholdy Sechs Lieder...Felix Mendelssohn Bartholdy Sechs Lieder op.88 1. Neujahrslied 新年の歌 2 2. Der Glückliche 幸 福 5 3. Hirtenlied 羊飼いの歌

発 音

○ 印 :長母音。e の長母音と o の長母音に付けています。‥ 印 :ウムラウト。ö(o ウムラウト)と ü(u ウムラウト)

に付けています。

逐 語 訳

(冠) : 冠詞。ただし、指示性の強い冠詞には「その」「あの」などの訳語をつけています。

(関代) :関係代名詞。(再代) : 再帰代名詞。(前綴) :分離動詞の前綴り。動詞と結びついて、動詞の

意味内容を広げます。(形主) :形式主語。非人称の主語で、自然現象など主語

が漠然としている場合などに使われます。(穴埋) :穴埋めの es。「定動詞第 2 位の法則」を満たすた

めに文頭に置かれる意味内容のない es のこと。

「母音+ R」の発音について

語幹に含まれる: 「あル」「いル」「うル」「えル」「おル」

長母音かつ語尾: 「あーア」「いーア」「うーア」「え

ーア」「お○

ーア」接頭辞 er-/her-/ver-/zer-/vor-:

「えア」「おア」※ -er冠詞 der :「でア」 語尾 -er :「あア」

※ 本資料はそら団員用 HP「周知事項」ページに掲載しています。※ 別資料として、原詩・歌詞の対照表も作成しました。  こちらも「周知事項」ページに掲載してます。

何かお気づきの点がございましたら川村までご連絡ください。

Felix Mendelssohn Bartholdy

Sechs Liederop.88

1. Neujahrslied 新年の歌 22. Der Glückliche 幸 福 53. Hirtenlied 羊飼いの歌 64. Die Waldvögelein 森の小鳥 85. Deutschland ドイツ国 10 6. Der wandernde Musikant さすらいの音楽家 12

6 つ の 歌

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2

  ~と共に  (冠)    喜び   移動する  (冠)     痛み

1. Mit der Freude zieht der Schmerz 喜びと手を取り合って 痛みは歩んでゆく

   みト  でア   フろぃで  つぃート  でア   シュめルツ

     仲良く    ~を抜けて  (冠)    時

traulich durch die Zeiten, 仲睦まじく 時をくぐり抜けて。

   トらぉりヒ    どぅヒ  でぃー つぁぃてン

     激しい    嵐(複)と    穏やかな   西風(複)は

schwere Stürme, milde Weste, 激しい嵐と 穏やかな西風は、

   シュゔぇーれ  シュトゆルめ    みルで    ゔぇスて

    不安な   心配(複)と   喜ばしい 楽しみ(複)は

bange Sorgen, frohe Feste 不安な心配と 喜ばしい楽しみは、

    ばンげ   ぞールげン   フろーえ  ふぇスて

     変わる   (再代) ~へと   側面(複)

wandeln sich zur Seiten. 互いに裏返しに変わるのだ。

   ゔぁンでルン  ずぃヒ  つーア  ざぃてン

ここ示されている考えはヘーベルの主要思想の一つで、特に冒頭の 2 行は自身の著した 1811 年版『ライン地方の家の友』の暦物語序文にも引用している。「時をくぐり抜け」た先にあるゴールは最後の審判であり、現世で経験する苦しみは、Äon(アイオーン ; 神から流出する永遠の力・永世)に向けての神の教育手段、つまり人間に最後の審判における心構えを促すものである。神は「これらの日 (々現世)のあらゆる苦しみを通して、偉大なるゴールにより近づけるように」人間を導く。

4 行目 wandeln sich zur Seiten:「互いの側面に変わる」。「wandeln sich zu …3」で「…へと(本質的・根本的に)変わる」。

   そして ~のところに  多くの     涙が    落ちる

2. Und wo manche Träne fällt, そして 多くの涙が流れる場所には

   うント    ゔぉー   まンひぇ   トれーね   ふぇルト

    咲く  ~もまた   多くの     薔薇

blüht auch manche Rose, 多くの薔薇もまた花開く。

   ブルゆート  あぉホ   まンひぇ   ろーぜ

    すでに  混ざり合っている   しかも ~する前に 私たちが それを  願う

schon gemischt, noch eh' wir's bitten, すでに混ざり合っている、私たちが願う前に、

   しょーン    げみシュト    のホ    えー    ゔぃア_ ス   びてン

  ~である ~に関しての   玉座(複)   そして ~に関しての  あばら家(複)

ist für �ronen und für Hütten 玉座に座るか あばら家に住むかという

  いスト   フゆーア   トろーねン   うント  フゆーア    ヒゆてン

     痛みは    そして   悦楽は  ~において  籤・運命

Schmerz und Lust im Lose. 痛みと悦楽は 運命という籤くじ

のもとに。

    シュめルツ    うント   るスト    いム   ろーぜ

1-2 行目 「そのゴールでは、ただ喜びだけがあり、もはや苦しみはどこにもない」「そこでは、あらゆることに敬虔に耐え忍んだあなたたちの流した涙から、あなたたちに、永遠の喜びの涙が発現するだろう」。最後の審判の日には全ての苦しみが決定的な終わりを迎える、ということ。なお、この「涙の、喜びへの変化」は、すでにイエスの出現によって先取りして始まっている。

manche Rose:「多くの薔薇」。原詩では「eine Rose(一輪の薔薇)」。

3-5 行目 「彼(神)はしばしば、薬のように、苦い火酒を喜びの陶酔と混ぜ合わせる。そうすることで、喜びに酔いしれた状態を、分別のある適切な状態へと鎮めるのだ」「あなた(神)は、私たちの現世での生活における喜びと涙を、より良い未来のために、かしこく混ぜ合わせた」

wir's:= wir es。es は bitten の目的語で、具体内容は 4 行目。

Neujahrslied1新年の歌by Johann Peter Hebel 

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3

 ~だった (形主)  ~ない  そのようだ ~において  古い    年

3. War's nicht so im alten Jahr? 去年はそうではなかった?

  ゔぁル_ ス   にヒト   ぞー     いム  あルてン  イやール

  ~になる (形主) ~において  新しい〔年〕  終わる

Wird's im neuen enden? 今年にはそれはお仕舞になるのかって?

  ゔぃルト_ ス    いム   のぃえン   えンでン

   太陽の光(複)は   波打つ   上方に  そして  下方に

Sonnen wallen auf und nieder, 太陽は昇り また沈みゆく、

    ぞねン    ゔぁれン  あぉフ  うント  にーだア

    雲(複)は    行く   そして       戻ってくる

Wolken geh'n und kommen wieder, 雲は行き また帰りくる、

   ゔぉルけン   げーン  うント    こめン    ゔぃーだア

   そして  ひとつもない   希望は    ~だろう それを  ひっくり返す

und kein Wunsch wird's wenden. そして どんなに願っても       それを逆向きにはできないだろう。   うント    かぃン     ゔンシュ    ゔぃルト_ ス   ゔぇンでン

1 行目 War's:= War es。es は形式主語。

2 行目 Wird's:= Wird es。es は形式主語。 im neuen:後ろに「Jahr 年」が省略されている。

4 行目 kommen wieder:分離動詞 wieder│kommen「戻ってくる」三・複・現。

5 行目 wird's:= wird es。es は指示語で、3-4 行目の内容を指す。

    与えよ   だから   (冠)  ~について  私たち

4. Gebe denn, der über uns だからお与えください、我らを

   げーべ    でン    でア  ゆーばア  うンス

   はかる ~を用いて  正しい     秤

wägt mit rechter Wage, 正しい秤はかり

ではかる御方よ、

  ゔぇクト  みト    れヒたア   ゔぁーげ

   誰にでも   感覚を ~のための  彼の    喜び(複)

jedem Sinn für seine Freuden, どんな人にも 喜びを感じ取る感覚を、

   イえーでム  ずぃン  フゆーア  ざぃね   フろぃでン

   誰にでも   勇気を ~のための  彼の    苦難(複)

jedem Mut für seine Leiden, どんな人にも 苦難を乗り越える勇気を、

   イえーでム  むート   フゆーア  ざぃね    らぃでン

~の中へ入って この   新しい   日(複)

in die neuen Tage. この新しい日々が始まるにあたって。

  いン    でぃー  のぃえン   たーげ

1 行目 Gebe :「与えよ」。geben「与える」の命令法(単数)。 der:神のこと。

2 行目 rechter Wage:「正しい秤」。被造物は、創造主が創造の目的に沿って裁くもの。秤にたとえるならば、人間は神の被造物だから、創造主である神が人間を量る権限を持っている。神は正義の神であるため、その裁きは絶対的に正義である。最後の審判において、イエス・キリストが再臨して死者を含めたすべての人間に裁きを下す。このとき、魂の純潔さをはかる道具として天秤が登場する。人間は、大天使ミカエルの持つ天秤に一人ずつ載せられて罪をはかられる。

Jedem auf des Lebens Pfad / Einen Freund zur Seite, / Ein zufriedenes Gemüthe, /Und zu stiller Herzensgüte / Ho�nung in's Geleite! どんな人にも 人生を共に歩む友を傍に(お与えください)、満ち足りて幸福な魂を(お与えください)、

そして 穏やかな善意の人になれるよう、希望を同行者として(お与えください)!

第 5 節

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4

詩 1808   曲 1844.8.8

 この詩はドイツの人々の間に広く親しまれ、ネットで検索していても、ブログや教会の催しのパンフレッ

トなど、数多くヒットします。初出は『アルザス地方の手帳』(1808 年)で、ヘーベルの数少ない標準ド

イツ語による詩です(ヘーベルはほとんどの詩を方言で書いています)。詩には「喜びと痛みの混ぜ合わせ」

が書かれていますが、これは単なるごちゃ混ぜ状態なのではなく、「苦難の中にすでに救いが近くにある」

ことを述べているそうです。この思想は、ヘーベルが聖書の言葉を自分の作品の中で自身の言葉に言い換

えて述べる中で、繰り返し登場します。

苦しみが途方もなく大きいとき、その慰めは、しばしばきわめて近くにある。

Wenn die Note am größten, ist oft ihr Trost am nächsten.― ヨセフの兄弟たちの、エジプトへの二度目の旅における言葉(『創世記』第 37-46 章)

その女が言った、「メシアが来たら、私たちに全てを教えて下さるでしょう」。その女は知らな

かったのだ、つまり、メシアがそのことについてすでに自分に語っていることを。人はしばし

ば、なおも神の慈悲を待ち望む。すでにそれがそこにあるときに。

Das Weib sprach:"Wenn der Messias kommt, der wird uns alles lehren." Sie wußte nicht,daß der nämliche, der mit ihr redete, es sey. Man wartet oft noch auf Gottes Gnade, wenn sie schon da ist.

― イエスとサマリア人の女の会話(『ヨハネ』第 4 章 1-26 節)

 メンデルスゾーンは、タウヌス山地の麓での夏季休暇中にこの曲を作りました。4 番のみコーダとして

構成しており、詩に述べられている「新年における懇願」が、より深く心に沁みてきます。

■ 「新年の歌」の解説を書くにあたって、下記を参考にしました。 Johann Anselm Steiger 『Bibel-Sprache, Welt und Jüngster Tag bei Johann Peter Hebel ヘーベルによる聖書表現と世界と最後の審判』(1994)

へーベル Johann Peter Hebel「新年の歌」

 ヘーベル(1760-1826)は、ドイツの地方文学を代表する詩人です。スイスのバーゼルに都市貴族に

仕える奉公人の子として生まれ、幼くして孤児となりましたが、わずかな遺産と周囲の援助によっ

て大学に進み、プロテスタント神学を修めました。卒業後 10 年ほど住み込みの家庭教師や代用教員

などをしたのち、母校のギムナジウムに教員として招聘され、後には校長となりました。さらにバー

デン大公国の高位聖職である監督長・上院議員も兼ね、教育と宗教の要職を長く務めました。その

間に、バーデン地方の方言による『アレマン方言詩集』(1803)で名声を得ています。1826 年、旅行

中に病気によりシュヴェツィンゲンにて死去、生涯独身でした。

 ヘーベルは、何よりもまず『ライン地方の家の友』の暦物語(暦に添えるために書かれた短い挿話・

世間話・教訓話)の著者として知られています。日常生活の指針を提供し、道徳的考察をも平易に表現、

ユーモアや教訓に富む数々のすぐれた作品は、農民をはじめ広く民衆の啓蒙に寄与しました。

NOTE

詩 1837   曲 1843.6.22

 アイヒェンドルフの初の詩集『Gedichte アイヒェンドルフ詩集』(1837 年)中の「Frühling und Liebe 春

と愛」所収。なんとも青臭い……若々しい情熱溢れる愛の激白。メンデルスゾーンも、詩の衒てら

いのない雰

囲気をうけて、愛の喜びにあふれた明るく躍動する曲に仕上げています。そして最終行をくどいくらい

……印象付けるように繰り返しますが、特に「unermesslich 計り知れない」の昂揚した音と動きは、聴い

ていてお腹いっぱいになりそう……恋人への零れ落ちんばかりの愛の想いが伝わってきます。……いえ、

好きなんですけどね? 「愛する人の存在そのものが嬉しくてたまらない」という感じです。

 この「幸福」の詩は、ヴォルフ《アイヒェンドルフ歌曲集》にも採られています(タイトルは〈愛の喜び〉と

替えられています)。構成が面白く、この〈愛の喜び〉の直前は〈災難〉で、「ある夜、通り魔的にチビ助に撃

たれちまった。そいつ、腹立つことにキューピットだったんだぜ……」という内容です。その直後に〈愛の

喜び〉の「僕には大大大好きな人がいるんだぁ!」が続きます。なかなかエスプリが効いてますね。

NOTE

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5

   私は  持つ  一人の   恋人を     非常に  愛している ~から    心

Ich hab' ein Liebchen recht lieb von Herzen, 僕は恋人が大大大好きだ もう心の底からね。

   いヒ  はプ   あぃン  りープひぇン   れヒト  りープ  ふぉン  へルつぇン

   明るい 若々しい   目(複)を もつ それは ~のような 二本の   蝋燭(複)

hellfrische Augen hat's wie zwei Kerzen, そのキラキラした晴れやかな瞳は 二本の蝋ろう

燭そく

のよう、

   へル_ フりしぇ   あぉげン  はト_ ス   ゔぃー   ツゔぁぃ  けルつぇン

   そして ~の場所 それらが   戯れに    少し~する    (冠)  野原

und wo sie spielend streifen das Feld, 戯れにちらりと野原へ視線を投げるだけで

  うント  ゔぉー  ずぃー  シュぴーれント シュトらぃふぇン  だス  ふぇルト

   ああ  なんと 非常に  上機嫌に     輝く    この  世界は

ach, wie so lustig glänzet die Welt! ああ、なんて嬉しげに輝くんだろう、この世界は!

   あハ  ゔぃー  ぞー  るスてぃヒ  グれンつぇト  でぃー ゔぇルト

1 行目 hab'... lieb:「(~4を)愛している」。

2 行目 hat's:= hat es。es は 1 行目「ein Liebchen 愛する人」を指す。

  ~ように ~の時 (冠)   森の  夜      ~の間で    (冠)  狭いトンネル・岩(複)

Wie in der Waldnacht zwischen den Schlüften 夜の森 窮屈な岩壁に挟まれていたら

   ゔぃー  いン  でア   ゔぁルト_ なハト   ツゔぃしぇン  でン   シュルゆフてン

     突然     (冠)   谷(複)   陽が当たる  (再代)  割る・割れる

plötzlich die Täler sonnig sich klüften, 不意に陽が射し込んでパッと谷がひらけ、

    プれツりヒ   でぃー  てーらア  ぞンにヒ   ずぃヒ  クルゆフてン

    きらめく   (冠)   流れ(複)が   ざわめく      天   に向かって

funkeln die Ströme, rauscht himmelwärts 河の流れがきらめき、  花盛りの原野が天へとざわめき上がるような――   ふンけルン  でぃー  シュトれーめ   らぉシュト    ひめル_ ゔぇルツ

     花盛りの     原野が   それほどだ ~である  私の    想いは

blühende Wildnis - so ist mein Herz! それほどなんだよ、僕の想いは!

   ブルゆーえンで   ゔぃルトにス   ぞー    いスト  まぃン    へルツ

  ~ように  ~から    山岳地帯   ~へ    海   ~こと   眺める

Wie vom Gebirge ins Meer zu schauen, 奥山の頂いただき

から遠く海原へと見晴らすように、

   ゔぃー  ふぉム   げびルげ   いンス  めーア   つぅ  しゃぉえン

  ~ように ~する時  (冠)    海鷹が     ぶら下がって  ~に    青空

wie wenn der Seefalk', hangend im Blauen, 海鷹が遙か蒼穹から見下ろし

   ゔぃー  ゔぇン   でア  ぜー_ ふぁルク    はンげント   いム  ブらぃえン

   呼びかける  (冠)  次第にに黄昏れてくる 地上〔に向かって〕 「どこに 彼女は いるのか」と

zuruft der dämmernden Erd' wo sie blieb? - 黄た そ が

昏れの降りる陸地へ向けて    「あの娘はどこ?」と呼びかけるように――  つぅ_ るフト でア    でまアンでン     えールト    ゔぉー ずぃー ブりープ

  それほど    計り知れない    ~である  真実の    愛は

So unermesslich ist rechte Lieb'! それぐらい計り知れないのだ、真実の愛とはね!

  ぞー   うン_ えアめスりヒ   いスト  れヒて   りープ

3 行目 zuruft :「(…3に向かって~4を)呼びかける、大声で言う」。zurufen の三・単・現。 wo sie blieb:「『彼女はどこにいるのか』と」。blieb は bleiben の三・単・接Ⅰ(間接話法)。この部分が間接話法になって、動詞 zuruft の 4 格目的語になっている。

Der Glückliche2幸 福by Josef Karl Benedikt von Eichendorff

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6

  おお    冬よ     うんざりする     冬よ

1. O Winter, schlimmer Winter, おお冬よ、うんざりする冬よ、

  おー  ゔぃンたア     シュりまア     ゔぃンたア

   なんと ~であるか この   世界は  そんなにも  小さい

wie ist die Welt so klein! なんとその世界は窮屈なことか!

  ゔぃー   いスト  でぃー  ゔぇルト   ぞー    クらぃン

   お前は  押し込む   私たち  皆を  ~へ  (冠)   谷(複)

Du drängst uns all' in die Täler, お前は僕たちみんなを谷に押し込める、

   どぅ  ドれンクスト  うンス  あル  いン  でぃー てーらア

   ~へ  (冠)   狭い     小屋(複)    (前綴)

in die engen Hütten hinein. 狭苦しい小屋に。

  いン でぃー  えンげン    ヒゆてン   ひ _ なぃン

3-4 行目 drängst ... hinein:分離動詞 hinein│drängen「(~ 4 を in …4 へ)押し込む」二・単・現。

   そして  通り過ぎても  私が  たとえ~ても   (前綴)

2. Und geh' ich auch vorüber そして たとえ僕が通り過ぎたとしても

   うント    げー   いヒ   あぉホ   ふぉア_ ゆーばア

 ~のそばを   私の     愛する人の    家

an meiner Liebsten Haus, 僕の愛する人の家のそばを、

  あン   まぃなア    りープスてン   はぉス

 恐らく~ないだろう  見る   彼女は ~でもって  (冠)     頭(小辞)

kaum sieht sie mit dem Köpfchen あの娘は外を見てはくれないだろう 可愛い頭を

   かぉム    ずぃート  ずぃー   みト   でム    けプフひぇン

   ~へ    小さな      窓    こちらの外へ

zum kleinen Fenster heraus. 小さな窓へと寄せて。

   つム   クらぃねン   ふぇンスたア  へ _ らぉス

1 行目 動詞が文頭にあるので、仮定条件になる。※ und は文頭として数えない。 geh' ... vorüber:分離動詞 vorüber│gehen「(an …3 のそばを)通り過ぎる」の一・単・現。

2-3 行目 sieht ... heraus:「外へと目を向ける」。分離動詞的な扱いになっている。

   おお    夏よ     素晴らしい     夏よ

3. O Sommer, schöner Sommer, おお夏よ、素晴らしき夏よ、

  おー   ぞまア     しぇーなア     ぞまア

   なんと ~となるのか この  世界は そんなにも 広い

wie wird die Welt so weit! なんとその世界は広がることか!

  ゔぃー  ゔぃルト  でぃー ゔぇルト  ぞー  ゔぁぃト

 ~につれ  より高く   人が    登る   上へと  (冠)   山を

Je höher man steigt auf die Berge, 山をどんどん高く登るにつれ

  イえー  へーあア   まン  シュたぃクト あぉフ でぃー  べルげ

 ~となる  より広く  それが  (再代)    広まる

je weiter sie sich verbreit. 世界はどんどん広がっていく。

  イえー ゔぁぃたア  ずぃー ずぃヒ  ふぇア_ ブらぃト

3-4 行目 Je höher ... Je weiter:「高くなればなるほど広くなる」。「je +比較級 , je +比較級」で「~すればするほど…」。

Hirtenlied3羊飼いの歌by Johann Ludwig Uhland

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7

   そして 抱くならば  私が  お前を  ~に  (冠)    腕(複)

4. Und halt' ich dich in den Armen そして もし僕が君をこの腕に抱きしめたら

   うント  はルト   いヒ   でぃヒ  いン でン   あルめン

  ~の上で  自由な    山の   頂

auf freien Bergeshöh'n: 開放的な山の頂上で、

  あぉフ フらぃえン   べルげス _ へーン

  私たちは  見る  ~へと   (冠)   広い    地上(複)

wir seh'n in  die weiten Lande 僕たちは広々とした地上を見晴らす、

  ゔぃア  ぜーン  いン   でぃー ゔぁぃてン   らンで

   そして   ~られる   しかし  ~ない    見る

und werden doch nicht geseh'n. でも 誰にも見られることはないのだ。

   うント  ゔぇルでン   どホ    にヒト    げ _ ぜーン

1 行目 動詞が文頭にあるので、仮定条件になる。※ und は文頭として数えない。

ウーラント Johann Ludwig „ Louis„ Uhland「羊飼いの歌」

 ウーラント(1787-1862)は、シラーやヘーゲルなどを輩出した自由主義的な南西ドイツのシュヴァー

ヴェン地方の出身で、法律家・政治家でもあります。政治活動のかたわら文学・語学の研究につとめ、

1848-49 年、フランクフルト国民議会の一員となり、大ドイツ主義(ドイツ人以外の居住者のいるオー

ストリアを含んでのドイツ統一を目指す)の進歩派として活躍しましたが、その希望が挫折してからは、

歴史家として晩年まで古ドイツ語や民話伝説などの研究に励み、ドイツの民族性形成やドイツ文学研

究に大きく貢献しました。

詩 1810   曲 1839.6.24

 原題は「Des Hirten Winterlied 羊飼いの冬の歌」。アルプス地方の牧人は、冬の間は山の中腹の共同牧

場で他の牧人たちとともに暮らし、夏になれば高山の放牧地(アルム)へと上ります。詩は、このアルプス

地方の高地放牧を背景に、谷間で共同生活する冬の憂鬱で窮屈な世界と、高山の放牧地へ上る夏の開放的

で広々とした世界の対比を通して、「彼女」との愛を語ります。

 メンデルスゾーンは、全 6 節のうち、1・2・4・6 節を曲にしました。4-8 小節のテノールや、25-28・39-41 小節の 2 声ずつの動き、最後の 2 小節のソプラノなどは、アルペン・ホルンっぽい動きです。

19-22・33-26 小節のフレーズに出てくる C♯はアルペン・ホルン旋律法の「高い fa」でしょうか?

 牧人たちの一見すると平和で穏やかな光景は、貴族社会にのどかな田園の牧人趣味を生みだしました。

たとえばモーツァルトの牧人劇《バスティアンとバスティエンヌ》や歌曲〈菫〉などに当時の繊細な趣向がう

かがええます。でも、羊飼いたちの実態はそんなのどかなものではありませんでした。彼らの職種は「卑

しい unehrlich」ものとして見られ、組合(ギルド)を持つことも許されませんでした。そのため、人目を避

けて孤独に暮らし、職をひそかに父から子へ、子から孫へと引き継いで、彼らだけの家族を形成すること

になります。牧人たちが他の業者たちと対等の資格を得たのは、18 世紀に入ってからです。

NOTE

第 3 節 (2 番と 3 番の間)   

Und nehm ich's Herz in die HändeUnd geh hinauf ins Haus:Sie sitzt zwischen Vater und Mutter,Schaut kaum zu den Äuglein heraus.そして 僕が勇気を出して

あの娘の家にのぼっていっても、

あの娘は両親の間に座って

可愛い目をこちらに向けてくることはないだろう。

第 5 節 (3 番と 4 番の間)   

Und stehest du auf dem Felsen,Traut' Liebchen! ich rufe dir zu.Die Halle sagen es weiter, Doch Niemand hört es als du.そして もし君が岩壁の上に立つならば、 「愛する恋人よ!」と僕は君へと呼びかける。

その木霊は何度も響き返り、 でも 誰もそれを聞くことはない、君の他には。

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8

     おいで      ~しよう   ~しに行く   散歩する

1. Kommt, lasst uns geh'n spazieren おいで、散歩に行こう

     こムト    らスト  うンス   げーン  シュぱつぃーれン

~じゅうをあちこち  (冠)   たくさんの 緑の     森

durch den vielgrünen Wald, 緑でいっぱいの森の中を。

   どぅヒ    でン  ふぃール_ グルゆーねン  ゔぁルト

   (冠)   鳥たちが    音楽を奏でる

die Vögel musizieren, 鳥たちが音楽を奏で、

  でぃー  ふぇーげル   むずぃつぃーれン

   その結果   山は    と    谷は   鳴り響いている

dass Berg und Tal erschallt. 山と谷に響き渡っている。

   だス   べルク    うント  たール   えアしゃルト

1 行目 lasst uns:「~しよう」。英語の let us(let's)と同じ。

原詩「Kommt laßt uns aus spazieren, / Zu hören durch den Wald, / Die Vögel musiciren, / Daß Berg und �al erschallt. おいで 散歩に出かけよう、森を抜けて、鳥たちが音楽を奏で、山谷が響き渡っているのを聴くために」。

    幸いだ  ~の者は  (関代)  自由に  ~できる   歌う

2. Wohl dem, der frei kann singen, 幸いなるかな、自由に歌える者は、

   ゔぉール   でム   でア   フらぃ   かン   ずぃンげン

 ~のように お前  お前   民よ   (冠)  空・大気の

wie du, du Volk der Luft, お前のように、お前大空の民よ。

  ゔぃー  どぅ  どぅ  ふぉルク  でア   るフト

   そして   彼の     声は      漂い流れる

und seine Stimme schwingen そして 歌声は漂い流れてゆく

   うント  ざぃね   シュてぃめ     シュゔぃンげン

   ~へ  彼女   ~を   それ   彼は  望んでいる

zu der, auf die er ho�t. あの女ひと

へ届けと、期待を込めて。

  つぅ  でア   あぉフ  でぃー  えーア  ほフト

1 行目 Wohl dem, der...:「~する者は幸いだ」。3 格(dem)には間投詞(wohl)の行為者を表す用法がある。第 3 節 1 行目も同じ用法。《参考》Wohl dem, der barmherzig ist! 恵みを施す人は幸いである(詩篇 112:5)。

    幸いだ  ~の者は誰でも  (関代)  自由に  生きる

3. Wohl jedem, der frei lebet 幸いなるかな、自由に生きる者は誰でも、

   ゔぉール  イえーでム   でア  フらぃ  れーべト

 ~のように お前  お前   気楽な     群よ

wie du, du leichte Schar, お前のように、お前気楽な者たちよ。

  ゔぃー  どぅ  どぅ  らぃヒて   しゃール

 ~の中に   慰め  そして    安らぎ      ある

in Trost und Frieden schwebet 慰なぐさ

めと安らぎのうちにあり

  いン  トろースト  うント  フりーでン   シュゔぇーべト

   そして  ~の外に  全ての   危険

und außer aller Fahr. そして あらゆる危険のそとにあるのだ。

   うント  あぉさア  あらア  ふぁール

1 行目 原詩「Mehr wohl dem der frey lebet もっと幸いなるかな、自由に生きる者は」。

3-4 行目 原詩「In Trost und Angst nicht schwebet, / Ist außer der Gefahr. 慰めのうちにあり 不安にかられることはなく、危険のそとにあるのだ」。

Die Waldvögelein4by Martin Opitz 森の小鳥

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9

オーピッツ Martin Opitz ( von Boberfeld )「森の小鳥」

 オーピッツ(1597-1639)は、シュレジェン(現ポーランド)に生まれ、ドイツ ・ バロック文学の始祖と

なった詩人・詩学者です。三十年戦争による外国語の氾濫から国語を純化し、また文化先進国であるフ

ランスやオランダに並ぶ自国語による文学の興隆を目ざして、ドイツ最初の文学理論書『ドイツ詩の書』

(1624)を著わします。これは、近世ヨーロッパ共通の詩形式をドイツ詩に適用した詩法を提唱したも

のであり、長くドイツ詩学の規範とされました。外交官としてもすぐれ、1633 年以後、ペストで死去

するまで要職にありました。

 オーピッツは、バロック文学の理論的指導者として同時代人に大きな影響を与えました。自己の理論

の具体化として多くの創作を試み、ドイツ最初の創作オペラであるシュッツ作曲《ダフネ》(1627)の台

本作者も、このオーピッツです。

ガイベル Emanuel Geibel「ドイツ国」

 ガイベル(1815-1884)は詩人・評論家。改革派の牧師の子として北ドイツのリューベックに生まれ、

ボンとベルリンに学び、ロマン派詩人と交際、古典主義的手法で詩作を始めます。1852 年、文芸の庇

護者を自任していたバイエルン王の招きでミュンヘンに移り、ハイゼらとともに文壇を率いました。当

時の詩人としては少数派の保守派に列し、特に晩年は祖国ドイツへの愛国的な詩を書きました。

 ガイベルは、ギリシャ語・ラテン語を得意とし、ロマンティックな詩の中に古典的な語法を取り入れ

るなど、折衷的な作風が特徴です。その詩は同時代の作曲家たちにも多大な影響を与えますが、独創性

に乏しく、次第に忘れられました。とはいうものの、メンデルスゾーン、シューマン、ブラームス、ヴォ

ルフなど多くの作曲家がガイベルの詩に曲を付けており(シューマンの〈流浪の民〉は有名ですね)、当時

どれほど彼の詩が愛されていたのかが推察されます。

詩 17 世紀   曲 1843.6.19

 原題は「Der Spaziergang 散歩」。もとは全 7 節あったのですが、民謡集『少年の魔法の角笛』に採られた

際に 1・2・4 節のみ掲載され、以降、この「散歩」は 3 節の詩として広まりました。削除された節の内容

を確認したくて資料をあたったのですが、探しても見つかりませんでした。残念。

 詩では、鳥たちのように自由に歌い生きる人を賛美しています。第 2 節で、「届け、僕の想い!」とばか

りに歌っていますが、どうやらお相手の彼女には届いていないようです。『角笛』の注釈によると、彼女は

耳をふさいで知らんぷりをしているのだそうです。

 曲は、鳥の歌声となった女声と男声が響き交わし、森や谷に木霊しています。tutti や下 3 声がそろう

個所では、鳥の歌を可愛らしく軽やかに囀ります。

NOTE

アイヒェンドルフ Joseph Karl Benedikt Freiherr von Eichendorff「幸福」「さすらいの音楽家」

 アイヒェンドルフ(1788-1857)は、シュレジェン(現ポーランド)の古いカトリック系貴族の男爵家の

生まれです。居城であったルヴォヴィツ城での生活の思い出は、「少年時代の楽園」として彼の心に生涯

残り、作品に漂う郷愁や漂泊となって現われています。この白亜の居城は、生家が没落した後、1823年に財政上の問題で人手に渡りました。ナポレオン戦争時には祖国ドイツのために戦いに身を投じるこ

とがありましたが、基本的に生涯を誠実な公僕として働きつつ、民謡集『少年の魔法の角笛』に深い影響

を受けて、民謡調の素朴で音律の豊かな抒情詩を生涯にわたって書き続けました。

 アイヒェンドルフの作品は、シューマン《リーダークライス》やヴォルフ《アイヒェンドルフ歌曲集》など、

多くの作曲家によって作曲され、ドイツ民謡風の歌として今なお愛唱されているものも少なくありません。

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   ~を貫き    深い     夜    (冠)  轟々とした音が  吹き渡る

1. Durch tiefe Nacht ein Brausen zieht, 深い夜を貫き 轟とど

ろく風が吹き荒れて

    どぅヒ  てぃーふぇ  なハト   あぃン  ブらぉぜン  つぃート

   そして  折り曲げる  (冠)     芽吹いた     若枝(複)を

und beugt die knospenden Reiser, 萌きざ

した若枝を屈服させる。

   うント   ぼぃクト  でぃー   クのスぺンでン    らぃざア

  (穴埋)  鳴り響く ~の中に   風   ある   古い   歌が

Es klingt im Wind ein altes Lied, 聞こえてくる 風の中に古いにしえ

の歌の響きが、

   えス  クりンクト  いム   ゔぃント  あぃン あルてス  りート

   (冠)   歌   ~の     ドイツの      皇帝

das Lied vom deutschen Kaiser. それは かのドイツ皇帝の歌。

   だス  りート  ふぉム    どぃちぇン    かぃざア

1-2 行目 当時のドイツの社会情勢の隠喩。ナポレオン戦争、神聖ローマ帝国崩壊の後、ウィーン会議を経てドイツ連邦が成立した。しかし連邦内の紐帯は緩く、特に議長国オーストリアと大国プロイセンは激しく勢力争いをした。また、憲法制定を実現しようとする自由主義の市民と支配層との対立も深刻で、1830 年にはフランス 7 月革命をうけてドイツ騒乱が勃発するなど、社会には不安が満ちていた。革命前夜の時代。巻末コラムも参照。

4 行目 (dem) deutschen Kaiser:「(かの)ドイツ皇帝」。神聖ローマ皇帝フリードリヒ 1 世(Friedrich I., 1122-90)のこと。赤っぽいブロンドの髭を持っていたことから、「赤髭王(Barbarossa バルバロッサ)」と呼ばれていた。詩の原題は「Lied des Alten im Bart 髭の老翁の歌」であり、この詩が「フリードリヒ 1 世の歌」であることが暗示されている。フリードリヒ 1 世は歴代の神聖ローマ皇帝の中でも有能なことで知られ、後世では英雄とまで呼ばれた。第 3 回十字軍(1189-92)の総司令として出征中、川で溺死するという最期を遂げたが(1190 年)、中世の民間信仰では、実はフリードリヒ 1 世は溺死したふりをして祖国で眠りについている、と信じられていた(場所は諸説ある)。そして帝国が危機に陥ると、カラスがその上を飛び回って知らせ、フリードリヒ 1 世は永い眠りから覚めて起ち上がり、ふたたび神聖ローマ帝国の栄華と平和をもたらす、と伝えられている。

    私の    胸は ~である   若い    私の    胸は  ~である  重苦しい

Mein Herz ist jung, mein Herz ist schwer 我が胸は若々しく、我が胸は苦渋に満ち、

   まぃン   へルツ  いスト イゆング   まぃン   へルツ   いスト シュゔぇーア

   そして  ~できる  ~ない    離れる  ~から   耳を澄ますこと

und kann nicht lassen vom Lauschen; そして聞き耳をたてるのをやめられない。

   うント   かン   にヒト   らせン   ふぉム    らぉしぇン

  (形主) 鳴り響く ~のように 移動する ~の中を  (冠)    雲(複)    (冠)  軍勢が

es klingt, als zög' in den Wolken ein Heer, 響きが聞こえる 雲の中を軍勢が征ゆ

くように、

  えス  クりンクト  あルス  つぇーク  いン   でン   ゔぉルけン  あぃン  へーア

  (形主) 鳴り響く ~のように   鷲の     羽ばたきの音

es klingt wie Adlers Rauschen. 響きが聞こえる 鷲ワシ

の羽ばたきのように。

  えス  クりンクト  ゔぃー   あードらアス   らぉしぇン

3 行目 als zög' in den Wolken ein Heer:「雲の中を軍勢が移動するような」。北欧神話の主神オーディンの率いる狩猟団が、雲をまといながら空や大地を大挙して移動していく「怒れる軍団」(ワイルドハント)伝承に由来した表現。18 世紀末にドイツの文化人の間で広く愛読された『オシアン』(スコットランドのケルト人の伝承の記録)では、オーディンは「雲の宮殿(ヴァルハラ)」に住んでおり、死んだ英雄たちを率いて空や大地を進軍する。普仏戦争

(1870-71)に勝利したプロイセンで上演された祝典劇『モルトケ』に、赤髭王がドイツの英雄の一人としてヴァルハラを訪れる場面があるなど、この時期のロマン的物語にはドイツの英雄と北欧神話の融合が見られる。

4 行目 Adlers Rauschen:「鷲の羽ばたきの音」。神聖ローマ帝国の国旗の図柄は「金地に赤の嘴と爪をもった双頭の黒い鷲」。右図参照。

Deutschland5ドイツ国by Emanuel von Geibel

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    何    千もの      胸が     ひそかに    赤々と輝く

2. Viel tausend Herzen heimlich glüh'n, 何千もの胸がひそかに炎をはらんで輝き

  ふぃール  たぉぜント   へルつぇン   はぃムりヒ    グルゆーン

   そして  待ち焦がれる ~のように (冠)  私の〔胸〕

und harren wie das meine, 待ち焦がれている、我が胸と同じように。

   うント   はれン    ゔぃー  だス   まぃね

  それらは   聞く    その   響きを  そして  実現を願う  勇敢に

sie hören den Klang und ho�en kühn, 彼らはその響きを聴き 勇敢に期待しているのだ、

  ずぃー  へーれン   でン   クらング   うント  ほふぇン   クゆーン

  ~するのを  赤く  その   日が     現われる

dass rot der Tag erscheine. その日が赫あか

く実現するのを。

   だス   ろート  でア   たーク   えア _ しゃぃね

2 行目 das meine:後ろに「Herz 胸」が省略されている。

3-4 行目 原詩では「Auf allen Bergen halten sie Wacht, / Ob rot der Tag erscheine. 彼らは山並みの上から見守っているのだ、 / その日が赤く現われるかどうかを」。 rot:「赤く」。赤髭王フリードリヒ 1 世の「赤」にも掛けた表現?

      ドイツ国よ    親わしき者よ  美しく      着飾った       花嫁よ

Deutschland, du schön geschmückte Braut, ドイツ国よ、麗しき装いの花嫁よ、

    どぃチュ_ らント    どぅ    しぇーン    げ _ シュムゆクて    ブらぉト

    すでに   夢見ている  彼女は  浅く  そして  より浅く

schon träumt sie leis' und leiser - すでに彼女の夢は浅い、浅くなりつつある――

   しょーン   トろぃムト  ずぃー らぃス  うント  らぃざア

   いつ~か  目覚めさせる お前は 彼女を ~を用いて   トランペットの  音

wann weckst du sie mit Trommetenlaut, いつ貴方は 彼女を喇ラ ッ パ

叭の音で目覚めさせるのか、

   ゔぁン   ゔぇクスト  どぅ  すぃー   みト      トろめーてン_ らぉト

   いつ~か   導く   お前は 彼女を  故郷へ    私の    皇帝よ

wann führst du sie heim, mein Kaiser! いつ貴方は 彼女を故郷へと導くのか、我が皇帝よ!

   ゔぁン  フゆールスト どぅ  ずぃー  はぃム   まぃン   かぃざア

1 行目 du:この du は人称代名詞「お前」ではなく、名詞「(du を使えるほど)親しい者」の意。これを「お前」と解すると、3-4行目の「du お前」=「我が皇帝」と矛盾してしまう。原詩では「Deutschland, die schön geschmückte Braut」(die はBraut の冠詞)。

3 行目 Trommetenlaut:複合語「トランペットの音」。Trommete は Trompete「トランペット」の雅語。

詩 1841-1847?   曲 1843? 1847?

 『Juniuslieder 六月の歌』(1848 年、初版校本 1847 年)所収。ただし、メンデルスゾーンの死は 1847年 11 月なので、『六月の歌』出版以前に何らかのかたちで発表されていたのは間違いないでしょう。原題

は「Lied des Alten im Bart 髭の老翁の歌」。「髭の老翁」とは、赤髭王フリードリヒ 1 世のことです。

 この時期のガイベルの詩作品は非常に政治的で、ドイツの統一と、プロイセンの君主制を支持する内容

の詩を多く作りました。当時の文学者たちが自由主義傾向にあった中で、保守的な思想を持ち、かつそれ

を作品にしているのは珍しいと言えます。ガイベルは赤髭王に理想と救いを見ていたらしく、彼を題材に

とった詩を複数書いています(「Barbarossas Erwachen 赤髭王の目覚め」「Von des Kaisers Bart 皇帝の髭

について」など)。これらの詩に、当時のプロイセン王フリードリヒ・ヴィルヘルム 4 世は深く共感して、

ガイベルに生涯年金を賜りました。フリードリヒ・ヴィルヘルム 4 世は中世の国制に憧れるロマン主義者

で、ガイベルの詩は、おそらく彼の心をストライクに射ぬいたことでしょう。

 哀調を帯びながらも勇ましい、軍歌っぽい編曲。17-19 小節では、上 3 声のフレーズの受け渡しが面

白いです。特にテノール⇒ソプラノ⇒アルトと引き継がれる「ラミドミラ」の音の動きが、軍隊ラッパの「ト

テチテタ」のように聞こえてきます。歌詞もちょうど軍隊に関する部分ですね。

NOTE

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   ~を抜けて  野原  そして     森の    木霊

1. Durch Feld und Buchenhallen, 野原や木こ だ ま

霊する森を抜けて

    どぅヒ   ふぇルト うント    ぶしぇン_ はれン

   時には   歌いながら   時には  静かに

bald singend, bald still, 時には歌い、時には口をつぐみ、

   ばルト  ずぃンげント   ばルト  シュてぃル

   まさに    上機嫌で  ~であれ ~より前に 全て〔のこと〕

recht fröhlich sei vor allen, まさに上機嫌であるべきだ、何よりもまず、

   れヒト   フれーりヒ   ざぃ   ふぉーア   あれン

~の者は誰でも (冠)   旅(複)を    選ぶ  ~するつもり

wer's Reisen wählen will. 旅することを選ぶ者は誰であっても。

  ゔぇア_ ス     らぃぜン   ゔぇーれン   ゔぃル

2 行目 bald... bald...:「時には…、時には~」。

3 行目 sei:「~であれ」。sein「~である」の三・単・接Ⅰ(要求話法)。 vor allen:= vor allen Dingen「何よりもまず」。

4 行目 wer's:= wer das。das は直後の Reisen の冠詞。

   ~の時 (形主) やっと~したところ ~で   東の方    赤々と輝く

Wenn's kaum im Osten glühte, 東の方が仄ほの

かに赤く輝き出したとき

   ゔぇン_ ス      かぉム     いム  おースてン  グルゆーて

   (冠)   世界は   まだ   静かだ   そして   広い

die Welt noch still und weit: 世界はまだ静かで広い。

  でぃー ゔぇルト  のホ  シュてぃル  うント  ゔぁぃト

  その時 吹き寄せてくる まさに  ~を抜けて (冠)    心

da weht recht durch's Gemüte そのとき まさに心を吹き抜けてゆくのだ

  だー   ゔぇート   れヒト   どぅヒ_ ス    げムゆーて

   (冠)   素晴らしい   花盛りの 時が

die schöne Blütenzeit! 素晴らしき青春の時が。

  でぃー  しぇーね  ブルゆーてン_ つぁぃト

1 行目 Wenn's:= Wenn es。es は形式主語。

3 行目 durch's:= durch das。das は直後の Gemüte の冠詞。

   (冠)   ヒバリが  ~としての   朝の   使者

2. Der Lerch' als Morgenbote 雲ヒ バ リ

雀が 朝を告げる使者として

   でア   れルヒ    あルス   もルげン _ ぼーて

   (再代)  ~を抜けて  (冠)  大気(複)を   舞い上がる

sich durch die Lüfte schwingt, 大気を抜けて舞い上がる。

  ずぃヒ   どぅヒ  でぃー  ルゆフて  シュゔぃンクト

   (冠)    新しい     旅の  音楽が

ein' frische Reisenote すがすがしい旅の音楽が

  あぃン  フりしぇ   らぃぜ _ のーて

~じゅうをくまなく   森   そして   胸    鳴り響く

durch Wald und Herz erklingt. 森と胸のすみずみまで鳴り響く。

   どぅヒ    ゔぁルト  うント   へルツ  えア _ クりンクト

Der wandernde Musikant6さすらいの音楽家by Josef Karl Benedikt von Eichendorff

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13

  おお  愉快だ  ~から   山  ~すること  見晴らす

O Lust, vom Berg' zu schauen おお愉快だ、山から見晴らすのは、

  おー  るスト   ふぉム   べルク   つぅ   しゃぉえン

    広く   ~を    森    と    流れ

weit über Wald und Strom, 広く(見晴らすのは) 森や川の流れを、

  ゔぁぃト ゆーばア  ゔぁルト  うント  シュトろーム

    高く   ~を   (再代)  (冠)    青く

hoch über sich den blauen, 高く(見晴らすのは) 真っ青で

   ほホ   ゆーばア ずぃヒ  でン   ブらぉえン

   (冠)    澄んだ     天の   ドーム

den klaren Himmelsdom! 澄み渡った天のドームを!

   でン  クらーれン    ひめルス _ どーム

3-4 行目 hden blauen,/den klaren Himmelsdom :「den blauen 青い」 「den klaren 澄んだ」はどちらも「Himmelsdom天のドーム」にかかる。

   ~から    山     鳥(小辞)が  飛んでいく・たなびく

3. Vom Berge Vöglein �iegen 山から鳥が素早く飛びたち、

   ふぉム   べルげ  ふぇークらぃン    フりーげン

   そして   雲(複)が  非常に   素早く

und Wolken so geschwind, 雲もまた足早に流れてゆく、

   うント   ゔぉルけン  ぞー   げシュゔぃント

      想いは     越えて飛んでいく

Gedanken über�iegen 人の想いはそれらを追い越して飛んでゆく

    げだンけン    ゆーばア_ フりーげン

   (冠)   鳥たちを  そして  (冠)    風を

die Vögel und den Wind. 鳥たちやと風を(追い越して)。

  でぃー ふぇーげル  うント  でン   ゔぃント

1-2 行目 Vom Berge Vöglein fliegen / und Wolken so geschwind:脚韻合わせのために語順が入れ替えられている。正しくは、「Vom Berge �iegen Vöglein und Wolken so geschwind 山から鳥と雲が素早く飛んでいく」。

   (冠)    雲(複)は  ゆっくり流れる こちらの下へ・地上へ

Die Wolken zieh'n hernieder, 雲は地上へとゆっくり流れくだる、

   でぃー  ゔぉルけン   つぃーン    へア_ にーだア

   (冠)   鳥(小辞)が  舞い降りる (再代)  同じ様に

das Vöglein senkt sich gleich, 鳥も同じ様に舞い降りてゆく、

   だス  ふぇークらぃン ぜンクト   ずぃヒ  グらぃヒ

     想い(複)は    進む   そして   歌(複)は

Gedanken geh'n und Lieder 人の想いと歌はどんどん昇りゆく

    げだンけン     げーン   うント  りーだア

   ~まで ~の中へ (冠)     天の    王国

bis in das Himmelreich. 天国に届くまで。

   びス   いン   だス     ひめル _ らぃヒ

詩 1826   曲 1840.3.10

 詩の初出は、アイヒェンドルフの小説『Aus dem Leben eines Taugenichts のらくら者の生涯』(1826年)の中の登場人物の歌う歌で、このときは「Reiselied 旅の歌」というタイトルが付けられていました。

その後、詩集『アイヒェンドルフ詩集』(1837 年)の「Wanderlieden さすらいの歌」中の 6 連作の詩「Der wandernde Musikant さすらいの音楽家」の Nr.6 として収められました。

 内容的にみたら 1 節 /2-3 節 /4-6 節の三つに分かれると思うのですが、メンデルスゾーンは 2 節づつ

の全 3 番の曲に作曲しています。

NOTE

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1414

⻑⺟⾳ o

長母音 e [e ] は皆さんよく気を付けていますが、長母音o [o ] は何故かおざなりです。対訳の「 」表記は長母音ですので、深く(普通のoよりも唇の両端を中央に寄せる感じで)発音してください。 【例】 wohl, so, großen, Moos, Rosen, erlosenなど

e の発⾳三種:[e ː] / [ ] / [ ]

ドイツ語の eの発音は三種類、[e ] / [ ] / [ ] です。[ e ] …… 長母音。日本語の「エ」よりも少し口を閉じぎみにし、横に大きく広げて発音します。[ ] …… 曖昧母音。日本語の「ウ」を、舌や唇にまったく力を入れないで「エ」に近づけていくと、うまく音をつくれます。[ ] …… 日本語の「エ」とほぼ同じ(厳密に言うと、日本語の「エ」よりはもう少し開いた音。でも、あまり気にしなくてよい)。どういう場合にどの発音になるかは、下記を参照してください。

対訳の「 」表記 [ ] 「イ」っぽい「エ」 【例】aufsthehn, gehn, Sehnenなど 語尾の-e (+子音 ) [ ] 「ウ」っぽい「エ」 【例】machen, lange, Halde, Waldesnachtなど 上記以外すべて [ ] 「エ」

    eは⻑⺟⾳と語尾だけに気を付けて、ほかは全て⽇本語の「エ」でよし !!eは ⻑⺟⾳ と 語尾 だけに気を付けて、ほかは全て⽇本語の「エ」でよし !!

▶複合語  Waldes+ Nacht(3-1)     森の    夜

▶名詞+形容詞・副詞を作る語尾  Träume + risch(3-1)     夢    の    など 下線部の発⾳は [ ]。 (もとの単語の発⾳に準じる)

s : [ z ] Sieを「ジぃー」ではなく「ズぃー」と発音するのは、皆さんよく気を付けています。でも、sの後の母音が i以外のときには(例えば sagenなど)どうですか? 日本語のザ行には二種類あります。ちょっと「ざぶとん」と「ござ」を発音してみてくだ

さい。それぞれの「ざ」の発音のとき、舌の位置はどうなっていますか? 「ざぶとん」で

は舌が歯の裏にあたり、「ござ」ではあたっていないと思います。「ざぶとん」の「ざ」は、

発音記号では [dz]で表されます。これは、[d]の音に [z]を音を足したもので、[ts]の有声音です。それに対して「ござ」の「ざ」は [z]で、[s]の有声音です。つまり、日本人は「ザ行」を発音するとき、無意識に、語頭にあるときは [dz]、語中にあるときは [z]、と発音し分けているのです。

 ドイツ語の sは、語頭であっても [z]のままです。ですから、舌を歯の裏にくっつけないよう注意する必要があります。でも、Sieのときには気を付けていても、sの後の母音が変わって、例えば sagenの語頭の sは、気付かずに [dz]と発音してしまっていることが多いものです。難しい人は、いっそのこと [s]で発音してしまった方が本物らしく聞こえます。

st- / sp- / sch : [ ∫ ] この発音のキーワードは「段差」です。上の歯の裏から、舌で後ろへとたどっていってみ

てください。歯ぐきより少し上の所に段差があるのが分かると思います。息がここより前に

あたるか後ろにあたるかで、発音が違ってきます。日本語は、「シュ」と発音するとき、そ

の段差より前に息があたります。でもドイツ語の [∫]は段差より後ろに息があたります。位置的には 1cmにも満たない差ですが、音色はずいぶんと異なります。日本語の「シュ」の方がきつく、ドイツ語の [∫]の方が柔らかく聞こえます。 ドイツ語の [∫]を発音するときには、段差の後ろに息をあてるようにしましょう。舌の中心から後ろを持ちあげるようにしつつ唇を丸くすると、うまく発音できます。

単語あたまのsは、⾆を⻭の裏につけない !!

[ ∫ ]は、段差の後ろに息をあてる !!

日本語の語頭のザ行は舌が歯についちゃう

s[z]は舌を歯につけない!!

語頭のSに

特に気をつけましょう

日本語の「シュ」の息が当たるところ

「∫」 の息が当たるところ

「段差命!!」です

日本人が間違えやすい発音

母 音

子音S

完全に「イ」になっちゃダメ!!

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1515

n:[n]

 日本語の「ん」には、いろいろな種類の発音があることはご存知と思います。たとえば、

「サンタ」は [n]、「サンバ」は [m]など。ドイツ語の nはこのうちの [n]の発音と同じで、舌が上の歯の裏にしっかりとくっついています。

 さて、日本語の「ん」はこれだけではありません。「さん」と言ってみてください。この「ん」

は、舌が歯の裏に付かず、代わりに舌の根元が口蓋垂(のどひこ)に付いて、空気が鼻

の方に抜けていっていると思います。発音記号は [ ]です。日本語の語尾にある「ん」は、このような発音になっています。ここにドイツ語発音の落とし穴があります。

 ためしに、次のドイツ語を発音してみてください。

    Wir nennen ihn Anton.  (私たちは彼をアントンと呼ぶ)

 下線部の nの音を発音して、計 6回舌が歯の裏にしっかりと付きましたか? Wir nennen ihn Anton.と 3回だけではありませんでしたか? このように、日本人は無意識のうちに、語尾の -nを弱く(つまり舌を上の歯の裏に付けない)発音をしてしまっています。ですからドイツ人にしてみると、とても舌足らずで物足りない発音に聞こえる

そうです。

 もう一つ nの発音で注意するのは、口を閉じないことです。特に語尾の -nは、日本語では舌の奥を口蓋垂に付けるため、口を閉じがちに発音してしまいます。母音を発音

した口の形のまま、舌だけを動かして歯の裏に付けるよう、意識しましょう。

-ng-:[ŋ]

 singenの真ん中にある -ng-の発音も、日本人は間違っています。「ズぃンげン」と「げ」を強く言ってはいけません。カナであえて書けば、「ズぃンえン」という感じです。

 日本語は「ん」の後にカ行やガ行がくるとき、 を使っています。でも例えば「ざんげ」

というときは、 のように、 の後にさらに を発音しているので、外国語

をしゃべるときも無意識にこの癖が出てしまいます。

 そこで、「ざんげ」と言うつもりで「ざん…」の部分まで言ってください。ここで、「げ」

と言うのをやめて「え」と言うと、sange(n)(2-4)の正しい発音になります。(「s」は舌を歯に付けずに発音するのを忘れずに)

      -ng- に [g] は含まれない !!

-n は、⼝を閉じずに、⾆を上の⻭の裏にしっかり付ける !!

舌を前歯にしっかり当てる!!

舌の当たる位置は

「L」と同じです

日本語の語尾の「n」の様子

口蓋垂が下がり、

舌の付け根にくっつく

ドイツ⼈が「弱い」と感じる、⽇本⼈の発⾳

j [ j ] : 母音の「イ」と同じくらい、はっきりと。 【例】Jungfrau「イゆングふらう」、jede「イえーで」等

w [v] : 下手をすると、[m]に聞こえてしまうらしい。weinen(泣く)がmeinen(私の)に聞こえる。 短く破裂させるのではなく、「ヴー」と息をこするように思い切り長めに発音する。

n [n] : 先述の通り。特に語尾の -n。

⽇本⼈が勘違いしている(ことが多い)発⾳

u [ u ] : 「ドイツ語のuは深く !!」と言われ続け、それを忠実に実行しようとして間違う。 「深く」しようとして図のAの部分を開けてしまうと、「オ」に近い発音 [ ]になってし まう。 undなどの短母音のときはこの発音でもよいが、長母音uはもっと口の中の縦の 空間が 狭い(低い)。uは、口腔の高さは iと同じです。 きつく「イー」と言いながら、  口の外 唇を丸くしてつきだす(これで üの発音ができる)  口の中 舌の前方は下の歯の裏に付けたままへこませ、舌の奥を盛り上げる

舌先は歯の裏に、舌の奥は盛り上げて

ここの高さは「イ」と同じ

の部分を開けすぎると

ぼやけた発音になります

絶対に「g」の子音を入れてはいけません!

舌の根元を口蓋垂につけて

離した瞬間に母音を言う

子音N

※ 解説に使われているドイツ語単語は、2014 年版(ブラームス『7つの歌』op.62)のままです。

  ご了承ください。

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ケルト~古代ローマ帝国~フランク王国

 現在のドイツの地(ゲルマニア)を含む西ヨーロッパは、もと

もとケルト人が住んでいました。しかし、カエサルのガリア遠

征を経て古代ローマ帝国の支配地となり(BC50 くらい~)、5世紀末に西ローマ帝国が滅亡した後は、ゲルマン人の一派フラ

ンク人のフランク王国によって西ヨーロッパが統一されます。

神聖ローマ帝国

 フランク王国は僅かな期間で分裂・消滅しました(843)。そ

の後裔国のひとつでゲルマニアを支配した東フランク王国は、

のちに名を「神聖ローマ帝国」に改め(962)、西ヨーロッパ世界

における盟主としての威光を高めました。

 しかし、この段階でも現在の「ドイツ」という感覚は希薄です。

当時用いられていた「ドイツ人」という言葉は民族を指す用語で

はなく、単に「(ドイツ地方の)民衆語を話す人々」という意味で

した。この時代のゲルマニアに住む人々の民族アイデンティ

ティーは「フランク人」にありました。

神聖ローマ帝国の揺らぎ 宗教改革と三十年戦争

 神聖ローマ帝国は、もともと教会と手を組んで皇帝権力を強

化しました。しかし叙任権闘争(1075)など長期に渡る教皇と

の対立によって皇帝権が深く傷つけられていきます。こうして

神聖ローマ帝国は弱体化していき、各地の領邦君主が自らの

所領支配を強化しはじめます。皇帝の空位が続いた大空位時代

(1256-73)ののち、皇帝は 7 選帝侯による選挙によって選ばれ

るようになりました(選挙王制自体は 10 世紀からありました)。

 そのようにして力をつけた領邦君主たちは、宗教改革から

三十年戦争(1618–1648)にかけて、新教・旧教に分かれて激し

く争います。ドイツのほとんど全土が徹底的に破壊され、この

戦火と当時流行したペストの影響もあって、1,600 万人あった

ドイツの人口が 600 万人にまで減少したと言われています。

 三十年戦争が終わると、事実上神聖ローマ帝国は無力化し、

ドイツ各地には諸侯が分立、自由都市や小国が独立国としての

権威をもつ領邦主権体制となりました。帝国は息も絶え絶えで

す。ドイツの国民国家としての統一への道は閉ざされ、ドイツ

の政治的・経済的後進性が決定づけられました。

 この時期、官庁用語としてラテン語の代わりにドイツ語が使わ

れるようになり始め、民族としての「ドイツ人」の概念の芽生えが

見られます。「ドイツ国」という呼称もこの時期に登場します。

神聖ローマ帝国の崩壊~ドイツ連邦

 三十年戦争後、およそ 300 の領邦の寄せ集め状態となってい

たドイツは、ナポレオン戦争で神聖ローマ帝国が崩壊(1806)し

たのち、さらに国土を再編され、最終的にはウィーン議定書に

よって「ドイツ連邦」が成立しました(1815)。オーストリア(議

長国)・プロイセン・四つの帝国自由都市など、39 の領邦によ

る国家連合の誕生です。ただし、「統一国家」ではありません。

あくまで「主権を持った国々の集合体」です。また、保守的な政

治体制が続き、19 世紀のヨーロッパを席巻した自由主義の波

及が食い止められていました。

ドイツ連邦の破綻~ドイツ帝国

 ナポレオンによってヨーロッパ中が掻き回された結果、人々

の間に強く「民族」が意識され始めました。ドイツでも「自分た

ちはドイツ人である」という自覚が根付き、ドイツ人によるド

イツの統一国家の樹立を希求します。しかし、この「ドイツ人

による」という考え方が曲者で、たとえばオーストリアは異民

族の住む地も領土に含んでいました。そのため、その地も「ド

イツ国」の一員に含めるか(大ドイツ主義)、あくまでドイツ人

のみの国を作るか(小ドイツ主義)で激しく対立します。前者は

議長国オーストリア、後者は大国プロイセンが主張していまし

た。こうして、せっかく成立したドイツ連邦だったのですが、

その紐帯は緩く、ドイツの人々は、それぞれの立場でのドイツ

統一を夢見て活動しました。

 1848 年、産業革命で力をつけたブルジョワやドイツ人の一

体化を求める知識人達は、3 月革命を実行します。これにより

国民議会が発足し、憲法が制定されました。

 しかし、依然としてプロイセンとオーストリアの対立は続

きます。結局は普墺戦争(1866)に勝利したプロイセンがオー

ストリアを排除してドイツを統一し、ドイツ帝国を樹立します

(1871)。現在に続くドイツの原型の完成です。オーストリアは

ハンガリーと結びついて二重帝国になりました(1867)。

二度の大戦~共和国へ

 第一次世界大戦に敗北したドイツとオーストリアは、休戦条

約により二国が合併することが禁じられました。また、二国とも

帝政から共和制へと移行しました。第二次世界大戦時にドイツは

オーストリアを一時的に編入しましたが、戦後は解放。ドイツ連

邦共和国とオーストリア共和国として現在に続いています。

超おおざっぱなドイツの歴史

ドイツはいつ「ドイツ」になったか