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Award Accounts 9 Bull. Jpn. Soc. Coord. Chem. Vol. 74 (2019) プロトン共役電子移動に基づく金属錯体の機能創出 Development of functionality of metal complexes based on proton- coupled electron transfer 筑波大学数理物質系化学域 小島 隆彦 Department of Chemistry, Faculty of Pure and Applied Sciences, University of Tsukuba Takahiko Kojima Received, July 22, 2019; Accepted, August 19, 2019; Published, November 30, 2019 1. はじめに プロトン共役電子移動 (PCET) は,生体内での酸化還 元反応だけでなく,機能性合成分子の機能発現にも重要 な素過程である。PCET では,逐次的または協奏的に, プロトンはプロトン受容部位へ,電子は電子受容部位へ と別々に移動する (Fig. 1) 1 。このとき,プロトンと電子 が協奏的に移動することにより,原系と生成系の熱力学 的エネルギーを制御するとともに,活性化障壁を低下さ せることによって速度論的に有利な反応経路を提供する ことができる 2 PCET 過程には,3 種類の素過程が含まれる。プロト ン移動 (PT) と電子移動 (ET) が逐次的に進行する過程は, その順番によって PT/ET 過程または ET/PT 過程と呼ば れる。また,プロトンと電子が協奏的に移動する過程 は, CPET (concerted proton-electron transfer) と呼ばれる 3 これらの過程は,Fig. 2 に示す熱化学的な正方スキーム で表現することが出来る。ここで,結合解離エネルギ (BDE) は,式 1 に従って計算することができる。式 1 からわかるように,脱着するプロトンの pK a 値と電 子の授受が起こる酸化還元電位 (E 1/2 vs Fc/Fc + in CH 3 CN, Fc = ferrocene; 水中では NHE 基準 ) を決定することに よって,水素受容体の反応性 ( 水素引き抜き能力 ) を示 BDE を基に議論することができる 4 Proton-coupled electron transfer (PCET), in which a proton and an electron are directed to respective accepting sites separately, is a fundamental process as observed in many kinds of redox reactions including biological and chemical processes. PCET oxidation of Ru(II)-aqua complexes has been applied for the formation of Ru(IV)-oxo, Ru(III)-hydroxo, and novel Ru(III)-oxyl complexes as reactive species in oxidation reactions of organic substrates and mechanistic insights into the reactions are gained on the basis of kinetic analysis. Ru(III)-pterin complexes without oxo ligands can accept hydrogen from O–H and C–H bonds of substrates and the reactivity and transition states of hydrogen-atom transfer reactions are revealed to be controlled by the proton acceptability and electron acceptability of the hydrogen acceptors; this is also valid for Ru(IV)-oxo complexes. Intramolecular PCET also enables to establish novel molecular bistability to regulate the direction of electron transfer and to create unprecedented electronic structures of metal complexes. 連絡先著者名:小島 隆彦 連絡先:305-8571 茨城県つくば市天王台 1-1-1 筑波大学数理物質系化学域 Tel: 81-29-853-4323 Fax: 81-29-853-4323 Corresponding Author: Takahiko Kojima Address: 1-1-1 Tennoudai, Tsukuba, Ibaraki 305-8571, Japan E-mail: [email protected] Keywords: proton-coupled electron transfer, hydrogen atom transfer, electron transfer, ruthenium complexes, pterin, transition states Fig. 1. プロトン共役電子移動 (PCET) の概念図。D e , D p , A e , A p は, それぞれ,電子供与体,プロトン供与体,電子受容体,プロトン 受容体を意味する。 Fig. 2 PCET における熱化学的正方スキーム . ET, electron transfer; PT, proton transfer; CPET, concerted proton-electron transfer.

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9  Bull. Jpn. Soc. Coord. Chem. Vol. 74 (2019)

プロトン共役電子移動に基づく金属錯体の機能創出Development of functionality of metal complexes based on proton-

coupled electron transfer

筑波大学数理物質系化学域 小島 隆彦Department of Chemistry, Faculty of Pure and Applied Sciences, University of Tsukuba

Takahiko Kojima

Received, July 22, 2019; Accepted, August 19, 2019; Published, November 30, 2019

■■ 1. はじめに

プロトン共役電子移動 (PCET)は,生体内での酸化還元反応だけでなく,機能性合成分子の機能発現にも重要な素過程である。PCETでは,逐次的または協奏的に,プロトンはプロトン受容部位へ,電子は電子受容部位へと別々に移動する (Fig. 1)1。このとき,プロトンと電子が協奏的に移動することにより,原系と生成系の熱力学

的エネルギーを制御するとともに,活性化障壁を低下させることによって速度論的に有利な反応経路を提供することができる 2。

PCET過程には,3種類の素過程が含まれる。プロトン移動 (PT)と電子移動 (ET)が逐次的に進行する過程は,その順番によって PT/ET過程または ET/PT過程と呼ばれる。また,プロトンと電子が協奏的に移動する過程は,CPET (concerted proton-electron transfer)と呼ばれる 3。これらの過程は,Fig. 2に示す熱化学的な正方スキームで表現することが出来る。ここで,結合解離エネルギー (BDE)は,式 1に従って計算することができる。式1からわかるように,脱着するプロトンの pKa値と電子の授受が起こる酸化還元電位 (E1/2 vs Fc/Fc+ in CH3CN,

Fc = ferrocene; 水中では NHE基準 )を決定することによって,水素受容体の反応性 (水素引き抜き能力 )を示す BDEを基に議論することができる 4。

Proton-coupled electron transfer (PCET), in which a proton and an electron are directed to respective accepting sites separately,

is a fundamental process as observed in many kinds of redox reactions including biological and chemical processes. PCET

oxidation of Ru(II)-aqua complexes has been applied for the formation of Ru(IV)-oxo, Ru(III)-hydroxo, and novel Ru(III)-oxyl

complexes as reactive species in oxidation reactions of organic substrates and mechanistic insights into the reactions are gained

on the basis of kinetic analysis. Ru(III)-pterin complexes without oxo ligands can accept hydrogen from O–H and C–H bonds of

substrates and the reactivity and transition states of hydrogen-atom transfer reactions are revealed to be controlled by the proton

acceptability and electron acceptability of the hydrogen acceptors; this is also valid for Ru(IV)-oxo complexes. Intramolecular

PCET also enables to establish novel molecular bistability to regulate the direction of electron transfer and to create unprecedented

electronic structures of metal complexes.

連絡先著者名:小島 隆彦連絡先:305-8571 茨城県つくば市天王台 1-1-1筑波大学数理物質系化学域Tel: 81-29-853-4323 Fax: 81-29-853-4323Corresponding Author: Takahiko KojimaAddress: 1-1-1 Tennoudai, Tsukuba, Ibaraki 305-8571, JapanE-mail: [email protected]: proton-coupled electron transfer, hydrogen atom transfer, electron transfer, ruthenium complexes, pterin, transition states

Fig. 1. プロトン共役電子移動 (PCET) の概念図。De, Dp, Ae, Ap は,それぞれ,電子供与体,プロトン供与体,電子受容体,プロトン受容体を意味する。

Fig. 2 PCET における熱化学的正方スキーム . ET, electron transfer; PT, proton transfer; CPET, concerted proton-electron transfer.

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Bull. Jpn. Soc. Coord. Chem. Vol. 74 (2019)  10

BDE (kcal mol–1) = 2.303RT(pKa) + FE1/2 + CH  (1)

ここで,Rは気体定数,Tは絶対温度 (K),Fはファラデー定数,CHは溶媒に依存する定数 (例えば CH3CN

中であれば 59.4 kcal mol–1,水中であれば 55.8 kcal mol–1)

である。298 Kでは,式 1は式 2のようになる 5。

BDE (kcal mol–1) = 1.37(pKa) + 23.06E1/2 + CH  (2)

Fig.2における配位子の脱プロトン化体の酸化還元電位 (E1/2)は,脱プロトン化された配位子の電子供与能の向上に伴って,プロトン化体のそれ (E’1/2)よりも低くなる。これを利用して,金属中心および配位子の酸化還元電位を制御し,もとの状態では見られない新しい酸化還元挙動を引き出すことも可能である。以上の背景をもとに,筆者らが行った金属錯体における PCETに関する研究の成果について紹介する。

■■ 2. 配位子上のプロトン脱着による金属中心の酸化還元電位の制御

2.1.配位アミド部位のプロトンの脱着に伴う分子内電子移動の方向制御:プロトン共役電子シャトリング

配位子上のプロトンの脱着による金属中心の酸化還元電位の制御は,酸化還元過程の切り替え 6,分子内電子移動に基づく特異な電子構造の創出 7など,興味深い現象を引き出す要素である。静電的に陽性な金属イオンに結合した配位子上では,配位したヘテロ原子上またはその近傍のプロトンは,配位子分子本来のプロトンよりも酸性度が強まり,脱プロトン化が可能となる。また,配位子が脱プロトン化されてその電子供与性が増大することによって,脱プロトン化された配位子を有する金属錯体の金属中心の酸化還元電位は,脱プロトン化前よりも大幅に低下する。我々は,トリス (2-ピリジルメチル )アミン (TPA)の

2つのピリジン環の 6位に,アミド結合を介して様々な官能基を導入し,それらの TPA誘導体をルテニウム(II)錯体を合成した。それらのルテニウム (II)錯体では,TPA部位に加えて 1つのアミド酸素が Ru(II)中心に配位している 8,9。これらの錯体は,CH3CN中でトリエチルアミンを添加すると,配位アミド部位の N–Hプロトンの脱プロトン化により,Ru(II)/Ru(III)の酸化還元電位が 450~500 mVにわたり低電位シフトすることがわかった 8。その脱プロトン化体は,HClO4等を加えることにより,もとの錯体に戻り,配位アミドプロトンの脱着が可逆的に進行することがわかった (Fig. 3)。

Fig. 3 ビスアミド TPA 配位子を有する Ru(II) 錯体における配位アミドプロトンの可逆な脱着。

この現象をもとに,Ru(II)-TPA錯体にアミド結合を介して電子受容部位を導入し,配位アミド部位の N–Hプロトンの脱着によって,Ru(II)-電子受容部位間の分子内電子移動の方向制御を試みた。アミド結合を介して 6

位にメチル基を有する 2,2ʼ-ビピリジン (bpy)を導入したTPA配位子を有するルテニウム錯体に,6-メチルビピリジン (Mebpy)を有する Cu(II)錯体を結合させ,Ru(II)-

Cu(II)複核錯体を合成した (Fig 4)10。CH3CN中での電気化学測定の結果,Ru(II)/Ru(III)の酸化還元電位は 0.69

V (vs SCE)であり,Cu(II)/Cu(I)のそれは 0.39 Vであった。このとき,Ru(II)中心から Cu(II)中心への電子移動は進行しない。その錯体の CH3CN溶液に NEt3を加えると,Ru(II)中心に配位したアミド基 N–Hが脱プロトン化され,Cu(II)/Cu(I)の酸化還元電位は変化せず,Ru(II)/

Ru(III)のそれは 0.17 Vに低下した。このとき,Ru中心から Cu(II)中心への電子移動 (ET)のドライビングフォース (–DGet)が +0.23 eVとなって分子内 ETが進行し,Ru(III)Cu(I)錯体が生成する。脱プロトン化体の溶液にプロトンを添加することにより,可逆的に元の Ru(II)

Cu(II)錯体が再生する。すなわち,プロトンの脱着による分子内 ETの方向制御に基づいて,全く新しい分子双安定性「プロトン共役電子シャトリング」を創出するに至った (Fig. 4)10。

Fig. 4 Ru(II)-Cu(II) 複核錯体におけるプロトン共役電子シャトリング 10。

2.2.Rh(III)-TPA錯体における脱プロトン化によるTPA配位子の酸化還元活性の発現

TPA配位子は,“redox-innocent” な配位子として遷移金属イオンと安定な錯体を形成するため,これまでに数多くの金属錯体の合成に利用され,酸化触媒活性など,様々な機能発現が行われてきた。しかしながら,TPA

配位子が “redox-noninnocent” な挙動を示すことは 全く

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11  Bull. Jpn. Soc. Coord. Chem. Vol. 74 (2019)

知られていなかった。我々は,[RhIIICl2(TPA)]+に含まれる TPAのメチレンプロトンは,Rh(III)イオンの強いルイス酸性によって酸性度が増大し,強塩基によって脱プロトン化されることを明らかにした 11。DBU (pKa =

24.3 in CH3CN)を塩基とする CH3CN中 294 Kでの分光学的滴定実験の結果,[RhIIICl2(TPA)]+の TPAメチレンプロトンの脱着は可逆であり,pKaは 27.3と求められた。脱プロトン化は,脱プロトン化体の安定性に基づき,TPA配位子のアキシャル位に配位したピリジン環に結合したメチレン鎖から選択的に進行する。このことは脱プロトン化体の結晶構造解析等によって確かめられた。[RhIIICl2(TPA)]+の脱プロトン化体,[RhIIICl2(TPA–

H+)]+は,0.08 V (vs SCE)に不可逆な酸化波を示した。一方,Fig. 5に示すように,脱プロトン化体には A – D

の共鳴構造が存在する。その共鳴構造の Bを安定化するため,TPAの 3つのピリジン環の 5位にメトキシカルボニル (COOCH3)基を導入した TPA誘導体を有するRu(III) 錯体,[RhIIICl2(TPACOOCH3)]

+ を合成し,同様に TPA配位子のメチレン鎖の可逆な脱プロトン化を見いだした (Scheme 1)。5位に導入した COOMe基によって,この錯体のメチレン鎖の脱プロトン化体は安定化され,その pKaは 20.9に低下した。また,酸化還元電位は 0.40 Vまで上昇し,CV測定において可逆性のよい酸化還元波が観測された。さらに,Scheme 1に示すように,[RuIII(bpy)3]

3+ (bpy = 2,2ʼ-ビピリジン )を酸化剤として,[RhIIICl2(TPACOOCH3)]

+の脱プロトン化体の 1電子

酸化を行ったところ,g = 2.0043にブロードな ESRシグナルが観測され,TPA配位子のラジカル生成が確認された。我々は,このラジカル種が TEMPOと反応して安定なアダクトを形成することを見いだし,その ESI-MS

および NMRスペクトルから,その構造を明らかにした(Scheme 1)11。

■■ 3. ルテニウム (II)—アクア錯体の PCET 酸化による Ru(IV)- オキソおよび Ru(III)- オキシル錯体の生成とその反応性

3.1.Ru(IV)- オキソ錯体の生成と基質水酸化反応T. J. Meyer らが,[Ru(bpy)2(py)(H2O)]2+ の PCET酸化

により Ru(IV)-オキソ錯体が生成することを報告して以来 12,Ru(II)-アクア錯体の PCET酸化による高原子価Ru-オキソ錯体の合成,それらのキャラクタリゼーションおよび当量的基質酸化反応の反応機構に関する研究が行われてきた 13。

Fig. 6 Ru(II)- アクア錯体と水溶液中で生成する Ru(IV)- オキソ錯体の推定構造。

我々は,Ru(II)-アクア錯体の PCET酸化に基づくRu(III)-ヒドロキソ錯体,Ru(IV)-オキソ錯体,およびRu(IV)-オキソ錯体と電子的に等価である Ru(III)-オキシル (RuIII-O•)錯体の合成とキャラクタリゼーションを行ってきた。また,それらの酸化活性種による基質酸化反応に関する速度論的考察を行い,その反応機構に関する考察を進めてきた。以下,それらの研究について述べる。

3.2.水溶液中における Ru(II)- アクア錯体の PCET 酸化による Ru(IV)- オキソ錯体の生成と基質酸化反応機構

酸性水溶液中で,(NH4)2[CeIV(NO3)6] (CAN)を酸化剤として [RuII(TPA)(H2O)2]

2+を PCET酸化すると,三重項(S = 1)状態にある [RuIV(O)(TPA)(H2O)]2+が生成する (Fig.

6)14。この錯体は,酸性水溶液中で有機基質の触媒的酸化反応の活性種として機能する。基質酸化反応として,

Fig. 5 TPA配位子のメチレンプロトンの脱着と酸化還元活性の発現。

Scheme 1 Rh(III)-TPA 錯体における TPA 配位子における PCET挙動と反応性 11。

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Development of functionality of metal complexes based on proton-coupled electron transfer

Bull. Jpn. Soc. Coord. Chem. Vol. 74 (2019)  12

環状オレフィンの C=C二重結合のエポキシ化およびジオール化を経由するジカルボン酸生成反応,オレフィン類の C=C二重結合のアルコールの酸化によるアルデヒドまたはカルボン酸の生成反応などが進行する 14。一方,TPAの 1つのピリジン環の 6位にカルボキシル基を導入した 6-COO–-TPAを 5座配位子とする Ru(II)-アクア錯体,[RuII(6-COO–-TPA)(H2O)]+ (Fig. 6)を合成し,その水溶液中での CANによる PCET酸化を行ったところ,世界で初めての一重項 (S = 0)状態にある Ru(IV)-オキソ錯体の生成を見いだした 15。この錯体は DFT計算の結果,アクア配位子を有する五方両錐型 7配位構造を有する錯体,[RuIV(O)(6-COO–-TPA)(H2O)]+であることが示唆された。さらに,5座ピリジルアミン配位子 N4Pyを配位子とする Ru(II)-アクア錯体,[RuII(N4Py)(H2O)]2+ (Fig.

6)を合成し,その酸性水溶液中での PCET酸化によってRu(IV)-オキソ錯体を生成させ,そのキャラクタリゼーションを行ったところ,このオキソ錯体も一重項状態にある五方両錐型 7配位構造にある [RuIV(O)(N4Py)(H2O)]2+

であることが示唆された 16。[RuII(TPA)(H2O)2]

2+および [RuII(N4Py)(H2O)]2+の熱化学的正方スキームをそれぞれ,Fig. 7aおよび 7bに示す。それぞれから生成する Ru(IV)-オキソ錯体の水素移動反応における BDEは,式 1に従って,それぞれ 82.7 kcal

mol–1および 84.7 kcal mol–1と計算される 17。

Fig. 7 [Ru(TPA)(H2O)2]2+ (a) および [Ru(N4Py)(H2O)]2+ (b) の水溶

液中における熱化学的正方スキーム 17。

これらのスピン状態が異なる 3種類の Ru(IV)-オキソ錯体を用いて,水溶液中での当量的アルコール酸化反応の反応機構に関して,吸収スペクトル変化に基づく速度論的考察を行った。その結果,全ての錯体について擬一次速度定数が基質濃度に対して飽和を示し,Ru(IV)-オキソ錯体と基質の間でアダクトが形成された後,一次の速度論に従って酸化反応が進行することがわかった。

酸化されないフッ素化アルコール (1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ -2-プロパン -1-オール )を基質として用いた 19F

NMR測定による滴定実験により,オキソ錯体のアクア配位子とアルコール水酸基との水素結合に基づいてアダクト形成が進行することが示された (Fig. 8)。得られたアダクト形成平衡の平衡定数および反応速度定数の温度依存性から,それぞれ熱力学的および活性化パラメータを決定した。アダクト形成平衡については,アルコールのアルキル基の疎水性の度合いによって,その駆動力が水素結合形成から基質の脱水和へと変化することが示唆された 18。一方,アルコールの C–H酸化反応の活性化障壁 (DG‡;Fig 8参照 )は,TDS‡項によって支配され,基質の C–H結合の BDEに関連する DH‡にはほとんど影響を受けない,強固に拘束された遷移状態を経由することが明らかとなった 18。ここで,最も注目すべきは,酸化活性種としての Ru(IV)-オキソ錯体のスピン状態が異なっても,反応速度定数にほとんど影響がないとこが示された点である。すなわち,金属オキソ錯体のスピン状態(スピン多重度)は,その反応性に影響を及ぼさないことが明らかとなった。このことは,Fig. 7に示すように,Ru(III)-OH錯体の O–H結合の BDEが殆ど変わらないことに起因する。

Fig. 8 水溶液中での Ru(IV)- オキソ錯体によるアルコールの酸化反応機構 18)。

3.3.Ru(IV)- オキソ錯体の生成とCH3CN中での基質酸化反応機構

我々は,配位飽和な [RuII(TPA)(bpy)]2+を水溶液中でCANを酸化剤として PCET酸化し,TPA配位子の 1つのピリジン環が解離してプロトン化された Ru(IV)-オキソ錯体,[RuIV(O)(η3-H+TPA)(bpy)]3+の合成と単離に成功し,その結晶構造解析 (Fig. 9)を含めたキャラクタリゼーションを行なった 19。CH3CN中での錯体による C–H

酸化反応を速度論的に解析するとともに,反応中間体の検出を行い,その反応機構を明らかにした。

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13  Bull. Jpn. Soc. Coord. Chem. Vol. 74 (2019)

Fig. 9 [RuIV(O)(η3-H+TPA)(bpy)]3+ の結晶構造 19a。O2 は結晶水の酸素。

特に,クメンの酸化反応によるクミルアルコール生成について詳細に検討し,2段階の反応過程が進行することを明らかにした (Scheme 2)。1段階目の反応は基質濃度に依存する二次反応であり,基質の C–H結合の重水素同位体効果が観測された。この 1段階目の生成物に由来する Ru(III)-クミルアルコール錯体が ESI-MS測定により観測され,長年提唱されてきた金属—オキソ錯体による C–H水酸化反応における「酸素リバウンド」機構20を実験的に初めて立証したことは特筆に値する。2段階目は一次反応であり,生成した Ru(II)-クミルアルコール錯体が,溶媒である CH3CNとの配位子交換により,酸化生成物としてクミルアルコールを放出し,最終生成物の [RuII(η3-H+TPA)(bpy)(CH3CN)]2+が生成する過程であることがわかった。なお,この CH3CN錯体は,大過剰のクミルアルコールを添加しても,アルコールとの配位子交換反応を全く起こさない 19a。

Scheme 2. [RuIV(O)(η3-H+TPA)(bpy)]3+ によるクメンの C-H 酸化反応機構 19a。

3.4.酸性水溶液中における Ru(III)- オキシル錯体の生成と基質酸化反応

N-ヘテロ環状カルベン (NHC)部位を含む 3座キレート配位子を有する Ru(II)-アクア錯体を合成し,酸性水溶液中で CANによるその PCET酸化を試みた (Fig 10)。その結果,Ru(IV)-オキソ錯体ではなく,その電子的等価体で,三重項状態にある Ru(III)-オキシル (RuIII-O•)錯体の生成に初めて成功した 21,22)。この RuIII-O•錯体は,共鳴ラマンスペクトルにおいて,732 cm–1に Ru–O結合に由来するラマン散乱を示した。また,この錯体の酸性水溶液中での XANES測定の結果,Ru中心はほぼRu(III)の状態であり,EXAFS測定によって,Ru–O結合距離は 1.77(1) Åと見積られた。さらに,DFT計算により,その錯体の Ru–O結合の結合次数は 1.3と見積もられた 21)。

Fig. 10 水溶液中での NHC 配位子を有する Ru(II)- アクア錯体のPCET 酸化による Ru(III)- オキシル錯体の生成過程。

酸性水溶液中における,RuIII–O•錯体による有機基質酸化反応を試みた。ベンズアルデヒド誘導体の酸化反応において,その芳香環上の置換基効果を速論的に検討した。その結果,ハメットプロットの ρ値は –0.07であり,RuIII–O•錯体が強いラジカル性を有することが示された 21。さらに,上述した RuIII–O•錯体は,酸性水溶液中 (pH

0.8),283 Kで芳香環の酸化的クラッキングにより,ギ酸を生成することを見いだした (Fig. 11)23。重水素化ベンゼンを基質とした場合,重水素化ギ酸が生成することから,ギ酸がベンゼン由来であることが確かめられた。ベンゼン以外にも,ナフタレン,アントラセンなどの多環芳香族化合物もギ酸と CO2に分解される。さらに,興味深いことに,エチルベンゼンなどの置換芳香族化合物は,置換基を有するカルボン酸とギ酸に分解され,ベンジル位の弱い C–H結合は酸化されない。例えば,エチルベンゼンの酸化反応においては,ギ酸とともにプロピオン酸が触媒的に生成する 23。

Fig. 11 水溶液中での NHC 配位子を有する Ru(II)- アクア錯体を触媒とするベンゼンの酸化的クラッキングによるギ酸の生成 23。

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Development of functionality of metal complexes based on proton-coupled electron transfer

Bull. Jpn. Soc. Coord. Chem. Vol. 74 (2019)  14

本反応で得られるギ酸は,反応液の pHを NaOH水溶液の添加によって pH 3.3に調整し,[Rh(Cp*)(bpy)

(H2O)]2+ 24を触媒として添加すると,効率よく H2に変換される 23。すなわち,水中に分散した有害芳香族化合物をエネルギー源としての水素ガスに変換することができる。

Scheme 3 Ru(III)-オキシル錯体を酸化活性種とするベンゼン環の酸化的クラッキングの推定反応機構 23

このベンゼン環のクラッキング反応では,先に述べた Ru(III)–O•錯体が酸化活性種として機能している。このクラッキング反応におけるベンゼン環の置換基効果をハメット則によって解析すると,ρ値は –1.41となり,Ru(III)–O•錯体の芳香環への求電子的な攻撃が進行していることが示された。速度論的考察,および生成物の定性・定量分析などを基にして,Ru(III)-O•錯体によるベンゼン環のクラッキング反応の反応機構を Scheme 3に示すように提案した 23。すなわち,Ru(III)-オキシル錯体の芳香環への求電子的ラジカル付加反応を起点として,ベンゼンオキシド,ムコンアルデヒド,ムコン酸を経由して,ギ酸およびカルボン酸が生成する。

3.5.ルテニウム (III)- ヒドロキソ錯体による水素引き抜き反応

5座ピリジルアミン配位子である 2,6-bis{1,1-bis(2-

pyridyl)ethyl}pyridine (PY5Me2)を有する Ru(II)-アクア錯体を合成し,水溶液中での PCET酸化によりその 1電子酸化体である Ru(III)-ヒドロキソ錯体を生成させ,フェノール誘導体からの水素移動反応 (HAT)を速度論的に検証した (Fig. 12)25。この HATの反応機構は,Ru(III)-

OH錯体とフェノール類の間でアダクトが形成された後,基質であるフェノール類の酸化電位に依存して変化する。すなわち,フェノール類から Ru(III)-OH錯体への電子移動のドライビングフォース (–DGet)が 0.5 eV

を境に,–DGet < 0.5 eV では 1段階の CPETが進行し,–

DGet > 0.5 eV では段階的な ET/PTが進行する 25。このような水素移動反応における反応機構の切り替わりは,6-COO–-TPAを配位子とする Cr(V)-オキソ錯体において

も見られた。その場合も,基質から Cr(V)-オキソ錯体への電子移動のドライビングフォースが 0.5 eVを境に反応機構が切り替わることが明らかとなった 26。同様の現象は,Fe(IV)-オキソ錯体においても報告されている27。

Fig. 12 水溶液中での PCET 酸化による [RuIII(OH)(PY5Me2)]2+ の

生成とフェノール類からの水素移動反応。

■■ 4. ルテニウム (II)—複素環補酵素錯体の酸化還元挙動と PCET

本セクションでは,酸化還元活性な複素環補酵素であるプテリン誘導体 (Fig. 13aと 13b)をルテニウム (II)-

TPAユニットに配位させ,ラジカル中間体形成やプロトンシフトを含むその酸化還元過程,さらに,基質の O–

H結合や C–H結合から Ru(III)-プテリン錯体への HAT

の機構について述べる。

Fig. 13 プテリン誘導体 Hdmp (a) および Hdmdmp (b) の構造とナンバリングスキーム。

4.1.ルテニウム (II)- プテリン錯体の構造と酸化還元挙動Hdmpおよび Hdmdmpと複核錯体 [{RuIICl(TPA)}2]

2+

を MeOH で 反 応 さ せ て,[RuII(dmp)(TPA)]+ お よ び[RuII(dmdmp)(TPA)]+を合成し,キャラクタリゼーションを行った 28。それらの結晶構造を Fig. 14に示す。プテ

Fig. 14 [RuII(dmp)(TPA)]+ (a) および [RuII(dmdmp)(TPA)]+ (b) の結晶構造。

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リン類は 3位窒素が脱プロトン化されてモノアニオンとなり,4位酸素と 5位窒素の 2座キレート配位子としてRu(II)イオンに結合している。これらの錯体は,CH3CN中でプテリン配位子でのプロトンの脱着に伴う PCET挙動を示し,プテリン配位子の酸化還元電位だけでなく,Ru中心の酸化還元電位も制御される。さらに,Fig 14に示した 2つの Ru(II)-プテリン錯体にプロトン酸を作用させると,1位窒素がプロトン化される。このプロトン化体を 1電子還元すると,生成するラジカルの安定性に基づいて,1位窒素から 8

位窒素にプロトンがシフトしたプテリンラジカルが生成することが,そのラジカル種の ESRスペクトルの解析から明らかとなった (Fig. 15)29。

Fig. 15 Ru(II)- プテリン錯体の PT/ET 過程に伴うプロトンシフト。

4.2. ルテニウム (III)- プテリン錯体によるO–HおよびC–H結合からの水素移動反応

Fig. 16 [RuII(dmp)(TPA)]+ における PCET の熱化学的正方スキーム。 ET, electron transfer; PT, proton transfer; CPET, concerted proton-electron transfer.

[Ru(dmp)(TPA)]+の PCETに関する熱化学的正方スキームを Fig. 16に示す。ここで,[Ru(dmp)(TPA)]+における CPETにおける結合解離エネルギーは,式 (2)に基づいて 84 kcal mol–1と計算された 30。

Scheme 4. 基質 O–H および C–H 結合から Ru(III)- プテリン錯体への水素移動反応。

Fig. 16に示した BDEの値から,Ru(III)-プテリン錯体は,Ru(IV)-オキソ錯体 (Fig. 7)と同等の水素引き抜き能力があると考えられる。そこで,CH3CN 中でのRu(III)-プテリン錯体によるフェノール類の O–Hおよび有機化合物の C–H結合からの HAT反応 (Scheme 4)を速度論的に解析し,その遷移状態制御要因の解明を試みた。この HAT反応では,プロトンはプテリン配位子の 1位窒素で受け取られ,電子は Ru(III)中心に受け取られる。まず,フェノール類の O–H結合からの HATについて,Fig. 14 に示した Ru(II)-プテリン錯体の 1電子酸化体,[RuIII(dmp)(TPA)]2+および [RuIII(dmdmp)(TPA)]2+

を用いて各種フェノールとの反応を試みた 30。アミノ基(NH2)を有する [RuIII(dmp)(TPA)]2+と酸性度の高い 4-ニトロフェノールとの反応では,擬一次速度定数が基質濃度に対して飽和を示し,基質と錯体が水素結合アダクトを形成したのち,HATが進行することが示唆された。それに対し,水素結合能がないジメチルアミノ基を有する[RuIII(dmdmp)(TPA)]2+とフェノール類との反応は,2次の速度論に従って進行することが示された 30。O–H結合のBDEと HAT反応の2次速度定数の対数値 (logk)との間には一次の相関が見られ,Bell-Evans-Polanyiの式 (3)に

logk = –αDH° + C  (3)

DH° = BDEO-H(Phenol) – BDEN-H(Pterin)

基づく解析によって,α = 0.41と求められた 30。この α

(0 ≤α≤ 1)の値は,HATの遷移状態において,水素供与体と水素受容体の間の水素の位置を反映しており,0に近いほど始状態に近く,1に近いほど終状態に近いことを示す 31。従って,フェノール類から [RuIII(dmdmp)

(TPA)]2+への HAT反応における遷移状態において,水素はやや始状態に近いが,プテリン 8位窒素とフェノール酸素のほぼ中央付近に位置することがわかった。

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Fig. 17 CH3CN 中 に お け る [RuIII(dmdmp)(TPA)]2+ (a) お よ び[RuIII(dmdmp)(Cl)(MeBPA)]+ (b) に関する熱化学的正方スキーム。 a は ref 30 から引用。* は式 (2) に基づいた計算値。E1/2 (V) vs Fc/Fc+.

一方,3座配位子である N-メチル -N,N-ビス (2-ピリジルメチル )アミン (MeBPA)と Cl–イオンを配位子として有する,[RuIII(dmdmp)(Cl)(MeBPA)]+を合成した。この錯体と [RuIII(dmdmp)(TPA)]2+の酸化還元電位とプロトン受容性の違いを明確にするため,それぞれの熱化学的正方スキームを Fig. 17に示す 32。これらのデータからわかるように,E1/2値 (+0.26 Vと –0.16 V)の高低から [RuIII(dmdmp)(TPA)]2+のほうが高い電子受容性を示すのに対し,pKa値 (9.9と 11.3)から,[RuIII(dmdmp)(Cl)

(MeBPA)]+のほうが高いプロトン受容性(塩基性)を示すことがわかった。基質として,C–H結合の BDEが 76~85 kcal mol–1である有機化合物を選択し,上記 2種類の Ru(III)-プテリン錯体による CH3CN中での C–H酸化反応を試みた。その結果,式 (3)の α値が,[RuIII(dmdmp)(Cl)(MeBPA)]+では 0.44,[RuIII(dmdmp)(TPA)]2+では 0.27と決定された。Ru(III)-プテリン錯体における α 値の違いは,よりプロトン受容性が高く,電子受容性が低い [RuIII(dmdmp)(Cl)

(MeBPA)]+では,電子を受け取るためにプロトンを引きつけて C–H結合を強く分極させる必要があるのに対し,電子受容性が高く,プロトン受容性が低い [RuIII(dmdmp)

(TPA)]2+では,さほど C–H結合を分極させなくても電子移動が進行することを意味している 32。この遷移状態の違いは,時間依存の DFT計算によっても支持された。なお,上記の α値は,Ru(IV)-オキソ錯体による C–H酸化反応での α 値 (0.23~0.44)と同等である 13。また,この結果は,高原子価金属 -オキソ錯体でなくても,PCET

(CPET)における BDEが C–H結合の開裂に十分な値を有する化合物であれば,スピン状態などによらず,C–H

酸化反応が進行することを示している。

■■ 3. まとめ

本稿では,筆者らが行ってきた金属錯体におけるPCET反応を基盤とする酸化還元反応,特にルテニウム錯体に関連する反応を中心に述べた。PCET反応は,基質酸化反応において水素受容体として機能する Ru(III)-

ヒドロキソ錯体,Ru(IV)-オキソ錯体,および Ru(III)-

オキシル錯体の生成,および基質の O–H結合や C–H結合から水素受容体への水素移動反応などに見られる。その水素受容体の反応性は,式 (1)および (2)に示されたように,プロトン受容性(pKa)と電子受容性(酸化還元電位;E1/2)によって支配され,水素移動反応の遷移状態の形態にも影響を及ぼすことがわかった。このことは,Ru(IV)-オキソ錯体の反応性が,そのスピン状態によらず,Ru(III)-OH錯体から Ru(IV)-オキソ錯体が生成する O–H結合の BDEに依存することを支持する。また,Ru(III)-OH錯体による HAT反応の反応機構は,基質から Ru(III)-OH錯体への電子移動のドライビングフォースに依存して変化することも明らかにした。さらに,PCETは,分子間の水素移動反応 (HAT)だけでなく,分子内 PCETの方向性制御に基づく分子双安定性の創出 (Fig. 3)などの機能発現を可能とする。一方,Rh(III)-

TPA錯体に見られるような,特異な電子構造を創出することにも繋がる (Scheme 1)。以上のように,PCETは,光合成や酵素反応を含めた

自然現象における重要な素過程であると共に,錯体化学においても重要な反応素過程として認識される。筆者は,今後も,人工光合成系の構築,C–H酸化反応などの PCET反応機構の解明,新規な酸化・還元触媒反応系の構築などを含めて,金属錯体における PCETを基盤とする興味深い現象の創出と新しい反応性の開拓に邁進したいと考えている。

■■ 謝辞

本稿で紹介した研究成果は,九州大学理学部化学科,大阪大学大学院工学研究科生命先端工学専攻,および筑波大学数理物質系化学域で,多くの共同研究者のご協力によって得られたものです。全ての共同研究者の方々に厚く御礼申し上げます。九州大学では,松田義尚先生,および北川宏先生(現京都大学)に,私のわがままを許容して頂くとともに,大変お世話になりましたことに感謝致します。そのおかげで,現在に至る研究の端緒を得ることができました。大阪大学では,福住俊一先生(現名城大学・梨花女子大学)に大変お世話になりました。福住先生には,化学に関することだけでなく,多くのことを学ばせて頂き,感謝に堪えません。筑波大学では,石塚智也講師と小谷弘明助教とともに研究を行ってきま

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した。彼らの尽力に厚く感謝致します。彼らの協力なくして,今日はありません。また,これまで共に研究に勤しんでくれた,九州大学,大阪大学,および筑波大学の学生諸氏に深く感謝致します。九州大学先導物質化学研究所の吉澤一成先生と塩田淑仁先生には,多くの DFT

計算でお世話になり,兵庫県立大学の小倉尚志先生とその研究室の方々には,共鳴ラマンスペクトル測定でお世話になりました。この場をお借りしてお礼申し上げます。本稿で述べた研究の遂行にあたって,日本学術振興会,文部科学省,科学技術振興機構,三菱財団,旭硝子財団,矢崎科学技術振興財団,岩谷直治記念財団,日産科学財団,つくばイノベーションアリーナ (TIA)からご支援をいただきました。ここに深く感謝致します。最後に,平成 30年度錯体化学会学術賞の選考委員の方々に感謝申し上げます。

■■ 文献

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筑波大学数理物質系教授 工学博士[経歴]1986年東京大学工学部合成化学科卒業,1991年東京大学大学院工学系研究科博士課程修了(工学博士取得)[職歴]1991年米国ミネソタ大学化学科博士研究員(L. Que, Jr.),1993年九州大学理学部化学科非常勤研究員,1994年九州大学理学部助手,2005年大阪大学大学院工学研究科生命先端工学専攻助教授,2008年筑波大学大学院数理物質科学研究科教授を経て,2011年より現職。日本化学会 Bulletin of the Chemical Society of Japanの編集委員 (2011年~ ),米国化学会Inorganic Chemistryの Editorial Advisory Board (2015~ 2017年 ),王立化学協会フェロー (2017

年~ )など。[専門]錯体化学,触媒化学,ポルフィリンの化学

Profile

小島 隆彦