33
1 第1章 基本問題 1 1kg あたり 1 dm 3 あたり 2 (1)A モル x A あり,B 1 kg ある x A = m A m A + 1000 M B (1.6) くこ きる.ここ M B B ある.したがって,A モル m A m A = x A 1000 M B 1 - x A (1.7) A モル m A ように えて,そ モル c A される. モル c A ある 1 dm 3 B ,そ ρ g cm -3 する 1000ρ - M A c A g ある.それゆえ, 1 kg あたり A molえる m A = c A 1000ρ - M A c A × 1000 (1.8) したがって, c A = m A 1000ρ 1000 + M A m A = m A ρ 1 + M A 1000 m A (1.9) (2)A B える. A パーセントが W A ある 100 g する A W A g,そ をモル W A / M A molB 100 - W A g ある.molality 1 kg B あたり A モル m A = W A M A 1000 100 - W A ある. W A = 100m A m A + 1000 M A (1.10) A パーセント W A から モル ように えれ よい. に, 100 g W A g,したがって W A / M A mol A する.こ ρ (g cm -3 ) する 100/ρ mL 1 dm 3 = 1000 mL c A = 10ρW A /M A mol dm -3 る. 発展問題 1 めたい が,ある 確かさを あるこ よくある.一 に, f ( x) x Δx だけ変 して x + Δx った Δ f = f ( x + Δx)- f ( x) f ( x) Taylor して, Δ f = d f d x x Δx + 1 2! d 2 f d x 2 x (Δx) 2 + 1 3! d 3 f d x 3 x (Δx) 3 + ...... (1.11)

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1

第1章

基本問題

1  溶液 1kgあたりの物質量,溶媒 1 dm3 あたりの物質量,など.

2   (1)Aのモル分率が xA であり,Bが 1 kgである溶液では,

xA =mA

mA +1000MB

(1.6)

と書くことができる.ここで MB は溶媒 Bの分子質量である.したがって,Aの質量モル

濃度 mA は

mA =xA

1000MB

1 − xA

(1.7)

  Aの質量モル濃度 mA は,次のように考えて,そのモル濃度 cA に換算される.

モル濃度が cA である溶液 1 dm3 の中の溶媒 Bの物質量は,その溶液の密度を ρ(g cm−3)

とすると,1000ρ - MAcA gである.それゆえ,溶質 1 kg あたりの Aの物質量(単位 mol)

を考えると

mA =cA

1000ρ − MAcA

× 1000 (1.8)

したがって,

cA =mA 1000ρ

1000 + MAmA

=mAρ

1 +MA

1000 mA

(1.9)

(2)Aを溶質,Bを溶媒と考える.

  Aの質量パーセントがWA である溶液 100 gに存在する Aの物質量はWA g,その物質量

をモル単位で表すと WA /MA mol,溶媒 Bの物質量は 100 - WA gである.molalityは 1 kg

の Bあたりの  Aのモル単位の物質量なので

mA =WA

MA

1000100 −WA

である.逆に

WA =100mA

mA +1000MA

(1.10)

 Aの質量パーセントWA からモル濃度への変換は,次のように考えればよい.上の場合と同

様に,100 gの溶液中にはWA g,したがってWA /MA molのAが存在する.この溶液の体積は,

その密度を ρ (g cm−3)とすると 100/ρ mLなので,1 dm3 = 1000 mLだと,cA = 10ρWA/MA

mol dm−3 となる.

発展問題

1  求めたい量が,ある不確かさを持つ測定量の関数であることはよくある.一般に, f (x)の x

が ∆xだけ変化して x+ ∆xとなったときの ∆ f = f (x+ ∆x) - f (x)は, f (x)を Taylor展開して,

∆ f =d fdx

∣∣∣∣∣∣x

∆x +12!

d2 f

dx2

∣∣∣∣∣∣x

(∆x)2 +13!

d3 f

dx3

∣∣∣∣∣∣x

(∆x)3 + ...... (1.11)

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2

(∆x)2 以上の項を無視すると f の分散 v( f )は

v( f ) = (∆ f )2 =

d fdx

∣∣∣∣∣∣x

2

(∆x)2 (1.12)

f の標準偏差は

σ( f ) =

∣∣∣∣∣∣∣d fdx

∣∣∣∣∣∣x

∣∣∣∣∣∣∣∆x (1.13)

不確かさの伝播は,標準偏差の伝播と同じであると考えれば良い.

2  分析化学でとくに重要なので,pHと水素イオン濃度(水素イオン活量)の関係である.pH

がある不確かさを持つとき,水素イオン濃度の不確かさはどの程度かを考える.pHの場合,

∆pHが十分に小さくない限り,誤差の 2乗の項も ∆aH+にかなり寄与する.pH = -loga

H+=

-(1/ln(10))ln aH+であるから

dpHda

H+

= − 1ln(10)

1a

H+

(1.14)

daH+

dpH= −ln(10)a

H+(1.15)

d2aH+

d(pH)2=

d[daH+/(dpH)]

daH+

(da

H+

dpH

)= (ln(10))2a

H+(1.16)

∆aH+

aH+

= − ln(10)∆pH +12

(ln(10))2(∆pH)2 − 16

(ln(10))3(∆pH)3 + ...

= −2.3026∆pH + 2.6509(∆pH)2 + 2.0345(∆pH)3 + .... (1.17)

以下の表に,pHの不確かさが aH+の不確かさに及ぼす効果をまとめた.∆ pHが十分に小さ

くないと,そのズレがプラス側かマイナス側かによって,aH+の振れ幅が違う.この例では,

∆pHが 0.01程度だと展開の第 2項まで取らないと, ∆aH+の見積もりがかなり怪しいことが

わかる.

pHの不確かさが水素イオン活量の不確かさに及ぼす影響∆a

H+/a

H+

∆pH 第 1項まで 第 2項まで 第 3項まで

+ 0.1 -0.23026 -0.20375 -0.20578

-0.1 0.23026 0.25677 0.25880

+ 0.01 -0.02303 -0.02276 -0.02276

-0.01 0.02303 0.02329 0.02329

+ 0.001 -0.0023 -0.00230 -0.00230

-0.001 0.0023 0.00231 0.00231

このように pHの誤差は,大略,水素イオン活量の相対不確かさ8に比例する.pHの 0.01の

不確かさは,水素イオン活量の相対不確かさ ± 0.02をもたらし,その程度は,pHによらな

い.したがって,pHの小数点以下の桁数を水素イオン活量の有効数字としてよい.8ある確率変数 f の不確かさ ±∆ f を f で除した ±∆ f / f .

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3

もちろん,水素イオン活量の不確かさは ± 0.02 × aH+であるから,その大きさは pHに依存

する.たとえば,pH = 1なら ∆aH+= 0.002(モル濃度尺度で)程度,つまり(1.00±0.02)×

10−1,pH = 7なら(1.00±0.02)× 10−7 で   ∆aH+  = 2 nmol dm−3 程度である.

3  数値 xと yがある不確かさを持つとする.

不確かさの尺度は,分散(の推定値)(とその平方根である標準偏差(の推定値))である.

xの分散 v(x)は,xを n回測定した時,

v(x) =1n

n∑i=1

(xi − x)2 (1.18)

で定義される.ここで xi (i = 1,2,3,,,n)は書く測定値,xは xを n回測定した平均値であ

る.同様に yについても,

v(y) =1n

n∑i=1

(yi − y)2 (1.19)

f の分散 v( f )は,

v( f ) =1n

n∑i=1

( fi − f )2 (1.20)

=1n

n∑i=1

[(xi − x) + (yi − y)

]2 (1.21)

=1n

n∑i=1

[(xi − x)2 + (yi − y)2 + 2(xi − x)(yi − y)

](1.22)

=1n

n∑i=1

[(xi − x)2 + (yi − y)2

](1.23)

である.この最後の変形で,(xi − x)(yi − y) = 0としたのは,xの変動と yの変動は互いに独

立である(相関はない)と考えたからである.これより,不確かさの大きいものが f の不確

かさを決めることがわかる.たとえば,100.1 ± 0.1と 0.123 ± 0.001を加えると,それらの

和の不確かさは √

0.12 + 0.0012 ' 0.1となる.

4  上の和の例と同様に,数値 xと yがある不確かさを持つとする.

f (x, y)の xと yがそれぞれ ∆x, ∆yだけ変化して x + ∆xおよび y + ∆yとなったときの ∆ f =

f (x + ∆x, y + ∆y) - f (x, y) を考える. f を x と y について Taylor 展開し,2次の項を無視す

ると,

∆ f =

(∂ f∂x

)y

∆x +

(∂ f∂y

)x

∆y + ...... (1.24)

f の分散は,上と同様に xの変動と yの変動に相関はない時,

v( f ) =

(∂ f∂x

)2

y

(∆x)2 +

(∂ f∂y

)2

x

(∆y)2+ (1.25)

今の場合, f = xyなので,

v( f ) = y2(∆x)2 + x2(∆y)2 (1.26)

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4

不確かさの尺度である標準偏差は

σ =√

v( f ) =√

y2(∆x)2 + x2(∆y)2 (1.27)

たとえば,x = 100.001,  y = 1.001というどちらも小数点以下 3位が不確かで有効数字が 6

桁と 4桁である二つの数を掛け合わせると,x > yなので,その不確かさは,σ '√

x2(∆y)2

' 100 ∆y ' 0.1になる.つまり,もとの yの不確かさの 100倍になるので f = 100.1としな

ければならない.

x = 100, y = 1.001なら,σ = ((1.001)2x12 + (100)2x(0.001)2)1/2 = 1.006 ' 1なので, f = 100

とする.つまり,積の不確かさは,もとの量のうち桁数の小さい方の桁で決まる.

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5

第2章

基本問題

1  (1)

(a) 0.001 M,(b) (1/2)×(4×0.001 + 2×0.001) = 0.003 M,(c) (1/2)×(4×0.001 + 4×0.001) = 0.004

(2)

(a) logγ(c)

±,HCl= -0.5106× 1 ×

√0.001 =-1.614 ×10−2. γ

(c)

±,HCl= 0.9635

(b) logγ(c)

±,MgCl2= -0.5106× 2 ×

√0.003 =-5.593 ×10−2. γ

(c)

±,MgCl2= 0.8792

(c) logγ(c)

±,MgSO4= -0.5106× 4 ×

√0.004 =-1.292 ×10−1. γ

(c)

±,MgSO4= 0.7427

(3) 

 Ag+ と Cl− の濃度を,それぞれ,cAg+,c

Cl− とする.他の電解質がないので,電荷バラン

ス条件より,cAg+=c

Cl− である.これらは cAgCl,つまり,AgClの溶解度と等しい.活量係数

は 1としてよいとしているので,√

Ksp = cAg+= c

Cl− =√

1.78 × 10−5 = 1.33 × 10−5となる.以

下の (6) で見るように,活量係数は厳密には 1 ではなく,それより小さいので,実際には,

1.33 × 10−5 にわずかに大きい.(下の問題 (6)参照)

(4)  

[Ag+] + [Na+] = [Cl−]

(5) 

(a)

Na+濃度を cNaCl,Cl−の濃度を cCl− と書くと,NaClの仕込濃度が 0.0100 mol dm−3である時

は,cNaCl = 0.0100 mol dm−3 ,また,cCl− ' 0.0100  mol dm−3 と考えてよい.

したがって,cAg+= 1.78 × 10−8 mol dm−3.

もう少しきちんと考えるには次のようにする.

電荷バランス条件の式に溶解度積を代入すると

c0NaCl+

KSP

cCl−= c

Cl−

これは,cCl− についての 2次方程式.根の公式より,

cCl− =

12

[c0

NaCl+

√(c0

NaCl)2 + 4KSP

]cNaCl = 0.0100 mol dm−3 なら c0

NaCl>> 2

√kSP なので,よい近似で c

Cl− = c0NaCl.

NaCl濃度が低いとき:

 上の式より,

(b)

cNaCl = 1.00 × 10−4 mol dm−3 なら,

cCl− = 1.02 × 10−5 mol dm−3.

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6

cAg+= 1.75 × 10−6 mol dm−3.

(c)

cNaCl = 1.00 × 10−5 mol dm−3 なら,

cCl− = 1.92 × 10−5 mol dm−3.

cAg+= 9.25 × 10−6 mol dm−3.

(6) 

この問題は,多少,ややこしい.平均活量係数はイオン強度がわかっていれば,(2.32)式か

ら容易に計算できる.今の問題では,わかっているのは溶解度積だけであり,濃度がわから

ないのでイオン強度がわからず,直ちにその溶液中のイオンの活量係数を (2.32)式から計算

するわけには行かない.

順序立てて考えてみる.

まず,溶液は NaClを含まず,溶液中には Ag+と Cl−のみが存在する場合を考える.溶解度

積の定義より,

Ksp = aAg+

aCl− = γAg+

γCl− c

Ag+c

Cl−

Ag+ と Cl− 以外のイオン種は存在しないとしているので,Ag+ と Cl− の平均活量を γ± とす

ると γAg+= γ

Cl− = γ± であり,また,cAg+= c

Cl− = cAgCl

である.ここで,cAgCl は AgClの溶解度である.これを,求める必要がある.

1.逐次近似を用いるやり方.

最初に,活量係数を 1として求めた AgClの溶解度を使って,活量係数を計算し,

Ksp =(γ±

)2 (cAgCl)2

からその時の溶解度を求める.得られた値は一般に始めに仮定した値とは違うので,その新

しい cAgCl の値を用いて,もう一度,同じ計算を繰り返す.前の値と同じ程度になったら,収

束したとして,その値を解として採用する.

2.解を直接求める.

イオンの活量係数を求めるのに必要なイオン強度 Iは,今の場合,I = cAgCl である.したがっ

て,上の溶解度の式は,

Ksp =(γ±

)2 (cAgCl)2

DH極限則を入れると,

Ksp =

(10−0.5106

√cAgCl

)2(cAgCl)

2

あるいは,両辺の常用対数をとって

logKsp = 2(-0.5106√cAgCl) - 2logcAgCl = 0

これは,cAgCl についての非線形方程式であるので,これを解けばよい.

Excelの Solverを用いると,

cAgCl = 1.35 × 10−5 mol dm−3

を得る.このときの活量係数は,0.996である.

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7

活量係数を無視して上の (3)で計算した時の cAgCl = 1.33 × 10−5 mol dm−3 に比べると,若干

大きいことを確認しよう.

Solverを用いるとき,解が 1.3 × 10−5 の近辺にあると考えられるので,解をその前後で拘束

しておくのがよい.そうしないと,発散して解が求まらない.

次に(5)の3つのケースをまとめて考える.

溶液内化学平衡の計算で活量係数が出てくるのは,平衡定数のところだけである.今の場合,

溶解度積は活量係数を考慮すると

KSP = aAg+

aCl− = γAg+

γCl− c

Ag+c

Cl−

したがって,NaClを加えたときの Cl− の計算式は,上の式の代わりに

cCl− =

12

c0NaCl+

√(c0

NaCl)2 + 4

KSP

γAg+γ

Cl−

DH極限則の範囲では

γAg+γ

Cl− =

(10−0.5016

√I)2

である.イオン強度 I は,

I =12

(c

Ag++ c

Na++ c

Cl−

)= c

Cl−

ここで,電荷バランス条件を使った.

NaClの仕込濃度が 0.01 mol dm−3 (a),0.1 mmol dm−3 (b), 0.01 mmol dm−3 (c)のそれぞれ,

ついでに 0.001 mol dm−3 の場合も,cCl−,c

Ag− を求めてみる.

最初に計算した,活量を考慮しない場合の cCl− を初期値として,上の式から c

Cl− を逐次近似

で求める.これより,平均活量係数(DH極限則では,イオンの活量係数に等しい)をもと

め,さらに, cAg+を計算すると,次表のようになる.濃度は molarityである.計算結果は問

題の有効数字より多い桁数で結果を表示している.

NaCl仕込濃度 cCl− 初期値 c

Cl− (収束値) γ± (収束値) cAg+

(収束値)

0 1.3341 × 10−5 1.3399 × 10−5 0.9957 1.3399 × 10−5

1.00 × 10−5 1.9240 × 10−5 1.9313 × 10−5 0.9948 9.3125 × 10−6

1.00 × 10−4 1.0170 × 10−4 1.0179 × 10−4 0.9882 1.7907 × 10−6

1.00 × 10−3 1.0002 × 10−3 1.0002 × 10−3 0.9635 1.9170 × 10−7

1.00 × 10−2 1.0000 × 10−2 1.0000 × 10−3 0.8891 2.2518 × 10−8

2  (1) Mw(NaCl) = 22.990+35.453 = 58.443.溶液 100 mL中にこの割合((0.900 w/v %)で

溶けている.つまり,溶液 1 L中に 9 g NaClが溶けているので 9/58.443 = 0.154 mol dm−3.

1:1型の強電解質なので,モル濃度尺度でのイオン強度は,Ic = 0.154 mol dm−3.

(2) Mw(KCl) = 39.098+35.453 = 74.551,Mw(CaCl2) = 40.078+2×35.453 = 110.984.

Ic = 8.6/58.443 + 0.3/74.551 + (1/2)(4*0.33/40.078 + 2*0.33/40.078) = 0.176 (mol dm−3).

(3) Mw(Na+) = 22.990,,Mw(Mg2+) = 24.305,Mw(Ca2+) = 40.078,Mw(Cl−) = 35.453,

Mw(SO2−4 ) = 32.065 + 15.999 ×4 = 96.061,Mw(HCO−3 ) = 1.008 + 12.011 + 3×15.999 = 61.016

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8

Ic = (1/2)*(1.025)*(10.6/22.99 + 4*1.27/24.305 + 4*0.4/40.078 + 19/35.453 + 4*2.65/96.061 +

0.14/61.016) = 0.70 (mol dm−3).

3   Aの水溶液 a g中の Aの物質量および 水の物質量は,Aの相対分子質量を MA とすると,

それぞれ,mA MA

1000 + mA MA

× a1000

1000 + mA MA

× a

Bの水溶液 b g中の Bの物質量および水の物質量は,Bの相対分子質量を MB とすると,そ

れぞれmB MB

1000 + mB MB

× b1000

1000 + mB MB

× b

である.

それゆえ新しく作った混合液の Aの質量モル濃度は,(amA

1000 + mA MA

) (a

1000 + mA MA

+b

1000 + mB MB

)−1

=amA

a + b1000+mA MA1000+mB MB

Bの濃度も同様に,(bmB

1000 + mB MB

) (a

1000 + mA MA

+b

1000 + mB MB

)−1

=bmB

b + a1000+mB MB1000+mA MA

このように,質量モル濃度の表現は,混ぜ合わせると複雑に見える.しかし,混ぜ合わせて

溶液の体積が変化する場合(VA と VB を混ぜると VA +VB とはならない場合)でも濃度の表

現に何も問題はない.モル濃度だと,この場合は面倒になる.

発展問題

1   数式を Excelなどに打ち込んで,計算する.結果は,

表 2.1: HCl水溶液(25 ◦C)におけるHClの平均イオン活量係数の常用対数: 実験値と各モデルの計算値の比較

Molality Hamer & Wu∗ DHL∗∗ Gutelberg Davies Bromley

0.010 -0.0434 -0.0511 -0.0464 -0.0444 -0.0340

0.10 -0.0985 -0.162 -0.123 -0.110 -0.0872

1.00 -0.0910 -0.511 -0.255 -0.150 -0.0888*実験値** Debye-Huckel Limiting law

Bromley式は,1 mol dm−3以上の高塩濃度の領域での活量係数を良く表現するが,より低濃

度領域では,ずれが目立つ.低イオン強度領域では,Gutelberg式や Davies 式がより正確

である.

また,Fraenkel の SiS モデルは,高イオン強度域でも,実験的な平均活量係数を良く表現

する.

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9

2  (2.6),(2.7)式より

µ0,(c)i+ RT ln γ(c)

ici = µ

0,(m)i+ RT ln γ(m)

imi (2.48)

書き直すと

ln γ(c)i= ln γ(m)

i+ ln

mi

ci

µ0,(m)i − µ0,(c)

i

RT(2.49)

右辺の第 3項は,モル濃度尺度と質量モル濃度尺度での無限希釈を基準とした(そこにおけ

る直線関係を使った単位濃度における)標準化学ポテンシャルの差である.

表 1-1のモル濃度と質量モル濃度の関係

cA =mA 1000ρ

1000 + MAmA

=mAρ

1 + (MA/1000)mA

より,十分に濃度が低いときは,cA =  mAρであり,また無限希釈では,ρは溶媒の密度,

ρ0 と置いてよい.ゆえに,この無限希釈を基準として理想化した µの ln cと ln mに対する

二つのプロットはどちらも直線で,

µ = µ0,(c)i+ RT ln ci (2.50)

= µ0,(m)i+ RT ln mi = µ

0,(m)i+ RT ln ci − RT ln ρ0 (2.51)

と書ける.したがって,µ0,(c)i - µ0,(m)

i = -RT ln ρ0 これを(2.49)式に代入すると,(2.41)式

が出る.

3  上の問題と同様,十分に濃度が低いときは,cA = mAρなので,解離定数の次元を考えると,

そうなる.

上の式の両辺の対数を取ると

pK(c)

a= −logρ0 pK

(m)

a

25 ◦Cの水の密度は 0.99705 g cm−3 = kg dm−3 なので,

pK(c)

a= pK

(m)

a+ 0.001283

したがって差は,実験的な不確かさの範囲内である.

4  たとえば HClについては,次図のようになり,Fraenkel理論の平均活量係数は,Hamer and Wu

の結果に良く一致(一致するようにパラメータを選んでいる).H+とCl−の単独イオン活量係

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10

数が平均値と大きく異なることに注目.

HCl水溶液の平均活量係数の実験値(白丸)と,それに合うようにパラメータをセットした

Fraenkel SiSモデルの計算曲線(曲線 1)と,そのモデルから得られる H+の単独イオン活量

係数(曲線 2)と Cl− の単独イオン活量係数(曲線 3).

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11

第3章

基本問題

1  溶液中には,Na+,OH−,H+,H2Oが存在する.OH− は,H+ を受け取るのでブレンテズ塩

基,H2Oはブレンテズ塩基およびブレンテズ酸である.

2   CH3COOHは,酸,CH3COO− は,その共役塩基である.また,H2Oはブレンテズ塩基およ

びブレンテズ酸である.

3    NH+4,H2PO−4

4  たとえば酢酸ソーダ CH3COONaを水に溶かすと完全解離し,Na+ と CH3COO− が生じる.

CH3COO−は弱い塩基であるので,水から H+を受け取って,一部は CH3COOHとなる.水

の溶解度積は一定であるので,それにしたがって,OH− は増加する.NaOHは強電解質で

完全解離するので Na+は OH−を受け取らないから,溶液中では,OH−が H+より過剰とな

り,溶液はアルカリ性を示す.

NH4Clを水に溶かすと,完全解離し,NH+4 と Cl− ができる.NH+4 は弱い酸であるので一部

解離して H+ を放出する.きわめて弱い塩基である Cl− はこれを受け取って HCl を作らな

い.したがって溶液は酸性となる.

5  (1) pH = -log(1.00) = 0,(2) pH = -log(0.001) = 3,(3) pH = -log(10−7) = 7(中性)と

はならないことに注意.この溶液内の電荷バランス条件は,

[H+] = [OH−] + [Cl−]

ここで,[Cl−]は HClの濃度 c0

HClに等しい.これと水のイオン積 KW = [H+][OH−]より

[H+]2 − c0

HCl[H+] − KW = 0

これより

[H+] =12

(c

0

HCl+

√(c0

HCl)2 + 4KW

)c

0

HCl>> KW なら pH = -log(c

0

HCl)として良いが,(3)の場合はそうはいかず,上の式より,[H+]

= 1.62 × 10−7,pH = 6.79を得る.

(4)(この解答は,巻末の章末問題略解にはないのでここで補足する.)

電荷バランス条件

[NH+4 ] + [H+] = [OH−]

溶液はアルカリ性と考えられるので,

[NH+4 ] ' [OH−]

物質量バランス条件は

[NH+4 ] + [NH3] = c0NH3

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cNH3 = 1.0 × 10−2 mol dm−3

NH+4 の解離定数 Ka

Ka =[H+][[NH3]]

[NH+4 ]

これらより,

Ka =Kw(c0

NH3− [OH−])

[OH−]2

Kb = KW/Ka であり,また,c0NH3= 0.01 mol dm−3 なので c0

NH3>> [OH−]である.それゆえ,

[OH−] =√

Kbc0NH3

巻末の表1より,25 ◦Cでは,Ka = 5.688 × 10−10 だから Kb = 1.0 × 10−14/(5.688 × 10−10) =

1.758 × 10−5

これを使うと

[OH−] = 4.193 × 10−4

-log(4.193 × 10−4) = 3.38つまり,pH = 10.62

発展問題

1  (1)近似をおかずに解いた場合は,[H+] = 1.240 × 10−4, pH = 3.907である.

(2)[H+] = 7.115 × 10−6, pH = 5.148.

2   式量濃度を cと書くと,電荷バランス条件

[NH+4 ] + [H+] − [OH−] = [Cl−]

弱塩基と強酸の塩の水溶液なので,酸性であるはず.つまり,[H+] >> [OH−]だろうから,

[NH+4 ] + [H+] ' [Cl−]

物質量バランス条件は

[Cl−] = c

および

[NH+4 ] + [NH3] = c

NH+4 の解離定数 Ka

Ka =[H+][[NH3]]

[NH+4 ]をこれに入れて

[NH+4 ] =c

1 + Ka/[H+]

物質量バランス条件を使うとc

1 + Ka/[H+]+ [H+] ' c

整理すると

[H+]2 + Ka[H+] − cKa ' 0

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これを解くと,[H+] = 7.551 × 10−6,pH = 5.122を得る.

c >> Ka なら(今の場合がそう)

[H+]2 ' cKa

と簡単になる.つまり,

pH ' pKa − logc

2

これより,pH = 5.122と上と同じ結果が得られる.c が小さいときはそうはいかない.

3  一般的にするために,仕込濃度を c0NaOHと c0

HA,混ぜ合わせる体積を VNaOH と VHA とする.解

離平衡  Ka = [H+][A−]/[HA] = 1.756 × 10−5 (および KW = [H+][OH−] = 10−14 )

物質量バランス  (VNaOH + VHA)([HA] + [A−]) = VHAc0HA

および

(VNaOH + VHA)[Na+] = VNaOHc0NaOH

電荷バランス  [H+] + [Na+] = [OH−] + [A−]

∆ = [H+] - [OH−]

  ∆ + (VNaOH /(VNaOH + VHA))c0NaOH= [A−]

物質量バランスと解離平衡条件より,[A−] =  VHAc0HA/(VNaOH + VHA)/([H+]/Ka + 1)これを上

に代入して,

 ∆ +VNaOHc0

NaOH

VNaOH + VHA

=Ka

[H+] + Ka

VHAc0HA

VNaOH + VHA

今の場合,  ∆ << (VNaOH /(VNaOH + VHA))c0NaOHなので,

Ka

[H+] + Ka

=VNaOHc0

NaOH

VHAc0HA

さらに,今の場合,右辺は 1/2であるから,[H+] = Ka,つまり,pH = pKa である.

4   Davies式は,より,

−logγ(m)± = 0.50

∣∣∣z+z−

∣∣∣ √Im

1 +√

Im

− 0.30Im

Ic = 0.001, 0.01, 0.1 mol dm−3 の時,-logγ(c)

i は カチオンもアニオンも,それぞれ 0.9656,

0.9037, 0.7850である.

(1)水のイオン積は,

KW = aH+

aOH− = γH+

γOH− [H+][OH−] = γ

H+γ

OH−KW′

ここで,KW′ は濃度平衡定数.これより,Ic = 0.001, 0.01, 0.1 mol dm−3では,それぞれ,

KW′ = 10−13.99/(0.9656)2 = 1.098 × 10−14 (pKW

′ = 13.96),

10−13.99/(0.9037)2 = 1.253 × 10−14 (pKW′ = 13.90),

10−13.99/(0.7850)2 = 1.661 × 10−14 (pKWv = 13.78)

したがって,濃度平衡定数はイオン強度とともに大きくなる.

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(2)弱酸 HAの解離平衡について,

HA H+ + A−

の平衡定数 Ka と濃度平衡定数 Ka′ の関係は,

Ka′ =

cH+

cA−

cHA

= Ka

γHA

γH+γ

A−

である.HAは電荷を帯びていないので溶液のイオン強度が高くても γHA ' 1としてよいが,

γH+と γ

A− は 1からのズレは,たとえば 図 2.2,2.3 に見られるようにイオン強度が低い場

合でも小さくない.つまり,(1)の例と同じく,濃度平衡定数はイオン強度とともに大きく

なる.

(4)弱酸 NH+4 の解離平衡について,

NH+4 H+ + NH3

の平衡定数 Ka と濃度平衡定数 Ka′ の関係は,

Ka′ =

cH+

cNH3

cNH+4

= Ka

γNH+4

γH+γNH3

である.γNH+4= γ

H+なら,分母と分子で打ち消し合うので,Ka

′ = Ka である.実際には,γNH+4

< γH+であると考えられる(第 2章応用問題 4参照)ので,濃度平衡定数はイオン強度とと

もに小さくなるはずである.

5   発展問題 3を解くに際し,pH = pKa に到達するのに,活量係数 =濃度という近似は,使っ

ていない.活量係数と濃度の違いが出てくるのは平衡定数のところだけである(→ 2.4).

上の発展問題 4で出てきた,

Ka′ =

cH+

cA−

cHA

= Ka

γHA

γH+γ

A−

を使う.まず第1に,活量係数の計算にはイオン強度が必要である.第2に問われている pH

とは何かを考える必要がある.

1).発展問題 3の条件では,大まかには HAの半分だけが解離していると考えてよい.「お

おまか」という理由は,活量係数を考慮すると,決まる pHは厳密には Ka と等しくならな

いからである.

大まかには,I = (1/2)([Na+] + [A−])であるから,I = 0.05 mol dm−3

Davies式では,1価のイオンの活量係数は,I = 0.05 mol dm−3 の時,0.8244

2). pH = -log[H+]と考えるか,pH = -aH+= -γ

H+[H+]と考えるか.実際の溶液の pHを問うて

いるので,後者と理解するのがよい.すると,-log[H+]ではなく,-logaH+を求める.上の濃

度平衡定数の式より

aH+= γ

H+[H+] = Ka

γHA[HA]

γA− [A−]

= Kcond

a

[HA][A−]

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15

ここで定義した

Kcond

a= Ka

γHA

γA−

は,濃度と活量が混在しているので,混合平衡定数と呼ばれることがある.今の場合,γHA

' 1, γA− = 0.8244であるから,K

cond

a= 1.756 × 10−5/0.8244 = 2.130 × 10−5

これを使って,発展問題 4の結果より,pH = pKcond

a= 4.672,したがって,実際の pHは pKa

より酸性側にある.アンモニウムのように,酸がイオンで,共役塩基が中性の場合は,逆に

なる.

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第 4章

基本問題

1

αH2A =[H2A]

[H2A] + [HA−] + [A2−]

今や溶液の [H+](pH)がわかっているので,これを解離平衡の関係式を使って [H+]で表

せばよい.

αH2A =[H+]2

[H+]2 + Ka1[H+] + Ka1Ka2

[H+],Ka1,Ka2 に値を入れて計算すると αH2A = 5.213 × 10−2 となる.同様に,

αHA− =

Ka1[H+]

[H+]2 + Ka1[H+] + Ka1Ka2

= 8.944 × 10−1

また,

αA2− =

Ka1Ka2

[H+]2 + Ka1[H+] + Ka1Ka2

= 5.344 × 10−2

これより,フタル酸のほぼ 9割が HA− の形で存在しており,H2Aと A2− がともに 5%程度

であることがわかる.

この pHにおけるイオン強度に対するフタル酸の寄与を考えるときは,A2− は濃度の 22 = 4

倍で効いてくるので 5%程度でも無視出来ないことに注意.

2 (解答):  (4.5)式と (4.6)式を等しいとおいて pH = pKa1,また,(4.6)式と (4.7)式を等しいと

おいて pH = pKa2 が得られる.

3 (4.6)式を pHについて微分すると,

dα1

dpH=

dα1

d[H+]d[H+]dpH

dα1

d[H+]=

Ka1(Ka1Ka1 − [H+]2)([H+]2 + Ka1[H+] + Ka1Ka2)2

=1

[H+]α1(α2 − α0)

これより,dα1/d pH = 0となるのは

pH =pKa1 + pKa2

2

これは,厳密に正しい.そのときにはまた,α2 - α0 でもある.

第 6章のジプロトン酸の滴定では,第一当量点は,おおよそ Ka1 + pKa2/2というのが出てく

るが,そちらの方は近似的に正しいにすぎない.

4 (4.6)式に [H+] =√

Ka1Ka2 を代入すると

α1 =

√Ka1

2√

Ka2 +√

Ka1

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またこの時,

α0 = α2 =

√Ka2

2√

Ka2 +√

Ka1

5 溶液中に存在するイオンは [K+],[H+],[OH−],[HA−],[A2−]である.

これを全て考慮して計算しても良いが,K+はもちろん完全解離しているから,0.05 mol dm−3

である.アニオンのうち,CO2−3 になっている割合は小さいので,この溶液のイオン強度は

おおよそ 0.05であると考えて良い.

念のために,上で求めた [H+]の値と解離度を用いて計算してみると,

I =12

{[H+] + [K+] + [OH−] + [HA−] + 4[A2−]

}' 1

2

{[H+] + [K+] + [HA−] + 4[A2−]

}(4.44)

=12

{6.540 × 10−5 + 0.050(1 + 8.944 × 10−1 + 4 × 5.344 × 10−2)

}= 0.0527

発展問題

1  (4.16)式を何とかして解くと

cPhHK [H+] × 105 pH αH2A × 102 αHA− × 101 α

A2− × 102

mol dm−3 mol dm−3

0.5 6.613 4.180 5.271 8.944 5.285

0.05 6.540 4.184 5.213 8.944 5.344

0.005 5.920 4.228 4.716 8.938 5.901

0.0005 3.507 4.455 3.522 8.870 7.781

(4.19)式からだと pH = 4.179である.したがって,pHの小数点以下二桁まで(4.19)式

が成り立つためには,濃度はかなり濃くなければならないことがわかる.

2  (1)(4.15)式に(4.14)式と平衡条件を代入して [H2A]と [A2−]を消去すると

[H+]2 − KW = [H+]2[HA−]/Ka1 + [HA−]Ka2

となり,上の謎めいた式が出る.したがって,近似式ではない.

(2)[HA−]がわからないので,謎めいた式から pHを求めることはできないように見える.

が,仕込み濃度が極端に低くない限り,根号の中の分子の第 2項は,第1項に比べて無視で

きる.また,仕込み濃度が高ければ,[HA−]は仕込み濃度とそう大きくは変わらない.する

と,謎めいた式は(4.19)式に帰着する.

3  フタル酸について,HA− と A2− の活量係数を考慮する事により,溶液内の解離平衡をより

正しく捉えることができ,pH = -logaH+の定義により近い pHを求めることができると考え

られる.

しかし,活量係数は,イオン強度の関数である.一方,活量係数が変化すると解離平衡が移

動して [HA−] と [A2−] が変化するからイオン強度が変化する.これが収束した状態を見い

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だすには,適切な [HA−]と [A2−]の初期値を与えて,逐次近似計算を行う必要がある.これ

は,Excelで解くと簡単である.

以下,濃度の単位 mol dm−3 を省略する.

プリント版巻末の解答の数値は,逐次計算後のものであるので,正しくない.以下の数値が

正しい.

(1) まず,pH,[H+] を近似式である(4.19)式で求める.pH = 4.179,[H+] = 6.622E-5,

これより,(4.5)式から [A2−] = 2.617E-03,(4.6)式から [HA−] = 4.4344E-02

を得る.

(2)上の(1)で求めた [A2−]と [HA−],[H+]から,I = (1/2)([H+] + [H+] + [H+] + 4[H+])

= 5.223E-02

(3) Davies式より,log(γ(c)

H+) = log (γ

(c)

HA−) = -8.518E-02. log(γ

(c)

A2− )には Davies式で z = 2と

して(この近似は疑問の余地大いにありだが)log(γ(c)

H+) = -3.407E-01

(4) Kcond

a1= a

H+c

HA− /cH2A = Ka1 (γ(c)

H2A/γ

(c)

HA−) = 10−2.95*(1/10−8.5177E−02) = 1.365E-03

Kcond

a2= a

H+c

A2−2/c

HA− = Ka2 (γ(c)

HA−/γ

(c)

A2−2

) = 10−5.408*(10−8.5177E−02/10−3.4071E−01) = 7.039E-06

(5)Kcond

a1と K

cond

a2に上の(4)の値を使って (4.19)式から pHを求めると,pH = 4.009,a

H+

= 9.803E-05を得る.

(6)イオン強度を計算するにあったって,フタル酸の場合,pH 4付近では,A2− のイオン

強度への寄与が無視出来ないことに注意しよう.(5)で得られた pHの値から再びイオン強

度を計算し,さらにイオン種の活量係数を計算する.これを使って得た Kcond

a1と K

cond

a2から,

前回同様の手順で aH+の改良値を求める.これを逐次近似という.あと 2回ほどこの計算を

繰り返すと,pH = 4.011に収束する.

4  第 2解離までを考えれば十分.

pK1 =[H+][H2PO−4 ]

[H3PO4]

pK2 =[H+][HPO2−

4 ]

[H2PO−4 ]

電荷バランス条件は,

[K+] = c

および

[K+] − [H2PO−4 ] − 2[H2PO−4 ] + [H+] − [OH−] = 0

物質量バランス条件は,仕込み濃度を cとすると,

[H2PO−4 ] + [H2PO−4 ] + [HPO2−4 ] = c

これに平衡条件を入れて,リン酸のうち,溶液中に存在する主な化学種は,[H2PO−4 ]であろ

うから,それについて解くと 

[H2PO−4 ] =c[H+]K1

[H+]2 + K1[H+] + K1K2

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これを電荷バランス条件に入れて整理すると,

[H+]3 + (c + K1)[H+]2 + K1K2[H+] − cK1K2 = 0

左辺で [H+]3 << (c + K1)[H+]2 且つ [H+] << cであるので,

(c + K1)[H+]2 − cK1K2 ' 0

つまり,

[H+]  =√

K1K2c

c + K1

つまり,

pH =pK1 + pK2

2− 1

2log

(c

c + K1

)pK1 = 2.148 (K1 = 7.112E-3), pK2 = 7.198 (K2 = 6.339E-8), c = 0.02 mol dm−3 を代入すると,

pH = 4.607

これは 近似式 pH = (pK1 +pK1)/2 = 4.673より,0.066酸性である.つまり,上の式の右辺

第二項は,この精度で,効いてくる.

5  

リン酸では,pKa1,pKa2,pKa3,はそれぞれの間が 5程度離れているので,この問題では,第

2,第3解離だけを考えれば良い.上の問題の右辺第2項の寄与は,この場合,無視出来る

ので,pH= (pK2 +pK3)/2 = 9.77

6  

pKa1 と pKa2 の差が大きいので,pHが4から8の広い範囲で,glycineは双極イオン形であ

ることがわかる.

7   Na2CO3 水溶液の場合とよく似ている.実際,扱い方は同じである.

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• 電荷の保存(電気的中性)

[H+] − [OH−] + [Na+] = [HCO3−] + 2[CO2−

3 ] (4.45)

は前と同じだが,今の場合

∆ + cT = [CO2]

(K1

[H+]+

2K1K2

[H+]2

)(4.46)

となって,形式的には左辺の第2項だけが違う.

大気中の CO2 との平衡を考えない場合

前と同じように [CO2]に式(4.30)を使うと

cT

+ 1 =[H+]K1 + 2K1K2

[H+]2 + K1[H+] + K1K2(4.47)

しかし,今度は,pHが中性付近なので(と直感するので) [H+]2 � K1[H+] + K1K2 とはお

けないが,その代わり,∆/cT � 1としても大丈夫.(really?) そうすると,

[H+]2 = K1K2 (4.48)

つまり

pH =pK1 + pK2

2(4.49)

となって,pHは NaHCO3 の濃度によらない.(活量係数が変化するので本当は変化するが,

それはさておき)pH = (6.36+10.34)/2=8.35

近似せずに解くと,結果は表3のようになる.

表3: NaHCO3 水溶液の pH

cT [H+] pH1.0 4.52 × 10−9 8.340.1 4.52 × 10−9 8.340.01 4.57 × 10−9 8.340.001 5.00 × 10−9 8.300.0001 8.12 × 10−9 8.01

8 Na2CO3 で考えたのと同じようにして

∆ + c = K1 pCO2

(K1

[H+]+

2K1K2

[H+]2

)(4.50)

ここからは,あまりうまい近似がない.[H+]� [OH−]ぐらいは OK.あとは,これより

c[H+]2 − (KW + KH pCO2K1)[H+] − 2KH pCO2

K1K2 = 0 (4.51)

これを正直に計算すると表4のようになる. 表4:NaHCO3 水溶液の pH:大気中の CO2 と平衡にある場合

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cT [H+] pH pH without equilib1.0 2.647 × 10−11 10.58 8.3450.1 1.087 × 10−10 9.964 8.3450.01 6.661 × 10−10 9.177 8.3400.001 5.933 × 10−9 8.277 8.301

0.0001 5.851 × 10−8 7.233 8.091

比較のために,右端に,大気中の CO2 と平衡にないときの値を示した.

9  

閉鎖系では,[CO2(aq)]はこれまでに見てきたように水溶液の pHで決まる.

[CO2(aq)] =c

1 + K1[H+] +

K1K2[H+]2

ここで,cは Na2CO3 または NaHCO3 の濃度.pHは既に上の表にあるので,それを用いて

を計算すると表5のようになる.

表5:閉鎖系の  [CO2(aq)]濃度

一方,解放系では [CO2(aq)]は pHに依らず,Henry則で決まる.大気中に含まれる CO2

溶液 pH[CO2(aq)]

mol dm−3

0.1 mol dm−3 Na2CO3 11.7 2.24 × 10−8

0.1 mol dm−3 NaHCO3 8.34 1.00 × 10−3

表 4.1: 閉鎖系の  [CO2(aq)]濃度

が 0.0038%の時,[CO2(aq)] = pCO2 × KH = 1.306 × 10−5 mol dm−3.したがって Na2CO3水溶

液を外気に触れさせると CO2 が大気から溶け込み,pHは低下する.NaHCO3 の場合には,

逆に CO2 が大気中に逃げ出して,pHは上昇する.

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22

第5章

基本問題

1 (5.4)式を書き換えると

∆ =1

1 + Vt/Vsc0

HCl −Vt/Vs

1 + Vt/Vsc0

NaOH

これを Vt/Vsについて解くと (5.15)式が得られる.その両辺に c0NaOH/c

0HClを乗じると,(5.14)

式が得られる.

2 次図の実線のようになり,当然ながら,当量点付近での立ち上がりの幅が,小さくなる.破線

は, KW = 10−14 の場合である.

3 当量点の pH はアルカリ側にあるので,∆ ' -[OH−] ,また,この時 [H+] << Ka である.した

がって,(5.28)式は -[OH−](1/c0NaOH + 1/c0

HA) + [H+]/Ka = 0 と近似できる.これに [OH−] =

Ka/[H+]を代入して,[H+]について解き,両辺の常用対数を取ると (5.29)式が得られる.

4 もちろん,近似に関係なく,当量点の位置は,その定義からわかるように活量係数にかかわら

ず同じである.ただ,滴定曲線の形には活量係数の寄与があるので,実験的な滴定曲線の形

は活量と濃度の差を無視した理論曲線と,同じではない. 

5 p = 1/2の時の [H+]は,(5.26)式で [H+]1>> [OH−]と近似することにより, [H+]の2次方程式

となる. (1 + 2

cNaOH

cHA

)[H+]2 +

(cNaOH +

[1 + 2

cNaOH

cHA

]Ka

)[H+] − cNaOH Ka = 0

これを解いて [H+] = 1.753 × 10−5 mol dm−3.これを (5.25)式に入れて,α = 0.4611 と

なる.

6 滴定溶液の濃度を,モル濃度に換算すれば,理論計算自体は,上でやったのと同じである.実

験的には滴定溶液の密度を測っておく必要がある.滴定は,ビューレットを用いて普通に行

えばよい.

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23

滴定終点 '当量点を検出したら,その時までに加えた容量と滴定溶液のモル濃度から,被滴定溶液に含まれていた被滴定化学物質の物質量がわかる.滴定前に,被滴定溶液の質量と体

積を量っておけば,被滴定物質のモル濃度を質量モル濃度も計算できる.

発展問題 

1 変曲点がどこにあるかを調べるためには,d2pHdp2

(5.38)

がゼロになる pを知ればよい.

pHは,上で見たように,sinh−X に比例するから,

d2 sinh−1 X

dp2(5.39)

を調べればよい.まず,sinh−1X = ln(X +√

X2 + 1)であるから,

d sinh−1 XdX

=1

√X2 + 1

(5.40)

また,d2 sinh−1 X

dX2=

ddX

(X2 + 1)−12 = − X

(1 + X2)32

(5.41)

d sinh−1 Xdp

=d sinh−1 X

dX· dX

dp(5.42)

さらに,

d2 sinh−1 X

dp2=

ddp

(d sinh−1 X

dX· dX

dp

)(5.43)

=

[d

dp

(d sinh−1 X

dX

)dXdp

]+

d sinh−1 XdX

· d2X

dp2

=

[d

dX

(d sinh−1 X

dX

)dXdp

]dXdp+

d sinh−1 XdX

· d2X

dp2

=d2 sinh−1 X

dX2

(dXdp

)2

+d sinh−1 X

dX· d2X

dp2

これらの関係を使うと,dX/dpと d2X/dp2 は,(5.12)式から,次のように与えられる.

dXdp=

cNaOH

2√

KW

r + 1(p + r)2

(5.44)

ここで,r + 1p + r

= 1 − p − 1p + r

= 1 −2√

KW

cNaOH

X

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24

の関係を使ったやや不思議な書き換え8

dXdp=

2√

KW

cNaOH

· 1r + 1

(X −

cNaOH

2√

KW

)2

(5.45)

をすると,

d2X

dp2=

4√

KW

cNaOH

· 1r + 1

(X − cNaOH

2√

KW

)dXdp

=8KW

(cNaOH)2· 1

(r + 1)2

(X − cNaOH

2√

KW

)3

(5.46)

したがって,

d2 sinh−1 X

dp2=

−X

(1 + X2)3/2· 4KW

(cNaOH)2· 1

(r + 1)2

(X − cNaOH

2√

KW

)4

+1

(1 + X2)1/2· 4KW

(cNaOH)2· 1

(r + 1)2

(X − cNaOH

2√

KW

)3

=−X

(1 + X2)1/2· 4KW

(cNaOH)2· 1

(r + 1)2

(X − cNaOH

2√

KW

)3(X(X − cNaOH

2√

KW

)1 + X2

− 2

)(5.47)

これがゼロであるためには,

X(X − cNaOH

2√

KW

)1 + X2

− 2 = 0

つまり,

X2 +cNaOH

2√

KW

X + 2 = 0 (5.48)

でなければならない.

これを満たす X は,

X =12

{− cNaOH

2√

KW

±√( cNaOH

2√

KW

)2− 8

}(5.49)

求めるのは,そのときの pの値である.

X =c0

NaOH

2√

KW· p − 1

p + r

であったから,(5.49)式より,

p = −r +2(1 + r)

3 ±√

1 − 32(√

KW/cNaOH)2(5.50)

この二つの解のうち,大きい方の一つは p = 1に近いところにある.

図5.4の場合について,変曲点の位置は,次表のようになる.

8M. Kodama, Chem. Lett., 197-200 (1989).

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25

変曲点の位置.cHCl = 0.1 mol dm−3 として cNaOH

を変えた滴定 (図 5.4)の場合.cNaOH r p1 p2

1 10 1 -

0.1 1 1 4.00e-12

0.01 0.1 1 0.4500

0.001 0.01 0.99999992 0.4950

0.0001 0.001 0.99999199 0.4995

2 HAの酸解離定数を KHA

a = [H+][A−]/[HA],BOHの塩基解離定数を KBOH

b  = [B+][OH−]/[BOH]

とする.また,試料の HA溶液に加えた BOHの体積を Vt とする.物質量バランス条件は

(Vs + Vt)([HA] + [A−]) = Vsc0HA

および

(Vs + Vt)([BOH] + [B+]) = Vtc0BOH

電荷バランス条件は

[H+] + B+ = [A−] + [OH−]

Ka と Kb の定義をそれぞれの物質収支条件に入れると

[A−] =1

1 + [H+]/KHA

a

Vs

Vs + Vtc0

HA

および

[B+] =1

1 + [OH−]/KBOH

b

Vt

Vs + Vtc0

BOH

これらを電荷バランス条件に代入すると

∆ = αHAc0HA ·

11 + Vt/Vs

− αBOHc0BOH ·

Vt/Vs

1 + Vt/Vs

ここで αHA と αBOH はそれぞれ,HAと BOHの解離度で後者は次式で定義される.

αBOH =[B+]

[BOH] + [B+]=

KBOH

b

[OH−] + KBOH

b

これを Vt/Vs について解くとVt

Vs=αHAc0

HA − ∆αBOHc0

BOH + ∆

右辺の分母で  αBOH = 1なら弱酸強塩基滴定の式(5.27)に一致.

滴定曲線は,たとえば酢酸をメチルアミン水溶液で滴定することを想定して  KHAa = 1.75

× 10−5,KBOHb = 4.4 × 10−4,初期濃度はともに 0.01 mol dm−3 とすると,上の式から計算し

た滴定曲線は,次図のようになる.

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破線は,滴定剤が強塩基の場合である.弱塩基で滴定すると,当量点付近までは,強塩基で

滴定した場合と同じ.当量点ももちろん同じであるが,その付近での pHの立ち上がりは鈍

くなる.

3 問題に書かれている近似の下では,(5.27)式は

VNaOH

VHA' αcHAKa

cNaOH([H+] + Ka)

これを書き換えると

[H+]VNaOH = (cHAVHA/cNaOH − VNaOH)Ka

したがって,[H+]VNaOH を VNaOH に対してプロットし,その直線部分を [H+]VNaOH = 0に外

挿することにより,当量点を求めることができる.

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27

第6章

基本問題

1 テキストの (6.13)式の右辺分子の仕込濃度 c0H2A は c0

H3A の誤り.

電荷バランス条件は

[H+] − [OH−] = [H2A−] + 2[HA2−] + [A3−] − [Na+] (6.24)

H3A(リン酸)の物質量バランス条件は

[H3A] + [H2A−] + [H2−A ] + [A3−] =

Vs

Vs + Vtc0

H3A (6.25)

これら二つの式に解離平衡定数を入れる.これら二つの式から,各成分濃度に関する項をそ

れらの分率で表す.それを Vt/Vs または p = Vtc0HCl/(Vsc0

H3A)について解く.

2 2種類のモノプロトン酸,HA1,HA2 の混合水溶液を NaOH水溶液で滴定する.電荷バランス

条件

[H+] + [Na+] = [OH−] + [A−1 ] + [A−2 ]  (6.26)

物質量バランス条件

Vs c0HA1

= (Vs + Vt)([HA1] + [A−1 ]) (6.27)

Vs c0HA2

= (Vs + Vt)([HA2] + [A−2 ]) (6.28)

Vt c0NaOH = (Vs + Vt)[Na+] (6.29)

解離平衡条件

Ka1 =[H+][A−1 ]

[HA1](6.30)

Ka2 =[H+][A−2 ]

[HA2](6.31)

物質量バランス条件と解離平衡条件を使って(代入して)電荷バランス条件の [HA1],[HA1],

[A−1 ],[A−1 ]を消去する([H+]と [OH−]を残す)と,

∆(1 + Vs/Vt) + (Vs/Vt)c0NaOH = c0

HA1

Ka1

[H+] + Ka1+ c0

HA2

Ka2

[H+] + Ka2

αHA1 = Ka1/([H+] + Ka1),αHA2 = Ka2/([H+] + Ka2)とおくと (6.15)式が得られる.

3 第 4章 2節を参考にする.平衡条件は,

K′a1=

[H+][HCO−3 ]

[CO2(aq)](6.32)

Ka2 =[H+][CO2−

3 ]

[HCO−3 ]=

[H+]2[CO2−3 ]

K′a1

[CO2(aq)](6.33)

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28

電荷バランス条件は,

∆ = [HCO−3 ] + 2[CO2−3 ] − [Na+] + [Cl−] (6.34)

= [CO2(aq)]

(K′

a1

[H+]+ 2

K′a1

Ka2

[H+]2

)(6.35)

物質量バランス条件は [CO2(aq)] + [H2CO3] ∼ [CO2(aq)]なので,

[Na+] = 2c0Na2CO3

(1

1 + Vt/Vs

)

[Cl−] = c0HCl

(Vt/Vs

1 + (Vt/Vs)

)1

1 + (Vt/Vs)c0

Na2CO3= [CO2(aq)] + [HCO−3 ] + [CO2−

3 ]

これらを上の電荷バランス条件に代入すると

∆ = c0Na2CO3

(α1 + 2α0 − 2)1

1 + Vt/Vs

+ c0HCl

Vt/Vs

1 + Vt/Vs

(6.36)

ここで,α1と α0は,それぞれ,HCO−3 と CO2−3 の分率.これを Vt/Vs について解いて (6.20)

式を得る.

4 滴定曲線は,互いにほぼ一致し,実質上,区別できない.

 

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29

発展問題

1 問題文の訂正 図 6.2>>> 図 6.3

図 6.3の訂正 左図の横軸の数値をそれぞれ 1/2にする.

解答

(6.4)式から明らかなように,当量点(図 6.3の例では,Vt/Vs = 0.5)での pHは,c0t と c0

s に

依存する.図 6.3の場合,(pK1 + pK2)/2 = 2.76であるのに対して

c0t /M c0

s /M 第 1当量点 pH

0.1 0.05 2.99

0.02 0.01 3.31

0.002 0.001 3.79

2 (pK1 + pK2)/2 = (2.15+7.20)/2 = 4.675であるのに対して

c0t /M c0

s /M 第 1当量点 pH 第 2当量点 pH

0.2 0.02 4.75 9.59

0.1 0.05 4.72 9.64

0.02 0.01 4.84 9.41

第2当量点も表に示した.こちらの方は,(pK2 + pK3)/2 = (7.20+12.35)/2 = 9.775である.

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第7章

基本問題

1 物質量バランス条件

[HA] + [A−] = c0HA + c0

NaA

[Na+] = c0NaA

解離平衡条件

Ka =[H+][A−]

[HA]

これらの条件を使って,電荷バランス条件

[HA] + [A−] = c0HA + c0

NaA

から ∆を残して [HA]と [A−]を消去すると

∆ + c0NaA =

c0HA + c0

NaA

1 + [H+]/Ka

これを変形すれば,(7.6)式が出る.

2  求めるのは,∂cb/∂ pHであるが,∂cb

∂pH=∂cb

∂[H+]∂[H+]∂pH

であり, (∂[H+]∂pH

)−1

=∂pH∂[H+]

=∂(−log[H+])∂[H+]

= − 1ln(10)

∂(ln[H+])∂[H+]

= − 1ln(10)[H+]

の関係があるので,∂cb/∂ [H+]を求めれば良い.

∂cb

∂[H+]= − Kacs(

[H+] + Ka)2− 1 − KW

[H+]2

これに,上の関係を使うと (7.11)式が得られる. 

3 (7.12)式を pHで微分して,0とおく.問題にしているのは,緩衝液による緩衝能の評価である

から,右辺の [H+]と [OH−]は無視して考えればよい.すると,

∂β

∂[H+]=

Kacs

{([H+] + Ka)2 − 2[H+]([H+] + Ka)

}([H+] + Ka

)4

これを 0とおくと,[H+] = Ka が得られる.これを (7.12)式に代入すると α1 = Ka/(([H+] +

Ka),α0 = [H+]/(([H+] + Ka) がともに 1/2であるから(右辺の [H+] と [OH−] は無視して)

(7.14)式が得られる.

4  HEPESの場合,中性領域で緩衝能が最大であるから,このバッファの緩衝能やその半値幅を

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31

考えるときは,(7.11)式で右辺の第3,4項は無視してよい.

1ln (10)

∂cb

∂pH' [H+]Kacs

([H+] + Ka)2

(7.14)式より βmax = ln (10)cs/4であるから

cs

8= ln(10)

[H+]Kacs

([H+] + Ka)2

これを解くと,pH = pKa + log(3 ± 2√

2)

発展問題

1 弱酸を含む溶液に塩基を加える場合を例にとって考える.弱酸溶液に塩基を含む水溶液を加え

たときの pH変化は,滴定曲線(pH vs p,pH vs Vt/Vs,pH vs Vt,など)でおおむね表現さ

れていると考えるのが自然である.pHの変化の程度は,滴定曲線の傾きで表される.この

傾きが小さいほど pHの変化が少ない,つまり,その溶液は塩基の添加に対してよく緩衝さ

れている.緩衝されている程度を定量的に表すには,したがって,この傾きの逆数を使えば

良いというのが第一感であろう.つまり,

∂p∂pH

=∂(Vtct/(Vscs))∂pH

=ct

Vscs

∂Vt

∂pH(7.20)

ここで,cs,Vs は初めに試料溶液にあった酸の濃度と溶液の体積,ct,Vt は,滴定のために

試料溶液に加える塩基の濃度と加えた体積である.

しかし,滴定曲線の傾きは,第 5章で出てきた弱酸の強塩基による滴定の場合の p の表現

(5.24)式)

p =ct

ct + ∆

[ Ka

[H+] + Ka− ∆

cs

](7.21)

に ct が入っていることからわかるように,塩基溶液の体積や濃度に依存する.したがって,

この定義だと,緩衝能は,試料溶液のなかの酸の濃度 cs だけでなく,加える塩基の濃度 ct

や体積 Vt に依存してしまう.これは望ましくない.

van Slykeは,βの見積もるための実際的な方法として,濃厚な塩基をごく小量だけ試料溶液

に加えたときの溶液の pH変化を調べることを提案している.15

β =∂cb

∂pH

∣∣∣∣∣∣cb→∞

(7.22)

体積 Vs,濃度 csの弱酸溶液に,濃度 ctの強塩基を Vt加えてできた溶液の「強塩基濃度」cb

は,

cb =Vtct

Vs + Vt(7.23)

であるから∂cb

∂Vt=

Vs

(Vs + Vt)2ct (7.24)

15D. D. van Slyke, 前掲, p.563; see also R. de Levie, ”Aqueous Acis-Base Equilibria and Titrations,” Oxford Univ. Press,Oxford, (1999), p. 48.

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32

したがって∂cb

∂pH=

Vsct

(Vs + Vt)2

∂Vt

∂pH=

V2s cs

(Vs + Vt)2

∂p∂pH

(7.25)

一方,∂p∂pH

= − ln (10)[H+]∂p

∂[H+](7.26)

であるから,∂p/∂[H+]がわかれば,βが求まる.

式(5.24)より

∂p

∂[H+]= −

(1+

[OH−][H+]

)ct

(ct + ∆)2

(Ka

[H+] + Ka− ∆

cs

)− ct

ct + ∆

(Ka

([H+] + Ka)2+

1cs

[1+

[OH−][H+]

])(7.27)

したがって,

1(Vs

Vt+Vs

)2ln (10)

∂cb

∂pH=

([H+] + [OH−])csct

(ct + ∆)2

(Ka

[H+] + Ka− ∆

cs

)+

ct

ct + ∆

[[H+]Ka

([H+] + Ka)2cs+[H+]+[OH−]

](7.28)

ここで,ct →∞なら,同時に Vt → 0なので,結局,

1ln (10)

∂cb

∂pH=

[H+]Kacs

([H+] + Ka)2+ [H+] + [OH−] (7.29)

2 与えられているのは,

1. イオン強度 Iが一定: I = 0.1 mol dm−3

2.総 HEPES濃度が一定: c0HEPES= 0.05 mol dm−3

3. pKa = 7.56 (at 25 ◦C)

• イオン強度 I = 0.1 mol dm−3 と高いので,A− の活量係数を考慮する必要がある.

• HEPESのうち,イオン強度に寄与するのは,NaOHを加えた A− のみである (→第3章発展問題 5).

• HEPESの場合,HAは双極イオンであるので,電荷を持つが全体は中性なので,活量

係数はほぼ 1と見なせる.Davies式(→第2章,第3章発展問題 5)を使うと,log γ

= -0.10513.

• pHが与えられているので,この γから [H+]と [OH−]を求めておく.

すると(→第3章発展問題 5),

pKcond

a= 7.56 + 0.105 = 7.67

HEPESの物質量バランスと平衡関係より

[A − 1] = c0HEPES/

10−pH

Kcond

a

+ 1

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33

これを電荷バランス条件に入れると cNaOH が出る.したがって,加えるべき cNaOH がわかり,

イオン強度を 0.1 mol dm−3 にすべく加える NaClの物質量がわかる.こうして得たのが,表

7.2である.