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2003年十勝沖地震における被災橋梁復旧報告について ― 一般国道336号豊頃町十勝河口橋 ―
帯広開発建設部 帯広道路事務所 ○田中 一也
上野 仁 岸 哲也
まえがき 平成15年9月26日に発生した十勝
沖地震は、震源に近い日高・十勝・釧路
地方で震度6弱を記録し、河川・道路・
港湾施設などに多くの被害をもたらした。 道路の被害は、路面の陥没・土砂崩れ・
橋梁の損傷などで15路線96箇所に及
び10路線24区間で通行止め及び片側
交互通行等の規制措置がとられた。 地震発生直後に橋梁の損傷が原因で通
行止めとなったものが一般国道242号
千代田大橋、一般国道336号十勝河口
橋および歴舟橋など帯広開発建設部内で
5橋あった。 ここでは、そのうち応急
復旧までに時間を要し被害が大きかった
十勝河口橋(図-1)の被災状況と平成
16年7月に完了した復旧工事について
報告する。 1 橋梁概要 十勝河口橋は、平成4年に完成した十
勝川下流域に架かる橋長928mの長大
PC橋である。 流水部を跨ぐ主橋梁(P3~P6)は
張出し工法による3径間有ヒンジラーメ
ン橋、側橋梁は押出し工法による架設で、
右岸側(A1~P3)が3径間連続箱桁
1連、左岸側(P6~A2)が3径間連
続箱桁2連という構成になっている。 (図-2,図-3)
Kazuya Tanaka, Hitosi Ueno, Tetuya kisi
十 勝 河 口 橋
発生日時:9月26日4:50 震央
N 41°46.7′ E 144°04.7′ 深さ 42㎞
地震規模:M8.0
図-1 位置図
図-2 主桁断面図
図-3 全体側面図
14500650
A-2P-10 P-11
12501375100000 183900
P-9P-7 P-8P-6P-5
183900
HWL=7.580EL=-2.000
1375 100000
P-4P-3P-2
15500650
P-1A-1
189900
928000
165000
2 被災状況 十勝河口橋が受けた主な被害は、橋軸
直角方向の地震動による支承および伸縮
装置等の損傷とその結果により生じた
大60㎝にもなる主桁の横ずれである。 写真-1は、A2橋台部の支承破損状
況である。 ソールプレート付き上沓ス
トッパーが破損し主桁が上流側へ 60 ㎝
移動している。 写真-2は、ラーメン橋のP6橋脚部
1本ローラー支承の破損状況である。 ローラーが破断し抜け落ちたために上
沓が落下している。 写真-3は、P6橋脚部支承の破損に
伴って橋面に生じた高さ 11 ㎝の段差。 写真-4は、A2橋台背面から撮影し
た橋面の状況である。 区画線のずれから主桁が横に移動して
いることが確認できる。
橋台橋脚上の支承の他に主橋梁(3径
間有ヒンジラーメン橋)の中央ヒンジ部
についても損傷が確認されている。 写真-5は、PC箱桁内に設置されて いる中央ヒンジ部の支承である。
地震による橋軸直角方向のせん断力を
負担できずサイドプレートが外れ落下し
たが、それ以外については特に損傷はみ
られなかった。
写真-3
写真- 1
写真-2
写真-4
写真-5
写真-6
上部工については、図-4に示すよう
に側橋梁がそれぞれA1・P8・P10
を回転中心として水平移動し、A1・P
8を除く箇所の支承と全ての伸縮装置が
何らかの損傷を受けた。 しかし、下部
工については外観目視検査および測量の
結果、変状は認められなかった。 被災状況については以上のとおりであ
るが、主桁および下部工に重大な損傷が
生じる前に支承が破壊されたため構造物
全体としての被害は比較的小さく押さえ
られたと言える。 本橋は、昭和55年
道路橋示方書に準拠した震度法による設
計であるためSE(桁掛かり長)につい
ては確保されており直橋であることなど
からも落橋に至る危険性は少なかったと
考えられる。 3 応急復旧 地震発生直後より現地パトロールを実
施し、平成15年9月26日6時50分
に全面通行止めを行った。 その後、現地調査と復旧方法の検討を
行い通行規制解除に向けた応急的な復旧
対策工に着手し、平成15年11月1日
には全面的に通行規制を解除した。 応急復旧対策は、被災前と同等以上の
耐震性能を確保すると共に余震による変
状を監視し、今後の復旧作業と交通解放
に向けた安全対策を目的として実施した。 以下にその大まかな内容を示す。 ① サンドル材で主桁を仮受けすること
による段差防止措置(写真-6) ② コンクリート壁および堅木による変
位制限装置の設置(写真-7) ③ 鋼板とオーバーレイによる伸縮装置
部における橋面段差の解消 ④ 監視カメラおよび地震計等の観測装
置の設置 写真-7
A1 P1 P2 P3 P4 P5 P6 P7 P8 P9 P10 P11 A2
P3 P6 P9 A2
2 9 ㎝ 上 流 側 に 移 動 5 8 ㎝ 上 流 側 に 移 動 3 1 ~ 3 2 ㎝ 下 流 側 に 移 動
6 0 ㎝ 上 流 側 に 移 動
支 承 損 傷 箇 所
十 勝 川
図-4
4 本復旧 恒久的な復旧工事の内容は、大きく分
けると横ずれした主桁を原位置へ戻す作
業と支承・伸縮装置等の橋梁付属物の取
り替えである。 4-1 主桁移動時の設備
主桁の橋軸方向への移動は、押し出し
工法として一般的であるが、橋軸直角方
向への移動、特に回転を伴う移動につい
ては特殊な作業となる。 主桁が横ずれ
した側橋梁(A1~P3・P6~P9・
P9~A2)の復旧は、各橋台橋脚の支
保工上に設置した650t油圧ジャッキ
(12台/桁1連)により主桁を10㎜
程度嵩上げし、水平ジャッキとセットに
なったスライド架台で地震前の位置まで
水平移動させて行った。 支保工につい
ては、 大1880t/橋脚の死荷重を
受け持つことになり、汎用性のあるもの
では対応出来なかったため、許容荷重:
100t/柱で作業効率が良いユニット
式の超大型ベントを採用した。
↑ ジャッキアップ
→ 横移動
図-5 主桁移動要領図 写真-10 大型ベント
写真-9 主桁横移動状況
図-6 主桁移動時設備配置図(A1~P3)
A-1 P-1P-3P-2
仮設ベント
鉛直ジャッキ・スライド架台 鉛直ジャッキ
スライド架台
拡大図
鉛直ジャッキ
スライド架台
水平ジャッキ
UP UP UP
鉛直ジャッキ
+水平ジャッキ・スライド架台鉛直ジャッキ
スライド架台
回転中心150mm移動
⇓220mm移動
⇓315mm移動
⇓桁仮受け台
650×650
写真-8 主桁ジャッキアップ状況
4-2 主桁移動時の管理値 主桁移動時の安全性を確保するため限
界値を求め施工時の管理値を設定した。 ジャッキアップ時に各橋台橋脚間で高
さがばらついた場合に生じる曲げ応力度
が制限値を超える時の限界変位量を主桁
の応力検討から求めた結果、表-1に示
す値となった。 よって、管理値として
は、 大ジャッキアップ量である10㎜
を垂直方向変位差の管理値とした。
A1~ P3間 P6~ P9間 P9~ A2間
49 28 28
また、FEM解析の結果、上下流間の
高さ変化が反力変化に対し非常に敏感に
影響を及ぼすことがわかった。
表-2は、ジャッキ能力650tを限
界時反力とした場合の各支点での上下流
間の変位差制限値である。 この時の上
下流間の反力差は350~500tであ
り僅かな変位差で非常に大きな反力差が
生じることがわかる。 逆に、集中制御
にて反力差を管理することにより変位差
自体はかなり小さくすること可能となる。 よって、上下流間でのジャッキ反力差
の管理値を、 大値の10%程度である
50tに設定することにより実質的な変
位差を表-3に示す値以下で管理出来る
ようになった。
A1橋 台 P1橋 脚 P2橋 脚 P3橋 脚 2 . 6 7 . 9 8 . 8 1 5 . 1
P6橋 脚 P7橋 脚 P8橋 脚 P9橋 脚
1 5 . 1 8 . 8 8 . 8 1 5 . 1
P9橋 脚 P10橋脚 P11橋 脚 A2橋 台
1 5 . 1 8 . 8 7 . 9 1 4 . 9
A1橋台 P1橋脚 P2橋脚 P3橋脚
0.6 2.5 2.5 3.5
P6橋脚 P7橋脚 P8橋脚 P9橋脚
3.4 2.6 2.6 3.4
P9橋脚 P10橋脚 P11橋脚 A2橋台
3.4 2.6 2.7 3.4
主桁の横移動時については、水平力お
よび変位の許容値の検討を行った。 応力度の算出位置は図-7に示すよう
に張出床版先端および張出床版付け根部
とした。 応力度の許容値は、前者につ
いては引張は生じるがひび割れは発生し
ない程度、後者については引張を生じさ
せないものとし以下の通りとした。
以上の条件で各支点位置における許容
値を求めた。 各支点の中で、許容され
る水平変位が も小さかったのはP6の
26㎜であった。 これより、橋軸線に
対する水平変位量の管理値は20㎜とし
た。 表-4に、P6~P9の支点位置
における許容値を示す。
P 6 P 7 P 8 P 9
A B A B A B A B
許容水平力 (tf) 224 307 319 484 313 473 248 352
許容変位 (㎜) 26 36 37 57 37 55 29 41
( 単 位 : ㎜ )
表-1 全体系の変位差制限値
( 単 位 : ㎜ )
表-2 上下流間の変位差制限値
( 単 位:㎜)
表-3 反力管理による 大変位差
張 出 床 版 先 端 部( A 点 ):σ > -10kgf/cm 2
張 出 床 版 付 根 部( B 点 ):σ > 0kgf/cm 2
B A
図-7 横移動時の応力検討位置
( 単 位 : ㎜ )
表- 4 各支点位置の許容値
4-3 主桁移動時の応力測定 主桁のジャッキアップ及び横移動にあ
たって、移動中の応力変化を主桁の代表
的な位置において計測することにより移
動時における桁の異常を即座に判断出来
るようにした。 測定位置は、支点変位
による応力変動が大きい箇所および応力
的に厳しい中間支点の上縁とした。 測定方法は、下床版については高感度
変位計を、ウエブ上縁についてはひずみ
ゲージを使用した。 図-8は、A1~
P3間における応力測定位置である。 計測の結果、ジャッキアップ時の支点
移動により応力も変動するが下床版につ
いては僅かな変動しか確認されなかった。 応力変動幅の大きいウエブ上縁につい
ても概ね計算値どおりの値となっており、
その傾向は一致している。 また、応力
値については、全て管理限界内に収まっ
ており、ジャッキアップ時および横移動
時ともにほぼ一定の値を示し、特に異常
は見られなかった。 図-9・10・11は、
A1~P3間における実際の応力変動を
グラフにしたものである。
ひずみゲージ 3200
1502750150 2750 6200
31003100
12000
40025008500600
i=2.0% i=2.0%CL i=3.0%i=3.0%CL
i=2.0%i=2.0%
600 8500 2500 400
12000
3100 3100
62002750150 2750 150
3200
変位計
①~④位置 ⑤位置
5
A1 P1 P2 P3
鉛直ジャッキ 鉛直ジャッキ鉛直ジャッキ
鉛直ジャッキ
変位計
10000 10000 1000010000
変位計
1 2 3 4
750
図-8 応力測定位置図(A1~P3)
2
4
6
8
10
12
14
09:00 12:00 15:00 18:00 21:00 00:00 03:00 06:00 09:00 12:00 15:00 18:00 21:00 00:00
応力
度(N
/m
m2)
No.1
No.4
ジャッキアップ時設計値(NO1)
ジャッキアップ時設計値(NO4)
No.1 上限値 12.9 N/㎜2
,No.4 上限値 13.0 N/㎜2
No.1 ,No.4 下限値 5.5 N/㎜2
ジャッキアップ 横 移 動ジャッキアップ
3/15 3/16 3/17
図-9 応力変動グラフ①④
2
4
6
8
10
12
14
09:00 12:00 15:00 18:00 21:00 00:00 03:00 06:00 09:00 12:00 15:00 18:00 21:00 00:00
応力
度(N
/mm
2)
No.2
No.3
ジャッキアップ時設計値(NO2)
ジャッキアップ時設計値(NO3)No.2 上限値 9.9 N/㎜2
No.2 下限値 3.4 N/㎜2
No.3 下限値 4.3 N/㎜2
No.3 上限値 10.9 N/㎜2
3/15 3/16 3/17
ジャッキアップ 横 移 動ジャッキアップ
図-10 応力変動グラフ②③
2
4
6
8
10
12
14
09:00 12:00 15:00 18:00 21:00 00:00 03:00 06:00 09:00 12:00 15:00 18:00 21:00 00:00
コン
クリ
ート
応力
度(N
/mm
2)
P1-P2上流
P1-P2下流
ジャッキアップ時設計値(NO5)
仮置時設計値(NO5)
No.5 上限値 7.6 N/㎜2
No.5 下限値 3.7 N/㎜2
3/15 3/16 3/17
ジャッキアップ 横 移 動ジャッキアップ
0.9N/mm2
図-11 応力変動グラフ⑤
4-4 主桁の水平変位量 橋梁部を全面通行止めにした上で行わ
れた主桁の移動作業は、A1~P3につ
いては3日間、P6~A2については4
日間で無事に終了することが出来た。 図-12は、A1~P3間におけるジ
ャッキ操作と主桁横ずれ量の推移である。 表-5は、主桁の横移動前と横移動後
におけるA1-P3・P6-P9・P9
-A2各々の桁端部を結んだ橋軸線と中
間支点上の主桁中心との水平変位量をま
とめたものである。 横移動後においても3㎜~39㎜の水
平変位が確認できるが、橋面上での測定
では出入りはなく直線を示していること
から元来の出来形であったと推測される。 また、 終的な相対変位量については、
1㎜~10㎜の範囲となり、応力検討に
より設定した管理値である20㎜以内に
収まっている。
P1 P2 P7 P8 P10 P11
横移動前 下流側
14㎜
下流側
20㎜
下流側
18㎜
下流側
47㎜
下流側
14㎜
下流側
7㎜
横移動後 下流側
12㎜
下流側
16㎜
下流側
19㎜
下流側
39㎜
下流側
7㎜
上流側
3㎜
相対変位 2㎜ 4㎜ 1㎜ 8㎜ 7㎜ 10㎜
4-5 橋梁付属物等の復旧 本橋の支承は、今回の地震により大き
な損傷を受けた為、A1橋台・P8橋脚・
中央ヒンジ部の支承を除き全て交換する
こととなった。 伸縮装置については、
支承が損傷を受けていないなかった箇所
についても何らかの損傷を受けており、
全数(6箇所)交換した。 比較的軽微な損傷であった中央ヒンジ
部については、補修が困難なPC箱桁内
にあると同時に耐震設計上、橋軸直角方
向に可動となる状態は望ましくないとい
う判断から新たにせん断キーを設置した。
(写真-1 1) また、応急復旧時に設置された変位制
限装置については、恒久的な耐震性能を
満たすように炭素繊維シートにより橋脚
頭部のせん断補強を行う等の追加の措置
を施した。(写真-1 2)
図-12 主 桁 横 移 動 の 推 移 ( A 1 ~ P 3 )
表-5 各支点での水平変位
写真-11 中央ヒンジせん断キー
写真-12 炭素繊維による橋脚頭部補強
損傷を受けた支承は、ワイヤーソーイ
ング工法(写真-13)により支承下の
鉄筋コンクリートを切断し、橋脚との縁
を 切 っ た 上 で ジ ャ ッ キ に て 押 し 出 し た
後、クレーンで吊り下ろした。 その後、下部工躯体を傷めないように
ウォータージェット工法で、既設鉄筋の
はつり出し及びチッピングを行った。 以下に、支承取替え作業フロー及び支
承撤去工の概略図を示す。 あとがき 平成16年1月20日から始まった十勝河口橋の本格復旧は、平成16年3月に主
桁の移動復旧作業が終了し、橋梁付属物の補修および耐震補強についても伸縮装置の
交換を 後の仕上げとして平成16年7月30日をもって無事に完了した。 本稿執筆現在は、橋梁点検作業を容易にするため、検査路の設置工事が行われてい
るところである。 後に、本工事の施工にあたり多大なご指導を賜りました関係各位並びに、工事の
実施にご理解とご協力を賜りました地域の皆様方に感謝の意を表する次第である。
W・J斫り部
取り壊し部
ワイヤーソー切断部
図-14 支承撤去工概略図
① ワイヤーソーイング工法
による損傷部の鉄筋コン
クリート切断
② 既設支承撤去
③ W・J(ウォータージェット)
工法による斫りおよび
チッピング
④ 新設支承据付
⑤ 鉄筋・型枠工
⑥ コンクリート打設
コンクリート打設
無収縮モルタル打設
ガス圧接
鉄筋組立
型枠組立
コアボーリング
鉄筋コンクリート3面切断
既設鉄筋の斫り出し
ワイヤーソー切断面のチッピング
新設支承据付
既設支承およびコンクリート塊の撤去
主桁付ソールプレートネジ切加工
フレアー溶接
図-13 支承取替工作業フロー
写真-13 コンクリート切断状況
写真-14 新設支承据付状況