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イラク：石油ガス開発の最近の動向と今後の原油生産シナリオ
2013年9月19日
調査部
猪原 渉
目次
１．イラク石油開発の最新動向
➤ 生産・輸出状況、当面の生産見通し➤ 契約変更（生産目標下方修正、参加比率変更）➤ ナシリアプロジェクト入札を巡る動き➤ ヨルダンルート輸出パイプラインの進捗➤ クルド地域との係争問題
２．今後の原油生産見通し
➤ 国家エネルギー戦略（INES）における生産シナリオ
➤ IEA WEO2012のシナリオとの比較➤ 生産シナリオ実現に向けての課題
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イラク原油生産量の推移
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出所：各種統計資料に基づきJOGMEC作成
最近の原油生産・輸出実績推移
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million BPD （原油輸出）歳入額 million USD
出所：イラク石油省HP
直近の生産・輸出状況
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原油生産・輸出状況（2013年7月） ※イラク石油省公表値
生産量 297万b/d輸出量 232万b/d 南部 214万b/d 北部 18万b/d原油輸出による歳入額 73億ドル
8月（速報値）は原油輸出258万b/d、輸出歳入額83億ドルと、ともに今年の月間最高を記録。生産量320万b/d超との報道もあり、横ばいが続いていた生産・輸出量が増加に転じたか？
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当面の生産見通し
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新規開発油田の相次ぐ生産開始により、本年末に360万b/d規模への増産を目指す ガラフ油田 2013年8月31日より原油生産開始（3.5万b/d
規模） 2017年中に目標生産量23万b/dへの増産目
指す コントラクター：PETRONAS （オペレーター）40%,
ジャペックスガラフ(*) 35%, North Oil Co. 25%
(*株主構成: 石油資源開発 55%, JOGMEC 35%, 三菱商事 10% )
当面の生産見通し
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西クルナ油田②
Lukoil（オペレーター）、生産開始を当初予定の本年末から11月中旬に前倒し（当初生産量15万b/d)
マジュヌーン油田 生産開始（当初予定本年1月）の度重なる延期があり、
石油省はShell（オペレーター）のマネジメントミスと強く批判 現時点では10月初めからの生産開始にめど。（当初生
産量17.5万b/d） 生産中開発油田（ルメイラ、西クルナ①、ズベイル）の年
内増産も見込める。⇒Ameedi PCLD局長(8/7)「新規3油田の生産開始により本年末迄に現状比36万b/d増の生産量360万b/d規模に」⇒Luaibi石油相(9/11)「マジュヌーン油田の10月生産開始に満足。10月以降、原油輸出260万b/d以上に増加の見込み」
契約変更の動き
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一次・二次入札案件を対象に目標生産量を下方修正する動き
現実路線への転換。国家エネルギー戦略（INES）（後述）により、「生産目標1200万b/d」を事実上撤回したことも背景に。
プロジェクト参加企業・比率の見直し
ExxonMobilの西クルナ油田①開発にアジア2社がファームイン
（旧）ExxonMobil 60%(OP), Shell 15%, Midland Oil Co. 25%(新）ExxonMobil 25%(OP), Shell 15%, CNPC 25%,
Pertamina 10%, Midland Oil Co. 25% Exxonは、2011年にクルド地域政府（KRG)と6鉱区の開発契
約を調印。Exxonは、連邦政府から、「違法」のKRGとの石油開発契約を解除しなければ石油省契約案件から締め出すと圧力を受けてきたが、本件でも完全撤退はせず。（Total、Gazpromも連邦政府、KRG双方と契約締結。）
CNPCは、既にイラク石油部門と深い関係を構築（ルメイラ、ハルファヤ、アフダブ開発に参加）。新たな原油供給ソース確保を狙う。
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ナシリア開発プロジェクトを巡る動き
PCLDは、ナシリア開発プロジェクトの入札について、本年、外国企業13社（3月8社、8月5社）にPQを付与。
過去の入札（上流案件）でPQ取得済みの企業も入札参加可能。ただし、今回の入札時は、下流PQ取得企業とのコンソーシアム組成が必要。
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上流（油田開発） 下流（製油所建設）
1st batch（3 月発表）
Zarbezhneft（露）
CNPC（中）
Brown Energy（米）
Reliance Industries（印）
Lukoil（露）
Total（仏）
JGC および東燃ゼネラル（日）
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2nd batch（8 月発表）
Maurel & Prom (仏)
Rosneft（露）
Essar（印）
GS Engineering & Construction（韓）
ONGC（印）
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ナシリア開発プロジェクトを巡る動き
ナシリア統合開発プロジェクトの概要 ①ナシリア油田（埋蔵量44億bbl）の開発、および②製油所
（能力30万b/d)の建設の統合プロジェクト。 当初の随契交渉がまとまらず2012年10月に入札方針発表。 上流または下流の一方のみPQを取得した会社は、コン
ソーシアムを組成して入札に参加。 入札パラメーター：報酬額計算のため製油所製品の純利
益に乗じるパーセンテージ（のみ） Ameedi局長「契約条件は、イラク国営企業の参画不要、コ
スト回収率（対販売収入）引き上げ（60％→70％）等、従来より改善」
当面の予定 ワークショップ＠アンマン：2013年9月16-17日 Final Tender Protocol、モデル契約の提示：11月15日 入札：12月19日 12
ヨルダンルート輸出パイプラインの進捗
出荷能力不足が増産のボトルネックとなるおそれ
トルコルートパイプライン以外の北部輸出ルートの拡充を検討 シリア・イラク間パイプライン 旧PLは1982年以降閉鎖。2010年に両政府がPL通過
協定協議を開始。2系統のPL（150万b/d+125万b/d)建設で合意も、シリア情勢の悪化で進展なし
ヨルダンルート輸出パイプライン イラク・ヨルダン政府間合意に基づき、アンバール県ハ
ディーサ（K3）からアカバ港（ヨルダン）までのパイプライン（32インチ、100万b/d)を建設する計画。
State Company for Oil Projects（SCOP)によると、日本企業含むエンジ関係１2社がショートリスト（IOD 9/10)
国内南北基幹パイプライン（バスラ（PS1)～ハディーサ（K3)間、56インチ、225万b/d)建設計画は2014年中のEPC締結目指す。 13
クルド地域との係争問題
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クルド（KRG）は、域内原油生産を現状の約24万b/dから2015年に120万b/dに引き上げる計画を有するが、輸出ルート確保の問題が解決しておらず、実現性は疑問視。（MEES 6/10)＜KRG主要油田増産計画＞ (万b/d)
油田 オペレーター 現状生産量 2015年生産計画
KRG独自開発油田からの原油輸出に関する連邦政府とKRGの交渉は難航。2012年12月以降、KRGは輸出停止。
油田 オペレーター 現状生産量
同左生産能力
2015年生産計画
Taq Taq Genel Energy 11 12 22.5
Khurmala Dome Kar Group 9 10.5 25
Tawke DNO 1.8 10 15
Shaikan Gulf Keystone 0.1 0.5 15
(KRG油田合計) (23.9) (36) (122.5)
クルド地域との係争問題
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KRGは、連邦政府管轄域を経由しない独自のトルコ向けパイプラインを建設中。 TaqTaq油田からトルコ国境のFishkabourを結ぶパイプライ
ンが2013年中に完成見込み（約15kmの工事を残すのみ）。Fishkabourから直接イラク・トルコパイプライン（ITP)に繋ぎ込む計画。
同パイプラインには、Shaikan油田、Tawke油田からの接続パイプラインも建設中。
トルコエネルギー省のスポークスマンは、KRG独自輸出パイプラインに関する協議に応じる姿勢。ただし、イラク連邦政府の事前承認が必要とも発言（8月28日）。
BPが連邦石油省とキルクーク油田（一次入札対象、落札企業なくNorth Oil Coが操業中）の開発検討に係る短期（18か月）のTSAを締結との報に接し、KRGは懸念を表明。未解決のキルクーク帰属問題に悪影響と主張。
クルド地域との係争問題
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出所：Genel Energy HP
今後のイラク原油生産シナリオ
統合国家エネルギー戦略(Integrated National Energy Strategy: INES) イラクエネルギー部門（石油上流、下流、ガス、電力、
その他）の今後の政策指針について提言
The INES Vision Statement“Develop the Energy sector in a coherent, sustainable and environment-friendly manner to meet domestic energy needs, foster the growth of a diversified nationaleconomy, improve the standard of living of Iraqi citizens, create employment, and position Iraq as a major player in regional and global energy markets”
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今後のイラク原油生産シナリオ
統合国家エネルギー戦略(Integrated National Energy Strategy: INES)
イラク首相顧問会議（PMAC、ガドバン議長）の監督のもと、コンサル（Booz & Company）が18か月かけて作成。2013年6月に完成。
イラク政府関係省庁が作成に全面協力。ワークショップ40回開催、150人以上のインタビューによりデータ・情報収集。
ガドバン首相顧問がJOGMECテクノフォーラム（5月7日）の基調講演で、INESの原油生産シナリオを紹介。
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INESにおける原油生産シナリオ
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INES提言のポイント
イラクの原油生産見通し（プラトー生産量） 中水準シナリオ 日量900万バレル（2020年-） 高水準シナリオ 日量1300万バレル（2017-23年） 低水準シナリオ 日量600万バレル(2025年-)
※中水準シナリオが中心的シナリオ。中水準シナリオでは、2020年までに生産量を現在の約3倍の900万b/dに引き上げる計画。一方で、この数値は、イラク政府が締結している石油開発契約上の目標生産値合計（約1200万b/d）を下回る値。
※IEA World Energy Outlook 2012のイラクレポート（2012年10月発表）の中心的シナリオ600万b/dに比べればきわめて野心的な数値設定といえる。
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IEAとイラク政府（INES）のシナリオ比較
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INES提言のポイント イラク上流戦略での優先的実施事項は以下の3点 主要４油田（ルメイラ油田、ズベイル油田、西クルナ油田①②、
マジュヌーン油田）の重点的開発 圧入水輸送事業（CSSF：Common Seawater Supply Facility）
の優先実施 井戸元から基幹パイプラインまでの原油輸送インフラの建設
新たなパイプライン網の構築（Crude Oil Evacuation Infrastructure)
精製能力の増強 2015～2019年に5か所の製油所新設。既存３製油所と合
わせ、精製能力を現状の80万b/dから140万b/d超へ増強 その他、重要課題として、国際企業の参入促進、国内民間企
業の育成・参入促進、強力な政策推進体制・組織の構築、あらゆる分野での有能かつプロフェッショナルな人材の育成、等をあげている。
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【参考】地域毎の生産見通し(IEA中心シナリオ）
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新たなパイプライン網の構築（INES提言）
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出所：INES（Booz & Company)、Mees.com
まとめ
新規開発油田（ガラフ、西クルナ②、マジュヌーン等）の生産開始で、年内に原油生産360万b/d、輸出260万b/dを達成見込み
プロジェクト参加企業・シェアの見直しが相次ぐ ナシリアプロジェクト（最後の大型案件？）入札プロセスが進捗 クルド（KRG)と連邦政府の対立は解けず。クルドは独自輸出パ
イプラインの建設を進めるが、先行き不透明。BPのキルクーク油田（短期）TSA締結にKRGは懸念表明。
国家エネルギー戦略（INES)において、今後の原油生産シナリオ（中心的シナリオ：2020年プラトー生産900万b/d）を提示。事実上、「目標生産1200万b/d」の旗は降ろしたものの、IEAの生産シナリオ（2020年600万b/d）に比べると、依然強気な見通し。
INESは、主要4油田の重点開発、圧入水輸送事業（CSSF)の優先実施、新たなパイプライン網の構築等輸出能力の増強、を提言。
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