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1 石油・天然ガスレビュー アナリシス 石油化学産業の発展と今後の展開 ~急速に増大かつ多様化する石油化学産業の原料と製品の機能~ (1)石油産業と石油化学産業の規模 ともに装置産業とも言われる石油産業と石油化学産業 の規模を比較するために、初めに代表的な装置規模と処 理能力を比較してみよう。 表1 に世界の国・地域別の石油精製産業の規模を精製 能力および精製処理量で示した。米国では1,862万bpd(9 億 7,3 0 0 万 t/y)の処理能力があり、全世界では 9,7 4 3 万 bpd(5 0 億 9,0 0 0 万 t/y)の原油精製能力がある。日本の 精製能力は米国の 1/5 程度である。 表2表3 には、世界および日本の上位製油所と精製 能力を示した。単一の製油所では、インド・ジャムナガー 製油所が世界最大で 1 2 4 万 bpd(6,4 7 6 万 t/y)、国内では JXエネルギー水島が最大で38万bpd(1,986万t/y)である。 これらの規模を石油化学産業の規模と比較するため、 基幹原料であるエチレン、プロピレン等の低級オレフィ ン、ベンゼン、p-キシレンの生産量を例にとって表4 表7 に示した。石油化学の基幹原料であるエチレンで も世界の生産量は約1億6,000万t/yであり、世界の石 油精製能力に比較して 1/3 0 程度と小さいことが分かる。 (株)三菱ケミカルリサーチ 調査コンサルティング部門、理学博士、触媒学会参与 大竹 正之 石油化学産業は、米国(1 9 世紀)、中東(1 9 3 2)での大規模油田の発見で調達可能となった低廉な石油、 特にそのうちのナフサ留分やエタン、随伴ガスを原料として発展してきた。20 世紀初頭には石炭やそ れから得られるシンガス(アンモニア、メタノール、合成石油の原料)、アセチレン(アクリル酸、塩化 ビニル、酢酸ビニル、アクリロニトリル、アセトアルデヒド、酢酸などの原料)を用いる化学産業が発 展してきたが、石油を原料とする石油化学はエチレン、プロピレン等のオレフィンおよびベンゼン、ト ルエン、キシレン等を中心とする芳香族炭化水素を基幹原料に用いる。多くのアセチレン誘導体は既に オレフィン原料から製造可能となったが、これを可能にしたのは 2 0 世紀における多様な均一系、不均 一系触媒化学の発展によるところが大きい。 21 世紀に入ってからも、天然ガス、非在来型化石資源の発見と開発が進み、化石資源枯渇の懸念は ひとまず回避され、石油化学産業を支えるだけの資源はなお残っている。しかし、産業革命以降の 1 5 0 年間に人類が消費した化石資源の量は、既に地球温暖化の原因とされるほど膨大であり、一方では人口 の増加が顕著に進行している。石油資源に比較して偏在性が少ない石炭、天然ガスの利用が増大してい るが、2 0 1 6 年のパリ協定批准で CO2 排出を抑制する世界的な合意がなされたこともあり、従来路線の 延長上にないエネルギー、産業への転換が必要となってきた。 本稿では、石油精製と、石油化学産業の生産物を比較するとともに、それを支える技術の特徴を説明 する。われわれの身の回りには石油化学製品があふれており、われわれの生活に不可欠のものとなってい ること、また、それを支えるのが樹脂製品を中心とする素材の緩みない機能や技術の向上・発展にあるこ とを示す。同時にプラスチック製品は難分解性で、新たな地球環境汚染を引き起こしている。一方、石 油化学製品の多くが、技術的には既にバイオマス等の再生可能資源から製造可能になっていることを紹 介する。 じめに 1. 石油精製産業との関わり

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1 石油・天然ガスレビュー

JOGMEC

K Y M C

アナリシス

石油化学産業の発展と今後の展開~急速に増大かつ多様化する石油化学産業の原料と製品の機能~

(1)石油産業と石油化学産業の規模

 ともに装置産業とも言われる石油産業と石油化学産業の規模を比較するために、初めに代表的な装置規模と処理能力を比較してみよう。 表1に世界の国・地域別の石油精製産業の規模を精製能力および精製処理量で示した。米国では1,862万bpd(9億7,300万t/y)の処理能力があり、全世界では9,743万bpd(50億9,000万t/y)の原油精製能力がある。日本の精製能力は米国の1/5程度である。 表2、表3には、世界および日本の上位製油所と精製

能力を示した。単一の製油所では、インド・ジャムナガー製油所が世界最大で124万bpd(6,476万t/y)、国内ではJXエネルギー水島が最大で38万bpd(1,986万t/y)である。 これらの規模を石油化学産業の規模と比較するため、基幹原料であるエチレン、プロピレン等の低級オレフィン、ベンゼン、p-キシレンの生産量を例にとって表4~表7に示した。石油化学の基幹原料であるエチレンでも世界の生産量は約1億6,000万t/yであり、世界の石油精製能力に比較して1/30程度と小さいことが分かる。

(株)三菱ケミカルリサーチ調査コンサルティング部門、理学博士、触媒学会参与 大竹 正之

 石油化学産業は、米国(19世紀)、中東(1932)での大規模油田の発見で調達可能となった低廉な石油、特にそのうちのナフサ留分やエタン、随伴ガスを原料として発展してきた。20世紀初頭には石炭やそれから得られるシンガス(アンモニア、メタノール、合成石油の原料)、アセチレン(アクリル酸、塩化ビニル、酢酸ビニル、アクリロニトリル、アセトアルデヒド、酢酸などの原料)を用いる化学産業が発展してきたが、石油を原料とする石油化学はエチレン、プロピレン等のオレフィンおよびベンゼン、トルエン、キシレン等を中心とする芳香族炭化水素を基幹原料に用いる。多くのアセチレン誘導体は既にオレフィン原料から製造可能となったが、これを可能にしたのは20世紀における多様な均一系、不均一系触媒化学の発展によるところが大きい。 21世紀に入ってからも、天然ガス、非在来型化石資源の発見と開発が進み、化石資源枯渇の懸念はひとまず回避され、石油化学産業を支えるだけの資源はなお残っている。しかし、産業革命以降の150年間に人類が消費した化石資源の量は、既に地球温暖化の原因とされるほど膨大であり、一方では人口の増加が顕著に進行している。石油資源に比較して偏在性が少ない石炭、天然ガスの利用が増大しているが、2016年のパリ協定批准でCO2排出を抑制する世界的な合意がなされたこともあり、従来路線の延長上にないエネルギー、産業への転換が必要となってきた。 本稿では、石油精製と、石油化学産業の生産物を比較するとともに、それを支える技術の特徴を説明する。われわれの身の回りには石油化学製品があふれており、われわれの生活に不可欠のものとなっていること、また、それを支えるのが樹脂製品を中心とする素材の緩みない機能や技術の向上・発展にあることを示す。同時にプラスチック製品は難分解性で、新たな地球環境汚染を引き起こしている。一方、石油化学製品の多くが、技術的には既にバイオマス等の再生可能資源から製造可能になっていることを紹介する。

はじめに

1. 石油精製産業との関わり

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22017.11 Vol.51 No.6

JOGMEC

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アナリシス

出所:http://www.eia.doe.gov/neic/rankings/refineries.htm

No Refinery Location Barrels per day 万 t/y

1 Jamnagar Refinery(Reliance Industries) Jamnagar, India 1,240,000 6,476

2 Paraguana Refinery Complex(PVDSA)

Punto Fijo, Venezuela 940,000 4,909

3 SK Energy Ulsan Refinery(SK Energy) Ulsan, S Korea 850,000 4,439

4 Ruwais Refinery(ADNOC) Ruwais, UAE 817,000 4,267

5 Yeosu Refinery(GS Caltex) Yeosu, S Korea 730,000 3,813

6 Onsan Refinery(S-Oil) Ulsan, S Korea 669,000 3,494

7 Port Arthur Refinery(Saudi Aramco) Texas, US 600,250 3,135

8 Singapore Refinery(ExxonMobil)

Jurong Island,Singapore 592,000 3,092

9 Baytown Refinery(ExxonMobil) Texas, US 584,000 3,050

10 Ras Tanura Refinery(Saudi Aramco)

Ras Tanura, Saudi Arabia 550,000 2,872

11 Garyville Refinery(Marathon Petroleum) Louisiana, US 539,000 2,815

12 Baton Rouge Refinery(ExxonMobil) Louisiana, US 502,500 2,624

世界の大型製油所表2

出所:石油連盟(PAJ)、2017/1、常圧蒸留塔能力ベース

No Refinery Location Barrels per day 万 t/y

1 JX エネルギー 水島 380,200 1,986

2 JX エネルギー 根岸 270,000 1,410

3 東燃ゼネラル石油 川崎 258,000 1,347

4 昭和四日市 四日市 255,000 1,332

5 鹿島石油 鹿島 252,500 1,319

6 コスモ石油 千葉 220,000 1,149

7 出光興産 千葉 200,000 1,045

全国 22 製油所 3,789,700 19,792

日本の製油所例表3

出所:BP, Statistical Review of World Energy 2017

    精製処理量 精製能力

北米 米国 16,202 18,621

カナダ 1,594 1,967

メキシコ 933 1,522

中南米 合計 4,490 6,259

欧州 独 1,887 2,024

仏 1,111 1,224

ロシア 5,709 6,418

中東 

サウジアラビア 2,750 2,899

イラン 1,891 1,985

UAE 1,000 1,143

中東合計 8,028 9,476

アフリカ 合計 2,102 3,457

アジア太平洋

中国 11,023 14,177

インド 4,931 4,620

日本 3,280 3,600

韓国 2,928 3,234

全世界 合計 80,550 97,430

世界の石油精製産業の規模表1千b/d 換算:×5.227万t/y(d = 0.9)

出所:経済産業省世界の石油化学製品の今後の需給動向、化学工業日報、2017/6/29、p1

年 世界計 アジア計 欧州計 北中南米 中東

韓国 台湾 中国 ASEAN インド 日本

生産能力2015 159.7 56.8 8.6 4.0 21.8 11.4 4.1 7.0 24.5 40.9 30.7

2021 205.0 78.2 9.1 4.0 36.5 14.9 7.2 6.5 24.5 53.4 37.9

増加幅 2015~21 45.4 21.4 0.6 0.0 14.7 3.6 3.1 –0.5 0.0 12.5 7.1

伸び率(%/y) 2015~21 4.3 5.5 1.1 0.0 9.0 4.6 9.9 –1.1 0.0 4.5 3.5

生産能力シェア(%)

2015   36 5 3 14 7 3 4 15 26 19

2021   38 4 2 18 7 4 3 12 26 18

世界のエチレン(モノマー)の生産能力表4百万t/y

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3 石油・天然ガスレビュー

JOGMEC

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石油化学産業の発展と今後の展開~急速に増大かつ多様化する石油化学産業の原料と製品の機能~

 表8に石油化学原料として使用されるナフサの種類と沸点範囲を示した。石油精製と一体運営される石油化学では、エチレン収率の最大化を目指して、軽質、沸点範囲を絞って使用する場合がある。また輸入ナフサに依存する化学会社では、より広い沸点範囲の留分で低価格の原料を使用する場合が多い。表9には、日本、米国、欧

州で採用されるエチレン原料の割合を整理した。日本はナフサ(Naphtha)が中心で、米国では天然ガス中のエタン(Ethane)の利用が多く、欧州は日本と米国の中間にあるが、米国でのシェールガス生産が現在以上に本格化すると、米国からの輸入エタンの原料化が進むと見られる。

出所:経済産業省世界の石油化学製品の今後の需給動向、化学工業日報、2017/6/29、p1

年 世界計 アジア計 欧州計 北中南米 中東

韓国 台湾 中国 ASEAN インド 日本

生産能力2015 121.1 60.4 7.4 3.7 27.4 7.8 8.0 6.3 17.7 26.5 11.9

2021 145.2 78.2 9.0 3.7 39.8 9.6 10.2 5.8 17.8 29.0 13.0

増加幅 2015~21 24.1 17.8 1.6 0.0 12.5 1.8 2.4 –0.5 0.1 2.5 1.1

伸び率(%/y) 2015~21 3.1 4.4 3.3 0.0 6.5 3.5 4.5 –1.3 0.1 1.5 1.5

生産能力シェア(%)

2015   50 6 3 23 6 7 5 15 22 10

2021   54 6 3 27 7 7 4 12 20 9

世界のプロピレン(モノマー)の生産能力表5百万t/y

出所:経済産業省世界の石油化学製品の今後の需給動向、化学工業日報、2017/6/29、p1

年 世界計 アジア計 欧州計 北中南米 中東

韓国 台湾 中国 ASEAN インド 日本

生産能力2015 62.9 35.3 5.7 2.0 16.1 4.0 1.9 5.7 10.1 11.2 4.3

2021 68.7 39.6 6.2 2.0 18.6 5.0 2.3 5.7 10.0 11.0 5.6

増加幅 2015~21 5.8 4.3 0.5 0.0 2.5 0.9 0.4 0.0 –0.1 0.3 1.5

伸び率(%/y) 2015~21 1.5 1.9 1.4 0.0 2.4 3.6 3.1 0.0 –0.2 –0.2 4.5

世界のベンゼンの生産能力表6百万t/y

出所:経済産業省世界の石油化学製品の今後の需給動向、化学工業日報、2017/6/29、p1

年 世界計 アジア計 欧州計 北中南米 中東

韓国 台湾 中国 ASEAN インド 日本

生産能力2015 51.0 39.4 9.7 2.4 12.8 5.3 5.5 3.7 2.5 4.1 4.6

2021 60.4 44.2 10.7 2.4 15.1 6.1 6.2 3.7 2.5 4.1 8.3

増加幅 2015~21 9.4 4.8 1.0 0.0 2.3 0.8 0.7 0.0 0.0 0.0 3.7

伸び率(%/y) 2015~21 2.8 1.9 1.7 0.0 2.8 2.4 2.0 0.0 0.0 0.2 10.4

世界の p- キシレンの生産能力表7百万t/y

(注)LSR:Light Straight Run/HSR:Heavy Straight Run出所:石油学会編、石油精製プロセス、講談社サイエンティフィックなど参考に作成

ナフサ(ホールレンジ・ナフサ) 30~180℃程度(粗製ガソリン、直留ナフサ、直留ガソリンとも呼ばれる)

軽質ナフサ(LSR) 35~80℃程度、bp<100℃

重質ナフサ(HSR) bp 100~200℃

オープンスペック・ナフサ 規格や取引条件を統一し、日本着ベースで決済する先渡し市場

石油化学原料に使用されるナフサの種類表8

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アナリシス

(2)製造業における化学産業の位置付け

 以上のように、石油化学産業の生産量は石油精製産業と比較すると、世界レベル、国内レベルでともに小さい。しかし経済産業省が例年公表している産業別の付加価値額(表10)を見ると、製造業のなかでも上位にあり、石油精製産業よりも多くの付加価値を生み出していること、労働生産性も高いことが分かる。すなわち、化学産業は他の製造業に対して有用な素材を提供し、日本の産業を支えていると見ることができる。また中東産油国、シェールガス生産が本格化する北米では石油化学プラントの新増設計画が活発で、いずれも化石資源の高付加価値化を目指している。中東では原油輸出に依存してきた国家財政基盤の強化が課題であるが、世界、特に開発途上国での石油化学製品需要の伸びが期待されている。

(3)石油産業と石油化学産業のつながり

 石油産業は、原油や随伴ガス、天然ガスなどの化石資源を、輸送機関の動力や火力発電でエネルギーに転換しやすいように加工する産業である。このため、蒸留により一定の沸点範囲の留分に分け、動力機関や燃焼に不都合な不純物を除去、また分子構造を転換するなどの化学転換まで行われる。国内での石油資源量は少なく、原油のほとんどを産油国からの輸入に依存している。 石油化学産業は、石油産業で分離されるナフサ留分を中心に、熱分解(スチームクラッキング)で低級オレフィンに転換するところからスタートする。直留ナフサはオクタン価が低く、輸送機関の燃料にはなりにくいが、ラジカル反応に基づく熱分解でエチレンを製造するには好都合の原料となる。天然ガス、随伴ガスに含まれるC2-C7程度の炭化水素成分もナフサと同様に石油化学原料として使用される。 石油化学産業は、エチレン、プロピレンなどの低級オレフィンを出発原料として、有用な化学製品を製造する産業である。この化学転換工程では、反応に応じて好適な触媒が開発され、利用されてきた。そして石炭を原料

にして20世紀初頭に始まったアセチレンの誘導体の多くがオレフィンからも製造できるようになり、それまでの化学産業を転換させた。またナフサの熱分解では、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素も一定の割合で副生する。こうした成分は、多様な芳香族誘導体の原料として利用される。 石油化学産業は、ナフサ等の分解で生成する多様な成分を、全て有効利用することによってのみ成立する。分解炉からの生成物は、成分ごとに分離され、誘導品プラントにパイプラインで送られる。このため、石油化学工場は大きな敷地に多数の誘導品プラントを配置し、コンビナートとして全てのプラントの生産、出荷が円滑に流れるように運転される。図1に石油化学プラントのイメージ、図2に石油産業と石油化学産業の連携を示した。最近の傾向では、石油精製、石油化学で副生する留分や副生物をパイプラインで融通し合って相互に活用する石油精製・石油化学の一体運営が進んでいる。

出所:経済産業省

製造業 付加価値額(百万円)

労働生産性(万円)

食料品製造業 2,626.2 635.6

飲料・たばこ・飼料製造業 6,697.8 1,596.8

繊維工業 1,555.7 755.5

木材・木製品製造業(家具を除く) 1,500.2 766.9

家具・装備品製造業 2,701.7 911.5

パルプ・紙・紙加工品製造業 2,897.1 1,100.3

印刷・同関連業 2,379.5 921.9

石油製品・石炭製品製造業 6,207.8 1,262.2

化学工業 8,095.5 1,608.2

プラスチック製品製造業 2,306.2 946.2

ゴム製品製造業 5,781.3 1,282.2

なめし革・同製品・毛皮製造業 537.5 434.0

窯業・土石製品製造業 2,576.2 1,111.7

鉄鋼業 5,579.6 1,361.5

非鉄金属製造業 5,270.8 1,497.2

金属製品製造業 2,070.2 871.6

汎用機械器具製造業 3,297.4 1,041.8

生産用機械器具製造業 3,156.8 1,139.4

業務用機械器具製造業 7,371.4 1,274.4

電子部品・デバイス・電子回路製造業 5,654.3 1,039.3

電気機械器具製造業 5,083.6 989.5

情報通信機械器具製造業 8,610.5 1,091.0

輸送用機械器具製造業 10,683.3 1,353.2

その他製造業 2,400.2 900.5

製造業 4,653.0 1,133.6

化学産業の付加価値額と製造業における位置(2015 年度実績)表10

出所:経済産業省

国(地域)/年 Naphtha LPG Ethane NGL Gas Oil

エチレン収率 28~32 30~45 79~84 25 23~26

日本 2016 96.4 2.4 0.0 0.8 0.4

米国 2012 6.0 23.5 66.3 2.1 2.1

欧州 2012 70.1 12.8 7.7 3.3 6.1

日本、米国、欧州のエチレンの原料構成比表9%

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5 石油・天然ガスレビュー

JOGMEC

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石油化学産業の発展と今後の展開~急速に増大かつ多様化する石油化学産業の原料と製品の機能~

出所:三菱ケミカル株式会社提供

石油化学プラントのイメージ図1

出所:三菱ケミカルリサーチ作成

石油精製と石油化学の連携図2

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アナリシス

(1)コンビナートの構成

 既に示したように、ナフサを主原料とする国内の石油化学コンビナートでは、クラッキングで生成する多様な成分を外販を含めて全て有効利用する必要があるため、多くの誘導品生産設備がクラッカー周辺に配置され、原料、用役を供給するパイプラインで結ばれている。

 例として、三菱ケミカルの例を図3に示した。工場は鹿島(茨城県)、四日市(三重県)、水島(岡山県)、黒崎(福岡県)の4カ所にあり、基本的に工場内とグループ外の隣接企業群とはパイプライン、また工場間の輸送は専用船によって連絡する。

2. 石油化学コンビナートの例

(注)数字は生産能力、× 1,000t/y出所:三菱ケミカルリサーチ作成

石油化学コンビナートの例(水島地区)図3

  生産品目 生産能力 受給原料 技術 備考

水島 エチレンプロピレンベンゼントルエンキシレン2-Et-ヘキサノールn-ブタノールMIBK無水マレイン酸イソブチレンGBLNMPグリシンソーダ

496,000 336,000 210,000 62,000 33,000

145,000 95,000 20,000 32,000 30,000 18,000 15,000

9,300

ナフサ(JXエネルギー、コスモ)同 上分解ガソリン(自社)分解ガソリン(自社)分解ガソリン(自社)プロピレン(自社)プロピレン(自社)アセトンn-ブタンB-B留分無水マレイン酸GBLHCN、NaOH、NH3

ルーマス/TEC/MHI同 上日揮UOP/日揮同 上自社自社自社自社住友化学/自社自社自社自社

旭化成と共同運営同 上

日本イソブチレン 

三菱ケミカルのコンビナート群で生産される誘導品と生産能力表11t/y

(次頁に続く)

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7 石油・天然ガスレビュー

JOGMEC

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石油化学産業の発展と今後の展開~急速に増大かつ多様化する石油化学産業の原料と製品の機能~

(2)石油化学プラントのメンテナンス

 石油化学プラントでは、エチレン、プロピレン等の基幹原料製造プラント(基幹プラント)は多様な誘導品プラントや貯槽とパイプラインで結ばれている。高圧ガス取締法などにより、石油精製プラントと同様、定期的に一斉停止とメンテナンス(定期修理〈定修〉)をしなければならない。多くの石油化学プラントは現在4年ごとの定修となっている。数多くのプラントを短期間に検査、また修理を行うために、一連の作業が専門業者を含めた十分な検討、打ち合わせの下に行われる。保全・計測機器の点検、非破壊検査、閉塞箇所の分解清掃、劣化触媒の抜出と交換、塗装などがスケジュールに沿って行われる他、設備増強や配管変

更なども定修に合わせて行われる。 通常1カ月半程度の期間が必要であり、定修時期には運転員以外の多くの労働者が工場内に必要となる。したがって一部の誘導品プラントの定修工事をエチレンプラントの定修と時期をずらすなどの工夫も行われる。労力削減のため、操業中の設備の常時監視化(センサー機能強化、作業履歴・品質情報の電子管理、異常予知検知システムなど)、IT技術などの導入による保守スマート化の試みが続いている。また石油化学工業協会は、石油連盟、高圧ガス保安協会とビッグデータ解析や最新の技術的知見を基に、設備の劣化状態を評価し、寿命を予測する民間規格の策定に着手している。

 石油化学製品は、工場から出荷される段階では多くが液体や樹脂ペレット(素材)の形であり、特に樹脂ペレットは専用の家電製品、樹脂加工メーカーなどが家庭で目にするような機能を備えた成形品に加工する。熱硬化性、熱可塑性樹脂(プラスチックス)は最も一般的な石油化学製品であるので、表12にその例と主要な用途を示した。これらの他、各種のゴム製品が石油化学産業で供給される。

 図4に自動車を例にとって、種々の樹脂製品が使用されている状況を示した。また図5には石油化学誘導品を用いる関連産業と最終製品の例を示した。多くの輸送用機器、電化製品などとともに、日用品でも既にわれわれの身の回りは実に多様な石油化学製品で取り囲まれていることが理解できよう。表13には、医療分野で重要性を増している樹脂材料を紹介した。

3. 身の回りの石油化学製品の例

出所:三菱ケミカルリサーチ

鹿島 

エチレンプロピレン

ベンゼンエチレンオキサイドエチレングルコールエチレンカーボネートキュメンフェノールアセトンビスフェノール-A

471,000 280,000 15,000

159,000 300,000 318,000 10,000

390,000 280,000 152,000 100,000

ナフサ(鹿島石油)同 上エチレン、ブテン(自社)分解ガソリン、リフォーメイトエチレン(自社)エチレンオキサイド(自社)エチレンオキサイド(自社)ベンゼン、プロピレン(自社)キュメン(自社)キュメン(自社)フェノール、アセトン(自社)

ルーマス/自社同 上ルーマス自社、千代田化工ShellShell自社Badger自社自社自社

1号機停止(2014/3)

OCTプロセス 

四日市 

アクリル酸アクリル酸エステル合成エタノールSBR1,4-ブタンジオールTHFPTMGPET ポリエステルPBT ポリエステル熱可塑性エラストマーエポキシ樹脂LIB電解液

110,000 116,000 55,000 42,000 60,000

35,000

100,000 70,000 60,000 40,000 13,500

プロピレン(自社)アクリル酸(自社)エチレン(自社)ブタジエン(岡山ブタジエン)ブタジエン、酢酸

THF(自社)PTA、EGPTA、1,4-ブタンジオールオレフィン(自社、外部購入)ECH、BPA(自社鹿島ケミカル)エチレンカーボネート(自社)

自社自社Shell導入技術自社

自社自社自社自社自社自社

精製系70,000kL

THF併産 

黒崎 

ポリカーボネートジフェニルカーボネートビスフェノール-Aイソソルバイドポリマー

60,000 100,000 120,000

5,000

ビスフェノール-A、DPC(自社)フェノール(自社) フェノール、アセトン(自社)イソソルバイド(外部)

自社自社自社自社 PC設備で生産

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82017.11 Vol.51 No.6

JOGMEC

K Y M C

アナリシス

 自動車の軽量化に向けて、多くの樹脂や樹脂複合材が使用されている。図4に示したように、内外装関係、機械部品、電装部品、骨格部品まで多様であるが、金属部品を代替する耐熱、高強度、耐油性などの樹脂、樹脂複合材(GFRP、CFRP)の採用増加が期待されている。航空機から始まったCFRPへの期待も大きい。世界の大手化学会社が鎬

しのぎ

を削っている。

 図5には、石油化学製品の応用例を関連産業と結んで紹介した。自動車関連以外にも、あらゆる産業分野で石油化学製品が採用され、機能発現に貢献していると見てよく、このような例は今後も新規石油化学系素材の開発とともに増加していくと考えられる。また耐久消費財では、一定期間で劣化することを想定、リサイクル性も重視される。

出所:日本プラスチック工業連盟、経済産業省生産動態統計

種類 生産量 前年比 主要な用途

プラスチックス例

フェノール樹脂 278.4 98.1 電気部品、機械部品ユリア樹脂 63.9 97.8 電気機器部品、漆器、文房具、雑貨、接着剤メラミン樹脂 79.2 98.3 接着剤、塗料、化粧版、繊維・紙加工剤、電気機械部品不飽和ポリエステル樹脂 96.6 93.7 FRP(ユニットバス、タンク、容器、船舶、工業材料)、人造大理石アルキッド樹脂 58.0 94.6 塗料、バインダー樹脂、接着剤エポキシ樹脂 116.0 93.8 接着剤、塗料、封止材、CFRPウレタンフォーム 174.3 88.0 軟質(衝撃吸収材、家具、寝具、インテリア)、硬質(住宅、機器)

熱硬化樹脂 計 866.4 94.9  

ポリエチレン 計 2,609.4 98.9    (低密度;LD-、LLD-) 1,520.0 95.1 フィルム、ラミネート、電線被覆用、パイプ   (高密度:HD-) 896.8 108.8 フィルム、射出成型、中空成形、フラットヤーン、パイプ、繊維   (EVA) 192.6 89.4 履物底、バスマット、人工芝、容器ふたポリプロピレン 2,500.5 106.5 射出成型、フィルム、押出成形、フラットヤーン、繊維ポリスチレン  計 753.6 103.1    (成形材料) 638.2 103.7 包装用、電機・工業用、雑貨・産業用   (発泡用) 115.4 100.0 EPSポリ塩化ビニル樹脂 1,643.1 111.1 パイプ、板など基礎資材、構造資材、フィルム、シートポリエチレンテレフタレート 431.1 93.0 PET   (容器用) 100.0 78.0 飲料水ボトル   (その他) 331.1 98.8 長・短繊維、フィルムポリブチレンテレフタレート 188.6 108.3 PBT 電気・電子部品(コネクター、コイルボビン、スイッチ部品)AS(SAN) 樹脂 80.6 106.9 自動車、弱電、文具ABS 樹脂 376.3 105.7 車輛、OA 機器、家電製品、一般器具、建材住宅部品、雑貨メタクリル樹脂 153.0 101.8 成形材料、キャスト板、押出板、ファイバー、レンズなど、光学材料ポリビニルアルコール 226.7 100.7 接着材、ゲル化材、ビニロン繊維ポリアミド 216.8 95.2 繊維、フィルム、樹脂ポリカーボネート 294.4 96.9 金属、ガラス代替(CD、DVD、建築、雑貨、自動車)ポリアセタール(POM) 100.1 86.6 自動車部品、電子・電気、機械部品、建材ポリフェニレンサルファイド 38.8 102.9 PPS、OA 機器、フィルムコンデンサー、自動車電装フッ素樹脂 27.6 94.4 燃料チューブ、電線被覆など石油樹脂 112.9 108.9 トラフィックペイント、タッキファイヤー、ホットメルト接着剤

熱可塑性樹脂 計 9,753.5 103.1  

合成ゴム、その他樹脂 214.0 91.5  

プラスチックス合計 10,834.1 102.1  

石油化学製品例

酸化エチレン 933.0 105.2 合成繊維、合成樹脂、界面活性剤エチレングリコール 727.3 109.5 合成繊維、合成樹脂アクリロニトリル 439.9 93.3 合成繊維、合成樹脂テレフタル酸 110.9 合成繊維、合成樹脂カプロラクタム 257.3 88.8 ポリアミド塩化ビニルモノマー 2,551.6 112.3 合成樹脂酢酸ビニルモノマー 595.2 102.9 合成樹脂メタクリル酸エステル 403.9 90.3 合成樹脂、塗料アクリル酸エステル 224.8 103.6 合成樹脂、塗料スチレンモノマー 2,414.8 98.2 合成樹脂、合成ゴムフェノール 645.7 109.5 ポリカーボネート、カプロラクタムアニリン 369.3 96.1 MDI酸化プロピレン 449.4 89.6 合成樹脂

石油化学製品の種類と主要な用途(2015 年)表12x 1,000t/y、%

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9 石油・天然ガスレビュー

JOGMEC

K Y M C

石油化学産業の発展と今後の展開~急速に増大かつ多様化する石油化学産業の原料と製品の機能~

出所:三菱ケミカルリサーチ

最近の自動車に見られる石油化学製品の応用例図4

出所:三菱ケミカルリサーチ

石油化学製品の応用例図5

電装部品 内装部品

外装部品骨格部品

機構部品

◦ヘッドランプ、テールランプ(PC、PBT、PP)◦ワイヤーハーネス(PVC、PE)◦コネクター(PBT/PPS)◦ヘッドランプリフレクター(UP)◦パワーウインドーアクチュエーター(POM)

◦インストラメントパネル(PP/PVC)◦ドアトリムパネル(PP/PVC/PA/PE)◦ドアロック、ドアハンドル(TPC、PC)◦シートクッション(PUR)◦エアバッグカバー(TPO)◦各種表皮材(PVC/TPV/TPU)

◦バンパー(PP/UP)◦タイヤ(SBR、天然ゴム)◦低燃費タイヤトレッド(S-SBR)◦ウエザーストリップ(EPDM/TPV)◦ラジエーターグリル(ABS/ASA/AES)◦ドアミラー(PVC/TPV/TPU)◦ルーフスポイラー(PET/PC alloy)◦ウインドシールド、窓材(PVA、PC)

◦基本骨格、バックドア骨格(CFRP、GFRP)

◦インテークマニホールド(PA)◦エアコンハウジング(PP)◦燃料タンク(HDPE、NBR)◦燃料ポンプ、フィルター、キャップ(POM)◦等速ジョイント(CVT)ブーツ(TPC)

石油化学誘導品 関連産業の例 最終製品の例

樹脂加工、プラスチック製品製造業 食品包装材、容器、雑貨、FRP

衣料、インテリア、産業資材

タイヤ、工業用・日用品

家庭用、工業用

バンパー、内装パネル燃料タンク・チューブ、前照灯、電装機器、ワイヤーハーネス断熱材、シート、機械部品

自動車、船舶、鉄道等塗料建築、建築物塗料電気ケーブル木工・家庭用

半導体・液晶材料、表示素子リチウムイオン電池材料

自動車部品工業

家電製品、電子部品工業

塗料製造業

ゴム製品製造業

繊維工業機能性繊維工場

合成洗剤界面活性剤製造業

接着剤、合成染料、顔料化学肥料、農薬、医薬品可塑剤、不凍液 など

樹脂・プラスチックス○ポリエチレン○ポリプロピレン○塩化ビニル樹脂○ポリスチレン○ABS、PET、PBT、PC○ポリアミド

合成繊維原料○エチレングリコール○テレフタル酸○アクリロニトリル○カプロラクタム など

塗料原料、溶剤○ポリウレタン○アルキッド樹脂○メチルエチルケトン○酢酸エチル など

合成ゴム○SBR○BR、IR、IIR○クロロプレンゴム など

洗剤原料など○アルキルベンゼン、ABS○高級アルコール○エチレンオキサイド など

その他

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アナリシス

 石油化学製品は、オレフィンから低分子量で比較的合成しやすい1次中間体を経由して得られる。当初、アセチレンから製造されていたビニル誘導体の多くがエチレン、プロピレン等のオレフィンから製造可能になり、アセチレン原料法の多くは1960年代に経済性を失った。

 これはオレフィンを選択的に転換する多様な触媒の開発によるところが大きい。しかし安価な石油化学製品の需要が増大するにつれて、企業間の競争は次第に激化してきた。少しでも効率の優れた生産プロセスを開発し、同業他社に先行しようとする開発競争が世界で展開され

4. 競合する技術開発

プラスチック材料 適用例 特徴

PP:ポリプロピレン 注射筒、ピペット、遠沈管、薬剤容器、バイアル縫合糸、人工肺膜、コネクター・アダプター類

耐薬品性、廉価、疎水性、耐蒸気滅菌性

PE:ポリエチレン カテーテル、薬剤容器、輸血ポート、筐(きょう)体人工関節(超高分子量 PE:UHMWPE)

耐薬品性、摺動性、耐放射線性、廉価

PS:ポリスチレン シャーレ、抗体プレート、血液濾過器ケース、吸着剤、筐体

廉価、加工性、GPPS(汎用、透明)、HIPS(耐衝撃性、乳白色)などあり

PVC:軟質ポリ塩化ビニル 血液バッグ、輸液用バッグ、導管、分岐管、血液回路、血液加温コイル、栄養用チューブ

柔軟性、透明性、廉価

PC:ポリカーボネート 透析器ハウジング材、三方活栓、コネクター類、筐体

透明性、耐衝撃性、ただし耐薬品性に劣る(ソルベントクラック)

PET:ポリエチレンテレフタレート 真空採血管、人工血管、白血球除去フィルター、薬品包装・容器、介護食容器

透明性、生体内安定性、ガスバリア性

COP:ポリ環状オレフィン シリンジ、薬剤容器 透明性、耐薬品性、ガスバリア性

ABS: ポリ-AN・ブタジエン・スチレン樹脂

シャーレ、血液加温コイルアダプター 耐久性、加工性、硬度、剛性

TPS:スチレン系熱可塑性エラストマー ガスケット、尿道カテーテル 強じん性、柔軟性

TPU: ポリウレタン系熱可塑性エラストマー

カテーテル、人工心臓、創傷被覆材、手術用手袋 強じん性、柔軟性

PA:ポリアミド カテーテル、手術用縫合糸、血液濾過膜 強じん性、柔軟性

BR:ポリブタジエンゴム 輸液チューブ 柔軟性、透明性 

PTFE:ポリテトラフルオロエチレン カテーテル、人工血管、親水性および疎水性フィルター、シース

摺動性、耐薬品性、生体内安定性

PVDF:ポリフッ化ビニリデン 透析水製造(親水性、疎水性)、血液透析用中空糸 耐薬品性、強度

PSF:ポリスルフォン 血液濾過中空糸膜(Amicon、Fresenius) 生体適合性

PES:ポリエーテルスルフォン 透析用中空糸膜 耐熱性、機械的強度、耐低温脆(ぜい)性

PAN:ポリアクリロニトリル 血液濾過用中空糸膜(旭メディカル) 高軟化点、繊維利用が多い。中空糸膜は酵素の濃縮・精製ではたんぱく吸着が少なく、水処理でもウイルス除去など、シャープな分離膜となる

PLA:ポリ乳酸・ポリグリコール酸 縫合糸、骨ピン・骨プレート、DDS 基材 生体内吸収性

PEEK:ポリエーテルエーテルケトン 椎間スペーサーなど、整形外科インプラント 耐薬品性、耐衝撃性、高強度

PMMA:ポリメタクリル酸メチルPMEA:ポリ(2- メトキシエチルアクリレート)

1) コンタクトレンズ Eyeglass lenses、Hard/soft contact lenses

2) 外科手術材料:骨セメント(Bone cement)3) 歯科用レジン(義床、義歯 Dentures)4) 義眼5) DNA チップ6) 内視鏡7) 人工腎臓:血液濾過、透析用中空糸膜 (syn PMMA/iso PMMA コンプレックスなど)8) 血液回路 9) インプラント10) 試験室機器(クロマト管、分析用機器)

・透明性、高強度・耐薬品性に劣る(ソルベントクラック)・ 血液浄化用膜で血液透析、血液濾過、血

漿(しょう)濾過、血漿分離膜としてPMMA 中空糸膜が使用された(東レ)

医療分野での石油化学製品の応用例表13

出所:大西誠人、プラスチックエージ、2013、59(5)、p51、p56、p64、p70 など参考に筆者加筆

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11 石油・天然ガスレビュー

JOGMEC

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石油化学産業の発展と今後の展開~急速に増大かつ多様化する石油化学産業の原料と製品の機能~

た。新しいプロセス、新しい触媒が開発されると、それまで広く採用されてきたプロセスでさえ、経済性を失い、廃業に追い込まれた。石油化学製品の多くは分子構造が比較的単純な化合物であるため、元来多様な製造法の開発の可能性があった上、触媒化学の発展で、新しい触媒材料や高選択率触媒の開発が続いた。こうしたなかで、他社との価格競争を勝ち抜くため、より有利な原料、プロセスについて絶えず研究開発を継続する必要があったほか、規模の拡大による市場シェアの拡大に努力してきた結果、現在に至っている。 いくつかの石油化学製品を例にとって、これまで開発されてきたプロセスを整理した。 表14には石油化学の基本原料となったC2化合物のエチレン製造技術開発の例を示した。 エチレンは石油化学の基幹原料であり、現在も多くがナフサ、LPGなどのスチームクラッキング(C-C結合の高温ラジカル切断)で製造されている。エタンからの製造はC-C結合の切断は少ないが、反応法が類似するのでクラッキングと呼ばれる。炭素数が1の化合物を原料とする合成が可能になった。またシンガスからの直接合成(Fischer-Tropsch〈フィッシャー・トロプシュ〉反応)

と、メタノールを原料とするMTO、MTP反応などがある。発酵法で得られるエタノールの脱水法は小規模に実用化されていたが、完全バイオ由来の樹脂製造を目的とした大型プラントでの採用が進んでいる。炭素数が1のメタンからのエチレン合成研究が数多く行われたが、現在Siluriaプロセスのみが実用化に向けて検討されている。 表15にはC3化合物のプロピレンオキサイド(PO)製造技術開発の例を示した。 エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドなどのエポキシ化合物は、当初対応するオレフィンのクロルヒドリン化法で製造(第1世代)されたが、Ag触媒によるEOの製造法が開発されると、全てAg触媒法に転換された。プロピレンのPOへの直接酸化も数多く研究されたが、ことごとく失敗した。有機過酸化物を酸化剤に用いるエポキサイドの選択的合成法がARCOで見出され、EBHP、TBHP法として工業化された(第2世代)。しかし副生物の市場に生産や経済性が大きく影響され、新たな問題となった。副生物のない住友化学法、さらに過酸化水素を酸化剤とするHPPO法が第3世代工業プロセスとして採用されている。そして、POの生産技術としては現在も第1、第2、第3世代の全てが採用されている。

No 原料(中間) 製造法 特 徴

1 ナフサ、 LPG スチームクラッキング 日本の石油化学の基本プロセス。ETY 収率は 28 ~ 32%、PPY 収率 14 ~ 18%レベルで、C1-C9+ の全てのオレフィン、パラフィン、芳香族成分が副生、分離、誘導品に転換するプラントが必須となる。建設費は高く、大型化によるスケールメリットを確保する必要があるが、全副生物の利用は困難で、ETY 50 万 t/y 規模が一般的。ETY のエネルギー原単位が高い。

2 エタン スチームクラッキング 天然ガス、随伴ガス、シェールガスを原料とする石油化学の基本プロセス。生成物はETY が 80%で、C3+ 成分副生が少ない。エチレンとその誘導品以外のプラントの建設が不要となり、建設費が安い。分解のエネルギー原単位はナフサ法の 2/3 程度と低い。資源国では、100 万 t/y 規模の ETY プラント建設が相次いでいる。

3 シンガス Fischer-Tropsch 反応(GTL、CTL)

石炭、メタン(天然ガス)等を原料、改質などでシンガス(H2/CO = 2/1 混合ガス)に転換後、・ 鉄系触媒を用いた Fischer-Tropsch 反応で、ETY、PPY など、C2-C20 程度の 1- オ

レフィンを合成、1- オクテンまでは化学原料化、それ以上は改質でガソリン、重油などの燃料(南ア・サソール)。

・ コバルト系触媒を用いる Fischer-Tropsch 反応では、C1-C40+ の直鎖パラフィンを合成(間接液化)し、C5-C6 成分のナフサをスチームクラッキングする。中国寧夏、山西省などで石炭原料の大型間接液化プラントが建設されている。

4 メタノール MeOH 合成、MTO 反応(石炭原料 MeOH では CTO)

3. と同様、石炭、メタン等を原料、シンガスに転換後、MeOH を合成、ゼオライト触媒を用いた Methanol-to-olefins(MTO)転換反応で、C2-C4 オレフィンを製造する。中国で盛んに導入されている。大型 MeOH プラントが天然ガス、シェールガス生産国などで建設されており、外部購入の MeOH を原料に用いることもできる。オレフィンプラントとしては建設費が安く、オンデマンドの ETY、PPY プラントとなる。

5 エタノール 脱水反応 ガソリン添加用に米国、ブラジルなどで大量のバイオエタノールが生産されていることから、その脱水でバイオベースポリマー(PET、ポリエチレン)原料となるバイオ法 ETY、MEG(エチレングリコール) の生産が開始されている。脱水はγ-Al2O3 触媒を用いる気相法が一般的であるが、BP が液相法(Hummingbird プロセス)を開発、Technip がライセンサーとなっている。オンデマンドの ETY プラントとなる。

6 メタン 酸化カップリング(OCM)、高温部分酸化

触媒を用いる酸化カップリングでは多くの基礎研究が行われた。2017 年時点では米Siluria の技術が工業可能レベルにあるとされる。一方、無触媒で高温部分酸化する方法はアセチレン製法として工業化されているが、エチレンも多く副生する。

エチレンの製造技術開発の発展表14

出所:三菱ケミカルリサーチ作成

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JOGMEC

K Y M C

アナリシス

 表16にはC4化合物のメタクリル酸(MMA)製造技術開発の例を示した。MMAは1937年に開発されたアセトンシアンヒドリン(ACH)法が現在も採用されている

が、硫安が大量に副生するため、これを回避するための多くの技術開発が進められた。メタクリル酸のC4骨格をACH法のC3+C1からではなく、C4(イソブチレン)、

No 原料(中間) 製造法 特 徴

1 プロピレン、塩素、石灰

(1st Generation)

クロルヒドリン法(UCC = Dow、1931)

プロピレン、塩素、大過剰の水を反応、20~60℃、0.2~0.3MPa、α-、β-クロロヒドリン混合物(9/1)を生成。次いでCa(OH)2水溶液で処理してPO、CaCl2を製造する。一貫収率は85~90%で、塩素、Ca(OH)2の原単位は1.4t、1.0t/t-POとなる。大量の排水処理も必要。

2 プロピレン、EB、空気

(2nd Generation)

EBHP 法(1967)(ARCO-Lyondell/Shell)

エチルベンゼンの空気酸化(130~150℃、0.07~0.14MPa)でハイドロパーオキサイド(EBHP:Ph-CH(OOH)(CH3))を製造。ナフテン酸Mo、TiO2-SiO2触媒を添加してPPYを酸化、POに転換する。α-メチルベンジルアルコールが副生するので、脱水してスチレン(SM)を得る。安全のため、EBHP濃度は15%程度に抑える。PO製造もPPY大過剰下で行う。SMの副生原単位は 2.2t/t-POであり、SMの市場価格変動の影響を受ける。

3 プロピレン、イソブタン、空気

(2nd Generation)

TBHP 法(1978)(ARCO-Lyondell/Basell)

イソブタンの空気酸化でtert-ブチルハイドロパーオキサイド(TBHP:(CH3)3CHOOH)を製造。35~50%の反応率、TBHP選択率は 50~60%である。TBHP、PPYの反応でPOを製造、tert-BuOHが副生するので、イソブチレン、ETBE(オクタン価向上剤)の原料として用いる。イソブチレンの副生原単位は 2.1t/t-POである。

4 プロピレン、クメン、空気

(3rd Generation)

住友化学法(2006) フェノール製造で採用されるHockプロセスの中間体であるクメンハイドロパーオキサイド(CHP)をPPYの酸化剤に使用。POとともに副生するクミルアルコールは、脱水、水素化してクメンに戻す。このため、副生物の全くないPO製法となる。

5 プロピレン、過酸化水素

(3rd Generation)

HPPO 法(Degussa/Evonik、2008)(Dow/BASF、2009)

伊Eniの開発したTiO2/SiO2触媒を使用。有機過酸化物でなく、H2O2を酸化剤に用いてPPYを酸化、POを製造する。安価なH2O2の確保が必須となるが、POプラントに隣接してH2O2プラントを併設(Solvayと提携など)が行われる。酸化反応での副生物はH2Oだけとなる。

プロピレンオキサイドの製造技術開発の発展表15

出所:三菱ケミカルリサーチ

No 原料(中間) 製造法 特 徴1 アセトン、MeOH

HCN、H2SO4

アセトンシアンヒドリン法(ACH法)(ICI、1937)

アセトン、HCN(Androussow法、ANプラント副生)の反応でACHを合成。硫酸加水分解、MeOHエステル化でMMA合成、蒸留精製。硫安が副生。

2 アセトン、MeOHHCN

改良ACH法(三菱ガス化学、1997)類似のAveneer法(Evonik)も提案されている

ACHを固体触媒で加水分解アミド化、ギ酸メチルとのアミド・エステル化反応でヒドロキシイソ酪酸メチル、ギ酸NH4とし、脱水でMMAを製造。ギ酸アンモンの脱水でHCNを再生。硫安の副生なしにMMAを合成できる。

3 イソブチレン、空気

直接酸化法(気相2段階酸化)(住友化学等、1982)

イソブチレンの第1段気相酸化(MoBiFeO触媒)でメタクロレイン、第2段気相酸化(MoVPO触媒)でメタクリル酸に転換、次いでMeOHでエステル化する。硫安の副生はない。

4 イソブチレン、NH3、空気、MeOH

MAN法(旭化成、1984)

イソブチレンのアンモ酸化でメタクリロニトリル(MAN)を合成。硫酸で加水分解、エステル化してMMAを得る。硫安が副生。

5 イソブチレン、空気

直接酸化法(直接メチルエステル化)(旭化成、1999)

イソブチレンの気相酸化でメタクロレイン(MAL)、次いで液相、Au-NiO触媒、MeOH共存下に液相酸化エステル化、MMAを得る。高収率。

6 メチルアセチレン、CO、MeOH

Reppe反応法(住友化学等が検討)

プロピレンの高温熱分解でメチルアセチレン(CH3-C≡CH)を製造。CO、MeOHとのReppe反応でMMAを合成、原料製造のエネルギー負荷が大きく、低収率。

7 プロピレン、CO/H2、空気、MeOH

イソブチルアルデヒド法(三菱ケミカルが検討)

プロピレンのヒドロホルミル化でブチルアルデヒド(n-/iso-BD)合成、iso-BDを気相酸化でメタクロレイン(MAL)、次いで酸化、エステル化でMMAに転換。またはiso-BDの液相酸化でイソ酪酸に転換、酸化脱水素でメタクリル酸とし、エステル化でMMAに転換。ヒドロホルミル化反応用触媒の改良でiso-BDの生成が大幅に減少、開発は中断。

8 エチレン、CO/H2、MeOH、H2CO

BASF法 ETYのヒドロホルミル化反応でプロピオンアルデヒド合成、H2COとのアルドール縮合でメタクロレイン合成、気相酸化でメタクリル酸に変換、MeOHエステル化でMMAを製造。

9 エチレン、CO/H2、MeOH、H2CO

Evonik法(開発段階) メタクロレイン合成までは8.のBASF法と同じ。メタクロレインを直接メチルエステル化(旭化成法に類似)、MMAを得る。

10 エチレン、CO、MeOH、H2CO

Lucite法 α-プロセス(現・三菱ケミカル)

ETYのヒドロエステル化でプロピオン酸メチルを製造。次いでH2COとの縮合で MMAに転換。

メタクリル酸メチル(MMA)の製造技術開発の発展表16

出所:三菱ケミカルリサーチ

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13 石油・天然ガスレビュー

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石油化学産業の発展と今後の展開~急速に増大かつ多様化する石油化学産業の原料と製品の機能~

(1)原料価格の変動と日本の国際競争力

 日本の石油化学産業は、1960年代にナフサを原料として出発し、16件のコンビナート(エチレンセンター)を建設するまでに発展、繊維、建築、家電、通信、輸送機器など国内の他の産業分野に多様な素材を提供して発展してきた。しかし、21世紀に入り、人口減少による国内需要の伸びの低下、そして日本の主力輸出市場であった中国や東南アジア諸国の経済発展、産業の自立化の進展があって、国際競争力は次第に低下してきた。圧倒的に大きな規模のプラントで石油化学産業に進出してくる新興国、資源国を前に、表4と表5に示したように、エチレン、プロピレン等の基幹原料の生産量が縮小しているのは世界でも日本だけである。老朽化した小規模プラントの閉鎖、国内エチレンセンターの統廃合、石油化学産業の縮小などが経済産業省の主導で進められた。しかし、石油化学産業は高付加価値、高機能の素材、製品

を市場に供給し続ける力があり、厳しい国際競争にも対処できよう。 また、同省は、2016年に日本の石油化学産業の抱える課題を整理し、対応を示しているので、それを図6に要約した。初めに石油化学産業が抱える普遍的な課題である原油価格の問題に触れなければならない。中東諸国、北米などの資源国、さらに大きな市場を擁しているとはいえ、世界の工場と言われる中国は、家電製品、樹脂成型品、繊維製品、電池などの形で日本の化学品市場へも進出を狙う可能性が大きい。エチレンセンター各社は既に基幹原料であるエチレンの生産量を削減しているが、石油化学製品の国際競争力の低下に対応するため、製品差別化(品質、誘導品、付加価値向上)を一層推進する他、弱みであるハード面(プラント規模、老朽化)、ソフト面(制度、規制、人材、スマート化など)の個々の課題に対応することが必須である。

5. 石油化学産業の抱える課題と対応

C3+C1(プロピレン、メチルアセチレン)、C2+C1+C1(エチレン)などが工業プロセスに採用されている。イソブチレン法では2段階気相酸化法に加えて、アンモ酸化法、直接酸化エステル化法が開発されている。しかしいずれのプロセスが決定的に競争力の高い方法であるかは結論が出ていない。 表17にはC5化合物のイソプレンの製造技術開発の例を示した。イソプレンは日本では、エチレンプラント

で副生するC5留分からの分離法で得られるが、主用途のゴム需要を満たすには量的に不足するので、クロロプレン、SBRなど、多様な合成ゴムが開発されてきた。C5

留分中のイソペンテン等を原料とするイソプレン合成は現在行われていない。イソブチレン、H2COの反応を用いる合成法が旧ソ連、中国で大規模に採用されている。グルコース等、バイオマス資源からのイソプレンのバイオ法合成が盛んに検討されている。

原料 転換反応 工業化実績

化学合成

C5留分(イソペンテン) 酸化脱水素 蘭・英Shell、米Goodrich(1970年代に中止)

C5留分(イソペンテン) 脱水素、酸化脱水素 露で工業化、1970年代に中止

イソブチレン H2CO1段法 仏IFP法、旧ソ連(400万t/y)、中国(365万t/y)、クラレ(1.8万t/y)

H2CO2段法 クラレ開発、事業化なし

プロピレン 2量化 米Goodyearが工業化、1970年代に中止

アセチレン、アセトン メチルブチノール経由 第一次大戦後、独が開発、伊ANIC、南アで工業化、現在は中止

バイオマス転換

グルコース イソプレンに直接転換 GM酵母、Amyris Inc.、Michelin、Braskemが提携、開発中GM大腸菌、DuPontが開発、Goodyearが提携、開発中味の素、ブリヂストンが提携、開発中

糖、でん粉、セルロース イソプレンに直接転換 Z-Microbe(海洋性細菌)、開発中(実験室段階)

グリセリン イソプレンに直接転換 発酵法、Glycos Biotechnologies社が開発中

イソプレンの製造技術開発の進展表17

出所:三菱ケミカルリサーチ

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アナリシス

 世界の基準原油価格の一つであるBrent Crude Oilの価格は、2014 ~ 2016年の僅か2年の間に1/3レベルに低下した。世界では過去にも何度か原油価格の大きな変動を経験しており、それに伴いエチレン原料であるナフサの価格も大きく上下し、石油化学製品の市場に、ひいては世界経済に大きな影響を与えてきた。しかもこの2年間で顕著になってきたのは、エチレン生産量の増加、および原油価格変動の影響を受けにくいエタン(天然ガス)、石炭などの原料化が米国のシェールガス生産の本格化、中国の石炭政策転換で、非ナフサ原料のエチレン生産量が増加し始めたことである。図7に世界的なエネルギー関連コンサルティング企業のWood Mackenzieが“PCI Wood Mackenzie Global Long-Term Ethylene Service and Ethylene Asset Cost Tool”で分析した2014年、2016年の世界の国・地域別のエチレン原料、生産量と製造コスト推定値を示している。ナフサ原料ではエチレン製造コストが高く、低価格のエタン原料で安価なエチレンが生産されること、原油価格が高い2014年では特に北米、中東地区のエタン原料法エチレン製造が圧倒的に有利であることが分かる。さらに図8に、各種エチレン原料の発熱量で比較した価値と、過去のエチレンおよび原油価格との関係を示した。図7に示した2014年、2016年のエチレン製造コストふれ幅を棒グラフで挿入しているが、エチレン製造コストの幅が下方に拡がり、エタン原料法の有利性が改めて確認される。原油、石炭ともに原料の乏しい日本では、中東地域や米国シェールガスを原料とする石油化学事業を、独自または

現地企業との合弁などの形で展開する方法が有望であるが、製品の販売先は、縮小が進む日本市場ではなく、大市場で競合の厳しい東南アジア、欧州、米国となる。また製品のスペックも日本仕様ではなく、各市場の要求する仕様に合わせる必要があり、言い換えると場合によっては技術もこれまで国内で開発してきた技術ではなく、世界市場で通用する汎用性の高い技術を採用する必要が生じることも予想され、厳しい対応が求められる。今後も新興国需要の拡大、OPEC諸国の生産調整、2016年以降の米国のシェールガス生産の本格化など原油価格不安定化要因は少なくない。原料価格変動が大きいと、石油化学製品の価格も大きく変動、有利な製造プロセスの選択にまで影響する。 図7、図8で明らかなように、中国で進む石炭原料法の石油化学(Coal-to-Olefins = CTO、MTO反応)は、原油価格が高騰している場合、石油化学法と競合可能である一方、原油価格が低下すると、市場競争力を失うことになる。日本の石油化学産業は、海外の化石資源国に生産拠点を設けて共同事業を推進するなど、原油価格への大規模で柔軟な対応が求められよう。 他の産業とも共通するが、世界最大の工業国となった中国では、労働単価の上昇で他国に対する優位性は減少してくると見られる。しかし装置産業の色合いが濃い石油化学産業では、競争力の原点は原料価格とともに、環境規制の緩さ、為替レート、社会インフラ・住宅需要などの市場規模などに関連要因がある。中国の優位性は徐々に縮小に向かっており、新機能を備えた石油化学製品の

出所:経済産業省資料に三菱ケミカルリサーチが加筆

日本の石油化学産業の課題と対応図6

・ 世界的な石油化学増産と日本市場への輸出攻勢(中国、北米、中東)

・内需減 ○国内 ETY 生産量削減 (2016年640万t/y→2020年470万t/y)

・ 複数基の設備統廃合・ 稼働率の低下、ETY の高価格化と石化誘

導品の競争力の低下で、海外品への代替が加速

・ 国際競争力のある誘導品事業への原料確保が困難化(C4、C5 チェーン)

・マザー工業機能への影響・用役コストの増加・雇用の減少、日本経済への影響

<リスクのシナリオ> < ETY センターが抱える課題> < ETY 生産減の影響>

<強みを伸ばす>1.グローバル展開の強化 ・品質・機能、生産技術 / 製法でグローバル市場を支配 ・石油精製、石油化学企業が連携、市場シェアを高める ・ ユーザーとのすり合わせ力、サポート力など、営業力

で市場獲得2.誘導品事業の強化 ・高付加価値誘導品のさらなる強化 ・汎用誘導品の集約強化

<弱みの克服:アジアのナフサ石油化学に対する競争力>1.ハード面の対応 ・ETY センターの競争力 ・石油精製、石油化学企業が連携、市場シェアを高める ・ ユーザーとのすり合わせ力、サポート力など、物流、営業

力で市場獲得 ・ 市況・需要、原料面、設備メンテナンスなどで柔軟な対応2.ソフト面の対応 ・制度・規制の合理化、緩和 ・安定操業、人材の有効活用、スマート化 ・地域との連携

汎用石化の国内拠点のコスト競争力向上差別化とグローバル展開の推進

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15 石油・天然ガスレビュー

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石油化学産業の発展と今後の展開~急速に増大かつ多様化する石油化学産業の原料と製品の機能~

開発と市場確保の重要性は高まっていくものと推定される。

(2)環境汚染、プラスチックリサイクル

 日本では廃プラスチックスの再資源化、再利用がかなり進んでいるが、高機能プラスチック製品、例えばスク

ラブ材による環境汚染、炭素繊維複合材などの再資源化は今後の課題となる。深刻なのは、出所の明確でないプラスチックスが大量に海洋に浮遊、南太平洋ヘンダーソン島などに漂着し、海洋生物に影響を与え始めている現状で、米海洋大気局などが継続観測して、Nature、pnasなど主要科学誌に相次いで発表、警告している。

原料(地域)別のエチレン生産量とエチレン製造原価図7

a)2014 年(Brent 原油価格 US$98/bbl)

b)2016 年(Brent 原油価格 US$31/bbl)

出所: Reproduced by courtesy of Wood Mackenzie, from “PCI Wood Mackenzie Global Long-Term Ethylene Service and Ethylene Asset Cost Tool”

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アナリシス

米カリフォルニア大学(UCSB)、ジョージア大学の研究チームが米科学誌pnasに行った発表によると、1950年以降に世界で製造されたプラスチック製品の総量は83億トンに達し、63億トンがゴミとして捨てられた。そのうち、1回でもリサイクルされたのは僅か9%で、12%が焼却処分され、79%は埋め立て処分されるか自然界にそのまま捨てられていた。陸上から海洋に到達、浮遊している量は毎年480万~ 1,270万t/yレベルと推定されており、既に世界の食卓塩、水産物からマイクロプラスチックスが検出されている。2050年には、ゴミが120億トンに達すると予想されているが、こうしたプラスチックは数百年以上にわたって地球上に残留する。早急な国際的対応が求められる。

(1)激化する市場競争

 石油化学産業は20世紀における大規模な石油資源、天然ガス資源の発見と開発により発展してきた。図9に示したように、当初、化学産業で利用してきた炭素資源は石炭が主体であり、アセチレン(カーバイド法)、シンガス(部分酸化法、メタノール、アンモニア、合成石油の原料)などの中間体を経由していたが、生産量の規模としては現在と比べものにならないレベルにあった。石油ナフサ、天然ガスなどを原料とする石油化学は、原料価格、供給量の優位性から次第に大型化し、拡大する需要に対応してきた。日本では石油ショックなど、産油国をめぐる紛争の影響を受けたこともあって、石油以外の原料からの石油化学製品製造技術開発への挑戦が国家プロジェクトとして行われたが、製造技術として完成した例はなかった。 中国などの新興国の経済発展で大きな市場が東南アジア等に形成され、これまでの技術的蓄積を生かして大型

の石油化学プラントが建設されるようになった。大型プラントは大きな利益を生み、さらに次の拡大を促進した。石油化学の勃興期から参入した日本の石油化学産業は、多くの技術導入や独自の技術開発努力で発展してきたが、設備規模、原料、国内需要の伸びの鈍化などで次第に競争力を失いつつある。その大きな要因の一つが皮肉にも原料を価格変動の大きい石油系液体原料、ナフサに依存していることにある。表9に示したように、欧州ではエタン原料のエチレンプラントを保有しているので、米国産シェールエタンを輸入した石油化学の可能性があるが、日本にはエタンを原料化するエチレンプラントが存在しない。

(2)石炭を原料とする石油化学

 原油価格の変動に伴い、石油化学原料の価格も変動する(石炭価格も影響を受ける)ので、基幹中間体であるエチレンの価格が変動する。中東産油国では天然ガス価格

6. 国内石油化学産業の将来展望

(注)Ethylene(US$/t)価格は 1970 ~ 2000 年のナフサ原料法エチレンの市場価格振れ幅で、当時の原油価格(US$/bbl)との関係を示す。Methane(US$/m3)、Ethane(US$/m3)、 LPG(US$/t)、Naphtha(US$/kL)は原油と発熱量で等価となる価格。Coal(5,500kcal/kg)は 2010 年以降の豪州炭価格(US$/t)実績。Ethylene 製造原価の棒グラフは多様な原料を用いた際の Ethylene 製造コストの振れ幅、CTO、MTO はそのなかで石炭原料、メタン原料のメタノールを用いた Ethylene 製造原価(推算値)の 2014、2016 年の振れ幅を示す。出所:三菱ケミカルリサーチ、図 7の資料により作成

原油価格と連動する原料単価、エチレン製造原価の関係図8

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石油化学産業の発展と今後の展開~急速に増大かつ多様化する石油化学産業の原料と製品の機能~

を政策的に低価格に設定している例もあるが、原料別のETY生産量と生産コストの関係は、図7に示したようになる。中東、北米のエタン、LPG原料が圧倒的に安く、有利である上、原油価格変動による影響が小さい。日本の石油化学(Asia Naphthaに相当)は原油価格が下がれば天然ガス原料法と競合できるが、原油価格が高くなると、天然ガス原料法に対抗できなくなる。 同図でも明らかなように、原油価格が高騰すると競争力の高まるのが石炭化学法である。石炭のなかでも瀝れきせい

青炭以上の高品位炭(原料炭、一般炭)には市場価値があるが、亞瀝青炭、褐炭など低品位炭はそのままでは市場に流通することはなく、採掘とともにガス化して、水素、シンガス等の化学原料に使用する。エチレン等のオレフィン生産では、石炭原料のシンガスからメタノールを合成、MTO、MTP反応(米UOP、独Linde)を経由する技術が開発されている。また、南アSasolのようにFischer-Tropsch反応を用いた液体炭化水素合成で副生するC2-C4オレ

フィンを化学原料に用いることもある。中国では内モンゴル地区などに低品位炭が多く、ガス化して利用する方法が発展した。当初は代替天然ガス(SNG)化が盛んに行われたが、現在では石炭原料メタノールからのオレフィン製造(CTO)計画が増加、これを原料とする石油化学計画が2016年以降、目白押しである。

出所:三菱ケミカルリサーチ作成

石油化学産業の将来展望図9

1900 1950 1980 2000 2010 年

アセチレン(カルシウムカーバイド化)

シンガス メタノール、合成石油(Fischer-Tropsch反応)

水素 アンモニア、合成石油(直接水素化)

ガス化

石油ナフサ・随伴ガス原料(大規模液体資源、安価、輸送が容易)

天然ガス・コンデンセート原料

石炭原料

スチームクラッキング接触分解

オイルショック(原油供給不安)化学原料の多様化に転換シンガス経由、バイオマス経由

オレフィンの化学(アセチレン由来モノマーのオレフィンからの合成:触媒化学)   (ポリオレフィン合成:触媒化学)(多様な有機化合物合成:触媒化学)大規模生産技術、装置(化学工学)が特徴石油化学製品は現在、日常生活をあらゆる面で支えている

地球温暖化ガス排出量削減で世界的合意

C1(CO/H2)化学

低品位石炭、残渣油、固体廃棄物

再生可能エネルギーの利用

バイオマス・再生可能資源の転換

CO2の化学転換

人工光合成酵素・微生物転換再生可能電力

社名 立地 プロセス 2015 2016

寧夏宝豊能源集団 寧夏回族自治区 CTO 200

中国中煤能源 陝西省 CTO 175

蒲城清潔能源化工 陝西省 CTO 300

青海大美 Qinghai Damei 青海省 CTO 67

青海塩湖工業集団 青海省 CTO 120 40

山東恒通 Shandong Hengtong 山東省 CTO 100

山西焦化 山西省 CTO 100

神華集団 新疆ウイグル自治区 CTO 203

神華集団 陝西省 CTO 150

SXYCPC-Y アンアン E&C 陝西省 CTO 450

楡林能源化工 陝西省 CTO 150

安徽淮南現代煤化工業 安徽省 CTO 100

中天合創能源 内モンゴル CTO 223

寧波富徳能源など 8 件 MTO 658 887

合計 1,703 2,220

中国の石炭原料法石油化学計画の例表18

出所:化学経済 増刊号、2015 年版「アジア化学工業白書」(2015/12)より三菱ケミカルリサーチ作成

1,000t/y

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アナリシス

 これらの計画は原油価格が高い場合に経済的に成り立つものであり、また石炭価格が非常に低い場合にのみ可能性がある(図8)。中国の石炭原料プロジェクトを表18に示した。日本国内には高品位炭の産出はない。海外の低廉石炭では豪州ビクトリア州、インドネシアのスマトラ・カリマンタンなどの褐炭を原料に利用する可能性はあるが、2017年現在の原油価格では事業性は期待できないだろう。

(3)再生可能資源、新技術開発による世界展開

 石油、石炭、天然ガスなどの化石資源は有限であり、

いずれ現在の石油製品、石油化学製品を低廉な化石資源以外の原料から生産する必要があると見られる。世界各国は地球温暖化の緩和に向けて2015年にパリ協定を採択しており、エネルギー関連では化石資源の利用をできるだけ抑制していかなければならない。熱効率の高いシステム、省エネルギー化の促進とともに、太陽光発電、水力、風力、潮力、地熱発電など、再生可能エネルギーの開発が盛んに行われている。温暖化ガスであるCO2の固定化では、人工光合成の研究進展が期待されている。 石油化学産業では、化石資源に代わる炭素源が必要となるが、プラスチックス、ごみ等のリサイクル促進や、

バイオマスからの化学品製造技術開発と工業化図10

出所:三菱ケミカルリサーチ作成

バイオマス原料

〈可食性原料〉 C5糖、C6糖 しょ糖・多糖類 油脂 グリセリン

〈非可食性原料〉 セルロース ヘミセルロース リグニン

バイオ転換

化学転換

誘導品

主に発酵法転換 主に化学転換 用途、市場、参入企業等

エタノール

iso-プロパノール

アセトン

乳酸

エピクロルヒドリン

1,3-プロパンジオール

1,2-プロパンジオール

3-ヒドロキシプロピオン酸

MMA(ACH法)、溶媒

ポリ乳酸(PLA、PLGA)

バイオポリカーボネート、ECHゴム、Solvay

レブリン酸 化学合成原料

イソプレン ゴム:Genencor/Goodyear、Amyris/Michelinなど、バイオ法開発段階

イタコン酸 コモノマー:Itaconix、青島科海生物

イソソルバイド 樹脂原料:Roquette

アジピン酸 ポリアミド:Rennovia、Verdezyne、Genomatica、BioAmber

2,5-フランジカルボン酸 ポリエステルPEF原料:Avantium、Corbion

ゼバシン酸 ポリアミドPA610、1010、11、12原料:Evonik、Arkema

PTTポリエステル等、DuPont/Take&Lyle

不飽和ポリエステル等、ADM

SAP、Cargill、Oxbio、Dow

Butamax、Cobalt/Rhodia、Cathay

アクリル酸原料、P3HPA、Cargill、OxBio、Dow

エチレン

ガソリン基材、化学原料化も進展

バイオPET(India Glycols)

エチレン不均化利用、バイオPP

エチレングリコール

EO/MEG原料化、バイオPE(HD、LLD/LD)

プロピレン

ラクチド

アクリル酸

PBS、THF、PTMEG:DuPont、BioAmber、Myriant/JM Davy

1,4-ブタンジオール

三菱レイヨン?iso-ブチレン、メタクリル酸

Gevo、Annelotech、Renomatix/Virentp-キシレン

n-ブタノール

ガソリン基油、化学原料:Gevoiso-ブタノール

Genomatica/Braskem、Versalis、Synthos1,3-ブタジエン

PBS:BioAmber、Myriant、Succinity、三菱化学コハク酸

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石油化学産業の発展と今後の展開~急速に増大かつ多様化する石油化学産業の原料と製品の機能~

光合成により生産される再生可能資源のバイオマス、特に非可食性バイオマスや、生産効率(反収)の高い植物資源、油脂などが有力な代替手段となる。図10に示すように、既にエチレン、プロピレン、乳酸、コハク酸、ブタノールなど、石油化学産業の多くの基幹中間体がバイオマス原料法で生産可能になっており、石油化学法では製造が困難な誘導品、石油化学製品を超える特性のバイオプラスチックスの開発も進んでいるので見通しは明るいと思われる。欧州Nova Instituteの2017年の発表によると、世界のバイオベースポリマーの生産量は660万t/y(ポリマー全体の約2%)に達している。また燃料利用が進むメタン等の高付加価値利用に関し、文部科学省JSTの「さきがけ」「CREST」では、「多様な天然炭素資源の活用に資する革新的触媒と創出技術」(研究統括:上田渉神奈川大学教授)に挑戦しており、近い将来の成果が期待されている。

追記:石油化学ではナフサ等からC2オレフィンであるエチレンを主成分とする生成物を得るが、この分解反応は高温での水素ラジカル引き抜きで生じた炭化水素ラジカル位に隣接したC-C結合の切断が起こることによって進行する。一方FCCに代表される接触分解では、固体酸触媒であるゼオライト上でカルベニウムイオンが生成し、カチオンに対してβ位(アリル位)のC-C切断が起こるため、プロピレンが生成、エチレンはほとんど生成しない。

執筆者紹介

大竹 正之(おおたけ まさゆき)[学歴] 1967年3月、東京大学大学院理学系研究科化学専門課程修士修了。博士(理学)。[職歴] 同年4月、三菱化学工業株式会社(当時)入社。中央研究所(当時)配属、石油化学プロセス開発を担当。1984年、同社水

島工場開発研究所、1989年、横浜総合研究所、1992年、ダイヤリサーチ(現・三菱ケミカルリサーチ)、現在に至る。この間、1992~1999年、横浜国立大学非常勤講師、1993~1994年、触媒学会理事、1994年「触媒技術の動向と展望」出版委員会副委員長、2016年、触媒学会参与。

[主な研究テーマ] 触媒化学、省エネルギー技術、再生可能エネルギー[主な著書] 触媒学会編「触媒技術の動向と展望」1993年版(初版)から、継続執筆中。

“Solar to Chemical Energy Conversion”、M. Sugiyama, K. Fujii, S. Nakamura editors, Lecture Notes in Energy 32, Springer、2016。

[趣味] 山歩き、庭仕事など

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