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理科教育学研究 Vol.54 No.2(2013) 225 ラムの刷新の過程において,探究能力の育成を目的 とした“Science-A Process ApproachSAPA)”とい う初等理科コースを開発した(AAAS, 1963)。SAPA では,プロセス・スキルズの習得により探究の能力 が育成できると考えられた。 理科教育の現代化運動から約 50 年を経た 2008 年 告示の学習指導要領では,探究する能力や態度の育 成の重要性が述べられており(文部科学省,2008a), 探究能力の育成は改めて時代に要請される課題と なっている。小学校理科では,学年ごとに育成すべ き問題解決の能力が明示されている(文部科学省, 1. はじめに アメリカ科学振興協会(American Association for the Advancement of Science; AAAS)は,1960 年代に 理科教育の現代化の一つとして展開されたカリキュ 原著論文 小・中学校の理科教科書に掲載されている 観察・実験等の類型化とその探究的特徴 ―プロセス・スキルズを精選・統合して開発した「探究の技能」に基づいて― 長谷川直紀 1 吉田  裕 2 関根 幸子 3 田代 直幸 4 五島 政一 4 稲田 結美 5 小林 辰至 5 【要   約】 本研究では,次の三つを目的とした。一つ目は,“Science-A Process ApproachSAPA)”の プロセス・スキルズを精選・統合して,我が国の理科教育に即した「探究の技能」を開発す ることである。二つ目は,小・中学校の理科の教科書に掲載されている観察・実験等につい て,新しく開発した「探究の技能」に基づいて類型化し,それらの探究的特徴を明らかにす ることである。三つ目は,小学校と中学校の理科で培う「探究の技能」の接続の観点から, それぞれの観察・実験等の類型の関連性を明らかにすることである。得られた結果は,以下 の通りである。 (1)SAPA のプロセス・スキルズを精選・統合して,新たに「探究の技能」として 7 つの上 位技能と 31 の下位技能を開発した。 (2)小学校の観察・実験等は,「探究の技能」に基づき探究的特徴のある5つに類型化できた。 (3)中学校の観察・実験等は,「探究の技能」に基づき探究的特徴のある6つに類型化できた。 (4)小学校の 5 つの類型に含まれる観察・実験等は,分化・発展したり統合されたりして, 中学校の 6 つの類型と密接に関連していることが明らかになった。 [キーワード]プロセス・スキルズ,観察,実験,探究,理科教科書 doi: 10.11639/sjst.13015 1 胎内市立中条中学校 2 十日町市立十日町中学校 3 長岡市立南中学校 4 国立教育政策研究所 5 上越教育大学

小・中学校の理科教科書に掲載されている 観察・実 …...SAPA のプロセス・スキルズの13の上位プロセスと 57の下位プロセスをもとに,現在の理科教育にお

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Page 1: 小・中学校の理科教科書に掲載されている 観察・実 …...SAPA のプロセス・スキルズの13の上位プロセスと 57の下位プロセスをもとに,現在の理科教育にお

理科教育学研究 Vol.54 No.2(2013)

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ラムの刷新の過程において,探究能力の育成を目的とした“Science-A Process Approach(SAPA)”という初等理科コースを開発した(AAAS, 1963)。SAPAでは,プロセス・スキルズの習得により探究の能力が育成できると考えられた。理科教育の現代化運動から約 50 年を経た 2008 年告示の学習指導要領では,探究する能力や態度の育成の重要性が述べられており(文部科学省,2008a),探究能力の育成は改めて時代に要請される課題となっている。小学校理科では,学年ごとに育成すべき問題解決の能力が明示されている(文部科学省,

1.�はじめにアメリカ科学振興協会(American Association for

the Advancement of Science; AAAS)は,1960 年代に理科教育の現代化の一つとして展開されたカリキュ

原著論文

小・中学校の理科教科書に掲載されている�観察・実験等の類型化とその探究的特徴

―プロセス・スキルズを精選・統合して開発した「探究の技能」に基づいて―

長谷川直紀 1

吉田  裕 2

関根 幸子 3

田代 直幸 4

五島 政一 4

稲田 結美 5

小林 辰至 5

【要   約】

本研究では,次の三つを目的とした。一つ目は,“Science-A Process Approach(SAPA)”のプロセス・スキルズを精選・統合して,我が国の理科教育に即した「探究の技能」を開発することである。二つ目は,小・中学校の理科の教科書に掲載されている観察・実験等について,新しく開発した「探究の技能」に基づいて類型化し,それらの探究的特徴を明らかにすることである。三つ目は,小学校と中学校の理科で培う「探究の技能」の接続の観点から,それぞれの観察・実験等の類型の関連性を明らかにすることである。得られた結果は,以下の通りである。(1) SAPAのプロセス・スキルズを精選・統合して,新たに「探究の技能」として 7つの上

位技能と 31 の下位技能を開発した。(2) 小学校の観察・実験等は,「探究の技能」に基づき探究的特徴のある5つに類型化できた。(3) 中学校の観察・実験等は,「探究の技能」に基づき探究的特徴のある6つに類型化できた。(4) 小学校の 5つの類型に含まれる観察・実験等は,分化・発展したり統合されたりして,

中学校の 6つの類型と密接に関連していることが明らかになった。

[キーワード]プロセス・スキルズ,観察,実験,探究,理科教科書

doi: 10.11639/sjst.13015

1 胎内市立中条中学校2 十日町市立十日町中学校3 長岡市立南中学校4 国立教育政策研究所5 上越教育大学

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長谷川・吉田・関根・田代・五島・稲田・小林:小・中学校の理科教科書に掲載されている観察・実験等の類型化とその探究的特徴

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つ目は,小学校と中学校の理科で培う「探究の技能」の接続の観点から,それぞれの観察・実験等の類型の関連性を明らかにすることである。

3.�方法3.1 �プロセス・スキルズを精選・統合した「探究の

技能の開発SAPAのプロセス・スキルズの 13 の上位プロセス及びそれらの下に設定されている 57 の下位プロセスに基づいて,「探究の技能」(上位技能と下位技能で構成することとした)を以下の手順で開発した。はじめに,下位技能について述べる。プロセス・スキルズの57の下位プロセスのうち,「①現行の小・中学校学習指導要領解説-理科編-で扱われていない下位プロセス」を削除した。「②互いに類似する要素をもつ下位プロセス」については統合し,「③数値や内容が限定的に示されているため適用範囲が狭められていた下位プロセス」と「④内容の解釈や実際の観察・実験等との対応の判別が難しい下位プロセス」については,文言の変更と表現の平易化を行った。また,必要に応じて,「新たに重要視する技能」の追加を行った。次に,上述の手順で精選・統合して作成した下位技能を集約して,上位技能を設定した。

3.2 �新しく開発した「探究の技能」に基づいた観察・実験等の類型化

3.2.1  分析の対象とした小学校と中学校の理科教科書平成 20 年告示の小・中学校学習指導要領に準拠して作成された 3社(X社,Y社,Z社)の小学校及び中学校用文部科学省検定済の理科教科書に掲載されている全ての観察・実験等を分析の対象とした。

3.2.2  教科書に掲載されている観察・実験等に含まれる「探究の技能」の分析

3社の教科書に掲載されている全ての観察・実験等を対象として,新しく開発した「探究の技能」の下位技能の一つ一つを含んでいるかどうかについて,分析を行った。観察・実験等が下位技能を含んでいると判断した場合は 1,含まれていないと判断した場合は 0として得点化した。なお,下位技能の有無の判断にあたっては,観察・実験等の手順における記述だけではなく,その観察・実験等の前後の教科書の記述も含めて分析し得点化した。

3.2.3  クラスター分析教科書に掲載された観察・実験等がもつ探究的な

2008b)。また,中学校理科では,小学校において習得した問題解決の能力を踏まえて科学的な探究能力の育成に取り組むことが示されている。このことから,探究能力の育成にあたっては,観察・実験等でどのようなプロセス・スキルズを用いるのか等の探究的特徴を明らかにしておく必要がある。吉山・小林(2011)は中学校の理科の教科書に記載されている全ての観察・実験等について,SAPAに掲載されているプロセス・スキルズ(SAPAのプロセス・スキルズは,基礎的プロセス,総合的プロセスからなる合計 13 の上位のプロセスと,57 の下位のプロセスから構成されており,本研究ではそれぞれを上位プロセス,下位プロセスと表記する)の,それぞれが含まれている割合と傾向から分析を行い,中学校の観察・実験等が 5つに類型化できることを報告している。さらに吉山・小松・稲田・小林(2012)は小学校の理科の教科書について同様の分析を行い,小学校の観察・実験等が 4つに類型化できることを報告している。しかしながら,吉山らのこれらの研究では,SAPAのプロセス・スキルズの 57 の下位プロセスを,我が国の小・中学校の観察・実験等にそのまま適用したため,いくつかの問題があった。それは,①現行の小・中学校学習指導要領解説-理科編-で扱われていない下位プロセスがあること,②互いに類似する要素をもつ下位プロセスがあること,③数値や内容が限定的に示されているため適用範囲が狭められる下位プロセスがあること,④内容の解釈や実際の観察・実験等との対応の判別が難しい下位プロセスがあることの 4つである。そこで,SAPAのプロセス・スキルズを精選・統合して,科学的な問題解決の能力を育成する上で必要な「探究の技能」を我が国の理科教育に即して新しく開発するとともに,その「探究の技能」に基づいて小・中学校の理科教科書に掲載されている観察・実験等の類型化を試みることにした。

2.�目的本研究では,次の三つを目的とした。一つ目は,

SAPAのプロセス・スキルズの 13 の上位プロセスと57 の下位プロセスをもとに,現在の理科教育において求められているスキルを考慮して,我が国の理科教育に即した「探究の技能」を開発することである。二つ目は,小・中学校の理科教科書に掲載されている全ての観察・実験等について,新しく開発した「探究の技能」が含まれている割合と傾向から類型化し,探究的特徴を明らかにすることである。三

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読み取ることと,探究の結果を他者に対して伝えるという二つの側面がある。前者は,探究の過程で自身の理解や解釈等に必要となる技能である。後者は,探究の後に,自身が明らかにしたことを整理し,他者へ伝えるための技能であり,近年重視されている「伝達の技能」に関するものである。したがって,後者の他者へ伝える技能を「探究の技能」とは別に,「伝達の技能」として設定した。

4.2 �小学校理科の教科書の観察・実験等の類型化とその特徴

3 社の小学校理科教科書に掲載されている全ての観察・実験等について,それぞれ階層クラスター分析を行った結果,A,B,C,D,Eの 5 つのクラスターに分けることができると判断した。階層クラスター分析により出力された 3社のデンドログラムを,図 3に示す。3 社のデンドログラムの形は類似しており,クラスターに含まれる観察・実験等の傾向や特徴が一致していることが明らかになった。なお,Z社については,6つのクラスターに分けることができると判断した。これは,各クラスターとの位置関係や含まれる観察・実験等の内容から,Aクラスターに含まれる観察・実験等が,「探究の技能」の傾向によって,2つに分けられたものと解釈できた。そのため,この観察・実験群を A’クラスターとした。3社の各クラスターに含まれる観察・実験等の領域の割合の傾向を図 4 から図 6 に示す。また,3 社のクラスターごとの観察・実験等の一覧を表 1から表 4に示す。各クラスターに含まれる観察・実験等の領域の割合の傾向を比較検討するために,3社それぞれについて χ2 検定及び残差分析を行った。その結果,3社のいずれにおいてもクラスターに含まれる各領域の観察・実験等の数の割合の偏りは有意であった(X社:χ2=65.869,df=12,p< .01,Y社:χ2=73.930,df=12,p < .01,Z 社:χ2=71.833,df=15,p< .01)。3 社の各クラスターにおけるクラスター内探究の技能含有率のグラフを,X社については図 7から図11 に,Y社については図 12 から図 16 に,Z社については図 17 から図 22 に示す。なお,3 社の AからEの各クラスターにおけるクラスター内探究の技能含有率のグラフは,ほぼ同様の傾向を示した。

4.2.1  Aクラスターの特徴Aクラスターは,図 7,図 12,図 17 のように「Ⅰ 事象を理解・把握するために観察する技能」,「Ⅱ 分類の基準に基づいて分類する技能」を多く含み,

特徴を類型化するために,それぞれの観察・実験等の下位技能の得点(含まれていれば 1,含まれていなければ 0)を独立変数として,Ward法による階層クラスター分析を行い,デンドログラムを作成した。各データの距離の算出には平方ユークリッド距離を使用した。

3.2.4  クラスターに含まれる観察・実験等の傾向それぞれのクラスターに含まれる観察・実験等に,物理・化学・生物・地学の内容領域の割合に特徴が認められるかどうかを検討するために,クラスターを独立変数,領域(物理・化学・生物・地学)を従属変数として,それぞれについて χ2 検定及び残差分析を行った。次に,図 1のようにクラスターごとに,それぞれの下位技能が含まれる観察・実験等の数をクラスターに属する観察・実験等の総数で割り,各クラスターにおける下位技能それぞれの含有率を百分率で求めた。これを「クラスター内探究の技能含有率」として,各クラスターの探究的特徴の検討に用いた。

4.�結果と考察4.1 �プロセス・スキルズを精選・統合した「探究の

技能」SAPAのプロセス・スキルズと,最終的に確定さ

れた「探究の技能」の関係を図2に示す。プロセス・スキルズの下位プロセスを精選・統合し,「探究の技能」として,31 の下位技能を設定した。さらに,「探究の技能」の上位技能については,プロセス・スキルズの上位プロセスの構成を参考にして,7つの上位技能を設定した。また,プロセス・スキルズの上位プロセスは,基礎的プロセスと総合的プロセスで構成されていたが,新しく開発した「探究の技能」では,全ての上位技能を並列化し,探究の過程に沿って配列した。なお,SAPAのプロセス・スキルズの「6 伝達する」の一部に関しては,「伝達の技能」として「探究の技能」から分離することにした。これは,伝達に関する技能は目的によって 2種類のとらえ方があると判断したためである。実験結果からグラフを作成する時に必要な技能を例に挙げると,探究の過程において得られたデータの特徴や傾向を

図 1 クラスター内探究の技能含有率の計算式

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図 2� SAPAのプロセス・スキルズと「探究の技能」の精選・統合との関係

※ �SAPAの下位プロセス番号は,「探究の技能」の下位技能が SAPAのどの下位プロセスに基づいて作成されたかを示している。

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変化・性質・構造等を調べ,記載を行う観察・実験群」と特徴付けることができる。なお,Z社においては,A’クラスターが Aクラス

ターと区別された。A’クラスターは,図 18のように「探究の技能」がほとんど含まれていないことが特徴としてあげられる。主に,ものづくりや資料を基にした調べ活動に関する内容を多く含む傾向にあると判断できる。教科書の記述を見てみると,Z社の傾向として,ものづくりを観察・実験と同様に扱い,製作の手順は示されてはいるが,「探究の技能」に関する記述はほとんどなかった。つまり,ものづくりにおける「探究の技能」の設定は,個々の教師の裁量に依存することを示している。Z社で区別されたA’クラスターは,「事象について調べ,記載・製作する活動群」と特徴付けることができる。

その他の探究の技能は少ない傾向にある。また,図4から図 6 のように領域別では,生物領域と地学領域が多い傾向が見られた。

Aクラスターの観察・実験等の内容を見ると,事象の性質や変化について調べ,気付いたことを記載する活動や,活動を通してものの名称を学習したり,用語を定義したりする観察・実験等が多く見られる。例えば X社の第 5 学年「花のつくりを観察しよう」のように,このクラスターに含まれる観察・実験の多くは,検証的な実験は行わないが,観察・実験を通して,事象の性質や変化,名称等を学習する特徴がある。以上のことから,Aクラスターは「事象の

図 5� Y 社の小学校教科書における各クラスターの領域の割合

図 4� X 社の小学校教科書における各クラスターの領域の割合

図 3� クラスター分析によって出力された 3社のデンドログラムの概略図(小学校)

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4.2.2  Bクラスターの特徴Bクラスターは,図 8,図 13,図 19 のように「Ⅰ 事象を理解・把握するために観察する技能」,「Ⅴ 観察・実験で測定する技能」,「Ⅵ データを解釈する技能」を多く含む傾向がある。また,図 4から図6 のように,領域別では生物領域が多い傾向が見られた。

Bクラスターの観察・実験等の内容を見ると,温度計を用いて計測したり,観測したりする観察・実験等が多く見られた。例えば,X社の第 4学年「植物の成長の様子を観察しよう」のように,このクラスターに含まれる観察・実験の多くは,検証的な実験は行わないが,計測や測定を行い,数値を用いて定量的に表現するという特徴がある。以上のことから,Bクラスターは「事象の変化・性質・構造等を計測したり観測したりして,記載を行う観察・実験群」と特徴付けることができる。

4.2.3  Cクラスターの特徴Cクラスターは,図 9,図 14,図 20 のように「Ⅰ 事象を理解・把握するために観察する技能」と「Ⅲ 観察・実験のための仮説を立てる技能」を多く含む傾向がある。また,他のクラスターに比べ,「Ⅵ- 4 観察した事柄や実験結果についてモデルを使って考察する。」が多く含まれている。また,図 4から図 6のように,領域別では化学領域が多い傾向が見られた。

Cクラスターの観察・実験等の内容を見ると,仮説を立てて検証実験を行うものや,事象の性質や変

図 6� Z 社の小学校教科書における各クラスターの領域の割合

表 1 �X 社の小学校教科書におけるクラスターごとの観察・実験等の一覧

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表 2 �Y 社の小学校教科書におけるクラスターごとの観察・実験等の一覧

表 3 �Z 社の小学校教科書におけるクラスターごとの観察・実験等の一覧(1)

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化の様子を定性的に捉え,検証するものが多く見られた。その際,事象の性質や変化についてモデル等を用いて考察したり,検証したりする活動が見られた。例えば,X社の第 4学年「水の温度を変えて体積の変わり方を調べよう」のように,このクラスターに含まれる観察・実験の多くは,既習事項をも

とに仮説を立て,事象の変化や性質を定性的に捉えて検証する活動が多い傾向がある。以上のことから,Cクラスターは「仮説を立てて,事象の性質や変化等を定性的に捉え,解釈する観察・実験群」と特徴付けることができる。

表 4 �Z社の小学校教科書におけるクラスターごとの観察・実験等の一覧(2)

図 7� X 社の小学校教科書におけるAクラスター内探究の技能含有率

図 8� X 社の小学校教科書におけるBクラスター内探究の技能含有率

図 9� X 社の小学校教科書におけるCクラスター内探究の技能含有率

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ように,領域別では,物理領域と化学領域が多い傾向が見られた。

Dクラスターの観察・実験等の内容を見ると,仮説を立てて検証実験を行うが,実験を計画するにあたり,条件を制御するものが多い。複数の独立変数を制御し,測定により定量的に従属変数を求める観察・実験等が多く見られる。例えば,X社の第 3学年「体せきを同じにしてしおとさとうの重さをくら

4.2.4  Dクラスタ-の特徴Dクラスターは,図10,図15,図21のように「Ⅰ 

事象を理解・把握するために観察する技能」,「Ⅲ 観察・実験のための仮説を立てる技能」,「Ⅳ 観察・実験で変数を制御する技能」,「Ⅴ 観察・実験で測定する技能」,「Ⅵ データを解釈する技能」等,他のクラスターと比較すると,探究の技能が多く含まれている傾向が見られる。また,図 4から図 6の

図 11� X 社の小学校教科書におけるEクラスター内探究の技能含有率

図 10� X 社の小学校教科書におけるDクラスター内探究の技能含有率

図 12� Y 社の小学校教科書におけるAクラスター内探究の技能含有率

図 13� Y 社の小学校教科書におけるBクラスター内探究の技能含有率

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4.2.5  Eクラスターの特徴Eクラスターは,図11,図16,図22のように「Ⅰ 事象を理解・把握するために観察する技能」,「Ⅲ 観察・実験のための仮説を立てる技能」,「Ⅳ 観察・実験で変数を制御する技能」を多く含む傾向にある。また,図 4から図 6のように,生物領域が多い傾向が見られた。

Eクラスターの観察・実験等の内容を見ると,仮

べよう」のように,このクラスターに含まれる観察・実験の多くは,既習事項をもとに仮説を立て,それを検証するために要因となる独立変数を条件制御して定量的な測定を行い,得られた結果を根拠にして考察を行うという特徴がある。以上のことから,Dクラスターは「仮説を立てて,独立変数を制御し,従属変数を測定し,定量的に解釈する観察・実験群」と特徴付けることができる。

図 17� Z 社の小学校教科書におけるAクラスター内探究の技能含有率

図 16� Y 社の小学校教科書におけるEクラスター内探究の技能含有率

図 15� Y 社の小学校教科書におけるDクラスター内探究の技能含有率

図 14� Y 社の小学校教科書におけるCクラスター内探究の技能含有率

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説を立てて,独立変数を制御し,従属変数の変化を定性的に捉え,解釈する観察・実験群」と特徴付けることができる。「探究の技能」を用いて,小学校の理科教科書に記載された観察・実験等の類型化から得られたクラスターの一覧は,表 5のようにまとめることができる。

説を立てて検証実験を行うにあたって条件を制御するものが多い。また,従属変数の変化を定性的に捉える観察・実験等が多く見られる。例えば,X社の第 6学年の「だ液がでんぷんを変化させるか調べよう」のように,このクラスターに含まれる観察・実験の多くは,観察をもとに仮説を立て,条件ごとの事象の変化を定性的に捉え,結果を導き出していく特徴がある。以上のことから,Eクラスターは「仮

図 21� Z 社の小学校教科書におけるDクラスター内探究の技能含有率

図 20� Z 社の小学校教科書におけるCクラスター内探究の技能含有率

図 18� Z 社の小学校教科書におけるA’クラスター内探究の技能含有率

図 19� Z 社の小学校教科書におけるBクラスター内探究の技能含有率

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スターに含まれる観察・実験等が,「探究の技能」の傾向によって,2つに分けられたものと解釈できた。そのため,この観察・実験群をD’クラスターとした。3社の各クラスターに含まれる観察・実験等の領域の割合の傾向を図 24 から図 26 に示す。また,3社のクラスターごとの観察・実験等の一覧を表 6から表 8に示す。各クラスターに含まれる観察・実験等の領域の割合の傾向を比較検討するために,3社それぞれについて χ2 検定及び残差分析を行った。その結果,3社のいずれにおいてもクラスターに含まれる各領域の観察・実験等の数の割合の偏りは有意

4.3 �中学校理科の教科書の観察・実験等の類型化とその特徴

3 社の中学校理科教科書に掲載されている全ての観察・実験等について,それぞれ階層クラスター分析を行った結果,A,B,C,D,E,Fの 6つのクラスターに分けることができると判断した。階層クラスター分析により出力された 3社のデンドログラムを,図 23 に示す。3社のデンドログラムの形は類似しており,クラスターに含まれる観察・実験等の傾向や特徴が一致していることが明らかになった。なお,Z社については 7つのクラスターに分けることができると判断した。これは,各クラスターとの位置関係や含まれる観察・実験等の内容から,Dクラ

図 23� クラスター分析によって出力された 3社のデンドログラムの概略図(中学校)

図 22� Z 社の小学校教科書におけるEクラスター内探究の技能含有率

表 5 小学校の各クラスターに含まれる観察・実験等の特徴

クラスター名 各クラスターの特徴

Aクラスター事象の変化・性質・構造等を調べ,記載を行う観察・実験群

Bクラスター事象の変化・性質・構造等を計測したり観測したりして,記載を行う観察・実験群

Cクラスター仮説を立てて,事象の性質や変化等を定性的に捉え,解釈する観察・実験群

Dクラスター仮説を立てて,独立変数を制御し,従属変数を測定し,定量的に解釈する観察・実験群

Eクラスター仮説を立てて,独立変数を制御し,従属変数の変化を定性的に捉え,解釈する観察・実験群

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図 26� Z 社の中学校教科書における各クラスターの領域の割合

図 25� Y 社の中学校教科書における各クラスターの領域の割合

図 24� X 社の中学校教科書における各クラスターの領域の割合

表 6 �X社の中学校教科書におけるクラスターごとの観察・実験等の一覧

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表 7 �Y 社の中学校教科書におけるクラスターごとの観察・実験等の一覧

表 8 �Z 社の中学校教科書におけるクラスターごとの観察・実験等の一覧

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のグラフは,ほぼ同様の傾向を示した。

4.3.1  Aクラスターの特徴Aクラスターは,図27,図33,図39のように「Ⅰ 事象を理解・把握するために観察する技能」,「Ⅱ 分類の基準に基づいて分類する技能」,「Ⅵ データを解釈する技能」を多く含む傾向がある。また,図24 から図 26 のように,化学領域が有意に多い傾向

であった(X社:χ2=80.790,df=15,p< .01,Y社:χ2=72.282,df=15,p < .01,Z 社:χ2=54.869,df=18,p< .01)。3 社の各クラスターにおけるクラスター内探究の技能含有率のグラフを,X社については図 27 から図32,Y社については図 33 から図 38,Z社については図 39 から図 45 に示す。なお,3 社の Aから Fの各クラスターにおけるクラスター内探究の技能含有率

図 28� X 社の中学校教科書におけるBクラスター内探究の技能含有率

図 27� X 社の中学校教科書におけるAクラスター内探究の技能含有率

図 29� X 社の中学校教科書におけるCクラスター内探究の技能含有率

図 30� X 社の中学校教科書におけるDクラスター内探究の技能含有率

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を行い,事物の性質を結論として得るという特徴がある。以上のことから,Aクラスターは「因果関係を有する事象の変化を操作的に定義し,帰納的に一般化する観察・実験群」と特徴付けることができる。

4.3.2  Bクラスターの特徴Bクラスターは,図28,図34,図40のように「Ⅰ 

が見られた。このクラスターに含まれる観察・実験等の内容を見ると,事象を定性的に捉え,検証的に実験を行うものが多く,事象の性質を操作的に定義する場面が多く見られる。例えば X社の「塩化銅水溶液の電気分解」の実験のように,このクラスターに含まれる観察・実験の多くは,所定の実験手順に従って探究

図 34� Y 社の中学校教科書におけるBクラスター内探究の技能含有率

図 33� Y 社の中学校教科書におけるAクラスター内探究の技能含有率

図 32� X 社の中学校教科書における Fクラスター内探究の技能含有率

図 31� X 社の中学校教科書におけるEクラスター内探究の技能含有率

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きの関係を見い出すなどの場面が多く見られる。例えば X社の「火成岩のつくり」のように,このクラスターに含まれる観察・実験の多くは,事象の観察から帰納や類推により,つくりと働きを関係付けたり変化の過程を推測したりするという特徴がある。以上のことから,Bクラスターは「事象の変化や構造等の観察と記載を行う観察・実験群」と特徴付け

事象を理解・把握するために観察する技能」,「Ⅱ 分類の基準に基づいて分類する技能」を多く含み,思考様式のほとんどが帰納法である。また,図 24 から図 26 のように,生物領域や地学領域が多い傾向が見られた。このクラスターに含まれる観察・実験等の内容を見ると,ものの特徴をとらえて観察と記載を行うことが多く,事象の比較や類推からもののつくりと働

図 38� Y 社の中学校教科書における Fクラスター内探究の技能含有率

図 37� Y 社の中学校教科書におけるEクラスター内探究の技能含有率図 35� Y 社の中学校教科書におけるCクラスター内探

究の技能含有率

図 36� Y 社の中学校教科書におけるDクラスター内探究の技能含有率

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から図26のように,地学領域が多い傾向が見られた。このクラスターに含まれる観察・実験等の内容を見ると,独立変数に着目した観察を通して,事象の性質や規則性を見いだす学習が行われることが多いが,操作的に定義したり,仮説を設定したりする場面は少ない。さらには,空間的なとらえ方が必要な観察・実験等が多く見られる。例えば X社の「月の

ることができる。

4.3.3  Cクラスターの特徴Cクラスターは,図29,図35,図41のように「Ⅰ 事象を理解・把握するために観察する技能」,「Ⅳ 観察・実験で変数を制御する技能」,「Ⅵ データを解釈する技能」を多く含む傾向がある。また,図 24

図 40� Z 社の中学校教科書におけるBクラスター内探究の技能含有率

図 39� Z 社の中学校教科書におけるAクラスター内探究の技能含有率

図 41� Z 社の中学校教科書におけるCクラスター内探究の技能含有率

図 42� Z 社の中学校教科書におけるDクラスター内探究の技能含有率

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4.3.4  Dクラスターの特徴Dクラスターは,図 30,図 36,図 42 のように,

X社については探究の技能含有率の値はそれほど高くはないものの,3社に共通して「Ⅰ 事象を理解・把握するために観察する技能」,「Ⅵ データを解釈する技能」を多く含み,演繹的な思考の場面が多い傾向にある。また,図 24 から図 26 のように,生物領域が多い傾向が見られた。このクラスターに含まれる観察・実験等の内容を見ると,学習したことを活用し,1つまたは複数の変数を測定したり,制御したりして発展的に考察する場面が多く見られる。例えば X社の「身近な自然環境の調査」のように,このクラスターに含まれる観察・実験の多くは,観察を通してそれまでの学習で得た知識を活用して,事象の変化や規則性を結論として得るという特徴がある。また,その際には,定量的に変数を扱う活動もあるが,指標生物で判断するなど測定器具を使用しない場合もある。以上のことから,Dクラスターは「1 つまたは複数の変数が関わる事象について規則性や法則性を見いだす観察・実験群」と特徴付けることができる。なお,Z社においては,D’クラスターが Dクラスターと区別された。D’クラスターは図 43 のように「Ⅲ 観察・実験のための仮説を立てる技能」,「Ⅳ 観察・実験で変数を制御する技能」の比率が高かった。このような傾向から,D’クラスターは,Dクラスターに比べると,独立変数の抽出や制御等に

形と位置」のように,このクラスターに含まれる観察・実験の多くは,決められた一つの独立変数と従属変数に着目して観察・実験を行い,事象の変化の特徴を結論として得るという特徴がある。以上のことから,Cクラスターは「因果関係を有する単純な事象の変化そのものから規則性を見いだす観察・実験群」と特徴付けることができる。

図 45� Z 社の中学校教科書における Fクラスター内探究の技能含有率

図 44� Z 社の中学校教科書におけるEクラスター内探究の技能含有率

図 43� Z 社の中学校教科書におけるD’クラスター内探究の技能含有率

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4.3.6  Fクラスターの特徴Fクラスターは,図32,図38,図45のように「Ⅳ 観察・実験で変数を制御する技能」,「Ⅴ 観察・実験で測定する技能」,「Ⅵ データを解釈する技能」を多く含む傾向がある。また,図 24 から図 26 のように,物理領域や化学領域が多い傾向が見られた。このクラスターに含まれる観察・実験等の内容を見ると,既習の知識を活用して,仮説を立てた探究活動も可能であるが,あくまでも所定の流れに沿った定量的な実験を行う場面が多く見られる。例えばX社の「直列回路と並列回路を流れる電流」のように,このクラスターに含まれる観察・実験の多くは,従属変数は明確であるが,それに関わる独立変数は,複数存在する。それらの独立変数それぞれについて,条件を制御して実験を行い,事象の規則性を結論として得るという特徴がある。仮説検証を行える実験もあるが,所定の実験手順に従って探究を行い,検証するという活動が多い。以上のことから,Fクラスターは「因果関係を有する事象について,条件ごとに変数を制御することを通して規則性を見いだす観察・実験群」と特徴付けることができる。「探究の技能」を用いて,中学校の理科教科書に記載された観察・実験等の類型化から得られたクラスターの一覧は表 9のようにまとめることができる。

5.�総合考察小・中学校の教科書に掲載されている全ての観察・実験等を新しく開発した「探究の技能」に基づいて類型化した結果,各類型による探究的特徴が浮き彫りとなった。なお,今回得られたクラスターの数は,小学校で5つ,中学校では6つであり,吉山・小林(2011)および吉山ら(2012)が得たクラスターの数と異なる結果となった。その理由は主に次の二つが考えられる。一つは,吉山らは SAPAのプロセス・スキルズの 57 の下位プロセスに基づいて分析を行ったのに対して,本研究ではそれらを精選・統合して我が国の理科教育に即して開発した「探究の技能」の下位技能に基づいて分析したことによるものである。もう一つは,吉山らは教科書に記述のないプロセス・スキルズの下位プロセスについても,教師が発展的な内容として扱うことが可能であると考えられた場合は得点化したのに対し,本研究ではより客観的な視点で教科書に記述があるもののみを得点化したことによるものである。以下,小学校と中学校の理科で培う「探究の技能」の接続の観点から,図46に基づいてそれぞれの観察・実験等の類型の関連性について総合的に考察する。

重点が置かれ,仮説を立てて実験を行うという特徴をもっているといえる。このことから,Z社で区別された D’クラスターは Dクラスターの特徴に加え,「変数を明らかにし,仮説を立てる観察・実験群」と特徴付けることができる。

4.3.5  Eクラスターの特徴Eクラスターは,図31,図37,図44のように「Ⅲ 観察・実験のための仮説を立てる技能」,「Ⅳ 観察・実験で変数を制御する技能」,「Ⅴ 観察・実験で測定する技能」,「Ⅵ データを解釈する技能」を多く含む傾向がある。また,図 24 から図 26 のように,物理領域が多い傾向が見られた。このクラスターに含まれる観察・実験等の内容を見ると,時間経過によって徐々に変化していくような現象を観察するなど,変数が明らかであり,その変数も制御が可能で,実験を通して生徒が自ら規則性を見いだせる場面が多く見られる。例えば X社の「電圧を変化させたときの電流の大きさ」のように,このクラスターに含まれる観察・実験の多くは,比例やグラフ化などの数学的な知識・技能を使用して結果をグラフなどで示すことによって,事象の変化の規則性を見いだすという特徴がある。以上のことから,Eクラスターは「因果関係を有する単純な事象について,仮説を設定して収集した定量的なデータをグラフ化するなどして,一般化する観察・実験群」と特徴付けることができる。

表 9 中学校の各クラスターに含まれる観察・実験等の特徴

クラスター名 各クラスターの特徴

Aクラスター因果関係を有する事象の変化を操作的に定義し,帰納的に一般化する観察・実験群

Bクラスター事象の変化や構造等の観察と記載を行う観察・実験群

Cクラスター因果関係を有する単純な事象の変化そのものから規則性を見いだす観察・実験群

Dクラスター1つまたは複数の変数が関わる事象について規則性や法則性を見いだす観察・実験群

Eクラスター

因果関係を有する単純な事象について,仮説を設定して収集した定量的なデータをグラフ化するなどして,一般化する観察・実験群

Fクラスター因果関係を有する事象について,条件ごとに変数を制御することを通して規則性を見いだす観察・実験群

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察・実験群」は定量的な内容を扱う点に特徴がある。中学校において定量的なデータを扱うものとして,比例やグラフ化などの数学的な知識・技能を使用する Eクラスター「因果関係を有する単純な事象について,仮説を設定して収集した定量的なデータをグラフ化するなどして,一般化する観察・実験群」と,条件ごとに変数を制御する Fクラスター「因果関係を有する事象について,条件ごとに変数を制御することを通して規則性を見いだす観察・実験群」がある。このことから,小学校の Dクラスターから,中学校のEクラスター及びFクラスターに内容が分化・発展していると解釈することができる。小学校の Eクラスター「仮説を立てて,独立変数

を制御し,従属変数の変化を定性的に捉え,解釈する観察・実験群」は,定性的な内容に関して条件制御を用いるという特徴がある。中学校においても定性的な内容を含み,複数の変数を扱うクラスターとして,Dクラスター「1 つまたは複数の変数が関わる事象について規則性や法則性を見いだす観察・実験群」がある。このことから,小学校の Eクラスターと中学校の Dクラスターは,小・中学校に共通するクラスターであると解釈することができる。以上より,小・中学校のクラスターの関連については,小学校における基礎的内容から中学校で統合されるクラスター,中学校でさらに分化・発展するクラスター,小・中学校で共通して扱うクラスターがあり,小・中学校の探究的特徴が密接に関連しているといえる。

6.�おわりに本研究では,SAPAのプロセス・スキルズを精選・統合して,我が国の理科教育に即した新しい「探究の技能」を開発した。そして,その新しい「探究の技能」に基づいて小・中学校の理科教科書に掲載されている観察・実験等の類型化を試み,各類型の探究的特徴を明らかにした。換言すれば,観察・実験等の類型化によって育成できる探究の技能に特徴があることを客観的に示すことができた。観察・実験等の指導にあたって,探究的特徴を踏まえて 31 のそれぞれの「探究の技能」を行動目標として設定すれば,評価の観点となる。観察・実験等の探究的特徴を踏まえることにより,その指導方法も異なってくると考えられる。例えば,分析に使用した 3社の小学校のものづくりの活動では,製作の手順は示されているが,培う探究の能力は明示されていない傾向にある。しかし,「探究の技能」を指導の観点として導入することで,

小学校の Aクラスター「事象の変化・性質・構造等を調べ,記載を行う観察・実験群」と Bクラスター「事象の変化・性質・構造等を計測したり観測したりして,記載を行う観察・実験群」はともに,事象の変化や構造等の仕組みを把握する基礎的な活動である。中学校においても事象の変化や構造等を把握する活動として,Bクラスター「事象の変化や構造等の観察と記載を行う観察・実験群」がある。このことから,小学校の Aクラスターと Bクラスターが,中学校の Bクラスターへ統合されていると解釈することができる。小学校の Cクラスター「仮説を立てて,事象の性

質や変化等を定性的に捉え,解釈する観察・実験群」は事象の変化のようすを定性的に捉えるという特徴がある。中学校においても事象の変化を定性的に捉えるという探究的特徴を有するものとして,Cクラスター「因果関係を有する単純な事象の変化そのものから規則性を見いだす観察・実験群」がある。さらに,中学校では,Aクラスター「因果関係を有する事象の変化を操作的に定義し,帰納的に一般化する観察・実験群」があり,事象の変化を操作的に定義して,その変化を捉える点に,探究の深まりが認められる。このことから,小学校の Cクラスターから,中学校の Cクラスター及び Aクラスターに内容が分化・発展していると解釈することができる。小学校の Dクラスター「仮説を立てて,独立変数を制御し,従属変数を測定し,定量的に解釈する観

図 46 小・中学校のクラスターの関係

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理科におけるものづくりの位置づけをより明確にできると考える。今後は,各類型の探究的特徴に基づいた指導方法や評価のあり方について実践を通して検討を行いたい。

付記本研究の一部は平成 24 年度日本理科教育学会全国大会(2012 年 8 月 12 日)において発表した。本稿は,その後,加筆・修正をしたものである。なお,本研究は,兵庫教育大学大学院連合学校教育学研究科共同研究プロジェクト M「地域における理数教育活性化のための教員研修モデル・プログラムの開発・評価に関する教育実践学的研究」の成果である。

引用文献Commission on Science Education of American Association for

the Advancement of Science (Eds.). (1963). Science-a process

approach commentary for teachers. AAAS/XEROX Corpora-

tion, 122–131.文部科学省(2008a)『中学校学習指導要領解説 理科編(平成 20 年 9 月)』大日本図書,5.文部科学省(2008b)『小学校学習指導要領解説 理科編(平成 20 年 8 月)』大日本図書,8.吉山泰樹・小林辰至(2011)「プロセス・スキルズの観点からみた観察・実験等の類型化-中学校理科教科書に掲載されている観察・実験等について-」『理科教育学研究』第 52 巻,第 1号,107–119.吉山泰樹・小松武史・稲田結美・小林辰至(2012)「プロセス・スキルズの観点からみた観察・実験等の類型化(2)-小学校理科教科書に掲載されている観察・実験等について-」『理科教育学研究』第 52 巻,第 3号,179–189.

(2013 年 3 月 18 日受付,2013 年 6 月 28 日受理)

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Classifying, According to Type, Observations, Experiments, and Other Learning Activities Carried Out in Science Textbooks of Elementary and Lower Secondary School, and Determining their

Inquiring Characteristics: With the Basis of the Skills for Observations Developed by Selecting and Integrating Process Skills

Naoki HASEGAWA 1, Yutaka YOSHIDA 2, Yukiko SEKINE 3, Naoyuki TASHIRO 4, Masakazu GOTO 4, Yumi INADA 5, Tatsushi KOBAYASHI 5

1 Nakajo Lower Secondary School, Tainai2 Tokamachi Lower Secondary School, Tokamachi

3 Minami Lower Secondary School, Nagaoka4 National Institute for Educational Policy Research of Japan

5 Joetsu University of Education

SUMMARYThis study is related to the following three objectives. The first objective is to develop the

skills that deal with science education in Japan by selecting and integrating the process skills of Science-A Process Approach (SAPA). The second is to classify, according to type, the observations, experiments, and other learning activities carried out in science textbooks of elementary and lower secondary school on the basis of the newly developed “skills for observation and experiment” and determine their inquiring characteristics. The third one is to demonstrate the relationship between the types of respective observations, experiments, etc. from a viewpoint of connecting the “skills of observation and experiment” cultivated in elementary and lower secondary school. The following results were obtained:

(1) Seven higher skills and 31 lower skills were newly developed as the “skills for observation and experiment” by selecting and integrating SAPA’s process skills.

(2) Observations, experiments, etc. at elementary school were classified, on the basis of the skills for observation and experiment, into five types with inquiring characteristics.

(3) Observations, experiments, etc. at lower secondary school were classified, on the basis of the skills for observation and experiment, into six types with inquiring characteristics.

(4) It was demonstrated that the observations and experiments at elementary school included in the five types were differentiated, developed, matched and integrated with the six types at lower secondary school.

<Key words> Process skills, Observation, Experiment, Inquiry, Science textbook