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-- () ・プロセス センター システム マネ ジャー TEL 〕  ( UDC 鉄鋼プロセス制御へのオープンシステムの適用 鉄鋼プロセス制御へのオープンシステムの適用 鉄鋼プロセス制御へのオープンシステムの適用 鉄鋼プロセス制御へのオープンシステムの適用 鉄鋼プロセス制御へのオープンシステムの適用 Application of Open System to the Process Automation in Iron-and-steel Making *(1) *(1) Nobuo SUMIDA Toshiaki UENO 鉄鋼プロセスの最適制御,自動化などを実現するプロセス制御システムにおいて,大幅なコスト削減と最新IT 技術の適用を実現するシステムソリューション活動として,オープン系プロセス制御用ミドルウェア“NS SEMI SYSTEM *1 ”を開発し,業界初とも言える汎用パーソナルコンピュータ,汎用OSを使用したオープン系プロセス 制御システムを実機化した。このミドルウェアの機能拡張により,適用プロセスの拡大が可能となり,現在,プ ロセスコンピュータ新設/老朽更新案件の大部分に適用を進めている。また電気計装分野も含めたオープン系シ ステムの適用技術を蓄積し,基盤となるミドルウェアとその豊富な支援ツールを全社レベルで共有化している。 また海外を含めた鉄鋼他社,他業界への適用も進めており,多様なニーズに迅速に対応すべく最新のオープン技 術をいち早く取り込んだオープン系システムソリューション活動を推進している。 Abstract Nippon Steel Corporation led the steel industry in adopting general-purpose personal computers and operating systems as process computer systems for automatic optimal control and developing the middleware NS SEMI SYSTEM in the activity of open system solution. The enhancement of middleware function has made the extension of adopting process field. Nowadays, the renewals of process computers projects mostly have adopted the middleware and great cost reduction has been achieved. The open system application technology including PLC and DCS fields is accumulating and the middleware and support tools originally developed as well are shared with all works. The middleware has been adopted not only in the steel industry including overseas but also in other industries. To keep up with various needs quickly, Nippon Steel Corporation is promoting open system solution activities and development on the latest open system technology. 1. における システム プロセス を対 して多 むために大 シス テムを している(図1 )。一 ,コスト IT した多 システム められており, るが プロセスコンピュータ(プロコン)に わって,オー プン コンピュータ 囲を拡大している。 してプロコン におけるオープン システ ムソリューション活 する。 経営戦略 生産戦略 プロセス制御 設備制御 生産管理用 コンピュータ プロセスコンピュータ 電気 PLC 計装 DCS 管理系 ビジネス コンピュータ B 操業系 ビジネス コンピュータ B プロセス コンピュータ C 電気計装 EI 応答性オーダー オフライン/バッチ処理 数s~数min 数10ms~数s 計装制御:s 電気制御:ms 図1 新日本製鐵の製鉄所の計算機システム機能分担

鉄鋼プロセス制御へのオープンシステムの適用 - …新 日 鉄 技 報 第 379 号 (2003) -8- 鉄鋼プロセス制御へのオープンシステムの適用

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-7- 新 日 鉄 技 報 第 379 号  (2003)

鉄鋼プロセス制御へのオープンシステムの適用

*(1) 環境・プロセス研究開発センター システム制御技術部 マネ

ジャー

千葉県富津市新富20-1 〒293-8511  TEL:(0439)80-2504

〔新 日 鉄 技 報 第 379 号〕  (2003)

UDC 681 . 3 : 669 . 1

鉄鋼プロセス制御へのオープンシステムの適用鉄鋼プロセス制御へのオープンシステムの適用鉄鋼プロセス制御へのオープンシステムの適用鉄鋼プロセス制御へのオープンシステムの適用鉄鋼プロセス制御へのオープンシステムの適用

Application of Open System to the Process Automation in Iron-and-steel Making

住 田 伸 夫*(1) 上 之 俊 昭*(1)

Nobuo SUMIDA Toshiaki UENO

抄  録鉄鋼プロセスの最適制御,自動化などを実現するプロセス制御システムにおいて,大幅なコスト削減と最新IT

技術の適用を実現するシステムソリューション活動として,オープン系プロセス制御用ミドルウェア“NS SEMI

SYSTEM*1”を開発し,業界初とも言える汎用パーソナルコンピュータ,汎用OSを使用したオープン系プロセス

制御システムを実機化した。このミドルウェアの機能拡張により,適用プロセスの拡大が可能となり,現在,プ

ロセスコンピュータ新設/老朽更新案件の大部分に適用を進めている。また電気計装分野も含めたオープン系シ

ステムの適用技術を蓄積し,基盤となるミドルウェアとその豊富な支援ツールを全社レベルで共有化している。

また海外を含めた鉄鋼他社,他業界への適用も進めており,多様なニーズに迅速に対応すべく最新のオープン技

術をいち早く取り込んだオープン系システムソリューション活動を推進している。

AbstractNippon Steel Corporation led the steel industry in adopting general-purpose personal computers and

operating systems as process computer systems for automatic optimal control and developing themiddleware NS SEMI SYSTEM in the activity of open system solution. The enhancement of middlewarefunction has made the extension of adopting process field. Nowadays, the renewals of process computersprojects mostly have adopted the middleware and great cost reduction has been achieved. The opensystem application technology including PLC and DCS fields is accumulating and the middleware andsupport tools originally developed as well are shared with all works. The middleware has been adoptednot only in the steel industry including overseas but also in other industries. To keep up with variousneeds quickly, Nippon Steel Corporation is promoting open system solution activities and developmenton the latest open system technology.

1. 緒  言

 製鉄所における計算機システムは,膨大なプロセスや設備を対象

として多種多様な品種を高品質で造り込むために大規模な階層シス

テムを構成している(図1参照)。一方,コスト削減とIT技術を応用

した多様なシステム構築も強く求められており,従来の高機能であ

るが高価な専用プロセスコンピュータ(プロコン)に代わって,オー

プン仕様の汎用コンピュータの適用範囲を拡大している。本報では

主としてプロコン分野と,電気計装分野におけるオープン系システ

ムソリューション活動の事例を紹介する。

経営戦略

生産戦略

プロセス制御

設備制御

生産管理用コンピュータ

プロセスコンピュータ

電気PLC

計装DCS

管理系ビジネス

コンピュータB

操業系ビジネス

コンピュータB

プロセスコンピュータ

C

電気計装EI

応答性オーダー

オフライン/バッチ処理

数s~数min

数10ms~数s

計装制御:s電気制御:ms

図1 新日本製鐵の製鉄所の計算機システム機能分担

Page 2: 鉄鋼プロセス制御へのオープンシステムの適用 - …新 日 鉄 技 報 第 379 号 (2003) -8- 鉄鋼プロセス制御へのオープンシステムの適用

-8-新 日 鉄 技 報 第 379 号  (2003)

鉄鋼プロセス制御へのオープンシステムの適用

2. プロコン(C)のオープン化

2.1 オープン化の背景

 鉄鋼プロセス制御は以下の特徴を有する。

(1) 大重量物を制御するにもかかわらずμm オーダーでの制御精度

要求の高さ

(2) 操業停止が望めない工場の24時間連続運転に耐えうる信頼性

(3) 大規模設備ゆえの大量情報処理

(4) 圧延設備にみられる高レスポンスの要求の厳しさ

(5) 製造プロセスの複雑さによる安定操業及び造り込みの難しさ

 この厳しい条件を満足するプロコンシステムの建設を1960年代よ

り継続し,現在新日本製鐵全社で約700システムが稼働している。

その過程でプロコンソフトウエアの全自製化とオープン系システム

の適用に至った歴史を振り返る。

(1) ハードウエア,ソフトウエアともに計算機メーカから購入(1960

年代)

(2) 核となる制御モデルからソフトウエア自製を開始(1970年代)

 鉄鋼製品の品質競争力に寄与するプロコンの制御モデルやオペ

レーション画面は製品製造上の操業ノウハウであり,これらの技術

担保が企業としての競争力を確保する上で重要と考えた。

(3) ソフトウエア自製率100%化(1980年代)

 日常的な操業や設備改善に伴うソフトウエアのメンテナンス費用

削減と迅速化,新製品向けライン新設時のシステム導入コストの削

減が必要であった。 自製化率を向上させていく過程で,ソフトウ

エア設計製作での人的な要因などにより,①ソフトウエア品質の向

上と②エンジニアリング生産性の向上が課題となった。このために

1980年代中頃までにエンジニアリングの標準化とソフトウエア構造

の標準化に取り組み,ソフトウェアの100%自製体制を構築した。

(4) オープン系システムの導入(1996年以降)

 自製化でのソフトウエア設計開発技術に基づき,オープン系プロ

セス制御システム構築用ミドルウェアの制定と開発(NS SEMI

SYSTEM*1)を実施し,現在,熱間圧延などの一部のプロセスを除い

て,全面的にこのミドルウェアを基盤としたオープン系プロセス制

御システムを採用している。

2.2 オープン系制御用ミドルウェア“NS SEMI SYSTEM*1”

 制御用専用プロコンを,市販のワークステーションやパーソナル

コンピュータ(PC)で代替可能とする汎用基本ソフトウエアである

オープン系制御用ミドルウェアとして,“NS SEMI SYSTEM*1”(図

2,3参照)を自製開発し,オープン系プロセス制御システムに幅

広く適用している。本章では,その機能と特徴,適用実績と事例,

今後の展開について述べる。

2.2.1 機能と特徴

 本ミドルウェアの機能と特徴(図4)は以下の通りである。

(1) オープン系OS(Operating System)を基幹系プロセス制御向けに信

頼性,処理性を向上

 オープン系システムの適用を開始した以前の専用プロコンでのソ

ユーティリティ(26)・タスク資源処理(8)・ファイル制御(3)・下位伝送(6)

・トレース他支援(9)

データ伝送(32)(一部オプション)・下位伝送(22)・上位伝送(6)・PIO(4)

共通(24)・時間処理(4)・コード処理(12)・データ処理(2)・計算処理(6)

ファイル制御(21)・排他制御(5)

・相対編成ファイル(2)・サイクリックファイル(3)・インデックスファイル(5)・RDB(6:オプション)

OSマクロ(8)・タスク起動管理(5)・共有資源管理(2)・現在時刻(1)

HMI (40)・表示設定(8)

・HMIコントロール(7)・HMIユーティリティ(9)・管理タスク(5)・VB関数(11)

OS

注:( )内は機能数

図2 NS SEMI SYSTEM*1機能

図3 NS SEMI SYSTEM*1適用システム構成

APソフト

A社専用プロコン B社専用プロコン

A社専用セミ

A社専用OS

A社プロコン

APソフト

NS SEMISYSTEM

Windows NT

PCサーバ

APソフト

NS SEMISYSTEM

Linux

PCサーバ

APソフト

NS SEMISYSTEM

各社Unix

各社サーバ

APソフト

B社専用セミ

B社専用OS

B社プロコン

1.言語: FORTRAN2.開発: 重電メーカ(自社専用機対象) ・ハードウエア売りのため独自色が基本3.ハードウエア選択肢: 狭い(4~5社)

1.言語: C言語2.開発: 新日本製鐵独自及び汎用性確保 ・どのハードウエア,OSでも動くことが基本3.ハードウエア選択肢: 広い数十社以上 最新オープン技術の享受が可能(フォルトトレラントシステム)

C言語用に再設定

OS機能不足を補完

 オープン系の主要OSをほとんどカバー

市販ソフトウエア適用可

Excel,Oracle他

AP:application OS:operating system

適 用 前 適 用 後

オープン系汎用プロセス制御サーバ

図4 NS SEMI SYSTEM*1特徴

*1 NS SEMI SYSTEMは,新日本製鐵株式会社の日本における登録商標

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-9- 新 日 鉄 技 報 第 379 号  (2003)

鉄鋼プロセス制御へのオープンシステムの適用

フトウエア自製時代からの,標準的な鉄鋼プロセス制御用AP

(Application)ソフトウエア(APソフト)自製開発で必要な機能を装備

している。また,高い信頼性・処理性を有する高機能APソフト開発

に適した汎用仕様の関数群他,ソフトウエア,OS,ミドルウエア設

定,APソフトの問題切り分けが効率的に実行できる各種支援機能を

装備している。これらの豊富な機能により,小規模から大規模シス

テムまで,汎用PCやワークステーションによる信頼性の高い基幹系

プロセス制御のオープン系システムでの構築を可能とした。

(2) オープン系の主要OSにほとんど対応

 Windows NT®*2,Windows® 2000*2,Linux®*3,各種UNIX®*4など

の主要なオープン系OSにほとんど対応しており,各システムごとに

最適なオープン系サーバの選択が可能である。各種OSの命令を過去

の各バージョンも含めて互換性,機能・性能面を解析し,普遍的な

OS命令(Win32API, UNIX®システムコール)に限定してミドルウェ

アを構築しているため高い信頼性の確保と,OSのバージョンアップ

による仕様差異の影響の最小化,最新OSへの追従を容易にしてい

る。

(3) APソフトのポ-タビリティを確保

 C/C++言語の特徴である関数型,構造体などに適したAPソフトと

の普遍的な関数インターフェース仕様を策定し標準化することで,

高いポータビリティ(移植性)を実現した。また,APソフト開発者の

ためにテンプレートを用意しており,各OS命令に関する専門知識の

ない一般プログラマーでも効率的に高信頼性のソフトウエア開発が

可能で,保守性のよい均一なソースプログラムのような品質面での

最適化も実現できる。

(4) リアルタイム性の高いヒューマンマシンインターフェース(HMI)

を実現

 表示データを一定周期やイベントにより自動更新する機能や,プ

ロセス制御に必要な豊富なグラフなどの表示設定部品を装備してい

る。また複数のサーバで発生するアラームを一元的に監視する機能

や,Webブラウザでの運用も可能である。

(5) 他システムとの豊富なインターフェースメニューの装備

 伝送ミドルウェア,プロセス入出力用ミドルウェアとして,TCP

/IPやBSC,無手順などによる多種多様な電気シーケンサ/PLCや

計装DCS,他コンピュータとの接続実績も豊富で,種々のシステム

や機器との接続が容易に実現可能である。TCP/IP伝送について

は,自動制御用に様々な異常検出とリカバリーが可能な規約を策定

し,基本的にはこれに準じて適用している。必要に応じてミドル

ウェアの伝送機能部を他システム側に供給することで,インター

フェィステストを簡略化することも可能である。またOPC(OLE for

Process Control)など各種のオープン系通信規約に準拠したミドル

ウェアも装備している。

2.2.2 適用実績と事例

 “NS SEMI SYSTEM*1”は,1995年より本格的な開発に着手し,長

期間に及ぶ連続耐久テストを経て,1997年に君津製鐵所ビレット連

続鋳造プロコン用として,Windows NT®PCサーバを鉄鋼プロセス

基幹制御としては初めて実機適用した1)。このシステムではソフト

ウエアで80%,ソフトウエアで20~30%の大幅なコスト削減(新日本

製鐵従来比)を実現し,現在まで順調に稼動を続けている。また

2001年の君津製鐵所第三高炉改修時のプロコン更新時には,Linux®

搭載サーバを同じく大規模プロコンとして初めて実機適用した2)。

 社内外の鉄鋼プロセス制御分野以外にも,化学分野や他の海外を

含めた他製造業での生産現場の統括制御,管理と上位の情報システ

ムとの連携を実現するMES(Manufacturing Execution System:業務実

行指示系システム)を構築するミドルウェアとしての適用が進み,

累計で140システム(サーバ台数では約300台以上)に適用されている

(図5)。

 次に,最近の大規模なオープン系プロセス制御システムでの新し

いオープン系通信規格OPCの適用事例を紹介する。

 従来はOPCインターフェース内蔵のメーカ独自パッケージを,主

として小規模な電気/計装/実績収集PC間のデータ送受信に部分適

用してきたが,メーカ毎にAPソフト開発用のスクリプト言語に差異

があり,多様なニーズへの対応が十分ではなかった。そのため,大

規模プロセス制御システムである電気/計装/プロコン間データ送

受信へのOPCインターフェースの全面適用を実施した。図6に示す

ように,C言語でのAPソフト開発を容易にする汎用OPC クライアン

*2 Windows, Microsoft Office, Excel, Word, Visioは,米国Microsoft Corpora-

tionの米国及びその他の国における登録商標または商標*3 Linuxは,Linus Torvaldsの登録商標*4 UNIXは,X/Open Company Limitedが独占的にライセンスしている米国

並びにその他の国における登録商標

35

8 16

25

2224

29

8

21

7

17

6

16

6

19

2

14

1

7

1997 1998 1999 2000年度

2001 2002

30

25

20

15

10

5

0

システム数

新日本製鐵社内 合計 新日本製鐵社外 合計 総計

Linux5%

Unix30%

Windows65%

総計140システム(サーバ台数約300)

図5 NS SEMI SYSTEM*1適用実績

プロコン制御用サーバ(Linux)

OPC版PI/Oセミ OPC版PI/Oセミ

OPC server

OPC版PI/OセミサーバタスクOPC版

PI/Oセミサーバタスク

OPC版クライアントセミOPC版

クライアントセミ

OPC DAサーバ(ソフトウエア)

OPC A&Eサーバ(ソフトウエア)

APサーバn(Windows)

APサーバ2(Windows)

メーカ独自I/F

PLC/DCS

AP (C)

OPC I/F

AP (C)

PI/O I/F

TCP/IP I/F

図6 NS SEMI SYSTEM*1適用事例-OPC-

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-10-新 日 鉄 技 報 第 379 号  (2003)

鉄鋼プロセス制御へのオープンシステムの適用

トセミを開発し,メーカ製パッケージに依存しない柔軟なシステム

の構築を可能とした。またLinux®システムとのOPC伝送を開発し,

Windows®以外のOSでのマルチベンダー構成での適用を可能とし

た。

2.2.3 今後の展開

 6年前のWindows NT® 3.51上で稼働したオープン系プロコンシ

ステムのAPソフトとNS SEMI SYSTEM*1の実行モジュール一式をそ

のまま最新のWinodws®2000サーバにコピーし(図7),ロングラン

での動作検証を実施した結果,正常に動作することが確認できた。

これはNS SEMI SYSTEM*1が普遍的なOS命令(Win32API)に限定し

てミドルウェアを構築した結果と,そのO S命令範囲内では

Win32APIの互換性が確保されていたことによる。外部とのイン

ターフェースはTCP/IPベースのNS SEMI SYSTEM*1での標準規約を

採用し,BSC伝送はTCP/IPでのプロトコルコンバータを採用した

システム構成であるため,今後のオープン系サーバ更新に際して,

非常に短期間でかつローコストで最新のサーバ機種への更新が実現

でき,またOSの互換性の問題が発生しても,NS SEMI SYSTEM*1内

のマイナーな部分的修正で効率的に対応でき,APソフトの変更が必

要ないことの確証を得ている。

 オープン系の主要OSにほとんど対応していることから,今後とも

更新,新設案件ともNS SEMI SYSTEM*1を全面適用していく方針で

ある。現状の鉄鋼プロセスの適用範囲(図8)に対して,今後の課題

は以下の通りである。

(1) 熱間圧延,厚板,冷間圧延など高速プロセスへの適用拡大に

は,更なる高信頼性とリアルタイム制御の実現が必要で,例えば

オープンなリアルタイムLinux®への搭載,分散サーバ間の高速な

データ共有と通信機能の開発を進めている。

(2) 多種の既存メーカプロコン老朽更新案件に対応していくため,

既存メーカセミソフトウエアをNS SEMI SYSTEM*1に置き換えてい

くためのミドルウェアのメニューの充実化を進めている。

(3) 最新OSバージョンと,ソフトウエア開発環境への追従を継続し

ていくため,NS SEMI SYSTEM*1の保守と長期サポートと,最新シ

ステム技術応用にも対応できる専門チームの体制を新日本製鐵社内

外対応で確保している。今後は,内部ツールである例えば汎用耐久

テストプログラムなどの更なる拡充と自動化を推進している。

2.3 プロコン老朽更新対策

 新日本製鐵社内プロコンの多くは,極限省力化と操業ノウハウの

自動化による品質確保上,システムダウンが操業停止につながるた

め,プロコン供給メーカの保守中止時期にあわせた更新を今後継続

的に実行していく必要がある。その際に稼働中の既存APソフトを,

オープン系システムに最小コストで移行するための自動変換システ

ムの開発と,新規にNS SEMI SYSTEM*1上でAPソフトを開発し直す

場合に,ソフトウエア開発生産性を向上させる支援システムの開発

を推進している。

2.3.1 既存APソフトのオープン系への変換システムの開発

 十数年前のメーカ製プロコンを,既存APソフトをそのまま流用す

るために,自動的に変換し,またNS SEMI SYSTEM*1を拡張するこ

とで,オープン系システムに効率よく更新した事例を紹介する(図

9参照)。

 既存プロコンAPソフトを新システムに流用する上で,従来,既存

のFORTRANセミ仕様で開発されたソースプログラムを,別のセミ

仕様上のC言語ソースプログラムに精度良く変換するソフトウエア

の実現が困難であった。セミ仕様の差異が固定のため,変換ソフト

ウエア自体はC言語などの手続き処理言語で単純な変換のみ実装可

能で,多大な手作業が残ったためである。

 また既存プロコン画面ソフトウエアを流用する上では,既設CRT

端末がメーカ独自仕様のため,端末側のクラアイントソフトウエア

の新規作成が必要であった。そのためFORTRAN言語からC言語へ

の変換は市販ソフトウエアを活用し,NS SEMI SYSTEM*1を拡張し

て変換効率の良い仕様を策定し,また変換ソフトウエアはオープン

ソースのスクリプト言語Perlを適用した。Perlは強力なパターンマッ

チング機能を特徴としたテキスト処理言語で,Linux®と同様イン

ターネットで普及,無料で入手可能なオープンソースソフトウエア

である。複雑な変換規則を試行錯誤しながらスパイラルアップで策

定でき,ルール形式で容易に実装可能であったため,必要な手作業

は極小的で済んだ。

 また画面用NS SEMI SYSTEM*1を拡張し,端末側クライアントAP

ソフトを自動生成するツールも開発し,全画面を変換ベースで流用

できた。

 最終的に,既存プロコンAPソフトのオープン系への変換をほぼ

99%以上の精度で自動変換する更新方式を確立し,従来の単純更新

案件での生産性に比べても2~3倍(従来の新日本製鐵比)の生産性

向上を達成した。

 今後は,本変換開発方式を主要メーカ毎に対応していく。また

FORTRAN以外の言語,例えば工業用BASICからC言語への言語変

換ツールも蓄積したPerl部品の組み合わせで開発済みである。既存

APソフトが高速プロセス入出力を使用している場合,オープン系で

の汎用な高速プロセス入出力をNS SEMI SYSTEM*1の追加メニュー

として拡充開発を進めている。

NS SEMISystemの拡張で適用済

当初適用範囲

システム規模

高炉転炉

プロセシングライン

冷間圧延

FA

熱間圧延

厚板

DDC

適用検討中

大規模

総合性能

図8 NS SEMI SYSTEM*1適用プロセスの拡大

図7 NS SEMI SYSTEM*1単純更新検証

既設システム 更新後システム

電気PLC 計装DCS プロトコルコンバータ 上位

計算機

APソフト

NS SEMI SYSTEM

OS (Windows NT 3.51)

実機サーバ(PentiumPRO MHz)

電気PLC 計装DCS プロトコルコンバータ 上位

計算機

APソフト

NS SEMI SYSTEM

OS (Windows 2000)

実機サーバ(Pentium-IV 2GHz)

Ethernet (TCP/IP通信) Ethernet (TCP/IP通信)

このままコピー

最新機種に更新

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-11- 新 日 鉄 技 報 第 379 号  (2003)

鉄鋼プロセス制御へのオープンシステムの適用

2.3.2 APソフト新規開発量の削減,生産性向上ツールの開発

 既存プロコンAPソフトが専用プロコンのOS命令を直接使用して

いたり,特殊な言語で開発されていた場合,また長年に及ぶ操業形

態や設備の変更に伴い既存APソフトが追加変更されたため保守性が

低下したり,必ずしもドキュメントにそれが反映されていない場合

もある。プロコン老朽更新時に,既存APソフトを解析し可視性を向

上させながら新規に作り直す作業が発生するが,その開発コスト削

減と工期短縮を図るため,豊富なオープン系開発支援の市販ソフト

ウエアと組み合わせて,プロコン老朽更新にも対応した既存のソフ

トウエア生産性向上ツールとAPパッケージの拡充開発を進めている

(図10)。

(1) アプリケーションパッケージ

 トラッキング,実績収集機能のAP作成量を軽減する共通関数群と

処理タスクからなるパッケージと,一部のプロセスについては最大

仕様のサブシステムを開発中である。

(2) 開発支援ツール

 Excelフォーマットの設計ドキュメントからAPソースを部分的に

自動生成する製作支援ツールや, APソースプログラムに対して新

日本製鐵社内基準での品質チェックをインタラクティブに行うコー

ディング規約チェッカーツールを装備している。また既存のAPソー

スプログラムの静的解析を行う既設システム解析ツールも,Perl部

品を活用してメニュー化している。

 画面帳票開発支援ツールは,クライアント/サーバ方式や3層構

造の画面AP構造のバリエーションに対応して,画面APソースプロ

グラムを自動生成する。大規模プロセスでのEIC統合端末でのマル

チモニタ,大型スクリーンなどでのマルチウインドウにも対応した

(図11)。また最近のインターネット時代に則して,グラフィカルな

プロコン画面をそのまま現場端末のWebブラウザでの実運用を可能

とした。端末側の種々なクライアントソフトウエアのインストール

と環境設定作業が不要なため,端末PC故障時の交換,増設など保守

性が格段に向上した。

 また,セキュリティ設定機能もあり,スタッフが現場から離れた

事務所のOA PCからオンライン画面とまったく同じ画面イメージで

リアルタイムにモニタすることができるため操業状況の把握と解析

に威力を発揮している。

(3) テスト支援ツール

 組み合わせ/総合テストシミュレータ,テストシナリオ作成支援

ツールの他に,ネットワーク上の必要なIPパケットをキャプチャー

してパラランサーバにリアルタイムに転送し,また後で再生するパ

ラランツールも実機適用し効果を発揮している。また既設のBSC回

線間にプロトコルコンバータを2台挿入して,パラランツールで既

存の伝文解析やテストデータ作成にも適用している。

CRT端末(メーカ独自)

CRT端末(メーカ独自)

140kstep

FORTRANセミ

既存プロコンAPソフト(FORTRAN言語)

画面APソフト(100画面)

FORTRANセミ(画面系)

専用OS専用ハードウエア

プロコンAPソフト(C言語)

画面APソフト

NS SEMI SYSTEM拡張(画面系)

NS SEMISYSTEM

端末側AP 端末側AP

NS SEMISYSTEM client

NS SEMISYSTEM client

オープン系OS (Linux)ハードウエア(PCをベース)

言語コンバータ

一次変換(市販ソフトウエア)FORTRAN->C

二次変換perlスクリプト言語適用

端末側APソフト自動生成

汎用PC

更新前(メーカ専用プロコン)

単純更新後(オープン系サーバ)

AP

セミ

図9 プロコン単純老朽更新システムの開発

開発支援サーバ/クライアント

オープン系OS

新日本製鐵全社情報共有サーバ

オープン系OS

NS SEMI SYSTEM

APソフト

パッケージ

実機サーバ

APソフト開発支援ツール

市販ソフトウエア

支援ツール

共有プログラム

NS SEMISYSTEM

図10 NS SEMI SYSTEM*1開発支援ツール

図11 プロコン画面開発支援ツール

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-12-新 日 鉄 技 報 第 379 号  (2003)

鉄鋼プロセス制御へのオープンシステムの適用

(4) 新日本製鐵全社共有システム

 上記アプリケーションパッケージやツールを全社共有サーバで一

元管理しており,各製鉄所でのAP開発ソフトウエアとドキュメント

も参照可能で,共通AP関数群やパッケージの蓄積,ソフトウエア開

発やエンジアリングノウハウの共有化も進めている。

3. 電気計装(EI)のオープン化

3.1 EIオープン化の課題

 電気計装を含めたシステム構造の変遷を振り返ると,1990年頃ま

ではメーカ独自技術に依存していた。

(1) CとEIはI/Oで接続した2階層システム(~1975年頃)

(2) CとEI(DDC化)のネットワーク接続(1975~85年頃)での3階層シ

ステム

(3) EICのHMI統合システム(1985~90年頃)

 1990年頃以降から現在に至り,図12の例に示すレベルまでオープ

ン化が進んでいる。EIのオープン化はまだ途上段階で,最終的な

EICオープン化後のシステム構成イメージを図13に示す。

 EIオープン化の課題としては,EIC通信とEIネットワークのオー

プン化,PLCとDCSのオープン化の課題があるが,後者を実現して

いく過程で必要となるEIソフトウエア標準化に向けた開発への取り

組みについて紹介する。

3.2 電気・計装ソフトウエア製作の標準化

3.2.1 概要

 電気PLC,計装DCSのソフトウエア製作に関しては,①ソフトウ

エア製作用ドキュメント(機能仕様書,ソフトウエア処理仕様書な

ど)に様々なフォーマットが存在する,②プログラム言語がハード

ウエアメーカ各社にて異なる,など標準化が遅れている。その結果

ドキュメントやソフトウエアの再利用性の向上や,それに伴うソフ

トウエア品質の向上に対する支障となっている。以下に電気,計装

各分野でのソフトウエア製作の課題と基本方針を具体的に示す。

3.2.2 計装DCSソフトウエア製作の課題と基本方針(表1参

照)

3.2.3 電気PLCソフトウエア製作の課題と基本方針

 電気においてはプログラム言語がラダー言語主体である場合が多

いため,計装での課題に加え更に以下の課題を抱えている3)。

①ラダー言語によるプログラムは論理組み合わせであり,ドキュメ

ントと作成したソフトウエアとの対応が取り難い。②同一のドキュ

メントから複数のソフトウエアができ得るため,ソフトウエア作成

者本人以外にはそのソフトウエアの解読が困難であり,後々のメン

テナンス性に劣る。③ソフトウエアのモジュール機能が脆弱なた

め,ソフトウエアの再利用が困難である。

 以上の問題点を解決し,ソフトウエアの判読性向上,モジュール

化を実現するため,ラダー言語に加えSFC(Sequential Function Chart)

言語,FBD(Function Block Diagram)言語,ST(Structured Text)言語

などを包含したIEC61131-3規格言語(JIS B 3503)を採用したPLCが

国内でも普及してきた。

 そこで,電気においては表1の基本方針に加え,ラダー言語でも

ソフトウエアの判読性が十分であるプラント(小規模プラントなど)

を除き,IEC規格言語をソフトウエア言語とすることを基本方針と

した。

3.3 電気計装ソフトウエア製作支援ツールの概要

 以上3.2節での基本方針に則り,電気計装ソフトウエア製作支援

ツール(以下,CASE)を開発した。計装,電気各々のCASEの構成を

図14,15に示す。

 本CASEの主要機能は以下の通りである。

制御システム(C:プロコン)

ハードウエア・ソフトウエアの汎用化実現済

EthernetGWとの通信

GW HMI

EIとの通信

Web化(C画面のみ)

フィールドネットワーク層

EIソフトウエア

E:電気 I:計装

各種I/O,センサなどのフィールド機器

図12 EICオープン化の課題(現状の高炉システム構成図の例)

制御システム(C:プロコン)

汎用I/Fでの通信

汎用ツールの利用

EIソフトウエア汎用化

HMI

汎用I/Fでの通信

E:電気 I:計装

各種I/O,センサなどのフィールド機器

図13 EICオープン化後のシステム構成イメージ

表1  計装DCSソフトウエア製作の課題と基本方針

従来のソフトウエア製作手順従来の課題

基本方針

ドキュメント(機能仕様書)⇒ソフトウエア(DCS)

①ドキュメントフォーマットが標準化されておらず,再利用性向上が困難

②ドキュメント作成が全て手作業で作業負荷大①以下の機能からなるソフトウエア製作支援ツールが必要(1)新日本製鐵社内で標準化されたソフトウエア部品・ドキュメントフォーマット装備

(2)ドキュメント作成時の入力支援機能の装備(3)ドキュメントの内,ソフトウエア作成関連情報をDCSにインポートする機能の装備

CASE

【各種リスト】

流量計リスト 一般・特殊計装機器リスト

計装弁リスト 油圧機器リスト タグ一覧リスト

リストデータ連携(タグ連携)

【機能仕様書】 ソフトウエア部品記号

ループ制御

計装ループ図

演算式

フローチャート・タイミングチャート

ロジック図

シーケンス制御

Microsoft Office(Excel,Word,Visio)など

手動単純変換

各社DCSソフトウエア

FBD

SFC

シーケンステーブル

図14 計装用CASE概要

Page 7: 鉄鋼プロセス制御へのオープンシステムの適用 - …新 日 鉄 技 報 第 379 号 (2003) -8- 鉄鋼プロセス制御へのオープンシステムの適用

-13- 新 日 鉄 技 報 第 379 号  (2003)

鉄鋼プロセス制御へのオープンシステムの適用

内の電気・計装制御装置用ドキュメントの再利用性の向上を図って

ゆくとともに,CASEドキュメントからソフトウエアへの手動コー

ディング負荷低減のためのインポートシステム構築の検討を行って

ゆく予定である。

4. 結  言

 オープン系プロセス制御用ミドルウェア“NS SEMI SYSTEM*1”を

核として,機能の拡張と開発支援ツールを体系的に開発し,実機適

用を拡大することで,プロコン老朽更新対策と今後の電気計装ソフ

トウエア開発への応用が進みつつある。また新日本製鐵以外の鉄鋼

他社,他製造業への適用も視野に入れ,ユビキタス時代の多様な

ニーズに対応すべく最新のオープン系システム技術応用開発とソ

リューション活動を更に発展させていくと同時に,オープン系の急

速な仕様拡張に対しても,普遍的な技術を見極めながら新日本製鐵

全社プロセス制御システムの基盤であるミドルウェアとツールの長

期サポート体制も継続していく所存である。

参照文献

1) 河原ら:ライトサイジング,オープン化システムの鉄鋼プロセスへの適用事例.

新日鉄技報. (363),37 (1997)

2) 下井ら:高炉プロセス制御へのオープン技術応用. 第143回日本鉄鋼協会春期講

演大会, 2002

3) 関口ら:シーケンス制御の技術動向. 電気学会技術報告 (781), 22など(2000.5)

【ソフトウエア構造仕様書】

【ソフトウエア処理仕様書】

ソフトウエア部品記号

リストデータ連携

【機能仕様書】 【各種リスト】

設備仕様

一般方案

個別方案

機器リスト 操作器具リスト

伝送リスト

プログラム変数リスト

タスク(POU)相関図

モード遷移

主幹制御

自動シーケンス制御

演算処理

インターロック

IOリスト

Microsoft Office(Excel,Word,Visio)など

手動単純変換

各社PLCソフトウエア(IEC 61131-3準拠)

ラダー

FBD

SFC

ST

CASE

図15 電気用CASE概要

図16 CASEドキュメント例①

図17 CASEドキュメント例②(入力支援機能)

リストデータ参照ウインドウ

リストデータを切り貼り

3.3.1 ソフトウエア部品記号,ドキュメントフォーマットの標

準化(例:図16)

①汎用ソフトウエア(Microsoft Office:Excel, Word, Visio)をベース

に,JIS記号部品,IEC61131-3言語に準拠した各種ソフトウエア

部品などをカスタマイズ

②ドキュメントからソフトウエアへのコーディングを単純化できる

様に,コーディングルールを作成

3.3.2 データベースを用いた各種リストとドキュメントのデー

タ連携(例:タグ連携など,図16)

3.3.3 変数名入力,ソフトウエア部品入力効率向上の為の各種

入力支援機能(例:図17)

 今後,本CASEツールにてドキュメントを蓄積し,新日本製鐵社