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奈良教育大学 教育実践開発研究センター研究紀要 第21号 抜刷 2012年 3 月 学校内外における表現・コミュニケーションの学びに関する基礎研究 小柳和喜雄 (奈良教育大学) A Preliminary Study on the Learning around Expression- Communication at School and out of School Wakio OYANAGI (Nara University of Education)

学校内外における表現・コミュニケーションの学びに関する ...2012年3月 学校内外における表現・コミュニケーションの学びに関する基礎研究

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  • 奈良教育大学 教育実践開発研究センター研究紀要 第21号 抜刷

    2012年 3 月

    学校内外における表現・コミュニケーションの学びに関する基礎研究

    小柳和喜雄(奈良教育大学)

    A Preliminary Study on the Learning around Expression- Communication at School and out of School

    Wakio OYANAGI(Nara University of Education)

  • 1.はじめに

    Yahoo 知恵袋、Twitter、Facebook などソーシャル・メディアと言われているものの若者の活用に関わって、様々な指摘がなされてきた。例えば、以下述べる様々な指摘を図に示すと図1のようになる。

    まず影の面や情報ネットワークの世界と効果的に付き合っていくことと関わっては、日本でも早くから情報モラルに関する取り組み、子どもの生活環境・メディア環境の変化と遊び・人間関係の変化の問題に対する指摘とその取組、MMORPG などとも関わるゲームに対する取組、などが進められてきた(堀田 2004、中西 2000、仙田 2009、坂元 2005)。

    次 に 必 要 性 や 可 能 性 に 関 わ っ て は、The Partnership for 21st Century Skills (2009)、 ATC21S

    (Assessing and Teaching 21st Century Skills)、などにも見られるように、知識基盤社会を生きていく力、ICT、ソーシャル・メディアの効果的な利用も視野に入れた新たな世代の教育に求められる力の育成を推進しようとする試みが行われてきた1)。日本でも教育の情報化ビジョンが新たに示され、子どもたちに携帯端末を持たせて授業を行うフューチャー・スクール・プロジェクト、学びのイノベーションなどの取組が行われてきている 2)。

    学校内外における表現・コミュニケーションの学びに関する基礎研究

    小柳和喜雄(奈良教育大学)

    A Preliminary Study on the Learning around Expression- Communication at School and out of School

    Wakio OYANAGI(Nara University of Education)

    要約:子どもたちを取り囲むメディア環境が大きく変わり、そこでの学び方(フォーマル、ノンフォーマル、インフォーマルな学習の関係など)が問われ、学びの内容・質を問う動きが、学校教育にも大きな影響を与えつつある。そこで、ソーシャル・メディア利用による子どもたちの言語活動と学校で求められている言語活動の関係を考えていくために、実態を把握し、問題を視覚化ができる研究方法の探求に関心を向けた。とりわけ、ソーシャル・メディアの利用は、プライベートマインドの育成を越える点もあるため、ディスコース分析の中でもクリティカル・ディスコース・スタディーに関心を向けている。本論では、この関心を考えていくために、文献調査を通じて関連研究マップを作成し、そこから引き出した知見から検討を加え、関係理解に向けて利用可能性がある方法を明らかにしている。

    キーワード: 言語活動、ソーシャル・メディア、ディスコース分析、研究法      Language Activity、 Social Media、 Discourse Analysis、 Research Method

    例えば、実際に、子どもたちのメディア接触行動に関する研究は、ソーシャル・メディアの利用に関心を向け、学校外での自己表現、コミュニケーション、協働活動が、そこでの言葉遣いや文法、方法などを次々と生み出し、子どもたちの間で共有されてきていることを報告してきている (Davidson & Goldberg 2010、 Flanagin & Metzger 2010。 Ito ら 2009)。さらに Jenkins ら(2009)は、「これから求められる一連の社会的スキルと問題解決・協働の力」として、次の11 の能力を取り上げ、その教育的な可能性と必要性の指摘をしている。 ① Play: 問題解決の 1 つの形として、周りの環境

    にはたらきかけ、試す能力

    図1 子どもの周りのメディア環境の変化と学校内外の取組の指摘

    19

  • 境にはたらきかけ、試す能力 ② Performance: 改善や発見を目的として、状

    況に合った選択的な自己を示せる能力 ③ Simulation: 現実世界の過程にあるダイナミ

    ックなモデルを理解でき構成できる能力 ④ Appropriation:メディアの内容から、その意

    味に応じて使える事例を取り上げたり、活用

    できる能力 ⑤ Multitasking: 環境を読み取り、より重要な

    詳細へ同時に目を向けることができる能力 ⑥ Distributed cognition: 認知的な力を拡張す

    る、意味ある道具を取り扱える能力 ⑦ Collective intelligence: 知識を蓄え、共通の

    ゴールに向けて他の人とそれを比較検討して

    いける能力 ⑧ Judgment: 異なる情報ソースの信頼性や違

    いを評価できる能力 ⑨ Transmedia navigation: 多様な様式の情報

    からくる話や内容に寄り添える能力 ⑩ Networking: 情報を探し、統合し、普及する

    能力 ⑪ Negotiation: 多様な見通しを区別、尊重でき、

    また選択的な基準を理解し、それに従いなが

    ら、様々なコミュニティと関われる能力

    このように、知識基盤社会の到来に対して、その

    光と影に関わって、様々な調査や取組が検討されて

    きている。ところが情報技術に関わる先進的な開発

    に寄与していると思われる日本は、案外、次の調査

    データによると他の国に比べ、学校内外とも、コン

    ピュータやインターネットの利用はそれほど多く

    ない現状が見られる(図2参照:PISA 2009 Results: Students On Line: Digital Technologies and Performance (Volume VI) - © OECD 2011)。 これらの現実をどのようにとらえていったらい

    いのか。 また一方で、上記のような ICT やソーシャル・メ

    ディアに限定することはないが、日本の学校でも

    様々なメディアやメッセージと関わる学校内の教

    育活動における言語活動に目を向けようとする動

    きが見られる。例えば「言語活動の充実(①知的活

    動(論理や思考)に関すること、②コミュニケーシ

    ョンや感性・情緒に関すること)」と言われている

    取組がそれであり、表現、コミュニケーション、協

    同・協働活動へ関心を向けようとしている。 しかし、学校外で子どもたちが身につけているこ

    とと、学校で求めているものの関係が、子どもにも

    教師にも意識化されにくく、ここ 10 年をみても、そこに乖離が生じている状況がある(図3参照:こ

    Figure VI.5.13Percentage of students who reported using the Internet at home and at school

    Australia

    Austria

    Belgium

    Canada

    Chile

    Czech Republic

    Denmark

    Estonia

    Finland

    Germany

    Greece

    Hungary

    Iceland

    Ireland

    IsraelItaly

    Japan

    Korea

    Netherlands

    New Zealand

    Norway

    PolandPortugal

    Slovak Republic

    Slovenia

    Spain

    Sweden

    Switzerland

    Turkey

    Bulgaria

    Croatia

    Hong Kong-China

    Jordan

    Latvia

    Liechtenstein

    LithuaniaMacao-China

    Panama

    Qatar

    Russian Federation

    Serbia

    Singapore

    Thailand

    Trinidad and Tobago

    Uruguay

    30

    40

    50

    60

    70

    80

    90

    100

    30 40 50 60 70 80 90 100

    Percentage of students using the Internet at school

    Percentage of students using the Internet at home

    OECD average-29

    OECD average-29

    Above-average Internet use at schoolBelow-average Internet use at home

    Below-average Internet use at school and at home

    Above-average Internet use at school and at home

    Below-average Internet use at schoolAbove-average Internet use at home

    家庭におけるインターネットの利用

    学校におけるインターネットの活用

    図2 学校内外における子どもたちのインターネット利用の国際比較調査結果

     ② Performance: 改善や発見を目的として、状況に合った選択的な自己を示せる能力

     ③ Simulation: 現実世界の過程にあるダイナミックなモデルを理解でき構成できる能力

     ④ Appropriation: メディアの内容から、その意味に応じて使える事例を取り上げたり、活用できる能力

     ⑤ Multitasking: 環境を読み取り、より重要な詳細へ同時に目を向けることができる能力

     ⑥ Distributed cognition: 認知的な力を拡張する、意味ある道具を取り扱える能力

     ⑦ Collective intelligence: 知識を蓄え、共通のゴールに向けて他の人とそれを比較検討していける能力

     ⑧ Judgment: 異なる情報ソースの信頼性や違いを評価できる能力

     ⑨ Transmedia navigation: 多様な様式の情報からくる話や内容に寄り添える能力

     ⑩ Networking: 情報を探し、統合し、普及する能力

     ⑪ Negotiation: 多様な見通しを区別、尊重でき、また選択的な基準を理解し、それに従いながら、様々なコミュニティと関われる能力

    このように、知識基盤社会の到来に対して、その光と影に関わって、様々な調査や取組が検討されてきている。ところが情報技術に関わる先進的な開発に寄与

    していると思われる日本は、案外、次の調査データによると他の国に比べ、学校内外とも、コンピュータやインターネットの利用はそれほど多くない現状が見られる(図 2 参照:PISA 2009 Results: Students On Line: Digital Technologies and Performance (Volume VI) - © OECD 2011)。

    これらの現実をどのようにとらえていったらいいのか。

    また一方で、上記のような ICT やソーシャル・メディアに限定することはないが、日本の学校でも様々なメディアやメッセージと関わる学校内の教育活動における言語活動に目を向けようとする動きが見られる。例えば「言語活動の充実(①知的活動(論理や思考)に関すること、②コミュニケーションや感性・情緒に関すること)」と言われている取組がそれであり、表現、コミュニケーション、協同・協働活動へ関心を向けようとしている。

    しかし、学校外で子どもたちが身につけていることと、学校で求めているものの関係が、子どもにも教師にも意識化されにくく、ここ 10 年をみても、そこに乖離が生じている状況がある(図3参照:これは2011 年8月の免許更新講習時に参加者の教員に依頼をして回答を得た結果を各学校園の調査合計人数に占める選択項目の人数割合という形に直して棒グラフで表現し比較を行ったものである)。

    つまり、我々は、子どもたちがインターネットを活

    図2 学校内外における子どもたちのインターネット利用の国際比較調査結果

    家庭におけるインターネットの利用

    学校におけるインターネットの活用

    小柳 和喜雄 学校内外における表現・コミュニケーションの学びに関する基礎研究

    20 21

  • 用していると思っているが国際比較を見ると学校内外ともそれほど多くはない。また非対面的なソーシャル・メディアなどを使ったコミュニケーションが学校外で活発化し、一方で対面的な学校環境では「話が聞けない」、「人と関われない・話せない」という言語活動の乖離した現象が生じているとする問題が指摘されている。このように思い込みや我々の見立てとずれている現象、そして乖離現象が実際に現れてきている。そのため、我々はこのような現状把握や取組課題と向かい合う必要があると考える。

    本研究では、このような状況に鑑み、あらためて、ソーシャル・メディア利用による子どもたちの言語活動と学校で求められている言語活動の関係を考えていくことに関心を向けている。

    ₂.研究の目的

    したがって、本研究では、あらためて、学校外のメディア利用、とりわけソーシャル・メディア利用による子どもたちの言語活動と学校で求められている言語活動の関係を考え、教育内容・方法の検討を進めていくために、その実態を把握し、問題を視覚化でき、情報モラルの指導と教科指導を関係づけて指導できる利用可能な研究方法を探り、その可能性を検討することを目的とした。

    ₃.研究の方法

    研究の手続きとしては、まず対象として、以下説明するが、1) 先行研究からその利用可能性があると考え

    られるクリティカル・ディスコース・スタディーを取り上げた。

    次に、2) その関連研究マップ(次ページ図4参照:図 4 は、Wadak,& Meyer M.(ed.)(2009) が作成している関連マップに、Rogers, R (ed.). (2011) の研究などを参照しながら筆者が加筆修正を行い作成したもの)の作成を行った。そして、3) 今回は、このマップを用い、学校での言葉の教育と直結する国語科教育と関わらせながら考えられ、学校外のメディア利用も取り上げられる方法を取り上げ、その可能性の検討を行った。

    これらに着目する理由は、先の調査結果から見えてきたこととして、その教育を社会的実践と関連づけてとらえていくことがより必要になってきていることがあげられたからである。

    つまり社会的実践と言葉、学校での学びの関係を考えていく上で、言葉の織りなす世界を考えようとするディスコース分析・実践(橋内 2007)は、その目的の達成に向けてより距離が近い方法と判断した。

    またとくに言葉の教育と直結する国語科教育と関わって、学校内外の学びの関係、橋渡しを考えていく場合にも、これらのアプローチが重要であり、また重層的に関わっていると判断したからである。

    ₄.取り上げた CDS の系譜の概略

    CDS (Critical Discourse Studies) は、CL(Critical Linguistic ) や CDA(Critical Discourse Analysis) と互換的に使われることが多い。言語論的転換以降、言語実践に関心を持つ幅広い専門領域の人々が語る理論・方法であり、言語分析をベースにするが、社会的実践

    図3 最近10年間で子どもたちが変わったと思えること

    小柳 和喜雄 学校内外における表現・コミュニケーションの学びに関する基礎研究

    20 21

  • の一つに言語を取り扱うなど、幅広く様々な記号・行為も取り扱う。このため大きな枠組みでは CL に含まれるが、その研究の広がりは、従来の CL よりも幅広い。

    CL は、1970 年 代 か ら 1980 年 代 に か け て、East Anglia 大学の Fowler、 Trew、 Kress などによって行われた言語学が出発点となっている。

    また関連する CDA の関係者は、共通する特徴

    考えていく上で、言葉の織りなす世界を考えようと

    するディスコース分析・実践(橋内 2007)は、その目的の達成に向けてより距離が近い方法と判断

    した。 またとくに言葉の教育と直結する国語科教育と

    関わって、学校内外の学びの関係、橋渡しを考えて

    いく場合にも、これらのアプローチが重要であり、

    また重層的に関わっていると判断したからである。 4.取り上げたCDSの系譜の概略

    CDS (Critical Discourse Studies)は、 CL(Critical Linguistic ) やCDA(Critical Discourse Analysis)と互換的に使われることが多い。言

    語論的転換以降、言語実践に関心を

    持つ幅広い専門領域の人々が語る理

    論・方法であり、言語分析をベース

    にするが、社会的実践の一つに言語

    を取り扱うなど、幅広く様々な記

    号・行為も取り扱う。このため大き

    な枠組みでは CL に含まれるが、その研究の広がりは、従来の CL よりも幅広い。

    CL は、1970 年代から 1980 年代にかけて、East Anglia 大学の

    Fowler、 Trew、 Kress などによって行われた言

    語学が出発点と

    なっている。 また関連する

    CDA の関係者は、共通する特徴と

    してテキスト分

    析に関わって、

    Halliday(1978)の Functional

    Systemic Grammar(選択体系機能文法)に

    依拠している傾

    向が見られる(小

    柳 2005 、小柳2008 、 Rogers 2011)。 しかしCDAの

    研究が、イデオロギー批判や政策批判などを行う際

    に、ある考えに傾斜した分析手法と限定してとらえ

    られることがある。そのため、それを避けるために、

    最近では、CDS という言葉を使う動きが出てきている(Wadak& Meyer 2009)。 そのため、本研究でも、CDS という形で括られ

    る研究を対象にしている。

    図4 CDS の関連研究マップ

    Discourse-HistoricalApproach (Ruth Wodak and

    Martin Reisigl)

    Corpus-LinguisticsApproach (Gerlinde Mautner)

    Social Actors Approach (Theo van Leeuwen)

    Dispositive Analysis (Siegfried Jäger and Florentine Maier)

    Sociocognitive Approach 2(Teun van Dijk)

    Dialectical-Relational Approach(Norman Fairclough)

    Overall research strategy Main theoretical attractor

    M.Foucault

    Critical Theory

    K.Marx

    S.Moscovici

    SymbolicInterationism

    M.K.Halliday

    Ded

    uctiv

    e, g

    ener

    al

    Pers

    pect

    ive

    Indu

    ctiv

    e, d

    etai

    led

    Case

    Stu

    dies

    Ruth Wodak and Michael Meyer 2009 p.20に一部加筆

    Multimodal Discourse Study(Gunter Kress)

    Socio-cognitive Approach 1(James Paul Gee)

    Cognitive Science

    Socio-cultural

    メディア表現・コミュニケーションなどと関わる国語科教材に着目すると(光村図書の場合)

    話す・聞く

    図表や絵,写真などから読み取ったことを基に

    書く

    学級新聞などに表したりする

    収集した資料を効果的に使い

    記録や報告の文章,図鑑や事典などを読んで利用する

    読む

    資料を提示しながら 引用したり,図表やグラフなどを用いたりして

    編集したりする

    編集の仕方や記事の書き方に注意して新聞を読む

    図表などを用いた

    文章と図表などとの関連を考えながら

    多様な方法で集め整理する

    新聞やインターネット,学校図書館等の施設などを活用して

    資料などを活用して報道などに盛り込まれた情報を比較

    3・4

    5・6

    中1

    中2

    中3

    【しりょうから分かったことを発表しよう】3年下

    【読書生活について考えよう】4年上【新聞を作ろう】4年上

    【アップとルーズで伝える】中谷日出 4年下

    【「仕事リーフレット」を作ろう】4年下

    【新聞を読もう】5年【天気を予想する】武田康男 5年

    【グラフや表を引用して書こう】5年

    【「平和」について考える】6年

    【ゆるやかにつながるインターネット】

    【この絵,わたしはこう見る】6年【ニュース番組作りの現場から】【『鳥獣戯画』を読む】

    【通信文のいろいろ】

    図5 国語の教科書に見られるメディア表現や読解の指導事項

    と し て テ キ ス ト 分 析 に 関 わ って、Halliday(1978) の Functional Systemic Grammar(選択体系機能文法)に依拠している傾向が見られる(小柳 2005、小柳 2008、 Rogers 2011)。

    しかし CDA の研究が、イデオロギー批判や政策批判などを行う際に、ある考えに傾斜した分析手法と限定してとらえられることがある。そのため、それを避けるために、最近では、CDS という言葉を使う動きが出てきている (Wadak& Meyer 2009)。

    そのため、本研究でも、CDS という形で括られる研究を対象にしている。

    別の言い方をすれば、図6を使って説明すると、国語科教育とメディア・リテラシーの関係は問われ、実践され、研究が積み重ねられてきたといえる。

    また、国語科教育は、「言語活動の充実」の指導の要として期待が高いため、図6のメディア・リテラシーと言語活動の充実と国語科教育の交差点を目的・内容とする取り組みもなされてきている。

    つまり、これらの先行研究の中で、すでに、他国の

    ₅.国語科教育との関わりにおける

    取組

    ところで、周知のように、国語科教育ではすでにメディア・リテラシーを意識した、取組や研究はなされてきた(国語科教育との関係を問う最近の研究として、 中 村 2010、 中村 2010、 な ど が あげられる)。そして、このたびの学習指導要領の改訂とも関わって、メディア表現や読解に関わる指導の充実と関連する前ページの図5のような教材の配置も具体化してきている。

    図4 CDSの関連研究マップ

    図5 国後の教科書に見られるメディア表現の読解の指導事項

    小柳 和喜雄 学校内外における表現・コミュニケーションの学びに関する基礎研究

    22 23

  • メディア・リテラシーの研究なども参考に、実践のための解釈コードに関する研究の紹介もなされ、それを日本の国語科の取組に応用することもなされてきている。

    それでは、上記のような研究と、本研究は、どのように異なるのか。それは、同じく図6に示しているように、まず、1) 国語科教育とメディア・リテラシーと言語活動の充実との交差点を、「プライベートマインドに焦点化した個人の学習」から「ソーシャル・マインドに着眼した社会文化的な地平での協働学習」へ橋渡しすること、2) さらには学校内の学習と学校外で身につけているもの、経験しているものを言語活動に着目して橋渡しをしていくこと(図7参照)、そして、3)そこでの解釈コードや取組やプロセスを視覚化し、実践をとらえていく教師の目を鍛え、子どもに学校での学びと学校外の学びの橋渡しを実感させる解釈コードを提供していくこと、に着目している点(図 6 の矢印部分)に特徴がある。これは学びを検討していくために、本研究で着目しているソーシャル・メディアの分析に関わっても研究の蓄積のある研究成果・方法を新たに検討していく必要があると考えたからである。

    そのため、本研究では、CDS の研究法に着目し、その中でも、図4の太枠の 3 つの方法に着目して国語科教育での、その可能性を検討していく。

    6.CDS の方法の適応可能性

    まず 1 つ目は、演繹的で普遍的な法則の抽出へ焦点化することだけでなく、個々の相互作用や社会的実践へ関心を向ける傾向が見られる「弁証法的・関係論的アプローチ」を取り上げる(Dialectical-Relational Approach)

    このアプローチは、テキストに書かれていることの読解を通じて、そのテキストに書かれているキーとなる言葉や、言い回し、構造などからテキストの産出過程を解釈し、またそのテキストの背景にある文脈、広くは制度などにも目を向けてテキスト産出過程の社会

    5.国語科教育との関わりにおける取組

    ところで、周知のように、国語科教育ではすでに

    メディア・リテラシーを意識した、取組や研究はな

    されてきた(国語科教育との関係を問う最近の研究

    として、中村2010、中村2010、などがあげられる)。そして、このたびの学習指導要領の改訂とも関わっ

    て、メディア表現や読解に関わる指導の充実と関連

    する前ページの図5のような教材の配置も具体化

    してきている。 別の言い方をすれば、図6を使って説明すると、

    国語科教育とメディア・リテラシーの関係は問われ、

    実践され、研究が積み重ねられてきたといえる。 また、国語科教育は、「言語活動の充実」の指導

    の要として期待が高いため、図6のメディア・リテ

    ラシーと言語活動の充実と国語科教育の交差点を

    目的・内容とする取り組みもなされてきている。 つまり、これらの先行研究の中で、すでに、他国

    のメディア・リテラシーの研究なども参考に、実践

    のための解釈コードに関する研究の紹介もなされ、

    それを日本の国語科の取組に応用することもなさ

    れてきている。 それでは、上記のような研究と、本研究は、どの

    ように異なるのか。それは、同じく図6に示してい

    るように、まず、1)国語科教育とメディア・リテラシーと言語活動の充実との交差点を、「プライベー

    トマインドに焦点化した個人の学習」から「ソーシ

    ャル・マインドに着眼した社会文化的な地平での協

    働学習」へ橋渡しすること、2)さらには学校内の学習と学校外で身につけているもの、経験しているも

    のを言語活動に着目して橋渡しをしていくこと(図

    7参照)、そして、3)そこでの解釈コードや取組やプロセスを視覚化し、実践をとらえていく教師の目

    を鍛え、子どもに学校での学びと学校外の学びの橋

    渡しを実感させる解釈コードを提供していくこと、

    に着目している点(図6の矢印部分)に特徴がある。これは学びを検討していくために、本研究で着目し

    ているソーシャル・メディアの分析に関わっても研

    究の蓄積のある研究成果・方法を新たに検討してい

    く必要があると考えたからである。 そのため、本研究では、CDS の研究法に着目し、

    その中でも、図4の太枠の 3 つの方法に着目して国語科教育での、その可能性を検討していく。 6.CDSの方法の適応可能性

    まず 1 つ目は、演繹的で普遍的な法則の抽出へ焦点化することだけでなく、個々の相互作用や社会的

    実践へ関心を向ける傾向が見られる「弁証法的・関

    係 論 的 ア プ ロ ー チ 」 を 取 り 上 げ る

    (Dialectical-Relational Approach) このアプローチは、テキストに書かれていること

    の読解を通じて、そのテキストに書かれているキー

    となる言葉や、言い回し、構造などからテキストの

    産出過程を解釈し、またそのテキストの背景にある

    文脈、広くは制度などにも目を向けてテキスト産出

    過程の社会的文脈・状況にも目を向け解釈をしよう

    と試みるものである。また一方で産出過程を解釈す

    る側そのものの解釈を考えるといった、テキスト解

    釈過程に関わる相互作用、また解釈者も所属するそ

    の文脈・制度までも 2 重にとらえようとするアプロ

    国語科教育

    言語活動の充実メディアリテラシー

    プライベートマインド

    ソーシャルマインド協働

    学校内

    学校外

    CDSの方法を使って考えようとしているところ

    図6 国語科教育とメディア・リテラシー教育

    個人

    グループ

    全体

    教室・対面学習

    ソーシャル・メディア内での意見交換

    学校外のメディアからの情報

    橋渡し・視覚化言語活動の充実とも関わって

    図7 教室と教室外での学びの橋渡し

    ディスコースを考えていくために• 普遍的な法則の抽出へ焦点化することだけでなく,個々の相

    互作用や社会的実践へ関心を向ける

    Social conditions of production

    Social conditions of interpretationContext

    Interaction

    Text

    Process of production

    Process of Interpretation

    社会の秩序

    ディスコースの秩序

    実践の型

    ディスコースの型

    今ある実践

    ディスコースの実践

    コミュニケーションと関わる出来事の分析の場合

    ディスコースの秩序の場合

    内的葛藤と外的葛藤を見る

    Fairclough,N. (2010) Critical Discourse Analysis: The Critical Study of Language 2 ed. Pearson PTR Interactive.

    図8 弁証法的・関係論的アプローチ

    5.国語科教育との関わりにおける取組

    ところで、周知のように、国語科教育ではすでに

    メディア・リテラシーを意識した、取組や研究はな

    されてきた(国語科教育との関係を問う最近の研究

    として、中村2010、中村2010、などがあげられる)。そして、このたびの学習指導要領の改訂とも関わっ

    て、メディア表現や読解に関わる指導の充実と関連

    する前ページの図5のような教材の配置も具体化

    してきている。 別の言い方をすれば、図6を使って説明すると、

    国語科教育とメディア・リテラシーの関係は問われ、

    実践され、研究が積み重ねられてきたといえる。 また、国語科教育は、「言語活動の充実」の指導

    の要として期待が高いため、図6のメディア・リテ

    ラシーと言語活動の充実と国語科教育の交差点を

    目的・内容とする取り組みもなされてきている。 つまり、これらの先行研究の中で、すでに、他国

    のメディア・リテラシーの研究なども参考に、実践

    のための解釈コードに関する研究の紹介もなされ、

    それを日本の国語科の取組に応用することもなさ

    れてきている。 それでは、上記のような研究と、本研究は、どの

    ように異なるのか。それは、同じく図6に示してい

    るように、まず、1)国語科教育とメディア・リテラシーと言語活動の充実との交差点を、「プライベー

    トマインドに焦点化した個人の学習」から「ソーシ

    ャル・マインドに着眼した社会文化的な地平での協

    働学習」へ橋渡しすること、2)さらには学校内の学習と学校外で身につけているもの、経験しているも

    のを言語活動に着目して橋渡しをしていくこと(図

    7参照)、そして、3)そこでの解釈コードや取組やプロセスを視覚化し、実践をとらえていく教師の目

    を鍛え、子どもに学校での学びと学校外の学びの橋

    渡しを実感させる解釈コードを提供していくこと、

    に着目している点(図6の矢印部分)に特徴がある。これは学びを検討していくために、本研究で着目し

    ているソーシャル・メディアの分析に関わっても研

    究の蓄積のある研究成果・方法を新たに検討してい

    く必要があると考えたからである。 そのため、本研究では、CDS の研究法に着目し、

    その中でも、図4の太枠の 3 つの方法に着目して国語科教育での、その可能性を検討していく。 6.CDSの方法の適応可能性

    まず 1 つ目は、演繹的で普遍的な法則の抽出へ焦点化することだけでなく、個々の相互作用や社会的

    実践へ関心を向ける傾向が見られる「弁証法的・関

    係 論 的 ア プ ロ ー チ 」 を 取 り 上 げ る

    (Dialectical-Relational Approach) このアプローチは、テキストに書かれていること

    の読解を通じて、そのテキストに書かれているキー

    となる言葉や、言い回し、構造などからテキストの

    産出過程を解釈し、またそのテキストの背景にある

    文脈、広くは制度などにも目を向けてテキスト産出

    過程の社会的文脈・状況にも目を向け解釈をしよう

    と試みるものである。また一方で産出過程を解釈す

    る側そのものの解釈を考えるといった、テキスト解

    釈過程に関わる相互作用、また解釈者も所属するそ

    の文脈・制度までも 2 重にとらえようとするアプロ

    国語科教育

    言語活動の充実メディアリテラシー

    プライベートマインド

    ソーシャルマインド協働

    学校内

    学校外

    CDSの方法を使って考えようとしているところ

    図6 国語科教育とメディア・リテラシー教育

    個人

    グループ

    全体

    教室・対面学習

    ソーシャル・メディア内での意見交換

    学校外のメディアからの情報

    橋渡し・視覚化言語活動の充実とも関わって

    図7 教室と教室外での学びの橋渡し

    ディスコースを考えていくために• 普遍的な法則の抽出へ焦点化することだけでなく,個々の相

    互作用や社会的実践へ関心を向ける

    Social conditions of production

    Social conditions of interpretationContext

    Interaction

    Text

    Process of production

    Process of Interpretation

    社会の秩序

    ディスコースの秩序

    実践の型

    ディスコースの型

    今ある実践

    ディスコースの実践

    コミュニケーションと関わる出来事の分析の場合

    ディスコースの秩序の場合

    内的葛藤と外的葛藤を見る

    Fairclough,N. (2010) Critical Discourse Analysis: The Critical Study of Language 2 ed. Pearson PTR Interactive.

    図8 弁証法的・関係論的アプローチ

    的文脈・状況にも目を向け解釈をしようと試みるものである。また一方で産出過程を解釈する側そのものの解釈を考えるといった、テキスト解釈過程に関わる相互作用、また解釈者も所属するその文脈・制度までも2 重にとらえようとするアプローチである(図8参照:Fairclough (2010) の図を筆者が翻訳)。

    このアプローチを、例えば図5の国語の教科書にある「新聞を読もう」を取り扱う際に、次のような問いに変えて検討をすることで、例にある説明文の読解とソーシャル・メディアの中でコミュニケーションされている言葉の両方の分析に応用が可能となるのではないかと考えている。「①表現の特徴は?②書かれていること・話されていることで何が語られているか?③誰の言葉が誰の言葉と関わっているか?④つながる言葉の書き方と特徴は何か?⑤制度や社会との関わりが読み取れるところはあるか?」

    このアプローチは、相互作用も視野に入れているため、①テキストの分析時に学級で話し合うこと、②その話してきた内容(記録)の分析を、また行い、自分たち自身の新聞のとらえ方を分析の対象にしながら、自分たちと新聞というメディアの関係を考えることができると考えられるからである。ここでの取り組み、その学習経験は、さらにその後ソーシャル・メディアを用いた論議を分析する機会に遭遇した時にも、子どもたちが考える何らかのきっかけになると考えられる。また、この学習過程を記録に残し教師が、その解釈産出過程を分析していく子どもとメディアの関係理

    図6 国後科教育とメディア・リテラシー教育

    図8 弁証法的・関係論的アプローチ

    図7 教室と教室外での学びの橋渡し

    小柳 和喜雄 学校内外における表現・コミュニケーションの学びに関する基礎研究

    22 23

  • 解を分析していく方法としても可能性を持つと考えられる。

    ₂ つ目は、帰納的で、事例分析を通じて個々の相互作用・相互行為へ関心を向ける傾向が見られる「多様な情報様式と関わる行為分析アプローチ」を取り上げる(Multimodal Discourse Study)。

    図9は、Multimodal Discourse Study とエンゲストロームのアプローチをクロスする形で用いられているアプローチであり、多様なモード(様式)の情報と関わる活動を行為、操作とより詳細に分析し、それぞれでの道具、規則、分業の在り方などを見ていくアプローチである。

    このアプローチを例えば図5の国語の教科書にある「グラフや表を引用して書こう」を取り扱う際に次のように組み込むと、説明文の読解と多様な様式の情報の取り扱い行為、さらにはソーシャル・メディアの中でコミュニケーションする際の行為の分析に応用が可能となるのではないかと考えている。つまり①読み取れたことに加えて、②実際に自分たちが行った場合に生じたことを、表1(Oliver & Pelletier.(2006) が作成した表を筆者が翻訳)など利用・分析し、それを振り返って考える際に活用する。これによって、多様な様式の情報を取り扱う際の自分たちの行為行動、その相互作用の分析を可能にすると考えられる。また、この学習過程を記録に残し、教師がその解釈産出過程を分

    析していく子どもとメディアの関係理解を分析していく方法としても可能性を持つと考えられる。

    最後に 3 つ目は、帰納と演繹の両方から、個々の相互作用・相互行為へ関心を向ける傾向が見られる「社会認知的アプローチ」を取り上げる(Socio-cognitive Approach)

    表 2(Gee (2010) の分析の視点を参照し筆者が作成)の左項目は、このアプローチが分析の視点として用いている項目であり、1) 利用されている言葉のタイプによる意味の違い、2) 話されている言葉の意味や状況的な意味の違い、3) 社会的実践の中での意味の違い、を考察していく際に活用できる可能性をもつものである。

    ーチである(図8参照:Fairclough (2010)の図を筆者が翻訳)。 このアプローチを、例えば図5の国語の教科書に

    ある「新聞を読もう」を取り扱う際に、次のような

    問いに変えて検討をすることで、例にある説明文の

    読解とソーシャル・メディアの中でコミュニケーシ

    ョンされている言葉の両方の分析に応用が可能と

    なるのではないかと考えている。「①表現の特徴

    は?②書かれていること・話されていることで何が

    語られているか?③誰の言葉が誰の言葉と関わっ

    ているか?④つながる言葉の書き方と特徴は何

    か?⑤制度や社会との関わりが読み取れるとこと

    はあるか?」 このアプローチは、相互作用も視野に入れている

    ため、①テキストの分析時に学級で話し合うこと、

    ②その話してきた内容(記録)の分析を、また行い、

    自分たち自身の新聞のとらえ方を分析の対象にし

    ながら、自分たちと新聞というメディアの関係を考

    えることができると考えられるからである。ここで

    の取り組み、その学習経験は、さらにその後ソーシ

    ャル・メディアを用いた論議を分析する機会に遭遇

    した時にも、子どもたちが考える何らかのきっかけ

    になると考えられる。また、この学習過程を記録に

    残し教師が、その解釈産出過程を分析していく子ど

    もとメディアの関係理解を分析していく方法とし

    ても可能性を持つと考えられる。 2 つ目は、帰納的で、事例分析を通じて個々の相互作用・相互行為へ関心を向ける傾向が見られる

    「多様な情報様式と関わる行為分析アプローチ」を

    取り上げる(Multimodal Discourse Study)。 図9は、Multimodal Discourse Study とエンゲストロームのアプローチをクロスする形で用いら

    れているアプローチであり、多様なモード(様式)

    の情報と関わる活動を行為、操作とより詳細に分析

    し、それぞれでの道具、規則、分業の在り方などを

    見ていくアプローチである。 このアプローチを例えば図5の国語の教科書に

    ある「グラフや表を引用して書こう」を取り扱う際

    に次のように組み込むと、説明文の読解と多様な様

    式の情報の取り扱い行為、さらにはソーシャル・メ

    ディアの中でコミュニケーションする際の行為の

    分析に応用が可能となるのではないかと考えてい

    る。つまり①読み取れたことに加えて、②実際に自

    分たちが行った場合に生じたことを、表1(Oliver & Pelletier.(2006)が作成した表を筆者が翻訳)など利用・分析し、それを振り返って考える際に活用す

    る。これによって、多様な様式の情報を取り扱う際

    の自分たちの行為行動、その相互作用の分析を可能

    にすると考えられる。また、この学習過程を記録に

    残し、教師がその解釈産出過程を分析していく子ど

    もとメディアの関係理解を分析していく方法とし

    ても可能性を持つと考えられる。

    最後に 3 つ目は、帰納と演繹の両方から、個々の相互作用・相互行為へ関心を向ける傾向が見られる

    「社会認知的アプローチ」を取り上げる

    (Socio-cognitive Approach)

    Tool

    ObjectSubject

    Tool

    ObjectSubject

    Division ofLabor

    CommunityRules

    Activity

    Action

    Operation

    Oliver, M. and Pelletier, C.(2006) Activity Theory and Learning From Digital Games: Developing an Analytical Methodology. In D.Buckingham and R.Willett.(ed.). Digital Generations. Children, Young People, and New Media. NJ: LEA.

    Social Actor Object Sign (Artifact, Performance)

    RulesHabitus

    Community of PracticeDiscourses

    RolesApprenticeship Relations

    Available Semantic Resources(Modes, Materials, Mediation)

    Interest &Appropriation

    Mediated Action

    Social Practice

    Histories of Social

    Participation

    SharedCultural Meanings

    Histories ofMaterial UseAnd Access

    Transformation

    Wohlwend (2011) .Mapping Modes in Children’s Play and Design: An Action-oriented Approach to Critical Multimodal Analysis. In R.Rogers (ed.). An Introduction to Critical Discourse Analysis in Education. Second Edition. NewYork and London: Routledege.

    図9多様な情報様式と関わる行為分析アプローチ

    表1 多様な様式の情報の取り扱い行為分析表

    ーチである(図8参照:Fairclough (2010)の図を筆者が翻訳)。 このアプローチを、例えば図5の国語の教科書に

    ある「新聞を読もう」を取り扱う際に、次のような

    問いに変えて検討をすることで、例にある説明文の

    読解とソーシャル・メディアの中でコミュニケーシ

    ョンされている言葉の両方の分析に応用が可能と

    なるのではないかと考えている。「①表現の特徴

    は?②書かれていること・話されていることで何が

    語られているか?③誰の言葉が誰の言葉と関わっ

    ているか?④つながる言葉の書き方と特徴は何

    か?⑤制度や社会との関わりが読み取れるとこと

    はあるか?」 このアプローチは、相互作用も視野に入れている

    ため、①テキストの分析時に学級で話し合うこと、

    ②その話してきた内容(記録)の分析を、また行い、

    自分たち自身の新聞のとらえ方を分析の対象にし

    ながら、自分たちと新聞というメディアの関係を考

    えることができると考えられるからである。ここで

    の取り組み、その学習経験は、さらにその後ソーシ

    ャル・メディアを用いた論議を分析する機会に遭遇

    した時にも、子どもたちが考える何らかのきっかけ

    になると考えられる。また、この学習過程を記録に

    残し教師が、その解釈産出過程を分析していく子ど

    もとメディアの関係理解を分析していく方法とし

    ても可能性を持つと考えられる。 2 つ目は、帰納的で、事例分析を通じて個々の相互作用・相互行為へ関心を向ける傾向が見られる

    「多様な情報様式と関わる行為分析アプローチ」を

    取り上げる(Multimodal Discourse Study)。 図9は、Multimodal Discourse Study とエンゲストロームのアプローチをクロスする形で用いら

    れているアプローチであり、多様なモード(様式)

    の情報と関わる活動を行為、操作とより詳細に分析

    し、それぞれでの道具、規則、分業の在り方などを

    見ていくアプローチである。 このアプローチを例えば図5の国語の教科書に

    ある「グラフや表を引用して書こう」を取り扱う際

    に次のように組み込むと、説明文の読解と多様な様

    式の情報の取り扱い行為、さらにはソーシャル・メ

    ディアの中でコミュニケーションする際の行為の

    分析に応用が可能となるのではないかと考えてい

    る。つまり①読み取れたことに加えて、②実際に自

    分たちが行った場合に生じたことを、表1(Oliver & Pelletier.(2006)が作成した表を筆者が翻訳)など利用・分析し、それを振り返って考える際に活用す

    る。これによって、多様な様式の情報を取り扱う際

    の自分たちの行為行動、その相互作用の分析を可能

    にすると考えられる。また、この学習過程を記録に

    残し、教師がその解釈産出過程を分析していく子ど

    もとメディアの関係理解を分析していく方法とし

    ても可能性を持つと考えられる。

    最後に 3 つ目は、帰納と演繹の両方から、個々の相互作用・相互行為へ関心を向ける傾向が見られる

    「社会認知的アプローチ」を取り上げる

    (Socio-cognitive Approach)

    Tool

    ObjectSubject

    Tool

    ObjectSubject

    Division ofLabor

    CommunityRules

    Activity

    Action

    Operation

    Oliver, M. and Pelletier, C.(2006) Activity Theory and Learning From Digital Games: Developing an Analytical Methodology. In D.Buckingham and R.Willett.(ed.). Digital Generations. Children, Young People, and New Media. NJ: LEA.

    Social Actor Object Sign (Artifact, Performance)

    RulesHabitus

    Community of PracticeDiscourses

    RolesApprenticeship Relations

    Available Semantic Resources(Modes, Materials, Mediation)

    Interest &Appropriation

    Mediated Action

    Social Practice

    Histories of Social

    Participation

    SharedCultural Meanings

    Histories ofMaterial UseAnd Access

    Transformation

    Wohlwend (2011) .Mapping Modes in Children’s Play and Design: An Action-oriented Approach to Critical Multimodal Analysis. In R.Rogers (ed.). An Introduction to Critical Discourse Analysis in Education. Second Edition. NewYork and London: Routledege.

    図9多様な情報様式と関わる行為分析アプローチ

    表1 多様な様式の情報の取り扱い行為分析表

    このアプローチを例えば図5の国語の教科書にある「ゆるやかにつながるインターネット」を取り扱う際に組み込むと、説明文の内容の読解に加えて、自分たちが実際に接しているインターネットをより対象化して考える際に有効となるのではないか、さらにはソーシャル・メディアの中でコミュニケーションする際の自分たちの行為の分析に応用が可能となるのではないかと考えている。また、この学習過程を記録に残し教師が、その解釈産出過程を分析していく子どもとメディアの関係理解を分析していく方法としても可能性を持つと考えられる。

    おわりに

    本研究は「学校外のメディア利用、とりわけソーシャル・メディア利用による子どもたちの言語活動」と「学

    表 2( Gee (2010)の分析の視点を参照し筆者が作成)の左項目は、このアプローチが分析の視点と

    して用いている項目であり、1)利用されている言葉

    のタイプによる意味の違い、2)話されている言葉の意味や状況的な意味の違い、3)社会的実践の中での意味の違い、を考察していく際に活用できる可能性

    をもつものである。 このアプローチを例えば図5の国語の教科書に

    ある「ゆるやかにつながるインターネット」を取り

    扱う際に組み込むと、説明文の内容の読解に加えて、

    自分たちが実際に接しているインターネットをよ

    り対象化して考える際に有効となるのではないか、

    さらにはソーシャル・メディアの中でコミュニケー

    ションする際の自分たちの行為の分析に応用が可

    能となるのではないかと考えている。また、この学

    習過程を記録に残し教師が、その解釈産出過程を分

    析していく子どもとメディアの関係理解を分析し

    ていく方法としても可能性を持つと考えられる。 おわりに

    本研究は「学校外のメディア利用、とりわけソー

    シャル・メディア利用による子どもたちの言語活

    動」と「学校で求められている言語活動」の関係を

    考え、その教育内容・方法の検討を進めていくため

    に、その実態を把握し、問題を視覚化ができる利用

    可能な研究方法を探り、その可能性を検討すること

    へ目を向けた。 本研究は、学校内外における表現・コミュニケー

    ションの学びに関する基礎研究に位置づく。そのた

    め、問題の所在とそれに対する 1 つの接近方法として視覚化する研究方法、小学校の国語科教育に目を

    向けて、教育方法としてのその応用の可能性の入口

    の検討に留まった。 しかしながらこのような取り組みをしていくた

    めには、教員養成、現職教育において、子どもとメ

    ディアの関係、国語科教育などでそれをどのように

    取り扱っていくかについて、よりその意識化や実践

    の意味、実践イメージ、具体的な実践の方法の理

    解などの時間の確保が必要であるという点がよ

    り実践課題となると考えられる。

    <注> 1)この取組に関わっては ATCS(2010) Draft

    White Papers. The University of Melbourne. Bellanca,J. & Brandt,R.(eds.) (2010) 21st

    Century Skills. Rethinking How Students Learn.Bloomington,IN: Solution Tree Press.に詳細な解説な解説,関連した研究成果が記載されている. 2)教育の情報化ビジョンについては以下のWWWを参照すると関連する情報の見通しが得られ

    る .http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/22/08/1297089.htm <参考文献> (1) Buckingham,D and Willett.R. (ed.).

    Digital Generations. Children, Young People, and New Media. NJ: LEA.

    (2) Davidson,C.N. and Goldberg,D,T. (2010). The Future of Thinking. Learning Institutions in a Digital Age. Cambridge, Massachusetts: The MIT Press.

    (3) Fairclough,N. (2010) Critical Discourse Analysis: The Critical Study of Language 2 ed. Pearson PTR Interactive.

    (4) Flanagin,A.J. and Metzger,M.J.(2010). Kids and Credibility. An Empirical Examination of Youth, Digital Media Use, and Information Credibility. Cambridge, Massachusetts: The MIT Press.

    (5) Gee.J.P. (2010) An Introduction to Discourse Analysis: Theory and Method.London:Routledge

    (6) 橋内武 (2007) ディスコース 談話の織りなす世界(第 6 版), くろしお出版.

    (7) 堀田龍也 (2004) メディアとのつきあい方学習―「情報」と共に生きる子どもたちのた

    めに. ジャストシステム (8) Ito,M., Horst,H., Bittanti,M. et al.(2009.

    ~するために言葉を用いる 国語の教材 他の教材(ソシャル・メディアの利用なども)

    「意味づけ」のために用いている言葉

    「活動(実践)」を生じさせている言葉

    「アイデンティティ」を構築している言葉

    互いの「関係」を見えるようにしている言葉

    そのコミュニティで産出されているもの、価値があるものとして取り上げられていることを示す言葉(「ポリティクス」)

    互いの関わりにある暗黙のつながりを表現している言葉

    サインの体系と知識(世界を知る方法)として)用いられている言葉

    表2 Gee の社会認知的アプローチと関わる分析表

    小柳 和喜雄 学校内外における表現・コミュニケーションの学びに関する基礎研究

    24 25

  • 校で求められている言語活動」の関係を考え、その教育内容・方法の検討を進めていくために、その実態を把握し、問題を視覚化ができる利用可能な研究方法を探り、その可能性を検討することへ目を向けた。

    本研究は、学校内外における表現・コミュニケーションの学びに関する基礎研究に位置づく。そのため、問題の所在とそれに対する 1 つの接近方法として視覚化する研究方法、小学校の国語科教育に目を向けて、教育方法としてのその応用の可能性の入口の検討に留まった。

    しかしながらこのような取り組みをしていくためには、教員養成、現職教育において、子どもとメディアの関係、国語科教育などでそれをどのように取り扱っていくかについて、よりその意識化や実践の意味、実践イメージ、具体的な実践の方法の理解などの時間の確保が必要であるという点がより実践課題となると考えられる。

    <注>

    1) こ の 取 組 に 関 わ っ て は ATC21S(2010) Draft White Papers. The University of Melbourne.

      Bellanca,J. & Brandt,R.(eds.) (2010) 21st Century Ski l ls . Rethinking How Students Learn.Bloomington,IN: Solution Tree Press. に詳細な解説な解説 , 関連した研究成果が記載されている .

    2)教育の情報化ビジョンについては以下のWW W を 参 照 す る と 関 連 す る 情 報 の 見 通 し が得 ら れ る .http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/22/08/1297089.htm

    <参考文献>

    1) Buckingham,D and Willett.R. (ed.). Digital Generations. Children, Young People, and New Media. NJ: LEA.

    2) Davidson,C.N. and Goldberg,D,T. (2010). The Future of Thinking. Learning Institutions in a Digital Age. Cambridge, Massachusetts: The MIT Press.

    3) Fairclough,N. (2010) Critical Discourse Analysis: The Critical Study of Language 2 ed. Pearson PTR Interactive.

    4) Flanagin,A.J. and Metzger,M.J.(2010). Kids and Credibility. An Empirical Examination of Youth, Digital Media Use, and Information Credibility. Cambridge, Massachusetts: The MIT Press.

    5) Gee.J.P. (2010) An Introduction to Discourse Analysis: Theory and Method.London:Routledge

    6) 橋内武 (2007) ディスコース 談話の織りなす世界

    (第 6 版), くろしお出版 .7) 堀田龍也 (2004) メディアとのつきあい方学習—

    「情報」と共に生きる子どもたちのために . ジャストシステム

    8) Ito,M., Horst,H., Bittanti,M. et al.(2009. Living and Learning with New Media. Summary of Findings from the Digital Youth Project. Cambridge, Massachusetts: The MIT Press.

    9) Jenkins,H. with Others (2009) Confronting the Challenges of Participatory Culture. Cambrudge,MA; MacArthur. The MIT Press.

    10) 中西新太郎 (2000). メディア環境の変化が青少年文化にもたらすもの ( 特集 子どもの事件から考える ) . 人間と教育 (28), 36-42.

    11) 中村敦雄 (2010) 国語科教育学における「メディア」概念 ( 課題研究 -3,『メディア』から国語教育の研究と実践を展望する (1), 課題研究発表 ). 全国大学国語教育学会発表要旨集 119, 156-157,

    12) 中村純子 (2010) 母語教育カリキュラムにおけるメディア・リテラシー導入の方略 : イングランド ,オンタリオ州 , 西オーストラリア州のカリキュラム比較 . 国語科教育 67, 43-50.

    13) Oliver, M. and Pelletier, C.(2006) Activity Theory and Learning From Digital Games: Developing an Analytical Methodology. In D.Buckingham and R.Willett.(ed.). Digital Generations. Children, Young People, and New Media. NJ: LEA.

    14) 小柳和喜雄 (2005) メディア・ディスコースの分析方法に関する予備的研究 − Norman Faircloughのクリティカル・ディスコース分析を中心に−.奈良教育大学 教育実践総合センター研究紀要 14, 83-91.

    15) 小柳 和喜雄 (2008) 学校外の子どものメディア利用を授業へ 組織化する方法に関する研究 . 教育メディア研究 15(1), 29-40.

    16) Rogers, R (ed.). (2011) An Introduction to Critical Discourse Analysis in Education. Second Edition. NewYork and London: Routledege.

    17) 坂元章 (2005) 子どもを取り巻くテレビゲーム と イ ン タ ー ネ ッ ト : 光 と 影 . 思 春 期 学 = ADOLESCENTOLOGY 23(2), 229-233.

    18) 仙田満 (2009). 子どもの遊び環境 , 鹿島出版会 .19) Wadak,R. and Meyer M.(ed.)(2009) Methods of

    Critical Discourse Analysis. Second Edition. London:Sage.

    20) Wohlwend (2011) .Mapping Modes in Childrenʼs Play and Design: An Action-oriented Approach to Critical Multimodal Analysis. In R.Rogers (ed.). An Introduction to Critical Discourse Analysis in Education. Second Edition. NewYork and

    小柳 和喜雄 学校内外における表現・コミュニケーションの学びに関する基礎研究

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  • London: Routledege.

    小柳 和喜雄

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