21
―  ― 175 本研究は大学生が家庭用電気(交流)に関していかなる誤りを所有しているかを調査し、その誤 り所持者に対する学習援助ストラテジーを開発する際に考慮すべき点を明らかにすることを目的に する。調査の結果、大学生の85%以上は交流の原理をよく知っているが、家庭用電気の極性や電流 の向き、自由電子の動きや電流のドミノ説、家庭用電球の回路構成などに様々な誤りを持っている ことが明らかになった。 特に、多くの被験者は、家庭用電気回路とその回路に流れる電流など概念的に関連性がある問題 の解決においてシステマチィックに誤りをしていることが明らかになった。このように、学習者が 問題の解決において、何らかの理由で親になる誤りを保持するとそれが原因になり、次々に子の誤 りを生み出す可能性があるので、このような誤り体系を「親子誤り」と名づける。筆者は親子誤り の援助には「親の誤りを正しいルールに変換できるように援助すると子の誤りは解決できる」と考 えている。 キーワード:大学生、家庭用電気(交流)、ルール、システマチィックな親子誤り、学習援助 . 問題と目的 我々は日常的な経験や教えられたことの自分なりの処理 によって、誤っていたり、完全ではな い知識(ルールと事例)を獲得し、問題解決の際の判断基準として用いている。このように、学習 者が科学的に妥当でない知識を持ち、それを用いた認識形成をしていることが近年明らかになって きており、学習者が持つ誤った知識は誤ルール、誤概念、素朴理論などと概念化されている。本研 究では、細谷(2001)に則り、誤ルールとして概念化し、表現することにする。教育的な援助は、 こうした学習者が持つ誤ルールを明らかにし、それを科学的に妥当なルールに組みかえるように、 学習者を援助することになる。従って、学習者の持つ誤ルールの実態を把握することは、その組み かえストラテジーを研究しようとする教育心理学や学習心理学にとって重要なことになる。 本研究では大学生が物理学領域、特に家庭用電気 に関していかなる誤ルールを所持しているか を明らかにすることが目的である。大学生は、小学校、中学校、高等学校教育を受け、科学的に妥 大学生の物理学領域における科学的認識に関する教育心理学的研究 ― 家庭用電気に関する誤ルールの保持を中心に ― 呉  世  現 東北大学大学院教育学研究科 博士後期課程

大学生の物理学領域における科学的認識に関する教育心理 ......大学生の物理学領域における科学的認識に関する教育心理学的研究 ―

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―  ―175

 本研究は大学生が家庭用電気(交流)に関していかなる誤りを所有しているかを調査し、その誤

り所持者に対する学習援助ストラテジーを開発する際に考慮すべき点を明らかにすることを目的に

する。調査の結果、大学生の85%以上は交流の原理をよく知っているが、家庭用電気の極性や電流

の向き、自由電子の動きや電流のドミノ説、家庭用電球の回路構成などに様々な誤りを持っている

ことが明らかになった。

 特に、多くの被験者は、家庭用電気回路とその回路に流れる電流など概念的に関連性がある問題

の解決においてシステマチィックに誤りをしていることが明らかになった。このように、学習者が

問題の解決において、何らかの理由で親になる誤りを保持するとそれが原因になり、次々に子の誤

りを生み出す可能性があるので、このような誤り体系を「親子誤り」と名づける。筆者は親子誤り

の援助には「親の誤りを正しいルールに変換できるように援助すると子の誤りは解決できる」と考

えている。

キーワード:大学生、家庭用電気(交流)、ルール、システマチィックな親子誤り、学習援助

Ⅰ. 問題と目的

 我々は日常的な経験や教えられたことの自分なりの処理�によって、誤っていたり、完全ではな

い知識(ルールと事例)を獲得し、問題解決の際の判断基準として用いている。このように、学習

者が科学的に妥当でない知識を持ち、それを用いた認識形成をしていることが近年明らかになって

きており、学習者が持つ誤った知識は誤ルール、誤概念、素朴理論などと概念化されている。本研

究では、細谷(2001)に則り、誤ルールとして概念化し、表現することにする。教育的な援助は、

こうした学習者が持つ誤ルールを明らかにし、それを科学的に妥当なルールに組みかえるように、

学習者を援助することになる。従って、学習者の持つ誤ルールの実態を把握することは、その組み

かえストラテジーを研究しようとする教育心理学や学習心理学にとって重要なことになる。

 本研究では大学生が物理学領域、特に家庭用電気�に関していかなる誤ルールを所持しているか

を明らかにすることが目的である。大学生は、小学校、中学校、高等学校教育を受け、科学的に妥

大学生の物理学領域における科学的認識に関する教育心理学的研究

― 家庭用電気に関する誤ルールの保持を中心に ―

呉  世  現

東北大学大学院教育学研究科 博士後期課程

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大学生の物理学領域における科学的認識に関する教育心理学的研究

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当なルール群を保持していると思われる。その大学生がなお誤ルールを所持しているとすれば、大

学生が受けたこれまでの教育が誤ルールを科学的なルールに組みかえることに必ずしも成功してい

ないことを示しているだろう。このような観点から大学生の誤ルールの所持についてその実状を明

らかにすることは、科学教育上からも、教育心理学上からも重要な意味を持っていると考える。

 さて、従来の電流に関する実態調査と、それに基づく授業改善への提言は主に直流単純回路を対

象に研究が進められてきた。オズボーン・フライバーグ (1985)以来、日本においても、彼らの研

究成果と直接・間接的に関係している研究結果が度々みえている。例えば、脇元(1992)、安藤ら

(1997)、永井・川北(1999)、白井ら(2000)、古屋・戸北(2000、2001)の研究などが挙げられ

る。これらの研究は大抵、オズボーンらのモデルに基づき、乾電池と豆電球 ~ 個を利用した簡1 2

単な電気回路に関する子どもの考え方を調査し、指導方略を工夫したものである。

 一方、最近は直流のみならず交流についての考え方の研究も行われている。例えば、麻柄(1998)

は大学生と中学生を対象にして、家電製品についての回路認識を調査した結果、大学生の約60%、

中学生の約30%が注入モデルを持っていることを明らかにしている。オズボーン・フライバーグ以

来、直流単純回路が主な研究対象になったが、麻柄は交流の家電製品の問題まで広げ、青年期の人

たちが家電製品について誤ったモデルを持っていることを明らかにしたことは非常に意義があると

考えている。

 この麻柄の調査結果に関して工藤(2002)は別の解釈を試みている。彼は、「確かに多くの被験者

が発電所とテレビの間に『回路』を想定しなかったが、この課題には独特の困難さがあり、必ずし

も回路概念の適用範囲が家電製品に及んでいないことを意味するのではない」という解釈をしてい

る。ここでいう「独特の困難さ」とは、「発電所とテレビが回路を形成しているというのは原理的に

は正しいものの、実際には途中に変電所や電柱の変圧器が介在しており、豆電球と乾電池のように

直接つながっているわけではないということである」と述べた上、「このような違いが、豆電球場面

と家電製品場面の『同型性』を認識させることをさまたげたのかもしれない」と述べている。そこ

から、工藤は豆電球場面と家電製品場面との「同型性」を認識させるように改善した白井らの問題

を利用して、「豆電球と乾電池」との関係のように、「電源(コンセント)と直接につながって回路

を形成している家電製品」に関して大学生はどのような回路認識をしているかについて調査を行っ

た。この結果から、工藤は「洗濯機課題に回路概念を適用するのが困難であることがうかがえる結

果である」と述べ、「家電製品に関する回路認識について、豆電球課題との同型性を強める形で問う

ても、基本的には麻柄の調査結果と変わらず、正しい反応を引き出す結果にはならなかった」こと、

「これら両課題が『電流』『回路』といった同一の概念に関わるものであるにもかかわらず、多くの

被験者は異なった原理が関係する課題であると判断した」と述べている。

 以上のように、交流回路について研究が進められており、麻柄の研究を初め、白井ら、工藤の研

究から日常生活で接しているテレビ、洗濯機、扇風機などの家電製品の回路について学習者の誤っ

た認識が指摘されていることは、「生きる力の育成」と言う新学習指導要領の立場からみると重要な

問題が内在していると考えられる。

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東北大学大学院教育学研究科研究年報 第53集・第 号(2005年)2

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 一方、このように交流回路についての論議が始められているが、筆者は交流の場合は直流に関す

る誤ルールよりももっと多様な誤ルールの可能性があると予測している。それは、中学校の理科で

は、交流発生の原理である「電磁誘導」については詳しく扱っているが、「交流」という用語は全然

扱っていないことからも予測される。特に、高等学校で物理が選択科目になっている状況からみる

と、大学生になるまで交流について学習しない人も多いと思われる。それ故に、大学生になっても

電気に関する知識は中学生の水準に止まって、日常生活の電気について様々な誤ルールを持ってい

る可能性が高いと予想される。

 本研究では、大学生を対象に調査を行い、彼らが家庭用電気(交流)に関していかなる誤ルール

を所有しているかを明らかにし、誤ルールを科学的に妥当なルールに変換する学習援助ストラテ

ジーを開発する際に考慮すべき点を明らかにすることを目的とする。

Ⅱ. 研究の方法

  . 調査対象と調査期日1

 宮城県内T大学教育学部の正規の授業を履修している大学生30名(教育学部学生29名、文学部学

生 名)を対象にした。調査は2002年 月24日に授業担当教員に依頼して行った。1 6

  . 調査用冊子の作成と構成2

 調査用冊子は横書きのA 用紙の表裏を用いて構成した。冊子の構成は、表紙は 頁に、事前ア4 1

ンケート調査は 頁に、実態調査問題は ~ 頁まで、事後アンケート調査は最後の調査問題 -2 3 9 5

 番と同じ 頁に配置されている。表紙はタイトル、問題と「自分評価」�についての説明文、「いっ4 9

たん先の頁に進んでから元の頁にもどってはいけません」など つの注意点、氏名記入欄などが用4

意されている。事前アンケート調査は被験者を理解するため、事後アンケート調査は実態問題につ

いての被験者の感想を中心にして各々 11問と 問で構成されている。5

 実態調査問題は「直流単純回路や乾電池に関する問題」が 問、「家庭用電気の性質に関する問4

題」が 問、「電磁気誘導や直流・交流との比較する問題」が 問、「家庭用電気の回路に関する問6 6

題」が 問、「交流回路の応用に関する問題」が 問で、合計29問で構成されている。9 4

  . 調査の手続き3

 調査は表紙の説明、事前アンケート調査、本調査(事後アンケート調査を含む)の順に つの段3

階によって実施した。各段階は調査担当者の指示によって実施したが、事後アンケート調査は本調

査に続いて自身のペースで実施するようにした。実施の手順については、

 第 段階は、調査用冊子が配ったことを確認した後、表紙にある説明文、注意点、氏名記入欄な1

どへの記入を指示し、続いて「この冊子は表紙を含めて 頁です。確認してください」という教示9

をして、冊子に欠けている頁があるかどうかを確認するようにした。

 第 段階では、全対象者から氏名の記入と冊子の異常有無との確認を完了したから、  頁の事前2 2

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大学生の物理学領域における科学的認識に関する教育心理学的研究

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アンケート調査について、「皆さんが理科、特に物理の電気分野に対してどんな考えを持っているか

をお聞きしたいと思います。気軽に答えて下さい」という教示をしてから一斉に回答を依頼した。

事前アンケート調査が終わった被験者は 頁の末尾で「ありがとうございました。少々お待ち下さ2

い!指示によって次の頁に進んでください」と教示して、次の頁にある本調査まで進まないように

した。

 第 段階では、全対象者が事前アンケート調査に回答するのを確認してから、  頁に進むように3 3

指示し、頁のトップにある教示を読んで、回答の仕方、スタート時間と終わり時間( 頁にある)9

とを書き入れるように指示し、本調査内容の回答を依頼した。本調査への回答が終わった被験者に

は続いて事後アンケート調査まで対象者自身のペースで回答するように指示した。

  . 調査の進行4

 実態調査の進行は授業担当教官によって行われた。

Ⅲ. 調査結果

 表紙の説明、事前・事後アンケート調査と本調査までかける時間は50分ぐらいであった。本調査

から被験者が自身のペースで実施し、自ら書き入れた時間から調査してみると、筆者の予想(約30

分)通り全体平均時間は26.8分になったが、30分を超えて答えた被験者も33.3%(10名)に達した。

本調査で最短時間は15分、最長時間は40分になった。

 調査の結果分析は、本調査の目的に合わせて、交流の原理に関する問題が 問(問題 の - 2 3 3 2

から - まで)や家庭用電気の性質に関する問題が 問(問題 の - から - まで)、家庭3 3 6 2 2 1 2 6

用電気の回路の特徴に関する問題が 問(問題 の - から - まで)、あわせて14問を中心に6 4 4 1 4 6

行なった。その結果を紹介する。

  . 電磁誘導と交流の発生に関する認識1

 ファラデーの電磁気誘導法則は「磁気は電気の原因になる」ことを明らかにしている。また、こ

の誘導電流の発生について、いずれの中学校理科教科書も詳しく扱っている。例えば、「コイルと磁

石で電流がつくれるか」というタイトルの実験を通じて誘導電流の発生とその性質を理解できるよ

うに構成されている。大学生の被験者は中学校理科で既習の誘導電流の発生メカニズムとその性質

についてどのぐらい理解しているか、その実態を調査する。

   - . 問題の構成1 1

 「バテイ形磁石の中でコイルを前後に振動をさせます。その間、コイルには電流が発生しますか

(問題 - )」という問いに「(誘導電流は)発生する」と答えた被験者を対象に、問題 - で3 2 3 3

誘導電流の性質について問う。

 問題 - は全て文章の真偽を問う○×問題10問で構成されている。この10問の質問を内容から3 3

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東北大学大学院教育学研究科研究年報 第53集・第 号(2005年)2

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分類してみると、  つのタイプから構成されている。それは、誘導電流の発生に関わる問題:タイ4

プⅠ(①、④、⑥番)、誘導電流の方向に関わる問題:タイプⅡ(②番)、誘導電流の強さと関わる

問題:タイプⅢ(③、⑤、⑦番)、その他の応用問題:タイプⅣ(⑧、⑨、⑩番)である。

   - . 調査結果1 2

 問題 - で「(誘導電流が)発生する」と答えた正解者は24人、「発生しない」と答えた不正解3 2

者は 人であった。問題 - の正解者を対象にして、問題 - の結果を分析した結果,タイプⅠ6 3 2 3 3

の正答率は平均86%、タイプⅡは83%、タイプⅢは平均87%、タイプⅣは平均73%であったことが

明らかになった。これは、中学校の理科教育課程だけでも電磁誘導のメカニズム、すなわち、交流

の発生原理については十分に理解できていると判断できる。しかし、タイプⅣの「⑧コイルに発生

する電流は家庭用電気の性質と同じである」という質問の正答率は38%に過ぎなかった。これは、

被験者は「家庭用電気は交流」という事実をよく分からないことを示唆している。

 以上、結果をみると、被験者は中学校理科から教えられた誘導電流の発生のメカニズムとその性

質についてはよく知っているが、「家庭用電気が交流である」という事実はよく分からないことが明

らかになった。中学校で誘導電流について教えても、「交流」という概念を導入しない限り、大学生

になっても「交流」について誤った認識を持っている可能性が高いと考えられる。

  . 家庭用電気の電極や電流に関する認識2

 我々の生活電気はたいてい交流である。直流と交流の違いは、その発生のメカニズムから起因し

ている。一般的に交流は、磁場の中でのコイルの回転によって発電する。コイルが回転するとコイ

ルの断面を通過する磁力線が の瞬間もあるし、最大値になる場合もある。その結果、交流は、電0

流の方向と強さが時間的に変化する。

 中学校の教科書では電気が利用されている様々な場面を紹介しているが、交流と直流という用語

を使わないから、その区別ができるかは疑問である。それ故に、大学生も「交流は直流と同じ」と

いう誤ルールを持っている可能性があると思われる。その他、乾電池の場合は(+)極、(-)極を

必ず区別しているが、交流の場合は区別しなく使っている。これについて「交流は電極がない」と

いう誤ルールを持っている可能性がある。家庭用電気の極性と電流の流れの様子などについてどの

ような誤ルールを持っているかを調査する。

   - . 問題の構成2 1

 本調査で「交流の基本的な性質」というのは、時間による「交流の流れの様子」と「方向の変化」

に限っている。それを調査する問題は、  問(問題 - 、  - )で構成されている。まず、問2 2 1 2 2

題 - は壁の「コンセントの穴の極性を+、-記号で記入」した上、その理由を書き入れるよう2 1

にした。そして、問題 - からは「単純な交流回路を流れている電流の向きを矢印で書き入れる」2 2

ことを求めた。

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大学生の物理学領域における科学的認識に関する教育心理学的研究

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   - . 調査結果2 2

 まず、問題 - と問題 - の結果を図 に示す。図 によると、「家庭用電気は電極や電流の2 1 2 2 1 1

向きが変わっている(電極:±と

±

、電流: )」のように正しいルールを持っている被験者(グ

ループⅠ)は 人で13%に過ぎなかった。これに対して「家庭用電気の極性や電流の向きを乾電池4

の極性や電流のように書き入れた(電極:+と-、電流:→と→、或は、電極:-と+、電流:←

と←)」被験者(グループⅡ)は約80%に達して、被験者の80%以上が家庭用電気の極性や電流の向

きに関する誤ルールを持っていることが明らかになった。

 また、問題 - の答えと問題 - の答えとの間で、グループ間に首尾一貫している被験者を2 1 2 2

みると、グループⅠは100%、グループⅡは92%に達した。

 これは、家庭用電極の問題に関してグループⅠのように交流的なルールを持っている被験者は家

庭用電気の電流の向きに関する問題においても交流的なルールで解決していること、グループⅡの

ように、最初の問題 - から直流的なルールを持っている被験者はそれと関連つけられている次2 1

の問題 - の解決においても直流的なルールで解決していることが明らかになった。2 2

 次に、交流の流れの様子と方向の変化に関する被験者の認識をみると、問題 - は正答率が23%2 3

( 人)に過ぎなかったが、問題 - は50%(15人)に達した。これは、「交流、すなわち、家庭7 2 6

用電気のように時間的に変化をする」物理の概念は、単純な文章より図で表したほうが被験者から

みると認識しやすいことではないか考えられている。

 以上をまとめてみると、第 に、「家庭用電気は交流で、瞬間的に電極とその流れの向きも変わ1

る」という事実を被験者の80%以上はわからないことが明らかになった。第 に、交流の流れの様2

子を問う問題において、被験者は「文章だけで表した問題」より「図で表した問題」の正答率が 2

倍以上高くなったことが明らかになった。

  . 微視的な観点からみた交流電流に関する認識3

 瀬田(2000)は「金属(導体)中を自由電子が移動することが電流の正体である」ことが中学校

→←

図 . 問題 - と - の調査結果1 2 1 2 2

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東北大学大学院教育学研究科研究年報 第53集・第 号(2005年)2

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での電気学習の到達目標であることを指摘している。直流回路の導線の中にある自由電子はスイッ

チを入れた瞬間、回路全体に作られた電場によって電気力を受けて(-)極から(+)極に徐々に

移動し始める。これについて吉埜(1992)は、「この一連の変化は、10-14[s]というほんの一瞬に起

きます」と述べている。

 交流回路の場合は、この電場が行ったり来たりするから、自由電子の流れは直流とは違う。ヒュ

イッート(2000)は「交流回路では自由電子がどこかへ流れて行ってしまうというのではなくて、

ある程度固定した点の周りで前後に規則正しく振動している」と述べている。続いて彼は「このこ

とに関連して電気に関するもう一つの誤解が登場する。多くの人たちは家庭の電気コンセントは電

子源、つまり、発電所から電線を通じて家庭に送られできた電子がここから取り出される所、と思っ

ている。しかし実際には、このコンセントに接続された電気器具の中に電線中を送られできた電子

が流れ込んで行くというのではないのだ。家庭にあるコンセントは交流であるが、ここにランプを

つなぐと、電子ではなくてエネルギーがコンセントからランプへ流れていくのである。このエネル

ギーは電場によって運ばれ、ランプのフィラメントにすでに存在している電子に振動運動を起こさ

せるのである」と述べている。

 このように乾電池(化学電池)や発電機は持続的に電流の流れを維持させるエネルギー源である。

電気会社は自由電子ではなく、電気エネルギーを提供している。

 直流回路と交流回路とで自由電子の動きは違う。しかし、「交流と直流は同じ電気」のように認識

している被験者は「交流の場合も自由電子は電源(発電所あるいはコンセント)から来て、直流回

路と同じ形で移動する」というような誤ルールを持っている可能性がある。その実態を調査する。

   - . 問題の構成3 1

 電気、すなわち、交流回路のなかにある「自由電子はどこから来て(問題 - )」、「どのように2 4

移動するか(問題 - )」を問う。問題 - の①からは「自由電子は電源(乾電池、コンセント2 5 2 4

など)から提供される」というような誤ルールをどのぐらい持っているかを確認する。④番は正解

で、交流の場合、「自由電子は移動しなくて、その場で振動しているからフィラメントの内部に元々

あるもの」という正しいルールをどのぐらい持っているかを確認する。⑤番からは「電流はスイッ

チを入れた瞬間、流れるからスイッチが電子を提供する」という誤ルールの実態を調査する。

 一方、問題 - は、電気回路に交流電源を連結すると、導線の中の自由電子は振動しているこ2 5

とをどのぐらい理解しているか、その実態を調査する。①番を選んだ被験者は、「スイッチが入れた

瞬間、電球に光が付くから家庭用電気も自由電子が早く流れている」のような誤ルールを、②番か

らは電流消費説を持っている被験者をチェックできると思う。③番は正解である。

   - . 調査結果3 2

 問題 - の結果、家庭用電気回路の中での自由電子の動きについて正しいルールを持っている2 4

被験者は 人(13%)に過ぎなかった。被験者の57%(17人)は、自由電子は「電気会社から壁の4

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大学生の物理学領域における科学的認識に関する教育心理学的研究

―  ―182

コンセントを通じて提供される」という誤ルールを持っていることが明らかになった。

 問題 - の結果、家庭用電気回路の中での電子の動きに関して正しいルールを持っている人は2 5

10人(34%)に過ぎなかった。その一方、「豆電球に光がつくため自由電子は速いスピドで移動する

(①番)」という誤ルールは 人(30%)、「自由電子が消費される(②番)」という誤ルールを持っ9

ている被験者も 人(20%)に達した。そして、「直流回路の自由電子の流れと同じ(④番)」とい6

う誤ルールを持っている被験者も 人(13%)に達した。4

 以上をまとめてみると被験者は交流回路の中においての自由電子のあり方やそのミクロ的な移動

のメカニズムなどについて良く分からないことが明らかになった。

  . 家庭用電気器具の回路に関する認識4

 「家庭用電気の配線」と「タコ足配線の危険性」については2002年度から使っている 種類の中学5

校理科教科書の中で つの教科書で扱っている。4

 並列連結されている家庭用電気配線の特徴は、第一に、電流の通り道がいくつもできているから、

一つの電気器具が破れても回路全体は破れないこと、第 に、電気器具にかけている電圧は同じで2

あること、第 に、電気器具に流れる電流は各々の電気器具の消費電力(電気抵抗)により違うこ3

となどを挙げることができる。

 このように家庭用電気の回路問題は つの要素が混雑しているから、被験者は様々な誤ルールを3

持っている可能性がある。それで、家庭用配線の特徴、タコ足連結の危険性、電流のドミノ説、家

庭用電気器具の閉回路の構成などについて被験者はどのぐらい誤ルールを持っているか、その実態

を調査する。

   - . 問題の構成4 1

 問題 は「 種類の家庭用電球L (100V100W)、L (100V60W)、L (100V40W)が次4 3 1 2 3

の図 の図A、B、C、Dのように連結されています。次の問いに答えて下さい」に指示した上、2

「答えは一つとは限りません」と述べ、多様な回答も許した。問題に提示されている図の外形から、

被験者は図A、Bは直列回路に、図C、Dは並列回路に判断する可能性が高いと思う。また、図B

の場合は、問題 - 、  - 、  - と関わっているから、コンセントとコンセントとの間の電4 4 4 5 4 6

線部分をそれぞれ電線�、�、�にする。問題 - は、  つの電球L 、L 、L がそれぞれ4 1 3 1 2 3

直列連結されている回路探し、問題 - は、 つの電球がそれぞれ並列連結されている回路探し、4 2 3

問題 - は、  つの電球にそれぞれ流れる電流が同じ回路、すなわち、直列連結されている回路4 3 3

探し、問題 - は、一番先に光がつく電球、すなわち、ドミノ説の探し、問題 - は、電線�、4 4 4 5

�、�の部分にそれぞれ電流が一番多く流れる部分探し、問題 - は、家庭用電気器具の閉回路4 6

の構成に関する問題になっている。特に、この問題で②(コンセント→電球L →L →L )を1 2 3

選んだ被験者は麻柄(1998)の「注入モデル」の保持者ではないか予想している。

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東北大学大学院教育学研究科研究年報 第53集・第 号(2005年)2

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   - . 調査結果4 2

 ①被験者が問題 の図A、B、C、Dから直列連結(問題 - )として選んだ数は43回、並列4 4 1

連結(問題 - )として選んだ数は66回に達した。その結果は図 に示す。4 2 3

 図 によると、被験者は筆者の予想通り、図Bは直列回路(53%)として強く認識していること、3

図C(36%)や図D(29%)は並列回路として認識していることが明らかになった。また、「家庭用

電気器具の連結はいずれも並列連結されている」ことを正しく認識している被験者は 人(13%)4

に過ぎないことが明らかになった。

 これは、被験者は家庭用電気器具の回路においても、「コンセントの外形」あるいは「コンセント

の連結の形」が大切な判断の基準になったのではないか思われる。

 ②問題 - は「各々の電球に流れる電流が同じ回路探し」が課題であるが、それは、問題 -4 3 4

 の「直列回路探し」と関係深い問題である。それは、「直列回路に判断した図の場合は、電球L1

 、L 、L に流れる電流が同じであるが、並列回路の場合は違う」という特徴があるからであ1 2 3

る。このような回路の特徴を確かに知っている被験者は問題 - と問 - との回答が一致する4 1 4 3

可能性がある。このように被験者の体系的な回答の可能性を確認するため、問題 - の結果と問4 1

題 - の結果とをクロス分析した。その結果は、<表 >に示す。<表 >によると、まず、「全4 3 1 1

図 . 問題 の図A、B、C、D2 4

図 . 「図A、B、C、D」に関する回路認識3

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大学生の物理学領域における科学的認識に関する教育心理学的研究

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ての回路は並列で、ワット数(あるいは抵抗)が違うから、電流が同じ回路はありません」という

正解者は 人(13%)に過ぎなかった。また、両問の答えが一致する被験者、すなわち、「○○回路4

は直列で、直列回路の電流は同じであるから、電流が同じ回路は○○である」のように回答してい

る被験者は13人(43%)に達している。これは、多くの被験者は、まず電気回路が並列か直列かを

判断した上、その結果により、システマチィックに対応して、その回路に流れる電流を探そうとす

るのではないか考えている。

 ③問題 - は、電流のドミノ説、すなわち、「電源から近いほど光は早くつく」という誤ルール4 4

をどのぐらい持っているかを調査する問題である。その結果、「(電源からの距離とは関係なく)全て

の電球には同時に光が付く」という正しいルールを持っている被験者は47%(14人)に過ぎなかった。

 また、「電源、すなわち、コンセントから近いほど早く光がつく」のような誤ルールを持っている

被験者は16人(53%)に達して正解者を上回った。これで被験者の半分以上がヒュイッートの指摘

通り「電流のドミノ説」という誤ルールを持っていることが明らかになった。

 ④生活の中で、普段使っている電気コンセント つに、多数のコンセントや電気器具を差し込ん1

で利用すると、これが言わばタコ足連結である。タコ足連結の危険性に対してはよく言われている

が、それは、最初のコンセントに至るまでの電線には、各々の電気器具に流れている電流が集中し

て発熱の多くなり、火災の危険性があるからである。これに対して、被験者は日常的な場面からど

のぐらい認識しているかを問題 - で調査した。その結果、正解者は30%( 人)に過ぎなかっ4 5 9

たが、「電線�、�、�に同じ電流が流れる」という誤ルールを持っている被験者は63%(19人)に

達していることが明らかになった。

 ⑤家庭用電気器具は各々独立的な閉回路を構成している。これに関する被験者の認識は問題 -4

 で調査する。その結果、家庭用電気器具の閉回路問題に関する正解者は 人( %)に過ぎなかっ6 1 3

た。しかし、①番(コンセント→電球L →L →L →L →L →コンセント)を選んだ被験1 2 3 2 1

者は67%(20人)に達したことが明らかになった。

 これは、被験者の / は、図Bの つの電球の通り道に対して、別々に独立していることより2 3 3

一筋に直列連結されているように認識しているからではないか思われる。これは、77%(23人)の

被験者が最初の問題 - から「図Bは直列連結されている」のように誤った結果ではないか考え4 1

ている。一方、麻柄の研究で見られた「注入モデル」を持っている被験者も20%( 人)に達して6

<表 >問題 - と - とのクロス分析表1 4 1 4 3

合計ADABD全てない(正解)ACDABB

問題 - 4 1問題 -  4 3

77B

11AB

7124ACD

4121ない(正解)

1011224全て

11ABC

3012142515合計

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いることが明らかになった。

 以上、家庭用電気の回路問題についてまとめてみると、第 は、家庭用電気器具は並列連結され1

ていることについて87%の被験者が気付かなかったことが明らかになった。第 は、「電気回路」と2

「その回路に流れる電流の特徴」との関係に対して43%の被験者が体系的なルールで対応している

ことが明らかになった。第 は、電流のドミノ説という誤ルールを持っている被験者が53%に達し3

ていることが明らかになった。第 は、被験者の70%は日常的に電気器具を使う場面から、タコ足4

連結されていることを気付かなかった。第 は、家庭用電気器具は並列で、独立的な回路を構成し5

ていることを知っている被験者は %にすぎなかった。第 は、家庭用電気器具は一つひとつが独3 6

立的に回路を構成していることを知っている被験者は13%( 人)に過ぎなかった。4

 第 に、「注入モデル」を持っている被験者も20%( 人)に達していることが明らかになった。7 6

Ⅳ. 考 察

  . 被験者の回答に対する信念からみた誤りの可能性1

 実態調査の直後に実施した事後アンケート調査で、被験者の90%は「(非常に、かなり、やや)難

しい」という反応を見せた。

 一方、被験者は自分の回答に対してどれくらい信念を持っているのだろうか。被験者の回答に対

する「正解への信念」を確認するため、問題ごとに被験者がチェックした「自分の評価」の分析を

行った。問題ごとの正答率�と自分の評価からの自分評価点数�を図 に示す。ここで「A-Cの4

差」が小さいほど被験者の予想通り結果が出たことを意味しているが、それが大きくなるとなるほ

ど正解への信念は高いが、結果はそれとは大きく外れていることを表す。このような問題の場合、

被験者は誤りを持っている可能性が高い。図 によると、被験者の予想通り結果が出た問題は、問4

題 - 、  - 、問題 - など 問に過ぎなかった。それに対して、問題 - 、  - 、 2 5 2 6 3 3 3 2 1 2 2 2

- 、問題 - 、  - 、  - などの結果は被験者の予想より非常に低かった。これらの問題3 4 1 4 2 4 3

は、被験者が自分も思わぬいろいろな誤りを保持している可能性が高いと思われる。

図 . 各々の問題の正答率と自分評価点数との比較4

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―  ―186

  . 本研究で見出されたシステマチィックな誤り2

 家庭用電気の性質やその回路問題において、被験者は つの問題に誤りをしていると、それによっ1

て第 の誤りを生むのではないか考えられるいくつかの事例を発見した。それに対して考察する2

   - . 事例Ⅰ:家庭用電極のあり方と電流の向きに関する認識2 1

 前述したように問題 - は家庭用電気の電極の問題である。また、問題 - はコンセントか2 1 2 2

らの家庭用電気の電流の向きの問題である。この つの問題に対する関連性を調査するため、問題2

 - の結果とその「答えの理由」、問題 - の結果とのクロス分析を行い、<表 >に示す。2 1 2 2 2

 <表 >によると、被験者は つのグループに別けられた。まず、グループⅠの被験者は、問題2 2

 - の家庭用電極に対して「交流的な認識」を持っている。続いて、彼らは問題 - において2 1 2 2

も全てが「交流的」に回答して、正解者になった。また、グループⅡの被験者は、問題 - の家2 1

庭用電極に対して「直流的な認識」を持っている。その結果、彼らの92%は問題 - においても2 2

「直流的」に回答して不正解者になった。

 特に、彼らが回答の根拠として挙げた「答えの理由」をみると、まず、「家庭用電気が交流か、あ

るいは、直流か」を判断した上、その結果によって電極や電流もシステマチィックに判断している

ことが明らかになった。例え、「家庭用電気は交流」のように正しく認識している被験者の75%は

「交流だから、電極や電流も変化する」ことを指摘している。また、「家庭用電気は直流」のように

誤認識している被験者の41%は「直流ですから、電極や電流も変らない」のように間違っているこ

とが明らかになった。彼らは次のような「システマチィックな誤りⅠ」をもっているのではないか

考えられる。

「システマチィックな誤りⅠ」:「家庭用電気は、乾電池からの電気と同じ電気である

から電極が変わらない。その上、電流の向きも一定で変わらない。」

<表 >問題 - 、  - の答えの理由と - とのクロス分析表2 2 1 2 1 2 2

合計問 - 2 2問 - 2 1

その他<-、<- �� ->、->(直流的)

<->、<->(交流的)答えの理由回 答

43交流だからグループⅠ

(+-、-+)(交流的) 1乾電池と同じだから

24

14乾電池と同じだからグループⅡ

(+、-)(直流的) 5電気は+から-へ流れるから

113その他(無回答など)

22その他その他

304224合   計

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   - . 事例Ⅱ:電気回路と電線に流れる電流2 2

 上述したように、被験者は関連性がある問題の解決において、システマチィックに回答している

のではないか考えられる。これと同じ事例として、問題 - から つの電球が直列連結されてい4 1 3

るように誤りをしている被験者は、この誤りが根拠になり、問題 - の回答においても、引き続4 5

き間違う可能性があると予測している。これを確認するため、問題 - の結果と問題 - の結4 1 4 5

果、その「答えの理由」とのクロス分析を行い、<表 >に示す。3

 <表 >によると、問題 - から「図Bの つの電球は直列連結されている(次の「誤りⅠ」)」3 4 1 3

のように考えているB群(23人)の被験者の中で、問題 - においても「③電線�、�、�に流4 5

れる電流は同じ」のように誤っている被験者が70%(16人)に達している。また、彼らのなかで 8

人は答えの理由として「(図Bの つの電球は)直列連結されているから、電流も一定である」こと3

を挙げている。これは、問題 - から「誤りⅠ」をもっていると、次の「ルールⅠ」のように直4 1

列回路に流れる電流に関して正しいルールを持っているにもかかわらず、彼らは問題 - の結果4 5

も間違っている可能性が高いことを語っている。その結果、彼らは次のような「システマチィック

な誤りⅡ」を持っていると考えられる。

誤りⅠ:「図Bの つの電球は直列連結されている」3

  ルールⅠ:「直列連結されている回路に流れる電流は同じである」

「システマチィックな誤りⅡ」:「図Bの つの電球は直列連結されているから電線�、3

�、�に流れる電流も同じである」

<表 >問題 - と - とその理由とのクロス分析表3 4 1 4 5

合 計その他ない(正解)B群* 問 - 4 1

問 - 理由 4 5問 -  4 5

11並列でタコ足連結だから

電線���同じ(誤ルール)

918直列で電流一定

918その他(無回答を含む)

191216小 計

413電源に近いから

電線�の部分(正解)

11抵抗が掛かっていない

4112その他(無回答を含む)

9225小 計

22その他(無回答含め)そ の 他

303423合     計

*B群は問題 - から「B、AB、ABD、全て」を選んだ被験者である。4 1

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―  ―188

   - . 事例Ⅲ:電気回路と電球に流れる電流2 3

 先述べた<表 >(10頁)からも、システマチィックな誤りの存在を示唆する例を指摘したこと1

がある。これを明らかにするため、問題 - から問題 - 、問題 - までの被験者の回答の2 1 4 1 4 3

流れを分析、次の図 に示す。5

 図 によると、被験者の回答は つのパターンに分類された。第 に、パターンⅠ(T →T )5 5 1 1 2

の被験者は、問題 - から「家庭用電気は電極や電流の向きが変わる交流である」ことを認識し2 1

た上、「問題 - から、「家庭用電気器具は並列連結されている(T )」こと、続いて問題 - 4 1 1 4 3

においても「電球の消費電力が違うから流れる電流も違う(T )」ことを正しく知っている。彼ら2

 人はシステマチィックなルールを持っていると思われる。2

 第 に、パターンⅡ(F →T )の被験者は、問題 - に対して、「家庭用電気器具も連結の2 1 2 4 1

図 . 問題 - から問題 - 、問題 - までの被験者の回答の流れのパターン分析5 2 1 4 1 4 3

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―  ―189

形によって直列連結されている(F )」のように誤りを持っているが、問題 - の解決において1 4 3

は「 つの電球のW数が違う(T )」ことを正しく認識している被験者で、彼ら 人は正解者に3 2 2

なっているが、体系性は見えなかった。

 第 に、パターンⅢ(T →F )の被験者は、問題 - に対しては正しいルール(T )」を3 1 2 4 1 1

持っているが、問題 - の解決においては誤りを持っているから誤ルール者( 人)になり、体4 3 2

系性は見えなかった。

 第 に、パターンⅣ(F →F )の被験者は、問題 - から「家庭用電気と乾電池からの電4 1 2 2 1

気の性質は同じですから家庭用電気の電極は変わらないし電流の向きも一定である」のような誤認

識をしている。その上、彼らは問題 - からも先述べた「誤りⅠ(F )」の保持者であることが4 1 1

明らかになった。

 これは、問題 - からの誤認識と関連性があると思われる。一方、彼らは電気器具に流れる電2 1

流に関しては上述した「ルールⅠ」の保持者であることが明らかになった。しかし、彼ら(12人)

は最初の回路の問題 - から誤っているからそれを根拠にして回答した問題 - の答えは、電4 1 4 3

気回路に流れる電流に関しては正しい「ルールⅠ」を持っているにも関わらず、いずれも正解とは

外れている(F )ことが明らかになった。その結果彼らは、次のような「システマチィックな誤2

りⅢ」を持っていると考えられる。

 第 に、パターンⅤ(F →F )の被験者は、問題 - の回路問題や問題 - の電流の流5 1 2 4 1 4 3

れに関しても誤りを持っている誤ルール者である。彼らは、電気回路や電流に関する物理的ルール

Ⅰも全然分からないし、その上、電気装置やコンセントなどが配置されている外形から電気回路の

特性を判断するなど根強い誤ルール者(12人)であることが明らかになった。

 以上の結果から、筆者は概念的に関連つけられている多数の問題の解決において、被験者が最初

の問題から誤認識(これが原因になる誤りであるから「親の誤り」にする)をしていると、その誤

認識を根拠に次の問題を解決しようとするから引き続き間違ってしまう結果(これは「子の誤り」

にする)になるのではないか考えている。

 このように、多くの学習者は当面した問題の解決において、何らかの理由で親になる誤りを保持

するとそれが原因になり、次々に子の誤りを生み出す可能性があるので、このような誤り体系を筆

者は「親子誤り」と名づける。

「システマチィックな誤りⅢ」:「回路図B、あるいは、ABの つの電球は直列連結3

されているから、各々の電球に流れる電流は同じである」

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―  ―190

Ⅴ. 今後の課題

  - . 親子誤りに関する事例研究5 1

 筆者は、子ども・生徒が持っているシステマチィックな誤り、すなわち、親子誤りに関する幾つ

かの事例を予想している。その事例を調査するのが第 の課題である。1

  - . 親の誤りを援助するストラテジー開発5 2

 次の課題は、このような親子誤りを持っている子ども・生徒・学生のための援助の対策である。

この親子誤りの援助対策として、筆者は「親の誤りを正しいルールに変換できるように援助すると

子の誤りは自然に解決できる」と考えている。

謝 辞

 東北大学大学院教育学研究科の宇野忍先生より、さまざまなご指導を受けました。記して感謝申

し上げる次第である。

� 誤れる特殊化、誤れる一般化、前件や後件の選択ミスなどである。

� 中学校理科の教科書によると、『交流』という用語は使っていないが、『交流』電気を使っている場面からみると、

『家庭で使う電気(東京書籍、大日本図書)』、『日常生活で使っている電気(啓林館)』のように表現している。筆

者はこれらをまとめて『家庭用電気』に表すが、『交流』と同じ意味で使う。

� この「自分評価」は被験者が自分の答えについてどのぐらい信念を持っているか、あるいは、どのぐらい自分も

思わぬ誤りをしているかを予測するため導入した。実態調査問題紙の表紙に教示したように、「自分の答えが『正

答』だと確信する場合は『○』を、正答の可能性が半分ぐらいなら『△』を、全然分からないまま答えた場合は

『×』を選択する」ようにした。この結果から答えについて被験者がどのぐらい信念を持っているかを数字化する

ため、まず、被験者一人一人について「△」を基準点「 」点にして、「○」を+ 点、「×」を- 点に点数化し0 1 1

て足し算をする。その結果�を無応答者を除外した応答者数�で割り算をした結果を「自分評価指数�」にする。

これを応答者の答えについての信念を平均的に表わす点数にする。この指数Bが+ に近づくほど正答への期待値1

が高くなり、- に近づくほど正答への期待値が低くなる。Bが「 」点に近づくほど調査対象者の自分の平均点1 0

数の期待値が50点に推定する。したがって、自分が信じている「自分評価点数�」の予測も可能になると思う。こ

れを数式的に表わすと「C=(0.5±B/ )100」点」になる。2

  これを応答者の正答率(平均得点、A)と比較してみる。その結果が、例え、被験者の自分評価点数Cは高くなっ

たが正解率Aが低くなった場合は、被験者は自分の判断基準、あるいは、ルールに対して信念を持っているが、そ

れは誤ルールの可能性が高いと判断される。

文 献

安藤裕明・森藤義孝・中村迅、1997、単純回路に関する小・中学生の考え方の再検討―事象面接法を通じて―、科学

教育研究、21�、115~125

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―  ―191

ヒュイッート(小出昭一郎他 人訳)、2000、『物理のコンセプト  電気・磁気と光』、共立出版、282 4

細谷純、2001、『教科学習の心理学』、東北大学出版会、157~165

古屋光一・戸北凱惟、2000、電磁気学の概念形成を支援するための指導方略に関する実践的研究、科学教育研究、24

�、202~216

古屋光一・戸北凱惟、2001、並列・直列回路における電流の流れ方の認識に関する実態調査、科学教育研究、25�、

90-101

工藤与志文、2002、概念受容学習における事例の問題―直接的な学習ソ-スとしての「事例」―、札幌学院大学人文

学会紀要、71

麻柄啓一、1998、中学生と大学生における誤った回路認識、科学教育研究、22�、215~222

三浦登ほか44名、2002、『新しい科学 分野上』、東京書籍1

文部省、1999、『中学校学習指導要領解説―理科編―』

文部科学省インタネットホームページ(����:��������������)の初等中等教育・学習指導要領

永井秀樹・川北一彦、1999、子どもが考えた電流モデルの有効性について、理科教育学研究、40�、35~43

オズボーン・フライベーグ(森本信也・堀哲夫訳、1988)、1985、『子ども達はいかに科学理論を構成するか 理科の

学習論』、35~42、東洋館出版社

白井秀明・荒井龍弥・宇野忍・工藤与志文、2000、一貫した判断基準としての「電流モデル」の形成―小学校 年理6

科「電流のはたらき」を対象として―未発表原稿

瀬田裕司、2000、中学校での電気の学習、理科教室、43�、22~26

霜田光一ほか26名、2002、『中学校理科 分野上』、学校図書1

竹内敬人ほか39名、2002、『理科 分野上』、啓林館1

戸田盛和ほか47名、2002、『中学校理科 分野上』、大日本図書1

脇本宏治、1992、単純な電気回路に適用される小学校児童の電流モデルの状況依存性、日本理科教育学会研究紀要、

32�、49-59

吉埜和雄、1992、電圧は高さ、電池は回路に高さを作る、理科教室、36�、35~41

付録:事態調査問題(本調査問題の中で、結果の分析を行った14問を紹介する)

 。家庭用電気に対して次の質問に答えなさい。2

( - )壁のコンセントは乾電池と同じ役割をして電球に光がつく。2 1

そうすると、コンセントの+、-極はどうなっているか。図

�のコンセントの下の部分にある(  )の中に、その+、

-記号をかき入れなさい。【自分の評価:○△×】

   *答えの理由は?(             )

( - )図�の中のA、B点を流れている電流の向きを(  )の中に矢印で書き入れなさい。2 2

【自分の評価:○△×】

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大学生の物理学領域における科学的認識に関する教育心理学的研究

―  ―192

( - )この電流はどのように流れていると思いますか?【自分の評価:○△×】2 3

  ①いつも一定で、一つの方向に流れる

  ②いつも一定で、交互に行ったり来たりする

  ③いつも波動のように変化しながら一つの方向に流れる

  ④いつも波動のように変化しながら交互に行ったり来たりする

  ⑤いつも電子の衝突によってジグザグに変化をしながら一つの方向に流れる

( - )電球を発光させる自由電子はどこから来たものだと思いますか? 【自分の評価:○△×】2 4

  ①電気会社の発電機から壁のコンセント(乾電池の役割)を通じて

  ②フィラメントと連結されている電線の中から

  ③フィラメントと連結されている電線とフィラメントの内部から

  ④フィラメントの内部から

  ⑤スイッチから

( - )電球を発光させる自由電子の運動の様子は次のどれだと思いますか。【自分の評価:○△2 5

×】

  ①コンセントからフィラメントのほうに加速・減速しながら速いスピドで移動する

  ②フィラメントで消費された自由電子の量を補充するためコンセントから移動する。

  ③フィラメントの内部を外れなくてその位置で振動しながら金属原子と衝突している。

  ④金属原子と衝突し、エネルギーを奪われてジグザグにゆっくり移動する。

( - ) 図のように壁のコンセントに電球が連結されている。2 6

回路の一点における電流の方向を正しく表している図

はどれですか。【自分の評価:○△×】

  ①図A:常に一定の向きに流れる。

  ②図B:時間とともに向きが交互に行ったり来たり流れる。

  ③図C:常に一定の向きに波動のように振動しながら流れる。

  ④図D:常に一定の向きにジグザグに流れる。

問題 . 次の問に答えなさい。3

( - )右の図のようにU字形磁石の中でコイルを前後に振動3 2

をさせます。その間、コイルには電流が発生しますか。

  ①発生しない

  ②発生する。→問題( - )に答えてください。3 3

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( - )次は問題( - )でコイルに発生する電流に関する説明です。正しいと思うものには3 3 3 2

○を、まちがっていると思うものには×をつけなさい。【自分の評価:○△×】

 (  )①コイルが磁石の中に入たり出たりする時、発生する電流が「 」の場合もある。0

 (  )②コイルが磁石の中に入るときと出るとき、発生する電流の向きが逆になる。

 (  )③コイルの動きを速くするとコイルに発生する電流は逆に小さくなる。

 (  )④コイルが磁石の中でにあっても、コイルが動かなければ電流は発生しない。

 (  )⑤コイルの巻き数を多くするとコイルに発生する電流は大きくなる。

 (  )⑥コイルを動かさず、磁石を動かす場合、コイルに電流が発生する。

 (  )⑦コイルに発生する電流は磁石の強さとは関係ない。

 (  )⑧コイルに発生する電流は家庭用電気�の性質と同じである。

 (  )⑨これは自転車の発電機の原理と同じである。

 (  )⑩小形電気モーターの回転軸を回転させるとこれと同じ性質の電気が発生する。

問題 .  種類の家庭用電球L (100V100W)、L (100V60W)、L (100V40W)が図A、4 3 1 2 3

B、C、Dのように連結されています。次の問いに答えて下さい。答えは一つとは限りませ

ん。(図 参照)2

( - )三つの電球が直列に連結されている回路はどれですか。【自分の評価:○△×】4 1

  ①A ②B ③C ④D ⑤ない ⑥全て

( - )三つの電球が並列に連結されている回路はどれですか。【自分の評価:○△×】4 2

  ①A ②B ③C ④D ⑤ない ⑥全て

( - )三つの電球に流れている電流の強さが同じ場合はどれですか。【自分の評価:○△×】4 3

  ①A ②B ③C ④D ⑤ない ⑥全て

   *答えの理由は?(            )

( - )図Bに対して後の問いに答えて下さい。答えは一つとは限りません。三つの電球の中で4 4

一番先に電流が流れて光がつく電球はどれですか。【自分の評価:○△×】

  ①L  ②L  ③L  ④同じ1 2 3

( - ) 図Bで一番多くの電流が流れるのは電線のどの部分ですか。【自分の評価:○△×】4 5

  ①電線�の部分  ②電線�の部分   ③電線�の部分  ④電線�、�、�に同じ

   *答えの理由は?(            )

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大学生の物理学領域における科学的認識に関する教育心理学的研究

―  ―194

( - )電球に光がつくことは閉回路が構成され電流が流れた結果である。図Bの閉回路はどれ4 6

ですか?【自分の評価:○△×】

  ①コンセント→電球L →L →L →L →L →コンセント1 2 3 2 1

  ②コンセント→電球L →コンセント1

  ③コンセント→電球L →L →L 1 2 3

  ④電球L →L →L →L →L 1 2 3 2 1

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―  ―195

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