東京医科歯科大学 難治疾患研究所エピジェネティクス分野 石野史敏

生命動態システム科学戦略作業部会110509

医学・生物学におけるエピジェネティクスの 重要性

エピジェネティクスから何がみえてくるか？

ゲノムインプリンティングと体細胞クローニングを例に

資料2-1

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雌性単為発生胚

雄性発生胚

egg

Sperm

Parthenogenetic embryos

Androgenetic embryos

early embryonic

Lethal（初期胚致死）

early embryonic

lethal （初期胚致死）

胎仔 胎盤

発生10日目

マウスでの前核移植実験1984年（Suraniら, Solterら, Mannら）

ゲノムにはDNA配列情報以外にも重要な情報が含まれている！

ゲノムインプリンティングの発見

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父親由来のゲノム

ゲノムインプリンティング父親・母親由来のゲノムの機能的差異

母親由来のゲノム

MegMaternally expressed gene

PegPaternally expressed gene

ゲノムが由来した親の性別の記憶

3

エピジェネティクスの世界－ゲノムインプリンティング・体細胞クローンから何がみえてくるか？－

それは細胞分裂を経ても維持され、かつ書換え*できる記憶！

ゲノムインプリンティング：ゲノムが由来した親の性別の記憶

体細胞クローン：発生分化に伴う細胞系譜の記憶

ゲノムにはDNA配列情報以外にも重要な情報が含まれている！

*書換え=リプログラミング

“リプログラミング”を生命動態システム科学で解き明かそう！！

4

エピジェネティクス

Genetics

Epigenetics

遺伝学

エピジェネティクス：その二つの学問的由来

発生学

Developmental Biology

メンデル遺伝学では説明でき ない遺伝現象を説明する

個体発生において、同一のゲノム をもつ細胞の多様性を説明する

5

遺伝子型が同じならば表現型が同じということを前提としている。

AA × aa

Aa

親世代

F1世代

遺伝子型

表現型 A

メンデルの遺伝法則では

父 母

aa × AA

父 母

=

= aA

A

Geneticsの世界

遺伝子型が同じならば表現型が同じであること（因果関係）を保証している。

6

hinny = donkey ♀ × horse ♂ mule = horse ♀ × donkey ♂

哺乳動物における

父親・母親に由来するゲノムの機能的差異

ケッテイ（駃騠） ラバ（騾馬）

馬ロバ(驢馬) 馬 ロバ(驢馬)

7

同じ遺伝子型で表現型が異なることがある

AA × aa

Aa

親世代

F1世代

aa × AA

aA

遺伝子型

父 母 父 母

表現型

=

哺乳類においては

A a=

SNPsだけでは疾患の予測ができないことがある

Epigenetics の世界8

エピジェネティクス

Heredity 遺伝

Genetics

Epigenetics

ジェネティクス

heritable change

Development, Differentiation, Morphogenesis and Evolution発生、分化、形態形成、生物進化

遺伝学

将来：２つの genetics!

genetic inheritance (DNA変異の遺伝）

epigenetic inheritance (DNAの使い方の遺伝）

ジェネティクスとエピジェネティクスは生物を理解するための２つの柱である

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個体発生の過程

受精卵が分裂して細胞が増える（同じゲノムを持つ均一な細胞）

分化決定した細胞は元の細胞に戻れない、他の系列の細胞に なれない（分化の一方向性）

1940年代にWaddingtonがエピジェノタイ プ (epigenotype)と名付けた

発生学におけるエピジェネティクス

1996年のWilmutの体細胞クローンヒツジの樹立

成功により、この概念は個体レベルで覆された

2006年の山中のiPS細胞の樹立成功により、

この概念は細胞レベルでも覆された

リプログラミング（分化した細胞の細胞系譜の

記憶の初期化）

細胞の分化（同じゲノムを持つ多様な細胞の生成）

この意味で、細胞分化（個体発生）がエピジェネティックな過程であると見なされた

エピジェネティックな過程が個体発生には含まれるが、個体発生すべてがエピジェネティックという訳ではない。

10

byConrad Hal Waddington

in Strategy of the Genes, 1957

THE EPIGENETIC LANDSCAPE

11

THE EPIGENETIC LANDSCAPE

byConrad Hal Waddington

in Strategy of the Genes, 1957

12

Fertilization

iPS cell generation(pluripotency=多能性)

Development (normal epigenetic changes)

２つのゲノム再プログラム化

体細胞クローンは、１個の細胞ゲノムに全能性を付与する唯一の方法

Somatic cell cloning(totipotency=全能性)

＝ １個の細胞から完全な動物個体を作出できる

理研BRC 小倉淳郎室長提供13

・成功率が低い（２－３％）・胎盤の過剰形成・短寿命、肥満の問題

体細胞クローン動物に見られる異常

セルトリ細胞由来の体細胞クローンマウス

一見、正常に生まれ、正常に成長して

子供を作れる（姙性あり）

体細胞クローンマウス 普通のマウス

出生時

20日目

13日目

14

Nature Medicine 2002, 8:262

エピジェネティックな異常である！！

クローンマウスに見られる異常 は有性生殖では伝わらない

クローンの子供は正常な表現型を示す

遺伝的（ジェネティック）な異常ではない！

理研CDB 若山照彦博士提供15

セルトリクローン キュムルスクローン

クローン動物は個体ごとに遺伝子発 現プロファイルが異なる

Kohda et al. Biol Reprod 2005 16

Impeding Xist expression from the active X chromosome improves mouse somatic cell cloning Inoue K et al., Science 330, 496-499 (2010)

Xist 遺伝子の発現を抑えることにより体細胞クローニン グの成功率が高まる

体細胞クローンマウスのX染色体不活性化の異常が問題だった！！

IVF Control

Sertoli clone

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 1 1

12 13 14 15 16 17 18 19 X

1

0.1

0.01

0.001

10

100

1000 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 1 1

12 13 14 15 16 17 18 19 X

1

0.1

0.01

0.001

10

100

1000

Gene expression profile from each chromosome染色体ごとに分けた総遺伝子の発現量比

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体細胞クローンマウスに見られる Xist 遺伝子の発現異常

オスの１本しかないX染色体から Xistの発現がみられる！！

Inoue et al. Science 2010 18

Xist KOマウスをもちいた体細胞クローンマウスの成功率は１０倍上昇した！！

Inoue et al. Science 2010

♀ ♂

19

医学

産業

生物学

野生動物・絶滅動物のクローン 組織再生

（ES 細胞）

家畜優良形質の保存

核移植クローンに期待されること

生物製剤の生産（乳、尿）

発生学研究

臓器移植用動物作出（ブタ）

理研BRC 小倉淳郎室長提供

ペットのクローン作出

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