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蛋白の Helix-Coil転移
中 島-章 夫
1. 蛋自分子の構成
Linderstr卯n-Lang(1952)は蛋自分子の構成を次の 3つの要素に分けて表現することを提案
した.すなわち,蛋白分子のアミノ酸組成ならびにその化学結合)1原序を芳一次構造, ベプタイ
ド鎖が foldingして helixその他の形態をとる要素を汁二次構造,さらに helixその他の形態
相互を結びつける要素を芳三次構造と名付けた. 現在までにうf一次構造の確定された蛋白は
insulinと ribonucleaseの2つであるが. それらのより高次の構造に関しては目下研究が行
われつ Lある現状である.
蛋白の骨格鎖が分子中でどのような様式で存在するかということに関して有力な仮定は, 骨
格鎖が organizedstructureと unorganizedstructureの集合として 1つの分子を形成してし、
るとすることである.Organized structureとしては Paulingらの提案する αhelixや, s-configurationがあげられ, unorganized structureの極端な例には, 通常合成ポリマーの減
液中における形態の模型として用いられる randomcoilがあげられる.蛋白の固態試料におけ:
る organizedstructureの集団はX線的に高分子の結晶領域として把握され,汗二次構造に闘
して定量的な知見が得られたわけである.7f三次構造にはダイサルフアイド結合,側鎖聞のポ
素結合,疎水性結合などがあげられる.たとえば NH3+と coo-基聞の塩結合は水素結合と考
えられ, また poly-D,L-alanineの helix形態を安定にする methyl-methyl相互作用は疎
水性結合の一例である. なかんずくこの芳三次構造に関与する側鎖聞の水素結合は, helix形
態の安定化に寄与するだけでなく,側鎖に関係のある蛋白の反応, たとえば小イオンや分子の
結合,制限されたproteolysis,蛋白戸蛋白の会合,変性その他に著しい影響を与えるわけである.
Helix内における水素結合が pHに無関係であるに較べ,この側鎖聞の水素結合は pHに依存
する
上述したように, 分子の形態の安定性には主として芳二次ならびに芳三次構造に関連する菌
子が主役を演じるわけで、, foldingされた形態が unfoldingする場合の自由エネルギ一変化量
がプラスであるような条件を選べば, foldingされた形態が安定に存在することになる. し誌
がって適当な溶媒,温度を選べば, foldingした形態が稀薄溶液中においても安定に保たれt;
わけで,溶液中における helix形態の挙動は,旋光度の測定により Dotyらによりはじめて明
かにされたところである.
蛋白の構成に関して物理化学が寄与できる領域は,主としてこれら汁二次, 芳三次構造に関
連する部門である.以下には,分子の unfoldingの問題を中心として,転移に伴う形態変化を
分子の構造と関連して述べようと思う.
2. ポリベプタイドの水素結合の模型としての原素水溶液
強い双極性物質の水溶液の稀釈熱が発熱であることは理論の要求するところであるが, 尿素
2
水溶液の稀釈熱の実験値は吸熱で、ある. このことは shortrange interactionが longrange
の electrostaticforceに優先していることを示すものであり, C=Oと NH聞の水素結合が
注目される.尿素水溶液に関する bondreaction
>NH....Oく 十 、OH・・・・O=cく ご >NH....O=Cく + 、OH・・・・0く
において,ベプタイド水素結合の生成熱がマイナスであるということは, 右辺の結合が左辺の
それより強力であることを示すものである. したがって,水溶液中で尿素は会合して存在する.
2 monomer +:t dimerの反応の平衡恒数Kは, Gucker1) らの測定値をもとに, Schellmanわに
よって K= 0.041 (25" C)と求められた. こLで注意すべきは,この数値は 1個の水素結合な
らびに 2個の水素結合を有する尿素2量体混合物に関するものであり 1個の水素結合のもの
Lみに関してはK=0.025と見積られねばならないめ. Schellman2)はさらに前出測定値から 1
個の水素結合の生成熱を秤価し -1500calをえた.
ひるがえってボリベプタイド helix骨格中の水素結合を考えると, これは尿素分子聞の水素
結合と殆んど同ーと見なすことができる. したがって土にえられた値は, よい近似でベプタイ
ド水素結合の生成熟として使用できる.
3. ベプタイド水素結合の解離熱ムHresと解離エントロビームSres
ペプタイド水素結合の解離熱ムHresは,前節の数値の符号を逆にして,
ムHres=1500 cal
で与えられる.解離エγ トロピーの方は 2つのアミノ酸残基の聞に 2つの水素結合が形成さ
れるから 1残基当り 1個の水素結合で,ムHresに対応するムSresは1アミノ酸残基の形態
数(厳密にはそれに溶媒のエシトロピー効果を加えたものであるがこの効果はがで無視できる
とする〉を計算して秤価できる4)
ムSrdM:mi,mi :i-thボンドに関する形態数
Paulingによれば 1アミノ酸残基中の 2つの一重結令に関しそれぞれ 6個の形態があり,ま
た一CO-NHーに関しシスとトランスがあるから Emiz72で、あるが, トラシス型が謹かに安定で,
IJfmt戸 36とすると,
ムSres=7.18e. U.,ムFres = -600 cal (25" C) . . . . over estima te,
また他方長鎖ノ4ラフイ γ中のC-Cボシド当りの形態エ γ トロピーが1.5 e. u.であることをアミ
ノ酸残基にあてはめてみると,
ムSres=2 x 1. 5 e. u. = 3.0 e. u. , ムFres=600 cal (25" C)・・・・ tmder estimate
となる.しかしこれらの秤価は, 仰l鎖の効果の小さいもの入みに有効で、あって,一般の蛋白に
そのま L適用することには難点がある. ムHres,ムSresの数値は才二次,芳三次の蛋白構造の
安定性を論義するに極めて重要であるので,筆者ら勺主実験的に直接これらの数値を見出す方法
を提案した. この方法では側鎖の水素結合が生成しないような pHを選んで、,尿素水溶液中で、
の helix→coil転移温度 Ttrを尿素濃度Cの函数として測定し l/Ttr対 Cプロットから
ムSres,ムHresを同時に求める. この際,矛2節で述べた平衡恒数K (温度に依存する〉を,
ペプタイドの COあるいは NH基と尿素の間の結合に関する平衡恒数として用いる. これら
数値の算出に当つては,該当試料分子中の helixの長さ(アミノ酸残基数), 架橋に関する数
値が必要である.
3
4. Helix-Coil転移
蛋白中の helixの安定性を熱力学的に最初に取扱ったのは Schellmanめであるが, その後
さらに Hill'), GibbsへPeller7),SchellmanべZimm9
) らによって取扱いの拡張ないし微細
化が行われた.
Helixの安定性は, ベプタイド水素結合が与えられた条件で安定であるかどうかということ
であり,尿素水溶液における水素結合交換反応と同様に,水中における helixに関し次の形の
反応を考えるよことができる.
αhelix十水三水和した randomcoil
才二次構造のみならず汁三次構造をも考慮しなければならないような分子に関しては,側鎖
水素結合の架橋の効果も当然分子の安定性に寄与してくる.
したがって,一般に蛋自分子の fo1dedstructureが unfoldingする場合の自由エネルギー
の変化量ムFunf出,これらの効果,すなわち骨格 helixに関するムFB,架橋に関するムFx,
側鎖水素結合に関するムFHの和として与えられ,
ムFunf=ムFB-I1-ムFx+ムFH
これらはたとえば次のような形で示される.
ムFB = (n-4) L:,;Hresー(n-1)TムSres'. . . . per helix
ムFx=-TムSXi=(3R/4) (ln n十3)・・・・.'per helix
ムFH=-RT2:初(1-Xij)
x 一句 Kij Ij = 1 +Kij十(Kl/CW J)十([WJ/Kz)
(1)
(2)4)
(3)10)
(4)3)
上式中 nは helix中のアミーノ酸残基数, Rはガス定数 Xijは i-j水素結合の存在分率,
KIjは水素結合の平衡恒数, Kl, Kzはプロト γ供与体,受容体の解離恒数, [Hつはプロトン
の活量である.
Helix-random coilの転移温度 Ttrにおいては,ムFunf=Oの条件から Ttrの n,pH,
架橋の依存性がわかる .α を helixから randomcoilに転移した分子の分率とすれば,
α=[l+e +ムFunf/RTJ-1 (5)
であり,これから転移の sharpnessが計算できる山.たとえば,
(a) n個のアミノ酸残基よりなる 1つの helixの場合
(判 (n-4)ムHresd T )Ttr - 4RTtrZ (6)
(b) 側鎖聞の水素結合がある場合,
(~α) 1(n-4〉bHyes十ムHHd T)Ttr =一一--:TRTtrZ ー,ムHHは側鎖水素結合の解離熱(7)
(c) 架橋のある場合
ムS玄
(~α) Ttr =~(n 1)ムい ~XJ汀 )Ttr = 4R(n川 口 ')1は網目単位鎖の数 (8)
このような helix-randomcoil転移は,実験的には旋光度,光散乱a 粘度,流動複屈折,紫
外スベクトルの光学密度, X線,収縮力,試料長などの測定によって追求される.
4
5. 実験 例
a) Insulin12)
Zn-insulinに約 8%の sodiumlauryl sulfateを加え, このものを水 N,N-dim巴thyl
formamide formic acid 00: 4 : 3 )の混合溶媒にとかして約50%溶液とし (pH=5.5-6. 0)
約20時開放置, Na2S04, MgS04, HCHOを含む水溶液 (pHキ6.0)中に注射針を用いて紡糸,
この溶液中で約2日放置後冷水で洗糠,次いでト p-benzoquinone溶液中 (phosphate buffer,
pH 8. 9)でO.5~1. 5時間架橋させ,水洗し, insulin fiberを得る.このものをさらに750Cまで
の尿素水溶液 (1mol)中で延伸して (200%), 被検試料とした. Figs. 1 ~ 2に収縮力な
1.2
制¥g υ E M 08
民q8J 0.4
o 30 40 駒 60 70 80
Temperature, oc
Fig.l Force-temperature curve at constant length for an insulin fiber in a buffer solution of pH 3.04
1.0
0.9
出三。 0.8
ド,主dロω 」主 O.7
0.6
0.5 30 40 50 60 70 80
Temperature, oc
Fig.2 Length-temperatur巴 curveat zero force" for an insulin fiber in 、
buffer solution of pH 3.04
:5
らびに試料長の温度依存性を示す.曲線の inflectionpt., Ttrは両曲線でよい一致を示した.
試料はごく僅かに架橋させたものであり,試料の模型として Sangerl3) の構造を採用し A-
chain中で 14の基が B-chain中で 13の基が α-helix構造であるとし, 他は unorganized
structureであると仮定する CFig.3).
tSES「S 14
主s
13
Fig.3 A model for the helical portion of the insulin fiber in the system
3.10
〆
3.00
"CHX 益、
t 2.90 。
2.80 o 1 2 3 4
Urea Concentration, C molejliter
Fig.4 Data for the dependence of the transition temperature on urea concentration
尿素水溶液中の Ttrと尿素濃度の関係は Fig.4に示したが, この結果から上述の模型を
用いて l',.Hresを計算してみるとムHres=1720 caVmolとなり, この数値から考えて上述模
型が妥当であると云える. Fig. 5には Ttrの pH依存性を示した. 図の点線は Fig.3の
helix部分の安定化に histidyl-carboxylateionの側鎖水素結合が関与していると考えて計
算した理論曲線で、ある.この側鎖水素結合は B-chainの No.10基(his.)と No.13基 (glu.)
の聞の結合であるかも知れない.
b) Ribonuc1easeめ
Bovine ribonuc1easeを NaClを含む phosphatebuffer (pH 9.5)に溶し,稀ホノレマリ γ
溶液で、ゲノレ化させ圧縮フィルム状にし p-benzoquinoneで予備架橋させ,このようにして得
られたフィルムを,次いで 4M尿素溶液で650
Cで延伸後張力下で再び p-benzoquinone溶液に
浸漬し架橋させる. Fig. 6に, 2 Moleの KClを含む pH6.53の buffer中における収縮
力と温度の関係を示す.この条件では過程は可逆的であるが, pHを 6.53にすると Fig.7に
示すようにヒステレシスが見られる.このことは, pH 6.53の条件で側鎖水素結合が helixの
安定性に効果を与えているものとして理解される.すなわち,骨格 helixのみの転移は用いた
:s
801-
70
90
ハ)0
.
とド
50
10
pH
Relation between the transition tempeoture and pH of the
diluent. The dashed curve was~ obtained from the model
calculation
8 6 4 40じ
2
Fig.5
/ザ
0.6
0.5
0.4
0.3
盟国国
6U』。'山
。。ザo
0.2
0.1
。。 50
Change in contractile force with temperature in a buffer
solution at pH 2.35, containing 2 M KCI
o ascending, . descending temp.
ム ascendingin the second run, Ttr""23.~5PC
40
.C 20 30
Temperature,
10
Fig.6
1.2
J
0.9
凹
F 日
d U 0.6 ... 。[ム
0.3
0
20 30 40 50 60 70
Temperature, .C
Fig.7 In a buffer solution at pH 6.53 containing 2M KCl o ascending, . descending temp. Ttr= 490C
7
タイムスケール内で、可逆的に行われるが (pH2.35),変性の逆過程で骨格 helixのみならず
側鎖水素結合の形成が要求されるような pH(6.53)では,過程がより緩慢で, したがってヒ
ステレシスが観測されたと考える.
最近提出された水系における nativeribonudeaseの Scheraga14l の模型では ,1個の分子
が 6個の helixからなり, helical, part が60~70%を占めていることが知られている.こ L で
用いた試料フイノレムでは,架橋によって helixの含率が低下していることが予測できる. 2,
3の trialsの後,用いた試料の organizedstructureの単位模型として Fig.8に示すような
Fig.8 A model for the assumed helical portion of ribonuc1ease in the. cros話 linkedfilm
単位が有効であることがわかった. すなわちこの単位は, アミノ酸基がそれぞれ12個よりなる
2つの helixがその末端で架橋されているような構造である.12という数字は Scheragaの模
型における helix部分の長さを考慮して導入された.尿素溶液で求められた Ttrよりこの模型
8
で計算するとムHres= 1700 cal/molとなり, これは insulinに対する数値とほ三等しい.
Fig. 9は転移温度の pH依存性に関する結果であり, 側鎖水素結合が大きい役割を演じてい
ることがわかる. この場合. 1個の organizedstructureの構造単位当り. 1個の tyrosyl-
carboxylate ion結合と 1個の histidyl-carboxylateion結合を考えることによって結果が定
60
50
40 (υo)A、hh'H
12
pH dependence of transition temperature for ribonuclease film
Solid line --experimental results: 。in0.07 M buffer solutions,
• in the same buffer with added 2 M KCI.
Broken line - calculat巴dresults, assuming 1 tyr. -carb. and
1 his.ーcarb.hydrogen bonds.
10 8
pH
6 4
10 2
Fig.9
] -A
a
6
α・岡田明【【
ω註凶
いち
ωω』
Vω白
2 2 10
pH dep巴ndenceof degree of swelling for ribonuclease film
0.07 M buffer; 300C 0, 600C /),
0.07 M buffer + 2 M KCl; 300C e, 600C 企
9 8 7 5 6 pH
4 3
Fig.l0
9
量的に説明できる. Native ribonuclease 1分子当り carboxylは 11個, tyrosylぬ6個,
histidylは4個あるから,この仮定は尤もらしい.
これらの検討の際重要な ζ とは,膨潤度の pH依存性を調べておくことである. Fig. 10に
実験結果を示したが, 2M KClを添加した系では, 膨潤度は pHに殆んど依存しないことが
確められた.転移点以上の温度における膨潤度の測定より分子鎖の溶解熱が秤価できる. 用い
た系では
[organized phase <= unorganized phase Jロ[diluentphaseJ
であるから, helixの unfoldingの熱量と高分子鎖溶媒の混合熱量の和が実験的に観測され
るわけである.
試料フィルムの溶媒系に関する弾性的性質の熱力学的解析より求められたペプタイド水素結
合当りの水素結合解離熱は, 760~900 caljpeptide unitとなり,これはムHres=1700calの
40~50%に相当する.このことは,用いた試料の helix 分率が40~50%であることを意味して
いる.すなわち, Fig. 8に与えられたような構造単位が 1分子中に 2個含まれていることにな
る.
c) CollagenI5-17,22l
Flor庁y1
実験は nativecollagenを加温して randomcoilに転移させる変性の方向(正), ならびに
変性した collagen(300
Cで30分間)を転移点以下の温度にもたらし復元させる方向〔負〉の双
方について行われた. 反応速度を論じるために,各温度で粘度数あるいは旋光度が時間Oと∞
の中間値にくる時間(半減期, t 1/2)を求めた.正方向の転移で、は温度が350
Cから400
Cに上昇
する場合反応速度が約130倍増加したが,負の転移では温度が50
Cから230
Cに変化する場合 t1/2
が約135倍増加する.すなわち負の転移の速度が大きい負の温度係数を示す.また負の転移は,
C=O. 066~0. 41 g/100mlで1次反応であることが見出された. これらの結果から coil(C)→
helix (H)の転移で singlechain helixからなる中間体 (poly-L-prolinen型の)CI )がで
き叩この中間体の生成が律速過程であると考えた.
uu
↓↑L
k'2
1ご(+)H k2
こLで 1<:主C1/3)Hの過程は比較的に速かで容易に可逆的であろうと考えると, C→(1/3)H
の速度R'はR' = R¥ = k¥ C, C: Cのj農度.
1の濃度が小さいことより, C→ Iの自由エネルギー変化量 n6F¥(nは単位数,ムF¥は
単位当りの数量〕について nムF九>0がなりたつ.一方C→(1/3H)に関するムF'はTmの近
傍で非常に小さいから, 1はC及び Hに比べ Tmの両側で不安定である.1が orderedconfor-
mation (例えば singlestrand helix)とすると, ムS¥くO.またC→ Hのェγタルピー変化
はマイナスであるから,ムH¥くOと仮定できる.これらのことを総合すると, C→ Hの過程の
活性化のエ γタルピーはθ,活性化自由エネルギーは大きい@となり,実験結果をよく説明す
ることができる. また過冷温度差 6T(=Tm-T)における Iの最小 helix長についても考察
が行われ,負の転移の速度恒数が
k'=const . exp (-A/kTムT), A:恒数
10
に従うことが実験的にたしかめられた.
以上のようにコラーゲ γの収縮が helix→coilないしは微結晶の融解として説明されることは,
Flory一派の以前の研究16,町で明かにされたところである.すなわちコラーゲ γーエチレシグラ
イコール系で,転移温度が結晶融解の理論式lB)によく適合し, ゲノレの測定からえられた結晶の
融解熱と稀薄溶液を用いて求められた helixの融解熱が同じであることが指摘された. これは
換言すれば, he1ixが集合して結晶をつくるエネノレギーが僅かであることを意味している.この
融解熱は,さらにコラーゲン繊維の弾性的性質,特に平衡収縮力の温度依存性からも検討され,
コラーゲンに関して Floryの収縮機構が全面的に支持されることが確められた.
d) Elastinl9)
Ox ligamentum nuchaeからえられたエラスチン繊維束を用い, 30% glycol~水の混合液中
でo~50oCで stress-srrain curveが求められた. このような組成が用いられた理由は,水で
は温度上昇によって繊維の膨潤度が低下するに反L, この系では膨潤度が変化しないという事
実に基いている.Elastaseで分解すると20%が残り,このもの L水中収縮温度は650
Cで,これ
がコラーゲンであろうことは先づ間違いない.実験は伸長率50;!ぎまで立行われ, 張力の測定か
らo~50oCの範囲で (åE/åL)VT (Eは内部エネノレギー)が Oであることが見出された.このこ
とはエラヌチ γが延仲によって結晶化しないことを結論するもので, これは今までにむしろ期
待されなかったところである.
このようにエラスチ γでえられた結果は,理想ゴムに対する (aE/aL)VT=0の条件と同じで
あるが, stress-strain curveはゴムのそれと見かけ上異る.このことは,エラスチンが別々の
異った程度にカールした繊維からなりたち,繊維のあるものは低伸長率で張力に関与しないか
らである. 703~以上の伸長率ではコラーゲ γの挙動がでてくる. 以上のように,エラスチ γに
対しては完全ゴム弾性がなりたつことが証明された.
e) Musc1e
Mandelkern2町らは,rabbit psoas musc1eをグリセリン処理してえた繊維を濃度の異なる
adenosin tri-phosphate溶液に浸潰し,試料長の変化を測定すると同時に,同一条件でX線図
を撮影し, ATPの低濃度では αkeratin型の構造が存在するが, 0.00375 M ATP以上で転
移がおこり randomcoil型に移行することが証明された.稀釈剤に浸潰した系で、X線図的に構
造変化が具体的に把握された数少い実験の一例で、ある.
f) Poly-T -benzyl-L-glutamate系の逆転移21)
Scheragaらは, poly-r-benzyl-L-glutamateのジクロノレエタシージグロル酢酸混合物溶液で、
熱による転移を旋光度の測定から研究し,低温では PBGの骨格中のc=oあるいばNHがジグ
ロル酢酸と水素結合を形成し,そのため高分子鎖はラシダムコイル型で、あるが, これが高温に
なるとジグロル酢酸自体が水素結合で二量体となり, 高分子の方は骨格中でペプタイド水素結
合が形成されて α-helix型に転移することが明かにされた. 転移の温度依存性が前出の各例の
ものに比べて逆であるわけである.
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討
伊勢村寿三氏
1) Floryの計算でムH=-1.5 KcaIとおかれ
ているが,日-heIixのときのムHとほ立数値的に
一致する.後者は hydrogenbondの energyが主
であるが collagenのときには hydrogenbond
をつくりえない proIineの様なものが約30%近く
もあるのであるから, Floryの estimationは少し
大きすぎるということはないか?
2) Three strandsが randomcoilから逆に出
来るとL、う考えには少し無理があるように思われ
るが,お考えはどうですか?
中島章失氏
1) Floryの計算では, heat of transformation
としてベプタイド当りムHl1=1.4 Kcalが用いら
れています. お説のように水素結合の解離熱は
SchellmanによればムH=1.5Kcalと見積られ
ますが, heat of transformationには水素結合の
解離の他に側鎖の大ききゃ形に基ずくエンタルピ
一変化も含まれるわけでありますから, proIineの
ようなものが30%近くあって水素結合に基ずく寄
与がそれだけ少くても,側鎖に基ずく寄与が大き
議
ければ,ムHl1としては両者の和の効果が出てくる
ものと考えられます.
2) Collagenの分子の中には proIineのような
パノレキーな基が主鎖の中に入っているわけであり
ますから,溶液中の分子の形はこのような基の空
間因子でかなり引仲された形にあるものと考える
ことが出来るわけで, このように屈曲性の小さい
ことが strandの形成ということ L 関連している
のではないでしょうか?
野口順蔵氏
1) Poly DL-ala.と polys -ala.の水溶液の
gel化現象.両者は逆の現象であるように思える.
而もその現象にヒステレシスが見られる点より,
中間体 formを考える gelatinのときと同様に考
えられる.
2) Gel-sol, gelatinous ppt., ppt.の生困の
差の理論的根拠についての見解は?
中島章夫氏
1), 2)ともに,私自身直接にこの方面の研究を
行ったことがございませんので, お答えいたし兼
ねます.
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Helix-Random Coil Transitions in Proteins
Akio N akajima
Helix-random coil transitions in proteins were reviewed from the thermodynamic
standpoints on the stability of helices. The review includes the following items:
1. Protein conformation,
2. Urea-water system as a model of polypeptide hydrogen bond,
3. Enthalpy and entropy of dissociation of peptide hydrogen bond,
4. Thermodynamics of helix-random coil transitions,
5. Experimental results -
a. Insulin, b. Ribonuclease, c. Col1agen, d. Elastin, e. Muscle,
f. Poly-r-benzyl-L-glutamate.