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日皮会誌:92 (8), 865-869, 1982 (昭57)
8-メトキシソラーレンとリボフラビン結合蛋白の
結合様式について
志賀
志賀
暁子
潔*
松本
二科
要 旨
リボフラビン結合蛋白(RBP)と8-メトキツソラーレ
ン(8-MOP)の相互作用を分光学的方法により検討し
た.
RBPと8-MOPは1:1の割合で非共有結合的(可
逆的)に結合し,その解離定数は6,7×lO-'Mであっ
た. 8-MOP の 存在はRBPとビタミンB,(ルミフラ
ビン)の結合に影響を与える.即ち8-MOPはRI!Pに
結合したルミフラピソ(Lf)の解離を促進させる.また
同様にLfは8-MOPのRBPからの解離を促進する.
これらの研究は分光学的に行えるので極めて精度よ
く,かつ短時間で測定することが可能であり,従ってこ
の反応系は8-MOP一蛋白相互作用研究のための良いモデ
ル系であると考えられる.
以上のモデル実験に基き, 8-MOPの生体内移送につ
いて考察した ・
はじめに.
8-MOPはその光増感作用を利用して尋常性白斑,乾
癖および菌状息肉腫等の治療に用いられる薬剤であり,
蛋白質との光化学的結合の機序についてはすでに報告が
ある1).経口的に投与された8-MOPが目的組織にどの
ようにして運ばれるかについては未だその詳細は明らか
でないが,投与された8-MOPが光照射に先だち血液内
蛋白と結合一解離する過程かその重要な部分をなしてい
名古屋保健衛生大学医学部皮膚科(主任 上田 宏
教授)
*岡崎国立共同研究機構生理学研究所
Akiko Shiga, Syuichi Matsumoto, Hiroshi Ueda,
Kiyoshi Shiga, Yasuzo Nishina, Hiroshi Watari :
Amodel study of the transportation mechanism
of 8-methoxypsoraIen
昭和57年4月20日受理
別刷請求先:(〒470―11)愛知県豊明市沓掛町田
楽ヶ窪1―98 名古屋保健衛生大学医学部皮膚科
学教室 志賀 暁子
修一
安三*
上田
亘
宏
弘*
ることは十分に予想される.
8-MOPを結合する蛋白として血清アルブミンが存在
することは既に指摘されているか2),本研究ではアルブ
ミソ以外にも特異的に8-MOPを結合する蛋白(RBP)
が存在すること,および8-MOPとビタミ・ソBzはRBP
に互いに措抗的に結合することを報告する.
材料と方法
RBPは二科の方法により鶏卵白より精製した3).本
法はアガロースにリボフラビン誘導体を固定したカラム
を用いるものであり(アフィニティークロマトグラフィ
ー),このようにして得られたRBPはSDS-ポリアクリ
ルアミド電気泳動により純粋であることを確認してい
る.
ビタミソB2の一種であるルミフラビン(Lf)は大阪
市立大学の松井邦夫教授より贈られた,その他の試薬は
半井化学薬品より購入した.
吸収スペクトルは日立557二波長分光光度計により,
蛍光スペクトルは島津Rf-500蛍光分光光度計により測
定した.試料セルは光路長1cmの石英セルを用いた.
すべての測定は25°C, O.IMリソ酸緩衝液(pH7.0)
中で行づた.
結 果
(L)吸収スペクトルによる8-MOPとRBPの結
合様式の解析
8-MOPがRBPと結合するか否かは吸収スペクト
ノ吋を測定することにより判定できる.図1にはRBP,
8-MOPおよび両者の混合物のスペクトルが示されて
いる. 8-MOP自身のスベクトルと両者混合した試料
のスペクトルは明らかに異っている.混合物の吸光度は
8-MOPのものに比べ350nm周辺では高い吸光度を,
310nm周辺では低い吸光度を示す.一方この波長領域
ではRBP自身の吸光度は無視できるので(図1),こ
れらの吸収スペクトルの変化は8-MOPとRBPが結合
し, 8-MOPの電子状態に変化か生じたことを示す.こ
866
≪
志賀 暁子ほか
λnm
図L 8-MOP, RBPおよび混合物の吸収スペクトル
CD 8-MOP (3.1×10゛5M)
C2) RBP ( 5,7×10-5M)
(3)8-MOP(3.1XIO-5M)十RBP ( 5.7×
10-5M)
横軸は波長,縦軸は吸光度を示す.
≪4
[add RBPコ/[8-MOPコ
●゛0 5.
Cadd RBPコxiO^M
図3 吸光度変化を利用した8-MOPのRBPによ
る滴定曲線. 8-MOP (3 ×10-5M)
横軸(下)は加えたRBPの濃度,横軸(上)
は加えたRBPの濃度と8-MOPの濃度の比.
縦軸は吸光度変化丿図中332nmと374nmは
測定に用いた波長.ダ
の吸収スペクトルの変化は差スペクリレ法(複合体の吸
光度-8-MOPの吸光度)により拡大して観測ができる
(図2).これによれば330nmと372nm周辺に二つのピ
ークを示す変化がみられ, RBPの増加とともに複合体
形成が増加している.これを利用して8-MOPとRBP
の結合に関する滴定曲線を得ることが可能である.図3
には332nmと374nmの波長で得られた滴定曲線が示さ
れている.両者においてRBP‘の増加に伴い,ほぽ吸
光度が直線的に増大し, RBPと8-MOPの濃度がほぼ
≪
可
0
300 一一 350 400
λnm
図2 8-MOP-RBP複合体と8-MOPとの差吸収
スペクトル
8-MOPの吸収を基準とし複合体形成に伴う吸
収変化を示すRBP自身の吸収はこの領域にな
い.図中の印は吸光度差0.01を示す.
(1)基準線,試料室と標準室に3.1×10-5Mの
8-MOP.
(2) (0の試料室に1.2×10-5MRBPが添加さ
れている.
(3) (1)の試料室に7.9×10-5M O RBP が加
えられている.
I:1になるところでもはや吸光度の変化がなくなる
(この時点で全ての8-MOPはRBPにより飽和された
ことになる).このことはRBPと8-MOPは1zlの
割合で結合することを示す.また8-MOPとRBP複合
体をO.IM酢酸アソモニューム緩衡液(pH4.3, 5°C)
で透析することにより8-MOPを除去できる.このこと
より8-MOPとRBPの結合は非共有結合によるものと
考えられる.
(2)蛍光スペクトルによる8・MOPとRBPの結合
様式の解析
図4-(i)に8-MOPの蛍光スペクトル(350nm励
起)を示す. 8-MOP に RBPを加えるとそのスペクト
ルは大きく変化する(図4-(2)).RBP自身は350nm
に吸収を示さず,この波長での励起では蛍光を示さな
い.従ってこのスペクトルの変化は両者の結合によるも
のであり, (1)でめ結論と一致する.蛍光スペクトルを
利用すれば,やはり両者の結合の滴定曲線が得られる
(図5). RBPの増加とともに蛍光強度は直線的に減少
し,両者の濃度がほぼ1:Iになるところで飽和してい
8-タトキシソラーレソとリボフラビン結合蛋白の結合様式について
(Ecol・Euose)d
[add RBP]/【8
1
χΓvn
図4 8-MOPおよび8-MOP, RBP混合物の蛍光
スペクトル. ,
(1) 8-MOP ( 8.6×10-6M)
(2) 8-MOP (8.6×10‘6M) 十 RBP
(2.8×10’5M)励起光は350nmであり,
この条件ではRBrは蛍光を示さない.
横軸は波長,縦軸は蛍光強度(単位は任
意). \
(Ecoig*ujuose)d
Cadd RBPコxii)5[Mコ
図6 蛍光による8-MOPのRBPによる滴定曲
線.
図5と同じ(但8-MOP,RBPの濃度が異る).
8-MOP ( 8.6xlO"'M)
る.このことからも両者がl:1で結合していることが
示されている.
以上より反応式は次のように書かれる
8-MOP+RBP^=!8-MOP 一RBP
・(畿n際…(A)
ここで8-MOP一RBPは両者の複合体を示し, Kdmは
解離定数である.又Oはその分子種の濃度を示す.
KI)・・を求めるには各分子種の濃度を滴定曲線より求
める必要があるが,図3,図5よりそれを求めるのはや
-MOP]
2
3 4 5
【:。iddRBPコxl♂M
867
図5 蛍光を利用した8-MOPのRBPによる滴定
曲線.
8・MOP(2、7×10’5M)
横軸(下)は加えたRBPの濃度、横軸(上)
は加えたRBPと8-MOPの濃度比.
縦軸は蛍光強度(任意単位). 、
350ninで励起し、510nmでの蛍光を測定.
咲
4
0
。
λnm
λnm
図7 ルiフラビソ(Lf), LfとRBPの混合物お
よびLf, RBP, 8-MOPの混合物の吸収スペクト
フレ. .
(a)実線, Lf( 3.7×10-6M)
破線. Lf ( 3.7×10-6M)十RBP ( 3.1×
10-6M)
(b)実線, Lf ( 3.7×10-6M)
破線. Lf ( 3.7×10-6M)十RBP ( 3.1×
10-6M)+8-MOP(1.4×10~'M)
他は図1と同じ.
868
1
志賀 暁子ほか
図8 u, uとRBPおよびLf, RBP, 8-MOP混
合物の蛍光スペクトル.-
(1) Lf(3.6×10-7M)
(2) Lf ( 3.5×10-7M)十RBP( 6.5×10-7M)
(3)Lf(3.2XIO-7M)十RBP ( 5.8×10-6M)
+8-MOP(L4×10-5M)
励起光廠450nmを用いているので,生ずる蛍
.光はLfに・よる.
他は図4と同じ.
や困難がある.これらの図ではRBFの増加に伴い,両
者の比か1:1の点に向って直接的に滴定曲線が変化し
ているが/このことは加えたRBPのほぽ全量が8-MOP
に結合していることを示し,この条件下ではRBPの濃
度をよい精度で決定できない.しかしこの困難は用いる
8-MOPおよびRBPの濃度を下げることにより除去
でき,図6にそのような条件下での滴定曲線が示されて
いる.これを利用して解離定数Km4カ;り,7×lO-'Mと
決定された. ト
(3) 8-MOP存在下でのビタミンB2のRBPに対
する結合
人血液中にもRBPは存在し,本研究で用いたRBP
と同様にこれらはビタミソB,の貯蔵,運搬の役割を
アルブミンと共に担っている4).従って8-MOPのRBP
に対する結合かビタミソB2のRBPに対する結合に与
える影響を調べておくことは大切である.ここではビタ
ミソB2誘導体の一種であるルミフラビソ(Lf)を用い
て検討した.
図7(a)にはLfおよびLfとRBPの混合物の吸
収スペクトルを示す.両者のスペダトルには明らかに異
CHs
|O H
NV
O
N N
がE E
0CH3
○
図9 Lfと8-MOPの分子構造式
左;Lf,
右; 8-MOP,
いがあるが,これはLfとRBPが可逆的に結合するた
めであることが既に錦見ら5)によ・り報告されている.ま
た図7(b)には更に8-MOPを加えたものが示されて
いるが,明らかに(a)に比べ吸収スペクトルの変化は
小さくなっており, 8-MOPの存在下ではLfのRBP
への結合か押えられている.言い換えれば, RBP に8-
MOPとLfが同時に結合した状態は,それぞれか1個
結合した状態に比べ熱力学的に不安定であることを示
す.従ってLfの濃度を増加させると8-MOP―RBP複
合体が解離の方向に向うこともこの実験から結論でき
る.これについては考察でさらに検討する.
同様のことを蛍光スペクトルを利用して観測した(図
8).この場合励起光は450nmを用いているので, RBP
および8-MOPは蛍光を示さず,Lfのみが発光する.
図8-(1)はLfの蛍光を示す.これにRBPを加えると
LfとRBPは結合しそのため蛍光が減少する(図8-
(2)).これに更に8-MOPを加えたものか図8―(3)に示
されているが,明らかに蛍光強度が回復し, Lf―RBP
複合体よりLfが解離していることがみられる.このこ
とは前に示した吸収スペクトルによる結論を強く支持す
るものである.
なおこれらの条件下では, Lf と 8-MOPを混合して
も吸収,蛍光スペクトル共に変化を生ぜず,この両者は
結合していないことが分った.
考 察
血液中に吸収されたビタミソB2は主としてアルブミ
ンと結合するが,それ以外にもこれを特異的に結合する
蛋白(RBP)の存在が知られており,生理的条件下ではこ
れはアルブミンの補助的役割をはたしていることが報告
されている4).またある種の疾病(hypoanalbuminemia
やmultiple myeloma)の場合にはRBPの重要性は高く
なることも指摘されている町
血中にとりこまれた8-MOPも同様に主にアルブミン
と結合するものと理解されている力び),今回明らかにな
ったように8-MOPもやはりRBPにも結合する.しか
も興味のあることには,アルブミンに対する解離定数は
8-メトキシソラーレソとリボフラビン結合蛋白の結合様式について
3×10-=Mであるのに対し2),RBPに対する解離定数は
6.7×10’7Mである.即ちRBPの方が親和性が約50倍
高いことになる.これらのことは,ビタミソB2の場合と
同様に, 8-MOPの結合,移送にRBPがアルブミンめ補
助的役割をはたしている可能性を示唆するものである.
更に大切なことはLfと8-MOPが措抗的にRBPに
結合することである.図9に両者の分子構造を示すが両
者の構造(分子の大きさも含め)はよく類似している.
LfのRBPに対する結合力としてイソアロキサジソ核
と蛋白中の有核アミノ酸の重層構造(もっと広い意味
では疎水結合)が重要な因子5)と考えられているが,8-
MOPの構造類似性よりこれもまた同様の結合をしてい
る可能性が大きい.そうであれば両者はRBPに措抗的
に結合することになり,今回の結果と矛盾しない.
さて両者か措抗する場合その反応式は次のように書か
れる.
怒号E武撫ご。。ご
レ,。,
(B)については式(A)と全く同じである.またLf-
RBPはLfとRBPの複合体を示す. Kdlは次の通り
である. エ
K _〔RBP〕〔Lf〕 I)1‾{LfニRBPレ Oは濃度を示す.
文
I)吉川邦彦,榊原 茂.守 宣男,水野信行,
Pull-Soon Song: 8-Methoxypsoralen と蛋白質
との光化学的結合の機序について.一日皮会誌,
89 : 417―421, 1979.
2) Artuc, M., Stuettgen, G., Schalla,χV., Schaefer,
H. & Gazith, J.:Reversible binding of 5- and
8-methoxypsoralen to human serum proteins
(albumin) and to epidermis in vitro,BritishJ・.
Der。1.,101: 669-677, 1979.
3)二科安三:リボフラビン結合タソパク質の精製
869
上式を仮定した場合, Kdm(これは本論文で6.7×I0-'
Mと求まっている)を与えて,かつ図8 ― 3を利用す
ればKdlは計算により求められるが,今回Kdl=2.2
×10-≫M,即ち結合定数になおせば1/K = 4.5×107M'1と
計算された.この値はRBPとLfの滴定曲線より錦見
ら5)が直接求めた値2.4×lO'M-'と極めてよい一致を示
し,上記反応式の正当性を更に支持するものである.
以上のことは,Lfの存在か8-MOPとRBPの結合
程度に影響を与え,また8-MOPの存在はLfとRBP
の結合程度に影響を与えるごとを意味する(8-MOPが
無限大になればLfは全てRBP より解離する.また逆
も同様である).即ち,両薬剤はその代謝過程に互いに
影響を与えるものと思われるが,その臨床的意義に関す
る定量的な検討は今後の課題である.
生体内では極めて多種類の分子が共存しているので,
薬剤り作用機構を完全に理解することはむつかしい問題
であるが,本研究で示した系は良いモデル系となり得
る.特に.分光学的に反応を追跡できる場合には,アイソ
トープ等の使用を必要としないので,簡単な設備のもと
で精度よく短時間で反応の追跡が可能である.その意味
においても,二のモデル系を用いて8-MOPの作用機構
の研究を展開させたいと考えている.
臓
及びその性質。大阪大学医学雑誌,29 : 109―
117, 1977. し・
4) Merrill, A.H., Froehlich, J.A. & McCormick,
D.B.: Isolation and identification of alter-
native riboflavin-binding proteins from human
plasma, Bioch。阿.j咄咄,25: 198-206, 1981.
5) Nishikimi, M. & Kyogoku, Y.:Flavin-protein
interaction in egg white flavoprotein,J. Bioch.,
73: 1233-1242, 1973・