82

Computerworld.JP Nov, 2008

Embed Size (px)

DESCRIPTION

[特集]人とコンピュータの関係が変わる。変えていく。■ワークスタイル [革新]テクノロジーコンピュータ・テクノロジーの進展によって、人とコンピュータの関係は大きく様変わりした。特に、この10年来の“IT革命”は、ビジネスパーソンのワークスタイルを進化させ、業務生産性向上やビジネス価値の創出に貢献し、そして企業経営そのものの変革をも導いてきた。市場競争力の向上や経営のグローバル化、そしてコンプライアンスなど、今日の企業経営を取り巻く課題は多岐にわたっており、さらなる革新が求められている。本特集では、ワークスタイル革新をテーマに、従業員の仕事と生活の調和や業務生産性の向上、ビジネス価値の創出、企業・業務環境の質的改善などにかかわるテクノロジーの動向と、それらを利用する側の創意工夫や実践手法について探っていく。[特別企画]登場して30年――進化し続けるメインストリームCPUの軌跡■x86プロセッサの 「これまで」と「これから」米国Intelは30年前の1978年6月8日、「the dawn of a new era(新時代の幕開け)」という大胆なキャッチコピーとともに、同社初となる16ビットCPUの8086を発表した。このキャッチコピーは、当時大げさに聞こえたかもしれないが、ある意味予言とも言えるものだったのである。8086自体は普及までに多少の時間を要したものの、後に「x86」と呼ばれるそのCPUアーキテクチャは、やがて業界で最も偉大な成功を収めた技術の1つとなっていく。本企画では、x86プロセッサがたどってきた30年間の軌跡を振り返り、これほどの成功を収めることができた“真相”、そして“これから”に迫ってみる。

Citation preview

Page 1: Computerworld.JP Nov, 2008
Page 2: Computerworld.JP Nov, 2008
Page 3: Computerworld.JP Nov, 2008

November 2008 Computerworld 7

Features 特集&特別企画

人とコンピュータの関係が変わる。変えていく。

ワークスタイル [革新]テクノロジーワーク・ライフ・バランスとワークスタイル革新の両実現に向かって

「テレワーク」導入までの道のりと主要課題三浦竜樹

フリーアドレス、IP電話、動画共有の活用で、いかに社員の生産性を高めたかワークスタイル革新に秘策あり──日本企業の事例に学ぶ小林秀雄

コスト削減と生産性の向上を両立させた米国企業の事例「全社員を在宅勤務に」──大胆戦略プロセスに学ぶ

Meridith Levinson

注目の製品が備える機能・特徴をチェックProduct Review[ワークスタイル革新]Computerworld編集部

登場して30年――進化し続けるメインストリームCPUの軌跡

x86プロセッサの 「これまで」と「これから」Gary Anthes

HotTopicsホットトピックスLight and Darkness of IT [情報技術の光と影]

Google Street Viewの「日本の風景」が投じた波紋佐々木俊尚

IT inside Topics [ニュースなIT]もう1つの北京オリンピック──「ハイテク競技7種目」の勝者と敗者Steven Schwankert

IT Trend Watch [ITトレンド・ウォッチ]

ITプロフェッショナルに贈る「旬の職種」16選Denise Dubie

特集 54

56

66

74

80

83

10

16

22

Part1

Part2

Part3

特別企画

発行・発売 (株)IDGジャパン 〒113-0033 東京都文京区本郷3-4-5TEL:03-5800-2661(販売推進部) © 株式会社 アイ・ディ・ジー・ジャパン

月刊[コンピュータワールド]

世界各国のComputerworldと提携

TM

2008年11月号

  11contentsNovember2008Vol.5No.60

Chew-Mock

Part4

Page 4: Computerworld.JP Nov, 2008
Page 5: Computerworld.JP Nov, 2008

November 2008 Computerworld 9

News&Topicsニュース&トピックス   28

TechnologyFocusテクノロジー・フォーカス

アプリ開発者がグーグルに突きつけた「Google App Engine」への要望と期待

Juan Carlos Perez

RunningArticles連載ITキャリア解体新書(第8回)

システム管理者横山哲也

Opinions紙のブログインターネット劇場佐々木俊尚

IT哲学江島健太郎

テクノロジー・ランダムウォーク栗原 潔

Informationインフォメーションエンタープライズ・ムック「SaaS研究読本」のご案内

エンタープライズ・ムック「ITマネジャーのための内部統制/日本版SOX法講座」のご案内

本誌読者コミュニティ&リサーチ のご案内

IT KEYWORD

バックナンバーのご案内

イベント・カレンダー

おすすめBOOKS

読者プレゼント

FROM READERS & EDITORS

次号予告/AD.INDEX

本誌リポート提供サービス のご案内

96

102

104

105

106

52

53

82

94

107

108

109

110

111

112

Development

contents11

Chew-Mock

表③

Page 6: Computerworld.JP Nov, 2008

L i g h t a n d D a r k n e s s o f I T

情 報 技 術 の 光 と 影

Computerworld November 200810

洗濯物まで丸見え。払拭できないプライバシー侵害の不安

 まずは「Google Street View」(画面1)に対する国

内ユーザーの意識調査から紹介しよう。

 ネット・マーケティング企業のアイシェアは今年8月、

同社のサービス会員を対象に、Street Viewに関す

る意識調査をインターネット上で行った。それによる

と、「今後日本全国がStreet Viewで見られるようにな

るとしたら、どのような面が懸念されると思いますか?」

との質問に、回答者の67.6%が「プライバシー侵害の

不安」を挙げる結果となった。以下、「犯罪に使われな

いか不安」が58.0%、「もし見せたくないものが映った

ら削除申請できるか不安」が43.6%、「そもそも勝手に

家が晒されることに遺憾」が37.0%だった(図1)。

 興味深いのは、年代が低いほど不安を感じている

比率が高かったことだ。「プライバシー侵害の不安」は

20代が77.8%だったのに対し、30代は67.2%、40代

は63.3%と著しい差があった。また男女の比較では、

女性のほうが不安を感じている人が多かった。なぜ

女性と若い世代に不安が高まっているのかは判然と

しないが、日ごろインターネットを使い込んでいる人

たちであっても、Street Viewには拒否反応を示して

いるということなのだろう。

2007年5月、米国Googleは新サービス「Google Street View」の提供を開始した。同サービスは道路から撮影した360度のパノラマ写真を、同社の地図情報サービス「Google Maps」上で見られるというもので、日本でも2008年8月からサービスが開始されている。しかし、街中の景色がその場所にいるような感覚で見られるStreet Viewは、サービス開始直後から全世界で議論を巻き起こしてきた。

「おもしろいサービスだ」、「将来の可能性を感じる」と賞賛する声の一方、「気持ち悪い」、「プライバシー侵害だ」といった批判も噴出し、裁判に発展するケースも出てきている。本稿ではStreet Viewを巡る論争点を整理し、そこから浮かび上がる課題をつまびらかにするとともに、Street Viewに代表される新時代の地理情報サービスが今後直面するであろう問題点を考察してみたい。

佐々木俊尚

Google Street Viewの「日本の風景」が投じた波紋

技術の進化とプライバシー保護のはざまで揺れるユーザー心理

「気持ち悪いサービスだ」の主張にブログ界でも賛否両論

 Street Viewに対するこうした批判の声は、ブログ

の世界でも大きくなっている。

 例えば産業技術総合研究所の高木浩光氏は、自

身のブログ「高木浩光@自宅の日記」で、Street

Viewの撮影位置が地面から約2.5メートルの高さであ

り、このためブロック塀や生け垣越しに家の中が丸見

犯罪に使われないか不安

プライバシー侵害の不安

もし見せたくないものが映ったら削除申請できるか不安

そもそも勝手に家が晒されることに遺憾

その他

(複数回答/人)0 50 100 150 200 250 300

26人/ 6.9%

139人/ 37.0%

164人/ 43.6%

254人/ 67.6%

218人/ 58.0%

*資料 : アイシェア(有効回答数 : 376名/調査期間 : 2008年8月19日~21日)

図1:アイシェアが行ったStreet Viewに関する意識調査。「今後日本全国がStreet Viewで見られるようになるとしたら、どのような面が懸念されると思いますか?」の問いに、67.6%のユーザーが「プライバシー侵害の不安」を挙げた

Page 7: Computerworld.JP Nov, 2008

November 2008 Computerworld 11

画面1:日本でもサービスが始まったGoogle Street View

有地の間にあると認識されているのに対し、日本では

路地のような家の前の生活道路が自分の生活空間の

一部(庭先)になっている」と指摘。Street Viewはそ

うしたプライベートな生活空間を撮影しており、「無礼

である」と批判した。

 このエントリーは大きな反響を巻き起こし、ソーシャ

ル・ブックマークの「はてなブックマーク」では、700ユー

ザーものブックマークが付けられた。「日本って公道か

ら見えるところで布団を干したり色 し々たりしてるから

ねぇ」、「感情的に『気持ち悪い』としか言えないことを

よく筋道立てて説明してると思う。(グーグルが)文化

の違いってのを理解できてないことになるのかな」と

いった賛同が多く寄せられた。一方、「いつの時代も

技術の進歩と共に人間の考え方も変化してきた。あ

なたは現在の技術の進歩に考え方の変化が追いつけ

ない人間」、「気持ち悪いという感覚はわからないでも

ないが、『日本人は』という論調に非常に違和感がある」

などの反論も少なくなかった。

 またこの記事は、著名なブログ「アンカテ」を書いて

いるアルファブロガーのessa氏によって英語に翻訳さ

れ、英語圏のニュース・サイトである「Global Voices」

に転載された。この記事に対する海外からの反響は、

えになってしまっているケースが多数出ていることを

指摘した。

 Googleは具体的にどのような方法でStreet View

の撮影を行っているのかを明らかにしていない。だが

撮影している様子を目撃した人の証言などから、ある

程度は判明している。それらの情報によれば、撮影

に使われているのはトヨタのハイブリッド車「プリウス」

で、車体にはGoogleのロゴ・マークが入っている。こ

の車の屋根に金属製の支柱(50センチ強)を垂直に立

て、支柱の先に360度撮影可能なパノラマ・カメラを

取り付けているようだ(12ページの写真1、写真2)。

 このような“仕様”にしたのは、車体が写真に写り込

まないためではないかと推測される。しかしこの結果、

カメラの目線が人間よりもずっと高い位置になってし

まい、民家の塀などを通り越して、“見えてはいけない

もの”まで写真に写り込んでしまうことになった。

 またIT企業役員の樋口理氏は、自身のブログ

「higuchi.com」で、「Googleの中の人への手紙(日本の

Street Viewが気持ち悪いと思うワケ)」というエント

リーを書いた。この中で樋口氏は、「(Googleの本社

がある)米国西海岸ではプライベート空間とパブリック

な空間の境目は、所有権的にも精神的にも公道と私

青い部分がサービス対象となっている地域。2008年9月1日現在では東京、横浜、京都、大阪、神戸、札幌などの12都市が対象地域となっている

グーグル日本法人が入っている東京・渋谷のセルリアンタワーの画像

ユーザーが画像の削除依頼を出すと該当の画像は削除される

Page 8: Computerworld.JP Nov, 2008

Computerworld November 200812

essa氏が「Street View批判の『Googleの中の人への

手紙』の海外での反響」という記事で紹介している。

 ここでの反応も日本国内と同じで、賛同と反論が

相半ばした。

 例えば、「日本のブロガーによる興味深い観点だ。(中

略)私自身はStreet Viewの熱烈なファンだけど、こ

のサービスに対する文化的な面からの観察と異議申

し立てには非常に魅了された」といった賛同の一方で、

米国の著名なブロガーであるRobert Scooble氏は、

「(樋口氏の主張は)ちょっとおかしい。日本人のツアー

が米国に来ると、彼らは何でもビデオに撮るじゃない

か。今起こっていることは、われわれのテクノロジーが、

すべてのことに関してわれわれの信念を試しているの

だと思う。これまでツアー客がストリートを撮影するの

はOKだった。Googleが同じことを自動的に行うと全

然違う話になってしまう。どうしてそういう理屈になる

のか興味があるね」と反論している。

日本のプライバシー感覚は欧米よりもユルい?

 Street Viewを巡るプライバシー論議は、Google

が米国で同サービスをスタートさせて以降、欧米では

さんざん行われており、日本人だけが拒否反応を示し

ているわけではない。実際、米国では今年4月、

Street Viewに家の中の様子を撮影されたとして、

住民がGoogleを相手取って2万5,000ドルの損害賠

償請求を起こしている。

 一方、こうした反応に対して、Googleは歩み寄る姿

勢を見せている。米国でサービスが開始された当初は、

写真に写り込んだ人物や車のナンバー・プレートはそ

のまま公開されていた。しかし「肖像権侵害ではないか」

といった批判が高まってからは、顔とナンバー・プレー

トには自動でぼかしを入れる処理を施すようになった。

 とはいえ、「Street Viewのようなサービスは即刻中

止しろ」といった全面否定に対し、Googleはかなり冷

ややかだ。前出の損害賠償請求訴訟でGoogle側は、

「衛星技術の進歩により、現代では砂漠の真ん中に

いたとしても完全なプライバシーなどは存在しない」と

反論しているという。

 また、前出の高木氏によれば、8月7日に開かれた

総務省の通信プラットフォーム研究会で、グーグルの

藤田一夫氏は次のように発言したという。

 「日本のプライバシーに対する感覚は、米国、イギ

リスとは違うのではないか。日本の一戸建てでは名前

を表札に書いている。わざわざ自分の名前を公道に

出しているわけだから、プライバシーなんて気にして

いない」

 こうした発言や筆者が関係者から取材した内容を

踏まえると、Googleの基本的な考え方はおそらくこう

いうことだ。――現在はプライバシー侵害などさまざ

まな批判が起きているが、こうした地理情報サービス

は今後も普及していくことは間違いない。Googleが

やらなくても、いずれだれかが必ずやるだろう。であ

写真1:2008年5月にパリで目撃されたGoogleの撮影車両。世界各国で目撃された“仕様車”とほぼ一致する(ただし車種は各国で異なっているようだ)

写真2:支柱の先に搭載された360度撮影可能なパノラマ・カメラ。同社は同時に3Dレーザー・スキャナを使用し、建物などのモデリング・データも収集している

Page 9: Computerworld.JP Nov, 2008

November 2008 Computerworld 13

代PHSネットワークに合わせて、全国16万の基地局

にカメラや気象センサーなどを設置していくプロジェ

クトを発表している。このプロジェクトによってどのよ

うなサービスを提供するのかはまだ決定しておらず、

今年8月に設置された「BWAユビキタスネットワーク研

究会」を軸として、今後検討が行われるという(画面2)。

 現時点で提供される可能性があるサービスとして

挙げられているのは、渋滞中継や事故現場確認といっ

た公共サービス。あるいは監視カメラとして、セキュ

リティ・ビジネスへの応用。また、二酸化炭素や窒素

酸化物のセンサーを設置して、公害情報や気象情報

をよりきめ細かく行ったり、農業支援を行ったりとい

う使い方も浮上している。

 「全国16万カ所にカメラを設置するプロジェクト」と

聞けば、多くの人が「気持ち悪い」と感じるだろう。だ

がこうしたプロジェクトは同時に、上記のようなサー

ビスを通じて、さまざまな利便性をもたらすことも、ま

ちがいない事実である。

 Googleのライバルである米国Yahoo!も、高度な地

理情報サービスを積極的に展開している。

 Yahoo!は先ごろ、「Fire Eagle」というサービスを正

式にリリースした。これは位置情報プラットフォーム

とでも呼ぶべきサービスで、同プラットフォームを使

うことによって、ユーザーの位置情報を一元管理する

るならば、われわれが担っていこう――。

Street Viewだけじゃない詳細な地理情報サービス

 実際、Street Viewのようなサービスは、さまざま

な企業でも取り組みが始まっている。例えば移動体

通信事業者のウィルコムは、2009年に投入する次世

画面2:2008年8月に設置された「BWAユビキタスネットワーク研究会」のWebサイト(http://www.bwaun.jp/)

 同じ北米地域でも、米国とカナダではプライバシー保護の考え方がかなり異なるようだ。米国でStreet Viewサービスが開始されてから約4カ月後の2007年9月、カナダのプライバシー担当長官であるジェニファー・ストッダート(Jennifer Stoddart)氏は米国Googleに対し、Street Viewサービスはカナダの「個人情報保護および電子文書法(Personal Information Protec tion and Electronic Documents Act」に違反する恐れがあるとして書簡を送った。 ストッダート氏はGoogleの最高法務責任者であるデビッド C・ドラモンド(David C. Drummond)氏に宛てた書簡の中で、

「カナダのプライバシー保護法では、個人データを本人の許可なく商用目的で使用することを禁じている。個人からの同意を得たうえで、適切な使用目的であると認められた場合においても、企業は個人データの収集・使用・公開を限定するという条件を満たす義務がある」と説明している。 さらに同法では企業側が収集した個人情報について、当事

者がその情報を閲覧し、情報を訂正する権利も認めている。ストッダート氏は「(プライバシー担当)事務局では、個人の特定が可能なほど鮮明に写っている人物の画像は、法律における個人情報に当たると考えている」と語っている。 Street Viewでは、ユーザーが特定画像の削除を依頼できるシステムを採用している。しかしストッダート氏は、この方法では人々は自分が写真に写っているかどうかを知らないケースが多く、問題解決にはならないと指摘している。さらに同氏は、

「自分がStreet Viewの写真に写っていることを当人が認識した時点で、すでに個人のプライバシーが侵害されている恐れがある」と警告している。 Googleの撮影車両はオタワ、トロント、バンクーバー、ケベック、カルガリーといった主要都市で目撃されている。当初Googleはカナダでも早急にサービスを開始したい意向を示していたが、2008年9月1日現在、これら都市のStreet Viewサービスを利用することはできない。

カナダのプライバシー担当長官、Street Viewはプライバシー法に抵触すると警告

T o p i c s

Linda RosencranceComputerworld米国版カナダでは事実上のサービス中止に

Page 10: Computerworld.JP Nov, 2008

Computerworld November 200814

ことが可能になる。現在、Fire Eagleには無線LAN

から位置を特定できる測位システムの「Navizon」や、

携帯電話で撮影した写真に位置情報を付加できる

「ZoneTag」、特定の場所でコンテンツを共有できる

「Loki」などのサービスが参加しており、Fire Eagle

のAPI(Application Programming Interface)が利

用できるようになっている。

 例えばNavizonで自分の居場所を特定すると、そ

のデータはNavizonからFire Eagleを経由してZone

TagやLokiなどに送信され、ユーザーの位置データ

が各サービスで自動更新される。これによりユーザー

は、サービスごとにいちいち自分の居場所を入力する

必要がないわけだ。この位置データはFire Eagleを

経由すれば、PCやスマートフォン(iPhoneも含む)、ネッ

ト対応のカーナビなど、さまざまなデバイスで共有す

ることもできる。

 ユーザーの位置データは、Fire Eagleのプラット

フォームによってセキュアに管理される。そのため、

位置情報が個人情報とひもづけられたかたちで複数

の企業のサービスに分散してしまう心配がない。この

セキュリティに対する姿勢はプライバシー侵害の懸念

を払拭することにもなり、地理情報サービスの展開を

視野に入れている企業に注目されているという。

 また、日本のヤフーも新しい地理情報サービスへの

トライアルを始めた。同社は8月、「LatLongLab」とい

う実験サイトを公開している(画面3)。これはもともと

地図製作・販売会社のアルプス社が準備していたも

のだが、今年4月に同社がヤフーと合併したため、ヤ

フーの名前でリリースされることになった。LatLongは、

英語のLatitude(緯度)Longitude(経度)のことで、

緯度経度のような地理情報を使った新サービスを提

供しようという意味が込められている。

サービスの先にある“世界”はリアルかバーチャルか

 こうして地理情報サービスが進化を続けていくと、

どのような世界がやってくると考えられるのだろうか。

 現時点ではその未来像は単なるSF的な予測でしか

ない。しかし、最も近未来的に可能性が高いのは、

「Second Life」のようなメタバース(3D仮想空間サー

ビス)と融合していくことだ。

 例えば、GoogleはStreet Viewの撮影の際、3Dレー

ザー・スキャナを同時に使用して、建物などのモデリン

グ・データを収集している。これを報じた米国CNET

の5月16日付けの記事によると、この事実が発覚した

のは今年4月で、イタリア・ミラノでGoogleの撮影車両

が撮影され、写真共有サイトの「Flickr」に同写真が投

稿されたことが発端だった。その写真の中に写真投稿

者とは別の人物が3Dレーザー・スキャナを発見し、事

実が表面化したのである。当初Googleはその事実を

認めなかったが、5月15日になって「画像撮影(技術)に

はレーザーで3Dの幾何学データを収集する技術も含

まれている」とのコメントを発表したという。

 すでにGoogleは、Second Lifeと同様の「Lively」

というサービスを試験的にリリースしているほか、ユー

ザーが3Dの構造物を自由に使うことができる「3D

Warehouse」というライブラリも公開している。また、

「Google Earth」の地理情報を外部からアクセス可能

にする「Google Earth Plugin」というサービスも提供

している。これらに追加されるかたちでStreet View

で収集された街中の建物の3Dデータも利用できるよ

うになれば、実在の街をそのままメタバース空間内に

再現した“新たなSecond Lifeモデル”が現実味を帯

びてくる。

 こうしたリアルなメタバースをどう利用していくのか

はまだわからない。しかし、ブームが終わってしまっ

たSecond Lifeに代わり、かなりのインパクトを持っ

て受け入れられるサービスになっていく可能性は十分

考えられる。これらのことを考えるとStreet Viewは

地理情報サービスの第一歩に過ぎず、今後も進化し

続けると言えるだろう。

画面3:ヤフーが2008年8月にオープンした実験サイト「LatLongLab」。第1弾としてマラソンや自転車などの愛好者がサイト上でレースの開催、出場、観戦を楽しむことができる『猛レース』というサービスが公開されている

(http://latlonglab.yahoo.co.jp/)

Page 11: Computerworld.JP Nov, 2008

November 2008 Computerworld 15

 しかし前述したとおり、そうした“進化”に強い違和

感を持つ人は多い。そしてこの違和感の根幹には、

ITサービスをどのように受容していくのかという、非

常に重大な問題が横たわっているように思われる。

*  *  *

 インターネットはバーチャルな空間である。この空

間の中ではデータはすべて構造化され、そのデータを

どう扱うのかというポリシーも、ある程度は確立して

きている。しかし、リアルな物理空間では、建物や道

路、生身の人間といったさまざまなオブジェクトは構

造化されていないし、それらのオブジェクトをどう構

造化するのかというポリシーも存在しない。

 ポリシーが確立していない段階でリアルの空間をす

べてデジタル化し、可視化できる環境を構築すること

は、「Googleという“パブリックの場所”に裸で立って

いる」というような不安感を増幅させてしまうことにな

る。おそらくは、これが違和感の根源に存在するので

はないだろうか。

 リアルな物理空間情報をも“サービス”として提供す

るIT企業は今後、こうした問題に正面から取り組ま

なければならなくなる。

 米国の非営利団体National Legal and Policy Center(NLPC)は今年8月、米国Googleのプライバシー対策は不十分であるとし、抗議行動を展開した。「Street View」と「Google Earth」を利用し、Googleトップ幹部の個人情報を公開したのである(画面A)。 この個人情報には、カリフォルニア州にある幹部の豪華な邸宅の正門や駐車スペースの写真をはじめ、家の前に駐車している複数の高級車のナンバー・プレート、庭の造園を担当している(と見られる)業者の車、隣家が利用しているホーム・セキュリティ・システムの企業名などの写真が包含されている。 NLPCは、この個人情報がだれのものであるかは公表していない。しかし世界中のマスコミは、写真はGoogleの共同設立者であるラリー・ペイジ(Larry Page)氏の邸宅だと報じている。 さらに公開された情報には家の正面玄関から公道までの距離や、この幹部がマウンテン・ビューにあるGoogle本社へ通勤するための最短運転ルート、さらには同ルート上にあるすべての交差点、一時停止の標識、信号などの写真も含まれている。 なおこれらの情報は、すべてGoogle Earthを利用して測定し、Street Viewで公開されている写真である。 NLPCは自身を「民間企業における倫理性や説明責任を追求する非営利組織」だと説明している。発表された声明によると、Googleの技術が個人のプライバシーをどれだけ侵害しているかを強調するために、このような個人情報を公開したという。 NLPCで会長を務めるケン・ボーム(Ken Boehm)氏は、

「Googleはあらゆる人物について詳細な視覚情報を集めており、インターネットを利用するユーザーならだれでも30分以内で特定人物の詳細情報ファイルを作成できる。個人のプライバシーは存在しないというGoogleの考えを証明するのに、これほどふさわしい証拠はない」と語った。 Street Viewに関しては、写真に写る人物や車などのプライバシーを問題視する声が多い。欧州連合(EU)およびカナダのプライバシー団体は、同サービスが(自国の)プライバシー法違

反になる可能性があるとして懸念を示した。 これに対しGoogleは、「プライバシーは非常に重要である」と主張しているものの、NLPCはGoogleの主張には矛盾があると批判している。 NLPCによると、Googleのエバンジェリスト、ヴィント・サーフ(Vint Cerf)氏は今年5月に行われた米国メディアの取材に対し、「人の行動は取り消しもできないし、常にだれかに見られている。(完全な)プライバシーなど存在しないものと諦めるほかない」と語ったという。 ボーム氏は「Googleの世界観ではプライバシーは存在しないのかもしれないが、実社会では(プライバシー保護は)根本的な重要事項だ。しかし個人のプライバシーはGoogleのような企業に、毎日少しずつ削り取られている」とコメントし、Googleの行動を「信じがたい偽善だ」と非難している。

米国のプライバシー保護団体、Google Street Viewに抗議T o p i c s

Andrew HendryComputerworldオーストラリア版Google幹部の個人情報を公開して“反撃”

画面A:National Legal and Policy Centerが公開した“あるGoogleトップ幹部”の個人情報(邸宅前に停車していた車の写真を抜粋)。ナンバー・プレートまでばっちり見える

(http://www.nlpc.org/pdfs/googleexecutive.pdf)

Page 12: Computerworld.JP Nov, 2008

I T I n s i d e To p i c s

ニ ュ ー ス な I T

Computerworld November 200816

その1

普及に拍車がかかった米国のHDTV

 米国3大テレビ・ネットワークの1つであるNBC

Universal(画面1)が、2,900時間にも及ぶライブ中継

を筆頭に、北京オリンピックの各試合を全米各地に

HD(High Definition)画像で放送したおかげで、

HDTVが米国でいっそう普及した。経済不況に端を

発するHDTVの値下げ、まもなく始まるNFLシーズン、

オリンピックの前に行われていたサッカー欧州選手権

などの要因も効果的に働き、ソファにどっかり腰を据

えてスポーツにひたるファンたちにHDTVへの買い替

えを促したのだ。

その1

使い物にならなかった北京のWi-Fi接続

 北京オリンピックでは、さまざまな試合でフライン

グにより失格となる選手が出た。これと同様、北京市

内にワイヤレス・インターネット接続網を張り巡らせよ

うとした計画も、まったくの失敗に終わった。

 もっとも、この計画は当初から危ぶまれていた。そ

もそも、英語のユーザー・インタフェースが用意されて

おらず、用意されていてもログイン機能が働かなかっ

北京から聖火が消え、2008年の夏季オリンピックは幕を閉じた。各国のメダル獲得数はすでに確定したが、まだいくつか勝負の行方が決まっていないものもある。北京五輪における“テクノロジー勝負”だ。中国政府が言うところの「ハイテクを駆使したオリンピック」はどうだったのか。以下、ハイテク競技7種目における勝者と敗者を挙げてみた。

Steven SchwankertIDG News Service北京支局

もう1つの北京オリンピック「ハイテク競技7種目」の勝者と敗者

HD放送、ネットへの無線接続、モバイル事情……明暗を分けたその差とは

た。料金の説明らしきものもあったが、プラン選択の

余地はまったくなかったのだ。

 さらに問題だったのは、ワイヤレス接続のサービス・

エリアが狭すぎた点だ。そのため、Wi-Fi接続を無料

で使用できるStarbucksなどが集中する市街地を離

れて新しいサービスを利用しようとするユーザーなど、

皆無に近かった。計画が失敗するのは、火を見るよ

り明らかだったのである。

画面1:米国NBCの北京オリンピック専用サイト

Page 13: Computerworld.JP Nov, 2008

November 2008 Computerworld 17

その2

黒子に徹して評価を上げたAtos Origin

 北京オリンピックの公式システム・インテグレーター

を務めたフランスのAtos Originは、オリンピックの

主要スポンサーでありながら決して表には出ず、大会

期間中は黒子に徹した。Atosが今回処理したデータ

量は、2004年に開催されたアテネ五輪のときより

80%も多かったが、同社の地道な作業のおかげで重

大な問題は発生せず、それが結果的に同社の評価を

高めることになった。

その2

HD映像とは無縁の中国の一般視聴者

 米国の視聴者がHD放送を堪能した一方で、中国

の民衆はオリンピック観戦にかける熱意こそ大きかっ

たものの、高画質映像で試合を楽しんだ視聴者は少

なかった。中国の大手テレビ局はHD放送が可能な設

備を整えているが、HDTVを所有している消費者の

割合はまだ低く、視聴できるHD放送自体もあまりな

いというのが実情のようだ。

 また、Blu-ray Discも一般家庭には浸透していない。

 米国NBC Universalのスタッフは、6,000マイル離れた北京でのオリンピック映像を、米国にいながら、ほぼリアルタイムで編集し、放送した。かつては現地に編集スタッフを派遣していたが、今ではその必要はなくなった。米国Cisco Sys temsのWAN高速化技術が米国内での編集作業を可能にしたのだ。 デジタル・フィルム形式で撮影された北京オリンピックの試合映像は、そのままニューヨークやその他の北米地域へはるばる転送され、米国勤務のスタッフによって編集された。Ciscoによると、北京から6,000マイル離れたニューヨークにいながら、映像をリアルタイムで編集できるという。 これは、Ciscoの独自技 術「Wide Area Application Services(WAAS)」によって初めて可能になった。太平洋海底に敷設されているケーブルは現在でも十分な帯域を有しているが、Ciscoが同技術により通信能力をさらに強化したことで、NBCは従来以上の大容量コンテンツを配信できるようになり、結果的に400名を超える社員を北京に派遣する必要もなくなったのである。 2週間にわたる北京オリンピック開催期間中、NBCは過去の夏期オリンピック全中継時間を合計したのよりも長い、3,600時間に及ぶ放送を行った。NBCはテレビ放送に加え、Web上で2,200時間のオンデマンド放送を視聴できるようにし、さらに3,000時間ぶんのハイライト放送およびその他の映像コンテンツを提供したという。 NBCが北京から米国へ映像データを送信するのに用いたIPネットワークは、3本の150Mbps回線から構成されており、Ciscoの「12004/4」ルータを経由して1本の450Mbps回線として使用された。このとき、高解像度映像は400Mbps、音声は20Mbpsで転送できる帯域がQoS(Quality of Service)技術によって確保され、1時間ぶんの高解像度映像ファイルをわずか3分で米国へ転送できたのである。

まるで北京にいるかのような感覚 Ciscoのアプリケーション配信事業部バイスプレジデント兼ゼネラル・マネジャー、ジョージ・クリアン(George Kurian)氏によると、遠隔地で映像を編集する新システムについても、このWANを使ってサポートするという。具体的には、エンコード技術によって低解像度化した映像を編集用として提供している。 試合やイベントが高解像度映像として撮影されると、Ciscoの映像エンコード技術が、これらのデジタル・フィルムを容量の小さな低解像度MPEG-4ファイルへ変換する。米国内のビデオ編集スタッフおよび番組編成スタッフは、解像度の高いオリジナル・データの代わりに、こうした低解像度の映像を編集するので、放送しない映像については転送せずに済む。 米国スタッフが選んだ放送対象に関する情報は北京に送り返され、それを基にどの高解像度映像を太平洋越しに中継するのかが決まるという仕組みだ。 MPEG-4ファイルと、さまざまな種類のデータ・トラフィック

(試合のスコアや北京入りしているリポーター用のテレプロンプト原稿など)を送信するのに使用されているのは、同回線の35Mbps帯域のみである。だがWAASの場合はこの帯域を140Mbpsに相当させることが可能だと、クリアン氏は述べている。WAASは、TCP/IPネットワークにつきもののレイテンシー

(遅延)を短縮できるのだ。 さらにWAASは、コマが変わっても動かない静止物などをビデオ・ストリームの中から認識し、それらの送信を一度かぎりにする機能も備えている。「データが重複していることを(WAASが)教えてくれるので、差分データだけを送れるようになり、帯域を節約できる」(クリアン氏) WAASは、北京と米国を隔てる距離を実質的に消し去ったと言っても過言ではない。「ニューヨークのスタッフたちは、北京でアプリケーションを使用しているかのように感じていたはずだ」(クリアン氏)

北京の映像をリアルタイムに米国で編集――シスコのWAN技術が変えたNBCの五輪放送

t o p i c s

Stephen LawsonIDG News Serviceサンフランシスコ支局

Page 14: Computerworld.JP Nov, 2008

Computerworld November 200818

世界中のどの国よりも試合を直接観戦できる機会が

多かったのは中国だが、テレビの画面から選手が飛

び出してくるような臨場感を味わえたのは、主に外国

の視聴者だったのである。

その3

カメラマンに好評だったLenovo製ビーコン無線機

 北京をはじめとする競技開催地では実に3万台もの

ご当地Lenovo製ハードウェアが使用されたが、その

いずれもが度重なる降雨や、90%を超える高い湿度

に耐え抜いた。とりわけ、ビーコン無線を使った写真

のアップロード・システムには感心させられた。

 Wi-Fiの802.11aを利用し、ニコンのデジタル一眼

写真1:Lenovoのプレス・センターにはさまざまなIT機器がそろっていた

 国際オリンピック委員会(IOC)のジャック・ロゲ(Jacques Rogge)会長は8月2日、北京オリンピック運営当局との間で、オリンピック期間中にインターネット・アクセス規制を行うことを容認するような取り引きはしていないと述べ、アクセス規制問題へのIOCの対応を批判する声に強く反論した。 「このことは明確にしておきたい。われわれは、さまざまなメディアがオリンピック報道にできるだけ完全にアクセスできることを要求する。アクセス制限を受け入れる取り引きをIOCが一切行っていないことをここに断言する」――ロゲ氏がこのように訴える映像を英国の放送局BBC(British Broadcasting Corp.)が放映した。IOCのオリンピック前の最終会合後に行われた記者会見の映像だ。 しかしながら、ロゲ氏の発言は、IOCの報道委員長ケビン・ゴスパー(Kevin Gosper)氏の発言と矛盾している。報道によると、ゴスパー氏は7月30日、「IOCの一部担当者が、オリンピック競技と無関係なサイトであることを条件に、特定サイトへのアクセス規制を受け入れることで中国当局側と合意した」とコメントしたという。 だが、ロゲ氏は現状に関する認識がゴスパー氏と異なる理由を明らかにしないまま、「われわれの要求は、どの開催都市に対しても同じだ。そして、IOCが2001年に北京市と開催都市契約を締結して以来、変わっていない」と述べている。「北京が開催都市に選定されたとき、IOCは北京に対してオリンピック報道へのできるだけ完全なアクセスをメディアに提供することを要求した。IOCはそれを一貫して要求してきたし、北京オリンピック組織委員会(BOCOG)はそれを提供すると言ってきた」 ロゲ氏は、IOCがアクセス規制に関する責任の一部を負うべきではないかという見方に対し、怒りをあらわにして反論した。

「われわれに責任のないことについて謝罪するつもりはない。われわれは中国でインターネットを運営しているわけではない。中国でインターネットを運営しているのは中国人だ」 ゴスパー氏の7月30日の発言に関する報道は、激しい国際的な反発を引き起こした。翌31日には、報道の自由を主張する非政府組織の国境なき記者団(RSF:Rapporteurs Sans Frontieres/RWB:Reporters Without Borders)や、Wikipediaの簡体中国語版など、アクセスが遮断されていた多くのサイトにアクセスできるようになった。 北京オリンピックのメーンプレスセンター(MPC)に詰めている報道関係者は、平均的な中国人の環境よりも高速にインターネットにアクセスできる。だが、両者がアクセスできるサイトは同じである。このため、これまではアクセスできなかったRSFなどのサイトには、中国のすべてのインターネット・ユーザーがアクセスできる。

「IOCは中国のネット・アクセス規制を断じて容認しない」――ロゲ会長がIOC批判に反論

c o l u m n

Steven SchwankertIDG News Service北京支局

IOCへの批判に反論したロゲ会長の会見の模様はBBCのWebサイトでストリーミング放映された

Page 15: Computerworld.JP Nov, 2008

November 2008 Computerworld 19

容で、ほかのトップ・スポンサーと比べてかなり見劣

りしていた。

 ただし、近いうちに携帯電話事業者のChina Uni

comと合併し、社名も残らない運命のChina Netcom

にとって、北京オリンピックでのへまなど大した問題

ではないのかもしれない。

その4

環境に優しい携帯端末で支持を集めたSamsung

 韓国Samsungの特設展示は会場を訪れた人々の

心をつかんだ。同社は、外部ケースが生分解性プラ

スチック製の携帯電話(写真3)をはじめ、環境に配慮

した数々のテクノロジーを披露し、オリンピック運営

委員会のお偉方やジャーナリストに携帯端末を配布

するなどして、多くのユーザーに同社の3Gサービスに

触れる機会を創出したのである。

 そのほかにも、同社は即席で芝生のスペースを造り、

そこに大型スクリーンを設置して試合を観戦しながら

涼むことのできる数少ない憩いの場を来場者に提供

した。アスリートたちに対しては、インターネット・ア

クセスをラウンジで利用できるようにも取り計らった。

中国および韓国のメダリストらによるパレードや、韓

国のポップ・スターであるRainの展示場訪問も、それ

なりの集客効果を発揮したようだ。

レフカメラ「D2X」および「D3X」、キヤノンの「EOS-1D

Mark II」に対応した同システムを用いることで、試合

会場のカメラマンたちは仕事の手を止めてメモリ内の

データをノートPCへ移動させずとも、自分の所属す

る報道局に画像データを直接送信できた。同システ

ムはまだ商用化されていないが、将来有望な製品で

あることは間違いないだろう。

その3

地元開催の利を生かせなかったChina Mobile/Netcom

 China MobileとChina Netcomは、ともに北京五

輪の最高級スポンサーに含まれていたのだが、今回、

ハイテク競争でメダルを勝ち取ることはできなかった。

 「ハイテクを駆使したオリンピック」となるはずの今回

の五輪に、China Mobileは大手携帯電話事業者であ

りながら目新しい技術や興味深いソリューションを何

も提供しなかったとして、関係者を失望させた。同社

がテストを行った中国独自の3G規格「TD-SCDMA

(Time Division Synchronous Code Division

Multiple Access)」は、いわゆる2.5Gに毛の生えたよ

うなレベルであり、今後の本格的な商用サービスの開

始にも影をさすおそれがある。

 一方、固定電話大手のChina Netcomは、北京オ

リンピック専用の通信帯域とネットワーキング技術を

提供した。提供したのはよいのだが、同社のオリンピッ

ク向けインターネット・サービスは、平時より劣ること

はなかったものの、特別すぐれてもいなかった。同社

も「Olympic Green」と呼ばれるオリンピック会場で特

設展示を行ったが、中国におけるテレコム・サービス

の発展を説明する大げさな写真展といった程度の内

写真3:Samsungがオリンピック会期中に発表した「E200 Eco」。外部ケースが生分解性プラスチックで作られている

写真2:China MobileのCEO、王 建宙氏

Page 16: Computerworld.JP Nov, 2008

Computerworld November 200820

独自のコンテンツ配信ネットワークを構築 2006年12月の開設以来、Youku.comは中国最大の動画共有サイトであり続けている。Nielsen/Netratingsによると、2007年12月のある週には、Youku.comの動画視聴数が1日平均1億回を超えたという。 以前は中国のポータル・サイトSohu.comの社長兼最高執行責任者(COO)を務めていた、Youkuの創立者でCEOであるビクター・クー(Victor Koo)氏は、現在は1日平均視聴回数が1億5,000万にまで増えたと誇らしげだ。 Youkuでは、「Flash Video」のオープンソース版をベースにしたビデオ・プレーヤーを含む、独自のコンテンツ配信ネットワークを構築している。具体的には、Hewlett-Packard(HP)およびDell製のサーバと、Cisco SystemsとHuaweiが提供するルータを利用し、中国全土の各州でみずからのネットワーキング・センターを運用中だ。 しかも、このコンテンツ配信ネットワークは2007年に拡大されている。クー氏はインタビューの中で、「(配信ネットワークは)20倍とまではいかないものの、5倍ほどには成長した。トラフィックが急増したのはうれしい驚きだったが、コスト構造を考えると、喜んでばかりもいられない」と語っている。

唯一の中国政府“お墨付き”サイト そんなYouku.comも、一時は将来を危ぶまれた。2008年

5月、オンラインおよび無線経由放送を統制している国家ラジオ映画テレビ総局(SARFT:State Administration of Radio, Film and Television)が、Youku.comとその競合サービス(Tudou.comと56.com)をオンライン・ビデオ・サイトの認可枠から除外したのだ。 これに対してYoukuは7月、1つばかりか2つのライセンスを取得し、3,000万ドルの追加投資も確保することでSARFTとの問題に決着をつけた。これらのライセンスは、UGC(ユーザー生成コンテンツ)のみならず、映画やテレビ番組の配信にも対応したものだという。 一方、Youku.comの最も近しいライバルであるTudou.comと56.comは、いまだ公的な許可を得ずに運営を続けている。ただし後者の56.comは、「技術のアップグレード」という名目の下、すでに1カ月以上もオフライン化されたままだ。 クー氏は、認可が下りるまでのプロセスで困難は特になかったと強調する。「われわれは、サービスの提供を開始した当初から、アングラではない“健康的”なサイトを運営してきた」 クー氏によれば、コンテンツの審査にはビジネス的なメリットがあるという。純粋にUGCだけを扱っていると、「間違いなく下品なコンテンツばかりが増え、広告主に不快な思いをさせる」

(クー氏)ことになり、見限られてしまうそうだ。Youku.comが中国当局に正式に認可されたのは、同社が推し進めてきた広告戦略の当然の結果だと、クー氏はあくまで強気である。同氏は、

Youku.com──政府公認“中国版YouTube”の実像オリンピック観戦でも重宝された中国随一の動画共有サイト

S i d e S t o r y

Steven SchwankertIDG News Service北京支局

中国のインターネット・ユーザーがどうやってオリンピックを観戦し、あるいは身の回りのあれこれを映像で共有しているのかをご存じだろうか。中国でオンライン・ビデオを視聴するサイトと言えば、米国Google傘下のYouTubeではなく、よく似た響きの名前を持つYouku.comが圧倒的に有名なのだ。

中国版YouTubeと呼ばれる「Youku.com」

Page 17: Computerworld.JP Nov, 2008

November 2008 Computerworld 21

コンテンツを健全に保つことは、広告主のみならず規制当局からも認められることにつながると話す。

電子指紋と手作業で投稿動画を審査 Youkuでは20~30名のスタッフが8時間交替制で常時作業にあたり、投稿された動画を承認もしくは却下することで、コンテンツの質の維持に努めている。 同社はコンテンツの審査用に電子指紋技術も導入した。電子指紋を照合した結果、以前に承認されたことのある動画だと判明すれば同様に受け入れ、逆に却下されているものなら新たに投稿されてもやはり認めない。さらに、タグを用いて微妙な言葉を検索し、ポルノ・コンテンツの排除を行っている。もちろん、動画を実際に視聴し、掲載に適しているか否かを判断するという昔ながらの手作業を行うのが大前提だ。 Youkuはユーザーに対し、自分自身ではなく身の回りの事物を撮影するよう推奨している。「投稿される動画の方向性を定める」(クー氏)という理由からだ。 こうした方向づけは、広告関連でよい成果を上げている。クー氏によると、2008年1月に広告の掲載を許可するようになってから、Youku.comは150社の広告主を獲得したという。その中には、北京オリンピックのスポンサーでもあるLenovoやSamsungが含まれており、両社ともYouku.comにゲーム関連のプロモーション映像をアップロードしている。 クー氏は具体的な数字こそ明かさなかったものの、2008年に入ってからは、広告収入の成長率が毎月2ケタ台に達していることを示唆した。

当面は広告主体のビジネスに注力 今後は、映画スタジオやテレビ局など映像コンテンツ制作のプロフェッショナルにYouku.comをプラットフォーム的に使ってもらったり、ビデオ活用の場として広告主に利用してもらったりすることも想定していると、クー氏は話す。また、サービスの有料化も視野に入っているが、当面は国内外の競合サイトと同様、ユーザーに無料でサービスを提供する予定だ。 「有料のオンライン・サブスクリプション・モデルを導入するには、高解像度映像に対応する必要がある。おそらく2年以内には、ハイビジョンの著作権コンテンツも扱えるようになると思う」(クー氏) とはいえ、現在の一般消費者向けブロードバンドは最速でも2Mbps程度にすぎない。こうした状況が改善されなければ、ハイビジョン映像をオンライン配信することは難しい。 サービスの有料化と並び、クー氏が継続的な課題と位置づけているのが不正コンテンツ対策である。同氏によると、不正コンテンツを振るいにかけつつ、著作権コンテンツを積極的に扱っていく方針だという。すでにYoukuは著作権コンテンツのパートナーとして、Shanghai Media GroupやBeijing TV、

香港のTelevision Broadcasts(TVB)のほか、映画配給会社のChina Film Groupや映画制作スタジオHuayi Brothersと提携を結んでいる。 ある識者は、こうしたパートナーシップがYoukuに計り知れない成功をもたらすかもしれないと見ている。「この手のサービスは、一般人の作品だけでは魅力が減じることもある。そのため、オリジナル作品の配信契約を獲得できたのはYoukuにとってきわめて大きなことだ」と、北京に拠点を置く電気通信およびインターネット投資研究会社、BDA Chinaのダンカン・クラーク

(Duncan Clark)会長は述べている。 また、同社の上級アナリストであるリュー・ビン(Liu Bin)氏は、Youkuが抱えている課題をこう説明する。「Youkuにとって最大の課題は、ユーザー・エクスペリエンスの向上とサービスの双方向性強化だ。映像共有事業においては、ビデオ・オンデマンド型のサービスはもはや有効なセールス・ポイントにはならないし、ユーザーからの高い支持も得られないだろう。したがって、単にコンテンツを増やしていくだけでは効率的な成長は遂げられない。ほかのオンライン・ビデオ企業と互角に渡り合えるサービスを考案していかねばならない」 ビン氏はこれ以外にも、新規株式公開(IPO)や買収についても具体的に検討すべき時期に来ていると指摘した。だが、クー氏は当面、そうしたアクションを起こす気はなさそうだ。同氏としては、Youkuのビジネス・モデルが間違っていないことを2008年から2009年にかけて証明するつもりだ。IPOや買収などの流動的なプランは、そのあとで検討すべきことだと述べている。

YoukuのCEO、ビクター・クー氏

Page 18: Computerworld.JP Nov, 2008

I T Tr e n d W a t c h

ITトレンド・ウォッチ

Computerworld November 200822

IT部門の役割形成に影響を及ぼす複数の要因

 現在、重要度が増している「16の職種」を調査リポー

トにまとめたForrester Researchによると、企業/

組織にとって不可欠な存在でありたいと願うIT専門

家は、現在身に付けているスキルをさらに磨き、その

うえで新たなスキルの修得を目指さなければならない

という。

 ただし、新しいニーズが生まれたからといって、そ

のスキルを持つ新規スタッフがすぐに雇用されるわけ

ではないと、Forresterは注意を促している。という

のも、企業・組織のIT管理者が、社内にいる人材を

吟味し、彼らがすでに持っているスキルを新しい仕事

に応用させればよいからだ。

 Forresterのアナリスト、マーク・シシリー(Marc

Cecere)氏とローリー・オーロフ(Laurie Orlov)氏は、

「What are the hot roles in IT?(ITで求められる旬

の役割とは?)」という題名の同リポートの中で、「局所

的かつ大局的な知識に対する需要の高まり、テクノロ

ジーの進化、重みを増すリスク管理、さらには管理職

ポストの減少といった要因が、IT部門の果たさねばな

らない役割の形成に一役買うだろう」と述べている。

 それでは以下、16の職種を重要度別に解説していこう。

複数の責任を負い、複合的なポストに就くITプロフェッショナルが増えている。局所的かつ大局的な経験とスキルに対する需要の高まり、テクノロジーの進化、さらには重みを増すリスク管理などを背景に、ITプロフェッショナルに求められる役割が高度化・複雑化しているのだ。そうしたなか、米国Forrester Researchは、アナリストを対象にした調査を基に、企業/組織の成功にとって今後きわめて重要になる16のIT職種をピックアップした。以下、“注目株”の16職種を重要度レベルの順に紹介しよう。

Denise DubieNetwork World米国版

ITプロフェッショナルに贈る「旬の職種」16選セキュリティ関連は最重要の位置づけ。“トレンディ”にすぎない職種も一部あり

重要度レベルA

情報共有/セキュリティ関連の専門職種

 16の職種のうち、最も注目度が高いレベルAに属

するのは、①情報/データ・アーキテクト、②情報セキュリティ・エキスパートの2つである。

 情報/データ・アーキテクトとは、データ・ウェアハ

ウス、データ・マート、業務データ・ストア、データ・

インタフェースなどの構築を担当する。また、データ・

ガバナンスの手順やポリシーを定義したり、組織主導

のデータ・マネジメント戦略を立てたりすることも、情

報/データ・アーキテクトに求められる役割だ。「ほぼ

すべての組織が会社全体での情報共有の必要性を感

じている」とForresterのリポートにもあるとおり、こ

の職種の重要度はかなり高い。

 情報セキュリティ・エキスパートのほうは、リスク管

理やコンプライアンス・ポリシーに責任を負う。上級

職になると、セキュリティ・アーキテクトや、監査およ

びコンプライアンス・エキスパート、ポリシー・エキス

パートなどからなるチームを監督することも求められ

る。ビジネスや組織の規模が大きくなれば、物理的な

セキュリティや業務リスクも監督する必要があると、

Forresterは説明する。

Page 19: Computerworld.JP Nov, 2008

November 2008 Computerworld 23

米国Capital One Financialでエンタープライズ・アーキテクトを務めるルー・コグリアニス(Lou Coglianese)氏。氏は「異なる方向で物事を表せることの価値を重視する」と語る

るようになった伝統的なIT関連職で構成されている。

ここでは、⑦エンタープライズ・アプリケーション・ストラテジスト、⑧ITプランナー、⑨ネットワーク・アーキテクト、⑩エンタープライズ・プロジェクト・マネジャーが該当する。

 エンタープライズ・アプリケーション・ストラテジスト

は、現在および将来的に構築されるビジネス・プロセ

スへの対応や、合併・買収を視野に入れた社内アプ

リケーション・ロードマップの作成を担当する。一方、

ITプランナーは、企業全体のIT戦略/予算を決定す

る役割を担う。

 また、ネットワーク・アーキテクトは、局所的な計画

立案から組織全体のネットワーク戦略の構築を担当

する。「彼らの主な使命は、ネットワーク技術に関する

新規プロジェクトや、今後の投資計画を立案すること

だ。そのほかにも、年に一度の予算編成に参加し、ネッ

トワーク機器の事前検証を行うなどが、ネットワーク・

アーキテクトの役目である」(調査リポートより)

 エンタープライズ・プロジェクト・マネジャーは、外

部に委託したプロジェクトを監督し、プロジェクトの

管理方針を決定する責務を負っている。

重要度レベルD

トレンディだが適切な人材が見つけにくい職種

 最も低いレベルDに含まれる残り6つの職種は、適

切な人材を見つけるのが難しいと企業が感じている、

ビジネス系と技術系のものとなる。このうちビジネス

系職種としては、⑪アカウント・マネジャー、⑫サービス・マネジャー、⑬ビジネス・プロセス・アナリストの3つがある。

 アカウント・マネジャーはCIOの配下となるが、ビジ

ネス部門とIT部門の橋渡し役として、CIOよりも直接

的に動くことになる。サービス・マネジャーは、どのよ

うなITサービスをビジネス部門に提供するかを決定

し、ITサービス・マネジメント・プロセスを管理する。

また、ビジネス・プロセス・アナリストは、ビジネス・プ

ロセスに対する関係者の要望を把握し、それらを技

術系スタッフが用いる仕様へと変換する職種だとい

う。

 一方、技術系職種に含まれるのは、⑭デスクトップ仮想化エキスパート、⑮モバイル業務およびデバ

 「セキュリティという概念が拡張され、リスク管理ま

でも含まれるようになってきた。アプリケーションやイ

ンフラ、ビジネス要素など多角的なアプローチが必要

になるにつれ、セキュリティ関連職種の重要性は増し

ている」(Forresterの調査リポートより)

重要度レベルB

ビジネス・プロセス管理やベンダー管理関連職種

 次に重要とされるレベルBには、③データ/コンテンツ指向ビジネス・アナリスト、④ビジネス・アーキテクト、⑤エンタープライズ・アーキテクト、⑥ベンダー管理エキスパートが入ってくる。Forresterによ

ると、これらの職種は扱う情報が非常に複雑であり、

それゆえ組織から必要とされる度合いがおのずと高く

なるため、2番目に重要度が高いレベルの職種に分類

されている。

 「レベルBの職種は、ビジネス・プロセスやテクノロ

ジーのほか、ベンダー管理についても企業の代表とい

う役割を担うが、こうした経験を総合的に有する人材

はごくまれである」と、リポートには記されている。

重要度レベルC

従来からある伝統的なIT関連職種

 注目される職種のレベルCは、企業全体を網羅す

Page 20: Computerworld.JP Nov, 2008

Computerworld November 200824

イス・エキスパート、⑯ストレージ・ディレクターの3

つだ。これらも有望株だとForresterは述べている。

 デスクトップ仮想化エキスパートは、仮想化技術の

必要性を考慮したり、同技術の導入形態を決定した

りする。こうした職種の需要が高まれば、従来のデス

クトップ管理者の責任もより大きくなるはずである。

 「仮想化技術の普及で、コンピューティング環境は

クライアント端末からデータセンターへと移行した。

現在は、エンタープライズ・アーキテクトも、サーバや

ストレージ、ネットワークといったバックエンド・インフ

ラの構成要素により深くかかわるようになっている」

(調査リポートより)

 モバイル業務およびデバイス・エキスパートは、無

線ネットワークと携帯機器を専門に扱い、両方の管理

を行う。また、Forresterが今回のリストに入れた数

少ない管理職種であるストレージ・ディレクターは、ス

トレージに関して多様な責任を負うポジションである。

ITプロフェッショナルへの“一極集中”はリスクもはらむ

 今回挙げた職種への需要は、先進技術を積極的に

 企業においてEA(エンタープライズ・アーキテクチャ)の策定を担うエンタープライズ・アーキテクトは、現在の不透明な経済情勢を逆手に取り、ビジネス部門とのコラボレーションをさらに促進していく必要があると、米国の調査会社Forrester Researchが最新のリポートの中で提言している。 Forresterは同リポートの中で、「経済の見通しが不確かになるにつれて、経営陣はITへの投資効果に厳しい目を向けるようになる。彼らは、ITプロジェクトに加えて、IT部門をもつぶさにチェックし、確実に効果が得られる、もしくは一定以上の予算を出さずに済む状態をキープしようとする」としたうえで、景気停滞による悪影響を計算に入れ、業績予測や目標の見直しを始めることがエンタープライズ・アーキテクトに求められているとした。 また、「EAに対する戦略的な取り組みは、必要不可欠なものと認識されにくい。そのため、エンタープライズ・アーキテクトはこうした監視の目をおそれがちになるが、不況時こそ慎重なEA策定が求められる。アーキテクトが経営陣をリードし、投資すべき対象と切り詰めるべき対象を正しく判断できるよう導かねばならない」と、エンタープライズ・アーキテクトが果たすべき役割について説いている。 優先投資対象リストを作成し、みずから率先してCIOに提示

するのも、エンタープライズ・アーキテクトの責務の1つだ。対象リストには、予算を削減しても影響の小さいもの、削減してはならない重要なもの、積極的に投資すべきものといった具合に、具体的なコストを示すようアドバイスしている。 Forresterによると、SOA(サービス指向アーキテクチャ)やBPM(ビジネス・プロセス管理)といったはやりの技術についても、適切に導入すれば企業の柔軟性やアジリティを高めるのに役立つという。「不景気のなかでSOAを導入するのは難しいかもしれないが、最良のSOA戦略は漸進的であるということを念頭に置いておくべき」(同リポート) エンタープライズ・アーキテクトには、ビジネス上の目標と調和した技術戦略を打ち出すだけでなく、市場競争における力関係を変えうる技術を特定し、自社に必要な専門技術へ転化させることも求められる。そのためには、景気後退が自社に及ぼす悪影響を逆に触媒として利用し、ビジネスとITの間の対話を充実させていくことも重要になると、Forresterは述べている。 「ビジネス上の戦略や概念について過去に経営陣とまともに話し合ったことがなくても、不況が企業にもたらす悪影響の数々を熱心に説けば、経営陣もエンタープライズ・アーキテクトと話し合うことの意義に気がつくはずだ」(同リポート)

不況時こそ優秀な「エンタープライズ・アーキテクト」が不可欠──Forresterが提言S i d e S t o r y

Computerworld英国版

利用している企業やアウトソーシングを柔軟に取り入

れている企業に大きく左右されると見られる。ただし、

求められている人材には限りがあり、当該の職種に必

要とされる条件もさらに難しくなりつつあるため、企

業の雇用状況は今後ますます厳しくなると、Forre

sterでは予想している。

 IT専門家の側も、これらの職種を希望するのであ

れば、局所的な専門知識を有していなければならな

いと、Forresterはアドバイスしている。つまり、業

務や業界、拠点のある地域などに関し、細かいところ

まで情報を把握している必要があるのだ。

 「例えばアカウント・マネジャーなら、ビジネス側の

ニーズとIT部門の能力の両方をきちんと理解してい

るか否かが、採用におけるきわめて重要な選考基準

になってくる」(調査リポートより)

 職種の重要性を決定する際にForresterが参照し

たそのほかの要素としては、複数の分野を網羅した

包括的な知識がある。IT専門家を取り巻く状況は刻々

と変化しており、現在は「テクノロジー、管理業務、

顧客関係にまたがる幅広い知識を有しているか」(調

査リポート)という点が、注目度の高いIT職種の大半

で重要視されている。

Page 21: Computerworld.JP Nov, 2008

November 2008 Computerworld 25

 さらにForresterは、職種がはらむリスクも考慮し

て16種を選定したとしている。例えば、複数のビジ

ネス部門にまたがったプロジェクトを1人のITエキス

パートが率いる場合、リスク要因は上昇すると考え

られるからである。

 多くのIT組織がスキル不足をアウトソーシングや派

遣労働者の利用で補っている現状を加味すれば、“外

部からの助力”という要素も職種選定時に考慮する必

要がある。外部からの補強が少なければ少ないほど、

企業内のITシステムが果たす役割は大きなものとなる

からだ。

 また、ここで選ばれた16の職種のいくつかは、特

定のテクノロジーやベンダーとの関係のほか、業界の

方向性にマッチするという理由だけで重視されている

として、Forresterは注意を促している。「一部の職

種には、テクノロジーやベンダー、業界の後押しがあっ

て重視されているにすぎない面もある」

米国GMのパワートレイン担当ITアーキテクト、ロバート・ハール(Robert Harr)氏は、情報/データを社内で共有する仕組みを作り上げた

 米国でIT関連の雇用が減少している。米国労働省の労働統計局(BLS:Bureau of Labor Statistics)がこのほど発表した7月の雇用統計によると、前年同月に比べIT関連の雇用は大幅に減少した。 BLSが8月1日に発表した「Economic News Release」(画面A)を見ると、4ページ目でIT関連の雇用に短く触れているにすぎない。これは、「IT関連の職を得るのは難しくなりつつあるという情勢認識を、すでに多くのIT業界関係者が実感している」との認識の表れかもしれない。 BLSによると、情報産業の場合、7月に1万3,000人分の雇用が失われ、過去12カ月では4万4,000人分が失われた。また電気通信関連では、7月に5,000人分の雇用が喪失したという。 BLSの統計は、大手企業の間でITスタッフを削減する動きが出てきたことを裏付けるものだ。IT分野の雇用問題に詳しい調査会社Janco AssociatesのCEO、M. ビクター・ヤヌライティス(M. Victor Janulaitis)氏も、各種の要因に促されてIT専門スタッフに対する需要が徐々に減少しつつあることが、過去18カ月間のIT雇用のトレンドからうかがえると指摘する。 現在、企業の多くはコスト抑制モードに入っており、IT関連の投資にも積極的ではない。一方で、これまでの仕事のやり方を全面的に見直すよう迫るような新技術も登場していない。唯一の例外は「Web 2.0ベースの技術」(ヤヌライティス氏)だったが、すでに投資のピークを過ぎたとの見方もある。 「6~8カ月前は、Web 2.0技術への需要が若干伸びていた。だが、景気の減速に伴ってそれもなくなった」(ヤヌライティス氏) 失われたIT関連業務の一部はアウトソーシング・ベンダーに

委ねられている。最近では、中層から下のIT管理業務をアウトソーシングする動きも広がってきた。 また、コスト削減を目的とした業務の自動化や、少数のスタッフに多くの仕事を割り振るなどの取り組みにより、消滅してしまった仕事もある。企業が比較的重要度の低いITスタッフ(いわゆるレベル2スタッフ)の削減を目指しているのは明白であろう。 ヤヌライティス氏は、「アシスタントやレベル2スタッフは、新人であれベテラン社員であれ、削減の対象だ」としたうえで、大統領選挙が終わり、すべての決着がつくまでIT関連の雇用情勢は変わらないとの見方を示している。

IT関連の雇用が大幅減少、7月だけで1万3,000人分が喪失──米国労働統計局調査S i d e S t o r y

Ephraim Schwartz/InfoWorld米国版

画面A:BLSが発表した「Economic News Release」

Page 22: Computerworld.JP Nov, 2008

NEW

S HE

ADLI

NE

Computerworld November 200828

Gmailで連続してログイン障害が発生問われるグーグルの顧客対応力とオフィスSaaSの信頼性グーグルはSLAに従った無料サービスを提供したうえで、障害時対応の改善を約束

月に3度のログイン障害に見舞われる 米国Googleは、同社のWebメール・サー

ビス「Gmail」で8月に3度もログイン障害が

発生したことを受け、同社のオフィス

SaaSスイート「Google Apps」の年間契

約制有料エディション「Google Apps

Premier Edition」の全顧客に対する提供

期間を15日間無料で延長する措置をとっ

た。また、顧客への障害通知方法の改善

も約束した。

 Premier Editionの契約は1年単位で、

利用料金は1ユーザー当たり年間50ドルで

ある。今回の措置は、同エディションの顧

客向けのSLA(サービス・レベル契約)に

従ったものだ。Googleは、各月99.9%の

稼働率を保証するこのSLAの中で、稼働

率がこれを下回った場合、契約期間終了

後にその率に応じて一定日数の間、サービ

スを無料提供することを約束しており、こ

れを「サービス・クレジット」と呼んでいる。

15日間はその最大日数に当たる。

 Gmailでは8月6日、11日、15日に、数

時間から半日にわたるログイン障害が発生

し、大半のユーザーが影響を受けた。どの

ケースでも、ユーザーは自分のGmailアカ

ウントにアクセスできなくなり、ログインし

ようとすると、Webブラウザにサーバ・エ

ラーのメッセージが表示された。Google

が運営するGmailおよびGoogle Appsの

公式ディスカッション・フォーラムには多

数の障害報告が寄せられ、一部のユーザー

はGoogleへの不満をあらわにぶちまけた。

 Googleは謝罪メールで、システムの信

頼性確保は最優先事項であり、ダウンタイ

ムをゼロにすることは約束できないが、障

害発生時には常に全力を挙げて迅速な解

決を図っていくと説明した。「さらに重要な

ことに、われわれは、同様の問題の再発防

止に向けた管理の徹底を約束する」と同

メールには記されている。

改善策への期待と、求められる迅速な顧客対応

 今回の連続障害を機に、Googleは数カ

月以内に新しいダッシュボードを提供し、

Premier Edition管理者に障害状況を知ら

せる方法を改善する計画だ。

 このダッシュボードは、ユー

ザーへの影響をはじめとする障害

の説明を提供し、一定時間ごと

に障害の解決予定時刻の最新情

報を通知するほか、必要があれ

ば解決から48時間以内に正式な

リポートを発行する。リポートで

はインシデントとその原因、実行

された対策と防止策、障害履歴

が示される。さらにGoogleは、

同社の担当者が、管理者および

●ヴイエムウェアの「ESX 3.5」がマイクロソフトから認定(9/4)

●Google Chromeに早くもセキュリティ不安――研究者が複数の脆弱性を指摘(9/3)

●「グーグルのWebブラウザ市場参入は脅威ではない」──競合各社は表向き平静(9/2)⇒30ページ

●IBM、全米オープン・テニスでグリーンIT化に挑戦(9/3)⇒35ページ

●ノベル、コンプライアンス管理ソフトの新製品をリリース(9/2)

●オラクル、SOA管理ソフト・ベンダーのクリアアップを買収へ(9/2)

●デル、企業向けノートPC「Latitude」のラインアップを一新──重量1kg以下のSSDモデルを発売へ(9/2)⇒32ページ

●インテル、モバイル向けLinux開発ベンダーを買収(9/2)

●「Gmail障害」で問われるグーグルの顧客対応力とSaaSの信頼性(9/1)⇒28ページ

●デルの2Q決算は増収減益――米国や欧州の景気停滞が影響(8/28)

●iPhoneのパスコード・ロック機能にまたもやバグ――最新ソフトウェア・アップデートで発見(8/28)

●米国/マイクロソフト、「IE 8」のベータ2をリリー

ス(8/27)●CTC、日本HP、マイクロソフトの3社、顧客環

境を想定した「Hyper-V」の動作検証を共同で実施へ(8/27)⇒34ページ

●日立データシステム、NASAの気象データ・システムに「Hitachi Content Archive Platform」を提供(8/27)⇒34ページ

●マイクロソフト、「Tech・Ed 2008 Yokohama」で開発者支援強化を明言(8/26)⇒31ページ

●グーグル、豪華な福利厚生の大半を廃止へ――同社を去る従業員が増加(8/26)

●次世代無線LAN規格「IEEE 802.11n」が大企業

ANAL

YSIS

その企業のマネジャーと、インシデント発

生時に話し合いを行うようにするという。

 米国Gartnerのアナリスト、マット・ケイ

ン(Matt Cain)氏は、Googleの改善計画

を好意的に受け止めたが、一方でこう指摘

した。「Googleには、今月Gmailで実際に

何が起こったのか、その原因は何だったの

かを明確に説明してもらいたい。このメー

ルにこれらの説明はないが、こうした説明

こそ、同社はメールに記すべきだった」

 そしてケイン氏は、Gartnerが顧客に

Gmail採用のゴーサインを出すとすれば、

少なくとも大企業10数社が、ユーザー数1

万人以上の規模でPremier Editionを導

入し、Gmailが6~12カ月間連続稼働した

という実績が達成されることが前提になる

と語っている。 (IDG News Service)

Google Appsの提供でGoogleは、小規模から大規模までの組織での利用をアピールしている。今後、多数の企業に受け入れられるかどうかは同社の顧客対応にかかっている

Page 23: Computerworld.JP Nov, 2008

A u g u s t , 2 0 0 8

November 2008 Computerworld 29

DNS脆弱性問題、発見者がBlack Hat USA 2008の講演で欠陥の詳細をついに公表──攻撃法も多数紹介

「SSLはわれわれが思っているような万能薬ではない」と警告

 DNS(Domain Name System)プロト

コルの欠陥を発見したことで一躍有名に

なった米国のセキュリティ研究者、ダン・

カミンスキー(Dan Kaminsky)氏は8月6日、

米国ラスベガスで開催されたセキュリティ・

コンファレンス「Black Hat」(8月2日~7日

開催)の講演で、“インターネットにおける

過去最大級のセキュリティ・ホール”として

大きく取り上げられたこの問題の詳細を明

らかにした。

 カミンスキー氏はこの2カ月ほど、コン

ピュータがインターネット上で互いを見つ

けるために使うDNSの大規模な欠陥を修

復すべく、ソフトウェア・ベンダーやイン

ターネット企業と協力することに全力を傾

けてきた。カミンスキー氏が最初にこの問

題を公表したのは7月8日で、企業ユーザー

とインターネット・サービス・プロバイダー

(ISP)に対し、早急にソフトウェア・パッチ

を適用するよう促していた。

 カミンスキー氏は、DNSプロトコルの仕

組みに潜む一連のバグをエクスプロイトす

ることで、短時間のうちにDNSサーバを不

正情報で満たす方法を突き止めていた。

犯罪者はこのテクニックを使って犠牲者を

偽サイトに誘導できるという。

 また同氏は、この欠陥を突くことで、電

子メール・メッセージやソフトウェア・アッ

プデート・システム、さらにはWebサイト

におけるパスワード回復システムさえも攻

撃できることを証明して見せた。

 それまではSSL(Secure Socket Layer)

を使えばこの攻撃から保護できると考える

人が多かったが、カミンスキー氏はWebサ

イトの有効性を確認するためのSSL証明書

でさえ、DNS攻撃により回避できることを

実証した。問題は、SSL証明書を発行す

る会社が証明書を確認する手段として電

子メールやWebなどのインターネット・サー

ビスを使っていることにあるという。

 「これではDNS攻撃の前では決して安全

とは言えない」とカミンスキー氏は警告して

いる。

 「SSLはわれわれが思っているような万

能薬ではないのだ」(同氏)

対応策はひととおり完了完璧ではないが一定の安全を確保

 カミンスキー氏は、DNS攻撃にかかわる

諸問題を解決するため、DNSベンダーに

加えて、米国のGoogleやFacebook、

Yahoo!、eBayなどの企業とも協力したと

いう。「携帯電話の今月分の請求書は見た

くもない」と同氏は苦笑する。

 とはいえ、いくつか思わぬトラブルもあっ

た。カミンスキー氏がこの問題を初めて指

摘してから2週間後、セキュリティ会社の

米国Matasano Securityがバグの詳細を

の間で急速に普及──米国BT調査(8/26)⇒35ページ

●東芝ソリューション、従来比2倍以上の性能となるストレージ「ArrayFort」の新製品を発表(8/25)⇒33ページ

●NECソフト、企業向けバックアップ・サービス「オンラインバックアップASP」の提供を開始(8/25)⇒33ページ

●デル、セールスフォースのオンデマンド開発基盤「Force.com」の3年間利用を契約(8/22)

●マイクロソフト、ノベルに1億ドルを追加出資(8/20)

●日本IBM、最新クアッドコアOpteron搭載のブレード・サーバを発表(8/20)

●世界IT支出の伸びはますます鈍化──2009年は6%成長に(8/20)⇒32ページ

●クアッドコア時代よさらば──インテル、サーバ向け6コア版Xeonの出荷準備が整う(8/19)⇒31ページ

●HP、3Q決算は増収増益――アナリストの予想を上回る好業績に(8/19)

●IBM、22nmプロセスのSRAMセルを開発――2011年までに製品化(8/18)

●オープンソース・ライセンス違反は著作権侵害に

該当──米国の裁判所が判断(8/13)⇒30ページ●インテル、デスクトップPC向け次世代チップの

名称を「Core i7」に決定(8/11)●アップル、「iPhone」に備えた“隠し機能”の存在を

認める(8/11)●レノボ、1Q決算は増収増益――ノートPCの売上

げが好調で純利益65%増(8/7)●DNS脆弱性問題、発見者がBlack Hat USA

2008の講演で欠陥の詳細をついに公表──攻撃法も多数紹介(8/7)⇒29ページ

●米国司法省、過去最大規模のカードデータ窃盗グループを起訴(8/7)

EVEN

T REP

ORT

誤ってインターネットに漏らしてしまったの

だ。また、最初のパッチを適用してから、

膨大なトラフィックを扱う一部DNSサーバ

が正常に稼働しなくなったり、IPアドレス

を変換するファイアウォール製品が、この

問題を解決するために加えられたDNSの

変更を誤って元に戻してしまったりするト

ラブルも発生した。

 Black Hatでの講演後、カミンスキー氏

にインタビューを行い、DNS攻撃への対

応策についてコメントを求めたところ、い

ろいろ大変な思いはしたものの、必要なら

ばもう一度やり直してもかまわないという

頼もしい答えが返ってきた。

 「数億人がより安全になった。完璧とは

言わないまでも、自分としては期待以上の

成果を上げられたと自負している」と、同氏

は胸を張った。 (IDG News Service)

「Black Hat」の公式サイト

Page 24: Computerworld.JP Nov, 2008

Computerworld November 200830

「グーグルのWebブラウザ市場参入は脅威ではない」──マイクロソフト、モジラら競合各社は表向き平静歓迎の意を示しつつも、自社ブラウザの優位点をアピール

 米国Googleが自社開発のWebブラウ

ザ「Google Chrome」をリリースした9月2

日、米国Microsoftや米国Mozilla、ノル

ウェーのOpera Softwareといった主要ブ

ラウザ・ベンダーは一様に歓迎の姿勢を見

せ、Googleの参入を脅威には感じていな

いとの声明をそれぞれ発表した。

 OperaのCEOであるヨン・フォン・テッツ

ナー(Jon von Tetzchner)氏は、Google

の参入に脅威を感じていないことを強調、

「競争は業界全体の活性化につながり、む

しろ歓迎すべきこと」と語った。

 Microsoftも新たな競争相手の出現に自

信をうかがわせた。同社はIE(Internet

Explorer)のゼネラル・マネジャー、ディーン・

ハチャモビッチ(Dean Hachamovitch)氏

の弁として、「ブラウザ市場は非常に競争が

オープンソース・ライセンス違反は著作権侵害に該当──米国の裁判所が画期的判断

「ヤコブセン対カッツァー」訴訟で新たな見解を示す

 米国連邦巡回控訴裁判所(CAFC)は8

月13日、一定の条件を満たすのであれば

オープンソース・ソフトウェアのライセン

サー(実施許諾者)は著作権法によって保

護されるという画期的な見解を示した。

 CAFCがこの判断を示した裁判は、「ヤ

コブセン対カッツァー」訴訟である。これは

ソースコードの形で提供されるオープン

ソース・ソフトウェアを巡って争われている

もので、ダウンロード可能な同コードは、

公開かつ無償であり、オープンソース・ラ

イセンス「Artistic License」の対象となっ

ている。

 訴えたのはコード開発グループのリー

ダーであるロバート・ヤコブセン(Robert

Jacobsen)氏で、マシュー・カッツァー

(Matthew Katzer)氏とその所属企業

Kamind Associatesが、自分たちが開発

したコードがカッツァー氏の独自ソフト

ウェア製品に使用されているにもかかわら

ず、カッツァー氏はArtistic Licenseを順

守していないと主張していた。

 これに対しカッツァー氏(同氏は、自分

たちの製品でヤコブセン氏らが開発した

コードを一部使用していることを認めてい

る)の側は、ライセンスの適用範囲を逸脱

してはいないと反論していた。

 カッツァー氏は、このオープンソース・

コードは広範な非独占的ライセンス条件に

従って無償で提供されており、それゆえ自

社製品にこのコードを組み込む行為もライ

センスの適用範囲から外れるものではない

と主張。必要な情報を製品に含めなかっ

た単なるライセンス条項違反であると述べ

NEW

SNE

WS

ていた。

 今回CAFCは、Artistic Licenseのライ

センス条件が実質的に著作権法によって

保護されると判断した。CAFCはオープン

ソース・アプローチの社会的な価値も幅広

く認定し、「従来型ライセンスのロイヤリ

ティよりもはるかに幅広いパブリック・ライ

センスの下で、著作権の設定された作品

を作成、配布する行為には、経済的利益

を含む実質的な利益がある」との見解を示

し、ヤコブセン氏の訴えを認める判断を下

したのである。

 オープンソース・ソフトウェアが広く利

用されるようになってから10年以上が経

つ。しかし、そのライセンスの法的な位置

づけに関しては、今なお不明確な部分は多

い。 (CIO米国版)

厳しいが、ユーザーから求められるサービ

スをくまなく網羅しているIE 8は広く受け入

れられると思う」との声明を発表した。

 MozillaのCEO、ジョン・リリー(John

Lilly)氏も自身のブログに「特に驚いてはい

ない。(中略)GoogleのビジネスはWebで

あり、彼らはWebのあり方について明確な

理念を持っている」と記した。

 とはいえ、Googleの参入でブラウザ間

の競争が激化するという認識は、3人とも

共通しているようだ。リリー氏は「われわれ

としては、今まで以上にユーザーに好まれ

るブラウザを開発していく必要がある。

Firefoxはすでに優秀なブラウザだが、今

後はいっそう改善していかなければならな

い」と記している。

 現在Chromeはベータの段階で、対応

するOSもWindows XPとVistaのみである。

Mac OS X版とLinux版も予定されている

が、リリース日は明らかにされていない。

 なお、米国Net Applicationsが行った8

月のWebブラウザ市場調査では、Chrome

はリリース後22時間で、Webブラウザ市

場シェアの1%を獲得している。

(Computerworld米国版)

シンプルで高速という評判の「Google Chrome」

Page 25: Computerworld.JP Nov, 2008

A u g u s t , 2 0 0 8

November 2008 Computerworld 31

「ITエンジニアは命であり生命線であり将来だ」──マイクロソフト、「Tech・Ed 2008 Yokohama」で開発者支援強化を明言日本語による技術情報の拡充を確約

 マイクロソフトは8月26日から4日間の日

程で、ITエンジニアを対象にしたテクニカ

ル年次コンファレンス「Tech・Ed 2008

Yokohama」を開催した。

 初日の基調講演には、米国Microsoft

でSQL Serverデータベースエンジン開発

部門ジェネラル・マネジャーを務めるクエ

ンティン・クラーク(Quentin Clark)氏と、

マイクロソフト代表執行役社長兼Micro

softコーポレイト・バイスプレジデントの樋

口泰行氏が登壇。「ITエンジニアはヒーロー

になる~DynamicITによるITイノベーショ

ンの現実~」をテーマに、同社のITビジョ

ンと、今年発表された「Windows Server

2008」「Visual Studio 2008」「SQL

Server 2008」の活用例を紹介した。

 樋口氏が強調したのは、開発者支援体

制の強化である。「マイクロソフトにとって

開発者/技術者は命であり生命線であり

将来」と語る同氏は、開発者/技術者から

寄せられた不満が、「日本語での技術情報

の不足」「製品の品質レベル」「わかりにくい

ライセンス体系」であることを明らかにし、

それぞれに対策を講じると明言した。

 なかでも日本語技術情報の強化につい

ては今年3月、今後6カ月間で約1

万ページの技術情報を日本語化

すると公言していた。樋口氏は「こ

の作業はすでに前倒しで完了し、

(同情報は)インターネットを通じ

て提供している。今後はさらに10

カ月で追加1万ページの技術情報

を日本語化し、提供することを約

束する」と語った。

クアッドコア時代よさらば──インテル、サーバ向け6コア版Xeonの出荷準備が整うアナリストは「ライバルAMDに対する先制攻撃の意味合いが強い」と分析

 米国Intelのシニア・バイスプレジデント

でデジタル・エンタープライズ事業本部長

のパット・ゲルシンガー(Pat Gelsinger)氏は

8月19日、同社初の6コアCPU「Dunning

ton」(開発コード名)を、サーバ向けXeon

プロセッサ「Xeon X7460」として9月にリ

リースする予定であることを明らかにした。

 これは同社が「Intel Developer Forum

(IDF)2008」(8月19日~21日)において明

らかにしたもの。ゲルシンガー氏によると、

6コア版Xeon、Dunningtonは、Intelの

新しい45nmプロセス製造技術「Penryn」

に基づき製造されるという。

 以前、ゲルシンガー氏は、「大容量キャッ

シュと6コアの組み合わせにより、大幅な

性能向上アップが見込まれる。今から非

常に楽しみだ」と語っていた。

 今回のIntelの発表を受けて米国Gabriel

Consulting Groupの主席アナリスト、ダン・

オールズ(Dan Olds)氏は、これまで半導

体業界で最高性能とされてきたクアッドコ

アCPUから、さらに6コアに移行することで、

Intelは宿敵の米国AMDをさらに大きく引

き離しにかかると分析する。

 「ベンチマーク結果を見るかぎり、6コア

CPUがクアッドコアより高性能なことは明

らかだ。当然、ユーザーは欲しがるだろう。

気になるのはCPUの消費電力と熱放射だ

が、最先端のCPUとして大きく進化して

いることは間違いなく、大手ハードウェア・

ベンダーがこぞって採用するはずだ」(オー

ルズ氏)

 では顧客は6コア搭載コンピュータを本

気で待ち望んでいるのだろうか。米国の市

EVEN

T REP

ORT

PROD

UCTS

 次に登壇したクラーク氏は、「現在、IT

戦略はビジネス戦略に直結している。生産

性の向上やビジネスを加速させるといった、

ITを戦略的な“資産”として活用するのが

Dynamic ITである」と語り、Dynamic IT

を具現化するためには、Microsoftの製品

群を連携させることが有用だと力説した。

(Computerworld)

場調査会社In-Statのアナリスト、ジム・マ

クレガー(Jim McGregor)氏は、「今日の

ソフトウェアの多くはいまだにクアッドコア

CPUさえ、その性能を十分に生かせずに

いる」と、それほどの需要はないとの見解を

示している。 (Computerworld米国版)

Intel初の6コアCPU、Dunningtonは、19億個のトランジスタと16MBのL3キャッシュを搭載し、45nmプロセス製造技術「Penryn」に基づき製造される

マイクロソフトが「約束」として掲げる開発者支援の取り組み

Page 26: Computerworld.JP Nov, 2008

Computerworld November 200832

 デルは9月2日、企業向けノートPC「Dell

Latitude」シリーズのラインアップを一新

し、新製品8機種を発表した。8月下旬よ

り順次出荷を開始している。

 発表されたLatitudeの新製品は、特に

日本市場のニーズを取り込んだ仕様になっ

ているという。その代表的な製品が12.1イ

ンチ・ディスプレイ搭載の「Dell Latitude

E4200」だ。同製品は、デル史上最軽量

となる997g(4セル・バッテリー)を実現し

た。これは日本の顧客からの「1kg以下の

重量」という強い要望に応えたものだ。ス

トレージに64GBまたは128GBのSSD

(Solid State Drive)を採用したモデルと

して、9月中旬からの出荷を予定している。

価格は30万円台前半となる見込みだ。

 パフォーマンスとモビリティを追求した

E4200/4300は、Windowsを起動せず

にメール(Outlook)やカレンダー、連絡先

リストなどへの即時アクセスを実現する新

機能「Dell Latitude ON」を搭載する。

Windowsとは別にLinuxを稼働させること

で、こうした即時アクセス機能を実現した

という。なお、同機能は11月から出荷を開

始する予定で、初期出荷モデルには搭載

されていない。

 軽量さ以外にも、日本の顧客からはバッ

テリー駆動の長時間化に関するニーズも強

く、メインストリーム市場向けのE6400で

は、9セル・バッテリーとバッテリー・スラ

イスを併用することで、最大19時間にわた

る長時間駆動を実現している。

 デルはサービス面の強化も図っており、

例えば、HDDのデータ復旧およびデータ

デル、企業向けノートPC「Latitude」のラインアップを一新──重量1kg以下のSSDモデルを発売へ日本市場の“声”をこれまでで最も反映したLatitude

世界IT支出の伸びはますます鈍化──2009年は6%成長に低迷続く経済環境下では「力強い成長に相当」

 米国の調査会社Gartnerの予測による

と、2009年の世界IT支出の伸びは6%に

とどまる見通しだ。ただし、世界経済が全

般的に低迷していることを考慮すれば、こ

の数字はかなり力強い成長に相当するとい

う。

 世界のIT支出総額は2009年に3兆6,000

億ドルに達し、2008年の予測額3兆4,000

億ドルを6%上回る、というのがGartner

の見方だ。ちなみに、2008年の予測成長

率は前年比8%増で、2007年の実績は前

年比10%増だった。

 市場別に見ると、2009年に支出の伸

び率が最も高いのはソフトウェアとITサー

ビスで、それぞれ8%と7%となる。逆に、

コンピューティング・ハードウェアへの支

出は、2009年にはわずか4%へと減速す

る見通しだ。

 一方、IT支出全体の半分以上を占めて

いるテレコム市場は2009年に6%伸び、2

兆1,000億ドル近くに達すると予測されて

いる。

 Gartnerのバイスプレジデントで業界で

も著名なアナリストのジム・タリー(Jim

Tully)氏は、他の業界に比べればIT分野

は相変わらず高い成長率を持続していると

しながらも、今後は米国における景気後退

の影響を受け、若干減速することになると

みている。

 「今後数年間、IT分野の成長率は下がる

だろう。だが、そのファンダメンタルズは

依然として強いままだ。新興諸国・地域、

老朽化したシステムのリプレース、いくつ

かの技術シフトが成長を牽引していく」(タ

PROD

UCTS

RESE

ARCH

デル史上最軽量の997gを実現した「Dell Latitude E4200」

破壊サービスなどを提供している。今後は、

ノートPCのデータを遠隔操作で消去する

新サービスの提供も予定している。

 Latitudeの新製品は、E4200/4300

以外はすべて8月下旬より出荷を開始して

おり、最も低価格な機種のE5400で16

万8,000円からとなる。(Computerworld)

リー氏)

 なお、IT支出の多くを占めるテレコム・

サービスの割合はこれから下がり続け、5

年後にはIT支出全体の44%にまで減る見

通しだ。旧来のテレコム・システムの継続

的な使用がテレコム支出の成長率を押し

下げ、ひいてはIT支出全体の成長率をも

抑えることにつながるとGartnerは指摘し

ている。

 また、今後はSaaS(Software as a

Service)やSOA(サービス指向アーキテク

チャ)、オープンソース・ソフトウェア(OSS)

が、いずれも従来型のソフトウェア購入モ

デルに対抗する強力な存在になることか

ら、ソフトウェア関連支出の伸び率につい

ても、Gartnerは慎重な見方を示している。

(Network World米国版)

Page 27: Computerworld.JP Nov, 2008

A u g u s t , 2 0 0 8

November 2008 Computerworld 33

PROD

UCTS

PROD

UCTS

 東芝ソリューションは8月25日、ディス

ク・ストレージ・システム「ArrayFortシリー

ズ」に新製品3モデルを追加し、同日より販

売を開始したと発表した。新製品はいずれ

も、パフォーマンスや拡張性、可用性など

が向上している。

 発表されたのは、ハイエンド・モデル

「AF7500」、ミッドレンジ・モデル「同

2500」、エントリー・モデル「同1700」の3

製品。AF7500/2500は、従来モデル

(AF7000/2000)比で1コントローラ当た

り2倍以上のスループット性能となる

1.5GB/秒へと性能が向上している。

 また、ストレージ仮想化技術を利用した

「容量プロビジョニング機能」をサポートし

たことで、実際に必要となるディスク容量

での効率的な運用を実現している。加えて、

同機能により、将来的な拡張を見据えてあ

らかじめHDDを実装する必要がなくなるの

で、ストレージ・システム全体での省電力

化にも貢献する。

 AF7500は最大8つのコントローラ(デュ

アルコントローラ×4ユニット)構成で、

432台(SAS:129.6TB、SATA:432

TB)までHDDを搭載できる。価格は922

万5,300円から。AF2500は、デュアル

コントローラ構成で最大108台(SAS:

32.4TB、SATA:108TB)までHDDを搭

載可能である。価格は226万3,800円から。

両製品は、データセンターや大規模基幹

システム向けとなる。

 一 方、AF1700は、従 来モデ ル(AF

2000S)比で2倍以上のスループット性能

となる780MB/秒を実現した、コスト・パ

東芝ソリューション、従来比2倍以上の性能となるストレージ「ArrayFort」の新製品3モデルを発表

ストレージ仮想化や多様なレプリケーション機能を実装

 NECソフトは8月25日、オンライン・ス

トレージを利用した企業向けバックアップ・

サービス「オンラインバックアップASP」の

提供を開始したと発表した。

 企業内におけるデータ量が爆発的に増

加する一方で、BCP(事業継続計画)の重

要性が高まっており、災害や不足の事態

を見越した総合的な対策が求められて久し

い。しかし、自社でリモート・サイトへのバッ

クアップ体制を構築しようとすると、導入

や運用管理に多大なコスト/手間がかかっ

てしまう。オンラインバックアップASPは、

顧客が抱えるこうした問題の解決をねらっ

たサービスである。

 同サービスは、オンライン・ストレージと

バックアップ・ツールを組み合わせること

で、顧客データを遠隔地にある安全なデー

NECソフト、企業向けバックアップ・サービス「オンラインバックアップASP」を提供開始

データの種類やバックアップ・タイミングの指定が可能

タセンターへとバックアップする。データ

は自動暗号化されたうえにSSL通信で転送

される。

 データの拡張子/フォルダの指定によ

り、必要なデータのみを差分バックアップ

でき、無駄なコストも発生しない。また、

Windowsの起動/終了時や、毎日/毎週

/毎月など、ユーザーの指定した任

意のタイミングでバックアップが可

能である。これにより、ユーザーの

確実なバックアップを支援している。

 バックアップ時刻を指定できるこ

とから、ネットワーク負荷の低い時間

帯にバックアップし、社内にあるファ

イル・サーバのミラーリングとして利

用するなどの柔軟な対応も取れる。

そのほか、外出先からのアクセス、ユー

ザーの利用状況管理なども実現している。

 オンラインバックアップASPは従量課

金制で、価格は月額105円/アカウントと

同525円/1GB。NECソフトは、今後3年

間で100社・3万ユーザーの利用と、売上

げ約2億円を見込んでいる。

(Computerworld)

フォーマンスを重視した製品。HDD6台か

ら48台までのパッケージ・モデルから選択

でき、最大構成となる48台ではSASで

14.4TB、SATAで48TBの容量となる。

価格は115万800円からで、部門システム

向けの製品となる。

 3製品は、いずれもRAID 6への対応や

各種レプリケーション機能も備えている。

(Computerworld)

オンラインバックアップASPの管理画面

AF7500(HDD432台搭載時のラックマウント構成)

Page 28: Computerworld.JP Nov, 2008

Computerworld November 200834

 伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)と

日本ヒューレット・パッカード(HP)、およ

びマイクロソフトの3社は8月27日、マイク

ロソフトのサーバ仮想化ソフト「Hyper-V」

を利用した仮想化ソリューションの動作検

証を共同で実施すると発表した。3社共同

の動作検証は、CTCの技術検証施設であ

る「テクニカルソリューションセンター

(TSC)」を使って行われる。

 3社の目的は、x86サーバとHyper-Vに

よるサーバ仮想化ソリューションを顧客企

業に近いマルチベンダー環境で検証し、

導入や運用などに関する実践的なノウハウ

を得ることにある。

 検証に使用されるx86サーバには、日本

HPのXeonプロセッサ搭載サーバ「HP

ProLiant DL360 G5」と「同DL380 G5」

CTC、日本HP、マイクロソフトの3社、顧客環境を想定した「Hyper-V」の動作検証を共同で実施へサイジング・データ取得やシステム構築手法の確立を目指す

を選定。これをTSC内に配備する。また、

ストレージには「HP StorageWorks」を利

用し、ネットワーク・スイッチといった他の

機材についてもマルチベンダー環境を想定

して配備するという。

 こうしたマルチベンダー環境を構築した

うえで、Hyper-Vやマイクロソフトの仮想

化環境管理ソフト「Microsoft Virtual

Machine Manager 2008」の基本動作

やキャパシティ、可用性などに関連した動

作の検証を3社共同

で実施する。サイジ

ング・データの取得

やシステム構築手法

の確立(ディプロイメ

ント・マニュアルを作

成)のほか、Hyper-V

に精通したエンジニアの早期育成を目指す

としている。

 動作検証で得られたデータは、ホワイト

ペーパーの形で一般公開される予定。公

開時期は今年10月の見込みだ。

 さらにCTCは、3社による共同検証を通

じて確立したシステム構築手法を基に、

Hyper-Vベースの仮想化ソリューションを

今秋より提供するとしている。

(Computerworld)

NEW

SNE

WS

 日立製作所の100%子会社で、海外を

中心にストレージ事業を展開している米国

日立データシステムズ(HDS)は8月27日、

NASA(米国航空宇宙局)の気象データ・シ

ステム「OMIDAPS(Ozone Monitoring

Instrument Data Processing Sys

tem)」に、HDSのコンテンツ・アーカイブ

向けストレージ・アプライアンス「Hitachi

Content Archive Platform」を提供した

と発表した。同アプライアンスにより、アー

カイブされた地球大気に関する科学データ

を従来よりも迅速に取り出せるという。

 Hitachi Content Archive Platformは、

必要なハードウェアとソフトウェアをオー

ルインワンで提供する、データ長期保管向

けのストレージ・アプライアンス。既存シ

ステムへの追加・導入が容易で、保管コン

日立データシステム、NASAの気象データ・システムに「Hitachi Content Archive Platform」を提供

アーカイブ・データを高速に読み出し、オゾン層や気候変動の研究をサポート

テンツへの迅速なアクセスを実現する。

 また、データ改竄を防止するWORM

(Write Once Read Many)機能により、

ファイル単位にアーカイブ・データを“書換

え不可”にし、コンテンツの特性に合わせ

たパターンで保管期間を設定することが可

能。そのほか、保管されたデータが正しく

読み出せることを保証する定期的真正性

チェック機能などを装備する。

 NASAのコンピュータ技術者であるカー

ト・ティルメス(Curt Tilmes)氏は、「Hitachi

Content Archive Platformの最もよい点

は、アーカイブ・データを入出力する際に、

従来のテープ・ストレージのような遅さを

感じないことだ。データの操作も容易で、

研究者は地球の環境診断に集中できるよ

うになった」と述べている。

 米国メリーランド州グリーンベルトにあ

るOMIDAPSは、地球大気の構成成分に

関する科学データを収集管理しており、そ

のアーカイブ・データは、オゾン層や地球

の気候変動などの研究に用いられている。

OMIDAPSは、他の地球環境プロジェクト

でも活用される予定だという。

(Computerworld)

検証用のx86サーバに選定された「HP ProLiant DL360 G5」

Hitachi Content Archive Platform

Page 29: Computerworld.JP Nov, 2008

A u g u s t , 2 0 0 8

November 2008 Computerworld 35

 8月25日~9月7日の2週間、米国ニュー

ヨークで開催された全米テニス協会主催の

全米オープン・テニス。そのITシステムを

長らく支えてきたのが米国IBMである。同

社は数年前まで60台ものサーバを稼働させ

ていたが、2006年以降はサーバ統合を実

施。2008年度はサーバをわずか6台にまで

減らし、電力消費の大幅削減に成功した。

 IBMのワールドワイド・スポンサーシッ

プ・マーケティング担当ディレクターであ

るリック・シンガー(Rick Singer)氏は、

「2007年は需要に合わせたキャパシティ

の拡大のため、サーバの仮想化が最重要

事項だった」と語る。

 2008年度の全米オープン・テニスにお

いて、IBMは昨年に引き続き公式サイト管

理などを担当。昨年同様、仮想化技術を

用いたサーバ統合を推進する一方で、今

年は「グリーンIT」にも“スポットライト”を当

て、全米オープンを支えるITシステムの電

力消費削減に取り組んだという。

 IBMは過去の全米オープンでも、スコア・

システムなどの業務処理のため、60台もの

サーバを稼働させていた。しかし、2008

年大会ではわずか6台の「IBM System P6

550」サーバが大会を支えた。

 同社ワールドワイド・スポンサーシップ・

マーケティング部門のプログラム・マネ

ジャー、ジョン・ケント(John Kent)氏によ

ると、今回IBMは電力効率を従来よりも高

めたマシンに切り替えるとともに、「Tivoli」

ベースの電力監視ソフトウェアなどを採用

した。

 こうした努力が実り、2006年以降に

20%増となった公式Webサイトへのトラ

フィックもスムーズに処理できるように

なった。同時に、1ユーザー当たりのコスト

も過去2年間で27%削減したという。

 またケント氏は、「サーバ統合により、全

米オープンのITシステムに要する電力消費

を過去2年間で23%、さらに冷却需要も同

期間で25%低減できた」と述べている。

(Computerworld米国版)

IBM、全米オープン・テニスでグリーンIT化に挑戦仮想化技術で60台のサーバを6台に統合。Tivoliの電力監視ソフトも採用

NEW

S

 米国の通信大手BT North Americaはこ

のほど、次世代無線LAN規格の「IEEE

802.11n」が大企業のネットワークで急速に

普及しつつあるとの調査リポートを発表した。

 同リポートによると、調査対象企業の3

分の1近くが、今後12カ月以内に、IEEE

802.11nドラフト規格に対応した無線LAN

に移行すると回答。BTはリポートで「まだ

批准されてない規格がこれほど早く大企業

に採用されるのは前例がなく、同規格のメ

リットがいかに多くの企業に必要とされて

いるかがわかる」と述べている。しかしなが

ら、全回答者のうち、「急いで採用する必要

はない」「今のところ採用する予定はない」と

する割合も半数近くに達した。

 同調査は226社のITプロフェッショナル

を対象にWeb上で回答を集計したもの。内

訳は、ITスタッフ1,000人以下の企業が

43%、1,000~1万人が28%、1万人以上

が4分の1となっている。

 回答者の39%はすでにIEEE 802.11n

ドラフト対応の無線LANアーキテクチャを

導入済みで、現在移行中、もしくは移行予

定と答えた人も22%いた。「この傾向は企

業規模が大きいほど顕著だ」と、BTのコン

サルティング・グループで戦略マーケティ

ング担当ディレクターを務めるリック・ブラ

ム(Rick Blum)氏は指摘する。

 BTの無線LANコンサルティング・プラク

ティス担当プラクティス・リード、グレッグ・

テイラー(Greg Taylor)氏によると、大企

業が無線LANに移行する主な理由は、従

業員がどこにいても協力して仕事を進めた

り、生産性を改善したりできるようにするこ

とだという。実際、これらを「非常に重要」

と回答した割合は61%に上っている。

 ほかにも、脆弱な(あるいは悪意ある)無

線LANを社内でこっそり利用されるのを防

ぐためにセキュアな無線インフラを採用し

たいという願望もあるようだ。

 回答者の約3分の1はすでに802.11nへの

移行を進めており、今から1年後またはそれ

以降に採用予定と答えた割合も20%を占

めた。「802.11nへの移行は、ノートPCの

テクノロジーがいつリフレッシュ・サイクル

に入るかにかかっている。802.11nチップ

セット搭載の新型ノートPCが普及すれば、

企業でも802.11nに移行しようという機運

が高まる」とテイラー氏。同氏によると、こ

のリフレッシュ・サイクルは大企業で通常2

~5年だという。 (Network World米国版)

次世代無線LAN規格「IEEE 802.11n」が大企業の間で急速に普及──米国BT調査ドラフト段階にもかかわらず多くの大企業が採用を検討

RESE

ARCH

IBMが管理する全米オープン・テニスの公式サイト

Page 30: Computerworld.JP Nov, 2008

ワークスタ人とコンピュータの関係が変わる。変えていく。

コンピュータ・テクノロジーの進展によって、人とコンピュータの関係は大きく様変わりした。特に、この10年来の“IT革命”は、ビジネスパーソンのワークスタイルを進化させ、業務生産性向上やビジネス価値の創出に貢献し、そして企業経営そのものの変革をも導いてきた。市場競争力の向上や経営のグローバル化、そしてコンプライアンスなど、今日の企業経営を取り巻く課題は多岐にわたっており、さらなる革新が求められている。本特集では、ワークスタイル革新をテーマに、従業員の仕事と生活の調和や業務生産性の向上、ビジネス価値の創出、企業・業務環境の質的改善などにかかわるテクノロジーの動向と、それらを利用する側の創意工夫や実践手法について探っていく。

[革新]テク

特集

Computerworld November 200854

T e c h n o l o g y f o r W o r k s t y l e I n n o v a t i o n

Page 31: Computerworld.JP Nov, 2008

人とコンピュータの関係が変わる。変えていく。

November 2008 Computerworld 55

ノロジーイル

Page 32: Computerworld.JP Nov, 2008

Computerworld November 200856

│Part 1

│「テレワーク」導入までの道のりと主要課題

改革にかかわる概念と言えるだろう。

 また、これらの憲章および指針に基づく取り組みを

加速するため、内閣府に「仕事と生活の調和推進室」

が設置され、2008年を「仕事と生活の調和元年」と位

置づけ、ワーク・ライフ・バランス推進のため、国民運

動「カエル!ジャパン キャンペーン」(http://www8.

cao.go.jp/wlb/)を開始している。

 ワーク・ライフ・バランスにより目指す社会の中で、

今の企業にとって特に影響が大きいのが、前述の憲

章の③多様な働き方・生き方が選択できる社会だろ

う。なお、企業と就労者に関連する行動指針としては、

具体的には以下の取り組みが掲げられている。

●経営トップのリーダーシップの発揮による職場風土改革のための意識改革、柔軟な働き方の実現等

●目標設定、計画的取り組み、点検の仕組み、着実な実行

●労使で働き方を見直し、業務の見直し等により、時間あたり生産性を向上 (就労による経済的自立)

●人物本位による正当な評価に基づく採用の推進●就業形態にかかわらない公正な処遇等 (健康で豊

ワーク・ライフ・バランスで目指される社会とは

 2007年末、政府、地方公共団体、経済界、労働

界の合意により、「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・

バランス)憲章」および「仕事と生活の調和推進のため

の行動指針」が策定された。同憲章名にも示されてい

るとおり、ワーク・ライフ・バランスとは、仕事と生活

の調和を意味し、「国民1人ひとりがやりがいや充実感

を持ちながら働き、仕事上の責任を果たすとともに、

家庭や地域生活などにおいても、子育て期、中高年

期といった人生の各段階に応じて多様な生き方が選

択・実現できる」社会を目標に置いている。

 同憲章において、わが国が目指していく社会は、

①就労による経済的自立が可能な社会、②健康で豊

かな生活のための時間が確保できる社会、③多様な

働き方・生き方が選択できる社会、と示されている。

国内では概して少子化対策・男女共同参画の文脈で

語られることの多いワーク・ライフ・バランスだが、出

生率向上・男女均等政策のみならず、労働時間政策、

非正規労働者政策など、全般的なワークスタイルの

ワーク・ライフ・バランスとワークスタイル革新の両実現に向かって

企業の継続的成長の源泉となるのは、従業員の「仕事と生活の調和」――。昨今、ワーク・ライフ・バランスやワークスタイル革新といったテーマに対して本腰を入れる企業が増えている。この大きなテーマに、企業のIT部門はどのようにかかわっていけばよいのか。本稿では、これらの概要を整理したのち、主要な取り組みの1つであるテレワークに焦点を当てて、導入状況や要素技術、メリットとデメリット、主要な課題について述べる。

三浦竜樹アイ・ティ・アール シニア・アナリスト

「テレワーク」導入までの道のりと主要課題

1Part

Page 33: Computerworld.JP Nov, 2008

November 2008 Computerworld

ワークスタイル[革新]テクノロジー

57

特集

かな生活のための時間の確保)●労働時間関連法令の遵守の徹底●労使による長時間労働の抑制等のための労働時間

等の設定改善のための業務見直しや要員確保の推進 (多様な働き方の選択)

●育児・介護休業、短時間勤務、短時間正社員制度、テレワーク、在宅就業など個人のおかれた状況に応じた柔軟な働き方を支える制度整備と利用しやすい職場風土づくりの推進

●女性や高齢者等への再就職・継続就業機会の提供

 なお、こうしたワーク・ライフ・バランス関連の動き

以前にも、経済産業省のIT戦略本部が2003年に策

定した「e-Japan戦略II」において、「2010年までに適

正な就業環境の下でのテレワーカーを就業者人口の2

割まで引き上げる」という目標が定められていた。

代表的な取り組みはテレワーク

 ワーク・ライフ・バランスを実現するにあたって多く

の企業では、同時にワークスタイルの変革/革新も

追求することになる。そこでは、従業員個々人の多様

な生き方を受容し尊重しつつ、業務に関してはこれま

でどおり支障なく遂行されるような働き方の基盤整備

が求められる。

 前述の行動指針は、具体的な実現手法にまで触れ

ていないが、その実現において重要となるのが、ICT

(Information & Communication Technology:情

報通信技術)に関連した製品やサービス、ソリューショ

ンである。

 そして、ワーク・ライフ・バランスとワークスタイル

革新の両テーマに共通する施策であり、今後重要性

がいっそう増してくるのがテレワークの推進だ。

 e-Japan戦略におけるテレワークとは、勤務するオ

フィスから離れた場所においてネットワークを利用す

る場合でも、オフィスに在席しているときと遜色なく

週8時間以上の業務を遂行できる状態を指している。

 テレワークには、ノートPC、携帯電話/スマートフォ

ンなどを社外に持ち出し、そこから自社のネットワー

クに接続して業務を行うモバイル・ワークや、所属す

るオフィス以外のサテライト・オフィスでの業務も含ま

れる。現状では、テレワークの導入による業務時間の

有効活用や通勤・移動時間の短縮により、趣味や社

会活動、育児などのプライベートの時間を増やし、仕

事と生活の調和を図っていくための、ワーク・ライフ・

バランスの主な手段とされている。

 58ページの図1に、ワーク・ライフ・バランス、ワー

クスタイル革新、テレワークの関係を示した。ワーク

スタイル革新というテーマには、例えば従業員の自宅

にシン・クライアント端末を置くといった形態のテレ

ワークの実現も含まれるが、基本的にはテレワークに

限定されたものではなく、従来型のオフィス・ワークを

変革する取り組みの全般を指すことになる。

 例を挙げると、オフィスにおいて従業員一人ひとり

に割り当てられた固定のデスクを撤廃し、オフィス内

の任意の位置で自身の電話およびPC環境を利用で

きるようにするフリーアドレス制の導入がある。これに

は、IP電話、モバイル・セントレックス、無線LANな

どのICTが深く関連してくる。また近年では、音声通

話、電子メール、インスタント・メッセージング(IM)に

加え、映像によるコミュニケーション(Web会議システ

ムなど)を統合することで、コミュニケーションおよび

コラボレーション(協働)の効率化を実現するユニファ

イド・コミュニケーションも検討対象となっている(58

ページの図2)。

テレワークの導入に対する企業の見解

 「2010年までに適正な就業環境の下でのテレワー

カーを就業者人口の2割まで引き上げる」という、テレ

ワークの目標の達成状況は今、どうなっているのか。

これを探るため、筆者の所属するアイ・ティ・アール

(ITR)では、2007年4月にComputerworld編集部と

合同で読者調査を行っている。

 その結果、コミュニケーション/コラボレーション・

ツールに代表されるICTの導入・活用により、将来的

Page 34: Computerworld.JP Nov, 2008

Computerworld November 200858

│Part 1

│「テレワーク」導入までの道のりと主要課題

に自社従業員の2割がテレワークを実践しているであ

ろうと回答した企業は26.3%であった(図3)。本調査

の結果を見るかぎり、大半の企業は、政府の目標ラ

インである2割には届きそうにないと見ている。

 これを業種別に見ると、IT関連製造・販売業と情

報処理・情報サービス業において、テレワーク実施率

が2割に達しているだろうと答えた企業の比率が30%

を超えた。両業種が非IT関連の業種よりもテレワー

クの実施を前向きにとらえているというのは事前に予

想された結果ではあるが、特に製造・建設業において

は、工場勤務など在宅勤務がほぼ不可能な従業員が

多いこともあり、16.3%にとどまった。

*資料 : ITR

サテライト・オフィス

自宅

支社

在宅勤務

メイン・オフィス

ユニファイド・コミュニケーション

テレワークメイン・オフィス以外での業務

フリーアドレス制オフィス内のどこでも自席と同じ仕事環境を実現

VPNVPN

VPNVPN

パートナー企業

顧客先

統合

電子メール/ IM/ IP電話Web会議/ボイス・メールモバイル・セントレックス

図2:ワークスタイル革新を支える主要なICTソリューション

*資料 : 社団法人日本テレワーク協会「在宅勤務の推進のための実証実験モデル事業報告書」(2006年)を基にITRが作成

1週間の労働時間配分例

オフィス勤務日と比べた在宅勤務日の平均行動時間の差(男女別、主要項目)

8

0 10 20 30 40

3 5 24

在宅勤務  モバイルワーク(移動中など)  サテライト・オフィス  所属するメイン・オフィス

男性  女性

時間

100

50

0

-50

-100

-150

通勤 勤務 個人的活動

-100 -101

-60

15

60

-10

5021 22

032 47

22 15

睡眠 食事 家事 育児

テレワーク:8時間以上で実施とみなされる

ワーク・ライフ・バランス

ワークスタイル変革/革新:オフィス内も含め働き方を変え、主にホワイトカラーの生産性向上を実現する

図1:ワーク・ライフ・バランス、ワークスタイル革新、テレワークの関係

Page 35: Computerworld.JP Nov, 2008

November 2008 Computerworld

ワークスタイル[革新]テクノロジー

59

特集

*資料 : ITR /月刊Computerworld「Computerworld TR No.40 企業のコミュニケーション/コラボレーションの新潮流」(2007年4月号)を基にITRが作成

0% 20% 40% 60% 80% 100%

「コミュニケーション/コラボレーション・ツールの導入により、自社従業員の2割が将来的にテレワークを実践できると考えているか?」

2割に達するであろう  2割に達しないであろう

全体

非製造業

製造・建設業

情報処理・情報サービス業

IT関連製造・販売業

IT関連

非IT関連

26.3% 73.7%

20.1% 79.9%

16.3% 83.7%

32.8% 67.2%

38.6% 61.4%

図3:自社における将来的なテレワーク実施に対する見方(全体/業種別)

Topics

 膨大なデータの中から、従業員がいつでも、どこでも必要な情報に迅速にアクセスでき、他の従業員と円滑にコミュニケーション/コラボレーションできるようにする基盤の構築は、ワークスタイル革新を進めるうえでの重要課題の1つである。 国内企業におけるコラボレーション・ツールやECM(企業コンテンツ管理)の活用フェーズを下表にまとめてみた。現在、多くの企業が表中のフェーズ2あるいは3の段階にあり、Web会議システムなどのコラボレーション・ツールが部門ごとに場当たり的に導入されている状況だ。また、ECMやEIP(企業情報ポータル)に関しても、全社規模での導入は進んでいないようだ。 ITRとComputerworld編集部による読者調査では、テレワー

クの導入に自信を見せている企業の間で、コラボレーションとコンテンツ管理を同時に実現できるWikiに注目が集まっていることが判明している。 Wikiの長所は、ECMほどの厳格なバージョン管理やアクセス管理を必要としないケースにおいて、コラボレーション作業時の文書のバージョン管理やアクセス制限を容易に実現できる点である。本文で述べたように、今後、統合的な情報ワークプレースの構築が一般化することにより、コラボレーション基盤とコンテンツ管理基盤は連携・統合に向かうことが予想されるなか、これまでWikiのような新しいツールに関心の薄かった企業も、検討を始めておいて損はないだろう。

企業におけるコラボレーション・ツールとECMの活用フェーズオフィス/在宅勤務の消費エネルギー量を測定し、テレワーク効果を数値化

*資料 : ITR

フェーズ1

フェーズ2

フェーズ3

フェーズ4

フェーズ5

従来型コラボレーション混沌としたコンテンツ管理

試験段階のコラボレーション散在したコンテンツ管理

コラボレーション拡散段階

コラボレーションの標準化

情報ワークプレースの標準化

●対面のコラボレーション●コミュニケーションは電話およびメール●ほとんどのドキュメントは共有ファイル・サーバ、メールのフォルダ内にあり、メールを介して共有

●ほとんどの部門でコラボレーション・ツールが活用されているが、相互運用性に欠け、ツール 間で機能が重複●簡易的なコンテンツ管理製品がさまざまな部門に拡散

●全社的なコラボレーション戦略の下、標準化されたコラボレーション・プラットフォームを活用●全社的にだれもが容易に利用できるECMを導入

●ドキュメント管理およびコラボレーションは、情報ワークプレースに収斂●情報ワークプレースのプラットフォームも標準化

●部門によっては、一部コラボレーション・ツールを特定のユーザー向けに導入●いくつかの部門でポータル、ドキュメント管理、イントラネットを場当たり的に導入し情報共有

多くの大企業が2008年の時点でフェーズ2~3に達すると予想

Page 36: Computerworld.JP Nov, 2008

Computerworld November 200860

│Part 1

│「テレワーク」導入までの道のりと主要課題

コミュニケーション/コラボレーション・ツールの導入状況

 このように、テレワークの自社導入について懸念を

持っている企業が多いという状況が見てとれるが、具

体的にはどのようなことが課題や障壁となっているの

だろうか。

 JILPT(独立行政法人労働政策研究・研修機構)

は2007年10月、民間企業を対象にテレワークの制度

や運用の課題などについて調査を行っている。その

結果によると、テレワーク実施における課題として最

も多く挙げられたのが「コミュニケーションに問題があ

る」であり、6割の回答率を得ていた。また、上述した

読者調査では、テレワーク実現において重要となるコ

ミュニケーション/コラボレーション・ツールの自社で

の導入状況についても尋ねているので、その結果か

らも考えてみることにする(図4)。

 同調査では、自社におけるコミュニケーション/コ

ラボレーションの手段の実態について尋ねた設問に対

し、72.0%が「コミュニケーションの手段は主に電話と

電子メール」を選択している。次に多かったのが「対面

によるコミュニケーション/コラボレーションが主流で

ある」で、44.8%の回答率だった。対面という基本的

手段を完全に代替するICTツールは存在しないが、

Web会議システムやIMなどのリアルタイム・コミュニ

ケーション・ツール、そして、イントラ・ブログ/社内

SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)や

WikiといったWeb 2.0系のコミュニケーション/コラ

ボレーション・ツールの活用で、テレワーク利用時の

コミュニケーションを補完することが可能になる。た

だし、グループウェア(同調査での導入率91.6%)の

先にあるWeb 2.0系のコミュニケーション/コラボレー

ション・ツールの導入率は現在のところわずかで(イン

トラ・ブログ/社内SNSで13.5%、Wikiで10.0%)、

これらに関心を持たない企業が依然として多い。

導入状況/導入意欲に影響を与えるテレワークのメリットとデメリット

 この10年で、有線およびワイヤレス・ブロードバンド

環境は著しい進展を見せ、新時代のコミュニケーショ

ン/コラボレーション・ツールも多く登場している。そ

れにもかかわらず、現状、テレワークの普及があまり

*資料 : ITR /月刊Computerworld「Computerworld TR No.40 企業のコミュニケーション/コラボレーションの新潮流」(2007年4月号)を基にITRが作成

コミュニケーションの手段は主に電話と電子メールである

対面によるコミュニケーション/コラボレーションが主流である

コラボレーション・ツールは未導入で、ほとんどの文書ファイルは共有ファイル・サーバやメール添付で共有されている

いくつかの部門でコラボレーション・ツールが導入されている

いくつかの部門でEIP、CMS/DMSなどが導入されている。ただし、部門間の相互接続性はなく、導入した製品もまちまちである

特定のEIP、CMS/DMSなどが全社的に導入されている

ほとんどの部門でコラボレーション・ツールが導入されている。ただし、部門間の相互接続性はなく、導入した製品もまちまちである

特定のコラボレーション・ツールが全社的に導入されている

その他

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

72.03%

44.76%

29.84%

13.99%

6.06%

8.39%

4.43%

14.92%

2.56%

図4:自社におけるコミュニケーション/コラボレーション・ツールの導入/活用状況(複数回答)

Page 37: Computerworld.JP Nov, 2008

November 2008 Computerworld

ワークスタイル[革新]テクノロジー

61

特集

進んでいないのはなぜか。当然予想される理由として、

大半の企業にとって導入によるメリットよりもデメリッ

トのほうが上回ると判断されてきたことがある(図5)。

 業務時間の有効活用は、テレワークの特徴が直接

的に生かされた導入メリットとして以前より多くの企

業に理解されてきたが、近年、重要度がより増してい

るのは、意思決定の迅速化や顧客価値・満足度向上

である。例えば、自社商品において不良発生率が上

がったとき、その原因特定の情報源となるクレーム情

報の共有・分析や、そのクレームに対する迅速な対応

が求められており、テレワークの活用が貢献する。

 さらに、テレワーク促進の最大の目的となっている

有能な人材の確保のためには、ワーク・ライフ・バラ

ンス、すなわち、出産や育児、オフィスから遠く離れ

た住宅など、個人の事情や希望などに柔軟に対応で

きるかが非常に重要な要素となるはずだ。

 一方、導入を阻むデメリット/障壁としては、オフィ

スで顔をつきあわせて業務にあたる時間が減ること

で、社員間のコミュニケーションが希薄化されること

を懸念する声がよく聞かれる。加えて、出社/帰社

時のタイムカード打刻のような従来型の労働時間管理

が難しくなることから、従業員管理の困難や、働く場

所ごとに適した業務タスクの振り分けや自己責任の

増大などが指摘され、そうした中での従業員の意識

改革、またそれに伴う評価制度や給与体系の改正な

ど、IT部門だけでは解決に向かえない課題がかなり

ある(技術面以外の課題については後述する)。

 また、特に国内では、情報セキュリティに対する懸

念がテレワークの導入意欲に大きく影響したようだ。

ここ数年、情報漏洩対策の強化によって、会社のノー

トPCの持ち出し禁止や私物のノートPCの利用禁止、

さらには、デジタルカメラ内蔵の携帯電話さえ持ち込

みを禁じるような企業が増加した。そうした企業は、

テレワークにおけるセキュリティ対策までには頭が回

らないというのが実情だろう。この課題を、次節でも

う少し掘り下げてみたい。

テレワークのセキュリティを確保する技術/製品

 テレワーク導入に際して求められるセキュリティ対

策には、従来からの社内ネットワークの保護やセキュ

アな通信のための認証/暗号化技術の採用に加えて、

クライアント環境での対策強化が重要となる。

 昨今では、内部からの不正アクセスを防ぐために、

システムごとに妥当なユーザーのみにアクセスを許可

する認証・管理が以前にも増して重要となっている。

社内システムへのアクセスを社外、自宅にまで広げる

*資料 : ITR

意思決定の迅速化

メリット/目的

顧客価値・満足度向上

業務時間の有効活用固定費の削減有能な人材の確保環境保全

事業継続性(BC)/災害対策(DR)

デメリット/障壁

コミュニケーションの希薄化

従業員管理が困難従業員の意識改革が困難仕事と私生活の境界セキュリティ導入・運用コスト

図5:テレワーク導入のメリットとデメリット

Page 38: Computerworld.JP Nov, 2008

Computerworld November 200862

│Part 1

│「テレワーク」導入までの道のりと主要課題

*資料 : ITR

デスクトップ環境

利用場所 利用者 利用端末携帯対応

RSSリーダEIP必要な情報を集約し、把握しやすくする場

エンタープライズ・サーチインテリジェント・コンテンツ・サービス

情報リポジトリ/メタデータ

BPM

オフィス・ソフトSNS

RSSリーダ

イントラネット エクストラネット

ブログ Wiki

メール スケジュール共有

IM Web会議

VoIP会議 動画配信

ワークフロー情報のライフサイクルをスムーズに運用する

コミュニケーションの場 文書作成する場コミュニケーション・ツール

情報公開・閲覧コンテンツ管理機能

ファイルシステム

共有ファイリング

マルチモーダル

タスクベースの情報・機能提供

ユーザー管理

ロール管理

役割・状況によるアクセス制御

シームレスな情報・機能の提供

役割・状況による情報・機能提供

アクセス管理

図6:統合的な情報ワークプレース

テレワークでは、当然、不正アクセスに対し、より厳

重な対策が必要になるので、その手段として、ICカー

ドの社員証や電子証明書を記録したUSBメモリ、指

紋認証などの導入が検討されるべきである。これらの

本人認証技術は、PCの盗難や紛失時に、第三者が

端末を起動しようとした際のPCへのアクセス制御の

ためにも利用される。

 テレワークの普及にかかわらず、ここ数年で、盗難・

紛失発生時の対策として、HDD全体およびファイル

の暗号化ツールが急速に普及した。また、従業員に

せよ外部の人間にせよ、情報の不正な持ち出しをさ

せないために、CD-RやUSBメモリなどのリムーバブ

ル・メディアへの記録やプリンタへの出力を禁止する

ようなデスクトップ・セキュリティ・ツールもニーズが

増している。そして、すでにほとんどの企業で実施さ

れているウイルス/ワーム対策や不適切なソフトウェ

アのインストール禁止などの基本的な対策も含め、テ

レワークを活用し、ワークスタイル革新を進めていく

うえでは、さらなる情報/データ保護の仕組みの強化

が求められているが、それを実現する技術や製品自

体はすでにそろってきている。加えて、テレワークの

手法自体も、シン・クライアントやデスクトップ仮想化

技術の成熟により、安全性の高いリモート・クライア

ント環境を実現し、それらを効率的に集中管理可能

な製品/サービスが多く登場している。

グループウェアは統合的な情報ワークプレースへ

 前述の読者調査では、グループウェアの導入率が

91.6%に達していた。この結果から、グループウェア

が今や企業にとって不可欠なコミュニケーション/コ

ラボレーション・プラットフォームとなっていることが

うかがえる。ただし、スケジュールの共有管理やメッ

セージング、ワークフローといったグループウェアに

備わる旧来の機能群だけでは、ワークスタイル革新に

つながるようなコミュニケーション/コラボレーション

の実現は難しい。

 そのため、主要ベンダーは、グループウェアを中核

に、先に述べたようなリアルタイムおよびWeb 2.0系

のツールを製品の機能として付加することで、ナレッ

ジ・ワーカーに向けた統合的な情報ワークプレースを

Page 39: Computerworld.JP Nov, 2008

November 2008 Computerworld

ワークスタイル[革新]テクノロジー

63

特集

提供しようとしている(図6)。

 情報ワークプレースを構成するツール群は、XML

をベースとした標準技術の採用などにより、ツール/

機能間のシームレスな連携が進んでおり、将来的にナ

レッジ・ワーカーの情報活用は飛躍的に高度化・効率

化していくことが予想される。

 いくつか例を挙げて説明しよう。まず、企業内で

扱う情報/データの量が増大し、必要な情報とナレッ

ジの発見が困難になっているという状況を改善するに

は、企業内に散在する多様なコンテンツをシームレス

に抽出し再利用できるようにすることが重要となる。

その際には、エンタープライズ検索やKnow-Whoリ

ボジトリなどの活用が有効となる。また、これらのツー

ルは、全社的なアイデンティティ管理やワークフロー、

BPM(ビジネス・プロセス管理)と連携することにより、

各従業員の役割やタスクとビジネス・プロセスとの関

係性に応じて、適切な情報へのアクセスおよびその

制御の機能が提供されるようになる。

 さらに、こうした情報や機能は、従業員のプレゼン

ス(在席/不在やオンライン/オフラインなど)状況や

その時点で利用可能なデバイス(ノートPC、携帯電

話/スマートフォンなど)およびネットワーク(有線

LAN、無線LAN、携帯電話ネットワークなど)により、

常に最適な形式・規格で提供されるようになる。この

状態をマルチモーダルと呼んでいる。

 ワークスタイル革新を支える新時代のコミュニケー

ション/コラボレーション・ツールを検討するIT部門

は、主要ベンダーが描く上記のような戦略を踏まえて、

ツールの単体導入ではなく、関連するソリューション

も視野に入れたうえで計画を練る必要があろう。

技術面以外の課題

 最後に、テレワークの導入を自社で推進していくの

にあたって、IT部門が他の部門や経営層と協力して

取り組むべき、技術面以外の課題について確認し、

本稿の締めくくりとしたい(図7)。

 テレワークの場合、まずは、自社での目的、目的達

成のために必要な作業や変革、導入範囲などを労使

委員会などの場で協議する必要がある。就業規則、

業績評価制度、賃金制度などにかかわってくるので

それらの見直しも必要となるからだ。状況によって、

みなし労働時間制度、社外で発生した事故に対する

保険給付制度、定期健康診断、安全衛生教育などに

ついて、従来のオフィス勤務と異なる制度・方針が発

生し、その際には就業規則に規定しなければならな

いことが労働基準法で定められている。

*資料 : ITR

企業における制度改革

目的・対象範囲の明確化

業績評価の確立

教育・研修の拡充

支援体制の確立

労働基準法 労働安全衛生法 労働者災害補償保険法

意識の改革

労働関係の法令の順守

プロ意識の育成

業務の整理・最適化

モチベーションの向上

ツール活用の熟練

認識の共通化円滑な遂行

図7:テレワーク導入に向けた技術面以外の課題

Page 40: Computerworld.JP Nov, 2008

Computerworld November 200864

│Part 1

│「テレワーク」導入までの道のりと主要課題

Case Study

テレワークの実績豊富なSunがどうしても見いだせなかった答えとは Sunはこれまでの経験から、どのような仕事がテレワークに適しているか、どのような技術がテレワークに効果的か、自宅で働く従業員やそのマネジャーの研修をどのように行うかなど、実践的ノウハウを豊富に蓄積してきた。 しかし、同社が答えを見いだせなかった問題が1つある。それは、

「テレワークは本当に省エネルギーにつながるのか。あるいはテレワークでは、エネルギーを消費し、そのコストを負担する主体が、企業から従業員に変わるだけなのか」というものだ。 「当社は二酸化炭素(CO2)の排出削減に貢献する省電力サーバを販売しているが、従業員の働き方に関しても同じことを言える自信はなかった。われわれは、本当に従業員のCO2排出量を減

らし、エネルギー・コストを削減しているのか。あるいは、家で働く従業員にコストを転嫁しているだけなのか。われわれはこの問題に答えを出そうとしてきた」と、SunのOpen Workサービス・グループのシニア・ディレクター、クリスティ・マギー(Kristi McGee)氏は語る。

比較調査でテレワーク効果を数値化 この問題に答えを出すべくSunは、従業員がオフィスと自宅それぞれで業務を行う際、および通勤の際に消費するエネルギー量の測定調査を行った。調査参加者には、コンセントにつなぐだけで機器の電力消費量を測定できる米国P3 Internationalの「Kill A Watt」メーター(写真A)が支給された。 この調査の結果、従業員がSunのオフィスの事務関連機器で消費する電力は、自宅の事務関連機器で消費する電力の2倍に達することがわかった。調査参加者の自宅での消費電力は、1時間当たり約64ワットだったの対し、Sunのオフィスでは130ワットに上った。 また、この調査では、各従業員の仕事に関連するCO2排出量のうち、98%強が通勤によるものであり、事務関連機器の電力利用に伴うCO2排出量の割合は、1.7%弱にすぎないことも判明した。 Sunでは、1人の従業員が通勤日数を週当たり2.5日減らすことで、年間5,400キロワット時相当のエネルギー消費が削減されると推計している。「われわれの調査では、オフィスで働くときのエネルギー消費が、家で働くときの約2倍に上ることがわかっただけでなく、仕事に関連するエネルギー消費では、通勤時のエネ

写真A:米国P3 Internationalの電力消費量測定機「Kill A Watt」

 整備された労働上の各制度の下で、従業員には、

勤務時間帯や健康維持にみずから注意を払いつつ、

作業能率を高めていけるような、自律的な業務遂行

意識が求められることになる。テレワークの推進責任

者は、従業員にそうした意識の変革を促しながら、e

ラーニング・コンテンツやWeb会議システムなどを活

用した教育・研修のような支援体制を充実させていく

必要がある。

 社会・経済の環境変化は、今後、確実に人々の働

き方に変革をもたらすことになる。1920年代、国内の

就業人口の7割以上が「ものづくり」に従事していたが、

現在では4割未満である。すなわち、これからはもの

づくりの生産性を高める努力以上に、知識の循環の

効率化が重要になってくる。その際、どこにいても必

要な時に必要な業務を遂行できるようなワークスタイ

ルへの変革が求められるのだが、その実現には技術

米国Sun Microsystemsは、かねてからワールドワイドでテレワークを推進していることで知られる。この10年、「Open Work」プログラムと「Sun Ray」シン・クライアントによってテレワーカーを増やし、今では1万9,000人近くの従業員(同社ワールドワイド全従業員の56%)が、自宅や外出先などのリモート環境で働いているという。今回は、そんなSunの在宅/リモート・ワーク“大規模・先進ユーザー”事例を紹介しよう。

Ann BednarzNetwork World米国版

サンは在宅/リモート・ワークの“大規模・先進ユーザー”オフィス/在宅勤務の消費エネルギー量を測定し、テレワーク効果を数値化

Page 41: Computerworld.JP Nov, 2008

November 2008 Computerworld

ワークスタイル[革新]テクノロジー

65

特集

ルギー消費の比重がきわめて大きいことも明らかになった」(マギー氏) また、通勤を減らすことは、環境対策に役立つだけではない。自宅で週当たり2.5日勤務すれば、従業員は年間平均1,700ドル強に相当するガソリン代と車の損傷の修理代を減らせる計算になるという。 これらの調査結果は、Open Workプログラムへの従業員の関心を高めるのに一役買っている、とマギー氏は語る。このプログラムはかねてから従業員の間で好評だったが、最近はその主だった理由が変わってきているという。 「このプログラムは以前から、従業員の大きな支持を得てきた。フレキシブルに働くことができ、ワーク・ライフ・バランスという点でメリットがあるためだ。だが今では、ガソリン代を節約できることが、プログラムが支持される理由として目立ってきた」(マギー氏)

Sunは「Sun Ray」シン・クライアントの最大顧客? Sunは、Open Workプログラムでリモート・ワーカーが円滑に仕事を行えるように、いくつかの技術を活用している。例えば、このプログラムを支える技術の1つとして、Sunのシン・クライアント「Sun Ray」シリーズがある(写真B)。Sun Rayはワールドワイドの同社オフィスのほとんどに導入されている。 従業員はオンサイトで仕事をする場合、ホテルの部屋を予約するような要領で、どこのオフィスでも予約できる。このオフィス予約は中央予約システムで管理されている。予約したオフィスにあるSun Rayマシンにログオンすれば、必要なアプリケーションやファイルにアクセスできる、とマギー氏は説明する。 また、主に出先で仕事をするモバイル・ワーカーには、「われわれが『Open Workスタック』と呼んでいる装備が施されたノートPCが支給されている」とマギー氏。「このノートPCでは、電子メール、カレンダー、ブラウザ、VPN、ファイル同期機能などが利用できる。これらはすべて、バックエンドでSun Rayサーバによって集中管理されている」 マギー氏によると、Sunはシン・クライアント技術を利用するこ

とで、年間約2,400万ドルのコストを節約している。シン・クライアントは管理がしやすいうえ、従来のPCよりも電力効率が高いからだ。 だが、テレワークの活用効果の中でも、Sunにとっては不動産コストの削減が特に重要となっている。同社では、リモート・ワーカーが増加したおかげで、オフィス・スペースの縮小と公共料金の削減により、過去6年で3億8,700万ドルの費用を削減することに成功している。マギー氏はこう説明する。「われわれが必要とする不動産の面積は以前より小さい。従業員が家やSunの複数のオフィスで働く場合に、席が空いたままにならないようにオフィスの割り当てを行っているからだ」 マギー氏は、テレワーカーを増やすことを考えている企業のための注意点として、研修の重要性を強調している。「マネジャーは大きな変化に直面することになる。毎日顔を合わせる部下を管理するのと、テレワーカーの部下を管理するのは全然違う。テレワーカーの管理には、異なるスキル・セットが必要だ。企業は、マネジャーが必要なスキルを身につけ、適切な管理を行えるようにしなければならない」(マギー氏)

写真B:通常の消費電力はわずか7.86Wという、Sun Rayシリーズの最新機種「Sun Ray 2FS Virtual Display Client」

率的な共有のための統合的な情報ワークプレースの

構築が有効な解となるだろう。

 社会・経済の動向とワークスタイル革新に貢献する

テクノロジーの動向、その安全な利用の前提となるセ

キュリティの動向を踏まえたうえで、ワーク・ライフ・

バランス/ワークスタイル革新の計画を段階的に進め

ていく――これまで述べてきた内容が読者の企業の

ワークスタイル革新に役立てば幸いである。

的、組織的、人的な課題が多く残っている。

 本稿で述べたとおり、これまでテレワーク普及の大

きな障壁となってきたセキュリティに関する懸念は、

技術・製品の成熟に伴い解決されつつあり、導入機

運は確実に高まっていくだろう。一方、テレワークで

遂行される業務の、メールやグループウェアの利用

以外への適用範囲拡大が導入メリットの最大化に向

けて望まれる。その方向性では、情報・ナレッジの効

Page 42: Computerworld.JP Nov, 2008

Computerworld November 200866

│Part 2│ワークスタイル革新に秘策あり││日本企業の事例に学ぶ

ジタ製薬はさらなるコスト削減と生産性向上による売

上高と収益の底上げを迫られていたが、そうした必要

性を“テコ”に、同社はこれまで継続的にワークスタイ

ル革新に取り組んできた(70ページのコラム参照)。

 例えば、遠方のエリアを担当する営業担当社員がど

こにいてもグループウェアにアクセスして報告や連絡

が行える仕組みは、すでに1998年から運用を開始し

ていた。IP電話の導入、それと並行して実施されたオ

フィスのフリーアドレス化は、営業担当社員のワークス

タイル革新から、内勤者を対象としたワークスタイル

革新へとさらに歩を進めた取り組みと言えるだろう。

 フジタ製薬が電話システムをIP電話に切り換えよう

と決めたのは、東京・八王子にある同社工場を改築し

た2006年のことである。そして、完成した新工場棟の

3階は営業部門をはじめ、購買、生産管理、研究など、

ビジネス部門向けのフロアとして利用されることとなり、

部門を越えた社員間のコミュニケーションを図る

 「IP電話導入の目的は、社員のワークスタイルを変

えて生産性向上を図ること。同時に顧客への対応力を

向上させることだった」と語るのは、2006年7月に全社

の電話システムをPBXべースからIP電話に切り換え

たフジタ製薬で総務部部長を務める松山明氏だ。IP

電話を導入する企業の多くがコスト削減を目的に掲げ

るなか、同社はIP電話の導入をワークスタイル革新の

道具と位置づけた。それによって社員の生産性向上を

図ろうと考えたのだ。

 フジタ製薬は、動物用医薬品の製造・販売を手がけ

る中堅クラスの企業である。動物用医薬品業界では家

畜の数や卸売業者の減少が進んでおり、今後も一層

競争が激化すると予想されている。そうしたなか、フ

フリーアドレス、IP電話、動画共有の活用でいかに社員の生産性を高めたか

企業の競争力につながる創造性や、組織としての活動の質的向上といった真の意味での生産性向上を実現することは、ワークスタイル革新に取り組む企業の共通の課題と言えるだろう。本パートでは、ITを駆使して、そうした生産性向上の実現に挑んだ日本企業2社の事例を取り上げながら、あるべきITの活用法やコラボレーション環境の構築のしかたなどを探ってみたい。

小林秀雄

ワークスタイル革新に秘策あり──日本企業の事例に学ぶ

2Part

Case File 1

フリーアドレス制とIP電話の導入で生産性向上を実現

フジタ製薬

Page 43: Computerworld.JP Nov, 2008

November 2008 Computerworld

ワークスタイル[革新]テクノロジー

67

特集

同フロアの全部門にフリーアドレスが導入された。その

ねらいは、部門間の“壁”をなくし、あらゆる部門の社

員が随時コミュニケーションできる環境を構築すること

にあった。従来のオフィスでは、同じ営業部門でも東

日本担当と西日本担当とで別々の部屋に分かれてお

り、また他の部門も同じく部門ごとに部屋が割り当て

られていた。そうした“壁”を取り払い、職場での自由

闊達なコミュニケーションを促進することが、フリーア

ドレス導入の第一の目的とされた。

 フリーアドレスを実現するうえで核となったテクノロ

ジーがIP電話だ。同社はこれまでオフィス用電話シス

テムとしてPBX(企業向け電話交換機)を利用してきた

が、電話機が社員の席に固定されることを前提とする

PBXを採用しては、社員が座る席を固定しないフリー

アドレス環境の実現は不可能だ。そこで、フリーアド

レス環境でも自分宛ての電話を問題なく受けられるよ

うに設定できる電話システムとして同社が選択したの

がIP電話だった。

 フジタ製薬がIP-PBXではなくIP電話を選んだのは、

ワークスタイル革新に秘策あり──日本企業の事例に学ぶ

社員がオフィスに在席しているか、会議中か、あるい

は休暇中かといった社員の状態をPC上で確認できる

「プレゼンス機能」を必要としていたからにほかならな

い。理由はこうだ。

 同社は工場改築を機に、すべての受付業務を東京・

目黒の本社に移管し、外部からの電話受付をはじめ、

来訪受付も本社に一本化することを計画していた。他

の社員による電話取り次ぎをやめることでむだを省き、

生産性向上を図るのがねらいだったが、そのためには、

本社にいても工場のオフィスにいる社員が在席中か、

通話中かといった状態がリアルタイムにわかる仕組み

を構築する必要がある。このプレゼンス機能を組み込

める拡張性の点で、IP-PBXよりもIP電話のほうがす

ぐれていると判断したのだ。

システムの冗長化と音声品質の確保に注力

 IP電話を導入するにあたってフジタ製薬は、パート

写真1:フジタ製薬の総務部部長、松山明氏(左)と総務部情報システム課マネジャーの佐々木健治氏。同社は新社屋建設を機に内線電話をフルIP化し、フリーアドレス制を採用した

フジタ製薬株式会社

【所在地】東京都品川区上大崎2-13-2(本社)東京都八王子市椚田町1211-1(東京工場)

【設立】1930年1月

【代表者】藤田昌弘(代表取締役社長)

【事業内容】・動物用医薬品、動物用医薬部外品、飼料、 飼料添加物の製造・輸入販売・動物用医療機器の輸入販売・理化学機械、酪農機械用具の販売

【URL】http://www.fujita-pharm.co.jp/

COMPANY PROFILE

Page 44: Computerworld.JP Nov, 2008

Computerworld November 200868

│Part 2│ワークスタイル革新に秘策あり││日本企業の事例に学ぶ

ナーとしてシスコシステムズに白羽の矢を立てた。松

山氏によると、同氏らが2005年7月に、シスコシステム

ズが自社オフィスに導入していたIP電話の活用状況を

見学した際、IP電話によってもたらされるさまざまな

効果を目の当たりにしたことが、パートナー選定の大き

な決め手になったという。

 また、シスコのIP電話がログオン機能を備えていた

ことも、パートナー選定の決め手の1つになったという。

普段は八王子の工場に勤務している社員が、目黒の

本社に出かけた場合も、本社に設置されている電話機

にログオンすると、その電話機がすぐに自分専用の内

線電話機として使用できる状態になる。逆に本社から

八王子の工場に出かけたときも同様であり、どちらの

オフィスにいても、自分宛ての電話が受けられるログ

オン機能は、同社がこれまでの取り組みで追求してき

た「どこでもオフィス」というコンセプトに合致した。

 フジタ製薬では、ネット受注やファクス受注のほか、

顧客から数多くの電話問い合わせを受けている。また、

電話はビジネス・コミュニケーションの基本ツールでも

ある。そのため、IP電話に移行するにあたっては、電

話システムのダウンは絶対に避けなければならない要

件とされた。その要件を満たすために同社は、通信品

質の確認に時間をかけ、ネットワーク機器に障害が発

生しても電話システム自体に影響を及ぼさぬよう、ネッ

トワークの冗長化を徹底した。

 フジタ製薬がIP電話を本格稼働させたのは2006年

7月のことだが、稼働開始前のテストには1カ月間を充

てたという。1カ月ものテスト期間を設けたことに、同

社の電話システムの品質確認に対する並々ならぬ配慮

がうかがえる。

 ここで、同社が現在運用しているIP電話のネットワー

ク構成について触れておこう。

 使用している回線は、工場がNTT東日本のデジタ

ル回線「INS1500」、本社が同じく「INSネット64」が2

回線という構成で、工場と本社間を「Bフレッツ ハイ

パーファミリータイプ」×2および「フレッツ・グループア

クセス」で結び、2拠点間の通話を内線電話化している。

IP電話の拠点と位置づけられているのは八王子の工

場だ。「ここから外部にアクセスするネットワーク機器は、

コールド・スタンバイ機器も含めて冗長化している」と

フジタ製薬の総務部で情報システム課マネジャーを務

める佐々木健治氏は説明する。

 例えば、工場のマシン・ルームには、IP電話サーバ

とコールド・スタンバイ機器を含めて2台設置され、運

用中のサーバがダウンしてもすぐに復旧できる仕組み

が整っている。さらに、八王子のオフィス・フロアには

スイッチが3台設置されており、高い冗長性を実現し

ている。佐々木氏は、「サーバやネットワーク機器にト

ラブルが発生した場合の事態をシミュレーションにより

検証・調査した結果、IP電話サーバは2重化、ルーター、

スイッチ類はコールド・スタンバイで2重化することに

決めた」と語る。なお、こうしたIP電話ネットワークの

冗長性の向上に加えて、同社では万が一のために、

通常の電話回線も確保している。

 フジタ製薬が導入した「IP電話機」は2種類ある。1

つは、通常のオフィス用電話機と見た目がほぼ変わら

ないタイプ。これは電話による注文受付を担当するス

タッフや幹部クラスの社員が利用する。もう1つは、ソ

フトフォン用ハンドセットをPCに接続し、モニタに表

示されるソフトフォンの画面を見ながら会話を行うタイ

プだ。同社の社員数は80人強だが、ほとんどの社員

はソフトフォンを利用している。

オフィスを3つのエリアに分けコミュニケーション強化を促進

 工場と同じ建物の3階にあるオフィス・フロアがフリー

アドレスが導入された“現場”だ。このフロアは仕切り

は一切なく、どこにいてもフロア全体が見通せるオー

プンなスペースとなっているが、そこでは「シェアード」

「コラボレーション」「クワイエット」という3つのエリアが

設定されている。

 シェアード・エリアは通常のオフィスに相当するもの

で、ここにフリーアドレスが導入されている。社員用の

机にはLANポートが2つずつ用意されており(通常は

有線LANだが無線LANも利用可能)、社員はLANポー

トにPCを接続して作業をしたり、ソフトフォンを利用

して通話したりすることが可能となっている。

Page 45: Computerworld.JP Nov, 2008

November 2008 Computerworld

ワークスタイル[革新]テクノロジー

69

特集

 コラボレーション・エリアは、社員どうしのフェース・

ツー・フェースによるコミュニケーションを図るスペース

として、社員が集まりやすいようにフロアの中心部に

設置されている。随時人が集まる同エリアは、フラット

なテーブルと椅子を用意しただけという簡素な環境な

がら、どこにいても無線LANにアクセスできるためノー

トPCなども問題なく使用することができる。

 クワイエット・エリアは、文字どおりに静かな環境で

集中して仕事をするための空間だ。ちなみに、フジタ

製薬では、許可された社員以外は会社のPCからイン

ターネットに接続できないように制限しているが、この

クワイエット・エリアに設置されたデスクトップPCは例

外となっており、必要があればインターネットにアクセ

スできるようになっている。このように、普通に仕事を

する場、顔を突き合わせてコミュニケーションする場、

静かに集中できる場を1つのフロアに設け、シチュエー

ションに応じて環境をチョイスできるようにしている。

松山氏によると、シェアード・エリアとクワイエット・エ

リアは社員の生産性向上に、コラボレーション・エリア

は部門の壁を超えた社員どうしのコミュニケーション

強化につながっているという。

相手の“顔”が見えることで得られる効果

 フジタ製薬が、フリーアドレスの導入にあたって設け

た運用ルールも興味深い。例えば、一般社員は毎日同

じ席に座ってはならないことになっており、部長も月に

1回席を替わることというルールが設けられている。「と

にかく社員の席を固定させないようにしている。いつも

決まった人が集まっていては、フリーアドレスの意味が

なくなってしまう」と松山氏は説明する。同氏によると、

社員どうしのコミュニケーションを図るうえで、毎日そ

ばにいる社員が異なることは非常に重要だという。

 他部門の雰囲気を身近に感じられることもフリーア

ドレスによって得られる大きな効果の1つだ。仕切りの

ないフロアで仕事をしていれば、他部門に依頼するに

も適切なタイミングで声をかけることができる。情報共

有や意思決定と言うと大げさかもしれないが、わざわ

ざ正式にメンバーを集めなくても、カジュアルなちょっ

としたミーティングを行うだけでスムーズに仕事が進め

られることもあるだろう。「社員の動きや表情を自然にう

かがえるのもフリーアドレスのメリットの1つだ。それら

が業務上すばやいアクションにつながるケースもある」

(松山氏)

 加えて同社では、社員どうしの表情を確認できるコ

ミュニケーション・システムとしてビデオ・テレフォニー

を導入している。これにより、内線通話時には、PCに

写真2:(上から)通常の業務が行われる「シェアード・エリア」、予約なしに気軽に打ち合わせができる「コラボレーション・エリア」、静かに集中して仕事ができる「クワイエット・エリア」

Page 46: Computerworld.JP Nov, 2008

Computerworld November 200870

│Part 2│ワークスタイル革新に秘策あり││日本企業の事例に学ぶ

取り付けられた小型カメラによって映し出される通話

相手の“顔”を互いに確認しながら通話できる仕組みが

提供されている。松山氏は、ビデオ・テレフォニーに

ついて、「通話相手の顔が見えるようになってから、お

互いに笑顔から会話が始まり、表情から細かなニュア

ンスも伝わるので、会話がよりスムーズに進むように

なった」と評価している。

IP電話導入でもたらされる“メリット”と“デメリット”

 フジタ製薬がIP電話化を通じて得た効果は、下記

の3つに集約することができる。

①ワークスタイル革新のさらなる強化②フェース・ツー・フェースのコミュニケーションの拡充③顧客対応力の向上

 ①は、同社が従来から追求してきた「どこでもオフィ

ス」構想の範囲をさらに広げたことを指している。同社

はこれまでもVPN(Virtual Private Network)を構築

し、リモートの端末から社内の情報システムにアクセス

して申請/承認を行える仕組みを整え、ワークスタイ

ル革新を推進してきたが、オフィスのワークスタイル革

新は未着手のままだった。だが、IP電話への移行と

電話受付の一本化を実現したことで、これまでオフィ

ス・ワーカーの生産性を阻害していた電話の取り次ぎ

作業を廃し、従来のワークスタイルを一変させること

に成功した。

 ②は、社員間の豊かなコミュニケーションの実現と

も言い換えられるだろう。フジタ製薬では、各部門に

割り当てられてた部屋から、オープンなスペースで働

く環境にしたことで、一般の社員だけでなく、部長ら

もタイムリーに顔を突き合わせてコミュニケーションを

取れるようになったという。また、コラボレーション・

エリアが設置されたことで、これまで以上に気軽にミー

ティングが行えるようになったことも業務に大きく寄与

している。

 ③も大きな効果だ。前述したように、同社では工場

にかかってくる電話も含めて外線の受付を本社で一括

して対応する仕組みとした。そこにプレゼンス機能を

組み合わせたことで、社員のステータスに応じた対応

が行えるようになったわけだが、それによって顧客対

応のレベルの均質化も図られた。

 このように、フジタ製薬はフリーアドレスとIP電話を

Column

 フジタ製薬が情報システムの活用を本格的にスタートさせたのは1977年のことだ。IBMのオフコンを用いて基幹システムを構築したことにさかのぼる。その後も基幹システムの進化は続けられているが、特筆すべきは、ITを駆使したワークスタイル革新に取り組むその先進性である。 同社は、1996年からIBMの「LotusNotes」の運用を開始しており、日本では比較的早い時期にグループウェアを導入した企業だと言える。翌97年からは、Notes上に200~300のワークフローを作り込み、Notesを社内の業務基盤としている。例えば、残業の申請や弁当の注文、商品の値引きの了承を得るための上司への連絡など、日々の連絡・伝達・申請・承認はすべてNotes上で行っており、営業担当社員をはじめ、ほとんどの社員が毎日の行動計画と行動結果を日報としてNotesに書き込んでいる。

上司はNotesを見れば部下のスケジュールと実際の行動が一目でわかるという仕組みだ。 また、モバイル技術の導入にもいち早く取り組んでいる。1998年にセキュアIPサービスによるモバイル接続を開始したのを皮切りに、2004年にはシスコの「VPNClient」を導入し、インターネット環境さえあれば、出張先のホテルや自宅から会社のNotesにアクセスできる環境を提供している。同社は「どこでもオフィス」の実現に向けた取り組みを展開しているが、社内外どこにいても申請や承認などが行える仕組みは、まさにワークスタイル革新につながるものと言える。事実、そうした仕組みは、同社社員の生産性向上に貢献しており、本稿で紹介している電話システムのIP化も、社員の生産性向上を目的としたワークスタイル革新をさらに加速・強化するための取り組みだと位置づけられる。

ワークスタイル革新を後押しするフジタ製薬のIT戦略

Page 47: Computerworld.JP Nov, 2008

November 2008 Computerworld

ワークスタイル[革新]テクノロジー

71

特集

セットで導入することで、社員のワークスタイルを変革

し、業務生産性を向上することに成功している。しか

しながら、その技術基盤となるIP電話の導入は、IT

部門に新しい負荷をもたらすため注意が必要だ。とい

うのも、従来、PBXの保守は通信設備会社が担って

いたが、IP電話はサーバで運用するため、サーバOS

のサポート期限や機器の障害対策といった責任をIT

部門が持つことになる。佐々木氏もIP電話を導入した

ことで、「通信機器の保守の考え方が変わった」と語っ

ている。このように、IP電話を導入する際には、IT部

門は、徹底した冗長化による通信品質や信頼性の確

保といった電話としての機能要件に配慮することに加

えて、運用フェーズでIT部門自身に新たな業務が加

わる可能性が高いことを視野に入れておくべきだろう。

Case File 2

店舗スタッフのスキル向上に動画を活用

ザ・ボディショップ(イオンフォレスト)

DVDに代わる手軽な動画共有システムを求めて

 YouTubeやニコニコ動画などの動画共有サイトが

インターネットの世界で人気を集めている。自分で撮

影した動画が世界中の人々に視聴されるという仕組

みは、まさにWeb 2.0的世界そのものと言える。インター

ネット・ユーザーの間では身近な存在となっている動

画共有システムが、ここにきて、イントラネットの世界

にも広がりを見せているのは、イントラネット対応の

企業用動画共有システムが複数のベンダーから提供

されるようになったからだ。

 このように、最近注目を集めている企業の動画活

用の主な目的は、知識やスキルを効率よく社員に伝

えることで、社員の生産性を向上させることにある。

そんななか、紙と文章のマニュアルに加えて、動画を

活用して現場が求める知識やノウハウを伝授すること

で、社員のスキル向上を支援している国内企業の1社

が、イオンフォレストである。同社は、英国生まれの

化粧品専門店「ザ・ボディショップ」を日本国内で展開

している。

 ザ・ボディショップでは、天然原料を基にしたボディ

ケア製品やフレグランス製品を販売しているほか、環

境保護や人権擁護といった化粧品会社の枠を超えた

活動にも力を入れている。そんな同社がとりわけ重視

しているのが顧客とのコミュニケーションだ。

 コミュニケーションのべースとなるのは商品知識と

接客マナーである。また、店舗で顧客にメイクアップ

をアドバイスして商品の価値を体験してもらうために、

スタッフがメイクアップ・テクニックを身につけること

も重要なポイントとされている。そうした現場スタッフ

のスキルを高めるのに、イオンフォレスト本部が大き

な役割を果たしている。同社管理本部のIT部長兼総

合企画室担当部長、新妻貴氏(73ページの写真3)は、

「現場スタッフの多くが『たくさんの人に商品を使って

もらいたい』『販売につなげるためにスキルを伸ばした

い』という高い意識を持ち、本部を通じてさまざまな

スキルやノウハウを得たいと考えている」と語る。そう

したスタッフの意欲にいかに応え、スキルやノウハウ

を伝授するか。メイクアップ・テクニックを指導するト

レーニング部門と店舗マネジメントを担当する営業統

括部門は知恵を絞ってきた。

 そうしたなか、イオンフォレストは2008年7月から

動画共有システムの運用をスタートさせた。同社は、

今後も紙べースのマニュアル作成・提供も続けていく

意向を示しているが、従来から英国本社から送られ

てきた映像に日本語字幕を付けて再編集し各店舗へ

届けていたことから、映像の持つ“威力”も熟知してい

た。しかし、DVDの再編集を外部の専門会社に委託

し、出来上がったDVDを全国170の店舗へ配送したり、

日本国内で作成した映像コンテンツを収録したDVD

を各店舗に届けたりするのに、かなり大きなコストが

Page 48: Computerworld.JP Nov, 2008

Computerworld November 200872

│Part 2│ワークスタイル革新に秘策あり││日本企業の事例に学ぶ

かかっていた。そうした課題を解消するために手軽に

利用できる動画共有システムを探していたところ、新

妻氏が出会ったのが、リミックスポイントの企業内動

画共有システム「CorporateCAST」である。

メイクアップ研修ビデオで大きな反響を獲得

 CorporateCASTの仕組みはきわめてシンプルだ。

ビデオカメラで撮影した映像を動画共有用のサーバ

にアップロードするだけで、ユーザーはインターネット

環境とWebブラウザさえあれば動画を閲覧できるよう

になっている。サーバもエントリー・クラスのもので十

分稼働する。

 リミックスポイントによると、ザ・ボディショップの

ようにフランチャイズ展開する企業が教育・訓練に動

画共有システムを活用するケースは非常に多いとい

う。実際、CorporateCASTベースで企業内動画共

有システムを構築したザ・ボディショップでは、各店

舗のスタッフが、随時動画を見ることで、メイクアップ・

テクニックや接客術を学んでいる。

 動画ならではの効果も得られている。例えば、店

舗のスタッフに、化粧道具をどのように持つとメイク

アップしやすいかを伝えようとした場合、文章では伝

えにくくても、ビデオで説明すれば一目瞭然だ。しかも、

確認したいシーンを繰り返して見ることができるとい

うメリットもある。実際、メイクアップ・シーンを撮影

した映像を各店舗に配信したところ、「道具の“持ち方”

の説明が、従来の教材よりもわかりやすいとの反響が

多く寄せられた」(新妻氏)という。このように、イオン

フォレストではシステム稼働後まもなく動画の威力を

実感することとなった。そのほか、接客に関しても、

実際の店舗で実践されているすぐれたケースを撮影

し、他店舗がそれを参考にすることで接客マナーの向

上に役立てている。

 また、イオンフォレストでは、動画共有システムを

通じて、店舗スタッフに知識やノウハウを伝授するだ

けでなく、店舗のマネジャーとスタッフとのコミュニ

ケーションの活性化を図っていきたい考えだ。「例えば、

メイク作法に関する映像を見ながら、『なぜこのように

するのかわかりますか』とマネジャーがスタッフに語り

かける、そうしたコミュニケーションのきっかけとなる

ことを願っている」と新妻氏は語る。

 一方、同社は、全店舗のマネジャーを招集して新

商品などの説明を行う「マネジャー・フォーラム」と呼

ばれるマネジャー向けの方針説明・トレーニングを定

期的に実施している。各マネジャーは、そこで得た最

新の商品知識や、臨場感あふれる会場の雰囲気など

を店舗に伝えることで、スタッフのモチベーション向

上を図っている。だが、時間が経過するとマネジャー

自身の高揚感も薄らぐことは否めない。そこで新妻氏

は今後、フォーラムの模様を撮影し、それを動画共

有システムを介して店舗スタッフに配信することで、

その場の臨場感や雰囲気を伝えて、組織の結束力強

化につなげたいと考えているという。

オリジナル・コンテンツの制作にリソースを集中

 動画共有システムを導入して以来、ザ・ボディショッ

プの本部サイドの仕事の中身も一変した。以前は

DVDの作成・配布に多くの労力を注いでいたが、現

在では映像コンテンツを企画、撮影・編集する作業に

より多くのリソースが注がれるようになった。動画共

有システムというインフラを得たことで、いわば

YouTubeに動画をアップロードするのと同じ要領で、

容易にオリジナル・コンテンツの制作・共有が行えるよ

うになったからだ。

 リミックスポイントの事業推進部プロダクト事業担

当部長、藤木穣氏は、「従来、eラーニングの映像を

作成する場合、専門の業者に発注する必要があった

が、CorporateCASTを導入すれば、家庭用のビデ

オカメラで撮影した映像も手軽に共有できるようにな

り、社員だけでなく、教育する側のワークスタイルも

革新される」と指摘する。

 イオンフォレストでは現在、20 ~ 30本のザ・ボディ

ショップ向けコンテンツを動画共有システム上で配信

している。新妻氏によると、コンテンツを制作する過

Page 49: Computerworld.JP Nov, 2008

November 2008 Computerworld

ワークスタイル[革新]テクノロジー

73

特集

程で、本部側もさまざまなノウハウを得たという。そ

の1つが、コンテンツの視聴時間を2 ~ 3分以内に収

めることだ。「当初は6 ~ 7分のものが多かったが、試

行錯誤を経て、現在ではなるべく短時間で意図が伝

わるようにまとめることが、忙しい店舗スタッフにノウ

ハウを伝えるポイントと考えている」(新妻氏)

 イオンフォレストは今後、月間2 ~ 4本ほどのペー

スで計画的にコンテンツを増やしていく方針だ。今後

制作予定の主なコンテンツには、上述したマネジャー・

フォーラムのリポートや、各店舗の成功事例、ミーティ

ングの進め方といったマネジャー向けのコンテンツ、

商品知識や接客マナー、メイクアップ・テクニックな

どを紹介する店舗スタッフ向けのコンテンツなどだ。

「教育・訓練といった範疇にとどまることなく、可能で

あれば、商品購入理由や店舗レイアウトの感想など、

顧客の声も収集・共有していきたい」と新妻氏が意気

込みを示すように、同社の動画共有システムは、顧

客との接点を強化する仕組みとしても活用が期待で

きそうである。

 技能やスキルの多くは、言葉に加えて、実際に動

作して見せることによって人に伝わるものだ。そのた

め、経営手法としてのナレッジ・マネジメントは、文書

共有から映像を含むeラーニングへと進化しつつある。

しかし、映像コンテンツを自前で制作し、社員が見た

いときに見られる仕組みを構築することは、長年多く

の企業にとって困難とされてきた。

 動画共有システムは、そうした従来の課題を克服し、

組織が必要と思ったタイミングで映像コンテンツの制

作・流通を可能にする。知識やスキルはどのような職

場でも必要とされるものであり、しかも現場に近いほ

ど、それらは日々変化していく。「百聞は一見にしかず」

ということわざが示すように、視覚的に知識やスキル

をすばやく伝播させることができる動画共有システム

は、現場を支援する部門にとって大きな力となる可能

性を持っている。ザ・ボディショップの取り組みはそ

れを示している。

写真3:イオンフォレストの管理本部IT部長兼総合企画室担当部長、新妻貴氏。同氏は、「ザ・ボディショップ」の店舗スタッフ向けの販売・接客ノウハウや商品情報の共有化、トレーニングの効率化を目的に、リミックスポイントの動画共有システム「CorporateCAST」を導入した

株式会社イオンフォレスト

【所在地】東京都千代田区紀尾井町3-6紀尾井町パークビル6階

【設立】1990年6月

【代表者】岩田松雄(代表取締役社長)

【事業内容】英国の化粧品専門店「ザ・ボディショップ」の日本国内での経営およびフランチャイズ展開

【URL】http://www.the-body-shop.co.jp/

COMPANY PROFILE

Page 50: Computerworld.JP Nov, 2008

Computerworld November 200874

│Part 3

│「全社員を在宅勤務に」大胆戦略プロセスに学ぶ

スの場を“バーチャル・ワールド(すべてオンライン上

の世界)”に移してから、同氏は通勤する必要がまった

くなくなった(画面1)。 ボイド氏はChorusがオフィスを閉鎖した主な理由

について、「オフィス・スペース賃貸料などのコストの

削減と、通勤に伴う社員のストレス緩和」と説明する。

 Chorusで社長兼CEOを務めるA.J.シュライバー

(A.J. Schreiber)氏は、敷地面積1万5,000平方フィー

トのオフィスを閉鎖しただけで、年間40万ドルのコス

ト削減を達成できると胸を張る。もちろん、賃貸契約

や通信契約の破棄に伴うコストは負わなければならな

いが、それを補って余りあるコストの削減を見込んで

いるという。

 「オフィスを閉鎖しても、以前と変わらない顧客サー

ビスを維持できる自信はある。もし(オフィスを閉鎖す

ることで)顧客へのサービスにマイナス影響が及ぶと

判断していたら、すべての業務をオンライン上で行う

などという、“無謀”な決断はしていない」(シュライバー

氏)

 ニュージャージー州にあるコンサルティング会社、

米国Work+Life Fitの創設者であり社長を務めるカ

コスト削減だけではない在宅勤務体制の効果

 ボイド氏はつい最近まで、ニューヨーク州ウェスト

チェスター郡にある自宅から48マイル(約13キロメー

トル)離れたニュージャージー州ハスブルックハイツの

オフィスまで、毎日自動車で通勤していた。毎月の通

勤コストは、ガソリン代と高速料金の合計500ドル。

しかしChorusが物理的なオフィスを閉鎖し、ビジネ

コスト削減と生産性の向上を両立させた米国企業の事例

コスト削減と通勤に伴う社員のストレス緩和を目的に、全従業員を在宅勤務にした企業がある。医療機関向けのソフトウェア・プロバイダーである米国Chorusは2008年6月初頭、ニュージャージー州ハスブルックハイツにある本社を閉鎖し、その1カ月後にテキサス州ヒューストン郊外にあるスタッフォード・オフィスを閉鎖した。同社でCIOを務めるリック・ボイド(Rick Boyd)氏は、「このワークスタイル革新は、われわれに多大なるメリットをもたらした」と胸を張る。本パートでは同社の取り組みをはじめ、各ポイントで直面した課題とその解決方法を紹介しよう。

Meridith LevinsonCIO米国版

「全社員を在宅勤務に」大胆戦略プロセスに学ぶ

3Part

画面1:医療機関向けの臨床/経営/財務ソフトウェアの販売を手がける米国Chorusは、全社員を在宅勤務とする「大英断」を下した

(画面は同社のWebサイト)

Page 51: Computerworld.JP Nov, 2008

November 2008 Computerworld

ワークスタイル[革新]テクノロジー

75

特集

リ・ウィリアムズ・ヨスト(Cali Williams Yost)氏は、

Chorusの決断を、「ワークスタイル革新をビジネス戦

略として位置づけ成功させた例だ」と評価する。

 「フレキシビリティは企業経営の重要な戦略だ」と言

い切るヨスト氏。同氏はChorusの戦略について、「社

員が勤務場所を選択できることは、人材確保や在職

率の向上にプラスの作用をもたらすと同時に、不動産

などの資産管理の手間も省ける。(Chorusを見習って)

毎日同じ場所、同じ時間に勤務する必要はないと考

える企業が今後は増加するだろう」と分析した。

ディレクトリ管理と通信帯域の確保 Chorusで顧客サービス担当バイスプレジデントを

務めるマービン・ルズ(Marvin Luz)氏は、2つの懸念

を抱えていた。1つ目は在宅勤務に移行するための社

員の労力の問題。2つ目は具体的にどのようなプロセ

スで移行するかの問題である。

 顧客サービスの責任者としてルズ氏が最優先しな

ければならないのは、顧客ニーズに十分対応できる

在宅勤務体制を整備することだった。顧客からの問

い合わせを自宅で勤務するエージェント(社員)にス

ムーズにつなぎ、しかも、顧客にはエージェントが自

宅で応対していることを気づかれてはならない。

 幸いなことにChorusは、ファイアウォールやVPN

(Virtual Private Network)など、在宅勤務者をサポー

トするために必要なインフラの大部分を整備していた。

同社は2007年から米国Cisco Systemsの「IP Commu

nicator」をはじめ、ハイエンド・ルータなどをニュー

ジャージー州にあるデータセンターに導入している。

ちなみに同データセンターは現在も稼働しており、必

要に応じてスタッフが訪れているという。

 在宅勤務への移行にあたりボイド氏は、同データセ

ンターにディレクトリ管理サービスである「Active

Directory」を備えたWindowsサーバと、2本のT1回

線を追加した。同氏は「これらを追加することで、移

行作業が容易に実行できた」と語っている。

個別PC環境の設定 次に行ったのは、在宅勤務に必要なソフトウェアを

社員に配布することだ。ボイド氏と7人のITスタッフは、

IP Communicatorを全社員のノートPCにインストー

ルした。ボイド氏によると、この作業は思いのほか手

間取ったという。

 「実はクライアントPCにIP Communicatorをイン

ストールする作業は初めてだったので、最初は設定

方法に戸惑ってしまった。もっとも、約3週間で全イ

ンストールは完了したが……」(ボイド氏)

 ちなみに同作業はVoIPサービス・プロバイダーで

ある米国Dynamic Strategiesの協力の下で行われ

たそうだ。

 その他にも同社は電話接続の品質を維持するため、

家庭用ルータよりも上位機種のルータを社員宅に設

置し、社員が業務で使用するインターネット回線専用

に一定の帯域を確保したという。

バックアップ・システムの強化 また、同社は、万が一IP Communicatorがダウン

 とはいえ、全社員を在宅勤務にするための道のりは、

決して平坦ではなかった。調査、プランニング、そし

て何度もの試行錯誤を経て、次々と直面する課題を

解決しなければならなかった。ボイド氏は、「確かにタ

フな作業だったが、克服できない課題はないと確信

していた」と当時を振り返る。

 同社が直面した課題とは何か。そしてその課題を

どのように克服したのか。以下からはボイド氏と

Chorus社員の話を基に、彼らがワークスタイル革新

を実現するまでのプロセスを紹介しよう。

在宅勤務をサポートするインフラとバックアップ・システムの整備プロ

セス1

Page 52: Computerworld.JP Nov, 2008

Computerworld November 200876

│Part 3

│「全社員を在宅勤務に」大胆戦略プロセスに学ぶ

した場合のバックアップ用として、「BlackBerry」ま

たはWindows Mobile搭載デバイスを全社員に配

布した。当時、ほとんどの社員は私用の携帯電話

を持っていたが、同社は会社の設備品として両デ

バイスを購入。利用ポリシーと経費のガイドライン

を策定した。

 さらにボイド氏は、顧客サポート、インフラ・サポート、

アプリケーション開発、ビジネス分析の各グループに

「追跡チーム」を設置した。これは、例えば、顧客サポー

ト・チームで問題が発生してインフラ・サポート・チー

ムの助けが必要になった場合、インフラ・サポートの

追跡チームの内線電話番号をかけると、同追跡チー

ムのメンバー全員の電話が鳴り、電話に出られるメン

バーが対応するというシステムだ。

内線通話の実現 インフラ整備最後の課題は、地理的に分散した社

員たちが物理オフィスにいた時と同様、内線通話でき

る環境の整備だった。同社がテキサス州とニュー

ジャージー州にオフィスを構えていた時は、双方のオ

フィスにいる社員らは4ケタの内線番号で連絡を取り

合っていた。しかし、在宅勤務体制下で社員どうしが

自宅からVPNにログインすると、4ケタの内線番号は

機能しない。当時採用していたCiscoのファイアウォー

ル「PIX 506」は、内線通話を接続するVPN間のデー

タ送信に対応していなかった。そこでボイド氏はファ

イアウォールのアップグレードに踏み切り、Ciscoの

「PIX 515」を導入。これにより、全社員は4ケタの内

線番号で互いに通話できるようになったという。

就業規則の策定と社員サポート体制の整備プロセス2

就業規則の策定 全社員が在宅勤務するにあたりChorusは、生産

性の維持と顧客サービス・レベルの向上を目的とした

就業規則を策定し、表1のような項目を盛り込んだ。

 同就業規則には同社が社員に配布する仕事用の機

器についても記されている。基本的にノートPC、モ

ニタ、キーボード、ヘッドセットなど、社員が仕事で

必要とする通信/コンピューティング機器は、すべて

会社から支給される。

 また、HIPAA(医療保険の相互運用性と説明責任

に関する法律)に基づき、特定の書類を破棄する必要

がある顧客サービス担当者には、ペーパー・シュレッ

ダーも支給される。なお、紙、インク、ペン、付箋紙

などの基本的な事務用品はまず社員が自費で購入し、

後日、経費報告書を提出して精算するシステムとなっ

ている。

 全社員はこの就業規則に合意したあとに、在宅勤

務をスタートさせた。なお、コンピュータとインターネッ

ト利用――業務に関係のないWebサイトを閲覧しな

い、業務に関係のないアプリケーションを勝手にイン

ストールしないなど――に関しては、従来の規則が踏

襲された。

リモート・サポート体制の整備 在宅勤務をするにあたり社員が最初に抱いた懸念

は、どのようにしてテクニカル・サポートを受けられる

仕事専用部屋の確保

仕事専用デスクの確保

就業時間の厳守

その他

家族やペット、同居人から離れ、仕事に専念できる、ドアのある独立したスペースを確保する。

折り畳み式の簡素なものでもよい。リビングルームでテレビを観ながら仕事したり、ひざの上にノートPCを置いて(寝っ転がりながら)作業したりすることは避ける。

オフィス勤務時と同様、規定の業務時間中は必ずホームオフィスのデスクで仕事をする。業務時間中はIMを起動させ、Exchange Serverのグローバルアドレス・リストに自分の電話番号とIMのハンドル名を登録する。

就業時間内はテレビや音楽をかけない。顧客との電話中に物を食べない。自宅というくつろげる環境においても、仕事中はプロフェッショナルとして顧客に接すること。

表1:Chorusの在宅勤務に関する就業規則

Page 53: Computerworld.JP Nov, 2008

November 2008 Computerworld

ワークスタイル[革新]テクノロジー

77

特集

かという点だった。コンピュータやアプリケーションに

ウイルスが侵入してクラッシュしてしまったらどうすれ

ばよいのか。ニュージャージー州のデータセンターは

稼働しているが、基本的にIT部門のスタッフも在宅

勤務であり、必要に応じてデータセンターに赴く体制

である。以前のようにヘルプデスク担当者が、トラブ

ルが発生した社員のデスクに駆けつけて問題を解決

することは不可能だ。

 この課題について、同社IT部門スタッフのアーロン・

シュナイダー(Aron Schneider)氏は、「リモート・サポー

ト・ソフトウェアや、Web会議システムを駆使して問

題解決に努めている」と説明する。

 例えば、社員が特定のドライブにアクセスできなかっ

たり、(解読不可能な)エラー・メッセージが表示された

りした場合、ITスタッフは「iTivity」などのリモート・サ

ポート・ツールを介して問題のPCにアクセスしたり、

Web /テレビ会議システムの「WebEx」などを利用し

たりして、問題が発生した社員をサポートするようにし

ているという(画面2)。

 では、社員のハードディスク・ドライブ(HDD)がク

ラッシュした場合にはどうすればよいのか。

 シュナイダー氏によると「社員の業務に必要なすべ

てのソフトウェアを、あらかじめ用意してある代替用

ノートPCに置き換える。もし該当社員の自宅が近く

ならば、自動車で運んですぐに交換する。もし社員が

遠方にいるときは代替用ノートPCを宅急便で送り、

故障したノートPCを送り返してもらう」のだという。

 それでは社員が代替用ノートPCを受け取るまでの

時間(ロスタイム)は、どのくらい生産性に影響するの

だろうか。これについてシュナイダー氏は、「これまで

にノートPCを交換するまでに至った事例がない」とし

たうえで、以下のようにコメントした。

 「万が一そのような事態に陥ったとしても、ほとんど

の社員は自宅にあるプライベート用のPCから仕事の

メールをチェックし、自分の携帯電話を使って連絡を

取ることができるだろう。ただし代替PCを待っている

間、一時的に顧客サポート・チームに何らかのマイナ

ス影響が出ることは予想される」

 なお、全社員が自宅で勤務するようになって以来、

各部門のマネジャーたちからテクニカル・サポートに対

する不満の声は上がっていないという。

 「今のところ深刻な問題は発生していない。唯一あっ

たのは、開発者からの『大規模ファイルの移動が大変

だ』というクレームだけだ」(ボイド氏)

画面2:米国WebExのWeb会議システム「WebEx」は、会議アプリケーション市場で大きなシェアを占めている。ちなみに同社は2007年上半期にCiscoに買収されている

在宅勤務体制への適応――社員のケアプロセス3

段階的な移行の導入 「大半の社員は在宅勤務への移行を歓迎した。し

かし、社員が新たなワークスタイルに慣れるまで、想

像以上に時間がかかった」。こう打ち明けるのは、前

出の顧客サービス部門バイスプレジデントであるルズ

氏だ。

Page 54: Computerworld.JP Nov, 2008

Computerworld November 200878

│Part 3

│「全社員を在宅勤務に」大胆戦略プロセスに学ぶ

 「在宅勤務が開始されてから2週間、私の所には『も

うオフィスには戻れないのか』という社員からのメール

が相次いだ。彼らは社会との接触がなくなったことを

さびしく思い始めたのだ」(ルズ氏)

 同氏によると、顧客サービスに携わる人間は、社

交的なタイプが多いそうだ。

 そんな彼らのニーズを満たすべく、同社は1週間の

うち2日間だけ社員がヒューストンのオフィスで勤務で

きる環境を整え、3週間ほど試験導入した。その後の

2 ~ 3週間は週1日をオフィス勤務とし、段階的に完

全在宅勤務へと移行した。このおかげで、社員は新

しい環境になじむことができた。

 ルズ氏は、「顧客サービス担当の社員が新しい勤務

体制に戸惑ったのは、日常の業務を自宅で行うことに

慣れなかったからだ。しかし、社員がワークスタイル

とプライベート・ライフのリズムを整え始めてからは、

スムーズに移行できた」と語る。同氏によると、現在

は四半期ごとの部門会合を企画中で、社員どうしが

定期的に顔を合わせられる機会を設けるようにしてい

るという。

 在宅勤務体制に懐疑的だった社員は、実は顧客

サービス部門以外にも存在した。前出のシュナイダー

氏は当初、在宅勤務を歓迎しつつも、ついテレビを

観たりおやつを食べてしまったりして仕事に集中でき

なかったり、同僚と話すことができないので退屈した

りするのではと気がかりだったという。

 「しかし、実際に在宅勤務を開始すると、そうした

心配は取り越し苦労であることがわかった。自宅内の

“オフィス”はテレビのあるリビングとキッチンから離れ

ている。今では仕事が忙しいあまり、午後2時か3時

まで昼食を取らない日もある」(シュナイダー氏)

 かといってシュナイダー氏が完全に“引きこもり”に

なってしまったわけではない。同氏はITチームとの定

期的なコミュニケーションを通じ、社会との接点を持

つようにしている。同氏が属するIT部門では毎日コン

ファレンス・コールが行われ、電話やメールを介した

やり取りが頻繁に行われている。

管理ソフトで部下の生産性を“フォロー” 資産コストの削減や通勤に伴うストレスの緩和にな

るとわかっていても、在宅勤務などのフレキシブルな

勤務体制の導入に二の足を踏む企業は多い。その理

由は、物理的に離れている場所で働いている部下の

管理方法がわからないことが挙げられるようだ。

 確かに部下が在宅勤務になれば、管理職には根本

的な意識改革と管理方法の変更が求められる。しか

しルズ氏は、「社員の生産性が測定しにくいとの理由

で在宅勤務を受け入れないのは、単なる企業の怠慢

にすぎない」と指摘する。

 「今日の企業は、社員どうしがオンラインで強固に

結ばれている。特にコールセンターのような環境には、

生産性を測定するツールが数多くそろっている」(ルズ

氏)

 例えば、Chorusが導入しているCiscoのコールセ

ンター・システムのダッシュボードには、コールセン

ター・スタッフによるログイン/通話/休憩時間のほ

か、通話時間、スタッフの内線電話への応答の有無、

1時間当たりにスタッフが応答した件数/応答しな

画面3:米国Salesforce.comのSaaS型CRM「Salesforce」の管理画面

Page 55: Computerworld.JP Nov, 2008

November 2008 Computerworld

ワークスタイル[革新]テクノロジー

79

特集

かった件数が示される。さらに管理権限を持つユー

ザーは、スタッフの通話内容を聞いたり、通話を中断

したり、記録したりすることも可能だ。

 また同社の顧客サービス部門は、米国Salesforce.

comのSaaS型CRM(顧客関係管理)ソフトウェア

「Salesforce」を導入している(画面3)。これにより、

管理権限を持つユーザーは、同ソフトウェアのダッ

シュボードを介して、すべてのアカウント・マネジャー

のキューを閲覧し、処理中および処理済みのケース

数を確認できる。ルズ氏は「在宅勤務に移行した部下

の生産性は期待以上だ」とその効果を強調する。

 ちなみにSalesforceはIT部門でも利用されている

という。ボイド氏は、「CRMソフトを介して、IT部門

で何が起こっているのかをリアルタイムで閲覧できる」

と説明する。ただし同ソフトウェアはIT部門を対象と

した製品でないため、過去の作業内容を見ることはで

きない。そのため同氏は、社員の仕事量を把握する

ために毎日1時間のWeb会議を開き、部下全員の仕

事量を確認/調整しているという。

部下とのコミュニケーション強化 在宅勤務の運用課題を挙げるとするならば、どの

ようにして部下とのコミュニケーションを密に保つか

だろう。ルイズ氏は、“数値に表れない”部下の状況を

理解するため、最大限の努力をしていると語る。物

理的なオフィスがあったころは比較的簡単だった部下

との直接交流も少なくなった。そのため同氏は、1週

間に1回はすべての部下に電話をかけ、家族などの話

をするようにしているという。「何気ない会話も非常に

重要だ。『シニア・アカウント・マネジャーとは最近話し

ているか』と聞くなど、社員どうしで連絡を取り合って

いるかを確認するのも私の職務だ」(同氏)

 ルズ氏もボイド氏も、みずからが在宅勤務者で、か

つ在宅勤務の部下を管理するという経験を通じ、マ

ネジメントとコミュニケーションのスキルが上達したと

感じているという。「在宅勤務に移行してから、よいマ

ネジャーになったかどうかはわからないが、以前より

すぐれたコミュニケーターになったことは確かだ」(ボ

イド氏)

 なお、同社では全社員で業務の課題やプロジェク

トの情報を共有し、“全社員の輪”を保つために表2の

ようなプロジェクトを毎日行っているという。

「全員在宅勤務」で学んだ教訓、そして成功へのカギとは

 在宅勤務への移行はいくつかのハードルがあった

にもかかわらず、非常にスムーズに進んだ。このため

顧客は、同社が物理オフィスを閉鎖して全社員が在

宅勤務になった事実をほとんど知らないようである。

ボイド氏は「私は顧客サービスに携わる人間として、

こちら側の変化に顧客が気づくかどうかが成功の尺

度だと考えている。在宅勤務に移行する途中も、そし

て移行してからも、われわれの対応が中断した、もし

くは対応が以前と違うといった不満は顧客から聞か

れない。これこそ移行が成功したことを示している」と

語る。

 すべての物理オフィスを閉鎖するという大胆な決断

をすることが無理な企業でも、在宅勤務者のサポート

や管理など、Chorusの成功事例から学ぶことが多い

はずだ。

管理職チーム会議

リポート配信

インフラ・チームコンファレンスコール

各部門のバイスプレジデントとCEOが、Web会議システム(もしくはコンファレンス・コール)を通じ、優先度の高い問題やプロジェクトについて話し合う。管理職チームは当日の業務内容の確認、および中/長期的な計画の確認をする。

毎日全社員に配信されるリポートには、各チームが取り組んでいるすべてのプロジェクトがまとめられている。同リポートを通じ、一般社員も社内で進められている優先度の高い(あるいは低い)プロジェクトの活動状況を把握することができる。

CIOのボイド氏以下、データベース管理者/アプリケーション・サポート・チーム/ ITインフラ・サポート・チームは、朝の管理職チーム会議で議題に上がった内容を検討し、IT業務にかかわるすべての社員で情報が共有できているかどうかを確認する。

表2:“全社員の輪”を保つためのデイリー・プロジェクト

Page 56: Computerworld.JP Nov, 2008

Computerworld November 200880

Product Review[ワークスタイル革新]4Part

 ジャストシステムの「ConceptBase Enter prise Search」( 以 下、CB Enterprise Search)は、同社が誇る高度な日本語処理技術をベースに、企業内に日々蓄積される膨大な文書やデータを網羅的に高速検索する

“情報系アプリケーション基盤”として新開発された企業情報検索エンジンである。 CB Enterprise Searchの最大の特徴は、大規模・大容量の環境下でも高速に動作するよう設計されていること。新開発のコアエンジンの搭載により、テラバイト級の大規模運用に対応し、EC(電子商取引)サイトの検索にも適用できるとしている。検索対象の増加に応じてインデックス・ノードを増設し、分散構成によるロード・バランシングが行えるため、段階的なシステム投資が可能で、管理対象のインデックス・ノード数が抑えられることにより、運用/メンテナンスの負荷軽減も図れるという。

 また、従来のConceptBase製品の特徴である質の高い自然言語処理を継承しながら、登録された文書を即座に検索可能にするリアルタイム・インデキシング(索引作成)機能が新たに追加されたことで、検索速度の大幅な高速化を実現している。 CB Enterprise Searchでは、入力された文字列をクエリとして検索を行う従来の概念検索、全文検索、文字列一致検索に加えて、Office文書やPDF、RDBデータといった非構造化データを構造化(XML化)し、インデックスを自動作成する機能により、文書の構造を利用したピンポイント検索や、メタデータによる絞り込み、構造が類似した文書の検索などが可能となっている。導入にあたって既存システムやデータ類の設定を変更する必要はなく、CB Enterprise Searchが持つXML変換フィルターにより、非構造化データのXML化のフローを作り上げることが可能だ。

 そのほか、ユーザーが任意にパラメータを設定し、目的に合わせて検索結果の表示順をカスタマイズできるランキング・コントロール機能など、情報へのアクセシビリティ向上を高めるための多彩な検索テクノロジーを搭載している。

ConceptBase Enterprise Search ジャストシステム

検索対象の爆発的増加に対応。鮮度の高い情報の検索で「会社の今」をつかむ

ECM

RDB

Notes

Webサーバ

ファイル・サーバ

XMLアプリケーション

企業内情報検索

XMLインデックス

ConceptBase Enterprise Search

構造化文書として情報を保持

価格 要問い合わせURL http://www.justsystems.com/jp/km/

ConceptBase Enterprise Searchの概念

 ファイル・サーバの大容量化が進む中、ファイルシステムが無秩序に肥大化していくことに悩むユーザーは少なくない。自分が作成したはずのファイルがなかなか見つからない。正式文書/最新版文書と作業用コピーの判別ができない。結果として、不要ファイルを消すことができずに容量だけが増えてしまう。 鉄飛テクノロジーの「FileBlog」は、上記のようなユーザーの悩みを解決するべく開発されたWebベースの文書管理システムである。同製品の特徴は、ファイルシステム検索機能を利用することで、データの初期登録作業を行わずに、既存のファイル・サーバへ容易に導入できる点にある。従来の文書管理システムには、導入・運用が困難、ファイルシステムの検索が苦手、導入コストが高いといった問題点が存在したが、FileBlogは、新時代の文書管理システムとして、これらの問題点を解決する技術/機能を備えている。

 FileBlogは、導入するだけで既存のファイル・サーバ内の文書や画像などのWeb共有/全文検索/属性管理が可能になる。ファイル本体は、もともとの共有フォルダにそのまま残され、ユーザーには、フォルダ/ファイルの一覧表示や、ファイルのプレビュー表示ができるWebページが提供されることになる。また、ユーザーが共有フォルダ内のファイルを更新・削除したときには、その情報がリアルタイムで検索結果に反映される。 フォルダのブラウズ機能とキーワード検索とを組み合わせた独自のファイルシステム検索も、既存の文書管理システムにはない特徴である。画像ファイルなど各種ファイルはサムネールで一覧でき、ファイルの中身を直ちに確認することができる。 また、製品名が示すとおり、ブログのように手軽にWeb画面上からファイルにコメントを付けたり、ファイルのプロパティを編集した

り、ファイルに属性を与えて一覧・検索に役立てたりすることができる。例えば、Office文書のプロパティ(作成者/カテゴリ/キーワードなど)に記されたメタ情報も編集・検索対象とすることが可能だ。

FileBlog Ver1.2 鉄飛テクノロジー

データ初期登録が不要な「ファイルシステム検索」を特徴とする文書管理システム

価格 9万9,000円(初年度)~/10ユーザーURL http://www.teppi.com/fileblog/

FileBlogの文書検索画面

注目の製品が備える機能・特徴をチェック

Page 57: Computerworld.JP Nov, 2008

November 2008 Computerworld

ワークスタイル[革新]テクノロジー

81

特集

 ネオジャパンの「desknet's Enterprise Edition」は、多数の国内導入実績を誇るWebグループウェア「desknet's」の大規模環境向け拡張エディションである。通常版とは違って汎用データベースを採用し、多大なユーザー・アクセスに耐えうる高いRAS(信頼性・可用性・スケーラビリティ)を実現している。 desknet's Enterpriseには、一貫した操作インタフェースである合計24機能が標準で備わるうえ、10階層まで設定可能な組織ツリー階層機能、来訪者管理(受付業務全体を効率化する)機能、サーバ負荷分散機能が提供される。また、ユーザー企業ごとの要件に応えるカスタマイズ・サービスやユーザー企業のマスタ・データとの連携といった高度な機能/サービスも用意している。 また、通常版と同様、desknet's Enter priseにもオプション機能としてAjax版が用意されている。Ajax版では、グループウェア

として利用頻度の高いスケジュール、設備予約、Webメール、アドレス帳に対して、ドラッグ&ドロップでの移動などAjaxを応用した高い操作性を実現している。 一方の「desknet's SNS」は、desknet'sシリーズで培われた機能や操作性が継承され、社内SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を簡単に構築するためのパッケージ・ソフトウェアである。インストーラの手順に従ってわずかな時間で導入し、画面に従っての登録で、すぐに運用開始できる。 desknet's SNSには、ファイル添付、日記の下書き保存や公開レベル設定、コミュニティのカテゴリ設定、携帯電話からのアクセスなど、社内SNSとしての基本的な機能をすべて備えている。それらに加え、「あしあと」数の推移グラフや「Web拍手機能」などのユーザーの利用を喚起する機能が加わっている。また、各種の統計リポート機能でユーザーの

利用状況を容易に把握することができる。なお、ユーザー・ログインは、SSO(シングル・サインオン)対応で、desknet'sをはじめとする他のWebアプリケーションとの連携が可能になっている。

desknet's Enterprise Edition/ desknet's SNS ネオジャパン

導入実績豊富なWebグループウェアの大規模環境版/“情報共有革新”を促す社内SNS

価格 要問い合わせURL http://www.desknets.com/

desknet's SNSのMYトップ画面

 日立ソフトウェアエンジニアリングの「SecureOnline」は、IT基盤(ハードウェア、ソフトウェア、ネットワーク)および関連サービスを月単位でユーザー企業に提供するインフラ・ホスティング・サービスである。 同サービスは仮想マシン(VM)技術を利用して提供される。1カ月から契約可能で、利用した月数分を支払う形で利用できる。そのため例えば、開発マシンをハードウェアの導入コストやインストール作業の労力、設置場所、運用管理コスト、労力減価償却費をかけずに容易に調達することが可能になる。なお、バックアップ作業については、ユーザー企業自身が日立ソフトウェアエンジニアリングからの提供エリアに手動で行うこともできる。 そして、サービス名にあるように、セキュアなオンライン・サービスである点が最大の特徴となっている。高いセキュリティを確保したうえでの複数拠点間でのファイルの受け渡

し/サーバ共有が可能で、中国などのオフショア開発にも対応する。例えば、ユーザー企業の顧客や協力会社からのSecureOnlineへのアクセスは、自社用の専用仮想サーバを介した仮 想ファイル・サーバのみ到達でき、その他のネットワーク・アクセスは遮断されるようになっている。 また、同サービスにおいては、ユーザー企業の各拠点(開発拠点、協力会社、在宅勤務者の自宅など)は、シン・クライアントとして仮想PCを利用するため、すべての成果物は中央に集約され、 情

報漏洩のリスクを大幅に低減する。

SecureOnline 日立ソフトウェアエンジニアリング

仮想化技術を利用してセキュアなIT基盤およびサービスを月単位で提供

VPNインターネット

ユーザー企業 協力会社

VPN

インターネットP2Pファイル共有

悪意の第三者

統制IT基盤提供サービスVM提供エリア

WindowsServer 2003

WindowsServer 2003

専用仮想サーバ(ユーザー企業の開発環境)

専用仮想サーバ(協力会社の開発環境)

プロジェクト共有ファイル設計ドキュメント進捗管理表

仮想ファイル・サーバ

仮想ファイル・サーバを介しての互いのネットワークへの侵入は禁止

SecureOnlineにおける複数拠点からのファイル共有

価格 1,890円/1ユーザー(月額)URL http://hitachisoft.jp/products/so/

Page 58: Computerworld.JP Nov, 2008
Page 59: Computerworld.JP Nov, 2008

米国Intelは30年前の1978年6月8日、「the dawn of a new era(新時代の幕開け)」という大胆なキャッチコピーとともに、同社初となる16ビットCPUの8086を発表した。このキャッチコピーは、当時大げさに聞こえたかもしれないが、ある意味予言とも言えるものだったのである。8086自体は普及までに多少の時間を要したものの、後に「x86」と呼ばれるそのCPUアーキテクチャは、やがて業界で最も偉大な成功を収めた技術の1つとなっていく。本企画では、x86プロセッサがたどってきた30年間の軌跡を振り返り、これほどの成功を収めることができた“真相”、そして“これから”に迫ってみる。

Gary AnthesComputerworld米国版

November 2008 Computerworld 83

x86プロセッサの

登場して30年──進化し続けるメインストリームCPUの軌跡

特別企画

「これまで」と「これから」

H A P P Y “ 3 0 t h ” B I R T H D A Y , x 8 6

Page 60: Computerworld.JP Nov, 2008

84 Computerworld November 2008

x86──その30年分の歴史をひも解く

 x86とは、Intelや複数の他社製CPUで採用され

ている機械語による命令セットやアーキテクチャのこ

とを指す。Intel製CPUである8086(写真1)に始まり、

80186、80286、80386、80486、Pentiumシリーズ、

そして最新のマルチコアCPUやモバイル機器向け

CPUに至るまで、x86プロセッサはその進化の過程

でたびたびアーキテクチャを拡張したが、旧モデルと

の下位互換性を常に維持してきた。

 x86プロセッサは、8086の登場から30年間にわたっ

て体系的な発展を遂げ、デスクトップPCからサーバ、

モバイル機器、スーパーコンピュータまで幅広いプ

ラットフォームに対応してきた。その過程でさまざま

なアーキテクチャや他のCPUベンダーが登場してき

たが、x86はそれらを駆逐し、今日では競合はごく少

数となっている。競合企業が長らく支配していた一部

の市場(例えば、米国MotorolaがPowerPCを供給

していたMac市場など)でさえ、近年ではx86に切り

替わっている。

 Intelのx86プロセッサは、コンピューティングの世

界をいかにしてここまで支配するに至ったのだろうか。

以下、その歴史をひも解いていこう。

IBM PCへの採用を機に業界標準への道を駆け上がる

 Intelが最初に発表したCPUは、1971年に日本の

電卓メーカー向けに開発された4ビットCPUの4004

である。その後、まもなく8ビットCPUの8008が登場

し、1975年に同じく8ビットCPUの8080がリリースさ

れた。この8080は、組み立てキットとして通信販売

された個人向けコンピュータ「Altair 8800」に採用さ

れている。ちなみに、ビル・ゲイツ(Bill Gates)氏とポー

ル・アレン(Paul Allen)氏は、Altair 8800向けプロ

グラミング言語「Altair BASIC」を販売するために米

国Microsoftを設立したという経緯がある。

 8080のリリースから3年後、Intelは16ビットCPU

の8086を発表する。そして1980年代初め、8086の

派生版である8088が「IBM PC」(写真2)に採用され

たのを契機として、x86プロセッサは今日へと続く業

界標準の地位を築いていくこととなる。

 1985年には、32ビットCPUの80386が発表される。

Intelのシニア・バイスプレジデント、パトリック・ゲル

シンガー(Patrick Gelsinger)氏は、386の登場が

PC業界の勢いを加速させる“ターニング・ポイント”に

なったと話す。「当時は、それまでの16ビットから32ビッ

トへとx86のアドレス空間を変更する必然性をほとん

ど理解してもらえなかった。人々には、『ミニコンやメ

インフレーム用でもあるまいし、32ビットにしたところ

でどんな用途で利用されるのか』と言われ、むだに贅

沢な仕様だと嘲笑されたものだ」(ゲルシンガー氏)

 その後、米国Compaq Computerが386を採用し

たPCを発表すると、PC市場での圧倒的な支配力を

IBMは失っていく。当時のIBM PCは、処理速度が

386の1/3以下である16ビットCPUの80286を採用

していたからだ。

 Intelの関係者によると、IBMは、32ビットの性能

を生かせるソフトウェアが存在しないことを理由に386

写真1: x86アーキテクチャを初めて採用した16ビットCPUの8086。ここがx86プロセッサの原点だ

Page 61: Computerworld.JP Nov, 2008

85November 2008 Computerworld

x86プロセッサの「これまで」と「これから」特別企画

の採用を拒否したのだという。IBMは当時、プロプラ

イエタリな16ビットOSであるOS/2を開発している最

中だった。

 「IBMは当時、上から下まですべてを網羅するアー

キテクチャを手にしていた。アプリケーションからOS、

ハードウェア設計に至るまで、すべて彼らが開発して

いた」と、386設計チームの一員でもあったゲルシン

ガー氏は語る。「IBMは、すべてを提供できる業界唯

一のベンダーになろうとしていた。だが、IBMの目指

したものは、世代間の互換性が何ら保証されていな

い世界だった」(ゲルシンガー氏)

 そうした状況を、386の登場が一変させた。同氏は、

386が垂直統合型だった業界を水平分業型に変え、

市場を広く開放したのだ、と語った。

 386に続き、1989年には80486が登場する。そし

て1993年、製品名が数字では商標登録できないこと

に気づいたIntelは、それまでの命名規則をやめ、第

5世代のCPUを80586ではなく新たにPentiumと名

づける。Pentiumブランドの下では、Pentium Pro、

Pentium II、Pentium Dなど数多くのCPUが開発さ

れ、さらにローエンドのCeleron、ハイエンドのCore

2がx86プロセッサに追加された。

 名称は大きく変わったものの(もちろん、設計の改

良により、スピード/パワー/効率性が指数関数的

に向上していることは言うまでもない)、これらのCPU

はいずれも、8086から今日まで拡張され続けている

x86アーキテクチャをベースとしている。

業界の節目となる絶妙なタイミングで誕生

 x86プロセッサが支配的地位に君臨できたのは、登

場のタイミングが絶妙だったという点が挙げられる。

 1978年は、巨大で高価なメインフレームから小型

で安価なミニコンへとコンピューティングの舞台が移

行し始めて数年という節目の年であった。となれば、

デスクトップ・コンピュータが次なるフロンティアとな

るのは必然だと言えた。

 加えて、Intelの会長兼CEOであったゴードン・ムー

写真2: IBMが1981年に発表したPC「IBM PC」(写真左)への採用を契機として、x86は業界標準への道を駆け上がっていく

 Intelは、日本の電卓メーカーであるビジコンの求めに応じて、1971年に同社初のCPUを開発する。だが、同社が設立された1968年、創業者らが最も重要視していたのは半導体メモリの開発であった。実際、1969年にIntelが発表した最初の製品は半導体メモリである。 Intelは約20年間にわたり、メモリ製品の開発に注力していた。だが、元Intelのシニア・バイスプレジデントであるアルバート・ユー

(Albert Yu)氏によると、同社は日本の半導体メモリ・ベンダーに押され、1984年には会社存続が危ぶまれる状況にまで追い詰められていたという。 当時のIntelは、利益のすべてをCPUから得ていたが、半導体メ

モリ事業に研究開発費の80%を費やしていた。「われわれの戦略と投資の仕方は、まったく現実的ではなかった」と、自著の中でユー氏は振り返っている。そして翌年の1985年、Intelは不本意ながらも半導体メモリ事業からの撤退を決断する。 ユー氏は述懐する。「これまで多額の資金を投じてきた事業がうまくいかず、見切りを付けざるをえなかったという自責の念を克服し、その後、われわれは将来の礎とすべきプロセッサ事業に全精力を傾けた。それは困難で苦悩に満ちた道のりであったが、同時にわれわれが本来進むべき正しい道でもあった」 しかし翌年、同社の売上げは16億ドルから12億ドルへと落ち込む。さらに、事業再編によって2億5,000万ドルを失った。

History

1 もともとは半導体メモリ・ベンダーを指向していたインテル

Page 62: Computerworld.JP Nov, 2008

86 Computerworld November 2008

ア(Gordon Moore)氏(88ページの写真3)が1965年

に予測した半導体技術のある特性を、x86プロセッサ

がまさに実践してみせたことも大きかった。その予測

とは、簡単に言えば「CPUの性能は2年ごとに倍増す

る」というものである。x86プロセッサは、「ムーアの法

則」と名づけられたこの予測どおりの進歩を遂げ、デー

タセンターから企業のオフィス、そして一般家庭に至

るまでコンピューティング市場の大部分を支配したの

だ。

 8086とその後継CPUは、デスクトップ・コンピュー

タ界の2大巨頭であるゲイツ氏とアレン氏の結び付き

を強める役割も担った。両氏は、1972年に発表され

た非力な8008用BASICを開発しようとして挫折して

いるが、その後Altairに搭載されたより高性能な

CPUである8080用BASICの開発に成功している。

 IntelとMicrosoftのパートナーシップも事実上この

ときから始まっており、今日でも業界を牽引し続けて

いる膨大なソフトウェア資産を両社は生み出していく

ことになる。x86プロセッサを成功に導いた数ある要

因の中でも、両社のパートナーシップから生まれたソ

フトウェア資産は、最も重要な要素に挙げられる。そ

してその重要性は、RISCプロセッサの盛衰を通して

1947年 ● 米国Bell Labsが世界初のトランジスタを開発。

1965年 ● 米国Fairchild Semiconductorのゴードン・ムーア

(Gordon Moore)氏がElectronics誌で、半導体チップ

に集積されるトランジスタの数は18〜24カ月で倍増し

ていくという「ムーアの法則」を提唱。実際、30年以上の

間、CPUのトランジスタ集積度はほぼ2年ごとに倍増し

ている。

1968年 ● ムーア氏、ロバート・ノイス(Robert Noyce)氏、アンディ・

グローブ(Andy Grove)氏が、社名の語源ともなった

「INTegrated ELectronics(集積電子技術)」を事業の

主軸とするIntelを創立。

1969年 ● Intelが第1号製品となる半導体メモリ「1101」を発表。

1101は世界初のMOS型SRAMで、磁気コア・メモリの

終焉を予見させるものであった。

1971年 ● Intelが世界初の4ビットCPU、4004を

発表。フェデリコ・ファジン(Federico

Faggin)氏が設計を担当した。約2,000

個のトランジスタが集積された4004は日

本の電卓メーカー向けに開発されたものだったが、当時

のIntelの広告ではすでに、「ワンチップ上に実装されたマ

イクロプログラム方式のコンピュータ(a microprogra

mmable computer on a chip)」と宣伝されていた。

1972年 ● Intelが8ビットCPU、8008を発表。当時、

まだ10代だったMicrosoftのビル・ゲイツ

(Bill Gates)氏とポール・アレン(Paul

Allen)氏は8008向けプログラミング言語

の開発に挑戦するが、十分な成果は得ら

れなかった。

1974年 ● Intelが8ビットCPU、8080を発表。トランジスタ数は

4,500個となり、前世代のCPUと比べ性能が10倍に向

上した。

1975年 ● コンピュータ革命をもたらした世界初のPC「Altair

8800」に8080が採用される。ゲイツ氏とアレン氏が

Altairで動作するBASIC言語の開発に成功し、これが

後の「Microsoft BASIC」の原型となった。

1976年 ● Intel受難の時代。スティーブ・ジョブズ(Steve Jobs)

氏とスティーブ・ウォズニアック(Steve Wozniak)氏に

より開発されたPC「Apple II」に、米国MOS Technolo

gyの8ビットCPU、6502が採用される。米国Commo

dore製PCにもMOSのCPUが搭載された。

1978年 ● Intelが16ビットCPU、8086を発表。8086

で採用されたアーキテクチャが後に業界

標準となる。

1979年 ● Intelが8086の廉価版として外部データバスを8ビット

に変更した8088を発表。

1980年 ● Intelが数値演算コプロセッサ、8087を発表。

1981年 ● IBMが「IBM PC」に8088を採用。Intelの経営幹部の1

人は、「Intel史上、最大の勝利だった」と当時を振り返っ

ている。

1982年 ● IBMがAMDと契約。AMDは、Intelのセカンドソースと

して8086および8088をIBMに供給することになる。

1982年 ● Intelが16ビットCPU、80286を発表。トランジスタ数

は13万4,000個へ拡大。

1984年 ● IBMが、IBM PCの後 継として80286搭載の「IBM

History of x86 x86プロセッサ年表

Intel 4004

Intel 8080

Intel 8086

Page 63: Computerworld.JP Nov, 2008

87November 2008 Computerworld

x86プロセッサの「これまで」と「これから」特別企画

読み取ることができる。

RISCの台頭にも揺るがなかったx86“強さの秘密”

 1980年代後半から1990年代初めにかけてx86プロ

セッサは、米国Sun MicrosystemsのSPARC、

IBM、Apple、MotorolaのPowerPCといったRISC

プロセッサの猛攻にさらされた。RISCは、命令を単

純化して1つの命令を1つのクロック・サイクルで実行

すれば、CPUはケタ違いの速度で動作する、という

考え方に基づくアーキテクチャである。これに対し、

x86プロセッサのCISCアーキテクチャは、複雑な命

令を複数のクロック・サイクルで実行するというもの

だ。

 有識者やメディア、Intelのライバル企業は当時、

こぞってCISCはもう終わりだと言い立てた。ゲルシ

ンガー氏が「われわれにとっては確かに厳しい時期

だった」と語るように、危機感を持ったIntelは、独自

のワークステーション用RISCプロセッサ、i860の開

発に乗り出した。しかし結局のところ、i860を含め、

いずれのRISCプロセッサもx86の覇権を脅かすまで

PC-AT」を開発。MS-DOSが動作するPC-ATは、その

後10年近くにわたり事実上の業界標準となった。

1985年 ● CPU事業へ注力するためにIntelがメモリ

事業から撤退。そして32ビットCPU、80

386を発表する。トランジスタ数は27万

5,000個で、複数プログラムの同時実行を

可能にした。

1986年 ● IBMに先駆け、Compaq Computerが同社製PCに

80386を採用。

1987年 ● VIA Technologiesがカリフォルニア州フレモントに設

立される。x86ベースのコアロジック・チップセットを発

売開始。

1989年 ● 80486を発売開始。120万個のトランジスタを集積し、

数値演算コプロセッサを内蔵した。Intelが「21世紀初頭

にはマルチコアCPUが登場する」との予測を示す。

1980年 ● SunのSPARCやIBM、Apple、Motorolaの3社が共同

開発したPowerPCといったRISCプロセッサが勢力を拡

大。x86プロセッサのCISCアーキテクチャは性能面で

RISCに後れを取ることになる。この事態を受け、Intelは

RISCプロセッサ、i860を開発。

1990年 ● Compaqが業界初のPCサーバを発表、80486が採用

される。

1993年 ● Intelがスーパースケーラ技術を導入したPentium(トラ

ンジスタ数310万個、クロック周波数66MHz)を発表。

1994年 ● AMDとCompaqが 提携。Compaq製PCにAMD製

x86互換CPU、Am486が搭載される。

1995年 ● IntelがPentium Proを発表し、RISCの優位性を覆す。

分岐予測、アウトオブオーダー実行などの

先進的な機能に加えて、きわめて高速なオ

ンチップ・キャッシュとデュアル・インディ

ペンデント・バス(DIB)が導入された。アプ

リケーションによっては飛躍的なパフォーマンスの向上

を実現した。

1997年 ● Intelが64ビットCPUを実現する新技術「EPIC」を公開。

同時に画像や動画、音声などのデジタル信号処理をサ

ポートするMMX Pentiumも発表。

1998年 ● Intelがローエンド向けCPU、Celeronを発表。

1999年 ● VIA Technologiesがx86プロセッサおよびx87コプロ

セッサ・ベンダーである米国Cyrixと米国Centaur

Technologyを買収。

2000年 ● Pentium 4が登場(トランジスタ数4,200万個)。

2003年 ● AMDがx86命令を64ビットに拡張した命令セット

「x86-64」を発表。

2004年 ● AMDがx86ベースのデュアルコアCPUの動作デモを実

施。

2005年 ● Intelが同社初となるデュアルコアCPU、

Pentium Dを出荷開始。

● Appleが米国Freescale(Motorolaから独

立した半導体ベンダー)とIBMの共同開発

CPU、PowerPCに代えて、Intelのx86プロセッサを

Macintoshに採用すると発表。

● 「市場における自社の地位を乱用し、自由競争を阻害し

ている」として、AMDがIntelを独占禁止法違反で提訴

(2008年現在も係争中)。

代後半

Intel 80386

Intel Pentium Pro

Intel Pentium D

Page 64: Computerworld.JP Nov, 2008

88 Computerworld November 2008

には至らなかった。

 ゲルシンガー氏はその理由を次のように説明する。

「486の発表日(1989年4月10日)の前日、486上で動

作するソフトウェアの数は、市場規模にして数十億ド

ルにまで拡大していた。x86のCISCアーキテクチャは、

確かにRISCよりも処理速度が若干遅かったが、RI

SC陣営がRISCプロセッサ向けの新しいソフトウェア

を開発している間に、われわれはx86プロセッサの処

理速度を大幅に向上することができた。x86はインス

トール・ベースが大きく開発者の数も多かったため、

経済的にはRISCに対し圧倒的に優位な立場にあっ

た。そしてRISCは、その後x86に追いつくことはで

きなかった」

 皮肉なことに、RISCプロセッサ向けのソフトウェア

が十分に提 供されていなかったことや、486と

Pentiumによりx86プロセッサのパフォーマンスが大

きく向上したことが、i860と他社製RISCプロセッサ

の命運を決定づけた。Intel自身、x86以外にもう1つ

メジャーなプロセッサ・アーキテクチャを作りだそうと

したのはまちがいだったと、後に認めている。

 ただし、さまざまな技術革新にRISCが貢献したこ

とも確かだと、カリフォルニア大学バークレー校(Uni

versity of California, Berkeley)のコンピュータ・サ

イエンス教授で、1980年代のRISC発展に大きく寄与

したデビッド・パターソン(David Patterson)氏は話す。

 「例えば、DECが開発したCISCベースのVAXアー

キテクチャはRISCに対抗することができず、ほとん

ど存在感を失ってしまった。だがIntelは、膨大なソ

フトウェア資産を持つx86アーキテクチャを維持しな

がら、RISCでポピュラーになりつつあった新しい概

念を取り込むことに成功した。これは、すぐれた製造

技術をIntelが持っていたことも大きく関係している」

(パターソン氏)

Pentiumのリコール問題で企業としての“あり方”を学ぶ

 1994年の夏、RISCの脅威と同じくらいの心労を

関係者に与えた危機的状況がIntelを襲った。あると

きIntelのテスト・エンジニアが、新型CPUである

Pentiumの浮動小数点除算回路にごく軽微な欠陥を

発見したのだ。だが、その欠陥に起因する問題が実

際に起きる可能性はきわめて低く、影響も限定的で

あったため、Intelは出荷前のCPUを修正するだけで

十分と判断し、出荷済みのCPUはリコールしなかった。

 しかし、その数カ月後、米国バージニア州にあるリ

ンチバーグ大学(Lynchburg College)の数学教授、

トーマス・ナイスリー(Thomas Nicely)氏が、新型

Pentiumを搭載したPCに不具合を発見する。ナイス

リー氏はこの問題をIntelに報告しようとしたが、同社

のだれ1人として彼の苦情に耳を傾けようとはしな

かった(後にIntelもこの事実を認めている)。

 そこでナイスリー氏は、自身が発見した不具合の内

容をインターネット上に公開した。そしてIntelは、各

方面から非難の集中砲火を浴びた結果、企業イメー

ジを大幅に悪化させたうえに、4億7,500万ドルを投

じてCPUをリコールせざるをえなくなったのである。

 「これはIntelにとって苦い経験となったが、われわ

れはこの出来事を通じて消費者向け企業としてのあり

方を学ぶことができた」と、アルバート・ユー(Albert

Yu)氏は著書『Creating the Digital Future』の中

で振り返っている。

写真3: x86プロセッサは、ゴードン・ムーア氏が提唱した「ムーアの法則」をまさに実践してみせた

Page 65: Computerworld.JP Nov, 2008

89November 2008 Computerworld

x86プロセッサの「これまで」と「これから」特別企画

もう1つの節目──RISC的要素を取り込んだPentium Pro

 カーネギー・メロン大学(Carnegie Mellon Univer

sity)のコンピュータ・サイエンス教授で、Intelのリサー

チ・コンサルタントを務めるトッド・モウリー(Todd

Mowry)氏は、x86プロセッサの歴史上でも1995年

の出来事、すなわちPentium Pro(写真4)の登場を

大きな節目として挙げる。

 Pentium Proは、命令の流れから次の命令を予測

して順不同に処理を実行するなど、いくつかの先進

的な機能を備えていた。これにより、CPUのアイドル

時間を従来よりも短くすることに成功した。さらに、

きわめて高速な新型オンチップ・キャッシュを搭載す

ることで、一部のアプリケーションで大幅なパフォー

マンス向上を実現した。

 「それまでのx86プロセッサとPentium Proとの根

本的な違いは、命令セットを変更せずに、RISCの長

所を取り入れた点だ。具体的には、x86命令をRISC

命令に似たマイクロ命令に変換している。いわば、

x86プロセッサにRISCプロセッサが内蔵されている

ようなもので、これによりx86は一気にRISCとのパ

フォーマンス差を解消できたわけだ」(モウリー氏)

 またPentium Proは、トップダウンの設計プロセス

から誕生したとモウリー氏は話す。つまり、「高速なマ

シン」を設計するところから始め、その高速なマシン

上でいかにしてx86プロセッサを効率的に動かすかを

考えていったのだという。

 ゲルシンガー氏も、他のプロセッサ・アーキテクチャ

のすぐれた部分をx86に取り込んでいくアプローチは

実にうまくいったと述べている。「Pentium Proでは、

x86アーキテクチャが飛躍的な進化を遂げている。こ

こでわれわれが行ったのは、ミニコンやメインフレー

 80486が登場したとき、当時のIntelのCEOであったアンディ・グローブ(Andy Grove)氏は、ムーアの法則に基づく「ソフトウェア・スパイラル」という概念を提唱した。その意味を、486のチーフ・アーキテクトであったパトリック・ゲルシンガー(Patrick Gelsinger)氏は次のように説明する。 「ここで言うスパイラルとは、既存のソフトウェアよりも高性能なハードウェアが登場し、ソフトウェアがそれに追いつき、そしてまたより高性能なハードウェアが必要になる、という開発サイクルを意味している。この業界は実際、ソフトウェアが新たなハードウェア

を生み、そのハードウェアがまた新たなソフトウェアの開発につながっていくというスパイラル関係によって、長い間進歩してきたと言える」 マルチコアCPUが登場しながら、そのメリットをフル活用できるソフトウェアがほとんど存在しない今日でも、このスパイラル関係ははっきりと見て取れる。Intelはかねてから、並列プログラミング向けのツールおよび手法を開発するために、社内や大学での研究開発に数百万ドルの投資を行っているが、これはそのスパイラル関係の一環なのである。

History

2 連綿と続くハードとソフトのスパイラル関係

写真4: RISCの“いいとこ取り”をしたPentium Proの完成により、x86プロセッサは飛躍的な性能向上を果たした

Page 66: Computerworld.JP Nov, 2008

90 Computerworld November 2008

ムからすぐれたアイデアを拝借し、それをよりよい方

法で実装するということだった。こうしたことが可能

だったのは、われわれの元にその土台となるすぐれた

製造技術があったからだ」(ゲルシンガー氏)

 プロセッシング・コンポーネントを広範囲にわたり筐

体内部で分散させるメインフレームとは異なり、すべ

てのコンポーネントをきわめて小さな1つの高密度チッ

プに集積したCPUは、設計の柔軟性が高いうえ、設

計が性能に与える影響も大きいと、ゲルシンガー氏は

話す。実際、シリコン・チップのパフォーマンスは、ムー

アの法則に従って年を経るごとに大きく向上している

が、コンポーネントを相互接続するシステムは、シリ

コンほど速いペースで進化していない。

64ビット競争ではAMDに先行を許す

 Intelは、他のCPUアーキテクチャに加えて、x86

プロセッサというみずからのホームグラウンドにおいて

さえ競争を強いられてきた。例えば、一部にx86の技

術を採用したコアロジック・チップセット(マザーボー

ドなどの電子部品で使用)を販売するVIA Technolo

giesが、シリコン・バレーで1987年に設立されている

(1992年に台湾へ本社移転)。現在、VIAは幅広い

製品を手がけており、モバイルおよび組み込み市場

向けに低消費電力のx86互換CPUを提供している。

 世界2位のCPUベンダーである米国AMDがIntel

にとって侮れない強敵となったのは、2000年以降の

ことである。1980年代から1990年代のAMDは、x86

互換CPUを製造している一企業にすぎなかった。そ

のためIntelにとって、AMDを油断ならぬ競合として

意識するようなことはほとんどなかった。

 だがAMDは2003年、x86命令を64ビットに拡張

した命令セット「x86-64」の発表により、技術的にも

対外イメージ的にも大きな躍進を遂げる。x86-64命

令セットを実装したCPUにより、従来の32ビット版

ソフトウェアも64ビットでネーティブ実行できるように

なったわけだ。

 当時のIntelは、64ビットCPUとして米国Hewlett-

Packard(HP)と共同開発したItanium(写真5)を提

供していた。だがItaniumは、大型コンピュータ向け

の大規模演算処理用CPUであり、32ビットのx86対

応ソフトウェアとの直接的な互換性を備えていなかっ

た。そこでIntelは、AMDへの対抗策として、x86命

令の64ビット版拡張命令セット「EM64T」を2004年

に発表した。このときAMDとメディア各社は、最も

重要な64ビットCPU市場でAMDがIntelに先行した

ことを喧伝したものだった。

 「この出来事は、x86アーキテクチャの柔軟性はIn

telにとって不利に働く場合もあるということを示した。

つまり、Intelが市場を支配していようとも、x86の方

向性を変えるチャンスはほかの企業にもあるというこ

とだ」(パターソン氏)

これからの30年に向けて

 x86プロセッサは、“究極のコンピューティング”へ

と向かって着実に歩を進めている。Intelは今年4月

28日、x86プロセッサ搭載の新型スパコンを米国

Crayと共同開発すると発表した。なお、Crayはすで

にAMDの64ビットCPU、Opteronを採用している。

写真5: 64ビット市場に対してIntelは当初、x86と互換性のないItaniumを提供していた。逆にAMDは、x86互換CPUをいち早くリリースしたことで市場から高い評価を受けた

Page 67: Computerworld.JP Nov, 2008

91November 2008 Computerworld

x86プロセッサの「これまで」と「これから」特別企画

 また4月2日には、中国上海で開催した「Intel Deve

loper Forum 2008」において、Intel史上最小のx86

プロセッサ、Atom(写真6)を発表した。一般的なノー

トPC向けCPUの電力消費量が35Wであるのに対し、

Atomのそれはわずか2.5W未満に抑えられている。

Atomは、モバイル・デバイス向けとデスクトップPC

向けの2モデルが6月からすでに出荷されている。

 さてx86プロセッサは、これからの30年も業界標準

であり続ける(あるいは何とか生き延びる)ことができ

るのだろうか。というのも昨今の業界では、CPUの

設計を根本から変えてしまうような革新的な技術がい

くつか登場しており、近い将来に実際の成果として

結実する可能性があるからだ。

 しかし、偉業を成し遂げたx86の終焉を予測する

声はほとんど聞こえてこない。「別の命令セットがx86

に取って代わる理由を見いだすことは非常に難しい。

なぜなら、x86にはその上で動作する価値あるソフト

ウェアが数多く存在しているからだ」(モウリー氏)

写真6: 45nm製造プロセスを適用したAtomプロセッサ。x86はここまで進化し、そしてこれからも進化し続ける

 Intelが8ビットCPUの8080を発表したのは1975年のことだが、当時のCEO、ゴードン・ムーア(Gordon Moore)氏は、その直後から次に来るべきものは何かを模索し始めていた。ムーア氏は、今後数十年にわたってIntelを引っ張っていくような革新的なアーキテクチャを開発したいと考えていたという。 このときIntel社内では、8080アーキテクチャを16ビットに拡張すべきとの意見が多数派を占めていたが、残りの勢力(最終的にムーア氏はこちら側に付く)は、まったく新しく、そしてはるかに先進的なアーキテクチャを開発すべきだと主張していた。 そこでムーア氏は、米国カリフォルニア州サンタクララのエンジニアたちがx86アーキテクチャ(8080アーキテクチャの16ビット版)の開発にいそしむのを尻目に、有能なエンジニアを雇ってオレゴン州ポートランドに研究所を設立した。そして後にマイクロメインフレームと呼ばれるCPU、iAPX 432の開発・設計を開始する。しかし432は、すぐれた耐障害性やマルチコア対応など、25年後に求められるようなあまりにも先進的な機能を備えていたため、完成したCPUはきわめて巨大で複雑なものとなってしまった。 結果的に、3チップ構成の32ビットCPUとして1981年に発表された432は、高価であるうえ、値段のわりに処理速度も低速であったため、売上げは伸びなかった。当時のユーザーは、16ビットCPUの8088と80286の処理能力で十分に満足していたのである。

 「サンタクララとポートランドのそれぞれの取り組みは競合するものであり、両者はライバル関係にあった」と、カリフォルニア大学バークレー校教授のデビッド・パターソン(David Patterson)氏は語る。同氏によれば、x86の設計には浮動小数点演算といった432のアイデアが取り込まれていたものの、“エレガントさ”という点では432に軍配が上がったという。 1985年、Intelは432を発展させたもう1つの取り組みを開始する。ドイツのSiemensと共同でBiiNという企業を立ち上げ、耐障害性の高いコンピュータの開発・実現を目指したのだ。だが、この共同開発プロジェクトも結局、これといった成果を上げることなく終焉を迎える。 仮に1970年代の後半、432が成功を収めていたら、現在のコンピュータ業界はどのような状況になっていたのだろうか。パターソン氏は、今日のような業界標準という地位にx86アーキテクチャが到達することはなかっただろうと話す。 「432の開発チームがもう少し現実的な製品を開発し、また市場にもそれを受け入れる準備が整っていたら、432のアーキテクチャが今、生誕30周年を迎えているのではないだろうか。もし、パラレル・ワールドというものがあるのなら、そこでのIntelは432が成功を収めていて、このアーキテクチャを今でもCPUに採用していることだろう」(パターソン氏)

History

3 「x86」ではなく「x432」だった可能性も──先進的すぎて商業的成功を収められなかった、もう1つのアーキテクチャ

Page 68: Computerworld.JP Nov, 2008

92 Computerworld November 2008

──IntelとMicrosoftは、ある意味ともに成長してきた企業だと言える。ビル・ゲイツ(Bill Gates)氏とは、早くから交流があったのか。ゲルシンガー氏:ビルとは長年にわたって何かと交流がある。

彼は業界で最も頭が切れ、そして最もアグレッシブな人物の1

人だ。攻撃的で精力的、そしていつも何かを求め続けていた。

 あるときビルが、80386について手厳しい指摘を私にしたこ

とがあった。当時の私はまだ下っ端のエンジニアで、ビルはす

でに業界のカリスマ的存在だった。そんな駆け出しの私が彼に

議論を挑んだのだから、今考えればとんでもないことをしたも

のだと思う。同じ部屋にいるだれもが沈黙する中、ビルと私は

互いに一歩も引かず自分の意見を激しくぶつけ合った。一息入

れるために休憩を挟んだところでIntelの古参社員が、「もうこ

のあとは会議に参加しなくていい」と私に告げるほどだった。

──その後、386はどのようにして世に出たのか。ゲルシンガー氏:32ビット・アーキテクチャを採用した386は、

業界の“ターニング・ポイント”とでも言うべき存在であった。す

でに普及していた286が16ビット・アーキテクチャであったため、

386は当時、「ミニコンやメインフレーム向けでもないのに、32

ビットにする意味があるのか」と言われ、むだに贅沢な仕様だ

と嘲笑されたものだった。

 そこで私は、記者やアナリストらと話す機会を数多く設け、

これだけのメモリが必要になる用途や理由を説明して回った。

──x86プロセッサの進化過程で目の当たりにした、そのほかの重要な出来事は。ゲルシンガー氏:PC互換機によって、PC市場の覇権がIBM

からCompaqに移ったのも同時期(1986年)のことだった。

IBMの支配下から脱したことで、PCは真の意味で業界標準プ

ラットフォームとなった。

 また、1995年のPentium Proの登場も重要な出来事として

挙げておきたい。Pentium Proでは、命令を順不同で実行で

きるアウトオブオーダー・アーキテクチャを採用している。われ

われは、ミニコンやメインフレームのコンピュータ・アーキテク

チャからすぐれたアイデアを拝借し、それをよりよい方法で

x86プロセッサに実装していった。こうしたことが可能だった

のは、われわれの元にその土台となるすぐれた製造技術があっ

たからである。

──1980年代後半から1990年代初めにかけて、x86プロセッサは競合となるRISCプロセッサの猛攻にさらされた。当時、あなたはどのような立場にあったのか。ゲルシンガー氏:当時は、Intel社内で486の開発責任者を務

める一方、スタンフォード大学(Stanford University)の修士

課程に在籍していた。そこで論文の指導教官を担当していたの

が、現スタンフォード大学総長のジョン・ヘネシー(John

Hennessy)氏だった。ヘネシー氏とデビッド・パターソン(David

Patterson)氏は、RISCの発明者として有名だ。

 ヘネシー氏とは、RISCについて公開討論を3回行っており、

その中で私は次のように述べたことがある。「確かにx86の

CISCアーキテクチャはRISCよりも若干速度は遅いが、RISC

陣営がRISCプロセッサ用の新しいソフトウェアを開発している

間に、われわれはx86プロセッサをはるかに高速にすることが

できた。x86はすでにソフトウェア資産を手にしているが、この

資産を生み出すことのできないRISCプロセッサはもはや失敗

と言えるのではないか」

 この指摘は討論の中でも特に辛辣なものだったが、ヘネシー

氏は私のほうを向いてこう言った。「君の担当教授はだれだった

かな」。その数日後、彼は私に修士号の学位を授与してくれる

ことになっていたのだ(笑)

──結局、その公開討論ではあなたが勝利したが、学位は無事にもらえたのか。

“ミスターx86”のパトリック・ゲルシンガー氏が語る「x86プロセッサ」成功への道のり

電気技師であったパトリック・ゲルシンガー(Patrick Gelsinger)氏が米国Intelに入社したのは、1979年のことである。同氏は初期のIntel製CPUである80286と80386の設計・開発を経て、25歳という若さで80486のチーフ・アーキテクトに就任する。x86プロセッサの開発当初から長きにわたり携わってきた同氏に、生誕30周年を迎えた同プロセッサの成功秘話を聞いた。

Gary AnthesComputerworld米国版

Interview

Page 69: Computerworld.JP Nov, 2008

93November 2008 Computerworld

x86プロセッサの「これまで」と「これから」特別企画

ゲルシンガー氏:学位は問題なくもらえた。

 x86プロセッサはインストール・ベースが大きく、また開発者

の数も多かったため、経済的にはRISCに対して圧倒的に優位

な立場にあった。そしてRISCは、結局x86に追いつけなくなっ

た。ただし、ヘネシー氏と私が、今日に至るまで強い仲間意識

を共有している点だけははっきりと述べておきたい。

──あなたは386の設計・開発に携わったあと、25歳で486のチーフ・アーキテクトに就任している。25歳という若さでチーフ・アーキテクトになるというのはどのような気分だったのか。ゲルシンガー氏:486は、最初から最後まで私が開発に携わっ

たCPUで、自分の子供のような存在だと思っている。チーフ・

アーキテクトという大役を任せられたのは、恐ろしくもあり、わ

くわくするようなことでもあった。何しろ、スタンフォード大学

で修士の学位を取得したばかりで、まだ業界経験が数年しか

ないにもかかわらず、当時、業界で最も重要なプロジェクトの

責任者に任命されたのだから。プロジェクトのメンバーは100

名を超えており、なかには私より25歳年上の人もいた。

──マルチコアCPUが登場しながらも、複数のコアを同時に実行するようなソフトウェアがそれほど多く登場していない。しかし、マルチコアというコンセプトは、依然として非常に有効なコンセプトであると思う。ゲルシンガー氏:そのとおりだ。マルチコアCPUへの移行は、

ハードウェアとソフトウェアにおけるスパイラル関係(89ページ

のヒストリー 2参照)の新たな転換点と言えるだろう。

──クロック周波数競争にもはや意味はなく、これからはマルチコアCPUの時代だとIntelが認識したのはいつごろか。ゲルシンガー氏:IntelのCTOを務めていた2001年、私はある

論文を発表した。その中で、後に話題となる熱密度をプロット

したグラフ──限られたシリコン上でどれだけ電力を消費する

かを示したグラフ──を掲載した。このグラフは、原子炉また

は太陽表面とCPUの熱密度が2015年までに同レベルに達す

ることを示していた。このことは、継続不可能な道をわれわれ

が歩んでいるということをまさに意味していた。そこでわれわれ

は、「right-hand turn(正しい方向への方針転換)」と社内で呼

んでいる戦略転換を行う必要があったわけだ。

 熱密度の上昇を示したこのデータを巡り、「現在の路線(ク

ロック周波数競争)を維持できるか」「路線維持を可能にする冷

却システムを開発できるか」といった激論が社内で繰り広げら

れた。そしてあるとき、「われわれは今、ギガヘルツ競争を市場

で繰り広げている。このまま競争を続けていれば、よりすぐれ

たギガヘルツCPUを開発できるだろう。今の市場では、クロッ

ク周波数の高いCPUこそがすぐれたCPUだと認識されている」

という意見が出た。

 こうした意見からもわかるように、方針転換の際には、技術

的要因のほかにマーケティング的な側面もあって、大きな反対

の声が実は上がっていたわけだ。

──x86プロセッサは今後どうなっていくのか?ゲルシンガー氏:今年4月に上海で開催された「Intel Deve

loper Forum」で講演を行ったのだが、そこで私は、“如意棒”

という強力な武器を使う神話上の猿、孫悟空の絵を聴講者に

見せた。如意棒は、針ほどの長さから天を突くほどの長さにま

で自在に伸縮できる。

 講演のタイトルは「ミリワットからペタFLOPSまで」であった

が、ここで私が言いたかったのは、われわれのx86プロセッサは、

世界最小のコンピュータから世界最大のコンピュータ(ペタ

FLOPS級コンピュータ)まで、如意棒のように自由自在に対応

していくということである。

Profile【氏名】パトリック・ゲルシンガー(Patrick Gelsinger)【現職】米国Intel シニア・バイスプレジデント兼デジタル・エンタープライズ事業本部長

【居住地】米国オレゴン州ポートランド【あまり知られていない興味深い事実】敬虔なクリスチャンであり、「Balancing Your Family, Faith & Work」(発行:Life Journey)という著書がある。

【最初の職業】米国ペンシルバニア州アレンタウンのラジオ/テレビ局であるWFMZにて、技師兼深夜ラジオのDJを務める。幼少のころには、おじが経営する酪農場/競走馬牧場で働いていたこともある。「Intelに就職したばかりのころは、コンピュータのチップよりも牛のチップ(乾燥した糞のこと)のほうが詳しかった」(ゲルシンガー氏)という。

【これだけはやめられない】Starbucksのラテ(無脂肪乳でベンティ・サイズ)

Pat Gelsinger

Page 70: Computerworld.JP Nov, 2008

IT

K

EY

WO

RD

44

Computerworld November 200894

 Nitroは、リッチ・クライアント開発言語「Curl」の提

供元として知られる米国Curlが提供する企業向け

RIA(リッチ・インターネット・アプリケーション)ランタ

イム・ソフトウェアである。現在、ベータ版が公開され

ている。

 Nitroは、サーバ・サイドと連携する一般的なRIA

の実行に加えて、デスクトップ環境だけでRIAを動か

すオフライン・モードにも対応したランタイム環境。こ

うしたオフラインRIAに必要な性能とグラフィックス技

術、そしてサンドボックスに代表されるセキュリティ機

構を提供する。

 もっとも、こうしたオフライン機能はRIAプラット

フォームにとって今や必須のものとなりつつある。リッ

チなユーザー・インタフェースをサポートし、すばやく

ロードできるという特徴を備えたRIAをデスクトップ上

で利用する動きが広がるにつれて、オフラインRIAを

サポートするランタイムが登場してきた。実際、「AIR」

Adobe AIR対抗のオフライン対応RIAランタイム企業向け機能の充実でAIRと差別化

Computerworld 編集部

Nitroニトロ

▼44

IT KEYWORD

(Adobe Systems)や「Google Gears」、「Prism」(Mozilla)

といったRIAプラットフォームは、例外なくオフライン・

モードを備えている。

 コンシューマー向けRIAに適しているAIRとは異な

り、Nitroは企業向けのRIAに照準を合わせているの

が特徴だ。例えば、大きなサイズのデータ・セットを扱

えたり、認証を受けていないRIAを企業ネットワーク

から締め出したりする機能を備えている。また、強力

なセキュリティ・モデルをサポートし、RIAを安全なサ

ンドボックス・エリアに限って稼働させることが可能と

なっている。

 さらにNitroでは、Curl言語で記述されたネーティブ・

アプリケーションが動作する。この言語は、米国マサ

チューセッツ工科大学(MIT)で10年前に誕生したリッ

チ・クライアント専用のプログラミング言語だ。ネーティ

ブなCurlアプリケーションの場合、AIRよりも高いパ

フォーマンスが得られるとしている。

今年4月に米国サンフランシスコで開かれたイベント「Web 2.0 Expo San Francisco」(4月22日~25日開催)では、Nitroで作成されたアプリケーションのデモがいくつか披露された。写真は、米国Salesforce.comのオンデマンド型CRMアプリケーション「Salesforce」との連携を実現させたダッシュボード(左)と、米国FacebookのSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)「Facebook」のAPIを利用し、ユーザーのつながりをグラフィカルに表示したもの

*資料:カール

Page 71: Computerworld.JP Nov, 2008

「話題の製品の機能を詳しく知りたい」「自社では、どのような技術を使うのが最適なのだろうか」──企業において技術や製品の選択を行う「テクノロジー・リーダー」の悩みは尽きない。そこで、本コーナー[テクノロジー・フォーカス]では、毎号、各IT分野において注目したい製品や技術をピックアップし、その詳細を解説する。

[テクノロジー・フォーカス]

D

TechnologyFocus

evelopment[ディベロップメント]アプリ開発者がグーグルに突きつけた「Google App Engine」への要望と期待

November 2008 Computerworld 95

Page 72: Computerworld.JP Nov, 2008

Computerworld November 200896

Technology Focus

アプリ開発者からの要望は400件以上

 「Google App Engine」に強い期待を寄せるアプリ

ケーション開発者にとって、同サービスの現状は決し

て満足できるものではないようだ。実際、商用アプリ

ケーションの構築に必要な基本機能をもっと迅速に

追加するよう、Googleに強く要求している開発者は

決して少なくない。

 アプリケーション開発者から寄せられた代表的な要

望としては、後からコンピューティング・キャパシティ

を追加できるようにリソースの制約を撤廃すること、

Python以外のプログラミング言語をサポートすること、

SSL(Secure Socket Layer)やHTTPSなどを使っ

たアプリケーション間通信の安全性を確保することな

どがある。

 もっとも、App Engineに対しさまざまな要望が寄

せられていることは、Google側も十分認識している。

同社のGoogle App Engine製品マネジャー、ピート・

クーメン(Pete Koomen)氏とポール・マクドナルド

(Paul McDonald)氏は、多くのアプリケーション開発

者がオフィシャル・フォーラムへ積極的に参加したり、

Googleが設定した要望リスト・ページ(画面1)に要望

が400件以上も書き込まれたりというように、App

Engineに対する開発者の強い興味や熱意に勇気づ

けられているという。

 「App Engineに対応したすばらしいアプリケーショ

ンがたくさん登場し、開発者からの有益なフィードバッ

クも数多く得られている」(マクドナルド氏)

 マクドナルド氏はさらに、「当社のApp Engine開発

チームは、アプリケーション開発者からの要望に耳を

傾け、サービスの改善と拡張に積極的に取り組んで

いる。パイプラインには、まだたくさんのものが詰まっ

ている」と力説した。ただし、App Engineの開発とロー

ルアウト計画の詳細については、Googleのポリシー

に従い公表するつもりはないとしている。

20万を超える開発者がApp Engineアカウントを取得

 App Engineは今年4月初旬に発表され、限定的で

はあったが、プレビュー版によるサービス提供が開始

された。その2カ月余りあとの5月28日には一般公開

も始まり、料金体系も明らかにされている。

Dホステッド型アプリケーションの開発・運用環境として華 し々くデビューした「Google App Engine」。クラウド・コンピューティングに目を向けるアプリケーション開発者からの支持は絶大で、同サービスのアカウント数は早くも20万を超えているようだ。ただし、すべての開発者が現状のGoogle App Engineに満足しているわけではない。仕様変更や改善要求など、同サービスにはすでに多くの要望が寄せられている。こうした声にGoogleはどう応えるのだろうか。以下、開発者の要望とそれに対するGoogleの考えをまとめてみた。

Juan Carlos PerezIDG News Serviceマイアミ支局

evelopment[ディベロップメント]

アプリ開発者がグーグルに突きつけた「Google App Engine」への要望と期待

開発者たちの“熱き思い”にグーグルはどう応えるのか

Page 73: Computerworld.JP Nov, 2008

November 2008 Computerworld 97

Developm

entDevelopment

 Googleが当初オファーした無料アカウントには応

募者が殺到し、あっという間に1万人の募集定員に達

した。同社の発表によると、一般公開が始まった5月

末には、すでに7万5,000人のアプリケーション開発

者がサービスを利用し、それ以外に8万人が予約リス

トに名を連ねていたという。

 Googleは現時点でのApp Engineのアカウント数

を明らかにしていないが、おそらく20万人を超えてい

るというのが、アナリストたちの一致した見方である。

 米国の調査会社Gartnerのアナリスト、レイ・ヴァ

ルデス(Ray Valdes)氏も、App Engineのアカウント

数を「非常に大きな数字」と見ている。同氏は、「Google

は今後、App Engineでの価値提案──開発者はコー

ドのみを記述し、Googleが残りすべてを請け負うこと

──を実行に移すことになる」と話す。

 App Engineは、汎用のクラウド・コンピューティン

グ・インフラストラクチャでもなければ、あらゆるタイ

プのアプリケーションに適合するように設計された開

発環境でもない。むしろ、Googleが開発したアプリケー

ション、例えば科学計算のようなロングランのプロセ

スを要求しない大衆向けのWebアプリケーションに特

化した環境である。もう少し具体的に言うと、ブログ

やオフィス生産性プログラム、ソーシャル・ネットワー

キングなど、データベースを基盤とするWebアプリケー

ション向けに設計されている。

 また、米国Amazon.comが提供している「Amazon

Web Services(AWS)」などのオンライン・サービスと

は異なり、App Engineは高度に統合された一連のコ

ンポーネント群を提供する。これにより、これまで開

発者自身が行ってきたアプリケーションの調整や構成

などの負担は軽減されることになると、Googleは説

明している。

 ただし、その一方で、アプリケーション開発者側で

選択できるオプションは減らされ、一部の柔軟性や制

御性は犠牲になっている。つまり、多くの部分をGoo

gleに委ね、アプリケーションの迅速な開発や展開を

優先したいと考える開発者向けのサービスがApp

Engineなのである。

開発者が口をそろえるApp Engineの魅力

 App Engineが多大な支持を集めているのは、この

サービスの仕組みが開発者の琴線に触れたことが大

きな理由である。Googleの狙いはすばり的中したと

言っても過言ではない。

 App Engineを活用しているアプリケーション開発

者に電子メールで質問してみたところ、2つの事実が

明らかになった。1つは、このサービスに対して多くの

開発者が熱狂的になっていること。そしてもう1つは、

彼らがサービス内容の拡張と強化を強く望んでいるこ

とだ。

 多くの開発者が口をそろえて称賛するのは、負荷

分散機能や高い拡張性、Googleが設計したデータ・

ストア、ファイルシステム、照会言語、そしてコンポー

ネントの高度な統合化と全体的なシンプルさである。

 カリフォルニア州パロアルトの起業家でWeb開発

者のビル・カッツ(Bill Katz)氏は、「Bloog」いう名前

のアプリケーションを開発し、オープンソース・ライセ

ンスの下でリリースした。また、Bloog以外にも2つの

アプリケーションを開発中だという。

画面1: Google App Engineへの要望をまとめたリスト・ページ (http://code.google.com/p/googleappengine/issues/list)

Page 74: Computerworld.JP Nov, 2008

Computerworld November 200898

Technology Focus

 カッツ氏の開発チームは、同氏と配偶者の2人だけ

の少数体制だ。そのため、App Engineに備わる統

合化や自動化機能、そして全体を貫くシンプルさは

大変ありがたいとカッツ氏は言う。

 App Engineのメリットとしてカッツ氏が最も気に

入っているのは、開発者側の負荷を軽減してくれると

ころだ。「App Engineは、複数サーバを管理する機

能やスケーラブルなデータベースなどにより、拡張性

の高いWebアプリケーションを開発するために必要な

タスクを大幅に減らしてくれた」(カッツ氏)

 Amazon.comのAWSについても「すばらしい」と高

く評価するカッツ氏だが、App Engineとは「ターゲッ

トとする市場が異なる」と考えている。「AWSは、多

様な組み合わせが可能な生のコンポーネントを提供

し、拡張性の高いWebアプリケーションの構築を実

現する。これに対してApp Engineは、特定の方法に

限定されるものの、フルに統合化されたスタックを提

供する」と同氏は説明する。

 オンライン・ストレージ「Amazon S3」のユーザーで

もあるカッツ氏は、今後は同サービスを個人的なバッ

クアップ・ストレージとして利用し、App Engineがサ

ポートできないWebサービスを「Amazon EC2」でホ

スティングするつもりである。

Googleにかかる“要改良”プレッシャー

 App Engineに対するアプリケーション開発者たち

の熱狂は、「サービスの完成度を高めなければならな

い」というプレッシャーをGoogleに与えている。

 前出のカッツ氏は、App Engineを称賛する一方で、

いくつかのキーとなる機能が欠けている点を指摘す

る。例えば、Python以外のプログラミング言語がサポー

トされていないといった点である。

 同氏によると、開発者たちはリソースの割り当てが

増えることや賦課方式のサービスが始まることも心待

ちにしており、バックグラウンド・タスクの提供にも期

待しているという。

 現在、App Engineで稼働するアプリケーションには、

1登録ユーザー当たり最大で500MBのパーシステント・

ストレージと、月間500万ページ・ビューに見合う帯

域幅トラフィックが割り当てられるが、Googleは年内

にもこうしたコンピューティング・リソースを追加購入

できるようにする方針だ。

 バージニア州アレクサンドリアにあるFirst Obje

ctive Softwareの社長、ベン・ブライアント(Ben

Bryant)氏は現在、配列データをホスティングする商

用アプリケーションの開発を進めている。だが、Goo

gleがApp Engineで包括的なフルテキスト検索機能

を提供するまで同アプリケーションをロールアウトでき

そうにないことを、ブライアント氏は不満に思っている。

「他のものはすべてそろっているのだが」と同氏は残念

そうに語った。

 米国Self-StarのCEO、フィリップ・ヴァーヘイク

(Filip Verhaeghe)氏も、App Engine上で稼働する

商用アプリケーションの提供を計画している1人だ。

同氏は今、信頼できる通信機能がGoogleからリリー

スされるのを待っている状態だという。この機能がな

いため、現在はWebブラウザ組み込みのカスタム暗

号スキームで対応せざるをえないのだ。「顧客との信

頼関係を確保する手段がない」とヴァーヘイク氏は不

満げに話す。

 ヴァーヘイク氏が不満に感じている点はこれだけで

はない。サービスがベータ段階であること、リソース

の追加ができないことなどもそうである。また同氏は、

開発者とのライセンス契約がもう少しきちんと整備さ

れることを望んでいる。App Engineにアップロードさ

れたコードの法的な保護が十分でないと、同氏は考

えているのだ。

 「『アップロードされたコードについては詮索しない』

というGoogleの意図はわかるが、トラック・レコード

の仕組みがないのは痛い。特に、開発者の考案した

ものを“公開”する場合、著作権との絡みで、どのよ

うにコードをアップロードすればよいかという問題が

生じる。Googleは法的保護について、もう少し検討

すべきだ」(ヴァーヘイク氏)

Page 75: Computerworld.JP Nov, 2008

November 2008 Computerworld 99

Development

米国Microsoftの「Live Mesh」(プレビュー版)は当初、インターネット経由で各種デバイスを同期させるWebベースのサービスと位置づけられていた。しかし同社はこの位置づけを変更し、クラウド・ベースの開発環境として再デビューさせるもようだ。

 今年10月27日から3日間の日程で開催される開発者向けコンファレンス「ProfessionalDevelopersConference(PDC)2008」(カリフォルニア州ロサンゼルス)において、MicrosoftはLiveMeshの詳細を明らかにするようである。 PDC2008のセッション紹介文の1つには、「クラウド・サービスおよびクライアント・プラットフォームであるLiveMeshを活用し、デバイス間のアプリケーションとサービスを連動させるAPIの開発方法について詳説する」と記されている。 今年4月の時点でMicrosoftは、LiveMeshを「ファイルやプログラムをデバイス間で共有したり、同期したりできるプラットフォーム」と説明していた。しかし最近、同社はその位置づけを変えつつあるようだ。 例えば、同社はLiveMesh用の開発者向けコンポーネントをリリースし、LiveMesh対応アプリケーションの開発を可能にしている。 以前のMicrosoftはLiveMeshを説明する際、「クラウド・コンピューティング・サービス」という言葉を使用していなかった。クラウド・コンピューティングと言えば、米国Amazon.comが提供する「ElasticComputeCloud(EC2)」などが有名である。EC2は顧客の要求に応じてコンピュータ処理能力やインフラストラクチャを提供するサービスで、自前でコンピューティング・リソースを所有していなくてもアプリケーションを開発/ホスティングできるのが特徴だ。 調査会社の米国ForresterResearchでアナリストを務めるジェフリー・ハモンド(JeffreyHammond)氏は、「MicrosoftがLiveMeshの方向性を、どの程度変更するのかわからない」としながらも、「(LiveMeshの)発表当初に宣伝されていた内容からは明らかに異なるサービスになりそうだ」と予想する。 「LiveMeshがどのように拡張されていくのか、非常に興味がある。しかし、Microsoftが公開している情報だけではその内容を推測することは難しい。ただし、MicrosoftはLiveMeshとオンライン・プラットフォームである『WindowsLive』との違いを明確にする必要があると、私は考えている」(ハモンド氏)

「EC2」や「Google App Engine」に対抗 調査会社の米国Zapthinkでアナリストを務めるジェイソン・ブルームバーグ(JasonBloomberg)氏は、「サービスを動作させるクラウド・ベースのフル機能インフラストラクチャを提供するという点において、LiveMeshはEC2に(今のところ)及ばない」と指摘する。同氏によると、LiveMeshは他のクラウド・コンピューティング・サービスとは異なり、データおよびサーバの仮想化に注力していないという。 さらにBloomberg氏は、LiveMeshの課題として、サービスの提供対象がWindows対応のデバイス環境に限定され、ほかのクラウド・コン

ピューティング・サービスとは異なり異機種混在環境をサポートしていないことを挙げる。 「ほとんどのエンタープライズ・ユーザーやヘテロジニアスな環境を利用しなければならないユーザーにとって、(Windows対応のデバイス環境に限定される)LiveMeshは実質的に無価値だ」(ブルームバーグ氏) それでもLiveMeshを開発プラットフォームとして浸透させたいMicrosoftにとって、LiveMeshを開発者に売り込むことは最重要ミッションである。 「Microsoftは過去の経験から、早期に開発者をターゲットにすることが“カギ”になると学んだのだろう。開発者を取り込めなければプラットフォーム戦争には勝てない」(ハモンド氏) GoogleやFacebookなどもみずからAPIを公開し、自社のオンライン・サービスに対応したアプリケーションを開発者が簡単に構築できるよう、策を講じている。特にGoogleはこうした戦略のおかげで、同社のオンライン・アプリケーションをさまざまな携帯デバイスに搭載させることに成功している。 MicrosoftがGoogleと同様の戦略を考えていることは容易に推測できる。ただし、現時点でその結果を論じるのは時期尚早だろう。 「サービスを“メッシュ化”するというのは、あらゆる対応デバイスからアクセス可能になることを意味するのだろうか。特別な操作をせずに携帯電話と(Microsoftが提供する)サービスを連携させられるのであれば、すばらしいサービスになると思う」(ハモンド氏) 同氏は、「多くの企業がクラウド・コンピューティング市場への参入を表明しているなかで、LiveMeshがEC2や『GoogleAppEngine』と競合するサービスに成長するのは想像に難くない」と指摘する。ちなみに、最近では米国IBMがクラウド・コンピューティング・プラットフォームの開発に数億ドルを投資する予定だと発表している。 「クラウド・コンピューティング市場のシェア争いに加わる意思を表明することが、現在の流行のようだ」(ハモンド氏)

マイクロソフトの「Live Mesh」、クラウド・ベースの開発環境に衣がえ?COLUMN

Developm

ent

画面A:Live MeshのWebページ

Page 76: Computerworld.JP Nov, 2008

Computerworld November 2008100

Technology Focus

 一方、スウェーデンに本拠を置くColliberty Easy

Publisherの上級開発者、ジョアン・キャリソン(Johan

Carlsson)氏は、App Engineにアップロード可能なファ

イル数の上限が1つのアプリケーションにつき1,000で

あることを不満点に挙げた。

 また、商用ソーシャル・ネットワーキング・アプリケー

ションをパートナーと共同開発しているマサチュー

セッツ州ケンブリッジ在住のマーモウド・アーラム

(Mahmoud Arram)氏は、App Engineの外部にデー

タを自動的に移行する方法や、マルチスレッド・アプ

リケーションをサポートする計画があるかどうかを知り

たがっている。

要望を重く受け止めるGoogle

 Googleは、開発者から指摘されている点や前出の

要望リスト・ページで挙げられた機能の重要性を十分

に認識している。しかし、それにどう応えるか、そし

てどのように提供するかについては、いまだ不透明の

ものもある。

 その1つはテキスト検索機能である。App Engine

にはシンプルなテキスト検索機能が用意されているが、

「われわれはもっと高度な機能を提供すべきだという

ことに気づいている」とGoogleのマクドナルド氏は強

調する。「App Engineで完全なフルテキスト検索機能

を提供したい。重要な機能であることは確かだ」と同

氏は述べているが、いつまでに提供するかは明らかに

していない。

 App Engineの外へのデータ移行に関しては、Goo

gleは業界標準のやり方をサポートするつもりのよう

だ。マクドナルド氏は「データ移行を容易にする」と明

言しているし、クーメン氏は「データの制約問題は多

少誇張されている」として複雑な制約を設けないこと

を示唆している。クーメン氏はさらに、「今もApp En

gineのデータを外部に移行することは可能だ。われ

われはそのプロセスをもっとシンプルにし、できれば

自動化したいと考えている」と付け加えた。

 App Engineのマルチスレッド・アプリケーション対

応を開発者が望んでいることも、Googleは以前から

知っていた。しかし、当面はシングルスレッド対応の

アプリケーションに限るというのがGoogleの考えだ。

クーメン氏は、並列的に稼働している複数のサーバ

に分散するといった対応になると説明する。

 「そうすることでアプリケーションは、開発者の手を

煩わすことなく、スムーズに拡張できるようになる。

App Engineは自動的にサーバの負荷分散を行うので、

特定のインスタンスやサーバに過度のストレスがかか

ることはない」(クーメン氏)

 1つのアプリケーションにつき1,000というファイル

数の上限についても、直ちに変更する計画はないと

マクドナルド氏は言う。なぜならこの制限は、アプリ

ケーションのエンドユーザーがアップロードできるファ

イル数に適用されるものではなく、アプリケーション

当たりのストレージ容量に関係しているものだからだ。

 両氏はまた、App Engineの柔軟な拡張性に貢献

しているGoogleのプロプライエタリなGQLデータ・ス

トアをサポートし続けることも明言した。これは、換

言すればSQLデータベースをサポートする計画は今

のところ存在しないことを意味する。

 一方、安全なアプリケーション間通信のサポートに

ついては、GoogleのToDoリストにすでに入っている。

ただし、それをいつ提供するかは決まっていないよう

だ。「App Engineで動くアプリケーションは、当面は

Googleのユーザー・アカウントを認証メカニズムとし

て利用できる」とマクドナルド氏は捕捉した。

 Pythonに精通していないアプリケーション開発者

にとっては、これ以外のプログラミング言語をApp

Engineがサポートするかどうかも重大な関心事であろ

う。これについて両氏は、言語のサポートを拡大する

方向で作業を進めていると述べるにとどまった。

 一部の開発者から懸念の声が上がっていたアプリ

ケーションのライセンスについては、「現時点でも非常

に明快だ」と両氏は口をそろえる。アプリケーションの

コード、データ、知的財産はすべて開発者に帰属す

ると両氏は強調する。

Page 77: Computerworld.JP Nov, 2008

November 2008 Computerworld 101

Developm

entDevelopment

 「知的財産の件はシリアスに考えている。この問題

を解決に導くのはGoogleに対する信頼だろう。この

ことについては、ライセンス契約書や企業としての行

動を通して、開発者に理解してもらえるように努力し

ていく。彼らのコードとデータは、何があろうと彼らの

ものだ」(マクドナルド氏)

App Engineを巡るGoogleと開発者の思惑

 開発者がどのようにApp Engineを利用しているか、

Googleは注意深く観察しているようだ。これは、自

社のインフラストラクチャにかかるアプリケーション負

荷を予測し、必要となるコンピューティング・リソース

の判断材料を得るためでもある。

 米国の調査会社Redmonkのアナリストであるステ

ファン・オグラディ(Stephen O'Grady)氏は、App

Engineのようなインフラストラクチャにはこうしたキャ

パシティ・プランニングが欠かせないと強調する。「需

要の正確な予測が可能になるまで、Googleは順次機

能を追加しながら適切なパフォーマンスを探るつもり

でいるはずだ」(オグラディ氏)

 今のところ、App Engineの膨大なアカウント数ほ

どには、この上で動くアプリケーションは多く登場し

ていない。そのため、新しいクラウド市場のベスト・プ

ラクティスを探り出すチャンスがGoogleにはまだ残っ

ていると、The 451 Groupのアナリスト、ヴィシュワ

ナス・ヴェヌゴパラン(Vishwanath Venugopalan)氏

はGoogleにアドバイスする。

 いずれにしても、GoogleはApp Engineのポジティ

ブな支持者層を大切に扱う必要がある。「開発者たち

の支持は絶大だ。それにGoogleがどう応えるかだ」と

ヴェヌゴパラン氏は言う。まずはサポートするプログ

ラミング言語の種類を増やし、次にパフォーマンス向

上とシステム信頼性を確保しなければならない。特に

今年6月のような障害に見舞われたときに、サービス・

レベルをどう保証するかが重要になるだろう。

 前出のカッツ氏のような熱狂的な開発者は、Goo

gleがApp Engineをこの先どうするかを冷静かつ注

意深くウォッチしている。彼らは、先ごろ発生した障

害もサービス初期にはよくある出来事だとして、現時

点ではさほど問題視していない。

 言いかえれば、彼らは現状よりも今後に多大な関

心を寄せているのだ。特に、リソースの割り当てが撤

廃されたときにApp Engineがどのようなパフォーマン

スを見せるのか。これがカッツ氏にとって最大の関心

事なのである。

 「われわれの会社は起業したばかりだが、今年末に

はニッチ市場向けの商用アプリケーションを早くもリ

リースする予定だ。そのときまでには、ユーザーに満

足してもらえるほどApp Engineが安定し、堅牢にな

ることを期待している。当社のように資金や開発期間

で制約を受けるスタートアップ企業にとって、Google

へのアウトソーシングは計算可能なリスクでなければ

ならないのだ」(カッツ氏)

画面2:Google App Engineで開発されたテトリス似のゲーム「Isometric Tetris」

Page 78: Computerworld.JP Nov, 2008

経営管理編販売/サービス編ITトレーナー編システム開発編

ITキャリア解体新書IT業界でサバイバルするための

Computerworld November 2008102

システム運用管理編

存在意義

 システム管理者がいないと、コンピュータが故障し

たときに困る。複数の人間が共同利用するものには、

必ず管理責任者が必要だ。前回紹介したテクニカル・

サポートは、バグ・フィックス対策は考えても、それを

実行に移す権限を持っていない。ソフトウェアのバー

ジョンアップ中は業務が停止する可能性もあるし、万

が一に備えてバックアップ/リストアの準備もする必

要がある。1つのバグ・フィックスを行うため、突然シ

ステムを停止させたら、ユーザーは大混乱である。

 このような場合にシステムが安定稼働するように計

画し、万一に備えて復旧手順を考えておくのがシステ

ム管理者だ。そして、実際に作業を行うのも、当然、

システム管理者だ。

必要な経験/スキル

 担当するシステムに関する技術的な知識は必須であ

職務概要

 システム管理者は、企業内で利用しているコン

ピュータが正常に動作しているかを監視し、問題があ

ればそれを解決する。またユーザー・アカウントの登録、

ソフトウェアのインストール/更新、データのバック

アップなど、システムをメンテナンスすることもシステ

ム管理者の職務だ。

 システム管理者の守備範囲は広い。そのため分業

体制にしている企業もある。サーバ管理とクライアン

ト管理に分割したり、地域ごとに分業したりする場合

もあるようだ。どこの担当になっても、仕事内容は大

差ない。

 ただし、システム管理者の中でもネットワーク管理

者はその職務内容が異なる。システム管理者としての

コンピュータ知識のほかに、ネットワーク知識も必須

となる。そのため、企業は専任のネットワーク管理者

を置く場合が多い。なお、今回取り上げるシステム管

理者には、ネットワーク管理者は含まれていない。

Windows Server 2008のキャッチコピー(?)は、「HEROES happen {here}(ヒーローは{ここ}にいる)」である。IT戦略はビジネス戦略に直結すると言われる昨今、サーバ管理者は企業のヒーローであり、彼らなくしてビジネスの成功はないというのがマイクロソフトのメッセージのようだ。今回紹介する「システム管理者」はマイクロソフト流に言えば、「ヒーローの中のヒーロー」だろう。仕事は裏方作業だが、ビジネスを支える重要な役割を担っているのだ。

横山哲也グローバル ナレッジ ネットワーク、マイクロソフトMVP

システム管理者第8回

Page 79: Computerworld.JP Nov, 2008

Novenber 2008 Computerworld 103

践しつつ、その効果を調査する必要があると考える人

は、上級システム管理者の素養がある。

待遇

 初級システム管理者の実態は、ほとんど雑用係だ。

単に既存のシステムを運用するだけの業務内容であ

れば、500万円程度であろう。精進して、企業のIT

計画を提案できるような立場になれば、800万円を超

えることもある。

る。さらに自分が担当するシステムが、業務にどのよう

な影響を与えるのかも熟知しておかなければならない。

システムの知識 ほとんどの企業はOSを特注しない。主なOSは

Windows、UNIX、Linux、そしていわゆるメインフレー

ム用OSだ。メインフレーム用OSはベンダーや機種ご

とに違うが、特注品ではないことに変わりはない。自

社で利用するOSの機能を把握し、正常に稼働する

よう管理できるだけの知識は必須である。なお、右に

挙げたOSベンダーの資格を持っていれば、自分のス

キルを客観的に提示できる。

カスタム・アプリケーションの知識 OSは汎用品でも、業務アプリケーションはカスタム・

メイドという企業は多い。近年ではERP(Enterprise

Resource Planning)パッケージのような汎用品を利

用している企業もあるが、カスタム・アプリケーション

を1つも利用していない企業は少数派だろう。自社独

自のアプリケーションについても熟知しておく必要が

ある。

業務の知識 企業内の分業化が進み、社内業務フロー全体を把

握する人は少なくなった。しかしシステム管理者は、

社内全体の業務を把握し、業務システムを理解する

必要がある。

採用の決め手となる“究極の質問”

 「レコーディング・ダイエット」をどう思いますか?

自分でもできそうだと思いますか?

 システム管理者は自分が行ったすべての設定を把

握し、かつ記録しておくのが仕事である。トラブルは

何か変化があったときに発生する。常に変化を記録

していれば、トラブルの原因も追及しやすい。「自分の

行動を記録するのが手間だから、レコーディング・ダ

イエットはできない」と考える人は、システム管理者に

向いていない。反対にレコーディング・ダイエットを実

自社で利用しているOSやアプリケーションの知識は必須だ。ほとんどのOSベンダーは「認定技術者試験」を実施しており、多くのシステム管理者は担当製品の資格を持っている。特に転職を考えているな

ら、関連する資格は取得しておきたい。

国際資格系●情報処理技術試験情報処理技術者試験「プロジェクト・マネジャー」「テクニカル・エンジニア」

ベンダー資格系●マイクロソフトマイクロソフト認定システム・エンジニア(MCSE)マイクロソフト認定ITプロフェッショナル(MCITP)マイクロソフト認定プロフェッショナル・デベロッパー(MCPD)マイクロソフト認定データベース・アドミニストレーター(MCDBA)マイクロソフト認定ソリューション・デベロッパー(MCSD)

●オラクル オラクル・マスター・エキスパート(OME)

●シスコシステムズシスコ認定ネットワーク・プロフェッショナル(CCNP)シスコ認定デザイン・プロフェッショナル(CCDP)シスコ認定セキュリティ・プロフェッショナル(CCSP)

システム管理者が持っておきたい資格ワ ン ポ イ ン ト お 役 立 ち

2 2 2 2

情 報

年収やりがい将来性モテ度

★★★★★★

★★★★

★★★

与えられる職務権限によってばらつきが

あるようだ

裏方作業だが、ある

仕事はある。山ほどある

ヒーローは孤独だ

Page 80: Computerworld.JP Nov, 2008

Computerworld November 2008104

P R O F I L E

ささき・としなお。ジャーナリスト。1961年兵庫県生まれ。毎日新聞社記者として警視庁捜査一課、遊軍などを担当し、殺人事件や海外テロ、コンピュータ犯罪などを取材する。その後、アスキーを経て、2003年2月にフリー・ジャーナリストとして独立。以降、さまざまなメディアでIT業界の表と裏を追うリポートを展開。『ライブドア資本論』、『グーグル——既存のビジネスを破壊する』など著書多数。

まだ未知数だ。同社はかつて同様のコ

ンセプトでWindows Media Center

PCを市場投入したが、こちらは失敗に

終わった。また、Intelも「Viiv」というホー

ム・コンピューティング・プラットフォー

ムを発表したが、最近ではあまり話題

に上らなくなってしまった。

 過去を見れば死屍累々でもある。だ

が、そんな中で、“伏兵”がいくつか現れ

てきている。

 1つは、任天堂のゲーム機「Wii」だ。

今のところ任天堂はWiiをSTBにしていくことを宣言し

ていないが、電子番組表(EPG)アプリケーションを発

表するなど、徐々にそちらの方向に進みつつある。使

いやすいリモコンと圧倒的な普及台数などを考えれば、

Wiiがこの分野で勝つ可能性は十分にある。

 もう1つは、Googleの「Android」だ。携帯電話向け

に同社がリリースしているOSで、この秋にはHTCから

Androidを搭載した実機が発表される見通しだ。従来

の携帯OSに比べるとオープン性が圧倒的に高く、サー

ビス同士のマッシュアップなどがいとも簡単に行える

ので、PCのWebと同じような世界が携帯電話にも実

現していくのではないかと見られている。

 このAndroidについて、米国のニュース・サイト

VentureBeatは8月15日に「Googleは今後、Android

をテレビのSTBや音楽プレーヤーなどに展開していく

のではないか」という観測記事を書いた。この可能性

がどこまで現実味があるのかはわからないが、おもし

ろいことになりそうな気もしている。

 テレビとインターネットの融合で、最

も重要な存在はセットトップ・ボックス

(STB)である。

 今後、テレビは、①(従来型の)テレ

ビ受像器、②地上波や衛星放送などの

電波のインプット、③インターネット・

デバイスという3つの役割を担う。この

3つをどうつなぐのかというと、ブロード

バンド配信、地上波やCATVの番組、

さらにはHDDレコーダーに保存された

番組などすべてを、STBのような機器

がコントロールする仕組みになる。

 このようにSTBを核においた仕組みが、今後のテレ

ビ・ビジネスを考えていくうえで非常に重要になってき

ている。まだデファクト・スタンダードをとっている製

品は皆無だからだ。

 「アクトビラ」という家電メーカー主導のサービスを

ご存じだろうか。これは、ブロードバンド・コンテンツ

をテレビ上で見られるようにするサービスだ。今、日

本国内で販売されているテレビの多くはアクトビラに

対応している。だが、肝心のコンテンツがまだそろっ

ていないこともあって、利用率はさほど高くない。

 Appleは「Apple TV」というSTBを発売している。

iTunes Storeから購入し、PCのiTunesに保存してある

番組をワイヤレスで送信し、テレビで再生できるようにし

た製品だが、必ずPCを経由させなければならないことや、

テレビとPCが無線LANで接続されていなければならない

ことなどハードルが高く、一部にしか普及していない。

 Microsoftは、Windows Home Serverをリリース

しているが、これがSTBに応用されていくかどうかは

インターネット劇場

佐々木俊尚T o s h i n a o S a s a k i

今後のテレビの核となるSTB

──覇権を握るのはどこか

Entry

28

Page 81: Computerworld.JP Nov, 2008

November 2008 Computerworld 105

P R O F I L E

えじま・けんたろう。インフォテリア米国法人代表/XMLコンソーシアム・エバンジェリスト。京都大学工学部を卒業後、日本オラクルを経て、2000年インフォテリア入社。2005年より同社の米国法人立ち上げのため渡米し、2006年、最初の成果となるWeb2.0サービス「Lingr(リンガー)」を発表。1975年香川県生まれ。

 この8月上旬、晴れてインフォテリア

USAとして第2弾となる新サービスをリ

リースすることができました。

 渡米してから3年が経ち、さまざまな

ことを学びました。2年前にリリースし

た第1弾プロダクトの「Lingr(リンガー)」

では、マーケティング担当である私が日

本人だったことが災いし、結局、本来

の狙いであった欧米を中心とした利用

はあまり進まず、日本語圏での認知度

ばかりが高まり、さらに欧米のユーザー

が離れていくという悪循環に陥っていました。現在で

はイランのユーザーが一番多いという意外な状況に

なっており、それはそれで予想外の面白い現象ではあ

るのですが、いったん地域色がついてしまうと、なか

なか広がりが出なくなってしまうのも事実です。

 そこで新サービスでは、私の日本におけるマーケティ

ング・チャネルをすべて封印し、米国のアーリー・アダ

プター層を中心としてまったくのゼロから口コミだけで

広げていくという決断をしました。

 外国人が作った変な日本語のサービスが日本で流

行ることは絶対にないのと同じで、日本人が小手先で

英訳しただけのサービスが欧米でヒットすることは絶

対にありません。カルチャーというのは言語の翻訳な

どとは次元が違う、もっともっと深いものです。

 今回こそは、完全に米国の文化に根をおろし、そし

てそこから世界へと広がっていくサービスにしたいと考

え、では何がそれを実現してくれるだろう、と考えたと

きに、それは結局のところ「ユーザー」で

ある、という結論に至りました。やみく

もにだれでもいいからユーザーが増えれ

ばよいという考え方ではなくて、どうい

うユーザーに使ってほしいのか、どうい

うコミュニティに育てたいのか。そうい

う指向性を、今度は大切にしたいと思

いました。

 現在、リリースしてから約3週間が経

過していますが、今のところ、当初から

の希望どおり、米国を中心とした新しも

の好きなユーザー層の心をとらえることができているよ

うです。

 何よりうれしいのは、私自身がユーザーとしてコミュ

ニティと交わるうちに、さまざまな面で成長できている

ということです。それまでは想像上の存在でしかなかっ

た欧米のアーリー・アダプター層と呼ばれる人たちと

実際に交流してみると、それ自体がとても刺激的な体

験で、そういった人たちの考え方やものの見方にリア

ルに触れることで、ものの見方がガラリと変わってき

ました。

 まさに今、まるで新しい学校に転校してきた子供の

ように、私自身が新しいカルチャーを体得するという

プロセスに身を投じているのです。自分が生み出した

製品によって自分が成長させられ、さらに成長した自

分が製品を育てていくという、このポジティブな循環

を大切にし、1年ぐらいかけてじっくりと、お互いが成

長できればよいなと願っています。

IT哲学

江島健太郎K e n n E j i m a

米国の文化に

根をおろしたサービスを

Entry

38

Page 82: Computerworld.JP Nov, 2008

Computerworld November 2008106

P R O F I L E

くりはら・きよし。テックバイザージェイピー(TVJP)代表取締役。弁理士の顔も持つITアナリスト/コンサルタント。東京大学工学部卒業、米国マサチューセッツ工科大学計算機科学科修士課程修了。日本IBMを経て、1996年、ガートナージャパンに入社。同社でリサーチ・バイスプレジデントを務め、2005年6月より独立。東京都生まれ。

 言うまでもないことですが、ITの世界

ではバブル的な動向がよく見られます。

バブルを過大評価して性急な投資を行

い、まったくの無駄に終わってしまうケー

スもよくあります(最近の例としては「セカ

ンドライフ」と言えば十分でしょう)。

 しかし、過大評価も問題ですが、過小

評価も問題です。特に、革新的なテクノ

ロジーの将来の可能性を見通せず、旧

来のテクノロジーにこだわることで失敗

するケースは枚挙にいとまがありません。

例えば、UNIXワークステーションが登

場したとき、その可能性を過小評価したミニコン・ベン

ダーはその後すべて企業としては消滅しています。

 ある意味、過小評価を避けることは過大評価を避け

ることより難しいかもしれません。予測のプロでも大き

な間違いを行うことが多いと言えます。例えば、インター

ネット黎明期に、IT系の調査会社の多くがインターネッ

トはビジネスの世界では使えないと考えていました。あ

る高名なコンサルティング会社も携帯電話の市場規模

を2けた以上過小評価していたそうです。

 テクノロジーの過小評価の罠に陥らないようにするた

めの方法はいくつかあります。例えば、テクノロジー提

供者の視点ではなく、一般顧客の視点でもなく、先進

的ユーザーの視点でテクノロジーを評価し、一般市場

に普及する(いわゆる「キャズム」を越える)ためのキラー・

アプリケーションの存在を探すという手法は重要です。

 テクノロジー提供者は、「すばらしいテクノロジーだか

ら普及するはずだ」というテクノロジー優先の思考形態

を持ちがちなため注意が必要だという点

は容易にわかります。さらに、一般顧客

の声を聞くのもテクノロジーが真に革新

的である場合にはあまり有効ではありま

せん。そのような顧客は見たこともない

テクノロジーの活用法を想像できないか

らです。例えば、PCの普及初期には、「家

にコンピュータがあっていったい何に使

うのか」という声が多く聞かれました。結

局、テクノロジーのうまい使い方を考え

出してくれる先進ユーザーにフォーカス

した分析を行うのが最も確実ということ

になるでしょう。

 もう1つの簡単な方法は、特定の時点のシェアの絶対

値ではなく伸び率に注目するということです。特に、市

場がゼロサムゲーム──つまり、あるテクノロジーが成

長すると別のテクノロジーが市場を食われる──このよ

うな構造の下では、成長するテクノロジーが思ったより

も早く市場で支配的になることが多いと言えます。

 例えば、AというテクノロジーとBというテクノロジー

があったとし、現在のAのシェアが5%、Bのシェアが

95%だったとします。この状態だけを見れば、Aは取る

に足らない存在に思えるかもしれません。しかし、Aが

年率50%で成長しており、かつ、市場全体がゼロサム

ゲームの状態であるとすると、わずか5年間でAがBを凌

駕します。伸び率という要素を考えないと、Aの将来性

を過小評価する結果になるでしょう。

 今後の変化の激しいIT業界を勝ち抜いていくために

は、バブルを見抜く目だけではなく、「逆バブル」を見抜

く目も鍛えていく必要があると言えるでしょう。

テクノロジー・ランダムウォーク

栗原 潔K i y o s h i K u r i h a r a

「逆バブル」を見抜く目を鍛える

Entry

38