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京都府屋上緑化研究会 報告書 平成16年3月

京都府屋上緑化研究会 報告書 - pref.kyoto.jp · 1 はじめに 近年、大都市を中心として人工構造物が増加し、緑地が減少している。この緑地の減少

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京都府屋上緑化研究会

報告書

平成16年3月

目 次

はじめに

1.屋上緑化の背景と最近の動き

(1)ヒートアイランド現象の顕在化 ………………………………………… 2

(2)屋上緑化をめぐる府内の動き …………………………………………… 3

(3)屋上緑化に関する施策の状況 …………………………………………… 4

2.屋上緑化の効果等

(1)屋上緑化の主な効果 ……………………………………………………… 6

(2)屋上緑化を行う場合の留意点 …………………………………………… 12

3.屋上緑化推進の基本的な考え方

(1)多様な主体による持続的な屋上緑化の取組支援 ……………………… 17

(2)総合的な都市緑化政策と連携した屋上緑化の推進 …………………… 17

(3)京都の自然・歴史・文化と調和した屋上緑化の展開 ………………… 17

4.施策展開の方向

(1)多様な主体による屋上緑化の取り組みに対する支援 ………………… 18

(2)京都らしい屋上緑化の普及促進 ………………………………………… 18

(3)緑の府庁づくり …………………………………………………………… 18

(4)緑の学校づくり …………………………………………………………… 19

(5)屋上緑化推進のための制度活用等 ……………………………………… 19

5.京都府内での屋上緑化事例調査の概要

(1)調査概要 …………………………………………………………………… 20

(2)調査事例 …………………………………………………………………… 21

6.屋上緑化(屋上ビオトープ)の実証実験の概要 ………………………… 25

7.屋上緑化研究会の概要

(1)研究会メンバー …………………………………………………………… 27

(2)研究会等の開催実績・内容 ……………………………………………… 28

資料編

1 京都府における屋上緑化事例 ……………………………………… 30

2 国内の事例 …………………………………………………………… 61

3 海外の事例 …………………………………………………………… 75

1

はじめに

近年、大都市を中心として人工構造物が増加し、緑地が減少している。この緑地の減少

は、ヒートアイランド現象などの環境悪化を引き起こしていると共に、生活におけるゆと

りややすらぎなどにも影響を及ぼしている。このような中、『屋上緑化』はその緩和策のひ

とつとして注目を集めている。

また、京都府では、平成14年12月に策定した「地球温暖化対策プラン」において、

ヒートアイランド現象の緩和をはじめとして建物の省エネなど様々な効果が期待されてい

る屋上緑化の普及促進に向けた検討を行うことを重点課題のひとつとしている。

こうした状況を踏まえ、平成15年6月に専門家や府の関係部署などにより「京都府屋

上緑化研究会」を設置し、府域において屋上緑化の取り組みを進める場合の意義や問題点、

それらを踏まえた府としての取組方策を明らかにするための検討を行った。

2

1.屋上緑化の背景と最近の動き

(1)ヒートアイランド現象の顕在化

近年、都市部において、市街化の進展に伴って建物やアスファルトなど人工構造

物に覆われた地上面が拡大する一方、緑地や農地などの透水面が縮小し、人間活動

の集積による人工廃熱の増加とも相まっていわゆる「ヒートアイランド現象」(熱の

島:等温線を描くと高温部が「島」の様に浮き上がってみえる現象)が顕在化して

いる。

地球の平均気温は、この100年間に約0.6℃上昇しているのに対して、京都

市域では約2.5℃、全国の地方都市の平均でも約1℃上昇しており、これらのデ

ータからもヒートアイランド現象が生じていることが明らかとなっている。(図1)

このように都市部における急激な気象変化を緩和する手段のひとつとして、建物

の屋上や壁面の緑化、地上面の緑地の復元などに対して関心が高まっている。

図1 日本の大都市の平均気温(出典:気象庁)

100年当たりの上昇量(℃/100年)

平 均 気 温 地 点

(年) (1月) (8月)

札 幌 +2.3 +3.0 +1.5

仙 台 +2.3 +3.5 +0.6

東 京 +3.0 +3.8 +2.6

名 古 屋 +2.6 +3.6 +1.9

京 都 +2.5 +3.2 +2.3

福 岡 +2.5 +1.9 +2.1

大都市平均 +2.5 +3.2 +1.8

中小規模の都市平均 +1.0 +1.5 +1.1

3

(2)屋上緑化をめぐる府内の動き

府内においても、京都市域やその周辺部を中心に、屋上緑化の取り組みが見られ

るようになってきている。本研究会では、資料編にまとめたとおり、府内の屋上緑

化の事例調査を行った。それらの多くは、必ずしもヒートアイランド対策を直接の

目的とするものではなく、例えば、事業所における省エネルギー、商業施設におけ

るもてなしの空間の創出、住宅における園芸など趣味のスペースの確保など多様な

目的と形態をもって屋上緑化が取り組まれている。

4

公共施設 民間(商業)施設 民間マンション等 個人住宅

緑化の義務化東京都 板橋区 渋谷区 新宿区 兵庫県 等

東京都 板橋区 渋谷区 新宿区 兵庫県 等

板橋区 渋谷区 等 板橋区 渋谷区 等

緑化基準への算入

荒川区 江戸川区大田区 北区 江東区 品川区 墨田区世田谷区 文京区

港区 目黒区 武蔵野市 等

荒川区 江戸川区大田区 北区 江東区 品川区 墨田区世田谷区 文京区

港区 目黒区 神戸市 武蔵野市 横浜

市 等

荒川区 江戸川区大田区 北区 江東区 品川区 墨田区世田谷区 文京区

港区 目黒区 神戸市 武蔵野市 等

荒川区 江戸川区大田区 北区 江東区 品川区 墨田区世田谷区 文京区目黒区 武蔵野市

補助(助成)制度

国交省 兵庫県 岡崎市 板橋区 葛飾区 北区 渋谷区 豊島区 昭島市 東京都公園協会 等

大阪府 名古屋市大分市 長崎市 神戸市 三島市国交省 兵庫県 岡崎市 板橋区 葛飾区 北区 渋谷区 豊島区 昭島市 東京都公園協会 等

大阪府 名古屋市大分市 長崎市 神戸市 三島市国交省 兵庫県 岡崎市 板橋区 葛飾区 北区 渋谷区 豊島区 昭島市 東京都公園協会 等

名古屋市 大分市長崎市 神戸市 三島市国交省 兵庫県 岡崎市板橋区 葛飾区北区 渋谷区 豊島区 昭島市 等

低利融資制度

日本政策投資銀行兵庫県 東京都 墨田区 世田谷区 目黒区 大阪府 広島市 葛飾区 等

兵庫県 東京都 墨田区 世田谷区 目黒区 大阪府 広島市 葛飾区 等

大阪府 葛飾区 等

その他支援策

税制優遇(大阪市 広島市 名古屋市 等)資材提供(浜松市 等)容積率緩和(東京都 大阪市 等)無料相談(渋谷区 墨田区 等)

(3)屋上緑化に関する施策の状況

全国的にみると大都市を有する地方公共団体において屋上緑化や壁面緑化の普及

を促進する施策が展開されており、また国においても法制化の動きがある。(図2・

3)

例えば、国内で最初に取り組みを始めた東京都では、市街地の地上部に新たな緑

地を設ける余地がなくなってきたことから、緑の量を増やすための手段として建物

の屋上に着目した。平成13年4月に「自然の保護と回復に関する条例」が改正し、

敷地面積250m2以上の公共施設及び1,000m2以上の民間施設において、地

上部と利用可能な屋上の20%以上を緑化することが義務付けられた。

また、国土交通省は、都市環境の改善やヒートアイランド現象の緩和に向けて都

市緑化を総合的に進めるため、市区町村が「緑化地域」に指定した区域では,大規

模ビル開発などの際に敷地面積の25%を上限に緑化(地上でも屋上でも可)を義

務づけることなどを内容とする「都市緑地法案」(都市緑地保全法の改正)を平成1

6年の通常国会に提出している。

図2 屋上緑化に関する諸制度を定める地方自治体等の例(一部)〉

(出典:「緑化施設整備計画の手引き」国土交通省 より抜粋)

5

6

2.屋上緑化の効果等

(1)屋上緑化の主な効果

①都市環境の改善効果

・ ヒートアイランド現象の緩和(都市気象の改善)

緑化により構造物の蓄熱が減少、人工廃熱が低減されることにより、都市の

気温上昇を抑制できる。(図4)

・ 空気の浄化や騒音の低減

大気汚染物質の吸収や、生垣的な植栽による騒音の低減など環境改善に貢献

する。

・ 都市の自然性の向上

都市化によって消失した自然を屋上緑化によって回復し、また縮小・分断さ

れた生きものの生息地を屋上の緑化が線的につなぎまた面的に広げることで、

都市における生態系の回復が期待される。(図5)

・ 都市のアメニティの向上

緑化によって景観や環境が改善することで、地域の快適性や地域への親しみ

が向上するとともに、地域の価値の向上にもつながる。

・ 都市景観の向上

人工構造物や道路など人工的な都市環境において、緑化がもたらすやわらか

な緑の美しさや季節感が、都市景観の向上・調和に貢献する。

・・・・・・・・・・など

本調査研究では、屋上緑化に関して、これまで一般的に紹介あるいは実証されて

いる事柄の整理に加え、 ①府内の公共施設・民間施設における屋上緑化等の事例調査(5章) ②京都府保健環境研究所における屋上緑化・屋上ビオトープ実証実験(6章) を実施した。これらの調査・実験等の結果を踏まえ「屋上緑化の効果」と「屋上緑

化を行う場合の留意点」をまとめると次のとおりである。

7

図4 都市気象の改善効果の事例

(中心の緑地は、周辺の都市化した部分よりも低温を示している)

緑地の都市部へのクールアイランド効果

(出典:「屋上緑化のすべてがわかる本」山田宏之)

図5 都市の自然性を高める効果の事例

8

②人間に対する生理的・心理的効果

・やすらぎ空間の創出(鎮静効果)

都市部の病院などで屋外空間を確保することが困難な場合などにおいても、

屋上で園芸療法などを取り入れ、緑にふれることのできる空間を創出するこ

とで心が癒されるなどの心理的効果がもたらされる。(図6)

また、自宅・事務所などにおいて屋上に庭や休息スペースを確保することで、

癒しやくつろぎ、リフレッシュの空間が生まれる。

・身近な情操教育・環境学習の場の創出

自然とふれあう機会が少なくなる中で、屋上が身近で気軽に自然と接するこ

とのできる空間となり、情操教育や環境教育の場としても活用できる。

・・・・・・・・・・・など

※1 レイズドベッド:車椅子などで座ったままで花や緑を触れることの出来る地面より持ち上げられた花壇(立

ち上げ花壇)

図6 生理的・心理的効果の事例

9

③建物に対する経済的効果

・省エネルギー(夏期の温度上昇の軽減・冬期の保温)

屋上や壁面の緑化により、断熱効果が高まるとともに、夏期には植物の蒸散

と土壌からの蒸発により室内や構造物自体の温度上昇が軽減される。(図7・

8・9)

・温度変化の緩和による耐久性の向上

緑化による温度変化の抑制によって、構造物の膨張収縮を抑え、ひび割れな

どの発生を起こりにくくする。(図10)

・酸性雨や紫外線による建物の劣化防止

・火災による延焼防止

火災による延焼防止や建築物の保護、避難路の確保などの効果が期待できる。

・イメージアップや集客力向上

事業者の環境への姿勢が評価されると共に、集客施設においては緑に囲まれ

開放的な空間が、休息やイベントなどのスペースとして集客効果をもたらす。

・・・・・・・・・・・など

10

断熱材の違いによる冷房負荷への影響(冷房:27℃) 断熱材の違いによる暖房負荷への影響(暖房:20℃)

断熱なし+植栽なし

断熱なし+植栽

外断熱+植栽

外断熱

時刻(時)

冷房

負荷

( KW

断熱なし+植栽なし

断熱なし+植栽

外断熱+植栽

外断熱

時刻(時)

冷房

負荷

( KW

断熱なし+植栽なし

断熱なし+植栽外断熱+植栽

外断熱

時刻(時)

暖房

負荷

( KW

断熱なし+植栽なし

断熱なし+植栽外断熱+植栽

外断熱

時刻(時)

暖房

負荷

( KW

出典:『環境改善のための屋上緑化建築技術認定基準』

(&日本建築センター 建築技術研究所 開発部開発課)

屋上緑化基盤と屋根構造の組合せ 屋根構造の違いによる夏期の室温変化(冷房無し)

土壌200

葉群層(芝生)

R C 建 物 ( 断 熱 材 な し )

R C 建 物 ( 外 断 熱)

断熱材30

モルタル20

モルタル20

コンクリート150

コンクリート150

断熱なし+植栽なし

断熱なし+植栽

外断熱+植栽

外気温

外断熱

温度

(℃

)時刻(時)

出典:『環境改善のための屋上緑化建築技術認定基準』

(&日本建築センター 建築技術研究所 開発部開発課)

植  栽

図8 省エネルギー効果の事例2

図7 省エネルギー効果の事例1

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コンクリート壁面のツタによる減温変化(1978/8の実測例)

出典:『NEO-GREEN SPACE DESIGN②』(&都市緑化技術開発機構:誠文堂新光社)

断熱材及び植栽基盤厚別の月積算負荷削減量(冷房:27℃/暖房:20℃)

8月積算冷房負荷削減量

1月積算暖房負荷削減量

外断熱(30cm) 内断熱(30cm)断熱無し

芝生植生基盤における盛土の厚さ(mm)

月積

算負

荷削

減量

(kw

h/m

2)

8月積算冷房負荷削減量

1月積算暖房負荷削減量

外断熱(30cm) 内断熱(30cm)断熱無し

芝生植生基盤における盛土の厚さ(mm)

月積

算負

荷削

減量

(kw

h/m

2)

出典:『環境改善のための屋上緑化建築技術認定基準』

(&日本建築センター 建築技術研究所 開発部開発課)

図9 省エネルギー効果の事例3

図10構造物に対する温度変化の影響軽減(耐久性の向上)効果の事例

12

(2)屋上緑化を行う場合の留意点

①植栽のタイプと留意点

○セダム緑化

特 徴:セダムは小型の多肉植物の一種で、乾燥に強く薄層の人工軽量土壌で生育させる

ことができる。潅水を必要とせず、管理が安価であることから、最も簡単な屋上

緑化の方法として普及している。大面積を確保しやすい。セダムの多く(CAM 植

物)は、暑い日に気孔を閉じて蒸散を行わないため、温度低下効果は少ないとさ

れている。

※2 CAM 植物:気温が低下して水分を失う心配の少ない夜間に気孔を開いて二酸化炭素

を吸収して貯蔵しておき、昼間は気孔を開かずに光合成を行うことができ

る植物

適用可能な建築:荷重が60kg/m2より軽量のため、新規はもちろん既存建築物にも適用しやすい。

緑 の 効 果:気温緩和効果は少ない。緑地としての活用や地域の生き物とのつながりも乏しい。

施 工:植物材料と基盤を一体化した製品もあり、材料が軽量で荷揚げし易く施工は容易。

管 理:用意で低コストだが、刈り込みや除草などを行わないと、部分的な枯損や雑草の

繁茂が起こる。

○芝生緑化

特 徴:複合緑化と比べて土層厚が薄く軽量。施工は容易で低コストのため大面積を確保

しやすい。

適用可能な建築:基盤によっては荷重が60kg/m2より軽量のため、新規はもちろん既存建築物に

も適用しやすい。

緑 の 効 果:気温緩和効果などの環境改善とそれによる経済効果。屋上に広い緑の空間を確保

できる。飛来する植物・昆虫など地域の生き物の休息や生息空間となり得る。

施 工:容易で低コスト。

管 理:潅水、芝刈り、除草など。

○複合緑化(高中木・低木・地被・芝生などの組み合わせ)

特 徴:植物が大きくなるほど必要な土層厚が増すため、植物と基盤材料のボリュームに

応じた荷重となり、施工・管理も相応となる。

適用可能な建築:相応の積載荷重がかかるため、その荷重に対応できる新築、また既存建築物に限

られる。

緑 の 効 果:土層が厚いため、気温緩和などの環境改善とそれによる経済効果が考えられる。

植物の種数や量、組み合わせなどにより、地上と同様に庭、花壇、菜園などとし

て利用することができる。昆虫や鳥類の移動、食餌などの緑の拠点になり得る。

施 工:地上部の緑化と同様の負担に加え、土壌や植物の荷揚げなどに労力とコストがか

かる。

管 理:地上部の緑化と同様の負担に加え、飛散する落ち葉や枝への対応なども必要。

13

出典:『NEO-GREEN SPACE DESIGN②』(&都市緑化技術開発機構:誠文堂新光社)

① 住宅・事務所等の場合、部分荷重が床荷重の180kg/m2以内で、かつ全体で60kg/m2以内 。

② 学校・デパート等の場合、部分荷重が床荷重の300kg/m2以内で、かつ全体で130kg/m2以内 。

床の構造計算をする場合地震力を計算する場合建築物の用途

300 kg/m2130 kg/m2学校・デパート等

180 kg/m260 kg/m2住宅・事務所等

床の構造計算をする場合地震力を計算する場合建築物の用途

300 kg/m2130 kg/m2学校・デパート等

180 kg/m260 kg/m2住宅・事務所等

特に積載荷重に配慮した建築物を除き、次のように定められている

②建物における留意点

屋上緑化を行う場合、積載荷重への対策、防水・防根対策、給排水対策などが必

要となる。(図11)

積載荷重については、植物や土壌、花壇の壁やデッキなど屋上に持ち込むものを

合計した荷重が、構造的に耐えられる範囲内であることが求められる。設計計画時

より屋上緑化の積載荷重を考慮している場合を除いて、対象となる建築物の種類に

よって積載荷重が決められている。例えば住宅の屋上の場合、部分荷重が床荷重の

180kg/m2を越えない範囲で、かつ全体で60kg/m2を越えないことが求め

られる。(図12・13)

また、植物の種類によって必要となる土壌の厚みが異なるとともに、土壌の種類

についても自然土壌だけでなく比重の軽い人工軽量土壌などが製品化されている。

(図14)

図12 建築基準法施行令による建築物(屋上)の積載荷重

図11 屋上緑化を設計する上での留意事項

14

図13 植栽荷重設定上の留意事項

図14 土壌(基盤構成)の種類と対応する植栽の例

15

③コスト面における留意点

一般に屋上緑化の建設費は、地上部の緑化と比較すると、材料の荷揚げや防水・

防根対策などを伴うため、コストが高くなる。また、給水、除草、害虫駆除などの

維持管理コストにも留意する必要がある。

植栽の違いによるコストの差としては、例えばセダム緑化は施工コストや管理コ

ストが安く抑えられるが、複合緑化(高中木・低木・地被・芝生などの組み合わせ)

の場合は植物材料や土壌などのコストが高くなる。(図15)

④環境改善効果についての留意点

ヒートアイランド現象の緩和など都市環境の改善効果を得るためには、なにより

も冷暖房や照明、あるいは自動車交通などに伴うエネルギー使用量を抑制すること

が基本となる。その上で、緑化による場合にあっても、屋上緑化だけではなく壁面

緑化や地上部の緑地の復元の可能性も検討するとともに、個々の建築物や敷地にと

どまらず様々な緑地を増やし、緑地を点から線あるいは面へと拡大していく総合的

な都市緑化施策が必要となる。

図15 屋上緑化の施工コストと管理コストの例(緑化面積 200m2の場合の目安)

※1 点検などをできる範囲で自分で行う場合 ※2 すべてを専門の会社に任せる場合

出展:『実例に学ぶ屋上緑化』(日経アーキテクチュア編:日経BP社)

16

⑤「京都らしい」屋上緑化についての留意点

屋上緑化には様々な機能があり、それぞれの地域において、また個々の建物におい

ても、何に重点を置くかによって、緑化の手法や形態は異なる。京都ではその優れ

た自然景観や歴史文化と調和した緑化が課題であり、伝統的な造園技術を活用する

などの工夫を行ない屋上緑化の可能性を広げることによって、地域の特徴を活かし

た「京都らしい」屋上緑化の展開が期待される。

留意点についてのまとめ

このように屋上緑化は、環境共生型の都市空間や生活空間を創造・再生していく

ためのひとつの手法であるが、これには行政・事業者・府民などが連携し、それぞ

れの目標や条件を十分に考慮して取り組んでいく必要がある。

また、屋上緑化は、施工後における維持管理が不可欠であり、それを維持させるた

めには、屋上緑化に関わる各主体の自発性が十分に発揮されるとともに緑化のメリ

ットがそれぞれの目的に応じて自覚させることが重要である。

このため、屋上緑化の取り組みを促進していくためには、優れた事例、創意工夫

にあふれる取り組みを積極的に評価・奨励する施策や、取り組みの気運を醸成する情

報提供を持続的に進めることが基本となり、このことは、まちづくりの一環として

屋上緑化を義務づける場合も同様である。なお、屋上緑化を推進するために経済的

インセンティブを付与する場合も、施工時だけでなく、それが施工後も維持される

か否かを点検していくことが重要である。

屋上や壁面、地上面などを緑化するということは、身近な自然を現代的な形で復

元・創出することであり、その取り組みをとおしてかつてあった、人と自然のバラ

ンスのとれた関係を取り戻す試みでもある。