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※佐伯河川国道事務所 工務課 伊東 良二
維持管理コストの低減を目的とした
礫盛土・切土斜面の緑化工法に関する試験施工について
佐伯河川国道事務所 工務課 ◎山中 元弘
○堤 祥一
●麻生 宏斉 他1名※
1,はじめに
現在東九州自動車道(佐伯~県境)の工事を進め
ており、工事により発生したトンネルズリや礫質土
を、盛土区間の路体や土羽土として活用しているが、
当区間の斜面緑化において、2つの課題に直面して
いる。1つは、切土では、岩が露出して植生が根付
かず、また盛土では、土の水はけが非常によく、日
当たりのよい場所では、土が乾燥状態になるため、
既設の人工張芝や種子散布工では、発芽不良や、基
盤材の流出等により、緑化できない箇所が見られる
問題であり(図-1)、これまでに保水性を有する吸
着材を混入した吹付け工法の試験施工による検討
を実施し、その効果を確認することができた。
2つ目は、除草などの道路の維持管理費用は削減
され続けているものの、一方で環境や景観に配慮し
た緑化が望まれている問題であり、緑化を行いつつ、
除草回数を減らすことができる、草種を選定する必
要がある。そこで、適切な草種の組合せを確認する
ために、森崎地区にて試験施工を実施した。ここでは、草種の選定に関する試験施工の結
果を主として報告する。
森崎地区
波当津地区丸市尾地区
:試験施工場所
:本施工場所
試験施工場所
森崎地区(蒲江IC付近)
図-2 試験施工と本施工の場所
図-1 既設の緑化工法の現状
発芽・生育不良の状態
既設盛土法面
わら芝 植生2年
風雨により基盤材が流出した状態
既設切土法面
厚層基材吹付 植生2年
2,斜面緑化の検討範囲
現況を踏まえた、東九州自動車道(佐伯~県境)における斜面緑化の検討範囲を図-3 に
示す。まず、道路土工指針-斜面安定工指針を基に、緑化対象となる斜面の状況を、①勾配、
②土の硬度、③風化の程度、④土羽土・侵食の有無等により細分化し、次に、A:既設工法
にて充分な緑化が期待できる箇所と、B:地域特性を踏まえ、経済的な緑化の検討が必要で
ある箇所、C:緑化することが困難で、緑化には高いコストが必要となる箇所で分類分けを
実施した。当区間では、B の箇所(赤・青範囲)を、斜面緑化の検討が必要な対象斜面と
している。
NO
YES
YES
NO
NOYES
* 土嬢酸度の改善措置が不可能な場合はブロック張工などの構造物工のみの適用を検討する。** 吹付厚さは緑化目標も考慮して決定する。*** 植生マット工を適用する場合には、植生基材が封入されたもので、その機能が同条件での植生基材吹付工の吹付厚さに対応した製品を使用する。
YES YES
YES
NO NO NO
盛土法面
土嬢硬度27mm以上か
侵食を受けやすいか
切盛区分
盛土材
一般的土質 岩砕ズリ
土羽土を打て るか
土羽土 +種子散布工張芝工筋芝工植生筋工植生シート工
種子散布工張芝工筋芝工植生筋工植生シート工
客土吹付工** (厚さ2cm)植生基材吹付工** (厚さ3cm)
種子散布工植生マット工***
客土吹付工** (厚さ1cm)植生マット工***
客土吹付工植生基材吹付工** (厚さ2cm)植生マット工***
砂質土 粘質土 砂質土 粘質土
土質 土質
土嬢硬度 23mm以上か
植生基材吹付工** (厚さ3cm)
客土吹付工 (厚さ2cm)
植生マット工***
植生基材吹付工**(厚さ3~5cm) 植生マット工***
植生基材吹付工** (厚さ4~6cm) 植生マット工***
植生基材吹付工** (厚さ6~10cm) 植生土のう工
植生基材注入工
亀裂間隔
亀裂間隔
全面的に亀裂が入り、風化が認められる
一部が風化して亀裂が認められる
全面的に亀裂が入り、風化が認められる
風化して いない
風化の程度
土嬢硬度30mm以上か
1:0.5以上の緩勾配か
勾配修正又は別途補助工等検討
切土法面
10cm未満
10cm以上
10cm未満
10cm以上
一部が風化して亀裂が認められる
風化の程度
既設工法で充分な緑化可能
緑化が困難で高いコストが必要
地域性に考慮した緑化の検討が必要(緑化検討の対象斜面)
スタート
既設工法で充分な緑化可能
地域性に考慮した緑化の検討が必要(緑化検討の対象斜面)
出典:道路土工指針-斜面安定工指針に加筆
図-3 斜面緑化の検討フロー
3,土の乾燥、岩の露出対策として緑化工法の検討
当区間における、土の乾燥や岩の露出に対する緑化
工法の性能として、①日当たりによる乾燥に強いこと。
②はがれ易い礫質土にも定着できること。③ある程度
の急傾斜(勾配 1:0.5 まで)に対応可能であること、
④施工性が良く、施工コストが高くなりすぎないこと
などを条件として設定し、検討を行った。結果、吸着
材を混入させた植栽基盤を吹付ける工法(図-4)を採
用し、当区間での適性を把握するための試験施工を実
施し、その効果を確認することができた。(図-5)
図-4 吸着材混入吹付工法の特徴
【長所】
○団粒化剤効果により、基盤が施工面に活着
○湧水・浮石が多い場合は不向き
○通気性、透水性、保水性、保肥性に優れる
○盛土・切土に適用可能
【短所】
バーク堆肥、黒土、赤土、有機肥料や種子等を吹付、締固める。
吹付厚さ(T=2.0~5.0cm)
施工直後
施工状況
2ヶ月後(5月)
3ヶ月後(5月)
図-5 吸着材混入吹付工法の試験施工と緑化状況
4,維持管理費を低減できる草種の選定に関する検討
維持管理費の低減を考慮した、草種の選定に関する試験施工の試験ケース数を表-1 に、
試験施工の様子を図-6 に示す。試験ケースは、吸着材混入吹付け工法をベースとして、①
施工方法(芝張り、植栽吹付け工)、②適切な草本種子(センチピートグラスなど 4種類)
を組合せたものとした。草本種子の特徴を図-7 にまとめる。生育が期待できるセンチピー
トグラスについては、芝張りと吹付けの両方を実施している。既設工法を基準として、生
育状況の比較を行った。また、吹付け厚については、道路土工指針-斜面安定工指針に従い、
盛土2cm、切土3cm で設定している。
表-1 試験施工の試験ケース
Case 草本種 施工吸着材混入吹付け厚
備考
Case1 センチピートグラス 張芝工 - 既設工法
Case2 センチピートグラス 張芝工 2cm
Case3 みやこ芝 張芝工 2cm
Case4 バミューダグラス 植生基材吹付工 2cm
Case5 ケンタッキーブルーグラス 植生基材吹付工 2cm
Case6 センチピートグラス 植生基材吹付工 2cm
※植生基材吹付における芝系種子は、センチピートグラスとバミューダグラス及びケンタッキーブルーグラスとし、植生の期待が持てるセンチピートグラスにおいては、直接土砂部に張付ける既設工法と、吹付け基盤に張芝を行う工法、種子を混ぜて吹付ける工法の3種類とした。
Case6:植生基材吹付工センチピートグラス
Case5:植生基材吹付工ケンタッキーブルーグラス
Case4:植生基材吹付工
バミューダグラス
Case3:張芝工みやこ芝< t=2cm>
Case2:張芝工センチピートグラス
< t=2cm>
Case1:張芝工センチピートグラス
図-6 斜面緑化に関する試験施工の様子
ノシバに似た、葉幅の広い粗い芝造る。播種して一夏で芝生に仕上げることが可能。管理にあまり手間がかからない。密な芝生となるため、雑草の進入が目立たない。
センチピートグラス
みやこ芝
改良された日本芝。緑葉期間が長く、増殖力の旺盛であり、地中深くまで入る根により、耐乾燥性に優れ干ばつ時でも緑葉を保つ。
バミューダグラス
世界の暖地を中心に広く利用。冠水に対する抵抗性が強い。日陰には適さない。、造成は容易であるが、芝質に劣る。
ケンタッキーブルーグラス
芝草や牧草として使われるイネ科の多年草。北半球の温帯に広く分布している。
図-7 試験施工に用いる各草本種子の特徴
5,試験施工の結果
試験施工から 116 日経過した状況を図-8 に示す。これより、センチピートグラスと吸着
材混入吹付け工法を組合せた Case2、Case6の生育が最も良く、防草効果があることが確
認できた。みやこ芝、ケンタッキーブルーグラスと組合せた Case3、Case5は、生育が良
くなく、雑草が侵入している状況を確認することができた。Case4 においても、一部生育
不良の箇所が見られることから、センチピートグラスが最も相性の良い種であることが分
かる。
Case4 Case5 Case6
吸着材混入吹付け植栽基盤吹付工
センチピートグラス
吸着材混入吹付け植栽基盤吹付工
ケンタッキーブルーグラス
吸着材混入吹付け植栽基盤吹付工バミューダグラス
不良 良好通常
草本種の組合せが不適雑草の侵入有り
一部生育不良有り
生育不良 生育不良
今後の生育が期待できる
Case3Case2Case1
直接施工張芝工
センチピートグラス
吸着材混入吹付け芝張工
センチピートグラス
吸着材混入吹付け芝張工
みやこ芝
不良良好通常
草本種の組合せが不適今後の生育が期待できる枯れた部分があり乾燥状態これ以上の生育は望めない
図-8 試験施工の生育状況(116 日経過)
6,経済的な斜面緑化の基本方針
一連の試験施工の結果を踏まえ、岩が露出した斜面や、日当たりが強く保水性に乏しい
斜面に対する緑化の基本方針を図-9 にまとめる。試験施工により、客土の固結力、良好な
生育を確認できため、維持管理などの経済性も含めて考慮した結果、吸着材混入吹付け工
法を基本工法とした。また草種の選定については、自動車走行付近、排水工周辺では、植
生高の低い芝系種子で、高い防草効果が得られるセンチピートグラス1種類を舗装近辺ま
で吹付けることとした。切土部にはラス網を有した種子7種配合(内、3種は切土部に強
い種子)を、盛土路体部には 5種配合の種子を選択した。また風雨による侵食を考慮して、
切土土砂部は吹付け厚3cm、切土軟岩部は吹付け厚5cm としている。
区分 施工箇所 PG吹付厚 ラス網 吹付け種子 備考
① 盛土 路体部 2cm - バミューダ、ケンタッキーブルー等 5種
② 盛土 路床部 2cm - センチピートグラス 自動車走行に配慮
③ 切土 土砂部 3cm 使用 バミューダ、よもぎ、コマツナギ等 7種 3種は切土に強い種子
④ 切土 軟岩部 5cm 使用 バミューダ、よもぎ、コマツナギ等 7種 3種は切土に強い種子
⑤ ランプ 盛土 5cm - センチピートグラス 自動車走行に配慮
⑥ ランプ 切土 5cm 使用 センチピートグラス 自動車走行に配慮
*張り芝より安価な客土吹付工を採用
*吹付け種子5種:バミューダグラス、クリーピングレッドフェスク、よもぎ、コマツナギ、ケンタッキーブルーグラス
*吹付け種子7種:バミューダグラス、クリーピングレッドフェスク、よもぎ、コマツナギ、メドハギ、ヤハズソウ
※ランプ等の自動車走行範囲は
張芝・⑤・⑥等の検討が必要
⑤ ⑥ 切土 軟岩部
切土 土砂部
盛土 路体部
盛土 路床部①
②③
④
図-9 斜面緑化の基本方針
7,本施工での実施状況と今後の追跡調査
試験施工を得て作成した、斜面緑化の植生工の基本方針に従う形で、森崎、丸市尾、波
当津の3地区において本施工を実施した。各地区とも発育は非常に順調であるものの、吹
付け時期によって、一部、雑草の侵入を防ぎ切れない箇所も見られた。(図-10)今後は半
年ごとに追跡調査を行い、追加の課題の整理と対策の検討を行っていく予定である。
生育良好
いっせいに発芽し、雑草の侵入を排除
波当津地区丸市尾地区
芽が出る前に雑草が繁茂
生育不良森崎地区(一部)
図-10 斜面緑化の状況(良好な箇所と不良な箇所)