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講義ノート (平成 19年度)
微 分 積 分 学
講義で用いる記号等について¶ ³• ギリシャ文字 大文字 小文字 読み方 大文字 小文字 読み方
α アルファ ν ヌゥー
β ベータ Ξ ξ クシー
Γ γ ガンマ o オミクロン
∆ δ デルタ Π π パイ
ε イプシロン ρ ロー
ζ ゼータ Σ σ シグマ
η イータ τ タウ
Θ θ シータ Υ υ ウプシロン
ι イオタ Φ φ ファイ
κ カッパ χ カイ
Λ λ ラムダ Ψ ψ プサイ
µ ミュー Ω ω オメガ
• その他– Def =定義, Prop =命題, Th =定理, Lem =補題, Note =表記,
Remark =注釈, Ex =例,例題, Proof =証明, =証終
– R= 実数全体, N= 自然数全体, Q= 有理数全体, C= 複素数全体
[a, b] = x ∈ R : a ≤ x ≤ b : 閉区間(a, b) = x ∈ R : a < x < b : 開区間[a, b) = x ∈ R : a ≤ x < b : 右開区間(a, b] = x ∈ R : a < x ≤ b : 左開区間
R2 = (x, y) | x, y ∈ RRn = (x1, x2, · · · , xn) | x1, x2, · · · , xn ∈ R : n次元ユークリッド空間
– ∀ = For all ~ = 任意の~に関して∃ = There exists ~ = ある ~ が存在してs.t. = such that ( so that ) = ~であるようなi.e. = id est = すなわち, つまり
ex. ( i ) 「∀A, ∃B s.t. C」 =「任意の Aに対して, C を満たすようなある B が存在する.」
(ii) 「 limn→∞
an = a」 =「∀ε > 0, ∃N ∈ N s.t. n ≥ N → |an − a| < ε」
=「任意の正数 ε に対して,ある番号N があって,
n ≥ N となるすべての n に対して |an − a| < ε が成立する」
(iii) 「 limn→∞
an = +∞」 =「∀M ∈ R, ∃N ∈ N s.t. n ≥ N → an > M」
=「任意の実数 M に対して,ある番号N があって,
n ≥ N となるすべての n に対して an > M が成立する」
(iv) 「 limn→∞
an = −∞」 =「∀M ∈ R, ∃N ∈ N s.t. n ≥ N → an < M」
=「任意の実数 M に対して,ある番号N があって,
n ≥ N となるすべての n に対して an < M が成立する」
(v) 「 limx→a
f(x) = f(a)」=「∀ε > 0, ∃δ > 0 s.t. |x − a| < δ → |f(x) − f(a)| < ε」
=「任意の正数 ε に対して,ある正数 δ があって,
|x − a| < δ となるすべての x に対して
|f(x) − f(a)| < ε が成立する」µ ´
1
第1章 常微分方程式
多くの自然現象や社会現象は, 導関数を含む方程式 (微分方程式)を用いて記述することができる.
(熱伝導方程式)∂u
∂t(t, x) = c0
∂2u
∂x2(t, x)
(波動方程式)∂2u
∂t2(t, x) = c1
∂2u
∂x2(t, x)(
金融派生証券の価格付け
Black-Scholes 方程式
)∂u
∂t(t, x) +
12σ2x2 ∂2u
∂x2(t, x) + rx
∂u
∂x(t, x) − ru(x, t) = 0
そのため, これらの現象の解明には, 微分方程式を分析することが有益である.一般に, 微分方程式による数学モデルの構築は下の流れ図の要領で行われる. Step 1 ~ 3, 7 は, 対象とする現象に関する講義に, また, Step 6 は統計学の講義に委ねる. ここでは, Step 4 に関して, 最も基本的な線形常微分方程式について説明する. ( Step 5 の解の振るまい等の数学的解析もとても重要ではあるが, 時間の都合上, 省略する.)
微分方程式による数学モデルの構成図¶ ³¤ ¡1. 経験的・理論的考察から現実モデルを案出する£ ¢
¤ ¡2. モデルのための仮定をたてる£ ¢
¤ ¡3. 数学問題を定式化する£ ¢
¤ ¡4. 数学問題を
解く£ ¢¤ ¡5. 解の意味を説明する£ ¢
¤ ¡6. モデルの妥当性を
検証する£ ¢¤ ¡7. モデルを用いて説明・予測・
決定・計画を行う£ ¢
- -
¾ ¾
?
?
6
不適当
再考
適当
µ ´1 線形常微分方程式
(n + 2)変数関数 F (x, y0, y1, · · · , yn) と xの関数 y = y(x)及びその導関数についての方程式
F (x, y, y′, y′′, · · · , y(n)) = 0
を n階 (常)微分方程式という. また, ある n回連続微分可能な関数 y = φ(x)があって,
F (x, φ(x), φ′(x), φ′′(x), · · · , φ(n)(x)) = 0, x ∈ I
が区間 I で恒等的に成り立つとき, 関数 y = φ(x)をこの方程式の解という. n階微分方程式の解で,
n個の任意定数を含むもの · · · · · · 一般解定数を指定したもの · · · · · · 特殊解一般解の定数を指定しても得られないもの · · · · · · 特異解
という.
2 第 1章 常微分方程式
例題 1.1 aを定数とする. y = sin(2x + a)から定数 aを消去して微分方程式を作れ.
Proof y = sin(2x + a), y′ = 2 cos(2x + a) だから
y2 +(
y′
2
)2
= sin2(2x + a) + cos2(2x + a) = 1 ∴ y2 +(
y′
2
)2
= 1¥
逆に, y = sin(2x + a)は 1階常微分方程式 4y2 + (y′)2 − 4 = 0 の一般解であり, y ≡ ±1 が特異解である.n個の定数を含む関数から, 定数を消して方程式を作るには n階微分方程式を作ることになる.逆に, n階微分方程式の解は n個の任意定数を含む.
演習問題 1 a, bを定数とする. (x − a)2 + (y − b)2 = 4から定数 a, bを消去して微分方程式を作れ.
例題 1.2 (群集動態の数理モデル) n種類の種の個体数 N1(t), . . . , Nn(t)の時間変化は, 各種の増殖, 種内種間相互作用, 環境との相互作用などを考慮にいれた n本の常微分方程式の系
dNi
dt= fi(N1(t), · · · , Nn(t), t)Ni(t), i = 1, . . . , n (1.1)
で表される場合が多い. ここで, fi は種 iの 1個体当たりの増殖率を表す (n + 1)変数の実数値関数である.種間相互作用の代表的な例としては, 競争関係, 共生関係, 被食-捕食関係があげられる. これらの関係は, fi
の偏導関数の符号により区別することができる:
i種と j 種が競争関係にある場合 :∂fi
∂Nj< 0,
∂fj
∂Ni< 0
i種と j 種が共生関係にある場合 :∂fi
∂Nj> 0,
∂fj
∂Ni> 0
i種が j 種を捕食する場合 :∂fi
∂Nj> 0,
∂fj
∂Ni< 0
とくに, fi が次のように Nj (j = 1, . . . , n) の線形関数で表されるモデルを, 一般 Lotka-Volterra 方程式と
いう:
一般 Lotka-Volterra 方程式:dNi
dt=
εi +n∑
j=1
aijNj(t)
Ni(t), i = 1, . . . , n.
例題 1.3 (感染症流行の基本モデル) 感染症流行の数理モデルとしては, 次の SIRモデルと呼ばれるものが
代表的である. 集団は, 感受性保持者 (susceptible), 感染者 (infected), 免疫保持者 (recovered)に分けられ, 時刻 tでのそれぞれの人数を S(t), I(t), R(t) で表す. このとき,
SIRモデル:
dS
dt= λN − µS − βcIS + fI + hR,
dI
dt= −(µ + δ + f + g)I + βcIS,
dR
dt= −(µ + h)R + gI,
β : 接触あたりの感染率,
c : 接触速度,
µ : 死亡率,
δ : 病気による超過死亡率,
f : 自然治癒率,
g : “感染→免疫”の割合,
h : “免疫→感受性”の割合,
λ : 出生率,
N = S + I + R (全体の人数).
2. 1階常微分方程式 3
2 1階常微分方程式
2.1 変数分離形y′ = f(x)g(y) の形の微分方程式を変数分離形という.
ここで, f(x), g(y) はある区間で定義された連続関数である.
g(y) 6= 0であれば,1
g(y)y′ = f(x) i.e.
1g(y)
dy
dx= f(x) であるから,
両辺を xについて積分すると∫
1g(y)
dy
dxdx =
∫f(x)dx i.e.
∫1
g(y)dy =
∫f(x)dx.
g(y0) = 0 となる y0 があるとき, y = y0 も方程式の解となるが, 次の例題で見るように y = y0 は特異解とな
る場合もあれば, 特殊解として一般解に含めることができる場合もある.
例題 2.1 xy2 − y′ = xを解け.
Proof 式を変形すると, y′ = x(y2 − 1) と表せるから, 変数分離形である.
y 6= ±1 のとき, (y2 − 1)を移項して両辺を xについて積分すると∫2
y2 − 1dy =
∫2xdx ⇒
∫ (1
y − 1− 1
y + 1
)dy = x2 + c0 (c0 :任意定数)
⇒ log∣∣∣∣y − 1y + 1
∣∣∣∣ = x2 + c0
⇒ y − 1y + 1
= cex2(c(= ±ec0) : 0以外の任意定数)
⇒ y =1 + cex2
1 − cex2 (c 6= 0の任意定数)
y = 1 は上式において c = 0とおくことにより得られる. また y = −1も解であることが分る. したがって,
一般解 : y =1 + cex2
1 − cex2 (c :任意定数), 特異解 : y = −1. ¥
例題 2.2 (ロジスティック方程式)dN
dt= (ε − µN(t))N(t), N(0) < a :=
ε
µを解け.
Proof 初期条件より N ≡ a ではないから, (a − N(t))N(t)を移項して両辺を tについて積分すると∫1
N(N − a)dN =
∫(−µ)dt ⇒
∫1a
(1
N − a− 1
N
)dN = −µt + c0 (c0 :任意定数)
⇒ log∣∣∣∣N − a
N
∣∣∣∣ = −εt + c0a
⇒ a
N(t)= 1 − ce−εt (c(= ±ec0a) : 0以外の任意定数)
t = 0 を代入すると c = 1 − a
N(0)であるから, 代入して整理すると
N(t) =a
1 + e−εt
(a
N(0)− 1
) = N(0)εeεt
ε + µN(0)(eεt − 1). (2.1)
注釈 2.3 ロジスティック方程式は (1.1) に関する競争関係のある最も簡単なモデルである. ε > 0 は内的自然増加率と呼ばれ, 集団の密度が低いときの 1個体あたりの増殖率を表す. µ > 0 は種内競争係数と呼ばれ, 密度が増加すると餌や生息可能領域の不足にともなって生物の生存率, 或は出産率が減少する効果を表す.
(2.1) は小さな初期値N(0)から出発すると, 初めは指数関数的に増加するが, 次第に増加速度が鈍り, やがて一定値 a = ε/µ (環境収容量と呼ばれる) に収束する S 字カーブを描く. これは, 種内競争があれば個体数は無限に増えることはないことを表している.
4 第 1章 常微分方程式
2.2 同次形
y′ = h(y
x
)の形の微分方程式を同次形という. (2.2)
ここで, h(·) はある区間で定義された連続関数である.
y = xz(x)とおいて, 両辺を xで微分すると y′ = z + xz′ となり, 式 (2.2)は
z + xz′ = h(z) i.e. z′ =h(z) − z
xという変数分離形であるから,
一般解は∫
1h(z) − z
dz =∫
1x
dx = log |x| + c (c :任意定数) で得られる.
例題 2.4 (x + y)y′ = (x − y)を解け.
Proof(1 +
y
x
)y′ = 1 − y
xとなるから同次形である. z =
y
xとおくと, y′ = z + xz′ であるから,
(1 + z)(z + xz′) = 1 − z ⇒ x(1 + z)z′ = 1 − 2z − z2.
z2 + 2z − 1 6= 0のとき,z + 1
z2 + 2z − 1z′ = − 1
xであるから, 両辺を xについて積分すると
∫z + 1
z2 + 2z − 1dz = −
∫1x
dx ⇒ 12
log |z2 + 2z − 1| = − log |x| + c0 (c0 :任意定数)
⇒ x2(z2 + 2z − 1) = c (c(= ±e2c0) : 0以外の任意定数)
z2 + 2z − 1 = 0 は上式において c = 0 とおくことにより得られる. y = xz を代入して, まとめると
一般解 : y = −x ±√
2x2 + c (c :任意定数). ¥
例題 2.5 (刺激に対する反応) 刺激 sに対する反応 Rを記述した数学モデル: (k, l > 0 は定数)
(1) (ウェーバー =フェヒナー モデル)dR
ds=
k
s, s > s0 ≥ 0, R(s0) = 0.
(2) (S.スティーブンス モデル)dR
ds= l
R
s, s > 0, R(0) = 0.
の解を求めよ.
[解] (1) R(s) = k logs
s0, s ≥ s0 (2) R(s) = csl, s ≥ 0 (c > 0 任意定数) ¥
注釈 2.6 ウェーバー=フェヒナー モデルにおいて, パラメータ k, s0 の値は, 刺激のタイプと個体に依存する.S.スティーブンス モデル において, 定数 cは単位の選択によって定まるが, 指数 lは感覚の原因によって異
なる. 例えば,
( i ) 体に感ずる電気ショック ⇒ l > 1 ⇒ R(t) :単調増加な凸関数
(ii) 可視対象の目で見える長さ ⇒ l = 1 ⇒ R(t) :単調増加な直線
(iii) 明るさの感じ方 ⇒ l < 1 ⇒ R(t) :単調増加な凹関数
2. 1階常微分方程式 5
2.3 1階線形常微分方程式
y′ + P (x)y = Q(x), x ∈ I の形の微分方程式を 1階線形常微分方程式という. (2.3)
ここで, P (x), Q(x) はある区間 I 上の連続関数である. eR
P (x)dx を両辺にかけて計算すると
y′eR
P (x)dx + P (x)eR
P (x)dxy = Q(x)eR
P (x)dx
y′eR
P (x)dx +
eR
P (x)dx′
y = Q(x)eR
P (x)dxye
R
P (x)dx′
= Q(x)eR
P (x)dx
yeR
P (x)dx =∫
Q(x)eR
P (x)dxdx
y = e−R
P (x)dx
∫Q(x)e
R
P (x)dxdx
で 1階線形常微分方程式 (2.3) の一般解が得られる.
例題 2.7 初期値問題 y′ − y = x, y(0) = 1 を解け.
Proof 両辺に e−x をかけると,
y′e−x − ye−x = xe−x ⇒ ye−x′ = xe−x
⇒ ye−x =∫
xe−xdx = −(1 + x)e−x + c
⇒ y = cex − (1 + x) (c :任意定数).
また, y(0) = c − 1 = 1 より, c = 2. ∴ y = 2ex − x − 1. ¥
注釈 2.8 上の例題のように一般解は次のように分解される (詳しくは注釈 3.7参照) :
y =『 y′ − y = 0の一般解』+『 y′ − y = xの特殊解』=『 cex』+『 − (1 + x)』
Bernoulli(ベルヌーイ)型微分方程式
y′ = P (x)y + Q(x)yn, x ∈ I (n 6= 0, 1) (2.4)
の形の微分方程式を Bernoulli型微分方程式という. ここで, P (x), Q(x) はある区間 I 上の連続関数である.n = 0, 1のときは, 線形微分方程式になるので除外する. また y ≡ 0 は特異解である.
y 6= 0とし, 両辺を yn で割ると
y−ny′ = P (x)y1−n + Q(x) ⇒y1−n
′= (1 − n)
P (x)y1−n + Q(x)
.
z = y1−n とおくと
z′ + (n − 1)P (x)z = −(n − 1)Q(x) ⇒ z = −e−(n−1)R
P (x)dx
∫(n − 1)Q(x)e(n−1)
R
P (x)dxdx.
したがって Bernoulli型微分方程式 (2.4) の一般解は
y = z−1
n−1 = eR
P (x)dx
[−(n − 1)
∫Q(x)e(n−1)
R
P (x)dxdx
]− 1n−1
.
6 第 1章 常微分方程式
例題 2.9 [n = 2] y′ = P (x)y − Q(x)y2 を解け.(例題 2.2 のロジスティック方程式の定数係数 ε, µ を変数係数 P (x), Q(x) に拡張したモデルである.)
Proof z = y1−2 = y−1 とおくと z′ = −y−2y′ = −z2y′ であるから上式に代入すると
−z−2z′ = P (x)z−1 − Q(x)z−2 ⇒ z′ + P (x)z = Q(x) ⇒ z = e−R
P (x)dx
∫Q(x)e
R
P (x)dxdx
∴ y = z−1 =e
R
P (x)dx∫Q(x)e
R
P (x)dxdx¥
例題 2.10 [n = 2/3] (フォン・ベルタランフィー モデル)
w′(t) = 3β(αw(t)2/3 − w(t)), w(0) = 0 を解け.
(w(t) は時刻 tにおける魚の体重を表すモデルである. 漁業資源の制御モデル等において利用される.)
Proof z = w1−2/3 = w1/3 とおくと w = z3, w′ = 3z2z′ であるから上式に代入すると
3z2z′ = 3β(αz2 − z3) ⇒ z′ + βz = αβ ⇒ z(t) = α(1 − e−βt) ( k∵ z(0) = w(0) = 0)
∴ w(t) = α3(1 − e−βt)3 ¥
Riccati(リッカチ)型微分方程式
y′ = P (x)y + Q(x)y2 + R(x), x ∈ I (Q(x) 6= 0) (2.5)
の形の微分方程式をRiccati型微分方程式という. ここで, P (x), Q(x), R(x) はある区間 I 上の連続関数である.P,Q,Rが特別な関数の場合を除き, 初等解法は一般に存在しない. しかしながら, 特殊解が 1つ見つかると, それから一般解を構成することができる.
u(x)が Riccati型微分方程式 (2.5)の 1つの解とする.
y = u + z−1 とおくと y′ = u′ − z−2z′ であるから (2.5)に代入すると
u′ − z−2z′ = P (x)(u + z−1) + Q(x)(u + z−1)2 + R(x)
= [P (x)u + Q(x)u2 + R(x)] + P (x)z−1 + Q(x)(2uz + 1)z−2
= u′ + P (x)z−1 + Q(x)(2uz + 1)z−2
z′ + (P (x) + 2u(x)Q(x))z = −Q(x)
となり, 1階線形微分方程式に変換される. したがって
z = −e−R
[P (x)+2u(x)Q(x)]dx
∫Q(x)e
R
[P (x)+2u(x)Q(x)]dxdx
y = u(x) − eR
[P (x)+2u(x)Q(x)]dx∫Q(x)e
R
[P (x)+2u(x)Q(x)]dxdx
で Riccati型微分方程式 (2.5)の一般解が得られる.
演習問題 2 次の微分方程式を解け.
(1) (1 − x2)y′ + xy = 2x (3) y′ = y + x2
(2) x(x + y)y′ = y(3x + 2y) (4) y′ + 2y = e2xy3
3. 2階線形常微分方程式 7
3 2階線形常微分方程式
ある区間 I 上の連続関数 P (x), Q(x), R(x) について, 微分方程式
y′′ + P (x)y′ + Q(x)y = R(x), x ∈ I
を 2階線形常微分方程式という. また,
y′′ + P (x)y′ + Q(x)y = 0, x ∈ I
を附随する補助方程式という.本節では, P (x), Q(x)が定数である場合の解を求める.その後, 補助方程式の 1つの特殊解から元の微分方程式の一般解を構成する方法を考察する.
3.1 定数係数の 2階線形常微分方程式
本節では, 定数係数の 2階線形常微分方程式
y′′ + py′ + qy = R(x) (p, q :定数) (3.1)
を解く. そのために, この微分方程式の特性方程式
t2 + pt + q = 0 (3.2)
の解を α, β とおく. 従って (3.1) は次のようになる:
y′′ − (α + β)y′ + αβy = R(x) (3.3)
(y′′ − αy′) − (βy′ − αβy) = R(x)
(y′ − αy)′ − β(y′ − αy) = R(x)e−βx(y′ − αy)
′= e−βxR(x)
y′ − αy = eβx
∫e−βxR(x)dx (3.4)
(y′′ − βy′) − (αy′ − αβy) = R(x)
(y′ − βy)′ − α(y′ − βy) = R(x)e−αx(y′ − βy)
′ = e−αxR(x)
y′ − βy = eαx
∫e−αxR(x)dx (3.5)
(α, β が複素数のとき, 厳密には, 複素数に関する微分・積分の理論が必要であるが,今の場合は, 実数のときと同じ計算ができる. §4.1参照.
)
(1) α 6= β, i.e. p2 − 4q 6= 0 のとき (3.4) から (3.5) をひくと
(β − α)y = eβx
∫e−βxR(x)dx − eαx
∫e−αxR(x)dx
y =eαx
α − β
∫e−αxR(x)dx +
eβx
β − α
∫e−βxR(x)dx (3.6)
を得る. p2 − 4q > 0, i.e. α, β が異なる実数のときはこの表現で十分であるが,p2 − 4q < 0, i.e. α, β が複素数のときは次の公式を利用して (3.6)を書き換える:
オイラーの公式 : eiθ = cos θ + i sin θ(
i =√−1
).
8 第 1章 常微分方程式
α = a + i b, β = a − i b (a, b ∈ R, (b 6= 0)) とおくと (3.6)は
y =eax · ei bx
2i b
∫e−ax · e−i bxR(x)dx − eax · e−i bx
2i b
∫e−ax · ei bxR(x)dx
=eax
2ib
[ei bx
∫e−ax(cos bx − i sin bx)R(x)dx − e−i bx
∫e−ax(cos bx + i sin bx)R(x)dx
]=
eax
b
[ei bx − e−i bx
2i
∫e−ax cos bxR(x)dx − ei bx + e−i bx
2
∫e−ax sin bxR(x)dx
]=
1b
[eax sin bx
∫e−ax cos bxR(x)dx − eax cos bx
∫e−ax sin bxR(x)dx
](3.7)
となる. 特に, R(x) ≡ 0のとき, 不定積分は定数だから, (3.6)と (3.7) はそれぞれ次のように表現される:
(3.6) : y = c1eαx + c2e
βx ( c1, c2は任意定数 ),
(3.7) : y = c1eax cos bx + c2e
ax sin bx ( c1, c2は任意定数 ).
(2) α = β, i.e. p2 − 4q = 0 のとき (3.4)より, 部分積分の公式を用いるとe−αxy
′ = e−αx(y′ − αy) =∫
e−αxR(x)dx
e−αxy =∫
1 ·(∫
e−αxR(x)dx
)dx = x
∫e−αxR(x)dx −
∫xe−αxR(x)dx
y = xeαx
∫e−αxR(x)dx − eαx
∫xe−αxR(x)dx (3.8)
を得る. 特に, R(x) ≡ 0のとき,
y = c1eαx + c2xeαx ( c1, c2は任意定数 ).
R(x) ≡ 0のときについて, 以上をまとめると
定理 3.1 特性方程式 (3.2) の解を α, β とする. 微分方程式
y′′ + py′ + qy = 0 (3.9)
の一般解 y(x) は
y(x) = c1u(x) + c2v(x) ( c1, c2は任意定数 )
と表現される. ここで u(x), v(x) は,
(1) p2 − 4q > 0 (i.e. α, β が異なる実数)のとき,
u(x) = eαx, v(x) = eβx.
(2) p2 − 4q = 0 (i.e. α = β)のとき,
u(x) = eαx, v(x) = xeαx.
(3) p2 − 4q < 0 (i.e. α = a + i b, β = a − i b (a, b ∈ R, (b 6= 0))) のとき,
u(x) = eax cos bx, v(x) = eax sin bx.
上述定理の関数 u(x), v(x) を対応する微分方程式 (3.9) の基本解という. 次に基本解 u(x), v(x) を用いて(3.6)-(3.8) を表現すると, α + β = −p であるから
(3.6) : y =1
β − α
[v(x)
∫u(x)R(x)epxdx − u(x)
∫v(x)R(x)epxdx
](3.10)
(3.8) : y =[v(x)
∫u(x)R(x)epxdx − u(x)
∫v(x)R(x)epxdx
](3.11)
(3.7) : y =1b
[v(x)
∫u(x)R(x)epxdx − u(x)
∫v(x)R(x)epxdx
](3.12)
となり, [•]の部分の表現がすべて等しいことが分る.
3. 2階線形常微分方程式 9
例題 3.2 微分方程式 2y′′ − 3y′ + y = x3 + x を解け.
Proof 特性方程式 2t2 − 3t + 1 = 0 の解は t = 1/2, 1 だから, 基本解は u(x) = ex2 , v(x) = ex.
したがって, (3.6)より,
y = −2ex/2
∫e−x/2 x3 + x
2dx + 2ex
∫e−x x3 + x
2dx
= ex/2[2(x3 + 6x2 + 25x + 50)e−x/2 + c1
]+ ex
[−(x3 + 3x2 + 7x + 7)e−x + c2
]= c1e
x/2 + c2ex + (x3 + 9x2 + 43x + 93) ( c0, c1 :任意定数 ) ¥
注釈 3.3 上の例題において, z(x) = x3 + 9x2 + 43x + 93 は, 元の微分方程式の 1つの解 (特殊解)であり, y1(x) = c1u(x) + c2v(x) は補助方程式 2y′′ − 3y′ + y = 0 の一般解である. つまり,
“ (3.1)の一般解 ” = “ 補助方程式の一般解 ” + “ (3.1)の特殊解 ”
の形をしている. 次節の注釈 3.7 より, これは一般に成立する. 従って, 次の例題のように特殊解を見つけられるのであれば, 不定積分を計算するよりも簡単に計算できる.
例題 3.4 微分方程式 y′′ − 2y′ + 5y = e3x を解け.
Proof 微分方程式の形から, 特殊解として z(x) = ae3x が推測される. これを微分方程式に代入すると
z′′ − 2z′ + 5z = (9a − 6a + 5a)e3x = 8ae3x = e3x
となるから, z(x) = e3x/8 が特殊解である.一方, 特性方程式 t2 − 2t + 5 = 0 の解は t = 1 ± 2
√−1 だから, 基本解は
u(x) = ex cos 2x, v(x) = ex sin 2x
で与えられる. 従って, 一般解は
y = c1ex cos 2x + c2e
x sin 2x +18e3x ( c1, c2 :任意定数 ) ¥
例題 3.5 (摩擦をともなうバネの運動) 水平な床におかれた質量 m の物体が, 壁面にバネ定数 k2 のバネで
つながれているとする. 物体と床の間の摩擦によって, 物体の速さと重量の積に比例した制動力が加わるものと仮定し, その比例定数を µ とおく. また, 時刻 t における物体の水平位置を x(t) とおく. ただし, バネが自然長の状態で x = 0 となるように原点の位置を定めておく.このとき, 重力加速度を g とおくと,次の運動方程式が導かれる.
mx′′(t) + µmgx′(t) + k2x(t) = 0
x(0) = 0
演習問題 3 次の微分方程式の一般解を求めよ.
(1) y′′ − y′ − 2y = 0
(2) y′′ + 4y′ + 4y = 0
(3) y′′ − 2y′ + 10y = 0
(4) y′′ − 2y = −ex + e−x
(5) y′′ − 4y′ + 4y = 4x2 − 2
(6) y′′ − 4y′ + 5y = cos x
10 第 1章 常微分方程式
Eulerの微分方程式 x2y′′ + axy′ + by = 0 について考える.
x > 0 において, 変数変換 x = et を行い, z(t) = y(et) とおくと
z′(t) = ety′(et) = xy′(x), z′′(t) = e2ty′′(et) + ety′(et) = x2y′′(x) + z′(t),
だから, これらを上式に代入することにより, 次の定数係数 2階線形常微分方程式を得る:
z′′(t) + (a − 1)z′(t) + bz(t) = 0 (3.13)
x < 0 においても, 変数変換 x = −et を行い, z(t) = y(−et) とおくと (3.13) が得られる.したがって, (3.13) の一般解 z について
y(x) =
z(log x), (x > 0)z(log(−x)), (x < 0)
= z(log |x|), x 6= 0
が Eulerの微分方程式の解になる. y はそれぞれ (−∞, 0), (0,∞)上では, 微分可能な関数であるが, 一般の係数a, bについて, x = 0を含む区間に拡張することはできない. これは x = 0で y′′ の係数が 0になるためである.このような方程式は退化型と呼ばれ, 解の存在性を示すのが困難な問題である.
3.2 定数変化法による 2階線形常微分方程式の解法
ある区間 I 上の連続関数 P (x), Q(x), R(x) について, 2階線形常微分方程式
y′′ + P (x)y′ + Q(x)y = R(x), x ∈ I (3.14)
の一般解を, 補助方程式y′′ + P (x)y′ + Q(x)y = 0, x ∈ I (3.15)
の 1つの特殊解から構成する方法を考える.y(x) を (3.14)の一般解とし, u(x)(6= 0) を (3.15)の特殊解, i.e.
u′′ + P (x)u′ + Q(x)u = 0, x ∈ I (3.16)
とする. (3.14) × u − (3.16) × y より,
y′′u − yu′′ + P (x)(y′u − yu′) = uR
(y′u − yu′)′ + P (x)(y′u − yu′) = uRe
R
P (x)dx(y′u − yu′)′
= uReR
P (x)dx
y′u − yu′ = e−R
P (x)dx
∫uRe
R
P (x)dxdx( y
u
)′=
y′u − yu′
u2= u−2e−
R
P (x)dx
∫uRe
R
P (x)dxdx
であるから,
v(x) = u(x)∫
u(x)−2e−R
P (x)dxdx
とおくと, 部分積分の公式より,
y(x) = u(x)∫
u(x)−2e−R
P (x)dx
(∫u(x)R(x)e
R
P (x)dxdx
)dx
= u(x)(∫
u(x)−2e−R
P (x)dxdx
)(∫u(x)R(x)e
R
P (x)dxdx
)− u(x)
∫ (∫u(x)−2e−
R
P (x)dxdx
)u(x)R(x)e
R
P (x)dxdx
= v(x)∫
u(x)R(x)eR
P (x)dxdx − u(x)∫
v(x)R(x)eR
P (x)dxdx
3. 2階線形常微分方程式 11
が得られる. 特に, R(x) ≡ 0 のとき,
y = c1u(x) + c2v(x) ( c1, c2は任意定数 ).
以上をまとめると
定理 3.6 u(x)(6= 0)を補助方程式 (3.15)の特殊解とし,
v(x) = u(x)∫
u(x)−2e−R
P (x)dxdx
とおくと, v(x) も補助方程式 (3.15)の特殊解であり, さらに, 次のことが云える:
(1) 補助方程式 (3.15)の一般解 y0(x) は
y0(x) = c1u(x) + c2v(x) ( c1, c2は任意定数 ). (3.17)
(2) 微分方程式 (3.14)の一般解 y(x) は
y(x) = v(x)∫
u(x)R(x)eR
P (x)dxdx − u(x)∫
v(x)R(x)eR
P (x)dxdx . (3.18)
Proof (1),(2)はすでに示した. v(x) が (3.15)の特殊解であることは (1)において, c1 = 0, c2 = 1 とおくことにより分る. ¥
注釈 3.7 原始関数を用いて, (3.18) の不定積分をそれぞれ∫v(x)R(x)e
R
P (x)dxdx = V (x) − c1,
∫u(x)R(x)e
R
P (x)dxdx = U(x) + c2
( c1, c2は任意定数 ) と表現すると, (3.18)は
y(x) = c1u(x) + c2v(x) +v(x)U(x) − u(x)V (x)
= y0(x) +
v(x)U(x) − u(x)V (x)
となる. z(x) = v(x)U(x) − u(x)V (x) は (3.14)の特殊解であるから, 上式は
“ (3.14)の一般解 ” = “ 補助方程式 (3.15)の一般解 ” + “ (3.14)の特殊解 ”
であることを意味している.
注釈 3.8 補助方程式 (3.15)の特殊解を 1つ見つけることができれば, 上述の方法により, 微分方程式 (3.14)の一般解を構成できるが, 補助方程式の特殊解を見つける一般的な方法は見つかっていない.
12 第 1章 常微分方程式
4 定数係数の高階線形常微分方程式
ある区間 I 上の連続関数 f(x) についての, 定数係数のN 階線形常微分方程式
y(N) +N−1∑k=0
pky(k) = f(x), x ∈ I
の一般解についての表現を与える.
4.1 線形作用素
初めに, 複素数値関数の導関数と不定積分を簡略的に定義する. 厳密なものは, 複素解析学の成書に委ねる.この節を通して, i =
√−1 を虚数単位, I をある開区間とする.
定義 4.1 u(x), v(x) は I 上の実数値連続関数とする. 複素数値関数 f(x) = u(x) + i v(x) について,
(1) u(x), v(x) がともに I 上微分可能であるとき, f(x) の導関数 f ′(x) を
f ′(x) = u′(x) + i v′(x) とする.
(2) f(x) の不定積分を ∫f(x)dx =
∫u(x)dx + i
∫v(x)dx とする.
上の定義におけるような, ある I 上の実数値連続関数 u(x), v(x) があって,f(x) = u(x) + i v(x) と表現できる I 上の複素数値関数 f(x) の全体を C(I → C) と記述する.さらに, u(x), v(x) がともに I 上微分可能であるような f(x) の全体を C1(I → C) と記述する.定義から次の性質が成り立つ.
補題 4.2 a(6= 0), a1, a2 ∈ C とする. また, C0 = c0 + i c1 ∈ C を積分定数とする.
(1) f1, f2 ∈ C1(I → C) のとき
(a) (a1f1(x) + a2f2(x))′ = a1f′1(x) + a2f
′2(x)
(b)∫
f ′1(x)dx = f1(x) + C0
(c) (f1(x)f2(x))′ = f ′1(x)f2(x) + f1(x)f ′
2(x)
(d)∫
f1(x)f ′2(x)dx = f1(x)f2(x) −
∫f ′1(x)f2(x)dx
(2) f1, f2 ∈ C(I → C) のとき
(a)∫
(a1f1(x) + a2f2(x))dx = a1
∫f1(x)dx + a2
∫f2(x)dx
(b)(∫
f1(x)dx
)′
= f1(x)
(3) (eax)′ = aeax,
∫eaxdx =
1aeax + C0
4. 定数係数の高階線形常微分方程式 13
Proof ak = bk + i tk, (bk, tk ∈ R), fk(x) = uk(x) + i vk(x) (k = 1, 2)とおく.(1-a) & (2-a) : akfk = (bkuk − tkvk) + i(bkvk + tkuk) だから,(
2∑k=1
akfk(x)
)′
=
(2∑
k=1
(bkuk(x) − tkvk(x))
)′
+ i
(2∑
k=1
(bkvk(x) + tkuk(x))
)′
=2∑
k=1
(bku′k(x) − tkv′
k(x)) + i2∑
k=1
(bkv′k(x) + tku′
k(x))
=2∑
k=1
(bk + i tk)(u′k(x) + i v′
k(x))
=2∑
k=1
akf ′k(x)
∫ 2∑k=1
akfk(x) dx =∫ 2∑
k=1
(bkuk(x) − tkvk(x)) dx + i∫ 2∑
k=1
(bkvk(x) + tkuk(x)) dx
=2∑
k=1
(bk
∫uk(x) dx − tk
∫vk(x) dx
)+ i
2∑k=1
(bk
∫vk(x) dx + tk
∫uk(x) dx
)
=2∑
k=1
[bk
(∫uk(x) dx + i
∫vk(x) dx
)+ i tk
(∫uk(x) dx + i
∫vk(x) dx
)]
=2∑
k=1
ak
∫fk(x)dx
(1-b) & (2-b) :
f ′1(x) = u′
1(x) + i v′1(x) ⇒
∫f ′1(x)dx =
∫u′
1(x) dx + i∫
v′1(x) dx
= u1(x) + c0 + i (v1(x) + c1) = f1(x) + C0∫f1(x) dx =
∫u1(x) dx + i
∫v1(x) dx ⇒
(∫f1(x) dx
)′
=(∫
u1(x) dx
)′
+ i(∫
v1(x) dx
)′
= u1(x) + i v1(x)
(1-c) & (1-d) : f1f2 = (u1u2 − v1v2) + i(u1v2 + v1u2) だから,
(f1f2)′ = (u1u2 − v1v2)′ + i(u1v2 + v1u2)′
= (u′1u2 + u1u
′2 − v′1v2 − v1v
′2) + i(u′
1v2 + u1v′2 + v′
1u2 + v1u′2)
= u′1(u2 + i v2) + (u1 + i v1)u′
2 + v′1(−v2 + iu2) + (−v1 + iu1)v′2
= u′1f2 + f1u
′2 + i v′
1f2 + i v′2f1
= (u′1 + i v′1)f2 + f1(u′
2 + i v′2)
= f ′1f2 + f1f
′2
(2-a), (1-c), (1-b) より∫f ′1(x)f2(x) dx +
∫f1(x)f ′
2(x) dx =∫
(f ′1(x)f2(x) + f1(x)f ′
2(x))dx
=∫
(f1(x)f2(x))′dx = f1(x)f2(x) + C0
(3) : a = b + i t (b, t ∈ R) とおくと, オイラーの公式より,
(ei tx)′ = (cos tx + i sin tx)′ = (cos tx)′ + i (sin tx)′ = t(− sin tx + i cos tx) = i tei tx
だから,(1-c) より
(eax)′ = (ebx · ei tx)′ = (ebx)′ · ei tx + ebx · (ei tx)′ = beax + i teax = aeax
14 第 1章 常微分方程式
また, (2-a), (1-b) より
a
∫eax dx =
∫(eax)′ dx = eax + C0 ¥
注釈 4.3 実数値関数のときと同様に, 前補題から, 微分・積分に関する線形性が保証され, 関数の積に関する微分の公式や不定積分と微分の関係が成立することがわかる. これにより, 虚数単位 i を単なる文字として, 通常の微分・積分の計算を行ってよいことが保証される.
注釈 4.4 任意の a = b + i t ∈ C (b, t ∈ R) について, オイラーの公式より, 次式が成立する:
eax · e−ax = ebx(cos tx + i sin tx) · e−bx(cos tx − i sin tx) = cos2 tx + sin2 tx = 1
次に C(I → C)から C(I → C)への写像 Fa を導入する.任意の a ∈ C と f(x) ∈ C(I → C) について
Fa[f ] := eax
∫e−axf(x)dx (4.1)
このとき,
補題 4.5 任意の a(6= 0), b1, b2 ∈ C と f1(x), f2(x) ∈ C(I → C) について, 次式が成立する:
(線形性) Fa[b1f1 + b2f2] = b1Fa[f1] + b2Fa[f2]
Proof 補題 4.2(2-a) より,
Fa[b1f1 + b2f2] = eax
∫e−ax
(b1f1(x) + b2f2(x)
)dx
= eax
∫ (b1e
−axf1(x) + b2e−axf2(x)
)dx
= eax
(b1
∫e−axf1(x)dx + b2
∫e−axf2(x)dx
)= b1Fa[f1] + b2Fa[f2] ¥
このような写像 Fa を C(I → C)から C(I → C)への線形作用素という. 関数空間 C(I → C)の性質や一般の線形作用素についての詳細は関数解析学の成書に委ねる.最後に簡単な関数について, Fa の値をまとめておく.
補題 4.6 a(6= 0), b, bj ∈ C, t(6= 0) ∈ R, n ∈ N ∪ 0 とする. c0 ∈ R, C0 ∈ C は積分定数とする.
(1) Fa[0] = c0 eax
(2) Fa[ebx] =
C0 eax +
1b − a
ebx (b 6= a)
c0 eax + xeax (b = a)
(3) Fa[cos tx] = C0 eax +
−a cos tx + t sin tx
a2 + t2(a 6= ±i t)
12xeax − 1
4ae−ax (a = ±i t)
(4) Fa[sin tx] = C0 eax −
a sin tx + t cos tx
a2 + t2(a 6= ±i t)
a
2txeax +
14t
e−ax (a = ±i t)
4. 定数係数の高階線形常微分方程式 15
(5) Fa[xn] = C0 eax − n!an+1
n∑k=0
ak
k!xk
(6) Fa
n∑j=0
bjxj
= C0 eax −n∑
j=0
j∑k=0
bjj!k!
ak−(j+1)xk
Proof (1): 自明.(2): 補題 4.2 より,
e−axFa[ebx] =∫
e(b−a)xdx =
C0 +
1b − a
e(b−a)x (b 6= a)
c0 + x (b = a)
(3): オイラーの公式より, cos tx =ei tx + e−i tx
2. a 6= ±i t とすると, 補題 4.5 と (2)より,
Fa[cos tx] = Fa
[ei tx + e−i tx
2
]=
12
(Fa[ei tx] + Fa[e−i tx]
)= C0e
ax − 12
(ei tx
a − i t+
e−i tx
a + i t
)= C0e
ax − 12
a(ei tx + e−i tx) + i t(ei tx − e−i tx)a2 + t2
= C0eax −
(a
a2 + t2ei tx + e−i tx
2− t
a2 + t2ei tx − e−i tx
2i
)= C0 eax − a cos tx − t sin tx
a2 + t2
a = ±i tのとき, Fa[cos tx] = C0eax +
12
(xeax − e−ax
2a
)
(4): オイラーの公式より, sin tx =ei tx − e−i tx
2i. a 6= ±i t とすると, 補題 4.5 と (2)より,
Fa[sin tx] = Fa
[ei tx − e−i tx
2i
]=
12i
(Fa[ei tx] − Fa[e−i tx]
)= C0e
ax − 12i
(ei tx
a − i t− e−i tx
a + i t
)= C0e
ax − 12i
a(ei tx − e−i tx) + i t(ei tx + e−i tx)a2 + t2
= C0eax −
(a
a2 + t2ei tx − e−i tx
2i+
t
a2 + t2ei tx + e−i tx
2
)= C0 eax − a sin tx + t cos tx
a2 + t2
a = ±i tのとき, Fa[sin tx] = C0eax − a
2t
(xeax +
e−ax
2a
)(5): 数学的帰納法を用いる. a = b + i t (b, t ∈ R) とおく.
n = 0 のとき, 補題 4.5 より,
Fa[1] = eax
∫e−axdx = C0e
ax − 1a
となり,与式は成立する.
n まで与式が成立すると仮定する.
i.e. e−axFa[xj ] = Cj − e−ax j!aj+1
j∑k=0
ak
k!xk, j = 0, 1, . . . , n
16 第 1章 常微分方程式
このとき, 補題 4.2(1-d) より,
e−axFa[xn+1] =∫
e−axxn · xdx = x
∫e−axxndx −
∫ (∫e−axxndx
)dx
= xe−axFa[xn] −∫
e−axFa[xn]dx
= x
(Cn − e−ax n!
an+1
n∑k=0
ak
k!xk
)−
∫ Cn − e−ax n!an+1
n∑j=0
aj
j!xj
dx
= −e−ax n!an+2
n∑k=0
ak+1
k!xk+1 +
n!an+1
n∑j=0
aj
j!
∫e−axxjdx
= −e−ax n!an+2
n∑k=0
ak+1
k!xk+1 +
n!an+1
n∑j=0
aj
j!e−axFa[xj ]
= −e−ax n!an+2
n∑k=0
ak+1
k!xk+1 +
n!an+1
n∑j=0
aj
j!
(Cj − e−ax j!
aj+1
j∑k=0
ak
k!xk
)
= −e−ax n!an+2
n∑k=0
ak+1
k!xk+1 + C − e−ax n!
an+2
n∑j=0
j∑k=0
ak
k!xk
= C − e−ax n!an+2
n∑k=0
ak+1
k!xk+1 +
n∑k=0
n∑j=k
ak
k!xk
= C − e−ax n!
an+2
[n∑
k=0
ak+1
k!xk+1 +
n∑k=0
ak
k!xk(n + 1 − k)
]
= C − e−ax n!an+2
[n∑
k=0
ak+1
k!xk+1 −
n∑k=1
ak
(k − 1)!xk + (n + 1)
n∑k=0
ak
k!xk
]
= C − e−ax n!an+2
[an+1
n!xn+1 + (n + 1)
n∑k=0
ak
k!xk
]
= C − e−ax (n + 1)!an+2
n+1∑k=0
ak
k!xk
したがって, n + 1 のときも与式は成り立つ.(6): (5)と補題 4.5 より,
Fa
n∑j=0
bjxj
=n∑
j=0
bjFa
[xj
]=
n∑j=0
bj
(Cj eax − j!
aj+1
j∑k=0
ak
k!xk
)= C0 eax −
n∑j=0
j∑k=0
bjj!k!
ak−(j+1)xk ¥
4. 定数係数の高階線形常微分方程式 17
4.2 高階線形常微分方程式の解の表現
I 上連続な実数値関数 f(x) と定数係数 pkN−1k=0 ⊂ C に関するN 階線形常微分方程式
y(N) +N−1∑k=0
pky(k) = f(x), x ∈ I
の特性方程式
tN +N−1∑k=0
pktk = 0, x ∈ I
の解を ajNj=1 ⊂ Cとする. このとき, 微分方程式の解 y は
y(x) = Fa1 Fa2 · · · FaN [f ] (4.2)
という表現をもつことを示そう. ここで G F は合成写像 G F [f ] = G[F [f ]] を表す.以後, 簡単のため, Fk = Fak
と表記する.
Proof 数学的帰納法を用いる.1. N = 1 のとき,
y′ + p0y = f
y′ − a1y = f
(e−a1xy)′ = e−a1xf
e−a1xy =∫
e−a1xf(x)dx
y = ea1x
∫e−a1xf(x)dx = F1[f ]
よって, 成立する.2. N = n のとき成り立つと仮定する. N = n + 1のとき,
tn+1 +n∑
k=0
pktk = (t − a1)(t − a2) · · · (t − an)(t − an+1) =
(tn +
n−1∑k=0
qktk
)(t − an+1)
となる qkn−1k=0 ⊂ C を選ぶ. このとき
n∑k=0
pktk =
(tn +
n−1∑k=0
qktk
)(t − an+1) − tn+1
=n−1∑k=0
qktk+1 − an+1tn − an+1
n−1∑k=0
qktk =n∑
k=1
qk−1tk − an+1t
n − an+1
n−1∑k=0
qktk
=n−1∑k=1
[qk−1 − qkan+1] tk + [qn−1 − an+1] tn − q0an+1
であるから,
p0 = −q0an+1, pn = qn−1 − an+1, pk = qk−1 − qkan+1 (k = 1, 2, . . . , n − 1)
がわかる. よって,
f(x) = y(n+1) +n∑
k=0
pky(k) = y(n+1) + [qn−1 − an+1] y(n) +n−1∑k=1
[qk−1 − qkan+1] y(k) − q0an+1 y
= y(n+1) +n∑
k=1
qk−1 y(k) − an+1
(y(n) +
n−1∑k=0
qky(k)
)
= y(n+1) +n−1∑k=0
qk y(k+1) − an+1
(y(n) +
n−1∑k=0
qky(k)
)
=
(y(n) +
n−1∑k=0
qky(k)
)′
− an+1
(y(n) +
n−1∑k=0
qky(k)
)
= ean+1x
[e−an+1x
(y(n) +
n−1∑k=0
qky(k)
)]′
18 第 1章 常微分方程式
であるから,
e−an+1x
(y(n) +
n−1∑k=0
qky(k)
)=
∫e−an+1xf(x)dx ⇒ y(n) +
n−1∑k=0
qky(k) = Fn+1[f ]
仮定より, N = nのときは成立しているので
y = F1 F2 · · · Fn[Fn+1[f ]] = F1 F2 · · · Fn Fn+1[f ]
よって, N = n + 1 のときも成立する. ¥
最後に, N 重の不定積分 (4.2)をN 個の不定積分の和にできることを示す.
命題 4.7 n ≥ 2 を自然数とする.
(1) aknk=1 ⊂ C がすべて異なれば
F1 F2 · · · Fn[f ] =n∑
k=1
Fk[f ]Ak
ここで, Ak = (ak − a1) · · · (ak − ak−1)(ak − ak+1) · · · (ak − an).したがって, 不定積分の順番に依存しない.
(2) Fna :=
n 個︷ ︸︸ ︷Fa Fa · · · Fa とおくと,
e−axFna [f ] =
n−1∑k=0
bk
((n − 1) − k)!x(n−1)−k
∫e−axxkf(x)dx =
n−1∑k=0
bkx(n−1)−k
((n − 1) − k)!e−axFa[xkf ]
ここで, 数列 bk∞k=0 ⊂ R は次式により, 帰納的に定義される :
b0 = 1, bk = −k−1∑j=0
bj
(k − j)!(k = 1, 2, . . .)
Proof (1): 数学的帰納法を用いる.1. n = 2 のとき, 部分積分の公式より,
F1 F2[f ] = ea1x
∫e−a1xF2[f ]dx = ea1x
∫e(a2−a1)x
(∫e−a2xf(x)dx
)dx
= ea1x
[e(a2−a1)x
a2 − a1
∫e−a2xf(x)dx −
∫e(a2−a1)x
a2 − a1e−a2xf(x)dx
]=
1a2 − a1
[ea2x
∫e−a2xf(x)dx − ea1x
∫e−a1xf(x)dx
]=
F2[f ] − F1[f ]a2 − a1
よって, 成立する.2. n − 1 のとき成り立つと仮定する.
F2 F3 · · · Fn[f ] =n∑
k=2
Fk[f ]Bk
ここで, Bk = (ak − a2) · · · (ak − ak−1)(ak − ak+1) · · · (ak − an). このとき,
F1 F2 · · · Fn[f ] = F1[F2 · · · Fn[f ]] = F1
[n∑
k=2
Fk[f ]Bk
]=
n∑k=2
1Bk
F1 Fk[f ]
=n∑
k=2
1Bk
Fk[f ] − F1[f ]ak − a1
=n∑
k=2
Fk[f ] − F1[f ]Ak
=n∑
k=1
Fk[f ]Ak
− F1[f ]n∑
k=1
1Ak
4. 定数係数の高階線形常微分方程式 19
したがって,
n∑k=1
1Ak
= 0 (4.3)
が成り立てば n のときも与式は成立する.3. (4.3) を数学的帰納法で示すために, あらためて
Ak,n = (ak − a1) · · · (ak − ak−1)(ak − ak+1) · · · (ak − an) とおく.
n = 2 のとき
1A1,2
+1
A2,2=
1a1 − a2
+1
a2 − a1= 0 より, 成立する.
n = j のとき成り立つと仮定する.
i.e.
j∑k=1
1Ak,j
= 0
さらに, 数列 bkを bj = aj+1, bk = ak (k = 1, 2, . . . , j − 1) として
Dk = (bk − b1) · · · (bk − bk−1)(bk − bk+1) · · · (bk − bj) とおく.
仮定より, j 個の数に対して (4.3)が成立しているので
j∑k=1
1Dk
= 0
このとき,
1Aj+1,j+1
=1
(aj+1 − a1) · · · (aj+1 − aj−1)(aj+1 − aj)
=1
(bj − b1) · · · (bj − bj−1)(aj+1 − aj)
= − 1aj − aj+1
· 1Dj
1Aj,j+1
=1
(aj − a1) · · · (aj − aj−1)(aj − aj+1)
=1
aj − aj+1· 1Aj,j
1Ak,j+1
=1
(ak − a1) · · · (ak − ak−1)(ak − ak+1) · · · (ak − aj)(ak − aj+1)
=1
aj − aj+1
[1
(ak − a1) · · · (ak − ak−1)(ak − ak+1) · · · (ak − aj−1)(ak − aj)
− 1(ak − a1) · · · (ak − ak−1)(ak − ak+1) · · · (ak − aj−1)(ak − aj+1)
]=
1aj − aj+1
[1
Ak,j− 1
(bk − b1) · · · (bk − bk−1)(bk − bk+1) · · · (bk − bj−1)(bk − bj)
]=
1aj − aj+1
[1
Ak,j− 1
Dk
](k = 1, 2, . . . , j − 1)
であるから
j+1∑k=1
1Ak,j+1
=1
aj − aj+1
j∑k=1
[1
Ak,j− 1
Dk
]=
1aj − aj+1
(j∑
k=1
1Ak,j
−j∑
k=1
1Dk
)= 0
20 第 1章 常微分方程式
よって, n = j + 1 のときも成立する.(2): 数学的帰納法を用いる.
1. n = 2 のとき, 部分積分の公式より,
e−axFa Fa[f ] =∫
e−axFa[f ]dx =∫
1 ·(∫
e−axf(x)dx
)dx
= x
∫e−axf(x)dx −
∫xe−axf(x)dx
= b0x
∫e−axf(x)dx + b1
∫e−axxf(x)dx
よって, 成立する.2. n − 1 のとき成り立つと仮定する.
i.e. e−axFn−1a [f ] =
n−2∑k=0
bk
((n − 2) − k)!x(n−2)−k
∫e−axxkf(x)dx
このとき, 部分積分の公式より,
e−axFna [f ] = e−axFa[Fn−1
a [f ]] =∫
e−axFn−1a [f ] dx
=n−2∑k=0
bk
((n − 2) − k)!
∫x(n−2)−k
(∫e−axxkf(x)dx
)dx
=n−2∑k=0
bk
((n − 2) − k)!
[x(n−1)−k
(n − 1) − k
∫e−axxkf(x)dx −
∫x(n−1)−k
(n − 1) − ke−axxkf(x)dx
]
=n−2∑k=0
bk
((n − 1) − k)!x(n−1)−k
∫e−axxkf(x)dx
−n−2∑k=0
bk
((n − 1) − k)!
∫xn−1e−axf(x)dx
=n−2∑k=0
bk
((n − 1) − k)!x(n−1)−k
∫e−axxkf(x)dx + bn−1
∫e−axxn−1f(x)dx
=n−1∑k=0
bk
((n − 1) − k)!x(n−1)−k
∫e−axxkf(x)dx
よって, n のときも成立する. ¥