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ヒトとして生まれ, 人として生きる 発達するとは どういうことか かかわりの発達心理学 第2回 417おさらい 心理学において「発達」とは、個体が時間経過に伴っ てその身体的・精神的機能を変えてゆく過程 時間の中で人が変化していくさまをとらえようとする もの。 「発達心理学」とは, 生物の一種として生まれた「ヒト」が, 社会や文化をまとった「人」として, 他者と関わりながら育ち,育てられ,次の世代を育み, 死に至るまでの,心の発達の過程を考究する学問

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ヒトとして生まれ,人として生きる

+発達するとはどういうことか

かかわりの発達心理学第2回 4月17日

おさらい

• 心理学において「発達」とは、個体が時間経過に伴ってその身体的・精神的機能を変えてゆく過程

• →時間の中で人が変化していくさまをとらえようとするもの。

• 「発達心理学」とは,

• 生物の一種として生まれた「ヒト」が,

• 社会や文化をまとった「人」として,

• 他者と関わりながら育ち,育てられ,次の世代を育み,死に至るまでの,心の発達の過程を考究する学問

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今日のポイント

• 1.発達は,「上昇」だけではない

• 2.発達は個人と環境との相互作用によって進む

1.発達の多次元性・他方向性

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発達のゴールとしての大人

• 1970年頃まで,発達心理学は「児童心理学」とも呼ばれていた。当時の発達心理学は,乳児期から青年期にかけての,主に身体面や行動面,認知面の変化を扱う学問であった。

• また,そこでいう発達とは,無力で未熟な子どもが有能で成熟した大人へと直線的,上昇的に変化していく成長の過程を指しており,大人になること(認知面でいえば,論理抽象的な思考ができること)が発達のゴールとみなされてきた。

• そのため,大人になってからの発達が学問的見地から問われることはほとんとなかった。

平成24年度学校保健統計調査より身長の記録の年齢推移

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平成24年度学校保健統計調査より

体重の記録の年齢推移

平成24年度 文部科学省 体力・運動能力調査より

50m走の記録の年齢推移

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平成24年度 文部科学省 体力・運動能力調査より

立ち幅跳びの記録の年齢推移

平成24年度 文部科学省 体力・運動能力調査より

反復横跳びの記録の年齢推移

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平成24年度 文部科学省 体力・運動能力調査より

握力の記録の年齢推移

Question 1‐1 

• 「心が発達する」とはどういうことだろうか。横軸を時間軸(年齢)とし,縦軸は自由に設定して,あなたが考える「心の発達」をグラフに描いて説明してみよう。

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一般的にはこんなイメージ?

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ピアジェの認知発達理論

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ワークシート1

• 次の事柄は,どの程度あなたにあてはまりますか。

• それぞれの時期について考え,折れ線グラフを書いてください。• (1)お化けや妖怪,怪物などが怖い…異界との近さ

• (2)○○ごっこを楽しむ…ファンタジー

• (3)人からどう見られているかが気になる…対他的意識

• (4)自分の存在について深く考える…実存的意識

• (5)自分の未来について考える…時間的展望

• (6)自分の過去について考える…時間的展望

• (7)死ぬのがこわい…異界との近さ,自己の自覚

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*知能の発達は多次元性,多方向性をもつ

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ワークシート2

• 2.幼い子ども,若い人,高齢の人を比べたとき,それぞれの人が他よりもすぐれている点として,それぞれどんなことをあげることができますか?

• (1)【幼い子ども】がいちばん優れていると思うこと

• (2)【若い人】がいちばん優れていると思うこと

• (3)【高齢の人】がいちばん優れていると思うこと

Baltesの発達論

獲 得

喪 失

誕 生 高 齢

図は,理論上期待される,獲得と喪失の比率における変化の平均的な過程を示したもの

発達は,獲得と喪失からなる環境への個人の

適応過程といえる。

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• 発達≠何かができるようになること• 上昇的な変化(獲得)だけでなく,下降的な変化(喪失)や停滞を含むものとして発達をとらえる見方

• 成長(獲得)と衰退(喪失)のダイナミックな相互作用。環境に対する個人の適応能力の変化。

• 成長は、量的増大がテーマになるのに対し、発達は、質的変化がテーマになる。

• 生涯発達• 人の受胎から死に至るまでの,生涯を通しての行動の恒常性と変化

2.発達は個人と環境との相互作用

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おさらい

• 心理学において「発達」とは、個体が時間経過に伴ってその身体的・精神的機能を変えてゆく過程

• →時間の中で人が変化していくさまをとらえようとするもの。

• 「発達心理学」とは,

• 生物の一種として生まれた「ヒト」が,

• 社会や文化をまとった「人」として,

• 他者と関わりながら育ち,育てられ,次の世代を育み,死に至るまでの,心の発達の過程を考究する学問

そこにある二重性

• 〈なる〉の論理• それぞれが、自然に〈なる〉側面をもつ人間の自然性をもつ• 個人の生成過程

• 我々は誰しも個性的な存在であり、個人として発達する面をもっている。

• 〈する〉-〈される〉の論理• その自然な〈なる過程〉は、常に、他者との関係、人間による作為の過程を組み込んだなかで展開する

• 適切な作為との相互作用のもとで実現されるものである。

• そしてこの両側面は,互いに連関しあう• 子どもは養育者と同一化することによって、世界を探索することが可能となり、自然な成長も促される

• この二重性を生きる中で我々は成長をとげている

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平成24年度学校保健統計調査より身長の記録の年齢推移

その中に見える“環境”の要因

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「あんよ」ができるということ

• 1.個人の側の発達が進むための「時間」が

• 2.ある一定の条件を満たす環境の中で経過するということ

• →このとき,プログラムが十分に実現される。

他者がいる(人と相互作用が

なされる)環境

「ヒトとして発達する」プログラムを持って生まれた

個人

人としてのふるまい方,愛情

愛着,模倣,好奇心

Cf.「成熟」

• 外界の刺激とはあまり関係が無く、内的に、主に遺伝などの要因に依って、自生的に生じる変化を成熟と言う。

• 例えば、特に歩行の訓練を施さなくても、子供はある年齢に達すると勝手に歩行をするようになる。これは、歩行をさせようと言う外部的な力が無いにもかかわらず生じる発達である。

• こう言った発達を成熟と呼び、発達は主に成熟に依るのだと言う考え方を成熟優位説(遺伝優位説)と言う。

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Cf. フロイトの発達理論…個人内要因によって発達を説明

• 心理-性的人格発達論• 性的本能から生み出される一種の心的エネルギー…リビドー• 発達と共に、リビドーの固着部位が順次移行する

• 固着:各発達段階における欲求が満たされなかった場合に、大人の時にその段階に戻ってしまうこと。

• 性的発達が部分的に抑えられると、その結果として神経症が引き起こされる。

• 口唇期 oral phase(~18ヵ月頃)/肛門期 anal phase(1‐3歳頃)/エディプス期(男根期) oedipal phase(5‐6歳頃)/潜伏期 lateny period(6歳~思春期に入るまで)/性器期 genital stage(思春期以降)

Cf. 環境決定論

• どれほど複雑な行動でも,最終的には単純なS‐R結合(条件反射)の連鎖あるいは束として考えられる

• 「好み」「苦手」といったことは内的な要因のように見えるが,実は外からの刺激によって生じた反応が学習された結果である

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Cf. 環境決定論

• われわれの行動は完全に環境の影響によって決定されている。すなわち行動を行った結果によってわれわれの行動は完全にコントロールされているのであって、自由意志があるなどと考えることはまったくの幻想である。

• どうせ自分で自分をコントロールできないのであれば、環境をよりよくコントロールして、よりよい行動のコントロールをめざそうではないか。

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多様な要因の相互作用の結果としての発達

p.14

• 1.年齢的(age‐graded)事象:個人の年齢と強い関連をもつ,生物学的変化(身体の発育など)や社会的事象(就園・就学や就職など)による影響を指す。

• 2. 歴史的(history‐graded)事象:歴史的時間と関連をもつ,生物学的(進化的)文脈や,環境的(社会的)文脈を指す。近代化に向けての長期にわたる社会的変化や,長期にわたる人口構造や産業構造の変化,経済不況,戦争,疾病の流行などがこれには含まれる。

• 3.非標準的 (non‐normative)事象:その人にとっては重要で、あるが,いつ,どのように生じるかが人によって大きく異なる,人生上の出来事の影響を指す

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発達の可塑性(p.14)人の発達には

大きな可塑性がある

可塑性には限界がある

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可塑性を可能にするもの

大きな脳

ヒトの特徴

大きな脳

他者の心を理解する

自己を反省的に見る

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遺伝子の世代間伝達

文化の世代間伝達

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社会や文化の産物としての発達

エリクソンの心理-社会的人格発達論• エリクソン:心理-社会的人格発達論

• 人生とは,人が環境との出遭いの中で繰り返し経験し,乗り越えてゆく,内的要求と外的(=集団や社会,歴史の)要求の葛藤の連続である。

• 人生の各段階における「心理社会的危機」とする8段階の生涯発達モデル• 乳児期/幼児前期/幼児後期/児童期/青年期/星人初期/成人中期/成人後期

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45

図 達成されるべき心的な特質(鑪, 1983)

マイナスの特質(例:基本的不信)

プラスの特質(例:基本的信頼)

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図 危機を乗り越えられなかった場合の例(鑪, 1983)

マイナスの特質(例:基本的不信)

プラスの特質(例:基本的信頼)

マイナスの特質(例:基本的不信)

プラスの特質(例:基本的信頼)

マイナスの特質がプラスの特質を上回ってしまい、心理的に生きづらい

プラスとマイナスの間で常に大きく揺れ動き、安定できない

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図式の意味

• 第1は、自我の各部分は、それぞれ特に優勢的に成長させるべき時期があるということ、

• 第2は、すべての素因はその成長が最優先される時期以前にも何らかの形で存在しているということ、

• 第3は、各段階における心理・社会的危機は、それに対する解決が見いだされたとしても、次の段階ではそこに適した形でさらなる発達を遂げていくということ

時期 心理社会的時期 重要な関係を結ぶ人物

心理社会的モダリティ(他者や世界に対する総体的な関わり方)

乳児期 基本的信頼/基本的不信

母親的な人物 ・与えられるものを受け取ること・お返しとして与えること

幼児前期 自律/恥・疑惑 両親的な人物 ・保持する(持ち続ける) ・手放すこと

幼児後期 自主性/罪悪感 基礎家族 ・つくる(追い求める) ・まねをする(遊び)

児童期 勤勉/劣等感 近隣,学校 ・物をつくる(完成させる)・誰かと一緒に物をつくる

青年期 アイデンティティ/拡散

同年代の集団・他者集団,リーダーシップのモデル

・自分自身になる・自分自身であることを他者と分かち合う

成人初期 親密と連帯/孤独 友情関係,セックス,競争・協同のパートナーたち

・他者の中に自分を失い(lose),見出す

成人中期 世代性/停滞 労働における分業と家庭内における分担

・何かを存在させる・世話をする

成人後期 統合/絶望 人類,私の種族 ・これまで生きてきた存在の仕方を通して存在する・存在しなくなるという事実に直面する