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20160919 第5回法と経済学勉強会 事故法_第12章及び第13章

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第 5 回法と経済学勉強会第Ⅱ編事故法第 12 章責任制度と運営費用2016/9/19( 月 )

FED 事務局

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目次• 第Ⅰ編 所有権法• 第Ⅱ編 事故法• 第Ⅲ編 契約法• 第Ⅳ編 訴訟及び手続法• 第Ⅴ編 公的機関による法のエンフォースメント及び刑法• 第Ⅵ編 法の一般構造• 第Ⅶ編 厚生経済学・道徳・法

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目次• 第Ⅱ編 事故法

– 第 8 章 責任と抑止:基礎理論– 第 9 章 責任と抑止:企業の場合– 第 10 章 抑止の分析の展開– 第 11 章 責任、 リスクの負担、保険– 第 12 章 責任制度と運営費用

• 1. 運営費用の性質と重要性• 2. 社会的に望ましい賠償責任制度の利用:運営費用を考えた場合• 3. 賠償責任制度を利用する私的インセンティブと社会的インセンティブ

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前提条件• 当事者はリスク中立的• 目的関数Min 社会的総費用    = 「注意にかかる費用」   +「事故による期待損害額」

注意水準 注意の費用 事故の確率事故による期待損害額 社会的総費用

なし 0 15% 15 15

中 3 10% 10 13

高 6 8% 8 14

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無責任ルール、厳格責任ルール過失責任ルール無責任ルール ・事故を起こしても責任が課されない場合は、加害者は注意をまったく払わない。・社会的総費用は一般に最適な水準を超えてしまう。

厳格責任ルール・加害者は事故で生じたすべての損害分を支払う・加害者の目標は、社会的総費用を最小にしようとする社会の目標と一致。・加害者に最適な「中」レベルの注意をさせることになる。

注意水準 注意の費用 事故の確率事故による期待損害額 社会的総費用

なし 0 15% 15 15中 ( 相当の注意 ) 3 10% 10 13高 6 8% 8 14

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過失責任ルール・加害者は自らに過失があったときに限り、事故で生じた損害の責任を負う。・「過失があるとき」というのは、加害者の注意水準が、裁判所の定める「相当の注意」と呼ばれる水準に達していなかった時をさす。・「相当の注意」の水準を、社会にとって最適な注意水準と等しくなるように裁判所が設定をしていれば、加害者は「相当の注意」を払うようになり、社会にとって最適な結果を実現する。

注意水準 注意の費用 責任 期待責任額加害者にとっての

総費用なし 0 あり 15 15中 ( 相当の注意 ) 3 なし 0 3高 6 なし 0 6

表 8.1  加害者の注意と事故リスク  P203

表 8.2  過失責任ルール  P205

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責任ルールの比較• 厳格責任ルールも過失責任ルールも社会的に最適な行動という結果を導く。• 厳格責任ルール:裁判所が判断しなければならないのは、発生した損害の大きさだけ• 過失責任ルール:発生した損害に加えて、実際に払われた注意水準を判定し、社会にとって最適な「相当な注意」を割り出す必要がある。

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1.1 運営費用とは• 運営費用とは– 損害発生に伴う紛争を解決する時に関係者が負担する、裁判上の支出またはその他の支出– 和解や訴訟に持ち込まれた請求の件数で運営費用を割って平均を出すと、被害者の受け取る金額とほぼ同じかそれ以上になるという事実が多くの研究で明らかにされている (P320) 。

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1.2 保険の運営費用との差額• 損害賠償責任制度に伴う全ての運営費用が重要なのではなく、そのうち損害保険制度の運営費用を超える分だけが重要。

– 賠償責任制度の運営費用と保険制度の運営費用の差額分だけ、賠償責任制度によって費用が増加したことになる。

• 損害保険の供給に伴う運営費用は賠償責任制度の運営費用よりもずっと低い(被害者が受け取る金額の 10 %未満)– 損害保険の保険者は裁判所と比べて損害の原因や加害者の行動を調べる必要性が小さい。– 保険者は被保険者の支払請求額を確かめるためにかなり単純な手続きを用いている。– 保険者が被保険者と対立関係にない。

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1.3 運営費用からみた「厳格責任」対「過失責任」• 請求の総数:厳格責任 > 過失責任

– 損害が支払いの請求をする費用を上回れば常に請求を行うインセンティブを被害者は持つ• 平均の運営費用:過失責任>厳格責任

– 過失責任では、「加害者の過失」という紛争の要素が増えるため、訴訟に至るまでの争いの余地が大きくなる。

→二つの責任ルールのうちのどちらで運営費用が高くなるかという問題は、理論的には一つに決まらない。

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無責任ルール、厳格責任ルール過失責任ルール

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無責任ルール・加害者は注意を怠るようになるだけではなく、活動を行いすぎるようになる。・加害者は、追加的な効用が少しでも得られる限りは活動を行い続けるようになる。・加害者が複数いる場合には、いわゆる共有地の悲劇に起る。

厳格責任ルール・加害者の効用から加害者の負担する期待費用を差し引いたものが社会的厚生の値に等しくなる。・最適な注意水準を選択すれば、活動の度に自分が負担する期待費用を最小にすることができるため、加害者はそのような注意水準を選択する。・加害者は社会的厚生を最大にするように行動する。

過失責任ルール・裁判所が「相当の注意」を最適な水準に設定すれば、加害者は過失責任ルールの下で最適な注意を払うようになる。・しかし、加害者は「相当の注意」をはらうので、自ら起こしたどんな事故の損害についても責任を免れてしまう。・結果、加害者は得られる効用から注意の費用を差し引いた値が正になるときはいつでも活動を行う。

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加害者 被害者 結果

無責任ルール 加害者は注意を払おうとしない。事故による損害が減るため、注意を払う。

被害者が注意をするかしないかに関わらず、加害者は注意をしない。また、加害者が注意をするかしないかに関わらず、被害者は注意をする。支配戦略の状況。

厳格責任ルール① 事故で生じた損害の責任を負うため、注意を払うインセンティブを持つ。

加害者から補償されるため、注意を払わない。

加害者は「注意する」、被害者は「注意しない」が支配戦略となる。

厳格責任ルール②(過失寄与の抗弁を認める。)

「相当の注意」の水準を社会的に最適な水準に裁判所が定めていれば、相当の注意を払う。

「相当の注意」の水準を社会的に最適な水準に裁判所が定めていれば、相当の注意を払う。

被害者は「注意する」が支配戦略。加害者は「注意する」は支配戦略ではないが、被害者が注意することを予想し、「注意する」を選択する。

過失責任ルール①

「相当の注意」の水準を社会的に最適な水準に裁判所が定めていれば、相当の注意を払う。

「相当の注意」の水準を社会的に最適な水準に裁判所が定めていれば、相当の注意を払う。

加害者は「注意する」が支配戦略。被害者は「注意する」は支配戦略ではないが、加害者が注意することを予想し、「注意する」を選択する。

過失責任ルール②(寄与過失の抗弁を認めるケース)

過失責任①と同じ。被害者に最適な行動をとらせるという目的からすれば、過失責任ルールの場合に、寄与過失の抗弁をさらに認める必要はない。

過失責任ルール③(過失相殺ルール)

加害者も被害者も「相当の注意」を払わなかった場合のみ、双方で被害を分担する。

無責任ルール、厳格責任ルール、過失責任ルール

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2.1 賠償責任制度は社会にとって価値があるのか• 社会にとっての便益>運営費用  →責任賠償制度が社会的に望ましくなる。

– 賠償責任制度の利用は、事故の減少による節約分がその運営費用を超える場合、そしてその場合にのみ社会的に価値がある。• 賠償責任制度が安全確保のインセンティブを相当程度創出でき、それが運営費用の分を上回る  →賠償責任制度は社会的に価値のあるもの

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2.2 責任を負う加害者による最適な支払額:運営費用を考えた場合• 「事故に伴う社会的費用=直接の費用(財産や人に対する損害)+運営費用」• 損害を防ぐ適切なインセンティブを持つようにする条件「責任を負う加害者が支払うべき額=直接の損害+運営費用の話」• 加害者が支払うべき金額≠被害者の受け取る金額

– 国が負担した費用は加害者から罰金として徴収すべき

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3.1 私的インセンティブと社会的インセンティブは乖離しうる• 被害を受けた被害者は、自分にとっての私的便益と、期待責任額及び訴訟の費用を比較した上で、訴訟を提起するかどうか(賠償責任制度を利用するかどうか)を決める。• 厳格責任制度のもとでリスクを低減させられるような対策を加害者は何も取れないケース

– 請求があっても事故による損害を減少させる結果にはならないのに、被害者及び加害者に運営費用がかかる。→インセンティブ設計ができない。

• 請求のための費用が損害額を超えてしまう(請求費用>損害額)一方で、加害者が損害発生の確率をほとんどゼロにできるような予防策を非常に安価に取ることができるケース– 社会的には請求を行った方が望ましいが、私的インセンティブが働かない

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3.2 訴訟提起のインセンティブの乖離は、社会による介入を正当化しうる• 訴訟提起の意思決定を個人に任せると、法制度の利用件数は社会的に最も望ましい水準から乖離してしまう。  →社会(国)による介入が必要。• 運営費用が社会的便益を超えるために利用件数が最適水準よりも多くなりすぎるケース

– 自動車事故の賠償責任は運営費用の割には抑止効果が大きくない。– 訴訟提起の際に手数料を課したり、訴訟を全面的に禁止をしたりする政策をとる。

• 訴訟件数が不足しているケース– 補助金、その他の訴訟促進政策

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ディスカッションテーマ• 運営費のコストを踏まえた上で、国や組織は制度設計を行なっているのだろうか。仮にされていないとしたらなぜなのだろう。

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目次• 第Ⅲ編 契約外観

– 第 13 章 契約外観1. 定義及び分析枠組み2. 契約の締結3. 契約及びそれを強制的に実現することの一般的な正当化自由4. 契約の不完備5. 契約の解釈6. 契約違反における損害賠償の算定7. 契約違反に対する救済としての強制履行8. 契約の再交渉9. 法による契約の無効化10. 契約を実現するための法以外の手段

– 第 14 章 契約の締結– 第 15 章 製造物供給契約– 第 16 章 その他の種類の契約

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1. 定義及び分析枠組み (1)

• 契約( contract)とは、指定された当事者がさまざま時点で取るべき行為 (action) を、一般には何らかの事態 (condition) と関連づける形で ( ある事態が起きた時にはこの行動をとる、というように )特定することをいう。• 完備契約

– 当事者がすべき行為がそれに基づいて決まるような事態の全てが明示的に規定し尽くされている、すなわち、何らかのその契約に関連して生じうる事態の全ての集合に属する一つ一つの事態について、契約が明示的に規定している契約。• 不完備契約

– 起こりうる事態の全てを明示的に規定していない契約

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1. 定義及び分析枠組み (2)

• パレート効率的 Pareto Efficient( 相互の利益となる Mutually beneficial)– ある契約について、契約の各当事者の厚生(期待効用)をそれ以上増加させるように修正する余地がもはやない契約

• 裁判所が有する一般的な機能– 契約の締結 (contract formation) (次ページ)– 契約の解釈( interpretation)– 契約の違反 (breach) に対して、サンクションを課す (救済、 remedies)

• 損害賠償 (damages)*6 にて後述• 強制履行 (specific performance) * 7 にて後述

– 契約を無効とする (override)

• 社会的厚生と契約当事者の厚生– 本書では一般に裁判所の目的が社会的厚生の最大化にあることを前提にする。

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2. 契約の締結• 「締結」・・・契約が有効に成立し、かつ強制的に実現されうる状態となること。• 各当事者は相互の同意が容易に知り得るとする。

– 契約当事者は遅滞なく、契約を前提にした有益な行動をとれる– 契約の承認につながるような同意の表示を行わないことにより、契約の締結を避けることができる

• 脅迫または窮境– 脅迫または相手方の窮境に乗じて極めて有利な契約を結ぶことを法が認めないこととすれば、相手方を困難に追い込むために社会にとって無駄な努力が払われることを防止できる。– 窮境に追い込まれた時に高い支払いをしなくて済むことは、一種の暗黙の保険に入った効果を得る。

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3.1 契約はなぜ結ばれるのか• 将来の財やサービスの供給

– 将来の供給のために契約をすることが有益なのは、主としてオーダーメイドの特殊な財またはサービス。市場では容易に調達できないもの。• リスクの再配分または分担ができる。

– 保険やパートナーシップ(組合)契約• 将来の事態についての見解の相違

– 金融商品や土地などの永続性のある資産が売買される理由は、少なくとも部分的にはそれらの資産の将来の価格について買主と売主が異なる信念を有しているためである。• 消費のタイミングを変えるため

– 金銭や資産を貸し借りする時、両当事者は消費の時期を変えることによって、相互に利益を得ている。21

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3.2 なぜ契約を強制的に実現することが望ましいのか• もし契約が強制的に実現されないと、当事者は自分が契約を履行する前に相手方から支払われた資産を横領することができる。• 当事者は供給を約束した財やサービスを提供しないかもしれない。• 価格のホールドアップが起こりうる。

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4. 契約の不完備• 将来起こりうる事態を予測し、それらをどう解釈するかについて交渉し、かつ、それらを十分明確に契約に規定することには、費用と努力を要する

– ex. プロジェクトファイナンスの契約書• ある条項を契約に含めることは困難というよりも、むしろ、後でその条項を強制的に実現することに費用がかかる。• ある種の条件あるいは変数は裁判所に対して証明可能ではない。

– Ex, サービスの質等

• 不完備にしておくことで、予想される結果が当事者にとってそれほど有害ではない。– 契約とは関係のないところで雨が降るケース等

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5. 契約の解釈• 契約当事者は裁判所が正しく契約を解釈してくれることを希望する。• 正しい解釈は当事者が明示的な契約条項を規定する必要を省き、条項の作成や交渉の費用を節約するという形で、間接的にも当事者の利益となる。

– 契約作成費用と解釈の誤りに伴う費用の最小化• 文字通りの空白を含まない不完備契約は、当事者の真意が曖昧なために、司法が契約解釈をする必要性は明確ではなくなる (P345) 。→当事者が何を望んでいたかを判断するに際して、裁判所が誤りを犯す可能性も増大する。        

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6.1 契約違反における損害賠償の算定• 損害賠償の算定基準

– 裁判所が決めることもできるし、あらかじめ当事者が契約で定めておくこともできる。– 当事者が債務を履行しない時は金銭の支払いを迫るという形で、履行のインセンティブを与える。

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6.2 損害賠償の算定基準と履行のインセンティブ

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契約が完備に特定されている場合における、再現の損害賠償の算定基準

契約が不完備な場合における、最善の損害賠償の算定基準

・契約が完備に特定されている場合には、高額な損害賠償の算定基準が当事者双方にとっての利益となる。・買主が机の所持に 1,000ドルの価値を置いている。完備契約として「製造費用が 1,000ドルを下回る時は、売主は机を製造しなくてはならない一方、 1,000ドルを上回る時は売主は履行の義務を免れる」とする。・損害賠償の算定基準が、常に契約の履行を促せる程には高額ではない場合、仮定により、製造費用が 1,000ドルを下回るにも関わらず、売主は契約違反をして損害賠償をしようと決めるような事態が起こり得る。

・契約が完備に特定されていない場合には、高額な損害賠償の算定基準は当事者にとっては望ましくない場合が多い。・穏当な損害賠償の算定基準は、過剰な履行の問題を生じさせない。もし損害賠償の額が、製造費用が高くつく場合の費用の額を下回るならば、製造費用が高い時には売主は契約違反をすることを選ぶことになる。→穏当な損害賠償の算定基準は、暗黙のうちに、より完備な契約に代わる機能を果たす *・履行利益の基準:損害倍賞の額 =履行の価値

*留保事項:契約上の債務が金銭の支払いに関するものである場合には、損害賠償の算定基準はより完備に特定された契約に変わる機能を果たさない。

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6.3 損害賠償責任その他の論点• 契約に違反して損害賠償をすることは不道徳か?

– 債務不履行を行うことで、もし結べるなら結んでいたであろう約束を体現しているのならば、履行利益という損害賠償の算定基準によって促される契約違反は、当事者が真実を取り交わした約束をないがしろにするどころか、むしろその約束にかなうものだと評価できる。

• 信頼のインセンティブ– 契約違反による損害賠償規定の算定基準が持つ機能として、それが契約の履行を促進することを通じて、契約当時者が履行に対する信頼を前提にした何らかの行動をとるインセンティブを与えるということが挙げられる。

• リスク分担– 損害賠償の支払いは、契約違反の被害者に生じた損害を何らかの程度で補填するから、もしも被害者がリスク回避的だとすれば、損害賠償は暗黙の保険として相互の利益になる場合がある。

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ディスカッション• 損害賠償を支払ってまで、契約を履行しないというのは本当に合理的か。– レピューテーションリスク– 次のビジネスにつながらないのではないか– 損害賠償を支払った場合には純粋にコストのみ支払うこととなる

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7.1 強制履行の定義• 強制履行:当事者が契約上の債務それ自体を履行するように命じること。

– 財や引き渡し、サービスを行ったりする義務についての問題。• 間接強制

– 義務を履行しない時には十分に高額な金銭の支払いをさせるという「脅し」により強制履行を行わせる。• 直接強制

– 国の執行権力の直接的な行使によって行われる。

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7.2 履行のインセンティブと強制履行

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完備特定契約においては、強制履行が望ましい

不完備特定契約においては強制履行は通常は望ましくない

・契約が完備に特定されているとすれば、その債務が必ず履行されるようにすることは、当事者自身が望むことでもあることから、契約違反に対しては強制履行が望ましい救済手段になる。・強制履行が債務者にとって過度の負担になることはありえない。

・もし契約が不完備であれば、穏当な損害賠償の算定基準が望ましいとの同じ理由から、当事者は強制履行を望まない。・高すぎる損害賠償の算定基準と同様に、強制履行は当事者が契約違反に対する救済として望むものではない。

*留保事項:不完備契約においても、裁判所が履行の価値を評価することが困難な場合は、強制履行が望ましい。強制履行が逆に過剰な履行をもたらす恐れはあるが、その場合でも契約の最高賞の可能性があることによって軽減される。

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7.3 強制履行その他の論点• 信頼のインセンティブ

– 強制履行は債務の履行を信頼した行動をとる強いインセンティブを与える。• リスク分担

– 売主にとっての履行の費用は往々にして非常に高くなることがある。– 売主は多大なリスクを負う見返りとして、買主が払っても良いと考える以上の対価を要求することになる。→当事者が契約違反の救済手段として強制履行を選択するとは考え難い。

• 強制履行を実現する可能性– 債務の内容がサービスを提供したり、何かを作ったりすることである場合、債務者が反抗的だと困難を伴う。– 債務の内容が、絵画や土地のような特定物の引き渡しである場合には、強制履行の困難はそれほどでもない。

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8.1 再交渉が起きる理由と起きない理由• 難局に直面した時には、契約が再交渉により変更される可能性がある。

• 再交渉が起きない理由– 契約の相手方と接触できないため、すぐに再交渉をするのは困難な場合– 当事者が相手方と接触できたとしても、当事者間の情報の非対称性のために、交渉が決裂してしまう可能性がある。– もはや結果を変えることが不可能な状況。

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8.2 再交渉と契約の履行• 難局が生じた時に契約の再交渉が行われるとすれば、たとえ不完備な契約であっても、契約の履行は、それが相互の利益となる限りはいつでも行われる。

– →再交渉は完備契約をする必要を減らし、暗黙裡にその代替とし機能する。• 純然たる金融契約が不完備な時には、契約で規定していない事態が生じた時に、契約を相互に望ましい形に変更する余地は存在しない。

– 金融契約の場合、一方の当事会社の負担を減らすことは、他方の当時会社の不利益となる。– 金融契約が不完備である時は、再交渉によって問題を軽減することはできない。– 私的整理と公的整理の違い。

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8.3 再交渉その他の論点• 再交渉と信頼

– 当事者が契約関係に投資するインセンティブに影響を与える。– ホールドアップが行われる場合は、過少投資を招く可能性が高い。– 再交渉は契約違反に対して適用される損害賠償の算定基準のあり方に影響を受ける。

• 再交渉とリスク分担– 再交渉場面で支払いをする側の当事者にとってのリスクを軽減する傾向がある。– 再交渉が必要な契約に伴うリスクを軽減するためには相互の利益となる行動に結びつくような損害賠償の算定基準を用いたり、より完備に特定された契約を結んだりする必要がある。

• 再交渉にかかる費用– 再交渉することに代えて、当初の契約であらかじめ対応する条項を規定しておく。– 望ましい履行を保証するために、再交渉に代えて損害賠償の算定基準を用いる。

• 再交渉によって変更された契約の実現を強制することの望ましさ– 難局に直面した時のみ再交渉することにより、あらかじめ完備契約を結んでおく手間と費用を避けることができる。– 法は再交渉による契約の変更の効力を認めている。

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9. 法による契約の無効化• 有害な外部性

– 第三者を害する可能性が高い契約は効力が認められないことが多い。• 契約当事者の厚生の損失

– 不当表示された食品を買うことや虚偽の説明を受けて金融商品を購入する等、当事者の一方が重要な情報を欠いていた時に契約の考慮を認めない。• 不可譲性とパターナリズム

– 臓器、乳幼児、投票権等の売買等、不可譲 (inalienable) だとされるものは無効とされる。– 麻薬やポルノ雑誌の購入は、パターナリズムを理由に無効にされることもある。

• 国が望ましくない契約を禁じる可能性– 望ましくない保険等、裁判所が契約の効力を認めなければ、無効な契約はそもそも結ばれなくなる。

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10.  契約を実現するための法以外の手段• 私的な仲裁

– 契約を実現する代替的な手段として、仲裁機関や様々な同業者団体が提供する私的な仲裁がある。– 私的な仲裁を好む理由としては、契約の背景事情に関する知識をより多く持った仲裁人を選任できることや手続きについて、自分たちで選択できることがあげられる。

• 評判– 理論上は、評判という要素は裁判所と同程度に契約を実現させる手段となりうる。– 契約当事者の実情を大雑把にしか反映しないこと、及びサンクションの実効性が低いことの 2点において、評判は裁判所に代替するものとしては不完全。

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プロジェクトファイナンスのストラクチャー(太陽光発電 )

借入人 SPC

Debt(借入金 )

Equity

資産銀行

電力会社

EPC 事業者

スポンサー

O&M 事業者

保険会社

出資

ローン

太陽光パネル会社

EPC 契約

O&M 契約

保険契約

電力需給契約( FIT)

太陽光パネル購入

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ディスカッションテーマ• 最近締結した契約でどういった点に留意をしたか?

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