ジオシンセティックス技術情報 2001.3
技術報文
ジオグリッドを用いた補強土壁の施工例
三井化学産資株式会社土木資材事業部西村 淳松本七保子
名古屋支庖 戸木田光生戸田建設株式会社 名古屋支庖 井坪保二
1 .はじめに
名古屋圏ハイウェイネットワーク整備の一環として現在建設中である第二東名高速道路と
名古屋高速線を直結させるための延伸工事に伴い平面道路である国道 23号の路肩拡幅工事
において、ジオグリッド補強土壁を採用したものである。
当初計画されていた重力式擁壁工に比べ、近年構造物としての信頼性が高まり、かつ適用
高さに制限のない補強土壁工は、経済性も含め当該工事の路肩拡幅において有効であると判
断された。また、壁面工の工夫により勾配調節も可能なため、既設コンクリート擁壁とのす
りつけも可能であり、またのり面が緑化できるため、景観にも優れた工法であることも採用
の一助となった。
しかしながら、当該国道区間は、県内においても最も交通量が多く、その下部工土留め構
造物に比較的新しい工法であるジオグリッド補強土壁工法を採用するにあたっては、十分な
る事前検討はもとより、施工中の品質管理や供用後における経過観察等も実施した。
本報文においては、一連の設計・施工に関する内容と供用後の状況について記すものであ
る。
2. 盛土材
2. 1 使用材料
当初計画では現場発生土を盛土材として利用するとしたが、三軸圧縮試験 (UU条件の
結果によると当発生土は、典型的な粘性土にあたり、土質試験値は ρt=1.84g/m3,φニ6.80 ,
c =24kN/m2であった。ジオグリッドによる補強土壁構造物を建設する上で、不織布等の排
水材の多併用や土質改良材による安定処理等の処理を施す以外、無対策での使用は不適であ
ると判断された。
当該ジオグリッド補強土壁工は高規格自動車専用道路の下部工事にあたるため、安定性は
もとより、道路供用後における盛土材の圧縮沈下を最小限に押さえ、工期の制約とともに急
速施工が望まれるため、これらを考慮し現場発生土(粘性土)を盛土材として利用すること
は適用が困難であると判断し、購入土(砂質土)を使用することとした。砂質土を盛土材と
する場合、粘性土に比べて格段に締固めが容易となり、施工上の品質管理も確実となるため
急速施工が可能となる。また、圧縮性が小さいため適切な締固めが行われれば、施工後の盛
土材の圧縮による沈下を僅少とすることができ、購入士(砂質土)を盛土材として使用する
ことは、高品質の構造物を構築することが使命である当現場の条件を満たす。
三軸圧縮試験より得られた当盛土材の強度定数試験値と後述する構造安定計算に用いてい
Fhd
qノ臼
る設計定数を表-1に整理する。
表-1 盛土材の強度定数
湿潤密度 せん断抵抗角
φ=34.20
φ=30.00
粘着力
c = O.OkN/rrl
c =O.OkN/rrl
試験値
設計定数
ρt=1.75g/m3
ρt= 1.9 g Im:l
ここで、試験に用いた供試体は、一般的突き固めにより得られたもので、湿潤密度は実設
計値よりも危険側の設定にて作成されている。盛土材が購入土であることから、性能も比較
的均一なものであると考えられ、現場での締固め管理が適正な限りにおいて、設計採用値は
十分に安全側の設定と判断した。
2.2 締固め
締固め試験によると、締固め度 90%以上を確保すれば、1.2に記述した湿潤密度を満足し、
ついては盛土材の十分な強度が得られることが確認された。
ここで、締固めの転圧回数による規定を定めることも含め、現場転圧試験を実施した。表
-2に示す試験結果によると、使用する転圧重機であるコンバインドローラーでの転圧回数
を6回以上とすれば、所定の締固め度が得られることが確認され、盛土材の強度定数試験値、
ひいては設計値をも十分満足することができるとの判断ができる。
コンバインドローラーによる転圧回数を 6回以上と締固め規定を転圧回数規定とすること
とし、盛土構造体の安定性を十分に確保することした。
表-2 転圧回数と締固め度の関係
転圧回数(回) 締固め度(%)
2 86.2 4 89.4 6 94.0 8 97.2
10 99.6
盛土材:山砂
転圧重機:コン1ドインドローラー
3. 基礎地盤
3. 1 ボーリング調査による支持地盤の評価
高品質の補強土壁構造物を建設するとしても構造物基礎が不安定であってはならなく、供
用後の過剰なる沈下等を含む地盤の変状は、ジオグリッド補強土壁の安定性のみならず上部
舗装にも影響を与える。
事前のボーリング調査によると、基礎部は砂が混入したシル卜系の土であり、 N値は 10
以下 7程度であることが確認された。この値を代表値として支持地盤の強度定数を以下の通
りと判断した。
単位体積重量 :γ=17kN/m3 粘着力 :c =70kN/m2 内部摩擦角 :φ =0。
許容支持力:Q a = 120kN/m2
なお、補強土壁の設計において必要とされる地盤反力は、 110kN/m2強であり、本調査結
果より得られた許容支持力 (qa= 120kN/m2) に対して満足するものであった。
円
hu
q/“
ただし、当該構造物の要求品質を考えれば、 N値のみに頼ることとせず、補強土建設前の
静的荷重地耐力(平板)載荷試験を実施し、支持地盤特性の信頼性を補完することとした。
3.2 静的荷重地耐力(平板)載荷試験による支持地盤の評価
ジオグリッド補強土壁施工前の基礎部整地後、 3箇所にて平板載荷試験を実施したところ、
以下の結果を得た。
表-3 平板載荷試験結果
No.1 No.2 No.3 最大荷重度 (kN/rri) 375 499 333
安全率 3
許容支持力 (kN/rri) 125 167 111
設計荷重度最大値 (kN/11.266
ぱ)
判 定 O.K O.K O.K
最終沈下量 (mm) 0.633 11.023 2.320
この結果から、補強土壁支持地盤は安全率を 3とした評価においても十分なる(許容)支
持力を有しており、安全性が評価される。また、最終沈下量も最大地点で 11.023mmと比
較的小さい値であり、適正なる補強土壁の転圧締固めにより、解消される可能性のある範囲
と判断した。
4. ジオグリッド補強土壁の構造
ジオグリッド補強土壁の設計は、平成 5年(財)土木研究センタ一発刊の『ジオテキスタ
イルを用いた補強土の設計・施工マニュアル』に基づき、また先述する盛土材、基礎地盤の
定数を用い設計検討された。なお、当該構造物は壁高さ 6m程度ではあるもの、構造物の重
要性を鑑み耐震設計も行っている。基本構造を図-1に示す。
4. 1 交通荷重
当該構造物においても、上載盛土上部は自動車専用道路であるため、載荷重として 10kN/
m2を用いた。一般的通念においては、高規格道路であっても、活荷重である車輔荷重を、
10kN/m2の静的荷重にて設計されており、十分安全側の設定であると判断される。
主筆賓丞主.オ王寺:_A?イ'"
5∞l I十500 連側|
い 3900 ー図-1 補強土壁の構造断面図
月
iつ山
4. 2 補強材
使用したジオグリッドは、ポリエチレン製一軸延伸品(製品名:テンサー)であり、製
品基準強度が 50.0kN/m、70.0kN/mの2種類である。なお、本製品は(財)団法人土木研究
センターにおいて、盛土・地盤補強用ジオグリッドとして「土木系材料技術・技術審査証明
事業認定規定」に基づく技術審査証明を受けている。
4. 3 根入れ
構造安定計算においては根入れを考慮せず、安全側にて設計検討を実施している。しかし
ながら、実際の施工にあたっては、将来悪化する恐れのない岩盤などに基礎を設ける場合を
除き、根入れが必要と判断される。
ジオグリッド補強土壁の壁面下端部は、その他の土留め構造物同様、構造物自体の安定性
の要であることは言うまでもなく、当該現場の支持地盤がシルト系であり、耐侵食性に疑問
がある上に、 N値が 20以上である堅固な地盤でないことからも、その必要性に疑問の余地
はなく、当現場においては、根入れ深さを一律 50cm以上とした。
4.4 排水層
当現場にて建設されたジオグリッド補強土壁に使用した盛土材は山砂であることから、十
分な透水性を有し、水の影響による盛土材強度の変化が少ないと判断できる。しかしながら、
ジオグリッド補強土壁は、補強材の摩擦力に期待する構造物である以上、外部より不可避に
流入する水による盛土材の強度低下には、供用後・施工中ともに細心の注意を必要とする。
そこで、良質な砂 20'"'-'30cm厚さに相当する排水性能を持つ、不織布系ジオテキスタイル(製
品名:タフネル)を各断面で、すくなくとも一層を補強材と同じ長さにて、補強土壁内に敷
設することとし、より安全性を高める構造とした(図-1 )。
5. 供用後の簡易壁画変位変形観察
5. 1 計測方法
当該ジオグリッド補強土壁工が高規格道路下部構造あたり、より信頼性を確認するため施
工中の品質の評価のみならず、供用後における定期的観察も重要であると判断した。ジオグ
リッド補強土壁壁面変形簡易計測の概要図を図-2に示す。
」F1-FW枠八 l
M凶~16 程度 ¥JI/
H/3
'
ク
h
f
一
¥
/
マ
¥
,,
、
,,
,
,
、
,
,
、,
、,
、,
,
、
、
d
,,ts
h
‘‘、
H/3 H
H/3
図-2 壁面変形簡易計測概要図
-28-
5.2 計測結果
計測点におけるの壁面変位(変位量)につ
いて、図-3に示す。水平変位の経時変化を
図-4,垂直変位の経時変化を図-6に示す。
計測開始 (99年 7月)より 1ヶ月後 (99
年 8月)において、水平・垂直方向を問わ
ず士5'"'-'15mm程度の変状が確認されたが、
その後の長期的観測においては、変形の増減
が微少であることが確認される。
また、計測は光波による計測であり、また
季節移行による温度、湿度変化に伴う盛土材、
測点(鋼棒)の膨張・収縮等の影響および測
定精度を鑑みると、その最大 15mm程度の
変形挙動は、僅少な値であると推定され、構
造物は十分に安定であるとの評価される。
なお、特筆すべきことは、 2000年 9月 11
日の東海豪雨に対しての評価であろう。当地
域において近年例をみない豪雨であったにも
関わらずその影響による顕著な変状は確認さ
れなかった。
20
15
方~ 5
骨題時同 司。5
-15
-20 99.07 99.08 99.09 99.1
5∞
4ω
4∞
3切
E
言m縦
揺m
2∞
150
1∞ 三一-59.07.ω
ω ..0・・99.叩.11
--{),.-∞'.08.10
30 60ω
水平変値nm)
120 1印
図-3 壁面変位
99.11 99.12 00.01 00.02 00.03 00.04 00.05 00.06 00.07 00.08 0【).09
図-4 水平変位の経時変化
《
U
R
v
n
U
R
u
n
u
R
W
《
U
Rリ
vnu
。44
1
4
E
-
-
E
4
E
のζ
(EE)組側個制
A-1111111lムV
上
下二ム干
99.07 99.08 99.09 99.1 99.11 99.12 00.01 00.02 00.03 00.04 00.05 00.06 00.07 00.08 00.09
図-5 垂直変位の経時変化
-29-