泌尿紀 要36=351-353,1990 351
膀胱腫瘍が疑われた腺性膀胱炎の1例
大阪市立北市民病院泌尿器科(医 長=森 川洋二)
田 中 重 人,森 川 洋 二
A CASE OF CYSTITIS GLANDULARIS SUSPECTED OF
MALIGNANT TUMOR OF URINARY BLADDER
Shigeto Tanaka and Yoji Morikawa From the Department of Urology,
Osaka Municipal Kita Citizen's Hospital
A case of cystitis glandularis is reported. A 70-year-old male
was admitted to our hospital with the complaint of urinary
frequency and gross hematuria. A bladder tumor was suspected by
ultrasonography. Cystoscopy revealed multiple cystic lesions
arising from the bladder neck and trigone. Transurethral biopsy of
the bladder wall lesion revealed cystitis glandularis.
Trans-urethral resection was performed. His postoperative course
was uneventful.
(Acta Urol. Jpn. 36 : 351-353, 1990)
Key word: Cystitis glandularis
緒 言
腺性膀胱炎は膀胱内に腫瘤を形成する増殖性病変 で
あるが本邦においてはあま り報告がない.今 回,わ れ
われは膀胱粘膜下腫蕩 が疑われた腺性膀胱炎の1例 を
経験 したので若干の考察を加えて報告する.
症 例
患者=70歳 男子
主訴:頻 尿,血 尿
既往歴 ・家族歴:特 記すべきことな し
現病歴:1988年10月 頃 よ り頻 尿を認めるも放置,12
月5日 突然肉眼的血 尿が 出現 し当科受診.超 音波断層
法にて膀胱腫瘍が疑われ,精 査 治療のため12月16目 入
院とな った.
入院時現症=体 格栄養中等度.胸 腹部に異常を認め
ず.外 性器,陰 嚢内容に異常を認めず.前 立腺は クル
ミ大で中心溝を触知 し,表 面平 滑で圧 痛は認めなか っ
た.
入院時検査成績:末 梢血,血 液生化学検査に異常を
認めず.γ一sm2.1ng/ml,PAP1.5ng/ml,前 立腺特
異抗原1.6ng/mL尿 検査 所見ではpH6,糖(一),
蛋 白(+),潜 血(十),白 血球8～9/hpf,赤 血球5～
6!hpf.尿 培養,尿 細胞診 ともに陰性.
膀胱鏡所見 ・膀胱 頸部から膀胱三 角部に直 径2.5
cmか ら3cm大 の表面平滑,広 基性の腫瘤を認め一
部嚢胞性を示 していた(Fig.1).
画像検査所見 ・胸部X線 像異常な し.排 泄性腎孟造
影 で腎尿管膀胱像 とも異常を認めず.逆 行性 尿道膀胱
造影で前立腺部尿道の延長 と精阜か ら上方の前傾を認
め,膀 胱頸部か ら膀胱三辺部にかけてやや輪 郭の不明
瞭 な陰影欠損部を認めた(Fig.2),超=音 波断層法で
膀胱粘膜下腫瘍が疑われたが腫瘍基底部の膀胱筋層像
に変化を認め ない(Fig.3,4).ま た,軽 度の前立腺
肥大が見 られた.骨 盤部CT像 で膀 胱頸部から膀胱
後壁にかけて膀胱 内に突出す る腫瘤 を認めたが,膀 胱
外 への発育は見 られ ない,
以上 よ り膀胱粘膜下腫瘍を疑い,1988年12月19日 経
尿道的に生検を行 った.
病理組織所見:表 面は正常な移行上皮に被われ 粘膜
固有層に1ま たは2層 の円柱上皮か らなる腺様構造を
認 め腺腔に隣接 してBrunn'snestが 見 られた.腺 腔
の著 しい拡張が一部 に 見 られ た が 悪 性 所 見 は な く
cystitisglandularisの 像を呈 していた(Fig.5).
生検後抗生剤 と消炎剤投与を行 ったが自覚症状お よ
び膀胱部腫瘤 の縮小を認めないため,1989年1月19日
経尿道的に膀胱部腫瘤性病変 および前立腺切除術 を行
った.術 後経過は良好で新たな腫瘤性病変 の出現を認
めない.
考 察
Cistitisglandularisは 増殖性膀胱炎の まれ な病態
352 泌尿紀要36巻3号1990年
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Fig.1. Cystoscopicphotographshowsapapil-
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Fig.4.Transrectallongitudinalultrasonogram
revealsanilldefinedmassprotruding
intothebladder(arrow).B,bladder;
P,prostate
Fig.2.Retrogradeurethrocystogramshowsa
lobularfilljngdefectintheposteriorwall
ofthecontrast-filledbladder.
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Fig.3.Transabdominaltlansverseultrasono-
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欝灘Fig.5.Histo且ogicexaminationrevealsglands
linedbyst【ati丘edcolumnarepithelium
withinnammatoryreactionandnoma-
lignantchanges(H&E,×200)
で,成 因 と して 慢性 刺 激 また は慢 性 炎 症 に よる膀 胱移
行上 皮 が 腺上 皮 化 生 を生 ず る とす る化 生説 が有 力 で あ
る1).Shawら はBrunn'snest,cystitiscysticaと
互 いに 移 行す る可 逆 的病 変 と 考 え て い る2)が,Kit-
ttedgeら はBrunn'snestがcystitiscysticaと な り,
さらにcystitisglandularis,さ らに膀 胱 腺 癌 を生 ず
る とす る連続 性 病 変 を 想 定 して い る3).こ の よ うに
cystitisglandularisは 膀 胱 腺 癌 の 前癌 病 変 と考 え ら
れ,cystitisglandularisと 膀 胱 腺 癌 の合 併 症 例 も多
数報 告 され て い る4-6)
Cystitisglandularisは 本邦 に お い て 自験 例 を 含 め
22例 が 報告 され て い る.発 症 年 齢 は20～80歳,平 均51
田中,ほ か:腺 性膀胱炎
歳 で40歳 代 に 最 も多 く22例 中9例(hl%)を 占 め てい
る.性 別 では 男子15例,女 子7例 で 男子 に 多い.症 状
で は,頻 尿,排 尿時 痛 が 最 も多 く,つ ぎに 血 尿 で あ る,
特 に,膀 胱 頸 部 に病 変 が あ る場nは 頻 尿,排 尿時 痛 な
どの 膀胱 刺激 症 状 を 伴 って いる,
Cystitisglandularisは 尿 路 造影 では 多発性 の 境 界
明瞭 なcobblestoneapPearanceを1-C° す る と され,
病変 が尿 管 口にお よび尿 管 閉 塞 を きた し水 腎症 を1-f-iす
る こ とも 多 い7).確 定 診 断 には 生 検 が 必 要 で あ り,
cystitisg且andularisは 円柱 上 皮か らな る腺 様構 造 が
粘膜 固有 層 内に 認 め られ る もの,cystitiscysticaは
移 行 上皮 か らなる 腺様 構 造 が嚢 胞 状 に拡 張 した もの と
定 義 され て い る8)が 互 い に移 行す る こ とが あ り両者 を
区別す る ことは しば しば 困難 であ る.
本症 の 治療 法 の規 準 は 確立 して い な いが,尿 路 感 染
が 原因 と考 え られ る と きは抗 生 剤,消 炎 剤 に よる治 療
を 行 うと病 変 の完 全 な消失 を 見 る7・9)こ とが あ り保 存
的 治療 を まず 試み るべ きで あ る.し か し,病 変 が 広 範
で保 存 的治 療 では 改 善 しに くい と きや.尿 管 閉塞 の続
くとき,症 状 が 改善 しな い と きは,外 科 的 治療 の対 象
とな る.本 邦 に おけ る22例 では経 尿道 的 切除 術 が9例
に,膀 胱 部 分 切除 術 が1例 に,膀 胱 全 摘術 が1例 に 行
われ て い る.
本 症 は前 癌状 態 で あ る と されWhederら10)は 原 発
性 膀胱 腺癌 の判 定基 準にCVSYI[1Sg且andularis,cysti-
tiscysticaの 共存 をあ げ て い る。 そ の ため,生 検 に
て悪性 所 見が 認 め られ な い場 合 で も定 期的 に 膀胱 鏡 検
査,尿 細胞 診 な どに よ る注意 深 い 経過 観 察 が 必要 で あ
り,悪 性化 が 疑 われ れ ば,経 尿 道 的 生検 を繰 り返 す こ
とが大 切 であ る.し か し,広 範 な病 変 に 対 しては 経 尿
道的 生 検の み で は悪 性 化を 確 実 に確 認 で きな い こ と も
あ り,ま た 原発 性 膀 胱腺 癌 が 彌慢 性 に 浸潤,増 殖 し放
射線療 法 お よび化 学療 法に 抵 抗 性を 示 すIDこ とか ら,
保存 的 治療 で 改善 しな い広 範 な 病変 に は早 期 に 膀胱 全
摘 術 が必 要 に な る と考 え られ る.
1例 を報告 し,若 干の文献的考察を加えた.
文 献
353
1)MostoliFK:Yotentiali[iesofbla〔ldercpithe-
lium.JUrol71;705-715,]9fi4
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815-822,1958
3)liittredgeWE,CollettAJandMorganC.
Adenocarcinomaofthebladderassociated
wishcystitisglandularis:acasereport.J
Urol91:145-150,1964
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dularis.Associatedwithadenocarcinoma-
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5)MillerDC,GangDL,GavrisV,AloryJ,
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orbiologicentity?Am ,JCIinPathol7d:728
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6)田 中 重 人,安 本 亮 二,森 川 洋 二 ,仲 谷 達 也,森
勝 志,前 川 正 信:膀 胱 結 石 を 伴 っ た 原 発 性 膀 胱 腺
癌 の1例.泌 尿 紀 要35:881-883,1989
7)DaviesGBandCastroTE:Cystitisglandu-
laris.Urology10:128-129,1977
9)日 本 泌 尿 器 科 学 会 編:膀 胱 癌 取 扱 い 規 約.金 原 出
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9)森 山 信 男,伊 藤 一 元,馬 淵 基 樹,杉 山 善 彦=Cys-
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10)WheelerJDandHillWT:Adenocarcinoma
involvingtheurinarybladder.Cancer7
119-135,1954
11)JacobE,LoeningS,SchmidtJDandCulp
DA:Primaryadenocarcinoma;aretrospec-
fivestudyof20patients.JUrol11754-
56,1977
ReceivedonJune8,1989AcceptedonOctober6,1989
結 語
頻尿,血 尿を主訴 とした70歳 男子の腺性膀胱炎の
