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Painful Hemiplegic Shoulder Robert Teasell MD, Sanjit K. Bhogal MSc, Norine Foley MSc 1

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Painful Hemiplegic Shoulder Robert Teasell MD, Sanjit K. Bhogal MSc, Norine Foley MSc

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Table of Contents

KEY POINT………………………………………………………………………………………………3

11.1 CAUSES OF HEMIPLEGIC SHOULDER PAIN..................................................................4

11.2 SHOULDER SUBLUXATION..............................................................................................5

11.2.1 PATHOPHYSIOLOGY......................................................................................................5 11.2.2 SCAPULAR ROTATION...................................................................................................7 11.2.3 PAIN IN SHOULDER SUBLUXATION..............................................................................8

11.3 SPASTICITY, CONTRACTURES AND HEMIPLEGIC SHOULDER PAIN(HSP).............12

11.3.1 SPASTIC MUSCLE IMBALANCE...................................................................................13 11.3.2 FROZEN OR CONTRACTED SHOULDER....................................................................15

11.4 ROTATOR CUFF DISORDERS........................................................................................17

11.5 FUNCTIONAL IMPACT OF PAINFUL HEMIPLEGIC SHOULDER………………………..18

11.6 MANAGEMENT OF THE PAINFUL HEMIPLEGIC SHOULDER......................................19

11.6.1 POSITIONING OF THE HEMIPLEGIC SHOULDER......................................................19 11.6.2 SLINGS AND OTHER AIDS............................................................................................20 11.6.3 STRAPPING THE HEMIPLEGIC SHOULDER...............................................................22 11.6.4 ACTIVE THERAPIES IN THE HEMIPLEGIC SHOULDER.............................................24 11.6.5 INJECTIONS IN THE HEMIPLEGIC SHOULDER..........................................................27 11.6.6 FUNCTIONAL ELECTRICAL STIMULATION (FES)

IN THE HEMIPLEGIC SHOULDER………………………………………………………….28 11.6.7 SURGERY AS TREATMENT FOR MUSCLE IMBALANCE............................................34 11.6.8 MOTOR BLOCKS AS TREATMENT FOR MUSCLE IMBALANCE................................34 11.6.9 MISCELLANEOUS TREATMENTS FOR SHOULDER PAIN.........................................36 11.6.10 SUMMARY OF THE MANAGEMENT OF HEMIPLEGIC SHOULDER.........................37

11.7 SHOULDER HAND SYNDROME (SHS)...........................................................................38

11.7.1 STAGES AND SYMPTOMS...........................................................................................38 11.7.2 PATHOPHYSIOLOGY....................................................................................................39 11.7.3 INCIDENCE OF SHS………………………………………………………………………….40 11.7.4 DIAGNOSTIC TESTS OF SHS.......................................................................................42 11.7.5 TREATMENT OF SHOULDER-HAND SYNDROME......................................................42 11.7.6 PHARMACOLOGICAL TREATMENT OF SHOULDER-HAND SYNDROME.................43 11.7.7 GRADED MOTOR IMAGERY AS A TREATMENT FOR CRPS1....................................45

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KEY POINTS 痙性と片麻痺の肩の痛みは関連する。 片麻痺の肩のポジショニングに関して結論を出すにはより多くの調査が必要である。 肩のスリングが臨床的アウトカムに影響を与えるという限られたエビデンスがある。 片麻痺の肩へのストラップは上肢機能を改善しないようであるが、痛みを軽減するかも

しれない。 プーリーのような強引な可動域運動は明らかに肩の痛みの発生の増加につながる;より

緩やかな可動域運動が好ましい。超音波治療を加えても有効ではないが、NSAID が有

効かもしれない。 コルチコステロイド注射は片麻痺の肩の痛みまたは可動域を改善しない。 機能的電気刺激は片麻痺の肩の回復に有効ではないかもしれない。 肩甲下筋の除神経は大胸筋の除神経よりも肩の痛みを軽減するまたは他動可動域を改

善するかもしれない。 経口コルチコステロイドは少なくとも初めの 4 週間、肩手症候群を改善するようであ

る。 運動イメージプログラムは肩手症候群を改善するようである。

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11. Painful Hemiplegic Shoulder

片麻痺に起因する肩の痛みは,血管損傷(例えば,出血性または虚血性脳梗塞)に起因する

局所の脳損傷の一般的な臨床症状である。肩の痛みの罹患率は研究により様々で,48%か

ら 84%の幅があると推定されている(Najenson et al.1971,Poulin de Courval et al 1990)。肩

の痛みは,それ自身によって,重要な傷害をもたらし(Najenson et al.1971,Poduri 1993),

そして早ければ脳卒中後 2 週間で引き起こされる事があるけれども,発症後 2-3 ヶ月に起

こるのが標準的である (Poduri 1993)。最近の前向き研究では,Gamble ら (2002)は

52/152(34%)が脳卒中後に,28%は 2 週間後,そして 87%が 2 ヵ月後に肩の痛みが発生し

たと報告している。6 ヶ月経過して,患者の 80%で痛みが消失した。Lindgren ら(2007)は

416人の元の集団患者から残った 305人の初回脳卒中患者のうち 74人(24%)が 16ヶ月まで

に肩の痛みを経験したと報告している。およそ半数の患者が,脳卒中発症後から 4 ヶ月の

間に痛みが発生していた。

良い肩の機能は移乗の成功,バランス保持,ADL機能,そして効果的な手の機能のた

めの必要条件であるため、肩の痛みはリハビリテーション結果に悪影響を及ぼす(Risk et

al.1984)。Lo ら(2005)は臨床と関節造影の両方に基づいて肩の機能障害をタイプ別に分類し,

そして脳卒中発症後1年以内で肩の痛みが発生した片麻痺患者32人の集団のうち16%の患

者が肩手症候群になり,4%が腱板断裂,そして 50%が凍結肩を患ったと報告している。63%

の患者が 1 つのタイプの肩の機能障害を持っており,その上 34%が 2 つのタイプの障害を

持っていた。

11.1 Causes of Hemiplegic Shoulder Pain 片麻痺による肩の痛みの原因 片麻痺の肩の痛みについてたくさんの病因が提案されてきたにもかかわらず,ますます

肩の痛みは痙縮と片麻痺の姿勢を維持することにより発生しているように思われる。肩の

痛みは,脳卒中後の無視を伴った患者の間でより一般的に生じているかもしれない(Kaplan

1995)。Table11.1 は肩の痛みの原因の可能性についての一覧である。よく頻繁に言われて

いる肩の痛みと関係している因子は,肩関節(肩甲上腕関節)の亜脱臼(Crossens-Sills and

Schenkman 1985,Moskowitz et al.1969b,Savage and Robertson 1982,Shai et al 1984),肩

の牽引や肩関節可動域制限(Bloch and Bayer 1978,Braun et al.1981,Fugl-Meyer et al

1975,Crossens-Sills and Schenkman 1985,Hakuno et al 1984,Risk et al.1984),そして,特

に肩甲下筋と胸筋群の痙縮(Braun et al 1981,Caldwell et al.1969,Moskowitz 1969a,1969b)

である。その他の提示される肩の痛みの原因として,反射性交感神経性ジストロフィー(Chu

et al.1981,Davis et al.1977,Parrigot et al.1975),また回旋筋腱板の損傷 (Najenson et

al.1971,Nepomuceno et al.1974)がある。肩の痛みの病因論における脳卒中の痛みの主要な

役割は,はっきりしていない(Walsh 2001)。

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11.2 Shoulder Subluxation 肩関節脱臼 11.2.1 Pathophysiology 病態生理学

肩関節亜脱臼とは,肩峰と上腕骨頭の間が触診可能な隙間がある肩甲上腕関節の機械的

完全性の変化と定義されている。臨床研究において亜脱臼の評価で最も信頼性のある臨床

的な評価方法がキャリパー(測径器)である(Boyd 1992)。肩甲上腕関節は多軸性で,身

体の他のどの関節よりも上回る可動域を持っている。肩甲上腕関節のその可動性を達成す

るためには,固定性を犠牲にしなければならない。固定性は肩の動きと同時に,rotator cuff

という,関節窩に上腕骨頭を保持するための筋腱板によって達成されている。脳卒中を発

症し始めた時の麻痺肢は弛緩性または低緊張である。そのため肩の筋群、特に回旋筋腱板

は関節窩に上腕骨頭を保持する機能が出来なくなり,それが亜脱臼の高いリスクとなる。

肩の亜脱臼は片麻痺患者でよく起こる問題点である。弛緩した麻痺肢の初期では,麻痺

側上肢は適切に保持されなければならず、でなければ腕の重みに亜脱臼が生じる。ベッド

での不適切なポジショニング,高重力肢位での支持不足やトランスファー時の麻痺肢の牽

引など全てが亜脱臼の原因である。下方や外側への亜脱臼は一般に,抵抗が少ししかない

低緊張の筋に逆らった長期の下方向きの牽引によって二次的に生じるとされている(Chaco

and Wolf 1971)。機械的影響の結果は肩甲上腕関節の関節包(特に上面),弛緩した棘上筋や

三角筋のオーバーストレッチングである。 (Basmajian and Bazant1959,Shahani et

al.1981)(Figure11.1)。

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11.2.2 Scapular Rotation 肩甲骨回旋

肩甲上腕関節の亜脱臼は,他にも要因があるように思われる。Basmajian and

Bazant(1595)は正常の状態において,上腕骨頭の脱臼は,上向きの角度がついた関節窩と

関節包上部,烏口上腕靭帯と棘上筋によって防がれていると述べている。彼らは脳卒中片

麻痺後では肩甲骨の上向きの角度が失われると仮説立てた。Calliet(1980)は弛緩期では,麻

痺した前鋸筋と僧帽筋上部はもはや肩甲骨を支持しておらず,肩甲骨は下制し,下方回旋

した状態になっていると付け加えている。弛緩した補助筋群(特に,棘上筋)と下方回旋した

肩甲骨との組み合わせは,上腕骨頭を傾かせ,関節窩に対して下方へ亜脱臼させると推定

されている。

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Prevost et al.(1987)は脳卒中患者の肩甲骨と上腕骨の動きを 3DX 線技術を用いて研究し

ている。彼らの研究では 50 人の患者の麻痺側と非麻痺側の肩関節を比較している。彼らは

上腕骨の肩甲骨に対する垂直のポジション(例えば,亜脱臼の程度)において麻痺側と非麻痺

側に違いがあることを示すことができた。関節窩の位置も違うが,彼らは,脱臼した肩関

節の関節窩は,下向きが少ないことを見つけた。脱臼の重症度と肩甲骨の位置とに有意な

関係はなかったとしている。彼らは片麻痺における脱臼を引き起こす要因として,肩甲骨

の位置はそれほど重要でないことを結論付けた(Prevost et al.1987)。Culham ら(1995)は,

脳卒中患者において,高緊張のグループに比べ,低緊張の人の方が有意に脱臼にするとし

ており(0.52 vs 0.21 ),脱臼の量と肩甲骨および上腕骨の外転角度に相関は認められなかっ

たと報告している。Price ら(2001)は脳卒中のない患者と,脳卒中の患者での比較では,脳

卒中患者の亜脱臼と安静時の肩甲骨の位置に関係はなかったとしている。また,健常肩甲

骨は下方傾斜が他の研究で示された角度より大きく起こるという結果を報告している。

11.2.3 Pain in Shoulder Subluxation 肩関節脱臼の痛み

肩関節脱臼は肩の痛み (Crossens-Sills and Schenkman 1985, Moskowitz et al. 1969b,

Savage and Robertson 1982, Shai et al. 1984, Roy et al. 1994) や凍結肩,上腕神経叢の引

き抜き損傷(Kingery et al. 1993)を含む様々な状態に関わりがあるかもしれない。後者にお

いてエビデンスは不足しているが(Kingery et al. 1993)。弛緩性の肩にかかる牽引力がも

し修正されなければ痛みを引き起こし,可動域を低下させ,拘縮を引き起こすと長

い間仮定されてきた。しかし,全ての片麻痺後の肩関節亜脱臼の患者が痛みやその

持続を経験しておらず,亜脱臼が片麻痺の肩関節痛の原因であるかどうかに関して

議論の余地があるとしている(Fitzgerald-Finch and Gibson 1975, Moskowitz et al. 1969b,

Shahani et al. 1981, Bender and McKenna 2001)。それらに関連した報告に一貫性がないの

は,痛みの原因となる他の要因についての研究が少ないと同時に,脱臼の早期からの徴候

と痛みの進行について相関があるので,脳卒中の慢性化について説明出来ないからである。

Paci ら(2005)は,亜脱臼に関連のある痛みは,靭帯や関節包などの結合組織の線維化や損

傷が上腕骨と肩甲骨の異常な配置が原因で起こってから,脳卒中後遅れて起こると述べて

いる。いくつかの研究ではその関連について報告しているけれども,その他の研究ではそ

の結果には一致していない。患者の個性のばらつき,評価のタイミングや方法(放射線 vs 医

学的検査)が結果の一貫性が欠けている理由かもしれない。(Table11.3 参照)

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Individual Studies

肩の亜脱臼と痛みの関連について調べた研究の選抜が Table11.4 に示されている。

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Conclusions Regarding Shoulder Subluxation Post-Stroke 脳卒中の肩関節脱臼に関する結論 早期の片麻痺上肢における亜脱臼は,弛緩した肩関節補助筋により引き起こされ,肩甲骨

の下方回旋によるものではない。 肩関節亜脱臼が肩関節の痛みの原因かもしれない;しかしながら,亜脱臼の患者は必ずし

も痛みを経験しているわけではなく,片麻痺の肩関節の痛みの全てのケースが亜脱臼に悩

まされるわけではない。 肩関節亜脱臼が肩関節の痛みの最も重要な原因であるとは立証されていないが,亜脱臼を

防ぐために早期から片麻痺上肢を慎重に扱う必要があるように思われる。

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11.3 Spasticity, Contractures and Hemiplegic Shoulder Pain (HSP) 痙縮,拘縮そして片麻痺の肩関節の痛み

痙性を含む異常筋緊張は HSP と直接的に関連があるかもしれない。痙性は筋の伸張反射

亢進に付随する速度依存性の筋の他動伸張に対する抵抗の増大により特徴づけられる運動

機能の障害として定義され、よく折りたたみナイフ現象と連想される。痙性は上位運動ニ

ューロン(UMN)症候群の構成要素のひとつで、片麻痺の避けられない随伴症状および不

完全な運動回復である。正常な環境ではαとγ運動ニューロンの影響で促通と抑制に繊細

なバランスが存在する。そしてこれが、脊髄レベルで骨格筋の長さや収縮の強さを適切に

コントロールし続ける。脳卒中発症後、上位脊髄レベルの抑制領域の 1 つかそれ以上から

の入力が減少もしくは完全に中断される。筋によるコントロールのバランスは促通優位に

なる。そして痙性が起こる。痙性は錐体路および錐体外路両方からの入力の消失がある場

合にのみ起こる。痙性は身体の影響を受けた側の緊張および反射の増加として起こる。

Van Ouwenaller らは(1986)、脳卒中発症後 1 年経過した 219 名の患者の様々な因子を調

べ、弛緩性(18%)よりも痙性麻痺(85%)の方が肩の痛みの発生率がより高いことを明らかに

した。彼らは痙性を「片麻痺患者の肩関節痛の発生において重要な因子であり、最も頻繁

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に遭遇することの 1 つ」として同定した。彼らは随伴する肩関節痛の病因を明らかにはし

なかった。Poulin de Courval らは(1990)、脳卒中後のリハビリテーションプログラムを受

けた 94 名の片麻痺患者を評価し、肩関節痛がある患者がない患者と比べて罹患肢の痙性が

有意に高かったことを報告した。対照的に、Bohannon らは(1986)、50 名の片麻痺患者(36

名が肩関節痛あり)に、統計学的分析を行い「痙性は…肩関節痛とは無関係である」と主

張した。Joynt(1992)も脳卒中後、肩に問題のある 67 名の患者を評価した後にこの見解を支

持した。それでもなお、片麻痺の肩関節痛の原因として、痙性特に過緊張筋のインバラン

スとしてのエビデンスが増えている。

11.3.1 Spastic Muscle Imbalance 痙縮筋のインバランス

脳卒中後の片麻痺は過緊張の筋のパターンを反映した特有の姿勢に特徴づけられる。片

麻痺の上肢では屈筋が優位で肩関節内旋、内転に加えて肩甲骨内転、下制となる。この姿

勢は高位中枢の切除の結果であり、錐体路と錐体外路のコントロールからの運動グループ

の解離の結果として起こる。脳卒中の回復では、回復が不十分なところでは、筋の「共同

運動パターン」は必然的である。この結果の 1 つは肩関節に関する痙性筋のインバランス

の進行である.

臨床的に、肩関節内旋筋群が脳卒中後の患肢で優位であり、外旋は肩の機能回復の最後

の領域のひとつである。それゆえに、運動単位が回復している間、適切には動員もしくは

抑制されない;その結果、主動作筋と拮抗筋の共同収縮が同時に起こる。共同運動パター

ン下の短縮した主動作筋はより強くなり、主動作筋の持続的な緊張は痛みを生じ始める。

これらの固くなった痙性筋を伸張すると、より痛みが生じる。短縮した筋は運動を抑制し、

可動域を制限し、他の動き特に外旋が必要である肩関節の 90°以上の外転時に妨げる。肩

関節内旋、内転の痙性に寄与する筋は肩甲下筋、大胸筋、大円筋、広背筋を含む。しかし、

特に 2 つの筋は最も痙性が高くなりやすく、インバランスにつながっていく。これは肩甲

下筋、大胸筋である。

Subscapularis Spasticity Disorder 肩甲下筋の痙縮

肩甲下筋は肩甲骨底面下から始まり、肩関節包と同様に(Figure11.2)上腕骨小結節に付

着する。それは主な肩関節内旋筋である(Holliushead and Jenkins 1981)。肩甲下筋は肩関

節屈曲位からの外転、伸展にも作用する(Cole and Tobis 1990)。正常な肩甲下筋への神経イ

ンパルスは上腕が外転している間、抑制され、筋が弛緩し上腕骨外旋を許し、それによっ

て大結節の肩峰へのインピンジメントを防いでいる(Codman 1934)。痙性麻痺による共同屈

曲運動パターンの一部として、肩甲下筋を含む内旋筋は緊張が亢進している。これは、肩

関節外転、屈曲、外旋を制限する。

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Bohannon らは(1986)片麻痺の肩の外旋制限が片麻痺の肩関節痛と最も関連した因子であ

ったことを発見した。Zorowitz らも肩関節外旋制限が肩の痛みと強く関連していたことを

発見した。Hecht(1995)は特にこの問題を肩甲下筋と結び付けており、「外旋が最も制限さ

れる際には肩甲下筋は痙性麻痺の肩関節痛の第一要因である。他の筋群も痙性や痛み、機

能的な構造の一因となるかもしれないが、肩甲下筋は異常な共同運動パターンのかなめ石

である。」と報告した。

肩甲下筋の痙性による障害は外旋時に最も制限される動きと、外旋時に起こる痛みに特徴

づけられる。緊張した痙性筋繊維は後方の腋窩で触診される。これを支持するものとして

Inaba や Piorkowski(1972)は片麻痺の肩において外旋は最も痛みが強く、運動を制限すると

報告した。

Pectoralis Spasticity Disorder 大胸筋の痙縮

大胸筋は上腕の前方挙上、内転、内旋に作用する。Hecht(1995)は脳卒中片麻痺患者の一

部では外旋よりも外転(屈曲)の方がより顕著に制限があると報告している。このような

患者の場合、大胸筋の痙性が疑わしい。この障害は外転時に最も制限され、痛みが出現す

るという特徴がある。緊張した痙性の筋繊維は腋窩の前方で触診できるだろう。大胸筋は

肩甲下筋の協働筋であるということも注目すべきである.

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11.3.2 Frozen or Contracted Shoulder 凍結または拘縮肩

凍結または拘縮肩(癒着性の関節包炎)は臨床的に制限のパターンを伴う可動域の制限

によって特徴づけられる。この状態は痙性麻痺の痛みの原因として頻繁に同定されている。

(Bohannon et al.1986, Eto et al.1980, Fugl-Meyer et al.1975, Grossens-Sills and

Schenkman 1985, Hakuno et al. 1984, Risk et al.1984)

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要するに、肩の亜脱臼が肩の痛みと必ずしも関連がない一方、痙性は一般的に関連がある。

片麻痺の肩関節痛の問題は、痙性のインバランスと凍結した拘縮肩との組み合わせによる

もののようだ。しかしながら、積極的な肩のストレッチプログラムは痙性筋のインバラン

スをまともに問題として扱わないので、度が過ぎた肩のストレッチは単に痛みを悪化させ

るだけかもしれない。

Conclusions Regarding Spastic Hemiplegic Shoulder 痙性片麻痺の肩関節に関する結論 痙性と片麻痺の肩関節痛の進行には関連がある。 痙性と二次的な凍結肩は片麻痺の肩関節痛の主要な原因である。

11.4 Rotator Cuff Disorders 回旋筋腱板損傷

脳卒中でない人における肩の痛みは、腱板損傷に関係していることが多々あることから、

麻痺側の肩の痛みと共通の原因であるかもしれないと考えることは、驚くべきではない。

しかし、Risk et al.(1984)は、麻痺側の肩の痛みがある 30 人の患者の関節造影において腱板

損傷のいくつかのエビデンスを立証できなかった。同様の研究(Nepomuceno and Miller

1974)では、脳卒中後痛みのある肩において腱板損傷の発生率が 33%と報告されている。

Najenson ら(1971)は、上肢に重度の麻痺がある患者 32 人中 13 人(40%)は、関節造影で確

認すると腱板靭帯の断裂があると報告している。腱板の筋肉組織の部分損傷は頻発し、症

状が出ていない患者において病前からあるかどうか決定することはたいてい難しい。

Joynt(1992)は、麻痺側の肩の痛みがある 67 人の脳卒中患者を診断した。28 人の患者は 1%

のリドカインの肩峰下滑液注射を受け、約半数は痛みが和らぐ、もしくは劇的に軽減した。

そして、可動域が改善した。しかし、これは考えられる麻痺側の肩の痛みの原因として、

腱板損傷の状況証拠のみ提供している。一般的に、麻痺側の肩の痛みは、腱板損傷と結び

つかない。

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11.5 Functional Impact of Painful Hemiplegic Shoulder 痛みのある麻痺側の肩の機能的影響

痛みのある麻痺側の肩は非常に制限される。片麻痺から考えられる disability に加えてさ

らに深刻な可能性がある。

Wanklyn ら(1996)と Roy ら(1995、1996)は、麻痺側の肩の痛みと機能的な outcome が低い

ことの関連性について立証した。しかし、原因と関連効果はまだ確立されていない。

Conclusions Regarding Functional Impact of Hemiplegic Shoulder Pain 痛みのある麻痺側の肩の機能的影響に関する結論 痛みのある片麻痺患者の肩は、重度な脳卒中、乏しい機能的な outcome と関連がある。

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11.6 Management of the Painful Hemiplegic Shoulder 片麻痺の肩の痛みの管理 片麻痺の肩の痛みは、一旦症状が進行すると管理が難しく、治療に対する反応はたびた

び不十分である(Risk et al. 1984).痛みの原因がはっきりしないことも最善の治療方法が

明確に確立されていない理由の一つである.結果として、様々な治療方法が用いられ、様々

な効果の程度がある(Snels et al. 2002).理想を言えば、肩の痛みが進行するのを最小限に

するため、脳卒中発症後早期より対策がなされるべきである.弛緩期より早期に他動的な

肩関節可動域運動を行い、麻痺側の肩を支持、保護することは肩の痛みの進行を減らす重

要な手段である.

11.6.1 Positioning of the Hemiplegic Shoulder 麻痺側肩関節のポジショニング

麻痺側の肩関節周囲筋はたびたび麻痺し、初期には弛緩し、後に連合的な痙性が起こる.

注意深いポジショニングは亜脱臼や拘縮を最小限にすることに役立ち、また機能回復を促

進する可能性がある。一方、不十分なポジショニングでは逆に対称性やバランス、ボディ

ーイメージに影響を与える.Gilmore ら(2004)に引用されたように Davies は注意深く正

確なポジショニングによって肩の痛みの進行は予防できると主張している.Bender と

McKenna(2001)は脳卒中初期における最初の目標は過緊張(Johnstone 1992)と非効率

的なパターン(Bobath 1990)の進行を予防することだと述べている.Bender と McKenna

(2001)は「上肢の推奨されるポジションは肩の外転、外旋、屈曲位である」と述べてい

るが、Carr と Kenny(1992)のレビューでは Bender と McKenna は「多くの一般的な理論

はポジショニングの正確な角度に一致した意見は得られていない」と述べている.

Individual Studies

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Conclusions Regarding Positioning of the Hemiplegic Shoulder 麻痺側肩関節のポジショニングに関する結論 片麻痺の肩を適切にポジショニングすることが亜脱臼を予防するという統一見解(Level3)がある.しかし、長期に渡るポジショニングが自動的、他動的角度や痛みの程度に影響し

ないという矛盾したエビデンス(Level4)がある.

11.6.2 Slings and Other Aids スリングとその他の補助具

脳卒中後の初期において患側上肢を支持するためアームスリングはたびたび用いられる.

しかしながら、それらの使用には議論の余地があり、以下の点でデメリットとなりうる。

屈筋共同運動を促通し、上肢のスイングを抑制し、拘縮の形成とボディーイメージの減少

に寄与し、患者はその腕をより使用することを避けるようになる.しかし、起立や移乗の

際にはスリングは弛緩した麻痺側上肢を支持するのに最もよい方法である.Adaら(2005)

はコクランシステマティックレビューを行い、肩のスリングとサポートの効果を評価し、

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それらの装置が脳卒中後の亜脱臼を減らすまたは予防するというエビデンスは不十分であ

ると結論している.レビューはRCT研究が4つのみであった(Ancliffe et al. 1992, Griffin et al.

2003 [unpublished data], Hanger et al. 2000 and Hurd et al. 1974).その結果をTable11.9に

示す.

肩の筋緊張が戻ってくるにつれて肩の亜脱臼のリスクは減少し、スリングを取り除くこと

ができる.スリングは肢を不良な肢位に保持する傾向があり、内転や内旋などを強調し、

緊張のある筋の短縮に寄与するかもしれない.肩を支持する最善の方法は決定されていな

い.それらの効果が検証されたエビデンスがなく、様々なスリングやひざ板などを含む多

くの装置が利用可能で、よく用いられている.

Individual Studies

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Conclusions Regarding Slings in Hemiplegic Shoulder 片麻痺肩関節におけるスリングに関する結論 ある特定の優れた装置や方法はないという限定的なエビデンス(Level2)があるが、肩の

スリングが痛みと関連する亜脱臼を予防するという限定的なエビデンス(Level2)がある.

11.6.3 Strapping the Hemiplegic Shoulder 片麻痺の肩関節へのストラッピング

片麻痺の肩へのストラッピングは肩の亜脱臼の予防または重症度を軽減するための手段

として用いられ、またある程度の感覚刺激を与えるかもしれない.片麻痺の肩に対しては 3

種類のストラッピングがあり、以前から記述されている.

Ancliffe(1992):5cm 幅で計量な粘着テープ(Fixomull Stretch)、“1 つ目のテープは鎖

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骨に沿って半分の長さで肩に用いられ、対角線方向の三角筋と交差するよう続いた...そ

して肩甲棘に沿って約 4 分の 1 で終わった。2 つ目のテープは 1 つ目と同じ方向だが 2cm

下方に用いられた。短めのテープが肩を超えて用いられ、それぞれの先端を固定した。”

Morin&Bravo(1997):“10cm 幅のエラストプラスト粘着性包帯(Elastoplast adhesive

bandage)が肘頭下の前腕部から肩の上端にかけて外側に用いられた。他に 7.5cm 幅の包

帯が 2 本前腕下の肘頭から肩の上端にかけて用いられた。そのうち1つは鎖骨の前方を通

り、もう 1 つは肩甲棘を覆った。各包帯間には空間は残らないようにされた。”

Hanger ら(2000):3 つの長さの非伸縮性エラストプラスト(nonstretch Elastplast Sports

tape)が用いられた。“2 本の支持テープがまず用いられた。両方とも腕を持ち上げるよう

に用いられ、肘の 5cm上から始まり、腕の前方と後方を通り、肩の上端で交差した。それ

から後方を通ってきたテープは鎖骨を通り止まり、前方を通ってきたテープは肩を横切っ

て下がり、肩甲棘を通り止まった。それらは下端において短いテープによって、はがれな

いよう固定された。”

Individual Studies

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Conclusions Regarding Strapping the Hemiplegic Shoulder 片麻痺の肩へのストラッピングに関する結論

片麻痺の肩へのストラッピングが痛みの進行を減らすということには矛盾するエビデンス

(Level4)がある.ストラッピングは上肢機能や可動域を改善しないという適度なエビデ

ンスがある(Level1b).

11.6.4 Active Therapies in the Hemiplegic Shoulder 片麻痺肩関節に対する積極的治療

痙性、筋バランス不良、凍結肩と肩の痛みとの関連は片麻痺の肩関節可動域改善を想定

した治療アプローチが痛みを改善するかもしれないということを示している.

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Discussion

Inabaら(1972)の “良い”研究(PEDro=7)では以下の各群のアウトカムに有意差を

認めなかった:ROMエクササイズとポジショニング群、ROMエクササイズと超音波群、

ROMエクササイズと偽超音波群.Kumarら(1990)はオーバーヘッドプーリーがより控え

めなROMエクササイズよりも劇的に高い肩の痛みを引き起こす事を発見した.コントロー

ル群と実験群の間に統計学的な有意差はなかったものの、Lynchら(2005)はOrthoLogic

Danniflex600 shoulder CPM systemを用いた持続的他動運動と関連した肩関節の安定性改

善の傾向を報告している.静的ポジショナルストレッチプログラムは外旋可動域減少の予

防に効果がないだけでなく、疼痛の程度を増加させる(Gustafson & McKenna 2006).先行

研究に反して、可動域の減少や治療群で報告された疼痛の増強にもかかわらず、この研究

の被検者は機能的な改善が続いた.

Partridge ら(1990)はボバース法を用いた治療がクライオセラピーよりも有意な痛みの

減少につながることを発見した.これら 3 つの研究より得られる一般的な解釈は、自動的

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な ROM エクササイズが他動的な物理療法よりも好ましいが、オーバーヘッドプーリーのよ

うに過度に攻撃的なアプローチはよりゆるやかなアプローチと比べて非常に高い麻痺側肩

の痛みの発生につながるということである.

Conclusions Regarding Active Therapies in the Hemiplegic Shoulder 片麻痺肩関節に対する積極的治療に関する結論

オーバーヘッドプーリーを用いた攻撃的な可動域訓練は肩の痛みの発生の増加につながる

という適度なエビデンスがある.(Level 1b) 麻痺側の肩に対するボバース法が他動的なクライオセラピー(局所への寒冷療法の適用)

よりもより疼痛を減少するという適度なエビデンスがある.(Level 1b) 可動域を改善するための緩やかなエクササイズが好ましいアプローチであるという適度な

エビデンスがある.(Level 1b)可動域訓練に超音波を加えてもアウトカムが変化しないと

いう適度なエビデンスがある.(Level 1b) 作業療法を受けている肩に痛みのある脳卒中患者において、経口 NSAID の提供が疼痛の減

少につながり、可動域を改善し機能回復を改善するという限定的なエビデンスがある.

(Level 2) 日々のリハビリテーション時における静的ポジショナルストレッチは疼痛の増加と可動域

の減少に関連するという適度なエビデンスがある.(Level 1b)

11.6.5 Injections in the Hemiplegic Shoulder 片麻痺肩関節に対する注射

コルチコステロイドと局所麻酔注射は肩の痛み、特に回旋筋腱板の損傷に対してよく用

いられる。この治療が脳卒中片麻痺の肩の痛みに対して用いられても驚くようなことでは

ない.

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Discussion “良い”質の 1 つの RCT においてコルチコステロイド注射の利益を示すことができなかっ

た。この治療を推奨するエビデンスは不十分であり、一つの試みにおいては効果に疑問が

ある.

Conclusions Regarding Injections in the Hemiplegic Shoulder 片麻痺肩関節に対する注射に関する結論 一つの“良い”RCT に基づいて、コルチコステロイド注射が片麻痺患者の肩の痛みや可動

域を改善しないというエビデンスがある(Level 1b).

11.6.6 Functional Electrical Stimulation(FES) in the Hemiplegic Shoulder

片麻痺肩関節に対する機能的電気刺激

Greshamら(1995)に引用されたように、U.S. AHCPR Post Stroke Rehabilitationガイド

ラインはFESを“筋収縮の強化や運動制御の改善を目的として、脳卒中で障害された神経や

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筋肉に用いられる電気刺激の発火”と定義している.肩甲上腕関節を正しいアライメント

に保持するのに重要な筋である(Paciら2005)ため、棘上筋や三角筋後部が最も治療に使

われる傾向にある.理論上、FESは弛緩した肩の筋肉を代償または促通し、肩の亜脱臼のリ

スクを減らすために用いられる.治療の理想的な強度は毎日6時間、週5日を6週間である.

FESの周波数は35から50Hzで用いられる(Paciら2005).

Price & Pandyan(2001)は脳卒中後の肩の痛みの予防と治療におけるすべての形の電気刺

激(ES)のシステマティックレビューを行った.それに含まれる研究は Table11.14(a)と(b)

に示されている.著者たちは結論を出すにはエビデンスが十分ではないと結論づけた.伝

統的な療法に加えた FES は機能を改善するが痛みの予防には優れていないというエビデン

スがある.

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Ada & Foongchomcheay(2002)はまた脳卒中後の肩の亜脱臼に対する電気刺激の効果

を調査するメタアナリシスを行った.このレビューは6つのRCTからの結果を含んだ(Baker

& Parker 1986, Faghri et al. 1994, Kobayashi et al. 1999, Linn et al. 1999, Wang et al. 2000).

その結果はTable11.15に示されているが、伝統的な療法に加えた早期の治療は片麻痺の肩の

進行を予防するのに役立ち、後の治療は痛みを軽減するのに役立つと提案している.

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Individual Studies

11 の研究が特に肩の痛みの治療に関する FES の効果を評価している(Table11.16).

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Discussion 評価に使われたアウトカムは様々であるが、RCT の多くは FES 治療に関連する利点を報

告している:ROM、筋緊張、EMG 活動、肩亜脱臼、肩の痛みと筋機能である.これらの結

果は麻痺側肩において FES が痛みを軽減し、また上肢機能を改善することができるという

ことを示している.経皮的に置かれた装置が治療コンプライアンスを高めるかもしれない.

しかしながら、特に重度の麻痺を伴う場合、もっとも大きく、方法的に厳格なトライアル

において FES 治療が実は有害で、上肢機能を低下させるかもしれないということが示され

ている.著者はこの発見の説明の可能性として、麻痺側上肢の過用、過剰刺激を含むいく

つかのメカニズムを提案している。そしてその刺激が運動再学習過程に干渉し、治療終了

後においても上肢回復に影響し邪魔する可能性を示している.これらの著者は肩の亜脱臼

や痙性を減らすという利点に関してはエビデンスが示されているということに言及し、そ

れらのパラメータを評価しなかった.

Conclusions Regarding FES in the Hemiplegic Shoulder 片麻痺肩関節に対する機能的電気刺激に関する結論 FES が痛みの軽減、機能改善、亜脱臼を減らすというエビデンスには矛盾した報告がある

(Level 4)。

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11.6.7 Surgery as Treatment for Muscle Imbalance 筋のインバランスに関する治療的手術

痙性筋のインバランスが片麻痺の肩の痛みの原因の一つであると仮定し、このインバラ

ンスを回復するようデザインされた治療が片麻痺の肩の痛みを軽減する可能性がある.

Conclusions Regarding Surgery as Treatment for Hemiplegic Shoulder Pain 片麻痺肩関節の痛みに関する治療的手術に関する結論 肩に痛みを有する脳卒中患者において肩甲下筋と胸筋腱の外科的切除が痛みと可動域を改

善するという限定されたエビデンスがある(Level 2).

11.6.8 Motor Blocks as Treatment For Muscle Imbalance

痙縮筋のインバランスに対するモーターブロック

すでに取り扱われたように肩甲下筋の痙性は外旋において痛みを生み、最も可動域を制

限すると特徴付けられている.これは現在では多くの症例において痙性筋のインバランス

の結果であると考えられている片麻痺の肩の痛みとよく相関すると思われる.胸筋の痙性

は肩の外転可動域の制限に特徴付けられ、影響はより小さいと考えられているが、同様の

筋インバランスを引き起こす.痙性筋のインバランスに対するモーターブロックはそのイ

ンバランスを矯正し、片麻痺の肩の痛みを軽減する.

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Conclusions Regarding Motor Block for Muscle Imbalance 筋のインバランスに対するモーターブロックに関する結論

肩甲下筋のモーターブロックが片麻痺患者において痙性の肩の痛みを軽減し、他動可動域

を改善するという適度なエビデンスがある(Level 1b). 大胸筋のモーターブロックが肩舞患者において痙性の肩の痛みを軽減し、他動可動域を改

善するというエビデンスには対立する報告がある(Level 4).

11.6.9 Miscellaneous Treatments for Shoulder Pain

肩関節の痛みに対する多岐にわたる治療

アロマテラピーは慢性的な痛みの状態に関連する疼痛と不安を軽減すると示されている

(Buckle, 1999).一つの RCT において脳卒中の肩の痛みの治療に対して指圧に加えたアロ

マテラピーの利用が調査されている.

著者は肩の痛みの改善は香りと触れることによってリラクゼーションを促し、副交感神

経の反応が高められたためではないかと推測している.リラクゼーションは先行研究で痛

みの知覚を変えると示されている.

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Conclusions Regarding Aromatherapy Acupressure アロマテラピーと指圧を組み合わせた治療に関する結論

アロマテラピーと指圧を合わせることで脳卒中の肩の痛みに関連する痛みを軽減すること

ができるという適度なエビデンスがある(Level 1b).

11.6.10 Summery of the Management of Hemiplegic Shoulder

片麻痺肩関節の管理に関するサマリー

片麻痺患者において肩の痛みが高い広がっているにもかかわらず、効果的治療へのエビ

デンスは失望させるものである.FES を支持する強いエビデンス(Level 1a)と積極的な治

療志向アプローチを支持する適度なエビデンス(Level 1b)がある.プーリーを使った過度

な攻撃的治療は穏やかな可動域練習アプローチと比べ、おおむね痛みを増強するという適

度なエビデンスもある(Level 1b).肩のポジショニング、ストラッピング、コルチコステ

ロイド局所注射と超音波の追加に関しては亜脱臼の予防や疼痛の減少、機能改善という点

においてエビデンスは不十分である.

スリングの使用、痙性筋のインバランスに対するモーターブロック、または治療前の NSAID

服用による効果に関する限定的なエビデンスがある(Level 2)が、RCT は行われていない。

過度に攻撃的な治療を予防し、避けることが大事だという同意がある(Level 3).特に早期

の脳卒中患者をケアする個々人は肩を損傷するという可能性を認識すべきである.肩は注

意深くポジショニングされ、座っているまたは立っている間は特に重力からサポートされ

るべきである.可動域エクササイズでは肩甲帯の上方回旋、上腕骨頭の外旋が起こってい

ないのであれば 90 度以上の屈曲と外転を行うべきではない。(Gresham et al. 1995)

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11.7 Shoulder-Hand Syndrome(SHS) 片手症候群(SHS) 11.7.1 Stages and Symptoms of SHS SHS のステージと症状

反射性交感神経ジストロフィー(RSD)や CRPS(type1)としても知られる肩手症候群は、非

常に多岐にわたる末梢および中枢神経系の変化によって特徴付けられる。末梢性の変化と

しては、麻痺側上肢の手の痛みや腫張と関連した血管運動神経の緊張、非常に強い圧痛ま

たは感覚過敏、保護的な不動状態、栄養面に関する皮膚の変化や血管運動の不安定性を含

む。中枢性の変化は大脳皮質感覚野の変化による混乱、運動野の興奮抑制の解放や身体図

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式の混乱を含む(Moseley et al. 2004)。イワタら(2002)は、経験に基づいて RSD を 3

段階で表現した(表 11.20)。

肩手症候群は一般的に、初期は肩の痛みが起こり、続いて手や手首に痛み、浮腫を伴う。

よく肩と手の関節可動域制限の減少がみられる一方、肘関節は残存する(Davis et al. 1977)。

指の背面全体に広がる浮腫のために手首、中手指節間関節(MCP)と近位指節間関節(PIP)

の他動屈曲は痛みを伴い、制限される。時間が経つにつれて、伸筋腱は挙上し並行する靭

帯は短縮する。もし治療を施さないままであれば、肩手症候群は最終的に乾燥し、冷たく

薄青くなり、萎縮した手へと進行することが考えられる。しかしながら、経験上ではたい

ていの場合、疼痛としばしば浮腫は、数週間で自然に治まる。

肩手症候群はたびたび片麻痺の上肢を含んだ交感神経系の介在した痛みの一形態として

みなされる。交感神経系と痛みの関連性は不確定なままであり、いまだに立証されていな

い。肩手症候群は、片麻痺の人の約 4 人に 1 人発症する。運動前野の影響と麻痺側上肢の

痙性に関連がある。診断は、特に最も一貫性のある徴候である中手指節間関節の圧迫に対

する過敏性によって臨床的に行われる。回復は、たいてい自然に進む一方、6 ヶ月以上持続

する状態では治療が難しい。

11.7.2 Pathophysiology of SHS SHS の病態生理学

肩手症候群は、脳の運動前野の障害と関連付けられてきた。肩手症候群の病因はまだ知

られていない;血管運動の変化を伴うので交感神経系は大いに関係していると考えられてき

た。理論上の末梢および中枢の病因が提示されてきた。末梢の病因論では、末梢神経の損

傷が一因と仮定される。これらのうち一つは、痛みとして知覚される求心性の体性神経の

脱分極に伴い、遠心性の交感神経と求心性の体性神経の間でエファプス伝達があると仮定

する。多くの中枢性の病因論もまた提示されてきている。例えば、中枢神経系のより上位

の中枢から自律神経系への制御に混乱がおこるといわれている。そして直接的に脊髄の介

在ニューロンプールに影響を及ぼし、交感神経外側核の抑制の減少につながる。拘縮また

は亜脱臼からおこる疼痛は脊髄介在ニューロンプールを刺激し、正常ではない交感神経の

反応を起こす。正常でない交感神経系と痛みの関連性もまた仮説を立てられているが、ま

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だはっきりとしていない。

Geurt ら(2000)は、脳卒中後の手の浮腫や、肩手症候群に関する病因や治療法のシステマ

ティックレビューを行った。著者らは、5 つの病因研究や、6 つの治療研究を同定した。著

者らは、11 の方法論的基準と標準化されたエフェクトサイズに基づいた研究を評価した。

文献のシステマティックレビューに基づいて、著者らは、すべての場合に手関節や手の痛

みを伴う腫脹を特徴としているけれども肩はたった半分ほどの場合にしか含まれず、それ

ゆえ、半分の場合は、手関節―手症候群にしてはどうかと提案すると結論付けた。さらに、

手の浮腫はリンパ浮腫ではなく、肩手症候群は通常動脈血流の増加を伴うと記した。

イワタら(2002)は、肩手症候群は脳卒中に続く麻痺によって起こり、ホメオスタシスや細

胞内液、細胞外液のバランスの乱れを介するものであろうと提示した。3つの可能なメカ

ニズムは以下である:ⅰ) 末梢の静脈血の還流やリンパの流れの減少によって起こる毛細血

管の血圧上昇;ⅱ)急性期の反応として脳卒中の早期の段階におけるコロイドの浸透圧の

低下;ⅲ)麻痺側の腕や手の荒っぽい処置によって起こされる滑膜炎に起因するかもしれ

ない毛細血管壁の浸透性の亢進。

※エファプス

(2 個以上の神経細胞突起[軸索、樹状突起]が典型的なシナプスを形成せずに結合する場所。

そのような非シナプス性結合部位で何らかの形の神経伝達が起こる可能性がある。)

11.7.3 Incidence of SHS SHS の発生率

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RSD の発症頻度は 12~32%の割合で起こる一方、Petchkrua ら(2000)は、RSD の発症頻

度を過大評価しており、先行研究の結果が、患者が早期に集中的な入院リハビリテーショ

ンを受けるのが日常になる以前に得られていたと主張した。病院へ入院し退院するまで 1

週間に 1 回、急性期リハビリテーション施設に入院した患者は、肩の痛み、肩の他動関節

ROM の減少、手首及び手の痛み、浮腫、皮膚の変化について評価された。これら5つの基

準のうち3つが陽性ならば、患者は3相の骨の断層写真(TPBS)を受けた。CRPS type1

と一致する骨断層写真の所見は、診断を確定するものとして撮影された。64 症例のうち 13

症例が骨断層撮影を受け、たった1人(1.56%)のみが陽性であった。著者らは、患者は彼

らが RSD 症状に発展する前に退院することが起こりうると述べた。より最近の研究(Kondo

et al. 2001)では標準的で多角的なリハビリテーションを受けた患者では RSD 発症頻度が

もっと高かった(34%)。Gokkaya ら(2006)はより最近の研究で、RSD と肩の亜脱臼に

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関係があったと主張した。著者らによって主張された起こりうるメカニズムは、関節周囲

の組織を過度に伸張することや、神経組織のインピンジメント、肩関節の下方向への牽引

が含まれる。

Conclusions Regarding the Incidence of RSD Post Stroke 脳卒中後の RSD の発生率に関する結論 脳卒中後の RSD 発症頻度は 12~34%の幅があり、評価の種類と同様タイミングによって影

響されるかもしれない。 11.7.4 Diagnostic Tests of SHS SHS の診断テスト

肩手症候群の診断にはいくつかの方法が用いられてきている。麻痺側上肢の定期的なレ

ントゲン撮影では、早ければ臨床徴候が発症した3~6ヶ月後より不完全な関節周囲の無

機質の脱落(ズテック萎縮)を認めるかもしれない。最も鋭い診断検査はテクネチウム、

二リン酸の骨断層写真であり、麻痺側上肢において増加する関節周囲組織の摂取(大部分

は肩と手関節)を立証する。骨断層写真での異常は、X 線よりも早く現れる。Tepperman

ら(1984)は、片麻痺患者の 25%が上肢に関して RSD の徴候を示し、その 2/3 のみで臨

床徴候が発展し続けた。診断の妥当性においては難しい点があるが、交感神経の遮断で一

時的に徴候が軽減すれば確定診断とみなされる。比較研究では、サーモグラフィーは、一

貫してRSDを診断することができず、妥当性のある検査とはみなされない。しかしながら、

Kozin ら(1981)は、たとえば握力のような臨床的な指標、圧痛過敏性と指輪のサイズは、

RSD より正確な診断指標であったと述べていた。イワタら(2002)は、中指の周径の比(麻

痺側/非麻痺側)が脳卒中後 4 週間で 1.06 より大きい場合は、RSD の予兆であると主張し

た。

Conclusions Regarding Shoulder-Hand Syndrome 肩手症候群に関する結論 肩手症候群は、痛みを伴う臨床的なものであり、それは病態生理学的な基礎からは解明さ

れていない。診断は臨床的に作られている。たいていの場合は時間とともに改善されるよ

うである。 11.7.5 Treatment of Shoulder-Hand Syndrome 肩手症候群の治療

肩の問題の予防と積極的な早期治療は、機能的でない痛みの強い上肢への進行を予防す

るため勧められる。様々な治療選択は、表 11.22 で述べられている。治療は関節可動域訓練

に焦点を当てた積極的な理学療法から成る。1 から 2 週間のコースで、星状神経節ブロック

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もしくは guanethedine の局所的静脈ブロックの形での高濃度のコルチコステロイド薬、ま

た/もしくは交感神経節ブロックのどちらかを用いる治療は障害が持続するケースに試さ

れるかもしれない。CI 療法や感覚識別訓練もまた肩手症候群の治療として提案されている

(Acerra et al. 2007)。外科的な交感神経切除術は、たとえ星状神経節交感神経ブロックが一

貫して効果的であるが症状が再発する場合考慮されるかもしれない。しかしながら外科的

な交感神経切除術がアウトカムを変えるという証拠はない。提案される治療の数が多いこ

とに反映されるように、決定的な RSD に対する治療の介入はない。適切な治療なしに 6 ヶ

月以上経過する肩手症候群は、つらい予後となる。(Lieberman 1986)。

11.7.6 Pharmacological Treatment of Shoulder-Hand Syndrome 肩手症候群の薬物治療

3 つの研究が脳卒中に関連する肩手症候群の薬物治療を評価した。結果は table 11.23 に

示された。

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Discussion

Braus ら(1994)の研究が唯一の肩手症候群の治療を調べた RCT であった。経口のコル

チコステロイドは少なくとも 4 週間は肩手症候群を改善した。少ない試験にもかかわらず、

Geurt ら(2000)はレビューで経口コルチコステロイドが最も肩手症候群の治療に効果的で

あったと結論づけた。カルシトニン治療が肩手症候群に付随する痛みを効果的に治すとい

う一つの比較試験があるが、臨床的には広く使われていない。

Conclusions Regarding Oral Corticosteroids in SHS SHS における経口コルチコステロイドに関する結論

経口コルチコステロイドは少なくともはじめの 4 週間は肩手症候群を改善するという適

度なエビデンスがある(Level 1b)。 カルシトニンは、脳卒中に付随する肩手症候群の痛みを改善するという限定的なエビデ

ンスがある(Level 2)。

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11.7.7 Graded Motor Imagery as a Treatment for CRPS1

CRPS1 治療としての段階的運動イメージ

運動イメージは、肩手症候群の従来の医療管理のための代わりとなる治療法として提示

されてきた。そしてそれは、初期には患肢の運動を含まず皮質神経ネットワークの活性化

を含む。このストラテジーの1つの型(ミラーセラピー)は、幻肢痛に苦しむ患者にうま

く用いられてきた。CRPS と neglect-like condition の間には関連があり、患者たちは患肢を

動かすのに集中する必要があるのかもしれない(Moseley et al 2004)。現実とイメージでの

運動の両方が同様の皮質のネットワークを活性化するということが知られているが、運動

イメージの基礎となるメカニズムは不明確なままである。提示されたメカニズムは運動の

出力と感覚のフィードバックを融和すること、ミラーニューロンの活性化と段階化された

皮質運動ネットワークの活性化を含む。(Accera et al. 2007)。ひとつの RCT が脳卒中後の

治療としてこの効果を評価している。

最初の治療である手の左右認知課題期には運動前野のみの活性化を起こし、一次運動野

の活性化は避けられた。第 2 期には患者らは 28 枚の写真からランダムに選ばれた手の写真

と自分たちの手が同じ位置になるようにイメージするよう求められた。最終期には段ボー

ルのミラーボックス内に非患側の手の写真が置かれた。患者らは 20 枚の写真の肢位を両手

を用いて取るよう、しかし、痛みを経験したら終了するよう求められた。

Moseley ら(2004)は MIP での治療が現状の CRPS 患者の医学的管理よりも効果的であ

ると報告している。患者らは著名な痛みと腫脹の軽減をこの治療で経験しており、少なく

とも 6 ヶ月の持続効果を認めている。著者らはまた MIP プログラムを完了した 6 週間後に

はおよそ 50%の患者はもはや CRPS1 の診断基準を満たさなかったと述べている。

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Conclusions Regarding Graded Motor Imagery 段階的運動イメージに関する結論 運動イメージプログラムが肩手症候群に関連する痛みを軽減するという適度なエビデンス

がある。(レベル 1b)

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