14
1 特許庁「グローバル知財マネジメント人材育成推進事業」 長編教材 No.2-2 Ver.1.1 二次元バーコードのビジネスモデルと事業戦略 ~デンソーウェーブの QR コード 1 2 〔本教材のテーマ〕 デンソーは自社で開発した QR コードをどのようにビジネスに結び付けていったのか。そし てその中で知的財産及び標準化がどのような役割を果たしたのかを検討する。 1 開発の経緯 <開発担当者の話> 3 「当時他社が開発していた 2次元コードは、情報をたくさん入れることにとらわれていた」。 こう振り返るのは、当時 QR コードの開発担当者であった原昌宏。2 次元コードは、バーコー ドが横方向(1 次元)にしか情報を持たないのに対し、縦と横の 2 次元に情報を持たせたもの だった。多くの情報を入れられるだけでなく、「読み取りやすいコードを開発したい」との思 いで、原は新たな 2 次元コードの開発に踏み切った。それもたった 2 人でである。 開発チームにとって一番の課題は、どうしたら高速にコードを読み取れるかという問題だっ た。あるとき、「ここにコードがあるという位置情報をつけたらどうだろうか」というアイ デアが原の頭をよぎった。 そこで考案されたのが、四角い形をした「切り出しシンボル」だった。この印を 2 次元コー ドの中にいれることで、他社には真似できない高速読み取りが可能となったのだった。 ところで、なぜ切り出しシンボルがあのような四角い形になったのか。 「それは、帳票などで一番出現率が少ない図形だったからですよ」と原は言う。 つまりコードに印を入れても同じような印が近くにあれば、読み取り機はそれをコードだと 1 「QR コード」は株式会社デンソーウェーブの登録商標 2 本ケース教材は、株式会社デンソーの協力を得て、金沢工業大学大学院 イノベーションマネジメント研究科 加藤 浩一郎 教授が執筆したものである。本ケース教材はクラス討議の資料として作成されたものであり、経営 の適否を問うものではない。本ケース教材の著作権は特許庁に帰属する。特許庁の許可を得ないケース教材の転載、 複製、目的外の利用を禁ずる。問い合わせは特許庁総務部企画調査課(電話:03-3592-2911)までご連絡いただき たい。 3 QR コードドットコム デンソーウェーブ「QR コードの開発秘話」http://www.qrcode.com/history/

二次元バーコードのビジネスモデルと事業戦略 ~デ …watanabelab.main.jp/wp-content/uploads/1ca0679d710dc1b...1 特許庁「グローバル知財マネジメント人材育成推進事業」

  • Upload
    others

  • View
    1

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: 二次元バーコードのビジネスモデルと事業戦略 ~デ …watanabelab.main.jp/wp-content/uploads/1ca0679d710dc1b...1 特許庁「グローバル知財マネジメント人材育成推進事業」

1

特許庁「グローバル知財マネジメント人材育成推進事業」

長編教材 No.2-2 Ver.1.1

二次元バーコードのビジネスモデルと事業戦略

~デンソーウェーブの QRコード1~2

〔本教材のテーマ〕

デンソーは自社で開発した QR コードをどのようにビジネスに結び付けていったのか。そし

てその中で知的財産及び標準化がどのような役割を果たしたのかを検討する。

1 開発の経緯

<開発担当者の話>3

「当時他社が開発していた 2次元コードは、情報をたくさん入れることにとらわれていた」。

こう振り返るのは、当時 QRコードの開発担当者であった原昌宏。2次元コードは、バーコー

ドが横方向(1 次元)にしか情報を持たないのに対し、縦と横の 2 次元に情報を持たせたもの

だった。多くの情報を入れられるだけでなく、「読み取りやすいコードを開発したい」との思

いで、原は新たな 2次元コードの開発に踏み切った。それもたった 2人でである。

開発チームにとって一番の課題は、どうしたら高速にコードを読み取れるかという問題だっ

た。あるとき、「”ここにコードがある”という位置情報をつけたらどうだろうか」というアイ

デアが原の頭をよぎった。

そこで考案されたのが、四角い形をした「切り出しシンボル」だった。この印を 2 次元コー

ドの中にいれることで、他社には真似できない高速読み取りが可能となったのだった。

ところで、なぜ切り出しシンボルがあのような四角い形になったのか。

「それは、帳票などで一番出現率が少ない図形だったからですよ」と原は言う。

つまりコードに印を入れても同じような印が近くにあれば、読み取り機はそれをコードだと

1 「QRコード」は株式会社デンソーウェーブの登録商標 2 本ケース教材は、株式会社デンソーの協力を得て、金沢工業大学大学院 イノベーションマネジメント研究科

加藤 浩一郎 教授が執筆したものである。本ケース教材はクラス討議の資料として作成されたものであり、経営

の適否を問うものではない。本ケース教材の著作権は特許庁に帰属する。特許庁の許可を得ないケース教材の転載、

複製、目的外の利用を禁ずる。問い合わせは特許庁総務部企画調査課(電話:03-3592-2911)までご連絡いただき

たい。 3 QRコードドットコム デンソーウェーブ「QRコードの開発秘話」http://www.qrcode.com/history/

Page 2: 二次元バーコードのビジネスモデルと事業戦略 ~デ …watanabelab.main.jp/wp-content/uploads/1ca0679d710dc1b...1 特許庁「グローバル知財マネジメント人材育成推進事業」

2

勘違いしてしまう。このような誤認をさけるため、切り出しシンボルは唯一無二の印でなくて

はならない。そこで考え抜いたあげく、原たちはチラシや雑誌、段ボールなどに印刷されてい

る絵や文字をすべて白黒に直して、その面積の比率を徹底的に調べ上げることにした。開発チ

ームは数えきれないほどの印刷物の調査を日夜続け、とうとう印刷物の中で「一番使われてい

ない比率」を突き止めた。それが 1:1:3:1:1 であった。かくして切り出しシンボルの白黒

部分の幅の比率が決められた。走査線が 360 度どの方向から通っても、この独自の比率を探せ

ばコードの位置が割り出せる仕組みが生まれたのだった。

こうして開発プロジェクトがスタートして 1 年半、幾多の試行錯誤の結果ついに数字で約

7,000文字、漢字の表現も可能という、大容量でありながら他のコードより 10倍以上のスピー

ドで読み取ることができる QRコードが誕生した。

1994 年に、デンソー独自の二次元バーコード「QR コード」が誕生した。QR はクイック・レ

スポンスの意である。QR コードは、記録容量が最大 7,089 字、読み取り速度は、100 文字以下

のデータであればわずか 32ms(ミリ秒)という、記録容量と読み取り速度とを両立させた初の

二次元バーコードであった4。

図2.QRコード見本

QR コードの完成後は、デンソー社内での運用実績が蓄積されていった。まずデンソー社内で

「e かんばん」システムの検証が行われ、その後トヨタ自動車の物流管理を担当する部門で検

証され、徐々に試験導入の場を拡げていった。九州、北海道での試験導入と評価の後、東海地

区に「TOPPS:トヨタ電送かんばん」というシステム名で展開された。2000 年には総組立工場、

2001年にはユニット工場やボディメーカーに、と TOPPSの採用が拡がった。

4 QRコードドットコム デンソーウェーブ http://www.qrcode.com/

Page 3: 二次元バーコードのビジネスモデルと事業戦略 ~デ …watanabelab.main.jp/wp-content/uploads/1ca0679d710dc1b...1 特許庁「グローバル知財マネジメント人材育成推進事業」

3

さらに「良いものだから少しでも多くの人に知ってもらって使ってもらいたい」との思いを

胸に、企業や団体へ QR コードを紹介して回った。 そうした活動の結果、上述のように広く自

動車部品業界の「電子かんばん」に QR コードが採用され、生産から出荷・伝票作成までの管

理の効率化に貢献することとなった。さらにトレーサビリティの観点からも、製造過程を明ら

かにしていく社会の動きもあり、食品業界、薬品業界、コンタクトレンズ業界などの商品管理

などにも使われた。特に BSE 問題などの「食の安全」が脅かされる事件があってからは、食品

が食卓に上がるまでの生産・流通過程が一目瞭然となることを求められた。こうした多くの情

報を掲載するために QRコードは不可欠な存在となった。5

2 特徴と用途の広がり

QRコードには、次のような特徴がある6。

・大容量のデータ収納

従来のバーコードが 20 桁程度の情報量しか扱うことができなかったのに対し、QR コー

ドは、その数十倍から数 百倍の情報量を扱う事ができる。

また QR コードはあらゆるデータを扱う事も可能である。(数字・英字・漢字・カナ・ひ

らがな・記号・バイナリ・ 制御コード等)。1 つのコードで、最大 7,089 文字(数字のみ

の場合)という大容量を表現できる。

・小スペースへの印字

QR コードは、縦・横両方向でデータを表現しているので、バーコードと同じ情報量であ

れば、10分の 1程度の 大きさで表現できる。

・かな・漢字を効率よく表現

QR コードは日本国産のコードだから、かな・漢字の表現にも優れている。「JIS 第一・

第二水準の漢字」を文字セットとしてコードの規格に定義している。日本語表現では、全

角かな・漢字の 1文字を 13bitで効率よく表現し、他の 2次元コードに比べて 20% 以上多

くの情報を収納することができる。

・汚れ・破損に強い

QR コードは、コードの一部に汚れや破損があってもデータの復元が可能な「誤り訂正機

5 QRコードドットコム デンソーウェーブ「QRコードの開発秘話」

http://www.qrcode.com/history/ 6 QRコードドットコム デンソーウェーブ「QRコードとは」

http://www.qrcode.com/about/

Page 4: 二次元バーコードのビジネスモデルと事業戦略 ~デ …watanabelab.main.jp/wp-content/uploads/1ca0679d710dc1b...1 特許庁「グローバル知財マネジメント人材育成推進事業」

4

能」をもっている。

・360度どの方向からでも読み取り可能

QR コードは、360°どの方向からでも、高速な読み取りが可能である。その秘密は QR コ

ードの中の 3 ヶ所の切り出しシンボルにあり、背景模様の影響を受けない安定した高速読

み取りができる。

・連結機能をサポート

QRコードは、データを分割して表現する事もでき、最大で 16個の QRコードに分割する

ことが可能である。この機能を使うことで、細長いエリアへの印字も可能となる。また逆

に複数に分割された情報を一つのデータとして連結することもできる。

2002年には QRコードが広く一般の人に広まることになる。そのきっかけは QRコードの読み

取り機能を搭載した携帯電話が発売されたことである。人々の目を引く不思議な形と読み取る

だけで簡単に携帯サイトにアクセスしたり、クーポンが取得できたりする便利さから、QR コー

ドは急速に世間に浸透していった。そして今では名刺や電子チケット、空港の発券システムな

ど至る所で QRコードが使用され、ビジネスと人々の生活に欠かせないものとなっている。

QR コードが用いられる業界・業種としては、製造業、倉庫業、小売業、医療業、イベントや

セキュリティ等のサービス業等に広がっている。また、その用途としては、会計、トレーサビ

リティ、ピッキング、在庫管理、入庫検品、工程管理、生産管理、電子マネー決済、データ入

力、棚卸、調剤、セキュリティ管理、入場管理、出退勤管理、キャッシュレス等の他領域に及

んでいる。

3 導入方法

QR コードのシステムは、QR コードを作り出す“ソフトウェア・プリンタ”と、QR コードを

読み取る“スキャナ・アプリケーション”の 2 つの行程から構成されている7。これを図示す

れば、図3の通りである。

7 QRコードドットコム デンソーウェーブ「QRコードを導入するには」

http://www.qrcode.com/howto/

Page 5: 二次元バーコードのビジネスモデルと事業戦略 ~デ …watanabelab.main.jp/wp-content/uploads/1ca0679d710dc1b...1 特許庁「グローバル知財マネジメント人材育成推進事業」

5

図 3 QRコードのシステム

データ

QRコード(データ)

QRコード(シール、紙等)

データ取得

読み取り機器(リーダー)

データ処理

QRコード生成ソフト

プリンター

まずは、QR コードを生成するための生成ソフトウェアを使用して、情報を QR コード化する

必要がある。この QR コード生成時におけるデータのエンコードの方法で、データ効率を高め

る工夫の余地があり、データ効率を良くして小さい QR コードを生成するためのノウハウが存

在する。ノウハウは公開せず、同社が QR コードを生成・印刷するエンコードソフトを自社で

開発し頒布することで、印刷面積が小さく読みやすい QR コードを普及させている。このよう

なソフトウェア製品としては、PC にインストールして QR コードを生成するソフトウェアや、

ユーザアプリケーションで QR コード生成機能をサポートする ActiveX コントロール、QR コー

ドのイメージ情報を生成する Javaクラスパッケージなどがある。

そして、その QR コードを紙などにプリンタによって印刷する。その際には、セルの大きさ

や領域に注意が必要である。QR コードは規格に準拠したものを鮮明に表示することによって、

安定した読み取りが可能になる。よって、規格はずれや不鮮明な QR コードはスキャナや携帯

電話の種類によっては読み取りができない場合がある。 また規格に準拠していないものにつ

いては、QRコードと呼ぶことはできない。

次に、印刷された QR コードを読み取るためには、スキャナ等の読み取り機器や、QR コード

読み取りアプリケーションを有する携帯電話やスマートフォン等の装置が必要となる。同社は、

デコード技術についても中核部分のノウハウを公開せず、エンコードソフトは配布し、デコー

ド技術をハンディ読み取り機器に内包する方法を採った。これにより、同社の読み取り機器は

他社製品に比べて QR コードを迅速かつ格段にエラー率を低く読み取ることが可能となってい

Page 6: 二次元バーコードのビジネスモデルと事業戦略 ~デ …watanabelab.main.jp/wp-content/uploads/1ca0679d710dc1b...1 特許庁「グローバル知財マネジメント人材育成推進事業」

6

る。

読み取り機器の製品としては、以下のようなものがある8。

・ハンディスキャナ

手に持ってコードを読み取るタイプのスキャナ。 読み取ったデータは、ケーブルや無

線を通じて接続された PC 等で処理される。 小型・軽量タイプや堅牢性の高いタイプがあ

る。また、読み取り距離や分解能などの性能にも、用途や環境に応じたバリエーションが

存在する。

・ハンディターミナル

コードを読み取るだけでなく、読み取ったデータを蓄積したり、演算処理したりするこ

とができる情報処理端末。ハンディターミナルの OS には、WindowsCE や、メーカ独自の

OS 等が搭載される。端末に組み込まれるアプリケーションや、データの通信機能によって、

幅広い用途に使用することができる。

8 QRコードドットコム デンソーウェブ 「読み取り機器」

http://www.qrcode.com/howto/scan.html

Page 7: 二次元バーコードのビジネスモデルと事業戦略 ~デ …watanabelab.main.jp/wp-content/uploads/1ca0679d710dc1b...1 特許庁「グローバル知財マネジメント人材育成推進事業」

7

・固定式スキャナ

他の機器に組み込んだり、机上に設置したりして使用するタイプのスキャナ。 読み取

ったデータは、ケーブルを通じて接続された PC 等で処理される。 入場ゲートに組み込ん

だり、工場の生産ラインに組み付けたりする他に、一般の店舗や、イベント会場などの卓

上に設置してクーポンやチケットの読み取りなどにも使用される。

また、これらの他に QR コード読み取り用の iPhone 用のアプリも提供している。

4 標準化

我が国においては、トヨタ自動車での採用を契機に、1999 年日本自動車工業会が QR コード

を統一「かんばん」に採用。QR コードはトヨタグループの枠を超え、その採用範囲を拡げてい

く。このように広く業界において採用されるためには、QR コードが標準であることが重要であ

った。そのために、いち早く標準とするために、まずは比較的標準化のための手続の早い AIM

International(国際自動認識工業会)の規格として制定した。さらに、デンソーは QR コード

の標準化を業界標準化、国内規格化、国際規格化の手順で推進していった。

<QRコード 規格化の歩み>9

1997年 10月 AIM International(国際自動認識工業会)規格として制定 (ISS-QR Code)

1998年 3月 JEIDA(日本電子工業振興協会)規格として制定 (JEIDA-55)

1999年 1月 JIS(日本工業規格)として制定 (JIS X 0510)

2000年 6月 ISOの国際規格として制定 (ISO/IEC18004)

2004年 11月 マイクロ QRコードを JIS(日本工業規格)として制定(JIS X 0510)

2011年 12月 国際的標準機関である GS1がモバイル向け標準として制定

9 QRコードドットコム 「QRコードの規格化・標準化」http://www.qrcode.com/about/standards.html

Page 8: 二次元バーコードのビジネスモデルと事業戦略 ~デ …watanabelab.main.jp/wp-content/uploads/1ca0679d710dc1b...1 特許庁「グローバル知財マネジメント人材育成推進事業」

8

なお、このように QR コードが標準化作業を行っている頃には、他社で開発された 2 次元バ

ーコードのうちいくつかについても ISO 等の国際機関において標準化されているものもあった。

図4に 2次元バーコードの種類・特長等と標準化の状況について示す。

図4 2次元バーコードの種類10

5 特許

2001年 10月、デンソーは QRコードの事業を新会社デンソーウェーブに移管した。同社は二

次元バーコードの読み取りに関する数十の特許を保有している。デンソーウェーブの QR コー

ドに関する主な特許は、以下の図5の通りである。

10 一般社団法人自動認識システム協会 HP資料より http://www.jaisa.jp/about/pdfs/20040219bcd.pdf

Page 9: 二次元バーコードのビジネスモデルと事業戦略 ~デ …watanabelab.main.jp/wp-content/uploads/1ca0679d710dc1b...1 特許庁「グローバル知財マネジメント人材育成推進事業」

9

図5 デンソーウェーブの QR コードに関する主な特許11

デンソーウェーブ(デンソー時代を含む)の QR コード関連特許の出願動向は図6に示す通

りである。累積で百件近い特許出願をしていることが分かる。さらに、筆頭記載の国際特許分

類別に分析した出願動向を図7に示す。かなりの割合で読み取り装置及び読み取り方法関連の

特許を出願していることが分かる。

図6 QRコード関連特許出願動向12

11 QRコードドットコム デンソーウェーブ http://www.qrcode.com/ 12 金沢工業大学虎ノ門大学院「知的財産マネジメント特論」グループ6発表資料(2012年 7月)

特許番号 発明の名称

JP2938338 二次元コード

JP2867904 2次元コード読取装置

JP3716527 2次元コードの読取方法

JP3726395 2次元コードおよび2次元コードの読取方法

JP3843595 光学的情報印刷媒体、光学的情報読取装置及び情報処理装置

JP3996520 二次元情報コードおよびその生成方法

US5726435Opticaly readable two-dimensional code and method and

apparatus using the same

US5691527 Two dimensional code reading apparatus

US7032823Two-dimensional code, methods and apparatuses for generating,

displaying and reading the same

Page 10: 二次元バーコードのビジネスモデルと事業戦略 ~デ …watanabelab.main.jp/wp-content/uploads/1ca0679d710dc1b...1 特許庁「グローバル知財マネジメント人材育成推進事業」

10

図7 筆頭 IPC 別出願動向13

標準化との関係においては、規格化された QR コードについては、デンソーウェーブが保有

する特許(特許第 2938338 号)の権利行使を行わないことを宣言している。また、JIS/ISO の規

格に準拠した QR コードはライセンス等を特段なくとも誰でも自由に無料で使えることとして

いる。なお、規格から逸脱した QR コードの使用の場合は、事前にデンソーウェーブまで相談

するように求められている14。

また、標準化のプロセスにおいて、他社から特許に関する警告があったのみならず、クライ

アント先へ特許問題を提起して採用をやめるように促す動き等があったことから、QRコードの

開発に際しては十分な特許クリアランス活動を行い、他社特許との問題が生じないように注意

を払った15。

6 デンソーの知的財産戦略

デンソーでは、QRコード事業に関しての知的財産戦略として、下記の施策を実施した。

まず、同社は QR コード標準化の際に、誰でも自由に QR コードを作成、印刷、読み取りでき

るように特許を無償公開した。

また、読み取りエラーの出にくい QR コードの読み取り技術のノウハウを公開しないことと

した。QR コードにおける読み取りアルゴリズムには工夫の余地があり、正確かつ迅速に QR コ

ードを読み取るノウハウが存在する。しかし、このノウハウは公開せず、同社が販売する読み

13 同上 14 QRコードドットコム FAQ http://www.qrcode.com/faq.html#patentH2Title 15 株式会社デンソー知的財産部担当部長 碓氷裕彦氏へのインタビュー(平成 26年 12月)

Page 11: 二次元バーコードのビジネスモデルと事業戦略 ~デ …watanabelab.main.jp/wp-content/uploads/1ca0679d710dc1b...1 特許庁「グローバル知財マネジメント人材育成推進事業」

11

取り装置でしかその性能は出せない。

さらに、読み取り技術だけでなく、コードサイズが小さく読み取りやすい QR コードをエン

コードするノウハウについても公開せず、同社が QR コードを生成・印刷するエンコードソフ

トを自社で開発し配布した。

なお、同社は二次元バーコードの読み取りに関する数十の特許を保有しているが、その特許

の大半は二次元バーコード汎用のものであり、QR コードに特化していない。このため同社のリ

ーダーは、二次元バーコードが普及すれば、そのコードがどの企業のものであれ利用可能とな

っている16。さらに、他社が保有する2次元コードに関連する特許についてライセンス取得す

ること等も行っている。

7 現状と今後

デンソーウェーブは、ハードウェア志向の会社であり、知的財産権に基づくライセンスビジ

ネスを展開するよりも、QR コードを広く普及させて関連するハードやソフトでビジネスを行う

という考えであった。さらに、経営方針として、ハード単体のみならずソフトウェア、システ

ム開発も展開し、グローバルにソリューションビジネスを提供することを挙げており、その事

例として多くのシステム構築例がホームページにおいて示されている。従って、ハードウェア

だけでなく、システムとしてのビジネスも重要なものと位置付けていることが分かる。

しかし、ハードウェア自体が新興国の製品等にシェアを奪われつつある状況下で、ビジネス

環境は厳しい方向へ向かっていくことは明らかであろう。さらに、基本特許の特許期限た満了

するということもあり、QRコードも新しイノベーションが求められている。

このような環境下で、同社はより高度なニーズに対応した新しい QR コードを相次いで開発

している。超小型で小スペースに印刷可能な「マイクロ QR コード」や、大容量でありながら

小さく、長方形化も可能な「iQR コード」などがある。2013 年には、複製防止技術を使用した

り、デザイン性を高めたりした高性能 QR コードの世界展開開始を発表した。現在では、進化

した QR コードが 6 コードある。また、新たなビジネスモデルの構築も検討している模様であ

る。

2014 年 6 月には、欧州特許庁(EPO)の欧州発明家賞 人気賞を QR コード開発チームが受賞

した。発明家のアカデミー賞とも称される賞で、日本人の発明として初めての受賞という快挙

である。受賞理由について、1994 年の QR コード開発以来「20 年間の活用実績により、幅広い

16 江藤学. 標準化教育プログラム[標準化と知的財産] 第 6章標準化と知的財産のビジネス活用.

2009/2/23.http://www.jsa.or.jp/stdz/edu/pdf/b6/6_06.pdf

Page 12: 二次元バーコードのビジネスモデルと事業戦略 ~デ …watanabelab.main.jp/wp-content/uploads/1ca0679d710dc1b...1 特許庁「グローバル知財マネジメント人材育成推進事業」

12

地域・年代の一般消費者に広く認知されていることが評価された」とコメントしている。さら

に、今後の展望として「動画にコードを表示して読み取る技術の開発にも挑戦したい」として

いる1718。

17日本人初の発明家人気賞 QRコード 世界へ広がる用途. 2014/7/24. フジサンケイビジネスアイ. 8面. 18 生誕 20年の「QRコード」 欧州発明家賞を受賞. 2014/6/20. 日本経済新聞電子版.

http://www.nikkei.com/article/DGXNASFK1902O_Z10C14A6000000/

Page 13: 二次元バーコードのビジネスモデルと事業戦略 ~デ …watanabelab.main.jp/wp-content/uploads/1ca0679d710dc1b...1 特許庁「グローバル知財マネジメント人材育成推進事業」

13

〔教材の狙い〕

自社で開発した新しい QR コードをどのようにビジネスに結び付けていったのか。開発した

技術の内容とその広がりを理解し、その上でなぜオープン(標準化)を行ったのか、さらにど

のようにオープン/クローズを意識して事業化していったか、そしてその中で知的財産及び標

準化がどのような役割を果たしたのかを理解することを目的とする。とくに、ソフトウェアと

ハードウェアの融合した事業におけるビジネスモデルのあり方と知的財産の関係を学ぶ。

具体的には本教材を読み、ディスカッション等を通して、受講者が以下の示唆を得ることを

狙う。

・何をオープンとし、何をクローズとするか、社会的背景(他にも 2 次元バーコードはあ

り、普及争い(主導権争い)に勝つためにもオープン化が重要)、技術的特徴(ソフト

ウェアおよび市販のプリンタにより比較的容易に作成可能)、ビジネスモデル(作成ソ

フトウェア、読み取り装置及び読み取りソフトにおいて収益確保を目指す)から考え

る。

・上記のオープンポリシーを守るため、及びビジネスモデルを守るための知的財産戦略の

確認

Page 14: 二次元バーコードのビジネスモデルと事業戦略 ~デ …watanabelab.main.jp/wp-content/uploads/1ca0679d710dc1b...1 特許庁「グローバル知財マネジメント人材育成推進事業」

14

(2)設問内容

①QRコードについてオープン&クローズ戦略を取ったのはなぜでしょうか。

②特許の無償公開によりどのような効果が期待できたのでしょうか。

③読み取りエラーの出にくい QR コードを生成するためのノウハウを公開しないことにより、

どのような効果が期待できたのでしょうか。

④エンコード技術だけでなくデコード技術の中核部分のノウハウについても公開しないことに

より、どのような効果が期待できたのでしょうか。

⑤他社が保有するバーコードに関連する特許について無効審判及び審決取消訴訟を提起するこ

と等は何のためでしょうか。

⑥QR コードに関するビジネスの中で知的財産及び標準化がどのような役割を果たしたでしょう

か。

⑦QR コードのビジネスモデルと標準化・知的財産戦略を改めて検討するとしたら、他にどのよ

うな方法があったでしょうか。