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アナリシス Analysis A ysis naly Analysis A A ys A n A A A na na nalysis nalysis alysis Analysis 19 石油・天然ガスレビュー 長崎 康彦 JOGMECロンドン事務所 石油・天然ガス副所長 [email protected] 中東・中央アジア地域には世界の石油埋蔵量の67%、天然ガスの45%が賦存すると言われている 。ペ ルシャ湾岸と並ぶ将来の巨大油・ガス田地帯として「偉大なフロンティア」と呼ばれたカスピ海沿岸諸国は、 自国の豊富な石油ガスを欧州市場へ輸出することにより経済発展を遂げたいと躍起になっている。こうし た背景の中、ガスのカスピ海からの搬出に関しては、南欧/中欧までの幹線パイプライン計画が具体化さ れており、欧州の新たな天然ガスの調達先、換言すれば調達先の多様化・分散化戦略を実現するものとし て、カスピ海沿岸諸国の重要性が急浮上しつつある。一方、今後の世界の石油供給を左右するカスピ海/ ロシア南部からの石油の搬出に関しては、黒海からの唯一の出口であるボスポラス海峡の航行量が過大と なり、マヒ状態になりつつある。同海峡を迂回するパイプライン建設案が提案されているが、各国のエゴ が絡み合い、建設の着手に至っていないのが現状である。 本稿では、日本ではその重要性が必ずしもよく認識されていないボスポラス海峡のタンカーによる石油 輸送の現状、検討されている同海峡迂回石油パイプラインルート、および欧州までのガスパイプライン建 設計画について、最近の状況を述べることとする。 WoodMac社のデータによれば、カ スピ海沿岸諸国の石油・ガス推定可採 埋蔵量は、カザフスタン463億バレル (石油64%、ガス36%)、同トルクメニ スタン182億バレル(石油12%、ガス 88%)、同アゼルバイジャン104億バレ ル(石油64%、ガス36%)、同ロシア (カスピ海沿岸地域)10億バレル(石 油77%、ガス23%)と膨大な資源が賦 存している。 IHS社の推計に基づけば、カザフス タンの2004年7月の生産量は石油126 万b/d、 ガ ス19.9億cf/dで あ り、2010 年には石油230万b/d、ガス40億cf/dに なると予想されている。アゼルバイ ジャンの2004年7月の生産量は石油25 万b/d、ガス4.3億cf/dであり、2010年 には石油120万b/d、ガス19億cf/dの生 産量を見込んでいる。また、トルクメ ニスタンでは石油21万b/d、ガス36.4 億cf/d(いずれも2004年7月)であり、 1. カスピ海沿岸諸国の 資源量・生産量概観 30 + + Gora El'brus - T A U R U S M O U N T A I N S D O G U K A R A D E N I Z D A G L A R I ボスポラス海峡 アンカラ トルコ カイセリ イズミール アンタリヤ アテネ ソフィア イスタンブール ブルサ コンヤ デニズリ ダーダネルス海峡 黒海 ブルガリア ルーマニア ウクライナ ロシア サムスン ディアルバクル モスル アレッポ ラタキア アドリア海 ニコシア 地中海 キプロス グルジア イラク カスピ海 ザンジャーン アフワーズ アラーク カズヴィーン ラシュト タブリーズ キルクーク アルビル ザグロス山地 スフーミ バトゥーミ トラブゾン エルスムル ヴァン ブカレスト コンスタンツァ ヴァルナ セヴァントーポリ ホムス シリア ダマスカス カイロ アレキサンドリア バグダッド アンマン ヨルダン ナーシリーヤ バスラ アダナ メルシン ベイルート レバノン ハイファ エルサレム アゼルバイジャン バクー アクタウ スムカイト グローズヌイ アルメニア コーカサス山地 イスラエル 死海 (ヨーロッパ最高 地点5633mスエズ トビリシ エレバン バハタラーン アバダン クウェート アララト山 クレタ島 ガジアンテップ 30 40 50 40 40 30 40 *:カスピ海沿岸諸国の石油ガス事情に関しては、石油公団の石油/天然ガスレビュー誌(2003年7月 Vol.36, No.4)にて本村真澄氏が詳細に述べている。ま たトルコのガス事情に関しても同誌にて猪原渉氏が詳細に記述しているので参照されたい。 2010年 に は 石 油96万b/d、 ガ ス97 ~ 116億cf/dの生産を目標としている。 中長期的に石油·天然ガス市場を左右する トルコ・エネルギー回廊 急展開する欧州向けガスパイプラインと 混迷するボスポラス海峡迂回石油パイプライン カスピ海・黒海・地中海位置図 図1

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アナリシス

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Analysis

19 石油・天然ガスレビュー

長崎 康彦JOGMECロンドン事務所 石油・天然ガス副所長[email protected]

 中東・中央アジア地域には世界の石油埋蔵量の67%、天然ガスの45%が賦存すると言われている*。ペルシャ湾岸と並ぶ将来の巨大油・ガス田地帯として「偉大なフロンティア」と呼ばれたカスピ海沿岸諸国は、自国の豊富な石油ガスを欧州市場へ輸出することにより経済発展を遂げたいと躍起になっている。こうした背景の中、ガスのカスピ海からの搬出に関しては、南欧/中欧までの幹線パイプライン計画が具体化されており、欧州の新たな天然ガスの調達先、換言すれば調達先の多様化・分散化戦略を実現するものとして、カスピ海沿岸諸国の重要性が急浮上しつつある。一方、今後の世界の石油供給を左右するカスピ海/ロシア南部からの石油の搬出に関しては、黒海からの唯一の出口であるボスポラス海峡の航行量が過大となり、マヒ状態になりつつある。同海峡を迂回するパイプライン建設案が提案されているが、各国のエゴが絡み合い、建設の着手に至っていないのが現状である。 本稿では、日本ではその重要性が必ずしもよく認識されていないボスポラス海峡のタンカーによる石油輸送の現状、検討されている同海峡迂回石油パイプラインルート、および欧州までのガスパイプライン建設計画について、最近の状況を述べることとする。

 WoodMac社のデータによれば、カスピ海沿岸諸国の石油・ガス推定可採埋蔵量は、カザフスタン463億バレル(石油64%、ガス36%)、同トルクメニスタン182億バレル(石油12%、ガス88%)、同アゼルバイジャン104億バレル(石油64%、ガス36%)、同ロシア(カスピ海沿岸地域)10億バレル(石油77%、ガス23%)と膨大な資源が賦存している。 IHS社の推計に基づけば、カザフスタンの2004年7月の生産量は石油126万b/d、ガス19.9億cf/dであり、2010年には石油230万b/d、ガス40億cf/dになると予想されている。アゼルバイジャンの2004年7月の生産量は石油25万b/d、ガス4.3億cf/dであり、2010年には石油120万b/d、ガス19億cf/dの生

産量を見込んでいる。また、トルクメニスタンでは石油21万b/d、ガス36.4億cf/d(いずれも2004年7月)であり、

1. カスピ海沿岸諸国の資源量・生産量概観

30

+

+

Gora El'brus

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ボスポラス海峡

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トルコ カイセリイズミール

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ダーダネルス海峡

黒海ブルガリア

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アダナ

メルシン

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アゼルバイジャンバクー

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スムカイト

グローズヌイ

アルメニア

コーカサス山地

イスラエル

死海

(ヨーロッパ最高 地点5633m)

スエズ

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エレバン

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アバダン

クウェート

アララト山

クレタ島

ガジアンテップ

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*: カスピ海沿岸諸国の石油ガス事情に関しては、石油公団の石油/天然ガスレビュー誌(2003年7月 Vol.36, No.4)にて本村真澄氏が詳細に述べている。またトルコのガス事情に関しても同誌にて猪原渉氏が詳細に記述しているので参照されたい。

2010年には石油96万b/d、ガス97 ~116億cf/dの生産を目標としている。

中長期的に石油·天然ガス市場を左右するトルコ・エネルギー回廊

急展開する欧州向けガスパイプラインと混迷するボスポラス海峡迂回石油パイプライン

カスピ海・黒海・地中海位置図図1

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20石油・天然ガスレビュー

2-1. 既存石油パイプライン カザフスタンのTengiz油田(埋蔵量90億バレル)と黒海のNovorossiysk近傍のOzereyevkaターミナル(積み出し能力は35万b/d、拡張計画中 ) を 結 ぶCPC(Caspian Pipeline Consortium)パイプラインが2001年10月に稼動を開始したため同油田の本格的な生産に拍車がかかり、2004年上半期実績は約30万b/d、2010年には66万b/dを目指している。同パイプラインは総延長1,500km、当初の送油能力は56万b/d、その後ポンプステーションの追加により2010年には135万b/dまで能力が拡大される計画である。 現在評価作業中のKashagan油田(推定可採埋蔵量約100億バレル)の生産が開始されれば2010年頃には40 ~ 50万b/dの生産が見込まれており、開発作業が進むにつれて最終的には100万b/d程度の生産が行われる見込みである。この石油を如何にして国際市場に持ち出すかが、現在焦点となっている。CPCパイプライン利用による黒海への

搬出、BTCパイプライン経由で地中海へ、イランのNeka経由でアラビア湾へ、Samama経由でバルチック海へ等々、いくつかの案が浮上している。 アゼルバイジャンからの石油パイプラインには、Bakuからダゲスタンの首府のMakhachkala経由、コーカサス北麓を経て黒海のNovorossiyskに至るいわゆる「北ルート(13万b/d)」がある。1994年にはBakuからコーカサスの谷あいを通り、グルジアの黒海沿岸のSupsaに至る総延長900kmの「西ルート(13万b/d)」が建設され、Baku沖の石油はロシア領を経由せずに国際市場にアクセスすることが可能となっている。ロシア領経由時には、硫黄含有量の多いボルガ・ウラル原油が混ぜられたが、そうしたことがなくなったことから市場価値も高くなり、北ルートはほとんど使用されなくなった。 西ルートに併走し、途中グルジアのTbilisiで南に向きを変えてトルコに入り、地中海のCeyhanターミナルに至るBTC(Baku-Tbilisi-Ceyhan)パイプライン(総延長1,742km、送油能

力100万b/d)が現在建設中(BPの率いるAIOCが建設)であり、2004年6月時点での工事進捗度は約7割である。このBTCパイプラインの完成によって、1997年に生産を開始したGuneshli-Chirag-Azeri油田(可採埋蔵量40億バレル)の石油はボスポラス海峡を通過することなく直接地中海に輸出することができるようになる(操業開始は2005年下半期を予定)。したがって、残される問題はアゼルバイジャンからではなく、カザフスタンと南部ロシアからの石油をどのように国際市場に搬出するかという点である。

2-2. 黒海からのタンカーによる石油輸送 現在、黒海には主な石油積み出しターミナルが5つ(Novorossiysk, Ozereyevka, Tuapse, Odessa, Supsa)あり、2003年には計190万b/dの石油が積み出された(対2000年比48%増)。トルコのエネルギー・天然資源相であるDr. Mehmet Hilmi Gulerおよびトルコ外務次官であるMs. Basak Tugは、カスピ海沿岸諸国で生産される石油を

2. 石油輸送ルート

50m

100m200m

黒 海

地中海側(マルマラ海)

Sariyar

Gebze

Istanbul

Beykoz

Kadikoy Kartal

ボスポラス海峡

第2ボスポラス海峡大橋

ボスポラス海峡大橋

50m

100m200m500m

100m200m

500m

50m

50m

0 10 20km

ボスポラス海峡拡大図図2

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中長期的に石油·天然ガス市場を左右するトルコ・エネルギー回廊

21 石油・天然ガスレビュー

効率的に欧州に送油するためには、黒海とボスポラス海峡が重要な位置を占めていることは明らかだとしながらも、タンカー航行量の増大により、現在黒海は環境面の重大問題に直面する可能性があると訴えている。CPCパイプラインの開通により2001 ~ 2002年にかけて同海峡の石油通行量は56万b/d増え、将来Tengiz油田がフル操業し135万b/d(2014年)の石油が黒海をタンカー航行するなら、ボスポラス海峡の環境は深刻な危険にさらされることになる。 また、2020年までのロシア政府のEnergy Strategy of Russia(2003年8月採択)によれば、ロシア南部の石油生産量増大に伴い、NovorossiyskとTuapseターミナルの石油積み出し量が拡大される計画である。現在は、黒海沿岸諸国を通って欧州に抜ける石油パイプラインがないことから、ロシアの石油増産分の搬出方法が黒海からのタンカー輸送に頼ることになった場合、これによる環境汚染(油漏れ等)の危険性のみならず、全長30km、最短幅700m、海峡北部にて90度屈曲するボスポラス海峡の混雑・事故が大きな問題(1995年にはタンカーが浅瀬で座礁事故を起こしている)としてクローズアップされることになる。 既に、ボスポラス海峡を通過したタンカーは、1996年の4,248隻から2003年には8,097隻へとほぼ倍増している。現在毎日15 ~ 17隻のタンカーほかの大型船が航行(Bosphorus Rules:2002年10月から施行されているRegulation IIIでは、全長200m以上の船舶は日中のみ航行でき、船舶と船舶の間は90分以上の間隔を空けた上での一方通行になっている)しており、大渋滞している。さらに、これらタンカーの数の増大のみならず、冬場の悪天候(濃霧、強風、強潮流)により、航行が最大20 ~ 25日も遅れることもしばしばであり、石油会社は減産を余

儀なくされている。現在でもこのような状態であることから、将来CPCパイプラインがフル操業を開始して黒海の積出港まで石油がパイプライン輸送された場合、黒海のタンカー送油は確実にマヒすることになる。また、渋滞・悪天候による滞船料金が輸送コストの中で占める割合が増えるのみならず、滞船によるタンカーの需要が増え、結果的に世界のタンカー運賃の高騰も招くことになる。

2-3. 黒海からの想定パイプライン Dr. Adolf H. Feizlmayr( 独 ILF Consulting Engineers)によれば、各国政府、各企業によって、ボスポラス海峡を通過しないルート、すなわち陸上パイプラインルートとして、以下の7つのルート案が検討されている。

① Turkish Bypass: Kiyiköy-Ibrikbabaパイプライン トルコの黒海沿岸Kiyiköyから同国の地中海沿岸Ibrikbaba(別称Ibrice)に至る総延長200km(送油能力:70万b/d、以下同様)のパイプライン。投資規模6億ドル、想定送油コスト0.6ドル/バレル。検討されているパイプラインルートの中で最も短距離であり、かつ通過国はトルコ共和国のみである。このパイプライン計画はロシアの国営石油パイプライン会社Transneft社とトルコのAnadolu社が積極的に推進しているほか、TNK-BPも参加していると言われている。Ibrikbabaは国立公園内にあり、環境対策を重視するトルコ政府としてはターミナルの建設許可を与えるためには慎重にならざるを得ない。また、Transneftが建設資金供給は行わない姿勢を示している点も問題であり、一方でトルコ側は地政学的戦略事項である自国内のパイプライン計画にロシア企業の参入を嫌う雰囲気もある。

② Burgas-Alexandroupolis パイプライン ブルガリアの黒海沿岸Burgasか ら ギ リ シ ャ の 地 中 海 沿 岸Alexandroupolisに至る総延長268km(70万b/d)のパイプライン。投資規模7億ドル、想定送油コスト0.7ドル/バレル。ロシア、ブルガリア、ギリシャ政府間で実施主体Trans Balkan Oil Company設 立 に 関 す る基本合意が調印されるなど、最も現実味を帯びたルート案である。ロシ ア 政 府、Lukoil、ExxonMobil、ChevronTexaco等が興味を示している言われているが、各社からの具体的な資金提供の話は出ていない。また、Alexandroupolisのターミナルが、米国東海岸に石油を輸送する際に必要とされる大型タンカー (VLCC)の使用に耐えられるかについても不透明である。

③ Burgas-Vlore AMBOパイプライン ブルガリアの黒海沿岸Burgasからアルバニアの地中海沿岸Vloreに至る総延長913km(70万b/d)のパイプライン。投資規模15.5億ドル、想定送油コスト1.5ドル/バレル。上記②のとおりギリシャのAlexandroupolis港が10万トン級のタンカーまでしか接岸できないことから、行き先をアルバニアに変更したものであり、米国資本のAMBO(Albanian Macedonian & Burgarian Oil Pipleline Corporation)による構想であるが、アルバニアとマセドニアの政情不安を抱えて中断している。

④ Samsun-Ceyhanパイプライン トルコの黒海沿岸Samsunから同国の地中海沿岸Ceyhanに至る総延長800~ 890km(70万b/d)のパイプライン。投資規模12億ドル、想定送油コスト1.4ドル/バレル。途中通過国はトルコのみでありCeyhanはアゼルバイジャン

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22石油・天然ガスレビュー

からのBTCパイプラインの地中海側輸出ターミナルでもある。

⑤ Constanza-Triesteパイプライン ルーマニアの黒海沿岸Constanzaからハンガリー、スロベニアを経由してイタリアのTriesteに至る総延長1,375km(70万b/d)のパイプライン。投資規模は18.5億ドル、想定送油コスト2.1ドル/バレル。TriesteからはTAL(Trans Alpine Pipeline) を 通じて中央ヨーロッパに送油可能とされる。

⑥ Odessa - Brody - Druzhba -Omishaliパイプライン ウクライナの黒海沿岸Odessaから内陸部のBrody、Druzhba、ハンガリーを経由してクロアチアのOmishaliに至る総延長1,870km(70万b/d)のパイ

プライン。投資規模は不明、想定送油コスト2.0ドル/バレル。Samaraからの石油と合体して搬出することもできる。2001年末に開通したものの、原油供給者が十分なかったことから、ほとんど利用されていなかったウクライナのOdessa-Brodyパイプライン(輸送能力日量28万バレル)を利用するものである。 Odessa-Brody間 はDruzhbaパ イプラインからBrody経由で黒海沿岸のOdessaへ送油する計画、すなわち逆送ルートがロシアとウクライナ間で合意されているが、ウクライナのロシアへの経済依存を嫌う米国が反対しており、また、黒海に向けて送油することは結果的にボスポラス海峡のタンカー数の増大につながるとしてトルコも反対している。

⑦ O d e s s a - B r o d y - P l o c k -Wilhelmshavenパイプライン 同じくウクライナのOdessaからBrodyを経由して、ポーランドを経てドイツのWilhelmshavenにてバルチック海に抜ける総延長2,160km(70万b/d)のパイプライン。投資規模20億ドル、想定送油コスト2.7ドル/バレル。途中区間は既存パイプラインを利用。Samaraからの石油と合体して搬出することもできる。

2-4. 石油輸送ルートのまとめ ボスポラス海峡におけるタンカー航行のボトルネックがいよいよ現実化してきており、代わりに黒海沿岸から同海峡を経由しないで消費地や中継港に至る石油パイプライン計画が目白押しになってきている。しかし、ボスポラス海峡迂回パイプライン建設によって

Mediterranean Sea

Tyrrhenian

Sea

Black Sea

Caspian

Sea

Primorsk

Samara

Atyrau

Kenkyak

Kumkol

Baku

Supsa

Samsun

Igneada

CeyhanIbrikbaba

Burgas

Constanza

VloreAlexandroupolis Eregli

AliagaSaros

NovorossiyskOdessa

Brody

Trieste Omishali

Ventspils

GdanskRostockPlock

Wilhelms-haven

Kiyikoy①②③

⑤⑥ ⑦

⑦⑦

既存(一部建設中含む)計画中本文参照①~⑦

CPC

Druzhba

BTC

石油パイプラインルート一覧図3

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中長期的に石油·天然ガス市場を左右するトルコ・エネルギー回廊

23 石油・天然ガスレビュー

石油搬送ルートをトルコに支配されることを嫌うロシア、さらにロシアが関与するパイプライン計画を牽制する米国、それらを傍観している石油上流会社等々からのパイプライン計画案はいくつもあるが、何ら具体化されていないのが現状である。今後想定される世界の産油地域のうち、カスピ海周辺がかなりのウェートを占めることになるというのが、大方の専門家の一致するところである。「ボスポラス海峡問題」が解決されなければ、中・長期的には世界の石油供給逼迫につながる可能性も否定できず、また短・中期的には現在生産・開発中のカスピ海上流事業に多大な影響が出る可能性は濃厚であ

る。 ボスポラス海峡は国際法上、国際海峡とされており、自由航行が認められているために石油会社や船会社に迂回パイプラインの建設コストの負担や迂回そのものを強制することが法的にできない。このため、迂回をコミットした当事者が無料で海峡通過することに固執する当事者に比べて不利益を被ることになるという「フリーライダー」問題があり、これが、この問題の解決をより一層困難・複雑にしている。国際協調的な取り組みがなければ解決困難と考えられる。 ところで、上述のいずれのルート案も、カスピ海沿岸諸国からパイプライ

ンや鉄道により黒海の北東沿岸のターミナルに到着した原油を、如何にして黒海の南西沿岸のパイプライン始発地点まで輸送するかについては一切触れられていない。前述のごとく既に黒海のタンカー航行は行き詰まっており、また積み替え作業によるコスト増も招くため、これを避けるためには黒海にBlue Streamガスパイプライン(後述)のように海底パイプラインを敷設するか、ないしは黒海の沿岸に陸上のパイプラインを建設するという案もあってしかるべきであるが、なぜかこの議論はなされていない。

3-1. 既存ガスパイプライン カスピ海から国際石油市場に搬出する石油パイプラインについては前述のように大きな問題が残り、解決の方向性は未だ見えていない。一方、カスピ海のShah-Denizガス田の天然ガスを欧州に搬出する幹線ガス・パイプライン計画は急速に進みつつあり、将来的にはイラン/イラクの天然ガスの欧州向け搬出ルートにもなり得ることから、欧州からは戦略的重要性を持つ計画として注目されている。 ここではロシアの西シベリア、ウラル地方と欧州をつなぐ既存ガスパイプラインには触れず、トルコ経由のガスパイプラインについて述べる。 西シベリアの天然ガスをIzobilnoyeか ら 黒 海 に 面 し たDzhugbaま で372km、そこから黒海の海底を経由してトルコのSamsunまで海底パイプラインで392km、Samsunで陸揚げしてAnkaraまでの500kmを陸上パイプラインでつなぐいわゆるBlue Streamガスパイプラインが2002年末から稼動している。2005年には50億㎥/年、2010

3. ガス輸送ルート 年には160億㎥/年のガスを供給する予定である。しかし、市場であるトルコのガス需要が伸びず(ガス焚き火力発電所建設の遅延が大きな理由)、既にガス輸入を一時停止する事態が発生し、供給量やガス価格に関してロシアとトルコ間で議論が続いている。 また、イランからのガスパイプラインがトルコ内に伸びており、Erzurumにてトルコ国内のガスネットワークに接続しており、2001年末から供給が開始された。しかし、翌年には長期間にわたり受け入れを停止している。

3-2. 計画中のガスパイプライン BPが1999年にカスピ海南部アゼルバイジャン水域で発見したShah-Denizガス田(25兆cf)を、Tbilisiを経由してトルコのErzurumまでをつなぐBTE(Baku-Tbilisi-Erzurum、740km)パイプライン構想が2001年に合意されている。トルコ共和国のガス公社(Botas)向けに2006年からガスの供給を開始し、2004年には20億㎥/年、2006年には50億㎥/年、最終的には66億㎥/年のガスを供給し、Erzurumからトルコ国内のガスネッ

トワークに接続しようとするものである。しかしながら前述のBlue Stream経由のガスさえ消費しきれないトルコにとって、BTEパイプラインが必要なのかは明確でない。 一方で、トルコは自国内のガス需要が伸び悩む中で、ロシア、カスピ海沿岸、イランからのガスを欧州に向けて転売する計画を進めている。欧州のガス市場は今後伸びる一方である。2009年ごろまでは欧州諸国はガスの輸入量を確保しているが、それ以降のガス供給先を確保しきれていない。このギャップを埋めるために、ロシア、アゼルバイジャン、イランのガスを転売しようというものである。 カスピ海沿岸のガスを欧州諸国へパイプラインにて搬出するコストは、北アフリカ産ガスの欧州へのパイプライン搬出に比べれば割高になるものの、大西洋地域からの欧州向けLNGよりも廉価であり、またロシアやノルウェーからの欧州大陸向けパイプラインガスとほぼ同等である。また、欧州側からすると、従来のロシアからの北ルート、北海からの西ルート、アルジェリアからの南ルート+LNGに加え、

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24石油・天然ガスレビュー

このパイプライン計画によって、当面アゼルバイジャン、将来的にはトルクメニスタン、中東湾岸からの東ルートが加わることになり、調達の戦略的オプションが大きく広がることになる。さらに、このパイプライン計画は、提案されてからわずか3年程度で実現しようとしており、そのスピードにも注目する必要があるだろう。とくに日本を含む、東アジアには良い参考例になると考えられる。 以下に、現在計画中の東ルートガスパイプラインにつき記述する。

① Interconnector Turkey-Greece(ITGパイプライン) トルコのKaracabeyとギリシャのAlexandroupolis-Komotiniを結ぶ総延長285km(うちトルコ国内200km)のパイプラインで、送ガス能力は110

~180億㎥/年。投資総額2.8億ユーロ。既にFSを実施しており、2006年には着工する予定である。

② Interconnector Greece-Italy (IGIパイプライン) ギ リ シ ャ のThessaloniki、StavolimenasとイタリアのOtrantoを結ぶ総延長504km(うち海底224km)のパイプラインで、送ガス能力は80億㎥/年。投資総額12.5億ユーロ。2004年中にFSを終了する予定。

③West Balkanパイプライン ギリシャのThessalonikiからバルカン半島西部のアルバニア、ユーゴスラビア、ボスニア/ヘルツェゴビナを通過して中部ヨーロッパ以西に出荷する構想であり、2003年8月には関係各国ガス公社等が基本合意に至っている。

④ Turkey-Bulgaria-Romania-Hungary-Austriaパイプライン 2002年にトルコガス公社(Botas)と関係国間によってFSを実施すべく基本合意に至っている。

3-3. 天然ガスパイプラインのまとめ トルコ~ギリシャ間、さらにイタリアまでのパイプライン計画のフィージビリティースタディも実施されており、EUの公的ファイナンスも付く見込みであることから急速に現実化しつつある。これによって欧州のガス調達ソースの多様化をさらに促すことは明らかである。また、アゼルバイジャンの巨大ガス田(Shah-Deniz)のみならず、将来的にはトルクメニスタン、イランおよびイラクの膨大な潜在ガス資源の欧州向け供給による商業化に道を開くという、中央アジア・中東の上流

Mediterranean Sea

Tyrrhenian Sea

Black Sea

CaspianSea

④③

② ①

BTE

Blue Stream

Samsun Baku

Ankara

AlexandroupolisOtranto

Stavolimenas

Thessaloniki

Karacabey

Sarajebo Tbilisi

Erzurum

既存(一部建設中含む)計画中本文参照①~④

ガスパイプラインルート一覧図4

Page 7: nalysis - JOGMEC石油・天然ガス資源情報ウェブサイト...るDr. Mehmet Hilmi Gulerおよびトル コ外務次官であるMs. Basak Tugは、 カスピ海沿岸諸国で生産される石油を

Analysis

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中長期的に石油·天然ガス市場を左右するトルコ・エネルギー回廊

25 石油・天然ガスレビュー

事業にとっても戦略的に重要なものとなる可能性が見えてきた。これまで商業化が困難と思われていたこれらの地域のガス資源が、このパイプラインが実現することによって、大きく展望が開ける可能性がある。日本の関連業界としては、こういった点でのビジネスチャンスも頭の隅に入れておいても損はないであろう。

今後の北カスピ海の石油生産の中心となるカシャガン油田:EP開発Tr.1&2人工島A(Kashagan開発井KE-A-01掘削・テスト現場)(上)とアクトテ構造:評価井Aktote-2掘削・テスト現場(下)写真提供:国際石油開発(株)

写真1,2