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ここ か ら はじ め る! 産 学 官 連 携 ここ か ら はじ め る! 産 学 官 連 携 産学官連携プロジェクトや、大学等の技術シーズを活用した新事業創出に向けて 経済産業省 中部経済産業局

ここからはじめる! 産学官連携...本冊子の使い方について 産学官連携に対する関心や、取り組みの状況に応じて、必要な部分からお読み下さい。産学官連携をより効果的に実施したい企業の方向け

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経済産業省 中部経済産業局

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表2 白

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は じ め に

 産学官連携とは、企業において、大学や公設試験研究機関等がもっ

ている人材・設備・研究成果等を、新たな製品・技術の開発や、技

術力の強化等の課題解決に利用して頂くものです。本冊子は、中小

企業をはじめとする企業の方々に、大学や公設試験研究機関等との

産学官連携のメリットや方法等について知って頂き、産学官連携を

始めて頂くために、作成しました。

 本冊子は、企業の方に、産学官連携に関する関心に合わせて、必

要な場所から読んで頂けるよう、「Ⅰ .導入編」「Ⅱ .手順編」「Ⅲ .展

開編」の3部から構成しました。

■ Ⅰ .導入編:産学官連携についてよく知らない企業の方向け

  産学官連携によって、企業にどのようなメリットや効果があるか、

成功事例を交えてご紹介します。

■ Ⅱ .手順編:産学官連携を具体的に実施したいと考えている企業

の方向け

  産学官連携の手順や、連携方法の種類をご紹介します。

■ Ⅲ .展開編:産学官連携をより効果的に実施したい企業の方向け

  産学官連携による研究開発成果の事業化までの展開や、そのため

に活用可能な支援施策等をご紹介します。

 なお、産学官連携にはある決まったやり方がある訳ではありませ

んので、連携先と相談しながら、自社の目的に合った連携方法を見

つけ出して下さい。 また、産学官連携において必要な手続き等は、

機関ごとに異なります。産学官連携に取り組まれる際には、連携先

と確認や相談を行って下さい。

 本冊子を契機として、産学官連携に取り組み、それを有効に利用

する企業が増えることを祈念しております。

 最後に、本冊子の作成にあたり、ご協力ならびに貴重なご意見を

賜った産学官連携の関係者の皆様方に、厚く御礼申しあげます。

平成20年3月

経済産業省 中部経済産業局

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本冊子の使い方について

産学官連携に対する関心や、取り組みの状況に応じて、必要な部分からお読み下さい。

産学官連携をより効果的に実施したい企業の方向け

1.調査・企画から事業化までの展開 ‥‥‥‥‥ p.40

2.契約、知的財産処理等の手続き ‥‥‥‥‥‥ p.44

3.支援施策・機関の活用方法 ‥‥‥‥‥‥‥‥ p.48

産学官連携を具体的に実施したいと考えている企業の方向け

1.大学や公設試験研究機関等との連携手順 ‥‥ p.28

2.産学官連携の様々な方法 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥ p.35

産学官連携についてよく知らない企業の方向け

1.産学官連携のメリットと必要性 ‥‥‥‥‥‥‥ p.6

2.成功事例の紹介 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ p.10

導入編

手順編

展開編

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目  次

Ⅰ .導 入 編 ……………………………………………………………………………………………………… 5

1.産学官連携のメリットと必要性 …………………………………………………………………………… 6

(1) 自社の財産となる独自の製品・技術等の成果を生み出せる可能性があります …………………… 6

(2) 社内における研究開発型人材の育成につながります ………………………………………………… 7

(3) 我が国には、次代を支える新産業が必要です ………………………………………………………… 8

2.成功事例の紹介 …………………………………………………………………………………………… 10

(1) 産学官連携から、事業につながる成果が生まれています ………………………………………… 10

(2) 成功事例には、工夫があります ……………………………………………………………………… 24

Ⅱ .手 順 編 …………………………………………………………………………………………………… 27

1.大学や公設試験研究機関等との連携手順 ……………………………………………………………… 28

(1) 自社の事業戦略上の課題を明確にします …………………………………………………………… 28

(2) 自社のニーズに合った研究者や機関を探します …………………………………………………… 29

(3) 連携先の候補について、産学官連携の可能性を確認します ……………………………………… 33

2.産学官連携の様々な方法 ………………………………………………………………………………… 35

Ⅲ .展 開 編 …………………………………………………………………………………………………… 39

1.調査・企画から事業化までの展開 ……………………………………………………………………… 40

(1) 調査・企画から事業化までの流れ …………………………………………………………………… 40

(2) 調査・企画 ……………………………………………………………………………………………… 41

(3) 研究開発 ………………………………………………………………………………………………… 43

(4) 事業化 …………………………………………………………………………………………………… 43

2.契約、知的財産の取り扱い等の手続き ………………………………………………………………… 44

(1) 技術やアイディアに関する重要な話をする前に、守秘義務を課しましょう …………………… 44

(2) 産学官の合意事項を契約書等の形にまとめてから、研究開発を実施します …………………… 44

(3) 産学官連携で生じやすい問題は、事前の準備や、相談等で解決しましょう …………………… 45

3.支援施策・機関の活用方法 ……………………………………………………………………………… 48

(1) 中小企業等が研究開発や事業化等の際に活用できる支援策があります ………………………… 48

(2) 目的に合わせて、補助金や委託費を活用しましょう ……………………………………………… 50

(3) 大学や公設試験研究機関等の相談窓口 ……………………………………………………………… 53

付 録 (産学官連携に関するキーワード)…………………………………………………………………… 55

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産学官連携のメリットと成果について、成功事例を交えて紹介します。

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導入編

(1)自社の財産となる独自の製品・技術等の成果を生み出せる可能性があります

 貿易の自由化によって、世界中からもっとも条件のよい企業を選んで取引を

することが可能になり、あらゆる企業は常に世界中の企業との競争状態に置か

れるようになりました。特に、自社独自の技術の少ない業務や製品は、他社や

海外企業に代替される心配が高いと考えられます。

 また、近年は ITの進歩によって自動車や電気製品等が急速に電子化された例

にもみられるように、技術革新によって世の中で必要とされる技術や製品は常

に変化しています。既存の技術や製品はすぐに陳腐化していきますので、企業

が生き残っていくためには、常に自社の技術や製品を高める努力が必要です。

 新たな製品や技術を開発することは、やりがいのある仕事ですが、容易なこ

とではありません。そこで、大学や公設試験研究機関等がもっている優れた技術・

知識・設備等を活用すれば、より効果的に新製品や技術の開発を実現できる可

能性があります。

 なお、産学官連携が、企業が抱える全ての問題を解決したり、画期的な成果

を生み出すとは限りません。また、それなりのコストや労力も必要となります。

しかし、産学官連携を通じて得られた産学官のネットワークや研究開発の経験、

産学官連携への参加企業に対する社会的な評価等は、その後の研究開発や企業

活動に活用できる大きな財産になると考えられます。

産学官連携のメリットと必要性企業が産学官連携を実施することの、メリットと必要性を紹介します。1

自社の現状はいかがですか?

自社の強みは何ですか?

【強み】

・付加価値の高い製品・ヒット商品・ロングセラー商品・独自の技術力・新技術への対応力・活気のある職場・・・・

【課題】

・厳しいコスト競争・利益率の低下・社員の採用難・技術の変化や、市場ニーズへの対応の遅れ

・・・・

自社の課題は何ですか?

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導入編

(2)社内における研究開発型人材の育成につながります

 企業が、独自の製品や技術を生み出して発展していくためには、自主性や創

造性をもった人材が必要であると考えられます。産学官連携を行う中では、大

学や公設試験研究機関等の社外の専門家に対して、新しい技術や製品のアイディ

アを提案したり、それらの有効性について話し合ったりする機会が多くなりま

す。産学官連携は、社員の企画提案力を養い、視野や人脈を広げ、研究開発型

人材としてレベルアップするためのよい訓練の場となると考えられます。

 また、社員に、会社の将来を担う独自の製品・技術を生み出すという夢や魅

力のある仕事を与えることは、活力のある職場づくりにつながるものと期待で

きます。中小企業では若手人材の採用に苦労しているところも少なくありませ

んが、仕事を通して成長できる職場は、専門性や仕事のやりがいにこだわる若

手人材にとって魅力的なものです。そして、社員が生き生きと開発に取り組む

会社からは、次代の収益を生み出す技術・製品が生まれてくると考えられます。

あなたの会社はどちらに近いですか?

・与えられる仕事への対応

・他社とのコスト競争

・若手社員の採用難

・・・・

【研究開発力の弱い企業】

・創造の楽しみがある仕事

・企業の将来性あり

・将来を担う若手人材が定着

・・・・

【研究開発力の強い企業】

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導入編

(3)我が国には、次代を支える新産業が必要です

 我が国では、少子化、高齢化が進んでおり、産業の競争力の源泉は生産の量

でなく、質に求められています。

 そして、地球温暖化、高齢化等の世界的な課題の中には、我が国の産業がそ

の技術力を生かして新たな技術やサービスを生み出し、克服すべきニーズがあ

ります(図表 1)。

 世の中で求められる製品や技術の内容は、時代に応じて高度化していくため、

既存の技術や製品の価値は次第に低下していきます。したがって、我が国の産

業が将来も存続・発展していくためには、常に新たな技術や製品を生み出すこ

とに挑戦していくことが必要です。

 新たな市場を拓くために必要なのは、企業規模の大きさではありません。中

小企業をはじめとする我が国のあらゆる企業において、優れたアイディアと技

術により、企業競争力を強化するチャンスがあります。自社が強化すべき部分

を明らかにした上で、大学や公設試験研究機関等の協力を得ることは、競争力

強化のための有効な方法の1つです。

我が国経済・社会が直面する国内外の課題

資料:総合科学技術会議基本政策専門調査会(第2回)「参考資料1:最近の注目すべき変化及び今後の展望(平成17年1月26日)」

図表 1

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導入編

 特に今後の成長性の高い産業分野として、「燃料電池」「情報家電」「ロボット」

「コンテンツ」「健康・福祉」「環境・エネルギー」「ビジネス支援」の重点7分野

が想定されています。これらの7分野では、我が国の企業による新たな製品や

技術の創出のため、国等による重点的な支援が行われています。

新産業創造戦略の重点7分野

先端的な新産業分野における

新たな目標

①燃料電池新たな戦略シナリオとして、定置用の市場拡大、自動車用の技術的課題のブレイクスルーの実現

②情報家電生活・産業・行政・社会的課題の各分野に競争力・課題解決力をもたらす新たな「プラットフォーム・ビジネス」を情報家電を基軸に展開

③ロボット安全基準策定、需要開拓支援等による、生産工程の一層のロボット化とサービスロボット市場の創成

④コンテンツ日本をアジア全体のコンテンツ制作・流通のハブとする「ソフトパワー」戦略の実現

市場ニーズ対応型分野の

新たな目標

⑤健康・福祉地域発の競争力あるヘルスケア産業群の創造に向けて、関係省庁との連携強化などにより事業環境を整備

⑥環境・エネルギー我が国の優れた環境・リサイクル技術の世界市場への展開に向けて、国際的なルール整備、国際標準化等を実施

⑦ビジネス支援サービスの一層の高度化・多様化の促進に向けて、先進事例の抽出、先導需要の創出

資料:経済産業省「新産業創造戦略2005(平成17年6月)」

図表 2

【先端的新産業分野】

【市場ニーズ対応型分野】 【地域再生の産業分野】

燃料電池

健康・福祉・機器・サービス

環境・エネルギー・機器・サービス

ビジネス支援サービス

情報家電 ロボット コンテンツ

材 料

原 料

I T

素形材

計測機器

半導体(システムLSIなど)

金 型 通 信

部 品

ソフト センサ

製造装置 電子部品材料デジタル技術

先端産業ものづくり産業

集客交流・健康サービス産業食品産業

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導入編

成功事例の紹介中部地域で行われた産学官連携の成功事例と、成功のポイントについて紹介します。2

(1)産学官連携から、事業につながる成果が生まれています

 中部地域における産学官連携の成功事例の中から、商品販売や製品開発に成

功したものの一部を取り上げて紹介します。

① 産学官ネットワークへの参加をきっかけとして、自社の開発製品に他社技術を導入

 花卉種苗の生産・販売を行っている福花園種苗株式会社は、愛知県農業総合

試験場との共同研究により、小型密閉容器内で植物を育てる商品(商品名「マナ

フラワー(Mana Flower)」)の開発に成功していました。

 そして、その後、和歌山県農業協同組合連合会(JA和歌山県農)、豊田通商株

式会社との共同研究により、小型密閉容器内で観葉植物を育てる商品(商品名「マ

ナリーフ(Mana Leaf)」)を開発し、この商品について、株式会社豊田中央研究

所が開発した可視光応答型光触媒技術を導入した結果、植物の観賞期間の長期

化に成功しました。

「マナリーフ(Mana Leaf)」の概要

特徴:容器の中のゼリーに植物に必要な栄養素は全て入っており、水やりなどの手入れが不用主な販路:雑貨店、ホームセンター等

資料:福花園種苗株式会社

a) 事例の概要

図表 3

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導入編

 福花園種苗株式会社のコア技術は、植物の品種改良や栽培に関するものです。

そこで、植物の成長を助け、商品価値を高めるために容器に処理をする光触媒

技術は、株式会社豊田中央研究所の技術を導入しました。それにより、社内で

全ての研究開発を行うよりも短期間(光触媒の技術導入から約1年)で、商品(マ

ナリーフ)の商品価値を高めることに成功しました。

 マナリーフは、平成19年春から雑貨店やホームセンター等で販売されています。

 技術導入に至るには、世の中にあるたくさんの技術シーズの中から、自社の

ニーズに合った技術シーズに出会う必要があります。福花園種苗株式会社では、

東海ものづくり創生協議会(「Ⅱ .(1)⑤ネットワークを広げる(p.31)」を参照)

という産学官のネットワークに加入したことがきっかけで、豊田中研テクノフェ

アに参加するようになりました。豊田中研テクノフェアは、株式会社豊田中央

研究所が保有する技術シーズの中から、企業ニーズが高いと思われる技術シー

ズを選んで開催されている展示会です。この産官連携プロジェクトの成功のポ

イントの 1 つは、福花園種苗株式会社が産学官のネットワークに加入し、移転

しやすい技術シーズに関する情報を入手するルートを得たことです。

 一般に、ある技術シーズを導入して製品を作るためには、製品に合わせて技

術シーズを改良したり、関連して必要となる技術を開発したりする等、補完的

な技術開発を実施する必要があります。この事例では、光触媒技術をライセン

スしている豊田通商株式会社が福花園種苗株式会社の開発製品に合わせた技術

改良にきめ細かく対応した結果、短期間で開発製品に光触媒技術を導入するこ

とができました。

「マナリーフ」での産官連携

福花園種苗株式会社のプロフィール

会 社 名 福花園種苗株式会社 主な事業内容 花卉種苗の生産販売

資 本 金 7,000万円 従 業 員 数 102名

所 在 地 愛知県名古屋市中区松原二丁目9番29号

b) 成功のポイント

図表 4

図表 5

福花園種苗

商品(マナリーフ)の高付加価値化

植物の栽培方法植物 栽培方法(小型容器内)

JA和歌山県農

植物の栽培容器、培地植物 栽培容 培地

豊田中央研究所

可視光応答型光触媒技術の開発視光応答型光触媒技術 発

豊田中研テクノフェアの開催 ライセンシング、応用研究

豊田通商

光触媒技術のライセンシング光触媒技術 グ

光触媒の応用に関する共同研究

マナフラワー共同研究

愛知県農業総合試験場

植物の栽培植物 栽培

支 援

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導入編

② 事業化目標を明確にした産学官連携への取り組み

 眼鏡レンズなど光学製品のメーカーである伊藤光学工業株式会社は、豊橋技

術科学大学および高知工科大学とともに、管理法人である株式会社サイエンス・

クリエイトの協力を得て、大学研究者の知見を製品化するための共同研究開発

を実施しました(平成17~18年度。国の助成制度を利用)。その成果として伊

藤光学工業株式会社は、色弱者の色の見分けにくさを一般色覚者が体験できる

ようにした世界初のメガネ型の色弱模擬フィルタ「バリアントール」を発売しま

した。バリアントールは、ヨーロッパでも販売が予定されています。

 共同研究開発では、伊藤光学工業株式会社がレンズのコーティング、豊橋技

術科学大学が分光フィルタの設計、高知工科大学がフィルタの性能評価を分担

しました。

 この共同研究が契機となり、次なる産学官連携の基盤となりうる全国ネット

ワークの「視覚科学技術コンソーシアム」が平成20年3月に発足しました。

 「バリアントール」は、商品開発やデザイン等に際してカラーユニバーサルデ

ザインを実践するために有効なツールであることが認められ、「2007年度グッ

ドデザイン賞(新領域デザイン部門)」を受賞しました。

色弱模擬フィルタ「バリアントール」の概要

製品写真

使用イメージ

• 用途:一般色覚者が、色弱者の色判別の不自由さを体験するためのカラーユニバーサルデザイン・支援ツール

• タイプ:メガネ型オーバーグラスタイプ • 重量:約60g(本体のみ) • 標準希望小売価格:34,500円(税込)

資料:伊藤光学工業株式会社

a) 事例の概要

図表 6

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導入編

 共同研究では、何をいつまでに実施するのか、成果目標を明確にし、実現の

ための手段を具体化することが必要です。本プロジェクトでは、早期の事業化

を目標として設定したため、厚生労働省の認可が必要な医療器具以外をターゲッ

トとして想定し、商品を企画しました。この産学官連携プロジェクトの成功の

ポイントの1つは、初期に成果目標の設定が明確に行われたことです。

 事業化に成功するためには、市場ニーズに対応した商品づくりが必要です。

この産学官連携プロジェクトでは、民間企業・眼科医・官公庁をアドバイザー

として迎え、定期的に意見交換を実施しました。また、試作品に対して約160

名の評価アンケートを実施し、問題点を見直しました。また、国内外の学会・

展示会で報告を通じて参加者の意見を取り入れました。

 研究成果の事業化は、企業が主導する必要があります。本プロジェクトでは、

企業トップが要所で参加し、積極的に事業化を推進しました。つまり、事業化

の成功要因の1つは、事業化に向けてトップのリーダーシップがあったことで

す。

「バリアントール」での産学官連携

伊藤光学工業株式会社のプロフィール

会 社 名 伊藤光学工業株式会社 主な事業内容 眼鏡レンズなど光学製品製造

資 本 金 5,000 万円 従 業 員 数 284 名

所 在 地 愛知県蒲郡市宮成町3-19

b) 成功のポイント

図表 7

図表 8

伊藤光学工業

新商品(バリアントール)の開発

レンズのコーティング技術ズ グ技術

サイエンス・クリエイト

管理法人管理法人

豊橋技術科学大学

フィルタの設計フィルタタ 計

共同研究 共同研究

共同研究

高知工科大学

フィルタの性能評価の性能評タ 性能 価

支 援

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導入編

③ 異分野との融合による新製品創出

 医薬品や医療機器を製造・販売している興和株式会社は、岐阜大学大学院医

学系研究科、岐阜大学医学部附属病院とともに、管理法人である財団法人岐阜

県研究開発財団の協力を得て、共同研究開発を行いました(平成18~19年度。

国の助成制度を利用)。その成果として興和株式会社は、緑内障の予防、診断に

用いられるステレオ撮影用の眼底カメラをシステム化し、平成19年9月に発売

しました。

 この共同研究開発では、興和株式会社がステレオ眼底カメラに関する技

術、岐阜大学大学院医学系研究科が眼底画像の表示法やコンピュータ支援診断

(computer-aided diagnosis:CAD)に関する技術、岐阜大学医学部附属病

院が緑内障に関する医学的知見からの評価を分担し、撮影システムとして商品

化に至りました。

 この産学官連携プロジェクトには、IT企業であるタック株式会社も参加して

おり、撮影されたステレオ眼底画像を解析して立体眼底画像を生成したり、解

析結果から緑内障のリスクを判定したりするソフトウェアを開発しました。こ

のソフトウェアを中心とする画像解析装置の研究成果を事業化するための共同

研究も、引き続き行われています。

「ステレオ眼底カメラシステム(コーワWX-1)」の概要

• 特徴:シャッターを1回押すだけで、2枚の視差画像を撮影する。独自の機構で、視差が一定なステレオ撮影ができるため、眼底の形状変化を経時的に把握できる。

• 用途:ステレオ撮影により眼底を立体的に観察することは、緑内障の早期発見に有効である。

資料:興和株式会社

興和株式会社のプロフィール

会 社 名 興和株式会社 主な事業内容医薬品の研究開発・製造・販売、医用電機光学製品の研究開発・製造・販売

資 本 金 38 億 4,000 万円 従 業 員 数 284 名

所 在 地 愛知県名古屋市中区錦 3-6-29

a) 事例の概要

図表 9

図表 10

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導入編

 事業化のためには、基礎研究から応用研究まで、一連の研究が必要です。こ

の産学官連携プロジェクトのメンバーは、平成17年度から1年間、大学が中心

となり(知的クラスター創成事業)、ステレオ眼底カメラシステムの要素技術に

ついて共同で基礎研究を実施しました。この基礎研究成果を元に、企業を中心

とした事業化のための応用研究を実施し、医療器具(厚生労働省の医療用具承認

取得)を商品化しました。この産学官連携プロジェクトの成功のポイントの1つ

は、大学を中心とした基礎研究から、企業を中心とした応用研究へと、適切な

タイミングと役割分担で研究開発を継続したことです。

 共同研究では、目標が明確でないとプロジェクト上の意思決定が進みにくい

ことがあります。この産学官連携プロジェクトでは早期の商品化を目標とし、

研究成果の中から改良医療用具で薬事法の申請ができる部分に絞り、最初の商

品化に取り組みました。

 異なる分野からメンバーが集まる産学共同研究を進める中では、メンバーが

目標を共有し、責任をもって役割を果たすことが必要とされます。各企業から

は、責任ある立場のメンバーがサポート要員を伴って参加しました。これにより、

メンバー間の意思疎通がスムーズに行われ、チームワークよく、プロジェクト

を遂行することができました。

 異分野の連携は、新産業の創出に有効な方法の1つですが、出口とする市場

についての知識や経験も重要です。本プロジェクトでは、画像処理という工学

的な技術シーズからの商品提案に対し、開発製品の有効性を裏付けられる医学

的知見をもった大学の臨床部門の研究者、医療機器の事業化ノウハウを有する

専門メーカーが参加し、技術シーズの商品化までに必要な要素を完備した形で

共同研究開発を実施しました。

「ステレオ眼底カメラシステム」での産学官連携

b) 成功のポイント

図表 11

興和++

新商品(ステレオ眼底カメラシステム)の開発

ステレオ眼底カメラの技術底 技術

タック

データ解析技術析技術デ タ解析技術析

岐阜県研究開発財団

管理法人管理法人

岐阜大学大学院医学系研究科

画像処理技術理技術画像処理技術理技

共同研究 共同研究

共同研究

岐阜大学医学部附属病院

医学的知見医学医学的知見学的

支 援

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導入編

④ 産学官連携による戦略的な技術高度化

 電子部品、電子機器、FA機器、精密機械部品の製造販売を行っている立山科

学グループでは、経済産業省の産業クラスター計画である「北陸ものづくり創生

協議会」の「北陸マイクロナノプロセス研究会」において、新しい技術や製品の創

出のため、地域を中心とする産学官の力を結集するための取り組みを行ってき

ました。産学官連携プロジェクトでは、管理法人として財団法人北陸産業活性

化センターの協力を得て、立山科学グループ/立山マシン株式会社、金沢大学、

シグマ光機株式会社、富山県工業技術センターが共同研究開発(平成14~15年

度。国の助成制度を利用)を実施し、ナノ領域を「見る技術」についての研究開発

を行い、ナノ計測に対応した「高速微細形状検査装置」を商品化しました。

 なお、この産学官連携プロジェクトにはシグマ光機株式会社も参加していま

すが、2社がそれぞれ単独でも販売が可能な形で、商品開発を分担しました(シ

グマ光機株式会社の商品化については、「⑤産学官連携により新製品事業化と研

究開発人材の育成を実現(p.18)」を参照)。

「高速微細形状検査装置 FSIM100D」の概要

特徴• 垂直方向にナノオーダーの分解能を持つ三次元形状検査装置• 2波長光を使った「高速位相シフト法」により高速・高分解能測定を実現• ナノ分解能の対物レンズ走査型微動ステージを搭載• シンプルな画面で操作の簡単なソフトウェアパッケージ

資料:立山科学グループ

立山マシン株式会社のプロフィール

会 社 名 立山マシン株式会社 主な事業内容FA オートメーションの提案・設計・製造

資 本 金 3億 5,370 万円 従 業 員 数 352 名

所 在 地 富山県富山市下番 30 番地

a) 事例の概要

図表 12

図表 13

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導入編

 産学官連携プロジェクトの成果を研究に終わらせず、商品化するためには、

企業が事業化を主導するとの姿勢が必要です。立山マシン株式会社が高速微細

形状検査装置の開発に取り組んだのは、各種電子製品の小型化に伴ってニーズ

が高まっているナノレベルの微細加工技術への対応という、企業グループとし

ての技術開発目標によるものでした。ナノテク分野へ向け、計測・加工分野の「見

る技術」についてナノレベルの計測器を開発するため、産学官連携プロジェク

トに取り組みました。この産学官連携プロジェクトの成功のポイントの1つは、

企業が産学官連携における成果目標を明確にし、主体的に取り組んだことです。

 産学官連携プロジェクトでは、研究開発に必要となる技術や人材を有した、

取り組み意欲の高いメンバーが集まることが必要です。立山マシン株式会社は、

コーディネータの紹介で、金沢大学のナノ計測の技術シーズと出会いました。

また、金沢大学の研究者を通じ、もう1つの企業メンバーであるシグマ光機株

式会社とも出会うことができました。

 産学官連携プロジェクトを通じて目的の成果をあげるためには、計画的、継

続的な取り組みを続けることも必要となります。同社では、ナノレベルでの挑

戦の次なるステップとして、「削る技術(ナノ加工)」についての研究開発を産学

官連携プロジェクトにより展開しました。

「高速微細形状検査装置 FSIM100D」の概要

b) 成功のポイント

図表 14

立山マシン

新商品(高速微細形状検査装置)の開発

計測システム技術計測 技術(富山大学、産業技術

総合研究所の計測技術)

北陸産業活性化センター

管理法人管理法人

金沢大学

ナノ計測技術ナノ計計測技術

共同研究

マッチング支援

共同研究

共同研究

富山県工業技術センター

電磁波ノイズの評価イズの評磁波 ズ 価

支 援

支 援 ++ シグマ光機

姿勢位置決め技術め技術姿勢位置決め技術め

北陸ものづくり創生協議会コーディネータ

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18

導入編

⑤ 産学官連携により新製品事業化と研究開発人材の育成を実現

 光学製品や実験装置等の製造販売を行っているシグマ光機株式会社では、立

山科学グループ/立山マシン株式会社、金沢大学、富山県工業技術センターと

ともに共同研究開発(平成14~15年度。国の助成制度を利用)を実施し、各種

顕微鏡のオートフォーカス用として、対物レンズ駆動アクチュエータを商品化

しました。

 シグマ光機株式会社は、北陸ものづくり創生協議会の活動への参加を契機と

して、この産学官連携プロジェクトに参加しました。

 シグマ光機株式会社は、自社でナノテク関連製品の開発を行っていました。

この産学官連携プロジェクトには、ナノ単位で姿勢位置決めを行う機構部の研

究開発の担当として参加し、対物レンズ駆動アクチュエータを商品化しました。

「対物レンズ駆動アクチュエータ」の概要

特徴• 小型・高速・高分解能位置決めが可能な各種顕微鏡のオートフォーカシング用対物レンズ駆動アクチュエータ

• 対物レンズ用アダプタを別途用意しており、各種顕微鏡への取り付けが可能• 専用制御器および制御計測ソフトを使用することにより、PCから簡単に操作可能• 大学や企業の研究用途として販売中

資料:シグマ光機株式会社

シグマ光機株式会社のプロフィール

会 社 名 シグマ光機株式会社 主な事業内容光学基本機器製品、光学システム製品

資 本 金 3億5,370万円 従 業 員 数 296 名

所 在 地 本社:東京都墨田区緑 1-19-9 技術センター:石川県白山市八束穂 1-1

a) 事例の概要

図表 15

図表 16

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19

導入編

 産学官連携プロジェクトで、次代を担う新製品や新技術の開発で成果をあげ

るためには、目標の達成のために必要となるコストや人員を投資することが必

要です。シグマ光機株式会社では、事業化によって研究開発が成果をあげられ

るよう、ヒット商品を開発するとの意気込みをもって、産学官連携プロジェク

トに取り組んでいます。

 新製品は、常に市場に受け入れられるかどうかというリスクを伴います。シ

グマ光機株式会社ではこのリスクを踏まえ、自社が販路をもっている市場で新

製品開発のターゲット(コスト、仕様、投入時期等)を設定し、共同研究開発プ

ロジェクトに取り組んでいます。この産学官連携プロジェクトの成功のポイン

トの1つは、新製品開発の可能性とリスクの両方を勘案し、自社が情報をたく

さんもち、販売しやすい市場で新製品の開発を行っていることです。

 新製品や技術を開発するためには、未知の技術開発に挑戦できる開発型人材

が必要であり、技術の改良といった日常業務とは違う能力が必要とされます。

シグマ光機株式会社では、産学官連携プロジェクトのメンバーとして、ベテラ

ンだけでなく若手技術者も参加させ、若手人材の訓練の場として意識的に活用

しています。この産学官連携プロジェクトの成功のポイントの1つは、社内の

技術者を共同研究開発プロジェクトに参加させ、研究開発型企業としてのレベ

ルアップを図っていることです。

「対物レンズ駆動アクチュエータ」での産学官連携

b) 成功のポイント

図表 17

新商品(対物レンズ駆動アクチュエータ)の開発

立山マシン

計測システム技術ム技術計測 技術

北陸産業活性化センター

管理法人管理法人

金沢大学

ナノ計測技術ナノ計計測技術

共同研究 共同研究

共同研究

富山県工業技術センター

電磁波ノイズの評価イズの評磁波 ズ 価

支 援

++シグマ光機

姿勢位置決め技術姿勢位置決め技術(富山県立大学の計測技術)( 術)

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導入編

⑥ 社会的な課題を解決するための技術開発への挑戦

 北陸電力株式会社、三菱ふそうバス製造株式会社、株式会社KEC、福井大学、

中外炉工業株式会社、エナックス株式会社、株式会社東京アールアンドデーは、

管理法人である財団法人北陸産業活性化センターの協力を得て、産学共同研究

(平成17~18年度。国の助成制度を利用)を実施し、高性能リチウムイオン電

池を動力とする小型電気バスの開発に成功しました。電気自動車は、エネルギー

効率が高く、排出ガスがないというメリットがありますが、特にバスなどの旅

客車両での実用化例はほとんどないことから、産学官連携による共同研究開発

で製品開発を実施しました。

 開発した小型電気バスについては、商品化に向けて補完的な研究開発を継続

しています。また、要素技術として開発された「火炎噴霧熱分解装置(電池用正

極材の製造装置)」「急速充電装置」についても、関連メーカーへの販売展開が予

定されています。

「小型電気バス」の概要

• 国内初のリチウム電池を動力とする純電気バス  定員:28名  性能:最高速度 90km/h     航続距離 100km  充電:通常充電(夜間の100%充電には8時間)     急速充電(夜間の50%補充電には30分)• CO2を排出せずに走行できる電気バスの利用により、環境改善に貢献が可能  小型ディーゼルバスと比較して、  ・CO2排出量:約1/ 3   ・燃費:約1/ 5• 地域循環型小型バス(コミュニティバス)や教育機関・工場などの送迎用バスなどへの活用を期待

資料:北陸電力株式会社

a) 事例の概要

図表 18

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21

導入編

 開発した小型電気バスは試乗会やイベントに出展し、地域における環境意識

の向上に寄与しています。また、小型電気バスは関連企業内の送迎用に使用され、

実用化に向けた走行試験が重ねられています。

 産学官連携プロジェクトでは、各メンバーが熱意をもって、力を合わせて研

究開発に取り組むことが必要です。この産学官連携プロジェクトでは、地域振

興や産業発展への貢献意欲をもつ北陸電力株式会社が参加メンバーを主導して、

環境問題という社会的要請の強い問題に対応した「小型電気バス」の研究開発

に取り組みました。この産学官連携プロジェクトの成功のポイントの 1 つは、

電気自動車という将来性が見込まれる研究開発テーマを設定し、研究開発に取

り組んだことです。

 技術シーズを製品化するためには、1つの技術シーズだけでなく、補完的な

いくつもの研究開発が必要となるのが一般的です。本プロジェクトでは、福井

大学の技術シーズをもとに、地域内外(富山県、石川県、東京都、大阪府)から

それぞれ専門性の高い企業の力を結集して必要ないくつかの研究開発を進める

ことによって、短期間に小型電気バスの開発という製品化目標を実現しました。

「小型電気バス」での産学官連携

b) 成功のポイント

図表 19

小型電気バスの製品開発要素技術(火炎噴霧分解装置、急速充電装置)の開発

北陸産業活性化センター

管理法人管理法人

三菱ふそうバス製造

バス製造技術技術バス製造技術造技

KEC

充電装置技術装充電装置技術装

北陸電力

充電技術・バス運行実証試験技充電技術 バス運行実証試験技

東京アールアンドデー

バス改造技術バスバス改造技術ス

中外炉工業

電池正極材生産技術材生電池正極材生産技術生

エナックス

電池開発技術術電池開発技術術

共同研究

支 援

福井大学

電池正極材開発技術電池正極材開発技術

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導入編

⑦ 強い目的意識と信頼関係によって技術的困難を克服

 金属資源リサイクルや使用済み自動車の適正処理等を行っているトヨキン株

式会社は、株式会社豊田中央研究所、株式会社明電舎との共同研究開発(平成

15~18年)により、エンジン冷却液(LLC)の主成分である高濃度エチレングリ

コールを微生物分解するメンテナンスフリーの分解装置を開発しました。この

取り組みのきっかけは、トヨキン株式会社の社長が、平成15年の豊田中研テク

ノフェアでエチレングリコール含有水の微生物による分解に関する技術シーズ

に出会ったことでした。

 この分解装置の完成によって、トヨキン株式会社は平成19年3月に産業廃棄

物処理事業者の申請を行い、新規に廃LLC処理事業を開始しました。この分解

処理装置を小型化したものは、ディーラーの車検工場、エンジン工場等でも需

要があると見込まれています。またこの装置は、海外でもディーラー等での需

要が見込まれています。

「エンジン冷却液(LLC)分解装置」の概要

特徴• LLCに対する高分解能微生物を取得し、固定化利用• LLCを含む排水を、一日で排水基準値以下に浄化できる• 自動化が容易(低環境負荷型無害化処理)

資料:豊田中央研究所

a) 事例の概要

図表 20

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導入編

 技術シーズの事業化のためには、技術シーズを自社のニーズに合わせて実用

化するために補完的な研究開発をしたり、プロジェクトに人材を投入したりと、

様々な投資や継続的な取り組みが必要となります。リサイクル事業を行ってい

るトヨキン株式会社は、地域住民との共生のため、汚染物質を外に出さないだ

けでなく、人に見てもらえるほどクリーンなリサイクル現場づくりを目指して

いました。このような高い環境意識をもっていたトヨキン株式会社の社長は、

豊田中研テクノフェアでエンジン冷却液(LLC)の分解に関する株式会社豊田中

央研究所の技術シーズを見て、この技術を導入して実用化することを決断しま

した。また、この目的を実現するため、途中で大きな技術的困難に直面した際

にもあきらめず、必要な資源(人、モノ、資金)を投入してプロジェクトを継続

したために、技術シーズを実用化することができました。

 技術シーズの事業化のためには、技術を必要とする企業と技術シーズのマッ

チングが必要です。株式会社豊田中央研究所では、技術移転担当者が技術の目

利きとなり、企業への技術移転がしやすい技術シーズを選んで展示会に出展す

るとともに、技術導入のために必要な補完的な技術開発をフォローしています。

この産産連携プロジェクトでは、技術移転担当者がバイオプラントメーカーの

株式会社明電舎をメンバーとしてマッチングしました。つまり、この産産連携

プロジェクトの成功のポイントの1つは、事業化の鍵となる技術シーズに加え、

意欲の高い企業メンバーが揃い、信頼関係にもとづいて粘り強く共同研究開発

に取り組んだことです。

「エンジン冷却液(LLC)分解装置」での産産連携

トヨキン株式会社のプロフィール

会 社 名 トヨキン株式会社 主な事業内容鋳造原料・製鋼原料の加工、使用済み自動車の適正処理および自動車中古部品のリユース

資 本 金 1億 5,822 万円(グループ計) 従 業 員 数 496 名(グループ計)

所 在 地 愛知県豊田市鴻ノ巣町 3 丁目 33 番地

b) 成功のポイント

図表 22

図表 21

トヨキン

新技術(エンジン冷却液(LLC)分解装置)の開発新事業(排LLC処理)の開始

資源リサイクル技術資源 ク 技術

豊田中央研究所

エチレングリコール含有水グ 含有水を分解する微生物の技術シーズ

豊田中研テクノフェアの開催

明電舎

バイオプラント技術バ プ ト技術

国支 援

共同研究

共同研究

共同研究

ライセンシング

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24

導入編

(2)成功事例には、工夫があります

 成功事例の多くに共通した、産学官連携を実施する上での工夫を紹介します。

① 常に事業化意識を明確にもち、企業が主体的に取り組んでいます

 産学官連携プロジェクトで事業化に成功している企業は、いつまでに、何を

得たいか、またそれにはいくらかかるか(コスト、人件費)を明確にしています。

そのためには研究開発の段階から事業化(例:商品の発売)を見据えて取り組む

ことが重要ですが、一般的には、大学や公設試験研究機関等には販売について

の経験や知識はあまりありません。したがって、売れる商品に向けての最終的

な仕上げや販路開拓等の部分については、企業メンバーを中心に進めるとの心

構えで取り組んでいます。自社だけでは事業化に必要な技術、知見、経験等が

不足すると考えられる場合は、他の企業からも協力を得るといった対策を行っ

ています。

②連携相手とは、納得のいくまで相談・交渉しています

 産学官連携は、企業が実現しようとする目的や、連携先によって、多様な連携・

関与の仕方をとることが可能であり、あらかじめ正解がある訳ではありません。

そのため、産学官連携に参加するメンバーは、プロジェクトの進捗段階ごとに、

プロジェクトの成果目標、知財の取り扱い、研究成果の配分等について双方が

納得のいくまで交渉・相談しながら、取り組みを進めています。

 大学等の研究者に遠慮しがちな企業は少なくありませんが、研究者が得意な

部分、企業が得意な部分をそれぞれ発揮して、相互に尊重し、協力し合える関

係を作っています。

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導入編

③ コーディネータ等によく相談しています

 大学や公設試験研究機関、産業支援機関等にはコーディネータやアドバイザー

等がおり、産学官のマッチングを中心に産学官連携を支援しています。産学官

連携を実施している企業の多くは、コーディネータやアドバイザー等を通じて、

産学官連携の取り組みに必要な情報を入手しています。

 また、産学官連携にあたって、研究開発費の負担や研究成果の配分等につい

て話し合う際には第三者からのアドバイスが参考になる場合があり、そのよう

な場合にもコーディネータ等の協力を得ています。

④ 公的支援を上手く活用しています

 新産業の創出を促進するため、中部経済産業局、自治体、産業支援機関等に

より、補助金や委託費、情報提供・相談、セミナー等の様々な公的支援が実施

されています(「Ⅲ .3.支援施策・機関の活用方法(p.48)」を参照)。

 産学官連携に成功した企業では、各種研究会等を通じて産学官交流のネット

ワークに入り、自社の事業に活用可能な研究者や技術等と出会える可能性を高

めています。

 また、補助金や委託費等を活用した提案公募型開発事業等の形で産学官のメ

ンバーを集め、社外の資源を有効に活用して研究開発を行っています。

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26

導入編

 なお、成功事例等を踏まえ、産学官連携の大まかな流れをまとめると、下図

のようになります。

産学官連携の大まかな流れ図表 23

事業企画

事業戦略上の課題

事業コンセプト

連携相手の発見 産学官連携 産学官連携の成果

産学官連携の目標設定産学官連携 標 定

・新製品・技術の優位性・ターゲット市場・市場規模 等

産学官のマッチング産学官 グ 連携方法の選択連携方法 選択 連携の成果連携 成

技術相談

研究設備の利用

依頼試験

ライセンシング事業戦略

情報源

公的支援の活用

・冊子・データベース・新聞記事 等

・研究開発計画・生産体制・スケジュール・販売計画・投資計画・資金計画 等

・コーディネータ等・テクノフェア等・ネットワーク組織 等

人脈

直接効果

・新製品・技術高度化 等

・研究開発人材の育成・企業の知名度向上 等

間接効果

技術指導

共同研究

受託研究

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産学官連携の手順や、連携方法の種類について紹介します。

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28

手順編

(1)自社の事業戦略上の課題を明確にします

 企業にとっての産学官連携は、自社に不足する部分について大学や公設試験

研究機関など外部の専門家の力を借りながら、求める成果を実現していくプロ

セスと位置づけることができます。そこで、産学官連携を始めるにあたっては、

まずは自社の強み・弱みを認識することが重要になります。その上で、「自社が

どんな分野に、どんな形で、いつ進出し、どの位の売上をあげたいのか」「自社

のどの部分を、どの程度強化したいのか」「研究開発のためにどの程度の投資(費

用、人材)ができるのか」等、産学官連携における具体的な目標と実施内容を考

えていきましょう。

【自社の強みと弱みの分析手法の例(SWOT分析)】

 内部と外部の要因を加味した事業戦略を立案する手法の1つに、SWOT分析があ

ります(図表 24)。産学官連携にあたり、自社の強みと弱みを整理する際には、この

ような分析手法を活用することも1つの方法であると考えられます。

SWOT分析のフレームワーク

大学や公設試験研究機関等との連携手順企業が産学官連携を実施する場合の、具体的な連携手順を紹介します。1

図表 24

整理の視点 課 題

内部環境要因

強 み( S ) • 自社が有する経営資源のうち、競合他社より優れているもの

弱 み( W ) • 自社が有する経営資源のうち、競合他社より劣っているもの

外部環境要因

機 会( O )

• マクロ要因(技術進展、法的規制、経済・社会動向など)、ミクロ要因(市場規模・成長性、利用者の価値観、競合他社など)のうち、自社の事業発展を促進する可能のあるもの

脅 威( T )

• マクロ要因(技術進展、法的規制、経済・社会動向など)、ミクロ要因(市場規模・成長性、利用者の価値観、競合他社など)のうち、自社の事業発展を阻害する可能のあるもの

内部環境要因

外部環境要因強み(S) Strength 弱み(W) Weakness

機 会( O )Opportunity

SO戦略:強みを生かし、機会を最大限に活用する

WO戦略:機会を最大限に活用し、弱みを克服する

脅 威( T )Threat

ST戦略:強みを生かし、脅威を最小限にとどめる

WT戦略:弱みを最小限にし、脅威を回避する

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29

手順編

(2)自社のニーズに合った研究者や機関を探します

 次に、自社の目標を達成するために必要な知識や情報を得られそうな研究者

や機関を探してみましょう。

① 冊子・データベースを探す

 企業と、大学や公設試験研究機関等の研究者や技術との出会いを広げるため、

様々な機関で技術シーズ集や研究者紹介のための冊子やデータベース、インター

ネットのウェブサイト等が作成されています。これらの冊子やデータベース等

を閲覧・検索することで、自社の目的に関連する研究者や技術シーズの概要等

を探すことができます。

【技術シーズに関する無料の情報提供の例】

• 中部技術開発支援団体会議「中部の技術シーズ」(インターネット、冊子、CD-

ROM)

 中部地域の大学や公設試験研究機関等の研究者の技術シーズが掲載されており、

キーワード等で技術シーズを探すことができます。「中部の技術シーズ」の特徴は、

技術分野、組織、地域等を横断して取りまとめられていることで、中部地域全体

の幅広い研究内容を知ることができます。また、技術を応用したビジネスのアイ

ディアを考えるための参考にすることもできます。

(http://www.chubu.meti.go.jp/technology/hp/index.html)

• 独立行政法人 科学技術振興機構「研究成果展開総合データベース J-STORE 

技術シーズ検索」(インターネット)

 科学技術振興機構( JST)が、全国の大学・国公立試験研究機関から収集した研

究成果や JSTの基礎的研究等の研究成果を提供しているデータベースです。

(http://jstore.jst.go.jp/cgi-bin/seeds/advanced/search.cgi)

② コーディネータやアドバイザー等に相談する

 大学や公設試験研究機関等の産学官連携の窓口に配されているコーディネー

タ、アドバイザー等に自社の課題や産学官連携の希望について相談すると、企

業のニーズをくみ取って、連携候補を探してくれます。特定の大学等に所属し

ているコーディネータ等でも、企業のニーズに合わせ、必要があれば他機関の

研究者等も紹介してくれます。

【産学官連携について相談できるコーディネータやアドバイザーの例】

• 文部科学省産学官連携コーディネータ

 文部科学省産学官連携コーディネータは、各大学・高等専門学校等の個性に合っ

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30

手順編

た産学官連携を推進する専門家です。大学等において、技術相談、共同研究や受

託研究等についての相談等、産学官連携の推進のための活動を実施しています。

(http://www.sangakukanren-cd.go.jp/center/center1.htm)

• 科学技術コーディネータ

 科学技術コーディネータは、技術移転等に関する専門家です。地域の産業支援機

関等で、産学官のニーズとシーズのマッチングに関する活動等を実施しています。

• 特許流通アドバイザー

 特許流通アドバイザーは、知的財産権とその流通に関する専門家です。中部地

域の地方自治体、中部経済産業局、TLOにおいて、知的財産権の導入に関する無

料の指導・相談等を実施しています。

(http://www.ryutu.inpit.go.jp/advisor/index.html)

③ 新聞等の記事を見て問い合わせる

 大学や公設試験研究機関等が開発した新技術について、新聞記事やインター

ネット上のプレスリリース等で紹介されることがあります。発表された技術等

に関心がある場合には、当該機関の産学官連携の窓口に問い合わせをしてみる

ことが考えられます。

 なお、特に外部からの引き合いが多い技術シーズの場合は、重要な情報の流

出を避けるため、情報提供にあたって特別の条件が付けられる場合もあります。

④ テクノフェア、展示会、学会等で探す

 大学や研究機関では、研究成果発表の場としてテクノフェアを開催している

ところが多く、そこで当該機関の研究者や技術シーズに関する情報収集を行う

ことができます。

 また、最新の技術や製品に接する機会としては、専門の製品や技術を集めた

展示会、産学官の研究開発成果を集めた展示会等が開かれています。展示会は、

公的な機関が主催する無料のものや、民間企業等が主催する有料のものがあり

ます。

 各専門分野では学会が組織されており、大学等の研究者や企業の技術者が集

まって、定期的に発表会等のイベントを開催しており、研究者と直接に意見交

換等を行える機会になっています。学会イベントの多くは、学会の会員でなく

ても参加費を払って聴講することが可能です。

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手順編

⑤ネットワークを広げる

 中部地域内の大学・公設試験研究機関・産業支援機関等では、各種研究会の

開催、産学官連携のための会員組織の設置等を通じて、企業と大学等の研究者

のネットワークづくりを促進しています。すぐに自社が取り組み可能な産学官

連携プロジェクトが具体的にイメージできない場合にも、産学官のネットワー

ク組織に加入することで視野や人脈が広がり、有効な人や技術に出会える可能

性を高めることができます。

【ネットワークの拡大に活用可能な組織の例】

• 大学等の産学官連携組織

 大学や技術移転機関(TLO)、産業支援機関には、「協力会」等の名称で会員組織

を設けているところがあります(会費は数万円程度が多い)。これらの会員組織で

は、会員向けの情報提供やセミナー開催等を行っています。

• 東海ものづくり創生協議会

 経済産業省が推進する「産業クラスター計画」のうちの1つです。東海3県(岐阜

県、愛知県、三重県)の企業向けに、産学官連携プロジェクトの創出に係る各種支

援施策を提供しています。

(https://www.tokai-monodukuri.jp/)

• NPOバイオものづくり中部

 上記と同様に、特にバイオテクノロジー分野での、産学官連携プロジェクトの

創出に係る各種支援施策を提供しています。

(http://www.bioface.or.jp/index.html)

• 北陸ものづくり創生協議会

 上記と同様、北陸3県(富山県、石川県、福井県)の企業向けに、産学官連携プ

ロジェクトの創出に係る各種支援施策を提供しています。

(http://www.hiac.or.jp/mono/01top/top.html)

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手順編

中部地域の産業クラスター計画

資料:経済産業省

図表 25

■ 東海ものづくり創生プロジェクト

■ 東海バイオものづくり創生プロジェクト

■ 北陸ものづくり創生プロジェクト

東海バイオものづくり創生プロジェクト

行政機関 4機関愛知県、岐阜県、三重県、名古屋市

大学47機関

NPO法人 バイオものづくり中部(会員企業71社:平成19年3月現在)

銀行、VC等もNPO会員として参加 5機関

産学連携支援

地域との連携

事業化支援

施策情報提供

東海ものづくり創生協議会

北陸ものづくり創生協議会

事務局:(財)北陸産業活性化センター

会員企業 約230社

3分野以外にも新たな領域へチャレンジ

ほくりく先端複合材研究会

北陸マイクロナノプロセス研究会

北陸ライフケアクラスター研究会

東海バイオものづくり創生プロジェクト

グレーター・ナゴヤ・イニシアティブ協議会

知的クラスター愛知・名古屋地域知的クラスター岐阜・大垣地域知的クラスター都市エリア(豊橋エリア)

東海ナノプロセスマテリアル研究会

大学

企業約750社

大学30機関

拠点組織・春日井商工会議所・名古屋工業大学・(財)科学技術交流財団・(財)ソフトピアジャパン・東三河産業支援事業推進委員会・(財)三重県産業支援センター

支援機関・商社11社・金融機関18機関・大学・公的研究機関48機関・自治体5団体

デジタルコンテンツビジネス研究会

グレーター・ナゴヤイモノフォーラム

木質産業材料研究会

プラズマ技術応用勉強会

ロボット技術クラスター

ニューテクノロジー研究会

北陸ものづくり創生プロジェクト

外延の拡大

サービス業

新製品・サービス

海外企業

地域社会の取り組み

三重メディカルバレー

自治体、公的研究機関 9機関

支援機関 14機関

拠点組織 2機関

金融機関 7機関

大学 等 14機関

名古屋ナノテクものづくりクラスター(知的クラスター創成事業)

岐阜・大垣ロボティック先端医療クラスター(知的クラスター創成事業)

東海バイオベンチャーネットワーク(研究者ネットワーク)

みえ医療・健康・福祉産業クラスター

東海ものづくり創生プロジェクト

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33

手順編

(3)連携先の候補について、産学官連携の可能性を確認します

 次に、産学官連携をしてみたいと考える研究者や技術シーズについて、産学官

連携の実施に向けた確認等を行いましょう。その際には、大学や公設試験研究機

関等の産学官連携の窓口において、コーディネータ等の担当者を活用しましょう。

① 産学官連携にあたって確認すべきポイント

 技術シーズに関する情報は、必ずしも全てが公開されているとは限りません

ので、産学官連携にあたっては、様々な視点から最新の情報を収集し、確認す

ることが必要です。

 その際に、最初は大学等の研究者と直接でなく、大学や公設試験研究機関等

の産学官連携窓口を通じて情報収集してみましょう。ただし、大学や公設試験

研究機関等から、技術シーズについて重要な情報の開示を受ける場合には、秘

密保持誓約書の提出等を求められるのが一般的です。反対に、企業側が大学や

公設試験研究機関等への相談に際し、新製品・技術等に関する重要な情報を開

示する場合にも、秘密保持を課すようにしましょう。

 企業が、導入しようとしている大学等の技術シーズについて確認すべき事項

には、①他社との共同研究の有無と状況、②事業化までに解決すべき課題、③

他の技術と比較した優位性、④特許の有無(出願中か取得済みか、特許権者)等

があります。

 さらに、技術シーズを活用とした事業化までにどの位の研究開発投資(費用、

人的投入)が必要か、大学等の研究者が考えているイメージを確認しておくこ

とが必要です。それを踏まえて、自社の事業企画において大学や公設試験研究

機関等の技術シーズ等をどのように利用するか、自社からの投資(費用、人材)

がどの位必要かを想定しましょう(「Ⅲ .1.調査・企画から事業化までの展開

(p.40)」を参照)。

 また、事業化の成果に加え、産学官連携が自社にどんな効果をもたらすか(例:

研究開発型企業へのステップアップ、社内の研究開発人材育成)についても、併

せて検討しましょう。

② コーディネータ等の活用

 企業が研究者と連携するに際には、研究内容に加え、研究者側の産学官連携

に対する希望や取り組み姿勢等も確認しておく必要があります。また、研究者

を探すには様々な情報源や方法があり、大学や公設試験研究機関、産業支援機

関等にはコーディネータ等の産学官連携の担当者がいて、企業の課題や希望に

応じた研究者を紹介しています。

 したがって、面識のない大学等の研究者と連携しようとする場合には、まず

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34

手順編

は候補として考えている研究者が所属するコーディネータ等の産学官連携の担

当者に相談をしてみましょう。

【コーディネータの支援内容の例】

 産学官連携に関するコーディネータの支援内容の例としては、以下のようなもの

があげられます。なお、コーディネータの業務内容は所属機関や各コーディネータ

の専門性によって異なりますので、各機関等で確認の上、依頼するようにしましょう。

• 技術相談への対応

 企業からの相談内容の検討・整理、問題解決のためのアイディア提供、企業の

問題解決に対応できる研究者・専門家や公設試験研究機関等への紹介等

• 共同研究や受託研究に関する支援

 大学等研究者に関する情報提供(研究内容、産学連携の実施状況、産学連携につ

いての意向等)、企業と大学等研究者との面談設定、知財の取り扱いや契約等の手

続き支援、提案公募型技術開発事業への提案支援等

• 技術移転に関する支援

 企業の課題に適合した大学等技術シーズの紹介等

 コーディネータ等に自社の課題内容を相談すると、専門家の視点から、問題

解決のためのアイディアを出してもらえる可能性があります。

 また、一般に、技術シーズを事業化するためには、改良や補完的な技術開発

が必要となります。そのため、技術シーズに対し、どういったものを、どこか

ら補完して製品を完成させることが必要か、事業化を見据えた計画づくりが必

要です。事業化までに必要な資源をトータルでマッチングすることは、大学等

の研究者や中小企業にも困難な場合があります。そのような場合、コーディネー

タから、事業化に必要な連携先についてのアドバイスを受けることができます。

 産学官連携を開始するまでには、相談・交渉の開始から研究開発の実施、事

業化にいたるまで、多くの段階を経ることになります。そして、それぞれの段

階において必要な交渉や契約手続き等を行わなければなりません。そこで、産

学官連携に関する知識や経験が豊富なコーディネータに支援してもらうことに

より、話し合いや契約手続き等を安心して進めることができます。

 産学官連携の主体が重視しているものは、民間企業は利益、大学は研究・教

育と社会貢献、公設試験研究機関は地域産業振興等、それぞれ立場によって異

なります。例えば、共同研究の成果に関して、企業にとっては独占的に利用す

ること(特許の取得)ができるかどうか、大学等の研究者にとっては論文発表が

できるかどうかが重要なポイントとなり、調整が必要となることがあります。

産学官それぞれの考え方を理解したコーディネータが間に入ると、産学官の間

のコミュニケーションがしやすくなります。

a) 多角的な視野から、

適切な連携先を考え

てくれます

b) 連携のための交渉、

契約手続きがスムー

ズになります

c) 大学等の研究者と

企業のコミュニケー

ションが円滑になり

ます

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35

手順編

産学官連携の様々な方法企業が大学や公設試験研究機関等と連携する場合には、目的や費用等の条件に合わせて、

いろいろな方法の中から決めていくことになります。2 企業にとっては、身近な技術相談の場として、大学以外にも、公設試験研究

機関等を活用することが有効な場合があります。公設試験研究機関は、地域の

産業特性に合わせた技術シーズ、設備をそろえている機関が多いことが特徴で

す。特に研究要素の少ない試験や認証(依頼試験等)は大学の研究としては取り

組みづらい場合もありますので、公設試験研究機関に相談した方がよいでしょ

う。

 また、公設試験研究機関では、地域産業に関連する技術等について研究会や

発表会を実施しているところも多いので、産学官の交流の場や、情報収集の場

として活用することができます。

【連携先の大学等への支払い費用の目安】

連携先の大学等への支払い費用の目安は、下記のようになります。

• 技術相談:無料~数万円

• 共同研究、受託研究:数百万円程度

• 大学への研究員派遣:半期で数十万円程度

なお、上記はあくまで例であり、対応内容や金額等は、機関やプロジェクトによっ

て異なります。

 連携方法の具体的なものには、以下のようなものがあります。

① 技術相談

 大学や公設試験研究機関では、無料または有料で、企業が抱えている課題に

対して、問題解決に必要な情報の提供、大学等の研究者の紹介、活用可能な技

術シーズの紹介等を行っています。技術相談には、産学官連携の入口としての

位置づけもあります。なお、技術相談の窓口での対応の中身や費用は機関ごと

に異なるので、それぞれの機関で確認して下さい。

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手順編

② 技術指導

 自社の抱えている課題について、大学や公設試験研究機関の研究者がもって

いる知見から、技術的な指導(有料)を受けることができます。

 民間企業での技術指導を大学の研究者が行う場合には、研究兼業の形を取る

のが一般的です。研究兼業は、大学の研究者が大学に籍を置きながら、企業と

雇用契約を結ぶものです。本業の研究活動に影響が出ないよう、就労できる時

間に制限があります。対価として研究者個人にお金が支払われ、研究者の使途

は自由です。研究兼業を行うためには、研究者は大学に申請を出す必要があり

ます。また、研究兼業の場合、大学の研究施設を利用することはできません。

③ 共同研究

 大学と民間企業が、対等の立場で研究を行うために作られた制度です。また、

企業等と大学が、それぞれの施設で分担して研究を行うこともできます。共同

研究のパターンには、①企業から大学に共同研究員を派遣するかどうか、②大

学が直接経費(備品費、消耗品費等)を負担するかどうかの組み合わせがありま

す。共同研究にあたっては、企業と大学が共同研究契約を結びます。

 企業が大学に共同研究員を派遣する場合、企業は大学に1人あたり年額50万

円程度の研究料を支払います。また、間接経費(大学の維持管理に係る経費等)を、

直接経費に一定の料率をかけて納めるのが一般的です。

 共同研究において生じる特許等の知的財産は、発明に対する貢献度に応じて

共有します。特許を共同出願する場合の費用は、特許の持ち分に応じて負担す

るのが一般的です。

 また、大学との共同研究の研究成果は、公表が原則となります。研究成果に

関する特許申請との兼ね合いで必要な場合は、共同研究契約書の中で成果を非

公開にする期間を取り決めておきます。

 なお、大学の場合、11月くらいまでに共同研究等の相談ができると、新年度

からの研究スケジュールに組み入れられやすいと考えられます。

④ 受託研究

 企業からの受託を受けて、大学や公設試験研究機関が本務として研究し、成

果を委託者である企業に報告するもので、企業からの研究者の派遣は必要あり

ません。

 大学の場合は、受託研究の内容が大学の教育上有意義で、大学の教育研究に

支障がない場合にのみ認められます。受託研究にあたっては、企業と大学が受

託研究契約を結びます。大学の受託研究では、研究経費は企業の負担となりま

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手順編

すが、研究成果として発生した特許等の知的財産は大学に帰属するのが一般的

です。企業は直接経費の他に、直接経費の総額の10~30%に相当する額を「間

接経費」として負担するのが一般的ですが、間接経費の料率は大学によって異な

ります。

 公設試験研究機関の場合、当該機関の担当者と相談の上で研究申請書を提出

し、審査を受けて委託するのが一般的です。研究成果として発生した特許等の

知的財産は、発明への貢献度によって、公設試験研究機関職員や委託企業の従

業者に帰属します。

⑤ 奨学寄付金

 奨学寄付金は、学術研究や教育の充実等のために、大学が企業から受け入れ

る寄付金です。奨学寄付金については一般に、研究の目的を指定したり、特定

の研究者を指名したり、簡単な研究報告を求める等の条件を付けることもでき

ます。企業が大学に奨学寄付金を納入する場合、大学の研究者を通じて学長宛

に申込書を提出し、審査を受けることが一般的です。

 奨学寄付金は、手続きが簡便である、複数年度をまたがって利用できる等の

メリットがあり、受託研究に近い形で産学連携に利用されている場合がありま

す。しかし、原則として、奨学寄付金を受けた研究で生じた特許等の権利は大

学に帰属し、企業は成果の還元を求めることはできません。

 なお、企業は奨学寄付金について、税法上の優遇措置を受けることができます。

⑥ 依頼試験

 公設試験研究機関では、一般に「依頼試験」という名称で、公設試験研究機関

がもっている試験・計測機器を活用し、企業から持ち込まれた材料等に対する

分析・試験・測定等を有料で実施しています。依頼試験で対応できる内容は、

機関ごとに異なります。

 大学でも、大学が有する高度な試験・計測機器を用いて、分析・試験・測定

等の技術サービスを行っているところがあります。

⑦ ライセンシング

 大学や公設試験研究機関、TLO等が特許等の知的財産権を取得している技術

については、企業が特許権者に合意した対価を支払うこと等により、その権利

を実施する権利(製作、使用、販売等)を得ることができます。

 なお、大学の研究者が発明した技術でも、特許権者が研究者本人ではなく大

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手順編

学やTLOになっている場合は、特許権者からの実施許諾を受けることが必要で

す。

【特許導入のパターン例】

 大学等の技術シーズには、技術を保護するために特許化されているものがありま

す。企業が、他者が特許権をもっている技術シーズを導入するパターンには、以下

等があります。

• 特許権の実施許諾を受ける

 特許権者に対価を支払って、特許発明を実施する権利(実施権)を得ます。実施

権は、通常実施権(特許権者や、複数の人や企業も当該特許を実施可能)と専用実

施権(特許権者や、他の人や企業は当該特許を実施できない)に大別されます。

• 特許権の譲渡を受ける

 特許権の権利の全部、または一部を特許権者から譲り受けます。一部を譲り受

ける場合は、特許を特許権者と共有する形になります。

⑧ 研究設備等の利用

 大学や試験研究機関等には、一部の研究設備等を、当該機関が研究等に使用

していない時間帯について、企業に有料で貸してくれるところがあります。

 なお、産学連携の手法には、企業が社員を「受託研究員」として大学に受け入

れてもらい、この受託研究員が大学教官から大学院レベルの研究指導を受ける

方法もあります(費用は、半期で25万円程度)。すぐに共同研究を開始するのが

難しいと考えられる場合に、受託研究員を派遣して共同研究の下準備をするこ

とも考えられます。

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産学官連携による研究開発成果の事業化までの展開や、支援施策等について紹介します。

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展開編

(1)調査・企画から事業化までの流れ

 新製品・技術の事業化を目的として産学官連携による研究開発を行う場合は、

調査・企画から事業化までの一連の展開を念頭において、取り組みを進めましょ

う(図表 26)。

 特に、調査・企画や事業化の部分は、企業がビジネスの経験を生かして主体

的に進めることが期待される部分といえます。

調査・企画から事業化までの大まかな流れ

調査・企画から事業化までの展開企業における産学官連携の目的には、既存製品についての品質向上や生産性向上など様々

なものがあり得ますが、新製品・技術の事業化は代表的な目的といえます。産学官連携

による研究開発成果の事業化を想定し、調査・企画から事業化までの展開について紹介

します。1図表 26

調査・企画 研究開発 事業化

事業企画

産学官連携の可能性調査

冊子・データベース

コーディネータ等

新聞記事等

テクノフェア等

ネットワーク組織

産学官連携による研究開発

技術相談

研究設備の利用

依頼試験

ライセシング

技術指導

販路開拓

マーケティング

生産体制共同研究

受託研究

技術調査

製 品 化

商 品 化

市場調査

特許等権利化

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展開編

(2)調査・企画

 産学官連携を行う場合でも、企業活動における一般の事業化と同様に、よい

事業企画を作成することが事業化の成功につながっていきます。事業企画を立

てるためには、事業化のターゲットとなる市場についての市場調査や、研究開

発を行おうとする領域についての技術調査を実施します。

① 市場調査

 事業化を目指した研究開発に着手するにあたっては、研究開発のための投資

額に見合った新製品・技術の市場シェアを確保できるかどうかが重要なポイン

トになります。自社の既存事業との関わりで熟知している市場で新製品・技術

の開発ターゲットを設定できれば、市場予測の確実性の点、販路開拓のしやす

さの点でメリットがあります。社内に知識や情報が少ない市場に新規参入しよ

うとする場合には、市場調査や販路開拓等の部分で、当該市場でのビジネスに

詳しい企業等の協力を得ることも検討すべきかも知れません。

 また、新製品開発に必要な期間を想定し、その間の市場の変化を予測するこ

とも重要です。発売にあたって許可を受けることが必要な製品(例:医薬品、医

療機器(医療用具))では、場合によって事業化までに長期を要するケースがあり

得ますので、特に注意が必要です。

 なお、市場調査に使うデータを得るには、国が発表している統計資料(例:経

済産業省「工業統計表」)の活用、調査会社のレポート購入(10万円程度)、調査

会社等への調査依頼(有料)等の方法があります。

② 技術調査

 技術調査は、自社が開発しようとする新製品・技術について、新規性や有用性、

発明が成功した場合の実施可能性等を確認し、無駄な研究開発を防止するため

に実施します。 

 技術調査の中心となるのが特許調査で、自社が開発しようとする新製品・技

術に関して先行特許調査を行い、競合する特許がないか調査します。また、自

社が開発しようとする新製品・技術について、①時系列でみた出願件数の変化(増

加は注目度が上がっている、減少はその反対と推測することが可能)、②特許出

願している企業の特徴(企業規模でみて、大企業が多いかどうか、中小企業の参

入事例があるかどうか)をみて、有用性を判断します。また、特許調査は、調査

機関や特許事務所等の専門家に、有料で依頼することもできます。

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展開編

【技術調査にあたって無料で活用可能な情報源の例】

• 特許情報活用支援アドバイザー

 中小企業等を対象に、先行技術調査の方法など特許情報の活用に関する相談・

指導を行っています。「特許情報活用支援アドバイザー一覧」から、最寄りのアド

バイザーに連絡をとることができます。

(http://www.ryutu.inpit.go.jp/ptpadv/index.html)

• 独立行政法人工業所有権情報・研修館「特許電子図書館」(インターネット)

 特許庁が保有する特許・実用新案・意匠・商標の情報のデータベースが、無料

で検索できるように公開されています。平成5年以降の公開公報については、初

心者向けの検索ツールも提供されています。

(http://www.ipdl.inpit.go.jp/homepg.ipdl)

• 経済産業省「技術戦略マップ2008」(インターネット)

 新産業を創造していくために必要な技術目標や、製品・サービス・コンテンツ

の需要を創造するための方策が示されています。産学官連携による事業企画を作

成する上でも、参考にすることができます。

(http://www.meti.go.jp/policy/economy/gijutsu_kakushin/kenkyu_kaihatu/str2008.html)

③ 事業企画

 市場調査や技術調査の結果を踏まえ、完成した新製品・技術の販売に携わる

ことになる社内の営業部門とも相談しながら、産学官連携によって実現しよう

とする事業の企画を作成しましょう。

 事業企画で策定すべき内容は、通常の新製品開発と基本的には同様で、①事

業コンセプト(事業の目的、新製品・技術の競争優位性、ターゲット市場、市場

規模、将来性)、②事業戦略(産学官連携による研究開発、調達、販路、生産体制、

スケジュール)、③財務計画(販売計画、新製品開発への投資計画、資金計画)等

になります。

④ 産学官連携の可能性

 産学連携は、基礎研究から事業化までの色々なレベルで実施することが可能

ですが、基礎研究ほど大学の役割が高く、事業化に近づくと企業の役割が大き

くなるのが一般的です。

 公設試験研究機関では、大学より企業における実用化に近い研究が多いので、

企業の生産ラインで発生しているような技術的な課題の解決には、公設試験研

究機関が適しているものがあります。

 自社が求める成果の内容に応じて、連携先を選択しましょう(産学官連携によ

る研究開発のための具体的な連携先を選ぶ方法については、「Ⅱ .1.大学や公設

試験研究機関等との連携手順(p.28)」を参照)。

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展開編

(3)研究開発

 共同研究を実施している企業では、研究開発成果を事業化した時の販売目標

額を設定し、その中から共同研究への投資可能額を算出して、取り組み内容を

決定する等しています。新製品・技術の開発においては、様々な部分・レベル

で産学官連携を活用することが可能です(例:技術相談、依頼試験、共同研究)。

連携を希望する大学や公設試験研究機関等に自社の連携目的を示して、目的を

実現するのに適した連携方法を見つけて下さい(「Ⅱ .2.産学官連携の様々な方

法(p.35)」を参照 )。

 また、産学官連携により生み出した新製品は一般に、発売元となる企業を中

心に安全性や耐久性などを確認し、品質保証を行って、商品として完成させて

います。発売後にはアフターサービス等も必要となりますので、企業は研究開

発を通じて新製品・技術に関する知識・情報を社内にしっかり蓄積しましょう。

 なお、企業単独にせよ、産学官連携にせよ、新たな製品や技術の開発には予

測不可能な部分があり、試行錯誤がつきものです。途中で研究開発をあきらめ

るようなことが起きないよう、できれば余裕をもって研究開発資金を準備しま

しょう。そのためには、研究開発における補助金・委託費等の活用を併せて検

討するとよいでしょう(「Ⅲ .3.支援施策・機関の活用方法(p.48)」を参照)。

(4)事業化

 事業企画の段階で、生産・販売・マーケティングをどのように行うかを想定

しておき(「(2)③事業企画(p.42)」を参照)、研究開発の熟度をみながら、販

路開拓や生産開始に際して必要となる資金の調達等、事業化のための準備を進

めておきます。また、研究開発の状況に合わせ、適宜、計画の見直しを行って

おきましょう。製品化が完了したら、それらの事業化のための計画の実行に着

手しましょう。

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展開編

契約、知的財産の取り扱い等の手続き大学や公設試験研究機関、産業支援機関等では、産学官連携窓口の整備が進んでいます。

契約や知的財産取り扱い等の産学官連携の上で必要な諸手続きは、各機関の産学官連携

窓口と相談しながら進めることができるため、以下ではポイントのみ紹介します。2(1)技術やアイディアに関する重要な話をする前に、守秘義務を課しましょう

 産学官連携にあたっては、交渉の材料として必要な情報を相互に開示し、ニー

ズを満たしているかどうかを確認していきます。連携のための交渉過程で、重

要な技術情報等が外部に流出したり、他の目的に流用される心配がないよう、

準備をしてから交渉に入りましょう。産学官連携に際して、お互いが事業企画

や研究内容等に関する話をする前には、守秘義務契約書を取り交わすようにし

ましょう。

 なお、実際に産学官連携により研究開発を行う中での守秘義務は、共同研究

契約書や受託研究契約書に守秘義務条項を盛り込むのが一般的です。

 また、企業側または大学や公設試験研究機関等の側が、一方的に情報を相手

に開示する場合は、情報を開示する相手に対して守秘義務誓約書の提出を求め

ることもあります。

(2)産学官の合意事項を契約書等の形にまとめてから、研究開発を実施します

 大学や公設試験研究機関等との連携では、双方の利害が関わる重要な内容を

扱うため、実施内容について事前に十分な相談・交渉をして、合意事項を契約

書等(例:共同研究契約書、受託研究契約書)の形にまとめてから、研究開発を

実施します。

 また、大学の場合、産学連携の契約は、企業と研究者が所属する大学との間

で締結することが一般的です。したがって、交渉の早い内から大学側の契約担

当者にも同席してもらうと、大学内での事務手続きがスムーズに進みます。

 なお、産学官連携の担当者や大学側の契約担当者等から、契約書等の内容を

説明をしてもらうことができますので、企業の側でも中身をよく検討し、わか

らない点については遠慮なく確認するようにしましょう。

【学生の守秘義務について】

 産学官連携では、学生に共同研究等に参加してもらう場合がありますが、学生に

ついては原則として、 教育・研究の一環として研究に参加してもらうものと考える

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展開編

のがよいと思います。学生は、大学の雇用者である教員とは異なり、一般的に、研

究内容について守秘義務が課されていません。しかし、学生が卒業後、ライバル企

業に就職する可能性がないとは言えません。また、学生では、共同研究等に参加す

る際、研究業績となる論文発表をしたいと考える場合もあると思います。

 したがって、企業では、研究内容の秘密保持の必要性に応じて、学生に共同研究

等に参加してもらうことが適当かを考える必要があります。また、学生に共同研究

等に参加してもらう場合には、学生に何らかの形で秘密保持を課す方法があるか(例:

大学の研究者から学生へ秘密保持を指導してもらう、プロジェクトで学生を雇用し

て雇用契約(守秘義務含む)を結ぶ)、事前に大学側と話し合っておきましょう。

(3)産学官連携で生じやすい問題は、事前の準備や、相談等で解決しましょう

 産学官連携を進める上で生じやすい問題と、その解決方法を紹介します。

① 自社に活用可能な技術シーズが見つからない

産学官連携や特許に関するコーディネータ等に相談をする

 大学や公設試験研究機関、産業支援機関から技術シーズや研究者等に関する

情報提供が行われていますが、自社に活用可能な技術シーズが見つからないと

思われる場合もあるかと思います。例えば、「中部の技術シーズ(「Ⅱ .1.(2)

①冊子・データベースを探す(p.29)」を参照)」の中では技術シーズの用途が提

案されていますが、それ以外にも活用可能性があります。自社が抱えている課

題について産学官連携に関するコーディネータ、アドバイザー等に相談すると、

自社とは異なった観点から活用可能な技術シーズをマッチングしたり、大学や

公設試験研究機関が研究の中で活用している試験・計測技術等を紹介したりし

てもらえる可能性があります。このように、技術シーズや研究開発に関する幅

広い知見や経験を有するコーディネータ等に相談することで、技術的な問題・

課題の解決の可能性が高まることがあります(コーディネータの支援内容につい

ては、「Ⅱ .1.(3)②コーディネータ等の活用(p33)」を参照)。

② 大学等にお願いできることや、そのための手続きがよくわからない

研究者の所属機関窓口やコーディネータ等に相談をする

 様々な情報源から自社にとって興味のある研究者を見つけた際、面識のない

研究者にいきなり連絡する前に、自社の問題意識やイメージと、連携を想定し

ている研究者が適合しているかどうか、大学や公設試験研究機関、産業支援機

関等の窓口やコーディネータ等に相談をしてみましょう。

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展開編

 また、産学官連携に関するコーディネータ等からは、産学官連携にあたって

注意すべき点、予算の目安、必要な手続き等についての情報を得ることができ

ます。

 さらに、実際に産学官連携を開始してからも、困ったことが出てきた場合には、

産学官連携に関するコーディネータ等に相談すると解決しやすいと考えられま

す。

③ 事業化までに時間がかかる 

そのままで製品になる技術シーズはないものと心得る

 通常、大学や公設試験研究機関の技術シーズは、重要ではあっても、製品化

のために必要となる要素の一部です。大学や公設試験研究機関から技術シーズ

等を導入してから、企業側での補完的な技術開発や、産学官連携による共同研

究等を行って、発売可能な製品として完成させるのが一般的です。技術シーズ

によって異なりますが、商品化までには数年程度の期間がかかるのが普通です。

自社が何年でどんな成果をあげたいのかという希望を明確にして、目的に合っ

た技術シーズを導入しましょう。

 技術シーズの事業化に必要な期間は様々なので、研究者ともよく相談の上、

事業化までに必要な時間を見積もって取り組むようにしましょう。

 

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展開編

④ 利益のあがる画期的な成果が得られない

実現可能な目標を明確にして、企業が主体的に取り組む

 産学官連携により、何をいつまでに実現したいのか、具体的な目的や目標を

明らかにし、連携を希望する研究者とよく話し合った上で、産学官の合意によっ

て、実現可能な目標を設定してから研究開発に着手しましょう。企業から研究

者に一方的に過大な期待をもったり、研究者に研究開発を任せきりにしたりせ

ず、自社で目標を実現するとの認識をもって進めていきましょう。

⑤ 研究者とのコミュニケーションが上手く行かない

折りに触れて相互の意向を確認しながらプロジェクトを進める

 産学官連携を成功させるためには、折りに触れて話し合う機会をもち、企業

と研究者がプロジェクトの進捗やお互いの意向等を確認しながら、取り組みを

進めましょう。

 また、産学官連携の中での話し合いでは、議事録を作成し、双方で内容を確

認して、記録を残しておくようにしましょう。

⑥ プロジェクトの方向性について研究者と考えがかみ合わない

産学官連携に関するお互いの考え方をよく理解してから連携する

 大学の使命は、従来、教育・研究とされてきました。近年、産学官連携によ

る社会貢献が明確に求められるようになりましたが、研究者や研究分野・内容

によって、産学官連携の実施状況にはまだ差があります。したがって、産学官

連携を開始する前には、コーディネータ等を通じて連携を希望する研究者の取

り組み意向を確認するとともに、事前に研究者と産学官連携に期待する内容を

よく話し合っておきましょう。

 また、産学官連携を進める中では、各メンバーの立場や目的に違いのあるこ

とを認識した上で、それぞれの目的が達成されるように協力し合える信頼関係

を構築することが必要です。

 なお、最初から自社にとって理想的な技術シーズや研究者に出会えるとは限

りませんが、あきらめずに可能性を探してみましょう。

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展開編

支援施策・機関の活用方法中小企業等が、産学官連携において活用可能な支援施策や、相談窓口を紹介します。3

(1)中小企業等が研究開発や事業化等の際に活用できる支援策があります

 産学官連携については、研究開発だけでなく、事業化や販路開拓の各段階につ

いて、中部経済産業局をはじめ、自治体や公設試験研究機関、産業支援支援機関

が、中小企業向けの支援策を提供しています(図表 27)。産学官連携の実施に際

しては、プロジェクトのどの段階でどのような支援策を活用するか、産業支援機

関や、大学の産学官連携に関するコーディネータ等に相談してみましょう。

提案公募型技術開発事業を活用した事業化展開のモデル例

① 補助金や委託費を得る(提案公募型開発事業)

 研究開発を実施するにあたり、目的に応じた提案公募型開発事業を選んで提

案書を作成し、評価委員会での審査を経て採択されると、補助金や委託費を得

ることができます(図表 28)(「Ⅲ .3.(2)目的に合わせて、補助金や委託費を

活用しましょう(p.50)」を参照)。

図表 27

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展開編

イノベーション施策の例(実用化技術開発支援)

② 特許料の減免を受ける

 資力に乏しい法人、研究開発型中小企業等は、要件に応じて、審査請求料お

よび特許料の軽減または免除等の措置を受けることができます。

③ 税金の減免を受ける

 大学との共同研究、受託研究、奨学寄付金に要した費用については、税制上

の優遇措置を受けることができます。

④ 融資を受ける

 補助金を使った研究開発事業を実施する企業に対して、融資を行う制度があ

ります(産業クラスター計画のつなぎ融資)。

 また、研究開発成果の事業化のための設備機器等への投資に対しても、融資

を行う制度があります(政府系金融機関からの融資)。

図表 28

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展開編

⑤ 展示会等に出て PRする

 産学官連携による研究開発等の成果をPRし、開発した商品の販路拡大等を図

るために、展示会、発表会、商談会等を利用することができます。

【例:支援施策についての情報源】

• 中部経済産業局「中小企業向け研究開発支援」(インターネット) 中部経済産業局、愛知県、岐阜県、三重県、富山県、石川県および各県支援セ

ンター、独立行政法人、財団法人が実施している補助事業及び助成事業を探すこ

とができます。

(http://www.chubu.meti.go.jp/technology/page/support_past.htm)• 中部経済産業局「中部知的財産戦略本部」(インターネット) 知的財産に関する相談会等の開催情報や、知的財産に関する支援施策(例:特許

料等の減免措置)等を探すことができます。

(http://www.chubu-chizai.jp/)• 中小企業庁「中小企業施策利用ガイドブック」(インターネット、冊子) 中小企業の方が中小企業施策を利用するための手引書として、主な施策の概要

がニーズ別に紹介されています。

(http://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/g_book/index.html)

(2)目的に合わせて、補助金や委託費を活用しましょう

 研究開発に対する代表的な支援施策の1つである補助金と委託費について、

効果や留意点、選択のポイント等を紹介します。

① 補助金や委託費の効果と留意点

 補助金や委託費の活用にあたって、効果と留意すべき点を整理します。

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展開編

研究開発費が軽減できます

 研究開発費は、製品を発売するまでの間は先行投資になります。補助金また

は委託費によって、研究開発費を軽減することができ、将来の収益源となりう

る自社独自の技術や製品開発に着手しやすくなります。

企業の知名度が高まります

 補助金や委託費を受けるためには、提案書を作成し、審査を経て採択される

必要があります。一般に、補助金や委託費を受ける産学官の名前は公表される

ため、公募事業が採択されることで企業の知名度が高まります。また、周囲の

企業等から、研究開発プロジェクトを提案し、実行する力をもつ企業とみなさ

れるようになります。

 さらに、会社をみる周囲の目が変わると、従業員が誇りをもって仕事をする

ようになる等、間接的なプラスの効果が生じることもあるようです。

研究開発のためのメンバーが集めやすくなります

 産学官連携に多くの産学官を仲間に入れて取り組みたい時には、公募事業に

した方が、色々なメンバーに声をかけやすくなり、様々な産学官の協力も得ら

れやすくなります。

事務作業が発生します

 補助金や委託費を申請する際には、規定のフォーマットにしたがって、必要

な提出書類を作成しなければなりません。

 補助あるいは委託事業が完了した際にも、完了報告書等の必要書類とともに、

補助金や委託費を支払ってもらうための精算手続き(例:支出内訳書の提出、関

連する帳簿およびエビデンス等の会計書類についての検査)を行わなければなり

ません。また、エビデンス等の会計書類に不備がある場合には、支払ってもら

うことができません。

 上記の手続きに関連し、会社の事務・経理の担当者でも、事務作業が発生し

ます。

精算払いの場合は、立て替え払いが必要です

 補助金や委託費は、事業完了後の精算手続きを経て、企業にお金が支払われ

ます。したがって、それまでの間は、補助金や委託費が充当される予定の費用も、

企業が立て替えておく必要があります。

 なお、必要な場合に中間払いを認める補助金等もありますが、一般に、一定

期間の立て替え払いが発生します。 

研究計画を遵守する必要があります

 補助金や委託費は審査を受けて採択されているため、提案書に書いた計画に

したがって、事業を着実に実施することが求められます。予定していた研究を

a) 効果

b) 留意点

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展開編

止めたり、申請とは異なる機材を買ったりといった変更は、基本的にはできま

せん。

履行すべき義務を伴う場合があります

 事業化が失敗した場合のペナルティ、事業化利益による事業費の返金、事業

終了後のフォローアップ調査への協力等、実施した事業の成果に対して一定の

義務を伴う場合がありますので、事前に確認しておきましょう。

 また、補助金や委託費で購入した機械装置は、事業終了後に自社の財産にす

ることはできませんし、処分の方法に制限があります。

② 目的に合った補助金や委託費を選びましょう

 補助金や委託費には、図表 28に示したようにたくさんの種類がありますの

で、それぞれの特性を理解して活用する必要があります。

 補助金は、企業が主体となって実施する研究開発事業を補助するものです。

したがって、研究開発の成果として得られた知的財産権も、補助事業の中で取

得した装置等の財産所有権も、企業に帰属します。補助事業を実施した後の機

械装置等は、生産の目的に使用することはできませんが、継続する研究開発の

ために使用できる場合があります。

 委託費は、国等が企業に研究開発事業を委託するものです。しかし、委託事

業の中で得られた研究開発成果等の知的財産は、企業に帰属します。ただし、

委託事業の中で取得した装置等の財産所有権は国に帰属します。したがって、

委託事業が終了した後、装置等を継続して企業が利用するためには、無償貸付

や財産処分等の手続きが必要になります。

 産学官連携に対して補助金や委託費を出している省庁、自治体や機関は多数

あります。それぞれの機関における所管事業の概略を理解すると、補助金や委

託費を探しやすくなります。

• 経済産業省は、主に産業振興の観点から、企業を主な対象として支援してい

ます。

• 文部科学省は、主に学術振興の観点から、大学や研究機関を主な対象として

支援しています。

• 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、経済産業省

所管の独立行政法人で、新エネルギー技術、省エネルギー技術、環境破壊対

策技術の研究開発を促進するため、産学の研究開発を支援しています。

• 独立行政法人科学技術振興機構(JST)は、文部科学省所管の独立行政法人で、

大学の技術シーズを活用した事業化等を支援しています。

b) 機関別の特徴

a) 補助金と委託費の

違い

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展開編

• 自治体は、地域産業の活性化を図るため、地元企業を対象として、各種の支

援を行っています。

③ 補助金や委託費の選択ポイント

 補助金や委託費の選択にあたっての主なポイントを、以下にあげます。なお、

補助金や委託費の選択に困る場合は、補助金や委託費を公募している機関や、

産学官連携コーディネータ等に相談しましょう。

 補助金や委託費に応募する上でもっとも重要なのは、研究開発のステージ(基

礎研究、応用研究、実用化研究、実用化)です。その事業の公募要領を見たり、

産業支援機関やコーディネータ等に相談したりすることによって、その事業が

基礎研究に近い部分を支援しようとしているのか、技術シーズを実用化する部

分を支援しようとしているのか、研究開発のステージ上の位置づけを把握しま

す。一般に、基礎研究に近いものは大学中心、実用化研究に近いものは企業を

中心に支援がなされています。

 なお、産学官連携により提案書を作成する場合には、各機関が協力して提案

書を作成しますが、各機関の業務上の特徴を生かして、研究・技術の内容につ

いては研究者が、市場予測や販路については企業が、それぞれ中心となって申

請書を書くことが多いようです。

 補助金や委託費は、200万円以下から1億円を越えるものまで、それぞれ受

けられる金額が異なります。研究開発課題の予算規模に合った、補助金や委託

費を選択します。

(3)大学や公設試験研究機関等の相談窓口

 企業から産学官連携に関する相談ができる、代表的な窓口を紹介します。

① 大学における産学官連携の窓口

 国立大学法人や公立大学には、それぞれ産学官連携推進本部や共同研究セン

ター等の産学官連携の窓口となる組織が設置されています。企業が「中部の技術

シーズ(「Ⅱ .1.(2)①冊子・データベースを探す(p.29)」を参照)」等を見て関

心をもった大学やその研究者について問い合わせる場合は、まずは当該大学の

産学官連携推進本部または共同研究センター等に連絡するのがよいでしょう。

 また、大学の産学官連携推進本部や共同研究センター等には文部科学省産学

a) 基礎研究に近いのか、

製品化に近いのか

b) 取り組もうとしてい

る研究開発の予算規

模はどの位か

a) 産学官連携推進本部、

共同研究センター

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展開編

官連携コーディネータが配置されている場合があり、技術相談や大学研究者の

紹介等、産学官連携に関する支援に対応しています。

 私立大学の場合も、産学官連携センターなど大学によって呼称は異なります

が、企業等からの照会に応じる窓口があり、産学連携に関する相談に対応して

くれます。

 TLOは、大学や研究者等の依頼を受けて研究成果を特許化し、それを民間企

業等へ技術移転する法人です。TLOは、大学や研究者等から委託を受けた技術

シーズについての情報提供や技術移転、企業からの技術相談に対する大学研究

者等専門家の斡旋、会員向けの知財情報提供等、大学から企業への技術移転に

関連した各種サービスを実施しています。

【技術移転機関(TLO)の一覧】

• 大学技術移転協議会の会員名簿(TLO)

 TLOは、大学技術移転協議会の会員名簿で知ることができます。

 (http://www.jauiptm.jp/member/member.html)

② 公設試験研究機関における産学官連携の窓口

 公設試験研究機関では、技術の実用化研究に近い部分で、地域の中小企業等

の技術力の高度化に資する各種支援(技術相談、技術指導、依頼試験、受託研究、

研究設備の貸与等)を行っています。

 企業からの相談の受け付け窓口の名称は機関によって異なりますが、公設試

験研究機関の代表電話に連絡し、担当者に回してもらうとよいでしょう。

【産学官連携に関する連絡先一覧の例】

• 中部技術開発支援団体会議「中部の技術シーズ:中部地域の産学官連携窓口」

 中部の技術シーズには、主な中部地域の大学や公設試験研究機関について、産

学官連携に関する問い合わせ窓口が掲載されています。

(http://www.chubu.meti.go.jp/technology/hp/chapter4/index.html)

b) 技術移転機関

(TLO)

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付 録産学官連携に関するキーワード

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付録

 共同研究や受託研究で企業が支払う経費の1つです。間接経費は、

研究のために使用される大学の教育研究用の組織や設備の維持管理

等のために使われる費用です。(「直接経費」を参照)

 国の公募事業では、共同研究の参加メンバーをまとめ、プロジェ

クトの管理等を行う主体として、管理法人の参加を求められるもの

があります。経済産業省の公募事業における管理法人とは、研究実

施プロジェクトの運営管理、共同研究体構成員相互の調整を行うと

ともに、財産管理(知的財産権を含む)等の事業管理および研究開発

成果の普及等を主体的に行う母体となる機関です。また、国との委

託契約における受託者として、契約責任を有します。

 管理法人の役割を担当するのは、地域の産業支援機関等の場合が

多くなっています。

 TLOとは、Technology Licensing Organizationの略です。技

術移転機関は、大学等の研究者の研究成果を特許化し、それを有償

で民間企業等へ技術移転する法人です。TLOは、受け入れる技術シー

ズを評価し、技術シーズとしての利用価値を高めるための提案やマッ

チング等の活動を行っています。技術移転によって得られた収益の

一部は、新たな研究資金として大学等に還元されます。TLOには、

複数の大学からの技術移転を行っているところと、特定の大学から

の技術移転を行っているところ等があり、それぞれ業務範囲が異な

ります。

 共同研究/受託研究を実施するに際し、その概要を定めるもので、

研究開発の内容および工程、特許等知的財産権の帰属(共有にするか

どうか)、知的財産権の取り扱い(大学等が単独出願する特許の場合:

優先的実施期間(「優先的実施期間」の項を参照)、共同出願特許する

特許の場合:第三者が特許を実施することを認めるかどうか(「不実

施補償」の項を参照))、秘密保持、研究成果の取り扱い(学会発表等

の実施について)等を取り決めます。

 なお、共同研究や受託研究を実施する場合の秘密保持については、

秘密保持契約書を締結する場合もあり、機関によって異なります。

 専用実施権は、その特許を独占的に実施することができる権利で

す。専用実施権を受けた企業は、特許侵害行為の差し止めを求める

間接経費

管理法人

技術移転機関(TLO)

共同研究契約書/受託研究契

約書

専用実施権

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57

付録

ことができます。また、特許権者も、専用実施権が設定された特許

を実施することはできません。専用実施権は、特許権者との契約後、

特許庁に登録することで効力が発生します。(「通常実施権」の項を

参照)

 共同研究や受託研究で企業が支払う経費の1つです。直接経費は、

研究遂行のために使われる費用で、消耗品費、設備購入費、水道光

熱費、謝金、旅費等が含まれます。(「間接経費」の項を参照)

 通常実施権は、その特許を実施する(特許を使った製品の製造・販

売等)ことのできる権利です。特許権者も、当該特許を実施すること

ができます。特許権者は、複数の相手先に通常実施権を設定するこ

とができます。

 また、通常実施権を特許庁に登録すると、特許権が他者に譲渡さ

れたり、その後に専用実施権が設定されたりした場合にも、登録し

た通常実施権の効力が保障されます。(「専用実施権」の項を参照)

 産業活力再生特別措置法第30条を指します。我が国では従来、政

府の委託研究を通じて得られる知的財産権については、国に100%

帰属することとなっていました。

 しかし、平成11年10月から、米国バイドール法(昭和55年施行)

を参考とし、3つの条件を受託者(民間企業・大学・研究機関等)が

約した場合に、各省庁が政府資金を供与して行っている全ての委託

研究開発(特殊法人等を通じて行うものを含む)から派生した特許権

等の知的財産権を100%受託者が譲り受けることができるようにな

りました。受託者が約すべき3つの条件は、「ⅰ ) 研究成果が得られ

た場合には国に報告すること、ⅱ ) 国が公共の利益のために必要が

ある場合に、当該知的所有権を無償で国に実施許諾すること、ⅲ )

当該知的所有権を相当期間利用していない場合に、国の要請に基づ

いて第三者に当該知的所有権を実施許諾すること」です。

 知的財産権に関する用語では、工業技術に関連する秘密情報をノ

ウハウと言います。ノウハウは、モノや材料を作る上で必要な価値

のある技術情報ですが、特許とは異なり、外部に知られないように

して守るものです。ノウハウとするために特に手続きは必要なく、

秘匿されている限り(守秘義務を課す等して第三者に開示することは

直接経費

通常実施権

日本版バイドール規定

ノウハウ

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58

付録

可能)、期間の制限なく保護されます。しかし、他者が独自に開発し

た場合や、不特定の他者に知られてしまった場合には、権利を主張

することができません。

 なお、ライセンシングや共同研究等において、大学等から導入す

る技術や特許等にノウハウが伴う場合、ノウハウについての使用料

を求められる場合があります。

 企業と研究者が産学官連携の実施に際しての話し合いや、実際に

産学官連携による研究開発を実施する中では、技術シーズ、研究開

発構想等の秘密情報を開示するのが一般的です。秘密保持契約書は、

話し合い、または共同研究の中で、相手先に必要な秘密情報を開示

しても不利益が生じないように、お互いが相手の秘密を守ることを

約束するものです(双務)。

 したがって、秘密保持契約書は、産学官連携の実施について話し

合う前や、実際に共同研究や受託研究を実施する前等、お互いが秘

密情報を開示することが必要な場面で事前に締結されます。

 なお、実際に共同研究や受託研究を実施する際の秘密保持は、共

同研究契約書/受託研究契約書の中の秘密保持条項で定める場合も

あり、機関によって異なります。

 重要な情報を開示する相手に対して、秘密を守ることを求めるも

のです(片務)。したがって、企業からは、相談相手に自社の新事業

企画や新製品のアイディア等の重要情報を開示する時に、相手先に

秘密保持誓約書を求めることが考えられます。また、企業が大学や

公設試験研究機関の研究者から重要な研究内容やアイディア等の重

要情報の開示を受ける場合には、先方から秘密保持誓約書を求めら

れることがあります。

 なお、産学連携に関する相談にあたって秘密保持誓約書を締結し

た場合でも、実際に共同研究や受託研究を実施する場合の秘密保持

は、共同研究契約書/受託研究契約書の中の秘密保持条項で定める

か、秘密保持契約書を締結する等の対応を行います。

 大学や公設試験研究機関は、製品の開発や製造・販売等の事業を

自ら行って特許を実施する(利用する)ことができません。そのため

大学や公設試験研究機関では、不実施補償等の名目で、共同出願特

許を排他的に実施する企業に対し、特許使用料の支払いを求めるこ

とがあります。

秘密保持契約書

秘密保持誓約書

不実施補償

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付録

 実際には、企業と大学や公設試験研究機関等がよく話し合い、特

許の内容に応じて不実施補償の有無や、料率を決めることになりま

す。

 大学等との研究成果を事業化するためには、企業による補完的な

研究開発を必要とする場合があります。そのため、共同研究の成果

である特許権等について、一定の期間は、大学等自身が実施しない

こと、共同研究の参加企業または参加企業の指定する者が優先的に

実施できることを取り決めるのが一般的です。これを優先的実施期

間といい、特許等を出願したときから10年を超えない範囲内を、共

同研究や受託研究の契約書で定めます。

優先的実施期間

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M E M O

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表3 白

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「ここからはじめる!産学官連携」発行:経済産業省中部経済産業局地域経済部

新規事業課産学官連携推進室

〒460-8510 名古屋市中区三の丸2丁目5番2号

TEL: 052-951-0570