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[トランペットの基練習…の基知識](ver.1)www.satoshitakagaki.com - 1 - トランペットの基練習…の基知識 【⼀般向け】(Ver.1: 2018/5/12 作) ⾼垣 智 トランペットの基練習に関する基知識(あくまで私の考え方)をごく簡単にまとめた PDF 冊⼦です。時修や更新のされる予定ですが、現在のところ楽譜は付属していませ ん。また、当のことではありますが、これは決して唯⼀対のルールや考え方ではありま せん。ひとつの基知識・参考知識としてお役⽴ていただければ幸いに思います。 【⽬次】 トランペットで⾳を出すとは? …………………………………………………… p.2 基練習とは? ……………………………………………………………………… p.3 基練習の内容 息と呼吸 …………………………………………………………………………… p.4 発⾳の容易さ ……………………………………………………………………… p.7 バズィング ………………………………………………………………………… p.7 ⾳のセンタリングと⾳作り ……………………………………………………… p.8 ロング・トーン …………………………………………………………………… p.9 柔軟/リップスラー …………………………………………………………… p.10 タンギング ………………………………………………………………………… p.10 アーティキュレーション ………………………………………………………… p.11 ⾳域拡⼤ …………………………………………………………………………… p.11 ベンディング ……………………………………………………………………… p.12 ペダルトーン ……………………………………………………………………… p.12 ウォームアップ ……………………………………………………………………… p.13 練習の基本コンセプト ……………………………………………………………… p.15 この PDF 冊⼦は、⾼垣智が独⾃に作し、www.satoshitakagaki.com にて無料配布しているものです。ご⾃ 由にプリントアウトしてお使いください。ただし、無断での転載や転⽤はお控えくださいますようお願い 致します。

トランペットの基晸練習 …の基晸知識 - Satoshi …...[トランペットの基礎練習…の基礎知識](ver.1) -3 - 私が考える基礎練習とは次のようなものです。・頭

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[トランペットの基礎練習…の基礎知識](ver.1)www.satoshitakagaki.com - 1 -

トランペットの基礎練習…の基礎知識 【⼀般向け】(Ver.1: 2018/5/12 作成)

⾼垣 智

トランペットの基礎練習に関する基礎知識(あくまで私の考え方)をごく簡単にまとめたPDF 冊⼦です。随時修正や更新のされる予定ですが、現在のところ楽譜は付属していません。また、当然のことではありますが、これは決して唯⼀絶対のルールや考え方ではありません。ひとつの基礎知識・参考知識としてお役⽴ていただければ幸いに思います。

【⽬次】

トランペットで⾳を出すとは? …………………………………………………… p.2基礎練習とは? ……………………………………………………………………… p.3基礎練習の内容

息と呼吸 …………………………………………………………………………… p.4発⾳の容易さ ……………………………………………………………………… p.7バズィング ………………………………………………………………………… p.7⾳のセンタリングと⾳作り ……………………………………………………… p.8ロング・トーン …………………………………………………………………… p.9柔軟性/リップスラー …………………………………………………………… p.10タンギング ………………………………………………………………………… p.10アーティキュレーション ………………………………………………………… p.11⾳域拡⼤ …………………………………………………………………………… p.11ベンディング ……………………………………………………………………… p.12ペダルトーン ……………………………………………………………………… p.12

ウォームアップ ……………………………………………………………………… p.13練習の基本コンセプト ……………………………………………………………… p.15

この PDF 冊⼦は、⾼垣智が独⾃に作成し、www.satoshitakagaki.com にて無料配布しているものです。ご⾃由にプリントアウトしてお使いください。ただし、無断での転載や転⽤はお控えくださいますようお願い致します。

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まず、トランペットで⾳が出る原理を確認しておきましょう。

トランペットで⾳が出るには、① ⾳の芸術的イメージ② 息の流れ③ 唇④ 楽器の共鳴

が必要となります。

① 出したい⾳のイメージが明確にあることまず何より「どんな⾳を出したいのか」という、⾳のイメージが全てのスタートとなりま

す。「頭の中の⾳」、「頭の中にある歌」という⾔い方もできます。これには、⾳⾊、⾳の⾼さ、⼤きさ、形、ニュアンス、重み、方向性、フレーズ、等の全ての要素が含まれます。頭の中にイメージのない⾳を出すことはできません。

② ⾳のイメージを実現するための、息の流れがあること次に、⾳が実際に生じるためには、息の流れ(空気の移動)が必要となります。唇から外

へ、そして楽器の中を、空気が流れていくことが必要です。

③ 息の流れが唇の振動に結びつくことただ楽器の中を息が流れていくだけでは⾳が出ず、息の流れが、唇の振動へとつながる必

要があります。

④ 振動が楽器の共鳴となることそして、息の流れが唇と作用しながら、最終的には楽器が共鳴するということへ⾄って、

トランペットで⾳が響くことになります。

以上の流れをまとめると、

となります。この流れの順序は前後することがありません。前のものがあってこそ、後のものがあります。

⾳のイメージ(頭の中の⾳、頭の中の歌) → 息の流れ → 唇 → 楽器の共鳴

トランペットで⾳を出すとは?

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私が考える基礎練習とは次のようなものです。

・頭の中に描いた⾳が、身体と楽器を通して素直に⾳になるようにする作業頭の中にあるものをいかに⾳として実現するか。それを妨げなく素直に実現していくた

めの作業。頭の中と身体と楽器とつなげる作業。

・要素に分離してある実際に演奏される曲は、様々な技術的要素が絡むものですが、基礎練習では、要素が分離

されているため、取り組みや改善がしやすい状態になっています。

・「快適ゾーン」を広げる作業⼒ずくで無理にでも⾳を出すことを積み上げていくのではなく、快適に無理なくできる

ことの範囲を徐々に広げていく、という作業(後述練習の基本コンセプト「練習のピラミッド」参照)。

・基礎を⾼い質でなせていればいるほど、難易度の⾼い演奏が可能になる基礎練習内容は、その⼤半がシンプルで地味で易しいものですが、その中には⾼度なレベ

ルの事を実現するための軸となる要素はすでに含まれています。従って、基礎を⾼い質でなすことの追究が、⾼度なレベルの事を達成することを可能にしていくことになります。逆の⾔い方をすれば、易しい基礎の中に残る問題が、⾼度な演奏を阻む主要因であると⾔えます。⼩さな事をごまかしていると⼤きな事をごまかすことに。

・「氷⼭の⼀角」の海⾯以下の部分ステージ上で聴衆に見えるのは、氷⼭の⼀角。素晴らしいプレイヤーの演奏で聴衆に見え

る(聞こえる)部分は実は⼀部であり、見えない海⾯以下にそれを⽀える非常に⼤きく深い部分が存在しているものです。この海⾯以下に存在している⼤きな氷を育てるもののひとつが、基礎練習。

・基礎練習と演奏は同じ「基礎練習」と「演奏」は切り離されたもの・別物ではなく、同じもの。基礎練習の中で

残っている問題は、演奏に必ず出てくると同時に、基礎練習で美しくできていないものは、演奏でも美しくできません。基礎練習も常に美しく⾳楽的に。

基礎練習とは?

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■息と呼吸

・息が⾳を作る息(空気の移動)が、⾳を作る源。また、息の状態が、唇の状態やその他様々なことのバ

ランスを生み出す主軸となります。⾳、唇、⾆、その他の状態は、息ありきで成⽴するようにしておきます。

・息の状態(質)自然で効率的に⾳を生み出す、自由な⾳楽表現ができる、そのための息の状態とは?単に「息を多く使う」「もっと息を」等の雑な感覚ではなく、より丁寧なレベルで、どの

ような息の状態(質)が望ましいのかを理解する。息の質の違いによって、⾳はもちろん、唇その他の在り方が⼤きく影響されることを理解し、息の状態を向上させます。

・自然な呼吸の延⾧(拡⼤):自然でリラックスした⼤きな呼吸トランペットの演奏に必要な呼吸は、特殊なものではなく、ごく自然な呼吸の拡⼤版。⼈間の身体のつくりと動きに反することなく、リラックスした柔らかく⼤きな呼吸を基

本とします。息を強い筋⼒で押し込まなければ⾳が出ない、または特殊な呼吸をしなければならないのは、発⾳そもそもの効率が低い・バランスがおかしいからであると⾔えます。

・身体の外側の空気身体の「内側」の空気や身体そのもののコントロール・感知ではなく、身体の「外(唇か

ら先)」の空気の状態をコントロールするようにします。後者を適切に⾏えば、身体(筋⾁)は結果的に過不足ない動きをします。

「身体(筋⾁)の操作→息がうまく使える」という順序ではなく、その逆で、「息を適切にコントロールする→身体(筋⾁)はそれに見合う動きを過不足なくする」という順序。前者の考え方に基づく方法論は⼀見理にかなっているように思われますが、実際は理にかなっていないと⾔えます(下記「ペンフィールドの脳地図が⽰すこと」を参照)。

基礎練習の内容

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参考:「ペンフィールドの脳地図」が⽰すこと

(画像引用:Wikipedia)

身体の各部位につながる神経は、脳内では部位ごとに領域が割り当てられている(上図はそれを⽰す)が、胴体をはじめとした呼吸に関わる身体の部位に割り当てられた領域は⼩さく(⼀方で顔や⼿などは⼤きな領域をもつ)、従って、それらの部位は感覚フィードバックに乏しい。

つまりこれは、呼吸に関わる胴体の部位は、自ら感知できる感覚レベルが低く、自らその状態を判断して直接コントロールすることは事実上困難なことを⽰唆する。呼吸に関わるある特定の〇〇筋が今どのような状態にあるかを自分で感知し判断する事が困難であり、従って、直接的に〇〇筋をコントロールすることも困難である、と⾔うことができる。

⼀見すると理にかなっていると思われる「〇〇筋を使う」等といった意識的コントロールの実際上の無理、そのような方法論の限界を⽰唆すると⾔える。

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■息と呼吸の練習

呼吸全般を柔らかく⼤きくするための練習(⼀例)

・ブリージングバッグの利⽤:バッグに息を流し⼊れ、それを吸い込む、の連続。ゆっくりとリラックスしたままで。空気の移動が楽にスムーズに⾃由になることに徹し、⾝体には意図を⼀切加えずに。動くがままに任せきる。⼤きく⾃由な空気の出⼊りを作り出していくと共に、テンションをなくしていきます。⼀番最初のみ、バッグに⼝はつけずに息を吹き込みます(体内からの息だけでなく周囲の空気も同時にバッグに⼊れるため)。

・あくびとため息:あくびのように完全にリラックスしてゆっくり⼤きく息を吸い、そのまま、ため息のようにただ息を解放して出します。⼤きく⾃由な空気の出⼊りと共に、テンションをなくしていきます。

・モニタリング:⼈差し指を⽴てて唇に当て、息を吸います。指のところで起きる空気の摩擦音を聴きながら、それが深く低い音(浅く⾼い音ではなく)になるように。そのまま息を吐き、この時も同じ音が聞こえるように。結果として、喉その他は開いたまま(開く、のではない)になっていきます。

息の流れを養う練習(⼀例)

・スピロメーターを利⽤:トランペットの場合、⽬盛りは4に。マウスピースをホースに⼊れ、バズはせずに、空気だけ流します。ボールが上に維持されるように。硬く⼒ずくでボールを上げるのではなく、できる限りリラックスし柔軟なままで。タンギングをつけてもボールが上がり続けるように(タンギングの度に上下するのではなく)。

・モニタリング:⼿のひらを⼝の前にかざし、⼿のひらに息を当てます。⼿のひらで感じる息が、均⼀でムラのないものになるように。⼿の距離を次第に遠くに。タンギングをつけても同様の息を感じられるように。

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■発音の容易さ

音を出すことそのものがいかに楽で効率的であるか、は演奏の全てに影響すると⾔えます。発音自体が楽であれば、多くの基礎技術もそもそも楽で済み、それは音楽表現の自由度を増すことでもあります。逆に⾔えば、発音そのものの効率性が低く⼒任せでなければ音が出ない状態であると、様々な点で要以上の労⼒を要することになったり、問題が生じやすかったり、つまり音楽表現も不自由になってしまうと⾔えます。

■バズィング

バズィング(buzzing)とは、唇やマウスピース等で、唇を振動させブーブーと音を出す事。トランペットのバズィングには、リップ・バズィング(フリー・バズィング)、ヴィジュ

アライザー(リム)でのバズィング、マウスピースでのバズィング、リードパイプでのバズィング等の種類があります。

どの⽅法も、楽器で音を出している時とは物理的状況設定が異なるため、唇その他の状態は楽器で音を出す時と全く同じにはならないことを前提として、むしろその差異を活かした練習⽅法と捉えることができます。

いずれの⽅法でも、発音の容易さに向かうようにします。必ずしも振動や音をすぐに出すことが重要なのではなく、いかに効率の良いバランスでの振動や音を作り出していくかが肝要。そのためには、息の自由な流れを主として、唇が容易に反応していくように、時には時間をかけて自然な反応を「待つ」ことが功を奏すでしょう。

唇は、自ら振動することはなく、常に息の流れ(空気の移動)によって振動「させられる」存在です。息と唇との良いバランスを養い、振動の状態や質を向上させることが、バズィングの練習において肝要なことであると⾔えます。基本的に、唇のフォーム(所謂「アンブシュア」)はそれによって変化し規定されていくでしょう。

・リップ・バズィング(フリー・バスィング)唇のみで⾏うバズィング。マウスピースはおろか、リムとの接触もないため、実際にマウ

スピースを当て吹く時とは別物でもできてしまうことは注意が必要。唇の中⼼部はリラックスしたままで。実際に楽器で吹くピッチを出す練習の仕⽅と、実際

に楽器で吹くピッチの 1 オクターブ下または 2 オクターブ下のピッチを出す練習の仕⽅とがあります。

グリッサンド、音階、簡単なフレーズ等を⾏うことができます。

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・ヴィジュアライザー(リム)マウスピースからカップをくり抜きリム部分を残した、ヴィジュアライザーでのバズィ

ング。リムと唇の接触が生まれ、唇がリム内とリム外に区分けされます(振動させられる部分とそれ以外とに区分けされる)。抵抗はありません。

息の流れによって唇が振動させられるバランスを養うことができます。また、唇の振動を感じ取ることができます。

グリッサンド、タンギング、簡単なフレーズ等を⾏うことができます。

・マウスピースマウスピースでのバズィング。BERP や Buzz Aid 等の器具をつけて抵抗を調整して⾏う

こともできます。グリッサンド、簡単なフレーズ、実際に演奏する曲、等を⾏うことができます。正確なピ

ッチをイメージできることが求められます。

・リードパイプマウスピースを楽器につけ、チューニング管を完全に抜き取り、リードパイプ部分までで

⾏うバズィング。共鳴するピッチは、B 管の場合、実音で、真ん中の Es、⾼い F、ハイ C(上に加線 2 本)、

ハイ F(上に加線 4 本)の音です(リバース管の場合は、それぞれ半音下)。マウスピースだけでのバズィングと、楽器で音を出す状態との、中間的な状態での練習で

す。マウスピースだけの管の⾧さでは出ない、特定のピッチでの共鳴が、リードパイプの⾧さでは出るようになります。唇の振動とともに、ツボで共鳴させる、という感覚につながっていきます。

■音のセンタリングと音作り

「音のセンター」全ての音にはそれぞれ、楽器が最も自然に共鳴するポイントがあります。そのポイントは、

「音のセンター」と呼ばれます(他に、「楽器のツボ」、「ピッチセンター」、「スイートスポット」、等とも)。どの音もある程度の上下の幅をもって鳴らすことができますが、その幅の中のどこかに、最もストレスなく音が鳴るポイントがあります。そのポイントを⾒つけ、そこで鳴らすことが効率良く音を出す基本となります。物理的に、楽器が最も共鳴するポイントです。

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吹き⼿の感覚的には、自然に音が鳴る、息が最も流れやすい、唇への負担が少ない、唇が柔軟でいられる、ストレスなく発音される、自然に音が安定する、などを得ることができるポイントであり、また、当然ながら、最も楽器本来の響きが発揮されるポイントでもあります。

⼀⽅で、音のセンターからずれたポイントで音を鳴らすと、楽器が共鳴しずらいポイントで強制的に音にしようとしているため、必要以上の⼒を押し込んで音にする事になり、⾝体に様々な拮抗や抵抗を感じることになります。息が流れづらく、唇はタイトになり、音を安定させるために筋⼒的な強い支えが必要になったり、発音が不明瞭なため強いアタックでごまかす必要が出たり、そして楽器のもつ本来の響きは減ぜられることになります(音は細くなる)。

また、⾼音域になればなるほど、音のセンターからのズレは⼤きな影響を及ぼすことになります。中低音ではある程度許容されるズレの度合いを⾼音域に持ち越すと、音がそもそも出ないか出てもとてもキツい状態となってしまいます。⾔い換えれば、⾼音域ではセンターへの感覚の⾼い精度・繊細さが求められる、ということになります。

音のセンターを⾒つける、または確認する練習として、単音で伸ばしながらわずかに上下させてセンターを⾒つける、半音のスラーなどシンプルなフレーズで⼀音⼀音センターで鳴らす、などを⾏うことができます。

■ロング・トーン

音を⾧く伸ばす練習メニュー。必ずしも同じ音の⾼さだけで伸ばし続けるものだけではなく、音の⾼さを変えながらスラーで⾧い音をつなげていくものも含まれます。

良い呼吸から、ストップなく自然に発音へ至り、自然に音が伸び安定するように。

「音の安定」は、「音や⾝体の固定」ではありません。音の揺れが生じた時に、それを⼒で押さえつけて揺れないようにする、ということもできてしまいますが、そうではなく、その音が最も自然に楽に共鳴する状態を⾒つければ、そもそも音は揺れないことが理解できます。

同じ音の⾼さをのばすもの、pp < ff > pp のように音量(強度)変化を伴うもの、音の⾼さを変えながらスラーで⾧い音をつなげていくもの、などのタイプがあります。

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■柔軟性/リップスラー

固まった融通の利かない状態ではなく、すぐに様々な状況に対応できる状態、という意味での柔軟性。ある音の⾼さに固まった状態、ではなく、瞬時に多様な音や広い音域を⾏き来できる、自由な状態。そのために、スラー系の練習、特にリップスラーを⾏うことができます。

音の移り変わりで、息をプッシュしたり段差をつけることなく、スムーズに息が流れたままで容易に音が変わるようにします。唇や⾆が先⾏して音の⾼さを変えるのではなく、息の流れを主導として、隣り合う音に自然に移り変わるように。

結果的に、隣り合う倍音が近く、⼀貫した線の延⾧上に感じられることになります。唇その他の動きも結果的に最⼩限に収まっていきます(唇を動かさないようにする、のではない)。

■タンギング

基礎としてのタンギングは、ロングトーンの延⾧で息がフリーに流れ続けたままのテヌートで。同じ⾼さの音のタンギングを基本として、音の幅や速さを発展させていきます。

⾆の当たる位置は、そもそも⾆の⼤きさ(⾧さ)や⼝腔内の形に個⼈差が⼤きいため、他⼈と全く同じになることはあり得ないでしょう。

⾆の動きが最⼩限で済むことは、タンギングの速さにもつながります。そのためにも、タンギングを⾆の動きや強さありきの技術ではなく、より息の効果を持たせより⾆の効果が少なく済むように仕向けていくことは⾮常に役⽴ちます。

リップスラーやウォームアップで使っているスラーのパターンを、タンギングして⾏うのも効果的な練習になります。

ダブルタンギング・準備練習:TK TK TK TK……(トゥクトゥクトゥクトゥク……/タカタカタカタカ……等)と⼝で速く⾔い続け

られるようにする。・導⼊練習:TKT TKT… / TKTKT TKTKT… / TKTKTKT TKTKTKT…/ のように少し

ずつ増やしていく。・音が⽌まってしまう場合:まずゆっくりと、⼀音⼀音を全てできるだけ⾧くテヌートで、

息の流れをスムーズに吹く。そのままで、少しずつテンポを上げていく。意識としては⾧く吹くままで。

・K の強化(T との均⼀化):K のみで、短く鋭く発音する練習。また、ダブルタンギング

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のフレーズを全て K で吹く練習。

トリプルタンギング・TTK または TKT で。その他はダブルタンギングと同様。

■アーティキュレーション

・テヌート、スタッカート、アクセントの⾳形の区別の基本として(実際の演奏では無数の⾳形があり得る)。

テヌート(⾧く保つ):息を流したままでできるだけ⾧く。スタッカート(⾳と⾳とを分離、隙間を開ける):クラシカルなスタッカートとしては、

⾳を⽌めることなく、単に⾳が短いだけ。息を出している時間が短いだけ。アクセント(基本的なベルトーン):発⾳は強め、その後⾃然に減衰。

・スラーとタンギングの様々な組み合わせパターン

■⾳域拡⼤

⾳域を広げる練習。使う題材は、⾃分にとってうまくいきやすいものを選択。⾳階、半⾳のスラー、リップスラー、チコヴィッツやスタンプのパターン、など。

「息の流れによってその⾳のツボ(センター)を⾒つけていく」という作業。出したい⾳の⾼さの、楽器が楽に共鳴するツボが⾒つかれば出る、⾒つからなければ出ない、というシンプルな原理で。マウスピースの過度のプレスに頼ったり、唇をタイトにしすぎたり、唇の変化で主導したりせずに。基本的には、ストレスなく息でツボを捉えられれば、唇などで余計な動作を加える必要はありません。

⾼⾳域になればなるほど、ツボへの感覚は正確さ(繊細さ)が必要。ラフな感覚では対応できません。

今日のうちに無理にでも出せる方法を⾒出すのではなく、今日の練習が明日以降の感覚(と唇の状態)を向上させるものであるかが重要。

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■ベンディング

例えば、ソをのばしながら0番の運指のままでファ♯に下がってのばすなど、正規の運指ではない状態で⾳を強制的に下がるなどして鳴らすことをベンディング(bending)または単にベンド(bend)と⾔います。正規の運指から、そのままの運指で半⾳下げ、半⾳上に戻る、というのが⼀般的・導⼊的な方法です。発展的には、指を使わずに⾳階を吹くこともできるようになります。

ベンドしてもできるだけ⾳質が変わらないようにします。決してベンドの時に息を押し込んだりせずに。

この練習は、何か特定のことに効果があるというよりは、⾳質、息の状態、唇の状態や柔軟性、⾆、リラックス、その他様々なことに複合的にコーディネーションの効果を持つ練習と考えられます。また、ベンドできる状態は、余裕ある効率性の⾼い状態であるので、ベンドできるかどうかを、練習というよりチェックとして使うこともできます。

■ペダルトーン

通常の最低⾳とされる低い実⾳ E(下加線 3 本)より低い⾳を、トランぺットでは「ペダル・トーン」と呼びます。

低い E からその下の H までのペダルは、楽器にツボのある⾳ではない(倍⾳列上にある⾳ではない)ので、実質的にはベンディングしているのと同じことになります。

⼀方でその下の実⾳ B から E は、倍⾳列上の第⼀倍⾳であり(下図参照)、楽器にツボがある⾳ですから、この⾳を出せるようにすることには⼀定の効果が期待されます。良い息の流れと、タイトすぎず緩みすぎずの唇、開いたままの喉、ツボをとらえる、などの条件が揃わなければ鳴らないでしょう。⾔い換えれば、この⾳を出せるようにという意識で練習をすることによって(息をどうこうしよう、唇をどうこうしよう、等の意識の仕方ではなく)、これらの良い状態へ向かうことになります。

ただし、ペダルトーンの練習は、不適切に⾏うと弊害を生むことがあるので注意が必要です。

<倍⾳列>

(画像引用:Wikipedia)

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練習の開始には、ウォームアップを⾏います。「基礎練習」は主に向上や維持を⽬的としたものであるのに対し、「ウォームアップ」は⾝体や感覚を呼び起こす、準備をする、という⽬的のものです。

例えば陸上競技をする時に、いきなりトップスピードで⾛ったりいきなり最⼤重量の負荷から始めてしまえば、良いパフォーマンスが出ないばかりか、筋⾁を傷めたり⾝体を壊すだろうことが予想できるように、トランペットも、まずは良い準備運動から始めることが、良い演奏や良い練習、感覚や調⼦の維持と確認、持久⼒、⾝体のいたわりにつながります。

ここでは、ウォームアップの軸になることのみを記すことにしますが、毎日の⾳出しは、毎回、基本的な⾳の出し方のコーディネーションを「再構築・再学習」することと⾔えます。

・頭の中を起こす⾝体的なウォームアップと同時に、頭の中のウォームアップもすることができます。⾳の

コンセプト(イメージ)、⾳の出し方のコンセプト、を思い起こします。

・呼吸を起こす呼吸と息が機能するようにします。基本的な呼吸の⼤きさを起こすものから、息の流れを

促すもの、タンギングをつけるなどした実践的なものまで。

・唇をほぐす息の流れによって唇が反応していくようにします。唇は、⾃分では振動せず、息によって

振動「させられる」存在です。具体的な方法は、⼈によって⾃分の状況に合うもので⾏うのが良いと私は思います。フラ

ッピング(唇をブルブルさせる)、各種バズィング(リップ・バズィング、ヴィジュアライザー、マウスピース、リードパイプ)、実際に楽器で⾳を出しながら、等。

特にウォームアップの段階では、すぐに⾳が出る(またはすぐに唇が振動する)ことを第⼀にはせず、多少時間がかかっても、いかにストレスなく唇が反応するか、発⾳の容易さを第⼀にしながら、その先にきれいな⾳が来るようにしましょう。固めて強さで⾳にする方向ではなく、ほぐれて楽に⾳になる、という方向です。

ウォームアップ

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・楽器を共鳴させる感覚を思い起こす息の流れと唇の反応を思い起こしたら、楽器の共鳴に結び付けていきます。⾳のセンター

でストレスなく楽器が鳴る感覚を思い起こします。題材は、その⼈の経験やレベルによって変わってくるでしょう。単⾳をのばす、半⾳のス

ラー、ベンディング、リップスラー、チコヴィッツ、スタンプ、クラーク、⾳階、⾳楽フレーズ、その場でのアドリブ的な⾳の羅列、など。

・各基礎技術タンギング、柔軟性、その他、基礎技術の確認。その時の状況や必要性に応じて。

なお、ウォームアップの内容や⾧さは、個⼈によって、または状況によって、異なる(臨機応変である)べきものです。

かつ、軸となる流れやメニューを持ちながら、状況に応じで変化を持たせる、というのが良いだろうと私は考えます。

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・聴くこと頭の中にない⾳は出せない、という原理からしても、「聴くこと」の重要性は強調されす

ぎることはありません。良い⾳を聴く、良い演奏を聴く。まずはそこから全て始まると⾔っても過⾔ではないでしょう。

素晴らしい演奏や⾳を聴いて衝撃を受けた時、それはそのレベルの⾳が⾃分の頭の中にはそもそも無かった、ということであり、技術以前に、イマジネーションの時点でその演奏に追い付いていなかった、ということはよくあるかもしれません。脳内で再生できる⾳のレベルを向上させ続ける、ということが練習の第⼀となります。

・練習のピラミッド基礎的で易しいシンプルで快適にできる内容ほど多く、⾼度でキツいものほど少なく、と

いうバランスで練習を組みます。そして、底辺を拡張する(底辺内容の質を⾼める)事と、底辺での良い状態(快適で効率の⾼い状態)を上に適用させていくことによって、⾃然に⾼度なこともできるようになっていく、という考え方です。快適に無理なくできる内容を、さらに⾼め、そしてその範囲を、広げていくのです。

この逆を続けてしまう(⾼度でキツいものを多く、⾼度でキツいものの中で問題解決を図ろうとする)と、調⼦を崩す他、⾼度なことを練習をいくらしてもできるようにならない、という事態となりやすいでしょう。トランペット奏者の陥りやすいことかもしれません。

より基礎的な内容をより深く理解していくことに努め続ける。それによって⾼度な事への理解が開けていく、というものです。上を志向するほど、同時に下へ。

練習の基本コンセプト

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・上達の道筋上達の道筋は、通常、まっすぐに昇っていくものではありません。⼩さなスケールで⾒れ

ば、上がり、少し下がり、また上がり、を繰り返しながら進んでいくものであり、結果として俯瞰して⾒れば向上している、というものです。

このことが⽰唆するのは、⼩さな下降の時に状況を⾒誤らない、ということの必要性です。プロセスとしてごく⾃然な⼩さな下降が、実⼒の低下、あるいはその時に取り組んでいる練習が不適切である、と誤って判断してしまうことは、全体の⼤きな流れとしての向上を断ち切ってしまうことになるわけです。⼩さな下降があっても、すぐに練習の方針を変えたりして⾃らを振り回すことなく、焦らずに様⼦を⾒ながら練習を検討していく必要があります。経験の豊富な指導者は、この点の判断に⾧けているかもしれません。

・根幹と枝葉末節物事には、根幹となる部分と、枝葉末節の部分とがあります。トランペットの基礎練習も

その例外ではなく、⽋くことのできない根幹部分と、応用的・補⾜的な枝葉の部分とがあります。⽇々の練習においては、根幹部分の維持と向上が最も重要であり続けることは⾔うまでもありません。それが失われては、またはその質が低ければ、⾃動的に枝葉の部分も枯れていくものです。

・本質的改善と⼩⼿先の対処ある問題に対する解決として、本質的な解決と、⼩⼿先の対処と、道は⼆つあることがほ

とんどかもしれません。前者は、時間を要する⼀方で、後者は⽐較的すぐに効果を得ることができます。しかしながら、後者は、結局のところ本当に問題が解決するわけではなかったり、新たな問題を生じさせたり、細かい⼩⼿先の対処をいくつも積み重ねていく必要に追われたりしていきます。

どんな⼈でも、現実的には、この⼆者の側⾯の両方をもって演奏を遂⾏させていくものであろうとは思いますが、その割合は⼈により異なると思います。できるだけ⼩⼿先の対処に傾倒しないこと、また、この⼆者について⾃覚しておく、ということが最終的には⾃分を救うのではないかと私は思います。

・論理的であり感覚的であることトランペットの演奏において、論理と感覚とは乖離したものではあってはならないと私

は考えます。特に何らかの問題に直⾯した時、⾏き詰った時には、理にかなった方法や内容、論理的な

考え方が新たな道を⽰してくれる、救いを⽰してくれる、と私は思います。しかし同時に、それらはあくまで実際の演奏上の感覚へとつながるものでなければなりません。論理的に考えているだけ、考えがまとまっているだけ、では演奏は決してできません。換⾔すると、

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演奏上の感覚につながることのない、単なる理論、というものに陥ってはならないのです。もちろん、⼀方で、論理性のない、理にかなっていない方法や考え方は、あるところで⾏き詰まりを迎えること、またはもともと良く吹ける⼈以外を救う⼿⽴てにはなりにくことも⾔えます。ですから、感覚につながる論理性、というのが肝要なことであろうと私は考えます。

・楽しみと創造性練習の主軸は、楽しみと創造性であるべきだと私は考えます。これは、義務感や強迫観念

といったことの極にあるもので、純粋に楽しいという気持ち、そして、こどものように興味の及ぶままに試してみる、可能性を排除しない、というのが⼤事であろうということです。

義務感による動機と、楽しさによる動機とを⽐較した時、⼈間がより強固に抱くことができるのは、実は後者でしょう。もちろん、時には義務感によって練習に向かう、義務感によってある曲をこなさなければならない、という状況は現実として少なくありません。しかしながら、純粋な楽しさという原点で灯る⽕を決して消すことなく、そこに軸を置き続けることは、創造的で効果的な練習と上達を促すものと私は考えます。

・⾧期的視点と短期的視点練習には、少なくとも、⾧期的視点と短期的視点との⼆つを持たせておくのが良いと私は

考えます。⾧期的視点における練習とは、数年、10 年、あるいは⼀生をかけて向上させ続ける内容

です。基礎的内容や⾳楽性などがこれにあたります。短期的視点における練習とは、次の本番、数カ⽉先の本番、などに照準を当てた練習内容です。特定の曲、特定のエチュードや練習曲などがこれにあたります。この⼆つを区別し、⼆つの視点を並⾏させて練習をしていきます。

・⼩さな変化を⼤事にする練習の中でまず起きるのは、⼩さな変化です。⼤きな成果をもたらすのは、いつも⼩さな

変化です。まだ⽬標には達していない、まだはっきりと成果は出ていない、しかし良い方向への変化はある、そのような時に、その⼩さな変化を⼤事にして、それを育むのです。⽬に⾒えて⼤きな変化がない時に、せっかくの⼩さな変化が起きているにもかかわらず、それを無視し、その芽を⾃ら捨てて、結局⼤きな変化が生まれない、ということがあります。⼩さな上質の変化を生むことが非常の⼤事なことであると私は思います。

・すぐに結果を求めすぎない必ずしも、すぐに結果が出る事が良い事とは限りません。トランペットの場合、上達を急

ぐがあまりに、良くない癖をつけていく、ということはよくあることです。あるレベルの事

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までは早くできるようになるものの、そこから先のレベルの事はその吹き方ではどうしてもできない、ということに後で気づく、というのは稀なことではありません。決して焦ることなく、ごまかしをすることなく、地道な努⼒を続けることが、最終的には⾃らを救うのだと思います。

・⼈は皆違う⼈は皆、この世に存在したその瞬間から、他の誰とも同じではない、唯⼀の存在として生

きています。これは、理念的な「考え方」というより、遺伝的な「事実」として。遺伝研究の専門家によれば、同じ遺伝的資質をもって生まれてくる⼈間はこの地球上に、かつこの地球の⻑い歴史の中で、誰⼀⼈として存在しないことが計算されるのだそうです。

ある⼈が必要な練習と、⾃分が必要な練習は、必ずしも同じではありません。同じ練習を同じだけしても同じ成果が得られるわけではありません。これは、生まれながらに定められている事実だと⾔えるわけです。このことを前提として、我々は、今の⾃分は何をどう練習するのが良いかを常に考え続けなければなりませんし、他⼈と上達のスピードなどを⽐較して⾃らを卑下することの無意味を理解しなければなりません。もちろん、他⼈との⽐較によって⾃分を認識する、というのは⼈間の⾃⼰認識のひとつの重要な側⾯であろうと思います。しかし、⾃⼰認識をするという事と、他⼈との⽐較によって⾃⼰卑下するという事は、異なることです。

より詳しい情報、譜例や実演動画等は、www.satoshitakagaki.com にて随時公開しています。また、本冊⼦の内容へのご意⾒等も上記サイトより受け付けております。

【著者】

⾼垣 智 Satoshi TAKAGAKI

トランペット奏者。慶應義塾⼤学⽂学部教育学専攻卒業後、奨学金を得て⽶国インディアナ⼤学ジェイコブス⾳楽院へ留学し演奏家ディプロマ修了。トランペットを、坂井俊博、アンドレ・アンリ、アンソニー・プログ、エドモンド・コード各氏に師事。演奏活動の他、初⼼者から⾳⼤卒業生までの幅広いレベルでのレッスンや定期的なトランペット基礎講座を⾏うなど、教育活動にも注⼒している。

オフィシャルサイト www.satoshitakagaki.com