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プロテオグリカングライコテクノロジー:
簡易抽出法の開発とその医療応用
和歌山大学 教育学部有機生化学教室 教授 山口真範
核酸、タンパク質に次ぐ第三の生命鎖として注目される糖鎖は、
医薬品、食品、化粧品など多岐にわたる分野で研究が進めら
れている。
例えば細胞間認識、分化、増殖など生命活動において必須の
現象を司ると共に、ガン化、ウイルスの感染などに関係している。
本研究にて取り扱うプロテオグリカンは、コアタンパク質に糖鎖が結合している分子量が数万~数百万に及ぶ分子で、細胞外マトリックス成分や種々の成長因子と作用しあい、組織再生、
形態形成、創傷治癒などに中心的な役割を果たしていると考えられている。その多くの生理作用は糖鎖に起因されることが多く、プロテオグリカンを自在に操ることのできるグライコテクノロジーの開発は糖鎖生物学上、重要な意義を持つ。
多様な生物種由来のプロテオグリカンを簡便に抽出する技術を開発し、それらを医薬品、医用材料、化粧品などの素材として利用することを目的とする。
糖鎖との様々な相互作用
プロテオグリカングライコテクノロジー拠点の構築
プロテオグリカン:細胞間マトリックスや軟骨組織に存在する糖タンパク質
・中枢神経の発達作用
・創傷治癒作用・細胞増殖因子を介したシグナル伝達・形態形成作用
・抗炎症作用・血液凝固阻止作用
・骨形成促進作用(軟骨を含む)
・ヒト上皮細胞増殖活性作用・マラリア病原虫感染阻害作用 e.t.c.
医療・食品および化粧品応用への可能性をもち産業界から注目される多機能分子
プロテオグリカン大量抽出法の開発
機能性評価・ウイルス防疫効果・細胞増殖効果・保湿効果
・新奇なプロテオグリカンの探索・糖鎖構造解析・機能性高分子の創出・高機能性プロテオグリカンの創出
6
当研究室で開発したプロテオグリカンの抽出法
和歌山県の誇る南高梅 豊かな海産物資源
梅酢:産業廃棄物 頭部や骨:食用とならず廃棄
双方不要なところを利用したプロテオグリカン抽出法の開発に成功
他の追従を許さない和歌山県ならではの「地の利」を活かした独自の抽出方法
魚類頭部軟骨からのプロテオグリカン抽出
廃棄された魚類頭部など
抽出 30倍量の梅酢に漬ける
包丁で約3cm四方に細断
濾過
エタノール沈殿法
梅干廃液
白色粉末 (プロテオグリカン:PG)プロテオグリカン製造方法 特許第6016878号
粉砕
抽出プロテオグリカン分析結果(サケ由来PG)u分析項目① ウロン酸定量(カルバゾール硫酸法)② タンパク質定量(Bradford法)
③ 定性分析(セルロースアセテート膜電気泳動)④ 分子量測定(HPLCゲルろ過法・RI検出)⑤ 不飽和2糖分析
③セルロース・アセテート膜電気泳動
ウロン酸量 タンパク質量
300.6 72.8
①,②
(mg/g)
column :TOSOH TSK-gel G5000PWXLsolvent :0.2 M-NaClflow rate :1 mL/mincolumn temp. :40℃detector :示差屈折率計 RI-2031plussample :0.1 %溶液 30μL inject
※プルランを分子量マーカーとして分子量を算出
④分子量測定 約40万 ⑤ 不飽和2糖分析△Di-6S
△Di-4S
column :YMC Polyamine IIsolvent :A /10 mM NaH2PO4 B/500 mM NaH2PO4
A/B =100/0 to 0/100 after 50 minflow rate :1mL/mincolumn temp.:40℃detector :DADsample :溶液 30μL inject
ウロン酸量 タンパク質量
300.6 72.8
供試ウイルス株:Influenza virus A/Aichi/68 (H3N2)
○定法に基づいて調製したPG△本法に基づいて調製したPG
定法をもちいて調製したプロテオグリカンにはウイルス不活化効果は認められなかった。
梅干廃液を用いて調製したプロテオグリカンには濃度依存的にウイルス不活化効果を認めた。
梅干廃液中の有効成分を埋包した新しいタイプのプロテオグリカン
Mume-Proteoglycan (梅プロテオグリカン)
プロテオグリカンのウイルス不活化効果(インフルエンザウイルス)
ウイルス試験和歌山県立医科大学(当時) 小山一先生
0.001
0.01
0.1
1
10
0 2 4 6 8 10
Rel
ativ
e In
fect
iviy
Proteoglycan (mg/ml)
検出限界
0.001
0.01
0.1
1
10
0 2 4 6 8 10
Rela
tive Infe
ctivity
Proteoglycan (mg/ml)
検出限界
Mume-Proteoglycanの各種インフルエンザウイルス不活化効果
Influenza virus A/Aichi/68 (H3N2) Influenza virus AOPR8 (H1N)
Influenza virus B/Tokyo
バッチの異なった梅干廃液を用いて調製したPGを使用それぞれ濃度依存的に有意のウイルス不活化効果を確認
ウイルス試験和歌山県立医科大学(当時) 小山一先生
ポリオウイルス1型(PV-1) ネコカリシウイルス(FCV)
Mume-Proteoglycanのウイルス不活化効果(非エンベロープウイルス)
脂質二重膜構造をウイルス粒子に持たない非エンベロープウイルスとして、ポリオウイルス1型セービンワクチン株(PV-1)とネコカリシウイルス(FCV)に対する粗精製PGの作用を検討した。両ウイルスは類似の構造をもつが、ポリオウイルスはピコルナウイルス科、FCVはカリシウイルス科に属する。
ウイルスの不活化効果は認められず非エンベロープウイルスには効果がない
ウイルス試験: 和歌山県立医科大学(当時) 小山一先生
Mume-Proteoglycanの可能性非常に簡便な抽出法。
和歌山県の農水産物の利用。原料はすべて食品由来。
食品・サプリメント使用が可能。各種医療応用が広範囲に可能。
現時点で当研究室で明らかにしたMume-Proteoglycanの応用具体例
試験液のウイルス力価(単位:log (EID50/mL) )
ウイルス減少率(%)
実施例1 5.50 99.6
比較例1 4.50 96.8
対照 3.00 -
表2
用い
たマ
スク
片
インフルエンザ防疫マスクの創出に成功(抗ウイルス用繊維又は繊維製品 特許6723773号)
実施例1:プロテオグリカンマスク比較例1:シアリルガラクトースポリマーマスク
対照:マスク繊維のみ
供試ウイルス:Influenza A virus (H1N1)
試験液のウイルス力価(単位:log(EID50/mL))
ウイルス減少率(%)
用"#
$%&片
実施例1 5.50 99.6比較例1 4.50 96.8対照 3.00 -
ウイルス減少率(対照区と比較)
株式会社 食環境衛生研究所調べ
Mume-Proteoglycanを利用したウイルス防疫試験概要
材料 備考
Influenza A virus(H1N1)
食環研にて保存中のInfluenza A virusを培養したものを使用初期濃度は108.0 EID50/mL以上とした。
マスク片① プロテオグリカンを塗布したマスク片② 対照区、無加工のマスク片を使用
アクリルボックス 容量:0.216 m3
(サイズ:高さ60 cm、幅60 cm、奥行き60 cm)
R=log(B/A)R:ウイルス不活化効果A:対照区のウイルス力価B:試験区のウイルス力価
減少率=(1-1/10R)×100(%)
ウイルス減少率(対照区と比較)
株式会社 食環境衛生研究所調べ
Virus solution(5 mL)
アクリルボックス
ポンプ
Nebulizer
7.5 mL / min(15 min)
Influenza A virusマスク片
回収ウイルス力価
① ②
ウイルス減少率 99.6 %
まとめ和歌山県は豊かな農産業、漁業の盛んな県である。豊かな農産物資源
海洋資源に恵まれそれらを利用した伝承薬や健康食品の宝庫といえる。
本研究では、和歌山県が誇る南高梅の梅干しを作る際に排出されその
処理が梅干し農家の大きな課題となっている梅干し廃液(ウメ酢)をもちいた
プロテオグリカンの抽出法に成功した。得られたプロテオグリカンの物性は
従来法により抽出されたものと一致していた。
さらに、従来法で抽出したプロテオグリカンにはみられないウイルス不活化
効果を有していることが明らかになった。このことはウメ酢の抗ウイルス有効
成分をプロテオグリカンが埋包していることが強く示唆される。