20
39 石油・天然ガスレビュー アナリシス シェール層開発で復活する 石油天然ガス開発大国の米国 米国では、ガス・石油の生産量がこの 5 年間ほど連続 して増加している(図1図2)。これは陸域でのシェー ルガスおよびシェールオイル生産が伸びていることが主 因である。 シェールガスの生産量は 2 0 1 0 年時点で 4.4TCF/ 年で 米国のガス消費量の約 2 0 %に相当し、足元では 2 5 %を 超えると見られている(図3)。シェール開発成功の先駆 けとなったBarnett Shaleは生産ピークに達し、その後 の2005~2008年にかけて新たに確認された Haynesville や Marcellus Shale に開発の中心は移ってい る。 シェールオイルによる石油生産量は、2008年時点で 1. 米国の現状 JOGMEC 石油調査部 市原 路子 じめに 1 8 5 0 年代に米国で誕生した石油天然ガス開発産業は、1 9 7 0 年代に陸域の生産ピークを一度は迎えた が、それから四十数年後の現在、石油天然ガスが再び脚光を浴びている。新しい技術を取り入れて、そ れまで難解とされた頁岩(シェール)に賦存するガスや石油を地下から取り出すことに成功したためであ る。 かつてのピーク時を超えてガス生産量は増大しているが、価格は低迷し始めた。にもかかわらず、依 然としてシェール層からのガス生産は好調である。収益を求めて中小企業が割高な石油を狙ってシェー ルオイル(タイトオイル)開発に投資先を広げた結果、そこからの随伴ガスが寄与しているためである。 米国エネルギー省の統計によると、シェールガス生産量は2007年1.3TCFで同国生産量の7%、 2 0 0 9 年は 3.1TCF で同 1 5 %、現在では同 3 0 %に迫っていると言われている。現在のシェールオイル生 産量は 5 0 万 b/d 前後と見られ、おおよそ 2 0 1 5 年ごろには 1 0 0 万 b/d を超えると見られている。 本稿では、米国のシェール層開発とその影響に焦点を当てる。ここではその急速かつダイナミックな 発展は米国独自の産業基盤に基づくものと分析している。また、メジャー主導の大水深開発や LNG 開 発などの大型事業と異なり、開発のリードタイムや投資規模が手ごろで中小でも挑戦しやすい事情があ る。 四十数年ぶりに訪れた米国の石油・天然ガスの隆盛は新たな段階を迎え、LNG輸出の開始や対外依 存度の低減によるエネルギー・セキュリティの確保、また経済的な便益などの直接的な国内効果のみな らず、大きく見れば、国際石油・天然ガス市場価格や国際的なガス取引にも重要なインパクトを与える ものと見られる。 米国のガス生産量推移 (1900 ~) 図1 出所:米国エネルギー省 0 10 20 1900 1920 1940 1960 1980 2000 TCF

シェール層開発で復活する 石油天然ガス開発大国の米国 · Mancos 21 Lewis 12 Williston-Shallow Niobrara 7 Hilliard-Baxter-Mancos 4 Bakken 40 ④ 西海岸 Monterey/Santos

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39 石油・天然ガスレビュー

JOGMEC

K Y M C

アナリシス

シェール層開発で復活する石油天然ガス開発大国の米国

 米国では、ガス・石油の生産量がこの5年間ほど連続して増加している(図1、図2)。これは陸域でのシェールガスおよびシェールオイル生産が伸びていることが主因である。 シェールガスの生産量は2010年時点で4.4TCF/年で米国のガス消費量の約20%に相当し、足元では25%を超えると見られている(図3)。シェール開発成功の先駆けとなったBarnett Shaleは生産ピークに達し、その後の 2005 ~ 2008 年 に か け て 新 た に 確 認 さ れ たHaynesvilleやMarcellus Shaleに開発の中心は移っている。 シェールオイルによる石油生産量は、2008年時点で

1. 米国の現状

JOGMEC 石油調査部 市原 路子

はじめに

 1850年代に米国で誕生した石油天然ガス開発産業は、1970年代に陸域の生産ピークを一度は迎えたが、それから四十数年後の現在、石油天然ガスが再び脚光を浴びている。新しい技術を取り入れて、それまで難解とされた頁岩(シェール)に賦存するガスや石油を地下から取り出すことに成功したためである。 かつてのピーク時を超えてガス生産量は増大しているが、価格は低迷し始めた。にもかかわらず、依然としてシェール層からのガス生産は好調である。収益を求めて中小企業が割高な石油を狙ってシェールオイル(タイトオイル)開発に投資先を広げた結果、そこからの随伴ガスが寄与しているためである。 米国エネルギー省の統計によると、シェールガス生産量は2007年1.3TCFで同国生産量の7 %、2009年は3.1TCFで同15%、現在では同30%に迫っていると言われている。現在のシェールオイル生産量は50万b/d前後と見られ、おおよそ2015年ごろには100万b/dを超えると見られている。 本稿では、米国のシェール層開発とその影響に焦点を当てる。ここではその急速かつダイナミックな発展は米国独自の産業基盤に基づくものと分析している。また、メジャー主導の大水深開発やLNG開発などの大型事業と異なり、開発のリードタイムや投資規模が手ごろで中小でも挑戦しやすい事情がある。 四十数年ぶりに訪れた米国の石油・天然ガスの隆盛は新たな段階を迎え、LNG輸出の開始や対外依存度の低減によるエネルギー・セキュリティの確保、また経済的な便益などの直接的な国内効果のみならず、大きく見れば、国際石油・天然ガス市場価格や国際的なガス取引にも重要なインパクトを与えるものと見られる。

米国のガス生産量推移(1900 ~)図1

出所:米国エネルギー省

0

10

20

年1900

1920

1940

1960

1980

2000

TCF

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JOGMEC

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アナリシス

はBakken Shale(ノースダコタ、モンタナ州)からの10万 b/d程度だったが、開発が進み、Bakkenと新たなEagle Ford(テキサス州)等を合わせて50万b/d程度に増産されていると見られる。 米国では2009年以降、ガス価格が低下したのに対し、石油価格は高い水準で推移している(図4)。このことからシェールオイル狙いの投資が増えている。米国陸上で稼働する石油狙いのリグ数は2009年時点の4倍に急増し、ガス掘削リグ数を上回った(図5)。 しかし、依然としてシェールガス生産量は好調である。その理由としては、まず、事業のオペレーターが、リース権のオーナーである土地所有者との間で一定の生産量を担保した生産契約を締結していたり、あるいは、石油会社のパートナー間で合意した開発計画に基づき掘削活動が衰えていない。そればかりでなく、投資が盛んなシェールオイル(あるいはタイトオイル)開発と一緒にシェールガスが随伴して生産されている点、あるいは、

合併等に基づく資金力の回復や現場での開発の効率性改善(コストダウン)などで経済性が向上している点などが相当量寄与していると考えられる。 資源量については、2011年7月に米国エネルギー省が入手可能な地質データや坑井データ等から回収率を推定し、技術的に回収可能な資源量を推定した(表1)。そこでは、シェールガスは米国内全体で750TCFと推定されており、うち北東部のMarcellus Shaleが410TCFで最大であった。シェールオイルは既存データのある4エリアのみが調査対象であったが合わせて240億バレルと 評 価 さ れ、 こ の う ち カ リ フ ォ ル ニ ア に 広 が るMonterey Shaleが最大で150億バレルと推定されている。現在生産が伸びているBakken Shaleは40億バレルほどであった。 ただし、このような数字自体は規模や有望性を示す一つの指標にすぎず、開発・生産を決定づけるものではない。資源量が大きければ経済性や収益が改善する、ある

米国の原油生産量(1981 ~)(NGL は除く)図2

出所:米国エネルギー省データより作成

2000

0

1

2

3

4

5

6

2002

2004

2006

2008

2010年

Eagle Ford(TX)Marcellus(PA and Other Eastern States)Haynesville(LA and TX)Woodford(OK)Fayetteville(AR)Barnett(TX)Antrim(Ml,IN,and OH)

annual shale gas productiontrillion cubic feet

シェールガス生産量の推移図3

米国のガス価格と原油価格(先物市場期近物)図4

出所:米国エネルギー省 

出所:米国エネルギー省データより作成 

0

20

40

60

80

100

120

140

160

年2001

2003

2006

2009

2011

原油価格(WTI原油) ガス価格(米国指標Henry Hub)ドル/boe

ガス

原油

米国のリグ稼働数(石油、ガス別)図5

出所:Baker Hughes データより作成

2004

2005

2006

2007

2008

2009

2010

2011

石油

ガス

0

400

800

1,200

1,600

2,000基

0

1,000

2,000

3,000

4,000

5,000

6,000

1981

1987

1993

1999

2005

2011

7,000千b/d

本土48州陸上の原油生産量本土48州陸上の原油生産量

テキサス州陸上のみテキサス州陸上のみ

メキシコ湾(3マイル以遠のみ)メキシコ湾(3マイル以遠のみ)

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41 石油・天然ガスレビュー

JOGMEC

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シェール層開発で復活する石油天然ガス開発大国の米国

いは生産量が大幅に増える確率が高まるが、実際の投資評価にあたっては、個々の事業の経済性とさまざまなリスク評価、また資金調達の能力が投資を大きく左右する。 シェールオイル開発においても、Bakken Shaleは、1995年時点、米国地質調査所(USGS)の評価は1億3,000万バレルであったが、2008 年には昨今の開発手法や原油相場が反映されたため36億5,000万バレルと大幅に上 方 修 正 さ れ た。2008 年 に Bakken Shale層 下 部 にThree Forks層が確認され、そこに、さらに18億7,000万バレルが期待できると評価された。最近では、 あ る 地 元 事 業 者 は Bakkenと Three Forksで200億バレル以上と主張しUSGSに対して再評価を求めている。このように資源量や埋蔵量は、探査・掘削活動や開発作業によって地質的構造が判明し、より正確な数字に改められていくことが多い。Bakken Shaleは経済性の要件が整ったため開発が進み、結果的に埋蔵量が増加した。  他 方、 大 規 模 と 評 価 さ れ た Monterey Shaleは5万b/d弱を生産しているとはいえ、地質的に生産性が低く、同シェールライセンス面積の過半を押さえる中堅企業Occidentalは他のシェールオイルやシェールガスの開発を優先させている。当分、Monterey Shale

での開発・生産は本格化しないだろう。 実際、民間企業は経済的に開発できるか確かめるための地質的評価を米国全土で行い、新たな有望な開発エリアを探し出そうとしている。 いずれにしても、シェールガス生産量は2020年までに2010年の2倍の8TCF(米エネルギー省の長期見通し)を見込んでおり(図6)、シェールオイルは長期的には北米全体で200万~ 300万b/dのレベルまで増えると期待されている。

② 南部・中部② 南部・中部

① 北東部① 北東部

③ ロッキーマウンテン③ ロッキーマウンテン

④ 西海岸④ 西海岸

米国のガス供給ソース別生産量とその長期見通し図6

出所:米国エネルギー省

米国でのシェールプレイ分布図7

出所:U.S.A Energy Information Administration based on data from various published studsies. Canada and    Mexico plays from ARI.

19900

30History

U.S. dry gastrillion cubic feet per year

Projections2009

25

20

15

10

5

1995 2000 2005 2010 2015 2020 2025 2030 2035年

11%Net imports

Shale gas

Tight gas

Associated with oil

Non-associated onshore

Coalbed methane

Non-associated offshore

1%

46%

8%9%

22%

6%7%

14%

28%

8%9%

20%

9%

Alaska 2%

Alaska 1%

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アナリシス

リグ稼働数の州別変化図8

3 カ年のデータは 2009 年 11 月 20 日、2010 年 11 月 19 日、2011 年 11 月 18 日付データ出所:Baker Hughes

① 北東部 ② 南部・中部 ③ ロッキーマウンテン ④西海岸

0

50

100

150

200

250

300 2009年11月 2010年11月 2011年11月基

ペンシル

ベニアウェスト

バージニア オハ

イオ

テキサス

オクラホマ

ルイジアナ

ニューメキシコ

アーカンソー

カンザス

ノースダコタ

モンタナ

ワイオミング

コロラド ユタ

カルフォルニア

735735911911

438438

地域 シェール層 シェールガスの技術的に回収可能な資源量(TCF)

シェールオイルの技術的に回収可能な資源量(億バレル)

① 北東部

Marcellus 410  

Antrim 20  

New Albany 11  

その他 30  

② 南部・中部

Haynesville 75  

Eagle Ford 21  

Barnett 43  

Barnett-Woodford 32 30

Avalon & Bone Springs    

Fayetteville 32 20

Woodford 22  

Cana Woodford 6  

その他 4

③ ロッキー マウンテン

Mancos 21  Lewis 12  Williston-Shallow Niobrara 7  

Hilliard-Baxter-Mancos 4  

Bakken   40

④ 西海岸 Monterey/Santos    150

合計(本土) 750 240

表1 シェールガス、シェールオイル資源量

データ出所:米国エネルギー省 Review of Emerging Resources: U.S. Shale Gas and Shale Oil Plays 2011 年 7 月 8 日発表

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43 石油・天然ガスレビュー

JOGMEC

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シェール層開発で復活する石油天然ガス開発大国の米国

2. シェール層開発が急速に発展する理由

 米国は地質的に恵まれているというだけではない。安定した政治・経済情勢はもとより、米国は石油産業の基盤がどこよりも整備され、併せて事業の採算性が確保されやすい市場環境が提供されていることが開発が進む主因であろう。欧州、中国や中南米など、シェール資源が期待される諸国に比べても特段の位置にあると言える。 1950 ~ 1970年代の中東諸国等の資源国有化以降、石油メジャーは欧米や南米など世界各地への進出を余儀なくされてきたが、とりわけ米国は安定的な投資先であった。2001年時点、ChevronとBPは米国からの生産シェアが4割を占め、陸上部分が同20 ~ 25%を占めていた(図9)。米国は掘削井からの生産規模はわずかでも、事業のリスク・リターン、カントリーリスク、インフラ充実度など総合的な観点から良好な投資環境が整い、諸外国に比して安定的な収益源として位置づけられてきた。さすがに近年は、ポテンシャルの限界から海外の大水深やLNG開発など他の巨大事業に投資の転換を図っていたが、後ほど触れるように、シェール層資源の有望性が確実になったことを反映して米国に回帰している。 米国の最大の魅力は、石油・ガスビジネス上の慣習法ではなかろうか。その商慣習を基盤に、歴史によって築かれた良好な上流開発事業環境と競争に基づく自由経済とが相まって、シェールガス・オイル事業においても他の産油・ガス諸国では見られない急速な拡大が可能になっていると考えられる。これらを個別に他国と比較しながら解説していきたい。

(1) 土地所有者に資源が帰属する

 米国およびカナダでは、慣習法として土地所有者(ランドオーナー)に地下の資源が帰属すると解釈される

(表2)。つまり石油・ガスの所有者と土地所有者が一致する土地所有者主義である。米国の陸域では私有地が広範囲に広がり、石油メッカのテキサス州では9割近くが私有地であると言われている。 米国の石油ガス開発は、土地の所有者(個人)が石油会社等に石油・ガス開発(リース権)を委ねる形で開発が行われ、石油会社は、土地所有者に生産物の一部を還元する。したがってリース権は、政府でなく、民間ベースで

メジャーの生産量に占める米国比率図9

出所:各社ホームページより筆者作成

BP(米国全体)BP(本土陸域のみ)ExxonMobil(米国全体)

Royal Dutch Shell(米国全体)Chevron(米国全体)Chevron(本土陸域のみ)

0

5

10

15

20

25

30

35

40

45

2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010年

%

表2 各国の鉱業に関する仕組み

陸上リグ数は Baker Hughes のホームページより*米国およびカナダは 7 月 15 日と 11 月 18 日時点のデータ。それ以外の国は 2011 年 7 月および 10 月の月間レポートより出所:各種資料を基に筆者作成

米国 カナダ 英国 欧州大陸(例) 中国 アルゼンチン

資源所有者(鉱業法) 土地所有者 土地所有者 国王 州・国家 国家 州

付与権限鉱区設定

(陸上)

土地所有者(私有地が多い)

土地所有者(州所有が多い) 英国政府

(例)ポーランド政府ドイツ州政府

中国政府、ただしCNPC と Sinopecに独占付与。

州政府

外資規制 原則なし 原則なし 原則なし 原則なし あり 原則なし

国内の価格システム(ガス) 市場価格 市場価格 市場価格 一部石油リンク 統制価格 統制価格

最近の陸上リグの稼働状況

2011 年 7 月* 1,870 基 393 基 1 基 ドイツ 7 基ポーランド 9 基 データなし 65 基

2011 年10 ~ 11 月* 1,965 基 487 基 3 基 ドイツ 4 基

ポーランド 9 基 データなし 64 基

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アナリシス

交わされる私的契約によって与えられる。この形態は北米以外ではあまり見られない。カナダは同様の仕組みを有しているものの、私有地が少なく石油ガスの埋蔵量の豊富なアルバータ州やブリティッシュコロンビア州などはほとんど州の所有地である。また、同様の慣習法に基づいていた英国や豪州も、第一次世界大戦後に変更され、国家に資源が帰属するという概念が導入された。現在では、中東を含め大多数の諸国が同様の概念に基づいている。 したがって、土地と地下資源の所有権が分離されている欧州のような場合には、土地所有者にとって資源開発は生活環境や安全・健康への悪影響が重要視されやすく、政府が鉱区を付与し開発を進めたくとも双方の利害が一致しにくい側面がある。 これに対し、米国システムによれば、政府の意向に振り回されることなく、土地所有者が石油会社に自由に開発の権利を付与することが可能である。

(2) リース鉱区の細分化と自由な取引

 個人所有地である米国の鉱区は細分化されている。範囲設定は自由であるが1マイル四方(1.6km×1.6km=2.5km2)での設定が多いと言われる。連邦保有地のリース鉱区は1マイル四方と規定されている。リース権は自由に取引され、石油・ガス開発のために国営石油会社(NOC)を含めて外国資本が保有することも可能である。 シェールガス等の開発可能な対象資源が増えれば、その土地の価値は上昇する。土地所有者にとって、石油・ガス価格の上昇や資源開発は新たな資産価値・収益を生み出すことになり、石油会社による開発投資も活気づくことになる。加えて、鉱区の細分化は隣接の土地所有者との間に権利調整や利権問題が生じやすい面もあるものの、土地所有者と石油会社間での契約を容易にし、また双方が収益を得られる。その上、既述のように、契約期間中に一定数の掘削を行うことを義務づけられているケースが多く地質的な評価が進みやすい。

 米国では以上のような仕組みを通して歴史的に数多くの掘削が行われ、地質情報が豊富であったこともシェール層開発による陸上での石油・ガス生産復活を後押しているとも考えられる(図11)。

(3) 競争性

 これまでの(1)や(2)は競争性という面にも影響する。 他方、米国のような急速な開発が期待される中国は、企業や個人による土地所有の権利が認められていない

米国の開発事業環境図10

出所:筆者作成

良好な地質

州政府による規制

巨大ガス・石油市場

土地所有者主義

良好な契約条件 開発エリアの

低い人口密度

全体的なパイプラインネットワーク

充実した専門家と石油サービス産業

透明な取引価格

アメリカ

北米における掘削密度図11

出所:National Petroleum Council(2011)

1 ~ 5051 ~ 250251 ~ 500501 ~ 1,000>1,000

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45 石油・天然ガスレビュー

JOGMEC

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シェール層開発で復活する石油天然ガス開発大国の米国

上、石油・ガス開発権は基本的に3大国有石油会社によって独占されている。中国陸域は国有企業の CNPCとSinopecがほぼ押さえている。2011年にシェール鉱区の入札が行われたが国内企業のみを対象とし、外国企業は後から中国企業とパートナーを組む形でしか参入できない。ただしこのような独占体制は、政策的な強い先導者がいれば、最新の技術を取り込んで早期の開発着手になるだろう。 既に民間企業が進出しているポーランドや南アフリカでは、鉱区単位は広大(図12)であり、数社による寡占状態にある。ExxonMobilやShellなどがシェールガス鉱区を取得している。ここでは、企業間による開発競争の原理が働きにくく、開発段階に入ったとしても全体的な開発はゆっくり進むと考えられる。例えば、義務井が課せられていたとしても、掘削密度があまり上昇せず地質情報の収集に時間がかかる。さらに、広大な土地を1社が独占的に作業を進めるため地質的に良好なエリアのみ掘削が行われ、それ以外のところは当面手つかずとなる。

(4) 充実した専門家やサービス企業

 米国は石油開発発祥の地である。掘削や水圧破砕を行うサービス産業も充実しており、国内の開発インフラも他国を圧倒している。 中国やアルゼンチンなど在来型油・ガス田開発が発展している地域では、技術専門家や十分なリグや資機材が時間とともに充実してくるだろうが、これに比してポーランドや南アフリカではインフラ環境が未整備なため、

シェールガス開発は容易には進まないと考えられる。 一つの指標として、サービス会社Baker Hughes社が発表している現在の陸上リグ稼働数を調べてみると、2011年11月半ば時点で米国が1,900基超、カナダ480基に対して、アルゼンチンは65基と比較的多いものの、欧州ではポーランド9基、ドイツ4基、英国3基と一桁にとどまる(表2下段)。

(5) 整備された輸送網とスポット市場および先物の存在

 シェールガスは、地下での賦存状態が頁岩(シェール)に貯留する以外、在来型ガス田からのガスと変わらない。したがって、国内の既存の輸送インフラがそのまま利用できる(図13)。シェールオイルなどの石油開発の場合は、パイプライン投資が開発にあたっての絶対条件ではない。開発中のBakken Shaleでは、生産された軽質原油は鉄道やローリーで幹線パイプラインや製油所まで運ばれており、遅れてパイプラインが整備されていくと思われる。 これらの石油やガスのパイプライン網を通じてスポット取引が行われ、その取引地点が点在する。ガスはスポット価格に需給が反映されやすいが、原油価格は国際化しており内外のファクターによって大きく変動する。そのため、石油やガスは正の相関性をもって産出されても、米国においては現在のようにガス価安で原油高という非連動的な価格変動が発生し得る。 スポット価格のみならず、米国では先物の引き渡し価格が現時点で評価され、それらが日々公表されてい

ポーランド(左)と南アフリカ(右)の広い鉱区設定図12

出所:米国エネルギー省統計局「World Shale Gas Resources: An Initial Assessment of 14 Regions Outside the United States」より

Shell

South AfricaSouth Africa

Falcon O&GSunset EnergySunset Energy

Anglo CoalAnglo Coal

SasolStatoilChesapeakeSasolStatoilChesapeakePolandPoland

Application for concessionChevronCuadrillaDPV ServiceEUREnergyExxonMobilHeliand InvestmentsIndiana InvestmentsJoyce InvestmentsLane/ConocoPhillipsMarathon OilMaryani InvestmentsMazovia EnergyMinsk Energy ResourcesOculis/Talisman/San LeonPGNIGPKN OrlenBNK/SaponisStrzelecki Energia

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アナリシス

る(図14)。NYMEX(ニューヨーク商品取引所)においてルイジアナ州の受け渡しヘンリーハブでのガス取引が先物取引として上場され、規定上は12年先までのガス取引が行われている。クッシングを引き渡しポイントに規定するWTI原油は9年先(期近5年間は月次、その後6月物、12月物のみ)までが先物市場で取引されている。 米国の中小企業は、先物価格で将来の生産量に対する価格変動のリスクを回避している。例えば、企業によっては翌年度の計画生産量に対し6 ~ 7割程度を価格ヘッジする。足元のガス価格が百万BTUあたり4ドル(24ドル /boe)近傍でも、2011 年 8 月時点、数年先は百万BTUあたり5 ~ 6ドル(30 ~ 36ドル/boe)と先高傾向であり、価格ヘッジがしやすい。

(6) 巨大なガス・石油の消費マーケット

 (5)に関連して、米国は、言うまでもなくガス、石油ともに世界一巨大な消費国である。大産油・ガス地であり、かつ大消費地である希

有う

な国である。2010年末時点のBP統計によると、米国の消費規模はガス、石油ともに世界の22%に相当する。ガスは依然として増加しているが、石油は2005年ごろにピークを打って漸減し始めている。これらの対外依存度はガスが消費の1割強、石油は6割程度。ガスは、そのうちの9割近くをカナダからパイプラインで輸入し、残りの僅かな部分をLNG

で補う。シェールガス登場以前は、このLNGシェアが年々激増するだろうと予想されたが、現在の見通しでは縮減している。石油はカナダやメキシコのほか、ナイジェリア、サウジアラビアなどから約1,200万b/dを輸入している。 米国の消費規模を世界のなかで比較してみると、ガス消費量は、アジア全体(中東除く)の消費量を大幅に上回り、それにアフリカ全体の消費量を加えた規模に匹敵する。また、同消費量を国単位で見ると、2番手のロシアの2倍弱に相当する。石油消費量は、欧州全域および旧

米国のガスパイプライン網 図13

出所:米国エネルギー省

0

20

40

60

80

100

120天然ガス先物(HH) 原油先物(WTI)ドル/boe

Henry Hubガス価格(原油1バレル熱量等価)

WTI原油価格

2011年09月

2012年09月

2013年09月

2014年09月

2015年09月

2016年09月

2017年09月

2018年09月

2019年09月

データ出所:NYMEX

先物フォーワード価格(原油とガス)2011 年 8 月 5 日時点図14

LegendInterstate PipelinesIntrastate Pipelines

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シェール層開発で復活する石油天然ガス開発大国の米国

ソ連地域、つまりユーラシア大陸の消費規模に匹敵する。国単位では、2番手の中国の2倍を大幅に超える。

(7) 行政監督権:陸域は主に州政府

 米国とカナダでは、石油・ガス開発等の安全操業規制や監督権限は州政府にある

(ただし、陸域でも連邦所有地は連邦政府が権限を有する)。州政府は地元の経済活性化や雇用創出を図る一方で、公共の利益を守るために上流産業を監視する立場にある。州政府は、地域の特質や地元の民意に即した開発促進策や安全規制を導入すると同時に、石油・ガスに関わる特別税などを通じて収入を得ている。各州の税収入全体に占める特別税の割合は、開発の中心地テキサス州で7%程度、Bakken Shaleのあるノースダコタ州で22 %、Niobrara Shaleなどのあるワイオミング州では約40%に上る(表3)。

3. 引き続き活発な内外からのシェール向け投資

(1) シェール層開発の魅力

 これまで紹介した米国の優れた投資環境に加えて、シェール層開発は企業投資を引き付ける利点を有している。資金負担が比較的軽くて済む点である。 世界の石油・ガス上流開発は、陸域・浅海の在来型資源のほとんどが中東産油国に一局集中し外国の石油会社は参画すら許されていないため、メジャー企業は、先陣を切って1990年代以降、米国やアフリカの大水深域での開発あるいは大型のLNG開発に舵

かじ

を切ってきた。しかし、こうした大水深開発等の巨大事業は、探鉱リスク

(十分な資源を発見できない確率)が高く、油・ガスを発見したとしても1事業あたり最低でも数十億ドルの初期投資が必要で、洋上ガス田を供給源としたLNG開発事業では数百億ドルの初期投資を要する。加えて、探鉱開始からコスト回収が始まる生産開始までのリードタイムは早くても10年程度と長く、事前評価や許認可手続きに時間がかかれば更にリードタイムが長くなる。年間投資額約60億ドル、60万boe/d程度を生産する米国の大手企業でさえ、大型の開発事業を複数手がけることは容

易でない。資金力に限りがある中小企業にとってはなおさらで、ましてオペレーターとして1事業に集中した巨額投資を行うことは企業経営が不安定になりやすくリスクは大変大きい。 これに対して、シェール層開発は周辺での試掘結果が明らかになっていれば比較的探鉱リスクは低く、リードタイムも数年間と短い。中小企業にとっても手ごろな投資先として好まれる理由である。ただ、投資規模は小さくても開発コストは高くつくことから市場価格を注視しながら投資計画を柔軟に変更して、確実に収益を確保していくことが肝心である。

石油開発 < 大水深とシェール層の比較 >

大水深 陸上シェール層

リードタイム 8 ~ 15 年 2 ~ 3 年

探鉱 リスク高 リスク低

試掘 ドリルシップ等 陸上リグ

開発・生産  沖合生産システム 陸上リグ

市場供給 製油所への供給

主体事業者 欧米メジャー 地元中小企業

州 収 入(U.S. $ Millions)

州税に占める割合(%) ランク

アメリカ全体 10,728.9 1.4

アラバマ 144.2 1.6 13

アラスカ 2,116.0 64.4 1

コロラド 136.9 1.5 14

カンザス 132.3 1.9 11

ケンタッキー 275.3 2.8 10

ルイジアナ 904.2 8.3 7

ミシシッピ 81.8 1.3 15

モンタナ 264.7 11.4 5

ネバダ 62.2 1.0 16

ニューメキシコ 843.9 16.2 4

ノースダコタ 391.3 21.9 3

オクラホマ 942.1 10.6 6

テキサス 2,762.9 6.9 9

ユタ 101.5 1.7 12

ウェストバージニア 328.3 7.1 8

ワイオミング 803.6 39.7 2

表3 2007 年の州政府の石油・ガス特別税収入

(注)上記以外の州は石油 ・ ガス特別税を課していないか、あるいは州税に占める割合が 1%未満出所: National Petroleum Council“Prudent Development – Realizing the Potential of

North America's Abundant Natural Gas and Oil Resources”2011 年 9 月 15 日発表

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(2) M&A

 シェールガス事業のパイオニアは、地元の中小企業や個人経営者であるが、近年はガス価格が低迷していることから資金的に苦しくなった地元企業が資金力のある国営石油会社やメジャー等に資産を一部売却し、開発を継続させる動きが顕著となっており、この傾向は、2011年も続いた。 北米(カナダを含む)は、世界全体の上流資産取引(M&A 2000 ~ 2010年)の6割弱(総額ベース)を占めている。2010年は世界全体2,000億ドルのうち1,000億ドル強、また2009年は同1,500億ドルのうち1,000億ドル弱が北米での資産取引であった。近年は、2009年後半以降、国際的に資産を有するスーパーメジャーが資産の入れ替えを行っているため、北米以外での資産取引が活発化しているように思われるが、北米のシェールオイル、シェールガス資産の取引も依然として頻繁に行われている(表4)。2011年上半期(1 ~ 6月)の10億ドル以上の大型資産取引のうち、15件中6件が北米のシェールガス、シェールオイル案件であった。 豪州の BHP Billiton、マレーシア国営石油会社のPetronas、また韓国国営石油会社 KNOCが初めて北米

陸上のシェールガス資産を獲得した。ノルウェーのStatoilも追加投資を行っている。日本企業によるシェールオイルの資産獲得も見られた。 シェール開発参画の傾向として、企業買収によるものが多く見られる。2009年のExxonMobilのXTO Energy買 収 に 続 き、2010 年 に は、Shellと Chevronが、Marcellus Shaleで活動する現地事業者を約50億ドルでそれぞれ買収合意している。鉱区資産や開発インフラだけでなく、技術ノウハウを蓄積する人材や操業システムそのものを併せて取得することで買収後の円滑な開発につなげられる。 最近の大型買収の例としては、BHP Billitonによる買収案件が挙げられる。同社はヒューストンに石油開発部門 の 拠 点 を 置 き、2011 年 2 月 に ア ー カ ン ソ ー 州 のFayettevilleシェール資産をChesapeakeから47億ドルで購入後、7月にはシェールガス開発大手のPetrohawk

(米)を150億ドルで買収した(表4)。同社は従来、豪州とメキシコ湾大水深を2大コアエリアとしていたが、今回のM&Aによって米国シェールガスが第3のコアとして確立されると考えられる。これらによって BHP Billitonは、生産規模を1.5倍に拡大させ、併せてシェー

<米国>

時期 買い主 売り主 主要な取引資産 規模

2 月 BHP Billiton(豪) Chesapeake(米) アーカンソー州 Fayetteville 47 億ドル

3 月 KNOC(韓) Anadarko (米) テキサス州 Eagle Ford 15 億ドル

6 月 Marathon(米) Hilcorp Energy(米) テキサス州 Eagle Ford 35 億ドル

6 月 ExxonMobil(米) Phillips Resources とその関連会社(米) Marcellus シェール事業者 17 億ドル

<企業買収>

7 月 BHP Billiton(豪) Petrohawk(米) テキサス州(Eagle Ford, Haynesville 15 万 boe/d)

150 億ドル <企業買収>

10 月 Statoil(ノルウェー) Brigham Exploration(米) ノースダコタ州 Bakken 47 億ドル

<企業買収>

11 月 EV Energy(米) EnCana(加)他 1 社 テキサス州 Barnett 12 億ドル

11 月 未公表(国際的企業) Chesapeake(米) オハイオ州 Utica 24 億ドル

11 月 KKR 他投資ファンド、伊藤忠商事 Samson Investment(米) ロッキーマウンテン、テキサス州周辺 72 億ドル

<カナダ>

時期 買い主 売り主 資産 規模

3 月 Sasol(南ア) Talisman(加) Montney Shale(ブリティッシュコロンビア州) 10 億ドル

6 月 Petronas(マレーシア) Progress(加) Montney Shale(ブリティッシュコロンビア州) 11 億ドル

10 月 Sinopec(中) Daylight Energy(加) シェールガス含むカナダの油・ガス資産 25 億ドル<企業買収>

表4 2011 年の大型シェールガス・シェールオイルM&A(10 億ドル以上)

出所:各種報道より作成

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ル層開発ノウハウの獲得が狙いとの見方がある。 また、巨大な投資ファンドであるKKR(Kohlberg Kravis Roberts & Company)が伊藤忠商事などと組んで、72億ドルでSamson Investmentというシェール開発を手掛ける米国のガス会社を買収したというニュースも目新しい。

(3) 地元企業による新規Shale層の開拓

 旺盛なM&Aは、地元企業などの先駆的な探鉱の成果でもある。中堅企業が中心となって国内の未探鉱エリアのなかから有望地域をいち早く選び出し、鉱区を押さえて試掘し、その可能性を精査する。そしてその結果(有

望性)を含めて大手企業等に売却している状況にある。 例えば、シェール開発の先駆企業の一つChesapeakeは10%程度年々規模を拡大している(表5)。その手法はM&Aと試掘を組み合わせた事業戦略である。同社は、2008年にHaynesvilleで試掘を行いその可能性をいち早く見出し、米全土での評価を進めシェールガス革命をもたらした。 現在は、収益の出るシェールオイルにターゲットを移し、オハイオ州のUtica Shaleで先行的な掘削を行っている。2011年9月には、その初期評価を発表した。良好な試掘井(Beull 8H)はピーク生産量で3,010boe/d、そのうち石油含有率は50 %であったとし、開発が進むEagle Ford Shaleを上回るものであるとその有望性を強調した。既にUtica Shale資産は大手石油会社(未公表)に24億ドルで一部がファームアウトされたと報じられ、Chesapeakeは高額で売り抜き、利ザヤを稼いだと推測される。現在、ExxonMobilやHessなども続々参画しており、早くもUtica Shaleは次なるBakkenやEagle Fordとして注目されている。 また、Barnett Shaleの最大の生産者であるDevon社は、2011年6月にニューベンチャー計画としてNiobrara(ワイオミング州)、Mississippian(オクラホマ州)、Utica (オハイオ州)、 Michigan(ミシガン州)、 Tuscaloosa(ルイジアナ州、ミシシッピ州)を新規の探鉱エリアと定め、そのポテンシャルを追求すると発表した。2011年の投資計画を年初から10億ドル引き上げ、これらの地域での鉱区取得を進めるとともに地質評価や試掘等を進める。

BHP Billiton の買収による生産増図15

出所:BHP Billiton 発表をベースに筆者作成

0 100 200 300 400 500 600 700

買収後

買収前

豪州 メキシコ湾 その他米州 英国 アルジェリア パキスタン

Fayetteville Petrohawk

米陸上取得分(21万boe/d)

豪州 メキシコ湾

千boe/d

表5 米国陸上における中堅企業の活動概要

Chesapeake(米) Devon(米) EOG Resources(米) EnCana(加)

米国生産量(ガス比率)

2010 47 万 boe/d(92%)

43 万 boe/d(73%)*

28 万 boe/d(67%)

32 万 boe/d(97%)

2009 41 万 boe/d(92%)

45 万 boe/d(74%)*

26 万 boe/d(72%)

28 万 boe/d(96%)

2010 年末時点の生産井数(本) N.A. 15,866 14,964 6,159

最近の再編 高騰するリグ設備などのサービス部門の内製化

2009 ~ 2010 年に北米陸上に事業集中、

他資産を売却

水圧破砕用プロパント開発事業への投資

2009 年末にオイルサンド事業を

分離・独立

米国投資額

(2010)

探鉱開発

探鉱費:8 億 7,000 万ドル開発費:47 億ドル

探鉱費:3 億 3,000 万ドル開発費:31 億ドル

探鉱費:4 億 5,000 万ドル開発費:39 億ドル 探鉱開発費:25 億ドル

買収 72 億ドル(売却費:44 億ドル) 6 億 2,000 万ドル 4 億ドル 1 億 4,000 万ドル

(売却額:5億9,000万ドル)

米国掘削坑数(権益持分)

2010:1,1492009:1,0032008:1,733

2010: 8832009: 5182008:1,056

2010: 8952009: 5532008:1,071

2010:4482009:3902008:750

(注)Devon 社の生産量のみメキシコ湾を含むが、その他は米国陸上のみ出所:各社のアニュアルレポートより作成

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同時にパートナー探しもやっていると報じられている。

(4) そして世界展開へ

 北米での技術的な開発ノウハウを生かして国際展開を図ろうともくろむのがメジャーである。とりわけExxonMobil、Chevronそして欧州のShellやTotalが北米のシェールガス事業に進出し、世界的な展開を試みている。特にExxonMobilは、米国を拠点として世界的なシェール開発を戦略的に展開しようとしている。 ExxonMobilは、2011年の上流戦略のなかで、北米の生産シェアを現行の27%から2015年には35%まで引き上げることを謳

うた

っており(表6)、シェールガス・オイルを含む非在来資源からの米国での生産量を現行25万boe/dから今後10年間で3倍の75万boe/dに拡大することを目指している(図16)。 ExxonMobilは、2009年末にシェールガス大手であったXTO Energy(米)を子会社化した後も急ピッチで類似の資産を買い増ししている。北米以外でも、ドイツや

ポーランドで主要な事業者となり、さらに、この1年でアルゼンチン、中国やロシアなどでシェール事業への参画を決めている。ロシアとは、2011年8月末に同国国有企業であるRosneftとの間でシェールオイル共同スタディを含めて包括的な提携を結んだ。この合意は、そもそも2011年2月にRosneftがBPと進めていた北極海探鉱に関する基本合意が白紙になり、その代わりにExxonMobilが選ばれたのであるが、提携には西シベリアBazhenov Shale層開発の評価スタディの検討が追加的に盛り込まれている。 中国やロシアなどの企業は、国土にシェール資源を膨大に抱えているが、経験を積んだ欧米の技術スタッフあるいは資機材調達等が開発着手には不可欠の前提となる。これを視野に、メジャーもそのパートナーとして参画に野心的である。

4. シェール層開発に関する法整備

(1) 環境対策

 ここからは環境対策について、提案されている解決策を具体的に紹介したい。ここまで述べてきたように、米国の上流ビジネスは基本的に民間企業同士の営利活動であることもあり、操業規制面に関わる法整備が後追いの状況にある。特に、シェールガス開発が急速に発展した

ため環境問題に関する行政の対応が遅れ、そのため地域住民の行政への信頼が揺らいでいる。現在、監督権のある州政府が中心となって、安全操業や環境保護に向けた規制強化が急がれている。また連邦政府は環境団体等の要請で全国的に影響調査を始めた。 行政側にとって石油・ガス産業の活性化は国内や州内

・事業範囲は、世界規模での探鉱、開発、生産およびガス&電力のマーケティングとする。

・探鉱機会を厳選するとともに高い収益が見込める事業に投資し収益最大化を実現すること。また天然ガスと発電市場の資本整備を行うこと。

・これらは、優れた操業能力、革新的な技術、人材の開発、地域社会への投資によって達成し得るものである。

・ 地理的なシェアを変更する。北米からの石油・ガス生産量を今後 5 年間で現行の 27%から 35%に引き上げる。それ以外は、アジア、欧州、アフリカ、豪州からの生産を見込む。

・分野別では、極地開発、大水深開発、重質油、非在来型ガス開発、LNG 開発からの生産量を全体の 40%から 2015年までに 55%に引き上げる。

表6 ExxonMobil の上流戦略

ExxonMobil の米国シェール生産量目標図16

*:2010 includes full-year XTO production.出所:ExxonMobil のホームページ

出所:2011 年 3 月発表の ExxonMobil アニュアルレポートより抜粋

1.0

0.8

0.6

0.4

0.2

0.0

2010*

2012

2014

2016

2018

2020年

mboe/d

U.S. Unconventional Production(2010 ~ 2020)

Shale

TightCBM

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の雇用を生み、さらには巨額の税収入をもたらすものである。米国のNational Petroleum Councilによると、石油・ガス産業が納める連邦政府納税額(法人税)は上昇傾向にあり、2007年時点では全体の約9%を占めた。これ以外にもガソリン税などの燃料税や連邦管轄域からの生産ロイヤルティーや州の既出の特別税、また雇用者からの所得税等を通じて石油・ガス産業は2007年に総額2,760億ドル(約22兆円)を連邦および地方政府に対して納めたと報告されている。

(2) 水圧破砕の使用薬剤公開に向けた動き

 操業現場での安全操業規制や漏油防止対策が強化されているが、一般市民の環境に係る不安の中心は、開発時に行う水圧破砕(ハイドロフラクチャリング)が地下水を汚染するのではないかとの懸念である。産業界は、飲料用の帯水層は浅い深度のゾーンにあり、開発対象層

(シェール層)は、はるかに深い深度にあるとしてその関連性を否定している(表7、図17)。しかし住民らによる不安が増幅して、特に都市部では環境団体などによる反対運動が高まっている。 水圧破砕とは、超高圧の水を坑内に押し込むことによって地層内に割れ目をつくる手法である。その割れ目を通じてガスや油は地上に産出される。水圧破砕は、シェールガスやオイル開発において不可欠な開発工程で、シェール層開発だけでなく生産効率改善のため陸上開発でも多くこの手法が取り入れられている。 この圧入される水には、事前にさまざまな薬剤が添加される。割れ目を保持するための砂(プロパント)のほかに、酸(酸で地層を溶かす効果)、Friction Reducer(パイプと流体との摩擦を少なくする効果)、Surfactant(流体を流れやすくする界面活性効果)、 Gelling agent(割れ目の開度を維持するための増粘効果)、Scale inhibitor(パイ プ 内 で の 残 渣

を 防 ぐ 効 果 )、 あ る い は Corrosion inhibitor(腐食防止の効果)などの薬剤(液体全体の0.5%程度)が圧入水に添加され調合されている。そのため、調合済みの水が大量に地層内に送り込まれ、これが飲料水を汚染する、あるいは人体に悪影響を及ぼすとの疑いが持たれている。圧入される水量の0.5%に過ぎないものの、1井戸あたり300万ガロン(1万1,000m3)の水が圧入されると仮定すると、およそ1万5,000ガロン(57 m3)の化学薬品を圧入したのに相当する。 この問題に対して、州政府と連邦政府での議論や法整備が2011年に入って加速している。シェールガス開発の中心地テキサス州や、ポテンシャルの高いニューヨーク州の具体的な規制対策を紹介する。

(3) テキサス州

 テキサス州では、2011年、開発事業者は添加する薬品内容を州規制局に提出するとともに、州政府連合が提供している公開サイトhttp://fracfocus.org/*を通じて公開することが義務づけられる法案が可決された(表8)。ただし、一般公開の際、添加剤が「trade secrets(企業秘密)」に該当すれば公表対象から除外される。 本法律の成立を受けて、米国の産業界は法案通過を歓迎するとともに、モデル的なルールとして他州に波及することを期待しており、住民不安の解消や信頼回復につ

シェール層開発の開発方法図17

出所:筆者作成

シェール層シェール層シェール層シェール層

水平坑井水平坑井

ガスオイルガスオイル

帯水層帯水層

水平坑井水平坑井

ガスオイルガスオイル

帯水層帯水層

多段階の水圧破砕多段階の水圧破砕

開発対象層の深さ(ft)

飲料用帯水層(ft)

Barnett 6,500 ~ 8,500(1,981 ~ 2,590m)

1,200(366m)

Fayetteville 1,000 ~ 7,000(305 ~ 2,134m)

500(152m)

Haynesville 10,500 ~ 13,500(3,200 ~ 4,115m)

400(122m)

Marcellus 4,000 ~ 8,500(1,219 ~ 2,591m)

850(259m)

表7 シェール層の深度と飲料用帯水層の深度

出所:米国環境保護庁「Draft Plan to Study the Potential Impacts of Hydraulic Fracturing on Drinking Water Resources」より抜粋

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なげていきたいとしている。今回の公開サイトでは、既に、一部石油企業が自主的に薬剤やその構成比率を公開しているが、今回の最大産油州であるテキサス州の決定はその流れを追認する。一層の情報集約化が図られると期待される。既にワイオミング州とアーカンソー州が同様のルール導入を決定しているほか、ルイジアナ州やモンタナ州でも導入に向けた議論を本格化させ、既産油ガス州はこの積極的な情報公開を通じた対応策を模索している。 ただし、添加される全ての薬品が公開対象とされているわけではない。そのため、産業寄りの内容であるとして、これに反対する環境団体もある。事態収拾、信頼回復につながるのか今後の世論の行方に留意が必要である。

(4) ニューヨーク州

 次に、Marcellusシェールが広がるニューヨーク州での動きであるが、同州は人口密度が高いものの、石油産業が根づいていないため法整備や基本対策が遅れている。特に、水資源に恵まれた同州は地元議員や住民による反対運動が根強く州政府の対策が急がれた。

 環境懸念が広がるなかで、2010年12月、前州知事の政権(民主党)は、地下水への影響調査と対策強化を優先させるため、多段階の水圧破砕法(High-Volume Hydro-Fracturing)を当面禁止した。 その後2011年7月に、調査結果を受けて飲料水汚染対策の方針案が環境保護局から発表された。その方針によると、①ニューヨーク市およびシラキューズの水源域での掘削禁止、②飲料用として良質な帯水層での掘削禁止、③また、公共の井戸および私有の井戸周辺での掘削禁止等が盛り込まれている。私有地においては汚染防止策などの掘削時の安全操業基準を厳しくすることによって掘削可能とした。これが最終合意されれば、ニューヨーク州に広がるMarcellusシェールのうち80%以上が新基準の下で開発可能となる(図18)。今後は、設置された諮問委員会での審議を経てパブリックコメントに付された後、方針が決定される。順調に進むと禁止令は間もなく解除される見通し。 同様に、石油産業が定着していないMarcellusシェール域が一部重なるメリーランド州でも、環境保護対策を優先させるために掘削をいったん禁止する措置が取られている。また国境を挟んでカナダ側のケベック州でも同様に環境保護措置を優先し掘削が禁止されている。

(5) 連邦政府

 連邦政府の動きにも簡単に触れる。 連邦政府の規制の難しさは、州政府との関係である。

テキサス州(最大のシェールガス生産州)

法案(HB 3328):2011 年の経緯・3 月 11 日、下院州議会に提出・5 月 31 日、修正案を再可決し知事に送付・6 月 18 日、Rick Perry 知事(共和党)が署名・9 月 1 日、発効

内容: ・石油会社は、規制当局(鉄道委員会)に対し、掘削仕上げの報告時に合わせて各井戸の薬品構成を提出することを義務づける。また、公開サイト http://fracfocus.org/ でも一般公開することを義務づけるもの(2012 年 7 月までに)。ただし、機密事項に該当するものは除外等。 現在、州政府は運用基準を策定中。

表8 テキサス州での薬品添加剤公表法制化(例)

出所:各種資料より作成

ニューヨーク州方針案による開発規制域(色つきエリア)図18

出所:ニューヨーク州環境保護局ホームページより筆者加筆

State Parks and Lands within the Extentof the Marcellus Shale FormationPrimary Aquifers within the Extent of theMarcellus Shale FormationSurface Water Drinking Supply Watersheds withFiltration Avoidance Determinations(FADs)

Extent of Marcellus Shale Formation

カナダカナダ

米国米国ニューヨーク州Marcellus Shaleニューヨーク州Marcellus Shale

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既述のように、陸上資源(連邦保有地以外)は州政府による行政権限が及び、規制内容も州政府によって大きく異なる。ポイントは、連邦が一元的なルール作りをすることや監視体制を導入することが必要なのかどうか、あるいはいかに連邦政府が関与すべきかということである。産業界(米国石油協会)は州ベースで責任を持って安全や環境対策を適所に講じており、連邦が課す一律の厳しい全国的規制は、経済活動を後退させると強く反発している。 2005年の共和党のブッシュ政権時に環境保護庁が所管するDrinking Water Actの規制対象から水圧破砕用の水は適用除外されたが、現在、この復活を目指す動きは特に見受けられない。 オバマ大統領は、環境主義者として、就任当初、自然エネルギー(風力やバイオ燃料等)の利用拡大や自動車燃費の改善によって石油・ガス依存を低下させる方針を採った。しかし、2010年11月の中間選挙で経済・雇用対策に国民の支持が得られず、大敗。その後は国内のシェールガスの開発可能性を踏まえた上でのエネルギー政策に軌道を修正し、ガス開発を推進すべく内務省、エネルギー省に指示、一方環境保護庁に対して環境面に十分配慮した対応策を検討するよう指示している。 具体的にはまず、大統領はエネルギー省に対しては、シェールガス開発を促進するため、環境に調和した安全なシェールガス開発のあり方を検討するよう要請した。専門家委員会が2011年3月に設置され、近く提言書がとりまとめられる。

また、同省に対して安全な水圧破砕法に関する技術開発の予算が確保された。環境保護庁に対しては帯水層汚染リスクの有無の調査(~ 2014)を行い、水汚染が報告されているいくつかの事例を含め徹底した検証を行うよう指示した(表9)。内務省には、連邦政府所有の陸上地域の開発に関して水圧破砕に伴う安全対策強化を要請した。

5.LNG輸出計画

 北米ガスは再興し、新たな段階を迎えた。国内消費の余剰分のシェールガスを輸出しようという試みで、複数が提案されている。これは、米国内で価格4ドル/百万Btu以下のガスをスポットベースで16ドル前後で取引されているアジアや、10ドル前後で取引されている欧州に輸出するもので、今のところ、メキシコ湾沿岸で4件、

東海岸沿岸で1件、西海岸沿岸でカナダを含む6件の計画が明らかになっている(図19)。西海岸の案件は新規の一般的なLNG事業を想定するが、東海岸およびメキシコ湾岸の案件は受入基地に液化施設を増設して輸出基地に転用しようとする新しい事業モデルであり、既存の港湾施設やLNGタンクなどが利用できるため必要投資

<内容・主旨>本調査は、水圧破砕による水圧入と飲料用の帯水層との関連性を検証すること。具体的には、水圧破砕によって帯水層汚染が起こり得るのか、健康等への影響があるのか。 水のライフサイクル(5 ステップ)において以下の三つの方法で検証する。

2012 年末、中間報告し、2014 年末、最終報告の予定である。

① 過去の事例 理由は特定されていないものの、水汚染が報告されている地域を取り上げる 1. Bakken Shale(Killdeer and Dunn Counties) ノースダコタ州 2. Barnett Shale(Wise and Denton Counties)テキサス州3. Marcellus Shale(Bradford and Susquehanna Counties) ペンシルべニア州4. Marcellus Shale(Washington County) ペンシルべニア州 5. Raton Basin(Los Animas County) コロラド州

② 水圧破砕の実施前、実施中、実施後での評価1. Haynesville Shale (DeSoto Parish)ルイジアナ州 2. Marcellus Shale (Washington County)ペンシルベニア州

③ 仮説的な検証

表9 連邦政府環境保護庁による飲料用水の汚染リスク調査

出所:連邦政府環境保護庁「Draft Plan to Study the Potential Impacts of Hydraulic Fracturing on Drinking Water Resources」

① 水採取

⑤ 廃水処理

③ 坑井に水圧入

② 薬剤の添加

④ 生産水および  フローバック水

<水の五つのライフサイクル>

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北米での LNG 受入基地と輸出計画図19

出所:筆者作成 (2011/11)

CANADA

U.S.A

MEXICO

LNG輸出基地計画LNG受入基地基地名

Lake Charles

Elba Island

Gulf

Neptune

Golden Pass

Cove Point

Freeport

Altamira

CanaportNortheast Gateway

Everett

Cameron

Costa Azul

Sabine Pass

表11 LNG 輸出計画一覧

*:各種報道ベース出所:各社発表情報、米国エネルギー省天然ガス規制当局およびカナダ政府国家エネルギー委員会ホームページ等より作成

< 米 国 >

基地名 主要事業者 輸出規模(輸出権申請ベース) 事業段階

東海岸 Cove Point Dominion 780 万トン / 年 FTA 締結国への輸出権を取得非 FTA 締結国への輸出を申請中

メキシコ湾岸

Sabine Pass Cheniere

・第 1 フェーズ 最大 900 万トン / 年 (450 万トン× 2 トレイン)・第 2 フェーズ (2 トレイン拡張)

FTA 締結国および非 FTA 締結国への輸出権を取得(2011/5)。現在、FEED 作業中。BG、Gas Natural とそれぞれ350 万トン / 年の供給契約(20 年間)輸出開始目標:2015 年

Freeport ConocoPhillips 最大 1,200 万トン / 年(3 トレイン )

FTA 締結国への輸出権を取得非 FTA 締結国への輸出を申請中

Lake Charles BGSouthern Union 1,500 万トン / 年 FTA 締結国への輸出権を取得

非 FTA 締結国への輸出を申請中

Cameron Sempra Energy 1,200 万トン / 年 FTA 締結国への輸出権を申請中

西海岸 Jordan Cove Jordan Cove 900 万トン / 年 FTA 締結国への輸出権を取得

< カナダ >

事業名または主体 主要事業者 輸出規模 事業段階

西海岸

Kitimat Apache(40%)EOG (30%)EnCana(30%)

最大 1,000 万トン / 年(500 万トン× 2 トレイン)

カナダ政府より輸出権取得2012 年第 1 四半期に最終投資決定(予定)輸出開始目標:2015 年

BC LNG Douglas Channel 90 万トン / 年 -

Shell* Shell 1,000 万トン規模 -

Petronas* Petronas、Progress 700 万トン / 年(350 万トン× 2 トレイン) FS 開始、輸出開始目標:2015 年

Nexen* Nexen - -

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55 石油・天然ガスレビュー

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シェール層開発で復活する石油天然ガス開発大国の米国

が抑えられ、かつ建設工期が短くて済むという特性がある。 これらの新型のLNG事業は、LNG販売価格が国内で決まるガス市場価格に依存している点で従来型のLNG事業と趣を異

こと

にする特徴を持っている。つまり、日々変動する市場価格に液化コストが(表10)プラスされて、輸出販売されるものである。 この事業は低価格で調達した天然ガスを液化し、割高な他地域にLNGを販売することが目的なので、需要サイド

(東アジア)から見ても、輸送距離は長くても安いLNGを調達できることになる。輸出側と輸入側の双方の思惑は一見一致する。しかし、競争市場の原理を前提にすると、LNG輸出によって地域間の価格差は調整され、当該LNG輸出価格にもいずれ反映されることになるため、輸出によって需要サイドの思惑が達成されても供給サイドの思惑が達成できず、結果的に輸出抑制のリスクにさらされる可能性が指摘できる。つまり、米国のガス価格が上昇すれば、アジア向け輸出の経済性は低下する。またLNG輸出価格の上昇に伴い、大需要家である米産業界や電力業界(図20)が反発を強め、政治的問題に発展する可能性も否定できない。 では、米国のガス価格が当分、低水準を維持するにはどんな条件が必要か。少なくとも、資源が無尽蔵に膨大であること、さらに経済的な開発投資が継続され供給余力が十二分に確保されていることが大前提になる。しかしそれらの条件が満たされたとしても、米国のガス価格自体はやはり国内の需給や需給期待等により、神経質に変動するリスクが排除できず、安定的とは言えない。過去においても、2005年6月時点で6ドル台だった価格がじわじわ上昇し、12月に15ドル/百万Btu、その2カ月後には6ドル/百万Btuに急落した。また、金融危機直前には13ドル/百万Btuを超えたが、事後には2.5ドル/百万Btuに急落した。輸出側と輸入側の一対一の関係は従来型のLNG事業以上に難しく、不安定な関係に置かれることになるだろう。 それでも英国の BGとスペインの Gas Naturalは、2011 年下半期、Cheniereとの間で 350 万トン /年のLNGをSabine Pass基地(ルイジアナ州)から長期購入する 契 約 を そ れ ぞ れ 締 結 し た。 購 入 を 決 め た BGの

Chapman最高経営責任者によると、この契約は“先手のアドバンテージ狙い”、さらに“資産をグローバル化させるとともに自社のLNGビジネスを飛躍させるための新たなビジネス機会をつかむため”である。BGは、ガス開発からLNG開発&トレーディングを含めたガス会社であって最終需要家ではない。2010年の油・ガス生産量は62万boe/dの中堅企業である。LNG引き取り量は約1,300 万トン /年に達し、2015 年にはその取引量を50 %増、2020年にさらに50 %増とすることを目標としている。現在、トリニダード・トバゴ、エジプトで

米国の用途別ガス需要図20

出所:米国エネルギー省情報   

産業用33%

電力用30%

民生用21%

業務用13%

輸送用3%

2010年 : 24TCF

■ 提案されている事業米国では、現在、Cheniere が推し進めるメキシコ湾岸の Sabine PassLNG受入基地の輸出計画が先行する。早ければ 2012 年に着工、2015 年の輸出開始を予定している。Cheniere は、2011 年 5 月にエネルギー省から同基地からの LNG 輸出の許可(最大 1,600 万トン / 年)を取得しており、同年 10 月と 11 月には、BG社、Gas Natural との間でそれぞれ 350 万トン / 年の供給契約を締結し、2トレイン分の供給先を確保した。現在、連邦政府エネルギー規制委員会

(FERC)において液化施設建設に関わる環境影響アセスメントの審査中である。他の 3 件のうち 2 件は、現在、FTA 締結国への輸出は認められ、非締結国への輸出許可を申請中である。速やかな承認が待たれているところである。あと 1 件は、認可申請手続きを先般開始したところである。

■ 価格設定(Cheniere モデル)Cheniere が提案している LNG 輸出価格モデルは、市場価格の Henry Hub

(HH)価格を原料ガス代としてそれに基地の燃料代(HH 価格× 15%)、液化コスト代(2 ~ 3 ドル / 百万 Btu)を上乗せして販売するもの。フレート代を加算すると、HH 価格が 4 ドルであれば 10 ドル程度のコストでアジアに販売できることになる。

表10 米国メキシコ湾からの LNG 輸出計画の現状

出所:Cheniere ホームページ等から筆者作成

調達コスト = +

フレート代

原料ガス代Henry Hub価格(HH)

液化コスト代(固定)(2~3ドル/百万Bu)

基地燃料代(HH価格×15%)

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まとめに代えて -変革を促す-

 米国陸上での油・ガス開発の再興は、個人に与えられた土地の所有者としての独自の権利に基づく商慣習を原動力とし、この上に整備された販売インフラ網や透明性のある市場価格、さらに監督する国や州政府の取り組み、それらが円滑に機能することで民間による営利活動が加速し、再び産業に繁栄をもたらしていると考えられる。長い歴史とともに石油・ガス産業自体が経済活動に組み込まれ、多くの人々の生活を支える基幹産業として根づいている。 ところで、シェール層開発は米国にとどまらず、多大な影響を多方面にもたらしていると考えるが、そのなかでも市場構造への影響について私見を紹介し報告を締めくくりたい。この20年間、ガスの輸送はLNG、パイプライン等が必要といった輸送方法の制約からガス価格は地域市場性が強く、一方、石油価格は、輸出方法による制約がほとんど問題とされないことから、市場連動型に移行し国際化を深めてきたわけだが、こうした流れは、加速するシェール層開発によって大きな節目(ターニングポイント)を迎えるかもしれない。 見通しははっきりしないものの、シェールガスの出現ではっきりした点は、2009 ~ 2010年にかけてLNGと非在来型ガスが一気に市場に流入したことで市場の流動性が国際的に高まり、既存の市場バランスが瞬間的に崩れ、つかの間であっても国家間あるいは地域間において市場間競争が顕在化した。例えば、ロシアはShtockmanLNG計画の凍結を決定し、また、既輸出先の欧州事業者との間でガス契約価格の見直しを迫られ対たい

峙じ

した。現在、ロシアは供給先多様化に向け中韓日などに輸出したいとして東方開拓に余念がない。中国も、ロシアや中央アジアからのパイプラインや国外からのLNGだけでなく、ポテンシャルの高い非在来型ガス開発を促進させ、将来の最適なエネルギー調達の配分バランスを模索している。要するに、マクロで捉えると、ガス市場はロシアや中国などものみ込みながら、着実にグローバル化へと進化し続けているように思わ

れる。 シェールガスは、米国に限らず、欧州、南米や中国など遅かれ早かれ市場に供給されてくるであろう。ガスによる地域市場は、シェールガスやLNGからのさらなる供給力上昇に伴い、ロシアのガス販売戦略、新興のガス市場となる中国、インド、LNGに頼り始めた中東、東南アジアや南米の需給等々、これらを含め多くの要素が複雑に作用し合って世界的な開放市場へと構造的に変容していくであろう。米国のLNG輸出もその変容の一つの過渡的事象である。 一方、シェールオイルの増産はどうなのか。国際エネルギー機関によると、2008 ~ 2011年にかけて3年連続で米国は非OPEC最大の石油増産国であった。冒頭のグラフに見るように、30年近く下げ止まらなかった陸上からの原油生産が2005年ごろから上昇し始めた。将来的には輸入原油もいくぶんか削減されるだろう。オバマ現大統領や歴代の米国大統領が目指してきた石油の対外依存度の低下、とりわけ、中東への石油依存度の低下に貢献するだろう。 それと同等に気になる市場構造への変革が予兆として見受けられる。例えば、

① この30年間続いた指標原油としてのWTI価格の存在感が薄れている

② オイルサンド開発よりもシェールオイル開発の発展性が十分に高い

③ さらには随伴NGL(エタン、プロパン、ブタン)の生産量増大に伴う石化産業への影響である

 ③については専門外なので詳述を差し控えるが、①に関しては、ロッキー山脈周辺からシェールオイルがWTI市場(内陸部のオクラホマ州のクッシングポイント)に流れ込み、カナダのオイルサンド由来の原油とともに北方からの送油が増大している。そのため、メキシコ湾の原油や北海Brent原油の価格と異なり、WTI価

LNGを生産するほか、将来的には、締結したSabine Pass基地以外に、豪州のCBM-LNG(開発中)や自社のLake Charles基地(ルイジアナ州)からのLNG輸出等を視野に入れ、トレーディング拡大を想定してしているよ

うだ。BGにとって、米国産のLNGはあくまで世界のポートフォリオの一つであり、安く提供できるLNGを現時点で確保し、将来のトレーディング上の持ち玉を増やしておく、ということなのかもしれない。

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57 石油・天然ガスレビュー

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シェール層開発で復活する石油天然ガス開発大国の米国

【参考文献】1. 米国エネルギー省ホームページ2. 米国環境保護庁ホームページ3. ニューヨーク州環境保護局ホームページ4. JOGMEC 石油・天然ガス資源情報「米国:シェールガスからタイトオイル開発へ -新技術がもたらす可能性-」

2010年12月 市原路子5. JOGMEC 石油・天然レビュー「上流事業のメジャー主導は続く???」 2010年7月 池ヶ谷清貴 、 市原路子

<注・解説>*:The Ground Water Protection Council(各州の地下水保護局が組織する非営利団体)とThe Interstate Oil and Gas

Compact Commission(各州から組織された安全なエネルギー開発を目指す非営利団体)が運営するサイト。産業界による自主的な取り組みを促すために設置されたサイト。

格は独歩安が発生し国際市場からのディリンケージ化が顕著である。実際に、サウジ、クウェートやイラクは、北米向け原油の指標価格として1980年代より採用してきたWTI価格を、2010年にメキシコ湾の高硫黄原油に変更した。増産中のブラジルでも、指標価格をWTI価格からBrent価格に変更している。WTI価格は経済指標として認知されつつあるが、逆に、実取引においてはその中心からはずれてきている。 ②は、非在来型石油として注目されているオイルサンドは、資源量が膨大でもカナダのアルバータ州に一局集中する。開発事業者はオイルサンドから抽出したビチューメンを合成油に改質するか、あるいは希釈して重質油を特定の製油所に持ち込むことになり、コストも手間もかかる上、LNGや大水深開発と同様に初期コストが高額である。近年、これほどの原油高でもアジア系企業以外に新たな事業者が見当たらない。 それに比べて、シェールガスやシェールオイルは、オイルサンドと比べ単位コスト面ではあまり開きがないよ

うであるが、ポテンシャルは全土に広がり、開発手法はどちらにも応用が利く。既述のように、坑井あたりの生産量は極く少量だがプロジェクトの投資規模が大小選べるため幅広い企業が手を出しやすいという事情もある。何といってもシェールオイルは貯留層が劣悪であっても、採取される油は軽質油で既存の精製設備が利用できる点が魅力である。 オイルサンドの生産は40年かけて現在の140万b/d水準に達し、今後も着実に増大が見込まれている。他方、5年ほど前に本格化したシェールオイルの生産は、価格が高水準であれば、2014 ~ 2015年には100万b/dを超えることが確実と見られている。さらにその先を見通すと、2020年あるいは2025年において、企業の投資選好の観点から両者が北米大陸において拮

きっ

抗こう

している、あるいはシェールオイルがオイルサンドを凌

りょう

駕が

している可能性があり、そのことを頭の片隅に置いておくのもよいのではないかと思う。

執筆者紹介

市原 路子 (いちはら みちこ)JOGMEC 石油調査部、北米 ・ 企業を担当。

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