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更新日:2013/8/22
調査部:竹原 美佳
シェール特集 ~注目される地域の開発動向~「中国」
中国におけるシェールガスの技術的に回収可能な資源量は 1,116Tcf(世界 1位)。シェールガス開
発の最も有望な地域は四川堆積盆地(全体の 5割超)。四川は在来型天然ガス生産の 2割を占める
中国の主要産ガス地域。。
シェールオイルの技術的に回収可能な資源量は 322億bbl(米、露に次ぐ世界3位)。シェールオイ
ル開発の有望地域は西部の新疆ジュンガル・タリムならびに北東部の松遼堆積盆地。いずれも在
来型石油生産地域。ただし主に湖沼性でClay分が多い(可塑性が高く水圧破砕に適さない)などの
地質的課題あり。現在中国における探鉱の対象はシェールガス(四川を中心とした南部海成層)
探鉱開発はPetroChinaが主導、Sinopecが追随。外資は国有企業と主に南部で共同スタディを展開
Shellは PetroChinaと四川でシェールガスの PS契約第 1号、2013年 7月米Hessが PetroChinaと
新疆でシェールオイルを対象に PS 契約締結。ConocoPhillips は PetroChina と四川で共同スタディ
(西豪州海洋、陸上シェールとの相互乗り入れ)。Totalは 2013年 3月 Sinopec と浙江省で共同スタ
ディ契約。
シェールガスの生産見通しは2015年に40~50億m3(0.4~0.5Bcfd)で消費の2%程度。中国の天然
ガス需給ギャップは拡大する見通しであり、中国にとりシェールガスは現在3割に達している輸入依
存度抑制の切り札(本格生産後も自給は困難と思われる)。
米国と異なり地質、土地、インフラなどの課題が山積しており、本格的な生産は 2025 年前後の見通
し。中国では当面オルドス堆積盆地のタイトサンドガスなど在来型天然ガスの開発に重点がおかれ
ると思われる。
1. シェールガス資源量に関する現時点の評価
(1) 米エネルギー省エネルギー情報局(EIA)の評価(2013年6月)
2013年6月、米エネルギー省エネルギー情報局EIAは「世界のシェールガス・シェールオイル資源量
に関する評価("Technically Recoverable Shale Oil and Shale Gas Resources: An Assessment of 137 Shale
Formations in 41 Countries Outside the United States" 以下、EIA June,2013)を発表した。これは EIAが
2011年4月に発表したレポートの改訂版で調査対象地域は前回の 32か国(48堆積盆地、69構造)から
41か国(95堆積盆地、137構造)に増加した。
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図 1:世界のシェールガス資源量評価
EIA June,2013 にもとづき作成
中国は世界第1位のシェールガス資源国、3位のシェールオイル資源国
EIA は中国の技術的に回収可能なシェールガス資源量について 1,116Tcf と前回(2011 年 4 月)より
159Tcf 下方修正したが、引き続き米国を上回る世界 1 位のシェールガス資源国であると評価した。前回
は四川と新疆タリムの2堆積盆地4構造が評価対象であったが、今回は南部の揚子プラットフォーム、江
漢堆積盆地、蘇北地域ならびに西部の新疆ジュンガル、大慶油田がある東北部の松遼(Songliao)堆積盆
地が加わり、評価対象は7地域18構造に増加した(図2参照)。評価対象地域は増えたが技術開発可能
な資源量が下方修正となった要因は前回評価対象の四川の筇竹寺(Qiongzhusi)シェール層とタリムの
下部カンブリア系シェール層について地質条件が劣ること(断層が多いなどの複雑な地質状況、埋蔵深
度が深いこと、有機物含有率(TOC)が低いことなど)を理由に下方修正したためである(表1参照)。
EIA は埋蔵深度 1,000m~5,000m、TOC 含有率 2%以上、有機物の熱的熟成度(Ro)について 1.0%以
上(シェールガス)を評価の対象とした。中国について評価対象の約 116 万平方マイル(約 185 万 km2)
のうち約15万8000平方マイル(約25万km2)をシェールガスの開発に適した分布範囲と評価した。中国
のシェール層の平均深度は四川が約11,500ft(約3,500m)、タリムが13,000ft(約3,900m)で米国の埋蔵
深度より深い。
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図 2:EIA評価対象地域 7堆積盆地/地域
The Overview of Exploration and Development of Shale Gas in China CNPC ,Dr. Wang (Nov,2010
World Shale gas Conference & Exhibition)に加筆
堆積盆・地域Basin・area
構造Formation
技術的に開発可能な資源量TecnicallyRecoverble2011年4月(Tcf)
技術的に開発可能な資源量TecnicallyRecoverble2013年6月(Tcf)
増減
Sichuan Basin Qiongzhusi 349 125 -224四川 Longmaxi 343 287 -56
Permian 215 215四川計 692 627 -65
Tarim Basin L.Cambrian 359 44 -315新疆タリム L.Ordovic ian 224 94 -130
M.U.Ordovic ian 61 61Ketuer 16 16タリム計 583 215 -368
Yangtze PlatformL.Cambrian 45 45揚子 L.silurian 104 104
揚子計 149 149Jianghan Basin Niutitang/Shijintuo 11 11江漢 Longmaxi 7 7
Qixia/Maokou 10 10江漢計 28 28
Greater Subei Mufushan 7 7蘇北 Wufeng/Gaobiajian 36 36
U.Permian 2 2蘇北計 45 45
Junggar Basin Pingdiquan/Lucaogou 17 17新疆ジュンガル Triassic 19 19
ジュンガル計 36 36Songliao Basin Qingshankou 16 16松遼
松遼計 16 16中国計 1,275 1,116 -159
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表 1:EIA評価対象地域・技術的に開発可能な資源量の対比(2011年4月・2013年 6月)
EIA June,2013 にもとづき作成
シェールガス開発の最も有望な地域は四川堆積盆地
EIA は中国におけるシェールガス開発の最も有望な地域を四川堆積盆地と評価した。四川堆積盆地
はドライガスエリアであり、開発に適したエリアは 3.7万平方マイル(約 6万 km2)で、開発に適したエリア
全体の 2割を占める。EIAは前回評価対象のカンブリア系筇竹寺(Qiongzhusi)シェール層、シルル系龍
馬渓(Longmaxi)シェール層について埋蔵深度が深いところや H2S を含む部分を除外したが、新たにペ
ルム系シェール層について評価を行った。その結果、四川の技術的に回収可能なシェールガス資源量
は前回より 65Tcf下方修正され 627Tcfとなった。しかし技術的に回収可能なシェールガス資源量の 5割
以上を占める(図3参照)。
図 3:技術的に回収可能なシェールガス資源量(地域別、%)
EIA June,2013 にもとづき作成
四川堆積盆地の在来型の確認+推定埋蔵量(2P)は約 15Tcf、生産量iは 1.9Bcfd(約 200億m3)で中国
の天然ガス生産の 2 割を占める(図 4 参照)。在来型の貯留層は三畳系の低浸透性の砂岩層や炭酸塩
岩層であり、評価対象のシェール層は在来型ガスの根源岩である。
EIA は同堆積盆地の南西部に広がるシルル系龍馬渓(Longmaxi)シェール層を最も有望であると評価
した。平均層厚1,000ft(300m)の有機物が豊富なシェール層が広がっており、断層が比較的少なくH2Sが
含まれる部分が少ない。有機物の含有率(TOC)平均は 3.2%、有機物の熱的熟成度(Ro)は 2.9%、ドライ
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ガスエリアである(表2参照)。PetroChina は主にこの龍馬渓(Longmaxi)シェール層を対象に探鉱を行っ
ている。
図 4:中国の堆積盆地別原油・天然ガス生産量(2012年)
表 2:四川シルル系龍馬渓(Longmaxi)シェール層の概要
EIA (June,2013)、CNPC Mr.Liu Honglin( Sep,2012)にもとづき作成(HaynesvilleデータはCNPC資料
による)
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その他の有望な堆積盆地
EIA はタリム堆積盆地を四川堆積盆地に次ぐ有望な地域と評価した。タリム堆積盆地の開発に適した
エリアは 6.3万平方マイル(約10万km2)で、四川の2倍ある。EIAは前回評価の下部カンブリア系、下部
オルドビス系シェール層について埋蔵深度が 5km 以上深いエリアや有機物含有率の低いエリアを大幅
に除外したが、新たに中・上部オルドビス系と三畳系庫車(Ketuer)シェール層について評価を行った。
その結果、タリムの技術的に回収可能なシェールガス資源量は前回より 368Tcf下方修正され、215Tcf と
なった。技術的に回収可能なシェールガス資源量の 2割を占める。
タリムの在来型の天然ガス確認+推定埋蔵量(2P)は約 20Tcf、生産量は 1.7Bcfd(約 180億m3)で中国
の生産の約 2 割を占める産ガス地域である。在来型の貯留層は主にシルル系、オルドビス系であり、評
価対象の下部カンブリア系ならびにオルドビス系シェール層は在来型ガスの根源岩である。両シェール
層の埋蔵深度(平均)は 13,690ft(4,170m)~14,620ft(約 4,460m)と深く、経済性からみて四川よりも優先
度は低い。現在のところタリムでシェールガスを対象とした坑井掘削は行われていない。
EIA は南部の揚子(Yangtze)プラットフォーム、江漢(Jianghan)堆積盆地、蘇北(Subei;江蘇、安徽省な
ど)について有機物の含有率(TOC)や有機物の熱的熟成度(Ro)は良好であり、南部の市場に近接して
いる点は有利だが、四川よりも地質構造が複雑であると評価している。南部では少量だが Sinopec が在
来型の原油・天然ガスを生産しているii。Sinopecは揚子(Yangtze)プラットフォームでシェールガスを対象
とした探鉱井を複数掘削している。
西部のジュンガル堆積盆地は在来型の原油・天然ガスを生産している。EIA は同堆積盆地についてシ
ェールオイルのポテンシャルがあると評価しているがシェール層は湖沼性(Lacustrine)でClay分が高い
(可塑性が高く水圧破砕に適さない)。
大慶油田のある北東部の松遼堆積盆地は中国最大の産油地域である。ジュンガル同様シェールオイ
ルのポテンシャルがあるとされるがシェール層は湖沼性で Clay 分が高い。2011 年に Hess が大慶の
Yongle-Toutai 鉱区でシェールオイルの共同評価を行ったが、地質条件が複雑で資源量も商業量では
なくHessはすでに撤退している。
EIAの評価対象外であり在来型の原油・天然ガス生産中の堆積盆地
現在最大の産ガス地域であるオルドス堆積盆地iii(2012年の生産量は約 2.8Bcfd<約 290 億m3>)につ
いて EIA はシェール層の有機物(TOC)含有率が低く、Clay 分が高いため評価の対象としていない。ト
ルファン・ハミ堆積盆地は湖沼性のペルム系のシェール層、チャイダム堆積盆地は上部三畳系根源岩の
有機物の状況が良好だが EIAは埋蔵深度などを理由に評価対象から外した。
7
中国のシェールオイル開発については時期尚早
EIAは中国のシェールオイルの技術的に開発可能な資源量についてロシア、米国に次ぐ世界第 3位
の 320億 bbl と評価した。西部の新疆ジュンガル・タリム堆積盆地と北東部の松遼堆積盆地が有望とされ
る(図7参照)。ただしタリムの中・上部オルドビス系シェール層を除き湖沼性でClay分が多く水圧破砕に
適していない模様である。中国は 2010 年頃からシェールガスの探鉱に着手したばかりであり、現在はド
ライガスエリアの四川堆積盆地で重点的に探鉱が行われている。中国のシェールオイルの本格的な開
発時期について述べることは時期尚早である。
図 5:世界のシェールオイル資源量評価
EIA June,2013にもとづき作成
8
図 6:技術的に回収可能なシェールオイル資源量(地域別、%)
EIA June,2013にもとづき作成
(2)中国における評価
中国政府の公式見解
中国政府の技術的に回収可能なシェールガス資源量についての公式見解は2012年3月に国土資源
部が発表した「全国のシェールガス資源の潜在力ならびに有望鉱区の評価結果」において発表された
883Tcf(25兆m3)である(表3参照)。国家発展改革委員会が 2012年3月に発表した「中国のシェールガ
ス発展12次五か年計画」における技術的に回収可能なシェールガス資源量もこの883Tcf(25兆m3)とな
っている。ただし国土資源部評価は技術的に回収可能なシェールガス資源量 883Tcf(25 兆 m3)のうち、
すでに商業生産を行っているあるいはシェールガスが発見されている地域(開発の実現性が高そうな地
域)は 88万 km2で、回収可能な資源量は EIA評価の半分にあたる 15.95兆m3(563Tcf)としている。
当面の開発対象となる資源量
2013年1月に中国石油化学工業連合会の李潤生副会長は中国の海成層における技術的に開発可能
なシェールガス資源量は 310Tcf(8.8 兆 m3)であり、開発に適した分布範囲は EIA 同様米国の 4 分の1
の約20~25万km2であると述べているiv。李副会長が指摘した中国の古生代海成層は華北、新疆タリム、
南部(四川・重慶ならびに雲南、貴州、広西など)に広がっている(図2参照)。李氏は米国で商業開発さ
れているシェールガス資源は海成層であり、中国国内シェール層の 4 割を占める湖沼性(lacustrine)/
9
遷移性(transitional)の資源ポテンシャルについて評価することは時期尚早としている。
また、PetroChina 西南分公司(四川・重慶地域の探鉱開発子会社)は 2011 年に四川南部シルル系龍
馬渓(Longmaxi)およびカンブリア系筇竹寺(Qiongzhusi)シェール層の 4,000m より浅いエリアの技術的
に開発可能なシェールガス資源量(P90)を 4兆 1200億m3(145Tcf)としている。中国において当面開発
対象となる資源量は 145~310Tcf(4兆~8.8兆m3)となる模様である。これは中国の 2012年の在来型の
天然ガス確認埋蔵量 109.3Tcfの 1.3~2.8倍にあたる。
有望なエリア
Tcf
商業生産中、シェールガス発
見エリア*
(Tcf)海成層(Tcf) 万Km2
EIA(2013年6月) 1,116 - - 25
国土資源部(2012年3月) 883 563* - 88*
シェールガス発展12次五か年計画(2012年3月)
883 - - -
中国石油化学工業連合会(2013年1月)
- - 310 20~25
技術的に回収可能な資源量
表 3:中国のシェールガス資源量に関する現時点の評価
EIA、国土資源部、CNPCにもとづき作成
2.シェールガス生産目標と探鉱開発の現状
(1)シェールガス生産目標
2012年3月のシェールガス開発にかかる第12次五か年計画によるとシェールガスの生産目標は2015
年に 65億m3(0.6Bcfd)、2020年 600~1000億m3(5.8~9.7Bcfd)となっている。2020年の数字はかなり
野心的な目標である。
2013年 3月に PetroChina探鉱・生産分公司(CNODC)新エネルギー処雷懐玉処長が行った報告vに
よると、2015 年には主要事業者により 40~50 億 m3(0.4~0.5Bcfd)程度の生産は見込める模様である。
内訳は PetroChina の威遠(Weiyuan)・長寧(Changning)鉱区の 15~26 億 m3/年(0.2~0.3Bcfd)、
Sinopec の四川涪陵(Fuling)鉱区の 10 億 m3/年(0.1Bcfd)、残りは Shell と PetroChina の富順~永川
10
(Fushun~Yongchuan)PS 鉱区の 10 億 m3/年(0.1Bcfd)である。これらの4鉱区は全て四川堆積盆地に
位置しており 2012年に試験生産を行っている。中国におけるシェールガスの重点開発地域は四川堆積
盆地であることがわかる(図 8参照)。
図 7:四川堆積盆地における主な鉱区
(2)シェールガス探鉱開発の現状
中国では 2012年末までにシェールを対象として約80坑が掘削されている(水平井は約30坑)。中国
で坑井掘削を伴うシェールガスの探鉱活動を行っているのは主に三大国有石油会社(PetroChina、
Sinopec、CNOOC)ならびに地方政府系の陝西延長の 4社ならびに Shellとシェールガスの PS契約を締
結している Shellである。
PetroChina
中国のシェールガス生産/開発の見通しは中国の天然ガス生産の7割を占め、最有望鉱区の四川堆
積盆地で在来型ガスの探鉱開発に長年従事してきた PetroChinaの活動を追うことが最も早道である。
PetroChina は四川堆積盆地の威遠(Weiyuan)、長寧(Changning)シェールガス国家試験開発鉱区を中
11
心にシェールガスを対象とした坑井を2012年末までに約10坑掘削している(このうち水平井を6坑仕上
げている)。
長寧鉱区では 2010年に寧(Ning)-201井のシルル系龍馬渓(Longmaxi)シェール層で 2層のインター
バルから 3.9MMcfdと 2.7MMcfdのガスを得た。さらに 2010年11月~2011年1月にかけて同鉱区初の
水平井である寧(Ning)201-H1井(TD(掘り止め深度)2,823.43m、水平部分1,079m)を掘削した。11段階
のフラクチャリング(水圧破砕)を実施し、44日間で累計 56.4万m3(19.9MMcf)のガスを生産した。
PetroChina は威遠(Weiyuan)および長寧(Changning)鉱区で試験生産を行っており、2012 年のシェー
ルガスの商業生産量は 1,725万m3(約60Mcf)である。IHS Energy(GEPSJuly,2013)によるとNing201-H1
は 2012年 7月以降試験生産を行っており現在の平均生産量は 15万m3(5.3MMcfd)である。威遠鉱区
では 3坑(Wei201、Wei201-H1、Wei201-H3)が稼働中である。
CNODCの雷懐玉処長によると PetroChinaは日量 8万m3(2.8MMcfd)を商業開発規模の坑井と定め
ている。また、2013~15年にかけてシェールを対象とした評価井 44坑、水平井 13坑、生産井 122坑を
掘削し、2015年に 20億m3/年(0.2Bcfd)の生産を、2020年には 200億m3/年(1.9Bcfd)の生産を目指
している模様である(IHS Energy(GEPSJuly,2013)によると 2013年に 14坑の水平井を掘削し商業性を評
価する計画とあり水平井掘削ペースが加速している模様である)。
PetroChinaは 2013年 3月に中国初のシェールガス輸送パイプラインの建設を開始した。四川長寧鉱
区寧 201-H1から双河ギャザリングステーションまで総延長 92.8km、設計圧力 6.3MPa、輸送能力 15 億
m3/年(1.6MMcfd)のパイプラインである。双河ステーションからは在来型の四川・納渓(Naxi)~雲南・
安辺(Anbian)パイプラインと接続する。
Sinopec
Sinopec は四川を含む南部一帯(河南、安徽、雲南、貴州、湖北、江蘇他)に複数の鉱区を保有してお
り、2012年末までに四川、河南、江蘇などで約30坑を掘削している。掘削数はPetroChinaを凌ぐ勢いだ。
2012年に四川涪陵(Fuling)鉱区で試験生産を行っている。IHS Energy(GEPSJuly,2013)によると 2013年
3月に涪陵(Fuling)鉱区の水平井Jiaoye-1HFvi(PTD3,692m、水平部分1,050m)において生産テストを実
施、シルル系 Longmaxi シェール層において 7MMscfd のガスを確認している。また Jiaoye-1-3HF
(PTD3,800m、水平部分1,003m)において15段のフラクチャリング(掘削流体2.3万m3、プロパント987m3
を使用)を実施、3.9MMcfdのガスを得た。2013年7月には Jiaoye-9-2HF(TD4,088m)を 79日間で仕上
げている。Sinopecは 2013年に 17坑を掘削し 15億m3(0.15Bcfd)の生産能力を構築することを目指して
いる。
CNOOC
12
CNOOC は安徽省蕪湖(Wuhu)鉱区を保有しており 2012 年以降データ収集用の観測井(parameter
well)を数坑掘削している。
陝西延長
陝西省地方政府系企業である陝西延長は陝西省(オルドス盆地)で活動しており、シェールガスを対
象とした探鉱井約30坑(うち水平井は3坑)を仕上げた。Liuping177井(対象は三畳系の湖沼性シェール
層)において生産テストを実施している。2015 年に 5 億 m3/年(48MMcfd)、2020 年に 10 億 m3/年
(0.1Bcfd)の生産を目指している。
(3)外資の活動状況
Shellをはじめとする外資が PetroChinaなどの国有大手石油企業と主に南部でシェールガスの共同ス
タディを行っている(図 8 参照)。現在有効な PS 契約は Shell と Petrochina の富順~永川(Fushun~
Yongchuan)PS鉱区のみである。この他 2013年7月に米Hessが PetroChinaと PS契約を締結した。
Shell
Shellは PetroChina と 2012年 3月に富順~永川(Fushun~Yongchuan)鉱区の PS契約を締結し、13
年 3 月に中国政府(商務部)の承認を得た。2012 年 9 月に富順-永川 PS 鉱区陽(Yang)201-H2 井
(TD4,544m)で 430Mcm/d(15.18MMcfd)のガスを得た。Shell と PetroChina の富順~永川(Fushun~
Yongchuan)PS鉱区は2015年に10億m3/年(0.1Bcfd)の生産を目指している。2013年6月、Shell CEO
の Voserは中国のシェールガスの掘削は"very promising”だが、米国のシェールブームのライバルとい
うには時期尚早と語った。
Hess
2013 年 7 月、Hess が PetroChina と新疆北東部三塘湖(Santanghu)盆地馬朗(Malang)鉱区において
PS契約を締結した(合意は 2012年 4月)。対象は EIAがジュンガル堆積盆地で評価した上部ペルム系
のリキッドリッチな Lucaogou 層(湖沼性)である。TOCは平均 5.44%、浸透率は 0.01mD、porosityは 2.7
~3.7%であり 2015年に 1.6万 b/d、2020年に 4万 b/dの生産を目指している。ちなみに PetroChinaは
やはりEIAが評価対象外としたチャイダム堆積盆地において 2013年にジュラ系を対象としたシェールガ
ス探鉱井Qaiye-1を掘削した。年内にもう1坑(Deye-1)の掘削を行う予定である。
その他の企業との最近の合意状況
ConocoPhillipsは 2012年12月にSinopecと、2013年4月にPetroChinaと相次いで四川においてシェ
ールガスの共同スタディ契約を締結した。PetroChina とは 13 年 2 月に ConocoPhillips がオペレーター
13
(60%)を務める西豪州海洋鉱区(WA-315-P、WA-398-Pの 20%)ならびに陸上のシェールガス鉱区権益
の売却で合意しており、資産の相互乗り入れと言える。
Totalは 2013年 3月に Sinopec と浙江省 Xuancheng~Tonglu鉱区でシェールガスの共同スタディ契
約を締結した(図9参照)。
IOC 中国NOC 地域
PetroChina 四川
Sinopec 湖南~湖北CNOOC 安徽
ExxonMobil Sinopec 四川Chevron Sinopec 貴州Hess PetroChina 新疆ConocoPhillips Sinopec 四川
PetroChina 四川BP Sinopec 貴州・江蘇
Dart Energy 河南煤気重慶~貴州~湖南
Total Sinopec 浙江
Shell
図 8:外資のシェール鉱区への参入状況(PS契約、共同スタディ)
(4)シェールガス入札による民間・異業種参入の影響は限定的
2011年6月と 2012年9月にシェールガスの公開入札が実施された。1次入札は貴州北部・重慶南部
の 4鉱区(計1万1,000km2)が公開され、国有石油企業3社(PetroChina、 Sinopec、 CNOOC)および地
方政府系企業 3社(陝西延長、CUCBM、 河南煤気)の 6社のみが入札参加資格(PQ)を取得し入札に
参加した。4鉱区のうち Sinopecが重慶~貴州に位置する南川(Nanchuan)鉱区(2,198 km2 )を落札、重
慶~貴州~湖南に位置する秀山(Xiushan)鉱区( 2,039km2 )を地方の CBM 企業である河南煤気が落
札した。残りの2鉱区貴州の綏陽(Suiyang)・鳳岡(Fenggang)鉱区(2鉱区計6,753 km2 )は落札者がいな
かった。
2次入札は 1次入札の倍の規模で行われた。重慶、貴州、湖北、湖南、江西、浙江省、安徽、河南の 8
省(市)の 20鉱区(総面積 20,002km2)が公開された。19鉱区に対し 83社、152件の応札があった。2次
入札では民間投資奨励(新 36 条)や経済振興(投資活性化)、地方振興(大量の水資源を利用するシェ
ールガス開発について資源産出地方の政府と調和することが必要)という政策に沿い、国有大手石炭・
14
電力企業(中煤、神華、華電等)、地方政府系(重慶他)、国家、ファンド(CIC)、民間企業が落札した。国
有大手石油企業の落札は無かった。シェールガス資源の有望なエリアは国有大手(PetroChina、
Sinopec)がおさえており、入札対象地域の3分の2はポテンシャルが低いという見方がある。今回の入札
により、政府は探鉱の活性化を期待しているようだが、ポテンシャルの高い鉱区は主に国有大手石油企
業が保有しており、知見の不足する落札企業がシェールガス開発に及ぼす影響は当面限定的であると
思われる。
3.中国における天然ガス・シェールガス
(1)中国の天然ガス利用拡大政策
BP 統計によると、2012 年の天然ガス確認埋蔵量は前年比横ばいの 3.1 兆 m3 (109.3Tcf)、可採年数
は 28.9年である。生産量は前年比8%増の約1,120億m3(BP統計は 1,072億m3)と引き続き増産傾向で
ある。供給の 5割以上を西部のオルドス、新疆タリム、四川堆積盆地が占める。しかし見かけ消費量は増
産ペースを上回る 13%の伸び(約 1,500億m3)であり、パイプラインと LNGを合わせ約 400億m3輸入し
ている。対外依存度は約 26%と 3割に近付いた(図 9参照)。
図 9:中国の天然ガス需給推移(2006~2012年)
China LNG Weekly、新華社China OGP等にもとづき作成
15
産業
44%
電力・熱
供給
19%
交通輸送
10%
民生
27%
図 10:中国の分野別天然ガス消費(2011年)
出所:中国能源(エネルギー)統計年鑑 2012にもとづき作成
中国は国内に豊富にある石炭を利用しており天然ガスの一次エネルギー消費に占める比率は先進国
に比べ低い(2012 年は一次エネルギー消費の 4.7%)。中国の分野別消費について中国統計年鑑による
と、2011 年は産業4割、発電2割、交通輸送1割、民生が約3割であった。日本は天然ガス消費の 6 割強
を発電が、民生分野が3割、産業が1割を占める。中国は安価な石炭火力発電をベースロードとしている
ため、日本に比べ発電への利用が少ない(図 10参照)。
中国政府は 2015年までの 12次五か年計画においてエネルギー原単位(GDP1万元創出あたりのエ
ネルギー消費)を 2010年比 16%削減すること、そして 2020年のCO2排出量を 2005年比 40~45%削減
する省エネルギー・排出抑制目標を設定している。そして天然ガスを環境問題(気候変動、排出削減、
大気汚染)への対応に有効な低炭素・クリーンかつ高効率なエネルギーと位置付け、2015年に一次エネ
ルギーの 8%、2020年に 11%に拡大する政策をすすめている。最近話題になったPM2.5などの大気汚染
問題で北京や東・南部沿海都市部を中心に天然ガス利用拡大が加速する可能性がある。
国際エネルギー機関 IEAが中国政府の現行政策にもとづいて作成したシナリオによると中国の需給ギ
ャップは 2020年には 4割、約 1,300億m3(12.6Bcfd)に達する見通しである(図11参照)。大手コンサル
タントで需給ギャップがさらに拡大すると見ているところもある。
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0
1000
2000
3000
4000
5000
6000
2010年 2015年 2020年 2025年 2030年 2035年
生産
需要
億m3/年
図 11:中国の天然ガス需給シナリオ(IEA)
IEA World Energy Outlook 2012にもとづき作成
4.中国におけるシェールガス開発の推進力と課題
(1)シェールガス開発の推進力
中国におけるシェールガス開発の最大の推進力は市場である。前述の通り、中国政府は環境問題へ
の対応から天然ガス利用拡大を目指している。また、消費の拡大による需給ギャップの拡大は輸入依存
度を抑制するという観点でシェールガス開発の推進力となっている。また、シェールガス入札において
民間・異業種の参入をすすめていることは民間投資奨励政策に適っており、地域経済、周辺産業の振興
という政策にも合致している。社会の環境問題への関心は高まってはいるが、他の資源に比べ相対的に
低いと思われる。中国はフラクチャリングを禁止していない。地域により水資源の確保が課題だが河川水
の利用、フローバック水のリサイクルなどで対応している。CNPCは LPGを利用した水無しフラクチャリン
グについても研究している。
(2)シェールガス開発の課題
PetroChinaが 2020年には 200億m3/年(1.9Bcfd)の生産を目指している模様だが、中国のシェール
ガスの本格的な開発は 2025年前後とみられている。米国に比べ課題がたくさんある(図 13参照)。
地質条件と埋蔵深度
地質条件と埋蔵深度の問題は最も厄介だ。中国のシェール層の多くは米国より地質条件が複雑で、
深いところにある。EIAが 2013年の評価で大幅に下方修正した四川Qiongzhusi構造とタリム Basinの下
17
部カンブリアシェールは地質条件が複雑でシェール層の埋蔵深度が 5,000m以深にあることで資源量が
大幅に下方修正された。有望とされる四川堆積盆地においてもカンブリア系筇竹寺 Qiongzhusi 構造は
4,000m より深いところにシェールガスが包蔵されている割合が高く、また北東部は硫黄の含有が高いな
どの課題がある。
地域性
山間部や砂漠などで適地の確保することは難しい。資機材の運搬もコスト上昇につながる。中国は土
地が国有で、最近は地方政府による強引な土地収用による農民の抗議行動が社会問題となっている。
人口密度が高いエリアでは土地収用に時間と費用がかかるだろう。
技術・知見
現在は技術・知見ともに不足しているが時間の問題ではないかと思われる。シェールガスは米国の掘
削サービス会社を連れてきて掘れば出るわけではなく、中国の条件に適した開発を見つけなければな
らない。PetroChinaは四川南部の開発の際、米Haynesvilleなど地質条件が近いエリアとの比較を試みて
いる。
PetroChina雷懐玉処長によると同社はこれまで米サービス大手Baker Hughesの技術により水平井を7
坑仕上げた。掘削期間は平均145日、掘削コストは1坑あたり8,000万~1億元(約1,300~1,600万ドル)
であったが今後は独自技術により掘削期間を 70日程度に短縮し、掘削コストを 630~800万ドル/坑に
低減させることを目指しているという。実際に Shell と PetroChina の PS 鉱区では 2013 年 7 月に
Dong202-H2(TD4,900m、水平部分1,162m)について計画を47日前倒しし、60日間で仕上げている。ま
たPetroChinaはシェールガス水平井の国産化を進めている。2012年8月には長寧の寧(Ning)209井で
国産のマルチブリッジプラグを用い垂直井で多段階フラクチャリングを実施した。2013 年 8 月には水平
井威(Wei)204井を仕上げたvii。ちなみにCNPCは 2012年に中国国内で 827基のリグを用い 11,894坑
を掘削したがそのうち 11%が水平井である。現在水平井のほとんどはシェールガスではなく新疆、遼河、
長慶(オルドス)などの低浸透率の油ガス田開発向けである。
水資源
中国ではフラクチャリングは禁止されていないが、政府は排水の回収・処理やフラクチャリング流体(フ
ローバック水)のリサイクルの重要性を強調している。
水資源へのアクセスが課題となる地域もあるが、中国の国家統計局によるとシェールガス開発の重点
地域である四川の水資源総量は2,239億m3でチベットにつぐ2位であり、中国国内では水資源へのアク
セスは比較的容易なエリアである。また PetroChina は河川水の利用やフラクチャリング流体(フローバッ
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ク水)のリサイクルなどの対応策を講じている模様である。水以外の流体(例えば LPG)を用いたフラクチ
ャリングについても研究を行っている。
インフラ整備
パイプラインの整備については時間の問題ではないかと思われる。PetroChinaは 2013年に 3.5億元
(5,500 万ドル)を投じ、四川長寧鉱区においてシェールガス輸送パイプライン(輸送能力 15 億 m3/年)
を建設、威遠鉱区の在来型パイプライン(四川の地域パイプライン網)と接続する。将来的にはミャンマ
ー~中国ガスパイプラインや中央アジア~新疆~広東他南部向けの西気東輸ガスパイプラインと接続
し、中国の主要市場である南部に向かう見通しである。
価格統制
中国は天然ガス価格を政府が生産コストベースで統制している。現在パイプラインガスのパイプライン
への卸価格(平均)は約 340 ドル/千 m3(6 ドル/MMBtu)である。シェールガスは恐らく開発初期には
在来型に比べコストが高いので自動車や船舶等輸送燃料への利用(石油代替)により経済性を確保する
ことになるのではないかと思われる。
中国政府は天然ガスの段階的な市場価格化を進めており、産業向け価格については2013年6月に価
格改革を行い、前年消費量見合い部分については 15%値上げしシティゲート平均は 9 ドル/MMBtu と
なった。前年消費量を上回る部分については見直し後価格より 4割引き上げシティゲート平均は 12.7 ド
ル/MMBtu となった。価格の市場化に向けた見直しが進むことによりシェールガスを含む国内のガス開
発が加速する可能性がある。
LNGの輸入価格(CIF平均)は 2013年1-6月平均で約 11ドル/MMBtu(2008年以降に長期契約を
締結したLNGは17~18ドル/MMBtu)である。またトルクメニスタンなど中央アジアからの天然ガス輸入
価格(国境到着価格)は約 10 ドル/MMBtu(広東シティゲート価格は約 13 ドル/MMBtu)である。東部
や南部の市場に近い四川のシェールガスは輸送費のかかる輸入パイプラインガスや原油価格連動の輸
入ガスに対し価格競争力が出てくるのではないかと思われる。
19
シェールガス開発の推進力 シェールガス開発の課題
市場:開拓中(高い潜在力)
政府:開発奨励環境問題への対応*資源輸入依存度低減地域振興周辺産業振興
*環境への懸念は他の資源
に比べ相対的に低い(地域により水資源確保が課題)
地質条件:複雑、埋蔵深度
地域性:山間部、砂漠、人口密度
技術・知見幹線パイプラインインフラ・ロジスティクスガス統制価格政策調整水資源
図 12:中国におけるシェールガス開発の推進力と課題
5.現在の主役はタイトサンドガス、シェールガスは次世代のホープ
(1)タイトサンドガスの開発
現在PetroChinaが重点投資を行っているのは、シェールガスではなく、長慶(オルドス堆積盆地)を中
心としたタイトサンドガスである。タイトサンドガス(中国語で“緻密(砂岩)気”)は浸透率の低い砂岩(中国
では0.1mD/ミリダルシー以下)に含まれるガスを指す。タイトサンドガスは米国において40年の生産実
績があり、シェールガス同様水圧破砕や水平坑井により生産を行う。現在も米国の天然ガス供給約6,500
億m3/年(63Bcfd)の約3割を占めている。
中国では 1970 年代からタイトガスの存在が確認されていたが、中国側の表現によると“三低”(低浸透
率(Low permiability)で、地層圧力が低く(Low pressure)、低賦存(Low abundance)という課題があり開発
が進まなかった。しかし天然ガス需要の高まりと技術革新により 2007 年以降特に長慶の蘇里格(Sulige)
タイトサンドガス田の開発が進んだ模様である。蘇里格ガス田の主な貯留層はペルム系Lower Shihezi層
(深度は3,200~3,600m)、浸透率は平均0.5ミリダルシー、地層圧は(静水圧に対し)0.87と、ガスの賦存
量 は 1×108m3/km2 と前述の“三低”条件を満たすタイトガス田である。同ガス田は地層圧力や生産性
の急激な減退などの課題を抱えていたが技術革新や開発手法の改善により生産性が向上した。当初垂
20
直井を中心に開発を行っていたが、垂直井と水平井を組み合わせることで生産の連続性・安定性を実現
した。また、掘削期間の短縮(36 日→20 日以下)によるコスト圧縮を図った。蘇里格ガス田の生産量は
2007年の 17億m3(0.16Bcfd)から 2011年には 8倍の 135億m3(1.3Bcfd)に増加した。
タイトサンドガスの技術的に回収可能な資源量について 12兆m3(420Tcf)程度とされる。これまでにオ
ルドス盆地では蘇里格(Sulige;スリグ)や子州(Zizhou)ガス田が、四川盆地では合川(Hechuan)ガス田が、
松遼盆地では徐深(Xushen)ガス田などが発見されている(図14参照)viii CNPC勘探開発研究院(廊坊)
のWan Yujin氏ixは、中国のタイトサンドガス生産量は 2010年の 160億m3(1.5Bcfd)から 2015年には 300
億m3(2.9 Bcfd)、2030年に 400~600億m3(3.9~5.8Bcfd)に増加するという見解を示している。
図 13:中国における主な油ガス堆積盆地と開発中の主なタイトガス田
各種情報にもとづき JOGMEC作成
中国のエネルギー専門家からシェールガスの開発よりもタイトサンドガスの先行開発が現実的という意
見が出ている。国務院に対しエネルギーに関し助言を行う立場の徐錠銘(Xu Dingming)国務院参事、国
家能源専門家諮詢委員会主任(元国家能源局副主任)は 2012年 7月に「米国におけるシェールガスの
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埋蔵量は 1万坑以上の坑井掘削から得られたものだ。50坑しか掘っていない中国でなぜ埋蔵量が出せ
るのか。中国は地質・地表条件が複雑であり世界第 1 位の資源量という称号に浮かれ、自国のエネルギ
ー発展戦略を乱すべきではない。中国のシェールガス開発は着実に発展させるべきだが、当面は開発
の知見が得られているタイトガスの開発が現実的」と指摘したx。
(2)中国のシェールガス革命は内向き
シェールガスは次世代のホープだ。けれども中国におけるシェールガス開発は米国におけるシェー
ルガス革命とは異なり石炭消費抑制、石油代替、ガス輸入依存度抑制という内向きのものとなるだろう。
中国のガス消費は控えめに見ても2020年には現在の2倍、2030年には3倍以上に達する見通しであり、
シェールガスの大規模な開発が進んだとしても自給ではなく輸入依存度を現在の 3 割程度に維持する
程度にとどまるのではないかと思われる。逆にシェールガス等の非在来型の開発が進まず需要だけ伸
びる場合(中国政府が政策的に需要を抑制しなければ)天然ガス輸入依存度は2025年以降石油並みの
6~7 割に達する可能性がある。世界の天然ガスの供給は十分にあり、日本を含むアジアと奪い合うとい
うことにはならないだろう。
また中国は現在低く抑えているガスや電力などのエネルギー価格を市場価格に近付けようといるが、
それは製造コストの上昇につながるため、シェールガスが市場に大量に供給されても米国のような製造
業隆盛にはつながらないと思われる。
中長期的には楽観的なシナリオだが、シェールガスの大規模な開発(国産ガス並みのコスト低減を実
現)が進む一方、政府の CO2排出抑制エネルギー政策が維持され、電力の価格改革と石炭火力から天
然ガス火力への先進国並みの転換が進む場合、シェールガスが発電に向かう可能性が無いわけでは
ない(現在天然ガス火力の発電電力量に占める比率は約 2.5%)。その場合輸入ガス・LNGへの依存も継
続するが、もし発電におけるガス転換があまり進展しない場合、割高な輸入ガス(LNG)とシェールガスが
限られた市場を巡り競合となる可能性がある。
主な参考資料
"Technically Recoverable Shale Oil and Shale Gas Resources: An Assessment of 137 Shale Formations in
41 Countries Outside the United States" (EIA June,2013)
世界のシェールガス・オイルの資源量評価を考察する (伊原、JOGMEC 石油天然ガス資源情報 2013
年 8月)
The Overview of Exploration and Development of Shale Gas in China CNPC ,Dr. Wang (Nov,2010
22
World Shale gas Conference & Exhibition)
“全国页岩气资源潜力调查评价和有利区优选成果”(2012年 3月、国土資源部)
“中国非常规天然气资源勘探开发与政策思考”潘继平 国際石油経済(2011年6月)
「中国のシェールガス発展12次五か年計画」(2012年3月、国家発展改革委員会)
中国能源統計年鑑 2012
IHSEnergy GEPS
IEA World Energy Outlook 2012
中国:天然ガス供給は多様化 ~シェールガスよりタイトガス・CBMの開発が先行~(竹原、JOGMEC石
油天然ガス資源情報 2012年 7月)
i PetroChinaおよびSinopec(四川普光Puguangガス田)生産計 ii 江漢、江蘇・安徽(2012年):原油5万b/d、天然ガス2.3億m3(22MMcfd) iii新華社China OGP(長慶生産量) iv「頁岩気開発熱潮中的冷思考(シェールガス開発ブームにおける冷静な思考)」 (CNPC、2013年 1月
30日) v中石油页岩气勘探开发进展—雷怀玉 全球石油化工网2013-03-18
vi 12年2~5月に掘削した垂直井 Jiaoye-1からのコンバート vii 中国石油報2013年8月22日 http://news.cnpc.com.cn/system/2013/08/22/001443762.shtml viii “中国非常规天然气资源勘探开发与政策思考”潘继平 国際石油経済(2011年6月) ix “Current Status and Prospect of Exploration and Development of Tight Sand Gas in China”(Yujin
Wan 2012WGC) x 前瞻网2012年7月3日