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平成28年9月8日 薬用作物産地支援 栽培技術研修 九州会場 カンゾウの栽培技術について 薬用植物資源研究センター 種子島研究部 茂樹 創薬支援に特化した独法組織として2005年に創設 国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所とは

カンゾウの栽培技術について...基原植物:ウラルカンゾウ,Glycyrrhiza uralensis Fisch. スペインカンゾウ,Glycyrrhiza glabra L. 繁殖様式: グリチルリチン酸を産出

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Page 1: カンゾウの栽培技術について...基原植物:ウラルカンゾウ,Glycyrrhiza uralensis Fisch. スペインカンゾウ,Glycyrrhiza glabra L. 繁殖様式: グリチルリチン酸を産出

平成28年9月8日薬用作物産地支援 栽培技術研修 九州会場

カンゾウの栽培技術について

薬用植物資源研究センター 種子島研究部

林 茂樹

創薬支援に特化した独法組織として2005年に創設

国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所とは

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★薬用植物の栽培・育種に関する技術、化学的・生物学的評価に関する研究開発

★国内3箇所の研究部圃場で植生に応じた4,000を超える

種・系統の薬用植物を栽培・保存しており、各研究機関に種苗の供給や栽培技術の指導などを行っている

★保有する重要薬用植物の生育特性、栽培法、関連生薬、漢方処法などを網羅した「薬用植物データベース」の一般公開を行っている

薬用植物に関する国内唯一の総合研究センター

薬用植物資源研究センターとは

種子島研究部の紹介

▲インドジャボクRauwolfia serpentina

沿革

1953年:国立衛生試験薬用植物園種子島分場として開設

1953年:国立衛生試験所種子島薬用植物栽培試験場に改称

1997年:国立医薬品食品衛生研究所種子島薬用植物栽培試験場に改称

2005年:独立行政法人医薬基盤研究所薬用植物資源研究センター種子島研究部

2015年:現在の名称へ変更

業務

I.温暖地に生育する薬用植物資源の収集と保存ショウガ科,トウダイグサ科,柑橘類,ニッケイ属,インドジャボク属,クチナシ属,オガルカヤ属,カンラン,サンビロード,デリス その他

II.薬用資源植物の栽培と改良に関する研究ガジュツ,ウコン,インドジャボク,マオウ,ミシマサイコ,モモ,タチバナ,センナ など

III.その他の業務栽培指導,種苗提供,教育・普及活動(正しい知識の普及)

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本日お話する内容

1.薬用植物の国内栽培について

2.カンゾウの国内栽培化へ向けた課題と取り組み

生薬,漢方薬,民間薬,ハーブとは

生薬:植物,動物,鉱物由来の天然薬剤で,乾燥あるいは簡単な処理等により調製し,医薬品もしくは医薬品原料に供するもの。第十六改正日本薬局方第一追補(厚生労働省、2012年)では215品目が収載され,品質が細かく規定されている。

漢方薬:漢方医学*の理論にもとづいて一定の法則のもとに(多くの場合)数種類の生薬の組み合わせて処方され,専門医の指導のもとで証に応じて使用される。

民間薬:伝承的に効能が知られている,天然物由来の薬剤。必ずしも専門医の

診断によらず,自覚症状により,多くの場合,単味で(時に2〜3種類組み

合わせて)使用される。

ハーブ:一般には香りの強い薬草やスパイスなどをいうが,

明確には定義されていない。薬用植物の英語訳はherb(ハーブと発音)であり,一般的にはヨーロッパ原産の薬用植物のことを言う場合が多い。

*漢方医学の由来は中国(4~5世紀に伝わった)であるが,中国伝統医学を中医学と呼び,中医学を基に江戸時代に日本で独自の体系として確立されたものを漢方医学と呼んで区別している。

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葛根湯構成生薬と配合割合い:葛根8,麻黄4,大棗4,桂皮3,芍薬3,甘草2,生姜1

構成生薬の薬効葛根:発汗,止渇,鎮痛作用がある他,項背部の凝りをとる作用。麻黄:発汗作用が強く,鎮咳作用がある。大棗:強壮,緩和,鎮静作用がある。桂皮:発汗,発散,健胃作用や,のぼせをとる作用がある。芍薬:鎮痛,鎮痙作用がある。甘草:緩和,止渇作用がある他,急性の痛みや痙攣を治す作用。生姜:発散,健胃,鎮嘔吐作用がある。

大棗

生姜

葛根

甘草

芍薬

桂皮 麻黄

漢方製剤の生産額の推移

薬事工業生産動態統計調査(厚生労働省)による

0

200

400

600

800

1000

1200

1400

1600

2000

2001

2002

2003

2004

2005

2006

2007

2008

2009

2010

2011

2012

2013

2014

漢方

製剤

の生

産額

(億

円)

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原料生薬の使用量と生産国(平成24年度)

日本12%

中国81%

その他の国7%

総使用量 25,785 t

原料生薬使用量等調査報告書(3)日本漢方生薬製剤協会 平成27年4月

0

50

100

150

200

250

100126

164 169191

213

244

価格

指数

中国産原料生薬の価格変動について

日本漢方生薬製剤協会,中国産原料生薬の価格指数調査について(2015)

数値は2006年の購入価格を100とした時の各年次の値を示し,中国から直接輸入している使用量上位30生薬を対象としている.

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・生薬需要の国内自給率は数量ベースで12%程度となっている (平成24年度)。

中国の現状

・中国経済の発展により、物価・人件費が上昇し,中国内での生薬使用量も増加し,

生薬の値段が高騰。

・都市部(沿岸部)と農村部(内陸部)の所得格差が大きいことから,農村部から都市部へ

の人口流出により, 農業従事者人口や農地の減少が続いている。1980年代に始ま

った一人っ子政策の影響が, 若い農業従事者人口の減少に拍車をかけている。

・自然環境保護,砂漠化防止対策のため,無秩序的な野生植物資源の採取を制限。

日本側からみると・これまでのような安い値段での安定供給に不安。・砂漠化防止や自然災害(洪水,干ばつ,地震等),政情不安による突発的な供給量

の減少や停止という不安。・生物多様性条約(CBD)関連の国内法が資源国で整備されるに従い、資源国(中国

等)から利益配分をもとめられる状況への不安。

・輸送時の微生物汚染や農薬汚染, トレーサビリテイの確保が難しい等の不安。

日本の生薬の持続的供給をめぐる状況

第三国に供給を求める,国内栽培を増やすといった対応が今後に向けて必要

0

500

1,000

1,500

2,000

2,500

3,000

3,500

4,000

1985

1986

1987

1988

1989

1990

1991

1992

1993

1994

1995

1996

1997

1998

1999

2000

2001

2002

2003

2004

2005

2006

2007

2008

2009

2010

2011

2012

国内

にお

ける

薬用

植物

の栽

培面

積(ha)

2010:1,809ha

1988:3,916ha

日本における薬用植物栽培面積の推移

(財)日本特産農産物協会「薬用植物(生薬)関係資料」より

2006:1,138ha

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農業基盤

栽培技術, 種苗, 指導者は一度失われると取り戻すのに多大な努力を要する。

人, 土地, 栽培技術

・種苗や優良品種・指導者

薬用植物栽培生産の推進

人=農業従事者: 高齢化,人口減少。

土地=農地: 減少,耕作放棄地の増加。

栽培技術

作付体系: 58品目の薬用植物栽培指針

調製方法: 58品目の薬用植物栽培指針

農業機械: 殆ど活用がなされていない。

農薬使用: 一部の品目のみ認められている

農業基盤

・正しい種苗: 保存程度,供給体制が十分確立されてない。

優良な品種: 数品目であるのみで,急務である。

・指導者: 不足 (1980〜90年代当時の各地域の担当者が退職)

薬用植物栽培生産に関する日本の課題

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生薬・薬用植物生産の注意

薬草の栽培 収穫物の調製加工 製品

日本薬局方に定める規格,薬事法

農薬取締法など

◆一般の農作物と同様に農薬取締法の対象であることに注意する.適用のある農薬しか使えない!

◆収穫物および生産物が局方の規格や薬事法の対象となる.規格外のものは製品にならない.

薬の法律「日本薬局方」

生薬は,原料となる植

物,生薬の形状,品質等の規格が法律によって定められている.

◆基原植物

◆生薬の性状

◆確認試験

◆純度試験

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国内の薬用植物(健食)の流通例

国内の薬用植物(生薬)の流通例

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日本での使用量上位10生薬の使用量と生産国

原料生薬使用量等調査報告書(3) 日本漢方生薬製剤協会 平成27年4月

0 500 1000 1500 2000

コウイ

ソウジュツ

ハンゲ

トウキ

タイソウ

センナジツ

ケイヒ

ブクリョウ

シャクヤク

カンゾウ

平成24年度の生薬使用量(t)

日本

中国

その他

本日お話する内容

1.薬用植物の国内栽培について

2.カンゾウの国内栽培化へ向けた課題と取り組み

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カンゾウ(甘草)について

マメ科の多年生草本基原植物:ウラルカンゾウ,Glycyrrhiza uralensis Fisch.

スペインカンゾウ,Glycyrrhiza glabra L.

繁殖様式:

グリチルリチン酸を産出

O

glcA-glcA-O

COOH

H

ストロン

利用部位

主に根を生薬として利用

栽培年数:3年~

種子 ストロン

ウラルカンゾウの植物分布

引用:GBIF 地球規模生物多様性情報機構(http://www.gbif.jp/index.html)

中国(東北,華北,西北),モンゴル,ロシア,中央アジア等に自生

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カンゾウの用途

●漢方薬原料:漢方処方の70%以上に処方される最も汎用度が高い生薬原料

●医薬品原料:グリチルリチン酸

●甘味原料:グリチルリチン酸はショ糖の200倍の甘味

醤油,味噌,タバコ,お菓子などに食品添加物として利用

[薬理作用]

抗炎症,肝機能強化,抗腫瘍,抗ウイルス

,抗アレルギー,抗アトピーなど

資料:財務省貿易統計

● すべて輸入に依存● 多くが野生植物の採取による● 輸入価格が高騰

中国からの輸入価格の変遷

カンゾウの供給

194

国内栽培化が切望される

1,115

0

200

400

600

800

1,000

1,200

1996

1997

1998

1999

2000

2001

2002

2003

2004

2005

2006

2007

2008

2009

2010

2011

2012

2013

2014

2015

中国

から

の甘

草の

輸入

価格

(円/kg)

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栽培暦カンゾウの栽培暦(独立行政法人医薬基盤研究所薬用植物資源研究センター北海道研究部)

月 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12

旬 上 中 下 上 中 下 上 中 下 上 中 下 上 中 下 上 中 下 上 中 下 上 中 下 上 中 下 上 中 下 上 中 下 上 中 下

一 △ △ △ △ △

年 基肥 播種 播種 中耕 中耕

生 目 整地 定植 定植 除草 除草 除草 除草

(寒冷地)

育 ○ ○ ○ ○ ○ ○

二 萌芽 (寒冷地 萌芽) 開 花

相 年 △ △ △ △ 中耕

目 追肥・中耕 (寒冷地 追肥・中耕) 除草 除草 除草

作 三 ○ ○ ○ ○ ○ ○ △ △ △ △

年 萌芽 (寒冷地 萌芽) 開 花 (寒冷地 収穫・調製) 収穫・調製

業 目 △ △ △ △ 中耕

以 追肥・中耕 (寒冷地 追肥・中耕) 除草 除草

☆基肥(10a): ☆追肥(10a): ☆病虫害:

作  堆肥:500〜1000kg 2年目4月中〜下旬(寒冷地 5月上〜中旬)

 苦土石灰:60〜100kg  苦土石灰:60〜100kg

業 ☆播種:  窒素:6〜8kg ☆収穫・調製:

 株間10〜20㎝,畝幅60㎝  燐酸:5〜7kg

の  量 400~500g(10a)  加里:8〜12kg

☆ストロンの定植: 3年目4月中〜下旬(寒冷地 5月上〜中旬)内  株間20〜50㎝,畝幅60㎝  苦土石灰:100kg ☆収量:

 長さ 10〜20cm  窒素:10〜15kg

容  3333〜8333本(10a)  燐酸:12〜18kg

 加里:15〜20kg

☆病虫害:生育期間を通じハダニやアブラムシの発生がみられるが、寒冷地では顕著な病害はない。

播種または定植後3年目以降の11月頃(寒冷地では9月下旬〜10月上旬)、地上部を刈り取り、デガーで根とストロンを収穫。水洗後、根とストロンに分けて速やかに乾燥させる。

ウラルカンゾウ実生3年生株のストロン、根における乾物収量はそれぞれ、300~500kg、300~400kg(10a)。

カンゾウの栽培暦

厚生省薬務局監修(2002):薬用植物,栽培と品質評価Part10,51‐62,薬事日報社 を一部改編

苗作成

播種または定植

追肥

圃場準備除草

調製・洗浄

乾燥

1年目5~6月 1~3年目 3年目10月

収穫

カンゾウの栽培体系について(北海道研究部の事例)

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1.栽培の体系化 2.品質の制御

国内生産へ向けた課題

作業の機械化等栽培環境の最適化

優良品種の育成

既存機械の応用

・栽培体系の確立・栽培適地の検索

高含量系統の選抜

成分含量向上の条件を解明

1.栽培,収穫および加工調製作業の機械化

国内栽培化へ向けた課題と取り組み

2.日本薬局方規格を満たす生薬の生産体系の確立

1)環境要因とグリチルリチン酸含量の関係についての検討

2)グリチルリチン酸高含量系統の育成

既存の農業機械の応用が可能か?

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カンゾウの機械播種について

肥料を入れる

種子を入れる

鎮圧ローラー

30馬力トラクター

播種板が入っている

播種板 直径 3.5mm,20穴の播種板を使用

作業時間:30分 / 10a従来の手播き(6名で約40分)

各種の播種板

4条式プランター(HKW-4AS,Ku社製)を利用した作業例

ペーパーポットによるストロンの育苗

ビート用のペーパーポット(1.9×13cm)

1ヶ月後

ビート移植機の利用が可能となる

アスパラ選別機

ストロン切断

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長さ 約1m

5年生ウラルカンゾウの圃場

堀上げられた5年生カンゾウ根

:デガーによるウラルカンゾウの収穫例

70馬力トラクターによる作業デガー(H社製)

カンゾウの機械収穫について

● ストロンが発達した株では,連続的な収穫が不可能.掘削機による堀上では70 時間・人/10aを要する.

課題

● 北海道農業研究センターとの共同開発で畝の両端

に溝を切ることにより連続収穫が可能となる新規収穫方法を考案(特願2013‐250775号)

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野菜洗浄機による洗浄作業例

洗浄効率:1kg当たり109秒・人洗浄前

ジェットウォッシャー(STX-72S,Sa社製):高圧水による洗浄

洗浄後

洗浄中

洗浄機の内部の様子上下のノズルから高圧水が

噴射され、このノズルが洗浄中は左右に動くことにより、ムラなく

洗浄が可能となる。 試料を流すスピードが可変で、それによって時間の短縮もできる。

カンゾウの洗浄および根頭部の切断の機械化

根頭部の切断についてゴボウ用連続自動根切機(GCB-195A,O社製)を用いた根頭部の切断作業例

O社製,GCB-195A

切断前 切断後

カンゾウの洗浄および根頭部の切断の機械化

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1.まとめ

播種,収穫,洗浄および根頭部の切断には既存の農業機械の応用が可能である

課題

● 除草に多大な労力(180 時間・人/10a,年)を要する.北海道におけるウラルカンゾウの萌芽期は5月下旬であり他の植物と比較して遅い.

● 機械除草,マルチ,除草剤の適用拡大等の対策が必要.

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2.日本薬局方規格を満たす生薬の生産体系の確立

1年生 2年生 3年生 4年生 5年生

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

3.0

3.5

4.0

4.5グ

リチ

ルリ

チン

酸含

有率

(%)

n=3

n=5n=10 n=20 n=100

O

glcA-glcA-O

COOH

H

JP16規定値

WHO基準値

問題点:畑で栽培したものは規格値に満たない

グリチルリチン酸含量が低い

栽培品

※現在はJP17測定条件が変更となり,規格値は2.0%となった

二次代謝産物・・・植物の成長や分化に直接的に機能していない

生育環境へ適応するための防御化合物

過酷な環境下において多く合成される?

2-1)環境要因とグリチルリチン酸含量の関係についての検討

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北海道名寄市年平均気温 5.3℃年間降水量 961 mm

平均

気温

比較的湿潤な時期

非常に湿潤な時期

中国内蒙古自治区

年平均気温 7.5℃年間降水量 371 mm

降水

量m

m

北海道名寄市と中国内蒙古自治区の気候図気温と降水量が1:2となるように描かれている(Gaussen, 1954; Walter, 1955).降水量が100mmを超える場合は目盛りを1/10に縮小している.名寄市:気象庁(1979~2000年).中国内蒙古自治区(赤峰市):中国気象局(1971~2000年)

乾期

自生地

ウラルカンゾウ自生地の気象環境

負荷 凍結

ストレス負荷

貧栄養 アルカリ性塩類集積土壌 半乾燥地

養分制限 乾燥高温高塩類高pH

ウラルカンゾウ自生地の環境(中国内蒙古自治区)

土壌凍結

グリチルリチン酸蓄積の応答性解析

環境要因への応答性解析

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土壌水分との関係について

褐色低地土(排水良好)

2006.5.9北海道名寄市

灰色低地土(排水不良)

2006.5.9北海道名寄市

深さ50㎝から砂層が出現 地下水位が

高く湿性

水分環境が異なる土壌にて直播栽培

0

50

100

150

200

250

n=74n=116

***

土壌水分環境の違いが及ぼす影響

土壌水分環境の違いがウラルカンゾウの根重とグリチルリチン酸含量(主根)へ及ぼす影響.* *, ***はそれぞれ1%,0.1%水準で有意差があることを示す(t検定)

根重

(D

W g

/pla

nt)

褐色低地土(排水良好)

灰色低地土(排水不良)

主根

のグ

リチ

ルリ

チン

酸含

量(%

)

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

3.0

n=74n=116

**

90%分位点

75%分位点

25%分位点

10%分位点

平均値中央値

凡例

褐色低地土(排水良好)

灰色低地土(排水不良)

O

glcA-glcA-O

COOH

H

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降水量との関係

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

3.0

3.5

c

bc

a

a

a

ab

n=6n=20

n=10

n=20n=40 n=40

主根

のグ

リチ

ルリ

チン

酸含

量(%

)

1年生10月

2006年

2年生8月

2年生10月

3年生10月

2008年

4年生10月

2009年

5年生10月

2010年2007年

90%分位点

75%分位点

25%分位点

10%分位点

平均値中央値

凡例

O

glcA-glcA-O

COOH

H

454mm

670mm

780mm

5~10月の降水量

生育期間と主根のグリチルリチン酸含量の関係.異なるアルファベット間に5%水準で有意差あり(Tukey-KramerのHSD検定).

褐色低地土(排水良好)

0℃付近

土壌凍結なし

断熱効果

積雪なし

土壌凍結

北海道名寄市気温:-28.6~5.3℃

降水量:174mm

中国内蒙古自治区気温:-27.6~20.4℃

降水量:6mm

積雪あり

(12月~2月)

カンゾウ越冬期間中の気象環境について

強い低温

土壌凍結

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-0.4~0.2℃

積雪区

-15.5℃~20℃

-9.2℃~8.8℃

(処理期間 12月1日~2月20日)

土壌凍結区

積雪なし

(ビニールハウス内にて)

土壌凍結との関係について

-1.7~0.1℃

積雪あり(20cm以上)

断熱効果

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

根の

グリ

チルリ

チン酸

含有率

(%)

12月1日

2月20日

ns**

積雪区 土壌凍結区

1.06倍 1.30倍

**: p<0.01, t検定, n=4

O

glcA-glcA-O

COOH

H

越冬期間中のウラルカンゾウの根におけるグリチルリチン酸含量の増加量

根の

グリ

チル

リチ

ン酸

含量

(%

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高塩濃度が及ぼす影響

塩処理および調査方法:5月31日にワグネルポットへストロンを定植し,0mM,200mM(1.2%)および400mM(2.3%)のNaCl水溶液500mL/ポットを7月30日から10日間隔で計6回添加した.

0 10 20 30 40 50 6005

1015202530354045

電気

伝導

度(E

C, m

S/cm

)

NaCL添加開始後の日数

0mM

200mM

400mM

EC (mS/cm)試験区 max min ave n0mM 7.6 3.1 5.3 15

200mM 24.0 8.3 16.7 15400mM 44.0 15.6 25.9 15

土壌溶液をミズトール(Daiki)により採取し,コンパクトECメータ

(Horiba)により計測.

塩添加後の各試験区における土壌溶液中の電気伝導度(EC)推移

土壌環境について

● 塩添加後の土壌溶液ECの平均値は,0mM区が5.5mS/cm,200mM区が16.7 mS/cm,400mM区が25.9 S/cmであった.

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0mM区

200mM区 400mM区

NaCLの添加が栽培1年目ウラルカンゾウの生育へ及ぼす影響2010年9月28日に撮影.

全乾物重:24.5g

全乾物重:18.2g 全乾物重:19.0g

0mM 200mM 400mM0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

グリチ

ルリチ

ン酸

含量

(%) a a

a

グリチルリチン酸含量について

NaCLの添加が栽培1年目ウラルカンゾウの根のグリチルリチン酸含量へ及ぼす影響2010年9月28日に収穫.異なるアルファベット間に5%水準で有意差あり(Tukey‐KramerのHSD検定,n=5).

● グリチルリチン酸含量は0mM区,200mM区および400mM区がそれぞれ1.46%,1.47%および1.38%となり,顕著な試験区間差が認められなかった.

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● 野菜類は土壌溶液ECが18mS/cmを超えると生育量が最大値の20%以下となるが1a),ウラルカンゾウは25.9mS/cmであっても0mM区に対して77%の生育量を示すことから,耐塩性を有することが判明した.

● また,同じ高塩環境下(Na:265mM)において,Naが高含量型であるアッケシソウ(17.6%)のような種と低含量型であるヨシ(0.19%)のような種が存在するが1b),ウラルカンゾウは400mM区で0.23%と低含量型であり,ヨシと同様にNa吸収抑制機構を持つ可能性が示唆された.

● 一方,本試験の範囲内では,高塩環境においてもGL含量の変化は認められなかった.【文献】1)  a)土岐ら, 塩類集積土壌と農業, 日本土壌肥料学会編, 東京, 博友社, 2000, pp.96‐122, b)高橋idem, pp.123‐154.

高塩濃度が及ぼす影響

● 土壌水分環境および土壌凍結がグリチルリチン酸含量に影響を及ぼしている可能性が示唆された

●乾燥,凍結および高塩類は浸透圧ストレスを受けるという点で深い関連性を持つ

2.1).まとめ

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浸透圧ストレスについて

浸透圧ストレスが負荷

塩類集積土壌 半乾燥地

ウラルカンゾウ自生地の環境(中国内蒙古自治区)

土壌凍結

グリチルリチン酸含量が高いことと関連?

高塩類 乾燥 凍結

氷点下に曝されると細胞外凍結により細胞内が脱水されて強い浸透圧ストレスを受ける

吸水障害 吸水障害

現在の取り組み生態を考慮した栽培適地の検索

(農研機構 北農研との共同研究)

● 北海道内6地点,北海道外2地点で同一品種を用いた試験栽培を実施しており,気象や土壌との関連性から栽培適地を検索する.また,栽培にかかる問題点をスクリーニングする.

● メッシュデータにより栽培適地をマッピング

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2.2).グリチルリチン酸高含量系統の育成

【育種目標】

国内の圃場栽培でも安定的に日本薬局方規格を満たす品種の育成

北海道医療大学,栃本天海堂との共同研究

VV

21

59

55

33

84

26

52

47

45

29

66

73

77

36

54

60

86

25

78

64

27

30

63

40

65

32

80

88

71

68

81

100 7

61 2

93

91

11

83

49

28 1

62

12

41

23

48

18

43

16

42

38

67

72

39

44

92

19

57

76

37

94

96

69

34 6

56 9

13

90

31

85

98

22

17

82 8

35

97

50

89

74 4

58

99

95

51

15

24

87

14

10 3

53

20

46 5

75

70

79

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

3.0

3.5

4.0

4.5

5.0

主根

のグ

リチ

ルリ

チン

酸含

有率

(%)

ural. no.

第1期播種

(2004年6月7日)

5年生株600個体を収穫(2008年8月27日)

健全な100個体を選抜

GL高含量6個体を

第一次選抜

第2期栄養繁殖によるポット栽培

開始(2009年5月25日)GL高含量6系統GL低含量5系統

栽培3年目株の形質調査(2011年10月3日)

GL高含量,高根重であった2系統を第二次選抜

第3期栄養繁殖による圃場栽培開始(2012年5月28日)

GL高含量6系統GL低含量5系統

在来3品種

栽培2年目株の形質調査(2013年10月7日)

GL含量と根重が安定的に高水準な1系統を第三次選抜

2014年6月26日に品種登録出願(第29311号)

林ら(2012):日本生薬学会北海道支部第36回例会講演要旨集, p.62, 札幌

林ら:特開2011-50273,新規ウラルカンゾウ及びその栽培用ストロン

ウラルカンゾウのグリチルリチン酸高含量系統の選抜経過

林ら(2014):日本生薬学会第61回年会講演要旨集,p.284,福岡

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600 個体

100 個体

生育が健全な個体を選抜(病害虫によるダメージがない)

グリチルリチン酸測定

第1期:個体の選抜

測定部位

各部位におけるグリチルリチン酸含量(n=3)

ストロン 0-15cm 15-30cm 分枝根0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

3.0

グリ

チルリ

チン

酸含有

率(%)

最も含量が低い部位で測定

主根

グリチルリチン酸の測定部位について

グリ

チル

リチ

ン酸

含量

(%)

ストロン

12cm

主根

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21595533842652474529667377365460862578642730634065328088716881

100 761 2939111834928 16212412348184316423867723944921957763794966934 656 91390318598221782 83597508974 4589995511524871410 3532046 5757079

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

3.0

3.5

4.0

4.5

5.0

主根のグリチルリチン酸含有率(%)

ural. no.

WHO基準値: 7個体がクリア

JP16規定値: 25個体がクリア

Max.: 4.67%

Min.: 0.46%

平均値: 2.11±0.90%

5年生カンゾウ100系統における主根のグリチルリチン酸含量

系統No.

主根

のグ

リチ

ルリ

チン

酸含

量(

%)

15 10 53 20 46 5 75 70 790.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

3.0

3.5

4.0

4.5

5.0

0

50

100

150

200

250

300

350

400

450

主根のグ

リチルリチ

ン酸含有率

(%)

根重

(FW, g/plant)

ural. no.

高GL系統高収量系統

WHO基準値クリア

JP16規定値クリア

特許出願中:特願 2009-200179(2009年8月31日)

O

glcA-glcA-O

COOH

H

グリチルリチン酸高含有系統の第1期選抜

系統No.

主根

のグ

リチ

ルリ

チン

酸含

量(

%)

Biol.Pharm.Bull.,34(8),1334-1337(2011)

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15 10 53 20 46 5 75 70 790.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

3.0

3.5

4.0

4.5

5.0

0

50

100

150

200

250

300

350

400

450

主根

のグ

リチ

ルリ

チン

酸含

有率

(%)

根重

(FW,

g/pl

ant)

ural. no.

第2期の選抜について高含量9系統

1/2000aワグネルポットに褐色低地土を充填し,2009年5月25日にストロンを定植.2011年10月3日に栄養繁殖3年目株の形質調査.

2011年に選抜

再現性評価栄養繁殖

高含量6系統

低含量5系統

5 20 70 75 10 15 21 33 55 59 840.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

3.0

3.5

4.0

根の

グリチ

ルリチ

ン酸

含量

(%)

b

ab

aa a

b

d

c

cd

d

高GL系統 高収量系統

低GL系統

JP16規定値

栄養繁殖3年目カンゾウの各系統におけるグリチルリチン酸含量.2011年10月3日に収穫,数値は平均値±標準偏差を示す.異なる文字間に5%水準で有意差あり(Tukey-KramerのHSD検定,n=4~8,No.84のみn=2).

栄養系のグリチルリチン酸含量高含量系統 低含量系統

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5 20 70 75 10 150.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

3.0

3.5

0

2

4

6

8

10

12

14

16

18

根の

グリ

チル

リチ

ン酸

含量

(%)

根重

(DW

g/plan

t)

グリチルリチン酸含量

根重

高GL系統 高収量系統

JP16規定値

カンゾウ高含量系統の栄養繁殖3年目株におけるグリチルリチン酸含量と根重

選抜

2011年10月3日に収穫した栄養繁殖3年目株の平均値で,バーは標準偏差を示す (n=4~8).

3.42±0.27%3.19±0.63%

第3期の選抜について

栄養繁殖による圃場栽培での選抜(2012年5月~2013年10月)

No.10,No. 70および在来3品種との比較

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圃場栽培2年目のウラルカンゾウ系統No.10,No.70および在来品種における乾燥根重(A)およびグリチルリチン酸含量(B)の比較.2012年5月28日に圃場(褐色低地土)へストロン苗を定植し,2013年10月7日に調査を実施.棒グラフと数値は各系統の平均値を,バーは標準偏差をそれぞれ示す(n=6~10).*および***はそれぞれ5%および0.1%水準で系統間に有意差があることを示す(t検定).HA:北農試系,HU:北大系,HS:医療大系.

No.10を第三次選抜

第3期における根重とGL含量の評価

GL高含量 GL低含量 在来

5 10 15 20 70 75 21 33 55 59 84 HA HU HS0

10

20

30

40

50

60

乾燥根重(g/plant)

ポット栽培(第2期)

圃場栽培(第3期)

ポット栽培および圃場栽培におけるウラルカンゾウ各系統の乾燥根重の比較.棒グラフは各系統の平均値を示す.ポット栽培は栄養繁殖3年目株(n=2~8,在来品種は2年株),圃場栽培は栄養繁殖2年目株(n=1~10).HA:北農試系,HU:北大系,HS:医療大系.

39.4

30.2

19.0 19.016.3

No.10の根重はGL高含量系統の中で高水準

第2期および第3期における各系統の乾燥根重について

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5 10 15 20 70 75 21 33 55 59 84 HA HU HS0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

3.0

3.5

4.0根のグ

リチ

ルリチ

ン酸

含量(%)

ポット栽培(第2期)

圃場栽培(第3期)

在来GL高含量 GL低含量

JP16規格

ポット栽培および圃場栽培におけるウラルカンゾウ各系統の根のグリチルリチン酸含量比較.棒グラフは各系統の平均値を示す.ポット栽培は栄養繁殖3年目株(n=2~8,在来品種は2年株),圃場栽培は栄養繁殖2年目株(n=1~10).HA:北農試系,HU:北大系,HS:医療大系.

3.573.34

2.29 2.15

1.53

No.10のGL含量は安定的に高い

第2期および第3期における各系統のグリチルリチン酸含量について

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

3.0

3.5

4.0

0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 4.0 4.5 5.0

第3期

における根のGL含量(%)

第1期における根のGL含量(%)

r = 0.962***

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

3.0

3.5

4.0

0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5

第3期

における根のGL含量(%)

第2期における根のGL含量(%)

r = 0.967***

ウラルカンゾウ栄養系のグリチルリチン酸(GL)含量に関する形質再現性について.プロットは各系統の第1期~第3期までの数値または平均値を示し,***は0.1%で有意な相関があることを示す(n=11).第1期:圃場における実生栽培(5年生株),第2期:栄養系によるポット栽培(栽培3年目株),第3期:栄養系による圃場栽培(栽培2年目株) .

GL含量の形質再現性は極めて高い

栄養系のグリチルリチン酸含量の形質再現性について

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0.0

10.0

20.0

30.0

40.0

50.0

60.0

70.0

80.0

No.10 No.70 北農試系 北大系 医療大系

草丈

(cm

)

a ab

abb b

GL高含量 在来

在来

草丈が高い分枝数が多い開花しやすい

茎数が多い

No.10

圃場栽培におけるウラルカンゾウ各系統の開花個体率および開花日

開花個体率(%) n 開花日 開花個体率(%) n 開花日

No.10 50 6 7月26日 50 6 7月4日No.70 0 7 - 0 7 -

北農試系 3 60 - 0 20 -北大系 2 60 - 0 20 -

医療大系 0 60 - 0 20 -

圃場栽培1年目 圃場栽培2年目

GL高含量

在来

系統名

系統No.10と在来品種の特性比較

特徴● 根重は在来品種の約2倍● GL含量はJP16規格を安定的に満たし圃場栽培2年目で3.6%● 草丈が高く分枝が多い● 開花個体率が高い

系統No.10は3期を通してGL含量と根重が安定して高く,圃場栽培2年目でもGL含量がJP16規格を充分に満たし,根重は在来品種と比べて約2倍となったことから,生産栽培に適するものと考えられた.本系統は「厚労Glu‐0010」と

して現在品種登録出願中である.

【まとめ】

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生産者圃場で試験栽培を開始

栄養繁殖 種子繁殖

苗作成・収穫にかかる労力大 少

環境適応性低 高

収量と品質の安定性高 低

将来的には種子繁殖が望ましいが,現状では栄養繁殖が現実的.そのためには効率的な苗増殖方法の確立が不可欠. No.10 自殖第一代

栄養繁殖と種子繁殖について

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受粉について

人工受粉結莢率80%

結莢率(%)=莢数/小花数 × 100

人工受粉無し結莢率3%

昆虫の媒介により受粉が行われる

北海道名寄市におけるカンゾウ開花期間中(6月下旬~7月上旬)の降水量

降水量と受粉の関係

2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 20100

20

40

60

80

100

120

140

年次

6月下

旬~7

月上

旬の

降水

量(

mm

種子豊作年

多雨年には訪花昆虫の活動低下により,結莢率が低下すると考えられる

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● 収穫機の改良● 除草の軽労化● 病虫害の対策● 栽培環境の最適化

・栽培適地の検索・環境の制御

● 加工・調製法の検討● 栄養繁殖による効率的な種苗生産● 種子繁殖を可能とする品種の育成

国内栽培化へ向けた課題

苗作成 定植圃場準備

1年目5月上旬~

ストロン苗

栽植密度:株間20~30cm × 畝間60cm = 5,000~8,000株/10a

圃場準備:排水性の改善のために,プラソイラー,サブソイラー,トレンチャーのいずれかが施工されており、高畝栽培が望ましい.基施:炭酸カルシウム100kg/10a,N,P,K 各8kg/10aを施用し,ロータリーなどで撹拌・整地する.

カンゾウの栽培体系について(北海道の事例)

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ストロン苗の定植について(通常)

湿った赤玉土等に埋設し,温室やビニルハス等で催芽する.

緑化部位を地上に出し,畝に平行,深さ5cmに定植.

芽が白い部位は土中へ埋める.

理想

実際

ストロンを5~10cmに切断

ストロンを10~20cmに切断

ポテトプランター等で機械移植

生育期間中の管理について

1~3年目

除草萌芽(5月上旬)

栽培2年目の追肥:5月下旬に,炭酸カルシウム100kg/10a,N,P,K各10kg/10aを畝間に施用.

栽培3年目の追肥:5月下旬に,炭酸カルシウム100kg/10a, N,P,K各12kg/10a を畝間に施用.

追肥(5月下旬)

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調製・洗浄 乾燥

3年目秋または4年目春・夏

収穫

収穫,洗浄および乾燥

デガー等で機械収穫

ストロン

根とストロンに分ける

翌年の苗とする

洗浄

ウラルカンゾウの生態的特徴

● 過湿を嫌い、水はけの良い土壌を好む

● 生育は温度に強く依存● 光競合に弱い● 萌芽期が遅い

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ウラルカンゾウ栽培上の注意点

● 地下水位が低く、水はけの良い圃場を選定する。また、心土破砕や高畝等の排水対策を行う。● 特に生育初期の雑草対策を徹底する

謝辞本研究は下記の方々のご協力の下で遂行されたものである.【研究全般のご指導,ご協力】国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所 薬用植物資源研究センター

川原 信夫 センター長菱田 敦之 北海道研究部研究リーダー柴田 敏郎 客員研究員(前北海道研究部研究リーダー)北海道研究部職員の皆様

【共同研究者】ウラルカンゾウの品種育成

高上馬希重 准教授(北海道医療大学薬学部)山本 豊 博士((株)栃本天海堂 )

薬用植物の新規機械収穫方法の開発村上 則幸 水田機械作業グループ長((国研)農研機構 北海道農業研究センター)

ウラルカンゾウの栽培適地の検索井上 聡 上級研究員( (国研)農研機構 北海道農業研究センター)

また,本研究の一部は厚生労働科学研究費補助金「H22‐創薬総合‐指定‐015:優良形質を持っ

た薬用植物新品種の育成及びそれら種苗の安定供給体制構築のための保存,増殖に関する基盤的研究」および「H25‐創薬‐一般‐003:薬用植物,生薬の持続的生産を目指した新品種育

成および新規栽培技術の開発並びにこれらの技術移転の基盤構築に関する研究」の助成を受けて遂行された.ここに深く感謝の意を表します.

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薬用植物資源研究センター 種子島研究部

ご清聴ありがとうございました