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加速器の基本概念II : 高エネルギービームの力学 (1)
髙田耕治KEK
[email protected]://research.kek.jp/people/takata/home.html
総研大加速器科学専攻2011年度「加速器概論I」講義
2011年 4月 14日
加速器基本概念 II
目次
I 粒子加速器のあけぼの
I 高エネルギービームの力学 (1)I 高周波加速における位相安定性の原理I ビーム軌道の強集束法
I 高エネルギービームの力学 (2)
I 高周波加速の基礎
I これからの高エネルギー加速器
I 参考文献
加速器基本概念 II
高エネルギービームの力学 (1)
位相安定性の原理
位相安定性の原理 (1)
I 粒子のエネルギー分布が幅をもつと
I 速度と周長がエネルギーに依存 → 周回時間がエネルギーに依存 → 加速高周波と非同期
I しかし加速高周波の振幅が十分大きいと、何周かの平均ではエネルギーが揃ってくる → 粒子群は平均加速電圧の位相のまわりに 集群 (bunch)する可能性
I そうすれば粒子エネルギーに多少のばらつきがあっても、まとめて高エネルギーへ加速できる
加速器基本概念 II
高エネルギービームの力学 (1)
位相安定性の原理
位相安定性の原理 (2)
I この原理にもとづく円形加速器をシンクロトロン (synchrotron)という
I 当時すでに使われていたシンクロナスモータと原理は同じで、名前もそれに由来
I リニアックにおいても、低エネルギー領域ではこの原理によって適当な高周波位相に粒子が集群される
加速器基本概念 II
高エネルギービームの力学 (1)
位相安定性の原理
シンクロトロン振動 (1)
I 加速空洞に振幅 V0の正弦波状の加速電圧がかかっているとする:
V = V0 sin(ωt+ ϕ)
I 同期エネルギー (Esと表わす)の粒子が空洞中心を
ωt = 0, 2π, 4π, . . .
に通過し、同期が続くための加速電圧量は Va(< V0)とする
I この同期条件をみたす位相 ϕはVa = V0 sinϕ
であって、高周波の 1周期に 2つある。
-V0
V0
φπ/2 π0
Va
加速器基本概念 II
高エネルギービームの力学 (1)
位相安定性の原理
シンクロトロン振動 (2)
I 同期条件をみたす2つの位相 ϕのうち、粒子が集群するのはどちらか一つこの同期位相 (ϕsと表わす)にたいして、粒子の毎周回の到着位相は進み遅れをくり返す
I この位相振動を シンクロトロン振動 という
I 2つの位相のどちちらが ϕsとなるかは、エネルギーのより大きい (∆E = E − Es > 0)、言いかえれば、より速度の大きい粒子がより速く 1周するか、より遅く 1周するかによって入れ替わる
加速器基本概念 II
高エネルギービームの力学 (1)
位相安定性の原理
RF Bucketのなかのシンクロトロン振動 (1)
例えば ϕs = 30◦の場合の位相平面上での点 (ϕ, E)の軌跡: 横軸 : ∆ϕ = ϕbeam − ϕs
縦軸 : ∆E = Ebeam − Es
加速器基本概念 II
高エネルギービームの力学 (1)
位相安定性の原理
RF Bucketのなかのシンクロトロン振動 (2)
ϕs = 0◦ の場合 (平均の加速量はゼロ) 横軸 : ∆ϕ = ϕbeam − ϕs
縦軸 : ∆E = Ebeam − Es
-3 -2 -1 1 2 3
-3
-2
-1
1
2
3
-3 -2 -1 1 2 3
-2
-1
1
2
初期条件として横軸上に並んだ粒子が出発する場合、同期位相より大きい位相の粒子 (∆ϕ) はゆっくり、すなわち、より小さいシンクロトロン振動数 (ωs)で位相平面上をまわる
加速器基本概念 II
高エネルギービームの力学Strong focusing
ビーム集束技術の新展開:弱集束から強集束へ速度 vが光速に近い粒子では電場ではなく磁場による集束がはるかに強力
F⊥ = e (E⊥ + v ×B)
I 初期のサイクロトロンやベータトロンでの集束は円柱対称磁場の性質∇ · B = 1
r∂∂r
(rBr) +∂∂zBz = 0 を利用
I 強集束法の発明I Nicholas C. Christofilos (1950)
I E. D. Courant, M. S. Livingston, and H. S. Snyder(1952)
I それまでのものを弱集束法という
加速器基本概念 II
高エネルギービームの力学Strong focusing
集束軌道:スポーツ競技にみられる例
リュージュやボブスレーのコースは、重力と遠心力の釣り合いで軌道の収束が達成される構造になっている。例えば次の urlに掲載された画像などを参考にせよ。
I http://www.google.com/search?q=リュージュ+画像&hl=ja&prmd=ivns&tbm=isch&tbo=u&source=univ&sa=X&ei=qr-vTdjpO4eIvgP91MWABw&ved=0CBsQsAQ&biw=1045&bih=821
I http://rymie.blog.so-net.ne.jp/2008-07-15-1
加速器基本概念 II
高エネルギービームの力学Strong focusing
磁場をつかったビーム集束
I 粒子進行方向に直角の横方向磁場
I x方向、y方向とも同時に集束できるのは円環状磁場I しかし帰り電流を運ぶ導体が必要であるが、これはビームと両立しない
I 昔の方法:サイクロトロンなどに使われた、2極磁石に勾配をつける方法:弱集束という
I 4極磁石による集束法:強集束I 1950年代前半に Christofilosおよび
Courant-Snyder-Livingstonのグループがそれぞれ独立に発見
加速器基本概念 II
高エネルギービームの力学Strong focusing
J-PARCの RCS (1)J-PARC:原研と KEKが共同で東海村原研に建設、 現在稼働中の 30GeV陽子シンクロトロンRCS:rapid cycle synchrotron、 これは 30GeV シンクロトロン(MR : main ring)へ 3GeV
陽子ビームを供給する前段のシンクロトロンである
青色:2極 (偏向)磁石 赤色:4極磁石
加速器基本概念 II
高エネルギービームの力学Strong focusing
J-PARCの RCS (2)
青色:2極 (偏向)磁石 赤色:4極磁石
加速器基本概念 II
高エネルギービームの力学Strong focusing
30GeV MR (1)
青色:2極 (偏向)磁石 黄色:4極磁石
加速器基本概念 II
高エネルギービームの力学Strong focusing
MR (2)
青色:2極 (偏向)磁石 黄色:4極磁石 緑色:6極磁石
加速器基本概念 II
高エネルギービームの力学Strong focusing
粒子の運動方程式
I 電場 E と磁場 B のなかでの粒子の運動方程式は
d(mv)
dt= e (E+ v ×B)
ただしmv = γm0v
ここでm0 : 静止質量γ = 1/
√1− β2 : Lorentz 因子
β = |v| /c = v/c
加速器基本概念 II
高エネルギービームの力学Strong focusing
座標系I 同期 (synchronous)粒子の軌道を基準として、一般の粒子の軌道のこれからの直角方向 (微小ずれ x、y)の方程式を求める
I 基準軌道に沿って測った距離を sとするI 基準軌道の接線方向、曲率(場合によっては捻率も)は sの関数で、図のように各 s点で
I 接線方向 (s)単位ベクトルI 曲がり方向 (x)単位ベクトルI これらに直角な (y)方向の単位ベクトル
右手直角座標系を考える
ρ
x
y
reference orbit
tangent at s
particle
s
加速器基本概念 II
高エネルギービームの力学Strong focusing
ベータトロンやサイクロトロンの弱集束磁場(1)
�
r0
z
beam
N-pole
S-pole
coil-2
coil-1
coil-2
coil-1
glass tube
laminated iron core
ベータトロン原理図 �
RF Generator
rn rn+1(> rn)
Electric FieldMagnetic Field
dee
dee
dee
dee
beam
サイクロトロン原理図
加速器基本概念 II
高エネルギービームの力学Strong focusing
ベータトロンやサイクロトロンの弱集束磁場(2)
z
0r
外側ほど弱くなる軸対称磁場
基準円軌道近傍ではBzは
Bz = B0(r0/r)n
と近似する。ここで
− r0B0
∂B
∂r= n
n値軌道理論における磁場勾配の重要な指標 (この図では n > 0)
加速器基本概念 II
高エネルギービームの力学Strong focusing
弱集束の磁場の下のベータトロン振動(3)I 前頁の磁場パターンの 1次近似展開
By = B0
(1− n
x
ρ+ . . .
), Bx = B0
(−n
y
ρ+ . . .
)I 運動方程式
d2x
ds2+
1− n
ρ2x = 0,
d2y
ds2+
n
ρ2y = 0
I ベータトロン波長λβ,x = 2πρ/
√1− n
λβ,y = 2πρ/√n
I 水平、垂直両方向とも集束 → 0 < n < 1 で力不足I この制約を取り払う、すなわち n >> 1としたい
加速器基本概念 II
高エネルギービームの力学Strong focusing
4極磁石 (quadrupole)の磁場を使えば・・・強集束の基本I n値に制限なし!!I ところが水平(垂直)方向に集束 → 垂直(水平)方向には発散
I しかしこれから示すように常に集束力>発散力
-2 -1 1 2x
-2
-1
1
2
y
加速器基本概念 II
高エネルギービームの力学Strong focusing
4極磁石の磁場
-2 -1 1 2x
-2
-1
1
2
y
磁力線:水平方向に収束 (発散)力
→ 鉛直方向では発散 (集束)力
beam
同等な働きに相当する光学レンズ
加速器基本概念 II
高エネルギービームの力学Strong focusing
4極磁石の配列
I 4極磁石I 4極磁石でのビーム曲げ角が 90度 (π/2)より十分に小さいときは、薄肉レンズと近似してよい
I 水平方向に集束力 (凸レンズ)→鉛直方向には発散力(凹レンズ)
I 鉛直方向に集束力 (凸レンズ)→水平方向には発散力(凹レンズ)
I よく使われる略称偏向磁石を B水平方向集束用 4極磁石を QF鉛直方向集束用 4極磁石を QD
I 水平方向集束用と鉛直方向集束用を交互に置いてゆくI 水平用と鉛直用はコイル励磁電流の極性を反転するだけ
I 結果として、ビームは両方向とも集束できる
加速器基本概念 II
高エネルギービームの力学Strong focusing
レンズ幾何光学のおさらい:薄肉凸レンズ
焦点距離 f (凸レンズでは−f)
I 屈折による角度変化量は中心軸からの距離にほぼ比例I 外側ほど集束力が大きいI 強集束法の発想:同じ焦点距離 f の凹凸レンズを交互におけば凸レンズ作用が勝る
加速器基本概念 II
高エネルギービームの力学Strong focusing
凸レンズだけの周期配列:FOFO配列と呼ぶ
I 先ずは凸レンズだけの列での軌道を調べるI レンズの厚みは限りなく薄いとする(以下でも同様)
加速器基本概念 II
高エネルギービームの力学Strong focusing
凸レンズだけの周期配列での軌道例
0.5 1 1.5 2 2.5 3
-1
-0.5
0.5
1
加速器基本概念 II
高エネルギービームの力学Strong focusing
軌道ベクトルの移りかわりを表わす数式 (1)
I ある点 xを通って s方向に向かう光線を表わすには
勾配 x′ = dx/dsも指定する必要
I (x, x′)という 2個のパラメーターからなるセット : 2次元ベクトル
I 自由空間では、s = s1で x = x1、x′ = x′1とすると
I s2では x2 = x1 + x′1(s2 − s1) および x′2 = x′1
加速器基本概念 II
高エネルギービームの力学Strong focusing
軌道ベクトルの移りかわりを表わす数式 (2)
I これらを次のように横ベクトルと縦ベクトルのかけ算の形に書いてみる
I x2 = ( 1, s2 − s1)
x1
x′1
および x′2 = ( 0, 1)
x1
x′1
I まとめれば
(x2) = ( 1, s2 − s1)
(x′2) = ( 0, 1)
x1
x′1
加速器基本概念 II
高エネルギービームの力学Strong focusing
行列をつかった一般式
I 行列をつかってまとめる x2
x′2
=
1, s2 − s1
0, 1
x1
x′1
I 2行 2列の数字の括弧全体を行列(matrix)という
I 点 s1での光線ベクトルにこの行列を(あるルールで)かけ算したものが点 s2での光線ベクトル
I このような行列をしばしば変換行列とよぶ
加速器基本概念 II
高エネルギービームの力学Strong focusing
凸レンズ直前直後間の変換行列I 焦点距離 f の凸レンズ(薄肉)の入射面と出射面の間では
I 入射面で (x = x−, x′ = x′−)
I 出射面で (x = x+, x′ = x′+) と書き表すと
I x+ = x− および x′+ = −x−
f+ x−
I 行列形式で書くと x+
x′+
=
1, 0
− 1
f, 1
x−
x′−
I 凹レンズでは f → −f とすればよい
加速器基本概念 II
高エネルギービームの力学Strong focusing
凸レンズ直前から下流の自由空間までのベクトル変換式
I レンズの入射面を s1−に置いたときI 出射面を s1+と表わす
I 下流の点 s2では x2
x′2
=
1, s2 − s1
0, 1
x1+
x′1+
=
1, s2 − s1
0, 1
1, 0
−1/f, 1
x1−
x′1−
加速器基本概念 II
高エネルギービームの力学Strong focusing
軌道計算例I 最初の凸レンズ中央面で x = x0、x′ = 0として出発した光線ベクトルの変換を下流の各凸レンズ中央面で順次計算する
I 以下の計算ではすべて f = 1.6L を仮定
加速器基本概念 II
高エネルギービームの力学Strong focusing
計算した各点はある楕円にのっている
I 楕円の式 : x2 + x′2
k2= x2
0 ただし k = 1L
√Lf
(1− L
4f
)I 何区間進んでも凸レンズ中央面ではこの楕円上に載る
加速器基本概念 II
高エネルギービームの力学Strong focusing
多数の軌道を計算
I この楕円上の多数の点を最初の凸レンズ中央面での初期値とした例
0.5 1 1.5 2 2.5 3
-1
-0.5
0.5
1
加速器基本概念 II
高エネルギービームの力学Strong focusing
ビーム軌道群の包絡線
I 楕円に対応する包絡線(赤色)があり、どの軌道もはみ出ない
I 包絡線(ある適当な単位で表した場合)をベータ関数 β(s)とよぶ
I ベータ関数はビームの太さの目安
0.5 1 1.5 2 2.5 3
-1
-0.5
0.5
1
加速器基本概念 II
高エネルギービームの力学Strong focusing
凸レンズ間の中心に凹レンズを挿入:FODO配列
I 凹レンズの焦点距離は f = −1.6L (凸レンズと符号だけ異なる)としたときの軌道計算例
0.5 1 1.5 2 2.5 3
-1
-0.5
0.5
1
加速器基本概念 II
高エネルギービームの力学Strong focusing
FODO配列の包絡線
0.5 1 1.5 2 2.5 3
-1
-0.5
0.5
1
I 水平面上の包絡線(ベータ関数)βhと垂直面上のそれβvは FD間の距離だけずらせば同形
加速器基本概念 II
高エネルギービームの力学Strong focusing
FOFOと FODOの比較
0.5 1 1.5 2 2.5 3
-1
-0.5
0.5
1
0.5 1 1.5 2 2.5 3
-1
-0.5
0.5
1
加速器基本概念 II
高エネルギービームの力学Strong focusing
加速器に使われる多極磁場I 磁石が十分に長く、磁場は s方向に依存しないとすれば、磁場は 2次元ポテンシャル場
I 極の数 2n (= 1, 2, 3, . . . )I 偏向磁場:n = 1、4極磁場:n = 2I 4極磁場の等磁位線と磁力線
-2 -1 1 2x
-2
-1
1
2
y
加速器基本概念 II
高エネルギービームの力学Strong focusing
2極磁場と 4極磁場などの関係:等角写像I 等角写像:x+ jy = (a+ jb)1/nが nでどう変わるか
I 図の横軸は x、縦軸は yI 上段左から n = 1 (2極磁場)、n = 6/5、n = 3/2、下段左から n = 2 (4極磁場)、n = 3 (6極磁場)
-7.5 -5 -2.5 2.5 5 7.5 10
1234
-4 -2 2 4 6
1
2
3
4
5
6
-2 -1 1 2 3 4
1
2
3
4
5
6
0.5 1 1.5 2 2.5 3
0.5
1
1.5
2
2.5
3
0.5 1 1.5 2
0.25
0.5
0.75
1
1.25
1.5
1.75
2
加速器基本概念 II
高エネルギービームの力学Strong focusing
6極磁石の役わり (1)
I 磁場による偏向角は粒子の運動量に反比例I 閉軌道 (closed orbit:何回まわっても変わらない軌道)は運動量ごとに定まる
I 例:4極磁石が 30度おきに凸、凹と並んでいる円軌道I 黒:基準粒子の円軌道I 赤:基準粒子の運動量より 10%大きい粒子の軌道I 青:基準粒子の運動量より−10%大きい粒子の軌道
加速器基本概念 II
高エネルギービームの力学Strong focusing
6極磁石の役わり (2)
I 運動量が異なると 4極磁石の集束力、従ってベータトロン振動数が異なる
I 4極磁石の焦点距離 f は運動量に反比例I ベータトロン振動数は、前のスライドで軌道差の大きいところに 6極磁石を置き調整