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. . . . 加速器の基本概念 III : 高エネルギービームの力学 (2) 髙田耕治 KEK [email protected] http://research.kek.jp/people/takata/home.html 総研大加速器科学専攻 2012 年度「加速器概論I」講義 2012 4 19

加速器の基本概念 III : 高エネルギービームの力学 (2)...目次 粒子加速器のあけぼの 高エネルギービームの力学(1) 高エネルギービームの力学(2)

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加速器の基本概念III : 高エネルギービームの力学 (2)

髙田耕治KEK

[email protected]://research.kek.jp/people/takata/home.html

総研大加速器科学専攻2012年度「加速器概論I」講義

2012年 4月 19日

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目次

粒子加速器のあけぼの

高エネルギービームの力学 (1)

高エネルギービームの力学 (2)

• コライダー• 加速空洞• シンクロトロン放射

高周波加速技術

これからの高エネルギー加速器

参考文献

Koji Takata (KEK) 加速器基本概念 II 2012 年 4 月 19 日 2 / 19

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コライダーの着想

高エネルギー素粒子反応を観測する場合、加速されたビームを実験室に置かれた標的に衝突させた :

  固定標的実験:fixed target experiment

しかし反応は実験室系のエネルギーではなく、ビームと標的粒子の重心系エネルギーで決まる

ビーム衝突型加速器(コライダー):

   1960年にイタリア Frascati研究所の Touschekが提案

コライダー第1号 : AdA ( Frascati, 1961)

200MeV e− ⇒⇐ 200MeV e+

以降、コライダーは高エネルギー加速器の規準型となる

Koji Takata (KEK) 加速器基本概念 II 2012 年 4 月 19 日 3 / 19

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重心系エネルギーECM

簡単のため同じ静止質量mの粒子どうしの衝突を考える:

標的の粒子エネルギーはmc2、ビーム中の粒子エネルギーはエネルギーは γmc2。

• 2粒子系の全エネルギーET = (1 + γ)mc2

• 2粒子系の全運動量 pT = βγmc =√

γ2 − 1mc

• E2 − c2p2T はローレンツ不変量

従って固定標的実験での重心系エネルギーECM はECM(fixed target) =

√2γ + 2mc2 ≈

√2γ mc2

ところが同エネルギーの粒子どうしのコライダーではECM(collider) = 2γmc2 ≫ ECM(fixed target)

Koji Takata (KEK) 加速器基本概念 II 2012 年 4 月 19 日 4 / 19

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Luminosity

コライダーの衝突点でのビーム断面はきわめて小さい• 衝突点でのビーム断面積 S、反応断面積 σとすると 1回の衝突で反応がえられる確率は

σ/S

• 粒子数がそれぞれ N+ と N− のビームどうしが毎秒 f 回衝突していると、観測される反応数は毎秒

f × N+ ×N−S

σ

ここで σの係数をルミノシティLという

L = f × N+ ×N−

S

どのコライダーでもルミノシティを最大化するべく、加速器設計段階およびビーム試験をつうじてたゆまぬ努力がはらわれる。Koji Takata (KEK) 加速器基本概念 II 2012 年 4 月 19 日 5 / 19

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加速空洞 (1)

加速に使われる高周波空洞は多種多様である。しかし基本的には最低次共振モード TM010で動く円筒空洞の変形である。

• 基本形である円筒空洞は ”ピルボックス空洞 (pillbox cavity)”ともよばれる。

• 軸方向電場Ez(r) ∝ J0(ξ01r/b)とθ方向磁場Hθ(r) ∝ J1(ξ01r/b) の 2成分のみ。ここで b は円筒半径、Jn は n次のベッセル関数、ξ01 = 2.40483 は J0の最低の 0点。

• 共振(角)周波数は ω01 = 2πf01 = ξ01b/c.Hθ Ez

2br=b

0

d0.5 1 1.5 2

0.2

0.4

0.6

0.8

1

Hθ Ez

χ01r/b0

arbi

trary

scal

e

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加速空洞 (2)

KEK Photon Factory 2.5GeV Storage Ringで使われている変形ピルボックス空洞の例

• fRF = 500MHz, Vpeak = 0.7MV

R234.69mm

R91.375mmR50mm

220mm

300mm

R130mm

R10mm

Ez (r=0)

z

r

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加速空洞 (3)

加速空洞の大局的な振舞いを理解するために、ビームや外部高周波電源との関係を取り込んだ適切な回路モデルをつくる必要がある。

そこで先ず空洞を下図のようにL、C、Rの 3個の素子からなる等価回路で表現しよう。

しかしここで空洞という立体構造についてL、C、Rをどう定義するかが問題となる。Koji Takata (KEK) 加速器基本概念 II 2012 年 4 月 19 日 8 / 19

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加速空洞 (4)

いかなる共振回路でも共振周波数 ω0と共振幅の目安であるQ値1は次の 2方程式で与えられる:

ω0 = 1/√LC および Q = ω0RC =

ω0L

RしかしL、C、Rという 3個のパラメーターを決めるためにはもう 1個の独立な方程式が必要である。そのためにはビームが空洞をどう見るかがポイントになる。まず、簡単のためにビーム電流は直流成分 idcと空洞共振周波数成分 ib(t) = ib sinω0tの 2成分からなるとするが、直流成分は空洞と相互作用しないので以下では ibのみを考える。ついで、高エネルギービームでは空洞を通過する際の電場による速度の相対変化は十分に小さい。したがって空洞にとってビームは外部定電流源とみなせるとする。

1共振回路中のエネルギーが共振点での 1/2 になる周波数ずれ ∆ω と Q 値は Q ≈ ω0/2∆ω の関係Koji Takata (KEK) 加速器基本概念 II 2012 年 4 月 19 日 9 / 19

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加速空洞 (5)

ここまでの議論を等価回路として表現すると

ib = ib sinω0t

ω0 = 1/√LC

Koji Takata (KEK) 加速器基本概念 II 2012 年 4 月 19 日 10 / 19

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加速空洞 (6)

前ページの図をながめれば、残る課題はシャントインピーダンスR を決めることであるとわかる。

• 等価回路では空洞内電磁場エネルギーの壁損 Pwは電圧振幅のピーク値を V として Pw = V 2/(2R) と表わされる。

• しかし定常状態では壁損 Pwは空洞内電場による減速で失う電力 Pb にひとしくなければならない。

• 外部電流による電磁場はマクスウェル方程式

∇×H = I+ ϵ0∂E

∂tE

により ibに比例するのでビームが受ける減速電圧(のピーク値) を Vbと表わせば減速で失う電力は

Pb = ibVb/2

• 結局、前ページの等価回路からR = Vb/ibすなわちシャントインピーダンスはビームが受ける電圧とビーム電流の比である。

Koji Takata (KEK) 加速器基本概念 II 2012 年 4 月 19 日 11 / 19

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加速空洞 (7)

この定義は外部電流項を含むマクスウェル方程式と電力流保存則∫∫∫

V

J · E dV +

∫∫S

(E×H) · ndS = 0

を満足するものである。

ただし・J : ビーム電流密度分布   ・E×H : ポインティングベクトル (poynting vector)   ・V : 空洞体積   ・S : 空洞壁面

こうして、ここで定義した加速空洞の回路パラメーターは電磁気学的に理にかなったものと云えることになる。

Koji Takata (KEK) 加速器基本概念 II 2012 年 4 月 19 日 12 / 19

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加速空洞 (8)

実際の空洞システムは外部高周波源も接続されるが、等価回路にこれを追加するのは簡単である。

n : 導波管と空洞接合部の結合比Z0: 導波管の固有インピーダンスig: 高周波源出力電流

Koji Takata (KEK) 加速器基本概念 II 2012 年 4 月 19 日 13 / 19

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シンクロトロン放射:原理

シンクロトロン放射 [synchrotro radiation (SR)]は加速中(v = 0) の電荷 qの粒子の出す電気双極子放射粒子の瞬時静止系でみた放射電力はラーマー (Larmor)の公式

P =q2

6πε0mec3

(dv

dt

)2

であたえられる。とくに電子の場合、 re(古典電子半径)を使えば

P =2reme

3c

(dv

dt

)2

である。ただしre ≡ e2/(4πε0mec

2) = 2.82× 10−15m

Koji Takata (KEK) 加速器基本概念 II 2012 年 4 月 19 日 14 / 19

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電気双極子放射 (1)

静止系で z軸方向に振動している電気双極子の電気力線パターン :- - z軸にかんし回転対称 - -

0 1 2 3 4 5

-4

-2

0

2

4

PSfrag replacements

#0

#1

#2

#3

#4

#5

#6

x/x0

xe/x0

x!/k

! (m)

s = 0

s = 0 + nLs = L

2

s = L

4

s = 0+ + nL

s = 0+

s = 0+

s = L" + nL = 0" + (n + 1)L

s/L

s (m)

f = 1.6L

" = 50 m

L = 2 m

z/#

r/#

1

Koji Takata (KEK) 加速器基本概念 II 2012 年 4 月 19 日 15 / 19

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電気双極子放射 (2) :ラーマー公式をローレンツ不変形へ

P はある時間幅に放出されたエネルギーであるが、時間もエネルギーもローレンツ変換で同型に変換される

• P はローレンツ不変量

そうするとラーマーの公式

P =q2

6πε0mec3

(dv

dt

)2

の右辺の ( )2は次のような不変形でなければならない:

(dp/dτ)2 − (dE/dτ)2 /c2

ここで dτ は個有時間の微分

dτ =√

dt2 − (dx2 + dy2 + dz2) /c2 = dt/γ.

Koji Takata (KEK) 加速器基本概念 II 2012 年 4 月 19 日 16 / 19

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電気双極子放射 (3) : 実験室系での公式

こうして実験室系での放射電力は

P =2reme

3cγ2

[d (γv)

dt

]2−[d (γc)

dt

]2

円軌道(半径 ρ)1周で放射されるエネルギー∆Eは

∆E

mec2=

3

reρβ3γ4

∆E(keV)、E(GeV)および ρ(m) で表した実用式

∆E(keV) ≈ 88.5 [E(GeV)]4 /ρ(m).

Koji Takata (KEK) 加速器基本概念 II 2012 年 4 月 19 日 17 / 19

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電気双極子放射 (4) : 実験室系での公式

電子静止系(x′, y′, z′, ct′) での放射パターンdP/dΩ ∝ sin2 θ

ここでΩは立体角、 θは z′軸からの角度実験室系へ変換:

x′ = x, y′ = y, z′ = γ (z − vt) , ct′ = γ (ct− vz/c) .

z軸との x′軸および y′軸の角度 ∼ 1/γ.

• 前方放射電力は全角∼ 2/γのコーン内• 光は円弧長∼ 2ρ/γに電子がいるときだけ

• ドップラー効果で波長短縮:(1− v/c) ∼ 1

2γ2

Koji Takata (KEK) 加速器基本概念 II 2012 年 4 月 19 日 18 / 19

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電気双極子放射 (5) : 臨界波長

臨界周波数 ωc と 臨界波長 λc = 2πc/ωc:

• 電力スペクトルは ωc付近までは ∼ ω1/3 で増加、それ以上では急激に減少

• Schwinger-Jacksonの定義の臨界周波数 ωc =3

2

cγ3

ρ• 放射光は ωcまでは古典電磁波的、それを超えると光子的 (量子領域).

• 放射電力スペクトルは波長が短くなるにつれ増加するが、あるところから急激に減少する

Koji Takata (KEK) 加速器基本概念 II 2012 年 4 月 19 日 19 / 19