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Title韓国・国際アーカイブズ文化展覧会(IACE)に参加して:EASTICAセミナー・IACE 国際セミナーの模様を中心に
Author(s) 古賀, 崇
Citation アーカイブズ学研究 (2010), 13: 60-65
Issue Date 2010-11
URL http://hdl.handle.net/2433/193431
Right
Copyright: Takashi Koga; This is not the published version.Please cite only the published version. この論文は出版社版でありません。引用の際には出版社版をご確認ご利用ください。
Type Journal Article
Textversion author
Kyoto University
動向
韓国・国際アーカイブズ文化展覧会(IACE)に参加して:EASTICA セミナー・IACE 国
際セミナーの模様を中心に
Report on the International Archival Culture Exhibition (IACE) 2010 in Seoul, Korea,
with emphasis on the EASTICA Seminar and IACE International Seminar
古賀 崇
Takashi KOGA
所属:京都大学附属図書館 研究開発室
(Research and Development Laboratory, Kyoto University Library)
1. はじめに
2010 年 6 月 1 日(火)~6 日(日)に、韓国ソウル特別市江南区の COEX(貿易センタ
ー)ホールにて「国際アーカイブズ文化展覧会(International Archival Culture Exhibition:
IACE)」という催しが、韓国国家記録院(国立公文書館)、韓国行政安全部の主催により開
催された。もともと韓国では、「韓国国立公文書館展覧会(NAKE)2007」、「国際アーカイ
ブズ展覧会・会議(IAEC)2008」というアーカイブズ関係の展覧会が行われていたが 1、
今回の IACE は国際アーカイブズ評議会(ICA)・ICA 東アジア地域支部(EASTICA)の
事務会合と同時並行で開催され、また IACE 開催初日の前日となる 5 月 31 日(月)には
EASTICA セミナーが開催されたこともあって、国際色の濃い内容となった。筆者はこの機
会にソウルを訪れ、EASTICA セミナー、および IACE のプログラムのひとつである国際セ
ミナー(6 月 1 日・2 日開催)を中心に参加した。本稿ではこれらの模様を中心に報告を行
いたい。
なお、日本アーカイブズ学会は ICA・EASTICA に B 会員(全国的なアーカイブズ専門
団体)として入会しており、また筆者は同学会の委員および前・国際交流責任者(2008 年
4 月~2010 年 4 月)であるが、今回は諸事情によりあくまで個人として展覧会・セミナー
に参加したことをお断りしておく。本稿の意見も筆者個人のものである。
IACE と EASTICA セミナーについては公式ウェブサイト 2や、日本の国立公文書館によ
る参加報告 3もご参照いただきたい。
2. EASTICA セミナー
このセミナーでは、前半のプログラムとして以下 3 件の発表が行われた。
・ 「アクセスと専門職倫理」(ICA フェロー・前事務局長 Joan van Albada 氏)
・ 「記録へのアクセスに関する法的側面」(香港法務局 Sarah Choy 氏)
・ 「アクセスを越えて:公文書とアーカイブズの利用・再利用を促進するための諸課題」
(釜山大学助教 Seol, Moon-won 氏)
これらの中で、筆者が特に関心をもって聴いたのは Seol 氏の発表である。ここでは、ア
ーカイブズ資料の「再利用」、つまり単なる資料閲覧にとどまらず、資料の複製・加工・販
売といったことを行う際の確固たる方針が必要なことが強調された。「再利用」をめぐって
発表の中で取り上げられた具体的な事例としては、韓国の国立公文書館における資料を民
間団体が同館の許可なく複製・出版し裁判に至った事例や、同館の映像資料を商用利用す
る際の価格体系が非商用利用の場合と同額となっている点が挙げられた。あわせて、国立
公文書館は所蔵資料に「付加価値」をつけてアクセスに供するよりも、「生の資料・データ」
の公開を進め、それへの付加価値(検索システムや解題など)は利用者の側にゆだねるべ
きである、と Seol 氏は主張した。この点は米国・英国ほか各国で進められている「政府が
生データ・大量データ(bulk data)をインターネット上で提供し、その加工・利用を利用
者の側にゆだねる」という動きと呼応していると思われ 4、日本でも検討すべき論点なので
はないか、と筆者は考えている。
セミナーの後半では「カントリーリポート」として、EASTICA 参加国のうち中国、日本、
韓国、マカオ、モンゴルの順で各国の状況に関する発表が行われた。日本からは中原茂仁
氏(国立公文書館)5が公文書管理法施行への課題や同館のデジタルアーカイブの状況につ
いて報告した(写真 1 参照)。参加者からの質問も、「公文書管理法施行に向けて国立公文
書館としての人員面は大丈夫か」「公文書管理法の条文の英訳をネット上に掲載して欲し
い」など、日本の発表に対するものに集中し、日本の公文書管理法や国立公文書館の活動
への国際的関心の高さをうかがうことができた。
なお、日本の国立公文書館長である高山正也氏が 2009 年 9 月の EASTICA 総会(中国・
青島)より EASTICA 議長を務めており、このセミナーの開会・閉会のあいさつも高山氏
が行った。高山氏の閉会のあいさつの中で、次回 EASTICA 総会・セミナーを 2011 年 11
月に東京で行うとの発表があった。
3. IACE 国際セミナー
この国際セミナーでは 6 月 1 日・2 日の 2 日間にわたり、7 カ国から 11 件の発表が行わ
れた。うち韓国から 4 件、日本から 1 件、ほかは欧米圏とオーストラリアからのものであ
った。
ここでも個人的に一番関心をもった発表として、米国国立公文書館・記録管理庁(NARA)
長官付上級顧問・ICA 副会長の Lewis Bellado 氏の「米国国立公文書館における、アーカ
イブズ文化に対する一般の認識を高めるための戦略的方針とアプローチ」を取り上げてお
きたい。この発表では NARA の電子情報保存プログラム(ERA)や子ども向け教育プログ
ラムなど近年の取り組みが報告された。ここで筆者が子ども向け教育プログラムについて
詳細を尋ねたところ、Bellado 氏は資料をもとにロールプレイングを行わせる(例えば、大
統領として資料・情報に基づき、どう行動するかを考えさせる)こともある、と回答され
た。こうした「ロールプレイング的発想」は、2010 年正月に掲載された加藤陽子教授・川
島真准教授による対談でも示唆されており 6、アーカイブズの教育活用に関する新たなアプ
ローチの可能性を感じさせた。
日本からは、日本画像情報マネジメント協会(JIIMA)の高橋通彦理事長が日本の国立
公文書館、国立国会図書館の活動を含めた、「アーカイブ管理技術」の動向について発表し
た。また韓国からの発表では、国立公文書館における記録管理・保存に関する技術の活用
状況や、歴史資料の解説などが扱われた。ほかは、2006 年末に日本で大学講義 7 を担当さ
れたドイツ連邦公文書館館長 Angelika Menne-Haritz 氏によるドイツ国内・欧州圏内の文
書館ネットワーク構築をめぐる議論や、ICA の Herve Lemoine 現事務局長が解説した ICA
の運営体制・ガバナンスの現状などが印象に残った。ただし、この IACE 国際セミナーは
EASTICA セミナーと比べると、国を越えた議論には少々つながりにくかったのでは、とい
う印象を筆者自身は抱いた。
4. IACE 展示企画
IACE の中心的企画は、世界と韓国の「アーカイブズ資料」を集積・展示し、また世界の
文書館活動について紹介するという展示企画であった。これは以下のような形で構成され
ていた。
[1] メイン展示(1):「世界の記憶(Memory of the World)」エリア
展示エリアの最初に設けられたのは、ユネスコの「世界の記憶」プログラムに登録され
ている世界各国の記録資料に関する展示であった(写真 2 参照)。「世界の記憶」とは、い
わば「世界遺産の記録資料版」であるが、文書、写真、絵画、録音・映像記録などの「記
録遺産」について認知度を高め、またその保存やアクセスのしくみ(デジタル化含め)の
整備を促すことを目的としている 8。韓国からは「朝鮮王朝実録」「海印寺大蔵経板」など 7
点が登録されているのに対し、日本からは未だ登録はない。
今回の展示で目玉とされたのは、上記の韓国の資料のほか、グーテンベルク 42 行聖書、
フランス人権宣言、グリム童話初版本などである。ドイツ映画「メトロポリス」(1927 年)
や、ノルウェーのアムンセン(Roald Amundsen)による南極探検の記録フィルム
(1910-1912 年)など、映像資料の上映もあった。現地の休日(6 月 2 日=地方選挙投票日)
には入口に長い行列ができていた。
[2]メイン展示(2):世界の文書館エリア
「世界の記憶」と「韓国アーカイブズ」に挟まれたエリアでは、計 16 カ国の国立公文書
館と国連の文書館、ICA、EASTICA が、自館・自国の資料や活動について展示を行った。
日本からは国立公文書館が出展し、江戸~現代の各種資料(レプリカ)の展示、自館紹介
の DVD の上映、自館のデジタルアーカイブやアジア歴史資料センターのデモンストレーシ
ョンなどを行った。
[3] メイン展示(3):韓国アーカイブズのエリア
[1][2]で国際的なアーカイブズに触れた後の展示ということで、朝鮮戦争期以降の韓国の
政治・社会・文化に関する資料の展示が行われた(ちなみに 2010 年は朝鮮戦争開戦 60 年
にあたり、展示にも戦争中の映像記録などが含まれていた)。ここでは「アーカイブズ資料」
を広く捉えていたようであり、選挙の記録(各候補者のポスターや当選証書など)、映画・
テレビドラマの脚本、教科書、マンガといったものがまとまって展示された。またフィギ
ュアスケートのキム・ヨナ選手が 2010 年バンクーバー五輪で獲得した金メダルも展示資料
の中にあった。韓国チームが 4 強にまで進んだ「2002 年サッカーW 杯」のビデオ鑑賞ブー
スには常に人だかりができていた、という点が印象的であった。
[4] 実演スペース
今回の IACE で大きな特色と言えるのが、主に児童・生徒に向けて多くの実演や実習企
画を実施した、ということである。具体的には手書きや活字を用いての古文書風の記録の
作成や、「韓紙」の紙漉き、篆刻などが行われた。これらの実演や実習企画は常に子どもた
ちや引率教員、また保護者とみられる人々で賑わっていたが、主催者から各学校等への参
加依頼があったのかもしれない。日本においても公文書館活動や記録(公文書)管理の進
展のためにこうした教育面の工夫が欠かせない、とこうした光景を見て大いに痛感した(写
真 3 参照)。
[5] 企業等展示会
[1]~[4]のスペースに併設して、記録管理・アーカイブズに関する企業、また韓国国家記
録院、韓国国立デジタル図書館(国立中央図書館に併設)などの機関からの展示会も開催
された。もっとも、これらは全体的に韓国国内の関係者向けという印象が強かった。
5. おわりに:感想など
IACE は全体として、「国家的なアピールの場」ということが意識されていたように思う。
6 月 1 日の開会式(写真 4 参照)では李明博大統領のあいさつが司会により代読され、また
国連の潘基文事務総長からのビデオメッセージも上映された。それだけ韓国は国をあげて
アーカイブズ事業を支援している、と言える。「世界の記憶」への取り組みや展示も、韓国
における「記録遺産」「文化遺産」を世界的にアピールするための活動と位置づけられるだ
ろう。ただし、筆者がソウル滞在中に個人的に会った韓国内のアーカイブズ学関係者から
は、「IACE のような国外的アピールよりも、国内で確固たる記録管理体制を構築すること
が先決ではないか」という声もあったことを付け加えておきたい。
なお、日本においても、前述の通り 2011 年に EASTICA 総会・セミナーが開催され、そ
こで日本の公文書管理法の施行状況などが報告されることとなろう。また、2012 年 8 月に
は ICA 大会がオーストラリア・ブリスベンで開催される予定であるが、2004 年のウィーン
大会、2008 年のクアラルンプール大会 9と、ICA 大会では国立公文書館が中心となって日
本からの活動報告が活発に行われる流れができており、2012 年大会でも日本からの発表が
期待される。日本からはこうした機会を含め、国際的な動向を把握しつつ、個々の研究者
や学協会などの立場からも効果的な情報発信を世界に向けて行うことが、日本の状況の改
善にも寄与するものと考える 10。あわせて、早い段階から子どもたちにアーカイブズの世界
に親しんでもらい、また教育活動にも工夫を示すことが、日本でのアーカイブズ普及に重
要なポイントとなることを強調しておきたい。
注・参考文献
1 これらの過去の展覧会については、IACE ウェブサイトで簡単な記述がある。IACE
2010: International Archival Culture Exhibition. http://www.iace.or.kr/eng/main.html,
(accessed 2010-07-27).
2 前掲注 1.
3 「国際公文書館会議東アジア地域支部(EASTICA)・国際公文書館会議(ICA)執行委
員会及び 2012 年 ICA ブリスベーン大会準備会合・国際アーカイブズ文化展示会
(IACE2010)」(特集)『アーカイブズ』41 号、2010 年、1-39 頁。
4 米国での実践とその背景については下記を参照。Lathrop, Daniel and Laurel Ruma,
eds. Open Government: Collaboration, Transparency, and Participation in Practice,
Cambridge [Mass.]: O'Reilly Media, 2010, 402p. また、米・英・カナダ・オーストラリア・
ニュージーランドにおける「政府によるデータ提供」をまとめたサイトとして下記がある。
Data Store: World Government Data. Guardian (U.K.).
http://www.guardian.co.uk/world-government-data, (accessed 2010-07-27). なお、筆者は
このテーマにつき、後述の科学研究費補助金による研究、および以下の共同研究の中で考
察を進めたいと考えている。情報・システム研究機構新領域融合プロジェクト「データ中
心人間・社会科学の創生」(研究代表者:曽根原登 国立情報学研究所教授)
5 中原氏は 2010 年 7 月 15 日付で内閣府国際平和協力本部事務局に異動された。
6 加藤陽子・川島真「時代を開く:近現代史の学び方」(新春四季対談)、『北海道新聞』
2010 年 1 月 4 日(朝刊)、8-9 頁。この対談のポイントのひとつは、「史料に基づき、さま
ざまな国や人の立場に立って、主観的に歴史を論じることの重要性と魅力」である。
7 下記を参照。古賀崇「Angelika Menne-Haritz 博士による東京外国語大学 2006 年度特
別講義「現代社会の中のアーカイヴズ」を受講して」、『レコード・マネジメント』53 号、
2007 年、108-111 頁。
8 UNESCO. Memory of the World. http://www.unesco.org/webworld/mdm/, (accessed
2010-07-27). 下記も参照。古賀崇「ユネスコ「世界の記憶」プログラムの現状:2005 年 IFLA
オスロ大会より」、『アート・ドキュメンテーション通信』67 号、2005 年、6-7 頁。
http://hdl.handle.net/2433/84724,(2010 年 7 月 27 日参照、筆者による補訂版)。
9 ICA クアラルンプール大会の模様は下記で報告した。古賀崇「国際文書館評議会
(ICA)2008 年クアラルンプール大会に参加して:発表セッションの概略を中心に」、『アーカ
イブズ学研究』第 10 号、2009 年、72-77 頁。
10 図書館の領域での話になるが、「国際的発信」に関しては下記の拙稿もご参照いただき
たい。特に「内向きの情報収集にとどまらないでいただきたい」というのがここでの趣旨
である。古賀崇「学術情報流通のグローバル化と政策課題:IFLA(国際図書館連盟)関連
会議参加を通じて」、『静脩』(京都大学図書館機構報)45 巻 4 号、2009 年、9-12 頁。
http://hdl.handle.net/2433/73440, (2010 年 7 月 27 日参照)。
※本稿は以下による成果の一部である。平成 22 年度文部科学省科学研究費補助金若手研究
(B)「図書館・文書館等における政府情報の保存・アクセスをめぐる比較制度的研究」(課題
番号:21700272、研究代表者:古賀崇)
付記:本稿校正時点で、国立公文書館による下記の特集記事を確認した。「国際公文書館会
議東アジア地域支部(EASTICA)・国際公文書館会議(ICA)執行委員会及び 2012 年 ICA
ブリスベーン大会準備会合・国際アーカイブズ文化展示会(IACE2010)」(特集)『アーカ
イブズ』41 号、2010 年、1-39 頁。
http://www.archives.go.jp/about/publication/archives/041.html, (2010年10月27日参照)。
写真 1:EASTICA セミナーにて日本からの「カントリー・レポート」を行う中原茂仁氏
写真 2:「世界の記憶」エリアの模様
写真 3:IACE 展示会場の一角で記念写真撮影を行う子どもたちの一行
写真 4:IACE 開会式における、朝鮮王朝での文書奉納を再現したセレモニー