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第9回超イオン導電体物性研究会 2005.5.30 愛媛大学資料 1 超イオン導電体ガラスのガラス転移について なにが分かって何が残っているか。 (東北大学多元研) ○河村純一 Glass Transition of Superionic Conductor Glasses ---- What is solved and what is remaining? Theoretical and experimental advancements on the glass transition phenomena in Superionic Conductor Glasses (SIG) are reviewed. Experimental charactors of the SIG state are characterized by (i) decoupling of the conductivity from the viscosity mode, (ii) non-Arrhenius temperature dependence above glass transition temperature,(iii) non- Debye type frequency dependence of conductivity. All these phenomena are relating to the localization of ionic motion in molten salts and glasses. Some theoretical models such as the excess-free-volume theory, the Brownian motion model and the mode- coupling theory are reviewed and some comments to the future advance are given. §1 はじめに ガラスの中をイオンが拡散する現象は 19 世紀から知られ、半導体工学においては MOS 半導体 の SiO 2 絶縁膜の破壊をもたらす元凶として知られる(ナトリウム・パニックと呼ばれる[1])。 実は、後述するように珪酸ナトリウム(Na 2 O-SiO 2 )ガラスも高温では超イオン導電体ガラスにな るのである。しかし、超イオン導電体ガラスという言葉が登場したのは 1970 年代の末に AgI と 種々の酸化物からなるガラスが室温で 10 -2 S/cm という電解質溶液並みのイオン伝導度を示す ことが見いだされ、固体電池等への応用が期待されてからである[2]。その後、さまざまな新規 物質が開拓され、現在も高エネルギー密度固体電池の材料として研究が進んでいる[3]。 本解説では、1980 年代に筆者が手がけた研究を元に、超イオン導電体ガラスのガラス転移 について、その後の発展や最近の知見を加えて再検討を行なった。ガラス転移に関する知見は 当時とは比べ物にならないほど豊富になったが、本質的な点は余り変わっていないように思え る。その後の最大の発展は、モード結合理論のある程度の成功と限界、そしてエネルギー・ラ ンドスケープや動的不均一性など、空間的な不均一構造への注目が進んだ事にあるだろう。こ れらの発展を踏まえた一般理論は完成していない(と私には思える)し、新しい実験手法も登場 しているので、ご存知の方には蒸し返しになるがやや詳しく紹介する。新しい方々へのヒント

超イオン導電体ガラスのガラス転移について なにが …...Table 1 Ionic conductivity and glass transition temperatures of typical ionic conductor glasses. carrier

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第9回超イオン導電体物性研究会 2005.5.30愛媛大学資料

1

超イオン導電体ガラスのガラス転移についてなにが分かって何が残っているか。

(東北大学多元研) ○河村純一

Glass Transition of Superionic Conductor Glasses---- What is solved and what is remaining?

Theoretical and experimental advancements on the glass transition phenomena inSuperionic Conductor Glasses (SIG) are reviewed. Experimental charactors of the SIGstate are characterized by (i) decoupling of the conductivity from the viscosity mode,(ii) non-Arrhenius temperature dependence above glass transition temperature,(iii) non-Debye type frequency dependence of conductivity. All these phenomena are relating tothe localization of ionic motion in molten salts and glasses. Some theoretical modelssuch as the excess-free-volume theory, the Brownian motion model and the mode-coupling theory are reviewed and some comments to the future advance are given.

§1 はじめに

 ガラスの中をイオンが拡散する現象は 19 世紀から知られ、半導体工学においては MOS 半導体

の SiO2 絶縁膜の破壊をもたらす元凶として知られる(ナトリウム・パニックと呼ばれる[1])。

実は、後述するように珪酸ナトリウム(Na2O-SiO2)ガラスも高温では超イオン導電体ガラスにな

るのである。しかし、超イオン導電体ガラスという言葉が登場したのは 1970 年代の末に AgI と

種々の酸化物からなるガラスが室温で 10-2 S/cm という電解質溶液並みのイオン伝導度を示す

ことが見いだされ、固体電池等への応用が期待されてからである[2]。その後、さまざまな新規

物質が開拓され、現在も高エネルギー密度固体電池の材料として研究が進んでいる[3]。

  本解説では、1980 年代に筆者が手がけた研究を元に、超イオン導電体ガラスのガラス転移

について、その後の発展や最近の知見を加えて再検討を行なった。ガラス転移に関する知見は

当時とは比べ物にならないほど豊富になったが、本質的な点は余り変わっていないように思え

る。その後の最大の発展は、モード結合理論のある程度の成功と限界、そしてエネルギー・ラ

ンドスケープや動的不均一性など、空間的な不均一構造への注目が進んだ事にあるだろう。こ

れらの発展を踏まえた一般理論は完成していない(と私には思える)し、新しい実験手法も登場

しているので、ご存知の方には蒸し返しになるがやや詳しく紹介する。新しい方々へのヒント

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となれば幸である。なお、本解説とかなりオーバーラップする内容を佐久間先生編集の「Physics

of Solid State Ionics」に掲載予定なので、そちらも参照されたい[4]。

 まずは、代表的な超イオン導電体ガラスを表 1 に示した。伝導イオン種としてこれまで知ら

れているのは、銀・銅・リチウム・ナトリウム・フッ素であり、比較的イオン半径の小さい一

価のイオンである。

Table 1 Ionic conductivity and glass transition temperatures of typical ionic conductor glasses.

carrier ion Examples Conductivity Tg/°C Ref.

[S/cm] (20°C)

Ag AgI-AgPO3 10-5~10-2 50~150 [5]

Ag-Ge-S 3x10-4 300~350 [6]

AgI-AgCl-CsI 6x10-2 [7]

AgI-(CH3)3N(CH2)3(CH3)3NI2 10-2 51.7 [8]

Cu CuI-CuPO3 10-4 110-113 [9]

CuI-CuO-MoO3 10-4 125-153 [10]

Li Li2O-B2O3 7x10-8 500 [11]

LiCl-Li2O-B2O3 3x10-6 453 [11]

Li2S-SiS2 5x10-4 334 [12]

Li2S-SiS2-LiI 2x10-3 306 [12]

LiI-(C2H5)4NI-(C3H7)4NI 10-5 (at -40 °C) -31.6 [13]

Na Na2O-B2O3 6x10-10 415 [11]

NaF-NaCl-Na2O-B2O3 10-6 [11]

Na2S-SiS2 2x10-7 [11]

H SiO2-P2O5-ZrO2-H2O 10-2 [14]

SrO-BaO-PbO-P2O5 10-8 [15]

F ZrF4-BaF2-CsF 5x10-6 (at 200 °C) 320 [16]

PbF2-MnF2-Al(PO4)3 10-4 (at 200 °C) [16]

 これまで,超イオン導電体としては結晶性の物質が良く知られ詳しい解説もされている[17-

20]。超イオン導電体結晶は,その部分格子が融解した半液体・半固体の状態(sublattice

melting)とみなすことができ,液晶や柔粘性結晶と同様に,結晶と液体の中間相(mesophase)の

一種である。クーロン相互作用を持つソフトコア系の分子動力学計算により、このような中間

相の出現するイオン半径比とクーロン力の条件が明らかにされている[21].

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 さて,超イオン導電体結晶が液体と結晶の中間相であるとしたら,超イオン導電体ガラスは,

通常の液体やガラスにたいしてどのように位置づけられるべきだろうか。ガラスと液体を区分

するのは,結晶の場合のような熱力学的相転移ではなくガラス転移である。ガラス転移現象は

平衡状態と非平衡とをつなぐ統計力学の難問であり、現象論のレベルを越えたミクロな理論は

ほとんど未開拓であった。

 ところが、奇しくも、超イオン導電体ガラスの開発が急速に展開した 80 年代に、西ヨーロッ

パを中心にガラス転移研究のルネサンスとも言える新しい波が進んでいた。一つは、Gotze

[22][23]らにより展開されてきた、いわゆるガラス転移のモードカップリング理論(MCT)であり、

もう一つは、Jonsher[24,25], や Ngai[26,27]らにより、複雑系の遅い緩和現象に対する非指

数型緩和のユニバーサリティが注目されてきたことである。これらの問題については関連する

国際会議も数多く開催され、今や現代統計物理学のフロンティアの一つになっている[28-33]。

 超イオン導電体ガラスの研究は、これらの研究分野とは独立に進んできたが、80 年代の後半

から 90 年代にかけて、重要な関連が見い出されてきた。まずは、それを端的に物語る

「Stokes-Einstein 則の破れ」から説明する。

§2 Stokes-Einstein 則の破れと Angell のデカップリング指数

 溶融塩、電解質水溶液などのイオン性融体のイオン伝導度σと液体の粘性係数ηとの間に

Stokes-Einstein の法則

σ = (ze)2N

6πaη(1)

が成り立つことが知られている[34-36]。ここで、N はイオン密度、ze はイオンの電荷、a はそ

のイオン半径、k はボルツマン定数である。この法則は、個々のイオンに働くマサツ係数を粘

性係数というマクロな量で近似したものであるが、意外に良く成り立つ。しばしば、液体でも

Stokes-Einstein 則からのズレが問題とされるが、それは高々1桁程度である。

 ガラス転移点に近い過冷却液体状態になると、二体衝突近似は破れ、多重衝突によるイオン

の閉じ込め(Cage 効果)や化学結合形成が重要になる。その結果、液体の粘性ηは過冷却液体状

態で急激に増大し、一般にガラス転移点付近ではη~1012 pois 程度になる1。その温度依存性

は、Vogel-Tummann-Fulcher(VTF)式

η =η0 expB

T −T0

(2)

1 比企らによる AgI-Ag2MoO4,AgI-Ag4P2O7の粘性測定の結果によると、Tg付近で 10

8から 1012Pas

まで急激に変化する[37]。

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により良く表される2。ここで、Bηおよび T0 は、物質により決まる定数である。T0 は、熱測定

などから直接求まるガラス転移温度 Tg よりも数十度も低い値となり、無限にゆっくりと冷却し

た際に到達する理想的なガラス転移温度と考えられている。

 イオン伝導度も、過冷却液体状態では(2)式と同様に VTF 則

σ =σ 0 expB

T −T0

(3)

に従い、粘性の増加と共に急激に減少し、Tg 付近では 10-10 以下の絶縁体レベルにまで低下す

る。これは、粘性もイオン伝導も共に構成イオンの拡散により支配されていることを考えれば

当然のことである。結局、両者の積(Walden 積)は余り変わらず、Stokes-Einstein 則(1)は依然

としてほぼ成立する。

 さて、実際に超イオン導電体ガラスである AgI-Ag2MoO4 系のガラス状態と過冷却液体状態の伝

導度を見てみよう[図 1]。比較のために、代表的なガラスとして、Ca(NO3)2-KNO3 系(CKN)と

SiO2-Na2O 系および高分子電解質のモデル系である LiNO3-1,3-diaminopropane(DAP)系も共に示

してある[38]。いずれの系も、過冷却液体状態では温度の低下と共に、伝導度は式(2)に従って

低下するが、ガラス転移点付近で折れ曲がり、ガラス状態では Arrhenius 則

σ(T) = Tmσ 0 exp−ΔEkT

(4)

ただし(m=0 or -1)に従うようになる。

 ところが、CKN 系や DAP 系に比較し、

超イオン導電体ガラス AgI-Ag2MoO4 では

過冷却液体状態での伝導度の低下は極め

て小さく、Tg でも 10-2 S/cm 程度の値を

持つ。これは、Stokes-Einstein 則から

は、有り得ない事と言える。実際、ガラ

ス転移点では、一般に 1012 poise 程度

の粘性を持つから、(1)式より見積られ

る伝導度の値は 10-14 S/cm 程度となり、

実測値とのズレは実に 1012 倍(1 兆倍)に

もなる。

 Angell は、早くからこの問題の重要

性に気づき、イオン伝導度から求まる電

2 VTF 則以外の温度依存性の式も幾つか提案されている[33]

図 1 主なガラス形成液体のイオン伝導度の温度依存性。斜線部は 1MHz 以下で周波数依存性が見られる領域。[38]

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気的緩和時間τσと粘性・弾性率から見積った力学的緩和時間τs との比 R=τs/τσ をデカッ

プリング指数(decoupling index)と名付け、ガラス転移温度において R≧1012 が超イオン導電体

ガラスの特徴であると指摘した[39,40]。現象論的には、ガラス転移を支配する構造緩和モード

とイオン伝導による電気的緩和モードとの結合が・ ・ ・ ・ ・ ・

ほとんど無いことを意味する。

 さて、ここで冒頭に述べた Na2O-SiO4 系ガラスを見てみよう(図 1)。この良く知られた代表的

アルカリ硅酸塩ガラスは、図 1 に示したように室温では殆ど絶縁体に近いが、ガラス転移点付

近では 10-3 S/cm ものナトリウムイオン伝導性を示し、R は 1010 にもなる。室温での実用上はと

もかく、ガラス転移点で比較するならば立派な超イオン導電体ガラスに分類されるのである3。

§3 伝導度の周波数依存性と非指数型緩和

 ガラス転移領域での交流伝導度、誘電緩和の研究は超イオン導電体ガラスの発見以前から行

われていた。代表的な例として、CKN の例が知られるが、ここでは DAP の例を示す(図 2)。低周

波数領域では周波数に依存しない部分が存在し、これが直流伝導度に対応する。ところが、過

冷却液体状態からガラス転移温度に近づ

くにつれ、高周波数領域に周波数の冪乗

   σ[ω]~ ωn (0<n<1)  (5),

に従う部分が現われる。このような周波

数依存性は、直流伝導度には寄与しない

部分的に局在化したイオンによりもたら

されると考えられる。

 ところが、超イオン導電体ガラスの場

合、Tg から室温付近までの高イオン伝導

状態では周波数依存性は見られず、Tg よ

り 150K も低い温度(-100℃以下)でのみ

(5)式に示した周波数依存性が観測される。

ガラス転移点近傍および過冷却液体状態

では通常の周波数領域では分散は見られず[42]、マイクロ波領域(10-10 s)になって初めて観測

3 超イオン導電体ガラスと並んで高イオン伝導性のアモルファス材料であるはずのポリマー電解質(PPO-LiClO4)は、この分類からは R=10

-2という超強結合系になる[32]。これは、ポリマー電解質のイオン伝導機構が超イオン導電体ガラスとは全く異なり、伝導イオンと強く結合した側鎖のミクロブラウン運動によ

り、間接的にイオンが運ばれているためである[41]。

図 2LiNO3-13,diaminopropane イオン性液体の過冷却状態での伝導度の周波数依存性,[Hayashi, 1998 #1469]

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される[43,44]。この結果から、超イオン導電体ガラス中の可動イオンの平均ジャンプ頻度は、

Tg 付近でも 1010s-1 程度の液体的な値になることがわかる。これは、NMR 緩和や中性子、光凖弾

性散乱からも裏付けられる。以上の結果を整理し、低周波数(1MHz 以下)で伝導度に周波数依存

性が見いだされる温度領域を図 2の斜線で示した。

 伝導度の周波数依存性に関して、もう少し詳しく見ておこう。伝導度の周波数依存性は、低

周波数領域では次式でほぼ表わされる事が多くの実験結果から示されている。

σ[w] = σDC + A(iωτc)n]+Bωm + iωε∞ (6)

ここで、σ[0]は直流伝導度、εは誘電率の高周波数極限、τc は特性緩和時間、n は 0.6̃0.7

程度の実数パラメータであり、解釈の仕方により緩和時間の分布パラメータ、スケーリング指

数、周波数冪指数、Jonscher のパラメータなど様々な呼び方がされる。3項目の Bωm(m~1.0)

の項はコンスタント・ロス項と呼ばれ 1MHz から 1GHz 程度の高周波領域または低温度で観測さ

れる[29]。

 一方、Ngai をはじめとする幾つかのグループでは、エレクトリックモジュラス M*[ω] (補

遺 1参照)を用いてデータ解析を行ない、

M*[ω] = M∞[1− dt∫ eiωt (− dφ(t)dt

)] [7]

ただし、

φ(t)=exp(-(t/τc)β) [8]

という、拡張指数関数--別名 Kohlrausch-Williams-Watts(KWW)式--を用いて解析している。こ

の場合、βの値としては、0.4̃0.7 の幅広い値が得られ、ガラスの組成に強く依存する。

 (6)(8)式のパラメータ n,βの温度依存性は小さく、σ[0]とτC-1 の温度依存性はほぼ等しい

ため、温度・周波数スケーリング則が成り立つ4。

 ガラス転移に関係した遅い構造緩和過程と、イオン伝導に関係する速い電気的緩和過程が存

在し、何れも単純な指数緩和(Lorentz 型の周波数依存性)には従わず、冪乗則か拡張指数型で

良く表される事は多くの実験結果から分かっている。この問題については後ほど考察すること

にして、ここではイオンの局在化がはじまると伝導度に周波数依存性が現れるという点を確認

しておく。

 さて、図 5から明らかなように、超イオン導電体ガラスのτCは、ガラス転移温度付近では10-10s

程度の液体的な値を持つが、温度の低下と共に・ ・

ほぼアレニウス則に従って増加し、液体窒素温

度では 10s 程度となる。従って、この付近に伝導イオンの運動が凍結する「第二のガラス転移

4 温度・周波数スケーリングは高分子のダイナミクス解析に古くから用いられてきた。最近では、イオン伝導性ガラスに対するスケーリング関数が他にも種々提案されている[45,46]。

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温度」が存在することが予想される。この予測は長いあいだ実験的には観測できなかったが、1993

年に東工大の花屋・小國らにより超イオン導電体ガラスの低温比熱異常として初めて報告され、

この予想は実証された[47,48]。

 さて、Nernst-Einstein 則の破れから始まって、超イオン導電体ガラスの普遍的特徴は、構

造緩和モードと電気的緩和モードのデカップリングにあることを見てきた。次に、このような

特性が、構成原子間の相互作用やガラス構造とどのように関係するのか簡単に見てみよう。

§4 超イオン導電体ガラスの構造的特徴

 冒頭で述べたように、超イオン導電体ガラスの電荷担体はアルカリ金属や銅、銀など一価の

陽イオンが中心である。特に、これらのハロゲン化物やカルコゲン化物が良好なイオン伝導性

を与える。これらは、ガラス化学の分野で網目修飾イオンに分類される。一方、ガラス形成を

容易にするために加えられる、珪酸、硼酸、燐酸などは網目形成酸化物として働き、イオン伝

導には殆ど寄与しない。これから、ガラス構造中に、強い結合部分(主に共有性)と、弱い結合

部分(主にイオン性)とが混在している事が超イオン導電体ガラスの形成に重要な働きをしてい

ると見ることができる。Na2O-SiO2 系についてみれば、非架橋酸素と弱い静電結合でつながった

Na+が高温度では解離してガラス中を拡散すると見ることができる[49]。銀系の超イオン導電体

ガラスについて見ると、例えば、AgI-Ag2O-B2O3 系のガラスの場合、硼酸は共有結合性の強い網

目構造により硬いガラスの骨格を形成し、Ag+と I-は、網目構造の間に分散しイオン伝導領域を

つくると考えられている。このような構造モデルは、X 線・中性子線回折をはじめ、様々な構

造解析の結果からも支持され、種々の不均一構造モデルの出発点となっている[50,51]。この問

題を巡っては、伝導機構のパーコレーションモデル[52-55]などとも関係して論争が続いている。

これらの問題については、最終章で改めて議論する事とし、ここでは最も単純化した場合から

出発しよう。

 表1にも示されているように、金属ハロゲン化物のみからなるガラス[56,57]をはじめ、網目

形成酸化物を全く含まない超イオン導電体ガラスも幾つか知られている[58,8]。このことから、

超イオン導電体ガラス相の出現にとって、共有結合性網目構造はガラス形成を容易にしている

だけで必須条件ではなく、Ag+と I-のように特別な組み合わせの陰・陽イオンが含まれれば良い

ことが分かる。

 そこで、極端に理想化し、超イオン導電体ガラスの主要な特徴のみを残したできるだけ単純

な系を想定してみよう。直ちに思い付くのは、AgI すなわち、Ag+と I-のみからなる二成分系で

あろう。この系は、超イオン導電体のα-AgI 結晶を作ることが知られている。この系がアモル

ファス化され超イオン導電性を示せば最も好都合である。残念ながら、この系をガラス化する

事は今のところ実験的には成功していないが、コンピュータシミュレーションでは得られてい

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る。例えば、平尾と曽我の分子動力学(MD)計算によれば、AgI のガラス中で I-はランダムな配

置のまま振動運動のみを行うのに対し、Ag+は隙間を拡散してゆく事が示されている[59]。また

二成分ソフトコア系の MD計算からもイオン伝導ガラス相の形成が示唆されている。

 以下の節では、このような単純二成分イオン性融体のガラス転移における、普遍的な特徴と

して超イオン導電体ガラスの出現を捉える見方を紹介する。

§5 超イオン導電体ガラスのガラス転移に関する理論

 従来ガラス転移の理論としては、熱力学的議論[60][61]の他に、自由体積理論[62,63][64]や

配置エントロピー理論[65] が良く知られている。一方、近年ガラス転移をエルゴード性の破れ

による転移としてみる立場から新たな理論的研究が進められており、モードカップリング理論

[23,66]が注目されてきた。本節では、これら新旧の理論が超イオン導電体ガラスに対してどの

ように適用され、上述の問題がどこまで理解されているかを紹介する。

5.1 必然・・・・・・ 非平衡熱力学と過剰自由体積理論

 ガラスは熱力学的平衡状態ではない。ガラス状態にある系では、温度 T、圧力 P などの熱力

学的独立変数が指定されてもその状態は一意的には決まらない。そこで、系の平衡状態からの

ズレをあらわす何らかのオーダーパラメータが導入されなければならない。仮に、これを

X=(X1,X2,...,Xn)としておこう。ガラス転移の熱力学理論の目標は、拡張された熱力学変数

R=(T,P,ci と X)で系のポテンシャル関数を記述し、安定性や動力学的考察から X が 0 でない値

を持つ条件を見いだすことにある。この問題に、(静的)熱力学の立場から接近する努力は Gibbs

以来いくつか試みられており、Prigogin-Dufey の関係などが検討されてきた[67]。一方、非平

衡熱力学の立場から、ガラス転移点近傍での X の時間的振る舞いを運動論的に議論しようとす

る試みも進められてきた[68-70]。このアプローチは、熱履歴や冷却速度の違いによるガラス物

性の変化などを定量化する上で大きな成功を収めており、Tool や Narayanaswamy らによる比熱

の理論[71]などもこの範疇に属する[70]。

 Hutchinson-Kovacs らは、この視点から Cohen-Turnbull 流の自由体積理論(FVT)を改良しガ

ラス転移領域での構造緩和を議論した。ここでは、彼らの過剰自由体積理論(EFVT)[68]に基づ

き、超イオン導電体ガラスのガラス転移を議論した例を紹介しよう[72,73]。

 自由体積理論(FVT)では、液体中の原

子は他の原子に囲まれた Cage 内で振動

していると考える。あるイオンが拡散す

るためには、周囲の他のイオンが配置を

変え、注目するイオンが移動できる程度

図 4自由体積モデルでのイオン移動の素過程。

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の空隙(臨界体積)を生じたときに限る(図 7)。この場合、イオン種 iの遷移頻度は

ω i =ω i,0 exp−γυ i

*

υ f

(9)

で表される。ここで、υf は系の自由体積、υ∗i は i イオンが遷移するのに必要な臨界体積、ωi,0

は試みの角周波数とする。 非平衡ガラス状態に拡張された過剰自由体積理論(EFVT)では自由体

積 υf を平衡状態の値υf,eq とそれからのズレυf,ex(過剰自由体積)の和

υf = υf,eq + υf,ex (10)

で表わす。υf,ex が、平衡からのズレを表し、この理論のオーダーパラメータである。もちろん

平衡状態ではυf,exは 0である。平衡自由体積 υf,eqの温度依存性は,FVT と同様に

υ f ,eq =υ 0α f T −T0( ) (T>T0) (11)

=0 (T≦T0)

と近似する。ここでαf は過冷却液体の熱膨張係数、T0 は平衡自由体積が無くなる温度(このモ

デルでの理想的ガラス転移点)である。もっとも、EFVT ではガラス転移を緩和現象として扱う

ため,T0での特異性は重要でない。

 一定温度下でのυf,exの緩和方程式を

  

∂vex∂t + Γ(t-t' )vex(t' ) dt'

0

= 0(12)

と表す。Γ(t)は体積緩和関数であり自由体積 υfに依存する。単一緩和時間近似では、Γ(t)= 2

Γδ(t)とおきτs=Γ-1 を体積緩和時間と呼ぶ。τs は構成イオンのうち最も遷移頻度の遅いもの

(仮に jイオンとする)により決まると仮定すると、

Γ = τ S−1 = τ S,0

−1 exp −γυ*

υ f

(13)

と書ける。更に、系の急激な温度変化によるυex 生成項Δαq,(但し q=dT/dt)を加えると任意の

温度変化に対応する運動方程式として

dtdδ = -

τS

δ - Δαq(14)

が得られる。ただし δ = υex/υeq でありΔαは過冷却液体とガラス状態の熱膨張率の差である。

(9)-(16)式を組み合わせると方程式は閉じ、任意の温度変化 dT/dt に対して自由体積を計算す

る事ができる[73]。平衡状態(υex=0)から出発しても,有限な冷却速度(dT/dt<0)では,(14)式

の解は有限な温度 Tg(>T0)で分岐し非平衡状態(υex>0)になることが示される。

 一方、イオン伝導度は(9)式からイオンのジャンプ頻度ωiに比例するから、

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10

σ =Ni(zie)

2aikTi

∑ ω i,0 exp−γυ i

*

υ f

(15)

として計算できる。ただし、Niは i 種イオンの数密度、ziは電荷 aiはジャンプ距離である。

 EFVT により計算した伝導度と実験値との比較を図 8 に示した。計算は高温度での平衡状態か

ら dT/dt=-10K/min で数値積分により行なった。注意すべき点は、Tg 付近で数値計算の解が過

冷却液体上での VTF 則からガラス状態での Arrhenius 則へと自動的に分岐することである。冷

却速度が無限に遅い時、分岐は起こらず T=T0 まで VTF 則に従う。更に、この理論からは冷却速

度の違いによる分岐温度(ガラス転移温度)や密度、イオン伝導度の違いを半定量的に計算でき

る。

 EFVT による超イオン導電体ガラスのガラス転移は図 9 を用いて説明できる。高温の融体を冷

却することにより、液体中の平衡自由体積υeq は減少し、構成イオンの遷移頻度は小さくなり系

の構造緩和時間は長くなる。しかしイオン半径の相対的に小さなイオンは速い遷移頻度を保ち

つづける。冷却が進み、系の構造緩和時間が 1̃100 秒程度になると系の冷却速度(-1̃100K/s)に

構造緩和が追随できず、もはや(準安定)平衡状態を維持できなくなり、ガラス状態に分岐する。

その結果、過剰自由体積υex がガラス中に残留する。イオン半径の小さいイオンはこの残留体積

中を液体状態に近い遷移頻度で潜り抜けることができ、高いイオン伝導度をもたらす。Tg 近傍

での伝導度の異常な振る舞いは、構造緩和によりυexは時間とともに変化するためと説明される。

 EFVT は、一種の二流体モデルであり、極言すれば「不動イオンがガラス化しても、そのすき

間に可動イオンが液体のまま残留したものが超イオン導電体ガラスである」という描像である。

したがって、残留する可動イオン液体がガラス転移する第二のガラス転移が予想され、それは

冒頭に述べた花屋・小國らの精密比熱測定

で実証されたと言える。しかし、第二のガ

ラス転移についてはそれ以上の詳しい研究

が行われていない。

 最近、超イオン導電体ガラスのイオン伝

導度を広い温度範囲で精密に測定した報告

が現れはじめ、従来の Arrhenius 則による

解析が必ずしも正確でない事が指摘されて

いる[74,75]。図 3 に桑田らによる AgI-

Ag2MoO4 ガラスの低温での電気伝導度を示す

[75]。明らかに低温では Arrhenius 則から

はずれて VTF 則に近くなっている。ここか図 3 超イオン導電体ガラス AgI-Ag2O-MoO3 の伝

導度の温度依存性[75]

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第9回超イオン導電体物性研究会 2005.5.30愛媛大学資料

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ら見積もられた T0 の値は約 40K 程度であり、熱測定による第二の Tg は 80K 程度な事と合わせ

るとリーズナブルである。また、第二のガラス転移に対応する比熱異常は、AgI 高濃度域、例

えば xAgI-(1-x)AgPO3 系ガラスでは x>0.3、でのみ観測され、伝導度の Arrhenius 則からのズレ

も高濃度域(高イオン伝導域)でのみ観測される。この問題は、可動イオン液体の低温での局在

化過程には、ガラス転移を経由するものと、単なる連続的な凍結(Arrhenius 的)の二つの場合

が存在する事を示唆する。言い換えると、可動イオン液体の Strong と fragile の問題と言い換

える事もでき、今後の詳しい研究が待たれる。

 さて、EFVT から予想される超イオン導電体ガラスの出現条件はイオン体積比により決まり、

Tg でのσを 10-2 S/cm とするとυ+/υ- <=0.2 となる。この条件は Ag+と I-については成立する。

もしも、イオン半径が同じだとすると Tg ではσ̃10-14 S/cm となり Stokes-Einstein 則から予

想された値に一致する。このモデルでは、Angell のデカップリング指数は

R = τσ/τS ~ exp(υ*Ag-υ

*X) (16)

となり、イオン体積の差により決まる。

 EFVT は履歴効果も含め超イオン導電体ガラスのガラス転移領域での性質をうまく説明できる。

しかし、もともとイオン間の相互作用を剛体球による排除体積でしか考慮していないため、酸

化物イオンの影響や、Ag+より小さい Li+のイオン伝導度が実際は小さくなる事実を説明できな

い。これらは、化学結合の詳細、すなわち電子論的な議論が必要なことを意味しており、安仁

屋らによりこの方向の研究が進められている [76-79]。

 FVT は自由体積分配による遷移状態でのエントロピー変化に注目した理論であり、エネルギ

ー項は考慮されていない。両者を考慮したハイブリッド理論が Macedo と Litovitz[80]により

古くから提案されており、高分子固体電解質やガラスに対する宮本[81]や Souquet らの理論

[82,83]はその一種と見なすことができる。上述の電子論的議論をふまえてより定量的な理論と

して発展される可能性がある。

5.2 偶然・・・・・・ 一般化ランジュヴァン方程式

 前節では、ガラスを特徴づける秩序変数として、体積の平衡値からのズレ(過剰自由体積υex)

(a) Brownian motion (c) Jump motion(b) Vibrational-diffusion図 4 液体-過冷却液体-ガラス中でのイオンの運動の模式図。ガラス転移点に近づくと拡散

的な運動から局在振動的な動きに変わる。

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に注目し,その時間変化を議論した。しかし,この時間変化は短時間でのゆらぎを均した平均

値の振る舞いにすぎない。応答関数の周波数依存性のような速い緩和過程を議論するためには、

より短い時間・空間スケールにおける揺らぎに注目しなければならない。

 液体を構成する原子やイオンは、周囲の原子により絶えず衝突を受けながら、あたかもブラ

ウン運動粒子のように拡散してゆく。ところが、ナノ秒以下の短い時間では、周囲のイオンと

の多重衝突や Cage 効果により、固体に近い振動的振る舞いをすることが知られている(図 4)。

このような運動を議論するには、記憶関数項を含めた一般化されたランジュヴァン方程式によ

る記述が便利である[84-87]。例えば、系内の一つの粒子の速度υに注目し、その運動が次の運

動方程式に従うとする。

˙ υ + γ 0υ + M(t − t ')υ (t ')dt '0+

t∫ =

1mf (t) (17)

ここで、mは粒子の質量、γは摩擦係数、M(t-t')は記憶関数、f(t)は揺動力である。M(t)と f(t)

の間には、第二種揺動散逸定理

M(t)= <f(t)f(0)>/<f(0)f(0)> (18)

が成立する。記憶関数は注目する粒子に働く種々の相互作用を注目する物理量(この場合は速度)

に射影することよにり得られる。記憶関数の意味を見るために、M(t)として 2 つの極限的場合

を考える、まず

M(t − t') = 2γ1δ(t − t') (19)

即ち、記憶が瞬間的に消えてしまう場合には、17式は

˙ υ + γ 'υ =1mf (t) (20)

となり、通常のランジュヴァン方程式に帰着する。但し、γ'=γ0+γ1 である。その解は、ブラ

ウン運動粒子と同様に拡散方程式に従い、有限な直流伝導度とドゥルーデ型の周波数分散を与

える。

 一方、M(t)が一定(=ω02)、即ち記憶が無限に続くとすると、17式を積分する事により

  

˙ ̇ x + γ˙ x +ω02x =

1m

f (t) (21)

と書き直す事ができる。これは単純な減衰のある調和振動子方程式に他ならず、粒子は同じ場

所で振動的振る舞いを続け拡散は起こらない。これから計算される伝導度の周波数依存性は、

ω0 にピークを持つローレンツ型で,直流伝導度は持たない。この解は絶縁体あるいは固体(ガ

ラス)状態を表していると考えられる。

 高密度イオン性液体あるいは超イオン導電体ガラス中でのイオンの運動は、これら 2 つの極

限の中間にあるであろう。そこで、この両極限をうまくつなぎ、有限な時間で記憶を忘れるよ

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うな関数形をみつけることができれば、高温融体から過冷却状態を経てガラスに至るまでのイ

オンの振る舞いを表すことができる。最も簡単なモデルでは記憶関数を記憶時間τで決まる指

数関数で近似し、τ以下の時間スケールでは振動的、τ以上では拡散的な振る舞いをすると考

える。

 一方、この方程式(17)は、超イオン導電体中の伝導イオンの運動を記述するのにも使え、イ

オン伝導度の周波数依存性を説明するのに使われている[88-90]。そこでは,伝導イオンは、短

時間では局所的ポテンシャル極小点の周りで振動しているが、長時間スケールではマクロな拡

散運動をしている。式(17)のフーリエ・ラプラス変換(FLT)により伝導度の周波数依存性は

σ[ω] =N(ze)2

m1

−iω + γ + ˜ M [ω](22)

と書ける。M[ω]は記憶関数 M(t)の FLT である。記憶関数としては、指数型を仮定するのが普

通であるが、Cole-Cole 型の

˜ M [ω] =ω0

2τ1+ (iτω)n (23)

を仮定し低周波数極限を取ると(6)式が得られ,一方、Howell-Ngai らの式(7,8)は

M(t) =ω02Γ(β−1)β−1 exp{−(t /τ )β} (24)

と置くことにより得られる。但しΓ(x)はΓ関数である。n=β=1の時、(23-24)式は一致する。

 パラメータ n またはβが 1 より小さくなる理由として、一つには緩和時間の分布を用いた説

明が行われてきた。実際、ガラスの構造的ランダム性を念頭におくとこの仮定はある程度認め

られよう。例えば、前節で述べた自由体積理論の枠組みでは、自由体積に分布を持たせること

が良く行われ[91]、ポテンシャル障壁に分布を持たせる事でも説明できる。

 ジャンプ・モデルを基礎にしたランダムポテンシャル中のイオンダイナミクスの理論は近年

大きく発展し、低周波でのべき乗型の周波数依存性はランダムポテンシャルの効果として上手

く説明できる[92-94]。

 しかし、静的な構造不規則性をランダムポテンシャルの形で導入することは、ガラス転移点

以下では正当化されるが、過冷却液体では自明では無い。その場合は、可動イオンのジャンプ

過程以外の遅いモードを切り離して動的不均一構造(dynamic heterogeneity)として考える事が

できる[95-97]。このような不均一構造はナノからメソスケールにわたり、イオンダイナミクス

に影響を及ぼす。特に、凍結された不均一構造中に可動イオンの通りやすい通路が形成されれ

ば超イオン導電体ガラスとなる事が予想され、上で述べた描像とは全く異なるパーコレーショ

ン理論を基礎としたモデルを考えることもできる[98,55]。

 一方、指数緩和からのズレは伝導イオン濃度の高い場合に顕著な事から、伝導イオン間の多

体相互作用が原因ではないかとする研究が多く存在する。例えば、Ngai によるカップリング・

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モデルは、一般的に1粒子の移動が周辺領域 Correlationally Rearaging Region(CRR)の構造

緩和を伴うとするモデルで、式(7,8)の拡張指数関数型緩和関数を与える。

 この他にも緩和過程における多体効果を考慮した、より具体的なモデルが幾つか提唱されて

いる。まず,Jonscher による初期のスクリーンド・ホッピング・モデル[24,25]や Dissado-Hill

の理論[99,100]が知られるが,Jonscher 自身による詳しい解説書[101]が出ているので,ここ

では割愛する。イオンの拡散に伴う周囲のイオン雲の緩和を考慮した,Debye-Falkenhagen-

Tomozawa の理論[102,103],Funke のモデル[104-106]も同様な視点に基づいている。また、局

所的なイオンの誘電緩和が、伝導イオンの拡散により玉突き的に引き起こされるとする Elliott

の拡散支配緩和モデル(Diffusion Controlled Relaxation Model)からも説明できる事が示され

た[107,108]。これらの,モデルに共通する描像は,複雑系の緩和においては,イオン・ジャン

プ等の緩和素過程が周囲の多体的モードと結合することにより,観測される長時間緩和は指数

型からはずれ,冪乗型もしくは拡張指数型となるという点である。

 過冷却液体およびイオン伝導体ガラスにおける非指数型緩和の問題は、多くの理論が提唱さ

れながら明確な黒白がつかずに推移してきたきらいがある。初期の緩和時間分布説から多体効

果説を経て、最近では再び不均一構造説へと戻りつつあるように見える。これは、近年の選択

励起法によるレーザー分光[95,109]やNMR測定[96,110,111],誘電ホールバーニング[112]等

により、不均一構造と多体相関の効果を分離した緩和測定ができるようになったためであり、

今後の研究により明確な答えが得られることを期待したい。

 さて、記憶関数項を含む一般化されたランジュヴァン方程式によるモデルは、ガラス転移の

問題と伝導度の周波数依存性を同時に記述する事ができ、多成分系に拡張することによって超

イオン導電体ガラスのガラス転移の問題を見通し良く整理することができる。その点を、最近

のモードカップリング理論により説明しよう。

5.3 偶然から必然へ・・モードカップリング理論

 ガラス転移のモードカップリング理論(MCT)については、既にいくつかの解説が出され

[22,113,114]、本研究会でも金子により発表されている[115]ので、ここでは簡単にそのおさら

いをして、多の手法との関係や。

 まず、MCT の概要を理解するために、一成分系に対する Bengtzelius らのモデルを説明する

[116]。系の動的な構造を表すのに密度ゆらぎρ(q,t)の相関関数

φ(q,t)=<ρ(q,t)ρ(q,o)>/<ρ(q,0)ρ(q,o)> (25)

に注目し、その減衰振動をあらわす一般化されたランジュヴァン方程式を考える。

˙ ̇ φ +Ω02φ + γ ˙ φ + M(t − t') ˙ φ (t')dt'

0+

t∫ = 0 (26)

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ここで、記憶関数 M(t)を、モード結合近似では密度相関関数の汎関数と考え冪級数で表わす。

     M(z)= c1Φ(z) +c2Φ(z)2 + .... (27)

ここで、ci はモードカップリングパラメータであり、二体間ポテンシャルと静的構造因子が分

かると原理的には計算可能な量である。式(27)を(26)に代入して得られる運動方程式は、φに

関して非線形であり、カップリング定数 c1,c2 の値によりφの長時間極限が 0 に収束しない場合

が出現する。この値

t→∞limφ(t) = f (28)

を非エルゴード指数(non-Ergodicity parameter)と呼び、この f = 0 から f >0 への解の分岐を

「ダイナミック相転移」と呼ぶ。これが,MCT による「ガラス転移」であり c1,c2 の組合せによ

り不連続な転移(TypeB)と連続的な転移(Type A)になる場合がある。

 さて、超イオン導電体ガラスのガラス転移をモデル化するためには ,最小限二種類以上の異

なる粒子(イオン)について問題を設定しなければならない。MCT の多成分系への拡張として、

Sjogren は第二成分の濃度が希薄な場合の不純物拡散の問題[117]を議論し、Boss-Krieger-

Kaneko らは、一般的な多成分イオン系に対する議論から出発し、密度相関関数と電流相関関数

を求めている[118-122]。ここでは,Bosse と Krieger の取り扱いから出発し、超イオン導電体

ガラスのガラス転移と比較しよう。

 Bosse と Krieger のモデルでは電荷を持った多粒子系について、密度ゆらぎΦm と電荷ゆらぎ

Φc の二つのモードに対する一般化されたランジュヴァン方程式を考える。記憶関数の二次ま

でのモードカップリング近似により、次の連立方程式を求めた。

˙ ̇ Φ m +ω0,m2 Φm + Km (t − t') ˙ Φ m (t')dt'

0+

t∫ = 0 (29)

˙ ̇ Φ c +ω0,c2 Φc + Kc (t − t') ˙ Φ c (t')dt'0+

t∫ = 0 (30)

ただし    

Km(t)= c1 Φm(t)2 +c2Φc(t) + 2Γmδ(t) (31)

Kc(t)=c3Φm(t)Φc(t)+2Γcδ(t) (32)

である。ここで、c1 は密度・密度間結合、c2 は電流・電流間結合、c3 は密度・電流間結合を表

す。従って、系の状態図は V=(c1,c2,c3)の三次元空間に表され、液体・ガラス・イオン伝導体

ガラスの三つの相が出現する。

 Bosse のモデルで C2(電流・電流間カップリング定数)を無視すると、より簡単な Sjogren の

モデルになる[117]。これは、A,B 二元系のガラス転移において A 粒子の濃度が希薄な場合に相

当し、式 29 は粒子 B の密度ゆらぎ、式 30 は粒子 A の密度ゆらぎとみなす。λ1(=C1)は B 粒子

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間、λ2(=C3)は A 粒子と B 粒子間のカップ

リング定数であり、C2 に相当する項は無視

している。

 Sjogren の解はλ1 とλ2 の 2 つのパラメ

ータの値により 3 つの領域に区分される。

これを状態図の形にしたのが図5である(図

中の説明は筆者)。ここで、IL(ionic liquid)

は平衡状態 f1=0,f2=0 の液体状態(過冷却液

体を含む )を表し、 IG(ionic glass) は

f1>0,f2>0 で A,B 粒子共に凍結した通常の絶

縁体ガラスを表す。SIG(superionic glass)

と記した領域では、f1>0,f2= 0 で密度ゆら

ぎは凍結しているが、B 粒子の密度ゆらぎ

は t--->∞で収束し平衡液体状態を維持し

ており、B イオンのみは液体状態にあることを示している。したがって、この状態が超イオン

導電体ガラスに対応することになる。

 MCT では、ガラス転移点以上でのイオン伝導度の温度依存性は VTF 則(式 3)に代わって、Tg

からのズレの羃乗則

σ(T) = (T/Tg-1)ν (33)

で表される。ちなみに、AgI-Ag2MoO4 系ガラスの過冷却液体状態のイオン伝導度を温度の羃乗則

の形でプロットすると、冪指数の実験値はν=1.5 となる。

 さて、Sjogren, Bosse らのモデルによると、超イオン導電体ガラスから更に温度を下げると

伝導イオンの局在化により、第二のガラス転移(伝導体・絶縁体転移)が起こると予想される(図

5 における Tg2 で SIG-->IG の過程)。超イオン導電体ガラスの低温度で観測される伝導度の周

波数依存性は、その前駆現象と解釈される。

 上記の MCT では schematic な表現から出発しているため、カップリング定数 Ci やλi の物理

的内容がはっきりしない。これらは、イオン間ポテンシャルの強さに関係し、単純な剛体球系

では粒子間の衝突による力を表す。Bosse らは二成分剛体球系の粒子拡散の問題を MCT で厳密

に計算し、半径比が 0.25 以下になると小さい方の粒子が低温でも拡散不安定になることを示し

た[121,122]。この結果は、EFV 理論による SIG の説明とも良く対応しているが、現実の SIG と

比較すると半径比 0.25(体積比で 0.016)は余りに小さく、プロトン以外はこの条件を満足しな

い。より現実的なポテンシャルに対する計算が待たれる。

 ガラス転移の MCT 理論は、液体の分布関数理論から出発して、エルゴード・非エルゴード転

図 5 Schogren のモデルによる状態図。IL はイオン液体、IG はイオン性ガラス、SIG は超イオン導電体ガラスを表す。

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移としてのガラス転移の問題を鮮明にした意義は大きく、超イオン導電体ガラスの例に見られ

るように、複数の自由度が別々に凍結する系を分類・整理し、そのダイナミクスを論ずるにも

有力な手段である。一方、この理論については実験・理論の両面から賛否両論が出され、評価

は分かれている。例えば、MCT で見積られるダイナミック相転移温度 Tb は実験から決まる Tg

より数 10 度も高く、ガラス転移とは異質のものだとの見方も強い[123]。また、イオン拡散の

ような運動は一粒子的なジャンプ過程が主であり、MCT のような流体力学的描像がどこまで適

用できるかも疑問との批判もある。今後、より詳細な実験との比較が必要であろう。

§6 まとめと今後の展望

 本解説では、まず、ストークス・アインシュタイン則の破れから出発して、Angell のデカッ

プリング指数により超イオン導電体ガラスのガラス転移を特徴づけた。このような特徴を理論

的に扱うために、古典的な過剰自由体積理論と、最近のモード結合理論による説明とを紹介し

た。これらは、極めて単純化したモデルではあるが、問題の主要な側面を捉えていると思う。

 これらのアプローチは、主として均一な液体からいかにして超イオン導電体ガラスが形成さ

れるのかという側面を扱っている。しかし、本文中および脚注で指摘したように、余りに単純

化したために失われた多くの問題が存在する。第一に、相互作用を剛体球ないしはソフトポテ

ンシャル程度の簡単な二体ポテンシャルでモデル化したため、ガラス形成過程での局所秩序構

造や不均一構造の出現は全く考慮されていない。これらの問題は、表 1 に示された実際のガラ

スの構造とイオンダイナミクスを議論する上では避けて通る事ができない。特に網目構造と伝

導チャンネル部分へのミクロ分相の可能性、それに基づく伝導イオンのパーコレーション問題

は依然として重要なテーマである。これらの不均一構造がガラス転移の過程でいかに形成され

るかは、密度揺らぎだけでなく濃度ゆらぎをきちんと考慮する必要がある。その点では、カル

コゲナイド系の超イオン導電体ガラス、例えば Ag-Ge-Se や Ag-As-S などでは、組成によりガラ

ス形成過程で明瞭なナノサイズの二液相分離を示す事が解っており、この問題を研究するには

良い典型例となるだろう[6,124]。同様な分相現象は、AgI-Ag2O-B2O3 系でも高 AgI 濃度域で出

現し、α-AgI ナノ結晶分散ガラスとも関連する興味深い現象であるが詳しい研究はされていな

い[125]。

 また、本報告では主に液体論から出発したアプローチに限定して紹介したが、ランダムポテ

ンシャル中のイオン拡散の一般理論は、ジャンプモデルを基礎に近年大きく発展してきた。特

に、イオン伝導体ガラスを想定したイオン伝導度の温度・周波数依存性の説明や[92-94,126]、

更にはガラス転移までも視野に入れた研究が、Dyre,Hunt,Ishii らにより活発に進められてい

る[127-130]。様々なアプローチを総合することで、超イオン導電体のガラス転移の全貌が明ら

かになる事を期待したい。

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 最後に、これからの研究はコンピュータシミュレーション抜きには語れない。ガラス転移を

表す長時間モードの計算は困難とされてきたが、今日では数多くの計算がなされている

[131,132]。例えば、巾崎らの計算ではガラス中の可動イオンが個別では無く連動ジャンプする

様子が明瞭に示され、多体効果が無視できない事を証明している。シミュレーションについて

は、十分な調査を行なっていないので専門家の方にお願いしたい。

補遺

A: 良く用いられる周波数応答関数の間の関係

 ガラスの交流電場に対する応答を記述するのに良く用いられる応答関数として、複素アドミ

ッタンスY*[ω]、複素インピーダンスZ*[ω]、複素抵抗ρ*[ω] 、複素伝導度σ*[ω]、エレク

トリック・モデュラスM*[ω]の関係を以下にしめす。

Y*[ω]=Z*[ω]-1 (A.1)

ρ*[ω]=Y*[ω](S/d) (A.2)

σ*[ω]=ρ*[ω]-1 =Y*[ω] (d/S) (A.3)

ε*[ω]=σ*/iω (A.4)

M*[ω]=ε*-1 (A.5)

ここで、S は電極の有効面積、d は電極間距離である。この定義はインピーダンス・アナライザ

などを用いて系の交流電場応答から直接もとまる観測量に対応して定義している。したがって、

複素伝導度σ*[ω]の虚部には、誘電率の高周波数極限ε∞の寄与 iωε∞も含んでいる。また、

複素誘電率ε*[ω]の虚部には、いわゆる「直流伝導度」がσ[0]/ωの形で含まれている。文献

によっては、これらを最初から分離して定義している場合もあるので比較する際には注意が必

要である。

参考文献

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