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20131212日(木) 文部科学省 動物性集合胚作業部会講演 宮崎大学テニュアトラック推進機構 テニュアトラック准教授 本多 新 多能性幹細胞と動物胚とのキメラ作製 -現状とその可能性ー

多能性幹細胞と動物胚とのキメラ作製 -現状とその …2013年12月12日(木) 文部科学省 動物性集合 胚作業 部会講演 宮崎大学テニュアトラック推進機構

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2013年12月12日(木) 文部科学省 動物性集合 胚作業部会講演

宮崎大学テニュアトラック推進機構 テニュアトラック准教授

本多 新

多能性幹細胞と動物胚とのキメラ作製 -現状とその可能性ー

1.マウスの発生と多能性幹細胞

ES・EpiSC・iPS細胞には多能性(理論的にどのような組織にも分化可能)がある

着床前

着床後

受精

生殖細胞

体細胞

始原生殖細胞

EpiSC

iPS細胞

緑色に光るES細胞 マウスES細胞

緑色遺伝子導入

ES細胞を用いたキメラマウス作製(1980年代後半から)

マウスの初期胚

に注入

緑色の細胞を持つ

キメラマウス

3.各動物種のES/iPS細胞の特徴について

ナイーブ型

幹細胞としての質が 高い

幹細胞としての質は 低い

プライム型

多能性幹細胞の品質について

多能性幹細胞の質とは?

精子・卵子に分化可能

キメラ形成能

テラトーマ形成能

体外での分化能

未分化マーカー陽性

高 低 マウス ラット それ以外(ヒト・サル・ブタなど)

ナイーブ型とプライム型の多能性幹細胞には質的な相違がある

1.マウスの発生と多能性幹細胞

着床前

着床後

受精

生殖細胞

体細胞

始原生殖細胞

EpiSC

iPS細胞

プライム型

ナイーブ型

ナイーブ型

マウス・ラットから樹立される多能性幹細胞(ES/iPS/EpiSC) マウスES/iPS細胞 マウスEpiSC(Epiblast Stem Cell)

ES/iPS

コロニー形態 テラトーマ形成能 キメラ形成能 生殖細胞分化能 相同組換え活性 多能性維持因子 2i培地への対応 相同なマウス発生段階 多能性の状態

重層(ドーム型)

あり

あり

あり

高い

LIF

自己複製

4.5~5.0日胚

ナイーブ型

単層(扁平型)

あり

ほとんど無し

なし

低い

Fgf2, アクチビン

分化

6.5~7.0日胚

プライム型

キメラ作製を利用した応用技術(補完法)

このマウスを交配して

お腹から胚を取り出す

正常なES細胞(緑色) を注入すると・・・

ES細胞が目となり、

目を持ったキメラマウスが

生まれてくる

ES細胞で、本来ならば 生じない目を補完した!

この胚は本来であれば

目のないマウスとして

生まれるはずである。

先天的に目のないマウス

先ほどの例はマウスES細胞をマウスの初期胚に入れた

では、もしも異種間でキメラを作ったらどうなるのか?

ラットのES細胞(緑)を メスマウスの子宮に

移植したら・・・

ラットのES細胞は

マウスの体の中で

膵臓になれるのだろうか? 膵臓のできないマウス

の初期胚に注入して

中内 啓光先生の研究チーム(東京大学)

Cell (2010)

マウスにラットの細胞でできた膵臓が!!

血糖も下がっている!

Cell (2010)

このシステムの課題点

1.寄与率はさほど高くはないが、全身に寄与している。 (寄与させる組織を完全にコントロールできるわけではない) 2.発生率が低い・生後の発育も悪い。 3.膵臓の発生に必須なPdx1欠損マウス胚をホストにしているが、 Pdx1の影響を受けない他の細胞(神経・血管・間質系細胞)はマウスの細胞なので、 膵臓丸ごと全部がラットの細胞で構成されているわけではない。

Genes to Cells (2011) The American J. Phathology (2012)

岡部先生の研究チーム(阪大) マウスとラットの異種間キメラによる 胚盤胞補完 ヌードマウス(胸腺なし)にラット由来の胸腺を補完。 ラットのT細胞は確認できなかったが、マウスT細胞 の発生・維持により機能を発揮していることを確認。

中内先生の研究チーム(東大) マウスによる胚盤胞補完(異種間ではない) マウス腎臓の補完に成功。 尿の生成により機能を確認。

(腎臓は異種間(マウス・ラット)補完が困難) おそらく、Sal1遺伝子の異種間相違が原因

ちなみに、マウスの中でラットの精子も確認

胚盤胞補完法を行うために必要なこと

1.キメラになりうる多能性幹細胞の有無 2.ホスト胚の適合性と遺伝子破壊技術の有無 ナイーブ型幹細胞の有無はキメラ作製において有力な指標となる

つまりマウスかラット以外の動物では技術的に困難

では、他の動物種で胚盤胞補完を行うためにはどうすれば良いか? ・プライム型の多能性幹細胞はキメラにならないのか? ・プライム型の多能性幹細胞をナイーブ型に変換することはできないか?

ナイーブ型 プライム型

精子・卵子に分化可能 テラトーマ形成能

体外での分化能

未分化マーカー陽性

高 低 マウス ラット それ以外(ヒト・サル・ブタなど)

キメラ形成能

ES/iPS細胞 マウス・ラットEpiSCも含む

丹羽仁史先生の研究チーム(理研CDB) マウスEpiSCに細胞接着因子E-cadherinを過剰発現させれば、 寄与率の高いキメラを得ることができる。 (ただし、効率は低く生殖細胞には分化できない)

PLoS ONE(2011)

プライム型(マウス・ラット以外のES/iPS)でもキメラ動物を作製できる可能性が示唆された

他の動物種由来のES/iPS細胞はどうか?

幹細胞の特徴とキメラ形成能について

(ヒトへの応用を見据えた)ES/iPS細胞研究の実験動物間の比較

ES (iPS) 細胞の 特徴

動物の価格(万円)

飼育・維持の規模 および経費

利用施設数

繁殖

ヒト型だが利用に制限あり

ラット マウス

マウス型 (有)

マウス型 (有)

0.15 0.1

中 小

小 小

容易 容易

多 多

サル ブタ

ヒト型 (有)

ヒト型(?) (有)

30~50

大 大

大 小

中程度~困難

少 中

10~30

容易

ラット マウス

ナイーブ型 ナイーブ型

0.15 0.1

中 小

多 多

容易 容易

ナイーブ型・利用しやすい

サル ブタ

プライム型 プライム型

30~50

大 大

小 中

中程度~困難 容易

プライム型・利用に制限

10~30 1~2

容易

ウサギ

プライム型・利用しやすい

プライム型

ブタ(プライム型)

利点:臓器の大きさがヒトに近い 発生工学技術が確立されている(キメラ作製技術・クローン技術など) 難点:iPS細胞の比較対象として重要なES細胞の樹立が非常に困難 樹立されたiPS細胞の不安定性(外来遺伝子の発現持続)

Stem Cell and Development (2013)

花園先生の研究チーム(自治医科大)

ブタは外来山中因子の サイレンシングが かかりにくいことを利用し、 培養環境の変化で ナイーブ型(様)細胞の 樹立に成功

内部細胞塊や中期胚の一部に寄与

サイレンシングおよび分化能(テラトーマ形成能)に課題

サル(プライム型)

利点:霊長類モデル 発生工学技術が確立されている(特にマーモセット) 難点:繁殖に難点あり(妊娠期間140~160日)(産仔数が少ない:1~2頭/出産) 他実験動物に比べて動物倫理の壁が高い(高次精神構造の発達による)

Cell (2012)

ES細胞由来キメラは産まれず (胚盤胞に寄与できず)

4-cell集合胚であればキメラになった

プライム型多能性幹細胞はキメラになりにくい

立花先生&Mitalipovの研究チーム

ウサギ(プライム型) 利点:マウス・ラットに次ぐ扱い安さ(動物価格・倫理・繁殖(妊娠期間が30日で多産) 発生工学技術が確立されている・ES細胞もある 難点:遺伝子配列情報の整備が若干遅れている。ウサギの細胞に反応する 抗体を見いだすのが一苦労。

Mol.Reprod. Dev. (1996) Biol. Reprod. (2010)

マウス以外ではプライム型の幹細胞由来で(まともな?)キメラ作製の報告がある唯一の動物 (キメラ作製実験のやりやすさ(高い発生工学技術・優れた繁殖能力)を物語っている)

白い毛がキメラ

ただし、生後60日目で死んでしまった

野生型(黒)

3頭/287個注入(約1%)

2頭/188個移植(約1%) 野生型(ダッチベルト) 黒い毛がキメラ

マウス同様『数をこなせば』プライム型もキメラになりうる(寄与率は低い)

ウサギ(プライム型) ナイーブ型への変換による幹細胞の質的改良

J.Biol.Chem.(2013)

プライム型のウサギiPS細胞をナイーブ型(様)細胞への変換に成功

プライム型ウサギiPS細胞は 胚盤胞に寄与しない

ナイーブ様ウサギiPS細胞は 胚盤胞に寄与する

ナイーブ様に変換すれば、 マウス胚盤胞にも寄与できる

ナイーブ型様に変換することにより、 体外での(神経系への)分化誘導能力が向上することも判明

プライム型のウサギiPS細胞

ナイーブ型化

ナイーブ型(様)に変換 したウサギiPS細胞

成熟オリゴデンドロサイトまで 出現するようになった

4.動物性集合胚技術(ヒト細胞+動物胚)の有用性

(マウス以外で)ドナー細胞として用いる多能性幹細胞種としては、 ヒト多能性幹細胞研究が圧倒的に樹立数も多く、その解析も進んでいる。

特に、体外での分化誘導や難治性疾患の解析などで期待されていることから、

その品質評価についても厳格な培養法・評価法が発達している。

キメラを作る際は、ドナー幹細胞の品質と ホスト胚の状態(組み合わせ)を検討する必要がある

体外での分化誘導でわかること、できること Cell Stem Cell (2012) 笹井先生の研究チーム(理研CDB) これまでの

多能性幹細胞 ↓ 分化細胞 という限界を越えて 多能性幹細胞 ↓ 分化細胞 ↓ 複雑な組織

ES細胞の「自己組織化」により 複雑な眼杯や立体網膜組織が 形成されていく様子を観察する ことができた。

眼杯

立体網膜構造

長期培養により、 視細胞(錯体細胞・桿体細胞)、 神経節細胞、介在神経細胞、 双極細胞前駆細胞など 複数の細胞から成る構造の 分化誘導が可能である

Stem Cell Research (2011)

サルES細胞をマウス初期胚へ注入した異種間キメラ胚

予想どおり、ほとんどキメラにならず

ではヒトのES細胞を動物の初期胚へ注入した異種間キメラ胚はどうか?

Developmental Dynamics (2002) Developmental Biology (2006)

ヒトES細胞をニワトリの初期胚へ 注入した異種間キメラ胚(イスラエル)

ヒトES細胞がニワトリ胚の中で 神経組織に分化している

ヒトES細胞をマウスの初期胚へ 注入した異種間キメラ胚(アメリカ))

8.5日マウス胚においてヒトES細胞が わずかではあるが寄与している

プライム型のヒトES細胞はやはりキメラとして寄与しにくい。 では、ナイーブ型への変換はどうか?

PNAS (2010) Nature (2013)

Oct3/4, Klf4の過剰発現および 培養環境の変換でナイーブ型の ヒトES細胞を樹立した

培養環境の変換だけで ナイーブ型への誘導を成し遂げている

マウス10.5日胚におけるキメラとしての寄与

コントロールには 見られない広範囲にわたる 神経褶のGFPのシグナル

ホストとなる動物胚についての考察

異種間でキメラを作製する場合、ドナーとなる幹細胞だけでなく ホストとなる動物胚についても考慮する必要がある

1.時間軸において発生のプログラムが異なるドナー細胞と胚は同調するのか? マウス(20日)とラット(23日)であれば異種間でも同調したが、 ヒト(280日)の細胞とマウス胚(20日)で同調するのだろうか?

2.キメラ動物の体内に臓器をまるごと作るような研究(補完法)を行うためには、 その臓器が発生しないような遺伝子欠損ホスト胚が必要になる。 (遺伝子欠損動物をどのようにして作製するか?)

高いキメラ率が確認されているマウスES細胞をウサギ胚に注入した場合

胚盤胞には 高効率で寄与

全体

拡大

14.5日胚 A

14.5日胚 B

抗GFP抗体による 免疫染色 拡大

質の高いマウスES細胞でも、ウサギ胚には若干しか寄与できない(未発表) →ホスト胚の種類・時期・方法などの検討が異種間キメラ動物作製に重要

多能性幹細胞だけでなく、ホストとなる胚についても 多岐にわたる解析が必要であろう

マウス以外の動物種における遺伝子破壊(ゲノム編集)

標的結合型ヌクレアーゼの注入

ZFN, TALEN, CRISPR/Cas9 といった多能性幹細胞を介さずとも 遺伝子破壊ができる技術が開発され、 世界的な競争が激化している。 ほ乳動物でもマウス・ラットでは成功している。

ブタなどでも成功例があり 我々もウサギでの遺伝子破壊に成功している

他動物種における遺伝子破壊の環境も整いつつある

(投稿準備中)

○ ウサギ遺伝子破壊技術

○ ナイーブ型にしたヒト多能性幹細胞

があれば・・・

ウサギの体の一部にヒトの組織を補完することも可能になるはず

造血系組織がヒトの細胞

(ウサギからヒトの血液)

器官まるごとがヒトの細胞

(薬理モデルなどへの展開)

遺伝子欠損技術とマウス型多能性幹細胞を組み合わせた研究例

ブタやサルをホストにすれば、臓器の大きさや体内環境がよりヒトに近い状態となる

まとめ ヒト(型)多能性幹細胞と動物胚でキメラを作製するためには・・

1.E-cadの過剰発現やナイーブ化により、 ドナー細胞を改変してキメラ率を高める

2.マウス以外の遺伝子破壊動物作成技術は環境が整いつつある

動物性集合胚の有用性

発生メカニズムの力を借りて、機能を有した臓器の大部分を作ることさえ可能である。 ただし、ドナー細胞がホスト胚に寄与するのか否か、寄与しない場合どうすれば 寄与するようになるのか、ヒトを含む様々な種での早急な検討が必要不可欠。

2.ドナーとして寄与させるES/iPS細胞の品質評価も重要 (染色体異常の検定や分化能など)

ホスト胚

ドナー幹細胞

1.ドナーとホスト胚発生の同調化に関する研究も必要