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動物性集合胚を用いた研究の 意義と倫理的課題: 発生生物・脳神経科学の視点
東北大学大学院医学系研究科
大隅典子
第96回特定胚等研究専門委員会161220
1
資料96-1
プロフィール 【学歴】
1984年:東京医科歯科大学歯学部卒 1988年:同大学院博士課程修了、同大学助手 1996年:国立精神・神経センター神経研究所室長 1998年:東北大学大学院医学系研究科教授 2011年:同附属創生応用医学研究センター脳神経科学コアセンター長 2015年:同附属創生応用医学研究センター長
【専門分野・著書等】
発生生物学、分子生物学、神経科学、科学コミュニケーション、研究倫理、『神経堤細胞』(共著、東大出版会)、『エッセンシャル発生生物学』(訳書、羊土社)『心を生み出す遺伝子』(訳書、岩波現代文庫)、『脳からみた自閉症 「障害」と「個性」のあいだ』(講談社ブルーバックス)
【関連研究費等】
東北大学脳科学GCOE拠点リーダー、CREST脳学習代表、新学術領域「個性」創発脳領域代表
【政府関係委員等】
第19期・第20期・第21期日本学術会議会員(第2部)、第3期・第4期科学技術基本計画専門委員、特定胚及びヒトES細胞研究専門委員会 人クローン胚研究利用作業部会委員、幹細胞・再生医学作業部会委員、脳科学委員会委員、筑波大学WPI-IIIS外部評価委員、東京大学先端研究所ボード会議座長等
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動物集合胚を用いた研究の意義
• ニワトリーウズラのキメラ胚(1960年代〜)
• 神経管交換移植
• 神経堤細胞の移動や分化の追跡
• 胸腺の起源の同定
• 種特有の鳴き声に関わる脳部位の同定
• 脳の性分化の仕組みの解明
ギリシア神話のキマイラ: ライオンの頭、山羊の体、毒蛇の尻尾を持つとされる。(画像はWikipediaより)
ニコル・ル=ドワラン博士
ウズラの組織をニワトリの胚に移植してできたキメラヒヨコ: 羽の黒い部分がウズラ由来。この技術が脳の研究にも生かされている。 (写真:絹谷政江/愛媛大学医学部)
https://www.brh.co.jp/seimeishi/journal/011/iv_1.html 3
動物集合胚を用いた研究の倫理的課題 • 動物脳にヒト細胞が混入した状況をどのように捉えるか?
4
動物性集合胚の取扱いに関する作業部会における調査・検討について(参考資料) 平成28年1月19日
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マウス脳への ヒト由来細胞の移植 • マウス脳へのヒト胎児前脳由来
グリア細胞移植
• ヒト由来グリア細胞の機能を知ることを目的
• 前脳由来細胞より未分化なグリア細胞を選択
• レンチウイルスベクターを用いたEGFP標識
• 免疫的寛容化マウス新生仔脳への移植
• 20ヶ月にわたる定着確認
Han et al.: Forebrain Engraftment by Human Glial Progenitor Cells Enhances Synaptic Plasticity and Learning in Adult Mice. Cell Stem Cell, 2013
6
• マウス脳へのヒト胎児前脳由来グリア細胞移植
• ヒト由来グリア細胞の機能を知ることを目的
• 前脳由来細胞より未分化なグリア細胞を選択
• レンチウイルスベクターを用いたEGFP標識
• 免疫的寛容化マウス新生仔脳への移植
• 20ヶ月にわたる定着確認
• 電気生理学的に神経機能向上の確認
• マウス行動テストによる記憶・学習向上の確認
マウス脳への ヒト由来細胞の移植
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• マウス脳へのヒトiPS細胞由来グリア細胞移植
• トランスレーショナルリサーチへの応用
• 神経病態モデルマウス脳への移植
• 症状改善の確認
• ヒトの疾患への応用を目指す
Goldman, Needargard, & Windreme: Modeling cognition and disease using human glial chimeric mice. Glia, 2015 Chen et al.: Humanized neuronal chimeric mouse brain
マウス脳への ヒト由来細胞の移植
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• マウス脳へのヒトiPS細胞由来神経前駆細胞移植
• 部位によってヒト由来神経細胞の定着率が異なる?
• 線条体においては高い寄与率
• 大脳皮質浅層では少ない
• GABA陽性の抑制性ニューロンの寄与率は低い
• ドナー細胞の中ではオリゴ前駆細胞への分化に貢献?
Chen et al.: Humanized neuronal chimeric mouse brain generated by neonatally engrafted human iPSC-derived primitive neural progenitor cells.JCI Insight, 2016
マウス脳への ヒト由来細胞の移植
関連研究の動向
9
• 初期胚培養技術の向上
• 培養条件の最適化により、母体由来の因子が無くても、胚盤胞(着床期後)までの培養可能
• ヒトES細胞、iPS細胞を用いて可能
• 初期発生のメカニズムに関する基礎研究
• 不妊治療法開発等への応用
Deglincerti et al. : Self-organization of the in vitro attached human embryo. Nature, 2016 Sharbazi et al., Self-organization of the human embryos in the absence of maternal tissues. Nature Cell Biol, 2016
関連研究の動向
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• 3D培養技術の向上
• ES細胞、iPS細胞を用いて、自己組織化による三次元的な網膜・大脳皮質構造の構築が可能
Eiraku et al. : Self-organizing optic-cup morphogenesis in three-dimensional culture. Nature, 2011
関連研究の動向
11
• 3D培養技術の向上
• ES細胞、iPS細胞を用いて、自己組織化による三次元的な網膜・大脳皮質構造の構築が可能
• 網膜疾患モデルマウス個体への移植
• ヒト網膜疾患の治療法開発を目指す
Assawachananont et al. Transplantation of embryonic and induced pluripotent stem cell-derived 3D retinal sheets into retinal degenerative mice.. Stem Cell Reports, 2014
12
動物集合胚を用いた研究
Wu et al.: Stem cells and interspecies chimaeras, Nature, 2016
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ヒト細胞混入動物集合胚の限界?
• ヒトとマウスの初期発生は案外似ていない
• ステージをマッチさせる必要がある
Wu et al.: Stem cells and interspecies chimaeras, Nature, 2016
ヒト細胞混入動物集合胚の限界?
• 胚盤胞等に移植されたヒト由来細胞はどの程度、発生可能か?
• 異なる種の細胞が共存した状態での発生は難しい?
• 発生期間、細胞数の差異
• マウスの着床:受精後4日程度、100個程度
• ヒトの着床:受精後5-6日程度、200〜300個の細胞
• ヒト細胞の寄与率が高いほど、その後の発生は難しい
14 http://www.riken.jp/pr/press/2009/20090501/
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ヒト細胞混入動物集合胚の限界?
• ヒトとマウスの初期発生は案外似ていない
• マウスの発生は卵黄嚢膜の中で行われる
http://www.riken.jp/pr/press/2009/20090501/
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ヒト細胞混入動物集合胚の限界?
• ヒトとマウスの初期発生は案外似ていない
• ヒトの発生は平板的 Wikipedia: Human embryogenesis
ヒトと動物の境界?
• チンパンジーとのゲノムの差異は約1.5%
• 認知機能の隔たりは大きい
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http://c-next.jp/index.html
ヒトとマウスの脳の差異
18 Obenheim, Goldman, & Needargard, Methods Mol Biol, 2012
アストロサイトの複雑さの違い
https://www.extremetech.com/extreme/154756-scientists-grow-a-mouse-brain-that-looks-like-a-humans
・大きさの違い ・神経細胞の数の違い ・神経突起の長さの違い (体のサイズの影響もあり)
・シナプス数の違い ・領域の発達具合の違い (大脳新皮質、とくに前頭葉)
ヒト細胞混入動物集合胚の限界?
• 移植されたヒト由来細胞は動物の体の中でどのように振る舞うのか?
• 免疫的に寛容なマウスを用いればかなりの期間、定着可能
• マウス脳内のヒト神経細胞集団は「ヒトとしての意識」を反映できるのか?
• ヒトの「意識」は生後5ヶ月程度から?
• ヒトとしての認知機能は、ヒトの身体に依存する?
19 Kouider et al.: A Neural Marker of Perceptual Consciousness in Infants. Science, 2013
まとめ
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• ヒトー動物交雑胚からの個体作製は不可能
• 動物種として隔たりが大きい
• 動物性集合胚としてヒトとマウスのハイブリッド脳を作製す
ることは困難
• 胚盤胞段階でヒト細胞を移植したとしても、その後の発生がうまくいく可能性は低い
• したがって、神経細胞がほぼヒト細胞に置換ったマウスを作製することは困難
• ヒト性集合胚を作製することも技術的に困難
• ヒトの受精卵に動物細胞を融合させたとして、その細胞が定着することは困難
• 動物脳にヒト細胞を移植することは可能
• トランスレーショナルリサーチレベルの研究として
• 動物性集合胚によりヒトの意識を有する個体を生み出すことは、
脳科学的に考えて不可能