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自分の考えを形成する児童生徒を育てる 説明的文章の学習指導法 -思考方法を位置付けた書きまとめる活動を通して- 福岡市教育センター 国語科研究室 平成 30 年度 研究報告書 (1049 ) G1-02 G1-03 小,中学校の学習指導要領解説国語編では,内容の改善の一つに「考え の形成」の重視が挙げられ,全ての領域の指導事項及び学習過程に位置付 けられた。 そこで,国語科研究室では,児童生徒の課題や教員の指導の実態から説 明的文章の学習を研究対象とし,「考えの形成」の指導法を明らかにする こととした。 学習の初めの感想(考え①)を,読解(考え②)を基にして,自分の既 有の知識や体験と結び付けて広がりや深まりのある考えの再構成(自分の 考え)までの過程を書きまとめる活動とし,その過程に,昨年度から研究 している思考方法を位置付け,実践を行った。具体的には,書きまとめる 活動を,考えをもつ場,さぐる場,つくる場の三つとし,活用する思考方 法の提示,ワークシートや振り返りシートの工夫などに取り組んだ。 その結果,児童生徒が,初めの感想より広げ深めた考えを書くことがで き,自分の考えを形成する姿を見ることができた。

自分の考えを形成する児童生徒を育てる 説明的文章の学習指 …自分の考えを形成する児童生徒を育てる 説明的文章の学習指導法 -思考方法を位置付けた書きまとめる活動を通して-

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Page 1: 自分の考えを形成する児童生徒を育てる 説明的文章の学習指 …自分の考えを形成する児童生徒を育てる 説明的文章の学習指導法 -思考方法を位置付けた書きまとめる活動を通して-

自分の考えを形成する児童生徒を育てる

説明的文章の学習指導法

-思考方法を位置付けた書きまとめる活動を通して-

福岡市教育センター

国語科研究室

平成 30 年度 研究報告書 (第 1049 号) G1-02

G1-03

小,中学校の学習指導要領解説国語編では,内容の改善の一つに「考え

の形成」の重視が挙げられ,全ての領域の指導事項及び学習過程に位置付

けられた。 そこで,国語科研究室では,児童生徒の課題や教員の指導の実態から説

明的文章の学習を研究対象とし,「考えの形成」の指導法を明らかにする

こととした。 学習の初めの感想(考え①)を,読解(考え②)を基にして,自分の既

有の知識や体験と結び付けて広がりや深まりのある考えの再構成(自分の

考え)までの過程を書きまとめる活動とし,その過程に,昨年度から研究

している思考方法を位置付け,実践を行った。具体的には,書きまとめる

活動を,考えをもつ場,さぐる場,つくる場の三つとし,活用する思考方

法の提示,ワークシートや振り返りシートの工夫などに取り組んだ。 その結果,児童生徒が,初めの感想より広げ深めた考えを書くことがで

き,自分の考えを形成する姿を見ることができた。

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国-1

出題の趣旨 (主に記述式)

正答率 (全国比)

無解答率 (全国比)

小学校 国語B

話し手の意図を捉

えながら聞き,自分

の意見と比べるな

どして考えをまと

める

35.6%

(+1.8)

6.8%

(-0.6)

小学校 国語B

目的や意図に応じ,

内容の中心を明確

にして詳しく書く

13.1%

(-0.4)

3.3%

(+0.6)

中学校 国語A

目的に応じて文の

成分の順序や照応,

構成を考えて適切

な文を書く

18.7%

(-3.6)

6.3%

(-0.2)

中学校 国語B

目的に応じて文章

を読み,内容を整理

して書く

14.8%

(+1.5)

6.4%

(-0.6)

表-1 平成 30 年度全国学力・学習状況調査

1 主題について

(1) 主題設定の理由

① 国の動向

小,中学校学習指導要領解説国語編(平成29年告示)では,国語科で育成を目指す資質・能力

を「国語で正確に理解し適切に表現する資質・能力」と規定するとともに,「知識及び技能」「思

考力,判断力,表現力等」「学びに向かう力,人間性等」の三つの柱で整理している。また,こ

のような資質・能力を育成するためには,児童生徒が「言葉による見方・考え方」を働かせるこ

とが必要であることを示している。中央教育審議会答申では,「より深く,理解したり表現した

りするためには,『情報を編集・操作する』,『新しい問いや仮説を立てるなど,既に持ってい

る考えの構造を転換する力』などの『考えを形成し深める力』を育成することが重要である」(平

成 28 年 12 月)と述べられている。さらに,「知識及び技能」「思考力,判断力,表現力等」の

各指導事項については,育成を目指す資質・能力が明確になるよう内容が改善され,その内容の

一つに,学習過程の明確化として,「考えの形成」の重視が挙げられている。しかも,全ての領

域において,「考えの形成」に関する指導事項が位置付けられ,自分の考えを形成する学習過程

が重視されている。これらは全て「予測が困難な時代」にあって,「新たな価値を生み出してい

く」児童生徒の育成に資する改訂に他ならない。

では,このような動向の中,福岡市児童生徒と教員の実態はどうだろうか。

② 福岡市の児童生徒の実態(平成 30 年度全国学力・学習状況調査の結果から)

平成30年度全国学力・学習状況調査

において,小学校では「話し手の意図 を捉えながら聞き,自分の意見と比べ るなどして考えをまとめる」の正答率

は,35.6%であるが「目的や意図に応 じ,内容の中心を明確にして詳しく書 く」の正答率は 13.1%である(表-1)。

これは,目的や意図が何であるか明確

に捉えられず,自分の考えも明確化さ

れていないのが原因ではないかと考え

る。

中学校においては「目的に応じて文 の成分の順序や照応,構成を考えて 適切な文を書く」の正答率は 18.7%,

「目的に応じて文章を読み,内容を整 理して書く」の正答率は 14.8%である。

これは,必要な情報を読み取り,得た

情報を整理して書く力は身に付いてい

るが,目的に応じて考えを適切に書く

にはどうすればよいかを考える力が十

分に身に付いていないからだと考える。

これらの結果から,本市の児童生徒

が自分の考えをもち,それを言語化し

て他者に筋道立てて書きまとめる力が

身に付いていないと考えられる。

表-2は,同調査における児童生徒

質問紙の質問項目57(小)54(中)の

回答結果を表している。これによると,

「学級の友達との間で話し合う活動を

通じて,自分の考えを深めたり,広げたりすることができていると思う」と回答した児童生徒は,

小学校74.5%,中学校77.4%となっている。児童生徒は,自分の考えを広げたり深めたりするこ

とができていると感じているが,表-1の結果を見ると,正答率の低さや無解答率の高さから,

児童生徒質問(小 57 中 54)

学級の友達との間で話し合う活動を通じて,自分の

考えを深めたり,広げたりすることができていると思

いますか。(肯定的な回答)

福岡市 全国比 無回答率

小学校 第 6 学年 74.5% -3.2% 0.1%

中学校 第 3 学年 77.4% +1.1% 0.1%

表-2 平成 30 年度全国学力・学習状況調査 児童生徒質問紙

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国-2

0.6

23

50

2021

53

26

00

10

20

30

40

50

60

よく行っている 行っている あまり行っていない 行っていない

広げたり深めたりした考えを書き表すことに課題があると考えられる。

③ 福岡市の教員の実態(平成30年7月実施 福岡市教員アンケート結果から)

上記の結果を基に,本研究室では,国語

科学習指導に関するアンケートを作成し,

本市小学校教員 133 人,中学校国語科教員

38 人を対象に実施した。

小・中共通の質問である「単元の最後に

文章全体に対する感想や書き手の主張に対

する考えを書いて友達と交流した後,自分

の考えを再構成して書きまとめる活動を行

っていますか」の肯定的な回答は,中学校

では 74%程度あるものの小学校では 23.6%

程度であった(表-3)。

以上の結果から,小学校では,自分の考

えを再構成して書きまとめる活動が十分行

われていると言えない。中学校では,7割

程度行われているものの,まだ十分に行わ

れているとは言いがたい。

④ 昨年度の本研究室の成果と課題

昨年度は主題を「創造的・論理的思考力を高める文学的文章の学習指導」として,「『問い』」

の追究活動における思考方法の活用」を副主題として研究を行った。

思考方法を「どのように考えるかを具体的に示した手法」と定義し,「比較」「分類」「関係

付け」「理由付け」「推論」「批判・評価」の六つに整理して児童生徒に意識させながら学習活

動を仕組むことで,読みを深めることを目指してきた。児童生徒に思考方法を意識させて「問い」

の追究活動を行わせたことで,読みに対する自らの学びを実感させるとともに,思考方法の有用

性についても感じさせることができた。

一方,思考方法の活用の仕方については課題が残った。発達段階によって思考方法の活用のさ

せ方が変わってくると考えられる。「深い学び」に向けて思考方法の精選や系統性を検証するこ

と,活用のさせ方の工夫が必要と言える。さらに,児童生徒が思考方法を活用して思考した内容

を教員がどのように見取っていくのかについても,課題が残った。

⑤ 先行研究

「考えの形成」に関しては,関西大学初等部の「思考スキルを用いた授業デザイン」(2018)

の研究において,「何をすれば考えたことになるのか」を示した思考方法の重要性が説明されて

いる。この中で角屋重樹は,国語科授業においては「思考のすべ」が言語における論理的思考を

支えているとし,国語科で身に付けさせたい「思考のすべ」を八つに整理している。これらを身

に付けることで,「根拠ある論理的思考による対象の構造理解」ができ,「自分の考えをまとめ

る」「自分の考えを広げたり深めたりする」などの拡散的思考,創造的思考が可能になるとして

いる。また,吉川芳則は,「国語嫌いな子どもが変わる授業づくりの原則」(国語教育 2018 年 9

月)において,中学校国語科の授業を例に挙げながら自分の考えをもつ時間と場が保障されてい

ないことについて言及し,自分の考えを書きまとめたり交流したりすることの重要性を説きなが

ら「自分の考えをもつこと」へ対応した授業づくりの原則について提案している。このように「考

えの形成」の場の保障や思考方法との関連性が大切であることが分かる。

以上の理由から,思考方法を位置付け「考えの形成」を図る国語科学習指導を追究することは,

本市児童生徒の課題である文章で表された情報を的確に理解する力や,学習の初めの感想や考えを

広げたり深めたりする自分の考えの形成に生かす力を身に付けさせることにつながり,ひいては,

「新たな価値を生み出していく」児童生徒の育成となることからも大変意義深いと考え,本主題を

設定した。

…小学校

…中学校

表-3 平成 30 年 福岡市教員アンケート結果

(%)

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国-3

(2) 主題及び副主題の意味

① 「自分の考え」とは

文章の内容あるいは表現形式について理解したことに対して「自分はどう思うか」である。な

お,内容とは筆者の挙げている事例,筆者の意見や考えとし,表現形式とは,筆者の論理,文章

構成や表現方法の工夫とする。

② 「自分の考えを形成する」とは

小,中学校学習指導要領解説国語編(平成29年告示)を基に,本研究における「自分の考えを

形成する」とは,文章の構造と内容の把握,精査・解釈を通した理解に基づき,「自分の既有の

知識や体験と結び付けて,小学校においては感想や考えをもち表現することであり,中学校にお

いては考えを広げたり深めたりして自分の意見をもち表現すること」と定義する。それは,単元

のまとめの段階だけで形成されるのではなく,第1次:学習の初めの感想(考え①),第2次:

読解(考え②),第3次:考えの再構成(自分の考え)と考えを積み上げていく過程で形成され

ると考える。

③ 「思考方法」とは

どのように考えるのかを具体的にしたものであり,先行研究を見てみると,「思考スキル」(関

西大学初等部),「思考のすべ」(角屋重樹 他),「考えるすべ」(新潟大学教育学部附属新潟

小学校)等,様々な思考方法がある。本研究室では,先行研究を踏まえ「比較」「分類」「関連

付け」「推論」「評価・批判」に整理した(資料-1)。

資料-1 本研究における思考方法

思考方法 具体的な内容

比較 複数の対象の共通点や相違点を明らかにすること

分類 複数の対象を共通点や相違点を観点にしてグループ分けすること

関連付け 自分の既有の体験や知識と結び付け,意味付けること

推論 知識や経験を基に,「知らない・分からない」などの対象について,筋道立てて推し量ること

評価・批判 対象の価値,妥当性等について吟味・検討すること

④ 「思考方法を位置付けた書きまとめる活動」とは

「思考方法を位置付け」るとは,思考方法を提示したり価値付けたりして,学習過程において

適宜思考方法を取り入れることである。

「書きまとめる活動」とは,学習の初めの感想を,読解を基にして,自分の既有の知識や体験

と結び付けて広がりや深まりのある考えの再構成までの過程のことである。その過程に思考方法

を位置付け,第1次(考えをもつ場)第2次(考えをさぐる場)第3次(考えをつくる場)と展

開する。

2 研究の目標

思考方法を位置付けた書きまとめる活動を通して,自分の考えを形成する児童生徒を育てる説明的

文章の学習指導法の在り方を明らかにする。

3 研究の仮説

説明的文章の学習指導において,学習の初めの感想(考え①),読解(考え②),考えの再構成(自

分の考え)と,考えを積み上げていくとともに,思考方法を提示したり価値付けたりして書きまとめ

る活動に位置付ければ,自分の考えを形成する児童生徒を育てることができるであろう。

4 研究の構想

(1) 内容

検証単元で身に付けさせたい力を基に,思考方法を位置付けた書きまとめる活動を学習過程とし

た授業実践を行い,自分の考えを形成する児童生徒の育成を目指す。

本研究では,目指す児童生徒の姿について,小,中学校学習指導要領解説国語編(平成29年告示)

を基に以下のように捉える。

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国-4

〇 感想をもち表現する。(小学校低学年)

〇 感想や考えをもち表現する。(小学校中学年)

〇 自分の考えをまとめ表現する。(小学校高学年)

〇 自分の考えを広げたり深めたりして,自分の意見をもち表現する。(中学校) (2) 手だて

① 第1次(考えをもつ場)

学習課題に対する考え①をもたせる。

○ 初読後,感想や疑問を整理させる。

○ 書く視点を提示する。

〇 本単元で活用する思考方法を提示する。

○ 振り返りシート(学びシート)を用いて学習計画を立てさせる。

② 第2次(考えをさぐる場)

文章の構造と内容を捉え,精査・解釈することを通して理解した考え②をもたせる。

○ 読み確かめたことを整理するための交流を工夫する。(交流ボード,付箋,インタビュー形式

の対話,具体物や資料の提示)

○ 毎時間の学びを1枚にまとめた振り返りシート(学びシート)の工夫(自己評価・教員の評価)

をする。

③ 第3次(考えをつくる場)

第2次に基づいて,考えを再構成させる。

○ 学習の足跡(読み確かめたこと)を掲示する。

○ モデル文を提示する。

○ 交流の工夫をする。(付箋,交流ボード,ワークシート)

〇 振り返りシート(学びシート)の活用をする。

(3) 学習過程

本研究においては,単元の学習過程を次の三つの段階に設定する。

① 第1次は,学習の初めの感想(考え①)を書く。

② 第2次は,読解(考え②)を書く。

③ 第3次は,第2次に基づいて,再構成した自分の考えを書く。 (4) 研究の検証

① 検証内容

学習過程に思考方法を

位置付けた書きまとめる

活動は,「考えの形成」

に有効であったか。

② 検証方法

次の検証資料の分析を

行い,「考えの形成」を

検証する。

○ 児童生徒の発言,授

業中の様相観察

○ 付箋,交流ボード,

ワークシートの記述

○ 振り返りシート

(学びシート)の記述

図-1 研究構想図

5 研究構想図

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国-5

6 研究の実際と考察 (1) 小学校2学年の実践

読んで考えたことを話そう「どうぶつ園のじゅうい」

① 単元で目指す姿

獣医の仕事について,叙述の大事な言葉や 文に着目しながら読み進め,読んで理解した ことや自分の知識や経験を関連付けながら, 獣医に対して思ったことや考えたことを書き まとめることができる(図-2)。

② 学習過程

第1次では,題名を読んで,内容を想像さ

せたり,動物園や獣医の仕事について知っていることを話したりし,単元の目的を確認する。次

に,「どうぶつ園のじゅうい」の全文を読み,獣医の仕事について初めて知ったことや疑問など

を基に,考え①をもたせる。その後,考え①を交流し,学習計画を立てる。

第2次では,獣医の一日の仕事を朝,見回りが終わる頃,昼前,昼過ぎ,夕方,一日の仕事の

終わり・動物園を出る前という六つに分け,そこで行っている獣医の仕事から,獣医の優しさを

探り,読み深めていく。その時間で読み確かめたことから獣医の仕事の大変さややりがいなどに

も気付かせ,毎時間ごと獣医に対しての感想(考え②)を書かせていく。

第3次では,第2次で読み確かめてきたことや自分の経験を基に,獣医に対しての自分の考え

を書きまとめさせる。単元のはじめに書いた感想を見比べさせ,学びの深まりを感じさせる。

③ 指導の実際

ア 考えをもつ場~分類~

題名から動物園や獣医の仕事について知っていることを話させ,「どうぶつ園のじゅうい」

の話を読んで思ったことや考えたことをまとめて交流をするという単元の目的を確認させた。

次に,「どうぶつ園のじゅうい」の全文を読み,獣医の仕事について初めて知ったことや疑問

などを基に考え①を書かせた。

感想を交流し,「分類」の思考方法を使い,「すごい」「大変」「優しい」など獣医に対し

ての感じ方の違いに気付かせる。獣医のしていることが,動物を元気に暮らせるようにするこ

とであるということから,獣医には,動物への優しさがあることを確認し,その獣医の優しさ

について読み確かめていくという学習計画を立てさせた(資料-2)。

イ 考えをさぐる場~「比較」「関連付け」~

学習計画を基に,朝,見回りが終わるころ,昼前,昼過ぎ,夕方,一日の仕事の終わり・動

物園を出る前という六つの場面の獣医の仕事から,獣医の優しさがどこに表れているかを探り,

読み確かめさせていった。獣医のしていることの叙述に着目させ,どうしてそれが優しさと言

えるのかを考えさせ,各段落での獣医の優しさを考え②としてまとめさせた。どこに優しさを

感じるかを話し合わせる際は,インタビュー形式で質問をさせ合い,自分の考えを叙述とつな

資料-2 考え①をもたせ,学習計画を立てる過程

図-2 本単元で目指す「考えの形成」

考え①の交流 学習計画を立てる 考え①をもたせる

・獣医さんの一日の仕事か

ら獣医さんの優しさを見

付けよう。

・一日ずっと治療をしてすごいな。 ・たくさんの仕事をしていて大変だ

な。 ・動物を元気にさせようと思う獣医

さんは優しいな。

〔書くときの視点〕 ・初めて知ったこと ・おどろいたこと

・動物たちを元気にくらせるよ

うにするために仕事をする

獣医さんには,優しさがあ

る。

出し合った感想

を「分類」する

学習計画を基に読み確かめる

すごい

たいへん

やさしい

考え① 獣医につい て,初めて知 ったこと

考え② 獣医の優

しさにつ

いて

自分の考え ・読み確かめた獣医

の優しさ ・自分の経験 ・獣医について

思考方法 比較,分類,関連付け

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国-6

ぎながら述べさせていった。「比較」の思考方法を活用させ,獣医のしていることに対して「~

ではだめなのか」という視点での質問も行わせた。にほんざるに何度も工夫をしながら薬を飲

ませようとする獣医のしていることを,「無理やり飲ませては,だめなのか」という視点で考

えたことで,動物の気持ちを大切にし,諦めないで丁寧に治療をする獣医の優しさに気付く姿

が見られた。また,「関連付け」の思考方法も活用させ,「自分が小さいときに苦い薬を飲む

ときに,お母さんが甘いシロップを混ぜて飲ませてくれた」と自分の経験とつなぎながら考え

させ,獣医が人と同じように,動物と接して治療していることにも気付かせることができた(資

料-3)。

ウ 考えをつくる場~関連付け~

第2次で読み確かめた獣医の優しさについて確認し,改めて獣医に対して自分がどんなこと

を思ったかを感想に書きまとめさせた。「関連付け」の思考方法を活用させ,第2次で読み確

かめてきた獣医の優しさを自分の経験とつなぎながら考え,「動物のことをとても大切に思っ

ている。いろんな動物にたくさんの優しさをもっている」などの感想を書きまとめることがで

きた。また,単元のはじめに書いた感想を見比べさせ,初めは気付かなかった獣医の優しさに

気付いたことで,学びの深まりを感じさせることができた(資料-4)。

④ 考察

○ 第2次で読み確かめた獣医の優しさを学びシートに書きためたことで,獣医が動物への治療

を諦めないなどの優しさが含まれていることで,それを参考にできた。考え①では「優しい」

だけであったのが,第3次では,「動物を安心させようとする優しさがあった」など,具体的

な言葉となって書くことができた。

○ 思考方法「比較」「関連付け」を意識した展開は,叙述を根拠としながら自分の言葉で説明

することを必要とするため,獣医の動物への思いを考える際の有効な手だてとなった。

● 「比較」「関連付け」は,児童が交流の中で活用することができたが,「分類」は,教師主

導で行っていたので,児童の交流の中に位置付けていくと今後の学習でも活用を図ることがで

きるのではないかと考える。

資料-3 教材を読みながら考え②をさぐる過程

わたしは,獣医さんには,動物のちりょうをあきらめないでする優しさがあることが分かりました。

それは,にほんざるに薬を三回も工夫しながら飲ませていたことから分かり,最後は,はちみつに

混ぜてまで薬を飲ませて元気にさせているなんてすごいと思いました。叙述とつないだ優しさの具体化 わたしも,小さいころに苦い薬をゼリーに混ぜて飲ませてもらった経験があります。獣医さんがして

いることは,同じだなと感じました。 自分の経験との関連付け わたしは,この「どうぶつ園のじゅうい」を学習して,獣医さんって,動物のことを考えて,人間

と同じように治療をしているんだなと思いました。 獣医に対して改めて思ったこと

資料-4 再構成し,自分の考えをつくる過程

読み確かめ① 読み確かめ② 読み確かめ③ 読み確かめ④ 読み確かめ⑤ 読み確かめ⑥

動 物 た ち

と 気 持 ち

を つ な ぐ

優 し さ が

ある。

動物を安心さ

せる優しさや

命を大切にす

る優しさがあ

る。

諦めないで治療

する優しさや動

物のことを知っ

て治療する優し

さがある。

少しでも痛く

ないように治

療する優しさ

がある。

命を助ける

ために早く

手当てをす

る優しさが

ある。

よりよい治療を

する優しさや周

りの人のことを

考える優しさが

ある。

獣医の優しさについて読み確かめる(考え②)

見 回 り の

仕事から

いのししの

治療から

ペンギンの

治療から

にほんざる

の治療から

日記やお風呂に

入る仕事から

ワラビーの

治療から

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国-7

(2) 小学校4学年の実践

段落どうしの関係をとらえ,説明のしかたについて考えよう「アップとルーズで伝える」 ① 単元で目指す姿

写真と叙述を対応させて,説明的文章に興

味をもって読み,写真と対応した叙述を観点

に沿って,それぞれの段落が全体の中でどの

ような役割を果たしているかを考えながら説

明する方法を理解することができる(図-3)。 ② 学習過程

第1次では,既習経験と例示資料を基に写 真を使って伝えるよさや伝え方の工夫につい て考え①をもち,二つの資料を比較して読み 確かめ,伝え方の工夫について考えを書きま とめていくという目的を確認する。

第2次では,アップの写真で分かることと,ルーズの写真で分かることを付箋に書かせること で,一人一人の考えの違いに気付かせる。さらに,読み確かめた説明の工夫を付箋に書き出し交

流をして分類し,説明の工夫のよさについての評価を基に考え②を書かせる。 第3次では,対比的に書かれている文章構成の特質について記述し,第2次で読解した書き込

みを基に,筆者の説明の仕方の工夫について自分の考えを書きまとめさせる。また,単元の終末 に書きまとめた感想を見比べることで,学びの深まりを感じさせる。

③ 指導の実際

ア 考えをもつ場~比較,分類~

既習経験と例示資料から「写真を使って伝えることのよさや伝え方にどんな工夫があるか」 という疑問を基に考えをもたせた。二つの資料を比較して読み,伝え方の工夫について読み確 めたことについて考えを書きまとめていくという単元の目的をもたせた。

まず,全文を読み通して文章全体の構成を捉えさせ,疑問も含めた初めの感想をもたせた。

次に,既習から,筆者の考えが「終わり」に書いてあることに気付かせ,筆者の伝えたいこ とと,説明の仕方について考え①を書かせた。

感想を付箋に書き出し,視覚化を図ることで,A「アップとルーズのちがい」B「違いを使

って伝えたいこと」C「説明の仕方の工夫」という三つに課題として「分類」することができ

た。そこで,「比較」の思考方法を使って課題解決のために読み確かめていくという学習計画

を立てさせた(資料-5)。

感想・問いの交流 考え①をもつ

説明の仕方 にどんな工 夫をしてい るのかな。

学習計画を基に読み確かめる

初めて読んだ

感想や疑問に

ついて付箋を

使って,比較や

分類をしてみ

よう。

初めの感想をもつ

アップとルーズの違いがあることは分か

りました。どうして7段落では新聞記事

のことが書かれているのかなと思いまし

た。アップとルーズの違いと,筆者が伝

えたいことは何か関係があるのかな。

図-3 本単元で目指す「考えの形成」

全文を読んで みると,二つの ことが写真を 使って比べて 書いてある。

資料-5 考え①をもたせ,学習計画を立てる過程

単元名と

リード文

から目的

をもたせ

る際に既

習を想起

させる。

「学びシート」を

用いて課題を解決

するために思考方

法を使って読み確

かめていくという

学習計画を立てさ

せる。

考え① 二つの 資料を 使い説 明する よさに ついて

考え② 二つの 違いを 使って 何を伝 えるの か。

自分の考え 受け手のことを考えて,

手法を変える情報を伝え るための送り手の工夫が ある。二つのものを比較 しながら目的に合わせて 説明をする方法がある。

思考方法 比較,分類,関連付け

Page 9: 自分の考えを形成する児童生徒を育てる 説明的文章の学習指 …自分の考えを形成する児童生徒を育てる 説明的文章の学習指導法 -思考方法を位置付けた書きまとめる活動を通して-

国-8

資料-14 「問い」を解決する場

資料-6 教材を読みながら自分の考え②をさぐる過程

イ 考えをさぐる場~比較・関連付け~ 学習計画を基にA「アップとルーズの違い」B「違いを使って伝えたいこと」という二つの

問いを読み確かめていくことで考えを深めさせた。それぞれの段落では,叙述と写真を「関連

付け」ながら,説明の仕方の工夫について考えることができるワークシートの工夫をし,アッ

プとルーズの写真で分かることをそれぞれ付箋に書かせ交流させた。一人一人の考えを「比較」

させることで,叙述と写真をつないだ。そして,テレビでも新聞でもアップとルーズでは伝え

られることと伝えられないことがあり,送り手が一番伝えたい目的をもつことが大切であると

いう読解の内容を考え②としてまとめた(資料-6)。

ウ 考えをつくる場~関連付け~

C「説明の仕方の工夫」についてそれぞれの段落の役割を考えさせる交流を位置付けた。学

びシートを用いて,考え①と考え②を基にこれまでの自分の説明の仕方について「関連付け」

ることで,学びの深まりを感じさせ,自分の考えを書かせた(資料-7)。

④ 考察

○ 学びシートを,単元を見通せるワークシートとして工夫することで,児童が,考え①から連続

性をもって考えを深めていることが可視化され,主体的に振り返りながら自分の考えをつくる

ことができたと考える。

○ 児童に,思考方法「比較」「分類」を意識させて展開をすることで,読解するために段落相

互の関係に着目しながら,理由や事例との関係,説明の仕方の工夫について叙述を基に捉える

姿が見られた。

● なぜそれがよいかという「評価・批判」する思考方法を活動後に位置付けることで,考えた

ことを書きまとめていくために,自分の考えをよりよく再構成させることができると考える。

自分の考えをつくる 問いCの解決

段落同士の関係を確かめると「アップ」と「ルーズ」 の違いを基に二つを比べて分かりやすい説明の仕方 の工夫がある。

筆者の伝えたいことについて読み確かめる 違いについて読み確かめる

第7段落では,実際の新聞記事

の写真を用いてアップとルー

ズの違いを読み確かめると,テ

レビでも新聞でもアップとル

ーズの伝えられることと伝え

られないことは同じだ。

それぞれの写真で送り手が一番伝 えたいことは何かが大切である。伝 えたいことがあるからアップとル ーズを使い分けながら受け手のた めに伝え方を変えていることが分 かる。

アップで分かることとルーズで分か

ることは違っている。細かいことを

伝えるにはアップ,全体的な様子や

周りの様子までを伝えるときにはル

ーズがよい。どちらも伝えられるこ

とと伝えられないことがある。

資料-7 再構成し,自分の考えをつくる過程

筆者の伝えたいこ

とと,説明の仕方

の工夫について,

考えを書き,交流

をさせる。

書きまとめた考えを読み合い

次単元の計画を立てる

私は,学習をして,情報を伝える

ことについて,送り手は,伝えたい

ことや見る人のことを考えて伝え

る方法を工夫していることが分か

りました。写真を二つの方法で伝え

ることが説明の工夫だとは思いま

せんでした。伝えたいことに合わせ

て伝え方を工夫することが大切だ

ということが分かりました。私も工

夫を使ってみたいです。

アップとルーズの説

明についての要点を

基に,それらを比べ,

段落相互の関係をと

らえながら読み確か

める。

段落ごとに説明の仕方の

工夫や関係をとらえさ

せ,そのように考えたわ

けを話し合わせ,互いの

読みの違いを考えさせ

る。

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国-9

(3) 小学校5学年の実践

事例と意見の関係をおさえて,自分の考えをまとめよう「想像力のスイッチを入れよう」

① 単元で目指す姿 事例と意見の関係を整理し,自分の知識や経

験と比べながら読み進めることで,筆者の考え に対する自分の考えや,これからのメディアと との関わり方についての自分の考えをもつこと ができる(図-4)。

② 学習過程 第1次では,単元名とリード文から「メディ

アとの関わり方」について自分の知識や経験などと関連付けながら読み,考えをまとめていくと

いう単元の構えをもたせる。次に,全文を読み,共感したことや疑問に思ったことを基に,初め

の感想(考え①)をもたせる。そして,考え①を交流し,学習計画を立てる。 第2次では,「想像力のスイッチ」という言葉に着目させ,事例と筆者の意見とを整理し,筆

者の考えを捉えさせる。事例を基に,「想像力のスイッチを入れる」とは,どういうことなのか

具体的に読み取らせ,筆者の考えるメディアとの関わり方について正しくつかめるようにする。

そして,筆者の考えに対し,考え②を書かせる。 第3次では,第2次までに考えてきた内容を基に,「メディアとの関わり方」について自分の

考えをまとめさせる。まとめた自分の考えを考え①と比べさせたり,友達と交流させたりするこ

とで,「メディアとの関わり方」についての自分の感じ方や考え方を広げたり深めたりさせる。 ③ 指導の実際

ア 考えをもつ場~比較,分類,関連付け~ 初めに,単元名とリード文から,「メディアとの関わり方」について自分の知識や経験と関

連付けながら読み,考えをまとめていくことを確認した。次に,「比較」「関連付け」の思考

方法を使って全文を読み,共感したことや疑問に思ったことを基に,考え①を書かせた。最後に,

それを「分類」し,学習計画を立てた(資料-8)。 資料-8 考え①をもたせ,学習計画を立てる過程

イ 考えをさぐる場~比較,関連付け,推論~

初めに,文章構成を捉え,事例と筆者の意見を整理した。三つの事例それぞれから,どんな

意見が導き出されているか表に整理し,筆者の主張を捉えさせた。 次に,「比喩」を使って表されている筆者の主張について考えさせた。「想像力のスイッチ

を入れる」とはどういうことか,教科書の事例を基に考え,具体的に捉えさせた。 そして,筆者の主張に対し自分の考えをもつために,他の資料を用いて「想像力のスイッチ」

児童の知識や経験

を想起させ,単元名

と題名から読む目

的をもたせる。

学習計画を基に読み確かめる

・天気予報を見て行動するよ。

とても便利だよ。 ・「○○を食べたら健康にな

る」とか,「逆に,病気に

なる」とか,聞いたことが

あるよ。関係なかったみた

いだよ。

・メディアは,少しでも早く,分かりやすく伝

えようと工夫するときに思い込みにつながる

表現になると知った。情報を聞くほど「想像

力のスイッチ」が入り事実が分かるので落ち

着いて考えるという筆者の意見に共感する。 ・「想像力のスイッチ」とは,何だろう。

どういうことだろう。

・筆者の述べる「想

像力のスイッチ

を入れる」とは,

どういうことな

のか。 1 教科書の事例 2 他の資料

〔書くときの視点〕主張内容,共感,疑問

・自分もこんな経験がある。 ・その考え方は,よく分かる。 ・〇〇とは,どういう意味だろう。 ・なぜ,○○しないといけないのか。

出し合った感

想を「分類」し,

学習計画につ

なげる。

共感することはない

か,疑問に思うことは

ないか,気を付けなが

ら,全文を読ませる。

メディアについての知識や経験を出す 考え①をもち,交流する

学習計画を立てる

図-4 本単元で目指す「考えの形成」

考え① ・主張 ・感想 ・共感 ・疑問

考え② 「想像力のスイ

ッチ」を入れる

とはどういうこ

とか。

自分の考え ・主張の具体化 ・経験と結び付

けた感想 ・今後について

思考方法 比較,分類,関連付け,推論,評価・批判

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国-10

を入れるとはどういうことか考えさせた。自分の知識や経験と「関連付け」たり,「推論」し

たりしながら,「想像力のスイッチ」を入れない場合と「想像力のスイッチ」を入れた場合の

見方を想像させた。入れない場合と入れた場合を「比較」させることで,筆者が述べる「想像

力のスイッチ」の必要性について考えを広げたり深めたりすることができた(資料-9)。 資料-9 教材を読みながら考え②をさぐる過程

ウ 考えをつくる場~関連付け,評価・批判~ これまで考えてきたことを基に,「メディアとの関わり方」について筆者の主張に対し「評

価・批判」させたり自分の知識や経験と「関連付け」をさせたりした。自分の考えを書かせる

際には,初読で与えた観点と同じものを提示し,書く際の観点を確認した。学びシートを使い

考え①と自分の考えを比較させることで,自分の考えの広がりや深まりに気付かせることがで

きた(資料-10)。 資料-10 再構成し,自分の考えをつくる過程

④ 考察 ○ 考えの形成において,教科書の事例,他の資料を取り上げることで,筆者の主張をより,身

近なものとして捉え,全ての児童が自分なりの考えを学びシートに書くことができた。 ○ 比喩を使って表された筆者の主張を捉えさせるために,思考方法の「関連付け」「推論」を

意識させたことは,抽象的な考えを具体的な考えにでき,児童の理解を深めることにつながっ

た。 ● 児童から出された意見を整理する際,根拠となる叙述とつなぐことで,より論理的な思考に

つながったのではないかと考える。

自分の考えを書きまとめる。

〔メディアとの関わり方について〕 筆者は,メディアが与えた情報をそのまま信じるのではなく,自分で考えて判断してほし

いと言っていて,私も共感した。 私は,以前,ニュースや広告を全てそのまま受け止めていた。実際,広告ほど安くなかっ

たという経験もある。「想像力のスイッチ」を入れてみると,入れていない時より,考えが

広がったり,深まったりできてよいと思う。ただ,全て疑うのではなく,相手の心も考えて

判断することが大事だと思った。~中略~ これからメディアと関わる時は,全て事実と捉えるのではなく,冷静に考え,疑問をもち

ながら,自分で視野を広げ考えていきたい。

自分の考えを書く 交流する

書きまとめた

ものを交流さ

せることで,

メディアとの

関わり方につ

いての考えの

深まりを感じ

させる。

四つの想像力のスイッチを確認する。

1 事実かな・印象かな。 2 他の見方もないかな。

3 何がかくれているかな。4 まだ分からないよね。 「想像力のスイッチ」を入れない場合と,入れた

場合の見方を具体的に考えさせる。

自分の知識や経験とつないで考える

ことができるような資料を提示する。

四つの「想像力のスイッチ」を入れ

ない場合と,入れた場合の見方につ

いて,具体的に考えさせる。

主張を具体化している。

自分の経験と,筆者の主張を結び付けている。

学習を経て,これからのことを考えている。

教科書の事例を基に考え②をもつ 他の資料を基に考え②をもつ

「想像力のスイッチ」を入れないと,メディ

アからの情報を本当だと思いこんでしまう。

「想像力のスイッチ」を入れると,入れない

時よりも考えの幅が広がり,思い込みがなく

なる。様々な意見を聞いて自分で考え,判断

することが大切だと思う。

「想像力のスイッチ」を入れなかったら,文に書いてあ

ることをそのまま信じてしまい,偏ったものの見方しか

できなくなる。「想像力のスイッチ」を入れると,考え

る幅が広がったり,色々な見方ができたりすると思っ

た。筆者は,情報を受け取る際は,自分で考え,判断す

ることが大事だと言いたいのだろう。

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国-11

(4) 小学校第5学年の指導の実践

伝記を読んで,自分の生き方について考えよう「百年後のふるさとを守る」

① 単元で目指す姿

伝記に書かれた人物について,自分の知識

や経験と関連付けながら読み進めるとともに,

読んで理解したことに対する自分の考えを書

きまとめることができる(図-5)。

② 学習過程

第1次では,「伝記」というジャンルにつ いて説明し,この単元の学習を通して自分の 生き方について考えるという構えをもたせる。次に前書きから,この文章で筆者が何を伝えたい

のかを考えていくという読む目的をもたせ,儀兵衛の偉大なところについて自分の生き方を関連

させながら読み,考え①を書かせる。その後,考え①を交流し,学習計画を立てる。

第2次では,学習計画でまとまった儀兵衛の偉大なところを付箋にまとめさせる。その後,付箋を分類しながら交流して内容の理解につなげ,考え②を書かせる。

第3次では,それまでの学習を基に自分の考えを書かせる。そして単元の最初に書いた考え①と学習後の自分の考えを比較させ,交流後に自己評価させる。自己評価では,「付加」「修正」「強化」の視点で評価させることで自分の考えの広がりや深まりを感じさせる。

③ 指導の実際

ア 考えをもつ場~関連付け,分類~

前書きから,筆者が伝えたいことは何かを考えながら読むという構えをもたせた後,全文を

読み,考えを書く視点を基に,思考方法「関連付け」を用いて考え①として感想を書かせる。

初めの感想(考え①)を書いた後に交流し,「分類」させることで,学習計画を立てていく。

児童は儀兵衛の偉大なところとして,A「儀兵衛のしたことと考え方」 B「儀兵衛の思い」

C「物質的援助以外の業績」という三つの視点で考えをつくっていた。そこで,「お金を出せ

ば偉大な人物として筆者が書きたいと思うのか」「堤防を造ったことが偉大なのか」と問い返

すことで,読み確かめていく必要感をもたせ,三つの視点を読み確かめる学習計画を立てた(資

料-11)。

イ 考えをさぐる場~分類,関連付け~

学習計画を基に,三つの視点で読み確かめを行った。それぞれの段階では,考えと根拠とな

る叙述を「関連付け」ながら付箋に書かせ,それを用いてグループ交流を行った。交流では付

箋を「分類」して考え②を整理させていった。整理した考え②には小見出しを付けさせ,全体

交流では似ている考えと違う考えの立場を意識させた。毎時間の最後には,その日の学習で深

まった考えや付け加わった考えなどを学びシートに書かせた(資料-12)。

図-5 本単元で目指す「考えの形成」

学習計画を基に読み確かめる

自分と「関連付

け」て考え①を

もたせる。

考え①を出し合い

「分類」し,学習計

画につなげる。

〔書くときの視点〕 ・新しく知った ・こうなりたい ・考えが変わった ・初めて考えてみた ・このようにしたい ・考えが深まった ・こんなことはしない

資料-11 考え①をもたせ学習計画を立てる過程

考え①をもたせる

考え①を基に,交流する

「百年後のふるさとを守る」を読んで,被災した人たちのことを他人

事ではないんだなと初めて思いました。私は儀兵衛さんのように,お

金を出すことはあまりしたくないけど,ボランティアなどで被災した

人たちの力に少しでもなれたらいいと思いました。

学習計画を立てる

A 儀兵衛のしたことと考え方 B 儀兵衛の思い C 物質的援助以外の業績

思考方法 比較,分類,関連付け,推論,評価・批判

考え①

浜口儀兵衛

についての

初めの感想

考え② 儀兵衛の

偉大なとこ

自分の考え

読み確かめ

たことを基

にした自分

の考え

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国-12

ウ 考えをつくる場~関連付け,評価・批判~

三つの視点で読み確かめた後,改めて単元の初

めに書いた考え①と同じ視点で考えを書きまとめ

させた。毎時間の振り返りを一枚の学びシートに

書かせ,考え①からどんな内容を学習し,最終的

な自分の考えになったのかが一目で分かるように

した(資料-13)。また,最後の自分の考えを書

く際は,考え①をもう一度読み返し,学習内容を

振り返りながら書くように指示した。さらに,考

えを書く際にモデル文を提示することにより,自

分と「関連付け」て考えを書くとはどういうこと

なのかを具体的にイメージができるようにした。

それにより,儀兵衛の行動や思いなど読み取った内容を自分の体験に重ねて考えを書いている

児童が増えた(資料-14)。最終的な自分の考えを書いた後に考え①と比較し,考えが付け加

わった(付加),考えが変わった(変化),考えがより深まった(強化)のか自己評価させた

ことにより,自分の考えを再構成し書きまとめる活動について,有用性を感じさせることがで

きた。

④ 考察

○ 考え①と毎時間の考え②,最終的な自分の考えを一枚の学びシートに記述させたことで,最

後の自分の考えを書く際に,それまでの学習内容を振り返りながら書くことができていた。ま

た,学習を通して自分の考えがどう深まったのか評価する際にも比較しやすかった。

○ 最終的に自分の考えを「評価」する際には,「付加」「変化」「強化」の視点を与えたこと

で,全員が自分の考えの変容について自己評価することができた。

● 評価する際に個人内評価で終わっていたが,友達と読み合うなどして相互評価も取り入れる

ことによって,さらに学びの深まりや考えの変容について理解できたのではないかと思われる。

三つの視点を基に考えと根拠の 文を付箋に書きまとめる。

偉大なのは,家族や店があるの

にふるさとや村人を優先した

ところだ。何よりも村や村人た

ちのことを優先したのがすご

いと思った。

資料-13 学びシート

班で交流し,

分類する。 班で交流したことを全体交流し,

読み確かめる。

視点Aの読み確かめ

視点Bの読み確かめ 視点Cの読み確かめ

百年後にも安心して過ごせるよ

うにと,未来のために4年とい

う長い時間をかけて堤防を造っ

たことは素晴らしい。諦めず熱

心に作ったことが偉大だ。

村や村人を思う気持ちがよく

分かった。さらに,村人だけ

ではなく,店の人たちの心も

動かして,店の最高の生産高

を上げたのがすごい。

資料-12 教材を読みながら考え②をさぐる過程

偉大なところは,お金を出したことや堤防を造ったこともあるけれど特に心に残ったのは,「物質的

な援助以外」で儀兵衛さんの村人たちを思う気持ちがすごいなと思いました。私は意見や気持ちをもっ

ても行動で表せないことがあります。でも儀兵衛さんはお金を出したり,堤防を造ったりして気持ちや

思いを行動で表していました。 ~中略~ 言ったことや気持ちはちゃんと責任を取り,それを相手に

分かってもらえるように行動に表していきたいです。

読み取ったことと,自分の生活をつないで考えをつくっている。

行動だけでなく,その背景にある思いを考えることができている。

資料-14 再構成し,自分の考えをつくる過程

考え①

自分の考え

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国-13

(5) 中学校第3学年の実践

文章を読んで考えを広げたり,深めたりして,人間,社会,自然などについて,自分の意見をもとう 「作られた『物語』を超えて」

① 単元で目指す姿 人間,社会,自然などについて,構築された

自己の新たな考えを体験と関連付けて具体的か

つ明確に書きまとめることができる(図-6)。

② 学習過程

第1次では,序論と本論の関係から,文章構 成の必要性を捉えさせ,題名について考えたこ とを書かせる。次に,筆者の主張の要旨を50字以内に考え①として書きまとめさせる。

第2次では,課題を解決するため,文章構成や論理の展開を基に,ゴリラのドラミングがなぜ

誤解されたのか捉えさせる。次に,「ドラミング」の本来の目的と人間が捉えた意味との違いを

読み取らせる。さらに,「物語」という語句の意味と筆者の言う「物語」の意味の違いや,ゴリ

ラのドラミングについての誤解と人間の作った「物語」の関係について読み取らせ,考え②とし

て書かせる。 第3次では,筆者の主張に対する自分の考えを400字~800 字程度で書きまとめさせる(1回目)。

グループで交流し,参考になった意見,共感した意見,自分と他者の考えの共通点や相違点の四

つの観点について付箋紙に記入し,「評価・批判」をさせる。他者の意見を取り入れながら自分

の考えを再構成し,400 字~800 字程度で書きまとめさせる(2回目)。最後に,考え①と本時で

書きまとめた自分の考え(1回目と2回目)を比較し,考えの深まりや広がりのある表現に気付

かせる。 ③ 指導の実際

ア 考えをもつ場~関連付け~ 既習内容である題名の捉え方や文章構成から,筆者が「物語」という言葉を使った意図を考

え①として書かせた(資料-15)。

イ 考えをさぐる場~関連付け~

「凶暴で好戦的な動物だ」というゴリラに対する人間のイメージによってドラミングの誤解

(思い込み)が生まれ,それを基に「物語」を作ったことを着目させる。「誤解が広まったの

は人間が言葉によって『物語』を作り,それを伝えたがる性質をもっているから」だと述べて

いる叙述を捉え,筆者の主張に対する考えと自分の体験を「関連付け」ながら,考え②として

書きまとめさせた。

資料-15 考え①をもたせ,教材を読みながら考え②をさぐる過程

学習計画を基に読み確かめる(考え②をつくる)

初めの感想をもつ

筆者の主張の要旨を 50 字以内で書く 考え①を交流する

「自分勝手な解釈を避けて,

常識を疑い,真実を知るため

に相手の文化や社会をよく理

解することが必要である。」

(50 字)

・私も知らないうちに先入観をも

って人に接しているかもしれ

ないと思った。

・物事は,よく調べないと,この

ような悲劇が起こると思った。

【参考になった意見】

・初対面でも明るく接することが大切。

【共感した意見】

・勝手に決めつけるのは人間の悪い性質。

・仲がよくてもすれ違ってしまう。

〔書くときの視点〕 筆者が「物語」という言葉

を使った意図とは何だろう

か。

既習内容 ・題名の捉え方 ・文章構成

図-6 本単元で目指す「考えの形成」

考え① ・先入観をもっ

ていた体験 ・これまでの

自分の捉え方

考え② ・真実を

見付け

るため

自分の考え ・体験 ・物事に対す

るこれから の姿勢

思考方法 関連付け,評価・批判

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国-14

ウ 自分の考えをつくる場~評価・批判,関連付け~ 筆者の考えと考え①②を基に,400字~800字程度で書きまとめた後(1回目),交流した。

その際,参考になった意見,共感した意見,自分と他者との考えの共通点,相違点の四つの観

点を示し,「評価・批判」をさせた。交流後,他者の考えを基に自分の考えを再構成し,400字

~800字程度で書きまとめさせた(2回目)。最後に,考え①と本時で書きまとめた自分の考え

(2回目)を比較し,考えの深まりや広がりのある表現に気付かせることができた(資料-16・17)。

④ 考察

○ 他者との交流によって自分の考えが大きく変化し,より具体的に記述した生徒が9割以上見

られた。これは,生徒が自分の考えを再構成したと捉えることができる。

○ 思考方法「評価・批判」を第3次の交流活動に位置付けることで,自分と他者との考えの共

通点,相違点を捉え,自分の考えの深まりや広がりのある表現に気付かせることができた。

● 学級で指定された座席の4人グループで交流したが,異なる視点や考えをもつ他者と交流す

ることにより,さらなる考えの広がりや深まりが出たのではないかと考える。

資料-17 再構成し,自分の考えをつくる過程

全体交流前の生徒 A の作文

私たちは,世の中に名を広めた偉人や成功者の言葉を「名言」といって伝え続けている。そ

れらの言葉は時に人々に勇気や感動を与える。

しかし,その言葉は必ずしも正しいとは限らず偉人や成功者といった鎧をまとっているだけ

なのかもしれない。 例えば,努力は必ず報われるという言葉は努力すること=結果につながるというように受

け取ることができる。でも,どうだろうか,芸

術家には少なからず持って生まれたものがあれば,政治家なんて人脈がものをいう職業とい

える。 そう考える私は,「努力すれば結果はついてくる」とアドバイスされたとき,何か心に引っ

かかるものがあった。それから私はこう考える

ようにした。「努力が直接,自分の目指す目標につながらなかったとしても,その体験から得

られるものが何かあるのではないか」というこ

とだ。 自分の信じる言葉や憧れる人がいることは

素晴らしいと思う。しかし,その事柄を一つの

捉え方だけでうのみにせず,自分なりの見方を加えたり「偉人」や「成功者」といった肩書に

しばられたりしていないかを考えてみること

が本当の意味を理解することになると思う。様々な言葉があふれる世の中だからこそ,一人

一人が「考える」ということを見直してみるべ

きではないだろうか。

私たちは,日頃の生活で様々な言葉に触れている。中でも世の中に

名を広めた人々の言葉を「名言」といって伝え続けている。あなたがそれらの言葉に影響を受けたことはないだろうか。時に人々に勇気や

感動を与える身近な「名言」。しかし,その言葉は必ずしも正しいと

は限らないし,偉人や成功者といった鎧をまとっているだけなのかもしれない。 私は少し前に「努力すれば結果はついてくる」とアドバイスを受け

たことがあり,何か心に引っかかるものがあった。なんとも表現しがたい矛盾のようなものを感じた。 この経験と近い,「努力は必ず報われる」という言葉を例に挙げる

ことにしよう。これは,努力をすること=結果につながるというように受け取ることができる。でも,どうだろうか,芸術家には少なから

ず持って生まれたものがあれば,政治家なんて人脈がものをいう職業

といえる。 疑問を持たせる事柄はこのようにいくつかあるが,私は少し考え方

を変えてみた。この言葉でいう「報われる」の部分を「結果」すなわ

ち「自分の目指した目標」と捉えず,「努力をするその過程で得られるもの」とした。すると,言葉の意味も大幅に変わるし,目標には届

かなくとも努力することの大切さを表す言葉に変わる。 自分の信じる言葉や憧れる人がいることは素晴らしいと思う。しかし,その事柄を一つの捉え方だけでうのみにせず,自分なりの見方を

加えたり「偉人」や「成功者」といった肩書にしばられたりしていな

いかを考えてみることが本当の意味を理解することになると思う。多くの言葉について,表の面,裏の面が存在することがある。表ばかり

を見るのではなく,裏に隠されたものはないか,自分で考えることが

大切なのではないか。様々な言葉があふれる世の中だからこそ,一人一人が「考える」ということを見直してみるべきではないだろうか。

全体交流後の生徒 A の作文

資料-16 考え②を基に,自分の考えをつくる過程

筆者の主張に対する自分の考えと

体験を関連付けて書く

他者と交流し,四つの観点について

評価・批判する

考えを広げたり深めたりして

自分の考えを再構成して書く

【自分の考え】 ・何事も見た目で判断し逃げるの

ではなく,まず体験してみるこ

との大切さが誤解した「物語」

を超え真実を見つけることがで

きると学んだ。 ・お互いを知ろうとすることで

「物語」に隠れていた真実を見

つけ出せる。

【他者の考え】

・相手と向き合って相手をよく知ろうと

することが大事。それができたら私の

得意なことは「人のよいところを見付

けられること」になるかもしれない。 ・言葉は時には武器になったり,時には

人を助けたりするものなので,一回一

回の発言に気を付けたい。 ・人は国籍や人種,住んでいる場所など

の「物語」を超えなければいけないの

ではないか。

【参考になった意見】 ・先入観や誤解から「物語」が生まれる。 ・言葉を遣った人の心情を考えて相手の

ことを判断していきたい。 【共感した意見】 ・見た目で判断してしまう。 ・情報を信じ,すれ違い,後悔した。 【考えの相違点】 ・体験したことが違う。 ・人を見た目でも判断する。 【考えの共通点】 ・自分で真実を見付けることが大事だ。

自分の考えや主張を具体化している

自分の主張を具体化している

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国-15

7 研究のまとめ

(1) 研究の成果

以下の成果から,説明的文章の学習指導において,「考え①」「考え②」「自分の考え」と考え

を積み上げていくとともに,思考方法を提示したり価値付けたりして,書きまとめる活動に位置付

けることは,自分の考えを形成する児童生徒を育てることに有効だったと言える。

① 第1次(考えをもつ場)

○ 全文を読んだ上で考え①をもたせ交流したことで,お互いの考えの違いを全体で確認するこ

とができ,読み確かめていく必要感をもたせることができた。

○ 考えをもたせる時と自分の考えをつくらせる時に書きまとめる視点を提示したことで,同じ

視点で書いた文章を比較することができ,単元を通しての自分の学びを振り返らせることがで

きた。

② 第2次(考えをさぐる場)

○ 振り返りのシートを学びシートとして1枚にまとめたことで,第2次の学習の見通しをもた

せたり前時までにまとめたことを振り返らせたりしながら考え②を書かせることができた。

○ 叙述を基にした具体物や他の資料を提示したことで,自分の知識や経験とつないで「関連付

け」をすることができ,内容の理解の深まりにつながった。

③ 第3次(考えをつくる場)

○ 毎時間読み確かめたことを掲示したことで,「考え①」「考え②」「自分の考え」と考えを

積み上げていく時に,それまでの学習を振り返りながら考えを形成していく児童生徒の姿が見

られた。

○ モデル文を提示したことで,自分と「関連付け」るとはどういうことなのかを具体的にイメ

ージさせることができ,自分の生活や行動に重ねて自分の考えを書く児童生徒が見られた。

○ 付箋や交流ボードを用いて読みの視覚化を図ることで,「比較」「分類」「関連付け」の思

考方法を活用しながら,自分の考えを形成させることにつながった。

○ 振り返りシート(学びシート)を活用させることで,自分の考えをつくる時にそれまで学習

してきたことを確認しながら,考えを再構成することができた。

○ 学習の初めの感想(考え①)や考え②と,自分の考えを児童生徒が比較し,「評価」するこ

とができたため,自分の学びの深まりを感じさせることができた。

(2) 研究の課題

● 「自分の考え」の自己評価や他者評価の在り方について,観点や評価に用いる言葉など具体

的に示していく必要があると考える。

● 学年や単元によって振り返りシート(学びシート)を 1 枚にまとめることが難しい場合もあ

る。考えを積み上げていくシートにするためにさらなる工夫が必要である。

8 研究の意義と課題 (研究指導員 河野 智文)

(1) 「書くこと」「書きまとめること」への着眼

「書くこと」は,「内部」で予め準備したことを構成して「外部」に表出するような一方向的な

流れではない。書きながら考え,書くことによって思考が整理され,書く活動を通して見方が広が

ることは,日常生活でもよく実感される。それは,文部科学省「読解力向上プログラム」(平成 17

年 12 月)「各学校で求められる改善の具体的な方向~3つの重点目標~」の三つの重点目標のうち

二つが「書くこと」を求めていることにも表れている。(【目標②】テキストに基づいて自分の考

えを書く力を高める取組の充実【目標③】様々な文章を読む機会や,自分の意見を述べたり書いた

りする機会の充実)

「考えの形成」のための「書くこと」に着眼したことに,本研究の意義がある。書くことによっ

て考えることが活性化し,合わせて,思考の整理や,学習内容の定着が期待される。

その一方,書くことに苦手意識をもつ学習者も多い。特に取りかかりの段階で,抵抗感なく書け

るような指導・支援のあり方を考えていくことが,今後の課題となる。

(2) 「書くこと」と「考えの形成」

「書きまとめ」られることによって,「自分の考え」は「可視化」される。具体的な形として残

る書きことばによることで,読み直して検討したり,確かなものに即して交流できたりする。その

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意義は大きい。

また,考えを「もつ」「さぐる」「つくる」の各段階で「書きまとめる」活動に取り組ませるこ

とにより,学習を進めていく過程での自身の考えの広がりや深まりが可視化され,自覚することが

可能になる(ただし,この三段階の有機的な関連については未解明のところもある)。学習の足跡

を記録したり,記述に基づいて確実に検討したりすることを可能にするだけではなく,考えの記述

が変化するのを目の当たりにすることで,達成感や,次の学習への意欲をもつことも可能になる。

取りかかりのハードルを低くして,とにかく書き始めることができれば,学習者の意欲は加速度を

増す,と考える。そうなるための指導・支援や評価の在り方を,さらに考えていきたい。また,学

習者の実際の記述を資料にして,考えの変容を具体的に明らかにしていくことも,今後の課題であ

る。

(3) 「自分の考え」の相対化

「自分の考え」とは,言葉遊びのようではあるが,「『他者の考え』ではない」ということであ

る。ただしそれは,独創性を意味するものではない,と本研究では考えることにした。自分自身が

考えたことであれば,その内容がごく普通のことであったとしても「自分の考え」である。自分で

考えること,自分の考えをつくることを,授業では大切にしていきたい。

説明的文章の学習で言えば,「筆者の考え(言いたいこと,伝えたいこと)をつかむ」ことがゴ

ールにはならない,ということである。過程として,途中の段階としては重要だが,筆者の考え,

すなわち要旨の読み取りが授業の終着点ではなく,そのような筆者の考えに対して自分はどのよう

に考えるか,ということを必ず考えさせたい,ということである。それは単に反論することではな

い。筆者の論理をたどり直してより深く共感したり,自分の身近なことに引き寄せて実感したりす

ることも,自分で考えたことになる。

友達の考えも「他者の考え」である。「自分の考え」をつくるとき,自分一人でいくら考え込ん

でいても限界があり,自分の考えを広げるためには,比喩的にいえば「自分の殻を破る」ためには,

他者の考えという刺激が必要なのだ,ということに気付かせたい。異なる考えと向き合う必要性に

も,交流することの効果にも,気付いてくれることを期待したい。

「自分の考え」は,他と全く切り離された状態で独善的に存在するものではない。「他者の考え」

と交流しながら客観視,相対化され,よりよいものとして形成されていくことを実感させたい。そ

の点で,自分の考えを形成する学習では,対話と交流が必然のものとなる。おそらくそれは,多様

な価値観を受け入れる謙虚な人の育成に資するものとなろう。

(4) 考える契機としての「問い」

学習者に限らず,人が「考えてみよう」と思うきっかけになるのは,やはり,「問い」であろう。

考えることの起点になる問いの設定,どのような問いが適切かという内容の問題と,どのように提

示すれば(あるいは学習者から引き出せば)よいかという方法の問題。それは単純化できないこと

とは思われるが,今回取り上げた教材だけではなく,さらに広げ,汎用的な観点や方法を求めて研

究を続けていきたい。

「問い」に取り組んでいく具体的な方法としての思考方法は,ひとまず五つにまとめたところま

でを成果としたいが,この五つの抽象的・汎用的な方法と,具体的・個別的な問いとの距離をどの

ようにして埋めるかということや,これらの思考方法それ自体にどのように習熟させていくか(具

体的な文脈に即して行う方法と,取り出して指導する方法との両立)ということは,なお今後の課

題である。学習者が,思考方法を汎用的な方法として捉え,主体的に選択・活用しようとするよう

にするためにも,書きまとめるという具体的な活動や,ワークシート・振り返りシートによる可視

化が効果を挙げると思われる。

ただし,国語科学習における問題解決には,導入の時点で直観的に捉えたことを,本当にそうな

のか確かめていく,という筋道もある。つまり,導入で全く分からないというのではなく,何とな

くこうなのではないか,ということの根拠を見付けたり,より合理的に説明したりすることが重要

な学習になるということである。この点で,「評価・批判」の思考方法は重要になってくる。

「問い」があれば,唯一絶対の「答え」がある,という学習者の思い込みにも,揺さぶりをかけ

ていきたい。まとまるよりも,むしろ拡散する方が面白くて価値があるということにも,どこかで

気付かせたいと思う。

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(5) 発達段階への関心

今年度は,小学校二年生にも,中学校三年生にも検証授業を行うことができた。発達段階に応じ

た指導の在り方については,なお今後の課題であるが,矛盾を含む多層的な思考に粘り強く取り組

めるようにすることや,一度まとまった考えについて「これでよいのか」と再検証する姿勢をもた

せることなど,目指すところは少し見えてきたようにも思う。今後の研究に向けてのよいきっかけ

としたい。

引用文献

1 文部科学省 小,中学校学習指導要領(平成29年告示)解説国語編

東洋館出版社 (平成30年)

参考文献・参考資料

1 文部科学省 小,中学校学習指導要領(平成29年告示)解説国語編

東洋館出版社 (平成30年)

2 関西大学初等部 関大初等部式思考力育成法研究(平成29年度版)

株式会社さくら社 (平成30年)

3 角屋 重樹 他 新学習指導要領における資質・能力と思考力・判断力・表現力

株式会社文渓堂 (2017年)

4 吉川 芳則 国語嫌いな子どもが変わる授業づくりの原則(国語教育2018 9 月)

明治図書 (2018年)

研究指導員

河野 智文 (福岡教育大学 教授)

非常勤研修員

船津 吉統 (東光小学校 教諭) 江藤 駿 (田島小学校 教諭)

橋村 佳揚子 (老司中学校 教諭) 橋野 雅 (七隈小学校 教諭)

河野 優子 (名島小学校 教諭)

担当主事

井浦 寿美 (研修・研究課 主任指導主事)