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1
薬剤耐性を抑制する薬剤
大阪市立大学 大学院理学研究科
准教授 藤田 憲一
2
研究背景
Ergosterol
Lanosterol
Amphotericin B
DNA, RNA synthesis 5- Fluorocytosine
Fluconazole Itraconazole
Wall
Membrane
Β-1,3-glucan Micafungin
近年、エイズや臓器移植後の免疫抑制剤投与などによる免疫不全者における 深在性真菌症が増加している。しかし、真菌はヒトと同じく真核生物であるため、 真菌に対して選択的に効く有効な抗生物質はまだ数少なく、 新しい作用機序を持つ抗真菌性抗生物質の開発が期待されている。 加えて、真菌に限らず細菌も含めて多剤耐性菌の頻出も 重大な問題となってきている。
我々は、高い選択性を示す 抗真菌性抗生物質を 広く天然資源より求め続けている。 今回は植物由来の フェニルプロパノイド類のうち、 興味深い活性を示すアネトールについて 紹介する。
3
薬剤の分解や修飾機構の獲得 例:βラクタマーゼ 薬剤作用点の変異 例:MRSAにおけるPBP2の変異 薬剤の細胞外への排出 例:ABCトランスポーターの亢進
薬剤耐性機構
4
セリ科植物のアニス(Pimpinella anisum L)の種子から抽出される精油の主成分。 独特の甘い芳香を放ち、香料などの食品添加物として多用されている。 真菌をはじめとする様々な微生物に対して微弱ながら抗菌活性を示す。
Pimpinella anisum L
アネトールとは
trans-anethole(anethole)
5
アネトールは幅広い抗菌スペクトルを示す アネトールの抗菌活性 (MIC*)
Microorganism MIC (mM) Bacillus subtilis IFO 3007 1.250 Escherichia coli IFO 3992 0.625 Candida albicans IFO 1061 0.625 Candida rugosa IFO 1152 0.625 Saccharomyces cerevisiae W303-1A 0.625 Saccharomyces cerevisiae IFO 0203 1.250 Saccharomyces cerevisiae ATCC 7754 0.625 Schizosaccharomyces pombe IFO 0342 0.625 Torulaspora delbrueckii DSM 70504 0.625 Aspergillus niger ATCC 6275 0.313 Aspergillus niger IFO 31125 0.625 Aspergillus fumigatus IFO 5840 0.313 Fusarium oxysporum IFO 7152 >10 Mucor javanicus IFO 4569 0.625 Mucor mucedo IFO 7684 0.625 Penicillium chrysogenum IFO 4626 >10 *:最小生育阻害濃度
細菌
酵母
糸状菌
アポトーシス誘導
キチン合成阻害
6
アネトールは他の薬剤と併用することにより 相乗的抗真菌作用を示す
相乗効果が認められた薬剤 ・界面活性剤(ドデカノールなど直鎖のアルコール) ・天然物(ポリゴジアール、ナギラクトン) ・抗生物質(フルコナゾールなどのアゾール系薬剤)
Polygodial Fluconazole Nagilactone E
7
< C. albicans > < S. cerevisiae >
アネトールは耐性菌が問題となっている病原性真菌 C. albicansに対して抗真菌薬フルコナゾールと併用した場合においても相乗効果を発揮した。
0
50
100
150
200
250
300
350
400
0 100 200 300 400
A
相加効果
相乗効果
0
200
400
600
800
1000
1200
1400
1600
0 100 200 300 400
Dodecanol (μM)
0
50
100
150
200
250
300
350
400
0 1000 2000
Aneth
ole
(μ
M)
Fluconazole (ng /mL)
アネトールは病原性真菌Candida albicansに対して 相乗的抗真菌作用を示す
A
neth
ole
(µM
)
Ane
thol
e (µ
M)
8
単独では殺菌作用がみられない312.5 μM Anetholeと250 μM Dodecanolを組み合わせた場合、持続的な殺菌作用がみられた。
アネトールは出芽酵母に対してドデカノールと 併用させたときに相乗的抗真菌作用を示す
None
Dodecanol 250 μM
Anethole 312.5 μM + Dodecanol 250 μM
Anethole 312.5 μM
0 24 48 72 Incubation Time (h)
0
1
2 3
4 5
6
7 8
Log
of C
FU /
ml
9
C N
extracellular
intracellular
ABC transporter
S. cerevisiae Pdr5p etc
C. albicans Cdr1p, Cdr2p
広範囲の物質を基質とするABCトランスポーターは構造的に
無関係な種々の物質を細胞外に排出するため、真菌やガン細胞の薬剤耐性獲得に大きく寄与している。
多剤耐性薬剤排出ポンプ(ABC transporter)
PDR (pleiotropic drug resistance)
10
0
1
2
3
4
5
6
7
8
0 24 48 72
Incubation time (h)
Dodecanol処理によってその排出ポンプであるPDR5の発現量が顕著に増大し、Anetholeとの併用によりPDR5の発現は強く抑制された。さらにPDR5の発現を制御していると報告されている転写因子PDR1、PDR3についてもAnetholeとの併用によりその発現が抑制された。
Transcription
factor
Efflux pump
アネトールは 薬剤排出ポンプ遺伝子の亢進を抑制する
none
Anethole 312.5 μM
Dodecanol 250 μM
Anethole 312.5 μM + Dodecanol 250 μM
4h
11
抗真菌活性に基づく構造活性相関
12
0
50
100
150
200
0 10 20 30 40 50
アネトールは 豚コレラ菌Salmonella choleraesuisに対して モデル薬剤Tridecanolと相乗作用を示す
Ane
thol
e (µ
g/m
L)
Tridecanol (µg/mL)
0
50
100
150
200
250
300
350
400
0 100 200 300 400
A
相加効果
相乗効果
真菌に限らず多剤耐性細菌への応用の可能性
13
Control
625 µM Anethole
×100 ×400
アネトールは真菌Mucor mucedoに対して 形態異常を誘発する(静菌作用の例)
14
キチン(キトサン)の生合成過程
UDP-GlcNAc
キチン シンターゼ
キチン デアセチラーゼ
キチン
キトサン
15
アネトールは真菌Mucor mucedoにおける キチンの生合成を阻害する
D-[g
luco
sam
ine-
1-14
C]G
lcN
Ac
inco
rpor
atio
n (d
pm)
Control 6.25 mM Anethole
8 µM Nikkomycin Z 0
1000
2000
3000
4000
5000
6000
7000
16
アネトールは真菌Mucor mucedoの キチン合成酵素を反競争的に阻害する
− 1+[I]/Ki
Km
1/v
(nm
oles
/min
)
1/S (mM)
−1/Km
0
5
10
15
20
25
30
35
40
45
50
-4 -2 0 2 4 6
Control6.25 mM Anethole1.25 mM Anethole
1/Vmax
Vmax
1+[I]/Ki
「基質ー酵素複合体」とのみアネトールが結合する
17
アネトールは病原性真菌Aspergillus fumigatusに対してDNAの断片化を誘導する(殺菌作用の例)
2 mM H2O2
0.625 mM anethole
None
TUNEL DAPI Phase contrast
0
10
20
30
40
50
60
70
None 2 mM H2O2
0.625 mM anethole
Per
cent
age(
TUN
EL/
DA
PI)
Incubation time: 24 h
10 µm
18
1000
1500
2000
2500
3000
3500
4000
0.10
0.12
0.14
0.16
0.18
0.20
Alamar blue Tu
rbid
ity(54
0 nm
) growth
2 mM H2O2
0.625 mM anethole
None
Phase contrast DCFH-DA
Incubation time: 2 h
10 µm Cytchrome c
Caspase-9
Caspase-3
細胞構成成分分解開始
活性化
活性化
放出
DNA断片化
核断片化
ミトコンドリア
ROS
Tim
e
アネトールはアポトーシスを誘導する
アネトールは病原性真菌Aspergillus fumigatusに 対して活性酸素産生を誘導する
19
従来技術とその問題点
薬剤排出ポンプ阻害剤の報告はあるが、まだ実用化されているものはない。 薬剤排出ポンプ群の遺伝子発現を抑制する薬剤の報告は我々が初めてである。 薬剤排出ポンプに作用する薬剤耐性化抑制剤は、防腐剤、抗菌剤、抗真菌剤、抗がん剤などに応用でき、食品、化粧品、医療品への大きな貢献が期待できる。
20
新技術の特徴・従来技術との比較
• アネトールは植物由来成分であり、すでに甘味料や香料として食品や歯磨き粉などに添加され、ヒトへの安全性は確認されている。従って、食品や化粧品への添加、医薬として臨床開発される場合、その期間や費用を削減できる可能性が高い。
21
企業への期待
• 医薬品開発より製品化へのハードルが低い食品や化粧品などの防腐剤や抗菌剤への新規展開を考えているバイオベンチャーには、本技術の導入が有効と思われる。
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実用化に向けた課題 • 現在、植物由来のフェニルプロパノイド類のう
ち、アネトールについてのみ、インビトロの実験で強い相乗効果が認められた。さらにリード化合物の最適化を行うために広範囲な構造活性相関を行う必要がある。
• 今後、インビボでの実験データを取得し、医薬として開発していく場合の条件設定を行っていく。
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本技術に関する知的財産権
• 発明の名称 :薬物排出抑制剤、抗菌活性増強剤、及び抗癌活性増強剤
• 出願番号:特願2011-091645 • 出願人 :公立大学法人大阪市立大学 • 発明者 :藤田 憲一