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当院の透析患者の 骨粗鬆症治療について 8回中目黒透析療法地域連携の会 医療法人社団城南会 西條クリニック鷹番 西條公勝

当院の透析患者の 骨粗鬆症治療についてtakaban.saijo-clinic.com/wp-content/uploads/2019/01/... · 2019-01-31 · 背景 透析患者は健常人に比べて大腿骨頸部骨折のリスクは

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当院の透析患者の 骨粗鬆症治療について

第8回中目黒透析療法地域連携の会

医療法人社団城南会 西條クリニック鷹番

西條公勝

背景

✔ 透析患者は健常人に比べて大腿骨頸部骨折のリスクは

男性で6.2倍、女性で4.9倍と高く1)、また骨折を起こすと死亡リスクが

3.8~11.6倍上昇する2)と報告されている。

✔Ca、P、PTHを管理目標内に維持しても骨密度が漸減していく透析

症例をしばしば経験する。

1) J Bone Miner Metab. 2013 May;31(3):315-21 Increased risk of hip fracture among Japanese hemodialysis patients. Wakasugi M, et al. 2) Kidney Int. 2014 Jan;85(1):166-73 High rates of death and hospitalization follow bone fracture among hemodialysis patients. Tentori F, et al.

腎性骨異栄養症 ≒古典的腎性骨症

閉経後骨粗鬆症

加齢による骨粗鬆症

糖尿病性骨粗鬆症

ステロイド骨粗鬆症

CKD患者における骨脆弱性の要因

透析アミロイドーシス関連骨症

尿毒症性骨粗鬆症

無形性骨症

微小変化型 繊維性骨炎

骨軟化症型 混合型

不活発 (低)

活発 (高)

骨代謝回転

正常

遅延

一次石灰化

古典的腎性骨症に含まれない CKDに伴う骨代謝異常

骨粗鬆症

CLINICAL CALCIUM Vol.26, No.9, 2016

透析患者において 骨密度は骨折リスクの予測に有用である

Diagnostic usefulness of bone mineral density and biochemical markers of bone turnover in predicting fracture in CKD stage 5D patients—a single-center cohort study Soichiro Iimori ,et al. Nephrology Dialysis Transplantation, Volume 27, Issue 1, 1 January 2012

薬物 保存期腎不全

透析 eGFR≧35ml/min eGFR<35ml/min

アルファカルシドール カルシトリオール

病態に応じ使用量を変更

エテルカルシドール 血清カルシウム濃度上昇に特に注意

SERM(ラロキシフェン、パセドキシフェン) 慎重投与

ビスホスホネート

アレンドロネート 慎重投与 使用回避 慎重投与

リセドロネート 慎重投与 慎重投与 使用回避

ミノドロネート 慎重投与

エチドロネート 使用回避

イバンドロネート 慎重投与

エルカトニン 通常投与可能

デノスマブ 慎重投与

副甲状腺ホルモン薬 慎重投与

治療薬ハンドブック2015より改変

目的

骨粗鬆症を合併する透析患者に対して骨粗鬆症治療薬を

投与し、骨ミネラル代謝・骨密度・血管石灰化に与える影響

を検討すること。

①イバンドロネートを投与した40例

②イバンドロネートからデノスマブに変更した17例

③デノスマブを新規投与した4例

ビスホスホネートの作用機序

1) Rodan GA, et al, J Clin Invest 1996; 97: 2692-2696. 2) Drake MT, et al, Mayo Clin Proc 2008; 83: 1032-1045.

破骨細胞を介したビスホスホネートの作用機序(イメージ図)1)

① ビスホスホネートが 骨吸収面に付着

② ビスホスホネートが 破骨細胞に取り込まれる

③ 破骨細胞の 骨吸収を抑制する

破骨細胞内のメバロン酸代謝経路における ビスホスホネートの作用2)

HMG-CoA

活性型破骨細胞

波状縁

ビスホスホネート

波状縁の消失 不活性型の破骨細胞

ビスホスホネート

ビスホスホネート

アポトーシスを 起こした破骨細胞

ファルネシルピロリン酸 (FPP)合成阻害

ゲラニルゲラニルピロリン酸 (GGPP)合成阻害

破骨細胞の機能抑制

骨吸収の抑制

ビスホスホネート

HMG-CoA還元酵素

メバロン酸 ファルネシルピロリン酸 (FPP)合成酵素

対象

当院および関連1施設において

①「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2011年版」の

原発性骨粗鬆症の薬物治療開始基準を満たす

②TRACP-5bが 男性 170mU/dl以上、女性 120mU/dl以上

①②を満たす40例の血液透析患者

脆弱性骨折(大腿骨近位部骨折または椎体骨折)

ない ある

脆弱性骨折(大腿骨近位部骨折および椎体骨折以外)

薬物治療開始

ある ない

BMDがYAMの 80%未満

BMDがYAMの 70%未満

BMDがYAMの 70%以上80%未満

大腿骨近位部 骨折の家族歴

FRAX®の10年間の 骨折確率(主要骨折)

15%以上

原発性骨粗鬆症の 薬物治療開始基準

方法

イバンドロネート1mgを月1回静注し、Ca・P・intact PTH・

TRACP-5b・アルカリホスファターゼ・BAP・骨密度(中手骨MD

法・橈骨遠位端1/3DXA)・脈波伝搬速度を24週間観察した。

統計学的検討

2群間の比較はWilcoxonの符号付き順位検定、3群間の比較は二元配置分散分析

を用い検討した。統計学的な有意差はp<0.05とした。

患者背景

性別 年齢 透析歴 原疾患 BMI 骨折歴有 FRAX® 切り替え

10例 (25.0%) 30例 (75.0%) 76.5±7.6歳

86.2±79.0ヶ月 11例 (28.0%) 6例 (15.0%) 8例 (20.0%)

15例 (30.0%) 21.4±5.9

22例 (55.0%) 27.2±15.3 8例(20.0%)

男性 女性 糖尿病性腎症 腎硬化症 慢性糸球体腎炎 その他・不明 SERM

マキサカルシトール(静注)

カルシトリオール(内服)

アルファカルシドール(内服)

シナカルセト

沈降炭酸カルシウム

セベラマー

ビキサロマー

炭酸ランタン

5例

15例

12例

10例

14例

4例

3例

3例

9.0±5.5

0.27±0.06

0.27±0.07

26.3±9.2

1714±579

2063±1125

1750±433

1525±731

μg/week

μg/week

μg/week

mg/day

mg/day

mg/day

mg/day

mg/day

併用薬

Alb

Ca(補正)

P

ALP

intact PTH

TRACP-5b

BAP

YAM

baPWV(右)

baPWV(左)

3.6±0.3

8.4±0.7

5.1±1.3

260.3±94.2

177.3±145.8

614.7±399.1

19.0±10.7

63.1±10.6

1927.2±424.3

2055±552.6

g/dl

mg/dl

md/dl

U/l

pg/ml

mU/dl

μg/dl

%

%

cm/s

検査所見

(pg/ml) intact PHT

補正Ca P (mg/dl)

3

4

5

6

7

8

9

10

前 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 22 24

補正Ca

P

(week)

0

100

200

300

400

前 12 24 (week)

639.7

462.3

0

200

400

600

800

1000

1200

前 24 (week)

(mU/dl) TRACP-5b

*p<0.05

Wilcoxon singled –ranks test

(μg/l) BAP

0

10

20

30

前 24 (week)

150

200

250

300

350

400

450

前 4 8 12 16 20 24(week)

アルカリフォスファターゼ (IU/l)

63.1 61.2

50

60

70

80

前 24 (week)

YAM(中手骨MD、橈骨遠位端1/3DXA) (%)

*p<0.05

Wilcoxon singled –ranks test

1500

2000

2500

前 24

baPWV (cm/s)

(week)

年 報告 国 薬剤 投与

方法

投与量

間隔

観察

期間

骨代謝

マーカー 部位 効果

2015 岡ら

埼玉県医師会誌 日本 イバンドロネート 静注

1mg

月1回 6M

TRACP-5b ↓

BAP ↓ 腰椎DXA ↑

2014

竹内ら

Kidney Metab

Bone Dis

日本 アレンドロネート 静注 900μg

4週間毎 12M

TRACP-5b ↓

BAP ↓ 橈骨遠位1/3DXA ↑

2012

Mitsopoulos

etc.

AJKD

ギリ

シャ イバンドロネート 静注

1mg

月1回 6M ALP →

腰椎DXA →

大腿骨頸部DXA →

2008 Bergner etc.

J Nephrol ドイツ イバンドロネート 静注

2mg

4週間毎 12M

TRACP-5b →

BAP → 腰椎DXA ↑

2005 Wetmore etc.

Nephrology USA アレンドロネート 経口

40mg

週1回 6M

ALP →

Osteocalcin ↓ HipDXA →

透析患者に対するビスホスホネート投与 報告

まとめ1

透析患者にイバンドロンネートを静注投与し、TRACP-5bが

有意に低下したことより骨吸収抑制効果があると判断した。

しかし骨密度維持・改善効果は認められなかった。

CKDに対するビスホスホネート長期投与の問題点

腎排泄性

骨への蓄積による骨代謝回転の過剰抑制

無形成骨

非定型大腿骨骨折

顎骨壊死

血管石灰化の進行?

①イバンドロネートを投与した40例

②イバンドロネートからデノスマブに変更した17例

③デノスマブを新規投与した4例

RANKLの阻害

破骨細胞活性の低下

骨吸収の抑制

骨芽細胞

骨組織

破骨細胞

活性化

成熟

形成

プラリアが結合した

RANKL

デノスマブの作用機序 ヒト型RANKLモノクロナール抗体製剤

RANKLとRANKの結合を阻害することより破骨細胞の分化と活性化を抑制

対象

① 原発性骨粗鬆症の薬物治療開始基準(2015年度版)を満たす

② 24ヶ月以上イバンドロネートを月1回静注

①②を満たす17例

方法

イバンドロネート1mg 月1回静注からデノスマブ60mg皮下注

へ変更した17例で、TRACP-5b・BAP・Ca・P・intact PTH・骨密度

(中手骨MD法)・ 脈波伝搬速度を24週間観察し、イバンドロ

ネート投与後24週間と比較した。

統計学的検討は二元配置分散分析を用い、統計学的な有意差はp<0.05とした。

性別

年齢

透析歴

原疾患

BMI

骨折歴

FRAX®

イバンドロネート投与期間

患者背景

男性

女性

糖尿病性腎症

腎硬化症

慢性糸球体腎炎

その他・不明

腰椎

大腿骨頸部

橈骨遠位端

4例 (23.5%)

13例 (76.5%)

77.1±9.2歳

89.2±58.3ヶ月

6例 (35.3%)

4例 (23.5%

3例 (17.6%)

4例 (23.5%)

20.5±3.1

3例 (17.6%)

8例 (47.1%)

1例 (5.9%)

31.2±18.1

26.6±1.8ヶ月

検査所見 Alb

Ca(補正)

P

ALP

intact PTH

TRACP-5b

BAP

YAM 中手骨MD

baPWV (右)

baPWV (左)

3.5±0.3

9.0±0.4

5.1±0.9

258.4±94.3

142.9±91.5

420.1±178.1

14.6±5.0

63.1±14.2

1956±447

1994±487

g/dl

mg/dl

mg/dl

U/l

pg/ml

mU/dl

μg/dl

%

cm/s

cm/s

併用薬

マキサカルシトール(静注)

カルシトリオール(内服)

アルファカルシドール(内服)

シナカルセト塩酸塩

沈降炭酸カルシウム

ビキサロマー

炭酸ランタン

クエン酸第2鉄

2例

12例

3例

4例

3例

2例

4例

3例

12.5±3.5

0.27±0.07

0.25±0

28.1±15.7

1333±289

1625±884

1375±250

750±750

μg/week

μg/day

μg/day

mg/day

mg/day

mg/day

mg/day

mg/day

補正カルシウム

(週)

(mg/dl)

7.0

7.5

8.0

8.5

9.0

9.5

10.0

前 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 22 24

デノスマブ

イバンドロネート

** **

** **

** **

*

*

*p<0.05 **p<0.01

リン (mg/dl)

(週)

3.0

3.5

4.0

4.5

5.0

5.5

6.0

6.5

前 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 22 24

デノスマブ

イバンドロンネート

*p<0.05 **p<0.01

0

100

200

300

400

500

600

700

800

前 12 24

デノスマブ

イバンドロネート

(週)

intact PTH (pg/ml) *:P<0.05 **:P<0.01

**

*

TRACP-5b

(週)

(mU/dl)

0

200

400

600

800

1000

1200

前 24

デノスマブ

イバンドロネート

*p<0.05 **p<0.01

100

200

300

400

500

前 4 8 12 16 20 24

デノスマブ

イバンドロネート

(週)

(U/L) ALP

** ** **

* *

** ** **

**

5

10

15

20

25

30

35

40

前 24

デノスマブ

イバンドロネート

BAP (μg/L)

(週)

*

*p<0.05 **p<0.01

1200

1600

2000

2400

2800

前 24

デノスマブ右 デノスマブ左 イバンドロネート右 イバンドロネート左

(cm/s) baPWV

(週)

*

**

*p<0.05 **p<0.01

45

50

55

60

65

70

75

前 24

デノスマブ

イバンドロネート

YAM(中手骨MD) *p<0.05

**p<0.01

併用薬 変更前 24週後

マキサカルシトール (静注)

2例 12.5±3.5μg/week

4例 13.8±2.5μg/week

カルシトリオール (内服)

12例 0.27±0.07μg/day

11例 0.33±0.12μg/day

アルファカルシドール (内服)

3例 0.25±0μg/day

2例 0.25±0μg/day

シナカルセト塩酸塩 4例

28.1±15.7mg/day 4例

28.1±15.7mg/day

沈降炭酸カルシウム 3例

1333±289mg/day 5例

2200±758mg/day

まとめ2

✔ イバンドロネートからデノスマブに変更後もTRACP-5bは基準値内に

保たれ、アルカリホスファターゼとBAPが低下した。

✔ 中手骨MD法で骨密度改善効果は確認出来なかった。

✔ イバンドロネートにより骨吸収は抑制されていたにも関わらず、デノ

スマブに変更後早期から血清カルシウムが低下したため、活性型ビタ

ミンDの増量や変更、沈降炭酸カルシウムの増量が必要であった。

✔ 血清カルシウムが低下したためintact PTHが上昇した。

✔ 投与24週間後で脈波伝搬速度の低下を認めた。

①イバンドロネートを投与した40例

②イバンドロネートからデノスマブに変更した17例

③デノスマブを新規投与した4例

患者背景

性別

年齢

透析歴

原疾患

BMI

骨折歴有

FRAX®

1例 (25.0%)

3例 (75.0%)

70.8±9.6歳

45.8±13.5ヶ月

1例 (25.0%)

2例 (50.0%)

1例 (25.0%)

21.3±1.1

1例(25.0%)

16.8±4.3

男性

女性

糖尿病性腎症

腎硬化症

痛風腎

マキサカルシトール(静注)

カルシトリオール(内服)

アルファカルシドール(内服)

沈降炭酸カルシウム

炭酸ランタン

1例

2例

1例

2例

2例

15.0±0.0

0.25±0.0

0.25±0.0

1500±0.0

1500±0.0

μg/week

μg/week

μg/week

mg/day

mg/day

併用薬

Alb

Ca(補正)

P

ALP

intact PTH

TRACP-5b

BAP

YAM 中手骨MD

baPWV(右)

baPWV(左)

3.7±0.5

8.9±0.6

5.0±1.0

259.5±130.5

89.3±43.7

458.3±250.2

14.6±6.3

59.8±2.9

1697.6±193.8

1766.3±145.8

g/dl

mg/dl

md/dl

U/l

pg/ml

mU/dl

μg/dl

%

cm/s

cm/s

検査所見

6

7

8

9

10

11

前 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 22 24

症例1

症例2

症例3

症例4

(week)

0

2

4

6

8

10

前 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 22 24

症例1

症例2

症例3

症例4

(week)

補正Ca

P

(mg/dl)

(mg/dl)

0

50

100

150

200

250

300

前 12 24

症例1

症例2

症例3

症例4

intact PHT

0

100

200

300

400

500

600

700

800

前 24

症例1

症例2

症例3

症例4

(week)

TRACP-5b (mU/dl)

0

100

200

300

400

500

前 4 8 12 16 20 24

症例1

症例2

症例3

症例4

(week)

アルカリフォスファターゼ (IU/l)

BAP (mU/dl)

0

5

10

15

20

25

前 24

症例1

症例2

症例3

症例4

YAM(中手骨MD ) (%)

50

55

60

65

70

前 24

症例1

症例2

症例3

症例4

1200

1400

1600

1800

2000

前 24

症例1

症例2

症例3

症例4

(week)

1200

1400

1600

1800

2000

前 24

症例1

症例2

症例3

症例4

(week)

baPWV 右 左 (cm/s) (cm/s)

✔デノスマブを投与した4例ともTRACP-5bが低下した。

✔4例中3例で骨密度改善の上昇を認めた。

✔早期から血清カルシウムが低下し、1例でintact PTHが

上昇した。

✔4例とも脈波伝搬速度が低下した。

まとめ3

結論

✔イバンドロネートとデノスマブ両薬剤とも透析患者の

骨吸収を抑制した。

✔イバンドロネートは短期的には問題なく投与出来た。

✔デノスマブ投与で早期から血清カルシウムが低下しintact

PTHが上昇した。頻回なモニタリングを行い、十分量の

活性型ビタミンDやカルシウム製剤の併用が必要である。

✔デノスマブの骨密度改善効果については今後症例を

積み重ねて検討を予定している。