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2005年 SSM 調査シリーズ 8 階層意識の現在 Social Stratification and Social Psychology in Contemporary Japan 亮 編 2005年 SSM 調査研究会 科学研究費補助金 特別推進研究(16001001) 「現代日本階層システムの構造と変動に関する総合的研究」成果報告書

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2005年 SSM 調査シリーズ 8

階層意識の現在 Social Stratification and Social Psychology

in Contemporary Japan

轟 亮 編

2005年 SSM 調査研究会

科学研究費補助金 特別推進研究(16001001)

「現代日本階層システムの構造と変動に関する総合的研究」成果報告書

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2005年 SSM 調査シリーズ 8

階層意識の現在 Social Stratification and Social Psychology

in Contemporary Japan

轟 亮 編

2005年 SSM 調査研究会

科学研究費補助金 特別推進研究(16001001)

「現代日本階層システムの構造と変動に関する総合的研究」成果報告書

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刊行のことば

本書は、文部科学省科学研究費補助金(特別推進研究)「現代日本階層システムの構造と

変動に関する総合的研究」の助成を得て行われた 2005 年社会階層と社会移動調査(SSM 調

査)の研究成果報告書『2005 年 SSM 調査シリーズ』(全 15 巻)のうちの一冊である。

SSM 調査は 1955 年以来 10 年毎に行われている全国調査である。このような継続性を持っ

た社会階層と社会移動に関する調査は世界に類を見ない。もちろんそれぞれの年の SSM 調

査プロジェクトは独自の研究テーマを持っているが、親や本人の階層などの基本変数は継

続的に測定されているので、長期にわたるトレンド分析が可能になる。本シリーズの中に

も、このようなトレンド分析を行っている論文が多数収録されている。

この継続性は SSM 調査の貴重な財産である。2005 年 SSM 調査研究プロジェクトでは、こ

のことを踏まえた上で、新たな方向に踏み出した。それは本格的な国際比較と若年層調査

である。本プロジェクトの基本的なねらいは、次のような問題群に解答を与えることであ

った。グローバリゼーションと新自由主義の進行する中で、労働市場の流動性は高まって

いるのか、それともそうではないのか。また高まっているとすれば、それはどの階層を流

動的にしているのか。特定の階層は保護的制度に守られて流動化していないのではないか。

このような「流動化」と「階層の固定化」という一見すると相反する問題にアタックする

ことが、本プロジェクトの基本的なテーマであった。

このテーマを追求するために、国際比較と若年層調査は不可欠であった。グローバリゼ

ーションと新自由主義はいわば普遍的な変動要因である。ただしこれらは直接的に個々の

社会の社会階層・社会移動に影響を及ぼすのではなく、それぞれの社会のローカルな制度

との相互作用を通じて、社会階層・社会移動に影響を及ぼしたり、及ぼさなかったりする。

また新自由主義や労働市場の流動化に対する人々の評価(これは公共性問題といえよう)

も社会によって異なりうる。これらの問題に答えるためには、国際比較が必要になる。し

かしあまりに異なる社会と日本を比べることは意味をなさない。そこでわれわれは、同じ

儒教文化圏に属し、教育制度も類似しているが、日本よりも早くグローバリゼーションに

さらされている韓国と台湾を比較の対象とした。

労働市場の流動化は若年層にもっとも影響を及ぼすと考えられる。フリーターやニート

の問題をはじめとして、流動化の矛盾は若年層に集中しているといえよう。この問題に関

しては既に多くの研究がなされているが、本プロジェクトでは、SSM 調査の蓄積を活用して、

社会階層と社会移動という視点からこの問題にアプローチすることにした。たとえば、誰

でもフリーターになるわけではなく、出身階層や本人の学歴によってフリーターになる確

率は異なると考えられる。このような社会階層論・社会移動論の道具を用いることで、フ

リーター・ニート問題に新しい光を当てることができるだろう。

このような理論的関心に基づいて、国際比較と若年層調査を行った。国際比較では、韓

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国と台湾の階層研究者 6 名に研究プロジェクトメンバーとなってもらい、彼ら・彼女らの

全面的な協力の下に韓国と台湾で SSM 調査を実施した。調査票は日本調査とかなりの部分

を共通にして、日本・韓国・台湾で厳密な比較分析が行えるようにした。また産業や職業

の国際比較ができるように、それぞれの社会のデータに国際標準産業分類コードと国際標

準職業分類コードを割り当てた。日本側メンバーにも東アジアの専門家がいて、膨大な時

間を費やしてくれたが、これらの作業は困難を極めた。調査票設計段階の調整から始まり、

調査票の翻訳やバックトランスレーション、調査設計の調整、コーディングにおける無数

ともいえる細かい確認事項などの作業を経て、調査データが完成した。

若年層調査も多くの困難に直面した。大阪大学の太郎丸博氏をヘッドとする若年層調査

タスクグループが実査を担当したが、低い回収率の問題や、郵送調査・ウェブ調査ゆえの

データ・クリーニング、コーディングの難しさがあった。しかし太郎丸氏をはじめとする

タスクグループの献身的な努力により、若年層調査データも完成した。

本シリーズに収録されている論文は、このような調査データの分析に基づいたものであ

る。本プロジェクトでは、8つの研究会からなる研究体制をとって、それぞれの研究会でメ

ンバーが論文構想を報告して相互にコメントをしあい、より良い論文を執筆することをめ

ざしてきた。その成果が本シリーズに集められている。これらの論文を通じて、日本のみ

ならず、韓国と台湾の階層状況に対する理解が深まることを期待する。

本プロジェクトを推進するに当たり、実に多くの方々のお世話になった。あえて一人一

人のお名前をあげることはしないが、ここに感謝の意を表します。また調査にご協力いた

だいた対象者の方々にも心より御礼申し上げます。

2008年3月 2005年 SSM 調査研究会

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付記1.本研究会による刊行物のリスト 『2005年 SSM 日本調査 コード・ブック』 2007 年 11 月 『2005年 SSM 日本調査 基礎集計表』 2007 年 11 月 2005年 SSM 調査シリーズ(研究成果報告書集)(2008 年 3 月刊)

第1巻 第2巻 第3巻 渡邉 勉 第4巻 第5巻 第6巻 第7巻 土場 学 第8巻 第9巻 第 10巻 第 11巻 第 12巻 第 13巻 第 14巻 第 15巻

三 輪 哲

小林 大祐 高田 洋

阿形 健司 米澤 彰純 中村 高康

轟 亮 中井 美樹 杉野 勇 菅野 剛 太郎丸 博 前田 忠彦 有田 伸 石田 浩 佐藤 嘉倫

編 『2005 年 SSM 日本調査の基礎分析

―構造・趨勢・方法―』 編 『階層・階級構造と地位達成』 編 『世代間移動と世代内移動』 編 『働き方とキャリア形成』 編 『教育達成の構造』 編 『階層社会の中の教育現象』 編 『公共性と格差』 編 『階層意識の現在』 編 『ライフコース・ライフスタイルから見た社会階層』 編 『階層と生活格差』 編 『若年層の社会移動と階層化』 編 『社会調査における測定と分析をめぐる諸問題』 編 『東アジアの階層ダイナミクス』 編 『後発産業社会の社会階層と社会移動』 編 『流動性と格差の階層論』

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『2006年 SSM 若年層郵送調査 コ-ド・ブック』 2008 年 3 月 『2006年 SSM 若年層郵送調査 基礎集計表』 2008 年 3 月 『2005年 SSM 韓国調査 コード・ブック』 2008 年 3 月 『2005年 SSM 韓国調査 基礎集計表』 2008 年 3 月 “Taiwan Social Change Survey, 2005: Social Stratification and Social

Mobility in Three Countries, User Guide and Codebook” February, 2008 付記2.文部科学省科学研究費補助金研究組織等 研究課題「現代日本階層システムの構造と変動に関する総合的研究」(16001001) 研究種目 特別推進研究 研究組織

研究代表者:佐藤 嘉倫 (東北大学大学院文学研究科教授) 研究分担者:近藤 博之 (大阪大学大学院人間科学研究科教授) 研究分担者:尾嶋 史章 (同志社大学社会学部教授) 研究分担者:斎藤 友里子(法政大学社会学部教授) 研究分担者:三隅 一百 (九州大学大学院比較社会文化研究院教授) 研究分担者:石田 浩 (東京大学社会科学研究所教授) 研究分担者:中尾 啓子 (首都大学東京都市教養学部教授) (研究協力者については、全リストを第 15 巻に掲載した。)

研究経費(単位 千円) 直接経費 間接経費 総額

平成16年度 19,700 5,910 25,610 平成17年度 186,600 55,980 242,580 平成18年度 29,400 8,820 38,220 平成19年度 32,700 9,810 42,510

計 268,400 80,520 348,920

研究発表

全リストを第 15 巻に掲載。

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はしがき

本巻は『2005 年 SSM 調査シリーズ』の第8巻にあたり、現代日本の社会階層や社会移動

の状況が、人々の社会意識の様態にどのような影響を与えているのかについて、分析・考

察をしている。本巻と第7巻『公共性と格差』とは姉妹編というべき関係にある。両巻に

掲載されている論文の多くは、主として社会意識研究会において分析報告と議論を重ねて

きた成果である。第7巻には公共的な政策選好や、階層社会への評価、政治行動・政治意

識といったテーマの諸論文が掲載されており、本巻と併せ、ぜひご覧いただきたい。本巻

では、前半に、階層意識の研究において最重要の項目とされてきた階層帰属意識を分析し

た論稿を、そして後半には、社会意識の計量研究においてその階層性の探究が分析されて

きた、社会認識や価値態度を分析する論稿を配置している。

さて、あらためて「階層意識」とは何であるか。それは第一に、社会意識の階層性のこ

とである。人びとのものの考え方、認知・認識、関心、意欲、価値観、態度、意見等には、

多くの場合、分散(散らばり)が存在している。同一社会に生きる人びとのものの考え方

に、なぜ違いが存在しているのだろうか。この問いに階級論は、社会階級上の差異に規定

され、階級的な利害が異なるからである、と解答する。階層論は、社会階層上の地位とい

う社会属性の差異が、何らかのメカニズムを通して、社会意識の差異に結びつくと考える。

階層意識研究は、当該社会の階級・階層構造と社会意識とがどのように結びついているの

か、その結びつきが時間的にどのように変容しているのか、その結びつきは異なる社会の

間でどのように違うのか、を明らかにするものである。

このように基本構図はシンプルであるが、実際にはもっと複雑な検討が必要である。ま

ず、階層意識研究の前提として、階級・階層構造についての同定が必要となる。すなわち、

客観的な階層構造の側にも変動の可能性があり、また(1995 年 SSM 型の根本問題である)

そもそも階層とは何であるのか、という問いすら存在しているのであり、階層意識の研究

は、階層構造研究の知見を前提として行なわなければならない。特に、現在のわれわれの

前には、2005 年 SSM 調査研究の探求課題たる、グローバリゼーションと新自由主義のもと

での「流動化」と「階層の固定化」という予測、あるいは広く存在している、「格差社会」

の出現という社会認識がある。これらの構造変動に関する命題の検証が、階層意識研究の

事前にあるいは同時になされることが必要である。それに加えて、社会意識の分布構造そ

れ自体にも時間的な、あるいは異文化的な変動が存在しているのである。このような点に

ついて確認したのちに、社会意識の階層性を解明することが可能になる。 本巻所収の諸論文は、SSM 調査データの特徴である、精密な階層的属性項目の測定、繰

り返し調査、国際比較というメリットを生かし、社会意識の階層性の様態を解明している。

通じて確認されるのは、社会意識の分断線あるいは説明軸としての職業階層の意味の希薄

化、ということである。これは、巷間語られている「格差社会」の到来、「二極化」という

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vi

主張とは、ずいぶん印象が異なるものである。これらの知見がどのように解釈されている

のか、詳しくは各論文をご覧いただきたい。

階層意識研究とは、第二に、人びとの「階層に関する意識」の研究である。階層帰属意

識は、「階層に関する意識」において重要な位置を占めている。当然、階層帰属意識の研究

は第一の意味でも階層意識研究であるので、二重の意味で階層意識であることになる。2005

年という、社会格差がこれまでになく人びとの間で語られている時点の調査データで、階

層帰属意識の分布と、客観階層構造との関連の様態には、いったいどのような変動があっ

たことが明らかとなるのだろうか。この問いには、ある種の自己言及構造が織り込まれて

おり、理論社会学的にも関心をもたれるものではないかと思う。そして本書の分析からは、

人びとの「階層に関する意識」の、従来とは異なる、ある意味 2000 年代的とも言える規定

要因が明らかにされている。

以上の内容をもつ本巻は、階層意識研究の現在を示している。本巻の議論が多くの研究

関心を惹くことを期待している。

なお、本巻の編集にあたって、金沢大学大学院博士前期課程の歸山亜紀氏に助けていた

だいた。この場を借りて厚く御礼申し上げたい。

2008年3月

轟 亮

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2005年SSM調査シリーズ 8

階層意識の現在/目次

刊行のことば

はしがき 1 学歴移動と階層意識 数土 直紀 1 ―継承される階層帰属意識―

2 主観的地位認知に対する職業移動の影響 星 敦士 37 3 階層意識に対する従業上の地位の効果について 小林 大祐 53 4 階層帰属意識とジェンダー 神林 博史 67 ―分布の差に関する判断基準説と判断水準説の検討―

5 「専業主婦であること」は女性の階層帰属意識を高めるか? 「専業主婦の妻を持つこと」は男性の階層帰属意識を高めるか? 大和 礼子 87 6 階層帰属意識の意味論 佐藤 俊樹 103 ―帰属分布と地位指標の弱い紐 weak tie―

7 階級・階層意識の計量社会学 吉川 徹 131 8 仕事の内的報酬志向の形成要因 米田 幸弘 175 9 日本と韓国における男性の性別役割分業意識 裵 智恵 191

vii

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10 一般的信頼感の規定要因 岩渕 亜希子 207 ―階層、地域、社会関係―

11 権威主義的態度と社会階層 轟 亮 227 ―分布と線形関係の時点比較―

既発表成果一覧 249

viii

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The 2005 SSM Research Series/ Volume 8

Social Stratification and Social Psychology in Contemporary Japan

Edited by Makoto Todoroki

CONTENTS

Preface to the 2005 SSM Research Series Preface to Volume 8 1 Educational Mobility and Class Identity

Naoki Sudo 1 2 Effects of Occupational Mobility on Status Identification

Atsushi Hoshi 37 3 The Effects of Employment Status on Class Consciousness

Daisuke Kobayashi 53 4 Status Identification and Gender: Test of Two Hypotheses on the Gender Gap of the Distribution

Hiroshi Kanbayashi 67 5 Do Full-Time Housewives and Their Husbands Have Higher Social-Status Identification than Working Wives and Their Husbands?

Reiko Yamato 87 6 Semantics of Status-Identification: Weak-Tie between Status-Identification and Social Economical Status

Toshiki Satou 103 7 The Relationship between Social Stratification and Peoples’ Attitudes in Japan

Toru Kikkawa 131 8 Social Determinants of Intrinsic Job Values

Yukihiro Yoneda 175 9 Gender Role Attitudes among Men of Japan and Korea

Jihey Bae 191

ix

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x

10 Determinant Factors of General Trust: Social Stratification, Regions, and Commitment Relations

Akiko Iwabuchi 207 11 Authoritarian Traditionalism and Social Stratification in Japan: Comparative Analysis of Their Distributions and Linear Relationships between 1995 and 2005

Makoto Todoroki 227

Appendix 249

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学歴移動と階層意識

―継承される階層帰属意識―

数土直紀

(学習院大学)

【要旨】

戦後日本では進学率が上昇し、高学歴の希少性は失われた。にもかかわらず、先行研究では、

学歴の階層帰属意識に対する規定力はむしろ増していることを指摘している。本稿では、親の学

歴を子が継承しているかいないかに注目することで、この現象の説明を試みる。SSM 調査データ

のうち、1955 年から 2005 年の男性データをもちいて分析した結果、以下のことが明らかにされ

た。(1)親の学歴を継承している個人は、自身の学歴が指示する階層的地位に、より強くコミッ

トする。(2)学歴継承の効果は、進学率が大きく変動している時期よりも、進学率が安定してい

る時期に現れる。(3)中等学歴継承の効果は、1995 年と 2005 年を境に、プラスからマイナスに

逆転している。 以上から、高学歴の希少性が失われたにもかかわらず、階層帰属意識への規定力が増している

ようにみえたのは、1970 年代以降になって学歴構造が比較的安定したことと、高学歴がまだ子に

継承されておらず、依然としてその希少性を維持していたことに原因があったと結論できる。高

学歴がある世代で一般化したとしても、親の学歴との関連に注目すれば、高学歴を“継承した”個人は依然として少数派になる。ある学歴の希少性が完全に失われるためには、その学歴が子に継

承されるまでの時間が必要であった。 キーワード:階層帰属意識、学歴継承

1 問題

1.1 学歴と階層帰属意識

本稿では、学歴と階層帰属意識の関係に焦点があてられる。その理由は、学歴が、他の社

会的・経済的地位と異なり、必ずしも直観的には明らかでない影響を階層帰属意識に与えて

いるからである。

日本社会の階層帰属意識に関する研究の中で、吉川によるパス解析をもちいた研究を特筆

すべき業績として挙げることができる(吉川 1999; Kikkawa 2000; 吉川 2006)。吉川が明ら

かにしていることは、学歴が階層帰属意識に与える影響が通時的にみて不変的なものでは決

してなく、時間の流れに応じて顕著に変化してきたことである。吉川が分析対象とした期間

は階層帰属意識の分布が安定していた 1975 年から 2003 年までの間であるが、この間、学歴

の階層帰属意識に対する影響は一貫して増大している。

1

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1970 年代、階層帰属意識と社会的地位変数との関連は強いものではなく、それが 1980 年

代、1990 年代と時代が経過するにつれて次第に強まってきた。2003 年になって職業威信の階

層帰属意識に対する影響は統計的な有意性を失ってしまったものの、学歴は依然として統計

的にみて有意な影響力をもっており、個人の階層帰属意識を予測する上で学歴は観察者にと

って意味のある情報となっている。

このとき注意しなければならないことは、学歴が階層帰属意識に対してもつ影響は、その

手段的な有用性に起因するものではなく、学歴それ自身の価値に由来しているということで

ある。職業および収入といった変数を投入してもなお学歴が強い影響を保持しているという

ことは、高い学歴が高い威信をもつ職業に就くために有用であったり、あるいは高い収入を

得るために有用であったり、そういった手段的な有用性でもって階層帰属意識を高めている

わけではないことを明らかにしている。それらとはまったく独立した次元で、学歴は、それ

自身、階層帰属意識を高くする何らかの作用を有している。

しかし、なぜ、学歴は人々の階層帰属意識に対してこのような強い影響力をもつようにな

ったのだろうか。残念ながら、このことに関する理論的な説明はいまだ十分になされていな

い。本稿の目的は、学歴が階層帰属意識に影響を及ぼすメカニズムを理論的に説明し、学歴

の階層帰属意識に対する影響が 1970 年代以降なぜ強まったのか、このことを明らかにするこ

とにある。

1.2 高学歴の大衆化と学歴の象徴的価値

日本社会における学歴の意味を考えるときに看過できない問題は、学歴をめぐる社会構造

の変動である。戦後日本社会が体験した急激な近代化の影響は、人々の生活にさまざまな変

化をもたらした。とうぜん、そこには学歴をめぐる社会構造の変動も含まれている。

学歴をめぐる社会構造の変動とは、具体的には高学歴の大衆化を意味する。学校基本調査

(文部科学省 2006)によれば、戦後の日本社会は 1970 年代半ばまでに急激な高学歴化を体

験している。たとえば、高等学校への進学率は 1970 年代半ばに 90%に到達し、さらに大学

への男性の進学率も 40%をはじめて超えている。そして、その後数十年間、日本社会は基本

的にはこの高い教育水準を維持し続けている。

このような急激な高学歴化と、そうして新たに形成された学歴構造の安定化は、日本社会

の教育水準の上昇と安定化を意味すると同時に、学歴がかつてもっていた象徴的な価値の下

落をもたらしているはずだと考えることは自然であろう。かつては社会のごく少数のエリー

トのみが進学した大学も、現代ではある程度の能力さえあれば誰でも進学することができる。

高学歴の大衆化によって、高い学歴を保持していることはなんら珍しいことではなくなった

からである(苅谷 1995)。

しかし、この推測は、前項で述べた学歴と階層帰属意識の関係の通時的な変化と整合して

2

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いない。階層帰属意識に対する学歴(の象徴的な価値)の影響は 1970 年代半ばではほとんど

現れていない。また、1970 年半ば以降になって、学歴(の象徴的な価値)の影響はその姿を

現し、その後、強化されている。これらのことは、少なくとも人々の社会意識においては、

学歴の(象徴的な)価値は、1970 年代以降、一貫して増大していることを示唆しているよう

にみえる 1。

このように、階層帰属意識を通して明らかにされる学歴の象徴的価値はいっけんすると私

たちの直観に反した変化を示しており、それゆえ学歴と階層帰属意識の関係の通時的な変化

はこの点において私たちに対して解きがたい謎を提示している。

しかし、なぜ、学歴の象徴的な価値は、希少性という価値の源泉を失っているにもかかわ

らず、下落することなく、むしろ増大しているのだろうか。本稿では、この問題の背後に、

階層帰属意識の形成に関する、これまで明らかにされてこなかったメカニズムの存在を仮定

し、そしてそのメカニズムはここで問題として提示した“学歴と階層帰属意識の関係の通時的

な変化”とも密接に結びついていると考える。したがって、もしこのメカニズムを明らかにす

ることができれば、単に学歴と階層帰属意識の関係と、そしてその通時的な変化が明らかに

されるだけでなく、“私たちがこれまで問題としてきた階層帰属意識とはそもそも何であるの

か”という、階層帰属意識に関するこのもっとも基本的な問題に対しても新たな視角を提示で

きるはすだと考えている。

1.3 “継承される意識”としての階層帰属意識

階層意識に関する先行研究は少なくないが、本稿ではその中でもP. ブルデューの研究に注

目したい(Bourdieu 1979; Bourdieu 1987; Bourdieu and Passeron 1970)。ブルデューは、階層意

識が社会的地位や経済的地位によって決まるだけでなく、個人の趣味や思考といった行動様

式(ハビィトゥス)によっても支配されていることを明らかにした。そして、個人の階層意

識に影響を与えている、このような行動様式は、その個人の出身階層を通じて習得され、教

育を通じて強化され、そして維持されるのである 2 3。このような意味での階層意識は、ある

1 高学歴化が私たちの期待するような結果を導いてないという議論は、階層帰属意識以外にも存在す

る。その 1 つとして、たとえば高学歴化が教育機会の平等化を促していないと議論がある(近藤 2001)。こうした現象に対しては理論的にはゴールドソープとブリーンの合理的選択モデルを用いた説明があ

り(Breen and Goldthorpe 1997; Goldthorpe 1997; 太郎丸 2002)、このモデルに基づいた関連研究

も少なくない(Morgan 1998; Davies, Need and de Jong 2001; Heinesen and Holm 2002; Becker 2003; Breen and Josson 2005)。このように、高学歴化は、近代社会にとって自明でない、複雑な現

象をもたらしている。 2 社会階層論では出身階層として、家庭の役割が強調される傾向がある(たとえば、Hauser and Mossel 1985; Sieben and De Graaf 2001; Sieben and De Graaf 2003)。もちろん、家庭の役割の重要性は否

定しがたい事実であるが、その影響はライフコースを通じてつねに大きなものでありつづけるわけで

はなく(Warren, Sheridan and Hauser 2002)、また出身階層として考慮されるべきものとして、たと

3

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一時点の社会的・経済的地位のみによって表現されるものではなく、いわばその個人によっ

て現在に至るまでに積み重ねられた経歴全体によって表現されるものである。したがって、

このような考えにたてば、自身の社会的・経済的地位に対する総合評価を意味する階層意識

は、個人にとって達成されるものであると同時に、親世代から“継承されるもの”でもあるこ

とがわかる。

しかし、ブルデューの議論は出身階層と到達階層が一致するケースに注目して議論を展開

しており、両者が一致しないケースではいったい何が生じるのか、このことを問題にしてい

ない。構造変動の激しい時期にはたとえ出身階層によって機会格差があったとしても、全体

としては一定数の社会移動が必ず生じ、出身階層と到達階層が同じでない個人が出現する(安

田 1971)。出身階層と到達階層が一致していない個人の階層帰属意識は、出身階層と到達階

層が一致している個人の階層帰属意識と比較して、いったいどうなっているのだろうか 4。

たとえば、かりにある個人が高い学歴を得て、威信の高い職業に就き、そして高い収入を

得ていたとしても、現在の境遇がかつて自身が所属していた(いいかえれば、自身がそこで

育ったところの)階層とあまりにも異なるために、その個人は新しい階層に自身を帰属させ

ることに違和感を覚えることが予想される。出身階層と到達階層が異なることは、その個人

にとってより強固な階層帰属意識形成を妨げる要因になるだろう(Brine and Waller 2004)。

階層帰属意識に特化した先行研究では、このような出身階層の影響に対して必ずしも注意

が払われてきたわけではない 5。しかし、本稿は、この出身階層の影響が学歴と階層帰属意識

の必ずしも直観にあわない関係を論理的に説明してくれると考えている。このことを、本稿

で検証が試みられる仮説を示しつつ、明らかにしよう。

本稿が検証することになる最初の仮説は、次の通りである。

えば出身地域・近隣 (Garner and Raudenbush (1991), Small and Newman (2001), Sampson, Morenoff and Gannon-Rowley (2002)など。ただし、Solon, Page and Duncan (2000)のような主張も

存在する)や、経済環境(Mayer 2002)や、宗派(Morgan 2001)のようなものがあることにも注意しなけ

ればならない。本稿は、そうした多くの諸要因の複雑な相互作用のごく一部に照準を当てているに過

ぎないことを、改めて強調したい。 3教育機会の平等化をともなう構造変動が、Lindbekk (1998)がノルウェーについて、また McPherson and Douglas (1987)がスコットランドについて指摘しているような階層の再生産の弱化をつねにもた

らすとは限らず、逆に構造変動に適応した再生産戦略の展開を促すという可能性も、Breen and Whelan (1993)がアイルランドを事例に指摘しているように、存在する。ブルデューらが指摘してい

るように教育が不平等を再生産している部分があるとしても、だからといって“教育機会が平等であ

りさえすれば、社会的不平等が解消される”わけではないことにも注意しなければならない(Shavit and Westerbeek 1998; Checchi, Ichino and Rustichini 1999)。 4 この問題については、今田・原(1979)の地位非一貫性に関する議論が参照になる。しかし、彼らの

議論は、当人の社会的・経済的地位間の非一貫性であり、本稿が問題にする世代間の地位非一貫性と

は異なっている。 5 ただし、例外として Plutzer and Zipp (2001)らの研究を挙げることができる。

4

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仮説1 出身階層と到達階層が一致しているとき、出身階層と到達階層が一致していない場

合と比較して、階層帰属意識はより強固に形成される。

これはブルデューの理論から直接的に導かれる仮説であるが、構造変動とあわせて考えた

とき、社会的地位と階層帰属意識の関係に対して重要な示唆を与える。たとえば、高学歴化

が進んで高い学歴を得ている個人が増えたとしても、出身階層に注目すれば、親も高学歴と

いう個人は依然として少数派である。つまり、高学歴化による学歴の象徴的価値の下落は、

その世代から始まるのではなく、その子供の世代から始まるのであり、時間的には遅れが発

生する。そしてこれは、戦後日本社会で高学歴化が進行したにもかかわらず、学歴の象徴的

価値がなかなか衰えなかったことを理論的に説明してくれる。

仮説 2 構造変動の激しい時期は、親と同じ社会的地位に到達していても、出身階層と到達

階層の“ずれ”が予測され、その社会的地位が階層帰属意識を規定する傾向が弱まる。

仮説 1 を考慮すれば、個人が自身の所属する階層に強い帰属意識を持つためには、自分が

かつて所属していた出身階層での社会的地位の価値と現に所属している到達階層での社会的

地位の価値とが一致していることを強く意識していなければならない。逆にいえば、もし自

分がかつて所属していた出身階層での社会的地位と現に所属している到達階層での社会的地

位とが同じであっても、その価値が一致していなければ、出身階層の資源を有効に利用する

ことで親の出身階層を継承することに成功したとしても、その個人は自分の現に所属してい

る到達階層がかつて所属していた出身階層と異なることを意識せざるをえず、その階層への

帰属意識が弱まることを予測できる。たとえば、父親と母親が高い学歴を保有する家庭に育

った個人は、かりに高い学歴を獲得することに成功しても、自分が獲得した学歴が高学歴化

によってかつてと同じ価値をもっていないことを意識せざるをえない。けっきょく、そのよ

うな個人は、出身階層と到達階層が異なっている個人と同じように、所属する階層に対して

弱い帰属意識しかもてないのである。したがって、構造変動が激しい時期には、客観的には

階層を継承することに成功した個人であっても、その個人は継承された階層に付与された社

会的意味がかつてと異なることを意識するために、出身階層と到達階層とで社会的地位が一

致していることの効果は弱くならざるを得ない 6。仮説 2 が意味することは、このことである。

6 今田(1989)は、移動レジームという概念を提示して、個人が親から継承した地位を守るためには(親

とは異なる)より高い地位を獲得することが必要になることを指摘している。しかし、そのような移

動が実現するためには、親から継承した地位よりも高い地位が社会に存在していなければならない。

しかし、高学歴家庭に育った個人にはもはやそのような学歴はその社会に存在していないので、その

5

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仮説 3 構造変動の少ない時期は、親と同じ社会的地位に到達した場合、出身階層と到達階

層が“一致している”ことが予測され、その社会的地位が階層帰属意識を規定する傾向が強ま

る。

一方、もし自分がかつて所属していた出身階層での社会的地位と現に所属している到達階

層での社会的地位とが同じであり、かつ両者の価値がおおよそ一致しているならば、出身階

層の資源を有効に利用することで親の出身階層を継承することに成功したとき、自分が現に

所属している出身階層とかつて所属していた到達階層との一致が強く意識され、階層帰属意

識が強まることが予測される。たとえば、父親と母親が高い学歴を保有する家庭に育った個

人が高い学歴を獲得することに成功したとき、自分が獲得した学歴(の象徴的価値)が親の

それとおおよそ一致していると意識する個人は、出身階層と到達階層が異なっている個人と

は異なり、所属する階層に対して強い帰属意識をもつようになる。つまり、構造変動の少な

い時期には、社会的地位を継承することに成功した個人は、継承した社会的地位のもつ象徴

的価値が親のもつそれと一致していることを意識するために、出身階層の社会的地位と到達

階層の社会的地位が一致していることの効果が強まる。仮説 3 が意味することは、このこと

である。

そして、この仮説 2 と仮説 3 は、1970 年代半ばには学歴が階層帰属意識に与える影響が弱

く、1970 年代以降になって学歴が階層帰属意識に与える影響が強まった理由を明らかにして

くれる。戦後の高学歴化は戦後一貫して進行したわけではなく、高校・大学への進学率が一

気に上昇した時期と、進学率が横ばいに推移した時期とを区別することができる。1970 年代

半ばはちょうどその境にあたり、進学率の上昇が一気に進行した 1970 年代半ばまでは構造変

動の激しい時期に相当し、また進学率が基本的には横ばいで推移した 1970 年以降は構造変動

が少ない時期に相当する。したがって、前者の変動期には学歴の地位継承の効果が消え、後

者の安定期には学歴の地位継承の効果が現れることで、後者において(継承を経由した)学

歴の階層帰属意識に与える影響がよりはっきりと観察できるようになる。

このように、仮説 1 から仮説 3 は、先にあげた問題を理論的に説明してくれる。したがっ

て、データの分析を通してこれらの仮説の妥当性が確認されたなら、私たちは学歴と階層帰

属意識をめぐる、いっけんすると直観に反するようにみえた事実を、当然の帰結とみなすこ

とができるようになるだろう。

ような個人の階層帰属意識は、高学歴化によっては、単に弱まるほかにない。

6

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2 方法

2.1 データ

分析にもちいるデータは『社会階層と社会移動に関する全国調査』(以下、SSM調査)であ

る。SSM調査は 1955 年から 10 年ごとに実施され、すでに 2005 年までの 6 回が実施されてい

る 7。本稿では、すでに実施された 6 回分のSSM調査データの共通項目をとりあげ、合併デー

タを作成し、そのデータにもとづいて分析をおこなう。

SSM 調査は、その名が示すように、日本の社会階層と社会移動の実態を明らかにすること

を目的とした社会調査である。そのため、年齢、学歴、職業に関する回答者本人の属性はも

ちろんのこと、回答者本人については初職以降の詳しい職歴、さらに回答者の父親や配偶者

の社会的・経済的地位など、社会階層に関する詳しい情報が、共通のフォーマットにしたが

った形で収集されている。また、そうした社会的・経済的地位変数以外に、SSM 調査の重要

な継続項目の一つとして、実施されたすべての調査において、回答者の階層帰属意識に関す

る項目がある。このような特徴をもつ SSM 調査は、社会構造と階層帰属意識の関連、および

その変化を問題関心とする本稿にとっては、もっとも好都合なデータセットだといってよい

だろう。

SSM調査は、20歳から 70歳までの日本の選挙権を有する成人を調査対象に設定している。

ただし、1955 年から 1975 年までは男性のみが調査対象になっており、女性が調査対象に加

えられたのは 1985 年以降のことである。

SSM 調査のサンプリングは、二段階無作為抽出法で行われている。まず、人口規模に応じ

た重み付けにしたがって市町村単位のサンプリングが行われ、その後、選挙人名簿をもとに

個人単位のサンプリングが行われている。ただし、各回の SSM 調査のサンプル規模は必ずし

も同じではない。各回のサンプル設計と回収率は表 1 で示した通りである(ただし、示して

いるのは、本稿で分析にもちいた男性票のみである)。

表中の回収率の数字は、一部の項目について欠損値を含んだケースも含めてカウントした

場合の数字である。したがって、分析にもちいる変数(たとえば、世帯収入)が欠損値にな

っているケースを考慮すると、実際に分析にもちいることのできるケース数は表の数字より

もかなり少なくなる 8。なお、分析にもちいた正確なケース数は、世帯収入を除いた分析では

7 ただし、実施主体の組織的な連続性は必ずしも存在しない。各回の調査ごとに調査研究会を組織す

る、という方式をとっている。したがって、各回の SSM 調査をそれぞれ独立の社会調査だと解釈す

ることもできる。 8 SSM 調査の回収率は回を追うごとに低下しており、とりわけ収入に関する項目は正確な情報をかつ

てよりも得られにくくなっている。調査データの質を考えると、これらの問題を軽視することはでき

ないが、問題の原因は多岐にわたっており、それらの詳細な検討は本稿の範囲を超えた作業となる。

ここでは問題点のみを指摘し、この問題については、これ以上、深入りしないこととする。

7

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11,689 であり、世帯収入を含んだ分析では 10,374 である。

表 1 SSM 調査(1955~2005)のサンプルサイズと回収率(男性票のみ)

調査票のタイプ サンプルサイズ 回収数 回収率

1955 年 4,500 2,014 44.8%

1965 年 3,000 2,077 69.2%

1975 年 4,001 2,724 68.1%

1985 年 A 2,030 1,239 61.0%

1985 年 B 2,030 1,234 61.0%

1995 年 A 2,016 1,248 61.9%

1995 年 B 2,016 1,242 61.9%

2005 年 7,070 2,660 37.6% *1955 年 SSM 調査と 1965 年 SSM 調査の公式回収数(回収率)は、それぞれ 3677(81.7%)と 2158(71.9%)

である(SRDQ事務局編『SRDQ:質問紙法にもとづく社会調査データベース』 [http://srdq.hus.osaka-u.ac.jp])。しかし、電子データとして使用できるケース数は、これよりも数が少なく、表では電子データとして使用で

きるケース数に合わせて回収数、回収率を計算している。 **2005 年 SSM 調査については、当初のサンプルサイズと実施された際のサンプルサイズとの間にずれがあ

り、2005 年 SSM 調査研究会では後者にもとづいた回収率(44.1%)を公式の回収率としている。表中の数

字は、この公式回収率よりもかなり低い数字になっているが、公式回収率の男女の内訳が分からなかったた

め、ここでは当初のサンプルサイズを用いて計算した回収率を便宜的に示している。

前述の通り、SSM 調査では利用できる女性のデータは 1985 年以降に限られている。1955

年から 1975 年についてはそもそもデータが存在しないので、女性の階層帰属意識については、

1955 年から 2005 年までの 50 年間の変化を追いかけることはできない。このような理由から、

本稿では女性のデータを分析の対象から除いてある。もちろんこのことは、社会階層(およ

び階層意識)の問題を考える際に男性のデータだけを考えれば十分であり、女性のデータを

考慮する必要はない、ということを意味するものではない(Acker 1973; Acker 1980; Korupp,

Ganzeboom and van der Lippe 2002)。実際に、女性の階層帰属意識の分析については日本社会

に限ってもすでに重要な先行研究が存在し、2005 年の SSM 調査データをもちいた分析も出

始めている(直井 1990; 盛山 1994; 盛山 1998; 赤川 1998; 赤川 2000; Shirahase 2001; 神林

2004; 数土 1998; 数土 2003; 数土 2007)。にもかかわらず、本稿の重要な目的の一つは戦後

の社会構造変動と階層帰属意識との関連を明らかにすることであり、本稿ではあえて 1955

年以降のすべての情報がそろっている男性のデータのみを取り上げ、1975 年以前の情報が存

在しない女性のデータを取り除いた。その意味で本稿の主張が妥当する範囲は、おのずと男

性に限定されることになる。

8

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2.2 変数

従属変数

本稿で従属変数としてもちいられるのは、階層帰属意識である。階層帰属意識は、1955 年

の調査から 2005 年の調査まで同一の質問文で回答を得ている数少ない質問項目の一つであ

る 9。SSM調査では回答者に自身が所属する階層として「上、中の上、中の下、下の上、下の

下」の五段階から選択させているが、本稿ではこれを「上・中の上」、「中の下」、「下の上・

下の下」の 3 カテゴリーに再編成し、質的変数として分析にもちいた。3 カテゴリーに編成

する際に、「上」、「中の上・中の下」、「下の上・下の下」のようにしなかった理由は 2 つある。

1 つは、「上」と回答するものの割合が極端に小さいということである。どの時期の調査をみ

ても、「上」と回答しているものはわずか数パーセントしか存在しない。もう 1 つは、「中の

下」と回答するものがそれだけで全体の半数を占めており、単独のカテゴリーとして扱うこ

との方が適切だったからである。実際に、直井(1979)は 1975 年SSMデータをもとに階層帰属

意識を分析し、「中の上」と「中の下」を構成する回答者の社会的・経済的地位には大きな差

があり、「上」と答えるものの圧倒的な少なさを考えれば、実質的には「中の上」が<上>を

意味していると指摘している 10。したがって、「上・中の上」が実質的には<上>であり、「中

の下」が実質的には<中>であり、「下の上・下の下」が実質的に<下>であると考えて分析

することが適切となる。

なお、階層帰属意識の分布は必ずしも安定したものではなく、またその変化の趨勢も一貫

しているわけではない。表 2 から分かるように、55 年から 75 年にかけては階層帰属意識の

分布は一貫して上方にシフトしており、それに対して 75 年から 95 年にかけては階層帰属意

識の分布はきわめて安定している。また、95 年から 05 年にかけては階層帰属意識は今度は

下方にシフトしている。2000 年代になって、さまざまな分野で社会的格差が問題にされるよ

うになったけれども、この結果はいっけんするとこうした格差拡大の流れを反映しているか

のようにみえる。しかし、SSM 調査プロジェクトに参加している社会学者の中には、この 2005

年 SSM 調査データにおける階層帰属意識分布にもとづいて“2000 年代に入ってさまざまな社

会的格差が拡大した結果、階層帰属意識分布が下方にシフトした”という立場をとるものはほ

とんどいない。SSM 調査プロジェクトのメンバーが“階層帰属意識分布が下方にシフトした”

という立場をあえてとらない理由は、大きく分けて 2 つある。

1つは、『国民生活に関する世論調査』(内閣府 2007)、2003 年に実施された『仕事と暮ら

9 ただし、2005 年 SSM 調査では、面接調査による回答でなく、留置調査による回答となっている。

分析結果を解釈する場合には、このことにも注意する必要がある。 10 なお、この傾向は、日本人が中庸を好む国民性を有しているから現れたというものではない。同じ

ような傾向は、アメリカの階層帰属意識研究においても指摘されているし(Yamaguchi and Wang 2002)、階層帰属意識に関する国際比較研究についても同様の指摘がなされている(Evans and Kelly 2004)。

9

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しに関する全国調査』11、2006 年に実施された『中央調査社個人オムニバス調査(2 月)』12

など、他の社会調査データでは、このような結果が観察されていないからである。

もう 1 つは、2005 年 SSM 調査の階層帰属意識項目を従来の SSM 調査の階層帰属意識項目

とは単純に比較できない理由があるからである。

まず、2005 年 SSM 調査データについては、それまでの SSM 調査データと比較して、回収

率の大幅な低下が問題として指摘されている。それまで SSM 調査の回収率はおおよそ 60~

70%で推移してきたけれども、2005 年の SSM 調査の(公式)回収率は 40%台に落ち込んで

いる。とうぜん、このことが結果に何らかの影響を与えていることを推測できる。

また、2005 年SSM調査データでは、階層帰属意識の調査法を従来のSSM調査の調査法から

変えてしまったことも問題として指摘されている。それまでのSSM調査は個別面接調査法で

一貫していたけれども、2005 年SSM調査データでは(階層帰属意識に関する質問項目を含む)

多くの意識項目について留置調査法を採用している。そして、留置調査票での質問に対する

回答の選択肢として「9.わからない」をいれてしまったために、2005 年SSM調査データで

の階層帰属意識分布は、それまでのSSM調査データでの階層帰属意識分布と比較すると、

NA/DK(無回答/不明)が多く含まれている。もし留置調査では「9.わからない」という

形で判断留保した人々が、個別面接調査では(無難な回答として)「3.中の下」と答えたで

あろう人々を多く含んでいたとするなら、この調査法の変更は「中の下」を減らす方向に作

用した可能性がある 13。

もちろん、実際に階層帰属意識分布の下方シフトが生じている可能性を否定することもで

きない。なぜなら、2003 年仕事と暮らし調査データの階層帰属意識分布は、1975 年から 1995

年の階層帰属意識分布ときわめてよく似た分布をしているとはいえ、やや下方にシフトして

いるようにみえるからである 14。また同様に、2006 年 2 月実施の中調オムニバス調査におい

ても、その階層帰属意識分布は、従来の分布とよく似た分布をしている一方で、「中の上」が

11 こ の デ ー タ は 、 東 京 大 学 社 会 科 学 研 究 所 の デ ー タ ・ ア ー カ イ ブ

(http://ssjda.iss.u-tokyo.ac.jp/index.html)を通じて入手することができる。 12 この調査は日本全国を対象にしており、調査対象者は 20 才以上の男女である。無作為抽出法で選

択されたサンプルの規模は 2,000、回収数 1,369(回収率 68.5%)である。2006 年 2 月に個別面接調

査法で実施された。階層帰属意識項目については、SSM 調査と同一の文がもちいられ、男性(656 名)

に限定した階層帰属意識の分布は、上が 1%、中の上が 20,9%、中の下が 53.4%、下の上が 17.1%、

下の下が 4.4%、NA/DK が 3.2%となっている。確かに、上・中の上はやや減少しているものの、そ

れまでの SSM 調査の分布と比較すると、極端に違っているわけではない。 13 このことは、「中の下」を、内実をもった固有の階層と理解するよりは、“(中の)上でもなく、下

でもない”というように消極的に意味づけられた階層として理解することが適切であることを示唆し

ている。 14 ちなみに、2003 年 SSM 予備調査データにおける男性の階層帰属意識分布は、上が 1.5%、中の上

が 23.3%、中の下が 44.9%、下の上が 18.8%、下の下が 7.53%、NA/DK(無回答/不明)が 4.1%である。

10

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若干減少しており、やや下方シフトしているようにもみえなくもない 15。

いずれにしても、現段階でこの問題について決定的な答えを与えることはできず、今後の

データの蓄積を待つほかない。

表 2 1995 年から 2005 年までの階層帰属意識分布の推移(男性のみ)

(%)

調査年 1955 年 1965 年 1975 年 1985 年 1995 年 2005 年 合計

実数 2,014 2,077 2,724 2,473 2,490 2,660 14,438

上 0.3 0.3 1.2 1.9 1.4 0.6 1.0

中の上 7.2 12.1 23.4 24.0 25.5 16.8 18.7

中の下 34.8 42.7 53.0 47.4 46.8 38.4 44.2

下の上 37.7 32.2 16.7 17.5 15.9 25.5 23.5

下の下 18.6 8.8 3.9 5.9 5.8 7.7 8.0

NA/DK 1.6 3.9 1.8 3.3 4.7 11.0 4.5

出典:社会階層と社会移動全国調査 1955-2005

独立変数

本稿で独立変数としてもちいられるのは、本人学歴と父学歴、そしてそれらと調査時期と

の相互作用項である。従来の社会移動研究では職業に注目して分析が行われてきた。しかし、

本稿では、職業ではなく、学歴に注目して分析を行う。これは、職業移動よりも学歴移動の

方が重要だからだという理由ではなく、学歴が職業や収入に比較すると安定した社会的地位

であること、一般に階層帰属意識に対する影響は職業よりも学歴の方が強いと指摘されてい

ることによる(吉川 2006)。したがって、本稿の仮説の検証にとって、学歴はもっとも都合

のよい変数だと考えられる。

本稿では、本人学歴および父学歴を「初等学歴」、「中等学歴」、「高等学歴」の 3 つのクラ

スに分け、それぞれのクラスについてダミー変数を作成した。よく知られているように、日

本の教育制度は戦後を境にして大きく変化している。そのため、本人学歴と父学歴とを対応

させる作業は、決して自明な作業ではない。本稿では、旧制の中学は新制の高校に、旧制の

高校は新制の大学に相当すると考え、新制の学歴と旧制の学歴から以下のようにして、3 つ

のクラスを作成した。

まず、初等学歴に分類されたのは、主として新制中学を最終学歴とする者のクラスである。

15 この調査は日本全国を対象にしており、調査対象者は 20 才以上の男女である。無作為抽出法で選

択されたサンプルの規模は 2,000、回収数 1,369(回収率 68.5%)である。2006 年 2 月に個別面接調

査法で実施された。階層帰属意識項目については、SSM 調査と同一の文がもちいられ、男性(656 名)

に限定した階層帰属意識の分布は、「上」が 1.1%、「中の上」が 20.9%、「中の下」が 53.4%、「下

の上」が 17.1%、「下の下」が 4.4%、NA/DK(無回答/不明)が 3.2%となっている。

11

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0.0

10.0

20.0

30.0

40.0

50.0

60.0

70.0

80.0

90.0

100.0

54

57

60

63

66

69

72

75

78

81

84

87

90

93

96

99

02

05

年度

高校進学率(男性) 大学進学率(男性)

図 1 進学率(男性)の推移(1954 年-2006 年)

(出典:文部科学省学校基本調査)

旧制の尋常小学校・高等小学校、またごく少数であるが学歴なしという回答者もこのクラス

に含まれる。いわば、新制の教育システムでの義務教育(9 年)、もしくはそれ以下の教育を

受けた人々のクラスである。中等学歴に分類されたのは、主として新制高校を最終学歴とす

る者のクラスである。旧制の中学校・実業学校・師範学校を最終学歴とする者もこのクラス

に含めた。最後に、高等学歴に分類されたのは、新制大学、短期大学、高等専門学校、もし

くは大学院を最終学歴とする者のクラスである。旧制大学、旧制高校、高等師範学校、そし

て旧制の専門学校を最終学歴とする者もこのクラスに含まれる。なお、職業訓練を主とした

専門学校への通学については、ここでは学歴にカウントしなかった。

また、階層帰属意識の判断メカニズムにおける地位継承の効果を時期別にみるため、学歴

継承と調査時期の相互作用も独立変数としてもちいた。本稿では、1955 年度から 1965 年度

までのデータセットを進学率上昇期に区分し、1975 年度から 1995 年度までのデータセット

を進学率安定期に区分し、2005 年度のデータセットを大学進学率再上昇期に区分した。図1

は、学校基本調査(文部科学省 2006)で報告されている戦後日本の男性に限定した進学率の

変化である。図1をみると、高校への進学率は 50 年代から上昇を続け、1975 年に 90%を超

えるとその後はこの高い水準で安定している。したがって、高校への進学を基準として考え

たとき、1970 年代前半を一つの区切りと考えることが適切である。また、大学進学率につい

ても 1975 年頃までは一貫して上昇しており、1975 年には 40%に到達している。しかし、そ

12

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の後、大学への進学率は 40%を割り、30%台後半で安定する。したがって、大学への進学を

基準として考えた場合にも、やはり 1970 年代前半に一つの区切りがあったと考えることが妥

当だろう。しかし、その後、大学への進学率は少しずつ上昇し、2005 年では 50%を突破して

いる。図1から、安定期と再上昇期の明確な区切りを見出すことは難しいが、ここでは 1975

年の水準を超えた 1995 年頃を安定期の終わりと考えることにした。

統制変数

本稿では、人口学的な要因を統制するため、年齢を統制変数としてもちいた。年齢は、実

年齢をそのまま量的変数としてもちいた。年齢以外に統制変数としてもちいたのは、本人職

業と世帯収入の、2 つの社会的・経済的地位変数である。

職業は、SSM8 分類をさらに 4 つに統合して、それぞれのカテゴリーについてダミー変数

を作成した 16。具体的には、ホワイトカラー上層(専門職+管理職)、ホワイトカラー下層(事

務職+販売職)、ブルカラー(熟練労働者+半熟練労働者+非熟練労働者)、そして農業であ

る。さらに、無職・学生についてもダミー変数を作成し、これも職業に関する統制変数とし

た。ただし、この変数は、実際の分析では参照カテゴリーとして省略されている。

世帯収入を統制変数としてもちいる場合には、2 つの問題が存在する。1 つは、少数の回答

者が極端に高額な収入を得ているために生じる分布の歪みである。もう 1 つは、貨幣価値の

長期的な変動である。

これらの問題を回避するために、本稿では世帯収入額 17をそのまま量的変数として投入す

るのではなく、“当該調査年度のデータセットにおける平均世帯収入と 1955 年度のデータセ

ットにおける平均世帯収入の比”を世帯収入額をかけて、その値の自然対数を世帯収入スコア

とした 18。具体的には、以下の式をもちいて世帯収入スコアを計算している。

⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛+×= 1log 1955

jii income

incomeincomeScore (1)

16 SSM 職業分類の詳細については、1995 年 SSM 調査コードブック (1995 年 SSM 調査研究会 1998)を参照のこと。本稿では、社会移動研究で国際的にもちいられちえる ISCO-88 にもとづいた職業分類

(Ganzeboom and Treiman 1996)は使用しなかった。これは、1955 年から 1995 年の SSM データには、

ISCO-88 にもとづいた職業分類コードが用意されていないからである。 17 ただし、SSM 調査では回答者に世帯収入の実額を尋ねているわけではなく、世帯収入について複

数の選択肢を提示し、その中からもっとも近いものを選択させている。ここでは、各選択肢の中間値

(たとえば、1000 万円以上~1200 万円未満という選択肢ならば、1100 万円)を、回答者の世帯収入

額とみなしている。 18 年度の異なる収入を比較するときにしばしばもちいられるのは、消費者物価指数による補正である。

しかし、総務省統計局が公表しているデータには、1955 年および 1965 年の指数が求められておらず、

ここでは消費者物価指数を利用しての世帯収入額の補正はおこなわなかった。

13

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表 3 各変数の記述統計量

変数 平均、もしくは割合(%) 標準偏差 Min Max

階層帰属

上・中の上 21.4

中の下 46.7

下の上・下の下 31.8

年齢 42.7 13.2 20 70

本人学歴

高等学歴 24.0

中等学歴 37.5

初等学歴 38.5

父学歴

高等学歴 9.6

中等学歴 17.1

初等学歴 73.3

世帯収入スコア 28.0 22.5 0.0 948.2

本人職業

ホワイト上層 18.5

ホワイト下層 25.5

ブルーカラー 34.5

農業 14.8

無職/学生 6.9

調査年度

1955 15.4

1965 15.4

1975 20.8

1985 17.7

1995 17.1

2005 13.7

N = 11,689 (ただし、世帯収入スコアについては、N = 10,374)

ただし、 は当該ケースの世帯収入、iincome jincome はj年度における平均世帯収入、

1955income は 1955 年度における平均世帯収入を意味している。括弧内の式に 1 が加えられて

いるのは、無収入(0 円)の対数が定義されないことを避けるためである 19。

式(1)から分かるように、本稿でもちいられる世帯収入スコアは対数をとることによって極

端に高額な世帯収入の影響を取り除き、また各調査年度毎の平均世帯収入を 1955 年度の平均

19 1 を加えた場合、無収入であれば、世帯収入スコアは 0 になる。

14

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世帯収入にそろえることで、異なった年度の世帯収入を比較できるようにしている。したが

って、この世帯収入スコアをもちいることにより、先にあげた 2 つの問題点を回避すること

ができる。

なお、独立変数および統制変数の記述統計量は、表 3 に示してある。

2.3 方法

本稿では、分析の手法として多項ロジットモデルを採用する 20。多項ロジットモデルは、

従属変数の値を直接予測する重回帰モデルと異なり、確率のロジットを予測するモデルであ

り、質的変数で多変量解析を行う場合に一般にもちいられる方法である。また本稿では、階

層帰属意識を判断するある程度普遍的な認知モデルが存在することを仮定する。そして、そ

のモデルが変数の値に応じて、あるいは変数間の相互作用によって、人々に異なった階層帰

属意識を抱かせるように作用するのだと考える 21。

まず、ベースラインとなるモデルは以下の式で表現される。

⎪⎪⎪⎪

⎪⎪⎪⎪

+⋅+

⋅+⋅+⋅+=⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

+⋅+

⋅+⋅+⋅+=⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

∑∑

∑∑

εβ

ββββφφ

εβ

ββββφφ

Score

occupationeducationageLog

Score

occupationeducationageLog

L

jj

Ljii

LiLLM

L

H

jj

Hjii

HiHHM

H

4

3210

4

3210

)()(

)()(

(2)

ただし、

Hφ :「上・中の上」に帰属意識を持つ確率、

Mφ :「中の下」に帰属意識を持つ確率、

Lφ :「下の上・下の下」に帰属意識を持つ確率、

age: 年齢 20 本項で、順序ロジットモデルではなく、多項ロジットモデルをもちいた理由は、「中の上」の特異

な性格に原因がある。階層帰属意識に関する項目を、訪問面接調査法(1955 年-1995 年)から留置

調査法(2005 年)へと質問の仕方を変えた結果、「中の下」が減り、逆に「わからない」が増えてい

る。このことは、「中の下」が“上とも、下ともいえない”という判断の保留を意味した“中間選択肢”

として、これまで人々に意識されていた可能性を示唆している。それゆえ、ここでは、「上・中の上」、

「中の下」、「下の上・下の下」が明確な順序を構成しているとは考えず、あえて多項ロジットモデル

をもちいて分析をおこなった。 21 もちろん、人々の階層帰属意識はこのような認知モデルによって決定論的に説明されるわけではな

い。本稿で問題にされる認知モデルは、人々の階層帰属意識を判断する複雑な過程のある特定の側面

に焦点をあてて抽象化したものに過ぎず、モデルの有効性は統計的な有意性でもって蓋然的に判断さ

れるものである。実際に、いくつかの要因に対して、いくつかのモデルが同時に作用していること

(Yamaguchi 2002; Yamaguchi and Wang 2002)が考えられ、階層帰属意識の判断メカニズムがある

特定のモデルに完全に還元しうるというのは、幻想であろう。

15

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education i:学歴カテゴリーi (初等[参照カテゴリー]、中等、高等、)

occupation j:職業カテゴリーj (W 上層、W 下層、ブルーカラー、農業、無職・学生[参照

カテゴリー])

Score:世帯収入スコア

β :切片、もしくは各変数にかかる係数

ε :誤差

を意味する。

式(2)から分かるように、本稿のモデルは、基準カテゴリーに「中の下」をおき、「中の下」

に対する「上・中の上」(あるいは「下の上・下の下」)の確率のロジットが変数の値によっ

てどのように変化するかを考えるモデルである。基準カテゴリーに「中の下」をおいた理由

は、「中の下」が全体の階層帰属意識において占める割合が4割ともっとも高く、さまざまな

情報が加わることによって「中の下」から「上・中の上」(あるいは「下の上・下の下」)へ

移行すると考えるモデルがもっとも適当だと考えたからである。

本稿では、このベースラインモデルに「本人学歴と父学歴との相互作用」を加えた次のモ

デルを考え、係数の値を最尤法をもちいて推定した。

⎪⎪⎪⎪⎪

⎪⎪⎪⎪⎪

+⋅+⋅+

⋅+⋅+⋅+=⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

+⋅+⋅+

⋅+⋅+⋅+=⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

∑∑

∑∑

εββ

ββββφφ

εββ

ββββφφ

kkkLkL

jj

Ljii

LiLLM

L

kkkHkH

jj

Hjii

HiHHM

H

edusfathereducationScore

occupationeducationageLog

edusfathereducationScore

occupationeducationageLog

)_'*(

)()(

)_'*(

)()(

54

3210

54

3210

(3)

ただし、 は本人学歴と父学歴の相互作用項を意味し、本人学歴

と父学歴が一致するか否かを識別するダミー変数である。具体的には、本人学歴が中等学歴

で父学歴も中等学歴の場合、本人学歴が高等学歴で父学歴も高等学歴の場合の 2 つのダミー

変数が存在する。

kk edusfathereducation _'*

なお、本人学歴と父学歴の相互作用を検討する際、本人学歴が初等学歴で父学歴も初等学

歴である場合の相互作用項はモデルから外した。その理由は、初等学歴の継承者であること

と、本人学歴が初等学歴であることとが、実質的には区別されないからである。

図 2 は本人学歴と父学歴の関係を示したものである。

図 2 から、本人学歴が初等学歴である回答者は、実にその 95%が父学歴も初等学歴である

ことがわかる。つまり、初等学歴であることの効果と初等学歴の継承者であることの効果は

ほとんど重なっており、両者を区別することはほとんど不可能である。したがって、ここで

は、初等学歴については本人学歴と父学歴の相互作用を検討することはしなかった。

16

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1.2

6.2

28.6

4.0

21.8

30.7

94.9

72.0

40.7

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

初等

中等

高等

本人学歴

父学歴

高等 中等 初等

図 2 父学歴の構成分布(本人学歴別)

一般的に学歴が高いほど階層帰属意識も高くなることが知られているので、もし仮説1

が正しければ、本人も父親もともに高等学歴である場合にはそうでないケースと比較して

「上・中の上」という階層帰属意識を持つ可能性が高くなるはずである。一方、本人も父親

もともに中等学歴である場合、どの階層に帰属する可能性が高まるかは、その時点での中等

学歴の相対的な価値に依存して決まるだろう。

本稿ではさらに、ベースラインモデルに「本人学歴と父学歴と調査時期の相互作用」を加

えた以下のモデルについても検討し、やはり係数の値を最尤法をもちいて推定した。

⎪⎪⎪⎪⎪

⎪⎪⎪⎪⎪

+⋅+⋅+

⋅+⋅+⋅+=⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

+⋅+⋅+

⋅+⋅+⋅+=⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

∑∑

∑∑

∑∑

∑∑

εββ

ββββφφ

εββ

ββββφφ

k llkkHklL

jj

Ljii

LiLLM

L

k llkkHklH

jj

Hjii

HiHHM

H

periodedusfathereducationScore

occupationeducationageLog

periodedusfathereducationScore

occupationeducationageLog

)*_'*(

)()(

)*_'*(

)()(

54

3210

54

3210

(4)

ただし、 は、時期カテゴリー と先に定義し

た(本人学歴と父学歴が一致するか否かを識別する)ダミー変数との相互作用を示している。

時期カテゴリーには、1955 年・1965 年・1975 年(進学率上昇期)、1985 年・1995 年(進学

率安定期)、2005 年(大学進学率再上昇期)の 3 カテゴリーが存在する。もし仮説 2 が正し

ければ、父親から本人へ学歴が継承されることで特定の階層帰属意識をもつ可能性が高まる

効果は、学歴構造が安定している時期(高等学歴については進学率安定期、中等学歴につい

lkk periodedusfathereducation *_'* lperiod

17

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ては進学率安定期および大学進学率再上昇期 22)に強まるはずである。また同様に、もし仮

説 3 が正しければ、父親から本人へ学歴が継承されることで特定の階層帰属意識をもつ可能

性が高まる効果は、学歴構造が変動している時期(高等学歴については進学率上昇期および

大学進学率再上昇期、中等学歴については進学率上昇期)には弱まるはずである。

このように、これらのモデルから推定される係数を検討することで、本稿の仮説の妥当性

を明らかにすることができる。

3 分析結果

3.1 学歴継承効果の分析結果

最初に、統制変数のみを投入したベースラインモデルについて確認しよう。表 4 は、多項

ロジット分析の結果を示している。表 4 のモデル 1 およびモデル 223から分かるように、年

齢、学歴、職業、そして世帯収入は、回答者の階層帰属意識に対して統計的に有意な効果を

もっている。

まず年齢は、「上・中の上」に対してはプラスの効果をもち、「下の上・下の下」に対して

はマイナスの効果をもっている。このことは、年齢が上がるにつれて「下の上・下の下」が

減り、階層帰属意識は「上・中の上」もしくは「中の下」へと上方にシフトしていく傾向が

あることを示している。学歴をみてみると、高等学歴には「上・中の上」と回答する確率を

高める効果と「下の上・下の下」と回答する確率を低める効果がある。一方、中等学歴にも、

「上・中の上」と回答する確率を高める効果と、「下の上・下の下」と回答する確率を低める

効果がある。しかし、中等学歴の「上・中の上」と回答する確率を高める効果は世帯収入ス

コアを統制すると消えるため、この効果は収入を媒介にした間接的な効果だということがわ

かる。これらの事実は、一般的に高い学歴が階層帰属意識を高める効果をもつことを示唆し

ており、回答者によって学歴が階層帰属意識を判断するための社会的地位として明瞭に自覚

されていることが分かる。

また職業をみてみよう。ホワイトカラー上層には「上・中の上」と回答する確率を高める

効果と「下の上・下の下」と回答する確率を低める効果がみいだされている。しかし、前者

の効果は、世帯収入を統制したモデルでは消えている。一方、ホワイトカラー下層には、「上・

中の上」と回答する確率と「下の上・下の下」と回答する確率を同時に低める効果(いいか

22 進学率再上昇期において上昇している進学率は大学進学率だけであり、高校進学率が 90%の水準を

超えた段階で、高校進学率についてはもはや顕著な変化は存在しない。 23 経験的に、世帯収入スコアが階層帰属意識に対して大きな影響力をもっていることが知られている

が、同時に世帯収入スコアは欠損値も多く、しかもその傾向は調査年が新しくなるにつれて顕著にな

る。したがって、ここでは、世帯収入スコアを除いたモデルと世帯収入を投入したモデルの両方で係

数を推定している。

18

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表 4 多項ロジット分析の係数 I

従属変数:階層帰属意識

変数 モデル 1 モデル 2 モデル 3 モデル 4

上・中の上/中の下

年齢 0.008*** 0.005** 0.008*** 0.006***

(0.002) (0.002) (0.002) (0.002)

高等学歴 0.474*** 0.403*** 0.371*** 0.313***

(0.076) (0.082) (0.081) (0.087)

中等学歴 0.145** 0.101 0.128* 0.082

(0.065) (0.069) (0.068) (0.072)

ホワイトカラー上層 0.248** -0.029 0.253** -0.024

(0.105) (0.128) (0.106) (0.128)

ホワイトカラー下層 -0.131 -0.299** -0.115 -0.286**

(0.105) (0.127) (0.105) (0.127)

ブルーカラー -0.249** -0.346*** -0.224** -0.323**

(0.107) (0.128) (0.107) (0.128)

農業 -0.172 -0.284** -0.150 -0.262*

(0.122) (0.142) (0.122) (0.142)

世帯収入スコア 0.436*** 0.430***

(0.048) (0.048)

高等(本人)×高等(父) 0.392*** 0.347***

(0.093) (0.102)

中等(本人)×中等(父) 0.113 0.124

(0.096) (0.102)

定数 -1.241*** -2.403*** -1.295*** -2.431***

(0.143) (0.212) (0.144) (0.213)

下の上・下の下/中の下

年齢 -0.004** -0.005** -0.004** -0.005**

(0.002) (0.002) (0.002) (0.002)

高等学歴 -0.918*** -0.810*** -0.896*** -0.787***

(0.074) (0.080) (0.079) (0.086)

中等学歴 -0.537*** -0.472*** -0.554*** -0.486***

(0.052) (0.055) (0.055) (0.058)

ホワイトカラー上層 -0.653*** -0.384*** -0.654*** -0.384***

(0.105) (0.125) (0.105) (0.125)

ホワイトカラー下層 -0.340*** -0.193* -0.342*** -0.194*

(0.096) (0.114) (0.096) (0.114)

19

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ブルーカラー -0.149 -0.058 -0.150 -0.058

(0.094) (0.111) (0.094) (0.111)

農業 -0.001 0.037 -0.002 0.037

(0.102) (0.118) (0.102) (0.118)

世帯収入スコア -0.486*** -0.486***

(0.039) (0.039)

高等(本人)×高等(父) -0.086 -0.094

(0.124) (0.137)

中等(本人)×中等(父) 0.083 0.074

(0.086) (0.094)

定数項 0.398*** 1.754*** 0.393 1.753***

(0.126) (0.172) (0.127) (0.173)

LL -11783.3 -10257.8 -11771.4 -10249.5

N 11,689 10,374 11,689 10,374 括弧内の数字は標準誤差 学歴の基準カテゴリーは初等学歴 職業の基準カテゴリーは、無職・学生 * p < 0.1; ** p < 0.05; *** p < 0.01

えれば、「中の下」を増やす効果)がみいだされる。しかし、前者の効果は、今度は世帯収入

を統制しないモデルでは消えている。したがって、これらの効果を解釈する際には、収入の

影響を無視できないことに気をつけなければいけない。また、ブルーカラーと農業には「上・

中の上」と回答する確率を低める効果が観察されている。しかし、農業に関しては、この効

果は世帯収入を統制しないモデルでは消えている。これらの事実は、回答者によって職業間

に何らかの序列が存在することが意識され、その序列が階層帰属意識の形成に何らかの効果

を及ぼしていることと、その一方でそうした効果は収入に影響を受けるために単純なものに

はなっていないことを明らかにしている。

最後に収入をみてみると、世帯収入スコアには「上・中の上」と回答する確率を高め、逆

に「下の上/下の下」と回答する確率を低める効果がある。明らかに、収入は階層帰属意識

に影響を及ぼしており、収入が高くなればなるほど、回答者の階層帰属意識も高くなる。

次に、本人学歴と父学歴の相互作用を考慮したモデルを検討しよう。

表 4 のモデル 3 とモデル 4 は、本人学歴と父学歴が一致するケースを高等学歴、中等学歴

の 2 通りにわけ、それぞれのダミー変数として投入したモデルである。モデル 3 およびモデ

ル 4 が示している係数の値からわかるように、有意水準に若干の変化はあるものの、値の符

号を含め、統制変数については全体的に大きな変化はない。一方、本人学歴と父学歴の相互

作用項については、本人が高等学歴で父親も高等学歴のケースについて、階層帰属意識に対

する統計的に有意な効果を見出すことができる。したがって、本人学歴と父学歴の相互作用

20

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は、確かに回答者の階層帰属に影響を与えている。少なくとも高等学歴については、本人学

歴・本人職業および世帯収入を統制してもその効果が強く現れており、統制変数とは独立の

次元で回答者の階層帰属意識に影響を与えている。

では具体的に、本人学歴と父学歴が一致していること、いいかえれば学歴に関して出身階

層と到達階層が一致していることは回答者の階層帰属意識に対してどのような影響を与えて

いるのだろうか。

まず、本人が高等学歴で父親も高等学歴であるケースについて検討してみよう。本人が高

等学歴で父親も高等学歴であると、そうでないケースと比較して、「上・中の上」と回答する

確率が高くなる。一方、「下の上・下の下」に対しては、特に確率に変化はみられない。高等

学歴には、単独でも回答者の階層帰属意識を「上・中の上」へ引き上げる効果が存在するが、

父親が高学歴であることはその効果をさらに強めている。同じ高学歴であっても、父親も高

学歴であるグループの方が、そうでないグループに対して、「上・中の上」により強くコミッ

トしている。

次に、本人が中等学歴で父親も中等学歴であるケースについて検討してみよう。表 4 のモ

デル 3 およびモデル 4 をみると、本人が中等学歴で父親が中等学歴であることの相互作用項

は、「中の上」に対する「上・中の上」のロジットを予測する場合にも、「中の上」に対する

「下の上・下の下」のロジットを予測する場合にも、統計的に有意な値を示していない。つ

まり、本人が中等学歴で父親も中等学歴であるケースとそうでないケースと比較しても、「上

/中の上」と回答する確率、もしくは「下の上/下の下」と回答する確率に特に大きな変化

は現れていない。これは、いっけんすると本人学歴と父学歴が中等で一致していることには

階層帰属意識への影響が存在しないようにみえ、本人学歴と父学歴が高等学歴で一致するケ

ースとは異なって、仮説から外れた分析結果のように見える。しかし後に明らかにするよう

に、このことは、“本人学歴と父学歴が中等で一致していることに、階層帰属意識への影響が

存在しない”ということを意味するものでは必ずしもない。本人学歴と父学歴が中等で一致す

ることの効果が存在するにもかかわらず、その効果が時期を越えて一貫したものではなかっ

たことに問題があったのである。

このとき注意しなければならないことは、“中等学歴の地位継承の効果が時期によって異な

っている”ということが、地位継承の効果が時代によって移ろう不安定なものであったことの

反映ではなく、むしろ学歴をめぐる社会構造の変動によってもたらされた必然的な変化だっ

たということである。にもかかわらず、モデル 3 とモデル 4 では、1955 年から 2005 年まで

のデータを合併して分析したために時期によって異なる効果が相殺しあい、いっけんすると

中等学歴の地位継承の効果が存在しないように観察されたにすぎない。この論点は重要なの

で、時期別効果の分析結果をもとに、再述することにしよう。

いずれにしても、学歴について出身階層と到達階層が一致していることには(少なくとも、

21

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本人学歴と父学歴が高等で一致していることには)、その学歴がもっていたもともとの効果を

さらに強める効果が存在する。いいかえれば、自分だけが高等学歴なのではなく、父親も高

等学歴であること(つまり、自分の社会的地位が親から継承されたものであること)が「上・

中の上」に対する階層帰属意識をより強固なものにする。回答者の階層帰属意識は、単に回

答者自身の社会的地位によって決まるだけでなく、そうした社会的地位を達成するまでに回

答者が経験してきた、出身階層から到達階層への「社会移動/非移動」体験によっても影響

されている。これは、本稿の仮説1と一致する結果であり、階層帰属意識を、その回答者の

ある一時点の属性のみで予測することの不適切さを明らかにしている。

3.2 調査時期別学歴継承効果の分析結果

次に、本人学歴と父学歴との相互作用が調査時期によってどのように変化したかを確認す

るために、「本人学歴と父学歴と時期の相互作用」を考慮したモデルについて検討しよう。表

5 では、本人学歴と父学歴と時期との 3 次の相互作用項を投入した上で、それぞれの係数を

推定し、その結果を示している。

統制変数の係数をみると、全体の傾向としては表 4 の結果と大きな違いは存在しない。そ

の一方で、本人学歴と父学歴と調査時期の 3 次の相互作用項のいくつかは統計的に有意な値

を示しており、かつその方向性も時期によって特徴がある。つまり、統制変数として投入し

た年齢、本人学歴、職業、収入といった要因とは独立した形で、本人学歴と父学歴の関係が

回答者の階層帰属意識に影響を与えていること、かつその影響の仕方が時期によって変化し

ていることがわかる。

まず、本人学歴と父学歴が高等学歴で一致しているケースについて、検討してみよう。表

5 から分かるように、本人学歴と父学歴が高等で一致していることの効果には、調査時期と

の相互作用効果が存在する。具体的には、本人学歴と父学歴が高等学歴で一致することが回

答者の階層帰属意識を高めるという効果は、高等教育機関への進学率が急上昇した最初の変

動期(1955 年~1975 年)には存在しないけれども、高等教育機関への進学率が横ばいに推移

した安定期(1975 年~1995 年)には統計的に有意な値を示している。そして、高等教育機関

への進学率が 1975 年の水準を突破し、さらに上昇を続けている第二の変動期(1995 年~2005

年)ではモデル 2 ではかろうじて統計的に有意な値を示しているものの、検定をクリアして

いる有意水準は 10%と、その有意性は弱まっている。つまり、本人学歴と父学歴が高等で一

致していることが回答者の階層帰属意識を高める効果は、調査時期から独立した不変的な効

果ではなく、またその変化の仕方も調査時期に対して線形ではない。進学率の上昇速度の変

化に対応するように逆 U 字型をしている。

次に、本人学歴と父学歴が中等学歴で一致しているケースについて、検討してみよう。や

はり表 5 のモデル 1 およびモデル 2 からわかるように、中等で本人学歴と父学歴が一致して

22

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表 5 多項ロジット分析の係数 II

従属変数:階層帰属意識

変数 モデル 1 モデル 2

上・中の上/中の下

年齢 0.008*** 0.006**

(0.002) (0.002)

高等学歴 0.370*** 0.309***

(0.081) (0.087)

中等学歴 0.127* 0.080

(0.068) (0.072)

ホワイトカラー上層 0.267** -0.037

(0.106) (0.129)

ホワイトカラー下層 -0.101 -0.294**

(0.106) (0.128)

ブルーカラー -0.208* -0.333***

(0.108) (0.129)

農業 -0.137 -0.269*

(0.123) (0.143)

世帯収入スコア 0.443***

(0.048)

高等(本人)×高等(父)×(1955-1965) -0.067 -0.293

(0.212) (0.227)

高等(本人)×高等(父)×(1975-95) 0.536*** 0.493***

(0.109) (0.119)

高等(本人)×高等(父)×(2005) 0.266 0.387*

(0.182) (0.209)

中等(本人)×中等(父)×(1955-1965) -0.193 -0.275

(0.255) (0.264)

中等(本人)×中等(父)×(1975-95) 0.307*** 0.315***

(0.112) (0.119)

中等(本人)×中等(父)×(2005) -0.317 -0.265

(0.197) (0.222)

定数項 -1.303*** -2.441***

(0.145) (0.213)

下の上・下の下/中の下

年齢 -0.005*** -0.005***

(0.002) (0.002)

23

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高等学歴 -0.904*** -0.792***

(0.079) (0.086)

中等学歴 -0.556*** -0.488***

(0.055) (0.058)

ホワイトカラー上層 -0.685*** -0.412***

(0.106) (0.126)

ホワイトカラー下層 -0.373*** -0.220*

(0.096) (0.115)

ブルーカラー -0.190** -0.090

(0.094) (0.112)

農業 -0.030 0.015

(0.103) (0.118)

世帯収入スコア -0.484***

(0.039)

高等(本人)×高等(父)×(1955-1965) -0.584* -0.443

(0.302) (0.306)

高等(本人)×高等(父)×(1975-95) -0.137 -0.128

(0.152) (0.166)

高等(本人)×高等(父)×(2005) 0.359 0.324

(0.219) (0.266)

中等(本人)×中等(父)×(1955-1965) -0.163 -0.097

(0.217) (0.230)

中等(本人)×中等(父)×(1975-95) -0.173 -0.112

(0.114) (0.120)

中等(本人)×中等(父)×(2005) 0.570*** 0.528***

(0.135) (0.160)

定数項 0.451*** 1.798***

(0.127) (0.173)

LL -11741.1 -10228.2

N 11,689 10,374 括弧内の数字は標準誤差 学歴の基準カテゴリーは初等学歴 職業の基準カテゴリーは、無職・学生 * p < 0.1; ** p < 0.05; *** p < 0.01

いることの効果には、調査時期との相互作用効果が存在する。具体的には、「本人学歴と父学

歴が中等で一致することが回答者の階層帰属意識に何らかの影響を与えている」という効果

は、高等学校への進学率が急上昇した変動期(1955 年~1975 年)には存在しないけれども、

高等学校への進学率が 90%に到達した以降の安定期(1975 年~2005 年)には統計的に有意

24

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な値を示している。ただし、このとき注意しなければならないことは、その効果の向きが 1975

年~1995 年と 1995 年~2005 年とで逆になっていることである。つまり、1975 年~1995 年の

時期には「中の下」に対して「上・中の上」の確率を高める効果をもっていたのに対し、

1995 年~2005 年の時期では逆に「中の下」に対して「下の上・下の下」の確率を高める効果

をもっており、回答者の階層帰属意識を高める効果から回答者の階層帰属意識を低める効果

へと正反対の方向に変化してしまっている。このことから、調査時期との相互作用を考慮せ

ずに本人学歴と父学歴の相互作用を検討した表 4 のモデル 3 およびモデル 4 において、中等

で一致するケースについては統計的に有意な効果がみられなかったことの理由が明らかにな

る。その理由は、本人学歴と父学歴が中等で一致することの効果には調査時期との強い相互

作用が存在し、1975 年~1995 年における階層帰属意識を高める効果と、1995 年~2000 年に

おける階層帰属意識を低める効果とがそれぞれの効果を相殺してしまったために、分析結果

から本人学歴と父学歴が中等で一致することの効果が消えてしまったからである。

それでは、これらの分析結果は、本稿の仮説にとってどのような意味をもっているのだろ

うか。すでに、前項において仮説 1 が高等学歴については表 4 の分析結果によって支持され

ていたことを確認した。問題は、この分析結果が仮説 2 および仮説 3 を支持するものになっ

ているかである。

まず、仮説 2 についてみてみよう。社会構造(ここでは、学歴構造)が大きく変動してい

る時期には、社会構造によって付与される社会的地位(ここでは、学歴)の価値もそれに伴

って大きく変化するため、たとえ社会的地位(学歴)が継承されていたとしてもその地位が

かつてもっていた価値と一致しない。このことから、たとえ出身階層と到達階層とで社会的

地位が一致していたとしても、地位継承によって特定の階層意識が強化される効果は弱まる。

以上が、仮説 2 の内容だった。そして、高校への男性の進学率は 1970 年代半ばまで一貫して

上昇していたけれども、確かにこの時期、本人学歴と父学歴が中等学歴で一致していること

の効果は現れていない。また、大学への男性の進学率は 1970 年代半ばまで一貫して上昇した

後、1990 年代半ばまで 1970 年代半ばの水準を超えることなく、1990 年代半ばにその水準を

超えた後は一貫して上昇し、現在は大学への男性の進学率は 50%を突破している。そして、

1970 年代半ばまでの進学率が上昇していた時期には本人学歴と父学歴が高等学歴で一致し

ていることの効果は、確かに現れておらず、また 1990 年代半ば以降の再上昇期にもその効果

の有意性は弱まっているか、ないしは消えている。これらの事実は、いずれも仮説 2 の妥当

性を支持するものである。

次に、仮説 3 についてみてみよう。社会構造(ここでは、学歴構造)の安定している時期

には社会構造によって付与される社会的地位(ここでは、学歴)の価値も安定しているため、

社会的地位(学歴)が継承されたことの意味が明確化する。このことから、出身階層と到達

階層とで社会的地位が一致していることは、その階層意識を強化する効果をもつ。以上が、

25

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仮説 3 の内容だった。高校への男性の進学率は 1970 年代半ば以降に 90%に到達すると、そ

の水準で飽和し、その後はずっと安定している。そして、1970 年代から 1990 年代までと、

2000 年代とでは確かに効果の方向性は異なっているものの、効果自体は統計的な有意性を維

持している。また、大学への男性の進学率は 1970 年代半ばから 1990 年代半までは比較的安

定した水準で推移しているけれども、この時期、出身階層と到達階層とで社会的地位が一致

していることの効果はやはり統計的な有意性を維持している。これらの事実は、仮説 3 の妥

当性を支持していると同時に、中等学歴についても仮説 1 が妥当することを意味している。

このように、1955 年から 2005 年の SSM データをもちいた分析の結果は、いずれも本稿の

仮説を支持するものになっている。つまり、出身階層の社会的地位を引き継ぐことは、そう

でないケースと比較して、自身の社会的地位に対応する階層への帰属意識を強化する効果を

もつけれども、その効果は社会変動に依存していることが判明した。

4 議論

本稿では、階層帰属意識と学歴を取り上げ、学歴の階層帰属意識に対する、私たちの直観

に必ずしもそぐわない影響がどのようにして生成されているのかを問題として取り上げた。

そして、学歴が階層帰属意識に与える影響を明らかにする過程で、私たちが問題としてきた

階層帰属意識とはそもそも何だったのか、必然的にこのことについても問題にすることにな

った。従来の研究は、階層帰属意識は当人の社会的・経済的地位(と社会意識)によって説

明されると考え、実証的な成果を積み重ねてきた。しかし、本稿が明らかにしたのは、ブル

デューのハビィトゥス概念に依りながら、階層帰属意識はそのような、個人のある一時点の

社会的属性によって説明されるような意識ではなく、長い時間をかけてその個人の内部に蓄

積されていく意識なのだということであった。そして、このような視点に立って階層帰属意

識の長期的な動態を明らかにした研究はこれまでにほとんどなく、本稿の意義は階層帰属意

識研究をその方向に向けて展開させた点にある。

本稿が具体的に注目したのは、個人の出身階層の社会的地位と到達階層の社会的地位の相

互作用が階層帰属意識に及ぼす効果である。個人の出身階層と到達階層とで社会的地位が一

致しているとき、すなわちその個人が社会階層の継承に成功したとき、その個人の階層帰属

意識の形成過程はつねに一貫した環境の内部でおこなわれており、そのため個人の階層帰属

意識は、出身階層と到達階層とで社会的地位が一致していない場合と比較して、より強固に

なる。これが、階層帰属意識に関する本稿の仮説 1 であった。そして、この仮説は SSM 調査

データによって確かに確認することができた。

具体的にイメージするならば、ミドルクラスの家庭に生まれ、その家庭環境の中で育ち、

そしてホワイトカラーになった個人は、よりミドルクラスに対して強い帰属意識をもつ。一

26

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方、かりに高い学歴を取得し、ホワイトカラーの職に就いた個人であっても、労働者クラス

の家庭に生まれ、その家庭環境の中で育った個人は、幼少期に培われた階層帰属意識と現在

の所属階層とが食い違っており、かりにミドルクラスに対して帰属意識をもつにしても、そ

の度合いは出身階層からミドルクラスであった個人と比較すると弱いものになってしまう。

本稿が次に注目したのは、そのような出身階層と到達階層とで社会的地位が一致している

ことの効果が戦後日本の激しい社会変動の中でどのように変化してきたのかということであ

った。社会構造が大きく変動する時期には、かりに出身階層によって機会格差が存在したと

しても、強制移動という形で出身階層と到達階層の異なる個人が多く産出される(安田 1971)。

そして、このような社会移動の発生は、出身階層と到達階層が異なっている個人だけにでは

なく、出身階層と到達階層が一致している個人にとっても、その階層帰属意識に対して何ら

かの影響を与えてしまう。

具体的には、親が高学歴で自分自身も高学歴を得ることに成功した個人、いいかえれば社

会的地位の継承に成功した個人は、しかし学歴をめぐる社会変動を知っているので、自身の

学歴が親の世代のそれとは同じ価値をもっていないことを意識せざるをえない。つまり、客

観的には親世代の社会的地位を継承しているようにみえても、当人の意識にたてば、出身階

層とは異なる社会階層に所属しているように意識する可能性が高くなる。その結果、たとえ

ば進学率が急伸し、希少性に由来する学歴の象徴的価値が下落しているような局面では、学

歴が出身階層と到達階層とで一致していても地位継承の効果は弱くならざるをえない。

このように、社会階層構造が大きく変動している時期には、社会階層が再生産されるとい

うことの社会的な意味合いも、そしてそうした再生産過程が個人の階層意識に及ぼす影響も、

何らか変化を被むってしまわざるをえない 24。仮説 2 が意味することは、まさしくこのこと

であった。

これに対して、階層構造が安定している時期には、社会階層の再生産過程が強固なもので

あればあるほど、再生産過程を通じて個人が抱くことになる階層帰属意識は強いものになる。

具体的には、親が高学歴で自身も高学歴を得ることに成功した個人、いいかえれば社会的地

位の継承に成功した個人は、階層構造の中で自分がどのような位置を占めているかを、生育

環境からまさに意識の内奥に織り込まれる形で学習し、そして生育後もそのような意識を安

定して維持していくことが可能になる。この場合、その個人は、単に客観的に親世代の社会

的地位を継承したというだけでなく、その社会的地位に付随する階層意識をも併せて継承し

たといえる。たとえば進学率が安定し、学歴の象徴的価値が人々によって共有されているよ

うな時期には、出身階層と到達階層とで社会的地位が一致していることの効果は、それ以外

の時期と比較して顕著に現れる。仮説 3 が意味することは、まさしくこのことだった。 24 この論点は、ブルデューの社会理論を日本社会に適用(宮島 1994; 石井 1993)する際に、見落と

されてきたものである。

27

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学歴と階層帰属意識の関連について、二つの大きな問題があることを本稿の冒頭で示して

おいた。1 つは、1970 年代以降になって学歴が階層帰属意識に対して強い影響力をもちはじ

めるようになった理由である。もう1つは、進学率の上昇は高学歴の希少性を喪失させるこ

とをごく自然に予想させるにもかかわらず、学歴の象徴的価値は失われるどころかむしろ増

しているようにみえる理由である。少なくともデータでは、人々の階層帰属意識を予測する

際に、学歴という情報の重要性はかつてより増しているのである。

前者については、仮説 2 および仮説 3 がデータによって支持されたことで、その理由を明

らかにすることができた。1970 年代以前と 1970 年代以降とで学歴の階層帰属意識に対する

影響力の大きさが異なっているのは、それ以前と以降とで社会構造の安定性が異なっていた

からである。

しかし、後者についてはどうだろうか。実は、後者についても、仮説 1、仮説 2、仮説 3

を組み合わせることで、整合的な説明を与えることができる。

個人の階層帰属意識を考える際に注目しなければならないことは、本人学歴と親学歴の関

係であった。かりに進学率が上昇し、高学歴を得ている個人が増えたとしても、親の世代に

注目するならば、その学歴を得ていることは決して一般的なことではなかった。そのために、

高い学歴を得ている親をもっている個人は依然として少数派なのであり、とうぜん本人学歴

と親学歴が高学歴で一致している個人も少数派にならざるをえない(図 2)。

したがって、仮説 1 から派生的に導かれる予想は、“高学歴化が個人の階層帰属意識に及ぼ

す影響にはタイムラグがある”ということである。仮に高学歴化によって学歴の象徴的価値が

喪失されるのだとしても、学歴の象徴的価値が決定的に失われる場面は現世代においてでは

なく、(現世代を親世代とする)子世代においてなのである。

さらに、このことと仮説 2 および仮説 3 を組み合わせると、人々の階層帰属意識の変化は

次のように説明される。

まず、進学率が上昇している時期について考えてみよう。仮説 2 から、この時期、学歴が

階層帰属意識に与える影響は弱く、学歴の象徴的価値は高くないようにデータからは読み取

れる。実際は希少性によって測られる学歴の象徴的価値は高いのだが、高学歴を獲得してい

る多くの個人がその社会的地位を親世代から継承したわけではなく、当人が達成した当人の

高い学歴だけでは、(出身階層から到達階層までの全過程を通して形成される)階層帰属意識

に与える影響は小さいものにならざるをえない。

次に、進学率が安定的に推移している時期について考えてみよう。仮説 3 から、この時期、

学歴が階層帰属意識に与える影響は安定しはじめる。それは、出身階層と到達階層とで社会

的地位が一致している個人の階層帰属意識が安定するからである。しかし、実際は希少性に

よって測られる学歴の象徴的価値は、進学率が低かった時期と比較するならば、低下してい

る。にもかかわらず、学歴がそれまでには観察されなかった象徴的価値をもちはじめるよう

28

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にみえるのは、階層帰属意識が当人の学歴だけに影響されるのではなく、本人学歴と父学歴

との相互作用にも影響を受けるからである。本人学歴だけに注目すれば高学歴の希少性はす

でに失われていても、父学歴に注目すれば高学歴の希少性は依然として維持されている。そ

のような状況において、それまでにはなかった地位継承の効果が現れはじめるために、高学

歴が階層帰属意識に与える影響がこの時期になってはじめて観察されるようになり、あたか

もその象徴的価値が増しているかのようにみえたのだ。

確かに、単純に進学率だけを比較してみるならば、進学率が上昇しつつあった時期よりも、

進学率が高い水準で安定している時期の方が高く、希少性だけが高学歴の象徴的価値を決定

すると考えるならば、進学率の推移と高学歴の効果の変化は矛盾するようにみえる。しかし、

それは本人の学歴だけに注目することで生じる錯覚にしかすぎない。父学歴を考慮すれば学

歴の象徴的価値の下落は時間的には一世代遅れて生じるので、進学率が安定することで地位

継承の効果がはっきりしはじめた時期にも、依然として高い象徴的価値を維持している。こ

のことが、あたかもその時期になって高学歴の象徴的価値が増したかのような現象を産み出

したのである。

中等学歴(高卒相当)の階層帰属意識に対する影響の時代的な変化は、この説明を明確に

例証している。

仮説 2 および仮説 3 が示唆するように、本人と父親の学歴が中等で一致していることが階

層帰属意識に与える影響は、進学率が 90%水準を突破し、そこで安定しはじめた 1970 年代

以降、顕著に現れている。このとき注目すべきことは、本人と父親の学歴が中等で一致する

ことの効果は 1990 年代までと 2000 年代とでその向きを正反対に変えてしまっていることで

ある(表 5)。1990 年代までは本人学歴と父学歴が中等で一致することの効果は階層帰属意識

に対してプラスの影響をもっていた。しかし、その効果は 2000 年代になってマイナスに転じ

てしまっている。これは、中等学歴のもっている象徴的価値が 2000 年代になってとつぜん消

失してしまったことを意味している。

しかし、高校への進学率が 90%を超えて飽和したのは 1970 年代においてであった。なぜ、

中等学歴の象徴的価値は 1970 年代にではなく、2000 年代になってはじめて下落したのだろ

うか。この現象は、本人の学歴だけを見ていたのでは分からない。親の学歴を同時に考慮す

ることで、整合的な理解が可能になる。

図 3 からわかることは、当人の学歴だけに注目すれば中等以上の学歴を得ている個人は

1970 年代にすでに半数を超えていること、しかし親学歴に同時に注目すれば親も子もともに

中等以上の学歴を得ている個人は(高等学歴を得ている個人を加えても)1990 年代までは依

然として半数以下であり、2000 年代になってようやく半数を超えた、ということである。つ

まり、生育環境と現在の社会的地位が中等学歴以上で一致している個人、いいかえれば中等

学歴以上を自身の社会的地位として意識できる個人が(高等学歴を得ている個人を加えて)

29

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全体の半数を超えたとき、中等学歴ははじめてその象徴的な価値を失ったのである。単に中

等学歴以上を得ている個人の割合が半数を超えただけでは、その学歴を学歴上昇移動によっ

て得た個人が大半を占めている限り、その象徴的価値を失わない。

このように、進学率が上昇していたとしても、そのことによる学歴の象徴的価値の決定的

な下落には一世代という長い時間を要する。実際に、中等学歴がその象徴的価値を失い、そ

の地位継承が階層帰属意識を下げる影響をもつまでには、高等学校への進学率が 1970 年代

に 90%を超えてから、2000 年代になるまでの、およそ 30 年という世代が一巡する時間を要

したのである。

それでは、これから学歴と階層帰属意識の関係はどのように変化していくのだろうか。お

そらくそれは、大学への進学率が今後どのように変化していくのか、このことに依存するだ

ろう。考えられうるシナリオの 1 つは次のようなものである。

12.3

15.0

19.9

27.3

33.2

37.6

0.8

1.8

2.2

2.4

2.9

4.1

2.3

4.5

6.7

8.7

10.6

17.3

16.0

22.2

28.5

31.7

32.6

29.4

68.6

56.5

42.7

29.9

20.7

11.7

0% 50% 100%

1955

1965

1975

1985

1995

2005調査年度

本人学歴×父学歴

高等(本人) 中等(本人)×高等(父) 中等(本人)×中等(父)

中等(本人)×初等(父) 初等(本人)

図 3 本人学歴×父学歴の構成分布(調査年度別)

男性の大学への進学率は 1990 年代の半ばに 1970 年代に達成した水準を超え、その後もじ

りじりと上昇し、2005 年に 50%を超えている。しかし、大学への進学率がこのまま 100%に

近い水準まで上昇するとは考えにくく、おそらくどこかの水準で落ち着くことになるだろう。

もしそうなれば、中等学歴と階層帰属意識との間に生じた現象が、高等学歴と階層帰属意識

との間にも生じる可能性がある。つまり、大学への進学率が安定した段階で、高等学歴は階

層帰属意識に対して強い影響をもつようになり、特に親も高学歴で自分も高学歴という個人

30

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の階層帰属意識が高くなる。もちろん、大学への進学者が半数を超えている段階で、すでに

高等学歴それ自身の象徴的価値は失われているはずだが、しかし親学歴に注目すれば高等学

歴の取得者は依然として少数派であり、かりに大学への進学率が 50%を大きく上回っていた

としても、高等学歴に対して一貫してコミットしてきた個人は依然として半数以下にとどま

らざるをえない。しかし、進学率がある水準で安定し、その期間が一世代交代するまでに至

ったとき、高等学歴の象徴的価値は、劇的に失われるはずである。つまり、親も高等学歴で

自分も高等学歴という個人が社会全体の半数を超えてしまったら、もはや高等学歴はその象

徴的価値を維持することができないからである。

もちろん、このシナリオは、あくまでも可能なシナリオの一つでしかない。今後、大学へ

の進学率がどのように推移していくかは、少子化の傾向が今後どうなっていくのか 25、また

大学へのいくことの利得と費用の関係がどう変化していくのか、こういった問題とも複雑に

絡んでいる。また、大学へ進学することが珍しくなくなると、学校間格差、あるいは学部間

格差がより注目を浴び、学歴から学校歴(Breen and Jonsson 2000)、あるいは学部歴へと不平

等の焦点が移行していくこともありうるだろう。

5 結論

本稿が明らかにしようとしたのは、社会構造と階層意識がどのようにして相互に影響を与

えあっているのかということであった。現実にはさまざまな構造的な不平等が存在しながら、

多くの人々が所属階層として“中”に同一化してきたことからもわかるように、社会構造と階

層意識の関係は必ずしも単純なものではない。また本稿では、社会構造と階層意識の関係を

明らかにする手がかりとして、人々の意識・行動を規定する典型的な社会構造として学歴構

造を考え、また階層意識としてはとくに階層帰属意識を取り上げた。それは、学歴と階層帰

属意識の関係が以下の 2 つの点で、自明でない対応を示していたからであった。

1 つは、“学歴の階層帰属意識に及ぼす影響の度合いが時期によって異なっている”という

問題である。もう 1 つは、“進学率の上昇によって学歴の象徴的価値は衰えているはずなのに、

階層帰属意識に及ぼす学歴の影響を見る限り、学歴の象徴的価値を衰えているどころか、む

しろ増しているようにみえる”という問題である。

本稿では、これらの問題が、階層帰属意識を“個人のある一時点での社会的・経済的地位で

25 進学率の再上昇は団塊 Jr.世代が卒業した後も、大学が経営維持のために定員を大きく減らせなかっ

たことが要因の一つと考えられる。しかし、進学適齢期を迎える子供数の減少は今後も続くものの、

団塊 Jr.世代が大学を卒業してから 20 年で体験したほどの急激な減少は今後しばらくはない(厚生労

働省人口動態調査 2006)。それでもなお大学への進学率がこのまま上昇を続けていくのかどうか、現

段階では不確定というほかない。

31

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決まる階層意識”と考えるのではなく、“個人が現時点に至るまでに体験したさまざまな社会

的・経済的地位が統合化された結果の階層意識”と考えることで説明できると主張した。個人

の階層帰属意識は、その個人の社会的・経済的地位に依存するだけでなく、その個人がそう

した地位に至った経路にも依存して決定される。たとえば、出身階層から到達階層まで一貫

した階層に所属していた個人は所属する階層に対して強くコミットすることができるけれど

も、出身階層と到達階層が異なる個人は所属する階層が 2 つにまたがっており、最終的にい

ずれかの階層に帰属するにしても、そのコミットメントの程度は弱いものにとどまらざるを

えない。

分析の結果はいずれも本稿の考えを支持するものであり、階層帰属意識を“個人の積み重ね

てきた経歴が統合化された階層意識”と考えることには一定の説得力がある。そして、本稿が

提示した階層帰属意識に対する新しい見解は、学歴と階層帰属意識の自明でない対応を首尾

一貫したものとして説明できる。

かりに進学率が上昇し、高学歴の希少性が失われたとしても、学歴の象徴的価値はすぐに

は下落しない。なぜなら、個人は自身の学歴だけでなく父親の学歴との関係も意識している

ため、たとえその世代では高学歴の象徴的価値が失われていたとしても、父学歴との関係で

考えた場合には依然として高い象徴的価値を維持しつづけるからである。学歴の象徴的価値

の下落がはっきりするためには、学歴構造の変化が一世代下にまでいきわたるための時間が

必要だったのである。

そのような状況で、進学率が安定しはじめると、出身階層と到達階層とで学歴が一致して

いることの効果がはっきりと現れるようになり、その結果、学歴が階層帰属意識に与える影

響が強まったようにみえたのである。

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Educational Mobility and Class Identity

Naoki Sudo

Gakushuin University

In Postwar-Japan, scarcity of high educated persons has been lost because of rising enrollment rates to high educational organizations. In spite of this, previous studies on class identity in Japan has pointed out that the effect of high educational status on class identity has been increasing since 1970’s. In this article, I explain this paradoxical phenomenon through focusing on whether an individual succeeds to the educational career from his/her parents, or not.

From the results of analysis with using SSM (Social Structure and Social Mobility) Survey Data from 1955 to 2005, the following propositions are concluded. First, the individuals that succeeded to the educational career from their father tend to commit strongly the social class indicated by their educational status. Second, the effect of inherited educational career tends to emerge in the stable phase of enrollment rates to high educational organizations. Third, the effect of inherited middle educational career changed drastically between 1995 and 2005.

From these, it can be insisted that the stability of educational structure from 1970’s and the symbolic value of inherited high educational career leads to the increasing effect of high educational status on class identity even though scarcity of high educated persons were lost. Therefore, persons succeeded to the high educational career are still uncommon, while high educated persons are not so uncommon. Keywords: Class Identity, Inherited Education Career

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主観的地位認知に対する職業移動の影響

星 敦士

(甲南大学)

【要旨】

本章は「上」「中」「下」といった階層帰属意識と 10 段階スケールの主観的地位評定によって

測定される主観的地位認知に対して、回答者が経験してきた職業経歴がどのような影響を与えて

いるのかについて。そのための分析枠組みとして、主観的地位認知の直接的な判断基準としての

直接的な効果と、階層的地位と主観的地位認知の整合性に対する間接的な効果を分けて検討する

ことを提起した。2005 年 SSM 日本調査データを分析した結果、職業経歴がもつ以下のような影

響が明らかになった。(1)職業経歴において経験した「勤め先の数」すなわち転職の多さが、主観

的な地位認知を低める効果をもつ。(2)階層帰属意識については、現在の職業的地位の継続期間が、

主観的地位評定については、職歴において経験してきた職種の種類数が直接効果をもっており、

測定内容によって過去の経験が現在の地位認知にどのように反映されるのかが異なる。(3)間接効

果として職業経歴がもつ影響は限定的であったが、職歴において経験した職種の職業威信スコア

のレンジが広い回答者の自己評定は、階層的地位から予測された地位評定の予測値よりも低くな

る傾向にあることが示された。 キーワード:階層帰属意識、職業移動、転職

1 研究関心

本章の目的は、2005 年 SSM 日本調査のデータを用いて、回答者の主観的な地位認知に対

する職業移動の影響を明らかにすることである。

階層帰属意識に代表される回答者の主観的な地位認知の判断基準については、SSM 調査デ

ータを対象とした計量的な分析を中心として多くの研究が蓄積されてきた。そこにおける主

な議論の焦点は、学歴や収入、職業的地位といった社会経済的変数の影響、パーソナル・ネ

ットワークなど回答者の社会関係が地位評価において果たす役割、そして暮らし向きや生活

満足感との関連など、帰属階層の判断基準としてどのような要因が、どの程度の規定力をも

っているのか、という問題に当てられてきた。分析に用いられる要因とその理論的背景は異

なるものの、多くの研究において共通するのは、調査時点における回答者の属性や意識がど

のように階層帰属意識と関連しているのかを検証してきた点である。本章では、主観的な地

位認知に関する研究の新しい視点として、調査時点までに回答者が経験してきた社会的地位

の移動がどのような影響を与えているのか、という問題提起を行う。

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近年、いわゆる労働市場の流動化が議論されているように、現代社会においては、多くの

人々が離職、転職などによる職業的地位の移動を経験している。先行研究が指摘してきたよ

うに階層帰属意識が生活状況に関する諸種の社会意識と関連しているならば、離職や転職に

よる所得の変化、生活の不安定さといった経験は、現在の生活や将来への不安といった形で

帰属階層の判断に影響を与えるかもしれない。また、過去に異なる複数の地位を経験するこ

とは、現在の地位を評定する際に相対的な比較が可能となる点で的確に帰属階層を判断でき

るという予測が成り立つ一方で、逆に調査時点で自分がどの層に帰属するのか、どこに基準

を求めるべきなのか判断を迷わせることになるかもしれない。

このように個人が経験してきた職歴は主観的な地位認知に対して直接的、あるいは間接的

な影響をもつことが予測される。本章では、回答者が経験してきた職業移動が主観的な地位

評定に対してどのような影響を与えるのかを計量的に検証する。

2 先行研究と本研究の分析枠組み

2.1 階層帰属意識の規定要因

主観的な地位認知を測定する主要な変数である階層帰属意識と客観的に測定された階層的

な地位指標の対応関係があまりよくないことは多くの研究で指摘されている。すでに 1975

年SSMデータを分析した直井(1979)において、学歴や所得、財産などの地位変数が階層帰

属意識を分化させる決定的要因とは言えず「くらしむき」という生活意識との関連の強さが

指摘されている。また 1955 年から 1985 年までのSSMデータを用いて経済的要因と階層帰属

意識の分布の関連を時系列的に検証した間々田(1990)も、心理的要因の重要性を指摘し、

現在(調査時点)の地位だけでなく将来の地位の予想、すなわち今後の生活の見通しの影響

を示唆している。このように現在では単純な地位指標との対応関係を分析の前提とした考え

方は「素朴実在反映論」(盛山 1990)として批判されており、間々田(2000)は階層帰属意

識という変数は多元的な階層要因と生活実感の関連を検証するための指標と考えるべきとし

ている 1。

「回答者の方は、ある一時点における他人と自分との生活水準の比較だけでなく、過去の

自分と現在の自分との生活水準の比較を行ったり、また過去の他人の生活水準と現在の自分

の生活水準とを比較したりと、いろいろな比較を総合して答えているようだ」(小沢

1985:190)とあるように、たとえ階層的地位が同じであっても、態度や意識を決定する際に

基準となる他者や集団、あるいは自分が望んでいる水準には違いがあり、その結果、階層帰

属意識は単一の時点の階層的地位と整合しなくなる。このように、階層帰属意識の規定要因

1 階層帰属意識と関連する地位指標の時系列的な変化を検証し、その多元性を明らかにした研究として吉川

(1998)がある。

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として、調査時点の階層的な地位指標との間になんらかの関連はみられるものの、それのみ

に主観的な地位認知の規定要因を求めることは難しく、また適切でもない、ということが先

行研究から導かれる知見である。本研究もそれを踏まえて分析を進めるが、そこで着目する

のが回答者の職業経歴、すなわち職歴である。調査時点における階層的地位と主観的な地位

認知が整合しないのは、調査時点では同じような階層的地位であっても、ある人にとっては

不安定な就業状況のなかの一時点にすぎず、またある人にとっては安定的な職業であり所得

であるとったように、調査時点に至る過程が個々人において多様であるために、総じてみる

と階層的地位と主観的な地位認知が整合しない、という結果をもたらしているのではないだ

ろうか。

階層帰属意識の判断基準として過去の移動経験に着目した研究として、渡邊・土場(1995)、

高坂(2000)があげられる。渡邊・土場(1995)は、個人に社会移動があった場合の階層イ

メージ形成と帰属意識に対する影響を数理モデルによって提示している。具体的には、移動

前・移動後という 2 つの時点を設定し、移動後の階層イメージ形成に対して移動前の階層イ

メージが影響するモデルと階層的地位が影響を与えるモデルの 2 つの数理モデルを構成した。

その結果、現在の階層イメージに関して過去の階層イメージを考慮するモデルでは、過去の

階層的地位の高さが現在の階層帰属意識に対して負の意味をもち、現在の階層イメージに関

して過去の地位を考慮するモデルでは、その過去の地位の高さが現在の階層帰属意識にとっ

て正の意味をもつ。つまりイメージ形成に対して過去のどのような情報を考慮するかによっ

て異なるものの、移動という経験が現在の階層イメージ形成に影響を与えることを示した。

一方の高坂(2000)は、数理モデルを用いて複数の地位指標から階層帰属意識の理論的予

測値を推定し、1985 年のSSM調査で観測された階層帰属意識との比較分析のなかで、両者の

一致度の低い要因の一つとして個人の社会移動の経験を挙げている 2。それによると、社会移

動を経験しなかったケースは、上昇・下降いずれの移動も経験しなかったケースよりも、予

測値と観測値の一致度が高く、このことから高坂(2000)は移動経験が階層イメージの形成、

地位認知に対して攪乱要因になっているのではないかと解釈している。

2.2 分析枠組み

個人の社会移動の経験を考慮した上記の研究は、過去の社会的地位や移動がいずれも階層

イメージや階層帰属意識に影響している可能性を示している。本章の研究関心である主観的

な地位認知の判断に関してこのような視点を考慮すると以下のような分析枠組みを設定する

ことができる(図 1)。

まず階層的地位の移動経験が主観的な地位認知に与える影響のひとつとして、先行研究が

2 高坂(2000)は社会移動を「15 歳時の父親の従業上の地位」と現在の従業上の地位の違い、すなわち世

代間移動によって測定している。

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指摘しているような現在の階層的地位と主観的な地位認知の間の整合性に対する影響(図 1

の①)があげられる。職業経歴において移動経験がある場合、回答者は過去の複数の時点に

おいて異なる階層的地位に基づく地位認知を意識的あるいは無意識的に行っていることが推

測されるが、それによって2種類の影響のあり方が導かれる。まずひとつは、先行研究が指

摘したような攪乱要因としての影響である。複数の地位を経験することによって、移動経験

がない者よりも過去のプロフィールを考慮する分だけ現在の階層的地位と主観的な地位認知

の一致度が低くなる。もうひとつは、移動を経験することでむしろ階層的地位と地位認知の

妥当な対応関係を把握できるようになり、現在の階層的地位との間により高い整合性をもた

らすような影響である。一つの地位の経験のみではそれが社会的にどのくらい高いのか、あ

るいは低いのか正確には判断できないところを、複数の地位を経験することで相対的な高低

の認識、いわば「準拠枠」が精緻化されるとも考えられる。よって本章の分析では、職業移

動の経験が主観的な地位認知の攪乱要因として影響するのか、あるいは精緻化要因として影

響するのかを明らかにする。

主観的な地位認知

階層的地位

(学歴・職業・収入)

図1 分析枠組み

次に階層的地位の移動経験が主観的な地位認知に与える影響として、過去の移動経験の有

り様が直接的に調査時点の地位認知に反映されるような影響(図 1 の②)があげられる。先

行研究が指摘してきたように階層帰属意識が諸種の生活意識と関連している 3ならば、就業の

不安定さや職業移動の過程で経験する離職の経験はそれ自体がネガティブな要因として帰属

階層を押し下げる効果が予測される。たとえ現在同じような階層的地位にあったとしても、

そのような経験を経ているか否かによって地位認知は異なってくるだろう。よって本章の分

析では、このような移動経験がもつ直接効果についても検証することとする。

3 例えば中尾(2002)では「上・中の上・中の下・下の上・下の下」といったカテゴリーで区分された階層

帰属意識が、帰属階層の名称を提示しない 10 段階の地位評定と、家計の満足度や経済状態の変化、生活向

上機会感といった生活意識の組み合わせパターンによって構成されていることを明らかにしている。

職業経歴の内容

(職業移動の経験)

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3 データと変数

3.1 分析対象

本章の分析対象は 2005 年 SSM 日本調査のデータ(ver.14.2)のうち、調査時点で就業して

いた 65 歳以下の男性である。本研究の分析には階層的地位と主観的な地位認知の関連を検証

することが含まれていることから調査時点において就業しているケースのみを対象とした。

また女性の階層帰属意識は本人の階層的地位とともに配偶者の階層的地位や世帯単位の要因

によっても規定されていることが赤川(2000)などの研究において示されていることから、

本章では男性のみを対象とした。さらに対象年齢について 65 歳以下としたのは、それ以上の

年齢になると定年退職等により離職し、セカンドライフの一環として社会貢献や生き甲斐を

求めて再就職するというそれまでとは異質な理由による職業移動の割合が増加するためで、

本研究ではこれらの影響を避けるために対象年齢を制限した。

3.2 従属変数

本研究における従属変数は、回答者が主観的な地位認知の判断として質問されている 2 通

りの階層意識である。ひとつは「上」「中の上」「中の下」「下の上」「下の下」という 5 つの

選択肢から自分が入ると思う層を 1 つ選ぶもので、一般に「階層帰属意識」と呼ばれている

ものである。もうひとつはそのように具体的な名称を示さずに、「1(一番上)」から「10(一

番下)」までの 10 段階のスケールを提示して自らの位置を選ぶもので、双方の意識を分析に

用いた中尾(2002)では前者の「階層帰属意識」と区別して「主観的地位評価」としている。

これらの変数はともに社会全体における回答者の主観的な地位認知を測定するものであるが、

「階層帰属意識」については、かつて「中意識」への極端な分布上の偏りが注目されたよう

に、回答者の階層的地位だけではない世間並み意識、あるいは過去や将来も含めた景況判断、

生活感といった意味づけがなされていると考えられる。それに対して 10 段階スケールの地位

評定は特定の語句がもつ印象やイメージに影響されることが少なく、より主観的な階層的地

位の高低に限定した意識ととらえることができる。本研究では、このように「帰属階層」に

対する意味付けの強弱が異なる2つの変数を主観的地位認知に関する変数として分析に用い

る。

3.3 独立変数

以降の分析では、階層的地位から主観的地位認知を説明するモデルを基本に、職業移動の

影響を直接効果として、あるいはその説明力に影響する要因として扱う。まず基本モデルに

加える階層的地位は、学歴(教育年数)、現職の職業威信スコア、世帯収入という回答者の階

層的地位を測定する際に用いられる最も基本的な変数である。次に職業移動の経験、職業経

41

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歴の操作化であるが、本研究では回答者本人の初職から現職に至る職業経歴、すなわち世代

内移動に着目して以下のような 3 種類の変数を用いた。

ひとつは、初職から現職に至るなかで経験した「職種の数」である。学卒後に初職として

何らかの職種に従事したのち、ある人は配置転換や所属部署の変更、昇進などの人事異動、

離職や転職によって複数の異なる職種を経験し、またある人は現職に至るまで初職と同じ職

種に従事し続けている。職業移動の経験として、調査時点までに「専門職」「管理職」「事務

職」「販売職」「サービス職」「生産工程」「保安職」「農林漁業」の 8 分類中何種類の職種を経

験しているかに着目した。この経験職種数、すなわち経験した仕事の多様性に関連する変数

として、職歴において経験した職種に付与された職業威信スコアの散らばり(標準偏差)と、

範囲(レンジ)も直接効果を検証する分析に用いる。もうひとつは、初職から現職に至るな

かで経験した「勤め先の数」である。勤め先の変化、すなわち転職行動には、上で述べたよ

うな従事している職種の変化を伴う場合と伴わない場合がある。その意味では従事している

職種が一定であれば転職を経ても階層的地位としては安定的にみえるかもしれないが、その

一方で転職の多さは生活自体の不安定感、現在の階層的地位への不安感ももたらすと考えら

れる。最後は、現在の職業的地位の継続年数である。SSM2005 日本調査では勤め先が変わっ

た場合、あるいは勤め先が変わらなくても従業上の地位や職種に変化があった場合、いずれ

も職歴上の変化としてとらえている。そこで本研究では最後の職歴上の変化があってから調

査時点までに何年経過しているかを分析に含める。現在の職業的地位の継続年数が長いほど、

階層認知における判断基準として現状の重みは大きくなり、よって調査時点における主観的

地位認知との整合性も高まることが予測される。

4 分析結果

4.1 主観的地位認知と職業移動

ここでは 2005 年SSM日本調査における主観的地位認知の分布を確認するとともに、職業経

歴に関する 3 変数についても記述統計をみておく。図 2 は職歴において経験した職種の種類

数、職歴において経験した勤め先の数別にみた階層帰属意識の分布である 4。図 3 は同じく職

種数と勤め先数別にみた主観的地位評定(10 段階スケール)の平均値の分布である。まず階

層帰属意識については、「中の下」とした回答者が最も多く 43.5%、次いで「下の上」29.3%

となっている。1995 年SSM調査の分布(間々田 2000:67)と比較すると、「中の上」「中の下」

がともに減少し、「下の上」が特に増加している。85 年、95 年の趨勢と比較すると「中」か

ら「下」へのシフトが特徴としてあげられる。職業移動については、65 歳以下の有職男性の

4 「上」は合計においても 0.5%とわずかだったため、ここでは「中の上」と合併して図示した。階層帰属

意識に関する以降の分析ではすべてこの4区分にリコードした変数を用いている。

42

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うち、約半数の 49.6%は調査時点までに 8 分類中 1 種類の職種しか経験しておらず、35.6%が

2 種類、14.8%が 3 種類以上の職種を経験している。勤め先の数については、初職から調査時

点まで 1 箇所の勤め先のみで働いているのが全体の 35.0%と最も多く、以降 2 箇所が 29.4%、

3 箇所が 16.2%、4 箇所と 5 箇所以上がそれぞれ 9.7%となっている。

5.9% 7.4% 11.4% 7.2%

28.5% 28.9%33.0%

29.3%

46.5% 42.2%36.6%

43.5%

19.1% 21.4% 19.0% 19.9%

0%

20%

40%

60%

80%

100%

1種類 2種類 3種類以上 合計

上・中の上

中の下

下の上

下の下

n=918 n=658 n=299

(49.6%) (35.6%) (14.8%)

n=1,849

(100.0%)

3.6% 5.9% 9.0% 12.2% 16.7%

23.2%26.8%

33.1%

42.2%38.9%

49.6%44.2%

41.5%

33.9% 33.3%

23.6% 23.1%16.4% 11.7% 11.1%

0%

20%

40%

60%

80%

100%

1箇所 2箇所 3箇所 4箇所 5箇所以上

上・中の上

中の下

下の上

下の下

n=647 n=545 n=299 n=180 n=180

(35.0%) (29.4%) (16.2%) (9.7%) (9.7%)

図2 経験職種数別(左)・経験勤め先数別(右)にみた階層帰属意識

5.575.80

5.545.45

5.19 5.255.00

4.73

4.00

5.00

6.00

7.00

1職種

2職種

3職種以上

1箇所

2箇所

3箇所

4箇所

5箇所以上

(経験した勤め先の数)(経験した職種の数)

図3 経験職種数別(左)・経験勤め先数別(右)にみた主観的地位評定

主観的地位認知と移動経験の関係をみていくと、まず職種経験数と階層帰属意識について

は 3 種類以上の職種を経験しているケースにおいて全体平均よりも「中の下」が少なく「下

の上」が増えるといった傾向が示されている。ただし経験職種数が 1~2 種類のケースにはそ

のような傾向はみられない(χ2=16.533, p=.011)。これは 10 段階スケールの主観的地位評定

も同様で、3 種類以上の職種経験者においてやや平均値が下がっている(F=5.160, p=.006)。

一方の勤め先の数と階層帰属意識については、調査時点までに経験した勤め先が多い、すな

43

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わち転職回数が多いほど、階層帰属意識を低く評価するケースが増加する傾向が示されてい

る(χ2=106.328, p=.000)。「下の下」とした割合は、5 箇所以上の勤め先を経験したケースに

おいて転職を経験していないケースの 4 倍程度、「下の上」の割合も 1.5 倍以上と、転職を多

く経験しているケースほど階層帰属意識は低いようである。主観的地位評定も同様に勤め先

の数と反比例の関係にあり、経験職種数ではみられなかった線形関係が示されている 5。

図 4 は調査時点における職業的地位の継続年数別に階層帰属意識、主観的地位評定をみた

ものである。

8.0% 5.4% 9.7% 7.1% 5.6%

31.0%30.2% 26.2% 29.0% 31.4%

36.9% 44.4% 45.3% 45.3% 45.8%

24.1% 19.9% 18.8% 18.6% 17.3%

0%

20%

40%

60%

80%

100%

0~2年 3~5年 6~10年 11~20年 20年以上

上・中の上

中の下

下の上

下の下

n=377 n=351 n=382 n=393 n=306

(20.8%) (19.4%) (21.1%) (21.7%) (16.9%)

5.50

5.50

5.45

5.36 5.45

4.00

5.00

6.00

7.00

0~

2年

3~

5年

6~

10年

11~

20年

20年以上

図4 現在の職業的地位の継続年数別にみた階層帰属意識(左)・主観的地位評定(右)

経験職種数や勤め先数とは異なり、現在の職業的地位の継続年数が長いから、あるいは短

いからといって主観的地位認知が高くなる、低くなるといった傾向はみられない(χ2=18.244,

p=.108)6。以上の結果から、主観的地位認知との間に直接的な関連がみられた職業移動に関

する変数としては、今までに経験してきた勤め先の数、そして職種について 3 種類以上の経

験があげられる。次節ではこれらの変数が他の階層的地位に関する要因を統制しても有意な

効果を示すのか直接効果について検証する。

4.2 職業移動の直接効果

分析枠組みにおいて示した主観的な地位認知に対する職業移動の影響としては順番が逆に

なるが、交互作用項を用いて階層的地位と地位認知の整合性の強弱を分析する前に、地位認

知に対する職業移動経験の直接効果を検証しておく。先に述べた回答者の階層的地位を統制

したうえで、その効果の有無を検証する変数は、「経験職種数(model 2)」「経験した職種の

5 相関係数は r=-.201 と 1%水準で有意な負の相関であった。 6 相関係数は r=.012 とほぼ無相関であった。

44

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職業威信スコアの標準偏差(model 3)」「経験した職種の職業威信スコアのレンジ(model 4)」、

「勤め先の数(model 5)」と「現在の職業的地位の継続年数(model 6)」である。

表 1、表 2 は階層帰属意識について順序回帰分析、主観的地位評定について最小二乗法に

よる重回帰分析を行った結果である 7。まず階層帰属意識に対して有意確率 5%水準以下で直

接効果を示した職業移動に関する変数は「勤め先の数」と「現在の職業的地位の継続年数」

であった。回答者の階層的地位を統制したとしても、調査時点までに経験した勤め先の数が

多い、すなわち転職をより多く経験したケースにおいて階層帰属意識は低い。また階層的地

位が同じであるならば、現在の職業的地位が長く継続しているケースほど階層帰属意識は低

い。職歴における経験職種のバリエーションに関する変数はその種類数、威信スコアの散ら

ばりや範囲も有意な直接効果は示していなかった。次に主観的地位評定に対して有意確率 5%

水準以下で直接効果を示した職業移動に関する変数は、「経験職種数」と「勤め先の数」であ

った。階層帰属意識とは異なり、階層的地位を統制しても調査時点までに経験した職種の種

類が多いケースにおいて主観的地位評定は低い。勤め先の数については階層帰属意識と同様

に負の効果であった。また地位評定に対しては回答者の階層的地位のなかでも現職の職業威

信スコアの効果が弱く、経験職種の「散らばり」を統制したmodel3、4 においてのみ 5%水準

で有意な効果が示された。

以上の結果から、階層帰属意識については、「勤め先の数」と階層的地位の統制という条件

付きで「現在の職業的地位の継続年数」が、主観的地位評定については、「勤め先の数」と「経

験職種数」が直接的に、すなわち分析枠組みで示した影響②の経路から回答者の主観的な地

位認知に影響していることが明らかになった。

表1 階層帰属意識に対する移動経験の影響に関する分析

教育年数 0.114 ** 0.114 ** 0.114 ** 0.113 ** 0.109 ** 0.110 **現職の職業威信スコア 0.017 ** 0.017 ** 0.019 ** 0.020 ** 0.016 * 0.016 *LN(世帯年収の実額) 1.066 ** 1.065 ** 1.062 ** 1.068 ** 0.998 ** 1.098 **年齢 0.011 * 0.012 * 0.011 * 0.012 * 0.014 ** 0.015 **経験職種数 -0.074 ns経験職種の職業威信スコアの標準偏差 -0.014 ns経験職種の職業威信スコアのレンジ -0.012 ns勤め先の数 -0.126 **現在の職業的地位の継続年数 -0.014 *-2LL カイ2乗値Nagelkerke R2乗n**:p<.01 *:p<.05 +:p<.10 ns: p≧.10

250.696 ** 251.915 ** 247.734 ** 253.260 ** 264.953 ** 249.845 **

model 6

2,881.408

0.1941,2831,309

0.191 0.192 0.189 0.192 0.2011,310 1,310 1,307 1,310

2,921.925

model 1 model 2 model 3 model 4 model 5

2,903.771 2,933.862 2,934.676 2,937.251

7 順序回帰分析のリンク関数は従属変数の分布を考慮してロジットを採用した。また表中の係数は階層帰属

意識についての分析結果は回帰係数(B)、主観的地位評定については標準化回帰係数(β)である。

45

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表2 主観的地位評定に対する移動経験の影響に関する分析

教育年数 0.145 ** 0.143 ** 0.142 ** 0.142 ** 0.127 ** 0.145 **現職の職業威信スコア 0.054 + 0.055 + 0.067 * 0.068 * 0.051 + 0.052 +LN(世帯年収の実額) 0.309 ** 0.305 ** 0.309 ** 0.307 ** 0.285 ** 0.309 **年齢 0.095 ** 0.108 ** 0.099 ** 0.103 ** 0.114 ** 0.111 **経験職種数 -0.059 *経験職種の職業威信スコアの標準偏差 -0.032 ns経験職種の職業威信スコアのレンジ -0.045 +勤め先の数 -0.118 **現在の職業的地位の継続年数 -0.042 nsR2乗調整済みR2乗n**:p<.01 *:p<.05 +:p<.10 ns: p≧.10

model 6

1,367

0.168 ** 0.172 ** 0.170 ** 0.170 ** 0.181 ** 0.169 **0.166 0.169 0.167 0.167 0.178 0.166

1,394

model 1 model 2 model 3 model 4 model 5

1,395 1,395 1,392 1,395

4.3 交互作用項による検討

次に、主観的地位認知の 2 変数に直接効果を与えていなかった職業移動の関する諸変数が

分析枠組みで示した影響①に該当するような影響を与えるのかどうかを検証する。表 3、4

はそれぞれの主観的地位認知に関する変数について、階層的地位と直接効果が有意ではなか

った職業移動関連の変数の交互作用項を含めた分析結果である。モデル番号は表 1、2 におけ

る各モデルからの拡張であることを示している。

表3 交互作用項を含めた順序回帰分析(階層帰属意識)

教育年数 0.174 ** 0.120 ** 0.123 **現職の職業威信スコア 0.007 ns 0.018 * 0.020 *LN(世帯年収の実額) 1.098 ** 1.034 ** 1.023 **年齢 0.013 * 0.011 * 0.012 *経験職種数 0.437 ns経験職種の職業威信スコアの標準偏差 -0.123 ns経験職種の職業威信スコアのレンジ -0.097 ns教育年数×経験職種数 -0.034 ns職業威信スコア×経験職種数 0.005 nsLN(世帯年収の実額)×経験職種数 -0.021 ns教育年数×標準偏差 -0.001 ns職業威信スコア×標準偏差 0.000 nsLN(世帯年収の実額)×標準偏差 0.008 ns教育年数×レンジ -0.001 ns職業威信スコア×レンジ 0.000 nsLN(世帯年収の実額)×レンジ 0.007 ns-2LL カイ2乗値Nagelkerke R2乗n**:p<.01 *:p<.05 +:p<.10 ns: p≧.10

1,310 1,307 1,3100.193 0.189 0.193

254.380 ** 247.964 ** 253.986 **2,931.397 2,934.445 2,936.525

model 2' model 3' model 4'

46

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表4 交互作用項を含めた重回帰分析(主観的地位評定)

教育年数 0.154 ** 0.154 ** 0.129 **現職の職業威信スコア 0.030 ns 0.034 ns 0.088 *LN(世帯年収の実額) 0.302 ** 0.294 ** 0.312 **年齢 0.102 ** 0.106 ** 0.110 **経験職種の職業威信スコアの標準偏差 -0.394 ns経験職種の職業威信スコアのレンジ -0.598 ns現在の職業的地位の継続年数 0.248 ns教育年数×標準偏差 -0.014 ns職業威信スコア×標準偏差 0.181 nsLN(世帯年収の実額)×標準偏差 0.211 ns教育年数×レンジ -0.017 ns職業威信スコア×レンジ 0.149 nsLN(世帯年収の実額)×レンジ 0.435 ns教育年数×継続年数 0.061 ns職業威信スコア×継続年数 -0.197 nsLN(世帯年収の実額)×継続年数 -0.157 nsR2乗調整済みR2乗n**:p<.01 *:p<.05 +:p<.10 ns: p≧.10

model 3' model 4' model 6'

0.171 ** 0.171 ** 0.170 **0.167 0.167 0.1651,392 1,395 1,367

階層帰属意識、主観的地位評定、ともにいずれのモデルにおいても交互作用項の効果は有

意ではない。-2LL の変化量、あるいは自由度調整済み決定係数をみても表 1、2 の各モデル

から適合度が大きく改善したものはなく、先の直接効果の検証時に主観的地位認知に対して

有意な効果を示さなかった職業移動に関する諸変数は、個々の階層的地位と地位認知の整合

性に対しても、それを高めたり、あるいは攪乱したり、といった効果はないといえよう。こ

こでの分析結果に基づくと、職歴において複数種の職種を経験すること、従事した職種の職

業威信スコアが多様であること、また現在の職業的地位が長期にわたっているからといって、

特定の階層的地位が地位認知の判断基準としてその影響力を変化させるわけではない。

4.4 残差による検討

では分析枠組みで示した影響①のような作用は職業移動の経験にはみられないのであろう

か。前節では個々の階層的地位との交互作用項によってこの点を検証したが、ここでは回答

者の階層的地位から主観的地位認知を予測する基本的な分析モデル(表 1、2 における model

1)における残差、すなわち、回帰モデルによって回答者の階層的地位から推計された帰属階

層や地位評定の予測値と実際の回答内容のズレに着目して分析を行う。

階層帰属意識については、階層的地位を用いた順序回帰分析によって予測されたカテゴリ

と実際に回答者が選択したカテゴリ(帰属階層)に違いがあるかないか、その有無に関する

2 値変数と、違いの方向、すなわち予測値に比べて実際の回答が低くなっているのか、高く

なっているのかを含めた 3 値(1=低い・2=同じ・3=高い)の変数によって測定した。主観的

地位評定については、標準化していない残差を求め、差の大きさはその絶対値を用いた。

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まず階層的地位による階層帰属意識の予測値と実際の回答に違いがみられるか否かの 2 値、

その違いの方向を考慮した 3 値の従属変数に対して、調査時点までの経験職種数、経験した

職種に付与された職業威信スコアの標準偏差、レンジを独立変数とした 2 項ロジスティック

回帰分析、および多項ロジスティック回帰分析を行ったところ、有意な効果を示す変数はみ

られなかった。調査時点までの職歴において経験した職種の種類が多い、あるいは威信スコ

ア上の散らばりや範囲が広いからといって、予測値と実測値の間に正負の違いが生じる、す

なわち階層的地位と階層帰属意識の整合性が低いという傾向はみられない。

次に階層的地位から主観的地位評定を予測したモデルの残差、およびその絶対値について、

調査時点までに経験した各職種に付与された職業威信スコアの標準偏差、レンジ、現在の職

業的地位を独立変数とした重回帰分析を行った結果が表 5 である。なお、職歴のなかで経験

した職種の職業威信スコアの標準偏差とレンジは強く関連する(r=.962, p=.000)ことから、

それぞれを別個に独立変数として含めている 8。

表5 残差・残差の絶対値に関する重回帰分析

経験職種の職業威信スコアの標準偏差 -0.032 ns -0.039 ns 0.001 ns -0.007 ns経験職種の職業威信スコアのレンジ -0.045 + -0.055 * 0.016 ns 0.007 ns現在の職業的地位の継続年数 -0.041 ns -0.047 + -0.051 + -0.048 + -0.049 + -0.042 nsR2乗n**:p<.01 *:p<.05 +:p<.10 ns: p≧.10

残差(非標準化) 残差(非標準化)の絶対値

1,364 1,364

相関係数

-1,3641,367

model 2a model 2b

0.002 ns 0.002 ns

model 1a model 1b

0.005 *1,364

0.002 ns-1,364

相関係数

まず階層的地位による地位評定の予測値と回答者の実際の認識の差である残差については、

経験職種の職業威信スコアのレンジが 5%水準で有意な負の効果を示している。残差は「観

測値-予測値」で算出されることから、職歴のなかで経験した最も低い職業威信スコアと最

も高い職業威信スコアの差が大きいケースほど、階層的地位による予測値は回答者の実際の

認知を上回っている。一方の残差の絶対値については 5%水準で有意な変数はみられないこ

とを合わせて考慮すると、経験職種の職業威信スコアのレンジが大きいことは残差そのもの

の大きさを小さくする(ゼロに近づける)のではなく、予測値が観測値を上回る方向に、す

なわち負の方向に攪乱する作用があると解釈できる。言い換えるならば、職業経歴において

経験した職種の職業威信スコアの範囲が大きいケースほど、階層的地位から予測される地位

評定よりも低く自身の地位を認知しているのである。

8 階層帰属意識における予測値と観測値の違いに関する分析においても標準偏差とレンジを交互に分析モ

デルに含めたが、いずれの変数も有意な効果を示さなかった。

48

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5 考察

本章では「階層帰属意識」と「主観的地位評定」という 2 種類の主観的な地位認知に対し

て、回答者が調査時点までに経験した職業経歴の内容が与える影響を計量的に分析した。ま

ず職業経歴の内容が地位認知の判断基準となっているのか、その直接効果を検証したところ、

階層帰属意識、主観的地位評定ともに共通して「勤め先の数」が有意な負の効果を示してい

た。調査時点における回答者の階層的地位が同じだとしても、それまでの職業経歴において

多くの勤め先を経験している、すなわち転職が多いケースにおいて、主観的な地位認知は有

意に低い。なお結果は掲載していないが、追加分析として、表中に示した独立変数の他に、

転職の回数と関連する変数として現職の雇用形態(正規雇用か非正規雇用か)、勤め先が変化

する際に生じた収入変化の認識(増えた、あるいは減ったと感じた回数)を統制した分析モ

デルも検証したが、一貫して「勤め先の数」は有意な負の効果を示していた。よって調査時

点の階層的地位とは別に、勤め先が変わる回数が多いこと、職を転々としていること自体が

自己の地位の主観的な位置づけにネガティブな影響を与えているといえよう。自己の職業経

歴に対する回答者の満足度を分析した小林(2005)は、性別や年齢、現職の職種を統制して

も転職回数の多さが自分の職業経歴に対して負の評価をもたらすことを明らかにしている。

また守島(2001)は職場満足度について、1 回の転職経験は回答者が新しい勤め先で示す満

足度にプラスの影響をもつものの、2 回以上の転職を経験した回答者は転職を経験していな

い回答者と比較して満足度は高くならず、場合によっては有意に下がることを明らかにして

いる。本研究が用いたのは主観的な地位認知という社会全体における階層的位置づけを問う

意識であったが、これらの研究と同じような結果がみられたことは、転職回数の多さが自己

評価の広い範囲に負の影響をもつこと、そして主観的な地位認知が現在の階層的地位への評

価であるとともに、過去の職業経歴に対する評価、過去の職業経歴における経験や記憶が加

味された評価でもあることを示唆しているといえる。ただし、「勤め先の数」以外に関しては

主観的地位認知の測定内容によって影響を与える要因が異なっており、中尾(2002)が指摘

したような帰属意識と地位評定という測定の質的な違いを考慮した地位認知の意味論という

観点からさらに検証する必要がある。

分析枠組みにおいて、職業移動の経験、職業経歴の内容を、階層的地位と地位認知の整合

性に影響を与える要因として位置づけ分析を行ったが、本章で用いたような職業経歴の特徴

を表す変数の効果は限定的であることが明らかになった。交互作用項を用いた分析からは、

多様な職種の経験や、職業威信スコアからみた従事してきた職種の散らばりが、地位認知に

対する個別の階層的地位の規定力を変化させるといった傾向はみられなかった。ただし階層

的地位から推計された地位認知の予測値と実際の回答の間にみられるズレ、すなわち残差に

ついての分析から、階層帰属意識については分析枠組みにおいて想定したような影響は確認

49

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できなかったものの、10 段階スケールの主観的地位評定については、職歴において経験した

職種の職業威信スコアのレンジが大きいことが、回答者の地位評定を予測値よりも低い方向

に押し下げるという結果がみられた。経験職種の多様性を表す変数のひとつとしてなぜレン

ジが影響したのか、またなぜレンジが大きいケースにおいて予測値の方が高くなるのかは推

測するしかないが、主観と客観の整合性を負の方向へ攪乱させるという点から考慮するなら

ば、これらの回答者は過去に経験した職業的地位の低さに強く影響されて「この学歴、収入

ならばこのくらい」という階層的地位と地位認知の対応関係を他の回答者よりも低く想定す

るようになっているのかもしれない。

本研究では階層帰属意識や主観的地位評定といった回答者の地位認知に対して調査時点の

階層的地位だけではなく、過去の移動経験、職業経歴が影響することが明らかになったが、

先に述べたような測定内容が異なる帰属意識と地位評定がもつ意味の違いを考慮した分析、

そして過去の職業経歴が地位認知の評価基準の選択にどのような影響が与えているのか、心

理的メカニズムも含めたより精緻な分析は今後の課題としたい。

【文献】

赤川学. 2000. 「女性の階層的地位はどのように決まるか?」盛山和夫(編)『日本の階層システム4:ジェンダー・市場・家族』東京大学出版会: 47-63.

守島基博. 2001. 「転職経験と満足度: 転職ははたして満足をもたらすのか」猪木武徳・連合総合生活

開発研究所(編著)『「転職」の経済学: 適職選択と人材育成』東洋経済新報社. 小林久高. 2005. 「転職経験の基礎分析: 性別・世代・学歴・出身地・職業・意識」近藤博之(編)『ラ

イフヒストリーの計量社会学的研究』平成 14-16 年度科学研究費補助金研究成果報告書: 63-74. 間々田孝夫. 1990. 「階層帰属意識: 経済成長,平等化と「中」意識」原純輔(編)『現代日本の階層構

造②: 階層意識の動態』東京大学出版会: 23-45. 間々田孝夫. 2000. 「自分はどこにいるのか: 階層帰属意識の解明」海野道郎(編)『日本の階層システ

ム2: 公平感と政治意識』東京大学出版会: 61-81. 中尾啓子. 2002. 「階層帰属意識と生活意識」『理論と方法』17(2): 135-149. 直井道子. 1979. 「階層意識と階級意識」富永健一(編)『日本の階層構造』東京大学出版会: 365-388. 小沢雅子. 1985. 『新「階層消費」の時代: 消費市場をとらえるニューコンセプト』日本経済新聞社. 盛山和夫. 1990. 「中意識の意味」『理論と方法』5(2): 51-71. 高坂健次. 2000. 『社会学におけるフォーマル・セオリー: 階層イメージ関する FK モデル』ハーベス

ト社. 渡邊勉・土場学. 1995. 「階層イメージと社会移動」『理論と方法』17(1): 45-52.

50

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51

Effects of Occupational Mobility on Status Identification

Atsushi Hoshi Konan University

The purpose of this paper is to examine the effects of occupational mobility on status identification. The analytical framework used in this paper proposes that status identification would be determined not only by an individual’s status on social stratification but also by the characteristic of his/her job career. Data from 2005 SSM Survey in Japan was analyzed using a sample of males of 65 and under. The results of data analysis are as follows: (1) The number of changing jobs affects negatively to respondent's status identification. (2) It is different by questionnaire and measurement which characteristic of his/her job career is effective on status identification. (3) Indirect effect of job career on status identification was restrictive. There is a possibility that people decide their status identification based on personal experiences of past working and their job career.

Keywords: status identification, occupational mobility, job changes

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階層意識に対する従業上の地位の効果について

小林大祐

(仁愛大学)

【要旨】

本研究では、階層意識に対して従業上の地位が持つ効果について検討を行う。SWB(subjective well-being)研究と呼ばれる分野において、失業状態であることが幸福感に与える負の影響が、経

済的な要因にのみには還元できない、社会的な意味づけに関わるものという可能性が示されてお

り、同様な可能性はパート・アルバイトといった層においても考えることができる。つまり、「フ

リーター・ニート」といった存在が社会問題化し注目を集めたことで、そのような立場にあるこ

とそのものが、収入や職業内容にかかわらず階層帰属意識や生活満足度にマイナスの影響を持つ

可能性である。従って、本研究では、まず失業が固有の効果を持っているかどうかを確認し、次

に「フリーター」にも同様の傾向が存在するかを検証する。 分析の結果、生活満足度に対しては「失業」状態にあることが男女ともに、「フリーター」で

あることは男性においてマイナスの効果を持っていることがわかり、階層帰属意識に対しては、

男性において「失業」状態であることが、マイナスの効果を持っていることがわかった。1995年データでは、このように明確な従業上の地位の効果は確認できなかったことからも、この結果

はここ 10 年間に起こった、非正規の職員・従業員の割合の急増に代表される雇用の流動化によ

って、正社員であることが普通であった時代から、それが希少な地位となる時代へとシフトした

ことが、人々に認識されるなかで、満足感(効用)の判断基準もシフトした可能性を示唆するも

のである。

キーワード:従業上の地位、主観的幸福感、階層帰属意識

1 はじめに

階層帰属意識は社会階層の主観的側面を測るものとして、SSM 調査のなかでも一貫して関

心を集めてきた項目といえる。1975 年調査、1985 年調査においては中意識研究の文脈から、

多くの研究が蓄積されることになった。しかし、それらの研究が示したのは、皮肉にも階層

帰属意識が客観的階層と単純には対応していないというものであった。そこで 1995 年調査

以降の研究では、そのズレに数理的、計量的にアプローチしようとする研究が数多く現れ蓄

積されることとなった。

ただ、これまでの階層帰属意識の規定要因に計量的にアプローチする研究においては、男

性サンプルについては有職者に限定して分析が行われることが主流であった。これには、無

職者を分析に含めると職業威信スコアを適用しにくくなるというテクニカルな要因もさてお

き、なによりも学校を出た男性は正社員として職に就くものという前提が、基本的に共有さ

53

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れていたことが大きいといえるだろう。

しかし、近年加速している雇用の流動化の前では、このような前提がもはや成り立たない。

1995 年には 20.9%であった非正規の職員・従業員の割合が 2005 年には 32.6%にまで上昇し

ていることが『労働力調査』から示されているように、学卒時に正社員として労働市場に入

っていくことの困難さは、この 10 年間で確実に増しているはずである。そうであれば、人

びとの階層意識に対して職業が持つ効果は、従来の職業威信スコアだけではなく、どのよう

な立場で仕事をおこなっているか、すなわち従業上の地位についても考慮される必要がある

であろう。

16.4

20.2 20.9

26.0

32.3

7.4 8.8 8.911.7

17.8

32.1

38.1 39.1

46.4

51.8

0.0

10.0

20.0

30.0

40.0

50.0

60.0

1985 1990 1995 2000 2005

男女計

男性

女性

出所:総務省統計局「労働力調査 長期時系列データ」

図1 役員を除く雇用者に占める非正規の職員・従業員比率

この点で、SWB(subjective well-being)研究と呼ばれる分野において、収入のような個

人属性をコントロールしても失業が幸福感にマイナスの影響を与えることが指摘 1されてい

ることは興味深い。なぜなら、これらの研究は、失業状態であることが幸福感に与える負の

影響が、経済的な要因にのみには還元できない、社会的な意味づけに関わるものという可能

性を示唆するものであるからである。そして、このような可能性はパート・アルバイトとい

った層においても考えることができる。つまり、「フリーター・ニート」といった存在が社会

問題化し注目を集めたことで、そのような立場にあることそのものが、収入や職業内容にか

1 代表的なものとして、Frey and Stutzer (2002)や大竹 (2004)がある。

54

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かわらず階層帰属意識や生活満足度にマイナスの影響を持つ可能性である。

このような観点から、本稿では、広義の階層意識としての「生活満足感」と狭義の階層意

識としての「階層帰属意識」を被説明変数として、失業が固有の効果を持っているかどうか

を 2005SSM 調査データによって確認し、次に「フリーター」にも同様の傾向が存在するか

を検証する。また 2005 データにおける傾向を 1995 年のデータと比較することにより、この

間に起こった社会経済環境の変化とからめて解釈する。

2 先行研究

2.1 階層帰属意識研究

「はじめに」でも述べたように、従来、階層帰属意識の規定要因として、職業階層を測定

する指標として用いられてきたのは職業威信スコアであった。階層帰属意識の規定要因を重

回帰モデルによって分析した友枝・小島 (1987)、吉川(1999)、数土(1999)、小林(2004)

のいずれにおいても職業威信スコアが用いられている。これは職業威信スコアが時点間での

変化が少なく、国際的にもきわめて類似している(直井 1979)という分析上の望ましい特性

を備えていたことによるものであるが問題も存在する。安田・原(1982)は職業の4次元と

して①産業、②従業先の規模、③狭義の職業(仕事の内容)、④従業上の地位を挙げているが、

職業威信スコアは③を主に測定するものであり、他の次元は考慮していない。この点につい

て、村瀬(1998)は従業先の規模について考慮した職業威信スコアを提案しているが、従業

上の地位については考慮していないことを問題とするものではなかった。したがって、職業

威信スコアのみを使用する場合、正規雇用か非正規雇用かといった立場の違いを考慮してい

ないことになる。また、そもそも仕事の内容に着目するということは有職者のみに分析範囲

を限定することになる。このような制約が、これまで特に問題とされてこなかったことの背

景に、男性においては学卒後正社員として仕事につくのが当然であるという社会状況があっ

たことは明らかである。しかし、近年の雇用の流動化の進行は、「はじめに」で確認したよう

に非正規雇用を大量に生み出し、失業者も高度成長期以降では最も高い水準となった。当然、

このような時代状況においては、仕事の内容のみを考慮する指標では問題があるといえるだ

ろう。

実際、このような職業階層の効果について、吉川(2006)は 2003 年の SSM 予備調査のデ

ータに対するパス解析において、モデル全体の説明力はそれ以前の時点と比べ高くなったに

もかかわらず、職業威信スコアから階層帰属意識へのパスが消失したことを示している。そ

して、この傾向を所得と学歴の二元構造による階層帰属意識の時代の到来と呼んでいのであ

るが、先の整理からすると、この傾向はあくまでも職業のひとつの側面が影響力を持たなく

なったということであり、他の側面を考慮する余地は残っていると思われる。この点で従業

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上の地位を考慮することには意義があると考えられるのである。

2.2 主観的幸福感研究

原(1990)の分類に則れば、階層帰属意識は狭義の階層意識といえるが、より広義の階層

意識として位置づけられているものに生活満足感がある。この項目は、主観的幸福感の指標

としても用いられており、心理学者や計量経済学者による SWB(subjective well-being)研究

と呼ばれる一連の研究が蓄積されている。この一連の研究の中で経済的な要因の主観的幸福

感に与える効果についても分析がなされ、特に「失業」の効果については、さまざまな要因

をコントロールしても失業が幸福感にマイナスの影響を与えることが実証データによって示

されている(Clark and Oswald, 1994; Winkelmann and Winkelmann 1998; Frey and Stutzer 2002)。

そして、このような傾向については、日本のデータについても大竹(2004)において同様の

結論が導かれており、人びとの主観的厚生水準を引き上げるには金銭的な再分配政策よりは、

同額の資金で仕事を創出したほうが効果的であること論じられている。

すなわち、これらの知見から、失業状態にあることが人びとの幸福感に与える影響は、そ

のような状況にあることによる収入の少なさ、すなわち経済的な要因に還元しうるものでは

なく、そのような状況がどのように意味づけられているか、すなわち社会的な要因として関

わっていることが示唆されるのである。

2.3 若年非正規雇用の意識について

失業という仕事に関わる「地位」が人びとの主観的幸福感に固有のマイナスの影響を及ぼ

すのであるとすれば、やはり不安定な従業上の地位に置かれた人びとにも同様のマイナスの

影響があると想定することは不自然ではないだろう。そもそも「非正規雇用」という呼称は、

その状況に置かれた者をイレギュラーな存在と認識させるには十分である 2。

特に、近年フリーター、ニートといった問題がメディアを賑わし社会的に注目を集めるこ

とで、そのような立場そのものが、やはり収入や職業内容にかかわらず生活実感にマイナス

の影響を持つ可能性が考えられる。そして、収入をはじめとする待遇面での格差以上に、そ

こからの抜け出すことの困難さとしての地位性を感じ取っている可能性もあるだろう。すな

わち、「フリーター」という状態を階層として認識しているのではないであろうか。

このような、若年非正規雇用者の自己認識については、インタビュー調査の結果から、フ

リーターが世間の厳しい「フリーター観」を感じているが、それに対して後ろめたさも反発

も感じていないことを指摘する下村(2002)や、フリーター男性の暗い自己イメージが職業、

家族形成の面での展望のなさによることを示した本田(2002)がある。また、計量的なアプ

2 「非典型雇用」という名称もあるが、正社員を基準とする意味合いは変わらないといえる。

56

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ローチからは、フリーターをしている理由に着目して、「やむを得ず型フリーター」であるこ

とは、他の社会経済的属性をコントロールしても、生活満足感(小林 2006)や自尊感情(永

吉 2006)に対してなお有意なマイナスの効果を持つことが報告されており、この結果は、

外的なレッテルより自身がどのような動機付けで「フリーター」をしているかが彼らの自己

評価に影響している可能性を示唆するものである 3。

2.4 仮説

このような、失業状態にあることや不安定雇用の立場にあることそのものが、その人の主

観的幸福感や階層帰属意識に固有のマイナスの影響を持っているかどうか、そして職業威信

スコアで測定される仕事の内容と比較しても、効果を持っているのかどうかを検証するため

には、そういった従業上の地位にあることが、経済的変数や職業威信スコアなどの変数でコ

ントロールしてもなお、主観的幸福感や階層帰属意識に負の効果を持つかどうかで測ること

ができるだろう。したがって、本稿の分析においては、まず、主観的幸福感に注目して、失

業やフリーターという状況にあることが主観的幸福感に対して固有の効果を持っているかど

うかを以下の 2 つの仮説によって確認する。

仮説 1a:収入などの変数をコントロールしても失業していることが、主観的幸福感にマイ

ナスの効果を持つ

仮説 1b:収入などの変数をコントロールしても「フリーター」であることが、主観的幸福

感にマイナスの効果を持つ

次に階層帰属意識に注目して、失業やフリーターという状況にあることが階層認知に対し

て固有の効果を持っているかどうかを以下の 2 つの仮説によって検討する。すなわち、

仮説 2a:収入などの変数をコントロールしても失業していることが、階層帰属意識にマイ

ナスの効果を持つ

仮説 2b:収入などの変数をコントロールしても「フリーター」であることが、階層帰属意

識にマイナスの効果を持つ

という 2 つの仮説である。以下では、これら 4 つの仮説について、まず 2005 年データの分析

によって検証を行い、つぎに 1995 年データでも同様の分析をして、それらの結果の比較検討

を行う。

3 ただし、データはネット調査によるものであり、解釈には留保が必要である。

57

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3 モデルと変数

3.1 データ

本稿において用いられるデータは、SSM2005 面接票、留置 A 票、留置 B 票(2007 年 11 月

28 日配布 2005SSM 国内調査最終版 version14.2 データセット)、SSM1995B 票のデータであ

る。

3.2 変数と分析モデル

従属変数に用いる変数として、仮説 1 においては「生活満足感」を用いる。主観的幸福感

の指標としては、多次元の指標により構成する方法も存在するが、Frey and Stutzer(2002)

は「生活に対する全般的な満足度」という単一次元の指標がうまく機能することを論じてお

り、生活満足感を用いることで分析上特に問題が生じることはない。仮説 2 については「階

層帰属意識」を用いる。なお、今回の分析では 10 段階の階層帰属意識を用いる。これは、5

段階の階層帰属意識にくらべ 10 段階の階層帰属意識は分散が大きく、欠損値が少ないためで

ある 4。

独立変数には、「従業上の地位」のそれぞれのカテゴリに対するダミー変数を投入する(基

準カテゴリは「常時雇用されている一般従業者」)。この「従業上の地位」においては、今回

の調査までは、無職者が求職中であるかどうかを問題としていなかった。すなわち、「無職者」

のなかに含まれていた失業状態にある人と仕事をする必要のない人とを区別できなかったの

である。しかし、今回の調査から、この 2 つを区別するようになったので、はじめて「失業

者」を操作的に定義することが出来るようになった。したがって、失業状態を示すものとし

て「従業上の地位」における「無職:仕事を探している」のダミー変数を用いる。

そしてフリーターの操作的定義としては、15~34 歳で学生アルバイトや主婦パートを除い

たパート・アルバイトにある者および無業者でパート・アルバイトの職を求職中の者という

フリーターについての一般的な統計上の定義 5から、本稿では従業上の地位から作成した「臨

時雇用・パート・アルバイトダミー」と年齢から作成したダミー変数「20-34 歳ダミー」と

の交互作用項として操作化する。また女性においては未婚者のみに限定する。

コントロール変数には客観的階層変数として等価所得 6、教育年数、職業威信スコア 7、財

4 2005 年 SSM 調査の階層帰属意識項目の特性と 5 段階項目の欠損値の多さについては、小

林(2008)を参照。 5 内閣府の定義では、派遣社員も含まれる。 6 世帯収入を世帯人員の平方根で除したもの。 7 95 年職業威信スコアを用いた。

58

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産得点 8を用いる。なお、職業威信スコアは、無職者には与えられないので、平均値で置き換

えている。

分析モデルとしては、重回帰分析を用い、まず従業上の地位がそれぞれの階層意識対して

効果を持つかが検討され、次に特にフリーターであることの効果が存在するかを、先に示さ

れた交互作用項もモデルに投入して検討する。

表 1 記述統計量

男性 女性 男性平均値 標準偏差 度数 平均値 標準偏差 度数 平均値 標準偏差 度数

生活満足感(降順) 3.7 1.1 1782 3.9 1.1 1845 3.5 1.1 1029階層帰属意識10段(降順) 5.4 1.7 1747 5.6 1.6 1813 5.2 1.6 1009年 齢 49.9 12.6 1782 48.9 13.0 1845 47.1 13.0 1029教育年数 12.8 2.4 1782 12.2 1.9 1845 12.3 2.8 1029等価世帯収入 361.4 232.7 1782 343.0 229.7 1845 423.3 277.9 1029財産得点 13.2 5.5 1782 13.4 5.8 1845 8.7 4.6 1029職業威信スコア 52.3 9.0 1782 50.0 6.3 1845 51.7 8.4 1029

2005年データ 1995年データ

4 分析

4.1 生活満足度

まず、男性サンプルについて交互作用項を含まないモデルから検討していく。従業上の地

位について注目すると、「自営業主、自由業者ダミー」と「無職:仕事を探している」が 0.1%

水準で有意なマイナスの効果を持っており、「臨時雇用、パート・アルバイトダミー」、「派遣

社員ダミー」も 5%水準で有意なマイナスの効果を示し、正規雇用にある人びとに比べて、

失業やパート・アルバイトの状態にあること以外にも、従業上の地位が生活満足感に影響し

ていることが分かる。また、コントロール変数をみると「教育年数」、「等価所得」、「財産得

点」がそれぞれ有意なプラスの効果を持っているのに対し、「職業威信スコア」は有意な効果

を持たなかった。

続いて、フリーターの効果について追加したモデル 2 を検討する。新たに投入した「20-34

歳ダミー」がプラスの効果を持ったのに対し、「臨雇パート・アルバイトダミー」の主効果が

有意な効果ではなくなった。そして、フリーターを表す交互作用項「20-34 歳ダミー*臨雇

パート・アルバイトダミー」がマイナスの効果を持った。この結果が意味するのは、モデル

1 に示された、パート・アルバイトの生活満足度へのマイナスの効果は、若年層における効

果として考えることが出来るということである。

8 財産得点は、所有する財産について、サンプルにおけるそれぞれの所有率をもとめ、その

逆数の平方根をとった値で重み付けを行って足し合わせ算出した。

59

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表 2 男性サンプルに対する重回帰分析 従属変数: 生活満足度

モデル1 モデル2

満年齢 .053†

.132***

教育年数 .062 * .067 *

等価所得 .124***

.121***

財産得点 .137 *** .146 ***

職業威信スコア(欠損値を平均で置き換え) .009 .010

経営者、役員ダミー -.047 † -.047 †

臨時雇用・パート・アルバイトダミー -.048 * -.038

派遣社員ダミー -.055*

-.054*

契約社員、嘱託ダミー -.014 -.021

自営業主、自由業者ダミー -.111***

-.110***

家族従業者ダミー .011 .008内職ダミー - -

無職:仕事を探しているダミー -.156***

-.157***

無職:仕事を探していないダミー -.034 -.050 †

学生ダミー .000 -.011

20-34歳ダミー - .125 ***

20-34歳ダミー*臨雇・パート・アルバイトダミー - -.057

*

調整済み決定係数 .099 .108度数 1782 1782

***<0.001,**<0.01,*<0.05,†<0.1

標準偏回帰係数

表 3 女性サンプルに対する重回帰分析 従属変数: 生活満足度

モデル1 モデル2

満年齢 -.081**

-.002

教育年数 -.013 -.006

等価所得 .179***

.169***

財産得点 .171***

.159***

職業威信スコア(欠損値を平均で置き換え) .053*

.056*

経営者、役員ダミー -.037 -.042†

臨時雇用・パート・アルバイトダミー .017 -.010

派遣社員ダミー .010 .014

契約社員、嘱託ダミー -.002 -.002

自営業主、自由業者ダミー .054*

.046†

家族従業者ダミー .011 -.008

内職ダミー .024 .016

無職:仕事を探しているダミー -.048*

-.059*

無職:仕事を探していないダミー .107 *** .067 *

学生ダミー -.035 -.029

20-34歳ダミー - .074†

無配偶者ダミー - -.110***

20-34歳ダミー*臨雇・パート・アルバイトダミー - .026臨雇・パート・アルバイトダミー*無配偶ダミー - -.002

20-34歳ダミー*無配偶ダミー - .019臨雇・パート・アルバイトダミー*20-34歳ダミー*無配偶ダミー - .010

調整済み決定係数 .093 .102度数 1845 1845

***<0.001,**<0.01,*<0.05,†<0.1

標準偏回帰係数

60

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女性サンプルについても、従業上の地位の効果が示された。男性と同様「無職:仕事を探

している」がマイナスの効果を持っていたのに対し、「無職:仕事を探していない」はプラス

の効果を示した。また「自営業主、自由業者ダミー」が男性とは逆にプラスの効果を持って

いた。しかし、モデル 2 においては、「無配偶者ダミー」の主効果がマイナスを示したが、「20-34

歳ダミー*臨雇パート・アルバイトダミー*無配偶者ダミー」の交互作用項は有意とならず、

フリーターの効果は確認できなかった。

4.2 階層帰属意識

次に、階層帰属意識を従属変数とした分析について、やはり男性サンプルからみていく。

従業上の地位に注目すると、「臨時雇用・パート・アルバイトダミー」、「自営業主、自由業主

ダミー」、「無職:仕事を探しているダミー」が有意なマイナスの効果を持っており、これら

の従業上の地位においては正社員にくらべ階層認知を低めていることがみてとれる。また、

「職業威信スコア」が有意な効果を持っていないことからは、人びとが職業の内容よりもそ

の職業をどのような立場で行っているかを基準にして所属階層を判断していることが示唆さ

れる。ただし、モデル 2 においては、投入した変数に有意な効果はみられず、モデルの説明

力も高まることはなかった。したがって、「フリーター」であることが階層帰属意識を低める

という傾向は確認できなかったといえる。

表 4 男性サンプルに対する重回帰分析 従属変数: 階層帰属意識

モデル1 モデル2

満年齢 .134 *** .153 ***

教育年数 .129***

.129***

等価所得 .236 *** .235 ***

財産得点 .170 *** .173 ***

職業威信スコア(欠損値を平均で置き換え) .034 .035

経営者、役員ダミー -.028 -.028

臨時雇用・パート・アルバイトダミー -.052 * -.044 †

派遣社員ダミー -.032 -.031

契約社員、嘱託ダミー -.039 † -.041 †

自営業主、自由業者ダミー -.068**

-.067**

家族従業者ダミー .002 .000内職ダミー

無職:仕事を探しているダミー -.113 *** -.112 ***

無職:仕事を探していないダミー -.044 † -.046 †

学生ダミー .020 .016

20-34歳ダミー - .03720-34歳ダミー*臨雇・パート・アルバイトダミー - -.031

調整済み決定係数 .206 .206度数 1747 1747

標準偏回帰係数

***<0.001,**<0.01,*<0.05,†<0.1

61

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女性サンプルにおいては、従業上の地位に顕著な効果はみられない。ただし、興味深いの

は、「無職:仕事を探していない」がプラスの効果を示したことである。これは、専業主婦を

していられることが、自己の階層認知にとってプラスの効果を持っていることを示すもので

ある。そしてモデル 2 においても投入した変数に有意な効果はみられず、男性と同様「フリ

ーター」の効果は確認できなかった。

表 5 女性サンプルに対する重回帰分析 従属変数: 階層帰属意識

モデル1 モデル2

満年齢 -.019 .034

教育年数 .078 ** .081 **

等価所得 .207 *** .202 ***

財産得点 .217 *** .210 ***

職業威信スコア(欠損値を平均で置き換え) .014 .017

経営者、役員ダミー .026 .025

臨時雇用・パート・アルバイトダミー -.008 .002

派遣社員ダミー .009 .010

契約社員、嘱託ダミー .010 .012

自営業主、自由業者ダミー .037 .034

家族従業者ダミー .005 -.002

内職ダミー .002 -.001

無職:仕事を探しているダミー -.036 -.041 †

無職:仕事を探していないダミー .109 *** .088 **

学生ダミー .001 .003

20-34歳ダミー - .069 †

無配偶者ダミー - -.051 †

20-34歳ダミー*臨雇・パート・アルバイトダミー - -.037臨雇・パート・アルバイトダミー*無配偶ダミー - -.031

20-34歳ダミー*無配偶ダミー - .002臨雇・パート・アルバイトダミー*20-34歳ダミー*無配偶ダミー - .046

調整済み決定係数 .161 .163度数 1813 1813

***<0.001,**<0.01,*<0.05,†<0.1

標準偏回帰係数

4.3 1995 年データとの比較

では、このようにして得られた傾向は、時代状況とどのような関係にあるだろうか。この

点について検討するために、1995 年データにも同様の分析を行い、その結果を比較した。た

だし、先にも触れたとおり、無職者を求職中かどうかで区分したのは 2005 年調査からであり、

1995 年データではこれらは無職としてひとつのカテゴリになっている。なお、従業上の地位

の効果がみられたのは、生活満足感についても階層帰属意識についても男性サンプルであっ

たので 1995 年サンプルとの比較は男性サンプルのみで行う。

62

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表 6 男性サンプル(1995 調査 b 票)に対する重回帰分析 従属変数:生活満足度

モデル1 モデル2

満年齢 .029 .178**

教育年数 -.086*

-.071†

等価所得 .191***

.184***

財産得点 .100***

.107**

職業威信スコア(欠損値を平均で置き換え) -.004 -.005

経営者、役員ダミー -.018 -.024

臨時雇用・パート・アルバイトダミー -.040 -.040

派遣社員ダミー -.013 -.005

自営業主、自由業者ダミー -.043 -.053家族従業者ダミー .000 -.003内職ダミー - -

無職ダミー -.041 -.072*

学生ダミー .004 -.012

20-34歳ダミー - .189***

20-34歳ダミー*臨雇・パート・アルバイトダミー - -.033

調整済み決定係数 .049 .063度数 1029 1029

***<0.001,**<0.01,*<0.05,†<0.1

標準偏回帰係数

表 7 男性サンプル(1995 調査 b 票)に対する重回帰分析 従属変数:階層帰属意識

モデル1 モデル2

満年齢 .093 * .141 **

教育年数 .084 * .089 *

等価所得 .126 *** .124 ***

財産得点 .135 *** .134 ***

職業威信スコア(欠損値を平均で置き換え) .094 ** .093 **

経営者、役員ダミー .030 .027

臨時雇用・パート・アルバイトダミー -.019 -.048

派遣社員ダミー .031 .032

自営業主、自由業者ダミー -.052 -.057 †

家族従業者ダミー -.008 -.009内職ダミー - -

無職ダミー -.048 -.060 †

学生ダミー .007 .005

20-34歳ダミー - .04420-34歳ダミー*臨雇・パート・アルバイトダミー - .047

調整済み決定係数 .106 .107度数 1009 1009

***<0.001,**<0.01,*<0.05,†<0.1

標準偏回帰係数

まず、生活満足感について分析を行ったのが表 6 である。従業上の地位の効果は、モデル

1 ではなにひとつ有意となっていないし、モデル 2 においても「無職ダミー」が有意となっ

63

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ているのみである。無職についてはマイナスの効果が示されているが、このカテゴリが求職

中かどうかで区分されていれば、求職中の無職者の生活満足感へのマイナスの効果はもっと

顕著なものとなっていたと推測できる。しかし、その他 2005 年データでみられた、パート・

アルバイトや派遣社員や自営業にあること、そして「フリーター」にあることが生活満足感

を低めているというような傾向は示されなかった。

このような傾向は、階層帰属意識でも確認できる。やはりモデル 1 においてもモデル 2 に

おいても従業上の地位は、階層帰属意識に影響を及ぼしていないのである。そして、注目す

べきは、職業威信スコアが 1%水準で効果を持っていることである。これが意味するのは、

この時点では、職業にどのような立場で就いているかよりも、どのような職業に就いている

かという内容こそが階層帰属意識に影響を持っていたということである。

5 考察

以上の分析結果から、本稿の仮説を検討すると、主観的幸福感に対して失業状態にあるこ

とは収入などの経済的要因でコントロールしてもなおマイナスの効果を持っていることが男

女ともに確認されたことから、仮説 1a は支持されるといえる。また、フリーターであること

についても、男性サンプルにおいては生活満足感にマイナスの効果を持っていたことから、

仮説 1b は男性においては支持することが出来ると考えられるであろう。

次に、階層帰属意識を従属変数とした分析についても同様の効果を検討した。その結果、

やはり男性サンプルにおいて失業状態であることが階層認知にマイナスに影響することが示

されたことから、仮説 2a は部分的に支持された。しかし、フリーターであることは男女とも

に効果を持たなかったことから、仮説 2b は棄却される。ただ、フリーターの効果は確認でき

なかったが、パート・アルバイトにあることや自営業自由業にあることはマイナスの効果が

持つことが示されたことから、従業上の地位が人びとの階層認知に影響を及ぼしていること

は明確に示されたといえるだろう。

そして、このような傾向が持つ意味は 1995 年の傾向と比較してみることで、より鮮明とな

る。というのも、1995 年データでは、生活満足感についてモデル 2 において無職が有意な効

果を示した以外は、従業上の地位で有意な効果を示すものはなく、階層帰属意識については、

従業上の地位で有意な効果を示すものは全くなかったためである。特に階層帰属意識につい

ては、1995 年データでは有意なプラスの効果を持っていた職業威信スコアが、2005 年データ

においては有意でなくなったことと併せて考えるならば、職業の評価次元がその内容からそ

の従業上の地位へとシフトしたという解釈も可能である。そして、最初に図 1 として示した、

この 10 年間の非正規労働者の割合の増加、特に男性において 1995 年から 2005 年にかけて倍

増していることや、自営業層にもいわゆる偽装請負のような不安定雇用の状況にあるものが

64

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増加しているという状況を考慮するならば、正社員が普通であった時代から、それが希少な

地位である時代となったことが、階層認知の判断基準にも表れていると考えられるのである。

【文献】

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Frey, B. S. and A. Stutzer. 2002. Happiness and Economics, Princeton University Press.= 2005. 佐和隆光(監

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京大学出版会: 1-45.. 本田由紀. 2002. 「ジェンダーという観点から見たフリーター」.小杉礼子(編)『自由の代償/フリー

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(編)『基礎分析(仮題)』2005 年社会階層と社会移動調査研究会所収. 村瀬洋一. 1998. 「職業威信スコアの問題点と新スコアの提案:従業先規模が職業評価に及ぼす影響を

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永吉希久子. 2006. 「フリーターの自己評価:フリーターは幸せか」『フリータートニーとの社会学』

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『自由の代償/フリーター:現代若者の就業意識と行動』労働政策研究・研修機構. 数土直紀 . 1999. 「男性の階層帰属意識に対する社会的地位の複合的な効果」『行動計量学』26(2):

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65

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66

The Effects of Employment Status on Class Consciousness

Daisuke Kobayashi Jin-ai University

In this paper, I demonstrated the effects of employment status on class consciousness. Previous studies used occupational prestige score as the measure of occupational hierarchy. That is the reason why there is the strong assumption in Japanese post-war society that it is natural that almost all men who graduated the last school become full-time workers. However, this assumption is incorrect under recent increasing fluidity of employment. Therefore, this paper examined there are negative effects of employment status such as joblessness and ‘freeter’, after controlling other socio-economic factors such as household income, years of schooling and occupational prestige score.

As a result of the analysis using SSM2005 dataset, concerning life satisfaction, the negative effects of joblessness were observed in both male and female samples. Also the negative effect of ‘freeter’ was observed in male sample. Concerning class identification, the negative effects of joblessness were observed in male sample. However, the result of the analysis using SSM1995 dataset doesn’t show the clear effect of employment status, alike obtained in 2005 dataset. These results can be correlated with the socio-economic change from 1995-2005. These observations may appear that people revise their criteria for judgments of class consciousness, because the marked increasing of fluidity of employment makes the full-time worker status more scarcity.

Keywords: employment status, subjective well-being, class identification

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階層帰属意識とジェンダー

―分布の差に関する判断基準説と判断水準説の検討―

神林博史

(東北学院大学)

【要旨】

1985 年以降の SSM 調査では、女性の方が男性より全般的に階層帰属意識が高いことが観測さ

れてきた。この現象は、女性の社会経済的地位が男性のそれより平均的に低いことを考えると、

パラドキシカルに見える。本稿では、この問題を説明する 2 つの仮説-判断基準仮説と判断水準

仮説-の検討を行う。 判断基準仮説とは、階層帰属意識を決定する基準となる変数が男女で異なるという仮説である。

例えば、男性は自分自身の収入(個人収入)によって帰属階層を判断する傾向があるのに対して、

女性は世帯収入によって判断することがある、という場合である。判断水準仮説とは、階層帰属

意識の基準変数における具体的な判断のラインに男女差があるというものである。例えば、男性

は世帯収入 800 万円で「中の上」と判断する傾向があるのに対し、女性は 700 万で「中の上」と

判断する傾向がある、といったことである。 分析の結果、判断基準仮説は仮説に適合的な結果が得られたが、判断水準仮説については仮説

を支持する明確な結果は得られなかった。分析結果を総合的に判断すると、何が階層帰属意識の

分布の男女差をもたらしているのかは、必ずしも明確ではない。これら 2 つの仮説以外のメカニ

ズムの検討が必要であろう。

キーワード:階層帰属意識、ジェンダー、アスピレーション・レベル、収入評価

1 問題の所在

階層帰属意識(階級帰属意識)とジェンダーの関係は、1970 年代以降、階層意識研究の重

要なテーマの 1 つであり続けてきた。その嚆矢となったのが、Acker(1973)である。Acker

が提起したのは、「女性の階級(階層)は何によって決定されるべきか」という問題であった。

古典的な階級・階層理論では、女性の階層は世帯主のそれに従属するとされてきた。彼女は

このような家父長優越的な階級・階層観を批判し、階級・階層概念をより個人主義的な方向

で再構成することを主張した。

この主張は階級・階層理論それ自体のみならず、階級・階層帰属意識研究の問題構成にも

大きな影響を与え、数多くの研究が行われてきた 1。これらの先行研究が追求してきたのは、

1 Felson and Knoke(1974)、Ritter and Hargens(1975)、Philler and Hiller(1978)、 Hiller and Philliber(1978)、Hiller and Philliber(1986) Velsor and Beeghley(1979)、Jackman and Jackman(1983)、 Abott and Sapford(1986)、

67

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「女性の階級・階層帰属意識は何によって決定されるのか」という問題、すなわち、階級・

階層帰属意識の規定因(階級・階層帰属意識に影響を及ぼす変数)の男女差とその意味を探

索するものであった 2。

その一方で、階層帰属意識とジェンダーについては、従来あまり扱われてこなかった興味

深い問題がある。階層帰属意識の分布は女性の方が若干高い、という現象である。一般に、

女性の社会経済的地位は男性のそれよりも低いことを考えれば、この現象はパラドキシカル

に見える。

もちろん、これが「パラドキシカルに見える」のは、観察者が盛山(1990)が言うところ

の「素朴な実在反映論」的視点、すなわち「階層帰属意識は回答者の客観的な社会的地位を

直接的に反映しているはずだ」という視点に立っている場合である。この現象に関する適切

な心理メカニズムを明らかにできれば、この問題はパラドクスでも何でもなく理解できるは

ずである。

このような心理メカニズムの解明は、2 つの意味で重要であると考えられる。第 1 に、現

代日本社会における女性にとって、社会経済的な地位がいかなる意味を持っているかを理解

するために。第 2 に、階層帰属意識研究の究極的な目標である、「階層帰属意識の意識システ

ムの解明」(盛山 1990)の重要な手がかりとして 3。

本稿では、階層帰属意識の分布のジェンダー差の問題について検討する。

2 なぜ女性の階層帰属意識は高いのか?

階層帰属意識の分布の男女差は、なぜ生じるのだろうか。大まかには、「階層帰属意識の判

断基準の男女差による説明(判断基準仮説)」と「階層帰属意識のアスピレーション・レベル

の男女差による説明(判断水準仮説)」の 2 つが考えられる(神林 2006)4。これらについて、

詳しく説明しよう。

2.1 階層帰属意識の判断基準の男女差による説明(判断基準仮説)

すでに説明したように、階層帰属意識とジェンダーに関する先行研究は、階級・階層帰属

意識の規定因(階級・階層帰属意識に影響を及ぼす変数)の男女差を探求してきた。これら

Abbot(1987)、Beeghley and Cochran(1988)、Simpson,et.al(1988)、直井(1989)、直井(1990)、Hayes and Jones(1992)、 Baxter(1994)、牛島(1995)、 Luo and Brayfield(1996)、 Zipp and Plutzer(1996, 2000)、 Wright(1997)、 Davis and Robinson(1998)、盛山(1998)、赤川(1998)、赤川(2000)など。 2 これらの研究は、主に 2 つの問題関心に支えられてきた。ただし、その 2 つの問題関心には重大な錯誤も

しくは論理の飛躍が含まれている(神林 2006)。 3 階層帰属意識の分布の男女差の問題が、階層帰属意識研究においてどのように位置づけられるかについて

の詳しい議論は、神林(2006)を参照のこと。 4 神林(2006)は、3 つ目の仮説として「生活満足感仮説」も検討しているが、これは理論的な仮説という

よりは経験一般化であり、分析において補助的な役目を果たしているに過ぎないので、今回は省略する。

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先行研究の目的は、階層帰属意識の分布の男女差を説明することではないが、従来型のアプ

ローチも階層帰属意識の分布の男女差を説明するために応用できる。

階層帰属意識の規定因の男女差の典型的な分析法は、有配偶者を対象に、回答者本人の属

性と配偶者の属性のどちらが階層帰属意識を規定するのかを検討するというものであった。

例えば、(1)夫婦がそれぞれの社会経済的地位に基づいて自らの帰属階層を判断するという

「地位独立モデル」、(2)妻が夫の社会経済的地位に基づいて自らの帰属階層を判断するとい

う「地位借用モデル」、(3)夫婦が彼らの社会経済的地位を何らかの形で共有する「地位分有

モデル」、といった複数のモデルをたて、これらの説明力の優劣を比較するという戦略である。

1985 年および 1995 年のSSM調査でも、このアプローチに則った研究が行われてきた 5。

階層帰属意識の規定因(判断基準)の差異についての先行研究の知見は、国際的には必ず

しも一貫していない。日本の場合、女性は男性に比べて自分自身の個人属性よりも配偶者属

性や世帯関連属性に準拠する傾向があることが示されている(例えば、直井 1990、盛山 1998、

赤川 2000、神林 2003)。仮にこの傾向が正しいとすれば、これによって階層帰属意識の分布

の男女差を説明できるかもしれない。例えば、男性が自分の収入を帰属階層の判断基準とす

るのに対し、女性は世帯収入を基準にする傾向があるならば、世帯収入は個人収入と同じか

それより多いのだから、女性の階層帰属意識は男性のそれより高めになるだろう。

このように、階層帰属意識を判断するための基準変数に、男女間で違いが存在することに

よって、分布の男女差が生じると考えられる。これを「判断基準仮説」と呼ぼう。

2.2 アスピレーション・レベルによる説明(判断水準仮説)

階層帰属意識の分布の男女差の問題を本格的に扱った研究はまだ少ないがその出発点と言

えるのが、数土(1998)である。数土は、階層帰属意識の分布の男女差が発生するメカニズ

ムを、学歴構成の男女差によって説明している。具体的には、以下のようになる。(1)学歴

はそれ自体が階層帰属意識を高める効果を持つと同時に,収入に関する満足感を規定する効

果を持つ。(2)女性の学歴構成は,男性のそれに比べて高学歴者が少ない。(3)このため,

男性は自分より学歴の低い女性と結婚する確率が高くなる。言い換えると、女性は自分より

高い学歴の男性と結婚する確率が高くなる。(4)結婚することにより,男女の世帯収入は同

一になる。この時,女性は低い学歴で高い世帯収入を得ることができるため,世帯収入に満

足し自分の階層的地位を高めに評価する 。一方,男性は高い学歴を持っているため世帯収入

に対する評価が女性に比べて厳しくなり、自己の階層帰属を低めに評価する 6。

このモデルは、「所与の社会経済的地位に対する満足感の水準(=アスピレーション・レベ

ル)は、その個人の属性や社会的条件によって異なる」と一般化できるだろう。女性の方が、

5 例えば、直井(1989)、直井(1990)、赤川(1998)、盛山(1998)、赤川(2000)。 6 数土は後に同じ問題を異なる観点から検討しているが(数土 2003)、基本的な発想は共通している。

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男性より高めに階層帰属意識を回答するということは、女性のアスピレーション・レベルは、

男性のそれより低いことを意味する。では、なぜアスピレーション・レベルは男女で異なる

のだろうか。ここでは、盛山(1981)の「アスピレーション・レベルの 適化理論」に依拠

して説明しよう。

盛山によれば、アスピレーション・レベルは、それが達成されたときの利得と、達成され

なかった時の心理的損失のトレード・オフによって形成される。とりわけ重要なのが、アス

ピレーションが達成できなかった時の心理的損失である。高いアスピレーションを持つこと

は容易ではあるが、それが達成できなければ、その分だけ重い心理的損失を負うことになる。

したがって、人は心理的損失をあらかじめ予測しながらアスピレーション・レベルを決める

必要がある。なお、心理的損失は,(1) 現実の水準より高いアスピレーションをもつことに

よる不満と緊張感、(2)アスピレーション・レベルの予期的挫折(アスピレーション達成の

失敗が予想されること)、の 2 つの要素からなる(盛山 1981)。

このことを階層帰属意識の分布の男女差に応用すると、以下のようになる。日本における

女性の社会経済的地位は、一般に男性のそれより低い。さらに、事実として社会経済的地位

が低いだけでなく、地位達成の機会に関しても、男女間格差が指摘されている。したがって、

女性は高い社会経済的地位達成を望んだとしても、それを実現できない可能性が高い。この

ような状況下で高いアスピレーション・レベル(=高い社会経済的地位達成を望むこと)は、

重い心理的損失をもたらす。ゆえに、女性は社会経済的地位達成のアスピレーション・レベ

ルを男性より低めるだろう。

このため、女性は男性よりも低い社会経済的地位でも満足し、その地位を高くみなす傾向

が生じると考えられる。例えば 600 万円という個人収入を得ることができる場合,女性の方

が男性に比べて、それを「多い」あるいは「高い」とみなすかもしれない。あるいは、「課長」

という役職は、多くの男性にとっては「普通」であるかもしれないが、女性にとっては「高

い」ものかもしれない。 この結果として、帰属階層の判定に同じ基準を用いたとしても、そ

の判断の水準が男女で異なっているために、階層帰属意識の分布の男女差が生じる可能性が

ある。例えば、男女とも自分自身の年収で帰属階層を判断するとする。この時、男性は年収

600 万円以上なら「中の上」と判断する傾向があるのに対し、女性は年収 500 万円で「中の

上」と判断する傾向があるかもしれない。このように、階層帰属意識の判断基準となる変数

が男女で同一であっても、自分自身がそれをどの程度満たしているか、満たせばよいのか、

の水準に男女差があれば、階層帰属意識の分布に男女差が生じることになる。これを「判断

水準仮説」と呼ぼう 7。

7 ただし、これまでに行われてきたこのモデル検証では、数土本人の分析をはじめ、必ずしも明確な結果は

得られていない(数土 1998、数土 2003、神林 2007)。これは、データの制約から、アスピレーション・レ

ベルに相当する変数を分析に直接組み込むことができないためであった。

70

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なお、判断基準仮説と判断水準仮説はいずれも論理的に独立であり、排他的ではない。つ

まり、この 2 つの仮説は同時に成立しうる 8。

3 分析Ⅰ:階層帰属意識の分布の男女差の確認

3.1 データ

データは、2005 年SSM日本調査データを用いる。また、比較対象として、1985 年および

1995 年のSSM調査データ、「2006 年中央調査社個人オムニバス調査」9(以下、「2006 年オム

ニバス調査」と略)データを利用する。なお、1985 年SSM調査データは、男性A票、男性B

票、女性票の合併データ、1995 年SSM調査データは、A票とB票の合併データである。

3.2 階層帰属意識の分布の男女差の変化:1985-2005

まず、階層帰属意識 10の全体的な分布、およびその男女差を 1985 年から 2005 年までのSSM

調査データで確認しておこう(表 1)。

表 1 階層帰属意識の男女差

数値:%

上 中の上 中の下 下の上 下の下 基数

1985 男性 2.0 24.8 49.0 18.1 6.1 2392

女性 2.1 27.6 50.2 15.6 4.4 1376

全体 2.0 25.8 49.4 17.2 5.5 3768

1995 男性 1.5 26.7 49.1 16.7 6.1 2374

女性 1.1 31.0 49.7 14.0 4.1 2728

全体 1.3 29.0 49.4 15.2 5.0 5102

2005 男性 0.7 18.8 43.2 28.6 8.7 2368

女性 0.6 20.5 48.2 23.3 7.4 2507

全体 0.7 19.7 45.8 25.9 8.0 4875

χ2 値:1985 年=10.745(p<.05)、1995 年=24.618(p<.001)、2005 年=24.429(p<.001)

8 なお、判断基準仮説と判断水準仮説は渡辺(1995)が提唱する階層帰属意識の判断プロセスと密接な関係

がある。詳しくは、神林(2006)を参照のこと。 9 2006 年オムニバス調査の概要は以下の通り。調査主体:中央調査社、調査地域:全国、調査対象:満 20歳以上の男女、抽出法:層化 2 段無作為抽出、調査法:面接法、調査時期:2006 年 2 月、有効標本数と回

収率:1396(68.5%)。 10 質問文および選択肢は以下の通り。「かりに現在の日本の社会全体を 5 つの層に分けるとすれば、あなた

自身はこのどれに入ると思いますか。あなたの気持ちにいちばん近い番号をひとつ選び、○をつけてくださ

い。1. 上 2.中の上 3.中の下 4.下の上 5.下の下」。

71

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1985 年から 2005 年まで、階層帰属意識の分布の男女差には大きな開きはないが、女性の

方が男性より高めに回答する傾向(「中の上」もしくは「中の下」と回答する傾向)があるこ

とがわかる。

階層帰属意識全体の分布を見ると、2005 年で「下」の比率、とりわけ「下の上」の比率が

上昇している。これを階層帰属意識の下方シフトが生じている、と読むこともできるが、話

はそれほど単純ではなく、この変化には調査法の変更が影響している可能性がある。

1995 年までの SSM 調査は面接調査であり、階層帰属意識は調査員が調査対象者に直接質

問する形式であった。しかし、2005 年 SSM 日本調査では、調査法が面接法と留置法(留置

票の自記式)の併用になり、階層帰属意識は留置票で測定された。このため、階層帰属意識

の質問において調査員が存在することによって発生するある種の効果が、留置調査では消失

することが予想される。例えば、(1)調査対象者が所属階層の判断に迷って、本当は「わか

らない」(DK)と回答したいが、調査員の手前、答えなければいけないというプレッシャー

が生じるので、適当な選択肢を回答する、(2)世間体や見栄のために、本当は「下」だと思

っていても「中」と回答する、といった効果である。もしこれらの効果が実際に存在すると

すれば、留置自記式調査では調査対象者は調査員に遠慮する必要がないので、「わからない」

や「下」を選ぶ傾向が高まるだろう。その結果として、2005 年 SSM 日本調査の分布が 1995

年調査までと比較して異なる傾向を示した可能性も考えられる。

このことを簡単に確認しておこう。表 2 は、表 1 に「わからない」(DK)の回答比率を加

え、さらに 2006 年オムニバス調査における階層帰属意識の分布を追加したものである。2006

年オムニバス調査の目的の 1 つは、2005 年 SSM 日本調査の階層帰属意識が留置票で測定さ

れることに伴い、階層帰属意識の分布が調査法の影響を受けるかどうかを確認することであ

った(2006 年オムニバス調査は面接法)。

2006 年オムニバス調査の結果を見ると、1995 年までと比べて「中の上」の比率が減り、「中

の下」が多くなっている。したがって、階層帰属意識の下方シフトはやはり存在するようで

ある。しかし、2005 年 SSM 調査は 2006 年オムニバス調査に比べて「中」比率が低く、「下

の上」および DK の比率が高い(特に DK 率の高さは注目に値する)。したがって、2005 年

SSM 日本調査における階層帰属意識の下方シフトは、調査法の影響も大きいことがわかる。

このことは、SSM 調査における階層帰属意識の時点間比較を行う際に重大な問題となる。

とは言え、階層帰属意識の分布の男女差の問題については、このことは必ずしもマイナスで

はない。前節では触れなかったが、生活満足感などの主観的幸福研究では、女性の主観的幸

福は男性のそれよりも高いことが知られており、この原因の 1 つとして、面接調査における

「世間体バイアス」の存在がしばしば指摘される。具体的には、女性の方が世間体を気にす

るので、主観的幸福を高めに回答する、という説明である。同様のことが階層帰属意識につ

72

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いてもあてはまるとすれば、世間体バイアスによって階層帰属意識の分布の男女差が生じる

可能性がある。しかし、今回のような留置自記式調査では、世間体バイアスはかなりの程度

回避できると考えられる。その上で、(有効回答における)階層帰属意識の分布の男女差はな

お存在するのであるから、男女差を生み出すメカニズムとして、世間体バイアスをその候補

から外すことができる。

表 2 階層帰属意識の男女差(DK と 2006 年オムニバス調査の結果を追加)

数値:%

上 中の上 中の下 下の上 下の下 DK 基数

1985 男性 1.9 24.0 47.4 17.5 5.9 3.3 2473

女性 2.0 25.8 46.9 14.6 4.1 6.6 1474

全体 1.9 24.7 47.2 16.4 5.3 4.5 3947

1995 男性 1.4 25.5 46.8 15.9 5.8 4.7 2490

女性 1.1 29.5 47.3 13.3 3.9 4.8 2867

全体 1.2 27.6 47.1 14.5 4.8 4.8 5357

2005 男性 0.6 16.8 38.4 25.5 7.7 11.0 2660

SSM 女性 0.5 16.6 39.2 18.9 6.0 18.7 3082

全体 0.6 16.7 38.9 22.0 6.8 15.1 5742

2006 男性 1.1 20.9 53.4 17.1 4.4 3.2 656

オムニバス 女性 0.1 24.7 55.7 13.2 2.5 3.8 713

全体 0.6 22.9 54.6 15.0 3.4 3.5 1369

後に、性別以外の主要な変数をコントロールしても、階層帰属意識の分布に男女差があ

るかどうかを確認しておこう。ここでは、階層帰属意識を「上=5」~「下の下=1」と点数

化したものを従属変数とし、性別(女性ダミー)、本人教育年数、現職職業威信スコア 11、世

帯収入を独立変数とした重回帰分析の結果である(表 3)。サンプルは 60 歳以下の有配偶者

に限定した。これらの変数をコントロールしても、性別は有意な正の効果、すなわち女性の

方が階層帰属意識が高いという傾向があることがわかる。では、なぜこのような傾向が生じ

るのだろうか。次節で詳しく検討しよう 12。

11 1995 年 SSM 職業威信スコア。なお、有配偶の無職女性、すなわち専業主婦には女性の職業威信スコア

の平均値を与えた。 12 次節以降では、表 3 のように点数化した階層帰属意識を従属変数とした重回帰分析を用いた検討を行う。

このことは、階層帰属意識の分布の男女差の問題を、階層帰属意識の連続的な点数の大小の問題に読み替え

て分析することを意味する。これは、ある意味で本稿の限界でもある。なぜなら、この方法では、階層帰属

意識の各カテゴリー(例えば「中の下」と「下の上」)には意味的・質的な違いが存在するのではないかと

いう、階層帰属意識を考える上で(さらに、分布の男女差の問題を考える上で)非常に重要な問題には踏み

73

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表 3 階層帰属意識の重回帰分析(60 歳以下有配偶者のみ)

数値:標準偏回帰係数(β)

性別(女性) .090***

教育年数 .184***

現職職業威信スコア .049*

世帯収入 .274***

調整済 R2 .152***

N 1875

***:p<.001, **:p<.01, *:p<.05

4 分析Ⅱ:仮説の検証

4.1 判断基準仮説の検証

判断基準仮説については、階層帰属意識とジェンダーに関する従来型の研究を踏襲した分

析を行う。すなわち、サンプルを男女に分割した上で重回帰分析を行い、階層帰属意識の準

拠変数(=判断基準)に男女間で差異があるかどうかを検討する 13。

この種の分析において用いられる変数は、教育年数、職業威信スコア、収入(本人収入、

配偶者収入、世帯収入)が定番であるが、このうち世帯収入については注意すべき点がある。

2005 年SSM日本調査では、世帯収入の無回答比率が 36.4%(2088 ケース)と非常に高い 14。

この種の分析においては、無回答は欠損値として扱われるため、そのままでは有効標本数の

大幅な脱落が生じてしまう。そこで本稿では、サンプルの脱落による結果の偏りを確認する

意味で、無回答の少ない所有財産数の合計を世帯収入の代わりに適宜用いることにする 15。

本稿では、先行研究における「地位独立モデル」、「地位借用モデル」、「地位優越モデル」

といった区分に対応する 7 種類 11 個のモデルを立てる。これらを比較して、決定係数が も

高いモデルを「判断基準」として採択する。具体的には、モデル 1 が地位独立モデル(本人

込めないからである。その意味で、本稿の分析は限定的なものであることに留意する必要がある。 13 重回帰分析によって得られる客観的な「階層帰属意識の準拠構造」と、回答者の主観的な階層帰属意識

の準拠構造が一致するという保障はない。例えば、本人学歴と階層帰属意識の間に有意な関連があったとし

ても、それは回答者が自分の学歴を基準にして帰属階層を判断したということを必ずしも意味するわけでは

ないのである(神林 2003)。この問題は階層帰属意識に限らず、主観的な変数と客観的な変数の関連を分析

する際には常に発生するが、階層帰属意識の場合、特にこの種の混同が起きやすいので注意が必要である。

本稿の焦点は、あくまでも統計分析によって得られる「客観的な」構造である。 14 過去の SSM 調査における世帯収入の DK 率は、1995 年が 20.3%(A 票)と 22.3%(B 票)、1985 年が 13.1%(男性 A 票)、12.0%(男性 B 票)および 23.2%(女性票)であった。 15 厳密には、世帯収入はフロー、財産数はストックに相当するのでこの 2 つを同列に扱うことはできない。

なお、財産数と世帯収入の相関は.439 である。

74

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属性を独立変数とするモデル)、モデル 2 が地位借用モデル(配偶者属性を独立変数とするモ

デル)、モデル 3 が地位優越モデル(本人属性と配偶者属性を比較して、上位にあるものを「優

越属性」とし、それを独立変数とするモデル)、モデル 4 が世帯属性モデル(個人属性ではな

く、世帯属性を独立変数とするモデル。世帯収入モデルと財産数モデルの 2 種類を試す)で

ある。さらに、モデル 1 から 3 までの個人属性モデルに世帯属性を追加した「個人+世帯」

モデル(個人属性の収入部分を世帯収入に置き換える 16)も分析する。なお、職業威信スコ

アは、本人、配偶者とも主婦(無職女性)に女性の威信スコアの平均値を与える処理を行っ

ている(以下同様)。

各モデルで用いる変数は、以下の通りである。

モデル 1:本人属性のみ(本人教育年数+本人職業威信+個人収入)

モデル 2:配偶者属性のみ(配偶者教育年数+配偶者職業威信+配偶者収入)

モデル 3:優越属性 17のみ(優越教育年数+優越職業威信+優越収入)

モデル 4a:世帯属性のみ 1(世帯収入)

モデル 4b:世帯属性のみ 1(世帯財産数)

モデル 5a:回答者属性と世帯属性 1(本人教育年数+本人職業威信+世帯収入)

モデル 5b:回答者属性と世帯属性 2(本人教育年数+本人職業威信+世帯財産数)

モデル 6a:配偶者属性と世帯属性 1(配偶者教育年数+配偶者職業威信+世帯収入)

モデル 6b:配偶者属性と世帯属性 2(配偶者教育年数+配偶者職業威信+世帯財産数)

モデル 7a:優越属性と世帯属性 1(優越教育年数+優越職業威信+世帯収入)

モデル 7b:優越属性と世帯属性 2(優越教育年数+優越職業威信+世帯財産数)

これらの詳細な分析結果を示すのは煩雑なので、各モデルの決定係数(調整済 R2)をまと

めたものを、表 4 に示す。

男性で も決定係数が高いのはモデル 3、すなわち夫婦属性のうち高い方を基準とするモ

デル(地位優越モデル)である。女性の場合も、モデル 3 の決定係数が高いが、それ以上に

高いのはモデル 6a(配偶者属性+世帯属性)とモデル 7a(地位優越+世帯属性)で、この 2

つはほとんど差がない。つまり、女性の場合、夫婦属性のうち高い方(多くの場合、それは

夫属性になると思われるが)に準拠する傾向に加え、世帯の豊かさにも準拠する傾向がある

ことがわかる。地位優越モデルが良好な結果を示すことは、1995 年 SSM データの分析(赤

川 2000)でも確認されている。それに加えて、女性の世帯準拠傾向(盛山 1998、神林 2003)

16 個人収入、配偶者収入、世帯収入の相関は非常に高いので、これらの同時投入はしない。 17 優越教育年数=本人教育年数と配偶者教育年数の高い方。優越職業威信=本人職業威信と配偶者教育年

数の高い方。優越教育年数=本人教育年数と配偶者教育年数の高い方。

75

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が存在することになり、基本的に今回の結果は 1985 年および 1995 年 SSM 調査の知見の延長

線上にあると言える。

表 4 判断基準仮説の結果

数値:調整済 R2

モデル

1 2 3 4a 4b 5a 5b 6a 6b 7a 7b

男性 .155 .049 .161 .110 .085 .150 .133 .126 .109 .147 .132

女性 .080 .152 .160 .126 .108 .151 .147 .169 .162 .170 .162

数値はすべて 01%水準で有意

分布の男女差の問題について言えば、女性の方が世帯属性に準拠する傾向がある分だけ、

帰属階層を高めに判断する可能性があるのかもしれない(世帯収入≧優越収入だから)。とは

言え、女性におけるモデル 3(地位優越モデル)と、モデル 6a(配偶者属性+世帯属性)お

よびモデル 7(地位優越+世帯属性)の決定係数の差はわずかなものに過ぎない。モデル 3

が女性の階層帰属意識の分散の 16%を説明するのに対して、モデル 6a が 16.9%、モデル 7a

が 17%であるから、せいぜい 1 ポイントの差である。したがって、判断基準仮説の結果は分

布の差の問題に関して整合的であるが、それほど強い効果があるとは考えられない、という

ことになる。

4.2 判断水準仮説の検証(1):収入評価を用いた分析

判断水準仮説の検証法として、2 つの方法が考えられる。1 つは、アスピレーション・レベ

ルの指標となる変数をモデルに投入する直接的な方法、もう 1 つは、重回帰分析において性

別とその他の独立変数の交互作用項を導入することで、ある独立変数の効果に男女で差があ

るかどうかを調べる方法である(神林 2006)。本節では前者の方法を、次節で後者の方法を

試みる。

今回の 2005 年 SSM 日本調査では、個人収入と世帯収入についての評価を尋ねている(留

置 A 票:問 13(1)および問 25(2))。これは、実際の個人収入もしくは世帯収入と、調査

対象者の理想とする収入額との比較評価を行ってもらうもので、個人収入については「あな

たが受け取って当然だと考える金額」、世帯収入については、世帯全体で「ゆとりのある生活

をするために必要な金額」に照らして、実際の自分の収入が多いか少ないかを質問している

(「とても少ない」、「どちらかといえば少ない」、「同じくらい」、「どちらかといえば多い」、

「とても多い」の 5 段階)。

何によって収入の多寡を判断するかは人それぞれであろうが、このような評価を行うとき、

76

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人は暗黙のうちに「収入がこれ以上なら多い」、「これ未満なら少ない」といった基準額を設

定し、それとの比較によって収入を評価していると考えられる。この暗黙の基準額こそが、

収入のアスピレーション・レベルに他ならない。

職業や学歴についても同様な質問ができればよいが、残念ながら今回の調査には含まれて

いない。しかし、収入(特に世帯収入)は学歴や職業に比べて、階層帰属意識への影響が強

い変数である。したがって、収入だけでもアスピレーション・レベルをコントロールした分

析を行えることは、十分意味があるだろう 18。

まず、収入評価の男女別の分布(60 歳以下の有配偶のみ)を確認しておこう。

表 5 収入評価の男女差

数値:%

とても

少ない

やや

少ない

同じ

くらい

やや

多い

とても

多い

基数

男性 10.6 56.1 29.9 3.2 0.2 592

女性 12.8 46..0 38.6 2.2 0.5 415 個人収入

評価 全体 11.5 51.9 33.5 2.8 0.3 1007

男性 18.5 54.5 20.9 5.8 0.3 604

女性 18.6 49..2 25.3 6.7 0.2 640 世帯収入

評価 全体 18.6 51.8 23.2 6.3 0.2 1244

χ2 値:個人収入評価=12.926(p<.05)、個人収入評価=5.113(n.s.)

まず、個人収入評価であるが、女性の方が男性に比べて「やや少ない」の比率が低く、「同

じくらい」の比率が高い。それ以外のカテゴリーの分布は男女でほとんど違わないが、どち

らかと言えば女性の方が、収入を「少ない」と判断しない傾向がある。性別と評価の関連も

有意である。よく知られているように、男女間での賃金格差は大きく、今回の 2005 年SSM

日本調査の場合、有職者の平均個人収入は、男性が 513 万円、女性が 220 万円と大きな開き

がある。にも関わらず、女性の方が男性よりも収入を「少ない」と評価していない。これは

女性のアスピレーション・レベルが低いことに他ならない。この現象自体がかなりパラドキ

シカルで興味深い問題であるが、本稿ではこの点についてはこれ以上検討しない 19。なお、

個人収入評価・世帯収入評価とも「多い」という評価が少ないが、これはこの種の質問(衡

平理論系の研究でよく用いられる)によく見られる傾向である。 18 収入評価だけでなく、希望収入額(個人収入の場合は、「あなたが受けとって当然だと考える年収」、世

帯収入の場合は「ゆとりのある生活をするために必要な収入」)も質問しているが、今回はこれらの変数は

使用しない。 19 収入評価についての詳しい分析は、神林(2008)を参照。

77

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世帯収入については、個人収入の場合ほど男女差が顕著ではない。あえて言えば、個人収

入の場合と同様、女性の方が「少ない」と判断しない傾向があるが、その差は有意ではない。

したがって、世帯収入については、アスピレーション・レベルの男女差は確認できない。

では、本格的な分析に入ろう。本節では、個人収入評価と世帯収入評価という変数を用い

る関係上、モデルで使用する変数は個人属性変数と世帯属性変数のみを用いる。その上で、

(1)属性のみのモデル(性別+教育年数+職業威信+収入)、(2)収入評価を加えたモデル

(性別+教育年数+職業威信+収入+収入評価)、の比較を行う。なお、収入評価は「とても

少ない=1」~「とても多い=5」の 5 点尺度として用いる。

この分析で注目すべきは、性別(女性ダミー)の効果である。もし、属性のみのモデルで

性別の効果があり、収入評価を加えたモデルで性別の効果が弱まるか消失すれば、階層帰属

意識の男女差は収入評価(アスピレーション・レベル)によって引き起こされていた、と考

えることができる。つまり、階層帰属意識に対する性別の効果は、アスピレーション・レベ

ル(≒収入評価)によって媒介されているので、それをコントロールすれば性別の効果が消

える、と考えるわけである。

表 6 に分析の結果を示す。ここでは、モデル間の係数の「横の比較」、つまり性別の係数が

収入評価の投入によって低下するかどうかを確認するする必要があるので、非標準偏回帰係

数を表示している。なお、分析に用いたのはこれまでと同様 60 歳以下の有配偶者だが、収入

評価は留置 A 票にのみ含まれることから、留置 A 票のサンプルのみに限定した。(したがっ

て、サンプルサイズが表 3 の半分程度になっている。)さらに、個人収入評価モデルについて

は、収入評価の意味を明確にするために、有職者に限定してある。

まず、個人収入評価モデルから検討しよう。収入評価を投入しないモデルでは、性別の係

数は正で有意である。すなわち、女性の方が階層帰属意識が高い。収入評価を投入したモデ

ルでは、性別の係数は若干低下するものの依然として有意な効果を持っている。つまり、性

別の効果は、個人収入評価(個人収入のアスピレーション・レベル)によっては完全に説明

できないことになる。

次に世帯収入モデル(世帯収入評価モデル 1)だが、このモデルでは収入評価を投入する

前からジェンダーの効果がない。これは、サンプルサイズが限定される上に、世帯収入のDK

の問題があり、階層帰属意識の男女差が出にくくなってるためと思われる 20。そこで、世帯

収入の代わりに財産数を用いたのが世帯収入評価モデル 2 である。このモデルでは性別の効

果は有意であり、収入評価を投入しても性別の効果は残る。したがって、個人収入評価モデ

ルと同様に、階層帰属意識に対する性別の効果は、世帯収入評価(世帯収入のアスピレーシ

20 留置 A 票のサンプルを、世帯収入を回答したグループと無回答のグループに分けて、それぞれの階層帰

属意識の男女差を調べると、世帯収入が無回答のグループの方が男女差が大きかった(結果は略)。このこ

とも自体も興味深い現象だが、ここでは検討しない。

78

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ョン・レベル)では説明できないことになる。

表 6 収入評価を用いたモデルの検討

数値:非標準偏回帰係数(B)

個人収入評価モデル 世帯収入評価モデル 1 世帯収入評価モデル 2

評価なし 評価あり 評価なし 評価あり 評価なし 評価あり

切片 1.249*** .833*** 1.141*** .633** . 691*** .339

性別(女性) .238*** .161** .097 .093 .124** .098**

本人教育年数 .069*** .058*** .084*** .088*** .067*** .069***

本人職業威信 1) .008* .007* .003 .001 .009** .004

個人収入 2) .037*** .033***

個人収入評価 .277***

世帯収入 2) .051*** .027***

財産数 .073*** .053***

世帯収入評価 .347*** .349***

調整済 R2 .103*** .172*** .159*** .265*** .139*** .248***

N 970 844 926 820 1293 1092

***:p<.001, **:p<.01, *:p<.05

1)1995 年版 SSM 職業威信スコア。個人収入評価モデルは有職者のみのスコア、世帯収入モデルは女性

の有配偶無職(主婦)を含むスコアを使用。

2)偏回帰係数を見やすくするため、100 万円単位に変換。

以上のように、収入評価では性別の効果は説明できないことが明らかになった。ところで、

収入評価を用いたモデルは、そうでないモデルに比べて決定係数が比較的大きく上昇してい

る(あくまでも、この種のモデルとしては、の話だが)。つまり、階層帰属意識は収入の絶対

額だけでなく、その主観的評価からも強い影響を受けていることになる。もっとも、この種

の指摘は特に目新しいわけではなく、生活満足感や暮らし向きといった変数と階層帰属意識

が強い関連をもつことはすでに良く知られている。収入評価も、それらと似たような性質を

持っているということであろう。

4.3 判断水準仮説の検証(2):交互作用項を用いた分析

次に、性別とその他の独立変数の交互作用項を導入することで、ある独立変数の効果に男

女で差があるかどうかを調べる方法について検討しよう。これは、収入評価のようにアスピ

レーション・レベルを直接的に扱うのではなく、回帰分析における交互作用項を利用するこ

79

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とで、アスピレーション・レベルの存在を間接的に確認しようとするものである。

例えば、世帯収入のアスピレーション・レベルには男女差があり、女性の方が世帯収入を

男性よりも高く評価するとしよう。世帯収入の偏回帰係数(回帰直線の傾き)の大きさは、

「女性>男性」になることが予想される。このとき、性別ダミーと世帯収入の交互作用効果

を導入する。世帯収入の係数が男女で有意に異なるのであれば、性別(ダミー変数)と世帯

収入の交互作用項の偏回帰係数が統計的に有意になる。性別のダミー変数が(男性=0,女性

=1)の場合、性別×世帯収入の交互作用項の回帰係数の符号が正で統計的に有意であれば、

女性の回帰係数は男性よりも有意に大きいと判断できる(盛山 1998)。つまり、ある独立変

数と性別との交互作用項が有意な効果をもつとすれば、そこにアスピレーション・レベルの

差が存在する、と考えるわけである 21。

ここでは、以下の 3 種類のモデルを分析し、各変数の回帰係数に男女で差があるかどうか

(性別と各変数の交互作用効果が有意かどうか)を検討する。

モデル 1:本人属性に女性ダミーと各変数の交互作用効果を追加したモデル

モデル 2:配偶者属性に女性ダミーと各変数の交互作用効果を追加したモデル

モデル 3:世帯属性に女性ダミーと各変数の交互作用効果を追加したモデル

なお、4.1 の分析におけるモデル 3、すなわち地位優越モデルで使用した変数(優越教育年

数、優越職業威信、優越収入)は使用しない。優越属性は、モデル 1(個人属性)とモデル 2

(配偶者属性)の変数のいずれかに必ず含まれるので、優越属性と性別の交互作用項を検討

することは冗長だからである。分析の結果を、表 7 に示す。

交互作用項が有意になるのは、モデル 1 とモデル 2 である。モデル 1(個人属性)の場合、

本人教育年数と性別の交互作用が正の効果、個人収入と性別の交互作用が負の効果を持つ。

つまり、女性は自身の教育年数を男性より高く評価するが、自分の収入については低く評価

する、という傾向があることがわかる。この 2 つをモデル 2(配偶者属性)では、配偶者収

入と性別の交互作用項が正の効果をもつ。つまり、女性は配偶者収入を男性より高く評価す

る傾向があることがわかる。このことは、4.1 で、女性の場合、地位借用モデル(モデル 2

=配偶者属性モデル)が比較的良好な説明力を持っていたことと関連すると思われる。また、

モデル 1、モデル 2 のどちらについても、交互作用項を投入したモデルでは性別の効果は消

失している。とはいえ、交互作用項を投入した場合の決定係数の増分はほとんどない。つま

り、性別との交互作用が有意になるものの、それが階層帰属意識の分散をよりよく説明する

わけでは必ずしもない、ということになる。性別の交互作用の効果は、限定的に考えるべき

21 厳密には、アスピレーション・レベルの差以外の要因によって交互作用項が有意になる可能性も存在す

るので、検証として不十分であることは否めないが。

80

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だろう。

表 7 判断水準仮説の検討(性別との交互作用効果の検討)

数値:標準偏回帰係数

モデル 1 モデル 2 モデル 3

交互作用 なし あり なし あり なし あり

性別(女性) .249*** -.221 -.122*** -.040 .050* -.005

本人教育年数 .190*** .137***

本人職業威信 .061** .051

個人収入 .250*** .296***

配偶者教育年数 .171*** .224***

配偶者職業威信 .081** .057

配偶者収入 .204*** .086

世帯収入 .344*** .316***

財産数

女性*本人教育 .381**

女性*本人職業 .155

女性*個人収入 -.072***

女性*配偶者教育 -.287

女性*配偶者職業 .115

女性*配偶者収入 .197***

女性*世帯収入 .068

調整済 R2 .112*** .117*** .097*** .101*** .119*** .119***

N 2300 2300 1960 1960 1944 1944

***:p<.001, **:p<.01, *:p<.05

なお、世帯属性については、世帯収入、財産数とも性別との交互作用効果は有意ではなか

った。(紙幅の都合上、財産数を用いた世帯属性モデルの結果は省略したが、基本的に世帯収

入を用いたモデルと同じ結果になる。)

以上のように、性別といくつかの変数の交互作用が確認されたことは、間接的にではある

が、特定の変数についてのアスピレーション・レベルの男女差が存在することを示唆してい

る。ただし、この点については、性別の交互作用項が本当にアスピレーション・レベルの差

を意味しているのかどうかも含め、さらなる検討が必要だろう。

81

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5 考察

本稿では、階層帰属意識の分布が女性>男性となる傾向に注目し、2 つの仮説を検討した。

分析結果をまとめておこう。

(1)階層帰属意識の準拠構造には、男女で微妙な違いがあり、女性は個人属性だけでなく世

帯属性に準拠する傾向がある。この結果は、階層帰属意識の分布が女性の方が高い傾向に適

合的であり、したがって判断基準仮説は(あまり明確ではないが)成立するかもしれない。

(2)個人収入評価および世帯収入評価をアスピレーション・レベルの指標とみなした分析で

は、収入評価をコントロールしても性別の効果は消失しなかった。したがって、この分析結

果からは判断基準仮説は支持されない。

(3)性別(女性ダミー)と、その他の変数の交互作用効果から回帰係数の傾きの男女差(≒

アスピレーション・レベルの男女差)を検討する分析では、一部の変数に性別との交互作用

効果が確認された。ただし、この結果からただちに判断基準仮説が検証されたと判断するこ

とはできない。

つまり、判断基準仮説については仮説に適合的な結果が得られたが、判断水準仮説につい

ては、仮説を支持する明確な結果は得られなかった。

以上のように、何が階層帰属意識の分布の男女差をもたらしているのかは、必ずしも明確

ではない。1995 年SSM調査データを用いた分析でも、判断基準仮説と判断水準仮説のいずれ

が支持されるのかは明確ではなかったことを考えれば 22、これら 2 つの仮説以外の新たなメ

カニズムの検討、分析法の工夫など、さらなる検討が必要であろう。

また、今回の分析には残された課題も多い。重要と思われる点をいくつか挙げておこう。

判断基準仮説については、確かに仮説に適合的な結果は得られたものの、階層帰属意識の

準拠構造の違いがただちに分布の差に結びつくかどうかは、理論的にも経験的にも明確では

ない。また、今回の分析では 2 つの仮説が成立するか否かを大まかに把握するために、サン

プルを 60 歳以下の有配偶者に限定したが、いくつかの先行研究が行っているように、さらに

サンプルを分割した分析(夫婦が 2 人ともフルタイム労働の世帯、夫は有職だが妻は無職の

世帯、夫はフルタイムで妻がパートの世帯、等)を検討する必要があるだろう。

さらに、今回の分析では階層帰属意識の質的な側面が考慮されていない。階層帰属意識の

22 神林(2006)。ただし、この論文で行った判断水準仮説の検討は、交互作用項を用いた分析のみで、収入

評価は扱っていない。

82

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分布は女性の方が男性よりも高めになるが、表 1 および表 2 をよく見ると、女性は「下」と

回答することを忌避する傾向があるらしいことが伺える。今回の分析では、このような回答

カテゴリーの質的な意味は、階層帰属意識を 1 から 5 の連続変数として扱うことで全て捨て

去られている。この点に関しては、多項ロジット分析等を用いた検討を改めて行う必要があ

るだろう。

後に、関連する研究領域と本稿の知見の関係についても 2 点ほど触れておこう。 本稿の

分析では、階層帰属意識とジェンダーの関係に関する従来型のアプローチ-女性および男性

の階層帰属意識を決めるものは何か―を判断基準仮説として扱った。この部分の分析で得ら

れた結果は、従来行われてきた階層帰属意識とジェンダーをめぐる問いの分析としてそのま

ま転用可能である。そして、本稿で得られた結果は、1985 年以降の SSM 調査で行われてき

た分析の知見の延長線上にあり、特に目新しいものではない。すなわち、階層帰属意識の準

拠構造のジェンダー差は、少なくともここ 20 年ほどはあまり変わっていないことになる。こ

のことが何を意味するのかについては様々な解釈がありうるだろうが、「社会における男女平

等が進行すると、階層帰属意識の準拠構造も男女で同じになる」という、これまでの先行研

究に底通してきた「物語」には見直しが必要となるかもしれない。

また、判断水準仮説の検証では、アスピレーション・レベルの指標として収入評価を用い

た。結果として、判断水準仮説は支持されなかったものの、収入評価という変数が階層帰属

意識に対してそれなりの効果を持つということは注目してよいだろう。今回の調査で測定さ

れている収入評価は、相対的剥奪の指標の一種とみなすこともできる。階層帰属意識に限ら

ず、階層意識・各種の社会意識の形成メカニズムとして、相対的剥奪の存在がしばしば指摘

されてきたが、相対的剥奪そのものを上手く変数化した研究は多くなかった。その意味で、

収入評価を用いたアプローチには幅広い可能性があるかもしれない。

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83

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Status Identification and Gender:

Test of Two Hypotheses on the Gender Gap of the Distribution

Hiroshi Kanbayashi Tohoku Gakuin University

Since 1985 SSM survey, the gender gap of status identification has been observed. The gender gap

of status identification means that women’s status identification is relatively higher than men’s one. This gap seems paradoxical because women’s socio-economic status is lower than men’s status in general. In this paper, two hypotheses that explain the gender gap are examined: the determinant difference hypothesis and the criterion difference Hypothesis.

The determinant difference hypothesis means that the gender gap is made by the differences in determinants of status identification between men and women. The criterion level difference hypothesis means that the gender gap is made by the differences in status identification between men and women at a criterion level or an aspiration level of determinants. In this paper, respondent’s income evaluation is used as an index of criterion level.

There are no clear evidences to support the two hypotheses. The criterion level difference hypothesis is not supported, and the determinant difference hypothesis may be supported. These results suggest a necessity for new theoretical and methodological exploration on the gender gap.

Keywords: Status Identification, Gender, Aspiration Level, Income Evaluation

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「専業主婦であること」は女性の階層帰属意識を高めるか?

「専業主婦の妻を持つこと」は男性の階層帰属意識を高めるか?

大和礼子

(関西大学)

【要旨】

女性自身あるいは妻が「専業主婦であること」が、その人の階層帰属意識に及ぼす影響につ

いては、2つの仮説を立てることができる。第1は、自分あるいは妻が「専業主婦であること」

は「働いていること」に比べて、その人の階層帰属意識を高めるという仮説である。この仮説が

支持されると、日本では「専業主婦は高い階層のライフスタイル」とする社会意識があり、それ

が女性の労働力化を阻む要因の1つとなっていると考えることができる。第2は、「専業主婦で

あること」が階層帰属意識を高めることはないという仮説である。この仮説が支持されると、現

代の日本には先に述べたような意識はなく、女性の労働力化が進まないことの原因をそれに帰す

ことはできないということになる。 本研究は 2005 年 SSM 日本調査のデータを用いて、妻が「専業主婦であること」(=無職だが

求職中ではないこと)と、男女それぞれの階層帰属意識の関係を検討した。その結果、男女とも

に、夫の階層的地位に関わる変数をコントロールすると、妻が「専業主婦」であることが階層帰

属意識を高める効果はなかった。 上記の分析結果の唯一の例外が、女性本人あるいは妻が「無職だが求職中」という場合であり、

この場合は他の変数(夫の階層的地位を含む)をコントロールしても一貫して、男女の階層帰属

意識を低下させる効果があった。さらに、無職の中の「求職中」と「求職中でない」(=「専業

主婦」)女性の比較から、求職中という人は、生活満足感においても専業主婦より低いことがわ

かった。また、自分や夫の階層的属性や性役割意識の点では、求職中の人は専業主婦と違いはな

いが、働くという意識は専業主婦より強く、実際にそのようなライフコースを送ってきたことが

わかった。このような女性が、就業することができない場合、生活満足感や階層帰属意識が低下

する。この結果から、失業がモラールを低下させるという効果が、現代日本で既婚女性にもみら

れる可能性について論じた。 キーワード:専業主婦、階層帰属意識、求職中、失業の効果

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1 問題の所在

女性本人あるいは自分の妻が「専業主婦であること」が、その人の階層帰属意識に及ぼす

影響については、2つの仮説を立てることができる。

第1は、自分あるいは妻が「専業主婦であること」は「働いていること」に比べて、階層

帰属意識を高めるという仮説である。専業主婦は 19 世紀の欧米において、都市中産階級のラ

イフスタイルとして誕生した。イギリスの家族史の研究によると、妻が労働に関与していな

いことは、ミドルクラスのライフスタイルの象徴として重要であった(Davidoff, 1995)。ま

た後には労働者階級も、その地位の向上のために、「妻が専業主婦である」というライフスタ

イルの獲得を目指した。夫1人の収入で妻と子どもを養えるという「家族賃金」の要求は、

まさにそのための要求だったといえる(McCleland, 1998)。

日本においては、大正期の都市中間層において、「妻が専業主婦」というライフスタイルが

登場した。それが拡大するのは第2次大戦後の高度成長期であり、農家の嫁でなくサラリー

マンの妻になることは、階層的地位の上昇というイメージを人々に与えた。高度成長が終わ

った 1970 年代半ば以降になると、それまで減少していた女子労働力率が逆転して上昇しはじ

める(落合, 1997)。しかしそれに抗するかのように、1980 年代半ばには税制や社会保障制度

において専業主婦優遇策(正確には収入が一定レベル以下の既婚女性に対する優遇策)が導

入され、専業主婦を女性に期待されるライフスタイルとするイデオロギーの、政策的下支え

となった(塩田, 1992)。『出生動向基本調査』によるとこれらのことを背景に、未婚女性の

中で理想のライフコースとして専業主婦を選ぶ人が、1992 年までは最も多かった。その後は

再就職型のライフコースが最も多く支持されるようになるが、2005 年時点においても学歴別

に見ると、中学・高校・短大・高専卒業という女性においては2割から3割の人が理想のラ

イフコースとして専業主婦を選んでいる(国立社会保障・人口問題研究所編, 2007)。

「人々は一般に、階層的地位が高い人々のライフスタイルを理想と考える傾向がある」と

いう前提をおくならば、これらの結果から「専業主婦は高い階層のライフスタイル」と考え

る意識が現在でもなお維持されていると考えることが可能である。もしそうならば、日本で

女性の労働力化が進まない要因の1つとして、構造的要因(たとえは家事・育児と仕事の両

立が難しかったり、女性にやりがいのある仕事が与えられない職場環境)だけでなく、「専業

主婦は高い階層のライフスタイル」という社会意識があると考えることが可能である。

これに対して第2の仮説は、自分あるいは妻が「専業主婦であること」は、人々の階層帰

属意識に影響を及ぼさない、したがって階層帰属意識を高めることはないというものである。

図1に示したように総理府広報室、内閣府広報室等による調査によると、「男は仕事、女は家

庭」に同感する人は、1990 年代に入ると男女とも少数派となる。このことから現在では、専

業主婦を高階層のライフスタイルとする意識はないと考えることも可能である。もしそうで

88

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あるとすれば、日本で女性の労働力化が進まないことの原因を、「専業主婦は高い階層のライ

フスタイル」という社会意識に帰すことはできない。他の文化・イデオロギー的要因(たと

えば母性に関するイデオロギー)や、職場環境などの構造的要因の影響について検討すべき

だということになる。

この2つの仮説のうち、どちらが当てはまるのだろうか。本研究では、2005 年 SSM 日本

調査のデータを用いて、妻が専業主婦であることと、男・女の階層帰属意識との関連を検討

する。

女性

0

10

20

30

40

50

60

1979 1984 1987 1990 1995 2000

同感する 同感しない

男性

0

10

20

30

40

50

60

1979 1984 1987 1990 1995 2000

同感する 同感しない

図1 「男は仕事、女は家庭」に対する意識の推移

(出典)『月刊世論調査』1980 年 2 月号; 1985 年 4 月号; 1987 年 9 月号; 1991 年 3 月号; 1995 年 12月号; 2000 年 9 月号.

2 先行研究の検討

2.1 女性の階層帰属意識の規定要因についての研究

女性の階層帰属意識の規定要因については、多くの研究がされてきた。それらの研究はお

もに、女性の階層的地位をどう把握するか(端的にいうと、女性本人の属性によって把握す

べきか、女性が所属する世帯の男性世帯主の属性によって把握すべきか)という問題意識に

もとづいて行われており、階層的地位の指標として階層帰属意識を用いている。

それらの研究においては、女性の階層帰属意識に影響を与えうる変数として、①本人の階

層的属性(学歴・収入・職業など)、②配偶者の階層的属性(学歴・収入・職業など)、③出

身家族の父親・母親の階層的属性(学歴・職業など)、④世帯としての経済的・文化的豊かさ

(たとえば持ち家の有無や、耐久消費財や文化的財をどれくらい所有しているか)、⑤主観的

な意識としての生活満足感などが考えられる(赤川, 2000)。たとえば 1995 年 SSM 調査を用

89

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いた赤川の分析によると、既婚女性の階層帰属意識に対しては、④の世帯としての豊かさを

表すと考えられる指標、⑤の生活満足感、そして②の配偶者の階層的属性が有意な効果を持

ったが、①の女性本人の階層的な属性は影響を与えなかった。それに対して男性の階層帰属

意識については、④の世帯としての豊かさや、⑤の生活満足感が有意な効果をもつことにつ

いては女性と変わらないが、異なるのは②の配偶者(妻)の階層的属性ではなく、①の男性

本人の階層的属性が有意な効果を持つという点である(赤川, 2000)。

2.2 本研究の枠組み

本研究では、「専業主婦を高い階層のライフスタイルみなす」という意識の指標として階層

帰属意識に注目し、これを被説明変数とする。そして、自分あるいは妻が「専業主婦である

こと」がその人の階層帰属意識に与える効果を検証するために、説明変数は妻の従業上の地

位とし、これを「経営者」「正規雇用」「非正規雇用」「自営・家族従業」「無職で求職中」「専

業主婦」(=無職だが求職中でない)の6つに分け、「専業主婦」を基準とするダミー変数と

して用いた。無職を「求職中」と「専業主婦」(=求職中でない)という2つのカテゴリーに

分けたのは、後でみるように2つのカテゴリーで階層帰属意識が大きく異なるからである。

コントロール変数としては、階層帰属意識に影響を与えうる変数として先行研究でみた①

~④に関連する変数を用いる。⑤の生活満足感については、階層帰属意識と同様に主観的変

数であるので、本研究では用いない。また年齢は、階層帰属意識だけでなく、学歴・年収・

持ち家の有無・保有財の数など多くの変数に影響を与えると考えられるので、年齢もコント

ロール変数として用いる。

3 データと変数

2005 年 SSM 日本調査は、2005 年9月 30 日現在で満 20~69 歳の男女を対象に、層化系統

抽出法により全国から 14,140 人を選び、面接法と留め置き法を併用して行われた。有効回収

票は 5,742(44.06%)である。この分析では「現在結婚しており、夫婦とも 60 歳未満の男女」

を対象とする。

分析に用いる変数は以下のとおりである。

階層帰属意識:「かりに社会全体を上から順に1から 10 の層に分けるとすれば、あなた自身

は、このどれに入ると思いますか」という質問に対する回答を用いた。階層帰属意識

が最も高い人に 10、以下9、8、…とコード化し、最も低い人に1を割振った。

妻の従業上の地位:「経営者」(経営者・役員)、「正規雇用」(常時雇用されている一般従業者)、

「非正規雇用」(臨時雇用・パート・アルバイト・派遣・契約・嘱託・内職)、「自営」

90

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(自営業主・自由業・家族従業者)、「求職中」(無職だが仕事を探している)、「専業主

婦」(無職で仕事を探していない)の6つに分け、「専業主婦」を基準とするダミー変

数としてこれを用いた。

年齢:年齢と階層帰属意識の間の0次の相関は有意ではなく、線形の関係にはなかった。そ

こで 20 歳代を基準とし、30 歳代、40 歳代、50 歳代というダミー変数を用いた。

教育年数:最終学歴をもとに、旧制の教育機関については尋常小学校(6)、高等小学校(9)、

中学校・高等女学校(10)、実業学校(9)、師範学校(13)、高等学校・専門学校・高

等師範学校(14)、大学(16)としてコード化した。新制の教育機関については、中学

(9)、高校(12)、短大・高専(14)、4 年生大学(16)、大学院(18)としてコード

化した。

年収:なし(0)、25 万円未満(12.5)、25~50 万円未満 (37.5)、以下 25 万円(25)間隔で、

125~150 万円未満(137.5)までコード化した。次いで 150~200 万円未満(175)、200~

250 万円未満(225)というように 50 万円(50)間隔で 400~450 万円未満(425)まで

コード化した。その後は 450~550 万円未満(500)、 550~650 万円未満(600)というよ

うに 100 万円(100)間隔で、2050 万円以上(2050)までコード化した。

職業威信:職業威信スコア 1995 年版(都築編, 1998: 230-236)を用いた。

持ち家の有無:持ち家(マンションを含む)がある(1)、ない(0)とした。

所有財の数:20 品目(持ち家、風呂、子供部屋、ピアノ、食器洗い機、…、DVD レコーダー、

パソコン、…、スポーツ会員権、美術品・骨董品、株券または債権、別荘、…など)

のうち、所有している物の数に応じて 20~0を割り振った。

4 分析結果

4.1 階層帰属意識(被説明変数)と説明変数・コントロール変数との関連

はじめに、被説明変数である階層帰属意識と、説明変数である妻の従業上の地位、そして

コントロール変数である年齢、妻の教育年数・年収、父親の教育年数・職業威信、持ち家か

否かと所有財の数、そして夫の教育年数・職業威信・年収との関連をみた。

表1は、被説明変数である男・女の階層帰属意識が、妻の従業上の地位によってどのよう

91

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に異なるかを、一元配置の分散分析によって示したものである。これによると男・女の階層

帰属意識は、妻の従業上の位置によって有意に異なる。妻が経営者・役員である場合に階層帰

属意識は最も高く、求職中である場合に最も低い。妻が専業主婦である人に注目して多重比

較の結果を見ると(データは省略)、妻が専業主婦である場合は、非正規雇用や求職中である

場合より、男・女いずれの階層帰属意識も高くなる。

表1 妻の従業上の地位別にみた男・女の階層帰属意識

女性の階層帰属意識 男性の階層帰属意識

妻の従業上の地位 平均値 標準偏差 n 平均値 標準偏差 n

経営 6.8387 1.31901 31 6.6522 1.52580 23

正規 5.9729 1.42141 332 5.6390 1.43990 241

非正規 5.5780 1.48978 481 5.3876 1.62767 356

自営 5.7353 1.53109 136 5.6443 1.49356 149

求職中 5.4795 1.68415 73 4.7963 1.60635 54

専業主婦 5.9186 1.48753 393 5.6682 1.62741 428

計 5.7981 1.50087 1446 5.5604 1.59102 1251

F 7.319** 6.217**

* p < .05. ** p < .01.

表2は年齢(10 歳きざみ)によって階層帰属意識に違いがあるかどうかを見たものである

が、男・女とも有意な違いはない。

表2 年齢別にみた男・女の階層帰属意識

女性の階層帰属意識 男性の階層帰属意識

平均値 標準偏差 n 平均値 標準偏差 n

20歳代 5.4712 1.45453 104 5.6296 1.48319 54

30歳代 5.8463 1.51869 410 5.4595 1.63440 309

40歳代 5.7923 1.46859 49 5.5516 1.56039 397

50歳代 5.8326 1.52649 442 5.6182 1.59886 495

計 5.7968 1.50110 1447 5.5586 1.59030 1255

F 1.869 .669

* p < .05. ** p < .01.

92

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表3は階層帰属意識と他のコントロール変数との0次の相関を見たものであるが、すべて

の変数について有意な相関がある。

表3 男・女の階層帰属意識と他の変数との相関係数

階層帰属意識

女性 N 男性 N

妻 教育年数 .225** 1447 .210** 1238

年収 .121** 1304 .122** 1019

父 教育年数 .130** 1169 .063* 1013

職業威信(主職) .138** 1274 .124** 1125

持ち家 .169** 1444 .088** 1253

所有財の数 .228** 1447 .238** 1255

夫 教育年数 .263** 1434 .216** 1255

職業威信(現職) .258** 1377 .214** 1221

年収 .339** 1070 .373** 1097

* p < .05. ** p < .01.

4.2 「専業主婦であること」は女性の階層帰属意識を高めるか?

前の項で他の変数をコントロールしない場合は、「専業主婦」は、「非正規雇用」や「求職

中」より、階層帰属意識が高いことがわかった。同様に「妻が専業主婦である夫」は、「妻が

非正規雇用や求職中の夫」より、高い階層帰属意識を持っていることがわかった。さらに階

層関連変数(夫・妻・出身家族の父親の教育・職業・収入などや、財産の保有状況など)はす

べて、階層帰属意識と有意な関連があることがわかった。それではこれらの変数をコントロ

ールしても「専業主婦」は、「非正規雇用」や「求職中」より階層帰属意識は高いのだろうか。

また「妻が専業主婦である夫」は、「妻が非正規雇用や求職中の夫」より階層帰属意識は高い

のだろうか。

この問いに答えるために、男・女それぞれの階層帰属意識を被説明変数、妻の従業上の地

位を説明変数、そして年齢と階層関連変数をコントロール変数とする重回帰分析を行った。

93

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表4 分析に用いた変数の記述統計量

女性(N =769) 男性(N =733)

平均値 標準偏差 平均値 標準偏差

妻の階層帰属意識 5.814 1.543 5.589 1.556

妻の従業上の地位(a)

経営者 .023 .151 .018 .132

正規雇用 .246 .431 .198 .399

非正規雇用 .345 .476 .276 .447

自営 .086 .280 .109 .312

求職中 .043 .202 .046 .210

年齢(b)

30 歳代 .302 .459 .252 .435

40 歳代 .330 .471 .330 .471

50 歳代 .285 .452 .379 .486

妻の教育年数 12.822 1.677 12.847 1.761

年収 148.992 186.171 141.849 202.298

父の教育年数 10.446 3.113 9.982 3.182

職業威信(主職) 52.178 9.046 52.319 9.326

持ち家あり .766 .424 .801 .400

保有財の数 10.779 3.117 10.850 2.941

夫の教育年数 13.282 2.288 13.379 2.327

職業威信(現職) 53.381 9.181 54.400 9.725

年収 540.247 291.457 576.757 298.525

(a) 基準は「妻が専業主婦」。 (b) 基準は「妻が20歳代」。

94

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95

表5は女性の階層帰属意識を被説明変数とする重回帰分析の結果である。分析に用いた変

数の記述統計は表4に示した。

モデル1では説明変数である妻の従業上の地位のみが用いられている。基準は「専業主婦」

であり、これと比較すると、「経営者」であることは階層帰属意識を高め、逆に「非正規雇用」

や「求職中」であることは階層帰属意識を低くする有意な効果がある。

モデル2では、妻自身の年齢がコントロールされている。「経営者」であることは階層帰属

意識を高め、逆に「非正規雇用」や「求職中」であることは階層帰属意識を低くすることは

変わらない。

モデル3では、妻自身の教育年数と収入がコントロールされている。妻自身の学歴や収入

が高いことは、階層帰属意識を高める効果がある。またこれらをコントロールしても「非正

規雇用」や「求職中」であることは、「専業主婦」であることに比べ、階層帰属意識を低くす

る。さらに「自営業」であることも階層帰属意識を低下させる。

モデル4では、出身家族の父親の教育年数と職業威信がコントロールされる。父親の階層

的地位は、女性の階層帰属意識には効果がない(表5のR2変化量に示したように説明力の増加

も有意ではない)。また父親の階層的地位をコントロールしても、「非正規雇用・自営業・求

職中」であることは、「専業主婦」であることに比べて階層帰属意識を低くする。

モデル5では、持ち家の有無と保有財の数がコントロールされている。保有財の数が多い

ことは妻の階層帰属意識を有意に高める。これらをコントロールしても、「非正規雇用・自営

業・求職中」であることは、「専業主婦」であることに比べて階層帰属意識を低くするという

効果は維持される。

最後にモデル6では、夫の教育年数・職業威信・年収がコントロールされる。これらのう

ち夫の年収は、妻の階層帰属意識を有意に高める。夫の職業威信はごく弱い効果があるかも

しれないという程度である。これら夫の階層的地位をコントロールすると、妻が「自営業」

であることの階層帰属意識への効果は有意でなくなり、また「非正規雇用」であることの効

果もごく弱くなった。しかし「求職中」であることが階層帰属意識を低くするという効果は、

有意なままである。

つまり、妻自身の学歴や収入、出身家族の階層的地位、財産の状況が同じでも、「専業主婦」

であることは、「パートタイマーや求職中」と比べると、その女性の階層帰属意識を高めた。

しかし、夫の収入や職業が同じ程度ならば、「専業主婦」と他の就業形態との間に階層帰属意

識において違いはない。唯一の例外は「求職中」であり、これが女性の階層帰属意識を低く

する効果は、他の変数をコントロールしても、すべてのモデルにおいて一貫して有意であっ

た。

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表5

性の

階層

帰属

意識

を従

属変

数と

する

重回

帰分

析(

N=769)

デル

1 モ

デル

2 モ

デル

3 モ

デル

4 モ

デル

5 モ

デル

6

B

β

B

β

B

β

B

β

(定

数)

5.9

24**

5.4

69**

3.7

78**

3.6

41**

3.1

38**

3.0

95**

妻が

経営

者(a

) 1.0

76**

.105

.984**

.096

.408

.040

.409

.040

.302

.030

.183

.018

正規

雇用

.0

86

.024

.035

.010

-.3

68+

-.1

03

-.3

34

-.0

93

-.3

16

-.0

88

-.0

44

-.0

12

非正

規雇

-.3

09*

-.0

95

-.3

70*

-.1

14

-.4

30**

-.1

33

-.4

22**

-.1

30

-.3

92**

-.1

21

-.2

54+

-.0

78

自営

-.1

97

-.0

36

-.2

92

-.0

53

-.4

49*

-.0

82

-.4

64*

-.0

84

-.5

44*

-.0

99

-.3

15

-.0

57

職中

-.7

73**

-.1

02

-.8

15**

-.1

07

-.8

66**

-.1

14

-.8

39**

-.1

10

-.8

08**

-.1

06

-.6

83*

-.0

90

妻が

30歳

代(b

)

.4

78*

.142

.458*

.136

.479*

.142

.284

.085

.146

.044

40歳

.621**

.189

.593**

.181

.670**

.204

.302

.092

-.0

22

-.0

07

50歳

.532*

.156

.597**

.175

.705**

.206

.284

.083

.023

.007

妻の

教育

年数

.1

31**

.142

.106**

.115

.092*

.100

.031

.034

年収

.0

01*

.130

.001*

.123

.001*

.105

.000

.058

父の

教育

年数

.038+

.075

.030*

.060

.022

.043

職業

威信

(主

職)

.000

.001

.000

-.0

01

-.0

06

-.0

36

持ち

家あ

.2

99+

.082

.346*

.095

保有

財の

.0

79**

.159

.038+

.076

夫の

教育

年数

.033

.049

職業

威信

(現

職)

.013+

.075

年収

.001**

.235

調整

済み

R 2

.0

27

.034

.065

.067

.103

.162

R 2

変化

.033**

.011*

.033**

.004

.038**

.062**

(a)

基準

は「妻

が専

業主

婦」。

(b

) 基

準は

「妻

が20歳

代」。

* p

< .05.

** p

< .01.

96

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4.3 「妻が専業主婦であること」は男性の階層帰属意識を高めるか?

表6は男性の階層帰属意識を被説明変数とする重回帰分析の結果である。分析に用いた変

数の記述統計は表4に示した。

モデル1では説明変数である妻の従業上の地位のみが用いられている。基準は「妻が専業

主婦であること」であり、これと比較すると妻が「経営者」であることは夫の階層帰属意識

を高め、逆に妻が「求職中」であることは夫の階層帰属意識を低くする有意な効果がある。

表5の女性自身の階層帰属意識と比較すると、妻が「求職中」であることの効果は同じだが、

異なるのは、妻が「非正規雇用」であることが夫の階層帰属意識を低くするという効果が、

男性においてはみられない点である。

モデル2では、夫自身の年齢がコントロールされている。夫の年齢をコントロールしても、

妻が「経営者」であることが夫の階層帰属意識を高め、逆に妻が「求職中」であることが夫

の階層帰属意識を低くするという点は変わらない。

モデル3では、妻の教育年数と収入がコントロールされている。妻の学歴や収入が高いこ

とは、夫の階層帰属意識を高める効果がある。これらをコントロールしても、妻が「求職中」

であることは「専業主婦」であることに比べ、夫の階層帰属意識を低くする。また妻が「経

営者」であることの効果は有意でなくなったが、そのかわりに妻が「正規雇用」であること

が夫の階層帰属意識を低くするという効果が有意となった。

モデル4では、出身家族の父親の教育年数と職業威信がコントロールされる。父親の階層

的地位は、夫の階層帰属意識には効果がない(表5のR2変化量に示したように説明力の増加も

有意ではない)。また父親の階層的地位をコントロールしても、妻が「正規雇用」や「求職中」

であることが夫の階層帰属意識を低くするという効果は維持された。

モデル5では、持ち家の有無と保有財の数がコントロールされている。保有財の数が多い

ことは夫の階層帰属意識を有意に高める。これらをコントロールしても、妻が「求職中」で

あることは妻が「専業主婦」である場合に比べて、夫の階層帰属意識を低下させる。しかし

妻が「正規雇用」であることの効果は有意でなくった。

最後にモデル6では、夫自身の教育年数・職業威信・年収がコントロールされる。これら

のうち教育年数と年収は、夫の階層帰属意識を有意に高める。これら夫自身の階層的地位を

コントロールしても、妻が「求職中」であることが、夫の階層帰属意識を低くするという効

果は有意なままで残った。

つまり、年齢や階層関連変数をコントロールすると、妻が「専業主婦」であることが男性

の階層帰属意識を高めるということはなかった。ただし例外として、妻が「求職中」である

ことは他の変数をコントロールしても、一貫して夫の階層帰属意識を有意に低下させており、

これは女性の階層帰属意識と同様であった。

97

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表6

性の

階層

帰属

意識

を従

属変

数と

する

重回

帰分

析(

N=733)

デル

1 モ

デル

2 モ

デル

3 モ

デル

4 モ

デル

5 モ

デル

6

B

β

B

β

B

β

B

β

(定

数)

5.6

91**

5.8

07**

3.2

83**

2.7

96**

2.6

18**

3.0

89**

妻が

経営

者(a

) 1.0

78*

.091

1.1

08*

.094

.725

.061

.723

.061

.512

.043

.626

.053

正規

雇用

-.0

43

-.0

11

-.0

53

-.0

14

-.4

60*

-.1

18

-.4

38*

-.1

12

-.3

87+

-.0

99

-.2

88

-.0

74

非正

規雇

-.2

16

-.0

62

-.2

16

-.0

62

-.2

64+

-.0

76

-.2

45+

-.0

70

-.1

94

-.0

56

-.0

93

-.0

27

自営

-.1

41

-.0

28

-.1

63

-.0

33

-.2

38

-.0

48

-.2

24

-.0

45

-.2

34

-.0

47

-.0

58

-.0

12

職中

-.8

09**

-.1

09

-.8

12**

-.1

10

-.8

20**

-.1

11

-.8

05**

-.1

09

-.7

19**

-.0

97

-.5

64*

-.0

76

妻が

30歳

代(b

)

-.1

64

-.0

46

-.0

91

-.0

25

-.0

79

-.0

22

-.2

05

-.0

57

-.3

96

-.1

11

40歳

-.1

86

-.0

56

-.0

99

-.0

30

-.0

56

-.0

17

-.2

92

-.0

88

-.6

55*

-.1

98

50歳

-.0

23

-.0

07

.162

.050

.233

.073

-.0

07

-.0

02

-.4

27

-.1

33

妻の

教育

年数

.1

87**

.211

.169**

.191

.133**

.151

.037

.042

年収

.0

01*

.105

.001*

.103

.001+

.084

.001+

.095

父の

教育

年数

.011

.022

.005

.010

-.0

15

-.0

29

職業

威信

(主

職)

.011

.064

.009

.057

.004

.026

持ち

家あ

-.2

15

-.0

55

-.1

34

-.0

34

保有

財の

.1

04**

.197

.057*

.107

夫の

教育

年数

.093**

.139

職業

威信

(現

職)

-.0

02

-.0

12

年収

.001**

.258

調整

済み

R 2

.0

16

.015

.068

.070

.094

.159

R 2

変化

.023**

.002

.055**

.005

.026**

.068**

(a)

基準

は「妻

が専

業主

婦」。

(b

) 基

準は

「妻

が20歳

代」。

* p

< .05.

** p

< .01.

98

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4.4 「求職中」という女性はどのような人々か?

ここまでの分析で、妻が「求職中」であることは専業主婦であることに比べて、妻自身に

おいてもその夫においても、階層帰属意識を有意に低下させることがわかった。そこで最後

に、「求職中」の既婚女性とはどのような人々なのかについて、いくつかの変数を「専業主婦」

と比較することによってみておこう(以下で、+ p < .10、* p < .05、** p < .01とする)。

年齢については、求職中と専業主婦で有意な差はなかった。

次に生活満足感をみると、平均値は求職中が3.73、専業主婦が4.09であり、求職中のほう

が有意に低かった(F=8.564**)。

これから考えられるのは、求職中の人のほうが、専業主婦に比べて、社会・経済的地位が

低いのではないかという仮説である。しかし、本人の学歴、夫の学歴・収入・職業威信のい

ずれにおいても、求職中と専業主婦で有意な差はなかった。

もう1つ考えられる仮説は、求職中の人のほうがより平等主義の性役割意識をもっている

ので、職についていないことが生活満足感や階層帰属意識を低下させているという仮説であ

る。しかしながら性役割意識を比較すると、3種類の性役割意識(「男性は外で働き、女性は

家庭を守るべきである」「男の子と女の子は違った育て方をすべきである」「家事や育児には、

男性より女性が向いている」)のいずれにおいても、求職中と専業主婦では有意な差はなかっ

た。

しかし、職業に対する意識を見ると、はじめて仕事についた頃の考え方として「定年や引

退まで働き続ける」を選択した人は求職中により多く、「ときには働くのをやめる」を選択し

た人は専業主婦により多かった。今後の働き方についての質問においても同様であった(た

だし、職業に対する意識の質問はA票だけに含まれているので、回答者数が半減したためか

有意ではない)。

このような「働くこと」に対する積極性は、実際のライフコースにも現れている。初職に

ついては、従業上の地位・職種・職業威信のいずれにおいても、求職中と専業主婦で有意な

差はなかった。また「結婚2年前」「結婚時」「第1子誕生時」の就業状況(有職か否か)に

おいても有意な差はなかった。しかし「末子誕生時」(χ2=7.559**)、「末子4歳時」(χ

2=4.616*)、そして「末子16歳時」(χ2=4.021*)においては有職か否かに差が見られ、いず

れの時点においても求職中のほうが専業主婦より、就業している人が多かった(ただし「末

子7歳時」と「13歳時」においては有意な差はなかった)。

また「末子誕生時」に無職だった人の中で、その後に再就職した人の割合を比べても、求

職中のほうが専業主婦より、再就職を経験した人は多かった(χ2=13.635**)。

以上の結果から、求職中の人と専業主婦は、年齢や階層的地位には大きな違いはないが、

働くことに関する意識や、職業面から見た実際のライフコースには違いがあることがわかっ

た。求職中の人は専業主婦より、継続的に働くという意識をもっている人が多く、実際に小

さい子どもがいても働いていた人や、出産後に再就職した人が多かった。このような人は、

女性であっても配偶者がいても、さらに社会・経済的地位の面で専業主婦と大きな違いがな

くても、無職という状態におかれると、生活満足感はもちろんのこと、階層帰属意識も有意

に低下するということがいえる。

99

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5 結論

本研究でわかったことは次のことである。まず女性については、夫の階層的属性をコント

ロールしない場合は(女性本人や出身家族や世帯の階層的属性をコントロールしても)、専業

主婦であることは、非正規雇用・自営・求職中であることに比べて、ほぼ一貫して階層帰属

意識を高めた(ただし正規雇用と専業主婦の間の階層帰属意識には違いはなかった)。しかし

夫の階層的地位をコントロールすると、専業主婦であることのそのような効果は消えた。つ

まり夫の階層的地位が同じなら、専業主婦であろうと、パートタイマーであろうと、正規雇

用であろうと、女性の階層帰属意識は変わらないのである。唯一の例外は求職中という場合

であり、求職中であることは他の変数をコントロールしても一貫して、専業主婦である場合

より女性の階層帰属意識を低くする有意な効果があった。

男性についてもほぼ同様であり、男性自身の階層的属性をコントロールしない場合は(妻

や出身家族や世帯の階層的属性をコントロールしても)、妻が専業主婦であることは、求職中

や正規雇用であることに比べて、かなりの程度一貫して男性の階層帰属意識を高める効果が

みられた。しかし夫自身の階層的地位をコントロールすると、専業主婦の妻をもつことのそ

のような効果は消えた。つまり夫自身の階層的地位が同じなら、妻が専業主婦であろうと、

パートタイマーであろうと、正規雇用であろうと、夫の階層帰属意識は変わらないのである。

唯一の例外は妻が求職中という場合であり、このような妻をもつことは、他の変数をコント

ロールしても一貫して、男性の階層帰属意識を低くする効果が有意であった。

つまり(「求職中」という場合を例外として)、「専業主婦であること」あるいは「専業主婦

の妻をもつこと」は、それ自体として女性・男性の階層帰属意識を高める効果はない。「専業

主婦は高い階層の人々のライフスタイル」という意識を現在の日本人は特にはもっていない

のである。したがって、日本において女性の労働力率がなかなか高まらないことの原因を、

「専業主婦は高い階層のライフスタイル」という社会意識に帰すことは適当でない。そうで

はなく、他の文化・イデオロギー的要因(たとえば母性イデオロギー)や、職場環境などの

構造的要因について検討する必要がある。

また「求職中」と「専業主婦」との比較から、求職中という人は、階層的地位や性役割意

識の点では専業主婦と違いはないが、専業主婦に比べて「働き続ける」という意識が高いこ

とがわかった。そして実際に、小さい子どもがいるときも働く、出産後に再就職するといっ

たライフコースを送ってきた人が多いことがわかった。このようなライフスタイルと意識を

もつ女性が、職業を持てない場合、生活満足感が低下するだけでなく、階層帰属意識までも

が低下していた(客観的な階層的属性が低いわけではないのに、階層帰属意識は低下してい

たのである)。失業がモラールを低下させることは、男性については従来からその存在を指摘

されてきた(Grint, 1997[1992])。しかし本研究から、現代日本の既婚女性においてもそのよ

100

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うな効果がみられることがわかった。

【文献】

赤川学, 2000, 「女性の階層的地位はどのように決まるか」, 盛山和夫編『日本の階層システム 4 ジェ

ンダー・市場・家族』東京大学出版会, 47-63.

Davidoff, Leonare, 1995, Worlds Between: Historical Perspectives on Gender and Class, Cambridge: Polity

Press.

Grint, Kieth, 1997[1992], The Sociology of Work: An Introduction (second edition), Cambridge: Polity Press.

『月刊世論調査』1980 年 2 月号.

『月刊世論調査』1985 年 4 月号.

『月刊世論調査』1987 年 9 月号.

『月刊世論調査』1991 年 3 月号.

『月刊世論調査』1995 年 12 月号.

『月刊世論調査』2000 年 9 月号.

国立社会保障・人口問題研究所編, 2007, 『平成 17 年わが国独身層の結婚観と家族観―第 13 回出生動

向基本調査』厚生統計協会.

McCleland, Keith, 1998, “Masculinity and the ‘representative artisan’ in Britain, 1850-80,” in Michael Roper,

and John Tosh (eds.), Manful Assertions: Masculinities in Britain since 1800, London and New York:

Routledge, 74-91.

落合恵美子, 1997, 『21 世紀家族へ』(新版)有斐閣.

塩田咲子, 1992, 「現代フェミニズムと日本の社会政策―1970~1990 年」『女性学研究』2, 勁草書

房(のちに井上由美子・上野千鶴子・江原由美子(編), 天野正子(編集協力) 1994, 『日

本のフェミニズム 5:権力と労働』岩波書店, 113-133 に抜粋収録).

都築一治編, 1998, 「1995 年職業威信スコア表」『1995 年 SSM 調査シリーズ 5: 職業評価の構造と職業

威信スコア』, 230-236.

101

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102

Do Full-Time Housewives and Their Husbands Have Higher Social-Status

Identification than Working Wives and Their Husbands?

Reiko Yamato Kansai University

To be full-time housewives for women and to have a wife as a full-time housewife for men used to be regarded as a status symbol of the middle class family in postwar Japan. Are such attitudes still maintained in contemporary Japan? Analyzing data obtained from the 2005 Social Stratification and Mobility Survey conducted in Japan, the present study found that to be full-time housewives for women and to have a full-time housewife for men did not significantly affect their social-status identification when other major objective indexes of social status, such as educational level, income, and job, were controlled. The only exception, however, is unemployed wives who were currently seeking employment and their husbands. These people were more likely than full-time housewives not seeking employment and their husband to have significantly lower social-status identification even when other major indexes of social status were controlled. Further analyses revealed that although objective socioeconomic background for unemployed wives and full-time housewives were not significantly different, but unemployed wives were more likely than full-time housewives to have higher subjective commitment to employment and to had actually worked even when they had small children. Implications of the results were discussed.

Keywords: social-status identification, full-time housewives, unemployment

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階層帰属意識の意味論

―帰属分布と地位指標の弱い紐 weak tie―

佐藤俊樹

(東京大学)

【要旨】

階層移動研究にとって、階層帰属意識は厄介だが魅力的な謎である。他の「意識」変数と同じ

く、収入、学歴、職業などの客観的地位指標と弱い関連性しかもたないため、専門的な階層移動

研究の枠組みにはうまく位置づけられない。その一方で階層をめぐる日常的な言説、すなわち「階

層化」言説では、階層帰属は階層そのものの代理として使われている。 以下では、まず、階層移動研究では従来、中途半端にあつかわれてきた「意識」変数がどんな

特性をもち、どのように位置づけられるか、メタ階層論的な視点も取り入れて再検討する。その

上で、05 年調査の階層帰属のあつかい方を考える。 95 年調査と 05 年調査のデータは、階層帰属の回答が質問票の順番に左右されないことを示す。

階層帰属は“客観的な”、つまり調査以前に、日常的に使われている位置づけ identification を測

定した変数なのである。E.デュルケームの有名な言葉を借りれば、階層帰属はあくまでも「社会

的事実 fait social」であり、学歴や職業などと同じく、それ自体が階層をめぐる社会的現実の一部

だと考えられる。その意味では、これが学歴や職業で完全に説明できないのはあたりまえで、階

層帰属の回答自体が信頼性をもたないわけではない。 その上で、階層帰属の分布の推移を 55 年調査から見ながら、05 年の特徴を記述する。05 年の

有職男性では、1)階層帰属が従来にない大きな「下」方シフトを起こした。2)95 年調査で気づか

れた個人収入の高低による乖離はさらに拡大した。とりわけ、3)低収入層で強烈な「下」方シフ

トが起きた。これは 95 年には見られなかったものだ。さらに絶対額でみると、4)収入の高い方

1/3 は 95 年と同じ収入額幅ではほぼ同じ分布になるのに対して、低い方の 2/3 は同じ収入額幅で

もより「下」の帰属を答える。つまり、収入額の低い方で、階層帰属との関係において収入額の

意味の「減価」が生じている。5)有職女性には大きな「下」方シフトは見られない。 後に、これらの知見をもとに、階層帰属が実際には何を意味していたかを考える。階層帰属

意識は、回答者が「階層」感や一次理論を取り込んだ上で自らを位置づけたものである。収入によ

る帰属分布の乖離度をみると、75 年を底にしたかなりきれいな放物線を描く。この推移は「階層

化が進んだ/緩んだ」という「階層化」言説の語りの推移にほぼ符合する。現在の「階層化」言説

に見られる不平等感の爆発的増大は、この有職男性での「下」方シフト、特に収入の低い方での

「減価」によるものではなかろうか。これは所得分布をめぐる、ジニ係数の変動に見合わない強

い格差感とも対応する。

キーワード:「下」方シフト、帰属分布、「階層化」言説、Kullback-Leibler 情報量

103

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1 階層帰属とは何か

1.1

階層関連の意識は、階層移動研究において独特なねじれの位置にある。

例えば SSM 調査の「上/中の上/中の下/下の上/下の下」型の階層帰属意識は、専門的な階

層移動研究の内部では、主に重回帰分析の被説明変数としてあつかわれてきた。そこでは、

どんな説明変数、特に客観的な地位指標(収入や学歴や職業など)のどれを使えば階層帰属意

識がよく説明されるか、つまり階層帰属がどんな地位指標から合成されるかに関心を向けら

れた。他方、階層移動研究の外部では、階層帰属意識は階層そのものの代理変数としてあつ

かわれてきた。例えば、階層帰属で「中」が多ければ「中流社会」だとされた。

そのため、階層帰属は今も、どっちつかずの鵺のようなものになっている。一方からは、

階層帰属は階層の反映物とされ、もう一方からは階層帰属イコール階層だとされる。

何が階層かは専門家が決めるという立場にたてば、専門家以外が「階層」をどう考えよう

と関係ない。けれども、もし本当に客観的な地位指標だけが階層の構成要素であるならば、

階層帰属を調べる必要もない。わざわざ調べているのは階層帰属に独自の意味、いわば独自

の社会的現実 social reality を認めているからだろう。だからこそ客観的地位指標で説明した

いという専門家の欲望も発生するのではないか。

それに対して、人々が「階層」と感じるものが階層だという立場にたてば、階層帰属こそ

が階層になる。けれども、現実にはそこまで徹底している人はいない。階層帰属はやはり何

らかの『実態』の代理だと考えられているが、それが何かは明示されない。

そういう意味でいえば、階層帰属は一面では過少に、一面では過剰に、階層的な事態とさ

れている。この過少さと過剰さこそが階層帰属意識の 大の特徴かもしれない。この二面性

は計量的には、階層帰属が地位指標とそれこそ微妙な関係にあることと裏表になっている。

階層帰属は地位指標で説明しきれるほど強い関連性はもたないが、全く関連しないわけでも

ない。それこそどっちつかずの距離でふらふらしている。

これは階層帰属にかぎらず、階層をめぐるいわゆる「意識」変数(社会的心理的変数 social

psychological variable)全般にあてはまる。この中途半端さを、階層移動研究は「意識」変数

の分析を傍流の分野にすることで曖昧に処理してきた。一言でいえば、あつかいづらく煩わ

しいが、完全に捨てるにはおしい。取り込むのも切り離すのもためらわれる厄介者として、

「意識」変数は階層移動研究と独特な位置関係を保ってきた。

1.2

そのなかであえて「意識」変数をとりあげるとすれば、大きく三つの方向性がありうる。

104

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①地位指標との相関をできるだけ高める(高い相関のある変数だけをあつかう)

②閾値みたいなものとして捉える

③「意識」変数そのものを対象にする

①の代表は、吉川徹のいう計量社会意識論的アプローチだろう。階層移動研究内部におい

ては、これが主流、というか王道であることはまちがいない。なぜなら SSM がそうであるよ

うに、階層移動研究はその労力の大半を、地位指標の測定と分析に費やしてきたからだ。研

究の効率性からいっても、それらと連携を強める方向に進む、すなわち地位指標との相関が

高い「意識」変数に関心を向けるのは、合理的である。

②も広い意味では①にふくまれるが、「意識」変数独自のしくみをある程度想定している。

地位指標は量的変数という性格が強い。それとの関連性で 0/1 型の離散的な変換関係が発見

できれば、量を質に変換する独自のしくみを推測できる。

極端に考えれば、すべての地位指標はこうした性格をもちうる。学歴にしても、それが収

入や職業的地位に関連する経路は、労働市場の需給関係だけではない。個人の階層帰属

identification の指標になっていれば「意識」変数だともいえるが、その点はおいておこう。

③は「意識」変数をそれ自体として意味をもつ現実 reality としてあつかう。ただし、これ

は「意識」変数が地位指標を反映しないと主張するものではない。「意識」変数は地位指標を

反映することもあれば反映しないこともある。その自由度そのものが当該変数に表れた社会

的現実の一部だと考える。

一般的にいえば、階層移動研究では③はあまり効率がよくない。先ほど述べたように、研

究作業の大半が地位指標の測定と分析にあてられているからだ。一般的な研究戦略としては、

①や②の方が合理的である。

1.3

しかし、05..

年.

SSM...

調査の階層帰属にかぎれば............

、③にも意味がある。理由は四つある。

第一に、客観的地位指標と関連性がある場合でも、「意識」変数は通常、弱い関連性しかも

たない。そのため、地位指標との関係で強い意味を見出しにくい。だからこそ①のように、

相関が比較的高い質問項目を多く載せるやり方が推奨されるわけだが、個々の変数での関連

性の弱さがそれで解消されるわけではない。何より、すでに調査したデータは変えられない。

第二に、階層帰属固有の特徴として、地位指標との関連性そのものが調査年によって変化

する。有職男性でいえば、大まかにいうと、75 年調査では帰属の分布が地位指標と関連しな

い。85 年になって関連性が現れ、95 年でさらに強まる(吉川 1998、間々田 1998 など)。なお、

65 年調査では収入変数にどれだけ信頼性があるか疑問があるが、帰属分布と収入層の間には

やはり関連性が見られる(3.4 参照)。長期的な推移でいえば、関連があったのがなくなって再

105

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び関連するようになったようだ。

したがって、階層帰属意識は論理上、地位指標では説明しきれない。まず地位指標と関連

する/しないの切り替わりを説明できるしくみを考えて、その上で、関連する状態になった場

合にはどう関連するかを説明する、という二段構えの論理を必要とする。その意味で、いわ

ば論理階型において、階層帰属意識は同じ調査年の地位指標とは独立である。

もちろん、それは階層帰属が地位指標一般と独立だということではない。例えば、盛山和

夫が「「中」意識の意味」(盛山 1995)で示唆したように、ちがう調査年の地位指標との間に

関連性があるかもしれない。ただし、その場合も記憶や認知のしくみ、つまり盛山のいう「一

次理論」のような了解のしくみを経由した説明で橋渡しする必要がある。

第三に、階層帰属は 05 年調査や 95 年調査では、具体的な観測方法に依存しないことが実

証できる。質問票や質問順番に分布が影響されない。その意味で、これは“客観的な”実在

性をもつ。わかりやすくいえば、「上/中の上/中の下/下の上/下の下」という言葉による区分

は、調査以前に、当事者たち(=母集団)で自らを位置づける identify カテゴリーとして使われ

ていると考えられる。

第四に、回収率が低い。同時期に実施された他の調査でも回収率は大幅に低下しており(3.2

参照)、05 年国勢調査が調査地点荒らしになったようだが、低回収率のデータはそれ自体、

何か特殊な要因の産物と考えた方が自然である。調査内容に興味をもつ人々が選択的に答え

てくれたのだとすれば、05 年調査データ自体が「意識」の産物だといえる。いずれにせよ、

低回収率はデータ外の要因に関係づけた解釈も................

必要とする。

1.4

というわけで、ここでは③の方向で 05 年の階層帰属意識について考えてみよう。

③で一番大切なのは、調査外の事実と適切な形で関係づけることである。もともと社会調

査の質問項目=変数は、テキストにおける文や語と同じ性格をもつ。それ単独で意味をもつ

というより、調査内・調査外の他の変数との関係の上で意味をもつ(佐藤 2000b)。

これは本来、あらゆる変数にあてはまる。量的な形をとる地位指標も例外ではない。例え

ば、学歴と見比べて分類された職業が妥当かどうか検討する、あるいは、職業をみて分類さ

れた学歴が妥当かどうか検討する。そういう作業が許容されるとしたら、両者が互いとの関

係で意味をもっているからである。ただ、「意識」変数の場合、変数の値が言葉=日常言語で

あるため、意味の不確定性が主題化されやすい。その分、関係依存性が目立つ。

その点からも、できうるならば地位指標など他の主要な変数と相関が高い方がのぞましい。

データ行列内に強く関連する別の変数があれば、それらとどんな関係を結んでいるかを、さ

まざまな手法で同定できるからだ。計量手法の利点は、関係性のあり方のさまざまな型を(確

率)モデルを使って識別できる点にある。その分、その関係についてより多くの情報がえられ、

106

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変数の意味がより特定しやすい。

けれども、現実問題として、こちらの方向でやれる範囲は限られる。だとすれば、計量手

法で識別をかけられる利点を犠牲にしても、あえて調査外の変数との関係を仮定し、それに

よって意味を考えていくのにも、一定の意義はある。

③はそういうアプローチになる。厳密にいえば、「意識」変数そのものを対象にする点では、

①や②もかわらない。①や②とのちがいは、関係づける他の変数が調査(=データ行列)内か

外かにある。③は調査外にあるため、変数の意味が調査内の変数に依存的でなくなる。だか

ら、「意識」変数それ自体を対象にし、固有な意味を見出しているように見える。

そのためにも、適切な形で関係づける必要がある。調査内の変数は有限だが、調査外の変

数は無限にあるからだ。

1.5

それには少なくとも二つの条件をみたさなければならない。(a)調査外でも広く興味関心を

もたれる質問項目であること、(b)自明でない関係性が見出されることである。

(b)は実際のデータの解釈次第だが、(a)を階層帰属がみたすことはいうまでもない。1.1 で

述べたように、専門的な階層移動研究の外部では、階層帰属はしばしば階層と同一視されて

いる。完全に同じものだと考えているわけではなく、階層と短絡させてきたといった方がよ

いが、そこには短絡させる何かがある。

その理由は後であらためて考えるが、階層帰属とは何かを考える上でも(a)は重要な手がか

りになる。社会調査に回答してくれるのは回答者が調査のテーマに何らかの関心をもってい

るからである 1。回収率が低い場合にはこれは特にあてはまる。05 年SSM調査も、先に述べ

たように、「階層」に関心をもつ人々が回答してくれたと考えた方がよい。

だとすれば、「かりに現在の日本の社会全体を5つの層に分けるとすれば、あなた自身は

……」という「上/中の上/中の下/下の上/下の下」階層帰属は、「層の分け」方の通念をふま

えて自分の位置づけを答えたものと考えられる。つまり、人々の考える「階層」感や「階層」

についての一次理論をくり込んだ形で階層帰属を答えていると考えられる。

くり返すが、そうだと確証できるわけではない。「階層」感に関して、性別や年齢、学歴の

ように、母集団での経験分布があらかじめわかっているわけではない。一次理論が確率変数

の理論値 parameter のように、特定の数値として定義できるとは考えにくいし、かりに理論

値のようなものだとしても、その分布は未知であり、中心極限定理がどれだけあてはまるか

も本当はわからない。

それらの点をふまえた上で、ここでは階層帰属が人々の考える「階層」のあり方に何らか...

1 関心がなければ回答の信頼性自体が疑わしくなる。自然科学とはちがい、社会科学では観察対象が

観察作業に積極的に関与するので、「関心がある」と仮定せざるをえないのである。

107

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の形で...

対応していると仮定して考えていこう。

もし本当にそうだとすれば、階層帰属を通じて人々の「階層」感や一次理論に近づくこと

ができる。例えば 3.4 で述べるように、収入層による帰属分布のずれを調査年ごとに測ると、

かなりきれいな放物線を描いて推移する。75 年調査以来、階層帰属は「わけのわからないも

の」と見なされがちだったが、時代的な変遷の上ではむしろ明確な傾向性をもつ。調査年は

調査の内/外の境界線上にあるような変数だが、それによる推移が仮説的にせよ......

、調査外の「階

層化」言説ともさらに関係づけられれば、人々の「階層」感や一次理論をめぐる意味のメカ

ニズムに計量的に接近できることになる。

1.6

この仮定は部分的にではあるが、SSM 調査のデータからも裏付けられる。特に「1~10」

型の帰属段階尺度とのちがいは興味ぶかい。

05 年 SSM 調査の「1~10」型段階尺度は、95 年調査の同じ質問に比べて「5」に集中する

という特異な分布を示す(図 1.6.1、ともに基礎集計表より)。2006 年 12 月の研究会で吉川徹

が指摘したように、これがキャリーオーヴァー効果によるものならば、この分布は全くちが

う複数の意味で回答された結果である可能性が高い。

0

5

10

15

20

25

30

35

40

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10

95年B票問26(2) 05年面接票問30

図 1.6.1 「1-10」型段階帰属の分布・95 年全体と 05 年全体

05 年調査の「1-10」段階の「5」には、少なくとも三通りのちがった意味があると考えら

れる。第一は、10 段階で分類した場合の第 5 段階としての「5」、第二は「真ん中」という意

味での「5」、第三は「そもそも 10 段階での分類などしていないし、できない」という意味を

108

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込めた「5」である。言い換えれば、日常的に使っていないカテゴリーや分類基準を質問され

ることの無意味さを当事者(回答者)側が指摘した「5」だ。

第一と第二に関しては、説明の必要はないだろう。もしこの二つの意味だけならば、「中の

中」という区分を用いる他の調査でも、「中の中」が特異に膨らむはずである。ところが、同

じ 05 年に実施された内閣府の国民生活に関する世論調査では、「上/中の上/中の中/中の下/

下」の 5 区分での回答のうち、「中の中」が飛びぬけて多いわけではない(図 3.2.2 参照)。ま

た、二年後の 07 年に実施された朝日新聞社の世論調査に関する調査では、「上の上/上の下/

中の上/中の中/中の下/下の上/下の下」という 7 区分で質問しているが、その回答の分布でも

やはり「中の中」がとびぬけて多くはない(佐々木毅監修 2007:付表 26)。

「5」がとびぬけて多いという分布は、05 年 SSM の「1-10」段階質問だけに見られる。特

異な結果なのである。実際、「上/中の上/中の下/下の上/下の下」の回答とクロス集計すると、

男女ともに「下の上」「下の下」の人たちは、「5」と「7」以下でそれぞれ峰ができる。双峰

twin-peaks 型の分布になっている(図 1.6.2)。

0

10

20

30

40

50

60

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10

男「中の上」

男「中の下」

男「下の上」

男「下の下」

女「中の上」

女「中の下」

女「下の上」

女「下の下」

図 1.6.2 05 年調査の「上/中/下」帰属と「1-10」段階

この「5」の特異なふくらみは、「階層帰属にあたる区分は自分なりにもっているが、それ

は 1-10 段階の形で答えられるようなものではない」という回答だと考えるのが一番自然だろ

う。もちろん、「中の上」や「中の下」のなかにも、同じ意味で「5」と答えた人は一定数い

るはずだ。

一方、95 年 SSM の「1-10」段階帰属で「5」が特異に多くならなかったのは、その直前に

「上/中の上/中の下/下の上/下の下」の形で質問したからだと考えられる。この区分も完全に

量的な尺度だとはいえないが、量に強引に変換できないわけではない。それゆえ「自分なり

109

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の『上/中の上/中の下/下の上/下の下』をあえて 1-10 になおせばこれかなあ」と好意的?に解

釈して回答してくれた人がかなりいたのだろう。

数値の形だからといって、量的変数だといえるわけではない。質問票の質問文や回答選択

肢が数値の形であっても、回答者はその言語圏や属する集団内で数字がもつ非数量的な意味、

すなわち数.値.というより文字としての意味.............

で回答しうる。それを回避するためには、(面接票

であれば) 質問文や回答選択肢の前に、言葉によって明示的な限定を加える必要がある。そ

れは数字を言葉で定義することにほかならない。どちらにしても、数字の回答を量的変数と

してあつかえるのは、サンプル(回答者)がその数字を量的な変数だと解釈していると事前に

わかっている場合にかぎられる。

言い換えれば、数値の形をした質問や回答選択肢も、多義的であるという点では、言葉を

使ったカテゴリー変数と何らかわりない。むしろ、言葉による限定がない分、もっと大きな

意味のぶれを起こしうる。05 年調査の「1~10」型段階帰属は、そういう根底的な問題をつ

きつけている。

「1~10」尺度はそのまま量的変数になるので、計量手法であつかいやすいし、「中」や「下」

という言葉を経由しない分、結果も解釈しやすいように見える。だが、それは「1-10」尺度

の方がより客観的だから、すなわち数値の方が意味がより自明だからだとかぎらない。数値..

の意味がひどく多義的で曖昧だからこそ..................

、調査設計者や分析者が勝手に解釈しても「意味が

違う」と反論されにくいからでもある。だからこそ、量的変数だと見なしたり、別の言語の

「1-10」に翻訳しても、「意味がずれた」「意味が違う」と批判されにくい 2。もし本当にそう

だとすれば、それは何かを調べたふりをしているだけだと思う。

これに対して「上/中の上/中の下/下の上/下の下」型の階層帰属の質問は、05 年 SSM 調査

の留置A票では問 8、留置B票では問 23 と、別々の質問票のちがう位置におかれた。前と後

に並ぶ質問群も大部分がことなる。にもかかわらず、回答の分布はほぼ一致する。95 年調査

でも二つの質問票が使われ、順番もちがうが、分布の差はあまりない(図 1.6.2、ともに基礎

集計表より、より詳しい分析は前田 1998 の注 3 参照)。

意識関係の質問はキャリーオーヴァー効果など、質問票自体の影響をうけやすいと思われ

がちだが、階層帰属は少なくとも 95 年調査と 05 年調査では質問票上の位置に影響されなか

った。具体的な観測作業のあり方に非依存的という意味では、これはむしろ“客観的な”変数

なのである。

2 いうまでもなく、段階尺度を適当に変換して分布形を変えても問題は解消されない。図 1.6.1 のよう

な分布や、キャリーオーヴァー効果の可能性は、回答の信頼性そのものに関わる。回答の信頼性につ

いては、実際に回答された形で議論するしかない。予備的分析で分布形をチェックするのとも別問題

である。分布形が正規分布と大きくちがっていても、質問票の位置による影響をうけなければ、それ

が何らかの量的尺度の回答である可能性は排除できない。結局、質問票ごとにケース・バイ・ケース

で判断、というより解釈していくしかない。

110

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0

10

20

30

40

50

60

上 中の上 中の下 下の上 下の下

95年A票問34 95年B票問26(1)

05年留置A問8 05年留置B問23

図 1.6.3 質問票・質問順の影響・95 年全体と 05 年全体

1.7

このことは、階層帰属の質問が回答者...........

(.サンプル集団......

).に内在する何かを測定している..............

こと

を示す。「上/中の上/中の下/下の上/下の下」の区分は、研究者にとって中身がまだ十分に特

定されていないとしても、回答者自身の内にあるリアリティであり、固有な意味をもつ 3。少

なくとも「1~10」型段階尺度よりは明確に特定された意味を、サンプル集団、したがってお

そらくは母集団においてももっている。

したがって、階層帰属を量的変数の形であつかう場合も、05 年調査のデータを使う場合は、

「上/中の上/中の下/下の上/下の下」を 1-5 などに変換した方がよい。もちろん、それ以前と

の調査データと比較する場合も、同じやり方をとるべきだろう。たとえ具体的な変換の妥当

性に疑問があるとしても、「1-10」型尺度とちがって、「上/中の上/中の下/下の上/下の下」は

回答者(サンプル集団)に内在する特定の何かをひろっていると考えられるからだ。無意味な、

あるいは複数の意味をもつ量的尺度を使うよりは、その方が科学的であり客観的である。

それを分析者側で例えば「階層帰属意識のデータは、本来階層状況(つまり学歴、職業、所

得など、個人の階層的地位を構成する客観的変数)に影響されるものであり、文字通り「階層

への帰属についての意識」であるはず」(間々田 1998:132)と決めつけるのは、あまりに乱暴

だろう。そもそもデータが本来どうあるかがいえるのなら、調査の必要はない。回答者がい

かなる意味で回答しているかを解釈する作業は、どんな質問文、どんな回答選択肢でも必ず

発生する。社会調査では不可避で不可欠なプロセスである。

3 一次理論の「理論」性も本来そういうものだと私は考えている。整合性が求められるがゆえに、意

味が特定化・対象化されやすい。

111

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人間の...

認識..

や了解は言葉を部品にして構築されている...................

。だから言葉を通じて測定するしか...............

ない..

。言葉にともなう曖昧さや不確定性をなくしたければ、調査によせ何にせよ、認識や了

解をあつかうこと自体を断念するしかない。質問文や回答選択肢を数値の形にしても、その

数値が言葉として意味をもつ可能性は排除できない。その多義性は言葉によって限定 define

するしかなく、その意味で数値も 終的には言葉なのである。

そういう点で、05 年 SSM は階層移動研究をこえて、社会調査とは何かを考える上でも、

とても良い実験になっていると思う。

1.8

階層帰属 status-identification にそれ以上の内容をあらかじめ読み込めば、おそらく過剰な

前提負荷をあたえることになるだろう。だから、あえて階層帰属とは何かときかれれば、こ.

こでいう「階層」感や一次理論を取り込んだ上で自らを位置づけたもの................................

、というしかない。回

答者の意味づけ込みで成立しており、かつその意味づけはある程度特定性と共通性をもつ。

階層帰属はそれ自体が社会的現実だといったのはそういう事態をさす。富永健一の的確な

表現をかりれば、「 同 一 化アイデンティファイ

」とは何より「成員の 照 準 枠フレーム・オヴ・レファレンス

」である(盛山編 2008:199)。

あとは他のどの変数と関係するかを見ながら、その都度その都度、具体的に意味内容を特

定していくしかない。もちろん、調査年をこえて同じ内容を保つ保証はないが、階層をめぐ

る社会的現実の一つだとすれば、データを集め、そのあり方を考える意義は十分ある。

階層帰属が何であるかに関して、SSM 調査のデータだけからでも、以上ぐらいのことはい

える。これから先はかなり思弁 speculation をまじえた推測になる。

「基礎的平等化」(原・盛山 1999)が一定水準以上に達した後は、地位指標とならんで、人々

の考える「階層」のあり方、「階層」感や一次理論も生きる現実の一部になっているのではな

いかと私は考えている。こう考えた場合、階層をめぐって生きられる現実とは、さまざまな.....

地位指標....

と.「階層」感.....

や一次理論が......

からまりあった関数体みたいなもの................

になる。

そして、階層帰属が「階層」感や一次理論を取り込んだ上で自らを位置づけたものだとすれ

ば、階層帰属自体もそういう関数体になっている。正確にいえば、「上」や「中」や「下」と............

いった言葉の意味のふくらみを利用しながら....................

、その関数体を強引に準一次元化したもの..................

が階

層帰属という変数である。

1.1 で述べたように、地位指標を決定変数とする重回帰分析にかけても、階層帰属は弱く

しか説明されない。どんなアルゴリズムで準一次元化がなされるかには、ある程度幅がある

のだろう。だが、関数体であるという点では、どの単独の地位指標よりも、階層をめぐって

生きられる現実に近い。だから、階層帰属は階層の『実態』へと短絡されてしまう。これは

もちろん短絡だが、質的に近いという意味では、必然的な理由のある短絡である。

それに対して、「1-10」尺度は部分的に、さらに個々の回答者依存的という意味では恣意的

112

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に、「上」「中」「下」といった言葉の意味のふくらみを消してしまう。そのため、回答者の内

に対応するリアリティをもたないか、複数のちがったリアリティが混ざり込んでしまう。

関数体である以上、関係のあり方や強さ弱さはかわりうる。時代や属性、個人個人の価値

観によってもちがうだろう。だから、階層帰属と地位指標は弱い紐weak-tieでしか結ばれない。

けれども、具体的なあり方が固定されない弱い紐だからこそ、地位指標や「階層」感をとり

こんだ関数体という性格を強く保持しつづける 4。「弱い紐」理論の有名な言葉を借りれば、

「弱い紐は弱いからこそ強い」。

そう考えれば、階層帰属をめぐる過少と過剰という逆説も論理的に解ける。そして、階層

をめぐって生きられる現実に階層帰属からどう接近していくかも、ある程度見通しがつく。

「弱い紐」は「弱い紐」のままであつかわなければならないのだろう。

1.9

いうまでもなく、こちらの方はかなり強い仮説である。さまざまな調査外の事実を直接想

定しているので、厳密には検証も反証もできない。その点では出来のいい仮説とはいえない

が、ねじれをほどく 初の手がかりにはなる。

意外に聞こえるかもしれないが、現代の階層は「幸福happiness」に似ている。客観的地位

指標と関連する、幸福に感じるかどうかが幸福の一部になるといった点で。ただ、階層の方

が他人との比較を直接ふくむ分、個人の内部でより閉じにくく、実在論的な見方と感覚論的

な見方により強く引き裂かれる 5。文字通り社会的-心理的social psychological変数になる。

その点で階層の方がより強く社会的であり、それゆえより実体的に、つまり「モノのよう

に chez la chose」見える。社会学的にはむしろ、私たちの社会はそのような形で階層をつく

りだす社会だ、といった方が通りよさそうだが(Luhmann 1992=2003:kap1)、現代の階層社会

のあり方を考える上では、その辺りまで視野に入れておく必要があるだろう。

この点で、かつての尾高・安田論争は示唆的である(盛山編 2008:207-251)。尾高邦雄は 55

年 SSM 調査などの回答から、「客観的方法と主観的方法との綜合」として、地位指標と階層

帰属とを合成した新たな階層分類を提案した。これは社会的-心理的変数、すなわち了解それ

自体を階層の一部とする点で、上の仮説と同じである。ただし、この形だと自己参照性がよ

り直接に生じやすいが、そこには気づいていないようだ。

それに対して、安田三郎は階級帰属と階層帰属はそれぞれ特定の地位指標によって決定さ

れるはずだという理論的な立場から、尾高のつくった質問文自体が不適切だとした。感情的

軋轢がめだつ論争の正否はさておき、この安田の批判は、階層帰属がどの地位指標から決定

4 この場合、階層帰属は「階層」感を媒介にして自己参照関数になる可能性がある。これはシステム

論的にも興味深い仮説だが、おいておく。Luhmann (1992=2003)など参照。 5 西欧近代における「幸福」の歴史的・意味論的分析、特に「幸福」論と社会科学の成立の関わりに

ついては遠藤(1992)参照。

113

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されるべきかを天下り的に断定した上で、実際の質問文がそれにあわないことを問題にした

点で、踏み外していると思う。

たとえ分析者側が一定の理論的前提の下でどの地位指標から階層が決定されるべきかを決

められたとしても、回答者側がそれと同じ位置同定 status-identification をやっていないかぎ

り、対応するデータは出現しない。質問文の回答は、具体的な観測依存性などの問題が見出

されないかぎり、それ自体が回答者における何らかの社会的事実を示すものとして尊重すべ

きだ。その点で、天下り的な理論上の厳密性を犠牲にしても「有効な答え」を優先した、言

い換えれば回答者、尾高のいう「調査対象である一般市民」での位置同定のあり方をまず検

出しようとした尾高のやり方は誤りではない。

今日の「階層化」言説にも同じことがいえる。現在のところ、世代間移動や所得分布とい

った地位指標の動向と、人々の語る「階層化」言説の間には、巨大なギャップがある。例え

ば、厚生労働省の所得再分配調査で、再分配後の世帯別等価所得のジニ係数ははっきり増え

たわけではない(3.5 参照)。SSM 調査が測定している世代間移動でも、固定化が進んでいるか

どうかは明確ではない。暫定的な報告でも、95 年と比べて継承性は横ばいか、少し増えた、

少し減ったという結果がそれぞれ出ている。

にもかかわらず、大量の「階層化」言説に見られるように、「階層化が進んだ」という日常

的な感覚はとても強い。「下流化」や「格差社会」の議論をみればよくわかるだろう。

「下流化」や「格差社会」という言葉はすっかり有名になったが、元となった主張は複数

の調査結果をくっつけたり、ごく小規模なデータから大きな結論を導き出したものだ。前者

はデータの恣意的なとりあつかい、とりわけ集計データからの危険な推論(いわゆる「ロビン

ソンの誤謬」)の可能性が高く、後者は系統的あるいは偶然的なデータの歪みが大きい。真面

目に相手をする気になれないのが本音だろう。

だが、「階層化」を語る言説として、「下流化」や「格差社会」は無視できない厚みをもっ

ている。これらが広く受入れられたのは、現在の日本語圏での「階層」感に根ざしているか

らではないか。だとすれば、その「階層」感を介して、SSM データの階層帰属や階層帰属と

地位指標の関係においても、対応する何らかの事態がおきていると考えた方が自然だし、実

際そう解釈できる(3.参照)。

「階層化」言説は真の階層や階層社会の現状を正しく直観したものではない。けれども、

これらが客観的地位指標の動向をどう関係する/しないか、そのしくみを、SSM の内部で部

分的にでも明らかにできれば、階層移動研究自体にも、その調査研究の社会的信頼性や流通

性を確保する上でも、大きな意義があるはずだ。

2 帰属分布の記述統計

114

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2.1

具体的にみてみよう。大きくいえば、05 年の階層帰属には次のような特徴が見られる。

なお、データの集計の際に補正(ウェイトづけ)はしなかった。その理由は第一に、それに

よって系統的な歪みが解消されるとはいえないからだ 6。だとすれば、素データをまず示す必

要がある。第二に、1.で述べたように、系統的な歪みそれ自体にも意味があると考えられる

からだ。DK・NAなどをのぞいたサンプル数は 05 年有職男性 2064、05 年有職女性 2218 にな

ったが、それぞれのクロス集計ではさらに小さくなるものもある。有職男性・女性とも全体

では質問票による分布のちがいはあまりなかった。

1) 05 年有職男性全体で大きな「下」方シフトが起きている。つまり前回 95 年調査に比べて、

より「下」の方向へ分布がかなり変化している。

1-1) 55 年に始まった SSM 調査で、大きな「下」方シフトは初めてである。

1-2) 変動量もかなり大きい。前回調査の有職男性の帰属分布とのずれを Kullback-Leibler 情

報量、正確にはそれを 100 倍した値でみると、05 年-95 年で 2.86 に対して、95 年-85 年 0.1、

85 年-75 年 0.37、75 年-65 年 6.33、65 年-75 年 2.4 である。

1-3) 同じ 05 年の内閣府の国民生活に関する世論調査では、こうした「下」方シフトは見ら

れない。

2) 05 年有職男性の高収入層(上約 1/4)の階層帰属は、それ以外の層よりも相対的に高い。

2-1) これは 85 年以降つづいている、つまり長期的な傾向性である。

2-2) 有職男性全体に対する高収入層の分布のずれは、K-L 情報量でみると、05 年で 10.22、

95 年 7.55、85 年 2.98、75 年 1.31 である。

3) 05 年有職男性の低収入層(下約 1/4)で「下の上」がふえている。05 年男性のより高い収入

層と比べても、そして 95 年の低収入層と比べても多い。

3-1) これは 05 年で初めて観察された。

3-2) 有職男性全体に対する男性低収入層の帰属分布のずれは、K-L 情報量で、05 年 4.72 に

対して、95 年 1.87、85 年 0.88、75 年 0.59 である。

4) 05 年有職男性を 95 年調査と同じ収入額で分けると、550 万円以上の二つの層では帰属分

布がほとんど変わらないのに対して、550 万円未満の二つの層では「下」方シフトする。95

6 もし解消できるなら無作為抽出をする必要はない。もちろん、だからといって補正すべきでないわ

けではない。補正してもしなくても、同じくらいの前提負荷をもちこむことになるというだけだ。具

体的な分析の目的に応じて、補正するかどうかを判断すればよい。

115

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年の同額層に対する各収入層のK-L情報量は、750万以上の層で 0.45、550~750万の層で 1.66、

350~550 万で 2.74、350 万未満で 5.34 である。

5) 05 年有職女性では、有職男性ほどの大きな「下」方シフトは見られない。収入層による乖

離も小さい。

2.2

Kullback-Leibler 情報量について解説しておく。

これは確率変数型の二つの分布のちがいを数値化するもので、理論分布(期待分布)と経験

分布のちがいを測る指標の一つである 7。離散型の場合、次の式で定義される。

Kullback-Leibler 情報量=Σifi(logfi/gi)

(Σifi=Σigi=1で、fが理論分布もしくは基準とする分布)

社会学では、理論分布と経験分布のちがいはいわゆる「カイ χ2 乗値」(=適合度検定の χ2

乗統計量)、すなわち K.Pearson の適合度基準 Σi(fi-gi)2/fi で測ることが多い。χ2 乗値はす

べての方向の乖離に等感応的だが、Kullback-Leibler 情報量は logfi/gi で、Σifi=Σigi=1

という条件がある。それゆえ、二つの分布fとgが一致しない場合、fi(logfi/gi)には正の

項と負の項がそれぞれ一つ以上出てくる。そのため、χ2 乗値に比べてやや“穏やか”な数値に

なる(3.4 参照)。それだけに、さまざまな分布の乖離度(ずれ)を一覧するのには適している。

統計学的には、Kullback-Leibler 情報量は「分布fから測った分布gまでの距離の二乗と考

えることができる」(竹村 1991:295)。必ず非負になる、0 になる場合の条件などの性質につ

いては竹村(1991:294-295)を参照。

直感的にいえば、Kullback-Leibler 情報量は「分布の形が変わった」と感じられる変化に特

に反応する。例えば 1.6 でみた 95 年と 05 年の「1-10」段階帰属のちがいは 0.0177(95 年が基

準)、それに対して階層帰属の質問票による分布のちがいは 95 年の A 票-B票で 0.00232、05

年の A 票-B票で 0.00294 である(ともにA票が基準)。

もちろん、明らかな大きな変化については、χ2 乗値で見ても同じ結論になる。というか、

もしちがっていたら、それが分布の特徴なのか指標値の特性によるのか識別できない。ほぼ

同じ結論になるからこそ、どちらも分布の特性を測る上で自然な指標だといえる。

1.で述べた「弱い紐」の議論につなげていえば、階層帰属意識がさまざまな地位指標や「階

層」感などの関数体を強引に準一次元的に言語化したものだとしたら、Kullback-Leibler 情報

量はその準一次元化された階層帰属の分布をさらに強引に指標化したものになる。単純化の 7 AIC(赤池情報量基準)の導出や、 尤推定量の漸近有効性の解説で出てくる。

116

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単純化であるが、単純化の方向性は似た性質をもっている。だから、慎重な使い方をすれば、

もとの関数体の動向をこの指標量でとらえられる部分もあるのではないか。

いずれにせよ、階層帰属とは何であるかにかかわりなく、地位指標との関連性の移り変わ

りに注意しながら階層帰属のあり方をとらえるためには、多数の階層帰属の分布を一元的に

比較する必要がある。そのためには、分布の形状のちがいを数値化せざるをえず、この指標

はそのかなり自然な手法になる。この点だけを確認しておけば、十分である。

なお Kullback-Leibler 情報量は図 1.6.1 や図 1.6.3 の例でみたように、ごく小さな値になる。

それゆえ、ここでは 100 倍した値を「K-L 情報量」と呼んで、主にそちらを表記する。

3 データの解釈

3.1

では 2.1 の 1)から順に簡単に考えてみよう。

1)は、調査でひろえる有職男性の階層帰属は 95 年と 05 年の間ではっきり変わったことを

示している。具体的にどう変化したかというと、全面的な「下」方シフトが起きた。つまり、

サンプル集団の階層帰属の分布が全体的により「下」の方向へ動いた(図 3.1.1)。

0

10

20

30

40

50

60

上 中の上 中の下 下の上 下の下

55年調査 65年調査 75年調査

85年調査 95年調査 05年調査

図 3.1.1 有職男性の帰属分布の推移・SSM 調査

これは SSM 調査史上、初めての出来事である。階層帰属に関しては、95 年と 05 年の間に

従来にない何かが起きたことになる。変化の量も小さくない(図 3.1.2)。K-L 情報量で約 2.9。

65-75 年に次いで第二位、つまり五回の観測史上で二番目に大きな変化である。2.2 でふれた

117

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質問票によるちがいと考えあわせると、K-L 情報量で 1(Kullback-Leibler 情報量なら 0.01)を

こえるかが、記述統計的には「分布の形が変わった」といえる一つの基準になるようだ。

2.405

6.325

2.861

0.10.372

0

1

2

3

4

5

6

7

55-65年 65-75年 75-85年 85-95年 95-05年

図 3.1.2 前回調査に対する K-L 情報量

有職男性の階層帰属分布は、まず 55 年から 75 年の 20 年間、「上」方に動きつづけ、特に

65 年と 75 年の間で大きく「上」方シフトした。次の 20 年間、75 年から 95 年まではほとん

ど変化せず、安定していた。それが 05 年ではある程度「下」方にシフトした。

この大づかみな推移は面白い。現在語られている「階層化の進展」物語にほぼ対応してい

るからだ。「上」方シフト→階層化が緩んだ、「下」方シフト→階層化が進んだ、に置換すれ

ば、「階層化」言説が語ってきた階層社会の動向そっくりである。

特に 65-75 年の間の変化が大きい。この大きな「上」方シフトが「階層化が緩んだ」と感じ

られたことだとすれば、70 年代に中流化が話題になったのも納得できる。一方、内閣府の国

民生活に関する世論調査は「上/中の上/中の中/中の下/下」で訊ねているが、こちらは 60 年

前半に大きな「上」方シフトが起きている。60-65 年の間に「下」が減り、「中の中」が増え

る。SSM でも 55-65 年に「上」方シフトが見られるが、65-75 年ほどではない。同じ「上」

方シフトでも、65-75 年のは「中の下」という言葉に特に対応するものだったようだ。

「階層化」言説の語る内容は、1.8 で述べたように、地位指標の動向にはあまりよく対応し

ていないが、階層帰属分布の推移にはよく対応する。だとすれば、そこで語られる「階層化」

とは、階層帰属の感じられ方そのものではなかろうか。世の人々は何らかの形で「階層」感

を共有しており、それが一方では帰属分布の「下/上」方シフトを生み出し、もう一方では「階

層化が進んだ/緩んだ」という語りを生み出す。そんな関係があるようだ。

118

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3.2

これが正しいとすれば、人々の「階層」感と世代間移動の数値とのギャップは、マスメデ

ィアがつくった虚構の副産物ではない。SSM 調査のデータでいえば、階層帰属の分布の変化

と世代間移動の数値のギャップにあたる何かである。「階層化」言説と SSM 調査のデータは

そういう形で関係づけられるのではないか。

もちろん、だからといって、階層帰属意識の説明しがたさに変わりはない(意識をそれ以外

の要因で説明しようというのが大胆すぎるのかもしれないが)。だが、これによって曖昧な「階

層」感をもう一段解明 break down できる。例えば、特定の属性にかかわらず一律に「下」方

シフトしたか、それとも一部の人が特に「下」方シフトしたかは、データから判断できる。

そういう作業を通じて、漠然と「階層化が進んでいると感じられている」といわれてきた中

身がもう少し見えてくる。

その点でも、内閣府の調査とのちがいは興味ぶかい。こちらの調査では、05 年SSMのよう

な明確な「下」方シフトは見られない(図 3.2.1) 8。「下」が男性若年層に特に多いわけでもな

い。男性ではむしろ 50 歳~74 歳という中高年に多い。

0

10

20

30

40

50

60

上 中の上 中の中 中の下 下

65年調査 75年調査 85年調査

95年調査 05年調査 05年男性

図 3.2.1 内閣府調査での階層帰属の推移

内閣府の調査でも 05 年は回収率が大きく低下しており、SSM と似た系統的な歪みが発生

したと考えられる(図 3.2.2)。したがって、調査結果のちがいは主に質問文の形式のちがいに

よるものだろう。確実なことをいうには、個票レベルで分析する必要があるが。 8 この調査の属性別集計結果などはhttp://www8.cao.go.jp/survey/h17/h17-life/index.htmlからたどれる。

119

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0

20

40

60

80

100

75年調査 85年調査 95年調査 05年調査

全体 男性 男性20代

男性30代 男性40代 男性50代

図 3.2.2 内閣府調査の回収率の推移

だとすれば、05 年の「下」方シフトは、「中の中」や「中の下」が「下」に変わるような

ものではない 9。それを「下流化」と呼ぶならば、「下流化」は起きていない。確認できるの

は、「中の上」が「中の下」に、「中の下」が「下の上」に移るような変化だ。「下」方シフト

とは「下」になることではない。その点はきちんと押さえておくべきだろう。

3.1 でふれた「上」方シフトの時期のずれもそうだが、階層帰属の推移は言葉の意味をか

なり強く反映する形で起きているようだ。くり返すが、だから虚構的なのではなく、1.7 で

述べたように、そもそもそういう言葉を通じて人々が社会をとらえ、「階層」感を抱いている

のである。

3.3

この「下」方シフトは地位指標とどうかかわっているのか。収入との関連をみてみよう。

2.1 の 2)で述べたように、有職男性を収入によって大きく四分割すると、05 年有職男性の

高収入層(上約 1/4)は相対的に高い階層帰属を答える(図 3.3.1)。

よく知られているように、階層帰属と客観的地位指標の間には面白い関係がある。75 年調

査ではほとんど関連性が見られない。それが 85 年調査以来、だんだん関連を強めていく。吉

川徹によれば、「浮遊する階層帰属」から「多元的階層基準にもとづく階層帰属」へと変わって

9 1.6 で述べたように、内閣府調査の「中の中」には二つの意味が同時にふくまれている可能性がある。

たんなる推測だが、総「中」流社会のような感覚は、この二つの意味、あるいは第三の意味もふくめ

て「中」が考えられたことによるのかもしれない。

120

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いく(吉川 1998 など)。

個人収入との間でも、もちろんそれはあてはまる(図 3.3.2-4)。

0

10

20

30

40

50

60

上 中の上 中の下 下の上 下の下

低収入層 中低収層 中高収層 高収入層

図 3.3.1 05 年有職男性の帰属分布(1)・収入層別

05 年では収入層によって分布の形が大きく違う。75 年の有職男性とは対照的な姿である。

0

10

20

30

40

50

60

上 中の上 中の下 下の上 下の下

低収入層 中低収層 中高収層 高収入層

図 3.3.2 75 年有職男性の帰属分布・収入層別

収入層ごとにみると、高収入層の分布は 85 年では全体分布からまだ大きく離れていない

121

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(図 3.3.3)。K-L 情報量で 2.98 程度だ。大きく乖離するのは 95 年調査からである(図 3.3.4)。

K-L 情報量で 7.55。これが 05 年調査では 10.22 になった。有職男性では、高収入層が全体に

比べて、より大きく「上」方に自分を位置づけるようになってきている。

0

10

20

30

40

50

60

上 中の上 中の下 下の上 下の下

低収入層 中低収層 中高収層 高収入層

図 3.3.3 85 年有職男性の帰属分布・収入層別

0

10

20

30

40

50

60

上 中の上 中の下 下の上 下の下

低収入層 中低収層 中高収層 高収入層

図 3.3.4 95 年有職男性の帰属分布・収入層別

絶対的な「上/下」では、95 年に比べると、高収入層も「下」方シフトしている(K-L 情報

量で 1.41)。つまり、有職男性は全体で絶対的な「下」方シフトを起こしつつ、その内部では

122

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収入の高低による相対的な「上/下」乖離がさらに拡大した。

収入層ごとに 95年の分布からのずれをK-L情報量で測ると、中高収入層(上 1/4~1/2)で 5.83、

中低収入層(上 1/2~3/4)で 3.59、低収入層(下 1/4)で 6.32 と、それぞれかなり「下」方シフト

している。「下」方シフト→「階層化が進んだ」と置換すれば、高収入層以外では全体的に「階

層化が進んだ」と感じられている。言い換えれば、「階層化」の感覚は高収入層とそれ以外で

かなり温度差がある。高収入層ではそれほど「階層化が進んだ」という実感はない。そうい

う形で「階層」感がいわば二重化している。

この「上/下」乖離は全体の絶対的「下」方シフトとちがって、85 年で兆しがみられ、95

年で明確になり、05 年でさらに強まった。長期的な傾向性がはっきり見られる。

3.4

05 年調査で初めて観察された事態がもう一つある。有職男性低収入層の強烈な「下」方シ

フトである。05 年全体と比べて 4.72、95 年低収入層と比べて 6.32 と、共時的にも通時的に

も大きく「下」方に遷移する。

特に通時的な変化量が大きい。低収入層同士で比べると、95 年までは 85-95 年で 0.36、75-85

年では 1.17 と、あまり変わらない。高収入層同士では 95-05 年で「下」方に 1.41、85-95 年

で「上」方に 1.77 とジグザグになる。それゆえ、85-05 年では 0.12、75-85 年では 0.59 と、

30 年間ではじわじわ「上」方にシフトしている。これらと比較すると、05 年の有職男性低収

入層での「下」方シフトの強烈さがあらためて目をひく。

先ほど述べたように、「下」方シフトは上 1/4 の高収入層以外で広く起きている。低収入層

ほどではないが、中高収入層も大きく「下」方シフトしており、中低収入層もかなり「下」

方シフトしている。していないのは高収入層だけだ。その結果、高収入層は全体の分布に比

べて 10.22、低収入層と比べると 29.85 という、とびぬけた「上」方乖離をみせる。

高収入層と低収入層の二つに注目すると、階層帰属分布のずれの推移はかなりきれいな放

物線を描く(図 3.4.1)。χ2 乗値で測っても同じ結果になる(図 3.4.2)。時代的な変遷としては、

むしろはっきりした傾向性が見られるのである。

3.1 では有職男性の階層帰属の推移を「上」方・「下」方シフトとの関係でみたが、収入と

の関連性でいえば、65 年から 75 年の間では関連性を失う方向に変わっている。それが 85 年

以降、関連性をもつ方向に変わり、次第により強くなりつつある。階層帰属意識のしくみを

考える上では、この時代的な傾向性も説明する必要がある。

例えば、盛山が「「中」意識の意味」で述べた階層区分基準の変遷仮説は、両方を説明で

きる。私もかつて「可能性としての中流」「下り坂の錯覚」という仮説を考えたことがある(佐

藤 2000a、佐藤 2002)。05 年の帰属分布もこれで説明できないわけではないが、こんなに大

きな「下」方シフトは予想していなかった。

123

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7.074

17.507

3.9877.657

29.850

0

5

10

15

20

25

30

65年 75年 85年 95年 05年

低収入層:全体 高収入層:全体高収入層:低収入層

図 3.4.1 収入層間の乖離度(K-L 情報量による)

167.695

36.037

15.686 24.386

82.728

0

20

40

60

80

100

120

140

160

180

65年 75年 85年 95年 05年

低収入層:全体 高収入層:全体

高収入層:低収入層

図 3.4.2 収入層間の乖離度(χ2 乗値による)

なお、類似の事象として、世帯収入で四つの収入層別にわけた場合、75-85 年で下 1/4 の低

収入層に「下」方シフトが見られる(間々田 1998)。これは K-L 情報量で測ると 0.94 で、1 を

下回る。05 年男性低収入層の「下」方シフトに比べるとごく小さい。05 年の「下」方シフト

が従来にない出来事なのがよくわかる。

124

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3.5

この中身をもう少しだけつめてみよう。

4)で述べたように、05 年有職男性を 95 年と同じ収入区分で四分割すると、550 万円以上の

二つの層の分布はあまり変わらず、550 万円未満の二つの層で大きく「下」方シフトする。

具体的にいえば、750 万以上の層(05 年では全体の 16.0%)と 550-750 万の層(同 18.3%)は収入

幅との関係では 95年と同じように答えており、350-550万の層(同 33.0%)と 350万未満の層(同

32.6%)は同じ収入幅でも低く答えている(図 3.5.1)。なお、96-05 年の間の日本の物価上昇率は

0.0%なので、名目的に同額なら実質的にも同額になる。

つまり、収入額がもつ意味が収入額の高低によって変わってきている。正確にいえば、95..

年と..

05..

年の間で....

、収入の絶対額のもつ意味が............

、絶対額に....

よって...

ちがう方向へ変化した..........

。間々

田(1998)によれば、75-95 年では実質的な所得階層では「下」方シフトが見られるとのことな

ので、傾向がかわったのかもしれない。②の閾値みたいなしくみが 95-05 年の間に働いた可

能性もあるが、低回収率による歪みの影響ももちろん否定できない。

0

10

20

30

40

50

60

上 中の上 中の下 下の上 下の下

350万未満 350-550万 550-750万 750万以上

図 3.5.1 05 年有職男性の帰属分布(2)・95 年有職男性基準額別

素データでみるかぎり、05 年有職男性のほぼ 1/3 を占める個人収入 550 万以上の人たちで

は、少なくとも階層帰属との関係という意味では、収入額の意味は変化しなかった。単純に

解釈すれば、いわゆる絶対基準説(間々田 1990 参照)があてはまる状態である。

それに対して、ほぼ 2/3 を占める 550 万未満の人たちでは、少なくとも階層帰属との関係

においては収入額の意味が変化した。収入額の意味が「減価」したわけだ。わかりやすくい

えば、収入が高い方は同じ額なら以前と同じ水準だと感じられるに対して、低い方は同じ額

125

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でも同じ水準だと感じられない。その分、当事者においては額の差がより重く、より正確に

いえば、別のより重い意味をくわえる形で、感じられているだろう。

こちらは一見、相対基準説があてはまりそうだが、金額ベースの高低は別の社会的地位に

も関連していて、そちらをめぐる状況が変化した可能性もある。具体的にいえば、収入金額

の大小は例えば企業内の職位や事業の規模と関連する。それは雇用や事業継続の安定性とも

関連するだろう。経済状況が変化して雇用や事業継続が不安定になると、特に職位の低い雇

用者や小規模の事業者の方が影響されやすい。その場合、収入額の低さは金額以外の不利益

を示す代理指標でもある。経済学的にいえば、金額が変化しなくても金額に応じた将来の期

待効用は変化しうるし、その変化量の大小自体が金額に応じて変わりうる。

相対基準説があてはまるには、当事者(回答者)が地位や資源の分布を実際に知っている必

要がある。けれども雇用制度のジェンダー差などを除けば、調査しないかぎり、それはわか

らない。もし現実の全体の分布を知らずに「自分の相対的な地位」を判断しているとすれば、

それは「社会の上 1/3 は○○という財をもっている」みたいな、本人なりの擬似「相対」基準

があるからである。これはむしろ絶対基準説があてはまる。

3.6

「減価」のしくみはまだよくわからないが、もし本当にこういう事態が起きているとすれ

ば、所得分布の意味も変わってくる。よく知られているように、厚生労働省の所得再分配査

によれば、当初等価所得のジニ係数は 96 年から 05 年の間でかなり上昇しているが、再分配

後の等価所得はあまり変化していない(図 3.6.1)。

0.37 0.3760.408 0.419

0.435

0.307 0.310.333 0.322 0.323

0

0.05

0.1

0.15

0.2

0.25

0.3

0.35

0.4

0.45

0.5

1993年 1996年 1999年 2002年 2005年

当初等価所得 再分配後等価所得

図 3.6.1 世帯別所得格差(世帯人数調整後)の動向

126

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もし収入金額の高低に応じて額の意味が「減価」すれば、ジニ係数は全く変化しなくても、

所得の不公平感はより強く感じられる。あるいは、低収入層がふえることでジニ係数が低下

すれば、感じられる不公平感や剥奪感はむしろ強まる。

相対基準説のところで述べたように、所得分布全体の小さな変化が当事者レベルで感知で

きるかどうかは疑わしい。おそらくそこにはマスメディア経由の印象形成や擬似「相対」基

準がかなり関わっているだろうが、それにも上のような「減価」が関係しているかもしれな

い。具体的にいうと、「減価」が「階層化が進んだ」という印象をつくりだし、マスメディア

がそれを後追いする形で、所得分布が大きく開きつつある、あるいは、世代間の継承性が強

まっているかのような題材をとりあげる。そうやって印象が「裏付けられる」、すなわち事後

的に「中身」が備給される。

05 年 SSM 調査が階層に関心をもつ人を選択的にひろったとすれば、特に強く「減価」を

感じる有職男性低収入の人たちとマスメディアの間で、そんな循環的強化過程が生じている

可能性もある。「階層化」言説はそうやって、内容が曖昧なまま、さまざまな断片的事実をと

りこんで自己原因的に形成されていくのかもしれない。

3.7

有職男性の「階層」感が収入差で二重化しているのに対して、5)で述べたように、有職女

性では男性ほどの大きな「下」方シフトは起きていない。収入層による乖離も小さい(図 3.7.1)。

0

10

20

30

40

50

60

上 中の上 中の下 下の上 下の下

低収入層 中低収層 中高収層 高収入層

図 3.7.1 05 年有職女性の帰属分布(1)・収入層別

127

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労働経済学の大竹文雄らが指摘しているように、この 10 年間の経済的な変化、例えば不安

定雇用の増大や賃金の実質的引下げは、男性正社員体制の崩壊という面を強くもっている。

女性労働者の多くに見られる不安定な雇用や低賃金が、男性労働者にもおよんできた。

女性からすれば、それは相対的な格差の縮小でもある。たとえ低収入層では男性と同種の

「減価」が起きているとしても、男性の一部が自分たちと同じ状態になったという意味では、

格差が減少したともいえる。05 年の有職女性で大きな「下」方シフトが見られない理由の一

つは、そんな相対基準説的なしくみが働いたからかもしれない。ただし、ここでの収入額は

個人収入を使っており、現在の日本語圏で「女性の経済状況」といわれているものを必ずし

も代表するわけではない。その点でもさらに検討する必要があるが、「下流化」言説は男性の

階層帰属意識に特異に対応していることは、十分留意すべきだろう。

また、男性との差が縮小したからとって、女性の間での差も縮小するわけではない。有職

男性と同じ金額で分ければ、女性でも「上-下」乖離がはっきり見られる(図 3.7.2)。女性の場

合、個人収入が 650 万以上というのはごく少数なので、当然の結果かもしれないが。

0

10

20

30

40

50

60

上 中の上 中の下 下の上 下の下

300万未満 300-450万 450-650万

650万以上 女性全体

図 3.7.2 05 年有職女性の帰属分布(2)・05 年有職男性基準額別

4 終わりに

以上、簡単に階層帰属の推移を見てきた。

1955 年の第一回 SSM 調査以降、階層帰属の分布は地位指標との関連性を変化させながら、

ときにかなり劇的に「上」「下」してきた。階層帰属そのものには、おそらくかなり多様な要

128

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因がからんでいる(高坂 2000)。その全てを説明しきることはできないし、特に 05 年調査で

は回収率の低下にともなう系統的な歪みも無視しえない。

この論考は、その変化の一面をいくつかの仮定の下に議論したものであり、集計ミスの可

能性もふくめて、他の研究と照合して検証していく必要がある。自分でいうのもなんだが、

サンプルの系統的な歪みを考慮しても、やや出来すぎというか、予定調和的な結果の感も否

めない。

そういう留保つきではあるが、05 年 SSM の階層帰属意識は手ごわいが、興味ぶかい謎

puzzle を提示している。そして、それを考えることは帰属分布と地位指標の弱い紐だけでな

く、人々の「階層」感と調査による測定結果のずれという、階層移動研究の内と外を横断す

る問題にも、一つの見通しをあたえてくれる。

そのくらいのことはいえそうだ。

【文献】

遠藤知巳. 1992.「ディスクールとしての〈幸福〉」『ソシオロゴス』16. 原純輔・盛山和夫. 1999.『社会階層』東京大学出版会. 吉川徹. 1999.「『中』意識の静かな変容」『社会学評論』50(2). ―――. 2006.『学歴と格差・不平等』東京大学出版会. 高坂健次. 2000.「現代日本における「中」意識の意味」『関西学院大学社会学部紀要』86. Luhmann, Niklas. 1992. Die Beobachtung der Moderne, Westdeutscher(→VS). =馬場靖雄訳. 2003. 『近代の

観察』法政大学出版局. 前田忠彦. 1998.「階層帰属意識と生活満足感」間々田孝夫編『現代日本の階層意識』1995 年 SSM 調査

研究会. 間々田孝夫. 1990.「階層帰属意識」原純輔編『現代日本の階層構造2 階層意識の動態』東京大学出

版会. ―――――. 1998.「階層帰属意識の動向」間々田孝夫編『現代日本の階層意識』1995 年 SSM 調査研究

会. 佐々木毅(監修)・高木文哉・吉田貴文・前田和敬・峰久和哲. 2007.『政治を考えたい あなたへの 80

問』朝日新聞社. 尾高邦雄. 1961.「日本の中間階級」『日本労働協会雑誌』22, 盛山編(2008)所収. ――――. 1961.「安田三郎君に答える」『社会学評論』18(2) , 盛山編(2008)所収. 佐藤俊樹. 2000a.『不平等社会日本』中公新書. ――――. 2000b.「一枚の図表から」今田高俊編『リアリティの捉え方』有斐閣. ――――. 2002.『00年代の格差ゲーム』中央公論社. 盛山和夫. 1990.「中意識の意味 階層帰属意識の変化の構造」『理論と方法』5(2). ――――編著. 2008.『リーディングス戦後日本の格差と不平等1 変動する階層構造-1945-1970-』日

本図書センター. 竹村彰通. 1991.『現代数理統計学』創文社. 富永健一. 1957.「現代社会学における階級の理論」『思想』397, 盛山編(2008)所収. 安田三郎. 1967.「階級帰属意識と階級意識」, 盛山編(2008)所収.

129

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130

Semantics of Status-Identification: Weak-Tie between Status-Identification and Social Economical Status

Toshiki Satou

University of Tokyo

Status-identification has been an attractive but nuisance puzzle for Social Stratification and Mobility Survey in Japan. Like other social psychological variables, it cannot be adequately located in quantitative analysis on the one hand, only weakly correlating with social economical status-indices (income, education, job and so on). However, on the other hand, it has been seen as substitution of real social status in popular discourse of “stratification” in Japan.

In this paper, at first, we reconsider the meaning of social psychological variables, especially the status-identification, in sociological and quantitative research from some viewpoints including meta analysis of social stratification, and redefine the status-identification variable. From 1995 and 2005 survey data, it can be shown that the status-identification is not “subjective” but “objective” variable, that is, independent of ways of observation. So it is not psychological but social fact in the meaning by E.Durkheim, a part of the reality of social stratification as same as job, education, income, and so on.

Then, the characteristics of status-identification in 2005 survey are described, giving an overview of the change of their distribution since 1955.

In males on job, 1) identified status strongly shifts for lower. Such down-shift has been not observed before. 2) The divergence of distributions between relative personal income groups, which was discovered in 1995 survey, increases drastically estimated by Kullback-Leibler Information.

3) This down-shift for lower status is distinguished in relative lower income. And 4) at absolute income, higher group (more than 5500,000 yen/year) in 2005 shows the same distribution of identification as in 1995, but middle and lower income group (less than 5500,000 yen) indentifies lower status than in 1995. With relation to status-identification, the value of absolute income is degraded in middle and low income group, in particular.

5) In females on job, weak down-shift of status-identification is observed and the divergence of identification between relative income groups is small.

At last, based on these findings, we make clear what is represented by status-identification . The change of divergence of distributions by personal income since 1965 shows a parabolic curve, whose bottom is at 1975 survey. This curve is correspondent to the content of popular discourse of “stratification”, which regarded Japan as “overall middle-class society” in 1970’s, for example.

Status-identification in Japan is not the reflection or dependent variable of social economic status, but re-orientation of oneself with reference to folk theory of “stratification”. The explosive increase of inequality-consciousness in recent Japan is a result of above degradation, so that it is not in accordance with slow increase of real inequality.

Keywords: down shift for lower status, distribution of status-identification, popular discourse of “stratification”, Kullback-Leibler Information.

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階級・階層意識の計量社会学

吉川 徹

(大阪大学)

【要旨】

階級・階層意識の計量社会学について、日本における研究の軌跡と、その方向性を概観する。

この分野の中核をなしてきたのはクラス・アイデンティフィケーションの客観-主観関係の研究

であった。本論文では、狭義の階層意識研究といわれるこの課題を中心に、2005 年時点での階層

意識の「階層性」の実情を、シンプルな重回帰分析で明らかにする。 その結果こんにちでは、かつて議論されたような階層意識の「階層性」の単純で明瞭な傾向は

確認できず、階層意識の客観-主観関係に多元化あるいは希薄化・拡散というべき状況が示唆さ

れる。この結果が社会意識の階層との連携性の変化を捉えたものなのか、研究者の側の課題設定

や項目設計の不備による「空振り」なのかは、後の時代に慎重に議論されるだろう。 キーワード:クラス・アイデンティフィケーション、客観-主観関係、多元化

1 階級・階層意識とは何か

1.1 主観のなかの社会階層

諸個人がどのような職業に就き、どのような生活機会のもとに暮らしているかということ

をあらわす社会階層の指標は、社会的地位と呼ばれる。人々のものの考え方には、この社会

的地位が高いか低いかということによって濃淡のグラデーションがあることが知られている。

階級・階層構造と社会意識の実態の関係を扱う研究には、かつてはマルクス主義階級論の

学説理解を背景にしつつ、「階級意識研究」という確たる位置づけが与えられていた。しかし

こんにちでは、研究分野を緩やかに包括する「階層意識の研究」という総称が一般に用いら

れるようになっている。ここではひとまず、この本論文の検討対象を「階級・階層意識」と

言い表すこととして、具体的な研究内容、研究方法論、日本における研究動向、そしてこん

にちの計量的実態を順次示すことにする。

階層研究として多くの人が具体的に思い浮かべるのは、社会的地位変数間の関連を実証的

に扱う研究であろう。例えば職業的地位の世代間移動、地位達成過程(教育達成と職業経歴)

の分析などがこれにあたる。社会的属性間のこのような関連構造が、産業社会の重要な骨組

みとなっていることは疑うべくもなく、それゆえに階層研究のなかでは、意識研究は副次的

な課題とみなされている。

131

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一般に階級・階層意識の研究では、社会階層は記述の対象ではなく、説明のための道具的

な概念としての役割を果たす。言い換えれば、階層構造の研究のアウトプットが社会意識論

に適用され、その有効性を試される場が階級・階層意識の研究なのである。

もっとも、意識を対象とする階層研究がこのように周縁に甘んじていることには、測定論

上の事情も関係している。階級・階層意識というものは、人々に漠然と認識されてはいても、

社会調査で問われないかぎり言語化することがほとんどない態度である。それゆえに日常生

活を一瞥しただけでは明らかにしにくい主観のあり方といえる。またそもそも、社会心理学

の測定論で一般に指摘されるとおり、人々の社会認識や判断の適切な要素だけを純粋に抽出

することは容易ではなく、そこには少なからぬ測定誤差や攪乱要因が含まれてしまう。それ

ゆえに、階級・階層意識についての因果構造は、学歴、職業、資産や所得あるいは生年月日

などの名詞や数字で答えられる社会的地位指標の場合のように、明瞭に測り出すことが難し

い。

とはいえ、人々の主観のなかでの社会階層のとらえ方が、社会システムの維持や構造変革

を可能にしていると考えることは、こんにちでも古典理論以来の説得力を保っている。たと

えるならば、階級・階層意識は階層構造を制御する「ソフトウェア」のようなものだという

ことができるだろう。

1.2 階級・階層意識の分類

まず、階級・階層意識研究とはいかなるものなのかをイメージしやすいように、対象とさ

れる社会的態度について、おおまかな分類に沿って具体的に示していこう。

この領域の第一義的な関心は、階級・階層についての人々の認知や評価に向けられてきた。

原純輔(1990)は、これを他の階級・階層意識とは区別して「狭義の階層意識」と呼んでいる。

これは主観的社会階層と言い換えられることもある。そのなかでも中核をなす概念はクラ

ス・アイデンティフィケーション(class identification)である。日本語では回答選択肢のワーデ

ィングによって階級帰属意識、5 段階階層帰属意識、10 段階階層帰属意識などに区別されて

いるが、代表的な質問項目は「かりに現在の日本の社会全体を、このリストにかいてあるよ

うな 5 つの層に分けるとすれば、あなた自身はこのどれに入ると思いますか?」という問い

に対して、「上」、「中の上」、「中の下」、「下の上」、「下の下」という選択肢から回答を求める

設計のものであった1。

クラス・アイデンティフィケーションは、第二次大戦後しばらくは労働者階級のメルクマ

1 階級帰属意識には「資本家階級」、「中産階級」、「労働者階級」という階級カテゴリが与えられていたが、

2005 年 SSM 日本調査では調査票から姿を消している。階層帰属意識についても総務省の「国民生活に関す

る世論調査」や新聞各紙の世論調査にみられるように「中の中」という選択肢を置くかどうかということに

ついての議論がある。また日本国内における時系列比較ではなく、国際比較を視野に入れる場合は、10 段

階の間隔スケールを用いることが好まれる傾向にある。

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ールとしてその意味を読み解かれた。やがて高度経済成長期に入ってからは、「一億総中流」

を測り出す指標としてジャーナリズムをにぎわせた。そして格差・不平等への関心が高まっ

た近年においては、「勝ち組」や「下流」(三浦 2005)などの上下両極の層への帰属感の指標

とみなされるようになっている。このように、クラス・アイデンティフィケーションには、

時代ごとに特有の「読み方」が与えられ、階級・階層意識研究のなかで常に特別な位置が確

保されてきたのである。

ところで、狭義の階層意識=主観的社会階層とはどのような社会意識を指すのかというこ

とについては、安田三郎(1973)、原純輔(1990)、海野道郎(2000)らによって少しずつ異

なる解釈や整理が示されてきた。いま数理社会学における FK モデルの展開(高坂 2000)も見

据えつつ再考するならば、階級・階層意識のこの主要な一角に対して、次のような定義を与

えることができる。

狭義の階層意識=主観的社会階層とは、①質問文が言及していることがら自体が階層にか

んする諸個人の理解・認知・判断・構えなどであるという意味で「階層的」であり、同時に、

②その回答傾向(得点分布)が社会的地位によって異なっているという意味でも「階層的」

であるような社会的態度である。言い換えれば、階層構造が形成要因となり、しかも階層構

造を維持・変革する主観のあり方として、階層構造に対してリフレクション作用(因果の再

帰性)をもつことが、狭義の階層意識=主観的社会階層の重要な要件なのである。

理念上、この要件を満たしうる社会的態度としては、クラス・アイデンティフィケーショ

ンのほかに、階層イメージ(諸個人のもつ階層の全体形状の認知を、あなたは「上」の人は何%、

「中」の人は何%、「下」の人は何%いると思いますか?と尋ねるもの)や、出世意識(「多く

の財産を得ること」、「高い地位につくこと」は、あなたにとって重要ですか?と地位競争へ

のコミットメントの強弱を尋ねるもの)などがある。また生活満足度(well-being)や、所得・消

費という経済活動にかかわる評価(くらしむき、生活水準向上感)もここに含められることが

ある。さらにポスト産業化期に入ってからは、階層概念の拡張や豊かさの多義性への目配り

に呼応して、分配の正義や格差についての意識、公正観、不公平感、学歴観などが、社会的

地位とどのような関係にあるのかが模索されている。こうした社会的態度もやはり、階層に

かんする主観のあり方が階層構造の変革/構造維持を帰結するというリフレクティブな作用

が想定されるものであり、狭義の階層意識の外延に位置している。

さて、階層研究史においてこれらと並んで不可欠のものとみなされてきた社会意識は、政

治意識である。1950 年代の日本社会を想起すればわかるとおり、かつての政党はそれぞれの

階級の利益を明瞭に代表するものであった。こうした階級政党への支持を市民の政治参加の

重要な様態とみる枠組みは、階級政治(class politics)と呼ばれる。その後のいわゆる「55 年体

制」のもとでは、保守―革新の対立軸が鮮明に存在するなかで、中道政党が徐々に台頭しは

じめる。この政党構造の変化は、労働者階級から中間階層へという階層論自体の論点の移り

133

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変わりと見事に軌を一にしている。この時期の政治構造は、地位政治(status politics)という枠

組みで理解されるが、これは旧来の階級政治の階層論型の修正モデルであると理解すること

ができる。政治意識の「階層性」は、これらの学説に由来する研究枠組みなのである。

政治意識とは具体的には、政党支持(投票行動)、政党好感度、保革イデオロギー、政治参

加の志向性、政治的有効性、具体的政策への賛否の意見、権威主義的態度などを指す。加え

て戦後日本社会においては、政治的信念と不可分に重なりあうものとして、天皇制イデオロ

ギー、醇風美俗、旧意識、因習主義などの価値志向の伝統性(裏返せば社会意識の近代化の度

合い)の階層差が論じられてきた。こんにちでもなお、高齢の農業・自営業層の頑強な政治的

保守傾向については、こうした伝統主義、因習主義という理解の様式を適用しうるだろう。

さらに近年では、現代社会をポストモダン社会として把握する一助として、脱階層的とみ

なされる余暇、家族、地域、社会参加活動への志向性や、R. イングルハート(Inglehart 1990)

のいう脱物質主義などの豊かな社会の生活意識の構造の把握が、階級・階層意識の研究の領

域内でなされるようになった。これらも、社会的地位によって主観のあり方や生活の志向性

がどのように異なるのかを記述しようとする研究方針に基づいている。

さらに、意識論という枠をはずし行為や活動にまで視野を広げると、文化資本あるいは階

層ハビトゥス(文化的活動、審美・感性的な特性や嗜好、身体性)、消費、交際、余暇、社会

参加、性別役割分業などのライフスタイルを扱う研究が、階級・階層意識論と重なり合いな

がら隣接している。

以上が階級・階層意識の研究対象のおおまかな全体像である。現状ではこれらは一元的で

焦点の定まった研究分野といえるわけではなく、クラス・アイデンティフィケーションを中

核としつつ、脱階層・脱産業領域の社会意識へと徐々に拡散しつつある研究群とみるべきだ

ろう。

2 階級・階層意識研究の方法論

2.1 客観-主観関係の帰納的研究

いま階層研究の「本体」すなわち社会的地位の関係構造の総体を客観階層と呼ぶとすれば、

階級・階層意識の中核的要素であるクラス・アイデンティフィケーションは、主観階層とし

てこれに対置される。この客観-主観の関係については、以下にみるように 2 つのアプロー

チが存在している。

第 1 は、客観階層と主観階層の関係を測定し、実際の関連構造を確認しようとするもので

ある。言い換えれば、どのような社会的地位にある人々が、いかように階層を認知・評価し

ているのかを実測して、客観階層と主観階層の関係の強さを実証する研究である。こうした

計量的モノグラフ研究を客観-主観関係の帰納的研究と呼ぶことにしよう。

134

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一般に社会意識研究は、社会全体にかかわる文化的な要素の実態を大きな図式で論じるこ

とを目指すものである。階級・階層意識の研究で大規模社会調査データの計量分析が方法と

して選ばれるのは、社会意識の実際の形成過程を社会全体の視野で見通すためである。実証

手続きを経ない社会意識研究は、いかに学説上の意義が大きくとも、あるいはいかにモデル

が洗練されていようとも、議論だけが空転してしまう危険性をはらんでいる。

日本の社会学においては、このような客観-主観関係の計量的モノグラフ研究は、日高六

郎、安田三郎、城戸浩太郎らによる 1950 年代の社会学的社会心理学を嚆矢として、階層研究

「本体」との連携を保ちつつ蓄積を重ねてきた。この流れはまた、1970 年代に直井優らによ

って導入された「職業とパーソナリティ研究」の枠組みと合流してこんにちに通じている。

「職業とパーソナリティ研究」は、アメリカの職業社会学者 M.L. コーンらによる国際

的な社会調査研究プロジェクトである。コーンらは大規模社会調査データの徹底した探索的

計量分析により、現代人のパーソナリティ形成に効力をもつ要因は、突き詰めるならば、職

業に付帯する生活条件であるということを確証した。他方で権威主義的態度、自尊心、不安

感、道徳性、疎外などの、いわゆる広義の社会意識に共通する階層性(階層差)の基軸を探求

している。その結果、客観と主観の双方に共通する階層性の基軸が存在することが経験的に

示される。それは低い階層的地位においては職業(生活)条件およびパーソナリティに同調的

な傾向(conformity)が強く、高い階層的地位においては、職業(生活)条件およびパーソナリテ

ィにセルフ・ディレクション(自己の判断や意思決定の尊重: self-direction)の傾向が強いとい

う分析結果である。そしてコーンらはこの職業条件のセルフ・ディレクションとパーソナリ

ティのセルフ・ディレクションの間には、相互に影響しあう共鳴的な因果関係(reciprocal

effects)があることを強調する(Kohn and Schooler 1983, 吉川編著 2007)。

この研究は、客観―主観関係におけるリフレクティブな作用を、クラス・アイデンティフ

ィケーションを離れて、広義の階層意識研究へと展開した点で、階級・階層意識の研究に進

展をもたらしている。 表 1 階級・階層意識の客観―主観関係の帰納的分類

職業的地位による意識差(単相関)

職業的地位による形成・変容(因果効果)

理論上の客観―主観関係

該当する社会的態度

真の階層意識 〇 〇 ○ クラス・アイデンティフィケーション,生活満足度,自尊感情など

見かけ上の階層意識 〇 × 〇 権威主義的態度,一部の政治意識,環境保護意識,ヘルス・コンシャス,学歴観など

空論上の階層意識 × × ◎ 不公平感,公正観・平等観,階層イメージ,階層重視度など

ところで、客観-主観関係の帰納的研究の立場からは、現代日本の階層調査で尋ねられて

いる階級・階層意識を表 1 に示した 3 つに分類することができる。第 1 は、職業的地位がそ

の社会意識の直接の形成要因になっていることを実証しうる「真の階層意識」、第 2 は、学歴

135

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や経済的な豊かさなど職業的地位以外の要因の助けを借りて客観(職業的地位)-主観(階

級・階層意識)の相関関係が成立している「見かけ上の階層意識」、そして第 3 は、仮説理論

においては関連が示唆されるが、実際は職業的地位による回答傾向の差(有意な単相関)が見

出せない「空論上の階層意識」である。ここで も強調すべき点は、階級・階層意識につい

て研究者がア・プリオリに想定してきた、いかなる社会意識も職業的地位との間に密接な因

果関係をもっている(はずだ)という仮定と、SSM 調査などから得られる計量的な事実の間に

は、少なからぬ齟齬が見出されているということである。

2.2 主観階層のフォーマライズ研究

一方、これとは異なる考え方として、主観階層のフォーマライズ研究、あるいは客観―主

観関係の演繹的研究というべきものがある。この場合フォーマライズとは数式を用いた数理

化に限らず、理論的定式化全般を意味している。

主観階層のフォーマライズ研究の目指すところは、階層構造と階級・階層意識の間に、客

観(社会的地位)―主観(階層についての認知)のリンクと、マクロ(全体社会)とミクロ(個人)の

リンクを重ねあわせ、階層構造の存立メカニズムを一般理論として定式化することにある。

そして確かにクラス・アイデンティフィケーションにかんしては、高坂健次(2000)の FK モデ

ルによってその関係が数理定式化され、議論は有効性の実証の段階へと進んでいる。これに

ついては高坂健次・与謝野有紀(1998)によって的確な解説と方法論上の位置づけがなされて

いるので、本章では略述するにとどめるが、この FK モデルとその応用型・発展型のモデル

群は、客観-主観関係のフォーマライズの唯一の成功例として知られている。

本来このような演繹的な立論は、社会的選択理論や経済学理論との親和性をもつ正義、公

正、ジャスティスの研究(斎藤 1998)において表明されてきたものである。主観階層の演繹的

なフォーマライズ研究は、そうした知見を階級・階層意識の計量的研究に援用することを試

みたものといえる。そこでは、まず上述したクラス・アイデンティフィケーション、続いて

不公平感、資源の配分原理評価などが、主観のなかの階層「メカニズム」であると同定され、

これらの社会的態度の心理内的「メカニズム」を演繹的に扱うことが、階級・階層研究に新

たな可能性を開くものと考えられてきた。

実際、この立場をとる海野道郎は、1995 年 SSM 調査研究における階層意識のあり方を総

括する編書の冒頭において、次のような見解を示している。「およそ階層問題を研究対象とす

るとき、われわれは『公平感と政治意識』の問題を避けて通ることができない。それどころ

か、それは中心的問題のひとつでもある。なぜなら、『社会的資源の不均等分配の問題』であ

る階層問題に対して『社会意識』の側面から接近しようとするとき、公平感と政治意識は階

層問題と密接に関わってくるからである」(海野 2000 p.3)。これは、社会階層の定義は社会

的資源の分配の不平等状態なのだから、公平感と政治意識はこれと「密接に関わってくる」

136

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はずだ、と階層概念の定義からのア・プリオリな演繹的解釈によって「重要性」を導くもの

に他ならない。

ところが同書を読み進めると、計量的な社会調査データで客観―主観関係の実態をみるか

ぎり、大半の公平感と政治意識は、社会階層との実際の関係が希薄な、空論上の階層意識の

典型であることが明らかになる。広く見渡しても、主観階層のフォーマライズをめざす研究

は、いまだ試行錯誤の過程にあり、現時点では社会意識論としてみるべき成果は少ない。こ

の点は後段においてであらためてデータから実証する。

3 階級・階層意識の希薄化と多元化

3.1 理念としての階級意識

続いて研究の歴史を振り返ろう。戦後日本の社会意識論は、こんにち私たちが考える以上

にマルクス主義階級理論と密接な連携を保っていた。それゆえ社会意識論には、階級こそが

社会学の唯一の独立(説明)変数だとみる明確な方向性がアクチュアルな思考として存在して

おり、社会階級と主体性の関連を解明する階級意識研究が重要な論点とされていた。狭義の

戦後がはるか遠くに去った現在では、このような教条的なマルクス主義階級論は名実ともに

過去のものとなりつつある(橋本 1999)。それでもなお、階級・階層意識というトピックを論

じるにあたっては、階級意識という言葉が学説上もっている本来の含意について、一定レベ

ルの理解が必要であろう。

階級研究における意識の重要性は、K.マルクス自身の理論に端を発し、のちに発展的に

解釈されて論じられてきた。そこでは「物質的生活の生産様式が社会的、政治的および精神

的な生活のプロセス一般を制約しているわけである。人間の意識が人間の存在を規定するの

ではない。逆に、人間の社会的存在が人間の意識を規定する」(Marx, 1859 訳 p. 258)という

考え方が、階級意識研究を明示的にも暗示的にも方向付けてきた。

マルクス主義階級論は、社会の静態ではなく社会変革のダイナミズムを論じることに長じ

ている。周知のとおり、そうした変革の主体として動向が注目されるのは労働者階級(プロレ

タリアート)であり、体制維持的な志向をもつ上層や中流層への研究関心はそれほど高くはな

い。それゆえに「階級意識=労働者意識」という踏み込んだ特定がなされ、労働者階級の主

体性の実態把握こそが課題とされてきた(Lukacs 1923)。

そして労働者意識というキーワードのもとに、「われわれ労働者!」としての明確で能動的

な自己規定、共産主義・社会主義イデオロギーに立脚した革新的な政治的志向性、労働から

の疎外感、生産労働における搾取に対しての不満、日常生活の不安、虐げられた日常生活と

結びついた下層サブカルチャーまでの広範な社会意識の諸形態が、階級意識の名で一括して

論じられることになる。実際に 1950 年代の日本では、社会的性格としての「階級意識」は、

137

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労働者階級の主体性の発露を示す日常語としてアクティブであり、会話のはしばしに用いら

れていたという。

3.2 階級帰属意識の実測

それでは実際に計量的実態をみたとき、戦後期の階級意識はどのようなものであったのだ

ろうか。

クラス・アイデンティフィケーションという言葉の事実上の創始者であるアメリカの社会

学者 R.センタースは、「教科書や辞書にいろいろ定義が出ていても、ここではそんなもので

は全く役に立たない。すなわち本質上階級は、人々が誰しも同じように考えているというよ

うな、いわば心理的な構造物で、他の心理学的事実と同様、その基底や性格を推測する前に、

何よりも観察しなければならないからである」(Centers 1949 訳 p.82)として、階級・階層を論

じる際の主観階層の重要性と、意識実態の把握の必要性を主張したことで知られる。

センタース自身が 1945 年のアメリカにおいて行った実査では、労働者(全マニュアル・カ

テゴリ)の 80%が労働者階級への主観的な帰属を表明し、管理職では反対に 75%が上流ある

いは中流階級への帰属を表明していることが判明した(図 1)。このグラフは「労働者か、中流

以上か」というトレード・オフ関係を明瞭に示すものである。ここからは、客観-主観関係

の存在が、機械的な完全対応ではないにせよ、この時代のアメリカ社会ではきわめて明瞭な

実態を伴うものであったことを確認できる。

図1 1945年アメリカの階級帰属意識の客観-主観関係

0%

20%

40%

60%

80%

100%

管理

経営

専門

小企

業主

事務

熟練

マニ

ュア

半熟

練マ

ニュア

非熟

練マ

ニュア

農業

経営

農業

被雇

上流階級

中流階級

労働者階級

下層階級

(Centers 1949 より)

138

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図2 1954年日本の階級帰属意識の客観-主観関係

0%

20%

40%

60%

80%

100%

管理 専門  事務 販売 工員  職人 

資本家

中間階級

労働者階級

(城戸・杉 1954 より)

一方 1950 年代前半の日本社会においては、社会階級にかんする本格的な実査の開始ととも

に階級意識が実測されている。その先駆となった城戸浩太郎・杉政孝(1954)の調査報告にお

いてまず明らかにされたことは、階級帰属意識は客観階級カテゴリと関連してはいるが、そ

れは階級理論から期待されるような歴然とした関係ではないという事実である(図 2)。

ここでは、確かに職人カテゴリの 81%、販売カテゴリの 67%は労働者階級への帰属を表明

し、工員を含めた労働者全体に注目すれば、おおよそ 8 割が労働者階級への帰属を表明して

いることがわかる。ところが、これらを専門・事務カテゴリの傾向と比較したとき、分布傾

向にさしたる差は見出せない。つまり当時の日本社会では、単に有職男性の大半が労働者階

級への帰属を表明しているのであって、これでは階級アイデンティティが階級のメルクマー

ルとなっているとはいえない。

客観的にみると労働者ではありえないはずの管理カテゴリですら、半数近くが労働者階級

への帰属を表明していることについて、この研究論文では次のように理由付けられている。

「センターズ(ママ)が、アメリカで行なった調査結果では、小企業主の労働(者:引用者補)階級へ

の帰属率が僅か 10%であったのと比較すると、大きな差異がある(実際はアメリカ 24%、日本 44%:

引用者補)。これは職人のばあいと同様、管理的職業の大部分が、管理的地位とは名ばかりで、

毎日汗を流して働く点では、工場労働者と何ら変わらない生活様式を送っていると意識して、

それが労働者階級への帰属意識となってあらわれているのであろう」(城戸・杉 1954 p.92)。

139

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さらにこの論文では、政治イデオロギーや因習的(権威主義的)社会意識などの広義の階級・

階層意識が、階級アイデンティティに基づいて形成・変革されるという学説上想定された因

果が、当時の日本社会ではほとんど認められないことも報告されている 2。

こうして客観-主観関係の明瞭性、労働者意識の一元的凝集性という点については、「階級

理論から期待される関係>アメリカ社会の実態>日本社会の実態」という状況にあることが、

社会調査の黎明期においていち早く実証されたのである。

図3 1995年日本の階級帰属意識の客観-主観関係

0%

20%

40%

60%

80%

100%

管理

経営

専門

事務

販売

熟練

マニ

ュア

熟練

マニ

ュア

非熟

練マ

ニュア

ル農

資本家階級

中間階級

労働者階級

(1995 年 SSM 調査男性票)

さて、図 3 は階級帰属意識がSSM調査で 後にたずねられた 1995 年時点での客観-主観関

係(有職男性)である。図 2 においては対象者は明治~大正生まれであったが、図 3 において

は対象者は昭和生まれへと完全に入れ替わっている。それでも職業的地位ごとの回答分布に

大きな変化はみられず、「労働者回答群」の 7 割を攻防のラインとする繊細な階級差が引き続

き持続している。つまり日本人の高率で均質な「労働者意識」は、戦後期でもバブル経済後

でも大きく異ならないのである3。この「安定的」な推移は、階級帰属意識が、この間の産業

2 この問題については、その直後に首都圏の労働者に焦点を絞った調査が実施され(日高・城戸・高橋・綿

貫 1955)、階級帰属意識と、「感性的構成部分」、「原則的状況に関するイデオロギー」、「現状的状況に関す

るイデオロギー」、「俗習としての醇風美俗」、「経営家族主義」、「政治的志向性」などの相互関係が検討され

ている。この実測の結果でも、これらの社会的態度の間には共変動が存在しはするけれども、階級理論から

理念のうえで期待される構造、つまり労働者階級は労働者意識をもち、それゆえに政治的には高い関心をも

ち、伝統的価値体系を否定し、共産主義的イデオロギーを支持するという、社会的性格の一元性は見出され

ず、このような広義の階層意識の基軸の導出は、後のコーンらの多変量解析の出現を待たなければならなか

った。 3 ただし、この間の産業化による階級構成比率の変化には注意を要する。戦後日本の階級帰属意識の分布の

時系列変容については、原純輔・盛山和夫(1999)を参照のこと。 やや蛇足になるが、現代アメリカにおける階級帰属意識の現状を確認しておこう。図脚注 1 は 1998 年の

140

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構造の変化、労働組合の組織率の低下、政党構造の変化などの社会情勢を反映するものでは

ないことを示唆する。それゆえに、階級帰属意識の社会意識の指標としての感度の鈍さが問

題とされることになる(三隅 1990)。

三隅一人が示唆したとおり、図 3 にみられる 20 世紀の終わりの頃の自称「労働者」の多数

回答群(マジョリティ)は、戦後期に「労働者意識」という言葉がもっていたプロレタリアー

トとしての主体性のテンションの持続を意味するものではないだろう。1950 年代の聞き取り

の実査場面で調査対象者が躊躇なく「労働者階級!」と即答する場合と、こんにち悩んだあ

げく与えられた選択肢のなかから「労働者」が選ばれる場合では、たとえ分布傾向が類似し

ていても、主体性としての機能は同じではありえない。しかし社会調査データの回答に、こ

うした人々の能動性や主題への関心の強さの情報を取り込むことは難しい。いずれにせよ労

働者階級への社会全体のまなざしの希薄化にともなって、モノサシとしての階級帰属意識は、

階級障壁や階級対立の実態を反映することがないままに、歴史的使命を終えつつあるといえ

る。

3.3 中意識の増大

周知のとおり、1970 年代になって階層研究の視座は「(労働者)階級」から「(中間)階層」

へと、なし崩しに移り変わっていく。この転機を、今田高俊は次のようにふり返っている。

GSS 調査の結果(有職男性)である。階級分類の方法に若干の違いがあるものの、アメリカでも客観-主観関

係のトレード・オフのグラフの傾斜は徐々になだらかになり、関係の希薄化が進んでいることを指摘できる。

それでも図 3 と比較した場合、アメリカのほうが現代日本社会よりも明瞭な客観-主観関係を示すことが読

みとれる。

図脚注1 1998年アメリカの階級帰属意識の客観―主観関係

0%

20%

40%

60%

80%

100%

経営

・専門

技術

・販売

・事務

サー

ビス

熟練

マニ

ュア

非熟

練マ

ニュア

上流階級

中流階級

労働者階級

下層階級

141

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「高度経済成長による国民の生活水準の上昇は、中間階級を豊かさのシンボルとするのに

好都合であった。また、ホワイトカラー層の増大は中間階級の形成を促進する高い社会移動

率を引き起こすとともに、大衆社会状況をもたらした。さらに、1960 年頃から政党が中間階

級の取り込みを目標とするようになったことで、従来のいわゆる資本家階級と労働者階級の

対立を構図とする階級構造の枠組みが崩れていった。

日本では、高度経済成長期に中流意識の肥大化が顕著に進んだが、それは明瞭な輪郭を持

った『中間階級』の発達を意味するものではなかった。むしろ逆に中(流)意識の肥大化によ

って、かつて下層階級と明確に区別されていた中間階級を実体なきものにし、階級の輪郭を

融解する効果を持った」(今田 2000 pp. 26-27)

戦後日本の意識研究の 大のトピックである「中流論争」の勃興は、同様にクラス・アイ

デンティフィケーションを焦点とし続けながらも、それまでの理解様式であった労働者意識

を、あたかも別の出来事を述べるかのようにリセットしてしまった。この時期、階級・階層

意識の担い手として注目される対象は、労働者階級という実態カテゴリから、中間大衆とい

う潜在分析層へと急速に転換したのである。

中意識の増大とは、階層帰属意識において「中の下」あるいは「中の上」という回答の比

率が、1960~70 年代の高度経済成長と並行して増大していった事実を指している(図 44)。そ

4 階層帰属意識の分布の時系列変容については、きわめて重要な留保事項がある。

SSM 方式とも呼ばれる「上」「中の上」「中の下」「下の上」「下の下」の 5 段階の回答選択肢をもつ項目

は、1955~1995 年 SSM 調査の 5 回の調査においては、面接法で継続してたずねられてきた。本文中に述べ

たとおり、この項目については回答分布の厳密な時系列比較が重要な論点となっていたためである。 そしてこんにち「中の下」が再び増える傾向がみられれば、広く話題を呼んだ「下流社会」への変化の兆

候が SSM 調査でも確認されるということになる。

脚注表 1 SSM 調査各時点におけるクラス・アイデンティフィケーション項目

調査時点 質問順序と調査技法

1955 年 「5 段階」 …間をおいて… 「階級帰属」 「10 段階」なし

1965 年 「5 段階」→「階級帰属」 「10 段階」なし

1975 年 「5 段階」→「階級帰属」 「10 段階」なし

1985 年 「5 段階」→「階級帰属」 …間をおいて… 「10 段階」

1995 年 面接 A 票「5 段階」、面接 B 票は「5 段階」→「10 段階」→「階級帰属」

2005 年 「10 段階」 (「5 段階」は留置票) 「階級帰属」なし

ところが、たいへん残念なことに 2005 年 SSM 日本調査においては、この項目は面接法ではなく、留置自

記式に方法を変更されている。そのため、厳密な時系列比較を継続することができない。確かに 2005 年の

SSM データを一見すると、1995 年よりも「中の上」が減り「中の下」が増えているが、これは調査技法の

変更によるものと見なければならない。

SSM 調査では、半世紀にわたって「5 段階」、「10 段階」、「階級帰属」の 3 つの質問が用いられてきた。

よって、他の類似項目を用いて趨勢を知ることも考えられる。表脚注1は各時点における質問順序をまとめ

たものである。これをみると、現在の主力項目である「10 段階」については、95 年調査では分布に偏りが

生じていることが予想される。なぜならば、同じくクラス・アイデンティフィケーションを問うという性質

上、これらの質問を連続させると、2 問目以降には強いキャリーオーバー効果が発生することが疑われるか

142

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の間階級・階層意識を計量的に記述する研究は、どの社会層が「中」と回答しているのか、

いつごろからどのくらい「中」が増えたのか、何がどのように変化したために「中」が増え

たのかということをめぐって、計量的モノグラフ研究を重ねている。

図4 中意識の増大と飽和

53.4

4.4

17.1

1.1

20.9

0

20

40

60

下の下 下の上 中の下 中の上 上

1955年

1965年

1975年

1985年

1995年

2006年

中流論争のただなかにあって直井道子(1979)は、1975 年SSM調査データの階層帰属意識にお

ける「中」回答カテゴリに注目した分析をもとに、客観的な階層要因(年齢、学歴、従業上の

地位、世帯収入、財産)がいずれも中意識を規定する決定的要因となっていないことを指摘し

た。労働者階級から中間層へと分析の焦点を転換してもなお、客観-主観関係を感度よく見

出すことはできなかったのである 5。

この計量的な実態の指摘は、高度経済成長と中意識の増大という同じ時期に併発した事象

を単純に結び付けて、急激な産業の高度化、所得水準の向上や平準化が階層帰属意識の分布

の変化(いわゆる総中流化)をもたらした(に違いない)、と表面的に理解しようとするジャーナ

リスティックな性向を戒めるものでもあった。計量社会意識論においては、どうしてこの時

らである。つまり直前の「5 段階」の質問における「中の上」カテゴリが、「10 段階」の「6」「7」回答を誘

引する可能性があるのである。実際にこの項目を 1995 年と 2005 年の間で比較すると、分布に不可解な偏り

が見出され、単純な時系列比較を困難にしている。 以上の留保事項をかんがみて、図 4 では SSM データを用いず「2006 年中調オムニバス調査」の結果を時

系列比較のデータとして表示している。調査実施は 2006 年 2 月で有効回答は 1,369 名、回収率は 68.5%で

ある。結果的に、時系列変容の解釈としては、分布傾向の不変状態の継続ということになる。 5 この論文において直井道子自身は「くらしむき」という、主観と客観を結ぶ媒介要因の説明力を示すこと

で、この時代の階層帰属意識の浮動性を暗示している。後になって坂元慶行(1988)は、階層帰属意識と階級

帰属意識それぞれについて、大きい説明力をもつ項目を CATDAP という計量手法で探索している。その結

果 1975 年 SSM 調査データについては、やはり「くらしむき」による説明が 適なものであったことと、

日本のクラス・アイデンティフィケーションは、国際比較の観点からみても、客観階層に直接規定されない

浮動的なものであることを明らかにしている。

143

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期に「一億総中流」が生じたのかという原因はいまだ特定されていないのである。

3.4 階層帰属意識の多元的因果構造

ところで図 4 からは、1955 年から 1975 年までの間に漸次的にみられた「中」回答の比率

増大化が、1975 年から 2006 年までの 30 年間はピタリと停止していることが読みとれる。こ

の分布の不変状態は「中意識の飽和」(原 1988)と呼ばれている。

この「飽和」現象を受けて間々田孝夫(1990; 2000)は、 1955~95 年 SSM 調査データが示す

「中」回答の比率の経時変化を、所得などの経済的要因の趨勢から説明する可能性を模索し

たが、客観的な属性と主観的判断の対応関係の簡明な説明には至らなかった。盛山和夫(1990)

は、この説明不在の状況について、単一の社会的地位が階層帰属意識を明白な対応関係で規

定する(はずだ)という、階級意識研究からの流れを汲む仮説群が、そもそも正鵠を射ていな

いということを、「素朴実在反映論」と呼んで厳しく批判している。そして諸個人が帰属階層

を認知する際の評価基準は、複数の要因から成り立っているもので、しかもその構成は時点

間で変容していくものと考えるべきだとする。客観―主観関係はもっと複合的で多元的なも

のなのではないかという指摘である。

これを受けて吉川徹(1999)は、表面上は分布の変動を示さなくなった 1975 年、85 年、95

年の 3 時点の階層帰属意識の分布の規定因について、中意識のクロス集計表分析を離れ、重

回帰分析(完全逐次パス・モデル)によって探索を試みている。そこで見出された客観-主観

関係の変遷は次のとおりである。

高度経済成長直後、中流論争が繰り広げられていた 1975年時点では、確かに直井道子(1979)

が示したように客観階層の直接の影響力は強くはなく、階層帰属意識は客観階層指標(職業、

学歴、年齢)からうまく説明されない浮遊した状態にあった。しかし安定成長期を経たバブル

経済前夜の 1985 年には、世帯収入が主要な階層評価基準として突出した影響力をもつように

なり、それに伴って客観-主観関係に説明力の回復がみられた。さらにバブル経済後の 1995

年には、世帯収入に加えて、学歴と職業も階層評価基準として機能するようになり、客観階

層の影響力はさらに向上した。この結果は、高度経済成長期に浮遊していた階層帰属意識が、

階層構造が比較的安定していたこの 20 年間に、<熱狂→集約→多元化>という経過で、静か

に規定構造を変容させていたことを物語る。これは、表面上の分布の「飽和」状態からは見

えてこない潜在的な変化を指摘するものであった。

それでは 新の日本人のクラス・アイデンティフィケーションはどのような状況になって

いるのだろうか。表 2 には 2005 年 SSM 日本調査の有職男女の階層帰属意識(5 段階)の規定要

因を、重回帰分析モデルによって解析した結果を示している。決定係数(モデルの説明力)は

R2=.236 であり、後述する他の階層意識やライフスタイル変数の分析結果と見比べると際立

って高い。見かけ上あらわれている相関係数をみると、学歴(教育年数)、職業(現職職業威信

144

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スコア)、所得(世帯年収実額)、生活満足度がそれぞれ高いほど、階層帰属意識が高いという

有意な関係を再確認することができる。

続いてそれぞれの要因の因果効果を標準化偏回帰係数(β)の大きさからみると、階層帰属

意識を規定している真の要因の第 1 は、生活の経済的、あるいは主観的な豊かさ(世帯収入と

生活満足度)であるということがわかる。このように自らの豊かさに立脚して帰属階層の自己

評定をする傾向は、1970 年代から一貫して見出さてきたものである。第 2 に指摘できるのは、

教育年数が長いほど帰属する階層が高いと判断するという学歴の効果である。これは、自ら

の教育達成を学歴ステイタスとみる成熟学歴社会に特有の作用が表出したもので、その効果

はこの 20 年間の日本社会では徐々に強まる傾向にあることが指摘されている(吉川 2006)。

表 2 階層帰属意識の規定要因 (2005 年 SSM 日本調査 男女 )

相関係数 標準化

偏回帰係数 偏回帰係数 標準誤差

(定数) -4.41513 0.134684

年 齢 0.062 ** 0.126 ** 0.00869 0.00118

教育年数 0.234 ** 0.163 ** 0.06393 0.00743

現職職業威信 0.205 ** 0.043 * 0.00444 0.00190

世帯年収 0.336 ** 0.223 ** 0.00046 0.00004

生活満足度 0.360 ** 0.297 ** 0.24381 0.01357

R2=.236 (n=2,917) **は 1%, *は 5%水準で有意な値を示す.

ところが、これらとは対照的に職業威信スコアの直接の因果効果(β=.043)は、SSM 調査の

サンプル数が多いため 5%水準で有意ではあるが、必ずしも大きいものとはいえない。上述

したとおりバブル経済の崩壊後、個人レベルでの経済不安が高まった 1990 年代中頃には、職

業的地位は階層帰属意識の多元的な評価基準の一角を構成しており、職業的地位の重要性が

再び高まるかにみえた。しかしそれはどうやら一時的な現象であり、新しい世紀に入ってか

らの日本社会では、雇用の流動化が顕著になり、むしろ職業的地位の旧来の第一義的な位置

付けが揺さぶられているとされる。そして実際に 新のデータは、もはや職業的地位の階層

評価基準としての作用が強くはないことを示しているのである。このように職業的地位の空

洞化といいうる状況が生じ始め、 新の階層帰属意識の規定要因は、学歴の高さと経済的な

豊かさへの二元化の様相を呈している。

以上のように、クラス・アイデンティフィケーションの計量研究は、階級帰属意識の学説

に基づく客観―主観関係の模索からスタートし、やがて「一億総中流」現象の記述へと展開

し、ポスト産業化期においては素朴実在反映論を離れて多元的で潜在的な因果構造の解明へ

と論点を移してきた。その過程で見出された大まかな傾向の第一は、社会的地位と階級・階

層意識の客観―主観関係の、ア・プリオリな規定に反した希薄(潜在)性である。そして第二

145

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は階級・階層意識を形成する要因の多元化と、それに伴う職業的地位の自明とみられていた

影響力の喪失である。

3.5 一元性の「溶解」

続いて、クラス・アイデンティフィケーション研究の知見を導きの糸としつつ、政治意識、

社会意識の伝統性、権威主義的態度そして公平感の「階層性」について考えていこう。

政治意識の分野において、旧来から階級・階層のヒエラルヒーとの対応関係が語られてき

たのは、保守-革新という基軸である。だが、「55 年体制」の崩壊あるいは政界再編といわ

れた政党構造の変化から知られるとおり、一元的なイデオロギー構造はリアリティを失いつ

つあり、地位政治として理解されてきた政治意識の階層性も徐々に明瞭なものではなくなり

つつある。

実際に蒲島郁夫・竹中佳彦(1996)は、保守-革新のイデオロギーに注目して 1970 年代から

1990 年代までの調査データを分析し、人々の保守か革新かという自己認識が徐々に中間(脱

イデオロギー)化したことと、政治的争点が多元化して、社会的地位による利害対立の図式が

失われていったことを明らかにしている。かれらはこんにちの状況を「イデオロギーの溶解」

と表現する。また 1990 年代以降の政党支持傾向の分析においては、保守政党(自由民主党)

支持か革新政党支持かという分類に加えて、政治的関心の有無が注目されるようになってい

る。これは、無党派層あるいは支持なし層と呼ばれる集団の出現にみられる政治意識の新次

元を説明するものである(片瀬・海野 2000)。また小林久高(2000a, 2000b)は、「参加-委任」

「放任-介入」「平等-不平等」「成長-反成長」という 4 つの志向性の軸を用いて、有権者

が選好するイデオロギーを整理する。こうした多元化は、職業的地位に限らず、年齢、居住

都市規模、学歴などの数多くの要因が政治意識にかかわる現状を受け止めるための構図でも

ある。

他方、社会意識の伝統性と近代性という対立軸は、戦後民主主義の定着の度合いの階級格

差を見出そうとする戦後の研究を端緒とし、1970 年代には、政党支持傾向は伝統的価値と近

代的価値の文化対立によって説明された(綿貫 1976)。しかし 1980 年代に入ってからは、伝

統―近代という社会意識の旧来のカルチュラル・ポリティクスの分析軸が、伝統・工業的価

値と脱工業的価値を両極とする軸へと変化したことが指摘されるようになる(綿貫 1986)。

このことは社会意識の伝統性の階層差という二段構えによって、かろうじて成立していた

階級・階層の社会意識に対する影響力を希薄なものにする変化を伴っている。実際に社会意

識の伝統性と重なりをもつ権威主義的態度についての轟亮(2000)の研究によれば、現代日本

社会における主要論点は、職業階層との関連性から、学校教育経験による社会化効果の検討

に移っており、伝統性の階層差という枠組みが当てはまりにくくなっていることが示唆され

る。

146

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また「国民性調査」の時系列研究からも、伝統-近代の考え方の筋道における 1970 年代後

半の「伝統回帰」と、1980 年代前半におけるこの「考え方の筋道の崩壊」が指摘されている

(林 1988)。この趨勢について坂元慶行は、1973 年以降 1998 年までの日本人の国民性におい

て、伝統回帰現象にみえていたのは「同一空間上の単純な回帰ではなく、いわば螺旋状の回

帰的な変化であり、その動きを旧来の質問が写し取ることができる空間に射影すれば単純な

回帰の如き観を呈するというにすぎない。写し取れない空間が新たな動向の空間である。そ

して、この空間が肥大したのである」(坂元 2000 p.9)と述べて、これを社会意識の多次元化

として理解すべきものとみている。

さらに学歴、所得、家柄、性別などの領域別の不公平感についても、1980 年代にはこれら

が 1 因子構造でまとまっていたのだが、1997 年には全く同じ項目群が階層(市場内)の格差の

認知と正当性にかかわる因子と、階層外(市場外)の格差の認知と正当性にかかわる因子の 2

因子構造になったことが報告されている(斎藤 2002)。

先述した「職業とパーソナリティ」研究(Kohn 1969;Kohn and Schooler 1983)は、これらの

広義の階級・階層意識の客観-主観関係を、一元的な階層差として論じる包括理論である。

しかしこれについても、日本社会においては、セルフ・ディレクションの主軸に従わない、多

元的な社会的態度群が検出され、それらが職業的地位のみならず、学歴や年齢との間に複合

的な因果関係をもつことが指摘されている(吉川 1998)。

以上のとおり、現代日本における広義の階層意識(社会意識)研究の現状に共通するのは、

保守-革新、伝統-近代、権威主義-反権威主義、公平-不公平、同調-セルフ・ディレク

ションというようなシンプル(一元的)な基軸が、いずれも徐々に拡散しつつあるという事実

である。このような多元化の進行は、階層意識の客観-主観関係をよりいっそう希薄なもの

にする。なぜならば従来の一元的な基軸は、つまるところ階層差と対応するわけであり、そ

の「溶解」は階級・階層意識のシンプルな実態が見えにくくなっていることを含意している

からである。

4 こんにちの階級・階層意識

4.1 2005 年 SSM 調査における客観-主観関係

次に実際に調査データを分析して、こんにちの階級・階層意識の実態をみてみよう。ここ

までは階級・階層意識の客観-主観関係について、職業階層(階級)と社会意識の関係を中心

にみてきた。これは職業階層を客観階層の第一義的な要素であるとみる階層研究の共通理解

に従ったものである。

しかし上述したとおり、現代日本の階級・階層意識の現状を把握するためには、学歴や所

得などの他の階層要因も考慮して、階層構造全体と社会意識の多元的総体の間にみられる客

147

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観-主観関係をみることが必要になってくる。以下では、階層的地位の高低が、階級・階層

意識の高低を実際にはどの程度説明しているのか、という社会的態度についての重回帰分析

の結果から全体構造を示していく。

調査データとしては、現代日本の階級・階層意識についての 新の大規模調査である 2005

年 SSM 日本調査を使用する。分析対象サンプルは、職業的地位の影響力が明確にあらわれや

すい有職男性に絞り込む。女性については、同様のモデルによる分析結果を別稿においてす

でに報告しているので適宜参照されたい(吉川 2000)。

ここで検討するのは、図 5 に示した社会的態度に対する重回帰モデルにおける因果的効果

の強さである。この分析では、職業階層の指標として現職の職業威信スコアを用いる。これ

は客観-主観関係の中核に当たる部分の見かけ上の関係をみるためのものである。その大き

さは相関係数の 2 乗値(r2; 単回帰分析の決定係数)によって示すことができる。図 5 において

網掛けされている部分がこの関係である。そのうえで客観-主観関係の総合的因果モデルの

説明力も検討する。これは、職業階層に加え、学歴階層、所得階層、生年世代の 4 要因を投

入した重回帰分析の決定係数(R2)によって示すことができる 6。

年 齢

学 歴

所 得

社会的態度

職 業

図 5 数値の検討に用いた重回帰モデル

一方、目的変数としては、2005 年SSM日本調査で尋ねられている社会的態度項目およびラ

イフスタイル項目で、階級・階層との関連が想定される計 76 項目を分析する。これらはいず

れも、4 件以上の選択肢を与えられた意識や頻度の量的データおよび複数の項目が示す傾向

をとりまとめた因子得点変数である 7。ここでは分析結果を比較することができるように、す

6 これらはいずれも、教育年数、年間世帯収入(ゼロを除く実額)、対象者年齢という量的データに変換して

いる。この重回帰分析は、個々の議論のための 終モデルではなく、全体の傾向を把握するための基本モデ

ルである。そのため、図 6 に示した関連性の数値は通常の分析結果よりも低い値にとどまっている。 7 図 6 のグラフ作成のための分析には、2005 年 SSM 日本調査 終版をサンプル・ウェイト調整を行わずに

用いている。従属変数である社会的態度については、SSM 調査に含まれる主観変数のうち、年金、福祉、

148

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べての従属変数に対して、同一の独立変数を用いた同型の因果モデル(図 5)を用いている。

結果は、図 6 にグラフとして示している 8。それぞれの質問項目は、もとのワーディングがお

およそわかるように省略して表示し、それぞれを「階層帰属意識・学歴観」、「不公平感」、「格

差意識・政策世論」、「政治意識」、「権威主義的態度」、「信頼感」、「性別役割意識」、「余暇活

動・趣味・文化」、「消費活動」、「健康」という 10 個の群におおまかに分類して並べ換えてい

る。

この図からは以下のことが明らかになる。まず濃い色の棒グラフで表示した職業的地位の

説明力(見かけ上の階層性)からみてみよう。ここで客観-主観関係が 4%(r2=.040)を上回るも

のは、クラス・アイデンティフィケーションの 3 項目と文化的活動と消費活動の 4 項目に限

られる。それ以外の項目では、せいぜい 2%( r2=.020)程度の「階層性」しか検出できていな

いのである。この分析結果は、職業的地位の高低と、階級・階層意識の関係が、こんにちで

は一部の例外を除くと、目につくほどの重大さではないということをあらためて確認するも

のである9。

続いて、階層要因の総合的な説明力(R2)を示す棒グラフのほうに目を転じよう。ここでも

10%(R2=.100)の説明力がみられるのは、やはりクラス・アイデンティフィケーションと文化

的活動、消費活動の一部に限られている。こうして分析結果をみると、クラス・アイデンテ

ィフィケーションに客観-主観関係のプロトタイプとして、他とは段違いの関心が振り向け

られてきたことの妥当性をあらためて知ることができる。そのうえで新しい階層差として注

目すべき方向性は、いまや、旧来の広義の階層意識ではなく、消費や余暇における文化的活

動にあるのではないかということが示唆される。

次に説明力 5%(R2=.050)以上という水準でみると、高学歴志向、性別・民族・国籍などに

よる不公平認知、格差についての賛否を問う意識、投票による政治参加、文化的活動、職に

かんする消費行動などがこの水準を超え、これらについて社会意識の「階層性」を論じるた

めの素地をみとめることができる。なお、これらのうちの高学歴志向にかんしては、職業的

地位ではなく、学歴との間に再帰的な関係(本人の学歴達成→学歴観→次世代の学歴)のルー

プが成立していることがすでに指摘されている(吉川 2006)。

ところがその他の多くの社会的態度、とりわけ広義の階層意識として論じられてきたもの

については、ここで説明に用いた 4 つの階層要因から説明されない変動が 97~99%と、希薄

な因果関係しか見出すことができない。荒削りな基本モデルを用いた分析ではあるけれども、

就労意識と職業生活、家計に関する項目、および他の分析項目と内容の重複するものなどいくつかをグラフ

から除外している。また、政党支持傾向については、各政党の好感度を用いている。 8 通常、重回帰分析では、回帰係数、標準化偏回帰係数、説明変数間の相関係数、決定係数およびそれらの

有意性検定について、細かい検討がなされるべきである。しかし図 6 の分析結果の場合は、本論文の紙幅内

ですべての正負、大小、有意性について論じることはできない。これらについては、「補遺」に参考となる

数値をまとめて表示しているので、適宜参照されたい。 9 これについては、職業階層(階級)の分析指標に改善の余地を求めることも考えられる。

149

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私たちはこの希薄な「階層性」を現代日本社会の現実として受け止めなければならない。そ

のうえで、以下では、すでに検討したクラス・アイデンティフィケーション以外のものにつ

いて、項目群ごとに客観-主観関係を確認しよう。

まず、不公平感を見るとここでは次の 2 点を確認できる。第 1 はこの項目群の客観階層と

の関係が総じて希薄なものであるということである。第 2 はいわゆる領域別不公平感におい

て、年齢、学歴、職業、所得、家柄、資産などの階層へのリフレクションを想定しうるトピ

ックについての不公平感では、客観―主観関係がたいへん希薄であるのに対して、それらを

はずれた性別、民族国籍という階層以外のトピックについての不公平感においては、わずか

ながらも「階層性」が検出されているということである 10。

また格差意識・政策世論および信頼感として想定されてきた項目群においても、客観階層

4 要因からは、わずか 1~2%という希薄な客観―主観関係しか検出されていないものが散見

される。不公平感や格差意識はいずれも客観階層と密接にかかわることを予想されるがゆえ

に、SSM 調査に採用されている項目である。これらが空論上の階層意識にすぎないことは、

一般には思いがけない結果である。

もっとも、不公平感をはじめとする狭義の階層帰属意識の理念上の拡張概念が、客観階層

と実際にはかかわりをもたないことは、海野道郎・斎藤友里子(1990)の研究以来、日本の主

観階層のフォーマライズ研究の「躓きの石」として、この分野ではすでに広く知られている。

それでも現在の正義、公正、ジャスティスの経験理論は、不公平な階層的位置にあるはずの、、、、、、、、、、、、、、、

人たちが不公平感を抱いていない、、、、、、、、、、、、、、、

、という「不可思議」な事実について原因の検討を続けて

いるのである 11。

10 これらは斎藤友里子(2002)が不公平感の「市場外格差の因子」と呼ぶ次元と重なっている。 11 例えば斎藤友里子は、実証分析の結果を受けて次のように主張する。 「少なくとも明らかなのは、公平感と階層的地位との間に、利害関心から説明できるような単純な関連が存

在しない以上、公平評価のメカニズムが直接探索されなければならない、ということである」(斉藤 1994 p. 149)

また織田輝哉・阿部晃士は「不公平感の説明モデル」として以下のような認知心理学の仮説を展開するが、

その直後に分析対象データの限界が述べている。 「不公平感は公平性の基準と現実との比較によって決まる。その際、公平基準は問題となっている状況の種

類や状況規定の仕方によって多様であり、それは評価者の属性によっても影響を受ける。また、現実も、客

観的事実のみで決まるのではなく、評価者が現実をどう認識するのかによっても規定される。そして、基準

と現実の比較の結果にどのように『不公平感』を割り振るかについても、個人差や状況による違いがあり得

る。さらに…(後略)…しかしながら、95 年 SSM 調査が用意した質問では、このような不公平感の生成メ

カニズム全体を検証することができない」(織田・阿部 2000 pp. 112-113)。

150

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図6-1 社会意識の階層性(1)

0.041

0.080

0.024

0.047

0.018

0.020

0.026

0.023

0.020

0.021

0.050

0.070

0.094

0.040

0.032

0.045

0.054

0.024

0.045

0.037

0.081

0.038

0.019

0.086

0.007

0.004

0.009

0.151

0.158

0.150

0.002

0.007

0.007

0.010

0.012

0.012

0.012

0.014

0.00 0.02 0.04 0.06 0.08 0.10 0.12 0.14 0.16

階層帰属意識(5段階)

階層帰属意識(10段階)

現在のくらしむき

生活全般の満足度

子どもにはできるだけ高い教育

出身校によって人生が決まる

不公平感因子得点変数

年齢による不公平

学歴による不公平

職業による不公平

家柄による不公平

所得による不公平

資産による不公平

性別による不公平

民族国籍による不公平

格差社会肯定因子得点変数

高地位や収入を得る機会は豊富

高地位や収入を得る競争は納得がいく

格差をなくしていくことが大切だ

少々がんばっても社会はよくならない

平等な競争で貧富の差がつくのは妥当

格差が広がってもかまわない

努力をしていれば成果が得られる

大学教育機会に貧富の差はない

いまの日本は収入格差が大きすぎる

増税してでも、福祉充実すべき

生活困窮層は国が面倒を見るべき

個人の自由が守られることが重要

経済に対する政府の規制は少ない方がよい

公的サービスは民間に任せるほうがよい

保守支持(好感)因子得点変数

自民支持(好感)度

公明支持(好感)度

民主支持(好感)度

社民支持(好感)度

共産支持(好感)度

革新支持(好感)因子

選挙の投票への参加頻度

階層4要因の説明力

職業的地位の説明力

151

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図6-2 社会意識の階層性(2)

0.033

0.023

0.038

0.034

0.045

0.023

0.017

0.040

0.053

0.045

0.075

0.020

0.073

0.090

0.118

0.080

0.082

0.092

0.043

0.086

0.057

0.042

0.135

0.130

0.009

0.003

0.001

0.005

0.004

0.009

0.005

0.010

0.010

0.012

0.015

0.014

0.00 0.02 0.04 0.06 0.08 0.10 0.12 0.14 0.16

権威主義的態度因子得点変数

以前からなされてきた方法を守る

伝統や慣習に従う

違う考えをもつ人がいることは望ましい

指導者や専門家に頼るべきだ

議論より有能な指導者に政治をまかせる

権威のある人々にはつねに敬意

自分よりも年上の人に敬意

子どもは親に素直にしたがうべき

たいていの人は信用できる

人は自分のことだけを考えている

いざというとき頼りになるのは血縁関係

人は自分のために他人を利用する

性別役割分業因子得点変数

性別役割分業意識

男女は違った育て方

家事育児は女性

正統文化活動因子得点変数

大衆文化活動因子得点変数

クラシックのコンサートへ行く

美術館・博物館に行く

カラオケをする

スポーツをする

図書館に行く

小説や歴史などの本を読む

クレジット・カード゙で買い物

インターネットで買い物や予約

雑誌や本で取り上げられた店に行く

国産の牛肉や野菜を選んで買う

無農薬・有機野菜、無添加の食品購入

クリーニング゙店を利用

通信販売のカタログで買い物

買ったそうざいで夕食をすませる

健康に気をつけて食事をしている

健康のために運動をしている

タバコをよく吸う

お酒をよく飲む

現在の健康状態

0.175

0.195

152

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すでに述べたとおり、社会調査データの計量分析で測られる社会意識には、判断基準、行

動原則、規範と呼びうるような強固な心理内の構造物であることを必ずしも期待できない。

それゆえ演繹的推論のための根拠としてこれらのうつろいやすい心理状態を用いようとする

と、関連構造の脆弱さ、解釈の多義性という足場の不安定さを露呈してしまう。不公平感の

客観―主観関係の不在の、、、

構造、、

解明、、

の演繹的作業が、いまだに確たる結論には至っていないの

は、本来は実験室実験などを経て構築されるべき繊細な心理内的過程の理論仮説を、一足飛

びに計量社会意識論に適用しようとした手続きの拙速さによるのかもしれない。

一方、この分析結果をモノグラフ的に読むことに徹するならば、現代の複雑化した階層状

況にあっては、どのような階層的位置にある人が、何についてどれくらい不公平と感じたり、

格差を抱いたりしているかを特定することは難しい、ということ以上の何物でもない。この

実証的記述は、どのような階級にある人が、どのような階級帰属意識をもっているのかをシ

ンプルに特定することは難しいという、前述したマルクス主義の客観-主観関係理解に対す

るデータに基づく回答と相同的である。

他方、政治意識と権威主義的態度についてみると、従来の広義の階層意識の根幹を成して

いた、保守-革新、伝統-近代の意識軸には、こんにちでは以前のような「階層性」を期待

することができないことが明らかになる。

これに対して、新しく現れたトレンドは、「美術館や博物館に行く」、「小説や歴史などの本

を読む」というような正統的文化活動、クレジット・カードやインターネットを用いた購買、

流行や健康、食品にかんする情報への関心に階層性が見出されるということである。そして、

これらについては、職業階層の単独の効果ではなく、学歴階層と経済階層の効果を複合した

多元的な因果関係が成立していることも新しい特徴といえる。今後これらの新しい次元に注

目していくことが重要になると思われるが、これらは厳密にいえば、諸個人の日常の活動そ

のものであり、「人々の主観のあり方」という階級・階層意識の定義を外れてしまうことにな

る。

4.2 新しい階層意識研究のために

本論文では階級・階層意識の研究の全体像をみてきたが、その展望は、必ずしも明るいも

のとはいえない。いまや、この分野の中核であるクラス・アイデンティフィケーションでは、

往時の「われわれ労働者階級」への帰属意識ではなく、どちらかといえば「中」という受け

身の自己評価の繊細な基準が探られている。また政治意識研究において「階層性」が検討さ

れるのは、かつての保革イデオロギーではなく、無党派層の政治参加の志向性の強弱である。

そして、マルクス主義階級論の論旨を換骨奪胎した 後のエッセンスである不公平感にも、

やはり期待された「階層性」と「再帰」のカラクリは見出されない。

そのようななかで、むしろ文化的活動や消費行動、学歴観、一部の格差意識などで「階層

153

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性」が確認できることは、現代日本社会に特有の方向性を見出す新しい兆しといえるかもし

れない。

翻って階層理論の「本体」をみると、現代日本社会の階級・階層については「豊かさの中

の不平等」(原・盛山 1999)ということがいわれている。これは戦後の右肩上がりの経済成長

が終焉した後の階層状況を、基礎財の平等化が達成された豊かな社会とみる社会認識であり、

こんにちの階層論の視点は、「上級財」獲得機会の差異をみるものへと変遷していくとされる。

ここで注目されているような微細な豊かさの差異が論点となるならば、階級・階層意識の客

観-主観関係は今まで以上にデリケートな階層差を扱っていくことになるだろう。

他方、格差・不平等論の名のもとに蓄積され始めた新しい世紀の階層論では、ホワイトカ

ラー雇用者上層の生活機会の不平等(佐藤 2000)や下層における希望の喪失(山田 2004)が指

摘されている。本章では、かつての日本社会における労働者階級への関心が、やがて中間層

へと移動した趨勢をみたが、いまや階層的不平等の「担い手」は、その中間層を上層と下層

へと再び分離させていく兆しをみせつつあるとされるのである。

階級・階層意識の計量社会学が、客観―主観関係のシンプルな説明図式をゆっくりと手放

しつつあることには、一方で社会意識の側の多元化が作用しており、他方ではここで挙げた

ような階層構造の側の複雑化や流動化が同時に作用している。こんにちの階級・階層意識研

究は、社会意識の大きな変化の潮流と、階層研究の「本体」が示す変動趨勢の双方のダイナ

ミズムのもと、新たな論点を模索している状況にあるといえるだろう。

154

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155

補遺 2005 年 SSM 日本調査の意識項目の階層性

基礎分析結果一覧(重回帰分析)

本論文では、2005 年 SSM 日本調査の面接票、留置 A 票、留置 B 票の質問項目のうち、間

隔尺度(に準ずる)とみなされる意識項目とライフスタイル項目を従属変数として、図 5 に示

した年齢、学歴、職業、収入の 4 つの独立変数を投入した OLS 重回帰モデルが一貫して用い

られている。それぞれの項目は、ワーディングと指標の正負が対応するように、すべて大小

を反転して分析した。さらに権威主義的態度や公平感など、代表的な質問項目バッテリーに

ついては、 小2乗法による主成分分析で因子得点変数を算出して従属変数とした。また留

置 A 票・B 票に共通して含まれている項目はすべて統合して分析した。

この補遺では、これらすべての従属変数について、男性有職者、女性有職者および男女有

職者というサブ・サンプルごとに全ての重回帰分析の結果を示す。以下の表内には、ピアソ

ンの積率相関係数、重回帰分析の決定係数、標準化偏回帰係数、およびサンプル数を表示し

ている。R2 は調整後の値を用い、*は 5%、**は 1%水準で有意な値を示している。

なお分析に際しては、サンプル・ウェイトを調整している。そのため男女有職者を合わせ

た分析と、男性のみ、女性のみの分析ではサンプル数が一致しない場合がある。また、図 6

のグラフに用いた数値と、男性のみの分析結果を比較したときも、サンプル・ウェイト調整

の有無により、若干のずれが生じている。以上の点から、この付表は分析結果の目安として

参照するにとどめ、必要に応じてデータの再分析をすることをお薦めしたい。

質問項目は、面接票項目、AB 共通項目、A 票項目、B 票項目、因子得点変数の順で計 111

×3 個の表によって結果を以下に示している。変数名は、項目番号とおおよそのワーディン

グがわかる略称で示している。

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面接票問4a.現在の仕事の内容満足

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) 0.057 ** 0.075 **

生年 0.069 ** 0.077 ** 0.086 ** 0.080 ** 0.046 0.086 **

学歴(教育年数) 0.055 ** 0.037 0.056 * 0.029 0.079 * 0.063 **

職業(威信スコア) 0.096 ** 0.074 ** 0.100 ** 0.060 * 0.115 ** 0.096 **

世帯年収 0.091 ** 0.051 * 0.104 ** 0.067 * 0.075 * 0.020 **

モデルの説明力 R2=.022 ** R2=.019 ** R2=.018 n=2634  n=1595  n=1039

面接票問4b.現在の仕事による収入満足

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) 0.072 ** 0.086 **

生年 -0.025 -0.028 ** -0.009 -0.023 -0.045 -0.050

学歴(教育年数) 0.089 ** 0.028 0.111 ** 0.039 0.076 * -0.004

職業(威信スコア) 0.120 ** 0.064 0.151 ** 0.080 ** 0.098 ** 0.030

世帯年収 0.182 ** 0.157 ** 0.185 ** 0.150 ** 0.182 ** 0.175 **

モデルの説明力 R2=.044 ** R2=.042 ** R2=.033 **

 n=2629  n=1592  n=1037

面接票問5a.仕事の内容やペースを決めることができる

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) -0.044 * -0.027

生年 0.157 ** 0.156 ** 0.188 ** 0.180 ** 0.109 ** 0.134 **

学歴(教育年数) 0.012 0.001 0.000 -0.006 0.020 0.019

職業(威信スコア) 0.093 ** 0.081 ** 0.085 ** 0.066 * 0.093 ** 0.101 **

世帯年収 0.077 ** 0.034 0.080 ** 0.039 0.070 * 0.024

モデルの説明力 R2=.034 ** R2=.040 ** R2=.022 **

 n=2625  n=1587  n=1038

面接票問5b.自分の意見を反映させることができる

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) -0.154 ** -0.130 **

生年 0.159 ** 0.154 ** 0.183 ** 0.172 ** 0.118 ** 0.143 **

学歴(教育年数) 0.065 ** 0.014 0.052 * 0.019 0.041 0.010

職業(威信スコア) 0.164 ** 0.112 ** 0.146 ** 0.097 ** 0.147 ** 0.139 **

世帯年収 0.148 ** 0.090 ** 0.151 ** 0.092 ** 0.144 ** 0.086 *

モデルの説明力 R2=.075 ** R2=.058 ** R2=.046 **

 n=2609  n=1581  n=1028

面接票問5c.個人的な理由で休みや早退ができる

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) 0.081 ** 0.080 **

生年 0.157 ** 0.152 ** 0.201 ** 0.194 ** 0.092 ** 0.083 *

学歴(教育年数) -0.066 ** -0.016 -0.063 * -0.028 -0.043 0.006

職業(威信スコア) -0.039 * -0.025 -0.012 -0.020 -0.060 -0.055

世帯年収 0.026 0.027 0.039 0.031 0.008 0.021

モデルの説明力 R2=.031 ** R2=.040 ** R2=.007 *

 n=2615  n=1583  n=1032

面接票問5d.自分の能力が発揮できる

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) -0.082 ** -0.063 **

生年 0.124 ** 0.112 ** 0.128 ** 0.108 ** 0.112 ** 0.143 **

学歴(教育年数) 0.014 -0.041 -0.012 -0.055 0.035 -0.002 **

職業(威信スコア) 0.143 ** 0.139 ** 0.114 ** 0.115 ** 0.171 ** 0.186 **

世帯年収 0.098 ** 0.047 * 0.091 ** 0.050 0.105 ** 0.031 **

モデルの説明力 R2=.041 ** R2=.030 ** R2=.047 **

 n=2572  n=1555  n=1017

面接票問5e.自分の経験を生かせる

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) -0.150 ** -0.124 **

生年 0.181 ** 0.165 ** 0.203 ** 0.170 ** 0.149 ** 0.204 **

学歴(教育年数) 0.002 -0.076 ** -0.062 * -0.125 ** 0.061 0.026 **

職業(威信スコア) 0.199 ** 0.210 ** 0.158 ** 0.195 ** 0.223 ** 0.247 **

世帯年収 0.100 ** 0.028 0.092 ** 0.029 0.108 ** 0.008 **

モデルの説明力 R2=.091 ** R2=.073 ** R2=.084 **

 n=2589  n=1565  n=1024

相関係数 標準偏回帰係数相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

相関係数 標準偏回帰係数

男女有職者 男性有職者 女性有職者

相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

男女有職者 男性有職者 女性有職者相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

女性有職者

相関係数 標準偏回帰係数

女性有職者相関係数 標準偏回帰係数

女性有職者相関係数 標準偏回帰係数

女性有職者

相関係数女性有職者男性有職者男女有職者

標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

男女有職者 男性有職者

男女有職者 男性有職者

男女有職者 男性有職者

相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

相関係数 標準偏回帰係数男女有職者 男性有職者

相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

156

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面接票問5f.仕事と家庭を両立できる

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) 0.141 ** 0.140 **

生年 0.252 ** 0.257 ** 0.265 ** 0.264 ** 0.251 ** 0.254 **

学歴(教育年数) -0.089 ** 0.020 -0.071 ** -0.001 -0.077 * 0.067

職業(威信スコア) -0.095 ** -0.082 ** -0.049 -0.070 * -0.133 ** -0.116 **

世帯年収 0.012 0.020 0.030 0.030 -0.009 0.002

モデルの説明力 R2=.089 ** R2=.072 ** R2=.070 **

 n=2582  n=1556  n=1026

面接票問29.生活満足度

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) 0.064 ** 0.082 **

生年 -0.012 -0.008 0.006 0.002 -0.034 -0.015

学歴(教育年数) 0.113 ** 0.056 * 0.120 ** 0.075 ** 0.126 ** 0.021

職業(威信スコア) 0.130 ** 0.058 ** 0.118 ** 0.032 0.186 ** 0.109 **

世帯年収 0.196 ** 0.164 ** 0.175 ** 0.147 ** 0.232 ** 0.190 **

モデルの説明力 R2=.050 ** R2=.036 ** R2=.064 **

 n=2639  n=1595  n=1044

面接票問30. 10段階階層帰属意識

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) 0.042 * 0.080 **

生年 0.070 ** 0.088 ** 0.127 ** 0.125 ** -0.015 0.029

学歴(教育年数) 0.209 ** 0.144 ** 0.224 ** 0.160 ** 0.205 ** 0.109 **

職業(威信スコア) 0.221 ** 0.082 ** 0.241 ** 0.075 ** 0.213 ** 0.081 *

世帯年収 0.320 ** 0.251 ** 0.321 ** 0.246 ** 0.321 ** 0.262 **

モデルの説明力 R2=.136 ** R2=.146 ** R2=.120 **

 n=2599  n=1567  n=1032

面接票問31.暮らし向き

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) 0.023 0.045 *

生年 0.009 -0.006 0.028 -0.004 -0.019 -0.012

学歴(教育年数) 0.154 ** 0.041 0.156 ** 0.041 0.166 ** 0.038

職業(威信スコア) 0.216 ** 0.084 ** 0.237 ** 0.102 ** 0.196 ** 0.051

世帯年収 0.378 ** 0.340 ** 0.366 ** 0.321 ** 0.396 ** 0.369 **

モデルの説明力 R2=.152 ** R2=.146 ** R2=.159 **

 n=2637  n=1595  n=1042

留置AB 階層帰属意識(5段階)

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) 0.032 0.072 **

生年 0.076 ** 0.091 ** 0.094 ** 0.091 ** 0.050 0.104 **

学歴(教育年数) 0.248 ** 0.186 ** 0.251 ** 0.185 ** 0.267 ** 0.192 **

職業(威信スコア) 0.234 ** 0.070 ** 0.244 ** 0.072 * 0.239 ** 0.073 *

世帯年収 0.337 ** 0.262 ** 0.311 ** 0.236 ** 0.380 ** 0.294 **

モデルの説明力 R2=.158 ** R2=.144 ** R2=.182 **

 n=2383  n=1475  n=908

留置AB 自民好感度

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) -0.003 -0.003

生年 0.093 ** 0.082 ** 0.077 ** 0.065 * 0.120 ** 0.112 **

学歴(教育年数) -0.030 -0.030 -0.029 -0.043 -0.034 -0.002

職業(威信スコア) 0.020 0.016 0.039 0.045 -0.018 -0.029

世帯年収 0.063 ** 0.059 * 0.042 0.029 0.097 ** 0.105 **

モデルの説明力 R2=.010 ** R2=.006 * R2=.019 **

 n=2123  n=1353  n=771

留置AB 公明好感度

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) 0.067 ** 0.051 *

生年 -0.062 ** -0.089 ** -0.045 -0.060 * -0.087 * -0.139 **

学歴(教育年数) -0.098 ** -0.110 ** -0.103 ** -0.098 ** -0.067 -0.143 **

職業(威信スコア) -0.060 ** -0.002 -0.079 ** -0.027 0.005 0.038

世帯年収 -0.043 * -0.012 -0.059 -0.021 -0.020 0.006

モデルの説明力 R2=.018 ** R2=.013 ** R2=.016 **

 n=2042  n=1296  n=746

相関係数 標準偏回帰係数

男女有職者 男性有職者 女性有職者

相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数男女有職者 男性有職者 女性有職者

相関係数 標準偏回帰係数

男女有職者 男性有職者 女性有職者

相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

相関係数 標準偏回帰係数

男女有職者 男性有職者 女性有職者

相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

男女有職者 男性有職者 女性有職者相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

男女有職者 男性有職者 女性有職者相関係数 標準偏回帰係数

男女有職者 男性有職者 女性有職者相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

157

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留置AB 民主好感度

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) -0.061 ** -0.050 *

生年 0.057 ** 0.083 ** 0.061 * 0.084 ** 0.049 0.090 *

学歴(教育年数) 0.092 ** 0.115 ** 0.085 ** 0.113 ** 0.086 * 0.117 *

職業(威信スコア) 0.034 -0.027 0.025 -0.018 0.026 -0.037

世帯年収 0.039 0.018 0.004 -0.021 0.105 ** 0.085 *

モデルの説明力 R2=.016 ** R2=.011 ** R2=.017 **

 n=1994  n=1299  n=695

留置AB 社民好感度

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) 0.064 ** 0.074 **

生年 0.059 ** 0.083 ** 0.074 ** 0.097 ** 0.035 0.056

学歴(教育年数) 0.043 0.089 ** 0.065 * 0.106 ** 0.024 0.045

職業(威信スコア) -0.006 -0.023 -0.002 -0.038 0.016 0.010

世帯年収 -0.007 -0.024 -0.015 -0.032 0.006 -0.010

モデルの説明力 R2=.011 ** R2=.012 ** R2=.000 n=1951  n=1270  n=681

留置AB 共産好感度

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) 0.006 0.013

生年 0.029 0.046 0.018 0.034 0.049 0.085 *

学歴(教育年数) 0.039 0.060 * 0.033 0.060 0.056 0.066

職業(威信スコア) 0.009 -0.006 -0.016 -0.027 0.068 0.051

世帯年収 -0.007 -0.021 -0.034 -0.040 0.042 0.006

モデルの説明力 R2=.001 R2=001 R2=.006 n=1981  n=1271  n=710

留置AB 性別役割分業意識(男は外、女は家庭)

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) -0.149 ** -0.154 **

生年 0.059 ** 0.055 ** 0.076 ** 0.081 ** 0.023 0.004

学歴(教育年数) -0.041 -0.025 -0.056 * -0.024 -0.073 * -0.036

職業(威信スコア) -0.027 -0.010 -0.036 0.005 -0.082 * -0.046

世帯年収 -0.081 ** -0.080 ** -0.087 ** -0.091 ** -0.083 ** -0.059

モデルの説明力 R2=.032 ** R2=.013 ** R2=.007 *

 n=2554  n=.1545  n=1008

留置AB 男女違った育て方

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) -0.147 ** -0.136 **

生年 -0.033 -0.014 -0.074 ** -0.056 * 0.019 0.036

学歴(教育年数) 0.082 ** 0.064 ** 0.093 ** 0.070 * 0.006 0.049

職業(威信スコア) 0.054 ** 0.032 0.069 ** 0.072 * -0.033 -0.027

世帯年収 -0.053 ** -0.080 ** -0.055 * -0.090 ** -0.059 -0.066

モデルの説明力 R2=.030 ** R2=.018 ** R2=.002 n=2515  n=1517  n=998

留置AB 家事育児は女性

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) -0.166 ** -0.171 **

生年 0.153 ** 0.133 ** 0.130 ** 0.119 ** 0.181 ** 0.139 **

学歴(教育年数) -0.096 ** -0.086 ** -0.093 ** -0.085 ** -0.174 ** -0.102 **

職業(威信スコア) -0.011 0.024 0.004 0.058 -0.109 ** -0.031

世帯年収 -0.045 * -0.048 * -0.045 -0.060 * -0.056 -0.025

モデルの説明力 R2=.057 ** R2=.024 ** R2=.044 **

 n=2556  n=1547  n=1009

留置AB 子どもにはできるだけ高い教育

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) -0.097 ** -0.056 **

生年 0.102 ** 0.156 ** 0.107 ** 0.150 ** 0.090 ** 0.181 **

学歴(教育年数) 0.243 ** 0.251 ** 0.245 ** 0.257 ** 0.216 ** 0.247 **

職業(威信スコア) 0.156 ** 0.025 0.153 ** 0.031 0.130 ** 0.026

世帯年収 0.125 ** 0.043 * 0.089 ** 0.004 0.176 ** 0.093 **

モデルの説明力 R2=.090 ** R2=.082 ** R2=.086 **

 n=2518  n=1525  n=993

男女有職者 男性有職者 女性有職者相関係数 標準偏回帰係数

男女有職者 男性有職者 女性有職者

相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

女性有職者

相関係数 標準偏回帰係数

男女有職者 男性有職者

相関係数 標準偏回帰係数

相関係数 標準偏回帰係数

男女有職者 男性有職者相関係数 標準偏回帰係数

男女有職者 男性有職者

相関係数 標準偏回帰係数

女性有職者

男女有職者 男性有職者 女性有職者相関係数 標準偏回帰係数

相関係数 標準偏回帰係数相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

相関係数 標準偏回帰係数

相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数女性有職者

相関係数 標準偏回帰係数

相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

女性有職者相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

男女有職者 男性有職者

158

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留置AB 子どもには家庭教師や塾

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) 0.013 0.029

生年 -0.052 ** -0.028 -0.036 -0.012 -0.073 * -0.055

学歴(教育年数) 0.141 ** 0.124 ** 0.153 ** 0.149 ** 0.131 ** 0.073

職業(威信スコア) 0.071 ** -0.005 0.067 ** -0.004 0.087 ** 0.000

世帯年収 0.094 ** 0.069 ** 0.049 0.019 0.159 ** 0.142 **

モデルの説明力 R2=.024 ** R2=.021 ** R2=.032 **

 n=2473  n=1500  n=974

留置AB 子どもには多くの財産

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) -0.143 ** -0.151 **

生年 -0.229 ** -0.217 ** -0.244 ** -0.221 ** -0.224 ** -0.221 **

学歴(教育年数) 0.115 ** 0.083 ** 0.092 ** 0.097 ** 0.111 ** 0.051

職業(威信スコア) -0.018 -0.085 ** -0.059 * -0.082 ** -0.006 -0.082 *

世帯年収 -0.026 -0.002 -0.061 * -0.029 0.023 0.044

モデルの説明力 R2=.081 ** R2=.067 ** R2=.053 **

 n=2464  n=1498  n=966

留置A票 問1.ア)性別による不公平

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) 0.070 * 0.095 **

生年 -0.039 0.002 -0.016 0.013 -0.073 -0.011

学歴(教育年数) 0.182 ** 0.165 ** 0.191 ** 0.171 ** 0.189 ** 0.149 **

職業(威信スコア) 0.126 ** 0.083 * 0.138 ** 0.092 * 0.139 ** 0.063

世帯年収 0.017 -0.047 -0.026 -0.093 * 0.097 * 0.033

モデルの説明力 R2=.042 ** R2=.042 ** R2=.033 **

 n=1262  n=768  n=495

留置A票 問1.イ)年齢による不公平

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) 0.091 ** 0.096 **

生年 -0.022 0.005 -0.029 -0.002 -0.006 0.031

学歴(教育年数) 0.054 0.081 * 0.058 0.089 * 0.073 0.076

職業(威信スコア) -0.004 0.001 -0.020 -0.026 0.063 0.052

世帯年収 -0.062 * -0.078 * -0.090 * -0.099 -0.008 -0.049

モデルの説明力 R2=.014 ** R2=.009 R2=.001 n=1256  n=762  n=493

留置A票 問1.ウ)学歴による不公平

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) 0.012 0.010

生年 -0.076 ** -0.074 * -0.080 * -0.073 * -0.069 -0.070

学歴(教育年数) -0.023 -0.033 -0.040 -0.044 0.012 -0.012

職業(威信スコア) -0.014 0.035 -0.025 0.044 0.008 0.019

世帯年収 -0.095 ** -0.092 ** -0.130 ** -0.126 ** -0.038 -0.040

モデルの説明力 R2=.011 ** R2=.018 ** R2=.000 n=1266  n=767  n=499

留置A票 問1.エ)職業による不公平

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) 0.045 0.056 *

生年 -0.075 ** -0.051 -0.075 * -0.053 -0.074 -0.039

学歴(教育年数) 0.069 ** 0.060 0.072 * 0.065 0.078 0.056

職業(威信スコア) 0.045 0.068 * 0.038 0.057 0.079 0.090

世帯年収 -0.087 ** -0.119 ** -0.101 ** -0.127 ** -0.061 -0.108 *

モデルの説明力 R2=.020 ** R2=.018 ** R2=.013 *

 n=1254  n=764  n=490

留置A票 問1.オ)家柄による不公平

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) 0.057 * 0.058 *

生年 -0.097 ** -0.089 ** -0.118 ** -0.112 ** -0.063 -0.021

学歴(教育年数) 0.037 0.025 0.002 0.001 0.122 ** 0.093

職業(威信スコア) 0.000 0.005 -0.041 -0.023 0.096 * 0.061

世帯年収 -0.020 -0.017 -0.048 -0.026 0.031 -0.017

モデルの説明力 R2=.009 ** R2=.010 * R2=.010 n=1233  n=755  n=478

男女有職者 男性有職者 女性有職者相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

男女有職者 男性有職者 女性有職者相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

男女有職者 男性有職者 女性有職者相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

男女有職者 男性有職者 女性有職者相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

男女有職者 男性有職者 女性有職者相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

男女有職者 男性有職者 女性有職者相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

男女有職者 男性有職者 女性有職者相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

159

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留置A票 問1.カ)所得による不公平

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) 0.015 0.015

生年 -0.066 * -0.045 -0.067 -0.042 -0.063 -0.043

学歴(教育年数) 0.021 0.040 0.017 0.047 0.035 0.032

職業(威信スコア) -0.025 0.001 -0.044 -0.018 0.016 0.035

世帯年収 -0.116 ** -0.120 ** -0.135 ** -0.133 ** -0.083 -0.103 *

モデルの説明力 R2=.014 ** R2=.017 ** R2=.005 n=1253  n=766  n=489

留置A票 問1.キ)資産による不公平

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) -0.057 * -0.051

生年 -0.071 * -0.055 -0.088 ** -0.066 -0.044 -0.035

学歴(教育年数) 0.059 * 0.045 0.061 0.070 0.043 -0.001

職業(威信スコア) 0.034 0.035 0.000 0.012 0.079 0.081

世帯年収 -0.056 -0.075 -0.099 ** -0.110 ** 0.015 -0.013

モデルの説明力 R2=.011 ** R2=.016 ** R2=.000 **

 n=1206  n=744  n=462

留置A票 問1.ク)人種・民族・国籍による不公平

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) 0.037 0.054

生年 -0.153 ** -0.125 ** -0.186 ** -0.160 ** -0.099 * -0.034

学歴(教育年数) 0.148 ** 0.106 ** 0.127 ** 0.116 ** 0.202 ** 0.116 *

職業(威信スコア) 0.088 ** 0.069 * 0.019 0.004 0.237 ** 0.197 **

世帯年収 -0.017 -0.052 -0.069 * -0.073 0.072 -0.031

モデルの説明力 R2=.040 ** R2=.044 ** R2=.063 **

 n=1214  n=748  n=466

留置A票 問2.ア)高い地位や収入を得る機会は豊富にある

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) -0.074 ** -0.058 *

生年 0.023 0.038 0.031 0.042 0.007 0.016

学歴(教育年数) 0.122 ** 0.091 ** 0.158 ** 0.147 ** 0.022 -0.031

職業(威信スコア) 0.117 ** 0.055 0.098 ** 0.005 0.130 ** 0.149 **

世帯年収 0.085 ** 0.041 0.109 ** 0.072 0.037 -0.011

モデルの説明力 R2=.022 ** R2=.028 ** R2=.010 n=1238  n=764  n=474

留置A票 問2.イ)高い地位や収入を得る競争は納得のいくしかたである

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) -0.029 -0.018

生年 0.055 * 0.066 0.043 0.050 0.073 0.099

学歴(教育年数) 0.114 ** 0.109 ** 0.131 ** 0.136 ** 0.070 0.061

職業(威信スコア) 0.075 ** -0.013 0.056 -0.050 0.105 * 0.068

世帯年収 0.133 ** 0.106 ** 0.146 ** 0.129 ** 0.107 * 0.060

モデルの説明力 R2=.026 ** R2=.031 ** R2=.016 *

 n=1205  n=749  n=456

留置A票 問2.ウ)大学教育を受ける機会は貧富の差に関係ない

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) -0.042 -0.032

生年 0.069 * 0.093 ** 0.094 ** 0.115 ** 0.025 0.057

学歴(教育年数) 0.113 ** 0.134 ** 0.127 ** 0.167 ** 0.074 0.068

職業(威信スコア) 0.047 -0.036 0.023 -0.085 * 0.081 0.052

世帯年収 0.086 ** 0.059 0.097 ** 0.076 * 0.063 0.025

モデルの説明力 R2=.022 ** R2=.032 ** R2=.004 n=1242  n=760  n=482

留置A票 問2.エ)学校以外にも教育や訓練の機会は豊富にある

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) -0.005 0.002

生年 -0.010 -0.002 -0.027 -0.020 0.015 0.042

学歴(教育年数) 0.045 0.032 0.041 0.039 0.053 0.035

職業(威信スコア) 0.046 0.037 0.016 0.003 0.099 * 0.101

世帯年収 0.005 -0.014 -0.002 -0.009 0.018 -0.031

モデルの説明力 R2=.000 R2=.000 R2=.004 n=1249  n=764  n=485

男女有職者 男性有職者 女性有職者相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

男女有職者 男性有職者 女性有職者相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

男女有職者 男性有職者 女性有職者相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

男女有職者 男性有職者 女性有職者相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

男女有職者 男性有職者 女性有職者相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

男女有職者 男性有職者 女性有職者相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

男女有職者 男性有職者 女性有職者相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

160

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留置A票 問4.ア)競争で貧富の差がついてもしかたがない

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) -0.134 ** -0.044

生年 -0.025 -0.062 * -0.060 * -0.047 0.019 0.056

学歴(教育年数) 0.141 ** 0.104 ** 0.152 ** 0.129 ** 0.091 * 0.072

職業(威信スコア) 0.116 ** 0.038 0.087 ** 0.021 0.122 ** 0.098

世帯年収 0.063 * 0.021 0.061 * 0.036 0.059 0.002

モデルの説明力 R2=.033 ** R2=.021 ** R2=.011 n=1245  n=767  n=478

留置A票 問4.イ)自由競争より格差をなくすべき

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) 0.079 ** 0.055

生年 0.077 ** 0.059 * 0.052 0.044 0.124 ** 0.094

学歴(教育年数) -0.197 ** -0.131 ** -0.191 ** -0.129 ** -0.191 ** -0.118 *

職業(威信スコア) -0.156 ** -0.054 -0.171 ** -0.098 * -0.098 * 0.033

世帯年収 -0.148 * -0.106 ** -0.109 ** -0.059 -0.210 ** -0.197 **

モデルの説明力 R2=.055 ** R2=.045 ** R2=.064 **

 n=1198  n=747  n=451

留置A票 問4.ウ)個人の自由が守られることは重要だ

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) -0.041 -0.054 **

生年 -0.040 -0.043 -0.026 -0.012 -0.065 -0.107 *

学歴(教育年数) -0.004 0.016 0.007 0.061 -0.036 -0.086

職業(威信スコア) -0.072 ** -0.105 ** -0.105 ** -0.146 ** -0.027 -0.038

世帯年収 0.021 0.057 0.005 0.043 0.047 0.089

モデルの説明力 R2=.009 ** R2=.011 * R2=.007 n=1214  n=742  n=472

留置A票 問5.ア)社会のためになる活動は参加を強制してもよい

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) 0.094 ** 0.103 **

生年 -0.028 -0.016 -0.024 -0.026 -0.030 -0.027

学歴(教育年数) 0.082 ** 0.069 ** 0.114 ** 0.069 0.045 0.051

職業(威信スコア) 0.050 0.016 0.117 ** 0.074 -0.040 -0.097

世帯年収 0.070 * 0.053 0.076 * 0.042 0.066 0.088

モデルの説明力 R2=.016 ** R2=.015 ** R2=.005 n=1262  n=767  n=495

留置A票 問5.イ)われわれが少々がんばっても社会はよくならない

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) 0.058 * 0.030

生年 -0.108 ** -0.128 ** -0.131 ** -0.134 ** -0.071 -0.120 **

学歴(教育年数) -0.142 ** -0.116 ** -0.159 ** -0.122 ** -0.099 * -0.103

職業(威信スコア) -0.164 ** -0.092 ** -0.180 ** -0.097 * -0.119 ** -0.080

世帯年収 -0.111 ** -0.039 -0.118 ** -0.043 -0.094 * -0.033

モデルの説明力 R2=.048 ** R2=.054 ** R2=.023 **

 n=1261  n=761  n=500

留置A票 問5.ウ)議論より有能な指導者にまかせたほうが政治はうまくいく

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) 0.024 0.023

生年 -0.036 -0.018 -0.014 0.004 -0.073 -0.092

学歴(教育年数) 0.027 0.048 0.067 0.074 -0.047 -0.029

職業(威信スコア) -0.026 -0.025 0.023 0.005 -0.113 * -0.092

世帯年収 -0.055 -0.055 -0.029 -0.046 -0.101 * -0.055

モデルの説明力 R2=.002 R2=.001 R2=.016 *

 n=1246  n=762  n=484

留置A票 問6.ア)今後、日本で格差が広がってもかまわない

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) -0.151 ** -0.145 **

生年 -0.114 ** -0.112 ** -0.116 ** -0.114 ** -0.127 ** -0.129 **

学歴(教育年数) 0.148 ** 0.091 ** 0.155 ** 0.126 ** 0.098 * 0.014

職業(威信スコア) 0.085 ** -0.017 0.063 -0.028 0.072 0.003

世帯年収 0.130 ** 0.124 ** 0.129 ** 0.129 ** 0.125 * 0.127 *

モデルの説明力 R2=.059 ** R2=.043 ** R2=.026 **

 n=1267  n=770  n=496

男女有職者 男性有職者 女性有職者相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

男女有職者 男性有職者 女性有職者相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

男女有職者 男性有職者 女性有職者相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

男女有職者 男性有職者 女性有職者相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

男女有職者 男性有職者 女性有職者相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

男女有職者 男性有職者 女性有職者相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

男女有職者 男性有職者 女性有職者相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

161

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留置A票 問6.イ)出身校によって人生がほとんど決まってしまう

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) -0.053 -0.064 *

生年 -0.021 -0.032 0.018 0.010 -0.084 -0.056

学歴(教育年数) -0.079 ** -0.074 * -0.164 ** -0.137 ** 0.067 0.058

職業(威信スコア) -0.055 -0.008 -0.111 ** -0.026 0.022 0.019

世帯年収 -0.086 ** -0.065 * -0.108 ** -0.074 * -0.054 -0.074

モデルの説明力 R2=.012 ** R2=.029 ** R2=.005 n=1281  n=776  n=505

留置A票 問6.ウ)いまの日本では収入の格差が大きすぎる

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) 0.122 ** 0.100 **

生年 0.089 ** 0.072 ** 0.049 0.042 0.164 ** 0.131 **

学歴(教育年数) -0.248 ** -0.171 ** -0.244 ** -0.213 ** -0.231 ** -0.081

職業(威信スコア) -0.174 ** -0.015 -0.130 ** 0.024 -0.220 ** -0.082

世帯年収 -0.239 ** -0.199 ** -0.211 ** -0.182 ** -0.286 ** -0.239 **

モデルの説明力 R2=.108 ** R2=.085 ** R2=.119 **

 n=1263  n=766  n=497

留置A票 問6.エ)10年後の日本は収入の格差が今よりも大きくなっている

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) -0.025 -0.021

生年 -0.002 0.014 0.006 0.016 -0.017 -0.004

学歴(教育年数) 0.039 0.051 0.059 0.060 -0.010 0.026

職業(威信スコア) 0.009 0.003 0.033 0.013 -0.049 -0.018

世帯年収 -0.041 -0.055 -0.005 -0.023 -0.111 ** -0.112

モデルの説明力 R2=.001 R2=.000 R2=.004 **

 n=1202  n=741  n=461

留置A票 問7.ア)豊かな人からの税金を増やし、恵まれない人への福祉を充実すべき

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) 0.036 0.024

生年 0.066 * 0.059 * 0.095 ** 0.087 * 0.020 0.035

学歴(教育年数) -0.121 ** -0.074 * -0.149 ** -0.106 * -0.052 0.012

職業(威信スコア) -0.093 ** -0.025 -0.102 ** -0.049 -0.061 0.015

世帯年収 -0.112 ** -0.093 ** -0.064 -0.040 -0.198 ** -0.209 **

モデルの説明力 R2=.023 ** R2=.026 ** R2=.033 n=1261  n=767  n=494

留置A票 問7.イ)経済に対する政府の規制はできるだけ少ない方がよい

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) -0.054 -0.055

生年 0.013 0.008 0.008 0.013 0.014 -0.025

学歴(教育年数) -0.030 -0.027 -0.005 -0.001 -0.106 * -0.106

職業(威信スコア) -0.011 0.005 0.001 0.014 -0.061 -0.019

世帯年収 -0.035 -0.032 -0.035 -0.041 -0.036 -0.002

モデルの説明力 R2=.001 R2=.000 R2=.003 **

 n=1189  n=745  n=445

留置A票 問7.ウ)公的サービスはできるだけ民間企業に任せるほうがよい

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) -0.027 -0.024

生年 0.007 -0.005 0.019 0.014 -0.016 -0.063

学歴(教育年数) -0.010 -0.037 0.020 0.004 -0.084 -0.141 **

職業(威信スコア) 0.040 0.047 0.042 0.032 0.025 0.067

世帯年収 0.025 0.017 0.033 0.020 0.008 0.025

モデルの説明力 R2=.000 R2=000 R2=.006 n=1231  n=757  n=474

留置A票 問7.エ)理由はともかく生活に困っている人を国が面倒を見るべきだ

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) -0.024 -0.033

生年 -0.058 * -0.058 * -0.040 -0.037 -0.088 * -0.089

学歴(教育年数) -0.031 -0.024 -0.052 -0.039 0.003 0.003

職業(威信スコア) -0.049 -0.024 -0.055 -0.018 -0.050 -0.040

世帯年収 -0.072 ** -0.053 -0.070 * -0.051 -0.077 -0.060

モデルの説明力 R2=.006 ** R2=.003 R2=.006 n=1262  n=765  n=497

男女有職者 男性有職者 女性有職者相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

男女有職者 男性有職者 女性有職者相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

男女有職者 男性有職者 女性有職者相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

男女有職者 男性有職者 女性有職者相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

男女有職者 男性有職者 女性有職者相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

男女有職者 男性有職者 女性有職者相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

男女有職者 男性有職者 女性有職者相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

162

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留置A票 問10.ア)国政選挙や自治体選挙の際の投票

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) 0.011 0.036

生年 0.261 ** 0.273 ** 0.288 ** 0.295 ** 0.220 ** 0.237 **

学歴(教育年数) 0.067 * 0.084 ** 0.092 ** 0.099 * 0.024 0.042

職業(威信スコア) 0.131 ** 0.072 * 0.147 ** 0.075 0.111 * 0.060

世帯年収 0.140 ** 0.070 * 0.099 ** 0.015 0.209 ** 0.166 **

モデルの説明力 R2=.093 ** R2=.102 ** R2=.087 **

 n=1290  n=779  n=511

留置A票 問10.イ)政治活動や選挙運動の支援

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) 0.062 * 0.065 *

生年 0.169 ** 0.151 ** 0.229 ** 0.208 ** 0.090 * 0.048

学歴(教育年数) -0.060 * -0.049 -0.025 -0.026 -0.107 * -0.109 *

職業(威信スコア) 0.022 0.022 0.064 0.023 -0.022 0.008

世帯年収 0.096 ** 0.086 ** 0.143 ** 0.112 ** 0.032 0.058

モデルの説明力 R2=.037 ** R2=.061 ** R2=.010 n=1288  n=778  n=510

留置A票 問10.ウ)市民運動への参加

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) -0.024 -0.017

生年 0.204 ** 0.190 ** 0.209 ** 0.194 ** 0.195 ** 0.182 **

学歴(教育年数) -0.026 -0.017 -0.011 -0.001 -0.064 -0.045

職業(威信スコア) 0.051 0.021 0.046 -0.004 0.053 0.062

世帯年収 0.121 ** 0.098 ** 0.132 ** 0.106 ** 0.101 * 0.083

モデルの説明力 R2=.049 ** R2=.049 ** R2=.043 **

 n=1288  n=778  n=509

留置A票 問10.エ)ボランティア活動への参加

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) 0.082 ** 0.097 **

生年 0.096 ** 0.116 ** 0.141 ** 0.151 ** 0.038 0.071

学歴(教育年数) 0.100 ** 0.120 ** 0.129 ** 0.152 ** 0.077 0.071

職業(威信スコア) 0.061 * -0.008 0.066 -0.052 0.089 * 0.055

世帯年収 0.117 ** 0.084 ** 0.149 ** 0.116 ** 0.078 0.035

モデルの説明力 R2=.037 ** R2=.050 ** R2=.008 n=1288  n=778  n=510

留置A票 問10.オ)自治会・町内会活動への参加

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) -0.001 0.001 **

生年 0.352 ** 0.351 ** 0.359 ** 0.358 ** 0.343 ** 0.353 **

学歴(教育年数) -0.057 * 0.031 -0.047 0.027 -0.078 0.043

職業(威信スコア) -0.016 -0.063 * -0.017 -0.085 * -0.016 -0.023

世帯年収 0.107 ** 0.087 ** 0.111 ** 0.085 * 0.099 * 0.083

モデルの説明力 R2=.129 ** R2=.133 ** R2=.119 **

 n=1288  n=778  n=510

留置A票 問12.ア)老後は公的年金をあてにしている

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) -0.001 0.006

生年 0.351 ** 0.365 ** 0.331 ** 0.351 ** 0.386 ** 0.379 **

学歴(教育年数) -0.057 * 0.044 -0.006 0.071 -0.166 ** -0.020

職業(威信スコア) -0.009 -0.021 0.012 -0.034 -0.049 0.005

世帯年収 0.004 -0.035 0.004 -0.046 0.002 -0.008

モデルの説明力 R2=.122 ** R2=.111 ** R2=.142 **

 n=1269  n=766  n=504

留置A票 問12.イ)老後は個人年金をあてにしている

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) -0.008 -0.006

生年 0.043 0.064 0.065 0.104 * 0.014 -0.003

学歴(教育年数) 0.059 0.094 ** 0.108 ** 0.169 ** -0.019 -0.034

職業(威信スコア) -0.007 -0.059 -0.017 -0.102 * 0.004 -0.007

世帯年収 0.030 0.023 0.013 -0.004 0.056 0.066

モデルの説明力 R2=.005 ** R2=.020 ** R2=.000 n=1022  n=609  n=413

男女有職者 男性有職者 女性有職者相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

男女有職者 男性有職者 女性有職者相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

男女有職者 男性有職者 女性有職者相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

男女有職者 男性有職者 女性有職者相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

男女有職者 男性有職者 女性有職者相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

男女有職者 男性有職者 女性有職者相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

男女有職者 男性有職者 女性有職者相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

163

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留置A票 問12.ウ)老後は貯蓄をあてにしている

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) 0.030 0.050

生年 -0.054 -0.035 -0.039 -0.016 -0.071 -0.078

学歴(教育年数) 0.144 ** 0.107 ** 0.207 ** 0.191 ** 0.055 -0.038

職業(威信スコア) 0.111 ** 0.059 0.112 ** 0.018 0.129 ** 0.114 *

世帯年収 0.075 ** 0.038 0.067 * 0.028 0.090 * 0.064

モデルの説明力 R2=.024 ** R2=.039 ** R2=.016 *

 n=1174  n=700  n=476

留置A票 問12.エ)老後は勤労収入をあてにしている

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) -0.041 -0.046

生年 -0.030 -0.011 0.009 0.032 -0.088 -0.100

学歴(教育年数) 0.030 0.054 0.072 * 0.107 * -0.054 -0.050

職業(威信スコア) -0.029 -0.036 -0.013 -0.061 -0.073 -0.007

世帯年収 -0.068 -0.068 * -0.003 -0.008 -0.176 ** -0.154 **

モデルの説明力 R2=.005 R2=.003 R2=.030 **

 n=1136  n=699  n=436

留置A票 問12.オ)老後は子どもの援助をあてにしている

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) -0.030 -0.053

生年 -0.125 ** -0.151 ** -0.115 ** -0.123 ** -0.145 ** -0.201 **

学歴(教育年数) -0.055 * -0.071 -0.064 -0.053 -0.045 -0.115

職業(威信スコア) -0.087 ** -0.075 -0.117 ** -0.096 -0.049 -0.046

世帯年収 -0.017 0.040 -0.022 0.035 -0.011 0.054

モデルの説明力 R2=.024 ** R2=.020 ** R2=.024 *

 n=837  n=517  n=320

留置A票 問13(1)現在の収入は理想の収入より多い

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) -0.124 ** -0.117 **

生年 0.041 0.069 * 0.040 0.079 * 0.039 0.052

学歴(教育年数) 0.076 ** 0.104 ** 0.108 ** 0.156 ** 0.005 0.027

職業(威信スコア) 0.024 -0.016 0.007 -0.036 0.005 0.009

世帯年収 -0.042 -0.070 * -0.073 * -0.102 ** -0.012 -0.025

モデルの説明力 R2=.024 ** R2=.020 ** R2=.000 n=1292  n=784  n=508

留置A票 問18.ア)努力をしていれば、必ずその成果が得られる

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) 0.008 0.003

生年 0.052 0.029 0.042 0.026 0.069 0.028

学歴(教育年数) -0.072 * -0.078 * -0.063 -0.065 -0.089 * -0.106 *

職業(威信スコア) -0.016 -0.001 -0.021 -0.010 -0.005 0.014

世帯年収 0.042 0.057 0.036 0.049 0.053 0.076

モデルの説明力 R2=.006 * R2=.002 R2=.008 n=1279  n=773  n=507

留置A票 問18.イ)権威のある人々にはつねに敬意をはらわなければならない

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) -0.031 -0.041

生年 -0.044 -0.051 -0.024 -0.018 -0.080 * -0.126 *

学歴(教育年数) -0.034 -0.027 -0.027 -0.001 -0.059 -0.098

職業(威信スコア) -0.058 * -0.053 -0.064 -0.056 -0.060 -0.056

世帯年収 -0.023 0.005 -0.041 -0.020 0.008 0.060

モデルの説明力 R2=.003 R2=.000 ** R2=.012 *

 n=1260  n=766  n=494

留置A票 問18.ウ)以前からなされてきたうやり方を守ることが最上の結果を生む

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) -0.042 -0.056 *

生年 0.066 * 0.048 0.070 0.071 0.058 0.019

学歴(教育年数) -0.112 ** -0.080 * -0.130 ** -0.070 -0.089 * -0.098

職業(威信スコア) -0.086 ** -0.059 -0.132 ** -0.096 * -0.020 0.005

世帯年収 -0.031 0.001 -0.066 -0.029 0.026 0.050

モデルの説明力 R2=.016 ** R2=.024 ** R2=.003 n=1260  n=762  n=498

男女有職者 男性有職者 女性有職者相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

男女有職者 男性有職者 女性有職者相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

男女有職者 男性有職者 女性有職者相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

男女有職者 男性有職者 女性有職者相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

男女有職者 男性有職者 女性有職者相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

男女有職者 男性有職者 女性有職者相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

男女有職者 男性有職者 女性有職者相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

164

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留置A票 問18.エ)伝統や慣習に疑留置A票 問をもつ人は留置A票 問題をひきおこす

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) -0.065 * -0.081 **

生年 0.051 0.021 0.108 ** 0.092 * -0.047 -0.094

学歴(教育年数) -0.170 ** -0.156 ** -0.217 ** -0.185 ** -0.092 * -0.110 *

職業(威信スコア) -0.085 ** -0.008 -0.107 ** -0.005 -0.072 -0.033

世帯年収 -0.089 ** -0.056 -0.106 ** -0.081 * -0.064 -0.018

モデルの説明力 R2=.035 ** R2=.054 ** R2=.010 n=1233  n=753  n=480

留置A票 問18.オ)世の中を知る一番よい方法は指導者や専門家に頼ることである

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) -0.037 -0.047

生年 -0.007 -0.003 0.012 0.025 -0.043 -0.062

学歴(教育年数) -0.046 -0.010 -0.051 -0.011 -0.047 -0.023

職業(威信スコア) -0.082 ** -0.063 -0.076 * -0.048 -0.110 ** -0.097

世帯年収 -0.084 ** -0.062 * -0.092 ** -0.077 * -0.074 -0.030

モデルの説明力 R2=.009 ** R2=.006 R2=.008 n=1230  n=755  n=475

留置A票 問18.カ)違う考えをもつ人がたくさんいる方が社会にとって望ましい

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) -0.040 -0.023

生年 -0.117 ** -0.082 ** -0.035 -0.004 -0.261 ** -0.215 **

学歴(教育年数) 0.206 ** 0.169 ** 0.195 ** 0.202 ** 0.224 ** 0.088

職業(威信スコア) 0.114 ** 0.029 0.072 * -0.021 0.184 ** 0.106 *

世帯年収 0.058 * 0.018 0.038 0.007 0.091 ** 0.035

モデルの説明力 R2=.046 ** R2=.033 ** R2=.091 **

 n=1236  n=752  n=484

留置A票 問19.ア)たいていの人は信用できる

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) -0.042 -0.021

生年 0.078 ** 0.104 ** 0.128 ** 0.149 ** 0.002 0.046

学歴(教育年数) 0.142 ** 0.137 ** 0.140 ** 0.153 ** 0.139 ** 0.102

職業(威信スコア) 0.117 ** 0.039 0.100 ** 0.022 ** 0.135 ** 0.059

世帯年収 0.095 ** 0.041 0.055 -0.002 ** 0.158 ** 0.105 *

モデルの説明力 R2=.033 ** R2=.037 ** R2=.031 **

 n=1262  n=765  n=497

留置A票 問19.イ)たいていの人は自分のために他人を利用する

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) -0.116 ** -0.113 **

生年 -0.128 ** -0.116 ** -0.110 ** -0.102 ** -0.161 ** -0.129 **

学歴(教育年数) 0.039 0.011 0.003 -0.011 0.079 0.058

職業(威信スコア) 0.018 0.036 -0.006 0.038 0.016 0.032

世帯年収 -0.106 ** -0.113 ** -0.098 ** -0.095 * -0.127 * -0.151 **

モデルの説明力 R2=.037 ** R2=.015 ** R2=.037 **

 n=1240  n=753  n=487

留置A票 問19.ウ)たいていの人は自分のことだけを考えている

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) -0.087 ** -0.100 **

生年 -0.034 -0.041 -0.001 -0.003 -0.085 -0.100 **

学歴(教育年数) -0.062 * -0.048 -0.090 ** -0.066 -0.038 -0.024

職業(威信スコア) -0.072 * -0.045 -0.079 * -0.036 -0.097 ** -0.068

世帯年収 -0.084 ** -0.056 -0.066 -0.040 -0.120 ** -0.084

モデルの説明力 R2=.017 ** R2=.006 R2=.018 *

 n=1264  n=765  n=498

留置A票 問25(1)世帯全体での収入は、ゆとりのある生活に必要な金額か

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) -0.023 -0.051

生年 -0.017 ** 0.012 -0.053 -0.008 0.030 0.039

学歴(教育年数) -0.170 ** -0.036 -0.178 ** -0.049 -0.171 ** -0.008

職業(威信スコア) -0.241 ** -0.099 ** -0.258 ** -0.117 ** -0.235 ** -0.070

世帯年収 -0.422 ** -0.382 ** -0.394 ** -0.342 ** -0.468 ** -0.443 **

モデルの説明力 R2=.188 ** R2=.169 ** R2=.219 **

 n=1142  n=696  n=446

相関係数 標準偏回帰係数相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

相関係数 標準偏回帰係数

男女有職者 男性有職者 女性有職者

相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

相関係数 標準偏回帰係数

男女有職者 男性有職者 女性有職者

相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

相関係数 標準偏回帰係数

男女有職者 男性有職者 女性有職者

相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数男女有職者 男性有職者 女性有職者

男女有職者 男性有職者 女性有職者相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

男女有職者 男性有職者 女性有職者相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

男女有職者 男性有職者 女性有職者相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

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留置B票 問1.ア)クラシック音楽のコンサートへ行く

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) 0.169 ** 0.209 **

生年 0.020 0.069 * 0.060 0.087 * -0.007 ** 0.109 *

学歴(教育年数) 0.162 ** 0.167 ** 0.164 ** 0.165 ** 0.260 ** 0.214 **

職業(威信スコア) 0.126 ** 0.065 * 0.100 ** 0.003 0.249 ** 0.165 **

世帯年収 0.126 ** 0.059 * 0.107 ** 0.059 0.155 ** 0.048

モデルの説明力 R2=.076 ** R2=.034 ** R2=.096 **

 n=1312  n=797  n=514

留置B票 問1.イ)美術館や博物館に行く

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) 0.114 ** 0.168 **

生年 0.057 * 0.122 ** 0.089 * 0.134 ** 0.023 0.154 **

学歴(教育年数) 0.221 ** 0.237 ** 0.232 ** 0.243 ** 0.277 ** 0.248 **

職業(威信スコア) 0.156 ** 0.072 * 0.136 ** 0.016 0.258 ** 0.178 **

世帯年収 0.120 ** 0.030 0.108 ** 0.032 0.142 ** 0.020

モデルの説明力 R2=.090 ** R2=.069 ** R2=.114 **

 n=1316  n=798  n=518

留置B票 問1.ウ)カラオケをする

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) -0.043 -0.038

生年 -0.204 ** -0.192 ** -0.119 ** -0.108 ** -0.339 ** -0.334 **

学歴(教育年数) 0.103 ** 0.040 0.102 ** 0.074 0.091 * -0.037

職業(威信スコア) 0.067 * 0.038 0.044 -0.003 0.098 * 0.055

世帯年収 -0.009 -0.019 0.049 0.040 -0.093 * -0.077

モデルの説明力 R2=.044 ** R2=.017 ** R2=.116 **

 n=1316  n=799  n=517

留置B票 問1.エ)スポーツをする

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) -0.033 0.000

生年 -0.031 0.006 0.024 0.055 -0.115 ** -0.068

学歴(教育年数) 0.197 ** 0.164 ** 0.217 ** 0.198 ** 0.157 ** 0.094

職業(威信スコア) 0.137 ** 0.040 0.137 ** 0.011 0.131 ** 0.061

世帯年収 0.122 ** 0.067 * 0.154 ** 0.097 * 0.077 0.041

モデルの説明力 R2=.042 ** R2=.056 ** R2=.026 **

 n=1325  n=803  n=522

留置B票 問1.オ)図書館に行く

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) 0.141 ** 0.195 **

生年 -0.071 ** 0.005 0.027 0.077 * -0.190 ** -0.048

学歴(教育年数) 0.272 ** 0.274 ** 0.274 ** 0.279 ** 0.365 ** 0.296 **

職業(威信スコア) 0.156 ** 0.056 0.137 ** -0.009 0.268 ** 0.132 **

世帯年収 0.105 ** 0.020 0.129 ** 0.060 0.080 -0.028

モデルの説明力 R2=.109 ** R2=.080 ** R2=.144 **

 n=1312  n=792  n=520

留置B票 問1.カ)スポーツ新聞や女性週刊誌を読む

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) -0.065 ** -0.080 **

生年 -0.095 ** -0.113 ** -0.103 ** -0.108 ** -0.089 * -0.125 **

学歴(教育年数) 0.014 -0.019 -0.002 -0.008 0.018 -0.048

職業(威信スコア) -0.019 -0.062 -0.047 -0.065 0.013 -0.036

世帯年収 0.055 * 0.090 ** 0.020 0.057 0.114 ** 0.145 **

モデルの説明力 R2=.018 ** R2=010 * R2=.019 **

 n=1316  n=798  n=517

留置B票 問1.キ)小説や歴史などの本を読む

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) 0.080 ** 0.148 **

生年 -0.012 0.068 * 0.043 0.096 ** -0.087 * 0.066

学歴(教育年数) 0.321 ** 0.305 ** 0.327 ** 0.309 ** 0.376 ** 0.310 **

職業(威信スコア) 0.228 ** 0.102 ** 0.212 ** 0.062 0.311 ** 0.174 **

世帯年収 0.159 ** 0.045 0.148 ** 0.039 0.178 ** 0.047

モデルの説明力 R2=.136 ** R2=.119 ** R2=.167 **

 n=1319  n=799  n=520

相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数男女有職者 男性有職者 女性有職者

相関係数 標準偏回帰係数

男女有職者 男性有職者 女性有職者相関係数 標準偏回帰係数

男女有職者 男性有職者 女性有職者

相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

相関係数 標準偏回帰係数

男女有職者 男性有職者 女性有職者

相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

相関係数 標準偏回帰係数

男女有職者 男性有職者 女性有職者

相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

相関係数 標準偏回帰係数相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

標準偏回帰係数

男女有職者 男性有職者相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

相関係数 標準偏回帰係数 相関係数

女性有職者

相関係数 標準偏回帰係数

相関係数 標準偏回帰係数

男女有職者 男性有職者 女性有職者

166

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留置B票 問3.ア)クレジットカードで買い物をする

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) 0.054 * 0.082 **

生年 -0.235 ** -0.204 ** -0.216 ** -0.208 ** -0.261 ** -0.185 **

学歴(教育年数) 0.248 ** 0.141 ** 0.224 ** 0.105 ** 0.342 ** 0.224 **

職業(威信スコア) 0.197 ** 0.079 ** 0.208 ** 0.112 ** 0.211 ** 0.021

世帯年収 0.197 ** 0.149 ** 0.187 ** 0.130 ** 0.213 ** 0.163 **

モデルの説明力 R2=.129 ** R2=.111 ** R2=.157 **

 n=1329  n=806  n=523

留置B票 問3.イ)インターネットで買い物やチケット予約

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) -0.040 -0.008

生年 -0.349 ** -0.316 ** -0.330 ** -0.319 ** -0.385 ** -0.295 **

学歴(教育年数) 0.295 ** 0.130 ** 0.269 ** 0.114 ** 0.349 ** 0.169 **

職業(威信スコア) 0.262 ** 0.148 ** 0.245 ** 0.150 ** 0.291 ** 0.130 **

世帯年収 0.157 ** 0.095 ** 0.188 ** 0.122 ** 0.111 ** 0.052

モデルの説明力 R2=.199 ** R2=.192 ** R2=210 **

 n=1327  n=804  n=522

留置B票 問3.ウ)通信販売のカタログで買い物をする

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) 0.315 ** 0.319 **

生年 -0.147 ** -0.123 ** -0.115 ** -0.106 ** -0.185 ** -0.170 **

学歴(教育年数) 0.037 0.054 0.079 * 0.049 0.123 ** 0.071

職業(威信スコア) -0.010 0.003 0.041 0.019 0.041 -0.037

世帯年収 0.016 0.013 0.019 0.007 0.020 0.024

モデルの説明力 R2=.118 ** R2=.012 ** R2=.032 **

 n=1330  n=807  n=523

留置B票 問3.エ)雑誌や本で取り上げられたレストランに行く

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) 0.087 ** 0.117 **

生年 -0.213 ** -0.170 ** -0.200 ** -0.170 ** -0.228 ** -0.162 **

学歴(教育年数) 0.265 ** 0.198 ** 0.292 ** 0.223 ** 0.269 ** 0.145 **

職業(威信スコア) 0.160 ** 0.032 0.157 ** 0.001 0.217 ** 0.084

世帯年収 0.176 ** 0.130 ** 0.193 ** 0.151 ** 0.156 ** 0.107 *

モデルの説明力 R2=.123 ** R2=.124 ** R2=.104 **

 n=1326  n=804  n=522

留置B票 問4.ア)国産の牛肉や野菜を選んで買っている

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) 0.189 ** 0.229 **

生年 0.194 ** 0.220 ** 0.166 ** 0.172 ** 0.279 ** 0.322 **

学歴(教育年数) 0.058 * 0.064 * 0.119 ** 0.075 0.023 0.042

職業(威信スコア) 0.137 ** 0.115 ** 0.192 ** 0.104 * 0.128 ** 0.151 **

世帯年収 0.193 ** 0.123 ** 0.202 ** 0.126 ** 0.197 ** 0.123 **

モデルの説明力 R2=.126 ** R2=.078 ** R2=.128 **

 n=1297  n=774  n=523

留置B票 問4.イ)無農薬や有機栽培の野菜、無添加の食品を購入

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) 0.135 ** 0.184 **

生年 0.186 ** 0.225 ** 0.160 ** 0.174 ** 0.247 ** 0.319 **

学歴(教育年数) 0.111 ** 0.120 ** 0.167 ** 0.125 ** 0.071 0.117 *

職業(威信スコア) 0.154 ** 0.115 ** 0.210 ** 0.107 ** 0.121 ** 0.133 **

世帯年収 0.169 ** 0.082 ** 0.204 ** 0.112 ** 0.128 ** 0.039

モデルの説明力 R2=.108 ** R2=.089 ** R2=101 **

 n=1288  n=767  n=521

留置B票 問4.ウ)クリーニング店を利用することが多い

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) -0.012 0.025

生年 0.115 ** 0.137 ** 0.112 ** 0.122 ** 0.120 ** 0.178 **

学歴(教育年数) 0.163 ** 0.128 ** 0.169 ** 0.128 ** 0.151 ** 0.130 **

職業(威信スコア) 0.169 ** 0.061 * 0.176 ** 0.046 0.159 ** 0.093

世帯年収 0.238 ** 0.174 ** 0.232 ** 0.171 ** 0.248 ** 0.178 **

モデルの説明力 R2=.085 ** R2=.078 ** R2=.093 **

 n=1315  n=791  n=524

相関係数

相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

男性有職者 女性有職者相関係数 標準偏回帰係数

男女有職者 男性有職者 女性有職者相関係数 標準偏回帰係数

男女有職者 男性有職者 女性有職者相関係数 標準偏回帰係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

男女有職者 男性有職者 女性有職者相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

男女有職者 男性有職者 女性有職者相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

相関係数

相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

女性有職者標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

男女有職者 男性有職者相関係数 標準偏回帰係数

男女有職者 男性有職者 女性有職者

相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

相関係数 標準偏回帰係数

男女有職者

167

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留置B票 問4.エ)買ったそうざいで夕食をすませることが多い

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) -0.025 ** -0.038

生年 -0.183 ** -0.180 ** -0.178 ** -0.161 ** -0.195 ** -0.218 **

学歴(教育年数) 0.017 0.005 0.019 0.041 0.002 -0.083

職業(威信スコア) -0.046 -0.037 -0.091 ** -0.060 0.035 0.028

世帯年収 -0.104 ** -0.079 ** -0.138 ** -0.110 ** -0.054 -0.027

モデルの説明力 R2=.040 ** R2=.045 ** R2=.037 **

 n=1322  n=799  n=523

留置B票 問18.ア)職場では自分の働きぶりが認められている

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) -0.019 ** 0.010

生年 -0.054 * -0.022 -0.054 -0.035 -0.057 0.007

学歴(教育年数) 0.171 ** 0.125 ** 0.195 ** 0.146 ** 0.130 ** 0.088

職業(威信スコア) 0.143 ** 0.071 * 0.141 ** 0.032 0.146 ** 0.121 *

世帯年収 0.099 ** 0.043 0.162 ** 0.115 ** 0.021 -0.041

モデルの説明力 R2=.033 ** R2=.049 ** R2=.020 **

 n=1345  n=814  n=531

留置B票 問18.イ)他の人とくらべて自分の仕事の量が多すぎる

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) -0.084 ** -0.070 *

生年 -0.133 ** -0.120 ** -0.179 ** -0.172 ** -0.073 -0.045

学歴(教育年数) 0.155 ** 0.072 * 0.180 ** 0.096 * 0.074 0.020

職業(威信スコア) 0.133 ** 0.053 0.133 ** 0.032 0.102 * 0.084

世帯年収 0.109 ** 0.080 ** 0.175 ** 0.150 ** 0.024 -0.006

モデルの説明力 R2=.045 ** R2=.074 ** R2=.006 n=1345  n=814  n=531

留置B票 問25.現在の健康状態

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) 0.054 * 0.062 *

生年 -0.059 * -0.055 -0.029 -0.032 -0.100 * -0.078

学歴(教育年数) 0.056 * 0.014 0.051 0.016 0.096 * 0.014

職業(威信スコア) 0.073 ** 0.048 0.060 0.022 0.127 ** 0.086

世帯年収 0.084 ** 0.067 * 0.087 * 0.076 0.081 0.057

モデルの説明力 R2=.013 ** R2=.005 R2=.017 *

 n=1328  n=803  n=524

留置B票 問26.ア)健康に気をつけて食事をしている

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) 0.143 ** 0.166 **

生年 0.233 ** 0.256 ** 0.242 ** 0.250 ** 0.240 ** 0.313 **

学歴(教育年数) 0.006 0.087 ** 0.015 0.065 0.065 0.154 **

職業(威信スコア) 0.004 -0.007 0.014 -0.046 0.057 0.064

世帯年収 0.076 ** 0.041 0.083 * 0.067 0.073 -0.004

モデルの説明力 R2=.084 ** R2=.062 ** R2=.082 **

 n=1331  n=806  n=525

留置B票 問26.イ)健康のために運動をしている

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) 0.020 0.054 *

生年 0.133 ** 0.166 ** 0.137 ** 0.161 ** 0.128 ** 0.171 **

学歴(教育年数) 0.111 ** 0.130 ** 0.144 ** 0.144 ** 0.059 0.097

職業(威信スコア) 0.097 ** 0.044 0.128 ** 0.047 0.049 0.037

世帯年収 0.095 ** 0.036 0.108 ** 0.040 0.078 0.032

モデルの説明力 R2=.042 ** R2=.048 ** R2=.024 **

 n=1330  n=806  n=524

留置B票 問26.ウ)タバコをよく吸う

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) -0.349 ** -0.377 **

生年 -0.091 ** -0.125 ** -0.086 * -0.099 ** -0.165 ** -0.219 **

学歴(教育年数) -0.047 -0.095 ** -0.122 ** -0.106 ** -0.076 -0.088

職業(威信スコア) -0.054 -0.049 -0.115 ** -0.031 -0.119 ** -0.111 *

世帯年収 -0.124 ** -0.077 ** -0.134 ** -0.088 * -0.144 ** -0.077

モデルの説明力 R2=.156 ** R2=.032 ** R2=.060 **

 n=1331  n=807  n=524

男女有職者 男性有職者 女性有職者

男女有職者 男性有職者 女性有職者相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

男女有職者 男性有職者 女性有職者相関係数 標準偏回帰係数

男女有職者 男性有職者 女性有職者相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

男女有職者 男性有職者 女性有職者相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

男女有職者 男性有職者 女性有職者

男女有職者 男性有職者 女性有職者相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 相関係数

相関係数 標準偏回帰係数

標準偏回帰係数 標準偏回帰係数

相関係数 標準偏回帰係数

相関係数 標準偏回帰係数

相関係数 標準偏回帰係数

相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

相関係数 標準偏回帰係数

相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

168

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留置B票 問26.エ)お酒をよく飲む

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) -0.410 ** -0.408 **

生年 -0.015 -0.030 0.024 0.019 -0.134 ** -0.138 **

学歴(教育年数) 0.070 ** -0.017 0.003 -0.015 0.012 -0.029

職業(威信スコア) 0.093 ** 0.042 0.041 0.040 0.016 0.013

世帯年収 -0.004 -0.016 0.031 0.017 -0.072 -0.059

モデルの説明力 R2=.167 ** R2=.000 R2=.015 *

 n=1331  n=807  n=524

留置B票 問27(1)日常生活でのストレスの有無

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) 0.091 ** 0.102 **

生年 -0.182 ** -0.155 ** -0.172 ** -0.157 ** -0.192 ** -0.162 **

学歴(教育年数) 0.135 ** 0.118 ** 0.149 ** 0.106 ** 0.165 ** 0.143 **

職業(威信スコア) 0.035 -0.023 0.070 0.010 0.014 -0.093

世帯年収 0.043 0.034 0.065 0.045 0.017 0.017

モデルの説明力 R2=.051 ** R2=.041 ** R2=.046 **

 n=1311  n=789  n=523

留置B票 問28.健康上の理由で困ったことの有無

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) 0.068 * 0.066 *

生年 -0.086 ** -0.081 ** -0.045 -0.040 -0.138 ** -0.155 **

学歴(教育年数) 0.028 0.022 0.043 0.037 0.036 -0.016

職業(威信スコア) -0.004 -0.018 0.007 -0.017 0.005 -0.035

世帯年収 0.017 0.025 0.023 0.023 0.013 0.037

モデルの説明力 0.009 ** R2=.000 R2=.014 *

 n=1305  n=783  n=522

留置B票 問31.ア)いざというとき頼りになるのは、血縁関係だ

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) 0.057 * 0.043

生年 -0.031 -0.040 -0.033 -0.037 -0.022 -0.020

学歴(教育年数) -0.051 -0.033 -0.063 -0.035 0.001 -0.020

職業(威信スコア) -0.066 * -0.047 -0.100 ** -0.087 * 0.031 0.038

世帯年収 -0.029 0.000 -0.043 0.006 -0.006 -0.011

モデルの説明力 R2=.005 R2=.007 R2=.000 n=1296  n=786  n=510

留置B票 問31.イ)自分よりも年上の人は常に敬わなければならない

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) -0.042 -0.043

生年 -0.010 -0.006 0.028 0.041 -0.074 -0.086

学歴(教育年数) 0.016 0.024 0.010 0.048 0.007 -0.033

職業(威信スコア) -0.017 -0.028 -0.043 -0.048 0.017 0.005

世帯年収 -0.021 -0.016 -0.045 -0.039 0.012 0.025

モデルの説明力 R2=.000 R2=.000 R2=.000 n=1299  n=792  n=506

留置B票 問31.ウ)子どもは親の意向には素直にしたがうべきである

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) -0.110 ** -0.116 **

生年 -0.016 -0.020 0.015 0.020 -0.076 -0.077

学歴(教育年数) 0.014 0.011 -0.008 0.027 0.004 -0.020

職業(威信スコア) -0.021 -0.042 -0.065 -0.083 0.011 0.015

世帯年収 -0.024 -0.012 -0.011 0.016 -0.048 -0.041

モデルの説明力 R2=.010 ** R2=.000 R2=.000 n=1270  n=778  n=492

留置B票 問32.10年前と比べた現在のくらし向き

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) -0.016 -0.013

生年 -0.090 ** -0.099 ** -0.149 ** -0.152 ** 0.005 -0.008

学歴(教育年数) 0.083 ** -0.001 0.106 ** 0.042 0.030 -0.093

職業(威信スコア) 0.106 ** 0.032 0.075 * -0.005 0.167 ** 0.143 **

世帯年収 0.185 ** 0.179 ** 0.152 ** 0.154 ** 0.235 ** 0.217 **

モデルの説明力 R2=.042 ** R2=.045 ** R2=.065 **

 n=1290  n=785  n=505

女性有職者相関係数 標準偏回帰係数

男女有職者 男性有職者相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

男女有職者 男性有職者 女性有職者相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

男女有職者 男性有職者 女性有職者相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

男女有職者 男性有職者 女性有職者相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

男女有職者 男性有職者 女性有職者相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

男女有職者 男性有職者 女性有職者相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

男女有職者 男性有職者 女性有職者相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

169

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留置B票 問33.15才時と比べた現在のくらし向き

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) -0.073 ** -0.072 **

生年 0.326 ** 0.280 ** 0.335 ** 0.296 ** 0.309 ** 0.256 **

学歴(教育年数) -0.111 ** -0.138 ** -0.117 ** -0.135 ** -0.141 ** -0.151 **

職業(威信スコア) 0.080 ** 0.072 * 0.092 * 0.081 * 0.030 0.077

世帯年収 0.228 ** 0.215 ** 0.185 ** 0.159 ** 0.284 ** 0.289 **

モデルの説明力 R2=.163 ** R2=.147 ** R2=.178 **

 n=1258  n=761  n=497

留置B票 問34.5年後のくらし向き

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) 0.068 * 0.061 *

生年 -0.294 ** -0.289 ** -0.299 ** -0.298 ** -0.283 ** -0.273 **

学歴(教育年数) 0.092 ** 0.032 0.095 ** 0.033 0.128 ** 0.030

職業(威信スコア) 0.021 -0.018 0.010 -0.028 0.081 0.000

世帯年収 0.023 0.043 0.040 0.066 -0.003 0.009

モデルの説明力 R2=.089 ** R2=.090 ** R2=.073 **

 n=1161  n=714  n=448

公平感因子

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) 0.033 0.043

生年 -0.117 ** -0.092 ** -0.138 ** -0.111 ** -0.082 -0.036

学歴(教育年数) 0.082 ** 0.071 * 0.070 0.080 0.117 * 0.073

職業(威信スコア) 0.032 0.053 -0.010 0.016 0.129 ** 0.129 *

世帯年収 -0.101 ** -0.125 ** -0.139 ** -0.147 ** -0.032 -0.097

モデルの説明力 R2=.028 ** R2=.036 ** R2=.022 *

 n=1127  n=709  n=418

機会競争充足感因子

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) -0.047 -0.035

生年 0.052 0.073 * 0.063 0.078 * 0.033 0.076

学歴(教育年数) 0.130 ** 0.131 ** 0.140 ** 0.162 ** 0.098 * 0.078

職業(威信スコア) 0.076 ** -0.008 0.040 -0.068 0.132 ** 0.108

世帯年収 0.101 ** 0.068 * 0.117 ** 0.098 * 0.070 0.007

モデルの説明力 R2=.025 ** R2=.031 ** R2=.016 *

 n=1148  n=724  n=423

格差肯定因子

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) 0.155 ** 0.132 **

生年 0.124 ** 0.113 ** 0.101 ** 0.095 ** 0.186 ** 0.169 **

学歴(教育年数) -0.258 ** -0.170 ** -0.258 ** -0.203 ** -0.224 ** -0.083

職業(威信スコア) -0.185 ** -0.030 -0.160 ** -0.025 -0.180 ** -0.034

世帯年収 -0.223 ** -0.187 ** -0.194 ** -0.161 ** -0.276 ** -0.256 **

モデルの説明力 R2=.122 ** R2=.092 ** R2=.118 **

 n=1155  n=726  n=428

権威主義因子

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) -0.063 * -0.080 **

生年 0.047 0.030 0.078 * 0.080 * -0.007 -0.051

学歴(教育年数) -0.143 ** -0.104 ** -0.172 ** -0.113 ** -0.103 * -0.097

職業(威信スコア) -0.115 ** -0.060 -0.141 ** -0.069 -0.094 * -0.058

世帯年収 -0.096 ** -0.058 -0.120 ** -0.085 * -0.058 -0.010

モデルの説明力 R2=.030 ** R2=.040 ** R2=.008 n=1190  n=735  n=455

野党好感因子

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) 0.013 0.023

生年 0.057 * 0.081 ** 0.052 0.076 ** 0.066 0.098 *

学歴(教育年数) 0.064 ** 0.100 ** 0.075 * 0.112 ** 0.050 0.076

職業(威信スコア) 0.011 -0.023 0.002 -0.033 0.039 0.011

世帯年収 0.008 -0.011 -0.021 -0.039 0.062 0.038

モデルの説明力 R2=.008 ** R2=.010 ** R2=.007 n=1860  n=1224  n=636

男女有職者 男性有職者 女性有職者相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

男女有職者 男性有職者 女性有職者相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

男女有職者 男性有職者 女性有職者相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

男女有職者 男性有職者 女性有職者相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

男女有職者 男性有職者 女性有職者相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

男女有職者 男性有職者 女性有職者相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

男女有職者 男性有職者 女性有職者相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

170

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与党好感因子

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) 0.008 0.002

生年 0.045 0.032 0.051 0.042 0.035 0.012

学歴(教育年数) -0.044 -0.046 -0.049 -0.045 -0.033 -0.051

職業(威信スコア) -0.008 -0.002 -0.010 0.004 0.000 -0.011

世帯年収 0.034 0.044 0.006 0.012 0.085 * 0.102 *

モデルの説明力 R2=.002 R2=.001 R2=.005 n=1860  n=1224  n=636

性別役割分業因子

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) -0.193 ** -0.189 **

生年 0.074 ** 0.073 ** 0.034 0.036 0.125 ** 0.111 **

学歴(教育年数) -0.009 -0.017 -0.001 -0.016 -0.102 ** -0.028

職業(威信スコア) 0.030 0.039 0.052 * 0.092 ** -0.093 ** -0.044

世帯年収 -0.060 ** -0.079 ** -0.061 * -0.094 ** -0.070 * -0.055

モデルの説明力 R2=.046 ** R2=.009 ** R2=.021 **

 n=2454  n=1490  n=964

正統文化活動因子

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) 0.156 ** 0.233 **

生年 0.010 0.104 ** 0.088 * 0.151 ** -0.076 0.108 *

学歴(教育年数) 0.346 ** 0.347 ** 0.362 ** 0.363 ** 0.435 ** 0.361 **

職業(威信スコア) 0.238 ** 0.101 ** 0.215 ** 0.026 0.375 ** 0.225 **

世帯年収 0.188 ** 0.064 * 0.182 ** 0.073 0.206 ** 0.046

モデルの説明力 R2=.190 ** R2=.159 ** R2=.237 **

 n=1279  n=776  n=503

大衆文化活動因子

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) -0.089 ** -0.079 **

生年 -0.184 ** -0.168 ** -0.122 ** -0.101 ** -0.297 ** -0.291 **

学歴(教育年数) 0.163 ** 0.096 ** 0.160 ** 0.137 ** 0.132 ** -0.004

職業(威信スコア) 0.088 ** 0.000 0.055 -0.038 0.120 ** 0.039

世帯年収 0.073 ** 0.059 ** 0.094 ** 0.084 * 0.038 0.044

モデルの説明力 R2=.054 ** R2=.035 ** R2=.085 **

 n=1279  n=776  n=503

消費活動因子

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) 0.159 ** 0.189 **

生年 -0.322 ** -0.276 ** -0.291 ** -0.268 ** -0.369 ** -0.290 **

学歴(教育年数) 0.273 ** 0.175 ** 0.291 ** 0.176 ** 0.344 ** 0.179 **

職業(威信スコア) 0.189 ** 0.082 ** 0.202 ** 0.076 * 0.256 ** 0.082 *

世帯年収 0.160 ** 0.110 ** 0.183 ** 0.129 ** 0.135 ** 0.086 **

モデルの説明力 R2=.197 ** R2=.164 ** R2=.195 **

 n=1325  n=804  n=521

食の健康因子

r sig. β sig. r sig. β sig. r sig. β sig.ジェンダー(男<女) 0.086 ** 0.122 **

生年 0.207 ** 0.242 ** 0.217 ** 0.237 ** 0.204 ** 0.269 **

学歴(教育年数) 0.074 ** 0.132 ** 0.096 ** 0.128 ** 0.076 0.146 **

職業(威信スコア) 0.056 * 0.014 0.076 * -0.012 0.061 0.054

世帯年収 0.105 ** 0.052 0.119 ** 0.075 0.089 * 0.019

モデルの説明力 R2=.073 ** R2=.067 ** R2=.064 **

 n=1295  n=772  n=523

男女有職者 男性有職者 女性有職者相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

男女有職者 男性有職者 女性有職者相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

男女有職者 男性有職者 女性有職者相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

男女有職者 男性有職者 女性有職者相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

男女有職者 男性有職者 女性有職者相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

男女有職者 男性有職者 女性有職者相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数 相関係数 標準偏回帰係数

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出版会.

172

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と社会格差』ミネルヴァ書房. 坂元慶行. 1988. 「『階層帰属意識の規定要因』――その時間的な変化と国際比較の観点から」『1985

年社会階層と社会移動全国調査報告書 第 2 巻 階層意識の動態』1985 年社会階層と社会移動

全国調査委員会. 坂元慶行. 2000. 「日本人の考えはどう変わったか――『国民性調査』の半世紀」統計数理研究所国民

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公平感と政治意識』.東京大学出版会. 海野道郎. 2000. 「豊かさの追求から公平社会の希求へ」海野道郎(編). 『日本の階層システム 2 不

公平感と政治意識』東京大学出版会. 海野道郎・斎藤友里子. 1990.「公平感と満足感」原純輔(編). 『現代日本の階層構造 2 階層意識の動

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173

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The Relationship between Social Stratification and Peoples’ Attitudes in Japan

Toru Kikkawa Osaka University

First, I show an overview of sociological social psychology related to social stratification in these

fifty years. Studies of class identification have been the main issue of this field. In this paper, I put stress on them as to analyze subjective feature of social status. Moreover, I examine one hundred and eleven attitude variables with using an OLS regression model. The independent variables in it are gender, age, education, occupational prestige and household income. The outcome of the analyses cannot be interpreted in simple and straight forward way. Fore the moment, I conclude that the 2005 SSM tells us diverse and complex realities of subjectiveness related to social status in contemporary Japan.

Keywords and phrases: class identification, diffusion of social attitudes

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仕事の内的報酬志向の形成要因

米田幸弘

(関西大学)

【要旨】

本稿の目的は、仕事における内的報酬志向の形成要因について明らかにすることである。

SSM2005 調査データを使用し、重回帰モデルを適用することにより、主に 2 つの知見が明らかに

なった。(1)男女ともに、仕事の自律性が高いほど、強い仕事の内的報酬志向をもつようにな

る。内的報酬志向は、経済的地位でも職業威信でも文化資本でもなく、仕事における内的報酬の

享受によって促進されると言える。(2)さらに、男女で異なる形成メカニズムが働いているこ

とも明らかになった。男性においては、就業・転職ネットワークの存在が内的報酬志向を高める

効果をもつ。しかし女性の場合は、職場内のインフォーマルなソーシャル・サポートのほうが、

就業・転職ネットワークよりも内的報酬志向を高めるより強い効果を持っていた。

キーワード:仕事の内的報酬志向、内的報酬、仕事の自律性、ソーシャル・ネットワーク

1 問題の設定

仕事のどのような側面に価値を見出すかは人それぞれであろう。ある人は、高い収入が得

られる仕事であることを重要な条件として求めるし、またある人は、自己の能力を存分に発

揮できる仕事であること、社会に貢献できるような仕事であること、といった内的報酬・内

的充実を得ることにこだわる。このような個人の仕事の価値志向は、一体何によって決まる

のだろうか。どのような人が仕事のどの側面に価値を見出す傾向にあるのだろうか。

仕事にたいする価値志向が、社会階層によって異なる意識であることは、よく知られた事

実である。海外の研究では、高い階層的地位にあるほど、能力の発揮や興味ある仕事内容、

社会への貢献といった仕事の内的報酬(Intrinsic Rewards)を重視する傾向にあることが繰り

返し指摘されている。その意味で、仕事の価値志向は広義の階層意識に含まれるといえる。

また、仕事の価値志向は階層的地位によって一方的に規定されるだけでなく、将来の階層

的地位にたいしても影響を与えうる。仕事の価値志向は、職業アスピレーションと並んで、

地位達成過程に影響を与える重要な意識要因であるとされているのである(Mortimer 1996)。

近年の格差・不平等論では、社会階層の違いが、経済的な格差だけではなく「動機」「意欲」

といった意識の格差をともなっており、このような意識の違いが階層的地位の再生産を生む

可能性が懸念されている(苅谷 2001; 山田 2004)。仕事の価値志向もまた、同様の問題関心

175

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から注目されてよい意識変数である。価値を見出せない物事にたいして、人は高い動機や意

欲をもつことはできない。そう考えると、仕事の価値志向は、仕事にたいする動機や意欲を

かたちづくる前提の部分にあたると考えることもできる。

既に述べたように、仕事にたいする価値志向が社会階層によって規定されており、階層的

地位が高いほど仕事の内的報酬志向が高いという傾向が一貫して見出されてきている。本稿

が注目するのは、内的報酬を重視するような仕事の価値志向が、いかなる要因によって形成

されるのかということである。日本では社会階層による価値志向の違いがどの程度見出され

るのだろうか。それは社会階層のいかなる次元において生じているものなのであろうか。経

済的要因によるのか、文化資本の違いによるのか、それとも何か他の要因によるものなので

あろうか。

2 先行研究と仮説の構成

本稿の目的は、仕事の「内的報酬」ではなく「内的報酬志向」を高める要因を明らかにす

ることである。前者の「どういう人が仕事で内的報酬を得ているのか」「仕事の内的報酬はい

かなる条件のもとで高まるのか」という問題にたいしては、組織マネジメントの実践的な関

心とつながっていることもあり、経営学や産業・組織心理学などで多くの知見が積み重ねら

れている。しかしそれに比べると、「どういう人が仕事で内的報酬を得られることを重要視す

るのか」「仕事のやりがいや内的充実を重要なものとみなす価値志向がいかなる条件のもとで

高まるのか」という問いについては、国内でそれほど研究蓄積があるわけではない。そこで

以下では、海外の先行研究をもとにいくつかの仮説を構成することにする。

① 経済的豊かさ仮説

幼少時もしくは現在において、経済的に恵まれている人のほうが、高い内的報酬志向をも

つという仮説である。一般的に、経済的な余裕がない場合、まず給料の高さや雇用の安定性

を求めるため、やりがいのような内的報酬にこだわる余裕がないとしばしば考えられている。

この考えは、ロナルド・イングルハートのよく知られた「物質主義 対 脱物質主義」の対比

にもとづいている(Inglehart 1977=1978)。イングルハートは、1960~70 年代に先進諸国で

生じつつあった価値志向の変化を「物質主義から脱物質主義へ」という概念で整理した。豊

かな社会において人々は、「経済的安全や身体的安全」といった物質的条件よりも「自由や自

己実現、生活の質」といった非物質的条件を重視するようになる。同様に「職業目標Job Goals」

にたいしても、「良い給料」や「失業の心配がない」といった物質的条件よりも、「仕事の成

就感」や「気の合った仲間と働く」といった脱物質的な条件をより重要とみなすようになる

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というのである(Inglehart 1977=1978) 1。

もっとも、イングルハートの議論では、物質主義と脱物質主義という価値志向の違いは、

階層差ではなく「豊かな時代に生まれ育ったかどうか」という世代差によって説明されるも

のであり、本来は社会階層の議論ではない。しかし、世代差を説明するのに「幼少時の経済

的豊かさ」という基準を持ち出しており、経済的地位を説明要因とみなす点で階層意識論の

ロジックと同型である(Houtman 2003)。その意味では、今回のようなクロスセクショナルな

分析においてもこの仮説を適用しうる。

以上の仮説を検討するための説明変数として、幼少時の経済的豊かさの指標として 15 歳時

くらしむき、現在の経済的豊かさの指標として個人年収をもちいる。

② 職業威信仮説

高い威信をもつ職業に就いている人ほど、仕事の内的報酬を重視する志向をもつという仮

説である。職業の威信は、職業にたいする不特定多数の他者の評価に依存している。たとえ

収入が高くなくても、社会的評価が高かったり、人々にとって一般的に魅力的であるとされ

る職業についていれば、仕事で内的報酬に価値を見出すようになるという関係は十分に想定

しうるものである。あるいは、そのような職業につく人は、もともと内的報酬を重視する人

であるという逆の因果関係も考えられる。

この仮説を検証するための説明変数として、職業威信スコアを用いる。既に述べたように、

職業の威信の高さは、職業にたいする不特定多数の他者の評価に依存する。そこでは、収入

が高いがゆえにある職業が羨望の目で見られるという側面もあれば、高い技能を要する職業

であるがゆえに尊敬を集めるという側面もあるだろう 2。したがって、収入や学歴といった変

数と高い相関をもつのは当然のことである。本稿の分析では、このうち、報酬は収入によっ

てコントロールされるし、技能水準は学歴によってある程度コントロールできると考えられ

る。

③ 学歴・文化資本仮説

高い学歴・文化資本を有する人のほうが、仕事にたいして高い内的報酬志向をもつという

仮説である。ある程度の知的能力がなければ、複雑性をもった高度な仕事をこなすことはで

きないし、仕事にある程度の複雑性がなければ、そこでやりがいや充実感といった内的報酬

も得にくいであろう。したがって仕事の内的報酬に意義を見出すには、高い知的能力・文化

1 ただし、イングルハートのいう「職業目標」における物質志向/脱物質志向、といった指標は、いずれも

価値の優先順位を回答者に選択させる順序づけ回答で構成されたものである。後述の④内的報酬仮説で紹介

されるメルヴィン・コーンの「仕事の価値判断」における外的利益/内的特性という指標も、同様に順序づ

け回答によるものである。それにたいして、本稿で採用する SSM2005 留置 A 票の質問項目は、個々の価値

志向についてどのくらい重要であるかを個別に回答してもらう形式となっている。このような質問形式の違

いが異なる結果をもたらす可能性に注意する必要がある。 2 都築(1998)によれば、職業威信を回答者が評価する際に、評定基準としての影響力が強いのは、①社会

への影響、②技能水準、③報酬である。

177

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資本を要することが前提になると考えられるのである。実際、欧米でおこなわれているパネ

ル調査データからは、高学歴であるほど、仕事をはじめてからも高い内的報酬志向を有する

ことが明らかにされているのである(Lindsay & Knox 1997)。他の仕事の価値志向にたいして

も、学歴や高校時代の認知能力の高さ、高校時代の成績といった条件が、就職後も長きにわ

たって仕事の価値志向に影響を与えているという研究がある(Halaby 2003) 3。

また、前出のイングルハートのいう「物質主義 対 脱物質主義」という価値機軸は、「権威

主義 対 自由主義」の価値機軸を言い換えたものにすぎず、両者の価値志向の違いは、じつ

は経済的豊かさではなく文化資本の違いによって生じているという指摘がある(Houtman

2003)。それが本当なのであれば、仕事の内的報酬志向も経済的豊かさではなく学歴のような

文化資本によって生み出された価値志向である可能性が高くなる。

以上の仮説を検討するための説明変数として教育年数をもちいる。

④ 仕事の内的報酬仮説

仕事において高い内的報酬を得ている人が、内的報酬を重要視する価値志向をもつように

なるという仮説である。ここで重要なのは、「高い内的報酬を得られる」仕事であるかどうか

は、置かれた職業条件がどのようなものであるかによって決まってくるということである。

この職業条件は階層的地位と密接に関連している。Kohn([1969] 1977)によれば、高い階層

にいる人々は、様々なことが自己の裁量内にあり、自律的な行為が可能であるような優位な

生活条件に置かれている。そのことが、外的な利益にとらわれず内的な価値基準を優先する

価値志向を持つことを可能にしているのだという。

このことが、仕事で何を重要とみなすかという価値判断にもあらわれる。すなわち、職業

条件における優位性は、収入や雇用といった「仕事の外的利益」よりも、能力の発揮や世の

中に役立つといった「仕事の内的特性」を重視する価値志向を生む(Kohn [1969] 1977)。こ

れを言い換えると、高い階層的地位には、仕事そのものに意味や充実感を感じられるような

職業条件がともなうのである。また、Mortimer & Lorence(1979)やMortimer et al(1996)で

も、パネル・データの分析にもとづいて、やりがいのような内的報酬が得られる職業条件に

置かれていることが、内的報酬を重視する価値志向をさらに強化するという関係が示されて

いる 4。

以上の仮説を検証するための変数として、仕事の自律性という尺度を構成してもちいる。

仕事の自律性は、仕事において自己の能力や裁量を発揮できるような自律的な職業条件に置

かれているかどうかをあらわす線形の指標である。仕事の内的報酬の全てをカバーするもの

3 Halaby(2003)では、外的報酬志向/内的報酬志向というよく採用される次元ではなく、企業家的/官僚

的という価値機軸を採用し、教育年数や高校時の成績が企業家的志向を高めるとしている。 4 ただし、本稿の分析のようなクロスセクショナルな分析においては、職業条件や生活条件の優位性がやり

がい志向を生むからそうなるのか、それとも、やりがいを重視するような人が、そういうタイプの職種に就

こうとするからそうなるのか、因果の向きが双方向ありうる点には留保が必要であろう。

178

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ではないが、重要な一側面を構成するものである。

⑤ 仕事上の人間関係にかんする 2 つの仮説

仕事上の人間関係が仕事の価値志向にどう影響するのかについては、いくつかの異なる可

能性を考えることができる。先行研究では、職場の人間関係にかんして男女による興味深い

違いが指摘されている。たとえば Etzion(1984)においては、職場におけるストレスを緩和

する効果をもつのが、男性では職場のソーシャル・サポートであるのに対して、女性では職

場ではなく職場外のソーシャル・サポートであることを見出している。Etzion は、自己のア

イデンティティを男性の場合は職場での役割におく傾向があり、女性の場合は家庭での役割

に置く傾向があることが関係しているのではないかという解釈を示している。これを仕事の

価値志向に適用するならば、男性においては、職場のソーシャル・サポートのような即時的

な人間関係が、仕事へのポジティブな関わりを可能にすることで内的報酬をもたらし、内的

報酬志向を高めるということになる。ただしこの実証研究はイスラエルを対象にしたもので

あり、そのまま日本に当てはまるとは限らないことに注意が必要である。

また、Offer and Schneider(2007)の示すアメリカの例では、男性の場合のみ、仕事上の人

付き合いが仕事への関与度を高める効果をもつことから、職場の人間関係がもつ意味が男女

で異なることが示されている。彼らの解釈によると、男性の場合は、仕事上の人間関係は手

段的に意味のあるものとして捉えられている。何か有益な情報を相手がもたらしてくれるか

もしれないし、組織内で影響力のある人物との関係は、自分の地位向上にとって有利に働き

うる。それにたいして、女性の場合は、仕事上の人間関係が自分のキャリアに貢献する資源

として積極的に捉えられておらず、仕事上の頻繁な人付き合いは負担になりがちであるとい

う。この知見が仕事の価値志向にも適用できるとするならば、男性にとってはコネのような

手段的な人間関係の存在が、仕事へのポジティブな関わりを可能にすることで内的報酬を高

め、内的報酬志向を高めるという可能性が考えられる。

以上の仮説を検討するための説明変数として、即時的な人間関係の指標として職場ソーシ

ャル・サポート、手段的な人間関係の指標として就業・転職ネットワークという 2 つの変数

を使用する(指標の説明については表 3 参照)。

3 使用データと変数

3.1 目的変数

SSM2005 では、仕事の価値志向について問う質問項目がいくつか含まれている。本稿では、

留置票問 28「次のような仕事に関することがらは、あなたにとってどの程度重要でしょうか。

それぞれについてあてはまる番号をひとつ選び、○をつけてください」という質問項目から、

因子分析によって潜在因子を抽出したものを目的変数として用いる。留置 A 票問 28 に含ま

179

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れる 8 項目全てを因子分析にかけた結果が表 1 である。第 1 因子は「自分の能力を発揮でき

ること」の因子負荷量が.743 と最も高く、次いで「興味のある仕事であること」「世の中の

ためになる仕事であること」「職場の仲間と共同で作業ができること」の順にそれぞ

れ.677、.664、.398 と高い因子負荷量を持っている。いずれも仕事そのものから得られる内

的報酬・内的充実を重要とみなす点で共通している。この第 1 因子を「仕事の内的報酬志向」

と名づける。第一因子の因子負荷量が高かった 4 項目の単純集計は表 2 に示した。

第 2 因子と第 3 因子は本稿の分析で取り扱わないので詳しく述べることは省略する。しか

しここで注目すべきなのは因子間相関の高さである。これら 3 つの価値志向のあいだに

は、.318~.444 もの高い正の相関がある。つまりこれらの価値志向は、一方が重要であれば

他方は重要でないというような排斥的な関係にはなく、むしろ、ある価値を重視する人は他

の価値も重視する傾向にあるのである。したがって、いずれの価値を重要とみなすかの優先

順位を回答者に選択させる順序づけ回答を分析に用いる場合は、異なる価値志向の間にある

高い正の相関関係が見落とされてしまう点に注意が必要であろう。

表 1 因子分析による目的変数の抽出

仕事の内的

報酬志向

ワークライフ

バランス志向

物質的

報酬志向 共通性

問 28.オ) 自分の能力を発揮できること .743 -.073 .093 .580問 28.ウ) 興味のある仕事であること .677 .028 -.041 .451

問 28.カ) 世の中のためになる仕事であること .664 -.004 -.086 .400

問 28.エ) 職場の仲間と共同で作業ができること .398 .104 .033 .217

問 28.キ) 働く日や時間の融通がきくこと -.037 .846 -.050 .670 問 28.ク) 仕事と家庭を両立できること .086 .618 .075 .473

問 28.ア) 失業の心配がないこと -.028 -.044 .685 .447 問 28.イ) 収入が多いこと .000 .057 .648 .437

固有値 2.286 .764 .624 分散% 28.581 9.546 7.801

仕事の内的報酬志向 1

因子間相関 ワークライフバランス志向 .398 1 物質的報酬志向 .444 .318 1

N=1978 主因子法プロマックス回転

180

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表 2 仕事の内的報酬志向(質問項目ごとの単純集計)

非常に重要

である

重要で

ある

どちらとも

いえない

重要では

ない

まったく重

要ではない N

興味のある仕事であること 男性 27.1 50.5 18.0 3.9 0.5 1076

女性 23.3 55.3 18.2 3.0 0.2 919

全体 25.4 52.7 18.1 3.5 0.4 1995

現場の仲間と共同で作業ができること 男性 13.2 45.7 29.5 8.6 3.9 1077

女性 15.0 49.7 26.5 7.5 1.3 918

全体 14.0 47.5 28.1 8.1 2.2 1995

自分の能力を発揮できること 男性 31.5 55.1 11.7 1.2 0.5 1079

女性 22.5 60.5 14.7 1.8 0.4 919

全体 27.4 57.6 13.1 1.5 0.5 1998

世の中のためになる仕事であること 男性 16.5 46.2 31.4 4.0 1.9 1076

女性 14.1 44.7 35.7 4.8 0.7 919

全体 15.4 45.5 33.4 4.4 1.3 1995

単位% 有職者のみ

3.2 説明変数

重回帰分析の説明変数に投入されるのは、年齢、年齢 2 乗、ライフステージ、教育年数、

個人年収、15 歳時くらしむき、職業威信スコア、職業総合 8 分類、仕事の自律性、職場ソー

シャル・サポート、就業・転職ネットワーク、の 11 種類である。ただし、職業威信スコアと

総合 8 分類は同時に投入すると多重共線性を生ずるため、同時投入を避けて複数のモデルに

わけて分析する。変数についての詳しい説明は表 3 にまとめて示した。仕事の自律性の尺度

については、4 つの質問項目の主成分得点を用いる。質問項目と主成分分析の詳細は表 4 に

示した。さらに使用するすべての変数の基本等計量を表 5 において示した。

181

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表 3 説明変数の一覧

変数名 質問項目の情報

年齢 調査時満年齢

ライフステージ 未婚/既婚子なし/18 歳未満子あり/18 歳以上子あり(=基準)

教育年数 6 年~18 年

15 歳時くらしむき

面接票問 12「その頃(中学 3 年生の時)あなたのお宅のくらしむきは、

この 5 つに分けるとすればどれに当たるでしょうか。当時のふつうの

くらしむきとくらべてお答えください」。1=「豊か」~5「貧しい」ま

での 5 段階を反転。

個人年収 34 段階の連続量

非正規雇用 臨時雇用・パート・アルバイト、派遣社員、契約社員・嘱託を合わせ

たダミー変数。

職業威信スコア 95 年版にもとづく。総合 8 分類と同時投入はしない。

職業総合 8 分類 専門/大ホワイト/中小ホワイト/自営ホワイト/大ブルー/中小ブ

ルー/自営ブルー/農業、の 8 分類をダミー変数として用いる。基準

カテゴリは中小ブルーカラー。

仕事の自律性 面接票問 5「今の職場で、これらの事柄があなたの場合どの程度あては

まるか教えてください」から 4 項目を主成分分析(表 4 参照)。

職場ソーシャル・ サポート

留置 A 問 26(2)「過去 1 年間に、あなたは誰かに悩みごとの相談をした

ことがありますか。どんなささいな事でもかまいません。」という多重

回答項目から、「3 職場や仕事関係の人」を選択=1、非選択=0 とした

2 値変数。

就業・転職 ネットワーク

留置 A 問 27「かりに、あなたが、これから就職や転職をするとしたら、

仕事の紹介や仲介で力になってくれそうな人はいますか。実際にあな

たの力になってくれそうな人を思い浮かべ、その人の仕事をお答えく

ださい。」という多重回答項目から、「いない」「わからない」を除く選

択肢から単純加算後、以下のようにリコード。1=「1 人いる」、2=「2人いる」、3=「3 人いる」、4=「4 人以上いる」。

表 4 仕事の自律性(主成分分析)

共通性 因子負荷量

問 5d. 自分の能力が発揮できる .702 .838 問 5b. 自分の意見を反映させることができる .650 .806

問 5e. 自分の経験を生かせる .627 .792

問 5a. 仕事の内容やペースを決めることができる .481 .694

固有値 2.461 寄与率 61.569

Cronbach’s α .782

N=3966 5

5 本稿の分析は、使用できる変数の事情から、留置 A 票回答者のみが分析対象である。しかし、仕事の自

律性の項目は面接調査票に入っており、留置 B 票回答者のサンプルも含まれているため、主成分分析の段

階では A 票回答者の倍近いサンプル数になっている。

182

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表 5.基本等計量

男性 女性 平均値 標準偏差 平均値 標準偏差

仕事のやりがい志向 0.037 0.866 -0.019 0.880 年齢 46.288 12.622 45.917 12.522

未婚子無し 0.202 0.402 0.184 0.388

既婚子無し 0.064 0.245 0.053 0.224

18 歳未満子有り 0.355 0.479 0.319 0.466

18 歳以上子有り 0.379 0.485 0.443 0.497

教育年数 12.949 2.404 12.363 1.887

15 歳時くらしむき(反転前) 3.159 0.869 2.996 0.847

個人年収 518.650 392.576 210.346 202.513

非正規雇用 0.103 0.304 0.463 0.499

職業威信 52.610 9.469 49.267 7.970

専門職 0.145 0.352 0.185 0.388

大ホワイト 0.176 0.381 0.107 0.309

中小ホワイト 0.123 0.329 0.227 0.419

自営ホワイト 0.091 0.288 0.092 0.290

大ブルー 0.080 0.271 0.071 0.257

中小ブルー 0.247 0.431 0.244 0.430

自営ブルー 0.086 0.280 0.032 0.175

農業 0.053 0.223 0.042 0.201

仕事の自律性 0.103 0.966 -0.176 0.971

職場ソーシャル・サポート 0.315 0.465 0.381 0.486

就業・転職ネットワーク 0.831 1.117 0.554 0.916

4 分析

この節では、男女別に重回帰分析の結果を検討していく。男性の重回帰分析の結果(表 6)

からみていこう。

まず、モデルの決定係数について述べると、最も高いモデル 5 でも 7%程度にとどまって

いる。階層や職業条件による説明力は、決して高くはないとまずは言えるだろう。コントロ

ール変数となっている年齢やライフステージから確認すると、「既婚子なし」が一貫して有意

な効果を持っている。これは、子どもはいないが、家事を負担(少なくとも分担)してくれ

る配偶者がいることで、もっとも仕事に専念・没入しやすい条件が揃っているためだと考え

られる。あるいは、仕事中心のライフスタイル実現のために、子を持たないという選択をし

た人が含まれているためだろう(Johnson 2005)。

183

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表 6. 仕事の内的報酬志向の重回帰分析 (男性)

相関係数 モデル 1 モデル 2 モデル 3 モデル 4 モデル 5

年齢 -.073 * -.019 -.049 -.035 -.049 -.030 年齢 2 乗 -.015 .008 -.005 -.006 -.011 -.011

未婚子無し .016 .022 .037 .013 .031 .019

既婚子無し .114 ** .112 ** .116 ** .111 ** .117 ** .105 **

18 歳未満子あり .013 .026 .037 .021 .034 .016

18 歳以上子あり(基準) -.083 * ---- ---- ---- ---- ----

教育年数 .115 ** .058 .073 .050 .061 .070

15 歳時くらしむき .073 * .037 .024 .036 .027 .016

個人年収 -.004 -.031 -.045 -.033 -.045 -.054

非正規ダミー -.028 -.002 .033 .013 .037 .034

職業威信 .110 ** .087 * .067

専門 .151 ** .156 ** .129 ** .113 *

大ホワイト -.001 .051 .049 .046

中小ホワイト -.057 * -.009 -.017 -.031

自営ホワイト -.006 .044 .016 .008

大ブルー .000 .044 .054 .052

中小ブルー(基準) -.096 ** ---- ---- ----

自営ブルー .027 .085 * .053 .055

農業 .007 .068 .046 .058

仕事の自律性 .115 ** .147 ** .137 ** .115 **

職場ソーシャル・サポート .098 ** .051

就業・転職ネットワーク .183 ** .151 **

調整済 R2 .023 ** .040 ** .033 ** .045 ** .070 **N 876 876 876 876 876

** P<.01, * P<.05、モデル 1~5 の数値は標準化偏回帰係数

モデル 1 では職業威信が高いほど内的報酬志向が高くなるという有意な関係が、弱い関連

ながらあらわれている。しかし、仕事の自律性を投入したモデル 2 では職業威信の効果は有

意でなくなっている。職業威信のもつ影響は、威信の高い職業の自律性が高い傾向をもつこ

とによって生じていたことがわかる。そこでモデル 3~5 では、総合 8 分類による職業ダミー

変数を投入している。ここでは、一貫して有意な効果をもつのは専門職のみである。専門職

の効果は、仕事の自律性や仕事上の人間関係の変数を投入することで少しずつ低下している。

専門職が内的報酬志向を高める理由は、仕事の自律性や仕事上の人間関係の特性によっては

一部しか説明できないことがわかる。

仕事の自律性はどのモデルにおいても 1%水準で有意であり、内的報酬仮説の妥当性を示

184

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しているといえる。それにたいして、①経済的豊かさ仮説や②職業威信仮説、③学歴・文化

資本仮説はいずれも当てはまらない。

最後に、職場ソーシャル・サポートは有意でないのに対して、就業・転職ネットワークは

有意な強い効果をもっている。このことがもつ意味は、最後の議論で女性の結果と照らし合

わせて考察することにする。

表 7. 仕事の内的報酬志向の重回帰分析 (女性)

相関係数 モデル 1 モデル 2 モデル 3 モデル 4 モデル 5

年齢 -.026 .005 -.052 -.028 -.075 -.048 年齢 2 乗 -.049 -.014 -.040 -.029 -.049 -.028

未婚子無し -.032 -.063 -.061 -.062 -.060 -.062

既婚子無し .065 * .040 .043 .038 .039 .049

18 歳未満子あり .026 -.005 -.019 -.027 -.037 -.037

18 歳以上子あり -.029 ---- ---- ---- ---- ----

教育年数 .150 ** .098 * .081 .055 .049 .053

15 歳時くらしむき .073 * .036 .020 .034 .020 .019

個人年収 .151 ** .069 .052 .059 .040 .013

非正規ダミー -.140 ** -.083 * -.061 -.033 -.029 -.032

職業威信 .172 ** .075 .049

専門 .205 ** .176 ** .126 * .093

大ホワイト .044 .062 .044 .022

中小ホワイト -.133 ** -.051 -.073 -.074

自営ホワイト .122 ** .129 ** .092 * .102 *

大ブルー -.048 .000 -.001 -.003

中小ブルー(基準) -.109 ** ----- ------ -----

自営ブルー -.060 -.034 -.064 -.053

農業 -.015 .023 .011 .014

仕事の自律性 .218 ** .184 ** .172 ** .151 **

職場ソーシャル・サポート .191 ** .140 **

就業・転職ネットワーク .172 ** .092 *

調整済 R2 .045 ** .072 ** .074 ** .097 ** .121 **

N 758 758 758 758 758

** P<.01, * P<.05

続いて、女性の重回帰分析の結果(表 7)の検討にうつろう。まず、重回帰モデルの決定

係数は最も高いモデル 5 で 12%程度であり、男性よりも階層や職業条件が高い説明力を持っ

ていることがわかる。女性においては、コントロール変数である年齢とライフステージにお

185

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いて有意な効果がまったくみられない。

モデル 1 では、学歴が高いほど内的報酬志向が高くなり、非正規雇用者は内的報酬志向が

低くなるという有意な関係が、弱い関連ながらみられる。しかし、モデル 2 で仕事の自律性

を投入するとこの関連は消えてしまう。学歴と非正規雇用が内的報酬志向に与える影響は、

学歴が高い人が自律性の高い仕事をする傾向にあること、非正規雇用者の仕事の自律性が低

い傾向にあることによって生じていたことがわかる。

モデル 3~5では職業威信スコアではなく総合 8分類による職業ダミー変数を投入している。

一貫して有意な効果をもっているのは自営ホワイトのみである。ただし、仕事の自律性を投

入することによって、その効果は弱まっている。自営ホワイトが内的報酬志向を高める理由

は、自営ホワイトが高い自律性をもった仕事であることによって一部は説明できるというこ

とである。それに対して、専門職の効果は、仕事の自律性と仕事上の人間関係を同時投入し

たモデル 5 では、5%水準での有意差が消えてしまう。専門職が内的報酬志向を高める理由の

一部は、専門職が高い自律性をもった仕事であることや、仕事上の人間関係の特性によって

おり、それによってかなりの部分を説明できることを示している。

仕事の自律性はどのモデルにおいても 1%水準の有意性をもって強い効果をもっている。

男性の場合と同様に、④内的報酬仮説が当てはまることを示している。それにたいして、①

経済的豊かさ仮説や②職業威信仮説、③学歴・文化資本仮説は、男性と同様いずれも当ては

まらない。

仕事上の人間関係については、職場ソーシャル・サポートと就業・転職ネットワークの双

方が有意な効果を持っている。効果が強いのは、職場ソーシャル・サポートのほうであり、

男性とは対照的な結果となっている。

以下に男女別の分析の結果を表 8 にまとめておく。◎は、標準化偏回帰係数がつねに.110

以上の比較的強い効果をもつ変数であることを示している。○は、それよりも弱いながら有

意な効果をもつ変数である。男女に共通するのは内的報酬と就業・転職ネットワークの効果

であり、女性のみに当てはまるのは職場ソーシャル・サポートの効果である。これらの結果

がいかなる意味をもつのかを最後に議論しよう。

表 8 . 分析結果の要約

男 女

経済的豊かさ × ×

職業威信 × ×

学歴・文化資本 × ×

内的報酬 ◎ ◎

職場ソーシャル・サポート × ◎

就業・転職ネットワーク ◎ ○

186

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5 議論

本稿では、仕事の内的報酬志向がどのような要因によって決まるのかを明らかにするため

の分析をおこなった。その結果、階層変数の説明力は全体としては決して高くなかったもの

の、おおきくわけて 2 つの知見が見出されたといえる。まず第 1 に、男女共通して仕事の自

律性が内的報酬志向を高める有意な効果をもつことが明らかにされた。仕事の自律性は、仕

事の内的報酬をもたらす職業条件の 1 つである。それにたいして、収入や職業威信、学歴な

どは、いずれも仕事の内的報酬志向に有意な効果をもたなかった。

これまで仕事において内的報酬を重視するような価値志向は、階層的な優位性によっても

たらされるものであることが海外の様々な先行研究から指摘されてきた。しかしそれは(日

本に限って言えば)、高い階層的地位にある人が経済的に恵まれているためでも、威信の高い

職業についているためでも、高い文化資本を有するためでもない。それは仕事で内的報酬が

得られるような優位な職業条件に置かれているためなのである。このように考えると、お金

や威信とは別に、「仕事そのものに意味が感じられる」「仕事そのものから内的充実が得られ

る」という経験を可能にするような職業条件もまた、階層的地位がもたらす優位性として重

要な次元を構成していると言えるのではないだろうか。

ただし、本稿で用いた仕事の自律性は、仕事の内的報酬の重要な部分を構成するものの、

その全てをカバーするわけではない。例えば、好きな仕事に取り組んでいるという充実感や、

社会の役に立っているという寄与感などは自律性に含まれない。分析では、男性の専門職や

女性の自営ホワイトといった職種が、仕事の自律性という要因には還元できない独自の効果

を持っていたが、これも今回の変数ではコントロールできなかった何らかの内的報酬によっ

てもたらされている可能性が高いと考えられる。仕事の自律性以外の何らかの内的報酬をも

たらすような特性が、男性の専門職や女性の自営ホワイトには含まれているため、独自の効

果が消えずに残ったと解釈できるのである。

第 2 の知見として、仕事上の人間関係については、男女で異なる影響をもっていることが

明らかになった。まず、職場ソーシャル・サポートは、女性のみに効果をもっていた。仕事

で相談できる人が職場にいるということが、女性の仕事の内的報酬志向を高めていたのであ

る。職場で信頼できる関係性を築けていることが、それ自体で内的充実、内的報酬となって

おり、そのために、職務の面でも内的充実を積極的に追及しようという価値志向が育まれる

のだと考えられる。

それに対して、就業・転職ネットワークの存在は、男女ともに内的報酬志向を高めるが、

男性のほうがより強い効果を持っていた。いざというときに仕事を見つける上で頼れる人が

いるという安心感が、今ある仕事へのやりがいにこだわることを可能にしているのかもしれ

ない。あるいは、そのような有益な人脈を築けていること自体が、男性における仕事での充

187

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実ぶりを示しているのかもしれない。いずれにせよ男性の場合、メンタル・サポート的な人

間関係よりも、キャリアや仕事上の具体的な問題解決につながるような実用的な人間関係の

ほうが切実で重要だと言えそうである。女性の場合は、もともと非正規雇用者の割合も多く、

コネや人脈になりうるような人間関係が仮にあったとしても、それが男性ほど仕事上のキャ

リアに大きな意味を持たないし、持たせる必要性も薄い。男性ほど家計を支える責任が重く

ないケースが多いことも関係していると思われる。

以上のような男女の傾向をあえて誇張して解釈するならば、男性においては、自分の就業

やキャリアの上で有用であるような手段的な人間関係が、女性においてはメンタル・サポー

ト的な機能をもつ即時的な人間関係が、内的報酬志向を育むためにより重要な要因になって

いる、と言えそうである。このように、何が内的報酬になりうるのかが男女で異なるのは、

職業にかんして置かれている社会的位置が異なるためなのである。

最後に、本稿のもつ問題点と今後の課題について述べる。第 1 に、使用した職業条件につ

いての変数が限られていたため、専門職や自営ホワイトなどの職業がもつ価値意識の形成効

果がどのようなメカニズムによって生じたものなのか、今回の分析では十分に特定しきれな

かった。第 2 に、一時点のみの分析であるため、職業条件と価値志向の間にある因果の方向

性をあらかじめ理論的に想定したうえで結果を解釈せざるをえなかった。この問題は、欧米

で盛んに行なわれているようにパネル・データを用いれば解決できる。同様に、仕事の価値

志向が地位達成過程にどのくらいの影響を与えるのか、といった問題の検証も、パネル・デ

ータを用いることが不可欠であり、今後の重要な分析課題になりうるだろう。

【文献】

Etzion, Dalia, 1984, “Moderating Effect of Social Support on the Stress-Burnout Relationship,” Journal of Applied Psychology; 69(4): 615-622.

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Social Determinants of Intrinsic Job Values

Yukihiro Yoneda

Kansai University

The objective of this paper is to address the formation of intrinsic job values. Using SSM 2005 survey data, and by applying multiple regression models, we essentially clarified two formation mechanisms.

1) For men and women, greater work autonomy is associated with higher intrinsic job values: These values are neither promoted by economic position nor by occupational prestige or cultural capital, but by experiences of having intrinsic rewards in work.

2) Moreover, this study reveals different dynamics for men and women. Among men, social ties as means of getting a new job have a positive influence on intrinsic job values. However, among women, informal social support at the workplace has a stronger positive influence than using social ties as means to get a new job.

Key words: Intrinsic Job Values, Intrinsic Rewards, Work Autonomy, Social Networks

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日本と韓国における男性の性別役割分業意識

裵智恵

(慶應義塾大学大学院 後期博士課程)

【要旨】

本研究の目的は、2005 年の日本 SSM と韓国 SSM 調査を用いて、両国の男性における性別役割

分業意識の共通点と相違点を比較・検討することにある。分析の結果、次のような知見が得られ

た。第一に、日本と韓国では、性別役割分業意識についてほぼ同様の因子構造を持っており、そ

の頻度分布、平均値においてもあまり差が見られない。第二に、性別役割分業意識の規定要因と

して両国で共通して効果が見られたのは、配偶者の就労地位であった。第三に、回帰モデルの説

明力は、韓国より日本の方が若干高いものの、両国ともに非常に低い結果となり、いずれの国で

も、男性の性別役割分業意識は「脱階層的」な性格を有することが示唆される。

キーワード:男性、性別役割分業意識、日韓比較

1 問題意識

「男性は仕事、女性は家庭」という性別役割分業は、日本と韓国を含む東アジアにおいて、

国家主導の経済成長が成功した背景の一つとして指摘されてきた(조은 2000)。両国で共通

して見られる男性の長時間勤務、M 字型の年齢別女性労働力率などは、このような日本と韓

国の社会的事情を説明するものと言える。

しかし、女性の社会進出、男女平等という理念の広がりなどにより、性別役割分業に対す

る疑問が提起されるようになった。また、日本と韓国ともに、「女性たちの静かな革命」とも

言われる急速な少子化は、男性の家族役割に対する社会的要求・期待を呼び起こした。こう

した現実を反映し、学問的な領域においても、性別役割分業をめぐる実態と意識についての

研究が活発に行われている。しかし、先行研究をみると、日本においても、韓国においても、

女性を対象とする場合が圧倒的に多く、男性を取り上げたものはそれほど多くはない。男性

を対象とする場合は、男性の家族役割参加の程度とそれに影響を及ぼす要因を分析するもの

がほとんどであり、性別役割分業の実態の側面からアプローチする傾向があった。だが、あ

る社会の性別役割分業とそれから派生する諸問題を把握するためには、女性だけではなく、

もう一方の当事者である男性の意識にも注目する必要があるだろう。

そこで、本稿では、日本と韓国の男性を取り上げ、彼らの性別役割分業意識について検討

したい。日本と韓国は、儒教文化の伝統を共有し、家父長的な家族主義が社会全体に影響を

191

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及ぼしてきたという点などから(한국여성개발원 1992;김원식 2004)、文化的共通性が多い

と言われている。冒頭にも述べた産業化過程における国家主導の経済発展など、近年におい

ても類似した社会・経済的経験をしてきた。しかし、一方では、日本と韓国の相違点も指摘

されている。例えば、瀬地山(1996;1997)によると、同じ儒教文化圏であるとしても、日

常生活における儒教的規範の浸透度は、韓国の方がはるかに高い。彼が言うように、儒教は

男女の区分をきわめて強く意識させる規範であるという点を考慮すれば、儒教的規範の浸透

度における両国の差は、男性の性別役割分業意識にも反映されることが予想できる。

本稿の目的は、こうした日本と韓国の類似点と相違点を念頭におきながら、両国の男性に

おける性別役割分業意識の現状と、その規定要因を解明することにある。

2 先行研究の検討

これまで社会学の分野では、性別役割分業をめぐる意識や実態について、多くの研究成果

が蓄積されてきた。しかし、性別役割分業についての意識をテーマとする場合は、男性を対

象とした研究が少ないことは前述したとおりである。また、男性と女性をともに分析対象と

した少数の先行研究をみると、その分析結果は必ずしも一致しているとは言えない。そこで

まず、男性..

が分析対象となった先行研究を中心................

に、性別役割分業意識に影響を及ぼす要因に

ついて検討していきたい。

性別役割分業に対する態度や意識に影響を及ぼす要因として、既存の研究で取り上げられ

てきたのは、世代や階層のような社会的地位変数が多い(竹ノ下 2005) 1。例えば、生年世

代仮説は、世代と性別役割分業意識の関連についてのものであり、若い世代であるほど、革

新的な性別役割分業意識を持つと仮定する。日本では、先行研究において生年世代仮説と整

合的な結果が得られており(吉川 1998;嶋﨑 2006;竹ノ下・西村 2005)、韓国の場合も、

この仮説を支持する研究が多い(문영표 1990;윤경자 1997;이성희・김태현 1989;이정아

1997)。しかし、최규련(1984)の研究では、男性の性別役割分業意識が年齢によってはあま

り変わらないという結果が報告されている。日韓比較を行った竹ノ下と西村(2005)におい

ても、韓国男性の場合、年齢は統計的に有意な効果を持たなかった。

学歴差仮説は、教育の効果に注目する。この仮説は、教育には、単純な知識だけではなく、

男女平等のような価値を育む機能があるということを前提としている(山口 1999)。よって、

学歴(教育水準)が高くなるほど、性別役割分業に否定的になる。実際、竹ノ下ら(2005)

の研究、白波瀬(2006)の研究では、教育水準が高いほど、革新的な性別役割分業意識を持

1 1995 年 SSM データを分析した吉川(1998)は、性別役割分業意識の形成要因として、①生年世代仮説、

②夫の職業的地位仮説、③妻の職業的地位仮説、④学歴差仮説、⑤世帯収入仮説、⑥家計参入度仮説、⑦伝

統・因習的価値志向仮説などをあげている。本稿では、このうち、⑦を除いた①~⑥までの仮説を主に採用

し、先行研究のレビューとデータの分析を行う。

192

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つ傾向が見られる。韓国でも、同様の分析結果(문영표 1990;이은아 2006)が報告されて

おり、学歴差仮説を支持している。一方では、日本においても、韓国においても、教育水準

と男性の性別役割分業意識の間には関連が見られないとして、学歴差仮説を棄却する研究も

ある(例えば、吉川 1998;이형실・옥선화 1985)。そこでは、教育の社会化機能に対する疑

問が提起されている。

学歴差仮説が学校の社会化に注目するものであれば、家庭内の社会化という観点から、性

別役割分業意識の規定要因を説明しようとする仮説もある。世代間伝達仮説がそれである。

この仮説は、特に、母親の就業経験に焦点を当てる。母親の就業は、それ自体が性別役割分

業に反するものであり(Baruch and Bamett 1986)、子どもの性別役割分業に関する意識に影

響を及ぼす可能性がある。しかし、母親の就業の有無と子どもの性別役割分業意識の関連に

ついてのこれまでの実証研究は、必ずしも一貫した結果を報告しているわけではない。すな

わち、母親の就業が子どもの性別役分業意識に影響を及ぼしているという研究(이선미・

김경신 1996;Stephan and Corder 1985)と、子どもの性別役割分業意識は母親の就業有無に

よってあまり差がなかったという研究結果(정종희 1983;조영은 1983)が共存しているの

である。また、これらの研究は、未成年の子どもを対象にしているため、成人にとって自分

の成長期における母親の就業が、どのような影響を及ぼしているかは明らかにされていない。

成人を対象とした研究はそれほど多くないが、尾嶋(1998)では、成人女性において母親の

就業の影響が認められている。白波瀬(2006)では、男性の場合においてもその効果が認め

られており、就業の有無自体よりは、その内容が影響を及ぼすという結果が得られた。

男性およびその配偶者である女性の職業と関連する変数も、男性の性別役割分業意識に影

響を及ぼすことが予想される。まず、男性本人の職業的地位仮説は、男性自身の職業的地位

が及ぼす影響に焦点を当てる。この仮説で論点になるのは、男性の職業的地位が高いことが

妻の専業主婦志向につながるという「中流核家族の理念」である(吉川 1998:56)。つまり、

男性の職業的地位が高いほど配偶者には専業主婦になることを期待し、結局、「男性は仕事、

女性は家庭」という性別役割分業に賛成するようになると仮定する。日本の先行研究を見る

と、男性の職業的地位(あるいは職業威信)と彼らの性別役割分業意識は関連があるという

結果も報告されてはいるが(嶋﨑 2006;松田 2006)、両者の間には有意な関連が見られない

と報告するものが多い(吉川 1998;白波瀬 2006;竹ノ下・西村 2005)。韓国では、男性の

職業関連変数が性別役割分業意識に及ぼす影響を検討した研究は稀であるが、日韓比較を行

った竹ノ下らの研究(2005)では、有意な効果は認められず、男性の職業的地位仮説は棄却

される結果となっている。

配偶者である女性の就労関連要因の影響は、女性の就業の絶対的な側面と相対的側面の 2

つにわけて考えることが可能である(吉川 1998)。前者は、配偶者の就業それ自体を重視す

る。すなわち、配偶者の就労地位が男性の性別役割分業意識に影響を及ぼすと仮定しており、

193

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配偶者就労地位仮説と呼ぶことができる。日本では、配偶者がフルタイムで働く場合(竹ノ

下・西村 2005)、共働きである場合(嶋﨑 2006;白波瀬 2006)、男性は革新的な性別役割分

業意識を持つことが報告されている。しかし、配偶者の職業威信を用いた吉川の研究(1998)

では、その効果は認められなかった。韓国においても、妻の就業が持つ効果を指摘する研究

が多く(최규련 1984;이형실・옥선화 1985;이미숙 2000)、共働き家庭の男性の方がより

柔軟な性別役割分業意識を持つことが明らかになっている。

一方、配偶者の就業の相対的側面を重視する立場では、女性の就業による家計への経済的

貢献度に目を向け、配偶者の家計参入度が高いほど男性の性別役割分業意識が革新的になる

と仮定する。家計参入度仮説とも呼ばれるものである。 吉川(1998)は、この家計参入度仮

説が支持されたという分析結果から、男性の性別役割分業意識は、「実績評価主義」的な性格

を持つと解釈している。しかし、嶋﨑(2006)では、配偶者の家計参入度が男性の性別役割

分業意識に及ぼす影響は、統計的に有意ではなかった。竹ノ下ら(2005)の日韓比較の分析

結果でも、日韓ともに、その効果は見られなかった。

最後に、世帯収入仮説では、男性の性別役割分業意識は、世帯収入の絶対的な多宴に規定

されると仮定される(吉川 1998:57)。世帯収入が高く、妻が働く必要がない場合、男性は

性別役割分業に賛成することになる。逆に、世帯収入が低く、妻が働かざるを得ない場合は、

この状況を肯定し、性別役割分業に反対する可能性があるという。しかし、吉川(1998)や

竹ノ下ら(2005)においては、世帯収入と男性の性別役割分業意識の間には有意な関連は認

められていない。一方、韓国では、世帯収入が高い場合、性別役割分業を否定する傾向を示

すという結果が多い(이성희・김태현 1989)。

以上、日本と韓国における男性の性別役割分業意識に関する先行研究を見てきたが、両国

ともに、実証レベルでの研究の蓄積は非常に少ない状況である。仮説によっては、矛盾した

結果も報告されている。特に韓国の研究結果は、非一貫的なものが多い。韓国の場合、この

分野に関しては、全国規模のランダムサンプリングを用いた調査を分析した研究が少なく、

それぞれ特定の地域、あるいは特定の年齢や職業の男性を対象としていることも、その原因

であると思われる。以下では、このような両国における研究状況を考慮し、全国規模のラン

ダムサンプルによって得られたデータから日本と韓国の男性を取り上げ、上記の仮説群につ

いて検証する。

3 データ、変数、方法

3.1 データ

分析に使用するデータは、2005 年社会階層と社会移動日本調査(The Social Stratification and

Social Mobility Survey in Japan, 2005、以下「2005 年SSM日本調査」)と 2005 年社会階層と社

194

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会移動韓国調査(The Social Stratification and Social Mobility Survey in Korea, 2005、以下「2005

年SSM韓国調査」)のうち、有配偶の男性サンプル 2である。

3.2 変数

① 従属変数

2005 年 SSM 日本調査と韓国調査では、「男性は外で働き、女性は家庭を守るべきである」

「男の子と女の子は違った育て方をすべきである」「家事や育児には、男性よりも女性がむい

ている」の 3 項目から、性別役割分業意識を測定している。本稿では、これらの 3 つの項目

を用い、日本と韓国における男性の性別役割分業意識について検討する。これらの質問項目

について、「そう思う」に 1 点、「どちらかといえばそう思う」に 2 点、「どちらかといえばそ

う思わない」に 3 点、「そう思わない」に 4 点を与え、指標化した。 その後、国別に因子分

析を行い、両国の男性における性別役割分業意識関連項目の因子構造を比較した。

表 1 性別役割分業意識に関する因子分析結果

固有値 寄与率 固有値 寄与率

第1主成分 1.775 59.158 1.791 59.687

第2主成分 0.690 23.004 0.658 21.918

第3主成分 0.535 17.838 0.552 18.395

日本 韓国

因子負荷量(日本)

因子負荷量(韓国)

「男性は外、女性は家庭」 0.808 0.802

「男の子と女の子は、違った育て」 0.718 0.772

「家事・育児は、男性より女性」 0.778 0.743

因子分析の結果は、日本と韓国で非常に類似した傾向を見せている。日韓ともに、3 つの

性別役割分業意識は、1 つの因子で代表されており、この 1 つの因子が分散の約 60%を説明

している。各因子の固有値および寄与率、それぞれの因子負荷量を見ても、両国の間にはあ

まり差はなく、日韓で性別役割分業意識と関連する 3 つの変数の因子構造に違いがないと判

断してもよいだろう。このように、日本と韓国で、性別役割分業意識について、ほぼ同様の

因子構造を持っていることを確認した後、国別に 3 つの変数の合成変数を作成し、規定要因

の分析を行う。合成変数は、点数が高いほど、性別役割分業意識に否定的であることを意味

する。なお、cronbach α は、日本で 0.65、韓国で 0.66 であった。

2 有配偶男性に対象を絞る前に、性別役割分業意識について、男女の差、有配偶男性と無配偶男性との差を

確認した。その結果、男性が女性より、有配偶の男性が無配偶の男性より、保守的な性別役割分業意識を持

つ傾向が見られた(いずれも、0.1%水準で有意)。

195

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② 独立変数

各仮説を検証するにあたって本稿で取り上げる独立変数は、次のとおりである。

まず、生年世代仮説を検証するためには、本人の年齢を投入する。また、学歴差仮説の検

証のため用いるのは、本人の教育年数である。本人の最終学歴を卒業とみなし、それに対応

する教育年数を算出した。母親の就労経験は、世代間伝達仮説を検証するために用いられる。

ここでは、15 歳の時の母親の仕事を尋ねる質問項目から、「働いた」と答えた場合を 1、「な

い」と答えた場合を 0 とするダミー変数を作成した。次いで、男性本人の職業的地位仮説の

検証のため投入されたのは、ISEI(International Socio-Economic Index of Occupational Status)

である 3。配偶者の就労地位仮説を検証するためには、配偶者が現在仕事をしている場合を 1、

仕事をしていない場合を 0 とするダミー変数を使用する 4。問題になるのは、家計参入度仮説

の検証である。本稿における関心は、配偶者の収入の割合が男性の性別役割分業意識に及ぼ

す影響であり、そのためには、本来、配偶者の収入に関する情報が必要である。しかし、2005

年SSM韓国調査では、配偶者の収入についての質問項目がない。したがって、本稿では、配

偶者の収入割合の代わりに、世帯収入に占める男性自身の収入割合を用いることにする。最

後に、世帯収入仮説については、対数変換した世帯収入を用いる。分析に用いた変数の基本

統計量は、表 2 にまとめて示す。

表 2 分析に用いた変数の基本統計量

平均 標準偏差 平均 標準偏差

性別役割分業意識(合成変数) 7.76 2.33 7.68 2.23

年齢 49.30 11.33 47.03 11.19

母親の就労経験 0.69 0.46 0.66 0.48

教育年数 12.91 2.41 11.55 3.78

本人の職業的地位(ISEI) 42.50 14.72 35.96 13.16

配偶者の就労地位 0.58 0.49 0.49 0.50

本人の収入割合 0.80 0.22 0.87 0.23

世帯収入(対数) 6.79 0.24 7.36 0.32

※ 母親の就労経験は、0=ない、1=ある

  配偶者の就労地位は、0=無職、1=有職

日本 (n=1104) 韓国 (n= 413)

3 ISEI については、鹿又・田辺・竹ノ下(2008)を参考。 4 配偶者である女性の就労形態が持つ効果をより厳密に分析するためには、フルタイム、パートタイム、自

営業に分けた方がよいだろう。しかし、2005 年韓国 SSM データでは、配偶者がパートタイムで働いている と答えた割合が、全体の 7%であり、フルタイムで働いている割合も、約 10%に過ぎない。そのため、本稿

では、配偶者の就業形態を、仕事をしている/いないの 2 つのカテゴリーにわけて、日韓の比較を行うこと

にした。母親の就業形態も同様。

196

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3.3 分析方法

各仮説の検証を行う前に、頻度分布を確認し、t検定により日本と韓国の男性における性

別役割分業意識の平均値の差を分析する。その後、重回帰分析を用い、両国の男性の性別役

割分業意識を規定する要因を明らかにする。

なお、重回帰分析を行う前に、多重共線性を判断するため、独立変数間の相関係数、VIF

値などを検討した結果 5、多重共線性があるほどの高い相関係数とVIF値は見られなかったた

め、すべての独立変数を回帰モデルに投入することにした。

4 結果

4.1 性別役割分業意識についての日韓の差

ここでは、本稿における主な分析課題である、各仮説の検証作業を行う前段階として、日

本男性と韓国男性の間で性別役割分業意識の各変数の頻度分布及び合成変数の平均値に差が

あるかを分析した。まず、表 3 は、国別に、性別役割分業意識と関連する 3 つの項目の頻度

分布を示したものである。

表 3 日本と韓国の男性における性別役割分業意識関連項目の頻度Ⅰ

(%)

そう思うどちらかといえ

ばそう思うどちらかといえば

そう思わないそう思わない

男性は外、女性は家庭 日 11.0 32.6 23.6 32.8

韓 17.5 25.0 36.6 20.9

男の子と女の子は違った育て方 日 12.2 30.7 24.6 32.5

韓 11.3 19.0 18.7 31.0

家事・育児は男性よりも女性 日 27.7 44.3 12.0 15.9

韓 34.2 37.4 19.1 9.3

日本の場合は、「そう思わない」と「どちらかといえばそう思う」と答えた割合が多く、韓

国では、「そう思う」と「どちらかと言えばそう思わない」と答えた割合が多くなっているの

5 変数間の相関行列は、以下のとおりである。

① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦ ⑧

① 性別役割分業意識(合成変数) -0.086 * 0.094 * -0.067 † 0.104 * 0.050 -0.041 0.044

② 年齢 -0.073 ** -0.567 *** 0.217 *** -0.401 *** -0.445 *** -0.001 0.328 ***

③ 教育年数 0.077 ** -0.252 *** -0.318 *** 0.579 *** 0.447 *** -0.033 -0.281 ***

④ 母親の就労経験 -0.035 -0.002 -0.135 *** -0.273 *** -0.223 *** -0.036 0.221 ***

⑤ 本人の職業地位(ISEI) 0.035 -0.156 *** 0.535 *** -0.135 *** 0.399 *** -0.016 -0.276

⑥ 世帯収入(対数) 0,070 * -0.039 † 0.278 *** -0.026 0.358 *** -0.333 *** -0.038

⑦ 本人の収入割合 -0.111 *** -0.104 *** 0.090 ** -0.127 *** 0.093 ** -0.246 *** -0.310 ***

⑧ 配偶者の就労地位 0.129 *** 0.020 -0.083 ** 0.133 *** -0.118 *** 0.211 *** -0.470 ***

† p< .10 * p< .05 ** p< .01 *** p< .001

表の上三角部分は韓国、下三角部分は、日本の結果。

母親の就労経験と、配偶者の就業有無は、ダミー変数

197

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が特徴である。そのため、回答を「賛成」(「そう思う」と「どちらかといえばそう思う」)、

「反対」(「そう思わない」と「どちらかといえばそう思わない」)の 2 つに大きくわけてみる

と(表 4)、「家事・育児は男性よりも女性」の項目を除けば、両国における差はわずかであ

る。回答パターンにおける差は見られるものの、全般的な傾向としては、両国の男性におけ

る性別役割分業意識に大きな差はないと考えられる。

表 4 日本と韓国の男性における性別役割分業意識関連項目の頻度Ⅱ

(%)

賛成 反対

男性は外、女性は家庭 日 43.6 56.4

韓 42.5 57.5

男の子と女の子は違った子育て 日 42.9 57.1

韓 30.3 69.7

家事・育児は男性よりも女性 日 72.0 28.0

韓 71.6 28.4

表 5 は、これらの 3 項目の合成変数を用い、日本と韓国における男性の性別役割分業意識

についてt検定を行った結果である。日本男性の平均値が若干高いものの、その差は、統計

的には有意ではない。頻度分布から見られた両国における類似性が、ここで再び確認された。

表 5 日本と韓国における男性の性別役割分業意識の平均の差

平均 標準偏差 t

日本(n=1832) 7.71 2.35

韓国(n=556) 7.53 2.261.52 n.s

4.2 日本と韓国における男性の性別役割分業意識に影響を及ぼす要因

表 6 は、男性の性別役割分業意識を従属変数とした重回帰分析の結果である。

日本の場合、男性の性別役割分業意識に影響を及ぼしているのは、年齢、教育年数、配偶

者の就労地位、本人の収入割合である。具体的にみると、年齢が若いほど、教育年数が長い

ほど、本人の収入割合が少ないほど、また配偶者が仕事をしている場合の方が、性別役割分

業に否定的になる傾向がある。日本の男性では、生年世代仮説、学歴差仮説、配偶者の就労

地位仮説、家計参入度仮説が支持されたと言える。しかし、世代間伝達仮説、本人の職業的

地位仮説、世帯収入仮説は棄却された。

198

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表 6 性別役割分業意識を従属変数とした重回帰分析結果

年齢 -0.066 * -0,077

教育年数 0.069 † 0,035

母親の就労経験(あり=1) -0.050 -0.050

本人の職業(ISEI) -0.001 0.087

配偶者の就労地位(有職=1) 0.104 ** 0.105 †

本人の収入割合 -0.080 * -0.024

世帯収入(対数) -0.006 -0.050

N 1104 413

R2 0.034 0.025

Adj R2 0.028 0.009

F 5.590 *** 1.513 n.s

† p< .10 * p< .05 ** p< .01 *** p< .001

日本 韓国

β β

韓国男性の結果では、配偶者の就労地位のみが統計的に有意な効果を持っており、日本と

同様、配偶者が就労している場合は、性別役割分業に反対する傾向が見られた。この変数以

外には、統計的に有意な効果を持つ変数はなかった。すなわち、韓国男性の場合は、配偶者

の就労地位仮説を除けば、すべての仮説が棄却される結果になった。

分析の結果をまとめると、配偶者の就労地位仮説、男性の職業的地位仮説、世帯収入仮説

の検証結果は、両国で同様であった。もちろん、本稿では一時点の横断データを分析したた

め、これらの独立変数と男性の性別役割分業意識とを因果関係として解釈するには、注意が

必要である。しかし、上記の変数についての本稿の分析結果は、これまでの先行研究の結果

と一致するものであり、(今後の)パネルデータを用いる研究においても、有用な仮説を提供

しうる。

世代間伝達仮説の場合も、日韓で同じ結果が得られた。すなわち、男性が 15 歳の時、母親

が働いていたか否かは、両国の男性の性別役割分業意識に影響を及ぼさない。ただし、関連

する先行研究は、母親の就労が男性の性別役割分業意識に影響を及ぼすメカニズムは複雑な

ものであり、母親の就業有無といった客観的な側面だけでは把握しきれない可能性を示唆す

る。例えば、男性の性別役割分業意識に大きな影響を及ぼすのは、母親の就業の有無ではな

く、母親の仕事の内容であるという結果(白波瀬 2006)、また、母親就労の影響は、それに

対する母親の満足度や母親自身の性別役割分業意識と相互作用しながら子どもの性別役割分

業意識に影響を及ぼすという結果(이선미・김경신 1996)などが存在する。母親の就労経験

と他の変数との相互作用が男性の性別役割分業意識に及ぼす影響も、この分野の後続研究に

おける一つのテーマになると考えられる。

日本と韓国では、異なる分析結果も得られた。具体的には、日本では生年世代仮説、学歴

差仮説、家計参入度仮説が支持されたが、韓国では、いずれも棄却される結果になっている。

199

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生年世代仮説と学歴差仮説の場合、ゼロ次の相関関係では、韓国においても年齢及び教育年

数と性別役割分業意識の間に有意な関連が確認できる(注 5 の相関行列を参照)。けれども、

他の変数の影響をコントロールすることにより、その関連はなくなってしまう。日韓比較を

行った竹ノ下ら(2005)の研究では、他の変数をコントロールすると、年齢の効果は消失す

るが、学歴の効果は残った。彼らは、韓国における急激な高学歴化の結果、若年層の中で大

卒者が増加し、それが世代間の性別役割分業意識の相違をもたらしたと解釈している(竹ノ

下・西村 2005:57)。ここでも、彼らと同様、年齢と学歴をかけあわせた形で、性別役割分

業意識の平均値を検討してみた(図 1)。

6.5

7.0

7.5

8.0

8.5

中卒以下 高卒 大卒以上

61歳以上(韓) 51歳~60歳(韓) 41歳~50歳(韓) 40歳以下(韓)

61歳以上(日) 51歳~60歳(日) 41歳~50歳(日) 40歳以下(日)

図 1 年齢と学歴による性別役割分業意識

確かに、竹ノ下ら(2005)の指摘した通り、韓国における 30 代以下と 40 代の低学歴層で

は、伝統的な性別役割分業意識に賛成する程度が、50 代と 60 代のそれとあまり変わらない。

そして、この 2 つの年齢層では、高学歴であるほど、性別役割分業に反対する傾向が強くな

り、いわゆる「教育の啓蒙効果」が確認できる。ところが、50 代と 60 代に目を向けると、

学歴と性別役割分業の関連は、逆V字型を描いており、いずれの年齢層でも、大卒以上の高

学歴層と中卒以下の低学歴層とで性別役割分業意識はあまり変わらない。そして、どの学歴

層においても、60 代より 50 代で性別役割分業に反対する傾向が強い。すなわち、韓国男性

における年齢および学歴と性別役割分業意識の関連は、2 つのパターンに分けられる。50 代

以上と 40 代以下で、学歴と性別役割分業意識の関連が大きく変わるのである。実際に、韓国

男性を 2 つのグループに分けて(50 代以上と 40 代以下)、表 6 のような回帰分析を行った

結果、40 代以下では教育年数が、50 代以上では年齢の効果が統計的に有意であった(それぞ

200

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れ、10%水準、5%水準で有意、表は割愛)。韓国男性においては、40 代以下では学歴差仮

説が、50 代以上では生年世代仮説が支持されていると言える 6。韓国で、年齢と学歴の効果

が両方とも消失してしまったのは、このような韓国男性の中の多様性を考慮せず、一つのモ

デルで分析してしまったことによると考えられる。

一方、生年世代仮説と学歴差仮説が支持された日本の場合は、図 1 でも年齢と学歴の効果

が確認できる。言い換えれば、全般的に、高学歴層と若年層で伝統的な性別役割分業意識を

否定する傾向が見られる。

家計参入度仮説の検証結果も、日韓で異なっている。日本では、本人収入割合が低くなる

ほど、革新的な性別役割分業意識を有する傾向がある。韓国でも、同じ傾向はあるものの、

統計的に有意ではなかった。 配偶者の就労地位仮説の検証結果と関連して考えると、日本で

は、配偶者の就業地位という絶対的な側面とそれに伴う夫婦収入の割合という相対的な側面

が、同時に男性の性別役割分業意識に影響を及ぼしている一方、韓国では、前者だけが影響

を及ぼしていると言える。先行研究で指摘されたように、日本男性の性別役割分業意識は、

配偶者の就業地位に合わせて変化する「状況適応的」なものであり、そのアウトプットにも

影響される「実績評価主義的」な性格を持っている(吉川 1998;嶋﨑 2006)。それに対し、

韓国男性の性別役割分業意識は、配偶者の就労地位に合わせて変わる「状況適応的」な性格

を持ちながらも、そのアウトプットにはあまり影響されないという点から「実績評価主義的」

ではないようだ。ただし、本稿では、質問紙の制約から、配偶者の収入割合の代わりに、男

性本人の収入割合の効果を見たため、厳密な意味で家計参入度仮説が検証できたとは言い難

い。したがって、日本と韓国におけるこの仮説の検証結果を論じるためには、配偶者の収入

に関する変数があるデータを用いた分析が必要であるだろう。

5 結論

本稿では、既存の研究ではあまり取り上げられなかった日本と韓国の男性を対象とし、彼

らの性別役割分業意識について検討してきた。規定要因についての仮説を検証した結果、日

本では支持されたいくつかの仮説が、韓国では棄却された。それにより、日本と韓国では、

回帰モデルの説明力においても差が見られた。しかし、説明力の差があったとはいえ、説明

力の低さという側面から見ると、日韓でそれほど大きな差がないという見方も可能である。

すなわち、いずれの国も、モデルの説明力が極めて低いという問題を抱えている。このよう

な結果は、本稿で採用した既存の階層研究の分析モデル、言い換えれば、社会的地位と関連

6 近年、教育の社会化機能に対する疑問が提起されているが(西村 2001)、日本の男性と韓国の 40 代以下

の男性で学歴差仮説が支持された本稿の分析結果は、男性に限っては、教育の効果がまだ有効であることを

示唆する。

201

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する変数から性別役割分業意識を説明しようとする分析枠組みが、少なくとも日韓の男性に

おいては、あまり有効ではないことを示唆する。1995 年の SSM データを分析した吉川(1998)

の指摘した男性における性別役割分業意識の「脱階層的」性格が、本稿の分析結果では、日

本と韓国で共通して見られたと言える。

次に、主な分析課題ではなかったが、規定要因を分析する前段階として行った因子分析、

頻度分布、平均値の差の検定において、日本と韓国の間で非常に類似した結果が得られた。

2005 年の時点で、日本と韓国における男性の性別分業意識が非常に類似しているという本稿

の結果は、冒頭に紹介した瀬地山の議論(1996;1997)から考えると、やや意外でもある。

日本と韓国は、男女の区分を強調する儒教的規範の日常生活への浸透度が異なるという彼の

議論によれば、その浸透度の差は両国の男性における性別役割分業意識にも反映されるはず

だ。にもかかわらず、本稿の分析結果は、両国で共通性が高いことを示している。もちろん、

瀬地山の議論は、実証データの分析に基づいたものではなく、本稿の分析もこうした瀬地山

の仮説的な推論を直接的に検証したものではない。したがって、解釈の際には、慎重になら

ざるを得ないが、彼の議論と本稿の分析結果のミスマッチングの背景には、韓国社会全体を

襲った IMF 危機(1997 年以後)のインパクトが存在しているかもしれない。IMF 危機が韓

国の家族に与えた影響を検討した임인숙(2000)は、経済危機がもたらした男性雇用者の大

量失業により、男性たちは配偶者である女性の就業を「例外的な逸脱」として受容するよう

になったと指摘する。韓国男性は、「過剰であるほど」稼ぎ手役割意識が強いと言われてきた

が、家族が経済的に切迫した時には、心理的に配偶者の就業を期待し、それを当然視するよ

うになるというのだ。また、経済危機は、男性の家族役割参加に対する意識にも影響を及ぼ

したとされる。インタビュー調査を行った송유진(2004)は、IMF 危機を契機として韓国男

性の考え方がより家族中心的に変化した可能性があると報告している。つまり、瀬地山の議

論は、IMF 危機が起こる前の韓国が対象になっているため、建国以来、最大の国家危機とも

言われた IMF 危機が韓国の家族や、ジェンダー構造をめぐる人々の意識に及ぼした影響は反

映されていない可能性がある。本稿で分析した 2005 年 SSM 韓国調査も、(IMF 危機以後の)

一時点の横断データであり、韓国社会のマクロ的な変化が男性の意識に及ぼした影響までは、

検討ができない。だが、IMF というマクロ的な経済危機が韓国の家族とそのあり方に及ぼし

たインパクトは、多くの論者によって指摘されており、このテーマを扱う研究では、考慮し

なければならない問題であるだろう。

最後に、今後の両国男性における性別役割分業意識のゆくえを考えてみたい。日本と韓国

でともに配偶者の就労地位の効果が見られた点、韓国の場合は、40 代以下だけではあったも

のの、教育の効果が確認されたという点から、既婚女性の経済参加率が高くなりつつある両

国共通の社会状況の中で、高学歴化とともに、両国の男性における性別役割分業意識はより

革新的な方向に動くことが予想できる。しかし、こうした楽観論的な期待とは逆の予想も可

202

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能である。最近の「仕事‐家族」に対する保守的な態度の発現、女性の社会進出に伴う労働

市場における男性の機会縮小による反発などから、保守的な性別役割意識が強化する可能性

も提起されている(황은 2004)。性別役割分業に対する態度が、1975 年から 1990 年までは

急速に近代化したが、1990 年からは、緩慢な変化をしていることから、今後は、保守化の傾

向が見られる可能性があるという Brewster と Padavic(2000)も、同じ脈絡から解釈できる。

こうした「革新化/保守化」に関する予想に加え、日本と韓国における男性の性別役割分

業意識が「脱階層的」という共通性を保ちながら革新化あるいは保守化するのか、それとも

異質的な動きを見せながらそれぞれ革新化、保守化するのかという問題は、今後の課題にな

るだろう。

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Gender Role Attitudes among Men of Japan and Korea

Jihey Bae Keio University

The purpose of this study is to find a similarity and a difference in the gender role attitudes among

the men of Japan and Korea using 2005 SSM Survey in Japan and 2005 SSM Survey in Korea. The results of the analysis are as follows:

Firstly, the results of factor analysis, frequency distribution, and the mean of the gender role attitudes between Japan and Korea are similar. Secondly, the work situation of the spouses affects the men’s gender role attitudes in the two countries. Thirdly, the model fit of regression is very low in the two countries, and this implies that the men’s gender role attitudes in Japan and Korea cannot be explained by variables related to social stratification.

Key words and phrases: men’s gender role attitudes, cross-national comparison

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一般的信頼感の規定要因

―階層、地域、社会関係―

岩渕亜希子

(追手門学院大学)

【要旨】

本稿は、社会調査データに基づく一般的信頼感の研究に、ランダム・サンプリングによって得

られた大規模データによる知見を加えることを目的として、2005 年 SSM 日本調査データを用い

て、一般的信頼感と社会階層、地域・社会関係の特性との関連を検討した。 第一に、社会階層について、所属階層および出身階層の効果を検討したところ、他の変数の効

果を考慮しても学歴と現職の職業カテゴリが有意な効果を持ったため、職業の差異についてより

注意を払う必要があることを指摘した。第二に地域・社会関係の特性について、都市規模と地域

参加の効果を検討した。先行研究と異なり、地域参加の程度は他の変数の効果を考慮した場合に

有意な効果を持たなかったことから、指標の問題について検討した。第三に社会階層と地域・社

会関係の変数を組み合わせた場合の信頼感の差異について検討した。先行研究とは異なり、都市

と非都市との間に差異は見られず、どの地域においても社会資源に恵まれたカテゴリで信頼感が

高く、その他の条件が同じなら地域参加の多いカテゴリで信頼感が高いと言えた。先行研究と共

通の知見として、地域を問わず高学歴であることの重要性を確認することができた。

キーワード:一般的信頼感、社会階層、地域差、コミットメント関係

1 問題の所在

信頼の生成プロセスや社会的機能に対する関心は、社会科学の諸領域において飛躍的に高

まってきている(eg. Fukuyama 1995;Hardin 2002)。Misztal によれば、とくに社会学の領域

では、信頼が中心的な論点となることはこれまでほとんどなかった(Misztal 1996)。である

にもかかわらず、現在信頼がおおいに注目をあつめているのは、社会システムの変革期にあ

って、伝統的な共同や絆、コンセンサスの基盤が失われつつあり、それに替わる基盤が必要

であると、人びとが感じているからに他ならない(Misztal 1996:3;Yoshino 2002:231)。

信頼をめぐる諸研究のうち、 もよく整理され、また信頼の生成と機能に関する有力な理

論を提供したもののひとつが、山岸らによる一連の研究である(山岸 1998, 1999)。だが、

山岸らの研究では主に実験心理学的方法が用いられている。信頼の現実社会における基盤に

ついて社会調査データに基づく検証を行った研究は、近年までごくわずかであった。しかし

ここ数年、社会調査の手法によるその検証が精力的に展開され、実証データからは必ずしも

207

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理論を支持する結果が得られないことを示すなど、重要な貢献をなしている。ただし、これ

らの社会調査データには特定の地域において得られたものが多い 1。むろんこれらの調査は、

信頼感についての諸仮説を検証するため、地域社会構造が異なる地域同士を比較分析する目

的で戦略的に設計されているのであるから、地域調査データに基づいていること自体には何

の問題もない。しかし、これら地域調査データに基づく信頼感研究の知見に沿った結果が、

ランダム・サンプリングによって得られた大規模データによっても得られるかどうかを見て

おくことは有意義であろう。

本稿は、2005 年SSM日本調査のデータ 2を用いて、一般的信頼感と階層変数、地域・社会

関係の特性に関する変数との関連を検討し、社会調査データに基づく一般的信頼感の研究に

基礎的な知見を提供することを目的とする。

2 先行研究の検討

2.1 社会階層と信頼感に関する研究

信頼と社会階層の関係について、実証的なデータをもとに分析を行なった研究は、近年ま

でそれほど多くはない。これまで得られている知見についてまず整理する。

日本、米国、英国、オランダ、ドイツ、フランス、イタリアの 7 カ国データ 3を用いて、階

層と信頼感、収入階層と信頼感の関連を分析したYoshinoは、英国と米国ではより高い階層に

おいてより信頼が高いという線形の関連がみられたが、西ドイツと日本はこのパターンに当

てはまらないことを発見した。そして、信頼の分析にあたっては社会的背景に十分注意すべ

きことを主張している(Yoshino 2002: 253-5)。ただし、このパターンに当てはまらないとい

うことと、まったく関連がみられないということとは同義ではない。他国に比べてその関連

の強さが弱いということと、日本において信頼と社会階層との間に関連があるということは

矛盾なく両立する。実際、Yoshinoは同じ論文の中で、統計数理研究所の国民性調査(1983

年、1993 年)のデータから、信頼と階層帰属意識との間の正の関連性を指摘している。また

三宅(1998)は、Yoshinoと同じ七か国データを用いて信頼と学歴との関連を分析し、日本に

おいても、学歴が高いほど「人は信頼できるか」という問いに肯定的回答をする者の割合は

高くなることを確認している。また山岸(1999)は、アメリカのGSSデータでは「たいてい

1 林と与謝野の一連の研究では、関西 4 市町(能勢町、吹田市、門真市、岸和田市)調査データ(林 2004、与謝野・林 2005 など)と、近畿 7 府県への近畿調査データ(Yosano and Hayashi 2005)が、辻らの研究では、

東京都板橋区と新潟県栃尾市の調査データ(辻・針原 2002)や、千葉県 6 市町の調査データ(辻・針原 2003)が用いられている。また、山岸らが「信頼の解き放ち理論」を構築するにあたり行った調査は、一般サンプ

ルを札幌市とシアトル市から得ており、日米比較データとしての代表性の問題が指摘されている。 2 一般的信頼感の質問は留置調査票 A のみに含まれるので、本稿では A 票のデータを用いる。 3 この七カ国データとは、統計数理研究所が 1978 年から 1993 年にかけて実施した国際比較調査にもとづく

ものである。詳細は Yoshino(2002)および、統計数理研究所国民性国際調査委員会(1998)を参照された

い。

208

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の人は信頼できる」と答えた人たちの割合は教育程度が高くなればなるほど増えること、ま

た大学の偏差値とその大学の学生の一般的信頼感の高さ(大学平均)との間に強い正の相関

(r =.66)があることを報告している 4 。さらに米国において調査研究を行なったKohnと

Schoolerは、社会階層と心的機能の間には、職業条件と教育を媒介とした線形の対応関係が

あることを実証した(Kohn and Schooler 1983)。この心的機能の中には「信頼感(trustfulness)」

がふくまれており、上位の社会階層に属する者ほど信頼感が高いと報告されている。彼らに

よれば、このような対応関係があるのは、社会階層上の位置によって、どのような心的機能

をもつことが有効であり、適切であるのかについての判断が異なるからである。この知見は

日本にもあてはまることが、1979 年以降、直井優らによる一連の「職業と人間」調査を通じ

て実証されている(直井 1987 ほか)。また同様の枠組みを用いて設計された「情報化社会に

関する全国調査」においても、信頼感と社会階層上の地位(学歴、職業、世帯年収)との間

の正の関連を確認した(岩渕 2004)。

しかし一般に、一般的信頼感を従属変数とする線形重回帰分析はよい結果が得られず、独

立変数として投入された階層変数は有意な効果を示さないことが多い。林(2004)では、一

般的信頼を従属変数とした重回帰分析の調整済みR2 は 0.046 にすぎず、教育年数、年収のい

ずれも有意な効果を持たなかった。同じく与謝野・林(2005)では、調整済みR2 は 0.078、

教育年数、年収、所有財、職業 5、企業規模のいずれも有意な効果を持たなかった。辻・針原

(2002)では、「私のよく知らない人」を対象とした場合の一般的信頼感を従属変数に重回帰

分析を行っているが、ここでも収入は有意な効果を持たなかった 6。

与謝野と林は、こうした「主効果のみからなる線形モデルを適用することの問題」を指摘

し、ブール代数分析を採用して、学歴が高いことが信頼生成の必要条件であること、また特

定の地域では収入が高いことが信頼生成の条件になっていることを突き止めた 7(与謝野・林

2005)。また、所得、職業、学歴の 3 つの階層変数と、信頼感の変化の間に交互作用効果があ

ることも明らかにしている(林・与謝野 2005)。

以上をふまえると、社会階層と一般的信頼感の関係について、次のようにまとめることが

できよう。多くの先行研究において、個別の階層変数と信頼感との正の関連が指摘されてお

り、一般的信頼感の生成を考える上で階層変数を無視することはできない。ただし階層変数

と一般的信頼感は、単純な線形の関連を持つとはいえず、階層変数同士、あるいは階層変数

と地域など他の変数との組み合わせで一般的信頼感の生成プロセスに影響を及ぼすと考える

のが妥当である。本稿では以上の傾向が SSM データにおいても確認できるかを検討していく。

4 ただし林(2004)は、偏差値と信頼感の正の相関は、独自に行った調査からは再現されなかったことを指

摘している。 5 専門・管理、マニュアル労働、事務・販売のダミー変数。 6 ただし、ネットワーク変数を複数導入した結果、R2 値は 0.23 と高い値を示している。 7 この分析では、郵送調査では十分な職業情報が得られなかったことを理由に、職業の効果は検討されてい

ない。

209

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ただし、SSM 調査の特性を活かして多様な階層変数を採用する。とりわけ、本人職業を詳細

に検討したり、出身階層や階層意識との関連をみることができた先行研究は見当たらないこ

とから、本人職業(初職および現職)、出身階層(父 15 歳時職、父主職、15 歳時所有財、15

歳時の本の所有数)、階層意識(階層帰属意識、暮らし向き)も、独立変数として取り上げ、

検討を加える。

2.2 地域および社会関係の特性と信頼感に関する研究

信頼感と地域や社会関係の特性との関連を概観するにあたって、山岸らの「信頼の解き放

ち理論」において、この問題がどのように整理されているのかを見ることから始めたい。山

岸が提示した「信頼の解き放ち理論」では、信頼と安心が区別される。安心とは、安定した

コミットメント関係にあって社会的不確実性が(少)ない場合の他者への期待であり、社会

的不確実性が大きい状況であるにもかかわらず、相手の人間性ゆえにおかれる期待が信頼で

ある。そして、こうした信頼は社会的不確実性が大きい状況でこそ育まれ必要とされるので

あり、そうでない状況においては意味をもたないとする。信頼がこのようなものであれば、

一般的信頼感の水準は、安定したコミットメント関係が優位である社会では低く、不確実性

が大きい社会で高いと予測される。山岸(1998)は、日本よりも、社会関係の流動性が高く

機会コストが大きい(とされる)アメリカにおいて一般的信頼感が高いという調査結果を得

て、「解き放ち理論」を支持する結果であると述べている。このようにして、当該地域が社会

的不確実性ないしコミットメント関係についてどのような特性を持っているかということと、

一般的信頼感の水準とが結び付けられている。

ところが、いくつかの社会調査データに基づく実証研究から、こうした地域・社会関係と

信頼の対応関係について疑義が表明されている。辻・針原(2002)は都市と村落の一般的信

頼感の差を検討して、有意な差が見られなかったことを報告している。林(2004)や与謝野・

林(2005)では、伝統的地域社会構造を持つ地域と都市的な生活様式の発達した地域との比

較が、Yosano and Hayashi(2005)では都市規模による比較が行われているが、やはり有意な

差は見出されなかった。他方、一般的信頼感を従属変数とした一般線形モデルにおいて、一

貫して有意な正の主効果をもっていたのは、地域参加の程度や近所づきあいの程度、近隣ネ

ットワークの強度などで測定された社会関係(コミットメント関係)である。

ただしこれは、都市-村落(非都市)という区別に意味がないとか、強く安定的なコミッ

トメント関係を持っている人ほど一般的信頼感が高い、というようなシンプルな話ではない。

都市-村落(非都市)という対比は、このコミットメント関係との組み合わせで意味をもつ

ことが明らかになったのである。与謝野・林(2005)は、ブール代数分析によって、一般的

信頼感を生成する条件は、都市的生活様式の発達した地域では「収入が高く、近隣との付き

合いが少ない」もしくは「収入が高く、居住年数が短い」ことであり、伝統的地域社会構造

210

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を持つ地域では「収入が低く、居住年数が長く、かつ近隣との付き合いが多い」ことである

という知見を得た。また辻・針原(2002)は、都市の一般的信頼感に対して、ネットワーク

変数(町内の家族親族、友人などの数)が正の効果を持つことを示した 8。

以上から、地域ないし社会関係の特性と一般的信頼感の関係について、次のようにまとめ

ることができよう。社会的不確実性の大きさを表現する都市-村落(非都市)という地域の

特性は、一般的信頼感に直接の影響をもたらさない。またこうした地域特性を考慮しない場

合の社会関係は、一般的信頼感に(説明力は弱いものの)直接の正の効果を持っている。こ

れら 2 要因を組み合わせた場合には、社会関係が一般的信頼感の生成に及ぼす影響は一様で

はない可能性が高く、したがって地域の特性(都市-村落)と社会関係(コミットメント関

係)の特性の双方が、一般的信頼の分析において重要である。

本稿では、以上の傾向が SSM データにおいても確認できるかを検討していく。ただし、コ

ミットメント関係の指標として既存研究と十分に対応した変数を得ることが難しいため、予

備的な分析にとどまる。

3 分析

3.1 一般的信頼感の指標

2005 年 SSM 日本調査の調査票には、信頼感に関する項目は留置調査票 A 票に盛り込まれ

ている。問 19 の a ~ c がそれで、ワーディングは次の通りである。選択肢は「そう思う」

から「そう思わない」までの 5 件法である。

A19a たいていの人は信用できる

A19b 機会があれば、たいていの人は自分のために他人を利用する

A19c たいていの人は自分のことだけを考えている

このうち、b と c は信頼の中でも「用心深さ」(他人との関係において用心深くふるまう必

要があるという信念)に関するものであり、既存研究において、一般的信頼感とは別の因子

として抽出されるものである。したがって本稿では、一般的信頼感の指標として、留置 A 票

8 鈴木(2006)は、カスプ・カタストロフ・モデルを用いて、非都市ではコミットメント関係が強いほど一

般的信頼感が高く、都市ではコミットメント関係が弱いほど一般的信頼感が高いという与謝野・林(2005)の知見に沿った予測を報告している。ただし、この論考において鈴木は、ネットワーク分析の視点に立って、

居住地(地域)の効果とは実はネットワークの効果を反映しているにすぎない可能性を指摘し、居住地の効

果を広域的なネットワーク(ホール・ネットワーク)の効果ととらえて論じているのだが、実証段階におい

ては諸個人のホール・ネットワークに関するデータを得ることは難しく、何らかのマクロ指標で代用しなけ

ればならない可能性に自ら言及している。このようにホール・ネットワークの適切な指標が定まらない段階

の実証分析では、ホール・ネットワークの概念は「地域」概念と同様のものになると考え、本稿では一貫し

て「地域」の語を用いている。

211

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19a「たいていの人は信用できる」の一項目を用いる。先行研究と異なり、多重指標となって

いないことに注意が必要である。一般的信頼感の分布は表 1 のようになっている。

表 1 一般的信頼感の回答分布

選択肢 % そう思う 5.2 どちらかといえばそう思う 25.0 どちらともいえない 38.6 どちらかといえばそう思わない 15.6 そう思わない 15.5

計 100.0

n =2711, missing=116, 平均 2.88(標準偏差 1.106)

3.2 社会階層と信頼感の関連

本節では社会階層と一般的信頼感の関連を見ていく。はじめに、階層変数のうち職業変数

以外のもの、すなわち学歴、年収(本人年収および世帯年収)、所有財による一般的信頼感の

差異を分散分析によって検討した(表 2)。

学歴の効果は有意であり、多重比較検定の結果、すべてのカテゴリの組み合わせにおいて、

学歴が高い方が一般的信頼感が高かった(p<.05)。本人年収の効果は有意であり、多重比較

検定の結果、450~750 万円, 750 万円以上のカテゴリでは、他の 3 つのカテゴリよりも有意

に一般的信頼感が高かった 9(p<.01)。世帯年収の効果も有意であり、多重比較検定の結果、

750~1050 万円、1050 万円以上のカテゴリでは、他の 3 つのカテゴリよりも有意に一般的信

頼感が高かった(p<.05)。所有財 10の効果は有意であり(r = .089, p<.05)、多重比較検定の結

果、所有財を 14 個以上所有しているカテゴリでは、他のすべてのカテゴリよりも有意に一般

的信頼感が高かった(p<.01)。以上から、学歴が高いほど信頼感は高く、また年収が高い層

(750 万円以上、有効回答の 30.8%)や所有財を多く持つ層(14 個以上、同 17.2%)では他

の層よりも信頼感が高いといえる。

次に、階層変数のうち本人現職に関する変数と、一般的信頼感の関連を分散分析によって

検討した(表 3)。とりあげた変数は、職業の有無、従業上の地位、企業規模(従業員数)、

役職、職業分類である。まず職業の有無と従業上の地位は有意な主効果を持たなかった。企

業規模の効果は有意であるが、多重比較検定の結果、従業員数が 1 人の企業を除くすべての

カテゴリよりも、官公庁の信頼感が高いことがわかった(p<.05)。実際のところ、信頼感が

9 与謝野・林(2005)のブール代数分析において、世帯収入を 700 万円以上と 700 万円未満に分けて用いた

ときによい結果が得られていることと整合的である。 10 留置 A 票問 22 の 20 個の所有財(持ち家、風呂、子ども部屋、ピアノ、冷蔵庫、食器洗い機、温水洗浄

便座、クーラー・エアコン、電話、衛星放送・ケーブルテレビ、DVD レコーダー、パソコン・ワープロ、高

速インターネット回線、スポーツ会員権、文学全集・図鑑、美術品・骨董品、株券または債権、乗用車、別

荘、田畑)について所有数を求め、これをおよそ 4 分位で分けたものを用いた。

212

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表 2 学歴、収入による一般的信頼感の差(一元配置の分散分析)

従属変数:一般的信頼感 独立変数 平均値 n F 値 (d.f.1, d.f.2)

学歴 初等学歴 2.69 436

中等学歴 2.85 1505

高等学歴 3.07 766

合計 2.89 2707 3.93 ** (2, 2704)

本人年収 0~75 万円 2.86 574

75~250 万円 2.85 746

250~450 万円 2.82 535

450~750 万円 3.11 350

750 万円以上 3.21 171

合計 2.92 2376 7.68 ** (4, 2371)

世帯年収 0~300 万円 2.77 309

300~450 万円 2.86 386

450~750 万円 2.92 503

750~1050 万円 3.07 312

1050 万円以上 3.16 220

合計 2.94 1730 5.68 ** (4, 1725)

所有財 0~7 個 2.79 600

8~10 個 2.82 766

11~13 個 2.90 880

14~20 個 3.09 465

合計 2.29 2711 7.55 ** (3, 2707)

** p<.01

も低いのは従業員数が 2~9 人の企業(2.81)で、この信頼感の水準は 499 人の規模(2.85)

までほとんど差がない。500 人以上の規模では平均値が 2.96 と相対的にやや高くなるが、官

公庁の場合は 3.30 と他のカテゴリよりかなり高い値を示す。つまり企業規模については、少

なくとも 500 人以上とかなりの大きな規模にならなければ差が生じにくく(この傾向は後述

の初職の場合にも見られる)、そうした単純な規模の効果よりも、官公庁という公的な機関に

勤めているという質的な差異の方が一般的信頼感に影響を及ぼしていると考えることができ

る。次に役職については、役職なし、監督等、係長、課長、部長、社長等の 6 カテゴリで検

討したところ、その効果は有意であった(F(5, 1919)= 4.254, p<.01)。これについて多重比較検

定を行ったところ、役職無しの者に比べて係長職の者の信頼感が高く(p<.05)、他の組み合

わせでは有意差は確認されなかった。役職の高さと信頼感の高さは比例しているわけではな

いことがわかる。しかし、表 3 に示したとおり、役職の有無で比較したところ明らかな差が

見られ、役職に就いている人(有効回答の 23.8%)の方が信頼感が高いといえた。仕事の内

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表 3 本人現職による一般的信頼感の差(一元配置の分散分析)

従属変数:一般的信頼感 独立変数 平均値 n F 値 (d.f.1, d.f.2)

職業の有無 有職 2.91 1947

無職 2.82 762

合計 2.88 2709 3.61 n.s. (1, 2707)

本人現職の 経営者、役員 3.00 111

従業上の地位 常時雇用の一般従業者 2.95 966

臨時・パート・アルバイト 2.83 408

派遣社員 2.63 40

契約社員、嘱託 2.95 56

自営業主、自由業者 2.96 225

家族従業者 2.77 122

合計 2.91 1928 1.57 n.s. (6, 1921)

本人現職の 1 人 3.01 102

企業規模 2~9 人 2.81 502

10~99 人 2.88 502

100~499 人 2.85 280

500 人以上 2.96 299

官公庁 3.30 174

合計 2.91 1859 5.945 ** (5, 1853)

本人現職の 役職なし 2.86 1466

役職の有無 役職あり 3.08 459

合計 2.91 1925 14.498 ** (1, 1923)

本人現職の 専門・管理 3.16 499

仕事の内容 事務・販売 2.96 649

(SSM8 分類) 熟練・半熟練・非熟練 2.73 738

農業 2.82 108

合計 2.91 1944 15.571 ** (3, 1940)

本人現職の 専門 3.16 302

仕事の内容 大ホワイト 3.11 286

(総合 8 分類) 小ホワイト 2.87 325

自営ホワイト 3.06 185

大ブルー 2.74 144

小ブルー 2.75 467

自営ブルー 2.65 125

農業 2.82 108

合計 2.91 1942 7.489 ** (7, 1934)

** p<.01, n.s.=not significant

214

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容については、SSM8 分類と総合 8 分類の双方について検討した 11。SSM8 分類による仕事の

内容 12は、信頼感に対して有意な効果を持ち、多重比較検定の結果、「専門・管理」が他のす

べてのカテゴリよりも信頼感が高く(p<.05)、また「事務・販売」は「熟練・半熟練・非熟練」

よりも信頼感が高かった(p<.01)。総合 8 分類による仕事の内容も、信頼感に対して有意な

効果を持っていた。多重比較検定の結果、「専門」は、「大ホワイト」と「農業」を除くすべ

てのカテゴリよりも信頼感が高かった(p<.05)。また「大ホワイト」は、大・小・自営すべ

てのブルーよりも信頼感が高かった(p<.05)。また「自営ホワイト」は、小と自営のブルー

よりも信頼感が高かった(p<.05)。全体として、「専門」「管理」「ホワイト(大・自営)」に

おいて、他のカテゴリよりも信頼感が高いことがわかる。またいずれの分類においても、「農

業」は平均値よりやや低い信頼感の水準を示した。

以上から、一般的信頼感に対する現職の効果について次のように言えるだろう。現職にお

いて役職に就いていること、管理職や専門職であること、ホワイトカラーであることなど、

高い社会階層上の地位に結びつきやすいカテゴリに属することが人々の一般的信頼感を高め

ている。ただし企業規模の項で見た「官公庁」の効果は、企業規模について単純な線形の関

連は見られなかったことから、官公庁という「公的」な機関に勤めているということの質的

な効果を示していると考えられる。

続いて、階層変数のうち本人初職に関する変数と、一般的信頼感の関連を分散分析によっ

て検討した(表 4)。とりあげた変数は、従業上の地位、企業規模(従業員数)、職業分類で

ある 13。従業上の地位 14は有意な効果を持たなかった。企業規模 15の効果は有意であり、多重

比較検定の結果、「官公庁」がすべてのカテゴリよりも信頼感が高く(p<.05)、また「500 人

以上」の規模では「1~9 人」の規模の場合よりも有意に信頼感が高かった(p<.05)。この傾

向は現職のものと同様である。SSM8 分類による仕事の内容 16は、信頼感に対して有意な効

果を持ち、多重比較検定の結果、「専門」と「事務」の信頼感は、「熟練」「半熟練」のそれよ

りも有意に高かった(p<.01)。総合 8 分類による仕事の内容も、信頼感に対して有意な効果

を持った。多重比較検定の結果、「専門」と「大ホワイト」は、「小ホワイト」「小ブルー」よ

りも信頼感が有意に高かった(p<.01)。全体として、専門や事務、大ホワイトにおいて、他

のカテゴリよりも信頼感が高いことがわかる。

初職の効果について、現職の効果を検討した表 3 と比較して、取り立てて顕著な差異は見

られない。一般的な社会調査において初職の情報を得ることは難しいが、本人職業の一般的

11 職業分類の作成にあたっては、配布されたシンタックス(ssm2005job8ps.SSPS)を使用した。 12 カテゴリを統合しない場合も検討したが、結果は同様である。また、専門と管理の間、事務と販売の間、

熟練、半熟練と非熟練の各カテゴリ間には、信頼感の平均値について有意差は見られなかった。 13 初職では、ほとんどのケースで役職がないため、ここではとりあげない。 14 初職の従業上の地位については、「経営者、役員」はケースが少なかったため欠損値とした。また、「派

遣社員」と「契約社員、嘱託」はそれぞれケースが少なかったため合併して用いた。 15 初職の企業規模については、「1 人」はケースが少なかったため、2~9 人のカテゴリと合併して用いた。 16 初職については、「管理」はケースが少なかったため欠損値とした。

215

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信頼感に対する影響を考える上では、現職の効果を検討すれば十分と言えるだろう。

次に、本人の出身階層に関する変数、すなわち 15 歳時父職、父主職、15 歳時所有財、15

歳時の本の所有数の影響について検討する。ただし父職については、従業上の地位、企業規

模、役職による有意差はみられなかったため、職業分類の結果のみを表 5 に示した。まず SSM8

表 4 本人初職による一般的信頼感の差(一元配置の分散分析)

従属変数:一般的信頼感 独立変数 平均値 n F 値 (d.f.1, d.f.2)

本人初職の 常時雇用の一般従業者 2.90 2116

従業上の地位 臨時・パート・アルバイト 2.80 250

派遣社員、契約社員、嘱託 3.15 32

自営業主、自由業者 2.81 49

家族従業者 2.96 160

合計 2.90 2607 1.108 n.s. (4, 2602)

本人初職の 1~9 人 2.79 528

企業規模 10~99 人 2.85 684

100~499 人 2.82 433

500 人以上 2.99 580

官公庁 3.23 226

合計 2.90 2451 8.083 ** (4, 2446)

本人初職の 専門 3.09 359

仕事の内容 事務 2.97 824

(SSM8 分類) 販売 2.85 395

熟練 2.75 441

半熟練 2.73 353

非熟練 2.87 118

農業 2.99 117

合計 2.90 2607 5.530 ** (6, 2600)

本人初職の 専門 3.01 359

仕事の内容 大ホワイト 3.06 536

(総合 8 分類) 小ホワイト 2.83 644

自営ホワイト 2.89 38

大ブルー 2.88 242

小ブルー 2.71 600

自営ブルー 2.72 68

農業 2.99 117

合計 2.89 2604 6.595 ** (7, 2596)

** p<.01, n.s.=not significant

216

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表 5 出身階層による一般的信頼感の差(一元配置の分散分析)

従属変数:一般的信頼感 独立変数 平均値 n F 値 (d.f.1, d.f.2)

父職(15 歳時) 専門・管理 3.04 364 の仕事の内容 事務・販売 2.96 490 (SSM8 分類) 熟練・半熟練・非熟練 2.81 842 農業 2.93 559 合計 2.90 2255 4.584 * (3, 2251)父職(主職)の 専門・管理 3.00 451 仕事の内容 事務・販売 2.95 470 (総合 8 分類) 熟練・半熟練・非熟練 2.82 858 農業 2.93 581 合計 2.91 2360 3.081 * (3, 2356)父職(15 歳時) 専門 3.10 173 の仕事の内容 大ホワイト 2.98 268 (総合 8 分類) 小ホワイト 2.92 166 自営ホワイト 3.00 245 大ブルー 2.98 130 小ブルー 2.75 388 自営ブルー 2.81 320 農業 2.93 556 合計 2.91 2246 2.795 ** (7, 2238)父職(主職)の 専門 3.09 181 仕事の内容 大ホワイト 2.89 291 (総合 8 分類) 小ホワイト 2.91 173 自営ホワイト 3.03 271 大ブルー 3.01 109 小ブルー 2.77 404 自営ブルー 2.82 336 農業 2.92 573 合計 2.91 2338 2.486 * (7, 2330)15 歳時所有財 0~6 個 2.84 700 7~10 個 2.92 756 11~13 個 2.91 656 14~19 個 2.88 599 合計 2.88 2711 0.642 n.s. (3, 2707)15 歳時本所有 10 冊以下 2.84 734 冊数 11~25 冊 2.85 448 26~100 冊 2.95 773 101 冊以上 3.05 375 2.91 2330 3.794 * (3, 2326)

** p<.01, * p<.05, n.s.=not significant

217

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分類による 15 歳時父職は、信頼感に対して有意な効果を持ち、多重比較検定の結果、「専門・

管理」は「熟練・半熟練・非熟練」よりも信頼感が高かった(p<.01)。この結果は父主職に

ついても同様であった(p<.05)。次に総合 8 分類による 15 歳時父職は、信頼感に対して有意

な効果を持っていたが、多重比較検定の結果、「小ブルー」よりも「専門」で信頼感が高いこ

とが確認された(p<.05)他は、有意な差異は見出されなかった。この結果は父主職について

も同様であった(p<.05)。15 歳時の世帯における所有財 17は有意な効果を持たなかった(r

=.005, n.s.)。15 歳時の世帯における本の所有数の効果は有意であり、多重比較検定の結果、

101 冊以上の本を所有する場合(有効回答の 16.1%)では、10 冊以下の本しか所有しない場

合(同 31.5%)よりも信頼感が高かった(p<.05)。

以上から、父職の職業分類の効果については、本人現職と同様、父親が専門的な職業に就

いている場合に、子の信頼感が高くなる傾向が確認できる。しかし、職業分類以外の項目は

有意な効果を持たないほか、職業分類の効果も本人現職の場合と比較してよりクリアとは言

えない。したがって出身階層の信頼感に対する影響は、本人の現在の諸条件が示す所属階層

のそれよりも小さいのではないかと考えられる。ただし、15 歳時の本の所有数という文化資

本を示す変数が有意な効果を持ったことには注意を払う必要があるだろう。

後に、階層変数のうち、階層意識(階層帰属意識、暮らし向き)の影響について検討す

る(表 6)。階層帰属意識 18の効果は有意であり、多重比較検定の結果、「中の上」「中の下」

と答えた人(合わせて有効回答の 63.7%)は、「下の上」「下の下」と答えた人(同 35.7%)

よりも有意に信頼感が高かった(p<.01)。また「下の上」と答えた人も、「下の下」と答えた

人よりも有意に信頼感が高かった(p<.05)19。特に「下の下」の信頼感の低さ(全体の平均

値 2.92 に対して 2.52)は際立っている。現在の暮らし向きの効果もまた有意であり、多重比

較検定の結果、暮らし向きを「豊か」と答えた人(同 17.6%)は、「ふつう」「貧しい」と答

えた人よりも有意に信頼感が高かった(p<.01)。以上から、階層意識と一般的信頼感の間に

は有意な関連性が見られる。

以上をふまえ、社会階層と信頼感の関連についてまとめる。学歴、収入、所有財、本人現

職のいずれからみても、現在の所属階層は本人の一般的信頼感に影響を及ぼしており、階層

上の地位が高いほど一般的信頼感が高いという先行研究と同様の傾向を読み取ることができ

る。本人初職で検討した場合にも、同様の傾向が確認できた。これに対して出身階層につい

ては、類似の傾向は確認できるものの、所属階層の場合ほど明瞭なものではなかった。ただ

し文化資本を示す変数が有意な効果を示した点は注意を要するといえた。 17 面接票問 10 の 19 個の所有財(持ち家、田畑、風呂、子ども部屋、学習机、応接セット、ピアノ、テレ

ビ、ラジオ、ビデオデッキ、冷蔵庫、電子レンジ、電話、カメラ、文学全集・図鑑、パソコン・ワープロ、

クーラー・エアコン、乗用車、美術品・骨董品)について所有数を求め、これをおよそ 4 分位で分けたもの

を用いた。 18 留置 A 票問 8 の 5 段階の階層帰属意識を用いた。 19 これらの結果は、14 ケースしかない上を除いた場合、中の上と上を統合した場合にも変わらなかった。

218

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表 6 階層意識による一般的信頼感の差(一元配置の分散分析)

従属変数:一般的信頼感 独立変数 平均値 n F 値 (d.f.1, d.f.2)

階層帰属意識 上 2.57 14 中の上 3.12 440 中の下 2.99 1101 下の上 2.79 669 下の下 2.52 196 合計 2.92 2420 14.536 ** (4, 2415)現在の暮らし 豊か 3.04 474 向き ふつう 2.88 1849 貧しい 2.74 373 2.89 2696 8.191 ** (2, 2693)

** p<.01

3.3 地域および社会関係の特性と信頼感の関連

次に、地域および社会関係の特性と一般的信頼感の関連を検討する。地域特性に関する変

数としては都市規模を、社会関係特性に関する変数としては、地域でのコミットメント関係

の強さに関連すると考えられる、次のものを取り上げた。自治会・町内会活動への参加の程

度(留置A票問 10 オ)と、地域活動に関わる 4 団体・組織への参加の有無(同問 9) 20であ

る。分散分析の結果を表 7 に示す。まず都市規模は有意な効果を持たなかった。自治会・町

内会活動への参加の程度は信頼感に対して有意な効果を持っている(p<.01)。自治会・町内

会活動に参加したことがないというカテゴリ(有効回答の 18.8%)の信頼感が著しく低く、

多重比較検定の結果、他のすべてのカテゴリよりも信頼感が有意に低かった(p<.05)。「自治

会・町内会」「婦人会、青年団、消防団、老人会、子ども会などの地域組織」「PTA」「地域生

協」という 4 つの地域団体への加入については、「自治会・町内会」および「PTA」に加入し

ている人は、そうでない人よりも信頼感が有意に高かった(それぞれp<.01, p<.05)。PTAに加

入している人の約 8 割は自治会・町内会にも加入しているので、こうした地域活動にかかわる

変数のなかでは、自治会・町内会への加入や参加の程度がより重要な変数であると言えるだ

ろう。

以上から、地域特性については、大都市ほど一般的信頼感が高いという傾向は確認できな

い。地域特性は単独では有意な効果をもたらさないとする先行研究と整合的な結果である。

また社会関係の特性については、地域に関与しているほど、特に自治会・町内会活動への参

20 留置 A 票問 9 では 13 の団体・組織について加入の有無を問うている。しかしここでは、地域におけるコ

ミットメント関係を表わすような社会関係の特性が重要であるから、13 団体すべてについての参加団体数

をカウントすることには意味が無いと考え、明らかに地域に関わる団体であるとわかるもの、すなわち「自

治会・町内会」「婦人会、青年団、消防団、老人会、子ども会などの地域組織」「PTA」「地域生協」の 4 団

体への加入のみを取り上げた。

219

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表 7 地域特性、社会関係特性による一般的信頼感の差(一元配置の分散分析)

従属変数:一般的信頼感 独立変数 平均値 n F 値 (d.f.1, d.f.2)

都市規模 政令市 2.97 459 25 万人以上の市部 2.90 518 10~25 万人未満の市部 2.92 434 10 万人未満の市部 2.82 596 郡部 2.86 704 合計 2.89 2711 1.361 n.s. (4, 2706)自治会・町内会 いつも参加している 2.94 385 活動への参加 よく参加している 3.01 473 の程度 時々参加している 2.91 916 めったに参加しない 2.91 422 参加したことがない 2.67 509 合計 2.89 2705 6.575 ** (4, 2700)自治会・町内会 加入 2.96 1515 への加入 加入せず 2.80 1196 合計 2.89 2711 13.288 ** (1, 2709)婦人会・青年団 加入 2.96 469 等地域組織へ 加入せず 2.87 2242 の加入 合計 2.89 2711 2,429 n.s. (1, 2709)PTA への加入 加入 3.01 360 加入せず 2.87 2351 合計 2.89 2711 4.766 * (1, 2709)地域生協への 加入 3.01 253 加入 加入せず 2.87 2458 合計 2.89 2711 3.330 n.s. (1, 2709)

** p<.01, * p<.05, n.s.=not significant

加頻度が高いほど一般的信頼感が高い傾向が確認できた。この点もまた、先行研究の知見を

支持するものである。

3.4 信頼感の重回帰分析

以上のように、個別の階層変数との関連を検討した場合には、一般的信頼感は階層上の地

位と正の関連を示す。しかしこの関連を重回帰分析などの一般線形モデルで検討すると、有

意な効果を確認できず、また説明力も大変弱いとする先行研究がある。本稿でこの点を検討

したものが表 8 である。

モデル 1~4 まで 4 つの分析を行った。モデル 1 は、基本的な属性に関する変数および職業

以外の階層変数を投入したモデルである。本人年収は面接票問 33 の個人年収について、各カ

テゴリの中央値を与えて連続変数とした。年齢と教育年数、所有財が有意な正の効果を示し

220

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表 8 一般的信頼感を従属変数とする重回帰分析 n=1425

モデル 1 モデル 2 モデル 3 モデル 4 性別ダミー 男性=1 .028 .079** .076** .061* 年齢 .107** .093** .076** .075* 教育年数 .128** .070* .069* .064 本人年収 .024 -.032 -.023 -.016 所有財の数 .046* .039 .031 .039 企業規模ダミー .053* .049 .039 現職ダミー 事務・販売 -.044 -.043 -.053 熟練・半熟練・非熟練 -.131** -.128** -.119** 農業 -.044 -.044 -.038 都市規模 .013 .018 自治会・町内会活動参加度 .046 .030 父主職ダミー 事務・販売 .016 熟練・半熟練・非熟練 -.011 農業 .043 F 値 13.937** 7.536** 6.366** 3.991** 調整済み R2 乗 .027 .035 .036 .029

** p<.01, * p<.05

たが、決定係数は.027 ときわめて低い。モデル 2 では本人現職に関する変数を加えた。企業

規模は、これまでの分析から官公庁ないし 500 人以上の大企業の場合に信頼感が高いことが

わかっているので、官公庁ないし 500 人以上の大企業の場合に 1、499 人以下の規模の企業の

場合に 0 であるダミー変数とした 21。本人現職は、「専門・管理」を基準カテゴリとするダミ

ー変数である 22。結果、性別が有意な正の効果を持ち、年齢と教育年数の正の効果はやや減

じた。企業規模はごく弱い正の効果を示している。職業については、専門・管理に比べて熟練・

半熟練・非熟練の信頼感が有意に低いという結果である。モデル 1 に比べてモデルのあてはま

りは改善されたものの、決定係数は.035 とやはり大変低い。モデル 3 ではさらに、地域特性、

社会関係特性に関する変数を投入した。地域特性については都市規模(政令市~郡部の 5 段

階)、社会関係特性については自治会・町内会活動への参加度(いつもしている~したことが

ないの 5 段階)である。いずれの変数も有意な効果を持たず、モデルもまったく改善されな

かった。モデル 4 は、モデル 3 に出身階層に関する変数を加えたものである。「専門・管理」

を基準カテゴリとする父主職のダミー変数のみを用いた 23。この父職は一般的信頼感につい

て有意な効果を持たず、また決定係数がさらに低下するという結果になった。

21 企業規模についてはカテゴリを統合せずに用いる分析も試みたが、結果に大きな差異はみられなかった。 22 ダミー変数ではなく職業威信を用いたモデルも検討したが、有意な効果を持たず、またモデルのあては

まりの点でも劣っていた。これは父職についても同様である。 23 15 歳時の所有財は年齢との相関が高く用いることができなかった。また文化資本の変数にあたる 15 歳時

の本の所有数は有意な効果を持たないだけでなく、決定係数を減ずるため 終的なモデルからは除いた。

221

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本稿のデータの範囲内で先行研究に沿ったモデルとしたモデル 3 の結果について改めて述

べれば、男性の方が、年齢が高い方が、学歴が高い方が信頼感は高く、また専門・管理の職

についている者に比べて、熟練・半熟練・非熟練の職についている者の信頼感は低いといえ

る。既存研究と比較では以下のことを指摘できる。第一に、いずれのモデルの決定係数も極

めて低く、線形モデルによる一般的信頼感の予測はうまくいっているとは言えない。この結

果は既存研究の結果と整合的である。第二に、決定係数の値が低いことをふまえた上で各変

数の効果を検討するならば、既存研究では検討される機会の無かった出身階層の効果につい

て、少なくとも父職の直接的な影響は確認されなかったことを指摘できる。そして第三に、

地域におけるコミットメント関係を表わす変数である「自治会・町内会活動参加度」が有意な

効果を持たなかった点が既存研究が示すところと異なる。また、これまで有意な効果が見出

されていない本人の職業について、効果が確認された点も異なっている。

3.5 階層、地域、社会関係の組み合わせによる信頼感の分析

後に、階層、地域、社会関係を組み合わせた場合に、一般的信頼感の水準がどのように

異なるかについて検討する。都市規模、学歴、世帯収入、地域参加の程度(A 票問 10e)に

ついて、先行研究を参考にして、それぞれ以下の 2 値変数を作成した。

都市規模:都市(10 万以上の市、52.1%)、非都市(10 万未満の市と郡、47.9%)

学 歴:高学歴(短大卒以上、27.5%)、低学歴(それ以外、72.5%)

世帯収入:高収入(750 万円以上、30.1%)、低収入(750 万円未満、69.9%)

地域参加:地域参加多(平均以上、65.6%)、地域参加少(平均未満、34.4%)

この 4 変数を用いて、階層(学歴、世帯収入)、地域(都市規模)、社会関係(地域参加)

を組み合わせた 16 カテゴリの類型を作成し、これを独立変数、一般的信頼感を従属変数とし

た分散分析を行う。先行研究によれば、都市と非都市では、階層や社会関係が持つ効果は異

なるとされる。したがってここでは、都市と非都市とに分けて、それぞれ分散分析を行った

24。

まず都市における階層と社会関係の組み合わせによる差異を見ていこう。 も信頼感が高

いのは、「高学歴・高収入・地域参加多」であり(3.22)、 も信頼感が低いのは「低学歴・

低収入・地域参加少」である(2.55)。多重比較検定を行ったところ、「低学歴・低収入・地域参

加少」は、「高学歴・高収入・地域参加少」と「低学歴・高収入・地域参加少」を除く他のカテ

ゴリよりも、有意に信頼感が低かった(p<.01)。

24 都市と非都市を分けずに行った分散分析の結果も有意なもので(F(15, 1709)=4.364、p<.01)、階層・地

域・社会関係による類型は一般的信頼感に対して有意な効果を持った。

222

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表 9 階層・地域・社会関係による 16 類型の分布と、一般的信頼感の分散分析

カテゴリ 度数 % 信頼感 平均値 F 値

(d.f.1, d.f.2)

都市・高学歴・高収入・地域参加多 78 8.5 3.22

都市・高学歴・高収入・地域参加少 45 4.9 2.84

都市・高学歴・低収入・地域参加多 82 9.0 3.09

都市・高学歴・低収入・地域参加少 73 8.0 3.10

都市・低学歴・高収入・地域参加多 110 12.0 3.13

都市・低学歴・高収入・地域参加少 54 5.9 2.91

都市・低学歴・低収入・地域参加多 311 34.0 2.99

都市・低学歴・低収入・地域参加少 163 17.8 2.55

都市合計 916 100.0 2.98 5.073 ** (7, 908)

非都市・高学歴・高収入・地域参加多 66 8.2 3.42

非都市・高学歴・高収入・地域参加少 23 2.8 3.39

非都市・高学歴・低収入・地域参加多 71 8.8 3.11

非都市・高学歴・低収入・地域参加少 32 4.0 2.78

非都市・低学歴・高収入・地域参加多 128 15.8 3.02

非都市・低学歴・高収入・地域参加少 27 3.3 2.96

非都市・低学歴・低収入・地域参加多 348 43.0 2.79

非都市・低学歴・低収入・地域参加少 114 14.1 2.75

非都市合計 809 100.0 3.03 4.244 ** (7, 801)

** p <.01

以上をふまえて、第一に、「高学歴・高収入・地域参加少」を除けば、都市では収入と地域参

加の程度が同じであれば、高学歴であるほうが信頼感が高いという傾向が確認できる。これ

は与謝野・林(2005)が地域を問わず高学歴であることが信頼生成の必要条件であるとして

いることと整合的である。第二に、都市であっても地域参加が多いカテゴリでより信頼感が

高い傾向が見られる。多重比較の結果、「高学歴・低収入・地域参加少」を除く地域参加が少な

いグループでは信頼感が相対的に低く、またこれらのカテゴリ間には有意差が見られなかっ

た。このことは、与謝野・林(2005)が都市的地域では「収入が高く、近隣との付き合いが

少ない」ことが一般的信頼感を生成する条件であるとした知見に反する。本稿の分析では、

与謝野らの「収入が高く、近隣との付き合いが少ない」という条件に対応する「高学歴・高

収入・地域参加少」のグループで相対的に信頼感が低かった。

次に非都市の場合、 も信頼感が高いのは、都市と同じく「高学歴・高収入・地域参加多」

であり(3.42)、「高学歴・高収入・地域参加少」(3.39)がこれに続く。 も信頼感が低いの

は、やはり都市と同じく「低学歴・低収入・地域参加少」である(2.75)。多重比較検定の結果、

「高学歴・高収入・地域参加多」は、「低学歴・低収入・地域参加多」「低学歴・低収入・地域参

223

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加少」の 2 カテゴリよりも有意に信頼感が高いといえた(p<.01)。

以上をふまえて、第一に、非都市ではすべての組み合わせにおいて、収入と地域参加の程

度が同じであれば、高学歴であるほうが信頼感が高いという傾向が確認できる(ただし統計

的に有意な差ではない)。この点については都市の分析で見たとおり、先行研究の知見と整合

的である。第二に、学歴と収入の程度が同じであれば、地域参加が多い方が信頼感が高い傾

向が見られる(ただしこれも統計的に有意な差ではない)。第三に、与謝野・林(2005)が非

都市における信頼感の生成条件として指摘した「収入が低く、居住年数が長く、かつ近隣と

の付き合いが多い」に対応すると考えられる「高学歴・低収入・地域参加多」のカテゴリは、

第一と第二の点で見たとおり低学歴のカテゴリや学歴と収入が同じ条件で地域参加が少ない

グループよりは信頼感が高いものの、他のカテゴリと比較して特に高い信頼感を示すことは

なかった。

全体として、都市と非都市とで階層変数と社会関係変数の効果が異なるという結果は得ら

れなかった。地域特性を問わず、「高学歴」であることは、一般的信頼感の生成条件として重

要であるだろう。また地域特性を問わず、「高学歴・高収入・地域参加多」と社会的資源に恵

まれたカテゴリは一般的信頼感が高く、反対の「低学歴・低収入・地域参加少」と社会的資

源に恵まれないカテゴリは一般的信頼感が低い。この 2 つのカテゴリの間の差異は、都市、

非都市の双方において有意なものであった。さらに、地域特性を問わず、他の条件が同じな

らば地域参加が多い方が信頼感が高まる傾向を確認した。ただしこの傾向は、都市でより強

いように思われる 25。

4 結語

本稿は、ランダム・サンプリングによって得られた大規模データに基づいて、一般的信頼

感と階層変数、地域・社会関係の特性に関する変数との関連を検討した。その結果、既存研

究に沿った結果と、異なる結果の双方が得られた。

社会階層と一般的信頼感の関連については、個別に見た場合現在の階層上の地位が高いほ

ど一般的信頼感が高いという先行研究と同様の結果を確認した。初職で見てもこの傾向は変

わらず、出身階層は所属階層ほど明瞭な傾向を示さなかった。重回帰分析では、学歴が高い

ほど 26、また熟練・半熟練・非熟練に比して専門・管理の方が信頼感が高いという結果を得た。

これまであまり詳細な分析は行われていなかった職業については、今回の結果をふまえて、

25 この点は、辻・針原(2002)による都市における社会的ネットワークの重要性の指摘と整合的である。 26 表 5 において文化資本に対応する変数が有意な効果を示し、また表 8 において出身階層変数を投入した

ところ教育年数の効果が消えたことをふまえると、出身階層は文化資本を通じて信頼感に影響を与えている

可能性について、もう少し考慮する必要があるかもしれない。ただし、Yosano&Hayashi (2005)では、文化資

本(popular-culture と high-culture)はいずれも信頼感に対して、直接間接を問わず効果を持たなかったこと

が報告されている。

224

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今後分析に取り込んでいく必要を指摘できる。

地域特性、社会関係特性との関連については、個別に見た場合、やはり都市規模との関連

は見られず、地域参加の程度と有意な正の関連を示した。ただし重回帰分析では、地域参加

が効果を持たず、この点が先行研究とは大きく異なった。その理由はいくつか考えられるが、

「自治会・町内会活動への参加の程度」を示す本稿の変数がコミットメント関係の指標として

不十分であった可能性は大きいだろう。たとえば林(2004)では、コミットメント関係の指

標として「町内会・自治会の行事」「地元のお祭り」「文化・趣味サークル」等の 5 項目から地

域参加を、「相談ごとを相談しあう」「お茶や食事を一緒にする」「もののやりとりをする」な

どの 7 項目から近隣との付き合いを測定している。本稿が用いた「自治会・町内会活動への参

加の程度」は地域参加の一面でしかない。しかも「近隣とのつきあい」という意味では、本

来相互的であるはずのそれの、「参加」の側面が強調された変数である。コミットメント関係

の信頼感に対する効果の検証には、より適切な指標による再検討が必要である 27。いずれに

しても、これらの重回帰分析の説明力がきわめて弱いという点は先行研究と一致した。

後に階層、地域、社会関係の変数を組み合わせた分析では、都市と非都市との差異が見

られず、どの地域においても社会資源に恵まれたカテゴリで信頼感が高く、その他の条件が

同じなら地域参加の多いカテゴリで信頼感が高かった。先行研究とは分析方法が異なるため

単純な比較はできないが、少なくとも地域性を問わない「高学歴の重要性」については確認

することができた。

以上の本稿の分析は、社会関係の測定、地域特性の指標、そして分析手法について課題を

残している。社会関係の測定については既に述べた。地域特性の指標については、都市規模

という単純な指標ではなく、産業の情報などを外挿した変数を工夫する余地がある。そして

この工夫を行った上で、地域特性と他の変数との組み合わせの効果(3.5 節)を先行研究と

同様の分析手法を用いて検討することが、分析手法についての課題である。

【参考文献】

岩渕亜希子. 2004.「信頼の機能と社会階層」直井優・太郎丸博編『情報化社会に関する全国調査 中間

報告書』(大阪大学大学院人間科学研究科 先端情報環境学・先進経験社会学・社会データ科学研

究分野):141-57. Fukuyama, F. 1995. Trust: The Social Virtues and the Creation of Prosperity. New York: Free Press. =1996. 加

藤寛(訳)『「信」無くば立たず』三笠書房. Hardin, R. 2002. Trust and Trustworthiness. New York: Russell Sage Foundation. 林直保子. 2004.「社会関係と信頼――安心は信頼を育むのか、それとも破壊するのか」『関西大学社会

学部紀要』35(2):1-17.

27 こうした可能性を考え、留置 A 票問 9 の地域組織以外の団体加入の効果や、留置 A 票問 26 の「近

所の人」を招いたり、「近所の人」に相談した経験をたずねた項目についても検討したが、一般的信頼

感との間に十分な関連を見出すことはできなかった。コミットメント関係の程度について、「有無」の

2 値で測定することには限界があるのかもしれない。

225

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226

林直保子・与謝野有紀. 2005.「適応戦略としての信頼――高信頼者・低信頼者の社会的知性の対称性

について」『実験社会心理学研究』44(1):27-41. Kohn, M.L. and C. Schooler. 1983. Work and Personality: An Inquiry into the Impact of Social Stratification.

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回大会発表論文集』. ――――・――――. 2003. 「日本人の人間関係と知人数の規定因――『小さな世界』モデルの検証」

『日本社会心理学会第 44 回大会発表論文集』. 山岸俊男. 1998.『信頼の構造――こころと社会の進化ゲーム』東京大学出版会. ――――. 1999.『安心社会から信頼社会へ――日本型システムの行方』中央公論新社. 与謝野有紀・林直保子. 2005.「不確実性、機会は信頼を育むか?――信頼生成条件のブール代数分析」

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and Longitudinal Survey on National Character.” Behaviormetrika 29(2): 231-60.

Determinant Factors of General Trust:

Social Stratification, Regions, and Commitment Relations

Akiko Iwabuchi Otemon Gakuin University

In this paper, I discuss the determinant factors of general trust using data from 2005 SSM survey in Japan. First I examined the relationships between social stratification and the level of general trust. The results of the analysis showed that educational background and job categories of the present job had effects on general trust. Second I examined the differences of general trust among regions (city size) and the effects of commitment relations on general trust. The results showed that both regions and commitment relations had no effect. However, I also examined the effects of combination of the three factors (regions, social stratification, and commitment relations) and found that commitment relations increased the level of general trust and higher education was necessary condition for high general trust.

Keywords: General trust, Social Stratification, Regional Differences, Commitment Relations

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権威主義的態度と社会階層

―分布と線形関係の時点比較―

轟 亮

(金沢大学)

【要旨】

1995 年 SSM 調査 B 票と 2005 年 SSM 日本調査留置 A 票のデータを用いて、権威主義的態度に

関する時点比較を行った。その結果、以下のことが明らかとなった。(1) 前回の研究で指摘した、

反権威主義的態度の高まりは継続しておらず、権威主義に肯定あるいは中間的回答の増加がみら

れる。(2) 権威主義の高まりは、若年層、高学歴層で相対的に大きい。(3) 権威主義的態度と政

治意識との相関関係が小さくなっている。(4) 年齢との相関関係が見られなくなった。(5) 本人

教育年数のみが直接効果をもつが、その影響は小さくなっている。この 10 年で、権威主義的態

度の社会階層上の平準化が、権威主義的態度の高まりによって、逆の言い方では、反権威主義的

態度の低下によって起こった。この変化が、00 年代前半の社会意識の保守化とみなされる現象の

背景にある可能性がある。

キーワード: 権威主義的伝統主義、保守主義、社会意識、重回帰分析

1 はじめに

2005 年 SSM 日本調査(SSM2005-J)の留置 A 票では、1995 年 SSM 調査 B 票とまったく

同一の形式である 4 つの質問項目によって、権威主義的態度を測定している。本章ではこれ

らを用いて、権威主義というひとびとの基礎的価値態度の変容、意識空間における権威主義

的態度の位置・意味の変化、階層意識という観点からみた権威主義的態度の変化について分

析し、明らかにしたい。

権威主義的態度は、ファシズムを支持する、反民主主義的な社会的態度として(Adorno)、

また近代産業社会に適合的な自己指令的志向の基軸として(Kohn)、社会学の計量的社会意

識研究において重要な研究対象とされてきた。これまでSSM研究では権威主義的態度を、1985

年男性A票(問 17)、1995 年B票(問 39)、2005 年日本調査(留置A票・問 18)の計 3 回、測

定している(表 1 を参照)。95 年と 05 年とは、質問文、選択肢についてまったく同一の形式

である 1。両者を比較することで、この 10 年間で日本人の社会意識、社会意識の階層性にど

のような変化があったのか、その一側面を捉えることができるだろう。85 年と 95 年の比較

1 これによってはじめて女性の権威主義的態度の2時点間比較が可能になった。また、男性について

も同一の選択肢形式となり、比較が容易になった。

227

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については、既に、轟(1998)で報告している。そこでは、(1) 85 年から 95 年の間に、権威

主義化は進んでおらず、おそらくかなり確実に反権威主義的傾向が高まっている、(2) 男性

の権威主義的態度と関連している属性は年齢、教育年数、職業威信であり、規定要因として

直接効果をもつのは、85 年は年齢、教育年数、95 年では年齢、教育年数、職業威信

表1 SSM 調査における権威主義的態度の質問項目

85 年 95 年 05 年

質問文

本章での

略称

男性 A 票 問 17 3 肢

男女 B 票 問 39 5 肢

男女 留置 A問 18 5 肢

権威のある人々には常に敬意を払わなければな

らない 権威主義1 A17E q39d a18b

以前からなされているやり方を守ることが、

上の結果を生む 権威主義2 A17F q39e a18c

伝統や習慣にしたがったやり方に疑問を持つ人

は、結局は問題をひきおこすことになる 権威主義3 A17I q39f a18d

この複雑な世の中で何をなすべきかを知る一番

よい方法は、指導者や専門家に頼ることである 権威主義4 A17J q39g a18f

表2 1995 年 B 票と 2005 年(留置 A 票)で比較可能な意識項目

95 年 B 票 05 年

生活満足度 q37 q29

階層帰属意識(10 段階) q26_2 q30

階層帰属意識(5 段階) q26_1 a08

自民支持 q41_1 a11_1

無党派 q41_1 a11_1

性別分業1(分業) q35a a16a

性別分業2(教育) q35b a16b

性別分業3(適性) q35c a16c

教育意識1(高い教育) q33a a17a

教育意識2(塾) q33b a17b

教育意識3(学歴が人生決定) q30d a06b

政策選好1(福祉充実) q40c a07a

政策選好2(規制 小) q40a a07b

05 年の変数名は『コード・ブック』を参照.

228

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であること、(3) 95 年において女性の権威主義的態度と社会的属性との関連の構造は、男性

と同様であること、などを明らかとした。本章では、新たに 95 年と 05 年の比較を行ってい

く。また、権威主義以外の意識項目で、1995 年B票と 2005 年日本調査(留置A票の回答者)

とで比較できるのは、表 2 の 13 変数である 2。これらの質問項目の分析結果についても、適

宜言及する。なお各変数は、数値が大きいほど、変数名称の性質が「高い」「賛成」である度

合いが高くなるようにリコードしている。

本章の分析で使用するデータは、すべて 2005 年社会階層と社会移動調査研究会から配布さ

れたものである。1995 年SSM調査B票データ(SSM95_b.sav)は、東京大学社会科学研究所

SSJデータアーカイブに寄託されているものと同じである。全体ケース数は 2,704、うち男性

1,242、女性 1,562 である。また、2005 年SSM日本調査については、2007 年 11 月 28 日付配布

のversion14.2.savファイルを使用している 3。このデータのうち、留置A票回答者を分析の対

象とするので、全体ケース数は 2,827、うち男性 1,343、女性 1,484 である。

2 回答分布の時点間比較

権威主義項目については、1995 年では面接法、2005 年では留置法で回答を得ている。はじ

めに DK・NA 率を確認し、実査の方法の差異による影響について少し検討しておこう。1995

年では、権威主義 4 項目について 3~5%の DK・NA が見られていた。2005 年では、これが

項目順にそれぞれ、2.6、1.5、3.2、4.3 ポイント上昇し、DK・NA 率が 5.6~9.0%となった。

やや高い率となっていることがわかる。

2005 年国内調査・面接票の質問項目である、生活満足度、階層帰属意識(10 段階)では

DK・NA 率が 1995 年とほぼ同じであるので、権威主義 4 項目の DK・NA 率上昇には、実査

の方法による影響があったことが推測される。ただし、同じく 2005 年留置 A 票にある政党

支持については、DK・NA 率は変化していない(上昇ではなく、むしろ低下している)。も

っとも政党支持の質問項目は、「支持政党なし」という選択肢が提示されているので、同じよ

うに考えてはいけないかもしれない。

留置 A 票にある、その他の比較可能な意識項目の DK・NA 率の上昇ポイントは、階層帰

属意識(5 段階)が 7.9 ポイント、性別分業意識1~3が、2.7、1.4、3.2 ポイント、教育意

識1~3が、3.2、4.4、1.1 ポイント、政策選好1~2が、1.1、2.3 ポイントとなっている。

ここから、面接法に対して留置法では DK・NA 率が増加することが推測され、また、権威主

2 2005 年 SSM 日本調査の留置 A 票回答者は、面接票に既に回答しているという調査設計なので、当

然のことながら、面接票にある質問でも、1995 年 B 票データと比較可能な項目がある。 3 version14.2.sav では、SSM 学歴変数(ed_ssm)に 1 ケースの変換ミスがあると思われる。このケー

ス(40 代女性)は、無回答(9)となっているが、問 17 の回答パターンを点検すると、高校卒(2)とするのが適切である。ただしこれは留置 B 票の対象者で、本章の分析サンプルには含まれない。

229

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義項目の DK・NA 率の変化が他項目に比べて大きくはないことが確認できる。以上の確認を

いちおう念頭においた上で、実質的な回答分布の時点比較を行っていこう。

2.1 権威主義項目の時点比較

時点変数(1995 年と 2005 年の2値変数)と各意識変数のクロス表を作成し、表 3 に関連

性の指標、クラマーの V、意識変数を従属変数としたソマーズの D、ピアソンの R を示した。

クラマーの V をみると、4 項目すべてで、回答分布に有意な変化が確認できる。順序付け可

能な変数の指標であるソマーズの D では、変化の大きさは小さくなり、変化の向きが一様で

はないことがわかる。R で線形の変化をみると、権威主義1(敬意)のみが考慮すべき大き

さであり、権威主義1については権威主義が「高まる」方向に変化している。

表3 時点変数との関連性の指標

V D R

権威主義1(敬意) 0.211 0.149 0.114

権威主義2(従前) 0.166 0.084 0.051

権威主義3(伝統) 0.135 -0.033 -0.045

権威主義4(依存) 0.199 -0.049 -0.057

生活満足度 0.103 0.087 0.066

階層帰属意識(10 段階) 0.149 0.105 0.080

階層帰属意識(5 段階) 0.182 -0.191 -0.174

自民支持 0.065 0.058 0.065

無党派 0.080 -0.080 -0.080

性別分業1(分業) 0.119 -0.111 -0.105

性別分業2(教育) 0.088 -0.037 -0.039

性別分業3(適性) 0.196 -0.185 -0.157

教育意識1(高い教育) 0.139 -0.015n.s. -0.019n.s.

教育意識2(塾) 0.087 0.011n.s. 0.005n.s.

教育意識3(学歴決定) 0.120 -0.063 -0.058

政策選好1(福祉充実) 0.068 -0.034 -0.028

政策選好2(規制 小) 0.140 -0.062 -0.039

n.s.は 5%水準で有意ではない.無印の数値はすべて 5%水準で有意. 分析ケース数は、4,861~5,509.

230

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回答選択肢ごとに比率の変化を確認してみると、権威主義 4 項目すべてにおいて「中間的

回答」(「どちらともいえない」)が 8~13 ポイント程度増加し、両端選択肢の回答比率が低下

している。特に、権威主義1と2では、反権威主義選択肢(「そう思わない」)の比率が約 13

ポイントも低下している。権威主義1では、「どちらかといえばそう思う」の選択率が、約 6

ポイントと、相対的に大きく高まっており、このことによって上で指摘した線形の変化が生

じている。以上について、男女別に分析してもほぼ同様の結果が得られる。

ここまで確認してきた権威主義項目の変化の大きさは、他の時点比較可能な意識項目の変

化と比べてどう評価できるのだろうか。表 3 には、その他の意識項目についても、時点変数

との関連性の指標を示している。クラマーの V を比較すると、権威主義 4 項目は回答分布の

変化が比較的大きい質問項目であったと言える。既述のとおり、この内実の大きな部分は中

間的な回答の増加である。順序や線形の関連の指標(D、R)をみると、権威主義1が、階層

帰属意識(5 段階)、性別分業意識3(適性)に次いで大きな値となっているが、その他 3 項

目については、他の変数と同じように、変化は大きくはない。直線的な指標からは、サンプ

ル全体として、この 10 年間の社会意識の変化が「大きかった」とみなすのは難しい。ただし

当然ながら、変化の意味の重要性は、社会的にその変数がどのような意味をもつのかによっ

て決まるので、たとえ指標の値が大きくなくても議論すべき場合が多くある。

轟(1998)では、1985 年から 95 年にかけて反権威主義的傾向の高まりがあったことを指

摘したが、今回行った 1995 年と 2005 年の比較では、同じ向きでの変化は継続していない。

逆に権威主義1については、そう大きくはないものの、権威主義的回答の増加がみられる。

これは、筆者にとっては予想外のことであった。そして、すべての項目で強い反権威主義の

回答比率が低下し、中間的回答が増加している。この結果、各項目の回答の散らばりは小さ

くなっている。権威主義 4 項目の標準偏差の変化を、「1995 年の値→2005 年の値」という形

式で示すと、1.27→1.12、1.20→1.03、1.27→1.08、1.33→1.08 となっており、回答の散らばり

度合いが小さくなっていることがわかる。2005 年では、権威主義を支持する意見に対して、

簡単に賛否の判断を下せないという、保留の傾向が強まったのである 4。

2.2 生年コーホート別の比較

1995 年と 2005 年では、サンプルの年齢構成がやや異なる。男女ともに 2005 年データは、

1995 年に比べて、20、40 代が少なく、60 代が多くなっている。これまでは、年齢が高いほ

ど権威主義的傾向が高いという相関関係が確認されてきたので、上で行った単純なサンプル

全体の回答分布を比較するだけで、「権威主義化」を指摘するのは尚早であろう。そこで、分

4 実査の方法が、95 年が面接法、05 年が留置法であったことによる「中間的回答の増加」も予想でき

る。しかし、時点比較可能な他の意識項目については標準偏差の低下はみられないので、実査の方法

がこの変化の主要因であるとは言えない。

231

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析サンプルを 10 生年コーホートで分類し、同一生年コーホートで時点間比較(関連性の指標

の算出)を行った 5。この結果、権威主義1と2と4について、若い生年世代ほど、ソマーズ

のDやピアソンのRが大きな値をとる傾向(したがって、より権威主義の方向に変化している

傾向)があることがわかった 6(権威主義3は、すべてのコーホートで時点間の有意な差異が

みられなかった)。権威主義4では、 も年長の 1935~44 年生まれコーホートでは、弱い反

権威主義化の方向の変化さえみられる(V=0.244**、D=-0.086**、R=-0.084**)のに対して、

も若い 1965~74 年生まれコーホートでは弱い権威主義の高まりがみられる(V=0.098n.s.、

D=0.093*、R=0.079*)。よって、サンプル全体で見られた傾向は、サンプルの年齢構成の変

化に起因するものではないことがわかる。

サンプル全体でみると も回答分布の変化が大きかった権威主義1は、すべての生年コー

ホートでも権威主義の高まりを示す数値が得られるが、 も年長のコーホートから順に、R

=0.086**、0.110**、0.136**、0.218**と、若い世代ほどその度合いが大きくなる。男女別に

分析しても同様の傾向が確認できるが、全般に男性のほうが女性よりも変化の度合いが大き

い。 も若い 1965~74 年生まれコーホートの男性では、権威主義1の V=0.279**、D=0.298**、

R=0.257**と、かなり大きな値となっている(表 4 にクロス表を示した)。ここでは反権威主

義的な回答比率が大きく低下しており、弱い肯定的回答と中間的回答が増加している。権威

主義1の高まりは、若年男性に中心的に見られるのである。そしてさらに細かくみると、初

等・中等学歴層よりも高学歴層において、この傾向が強いことがわかる。1965~74 年生まれ・

男性・高学歴層では、V=0.398**、D=0.354**、R=0.299**までになる。

1985 年と 1995 年の比較では も反権威主義化が進んでいた若年層において、そして従来、

相対的に権威主義的態度が低かった高学歴層で、この 10 年間に「権威主義化」が起こってい

るという事実はたいへんに興味深い。権威主義 4 項目のうち 1 項目で確認できるにとどまる

ものの、ある種の「揺り戻し」、権威的な秩序への志向性の高まり、とも解釈しうる結果であ

る。00 年代前半にあらわれたとされる、政治や企業におけるトップダウン型の組織編成原理

への志向、若年層での(プチ)ナショナリズムの高揚などの現象の背景に、価値態度のこの

ような変化があったのかもしれない。

後に、2005 年で新たに加わった 1975 年以下生まれコーホートの回答傾向を確認してお

こう。この 20 代年齢層・男性の権威主義1の回答分布は、ひとつ上の生年コーホートの 2005

5 轟(1998)では、生年コーホート別に、85 年と 95 年の回答分布を比較している。これまで権威主

義と年齢の間には正の相関があったので、生年コーホートで比較すれば、権威主義化の傾向が確認さ

れるはずだが、分析の結果、そのような傾向は確認できなかった。今回は、それと同じ視点で行った

分析結果を紹介する。しかし、あとで行う権威主義的態度の規定要因の多変量解析との接続を考える

なら、年齢階級別の時点比較を行うことも重要である。これを実際に分析したところ、同じ年齢階級

における回答分布の変化は、生年コーホートでみられた結果と同じ向きであり、大きさがより大きい

ものであることがわかった。 6 クラマーの V でもその傾向がみられる。

232

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年における分布(表 4 を参照)と非常によく似ている。したがって、1995 年の 20 代よりも、

2005 年の 20 代の権威主義的な傾向は、高くなっているということである。女性についても

これに近い結果となっている。

本節の知見をまとめると、(1) 権威主義1で権威主義の高まりが確認でき、それは若い年

齢層であるほど、そして特に男性・若年高学歴層で顕著である、(2) 中間的回答の比率が増

えており、全体として権威主義 4 項目の回答分布のばらつきが小さくなっている。

表4 1965~74 年コーホート・男性・権威主義1の時点間比較

思わない どちらとも 思う 計

83 44 48 14 6 195 1995 年 42.6% 22.6% 24.6% 7.2% 3.1% 100.0%

51 47 82 51 8 239 2005 年 21.3% 19.7% 34.3% 21.3% 3.3% 100.0%

134 91 130 65 14 434 計

30.9% 21.0% 30.0% 15.0% 3.2% 100.0%

3 意識変数間の関連

3.1 権威主義的態度尺度

権威主義 4 項目のどうしの相関は高いことが既にわかっている。2005 年データで相関係数

を算出し、1995 年の相関行列と比較すると、女性において全般に相関が少しだけ高まる傾向

があるものの、大きく見れば権威主義項目内部の相関関係に変化はないと言える(表 5 に 1995

年と 2005 年とを合併した分析サンプルでの権威主義 4 項目の相関行列(リストワイズ)を示

した)。いずれの変数も、数値が高いほど権威主義的な傾向が高くなるものである。

表5 権威主義 4 項目の相関係数

権威主義 1 権威主義 2 権威主義 3 権威主義 4

権威主義1(敬意) 1.000

権威主義2(従前) 0.407 1.000

権威主義3(伝統) 0.296 0.457 1.000

権威主義4(依存) 0.314 0.362 0.351 1.000

リストワイズで 4,886 ケース.すべて 1%水準で有意.

233

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表6 権威主義的態度の主成分分析(1995 年と 2005 年の統合データ)

因子 固有値 寄与率(%) 変数 因子負荷量 共通性

第 1 主成分 2.098 52.454 権威主義1(敬意) 0.685 0.470

第 2 主成分 0.712 17.803 権威主義2(従前) 0.786 0.618

第 3 主成分 0.675 16.869 権威主義3(伝統) 0.732 0.536

第 4 主成分 0.515 12.874 権威主義4(依存) 0.689 0.475

計 4.0 100.000%

そこで、1995 年と 2005 年とを合併した分析サンプルで、権威主義 4 項目の主成分分析を

行い 7、結果を表 6 に示した。これまで分析されてきた結果と同様に、固有値 1 以上の主成分

は 1 つ抽出される。調査時点を超えて非常に安定した分析結果である。この分析に基づいて

各ケースに主成分得点を与え、以下ではこれを「権威主義的態度」の尺度として扱うことに

する。ほかの方法として、調査時点ごとに、あるいは調査時点と性別の組み合わせごとに主

成分分析を行うことができる(計 6 つの分析)が、それらの結果は表 6 とほとんど変わらな

い。また、それらの主成分分析によって与えられた主成分得点は、表 6 の分析によって得ら

れた主成分得点とほとんど相関 1 である。よって、調査時点毎や性別の分析であっても、は

じめの計算によって得られた主成分得点を使用して、問題はない。

主成分得点「権威主義的態度」は、調査時点間で若干の平均値の差がみられ、2005 年の方

が高い(F=4.139、p=0.042、η=0.029)。これは第 1 節で検討した通りである。しかし、

調査時点と性別を組み合わせた 4 カテゴリーで分散分析を行うと、有意差はみられない。つ

まり、先行研究で明らかなとおり、男女間で権威主義的態度の差異は存在しないことが確認

できる。また、95 年と 05 年を統合したデータで行う男女別の分析を、時点間で比較するこ

とも問題ないと考えることができる。ただし、主成分得点「権威主義的態度」の標準偏差は、

男性では 95 年 1.109 から 05 年 0.939 へ、女性では 95 年 1.030 から 05 年 0.913 へと小さくな

っていることにも注意が必要である(これも、先にみた権威主義 4 項目ごとの標準偏差の比

較から言って、当然の変化である)。権威主義的態度の「平準化」が起こったということがで

きるかもしれない。変数値のばらつきが小さくなっている事実は、他の変数との関連をみる

ときに念頭におかれるべきである。

3.2 権威主義的態度と意識変数の相関関係

上の主成分分析によって作成した権威主義尺度を用い、相関係数を算出して、権威主義的

態度と他の意識変数との関連性の変化を確認する。表 7 に、1995 年 B 票と 2005 年留置 A 票

7 轟(1998)の表 1、表 9 と同一のプログラムで分析した。

234

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表7 権威主義的態度(主成分得点)との相関係数

95 年男性 05 年男性 95 年女性 05 年女性

生活満足度 0.047n.s. -0.073 0.014n.s. 0.037n.s.

階層帰属意識(10 段階) 0.025n.s. -0.028n.s. -0.080 0.022n.s.

階層帰属意識(5 段階) -0.049n.s. -0.012n.s. -0.086 0.044n.s.

自民支持 0.214 0.074 0.187 0.130

無党派 -0.201 -0.063 -0.165 -0.084

性別分業1(分業) 0.221 0.230 0.261 0.276

性別分業2(教育) 0.107 0.104 0.201 0.231

性別分業3(適性) 0.198 0.118 0.279 0.214

教育意識1(高い教育) 0.092 0.107 0.096 0.138

教育意識2(塾) 0.244 0.182 0.153 0.192

教育意識3(学歴決定) 0.185 0.172 0.164 0.201

政策選好1(福祉充実) 0.126 0.088 0.078 0.046n.s.

政策選好2(規制 小) 0.052n.s. 0.010n.s. 0.182 0.047n.s.

n.s.以外は、5%水準で有意.

の同一項目について、権威主義的態度との相関係数(ペアワイズ)を列挙した。ケース数は

いずれも 1,100~1,200 程度である。この表からは、他の意識変数との関連の様態に、極端な

変化がないことがわかる。生活満足度や階層帰属意識と権威主義的態度には、95 年において

関連がみられなかったが、05 年でも同様である。性別分業意識や教育意識とは 95 年と同様、

05 年でも相関が見られる 8。一方、注目すべき相違点は、自民党支持、支持政党なしである

か否かや、政策選好などとの間には、95 年では相関関係が確認できたが、05 年では相関係数

の絶対値が小さくなり、有意な関連が確認できない場合もみられるようになっていること、

である。

つまり、少なくとも表面上は、権威主義という基礎的価値態度の差異が、政治領域での判

断の差異を、あまり生じさせなくなるという変化があった。95 年においては、権威主義的で

あるほど自民党支持となり、反権威主義的であるほど無党派(支持政党なし)となる傾向が

見られたが、05 年ではその傾向は、男女ともにたいへんに小さくなっている。第 1 節で行っ

た時点間比較では、05 年に自民党支持が 6.0 ポイント増加し、無党派層が 6.0 ポイント減少

していた。自民党を中心として、00 年代前半に高まった、既存政党による「既存制度の改革

志向」が(例えば、政党人が所属政党を「ぶっ壊す」ことを主張したこと)、権威主義的態度

8 これらの相関は、年齢を統制した偏相関分析においても、値は大きく変わらない。

235

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が低い層を、政党支持へと引き寄せたことがあるのかもしれない。例えばこのような変化に

よって、権威主義的態度と政党支持の関連の低下が起こったと推測される。

他方で、権威主義と学歴社会観(教育意識)との関連が変化していないことも興味深い。

この 10 年間で、政治領域での意見と権威主義的態度との関連には変化があったが、学歴社会

の権威性を支える意識との関連状況には変わりがなかった。限られた分析項目の範囲内では

あるものの、学歴社会という体制が現代日本社会の権威主義の対象として、相対的に安定的

位置を占めていることを、この結果はあらわしているように思われる。

4 権威主義的態度の階層性の検討

4.1 社会意識の「プラットフォーム」

本節では、権威主義的態度と階層諸変数との関連を確認したい。その準備として、ここで

階層変数間の関連構造について確認しておこう。図 1 には、今田(1989:112)が分析してい

る「社会的地位達成のパス解析」のモデルを示した。このモデルを用いて、今田は 1955 年か

ら 85 年までの SSM 調査データを分析し、「四時点の地位達成構造はきわめて類似しており、

目立った変化が見られない」こと、ゆえに「地位達成の構造にも、社会移動のばあいと同様

にレジームが存在する」ことを結論している。この同じモデルによって、1995 年 B 票および

2005 年留置 A 票対象者のデータを、男女別に分析したのが、表 8 である。

まず、男性についてみてみると、85 年、95 年、05 年とほぼ同じ構造であるとみなすこと

ができる。若干の数値の変化はあるが、回帰係数の標準誤差を検討すると(今田 1989:113)、

その変化は有意なものではない。

続いて女性についてみると、95 年では男性の分析結果とは異なっている。教育達成への父

主職の効果が男性と比べてやや小さくなっている。職業達成については父教育の有意な効果

がみられ、逆に父主職の効果が有意ではなく、本人教育の効果も男性に比して有意に低い。

図 1 地位達成過程モデル

父教育

父主職

本人教育

本人職業

236

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表8 地位達成過程モデルの分析結果

85 年 男性

95 年 男性

05 年 男性

95 年 女性

05 年 女性

①父教育-父主職の相関 0.46 0.483 0.448 0.450 0.416

②父教育 0.36 0.383 0.301 0.398 0.450

③父主職 0.23 0.207 0.255 0.171 0.198

④父教育 n.s. -0.062n.s. -0.011n.s. 0.111 0.089n.s.

⑤父主職 0.20 0.150 0.141 0.076n.s. 0.122

⑥本人教育 0.39 0.391 0.382 0.280 0.325

本人教育の決定係数 0.26 0.266 0.224 0.249 0.316

本人現職の決定係数 0.26 0.211 0.248 0.148 0.199

分析ケース数 1,780 863 805 668 661

85 年は今田(1988)より引用. 教育は教育年数を使用.

職業は 95 年版威信スコア(原・盛山 1998).ただし 85 年を除く. n.s.以外は 5%水準で有意な値である.

この結果、95 年女性では本人現職の決定係数(説明率)が男性より小さくなっている。2005

年女性では、教育達成への父教育の効果が 95 年に比べて大きくなっている。教育達成が出身

階層要因によって規定される度合いが男性よりも高いという特徴があらわれている。職業達

成については、95 年に見られた父教育の効果がなくなり、父主職の有意な効果があらわれ、

本人教育の効果が 95 年よりも大きくなっている。職業達成については、05 年男性とほぼ同

じ地位達成の構造を確認できる 9。概括して述べるならば、地位達成過程モデルの分析結果か

らは、階層構造にみられる不平等状況には拡大傾向はみられず、男性については安定的に推

移し、女性についても、教育達成への父教育の効果を除けば、男性と同じ構造に近づいてい

ると言うことができるだろう。

吉川(2007)は、研究史を踏まえながら、計量社会意識研究の基本方針を、「当該社会の社

会意識の共通のプラットフォームにあたる部分を明らかにすること」、「説明される側の社会

意識自体よりも、説明する側の社会関係に強い関心をおいている」ことであると整理し、そ

のプラットフォームとは、まずもって階級・階層構造であるとする。表 8 は、この意味での

「プラットフォーム」の様態の変動を点検した結果である。図 1 のモデルの統制変数として、

本人年齢を投入した場合でも、表 8 と同じ傾向性が確認できる。

本節の目的である権威主義的態度と階層変数の関連の分析では、世帯収入変数を使用する

ので、図1の諸変数を独立変数とし、世帯収入(実額)を従属変数とする重回帰分析を行い、

その結果を表 9 に示した。地位達成のモデルの安定性とはやや異なり、05 年で直接効果をも 9 地位達成過程の時点間、男女間比較については、階層構造の分析の諸巻で詳細に議論される。

237

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表9 世帯収入の重回帰分析

男性

相関係数 β 相関係数 β年齢 0.163 0.233 0.068 0.043

0.000 0.000 0.052 0.336父教育 0.128 0.040 0.007 -0.053

0.000 0.346 0.432 0.303父主職 0.177 0.037 0.028 -0.068

0.000 0.352 0.251 0.148本人教育年数 0.242 0.169 0.178 0.087

0.000 0.000 0.000 0.068本人職業 0.358 0.262 0.356 0.349

0.000 0.000 0.000 0.000決定係数 0.184 0.140

0.000 0.000分析ケース数

女性

相関係数 β 相関係数 β年齢 0.033 0.191 -0.039 0.090

0.225 0.000 0.214 0.080父教育 0.173 0.069 0.160 0.001

0.000 0.180 0.000 0.979父主職 0.239 0.134 0.214 0.089

0.000 0.005 0.000 0.073本人教育年数 0.231 0.209 0.287 0.166

0.000 0.000 0.000 0.004本人職業 0.179 0.102 0.373 0.294

0.000 0.024 0.000 0.000決定係数 0.117 0.173

0.000 0.000分析ケース数 518 426

743

95年 05年

95年 05年

566

下段の数値は有意確率.

たなくなった変数がある。本人現職の職業威信が 重要な世帯収入の規定要因であるが、男

性では本人教育年数の直接効果がみられなくなり、女性では、出身階層である父親主職の効

果がなくなっている。その結果、95 年時点よりも、男女の分析結果は類似性を高めている。

このように、世帯収入まで含めて、意識変数の説明要因として扱われる階層諸変数の関連の

様態には、時点間で差異が存在しうるので、意識変数を取り扱う前に、階層変数間の関連を

確認する必要があるのである。

238

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4.2 権威主義的態度の階層性

轟(1998、2000)では 1995 年 SSM 調査 B 票のデータを用いて、権威主義的態度の規定要

因を分析した。そこでは、「75 年基準スコア」(原・盛山 1998)を使用していたが、今回は

95 年と 05 年の比較が重要なので、本章では「95 年版威信スコア」を使用することにする。

吉川(2006)は、検討すべき社会意識の形成要因として、既述の計量社会意識論のプラッ

トフォームである職業階層、学歴、世帯収入と、年齢の計 4 変数(主要 4 要因)を用い、線

形重回帰分析によって、これらの社会意識の形成要因の影響力を比較検討している。ここで

はこの分析枠組みに倣おう。ただしその前に、4 変数に加えて出身階層変数についても、ペ

アワイズの相関係数で、属性的諸変数と権威主義的態度の関連を確認しておく。その分析結

果が表 10 である。

95 年ではこれらすべての変数が権威主義的態度と有意な相関関係になったが、05 年では関

連する変数が少なくなっている。男性では、年齢、世帯収入、父主職、母教育年数がゼロ次

の相関レベルで関係をもたなくなっている。どちらの時点でも関係が有意である本人教育年

表10 属性変数と権威主義的態度の相関

95 年男性 05 年男性 95 年女性 05 年女性 年齢 0.249 0.022 0.198 0.049

0.000 0.442 0.000 0.089 1159 1219 1291 1217

本人教育年数 -0.328 -0.120 -0.285 -0.155 0.000 0.000 0.000 0.000 1157 1218 1286 1216

本人職業 -0.156 -0.080 -0.169 -0.084 0.000 0.011 0.000 0.020 1010 1005 792 765

世帯収入 -0.124 -0.038 -0.144 -0.083 0.000 0.283 0.000 0.022 979 818 969 773

父教育年数 -0.179 -0.084 -0.118 -0.074 0.000 0.008 0.000 0.021 981 1000 1064 971

父主職 -0.119 -0.027 -0.146 -0.029 0.000 0.376 0.000 0.339 1068 1064 1170 1065

母教育年数 -0.207 -0.061 -0.168 -0.041 0.000 0.053 0.000 0.202 978 995 1122 982

上段:相関係数、中段:有意確率、下段:分析ケース数. 職業は「95 年版威信スコア」を使用.

239

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数、本人職業、父教育年数も、相関係数の絶対値がかなり小さくなっている。女性では、年

齢、父主職、母教育年数が関係をもたなくなり、有意な関係が継続している本人教育年数、

本人職業、世帯収入、父教育年数は、男性と同様に、相関係数の絶対値がかなり小さくなっ

ている。これらの変化のうち、年齢と本人教育年数でみられる関連性の低下については、第

2 節、第 3 節で権威主義項目の回答分布や尺度の標準偏差を検討した際に明らかになったよ

うに、若年高学歴層の権威主義化が影響していると思われる。いまや年齢が高い者ほど、権

威主義的であるという、ゼロ次の相関関係すら確認できなくなっている。権威主義的な価値

態度という社会意識で、年齢主義的な断絶は存在していないのである。これはこの 10 年間に

起こった大きな変化である。また、高学歴者とそれ以外の人々との間の差異も小さくなって

いる。さらには職業階層性も低下している。

次にこれらの変数の直接的な影響を確認するために、重回帰分析を行う。諸変数のうち、

父教育年数と母教育年数の間には、すべてのグループで 0.700 を超える高い相関関係が見ら

れるので、両方を同時に重回帰分析の独立変数に用いることは望ましくない。そこで、母教

育年数を外し、主要な 4 変数に、出身階層の要因として父教育、父職業威信を独立変数に加

えた重回帰分析を行なったところ、父教育、父職業威信の 2 変数の効果は、表 11 のとおりい

ずれも有意な値ではない 10。権威主義的態度のこれまでの計量研究で確認されてきたとおり

(吉川 1996、轟 1998 など)、現在の本人の権威主義的態度に出身階層の効果は存在していな

い。親の属性に関する質問は欠損値が多くなるため、これらの変数を使用すると分析ケース

数が少なくなるという問題があるので、表 11 を確認したのちは、主要な 4 変数を独立変数と

することがより適切であろう。

表 12 には、本人教育年数、本人職業威信スコア、世帯収入(実額)と、年齢の計 4 変数を

独立変数とする重回帰分析の結果を示した 11。2005 年データは世帯収入に欠損値が多いため、

表11 権威主義的態度の重回帰分析(抜粋)

95 年男性 05 年男性 95 年女性 05 年女性

分析ケース数 707 536 478 376

父教育年数 0.044 -0.106 0.081 -0.029

0.338 0.062 0.142 0.656

父主職 -0.018 0.067 -0.044 -0.028

0.680 0.188 0.393 0.630

上段:標準化偏回帰係数、下段:有意確率.

10 2005 年男性で、父教育の効果が大きいように見えるが、父主職を外し、出身階層変数では単独で父

教育を投入した場合には、その効果は極めて小さく、5%水準で有意な値ではない。 11 1995 年データについても、世帯収入を投入した分析結果が示されたことはこれまでないと思う。

240

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そしてどちらの調査年においてもある程度、本人職業に欠損値があるので、ペアワイズの相

関係数(表 10)の場合とは分析ケース数に大きな差異が生じる。しかし、ひとつひとつ相関

関係を比較すると、かなりの場合、値に大きな違いはない。ただし、2005 年男性の世帯収入

が、相関レベルで有意になっており、また 2005 年女性の世帯収入が有意ではなくなっている

という違いは確認できる。

重回帰分析の結果は、男性については、95 年では年齢、教育年数、世帯収入による直接効

果がみられた。95 年では権威主義的態度に職業階層性はみられなかったが、弱い経済階層性

が存在した。しかしながら、05 年では直接効果をもつ属性は教育年数だけとなっている。そ

してこの教育年数の負の効果も、絶対値が小さくなっている。モデル全体の説明率(決定係

表12 権威主義的態度の重回帰分析(4 変数)

男性

相関係数 β 相関係数 β年齢 0.203 0.160 0.047 0.035

0.000 0.000 0.110 0.368本人教育年数 -0.266 -0.176 -0.113 -0.090

0.000 0.000 0.001 0.036本人職業 -0.148 -0.037 -0.066 -0.009

0.000 0.342 0.041 0.845世帯収入 -0.115 -0.084 -0.082 -0.063

0.000 0.022 0.016 0.122決定係数 0.094 0.018

0.000 0.016分析ケース数

女性

相関係数 β 相関係数 β年齢 0.156 0.059 -0.031 -0.089

0.000 0.186 0.248 0.074本人教育年数 -0.268 -0.208 -0.105 -0.128

0.000 0.000 0.010 0.020本人職業 -0.145 -0.046 -0.074 -0.038

0.000 0.277 0.051 0.460世帯収入 -0.131 -0.075 -0.043 0.007

0.001 0.072 0.172 0.895決定係数 0.082 0.019

0.000 0.057分析ケース数

863 693

600 489

95年 05年

95年 05年

下段の数値は有意確率.

241

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数)は非常に小さくなった。女性については、95 年に、教育年数だけが有意な直接効果をも

っていたが、2005 年でも同様である。だが、女性においても、教育年数の効果の絶対値は小

さくなっている。そして、もはやこの重回帰モデル全体としては有意な説明力をもっていな

い 12。男女どちらも、相関係数レベルでの関連性の低下が、直接効果の低下とそのまま対応

している。

轟(1998、2000)では、年齢、本人教育年数、本人職業(75 年基準スコア)を「基本 3 変

数」とし、この 3 変数を独立変数とする重回帰分析によって、85 年と 95 年の比較を行った。

ややくどいが、2005 年データでは世帯収入の欠損値が多いので、世帯収入変数を含めたモデ

ルと含めないモデルの両方で時点比較を行うことで、より堅固な結果を得ることができるだ

表13 権威主義的態度の重回帰分析(3 変数)

男性

相関係数 β 相関係数 β年齢 0.231 0.162 0.030 0.013

0.000 0.000 0.168 0.692本人教育年数 -0.295 -0.215 -0.116 -0.097

0.000 0.000 0.000 0.007本人職業 -0.156 -0.062 -0.080 -0.039

0.000 0.068 0.005 0.264決定係数 0.110 0.015

0.000 0.002分析ケース数

女性

相関係数 β 相関係数 β年齢 0.159 0.035 -0.025 -0.108

0.000 0.371 0.244 0.007本人教育年数 -0.276 -0.234 -0.138 -0.173

0.000 0.000 0.000 0.000本人職業 -0.162 -0.069 -0.084 -0.034

0.000 0.060 0.010 0.387決定係数 0.082 0.029

0.000 0.000分析ケース数 789 765

1010 1004

05年95年

95年 05年

下段の数値は有意確率.

12 同じ重回帰分析の比較を、1995 年と 2005 年でともに調査対象者となったコーホートに限定して行

ったが、結果は変わらなかった。ゆえに、ここで明らかになった 95 年と 05 年の差異は、世代の入れ

替わりによるものではない。

242

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ろう。表 13 は基本 3 変数による権威主義的態度の説明モデルである 13。世帯収入を含めた分

析と大きくは結果が変わらないことを確認できる。

以上をまとめると、2005 年では男女ともに、権威主義的態度の差異は本人教育年数のみに

よって生じていると言ってよい。その点では、2005 年でも権威主義的態度は学歴(によって

差異が生じる)意識であるが、その規定力は弱まっている。それにより権威主義的態度はこ

の 10 年で階層性を低下させた。別の言い方をすると、階層諸基準の上で権威主義的態度は平

準化したということができる。

4.3 その他の社会意識の階層性との比較

上でみた権威主義的態度への主要な 4 変数の効果の変化の大きさは、どのように評価でき

るだろうか。ひとつの目安として、次のような計算を行った。まず、1995 年と 2005 年で比

較可能な、他のすべての意識変数(表 3 にある 13 項目)を従属変数とし、4 変数を独立変数

とする重回帰分析(時点×性別×13=52 回の重回帰分析)を行う 14。そして、時点×性別の

4 グループごとに、標準化偏回帰係数の絶対値、および決定係数について、平均値を算出す

表14 意識変数の係数(重回帰分析)の変化

男性

決定係数 年齢 教育 職業 収入

1995 年 0.054 0.114 0.089 0.046 0.087

2005 年 0.058 0.082 0.098 0.041 0.111 13 変数平均

変化 0.004 -0.032 0.009 -0.005 0.024

権威主義的態度 変化 -0.076 -0.125 -0.086 -0.028 -0.021

女性

決定係数 年齢 教育 職業 収入

1995 年 0.063 0.107 0.074 0.037 0.119

2005 年 0.049 0.082 0.078 0.042 0.107 13 変数平均

変化 -0.014 -0.025 0.004 0.005 -0.012

権威主義的態度 変化 -0.063 0.030 -0.080 -0.008 -0.068

変化は、2005 年-1995 年で計算.

13 95 年データについては、轟(1998)の分析を 95 年版威信スコアで再計算したことになる。 14自民支持、無党派は 2 値変数なので、重回帰分析の従属変数とすることは適切ではないが、比較可

能な変数の数が多くないこと、同型のモデルの係数の差を問題としていることから、相関係数と回帰

係数をチェックした上で使用した。

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る。 後に、4 グループごとに、1995 年に対する 2005 年の平均値の変化(つまり、差)を計

算し、権威主義的態度の場合との違いを検討する。この計算の結果を、表 14 に示した。

ここから、他の 13 意識変数の平均値の低下と比べて、権威主義的態度の階層性の低下が大

きいことがわかる。男女ともに、権威主義的態度のほうが、決定係数の低下、本人教育年数

の標準化偏回帰係数の低下が大きくなっている。また男性では、年齢、女性では世帯収入の

標準化偏回帰係数の低下が大きい。時点間比較が比較可能な意識変数のなかで権威主義的態

度は、今回、相対的に大きく階層性を低下させることとなった変数であると言える 15。この

原因は、第 2 節の回答分布の比較で明らかとなった、若年層および高学歴層の権威主義化に

あるといえる。このように階層諸変数の関連構造を考慮した分析でも、年齢、教育年数と権

威主義の関連性の低下がみられることがわかった。

5 まとめ

本章では、権威主義的態度に関する基礎分析として、1995 年 SSM 調査と 2005 年 SSM 調

査のデータを比較した。ここまでで明らかになったのは、主に以下の点である。

(1) 回答分布で、権威主義の高まり、または判断保留傾向の高まりがみられる

(2) 権威主義の高まりは、若年層、高学歴層に相対的に強くみられる

(3) 他の意識変数との関連では、政治領域のものと関連が低下し、教育領域のもの

との関連は変化していない

(4) 社会意識のプラットフォームとしての地位達成過程には大きな変化はない

(5) 権威主義的態度と年齢の相関がみられなくなった

(6) 権威主義的態度の規定要因は教育年数のみであることに変わりがないが、直接

効果は低下しており、この意味で権威主義的態度の階層性は低下している

このように、権威主義的態度は、回答分布については 85~95 年の変化とは逆向きの変化が

確認され、他の社会意識との関連が低下する傾向があり、階層変数との線形関連も低下する

ことがわかった。

以上のことは、どのように解釈できるだろうか。基本的価値態度の変化というものは、重

要な社会的意味をもつ。70 年代には、権威主義的態度の高まりが「生活保守主義」、あるい

は「満足政治」(原・盛山 1999:129)と語られた。それは、「高度経済成長の成功で、人び

との生活が豊かになるにつれて、現状に満足している人びとが大きな変革を望まず」、保守化

した、という事態である。地位達成過程という意味での階層構造は安定しているが、この時

15 ただし、比較対象とした意識のなかには、階層帰属意識、生活満足度という、階層変数との関連の

高い項目が含まれていることに注意が必要である。

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期に起こったのは、大多数の人々の生活水準が上昇し、世代間移動においても地位上昇して

いる局面での保守化である。しかし今回の、95~05 年の変化については異なる説明が必要で

ある。成長下とは異なり、特に 1997 年の金融危機以後のゼロ成長あるいはマイナス成長下の

保守化は、期待生活水準からの「下落リスク回避型」の保守化であると言える。そのような

リスクの高い若年層、期待生活水準の高い高学歴層で権威主意的態度が高まったことは、こ

の議論を支持すると思う。1980 年代から 90 年代前半には既存の社会制度への懐疑と、自由

で自律的な市民の思慮と選択による社会編成という社会構想にある種のリアリティがあった

かもしれない。しかし、90 年代後半の日本社会の不安状況は、上の社会構想の担い手たるべ

き人たちを消極化した。反省的に検討すると、この時期、指導力あるトップ・リーダーへの

支持、抵抗勢力を廃し信念を貫く行為そのものへの好感、「あたりまえの秩序」の回復の期待、

という、権威主義への「揺り戻し」とみなせる諸現象が見られたのではないだろうか。

もちろん、この権威主義的態度の変化は、今後も進む、伝統的権威主義の反転上昇とみな

すのは適切ではないと思う。ある種類の伝統は、もはや回帰する対象となり得ないのは明ら

かである。今日の権威主義は、権威とみなされる対象自体が、既存権威体制の否定・改革を

訴えながら、体制を維持するという、論理的に複雑な形態をとっている。社会の諸領域の問

題に対して、一貫して権威主義的であること(あるいは逆に、反権威主義的であること)は

難しくなっている。そのことが、権威主義項目への中間的回答の増加、そして他の社会意識

との相関関係の低下を生んでいると考える。

次に、階層性の低下について。権威主義的態度と教育年数の関連の低下の理由には、上の

「期待生活水準」説のほか、大学進学率の上昇に伴う、高等教育の質的な変化、内部での分

散の拡大が考えられる。この点は、今後の検討課題となる。しかし、同時に強調しておくべ

きは、05 年においても権威主義的態度を規定しているのは教育である、ということである。

社会意識が平準化し、何が分断線なのかを見出しにくいなかで、この分析軸は極めて重要で

ある。

また、社会意識論において権威主義的態度は、階層変数を含む社会的属性変数と、社会意

識や行動の諸変数の間に位置づけ、それらを説明する媒介変数としての役割が期待される。

今回の分析で、他の意識変数、および階層変数との関連が弱まったことは、媒介変数機能と

しては望ましくない。しかし、それは社会意識や社会行動の説明にとって、権威主義的態度

が意味をもたなくなったということではない。他の社会意識変数も階層性が低下しており、

その予測には社会的態度変数が重要となる。今回のデータにおける性質が明らかとなった権

威主義的態度を用いて、今日の社会意識の様態を分析することは今後の課題とする。

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【文献】

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コア』(1995 年 SSM 調査シリーズ 5)1995 年 SSM 調査研究会: 230-240. ―――・―――― 1999. 『社会階層―豊かさの中の不平等』東京大学出版会. 吉川徹. 1996. 「学校教育の諸条件と青少年の社会的態度形成」『社会学評論』46(4):428-442. ―――. 1999. 「『中』意識の静かな変容」『社会学評論』50(2): 216-30. ―――. 2006. 『学歴と格差・不平等―成熟する日本型学歴社会』東京大学出版会. ―――. 2007. 「格差・階層・意識論」吉川徹編著『階層化する社会意識―職業とパーソナリティの計

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Authoritarian Traditionalism and Social Stratification in Japan:

Comparative Analysis of Their Distributions and Linear

Relationships between 1995 and 2005

Makoto Todoroki

Kanazawa University

This article examines the changes of a Japanese people’s value, the authoritarian traditionalism, through the analysis of the data obtained from the sources known as SSM 1995B and SSM 2005-J (A). The following points were clarified through the research: (1) The rise of an anti-authoritarian attitude, as pointed out by Todoroki (1998) did not continue, but an increase in the number of affirmative and middle-ground replies was observed. (2) The rise of authoritarian attitudes was relatively large both in the younger age group and in the higher education group. (3) The correlation between the authoritarian attitude and political consciousness became narrower. (4) The correlation with age was no longer observed. (5) Although only education had a significant direct effect on the authoritarian traditionalism in the past, this factor became less influential. The equalization of the authoritarian traditionalism based on the criterion of social stratification was caused by the fall of anti-authoritarian attitude that occurred during the period under analysis. In other words, the rise of authoritarian traditionalism provoked such change. This change could be considered the cause or background factor that explains the phenomena of the transformation of social consciousness and conservative behavior between the early 2000s and the present. Keywords: Authoritarian Conservatism, Social Consciousness, Multiple Regression Analysis

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既発表成果一覧

1 著書・論文

神林博史, 2006, 「階層帰属意識とジェンダー:分布の男女差に関する検討」『東北学院大学教養学部

論集』143: 95-123. 吉川 徹, 2008, 「階級・階層意識の計量社会学」直井優・藤田英典編『講座社会学 13 階層』東京

大学出版会, 77-108. 佐藤俊樹, 2006, 「爆発する不平等感―戦後型社会の転換と「平等化」戦略」白波瀬佐和子編『変化

する社会の不平等』東京大学出版会, 17-46. 佐藤俊樹, 2006, 「本から時代を読む 格差論と数字の落とし穴」『論座』133: 324-327. 佐藤俊樹, 2007, 「希望を語らぬ希望」『神奈川大学評論』58: 40-45. 数土直紀, 2006, 「ジェンダーと合理的選択」江原由美子・山崎敬一編『ジェンダーと社会理論』有斐

閣, 37-50. 轟 亮, 2006, 「社会調査データからみた制度改革への態度」『金沢大学文学部論集 行動科学・哲

学編』26: 11-30.

2 学会等報告

Kanbayashi, Hiroshi, May 2005, "Status Identification and Gender: A Study on Distribution Gap," 3rd

US-Japan Joint Conference on Mathematical Sociology, at Sapporo (Hokkaido University). 吉川 徹, 2006 年 10 月, 「学歴と職業の相補関係をめぐって」, 第 79 回日本社会学会大会(立命館大

学). 小林大祐, 2007 年 5 月, 「階層意識に対する従業上の地位の効果について:2005SSM 調査データによ

る分析」, 関西社会学会第 58 回大会(同志社大学). 小林大祐, 2007 年 9 月, 「階層意識に対する「失業」と「フリーター」の効果について」, 第 44 回数

理社会学会大会(広島修道大学). 数土直紀, 2007 年 3 月, 「階層帰属意識と結婚―『個人・家族』論争が見落としたもの」, 第 43 回

数理社会学会大会(九州大学). 米田幸弘, 2007 年 11 月, 「仕事のやりがい志向の規定要因」, 第 80 回日本社会学会大会(関東学院大

学).

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2005年 SSM 調査シリーズ 8

階層意識の現在 轟 亮 編

2008年3月10日発行

発行

2005年 SSM 調査研究会

〒602-8580 京都市上京区今出川通り烏丸東入

同志社大学社会学部社会学科尾嶋研究室(発行担当)

〒980-8576 仙台市青葉区川内 27-1 東北大学大学院文学研究科行動科学研究室内

2005 年社会階層と社会移動調査研究会事務局(事務局)

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