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Oike Library No.44 2016/10 28
8刑事訴訟法等の一部を改正する法律案(平成27年3月13日提出)の概要3谷山 智光
第1 改正法成立 平成27年3月13日、刑事訴訟法等の一部を改正する法律案が国会に提出された。同法律案は、平成28年5月24日に成立した(同年6月3日公布)。 同改正法の内容として、①一部事件における取調べの録音・録画制度の導入、②証拠収集等への協力及び訴追に関する合意制度・刑事免責制度の導入、③通信傍受の合理化・効率化、④裁量保釈の判断に当たっての考慮要素の明確化、⑤被疑者国選弁護対象事件の拡大等弁護人による援助の充実化、⑥証拠一覧表の交付手続の導入等証拠開示制度の拡充、⑦犯罪被害者等・証人を保護するための措置、⑧証拠隠滅等の罪などの法定刑の引き上げ、⑨自白事件の簡易迅速な処理のための措置が挙げられる。 同改正法の施行時期は4段階に分けられ、早いもの(④⑧)は公布の日から20日経過後(同年6月23日)、遅いもの(①など)は公布の日から3年以内に施行される。 前々稿(42号)では①④⑤⑥を取り上げ、前稿(43号)では⑦⑧⑨を取り上げた。本稿では②③を取り上げる。
第2 証拠収集等への協力及び訴追に関する合意制度・刑事免責制度の導入
1 証拠収集等への協力及び訴追に関する合意制度(1) 合意の手続 検察官は、特定犯罪(例えば、贈収賄罪、一定の組織的犯罪、一定の財政経済関係犯罪、一定の薬物犯罪等)に係る事件の被疑者又は被告人が特定犯罪に係る他人の刑事事件について一又は二以上の第一号に掲げる行為(取調べに際して真実の供述、証人として尋問を受ける場合において真実の供述、証拠の提出その他必要な協力)をすることにより得られる証拠の重要性、関係する犯罪の軽重及び情状、当該関係する犯罪の関連性の程度その他の事情を考慮して、必要と認めるときは、被疑者又は被告人との間で、被疑者又は被告人が当該他人の刑事事件について一又は二以上の同号に掲げる行為をし、かつ、検察官が被疑者又は被告人の当該事件について一又は二以上の第二号に
掲げる行為(不起訴、公訴取消し、特定の訴因・罰条による公訴提起等、特定の訴因・罰条の追加・撤回・変更、論告における特定の刑を科すべき旨の意見陳述、即決裁判手続きの申立て、略式命令の請求)をすることを内容とする合意をすることができる(350条の2)。 かかる合意をするには弁護人の同意がなければならず(350条の3第1項)、検察官、被疑者又は被告人及び弁護人が連署した書面により、その内容を明らかにしてする(「合意内容書面」。同2項)。
(2) 合意がある場合の公判手続の特例 検察官は、被疑者との間でした上記合意がある場合において、当該合意に係る被疑者の事件について公訴を提起したときは、冒頭手続が終わった後(事件が公判前整理手続に付された場合にあっては、その時後)遅滞なく、証拠として合意内容書面の取調べを請求しなければならない(350条の7第1項)。 また、被告人以外の者の供述録取書等であって、その者が上記合意に基づいて作成したもの又は同合意に基づいてされた供述を録取し若しくは記録したものについて、検察官、被告人若しくは弁護人が取調べを請求し、又は裁判所が職権でこれを取り調べることとしたとき、検察官、被告人若しくは弁護人が証人尋問を請求し、又は裁判所が職権で証人尋問を行うこととした場合において、その証人となるべき者との間で当該証人尋問についてした上記合意があるときは、検察官は、遅滞なく、合意内容書面の取調べを請求しなければならない(350条の8、350条の9)。
(3) 合意の終了 当事者が合意に違反したとき、検察官が合意に基づいて訴因・罰条の追加、撤回又は変更を請求したが裁判所がこれを許さなかったとき等、被疑者又は被告人等がした他人の刑事事件についての供述の内容が真実でないことが明らかになったとき等は、被告人又は検察官は、その理由を記載した書面により、当該離脱に係る合意の相手方に対し、当該合意から離脱する旨の告知をして、合意から離脱することができる(350条の10)。
(4) 合意の履行の確保 検察官が合意に違反した場合(例えば、不起訴の合意に違反して公訴を提起した場合)、判決で公訴を棄却する等しなければならない(350条の13)。また、検察官が合意に違反したときは、合
刑事訴訟法等の一部を改正する法律案(平成27年3月13日提出)の概要3
弁護士 谷山 智光
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意の際の協議によって得られた被告人の供述、合意に基づいてした被告人の行為によって得られた証拠は、異議がない場合をのぞき、証拠とすることができない(350条の14)。 他方、合意に違反して、検察官等に対し、虚偽の供述をし又は偽造変造の証拠を提出した者は5年以下の懲役に処せられる(350条の15)。
2 刑事免責制度 検察官は、証人が刑事訴追を受け、又は有罪判決を受けるおそれのある事項についての尋問を予定している場合であって、当該事項についての証言の重要性、関係する犯罪の軽重及び情状その他の事情を考慮し、必要と認めるときは、あらかじめ、裁判所に対し、当該証人尋問を、①尋問に応じてした供述及びこれに基づいて得られた証拠は、一定の場合を除き、証人の刑事事件において、これらを証人に不利益な証拠とすることができない、②自己が刑事訴追を受け、又は有罪判決を受けるおそれのある証言を拒むことができないという条件により行うことを請求することができる(157条の2)。 かかる請求は、証人が刑事訴追を受け、又は有罪判決を受けるおそれのある事項について証言を拒んだと認める場合にもできる(157条の3)。
第3 通信傍受の合理化・効率化1 対象事件の拡大 従来、通信傍受を行いうる対象犯罪は薬物犯罪、銃器犯罪、集団密航、組織的殺人に限られていたが(通信傍受法別表)、今回の通信傍受法の改正でこれらを別表Ⅰとした上で、新たに別表Ⅱを新設し、現住建造物等放火、殺人、傷害、傷害致死、逮捕・監禁、逮捕等致死傷、身代金目的略取等、窃盗、強盗(1項強盗に限る。)、強盗致傷、詐欺(1項詐欺に限る。)、恐喝(1項恐喝に限る。)や児童ポルノ提供等の罪等も対象犯罪となった(但し、別表Ⅱに掲げる罪にあっては、当該罪に当たる行為が、あらかじめ定められた役割の分担に従って行動する人の結合体により行われるものに限られる。)。2 新たな傍受方法の導入 新たな通信傍受の方法として暗号技術を活用した傍受(通信傍受法9条)や通信管理者等に一時保存させる方法による傍受が認められた(通信傍受法20条1項)。
第4 最後に 刑事訴訟制度は、公判前整理手続や裁判員裁判制度の導入など従来の制度から大きく変容してきているが、今回の改正はさらなる変容をもたらすものである。もはや一昔前の刑事訴訟制度とは別物と言っても決して過言ではない。弁護人として、被疑者・被告人の利益擁護のために改正点を押さえ、新たな制度への対応が求められる。