7
125 ─  ─ 広島工業大学紀要研究編 第 ₅₂ 巻(₂₀₁₈)125131 高効率マルチコプタの開発 八房 智顯 * (平成₂₉年 ₈ 月₁₁日受付) Development of high efficiency multicopter Tomoaki YATSUFUSA (Received Aug. 11, 2017) Abstract Multicopter is one of the UAV, which is now used in various field including aerial photography, agri- cultural field, various information gathering, delivery services, and so on. Another ambitious applica- tion is emergency delivery in the event of disaster. To apply the multicopter for the emergency deliv- ery, larger load capacity, longer cruising distance, and higher-flying speed are required. One of the inevitable elements for these requirements to improve is reduction of energy consumption for flying and hovering. One possible solution is enlargement of rotor size and lower rotor revolution speed. This paper reports the results of experimental investigation on effect of size and revolutionary speed of rotor for the relation between energy consumption and lift force. In addition, four rotor multicopter with variable pitch rotor was experimentally manufactured. This experimental multicopter is also reported in the paper. Key Words: multicopter, UAV, rotor, energy consumption * 広島工業大学工学部知能機械学科 ₁ .はじめに マルチコプタ(ドローン)は複数の回転翼(ロータ,も しくはプロペラ)を持つ無人航空機である。複数のロータ (通常 ₄ 枚以上の偶数枚)の回転を個別に制御し,安定した 姿勢制御と移動が可能であり,近年急速に進展してきた技 術の向上,低価格化が,空撮,農業利用,各種情報収集, 配送業務など様々な分野で利用方法が検討され,実際の利 用も急拡大している ₁,₂︶ 。また,「小さいこと」「無人である こと」にも利点が見だされ,社会的にも広く認識され産 業・学術的利用まで幅広い分野で注目が集まってきている。 一方でマルチコプタは,積載・飛行性能がヘリコプタや飛 行機に比べて低いため,積載量や飛行距離,飛行速度が低 く制限される。 本研究では,より大きな荷物をより高速で遠くまで無人 かつ自動で運ぶことが可能なマルチコプタの開発を目指し ており,大規模災害時の孤立集落や離島などに操作ひとつ で,薬や輸血用血液などの緊急・特急搬送に特化した輸送 システムを考えている。このような輸送システムにおいて, 積載量や飛行距離の増加,飛行速度の向上のためには浮 上・飛行に必要な動力の削減が不可避であることから,同 輸送システム開発の第一歩として高効率ロータの開発から スタートした。本報告では,高性能が期待できる可変ピッ チロータシステムについて,その基本性能を主としてホバ リング性能に注目して調査し,可変ピッチマルチコプタを 試作したのでここに報告する。 ₂ .ロータサイズと浮上効率の関係 ₂.₁ ロータサイズと浮上効率の理論的考察 マルチコプタやヘリコプタの浮上には,ロータによって

高効率マルチコプタの開発 - 広島工業大学...125 広島工業大学紀要研究編 第₅₂巻(₂₀₁₈)125 – 131 論 文 高効率マルチコプタの開発

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125─  ─

広島工業大学紀要研究編第 ₅₂ 巻(₂₀₁₈)125 – 131論 文

高効率マルチコプタの開発

八房 智顯*

(平成₂₉年 ₈ 月₁₁日受付)

Development of high efficiency multicopter

Tomoaki YATSUFUSA

(Received Aug. 11, 2017)

AbstractMulticopter is one of the UAV, which is now used in various field including aerial photography, agri-

cultural field, various information gathering, delivery services, and so on. Another ambitious applica-tion is emergency delivery in the event of disaster. To apply the multicopter for the emergency deliv-ery, larger load capacity, longer cruising distance, and higher-flying speed are required. One of the inevitable elements for these requirements to improve is reduction of energy consumption for flying and hovering.

One possible solution is enlargement of rotor size and lower rotor revolution speed. This paper reports the results of experimental investigation on effect of size and revolutionary speed of rotor for the relation between energy consumption and lift force. In addition, four rotor multicopter with variable pitch rotor was experimentally manufactured. This experimental multicopter is also reported in the paper.

Key Words: multicopter, UAV, rotor, energy consumption

 * 広島工業大学工学部知能機械学科

₁ .はじめに

 マルチコプタ(ドローン)は複数の回転翼(ロータ,もしくはプロペラ)を持つ無人航空機である。複数のロータ(通常 ₄枚以上の偶数枚)の回転を個別に制御し,安定した姿勢制御と移動が可能であり,近年急速に進展してきた技術の向上,低価格化が,空撮,農業利用,各種情報収集,配送業務など様々な分野で利用方法が検討され,実際の利用も急拡大している₁,₂︶。また,「小さいこと」「無人であること」にも利点が見だされ,社会的にも広く認識され産業・学術的利用まで幅広い分野で注目が集まってきている。一方でマルチコプタは,積載・飛行性能がヘリコプタや飛行機に比べて低いため,積載量や飛行距離,飛行速度が低く制限される。 本研究では,より大きな荷物をより高速で遠くまで無人

かつ自動で運ぶことが可能なマルチコプタの開発を目指しており,大規模災害時の孤立集落や離島などに操作ひとつで,薬や輸血用血液などの緊急・特急搬送に特化した輸送システムを考えている。このような輸送システムにおいて,積載量や飛行距離の増加,飛行速度の向上のためには浮上・飛行に必要な動力の削減が不可避であることから,同輸送システム開発の第一歩として高効率ロータの開発からスタートした。本報告では,高性能が期待できる可変ピッチロータシステムについて,その基本性能を主としてホバリング性能に注目して調査し,可変ピッチマルチコプタを試作したのでここに報告する。

₂ .ロータサイズと浮上効率の関係

₂.₁ ロータサイズと浮上効率の理論的考察

 マルチコプタやヘリコプタの浮上には,ロータによって

Page 2: 高効率マルチコプタの開発 - 広島工業大学...125 広島工業大学紀要研究編 第₅₂巻(₂₀₁₈)125 – 131 論 文 高効率マルチコプタの開発

八房智顯

126─  ─

周囲の空気を上方から下方に加速させることにより,鉛直上方に自重以上の反力(揚力)を発生させ浮上する₃︶。ロータが圧力一定の元で単純に空気を加速させる装置であると考えると,揚力 FLは次のように表される。

F AVL a= ρ 2 (₁)

ただし,ρa:空気の密度,A:空気流の断面積,V:空気流の速度

ロータが₁₀₀%の効率でロータの駆動エネルギを空気の運動エネルギに変換できるとすると,ロータの駆動力 Pは次のようになる。

P AVa=12

3ρ (₂)

空気流の断面積 Aをロータ直径 dとすると次が成り立つ

A d d= ≈π4

2 2 (₃)

ただし,L:機体のサイズ(長さ)(₁) (₂) (₃) より

F PdL a3 2≈ ( )ρ (₄)

関係式 (₄) は,大きな揚力 FLを得るためには駆動力 Pもしくはロータ直径 dを大きくすれば良いことを示している。すなわち,同じ出力でも大きなロータを使うことで揚力を大きくでき,逆に小さなロータを使うことはエネルギ的に不利になると予想できる。 関係式 (₄) の妥当性を検証するために,様々なサイズのヘリコプタについてエンジン出力,ロータ直径,機体の質量を調査しまとめたものを表 ₁に示す。なお,上段から ₄機種はラジコンヘリコプタであり,これらの出力は電池の放電時間率を₂₀C,モータの効率を₇₀%として推定した。 関係式 (₄) を検討するにあたり,ロータが発生する揚力と機体の質量は比例するとして揚力 FLの代わりに機体質量を用いて計算・比較したものを図 ₁に示す。横軸・縦軸は以下の計算値となっている。

横軸:log₁₀{(最大出力)×(ロータ直径)}₂

縦軸:lg₁₀(機体質量)₃

図から明らかなように,ごく小さな模型のヘリコプタから超大型ヘリコプタまで同一直線状に位置しており,関係式(₄)は十分な妥当性があると考えられる。

表 ₁ 様々なサイズのヘリコプタの諸元

機 種 名 最大出力[kW]

ローター直径 [m]

機体質量[kg]

初飛行年 備考 機体質量の

内容

wltoys V₉₇₇ ₂.₅₉E-₀₂ ₀.₂₄₅ ₄.₈₅E-₀₂ 模型

walkera master CP ₁.₇₁E-₀₁ ₀.₄₆₂ ₄.₂₀E-₀₁ 模型

walkera V₄₅₀ ₄.₀₄E-₀₁ ₀.₇₃₀ ₇.₄₈E-₀₁ 模型

Aline T-rex ₇₀₀ ₁.₅₅E+₀₀ ₁.₅₆₂ ₅.₀₀E+₀₀ 模型

Yamaha R-max ₁.₅₄E+₀₁ ₃.₁₁₅ ₆.₄₀E+₀₁ ₂₀₀₃ 無人 empty

Mosquito XE ₄.₅₀E+₀₁ ₅.₉₄₄ ₁.₉₆E+₀₂ ₂₀₀₆ 有人 empty+₁crew

MD Helicopters MH-₆ ₂.₈₀E+₀₂ ₈.₃₀₀ ₇.₂₂E+₀₂ ₁₉₆₃ 有人 empty

Bell ₂₀₆ ₃.₁₅E+₀₂ ₁₀.₁₆₀ ₁.₀₆E+₀₃ ₁₉₆₂ 有人 empty

Eurocopter EC₁₃₅ ₉.₄₄E+₀₂ ₁₀.₂₀₀ ₁.₄₆E+₀₃ ₁₉₉₄ 有人 empty

Eurocopter AS₃₅₀ ₆.₃₂E+₀₂ ₁₀.₇₀₀ ₁.₁₇E+₀₃ ₁₉₇₄ 有人 empty

Eurocopter EC₁₄₅ ₁.₁₀E+₀₃ ₁₁.₀₀₀ ₁.₇₉E+₀₃ ₁₉₉₉ 有人 empty

Eurocopter EC₁₅₅ ₁.₃₉E+₀₃ ₁₂.₆₀₀ ₂.₆₂E+₀₃ ₁₉₉₇ 有人 empty

Bell ₂₀₄/₂₀₅ ₈.₂₀E+₀₂ ₁₄.₆₃₀ ₂.₀₉E+₀₃ ₁₉₅₆ 有人 empty

Airbus Helicopters EC₁₇₅ ₂.₆₅E+₀₃ ₁₄.₈₀₀ ₄.₆₀E+₀₃ ₂₀₀₉ 有人 empty

Eurocopter EC₇₂₅ ₃.₅₅E+₀₃ ₁₆.₂₀₀ ₅.₃₃E+₀₃ ₂₀₀₀ 有人 empty

Eurocopter EC₂₂₅ ₃.₅₅E+₀₃ ₁₆.₂₀₀ ₅.₂₆E+₀₃ ₂₀₀₀ 有人 empty

Sikorsky CH-₁₄₈ ₄.₄₈E+₀₃ ₁₇.₇₀₀ ₇.₀₇E+₀₃ ₂₀₀₈ 有人 empty

Sikorsky SH-₃ ₂.₀₉E+₀₃ ₁₉.₀₀₀ ₅.₃₈E+₀₃ ₁₉₆₁ 有人 empty

Sikorsky CH-₅₃E ₉.₈₁E+₀₃ ₂₄.₀₀₀ ₁.₅₁E+₀₄ ₁₉₇₄ 有人 empty

Mil Mi-₂₆ ₁.₇₀E+₀₄ ₃₂.₀₀₀ ₂.₈₂E+₀₄ ₁₉₇₇ 有人 empty

Page 3: 高効率マルチコプタの開発 - 広島工業大学...125 広島工業大学紀要研究編 第₅₂巻(₂₀₁₈)125 – 131 論 文 高効率マルチコプタの開発

127─  ─

高効率マルチコプタの開発

₂.₂ ロータサイズを変更した場合の浮上効率の実験的検証

 関係式 (₄) で予想される,ロータサイズが浮上効率に及ぼす影響を調べるため,ロータサイズを変更した場合のロータ揚力,反トルクおよびロータ回転速度を計測する装置を用いてこれらの関係を調べた。図 ₂は測定装置であり,ロータはサイズが異なる ₂種類の RCヘリコプタを用いた。用いた ₂機種のヘリコプタ(図 ₃)のロータ半径は,それぞれ ₃₅₅ mm,および ₂₃₀ mmで,以降はそれぞれR₃₅₅ および R₂₃₀ とする。地面に対して鉛直軸に自由に回転する自由回転台の上に秤を置き,秤の上には ₇.₅ kgの重しを固定し,重しの上に RCヘリコプタを固定した。

を駆動する際の反トルクを測定する。なお,テールロータは無効化することによってロータ反力の全てがテグスにより支えられる状態にしている。メインロータの翼端には反射板が貼り付けてあり,光ピックアップ式電子タコメーターによってロータ回転速度を計測する。 実験は,ロータ翼のピッチ角(迎角)とロータ回転速度を変更して行った。ピッチ角は RCヘリコプタの飛行に最適なセッティングを基準としたため,図 ₄に示すように機種ごとに用いた値が異なる。なお飛行セッティングにおける最大ピッチ角は₅₅%となっており,試験では ₀%,₂₀%,₄₀%,および₆₀%のピッチ角で実験を行った。ロータ回転速度は機体ごとの最大出力まで実験することを目標としていたが,R₃₅₅ においてはロータ回転速度を上げていくと突然機体が損傷しかねないほどの大きな振動が発生してしまうため,振動が発生しないところまでの出力で試験した。

考えると,揚力 FLは次のように表される.

2AVF aL (1)

ただし,a:空気の密度,A:空気流の断面積,V:

空気流の速度 ロータが 100%の効率でロータの駆動エネルギを空気の運

動エネルギに変換できるとすると,ロータの駆動力 P は次

のようになる.

3

21 AVP a (2)

空気流の断面積 A をロータ直径 d とすると次が成り立つ

22

4ddA

(3)

ただし,L:機体のサイズ(長さ)

(1)(2)(3)より

23 PdF aL (4)

関係式(4)は,大きな揚力 FL を得るためには駆動力 P もし

くはロータ直径 d を大きくすれば良いことを示している.

すなわち,同じ出力でも大きなロータを使うことで揚力を

大きくでき,逆に小さなロータを使うことはエネルギ的に

不利になると予想できる. 関係式(4)の妥当性を検証するために,様々なサイズのヘ

リコプタについてエンジン出力,ロータ直径,機体の質量

を調査しまとめたものを表1に示す.なお,上段から 4 機

種はラジコンヘリコプタであり,これらの出力は電池の放

電時間率を 20C,モータの効率を 70%として推定した.

関係式(4)を検討するにあたり,ロータが発生する揚力と

機体の質量は比例するとして揚力FLの代わりに機体質量を

用いて計算・比較したものを図1に示す.横軸・縦軸は以

下の計算値となっている.

横軸: 210log ロータ直径最大出力

縦軸: 310log 機体質量

図から明らかなように,ごく小さな模型のヘリコプタから

超大型ヘリコプタまで同一直線状に位置しており,関係式

(4)は十分な妥当性があると考えられる.

表 1 様々なサイズのヘリコプタの諸元

機種名最大出力

[kW]ローター直径 [m]

機体質量[kg]

初飛行年

備考機体質量の内容

wltoys V977 2.59E-02 0.245 4.85E-02 模型walkera master CP 1.71E-01 0.462 4.20E-01 模型walkera V450 4.04E-01 0.730 7.48E-01 模型Aline T-rex 700 1.55E+00 1.562 5.00E+00 模型Yamaha R-max 1.54E+01 3.115 6.40E+01 2003 無人 emptyMosquito XE 4.50E+01 5.944 1.96E+02 2006 有人 empty+1crewMD Helicopters MH-6 2.80E+02 8.300 7.22E+02 1963 有人 emptyBell 206 3.15E+02 10.160 1.06E+03 1962 有人 emptyEurocopter EC135 9.44E+02 10.200 1.46E+03 1994 有人 emptyEurocopter AS350 6.32E+02 10.700 1.17E+03 1974 有人 emptyEurocopter EC145 1.10E+03 11.000 1.79E+03 1999 有人 emptyEurocopter EC155 1.39E+03 12.600 2.62E+03 1997 有人 emptyBell 204/205 8.20E+02 14.630 2.09E+03 1956 有人 emptyAirbus Helicopters EC175 2.65E+03 14.800 4.60E+03 2009 有人 emptyEurocopter EC725 3.55E+03 16.200 5.33E+03 2000 有人 emptyEurocopter EC225 3.55E+03 16.200 5.26E+03 2000 有人 emptySikorsky CH-148 4.48E+03 17.700 7.07E+03 2008 有人 emptySikorsky SH-3 2.09E+03 19.000 5.38E+03 1961 有人 emptySikorsky CH-53E 9.81E+03 24.000 1.51E+04 1974 有人 emptyMil Mi-26 1.70E+04 32.000 2.82E+04 1977 有人 empty

y = 1.0731x + 1.1567R² = 0.9968

‐4.0‐2.00.02.04.06.08.0

10.012.014.0

‐5.0 0.0 5.0 10.0 15.0

log 1

0FL3

log10(Pd)2

図1 揚力と最大出力,ロータ直径の関係 図 ₁ 揚力と最大出力,ロータ直径の関係

2.2 ロータサイズを変更した場合の浮上効率の実験的

検証

関係式(4)で予想される,ロータサイズが浮上効率に及ぼ

す影響を調べるため,ロータサイズを変更した場合のロー

タ揚力,反トルクおよびロータ回転速度を計測する装置を

用いてこれらの関係を調べた.図2は測定装置であり,ロ

ータはサイズが異なる 2 種類の RC ヘリコプタを用いた.

用いた2機種のヘリコプタ(図3)のロータ半径は,それ

ぞれ 355mm,および 230mm で,以降はそれぞれ R355 お

よび R230 とする.地面に対して鉛直軸に自由に回転する

自由回転台の上に秤を置き,秤の上には 7.5kg の重しを固

定し,重しの上に RC ヘリコプタを固定した. RC ヘリコプタのロータを駆動し揚力が発生すると秤の

荷重が低下し,その差分がロータが発生した揚力になる.

自由回転台には回転台円周の一点から円周接線方向にテグ

スを張り,滑車で鉛直方向にテグスの向きを変え,ロータ

を駆動する際の反トルクを測定する.なお,テールロータ

は無効化することによってロータ反力の全てがテグスによ

り支えられる状態にしている.メインロータの翼端には反

射板が貼り付けてあり,光ピックアップ式電子タコメータ

ーによってロータ回転速度を計測する. 実験は,ロータ翼のピッチ角(迎角)とロータ回転速度

を変更して行った.ピッチ角は RC ヘリコプタの飛行に最

適なセッティングを基準としたため,図4に示すように機

種ごとに用いた値が異なる.なお飛行セッティングにおけ

る最大ピッチ角は 55%となっており,試験では 0%,20%,

40%,および 60%のピッチ角で実験を行った.ロータ回転

速度は機体ごとの最大出力まで実験することを目標として

いたが,R355 においてはロータ回転速度を上げていくと突

然機体が損傷しかねないほどの大きな振動が発生してしま

うため,振動が発生しないところまでの出力で試験した.

2.3 実験結果および考察

図5に実験結果を示す.これら2図は実験によって得ら

れた基礎データである.ロータ周速とロータ駆動トルクは

以下から算出する. ロータ周速度: MMt rV [m/s]

ロータ駆動トルク: tbM FrT [m/s]

ここで ロータ駆動反力(計測値): tF [N]

ロータ回転速度(計測値): [rad/s]

もしくは[rpm] ロータ半径(機種ごと): Mr [m] 回転台半径(固定値): 14.0br [m]

ロータ回転速度は R355,R230 のいずれも最大で 2300~2400rpm の同程度であるが,ロータ周速で比較した場合,

R355 の方が大きくなる.また,R355,R230 のいずれも揚

力・反トルクとも,ロータ周速の増加とともに増加してい

る.さらにピッチ角の増加とともに揚力・反トルクとも増

加していることから,調査範囲内のピッチ角変化ではロー

タ翼は失速していないことがわかる. 以降はこれらのデータを元にして各種の値を算出し考察

する.各種値は,以下の関係として与える. ロータ駆動力: MM TP [W]

揚力(計測値): MF [N]

自由回転台揚力測定

反トルク測定

テールロータ機能停止

メインロータ回転数計測

RCヘリコプタ

図2 ロータ揚力・反トルク・ロータ回転速度測定装置

V450D03(Walkera社) MasterCP(Walkera社)

R355 R230

図3 試験に用いた RC ヘリコプタ

‐5.0

0.0

5.0

10.0

15.0

20.0

0 10 20 30 40 50 60

ピッチ角

degree

ピッチ %

R355R230

図4 ピッチ%とピッチ角の関係

図 ₂ ロータ揚力・反トルク・ロータ回転速度測定装置

2.2 ロータサイズを変更した場合の浮上効率の実験的

検証

関係式(4)で予想される,ロータサイズが浮上効率に及ぼ

す影響を調べるため,ロータサイズを変更した場合のロー

タ揚力,反トルクおよびロータ回転速度を計測する装置を

用いてこれらの関係を調べた.図2は測定装置であり,ロ

ータはサイズが異なる 2 種類の RC ヘリコプタを用いた.

用いた2機種のヘリコプタ(図3)のロータ半径は,それ

ぞれ 355mm,および 230mm で,以降はそれぞれ R355 お

よび R230 とする.地面に対して鉛直軸に自由に回転する

自由回転台の上に秤を置き,秤の上には 7.5kg の重しを固

定し,重しの上に RC ヘリコプタを固定した. RC ヘリコプタのロータを駆動し揚力が発生すると秤の

荷重が低下し,その差分がロータが発生した揚力になる.

自由回転台には回転台円周の一点から円周接線方向にテグ

スを張り,滑車で鉛直方向にテグスの向きを変え,ロータ

を駆動する際の反トルクを測定する.なお,テールロータ

は無効化することによってロータ反力の全てがテグスによ

り支えられる状態にしている.メインロータの翼端には反

射板が貼り付けてあり,光ピックアップ式電子タコメータ

ーによってロータ回転速度を計測する. 実験は,ロータ翼のピッチ角(迎角)とロータ回転速度

を変更して行った.ピッチ角は RC ヘリコプタの飛行に最

適なセッティングを基準としたため,図4に示すように機

種ごとに用いた値が異なる.なお飛行セッティングにおけ

る最大ピッチ角は 55%となっており,試験では 0%,20%,

40%,および 60%のピッチ角で実験を行った.ロータ回転

速度は機体ごとの最大出力まで実験することを目標として

いたが,R355 においてはロータ回転速度を上げていくと突

然機体が損傷しかねないほどの大きな振動が発生してしま

うため,振動が発生しないところまでの出力で試験した.

2.3 実験結果および考察

図5に実験結果を示す.これら2図は実験によって得ら

れた基礎データである.ロータ周速とロータ駆動トルクは

以下から算出する. ロータ周速度: MMt rV [m/s]

ロータ駆動トルク: tbM FrT [m/s]

ここで ロータ駆動反力(計測値): tF [N]

ロータ回転速度(計測値): [rad/s]

もしくは[rpm] ロータ半径(機種ごと): Mr [m] 回転台半径(固定値): 14.0br [m]

ロータ回転速度は R355,R230 のいずれも最大で 2300~2400rpm の同程度であるが,ロータ周速で比較した場合,

R355 の方が大きくなる.また,R355,R230 のいずれも揚

力・反トルクとも,ロータ周速の増加とともに増加してい

る.さらにピッチ角の増加とともに揚力・反トルクとも増

加していることから,調査範囲内のピッチ角変化ではロー

タ翼は失速していないことがわかる. 以降はこれらのデータを元にして各種の値を算出し考察

する.各種値は,以下の関係として与える. ロータ駆動力: MM TP [W]

揚力(計測値): MF [N]

自由回転台揚力測定

反トルク測定

テールロータ機能停止

メインロータ回転数計測

RCヘリコプタ

図2 ロータ揚力・反トルク・ロータ回転速度測定装置

V450D03(Walkera社) MasterCP(Walkera社)

R355 R230

図3 試験に用いた RC ヘリコプタ

‐5.0

0.0

5.0

10.0

15.0

20.0

0 10 20 30 40 50 60

ピッチ角

degree

ピッチ %

R355R230

図4 ピッチ%とピッチ角の関係

図 ₃ 試験に用いた RCヘリコプタ

2.2 ロータサイズを変更した場合の浮上効率の実験的

検証

関係式(4)で予想される,ロータサイズが浮上効率に及ぼ

す影響を調べるため,ロータサイズを変更した場合のロー

タ揚力,反トルクおよびロータ回転速度を計測する装置を

用いてこれらの関係を調べた.図2は測定装置であり,ロ

ータはサイズが異なる 2 種類の RC ヘリコプタを用いた.

用いた2機種のヘリコプタ(図3)のロータ半径は,それ

ぞれ 355mm,および 230mm で,以降はそれぞれ R355 お

よび R230 とする.地面に対して鉛直軸に自由に回転する

自由回転台の上に秤を置き,秤の上には 7.5kg の重しを固

定し,重しの上に RC ヘリコプタを固定した. RC ヘリコプタのロータを駆動し揚力が発生すると秤の

荷重が低下し,その差分がロータが発生した揚力になる.

自由回転台には回転台円周の一点から円周接線方向にテグ

スを張り,滑車で鉛直方向にテグスの向きを変え,ロータ

を駆動する際の反トルクを測定する.なお,テールロータ

は無効化することによってロータ反力の全てがテグスによ

り支えられる状態にしている.メインロータの翼端には反

射板が貼り付けてあり,光ピックアップ式電子タコメータ

ーによってロータ回転速度を計測する. 実験は,ロータ翼のピッチ角(迎角)とロータ回転速度

を変更して行った.ピッチ角は RC ヘリコプタの飛行に最

適なセッティングを基準としたため,図4に示すように機

種ごとに用いた値が異なる.なお飛行セッティングにおけ

る最大ピッチ角は 55%となっており,試験では 0%,20%,

40%,および 60%のピッチ角で実験を行った.ロータ回転

速度は機体ごとの最大出力まで実験することを目標として

いたが,R355 においてはロータ回転速度を上げていくと突

然機体が損傷しかねないほどの大きな振動が発生してしま

うため,振動が発生しないところまでの出力で試験した.

2.3 実験結果および考察

図5に実験結果を示す.これら2図は実験によって得ら

れた基礎データである.ロータ周速とロータ駆動トルクは

以下から算出する. ロータ周速度: MMt rV [m/s]

ロータ駆動トルク: tbM FrT [m/s]

ここで ロータ駆動反力(計測値): tF [N]

ロータ回転速度(計測値): [rad/s]

もしくは[rpm] ロータ半径(機種ごと): Mr [m] 回転台半径(固定値): 14.0br [m]

ロータ回転速度は R355,R230 のいずれも最大で 2300~2400rpm の同程度であるが,ロータ周速で比較した場合,

R355 の方が大きくなる.また,R355,R230 のいずれも揚

力・反トルクとも,ロータ周速の増加とともに増加してい

る.さらにピッチ角の増加とともに揚力・反トルクとも増

加していることから,調査範囲内のピッチ角変化ではロー

タ翼は失速していないことがわかる. 以降はこれらのデータを元にして各種の値を算出し考察

する.各種値は,以下の関係として与える. ロータ駆動力: MM TP [W]

揚力(計測値): MF [N]

自由回転台揚力測定

反トルク測定

テールロータ機能停止

メインロータ回転数計測

RCヘリコプタ

図2 ロータ揚力・反トルク・ロータ回転速度測定装置

V450D03(Walkera社) MasterCP(Walkera社)

R355 R230

図3 試験に用いた RC ヘリコプタ

‐5.0

0.0

5.0

10.0

15.0

20.0

0 10 20 30 40 50 60

ピッチ角

degree

ピッチ %

R355R230

図4 ピッチ%とピッチ角の関係 図 ₄ ピッチ%とピッチ角の関係

 RCヘリコプタのロータを駆動し揚力が発生すると秤の荷重が低下し,その差分がロータが発生した揚力になる。自由回転台には回転台円周の一点から円周接線方向にテグスを張り,滑車で鉛直方向にテグスの向きを変え,ロータ

₂.₃ 実験結果および考察

 図 ₅に実験結果を示す。これら ₂図は実験によって得られた基礎データである。ロータ周速とロータ駆動トルクは以下から算出する。

ロータ周速度:V rMt M= ω [m/s]

ロータ駆動トルク:T r FM b t= [m/s]

ここで

ロータ駆動反力(計測値):Ft [N]

ロータ回転速度(計測値):ω [rad/s]

もしくは[rpm]

ロータ半径(機種ごと): rM [m]

回転台半径(固定値): rb = 0 14. [m]

 ロータ回転速度は R₃₅₅,R₂₃₀ のいずれも最大で ₂₃₀₀~₂₄₀₀ rpmの同程度であるが,ロータ周速で比較した場合,R₃₅₅ の方が大きくなる。また,R₃₅₅,R₂₃₀ のいずれも揚力・反トルクとも,ロータ周速の増加とともに増加してい

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八房智顯

128─  ─

る。さらにピッチ角の増加とともに揚力・反トルクとも増加していることから,調査範囲内のピッチ角変化ではロータ翼は失速していないことがわかる。 以降はこれらのデータを元にして各種の値を算出し考察する。各種値は,以下の関係として与える。

ロータ駆動力: P TM M= ω [W]

揚力(計測値):FM [N]

揚力/駆動力: F PFPM MM

M

/ = [N/W]

ロータ周速における動圧: p Vd a Mt=12

2ρ [Pa]

空気の密度( ₁気圧,₂₀℃): ρa = 1 21. [kg/m₃]

動圧と回転面積の積: F p Ad d= [N]

駆動トルクを翼端に集約した力: FTrMtM

M

= [N]

揚力係数:CFFLM

d

= [-]

抗力係数:CFFDMt

d

= [-]

 図 ₆はロータの駆動力と周速の関係を示したものである。図 ₆ (a)に示す駆動力は指数関数的に増加し ,その程度はピッチ角が大きいほど顕著になっている。図₆ (b) に示す,駆動力に対する揚力の関係では,同じピッチで駆動力を増す,すなわちロータ回転速度を増やすとほぼ直線的に揚力が増加する関係にあることがわかる。 図 ₇は,ロータ周速に対する揚力係数 CLと抗力係数 CD

の関係である。ピッチ角を増加させると CL,CDとも増加する傾向にある。R₂₃₀ のピッチ角₆₀%(₁₈.₆°)はCLが最も大きい値となっているが,CDの増加量が著しく大きく

なっていることから,失速寸前であると予想できる。 図 ₈ (a) は駆動力あたりの揚力の比較である。揚力/駆動力は,同じ駆動力で得られる揚力の大小を示すもので,ロータの浮上効率を考える上でもっとも重要な示唆を与える。前述のように,駆動力は計測した反トルクを用いて算出するが,反トルクの計測値が ₀.₀₂ Nmを下回ると計測値の信頼性が無くなることから,ロータ回転速度が小さいか,ピッチ角が小さい場合には反トルクが小さくなり,上記値を下回る場合がある。これらの場合には揚力/駆動力の値を算出せず,図 ₈には除外し示していない。いずれの場合にも,ロータ周速の増加に伴い揚力/駆動力が減少する傾向がある。高速でのロータ駆動は翼表面や翼後流での渦流れによるエネルギ散逸が増えていることなどが予想される。したがって,可能な限りロータは低速度で駆動した方が効率的であると言える。 図 ₈ (b) は,図 ₈ (a) における各ピッチ角における揚力/駆動力の最大値をピッチ角に対して示したものである。R₃₅₅,R₂₃₀ のいずれも,ピッチ角の増加に伴って揚力/駆動力の最大値は増加し,最大値を取ってからその後減少に転じている。したがって,揚力/駆動力を最大にする最適なピッチ角があると言える。R₃₅₅ の最大値は₀.₃₄₄,R₂₃₀ の最大値は₀.₂₄₀であり,これらの比率(R₃₅₅/R₂₃₀)は₁.₄₂である。関係式 (₄) は駆動力を同一とした場合,以下のように変形,計算できる。

F

F

P d

P d

rL R

L R

M R M R

M R M

( )

( )

( ) ( )

( ) ( )

355

230

355 355

230 230

2 3

=

= MM R

Mr( )

( )

.

..

355

230

2 3

2 30 3550 230

1 34

=

=

実測値が実験値を超えているのは実験の精度によるもので

揚力/駆動力: M

MMM P

FPF / [N/W]

ロータ周速における動圧:

2

21

Mtad Vp [Pa]

空気の密度(1 気圧,20℃): 21.1a [kg/m3]

動圧と回転面積の積: ApF dd [N]

駆動トルクを翼端に集約した力:

M

MMt r

TF [N]

揚力係数: d

ML F

FC [-]

抗力係数: d

MtD F

FC [-]

図6はロータの駆動力と周速の関係を示したものである.

図6(a)に示す駆動力は指数関数的に増加し,その程度はピ

ッチ角が大きいほど顕著になっている.図6(b)に示す,駆

動力に対する揚力の関係では,同じピッチで駆動力を増す,

すなわちロータ回転速度を増やすとほぼ直線的に揚力が増

加する関係にあることがわかる. 図7は,ロータ周速に対する揚力係数 CL と抗力係数 CD

の関係である.ピッチ角を増加させると CL,CDとも増加す

る傾向にある.R230 のピッチ角 60%(18.6°)は CL が最

も大きい値となっているが,CDの増加量が著しく大きくな

っていることから,失速寸前であると予想できる. 図8(a)は駆動力あたりの揚力の比較である.揚力/駆

動力は,同じ駆動力で得られる揚力の大小を示すもので,

ロータの浮上効率を考える上でもっとも重要な示唆を与え

る.前述のように,駆動力は計測した反トルクを用いて算

出するが,反トルクの計測値が 0.02Nm を下回ると計測値

0.0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

0 20 40 60 80 100

トル

クNm

ローター周速 m/s

16

18

20R355: 0%(‐0.1°) R355: 20%(3.1°)R355: 40%(6.8°) R355: 60%(10.3°)R230: 0%(‐0.2°) R230: 20%(6.3°)R230: 40%(13.1°) R230: 60%(18.6°)

0

2

4

6

8

10

12

14

16

18

20

0 20 40 60 80 100

揚力

N

ローター周速 m/s

(a) 揚力 vs ロータ周速 (b) 反トルク vs ロータ周速 図5 実験計測による取得データ(揚力・反トルク・ロータ周速)

0.0E+00

2.0E+00

4.0E+00

6.0E+00

8.0E+00

1.0E+01

1.2E+01

1.4E+01

1.6E+01

1.8E+01

2.0E+01

0 20 40 60 80 100 120 14

揚力

N

駆動力 W

16

18

20R355: 0%(‐0.1°) R355: 20%(3.1°)R355: 40%(6.8°) R355: 60%(10.3°)R230: 0%(‐0.2°) R230: 20%(6.3°)R230: 40%(13.1°) R230: 60%(18.6°)

0

20

40

60

80

100

120

140

0 20 40 60 80 100

駆動

力W

ローター周速 m/s

(a) 駆動力 vs ロータ周速 (b) 揚力 vs 駆動力 図6 ロータ駆動力と揚力の関係

図 ₅ 実験計測による取得データ(揚力・反トルク・ロータ周速)

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129─  ─

高効率マルチコプタの開発

揚力/駆動力: M

MMM P

FPF / [N/W]

ロータ周速における動圧:

2

21

Mtad Vp [Pa]

空気の密度(1 気圧,20℃): 21.1a [kg/m3]

動圧と回転面積の積: ApF dd [N]

駆動トルクを翼端に集約した力:

M

MMt r

TF [N]

揚力係数: d

ML F

FC [-]

抗力係数: d

MtD F

FC [-]

図6はロータの駆動力と周速の関係を示したものである.

図6(a)に示す駆動力は指数関数的に増加し,その程度はピ

ッチ角が大きいほど顕著になっている.図6(b)に示す,駆

動力に対する揚力の関係では,同じピッチで駆動力を増す,

すなわちロータ回転速度を増やすとほぼ直線的に揚力が増

加する関係にあることがわかる. 図7は,ロータ周速に対する揚力係数 CL と抗力係数 CD

の関係である.ピッチ角を増加させると CL,CDとも増加す

る傾向にある.R230 のピッチ角 60%(18.6°)は CL が最

も大きい値となっているが,CDの増加量が著しく大きくな

っていることから,失速寸前であると予想できる. 図8(a)は駆動力あたりの揚力の比較である.揚力/駆

動力は,同じ駆動力で得られる揚力の大小を示すもので,

ロータの浮上効率を考える上でもっとも重要な示唆を与え

る.前述のように,駆動力は計測した反トルクを用いて算

出するが,反トルクの計測値が 0.02Nm を下回ると計測値

0.0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

0 20 40 60 80 100

トル

クNm

ローター周速 m/s

16

18

20R355: 0%(‐0.1°) R355: 20%(3.1°)R355: 40%(6.8°) R355: 60%(10.3°)R230: 0%(‐0.2°) R230: 20%(6.3°)R230: 40%(13.1°) R230: 60%(18.6°)

0

2

4

6

8

10

12

14

16

18

20

0 20 40 60 80 100

揚力

N

ローター周速 m/s

(a) 揚力 vs ロータ周速 (b) 反トルク vs ロータ周速 図5 実験計測による取得データ(揚力・反トルク・ロータ周速)

0.0E+00

2.0E+00

4.0E+00

6.0E+00

8.0E+00

1.0E+01

1.2E+01

1.4E+01

1.6E+01

1.8E+01

2.0E+01

0 20 40 60 80 100 120 140

揚力

N

駆動力 W

16

18

20R355: 0%(‐0.1°) R355: 20%(3.1°)R355: 40%(6.8°) R355: 60%(10.3°)R230: 0%(‐0.2°) R230: 20%(6.3°)R230: 40%(13.1°) R230: 60%(18.6°)

0

20

40

60

80

100

120

140

0 20 40 60 80 100

駆動

力W

ローター周速 m/s

(a) 駆動力 vs ロータ周速 (b) 揚力 vs 駆動力 図6 ロータ駆動力と揚力の関係 図 ₆ ロータ駆動力と揚力の関係

の信頼性が無くなることから,ロータ回転速度が小さいか,

ピッチ角が小さい場合には反トルクが小さくなり,上記値

を下回る場合がある.これらの場合には揚力/駆動力の値

を算出せず,図8には除外し示していない.いずれの場合

にも,ロータ周速の増加に伴い揚力/駆動力が減少する傾

向がある.高速でのロータ駆動は翼表面や翼後流での渦流

れによるエネルギ散逸が増えていることなどが予想される.

したがって,可能な限りロータは低速度で駆動した方が効

率的であると言える. 図8(b)は,図8(a)における各ピッチ角における揚力/駆

動力の最大値をピッチ角に対して示したものである.R355,R230 のいずれも,ピッチ角の増加に伴って揚力/駆動力の

最大値は増加し,最大値を取ってからその後減少に転じて

いる.したがって,揚力/駆動力を最大にする最適なピッ

チ角があると言える.R355 の最大値は 0.344,R230 の最

大値は 0.240 であり,これらの比率(R355/R230)は 1.42

である.関係式(4)は駆動力を同一とした場合,以下のよう

に変形,計算できる. 32

)230(

)355(32

)230()230(

)355()355(

)230(

)355(

M

RM

MRM

RMRM

RL

RL

rr

dPdP

FF

34.1230.0355.0 32

実測値が実験値を超えているのは実験の精度によるもので

あると思われるが,比較的近い実験値が得られているため,

関係式(4)は本実験によってもその妥当性が示されたと考え

られる. 3.可変ピッチロータを用いたマルチコプタ

3.1 ロータの大型化・低速回転化と制御性

関係式(4)から,同じ揚力を発生させる上で,ロータ直径

0.0E+00

5.0E‐04

1.0E‐03

1.5E‐03

2.0E‐03

2.5E‐03

3.0E‐03

3.5E‐03

0 20 40 60 80 100

抗力

係数

CD

ローター周速 m/s

0.0E+00

2.0E‐03

4.0E‐03

6.0E‐03

8.0E‐03

1.0E‐02

1.2E‐02

1.4E‐02

1.6E‐02

1.8E‐02

2.0E‐02

0 20 40 60 80 100

揚力

係数

CL

ローター周速 m/s

16

18

20R355: 0%(‐0.1°) R355: 20%(3.1°)R355: 40%(6.8°) R355: 60%(10.3°)R230: 0%(‐0.2°) R230: 20%(6.3°)R230: 40%(13.1°) R230: 60%(18.6°)

(a) 揚力係数 vs ロータ周速 (b) 抗力係数 vs 駆動力 図7 揚力係数と抗力係数

0.00

0.10

0.20

0.30

0.40

‐5 0 5 10 15 20

揚力

/駆

動力

の最大

値N/W

ピッチ角 degree

R355R230

0.0E+00

5.0E‐02

1.0E‐01

1.5E‐01

2.0E‐01

2.5E‐01

3.0E‐01

3.5E‐01

4.0E‐01

0 20 40 60 80 100

揚力/駆動力

N/W

ローター周速 m/s

16

18

20R355: 0%(‐0.1°) R355: 20%(3.1°)R355: 40%(6.8°) R355: 60%(10.3°)R230: 0%(‐0.2°) R230: 20%(6.3°)R230: 40%(13.1°) R230: 60%(18.6°)

(a) 揚力/駆動力 vs ロータ周速 (b) 揚力/駆動力の最大値 vs ピッチ角 図8 駆動力あたり揚力の比較

図 ₇ 揚力係数と抗力係数

の信頼性が無くなることから,ロータ回転速度が小さいか,

ピッチ角が小さい場合には反トルクが小さくなり,上記値

を下回る場合がある.これらの場合には揚力/駆動力の値

を算出せず,図8には除外し示していない.いずれの場合

にも,ロータ周速の増加に伴い揚力/駆動力が減少する傾

向がある.高速でのロータ駆動は翼表面や翼後流での渦流

れによるエネルギ散逸が増えていることなどが予想される.

したがって,可能な限りロータは低速度で駆動した方が効

率的であると言える. 図8(b)は,図8(a)における各ピッチ角における揚力/駆

動力の最大値をピッチ角に対して示したものである.R355,R230 のいずれも,ピッチ角の増加に伴って揚力/駆動力の

最大値は増加し,最大値を取ってからその後減少に転じて

いる.したがって,揚力/駆動力を最大にする最適なピッ

チ角があると言える.R355 の最大値は 0.344,R230 の最

大値は 0.240 であり,これらの比率(R355/R230)は 1.42

である.関係式(4)は駆動力を同一とした場合,以下のよう

に変形,計算できる.

3 2

( 032 )

( 553 )3 2

( 032 ) ( 032 )

( 553 ) ( 553 )

( 032 )

( 553 )

���

����

�����

����

��

M

R M

M R M

R M R M

R L

R L

rr

d Pd P

FF

1. 430. 0320. 553 3 2

�����

���

実測値が実験値を超えているのは実験の精度によるもので

あると思われるが,比較的近い実験値が得られているため,

関係式(4)は本実験によってもその妥当性が示されたと考え

られる. 3.可変ピッチロータを用いたマルチコプタ

3.1 ロータの大型化・低速回転化と制御性

関係式(4)から,同じ揚力を発生させる上で,ロータ直径

0.0E+00

5.0E-04

1.0E-03

1.5E-03

2.0E-03

2.5E-03

3.0E-03

3.5E-03

0 20 40 60 80 100

抗力

係数

CD

ローター周速 m/s

0.0E+00

2.0E-03

4.0E-03

6.0E-03

8.0E-03

1.0E-02

1.2E-02

1.4E-02

1.6E-02

1.8E-02

2.0E-02

0 20 40 60 80 100

揚力

係数

CL

ローター周速 m/s

16

18

20R355: 0%(-0.1°) R355: 20%(3.1°)R355: 40%(6.8°) R355: 60%(10.3°)R230: 0%(-0.2°) R230: 20%(6.3°)R230: 40%(13.1°) R230: 60%(18.6°)

(a) 揚力係数 vs ロータ周速 (b) 抗力係数 vs 駆動力 図7 揚力係数と抗力係数

0.00

0.10

0.20

0.30

0.40

-5 0 5 10 15 20

揚力

/駆

動力

の最大

値N

/W

ピッチ角 degree

R355R230

0.0E+00

5.0E-02

1.0E-01

1.5E-01

2.0E-01

2.5E-01

3.0E-01

3.5E-01

4.0E-01

0 20 40 60 80 100

揚力/駆動力

N/W

ローター周速 m/s

16

18

20R355: 0%(-0.1°) R355: 20%(3.1°)R355: 40%(6.8°) R355: 60%(10.3°)R230: 0%(-0.2°) R230: 20%(6.3°)R230: 40%(13.1°) R230: 60%(18.6°)

(a) 揚力/駆動力 vs ロータ周速 (b) 揚力/駆動力の最大値 vs ピッチ角 図8 駆動力あたり揚力の比較 図 ₈ 駆動力あたり揚力の比較

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八房智顯

130─  ─

あると思われるが,比較的近い実験値が得られているため,関係式(₄)は本実験によってもその妥当性が示されたと考えられる。

₃ .可変ピッチロータを用いたマルチコプタ

₃.₁ ロータの大型化・低速回転化と制御性

 関係式(₄)から,同じ揚力を発生させる上で,ロータ直径を大きくすれば少ないロータ駆動動力で済むことが明らかであるから,マルチコプタの省エネルギ化には大きなロータを使うことが有効であることが推察できる。さらに,ロータの回転速度は可能な限り低く抑えることも,省エネルギ化に対して有効であることが明らかになった。 一般にマルチコプタは複数の固定ピッチのプロペラを回転速度制御することにより,姿勢制御を行っている。しかし,回転速度を変化させるためにはプロペラの慣性モーメントに抗する必要があり,プロペラを大きくしようとするとサイズの ₂乗に比例して慣性モーメントが大きくなり,俊敏で微細な姿勢制御が出来なくなる。さらに消費エネルギを少なくするロータ回転速度の低下は,回転速度の約 ₂乗に揚力が比例することを踏まえると,低速回転域で揚力調整を行おうとすればより大きな回転速度変化量が必要となることも予想され,ロータ回転速度を低下させるという点においても固定ピッチプロペラでは難しさが生じると言える。 したがって,固定ピッチプロペラによる姿勢制御は,プロペラサイズに限度があり,大型化が難しいと言える。人を持ち上げられるような大型のマルチコプタも検討されているが₄︶,小型のプロペラを多数用いる形態が取られており,複雑化してマルチコプタの利点が失われてしまっているように思われる。 この問題に対する一つの解決策として,可変ピッチロータの採用が挙げられる。可変ピッチロータは,回転面に対してロータ翼の迎角を変更させることのできる構造になっており,回転速度が一定の元でも推力制御が可能である。ヘリコプタや中型以上の航空機では可変ピッチロータ(プロペラ)が一般的である。可変ピッチプロペラを用いたマルチコプタは,ごく一部に採用されている例があるが,小型のホビー用途以外に応用例が無い。まだ,ロータの大型化に対する省エネルギ性への優位性が認識されていないように思われる。

₃.₂ 可変ピッチマルチコプタの試作

 可変ピッチプロペラを採用したマルチコプタの性能を調べるため,既存の可変ピッチマルチコプタ(V₃₈₃ WLtoys

社)を改造してロータを大型化した。図 ₉(a)は製作した試作機である。同マルチコプタは, ₁つの駆動用モータを

駆動シャフトと駆動ベルトで ₄つのロータを駆動する設計になっている。ロータを大型化するため,駆動系を含めた構造体全てを大型化した。ロータ減速比はオリジナルと同様である。オリジナルのロータ半径が ₁₄₅ mmに対し,大型化したマルチコプタのロータ半径は ₂₃₀ mmである。なお,ロータは前述のMasterCPのものを用いた。 図 ₉(b)は飛行試験の様子を示したものである。なお飛行特性が不明であったため,ヨー方向と上下方向には完全に自由度があり,ピッチ方向とロール方向にはある程度の自由度を持たせた飛行制限装置の元で飛行させた。この浮上試験では,姿勢への反応が非常に過敏であり,安定した浮上を行うことができなかった。このため,エネルギ消費量等を調査することはできなかった。これはロータ減速比がオリジナルのままであり,ロータ周速が大きくなったため,わずかなピッチ角変化に対して揚力変化が大きく,制御コンピュータの制御範囲を超えて制御が破綻してしまったことが原因であると考えられる。今後はこれらを踏まえて,可変ピッチマルチコプタの改良と,これを用いた試験を進めていく予定である。

を大きくすれば少ないロータ駆動動力で済むことが明らか

であるから,マルチコプタの省エネルギ化には大きなロー

タを使うことが有効であることが推察できる.さらに,ロ

ータの回転速度は可能な限り低く抑えることも,省エネル

ギ化に対して有効であることが明らかになった. 一般にマルチコプタは複数の固定ピッチのプロペラを回

転速度制御することにより,姿勢制御を行っている.しか

し,回転速度を変化させるためにはプロペラの慣性モーメ

ントに抗する必要があり,プロペラを大きくしようとする

とサイズの 2 乗に比例して慣性モーメントが大きくなり,

俊敏で微細な姿勢制御が出来なくなる.さらに消費エネル

ギを少なくするロータ回転速度の低下は,回転速度の約 2乗に揚力が比例することを踏まえると,低速回転域で揚力

調整を行おうとすればより大きな回転速度変化量が必要と

なることも予想され,ロータ回転速度を低下させるという

点においても固定ピッチプロペラでは難しさが生じると言

える. したがって,固定ピッチプロペラによる姿勢制御は,プ

ロペラサイズに限度があり,大型化が難しいと言える.人

を持ち上げられるような大型のマルチコプタも検討されて

いるが 4),小型のプロペラを多数用いる形態が取られており,

複雑化してマルチコプタの利点が失われてしまっているよ

うに思われる. この問題に対する一つの解決策として,可変ピッチロー

タの採用が挙げられる.可変ピッチロータは,回転面に対

してロータ翼の迎角を変更させることのできる構造になっ

ており,回転速度が一定の元でも推力制御が可能である.

ヘリコプタや中型以上の航空機では可変ピッチロータ(プ

ロペラ)が一般的である.可変ピッチプロペラを用いたマ

ルチコプタは,ごく一部に採用されている例があるが,小

型のホビー用途以外に応用例が無い.まだ,ロータの大型

化に対する省エネルギ性への優位性が認識されていないよ

うに思われる. 3.2 可変ピッチマルチコプタの試作

可変ピッチプロペラを採用したマルチコプタの性能を調

べるため,既存の可変ピッチマルチコプタ(V383 WLtoys社)を改造してロータを大型化した.図9(a)は製作した試

作機である.同マルチコプタは,1つの駆動用モータを駆

動シャフトと駆動ベルトで4つのロータを駆動する設計に

なっている.ロータを大型化するため,駆動系を含めた構

造体全てを大型化した.ロータ減速比はオリジナルと同様

である.オリジナルのロータ半径が 145mm に対し,大型

化したマルチコプタのロータ半径は 230mm である.なお,

ロータは前述の MasterCP のものを用いた. 図9(b)は飛行試験の様子を示したものである.なお飛行

特性が不明であったため,ヨー方向と上下方向には完全に

自由度があり,ピッチ方向とロール方向にはある程度の自

由度を持たせた飛行制限装置の元で飛行させた.この浮上

試験では,姿勢への反応が非常に過敏であり,安定した浮

上を行うことができなかった.このため,エネルギ消費量

等を調査することはできなかった.これはロータ減速比が

オリジナルのままであり,ロータ周速が大きくなったため,

わずかなピッチ角変化に対して揚力変化が大きく,制御コ

ンピュータの制御範囲を超えて制御が破綻してしまったこ

とが原因であると考えられる.今後はこれらを踏まえて,

可変ピッチマルチコプタの改良と,これを用いた試験を進

めていく予定である. 4.結言

マルチコプタにおいて長距離飛行には省エネルギ化が不

可欠である.ロータを用いた浮上において効率を向上し消

費エネルギを低下させるための手法として,以下が明らか

になった. (1) ロータの大型化と低速回転化が有効であることが理論

的・実験的に示された. (2) ロータの大型化と低速回転化を行うためには,既存の

(a) 大型化した試作機

可変ピッチマルチコプタ

飛行制限装置

(b) 浮上試験 図9 試作した可変ピッチマルチコプタと飛行試験 図 ₉ 試作した可変ピッチマルチコプタと飛行試験

Page 7: 高効率マルチコプタの開発 - 広島工業大学...125 広島工業大学紀要研究編 第₅₂巻(₂₀₁₈)125 – 131 論 文 高効率マルチコプタの開発

131─  ─

高効率マルチコプタの開発

₄ .結 言

 マルチコプタにおいて長距離飛行には省エネルギ化が不可欠である。ロータを用いた浮上において効率を向上し消費エネルギを低下させるための手法として,以下が明らかになった。(₁)ロータの大型化と低速回転化が有効であることが理論

的・実験的に示された。(₂)ロータの大型化と低速回転化を行うためには,既存の

固定ピッチプロペラでは制御性が損なわれる。これを回避するためには可変ピッチロータを用いる必要がある。

(₃)大型ロータの可変ピッチマルチコプタを試作し,浮上に成功した。

謝  辞

 本研究は平成₂₇年度および平成₂₈年度の卒業研究テーマ

として実施した研究成果をまとめたものである。この研究を遂行した広島工業大学工学部知能機械工学科の卒業生である,福本優太君,吾郷真太郎君,三島瞭君に感謝する。

文  献

(₁) 野波 健蔵,ドローン技術の現状と課題およびビジネス最前線

https://www.jstage.jst.go.jp/article/johokanri/₅₉/₁₁/

₅₉_₇₅₅/_pdf

(₂) 熊田貴之,空の産業革命―ドローン時代の幕開け―

http://www.rs.jx-group.co.jp/library/files/₂₀₁₆₀₁₁₄_contribution.pdf

(₃) J. Gordon Leishman, Principle of helicopter

aerodynamics, Cambridge University press(₂₀₀₀).(₄) Volocopter

https://www.volocopter.com/de/