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科学技術振興調整費 成果報告書 産学官連携共同研究の推進 事後評価 「新方式マイクロ波プロフィールメータの開発」

科学技術振興調整費 成果報告書 - JST...2.MIC および MMIC のプロフィールメータへの適用に関する研究 (1) MIC および MMIC マスクの試作とその改良

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科学技術振興調整費 成果報告書

産学官連携共同研究の推進 事後評価

「新方式マイクロ波プロフィールメータの開発」

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新方式マイクロ波プロフィールメータの開発

研究計画の概要 p.1

研究成果の概要 p.4

研究成果の詳細報告

1. 二次元プロフィールメータのシステム設計と性能評価に関する研究

1.1. プロフィールメータのシステム設計と評価

1.1.1. マイクロ波集積回路によるレベル計の設計・製作と評価 p.11

1.2. 送受信部の設計・製作に関する研究

1.2.1. 高性能イメージングアレイの設計・製作 p.16

1.2.2. 中間周波数(IF)システムの集積化 p.20

1.3. 電磁波伝播の計算機シミュレーション

1.3.1. 新しい計算機コードの開発とアクティブイメージングへの適用 p.24

1.3.2. 異物混入検査に関するシミュレーション研究 p.28

1.3.3. ファブリー・ペロー干渉法を用いた薄膜物質計測法 p.32

1.4. 試作品の性能評価

1.4.1. 試作されたマイクロ波レベル計の性能評価 p.37

1.4.2. 超短パルスレーダーの試験 p.40

1.5. 実用化試験

1.5.1. 食品中の異物検査への応用 p.45

1.5.2. 非侵襲生体情報計測への応用 p.49

2. MICおよび MMICのプロフィールメータへの適用に関する研究

2.1. MICおよび MMICマスクの試作とその改良

2.1.1. プロフィールメータ用パッチアレイアンテナの開発 p.53

2.2. MICおよび MMICとイメージングアレイの融合に関する研究

2.2.1. MMIC検出器とアクティブイメージング p.60

3. 製品化のためのプロトタイプ装置の試作に関する研究

3.1. 信号処理部の設計・製作に関する研究

3.1.1. 新型マイクロ波レベル計のための信号処理部の試作と評価 p.63

3.2. プロトタイプ装置の試作に関する研究

3.2.1. 新型マイクロ波レベル計の試作と評価 p.66

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新方式マイクロ波プロフィールメータの開発

1

研究計画の概要

研究の趣旨

マイクロ波からミリ波帯の電磁波は、空間での情報の伝達および収集、エネルギーの供給および伝送などの手段とし

て様々に利用されてきた。最近では、超高速デバイスやミリ波集積回路の進歩とともに、政府による高度情報社会の構築

に向けた政策の推進により、様々な分野で、新しい応用に向けた技術開発が活発化している。現在実用化が進められてい

るシステムは、高速・大容量という特長を生かした通信用と、高空間分解、鋭い指向性という特長を生かしたレーダー用に大

別される。本研究は後者に属すもので、短ミリ波帯における新しい計測システムを実現していくものである。研究の特色として

は、ⅰ)システムの主要部にマイクロ波集積回路およびモノリシックマイクロ波集積回路の技術を適用する、ⅱ)入射波として

周波数変調波だけでなくインパルスあるいは短パルスマイクロ波を使用する、ⅲ)物体表面を識別するだけでなく物体内部

の情報を非破壊・非接触で表示する、ことなどを挙げることができる。また、ミリ波帯で動作する平面形多チャンネル検出器と

入射光源及び準光学結像系を組み合わせることにより、能動的なイメージング装置を構成し、物体内部を透視する画像計測

装置に発展させることも可能である。

本共同研究の特徴は、大学におけるマイクロ波・ミリ波計測の専門家と超高速デバイスの最新の技術を有する企業が一体

となって研究を推進して行くことにある。マイクロ波回路の基礎設計は、九州大学が中心となって進めることができるが、基板

上でマスクパターンを起こし、製作していくためには、最新のプロセス装置を使用する必要があり、企業研究機関の協力が不

可欠となってくる。九州日立マクセル(株) は集積回路マスク製作の経験と微細加工のための主要設備を保有しており、九州

地域では最適な共同研究機関の一つとなっている。電磁波の伝播に関する計算機シミュレーションは、システムの評価およ

び改良を図っていく上で大きな役割を果たしており、理論シミュレーションの研究で多大な実績があり、電磁波伝播コードの

開発を進めている筑波大学の研究者の参加は大きな意味がある。また、システムの試作を行うに際して、従来品の開発・製

作の経験を有している (株)松島機械研究所の参加も極めて有効である。本プロジェクトは、これら三者が対等な立場で研究

を推進し、研究の実用化から製品化までを行っていくことを目標としている。

研究の概要

マイクロ波プロフィールメータは、被測定物体にプローブ光を入射するための発振器、伝送回路、および送信アンテナと、

反射および散乱されてきた信号を測定するための受信アンテナ、検出器、信号処理装置、および表示装置で構成される。

研究課題を大別すると以下のようになり、それぞれの研究内容および目標を記述する。

1.二次元プロフィールメータのシステム設計と性能評価に関する研究

(1) プロフィールメータのシステム設計と試作

システムの集積化を進める場合、周波数 30 GHz 以下のマイクロ波領域ではマスク基板を製作後にマイクロ波デバイ

スを実装するマイクロ波集積回路(MIC)技術を、周波数が 30 GHz 以上のミリ波領域では素子も含め一体化して製作

するモノリシックマイクロ波集積回路(MMIC)技術を利用する。発振源として 20-30 ピコ秒の超短パルスを使用する場合

は、フーリエ成分が周波数 10-60 GHz にわたっているため、MMIC化に対しても大きな利点となる。発振器から送信ア

ンテナ、および受信アンテナから検出器までの伝送回路の広帯域化も重要な課題である。本研究ではこれらシステムの

設計を進めていく。試作には、マイクロ波回路シミュレータを用い、最適な条件となるように設計したのち製作するが、実際の

回路とシミュレーションの結果は多少の差異があるため、試行錯誤を重ねながら製作する。

(2) 送受信部の設計・製作に関する研究

送信・受信部は、測定対象により、ガウシアンビームを発生するコルゲートホーンにレンズを付加する方法、能動イメージン

グ方式のための平面形アレイアンテナを使用する方法等を選択するが、応用分野に最適な方式を採用する。

(3) 電磁波伝播の計算機シミュレーション

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新方式マイクロ波プロフィールメータの開発

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種々の媒質中の電磁波伝播に関する計算機コードを開発・改良し、実際のシステムのシミュレーションを行う。また、ハードウ

エアの改良および高性能化については、計算機シミュレーションと実証実験との比較検討をもとにして進めていく。

(4) 試作品の性能評価

試作したマイクロ波集積回路の性能評価を、高周波プローブシステム、ベクトルネットワークアナライザなどを用いて実施し、

改良・試作を行うことにより、システムの最適化を効率よく進める。

(5) 実用化試験

本研究で試作したシステムを用い、液体、固体、あるいは粉体などの表面分布の評価、内部構造の評価の可能性を検証

する。そののち主要応用分野と考えられている、非破壊検査・探査装置、医用診断装置、車載レーダなどについてその実証

実験を進めていく。

2.MICおよび MMIC のプロフィールメータへの適用に関する研究

(1) MICおよび MMICマスクの試作とその改良

マイクロ波・ミリ波帯における集積回路基板を製作するためには、マイクロ波・ミリ波回路シミュレータを用いて最適な条件と

なるように設計して製作するが、実際に製作された回路とシミュレーションの結果は多少の差異があるため、試作後性能評価

を行ない、結果をフィードバックしながら効率よく改良を進めていく。

(2) MICおよび MMIC とイメージングアレイの融合に関する研究

シングルチャンネル方式のプロフィールメータの場合、ホーンおよびレンズで構成されたシステムを利用することができる。

イメージング測定のためには、アレイ化した平面形アンテナとショットキーバリアダイオードミキサを組み合わせて製作すること

になる。アレイ間のクロストーク(混色)を避けるため、指向性に優れたアンテナを選択設計し、マスクパターンを形成した後、

プロセス装置を用いて製作する。

3.製品化のためのプロトタイプ試作と実用化試験に関する研究

(1) 信号処理部の設計・製作に関する研究

信号処理部および表示部には、画像処理ソフトの開発・製作が重要となるが、従来の製品での実績をもとに設計・製作を

進める。

(2) プロトタイプ装置の試作に関する研究

本研究により開発されたシステムを製品化する場合、マイクロ波・ミリ波発振部、送信受信部、信号検出部、信号処理部、

表示部から構成される。発振部および信号検出部は、上記のMIC あるいはMMIC 技術によりモジュール化する。製作に当

たっては精密機械工作の技術も不可欠となる。各部に対して、試作および評価を繰り返し、最適化した後、プロトタイプ装置

として全てを組み合わせたシステムを試作する。

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新方式マイクロ波プロフィールメータの開発

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実施体制

研 究 項 目 担当機関等 研究担当者

(提案機関)

1.二次元プロフィールメータのシステム設計と性能

評価に関する研究

(1) プロフィールメータのシステム設計と試作

(2) 送受信部の設計・製作に関する研究

(3) 電磁波伝播の計算機シミュレーション

(4) 試作品の性能評価

(5) 実用化試験

九州大学産学連携 センター 九州大学産学連携 センター 九州大学産学連携 センター 九州大学産学連携 センター 筑波大学数理物質科

学研究科 九州大学産学連携 センター 九州大学産学連携 センター

間瀬 淳(教授) 間瀬 淳(教授) ブルスキン レオニド

間瀬 淳(教授) ブルスキン レオニド 間瀬 淳(教授)

北條仁士

間瀬 淳(教授)

近木祐一郎 間瀬 淳(教授)

近木祐一郎

(共同研究機関)

2.MICおよび MMIC のプロフィールメータへの適用

に関する研究

(1) MICおよび MMICマスクの試作とその改良

(2) MICおよび MMIC とイメージングアレイの融合に関

する研究

3.製品化のためのプロトタイプ試作と実用化試験に関

する研究

(1) 信号処理部の設計・製作に関する研究

(2) プロトタイプ装置の試作に関する研究

九州日立マクセル 株式会社 九州日立マクセル 株式会社 九州日立マクセル 株式会社 株式会社松島機械研

究所 株式会社松島機械研

究所 株式会社松島機械研

究所

坂田栄二 青井正司 坂田栄二 重枝浩孝 重枝浩孝 重枝浩孝

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新方式マイクロ波プロフィールメータの開発

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研究成果の概要

総 括

本プロジェクトでは、マイクロ波およびミリ波発信部、送信アンテナ、受信アンテナ、ヘテロダインおよびホモダイン受信部、

信号収集および解析部、各部の考察を進め、これらを組み合わせることによりマイクロ波プロフィールメータを構築して、その

性能評価を進めることを第一課題とした。送受信アンテナは導波管および平面アンテナの両者について、システムの伝送方

式については、同軸線路、導波管、および平面線路の三者を同時に考察した。

アンテナの研究では、ガウスビーム発生に有利なコルゲート導波管アンテナを周波数 50 GHz、および 70 GHzを中心

に設計・製作し、誘電体レンズと組み合わせて、応用分野に適切なビーム整形が実現できることを証明した。また、送信

ホーンに用いる平面パッチアンテナでは 8×8素子まで製作し高利得化を図り、受信アンテナでは、ダブルバランストミキ

サアンテナ(DBMA)を新たに開発・製作し性能評価を行った結果、指向性、分離度などイメージングアレイに必要な条

件を満足していることを実証した。受信部では、同軸線路および導波管伝送方式についてはミキサ、プリアンプ、およびヘ

テロダイン受信機の中間周波数を選択することにより低雑音化を図り、平面線路では、低損失誘電体基板上のストリップライ

ンおよびコプレーナ線路を用いたマイクロ波集積回路を設計・製作し、多チャンネル化を実現した。また、信号収集・解析部

では、高速かつ高分解特性を有するディジタイジングユニットと、MATLAB ソフトによる実験制御と信号解析を組み合わせて

高効率化を実現した。上記を組み合わせプロフィールメータとしての性能評価を行ったのち、実用化試験のため、食品中の

異物検査、非侵襲生体情報計測に適用し、物体および人体などの内部状況を評価するシステムとしての有効性を示した。

本共同研究の当初目標として、大学におけるマイクロ波・ミリ波計測の専門家と超高速デバイスの最新の技術を有する企

業が一体となって研究を推進して行くことがあった。企業協力機関の一つである九州日立マクセル株式会社では、新方式プ

ロフィールメータの要素となるアレイアンテナ、準光学フィルターなど、10μm の線幅の製作が可能な微細加工(Electro Fine

Forming: EF2)設備により、大学では不可能な集積化ミリ波基板を実現し、本研究の進展に多大な貢献をした。また、株式会

社松島機械研究所は、従来の実績を生かし、本研究で得られた成果によりプロトタイプ品を試作し、大学における性能評価

により改良を重ねて最適化することにより、応用分野の一つであったレベル計として実用化を図っている。

サブテーマ毎、個別課題毎の概要

1.二次元プロフィールメータのシステム設計と性能評価に関する研究

(1) プロフィールメータのシステム設計と評価

アクティブイメージングセンサを基本とするプロフィールメータのシステム設計および製作を行い、高周波プローブ、

ベクトルネットワークアナライザ・システムなどを組み合わせることにより、マイクロ波からミリ波領域(周波数 8~76 GHz)に対

してその評価を進めた。性能評価をもとに改良を組み合わせることによりその最適化を図った。

(2) 送受信部の設計・製作に関する研究

送信部(導波管形コルゲートホーンアンテナおよび平面形パッチアンテナ)および受信部(イメージングアレイアンテナ)を

アンテナ設計ソフトにより設計し、九州日立マクセル(株)の保有する超精密加工技術(Electro Fine Forming: EF2)により製作

した。また、ヘテロダイン中間周波数システムの集積化設計をマイクロ波回路設計ソフトにより行い、基板加工システムにより

製作した。性能評価には電波暗室および近傍界アンテナ測定システムとベクトルネットワークアナライザを使用した。性能評

価をもとに改良を組み合わせることによりその最適化を図った。

(3) 電磁波伝播の計算機シミュレーション

本研究により開発および改良を行ったシミュレーションコードを用いて、実際の応用(各種レーダー、非破壊検査装置、環

境応用、生体計測、および二次元プロフィールメータ)に則した計算機シミュレーションを実行した。さらに、計算時間の短縮

を含めたコードの最適化を図り、汎用のミリ波診断シミュレータとしての確立を図った。

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(4) 試作品の性能評価

九州日立マクセル(株)、および (株)松島機械研究所で製作されたプロトタイプ製品の性能評価を行なった。九州日立マクセ

ル(株)の超精密加工技術(EF2)を利用したイメージングアレイアンテナや、フィルターの性能評価を進めた。

(5) 実用化試験

プロトタイプ品の計測システムとしての実用性の確認を行った。適用分野としては、液面等の非接触レベル測定、食品中

の異物検査、心臓動態などの生体情報計測を中心とし、実用化レベルに達していることを実証した。

2.MICおよび MMIC のプロフィールメータへの適用に関する研究

(1) MICおよび MMICマスクの試作とその改良

大学の協力により設計した、アレイアンテナ、イメージングアレイ、および準光学フィルターのためのマスクの製作を行い、

低損失テフロン基板上で試作し、性能評価により改良を重ね最適化を図った。テフロン基板上でのアンテナ等の試作はミリ

波帯での新しい技術として期待されている。 (2) MICおよび MMIC とイメージングアレイの融合に関する研究

MIC および MMIC 技術により製作された平面形アレイアンテナと準光学結像系を組み合わせて、パッシブおよびアクティ

ブイメージング装置を構成しプラズマ計測に適用した。

3.製品化のためのプロトタイプ試作と実用化試験に関する研究

(1) 信号処理部の設計・製作に関する研究

レーダー計測システムの高空間特性を実現するため、サンプリング法を応用した高時間分解のための信号処理法を開発

し、試作品に適用した。

(2) プロトタイプ装置の試作に関する研究

本研究の応用として新型レベル計の試作を行い、改良を重ねることにより製品化を実現した。

波及効果、発展方向、改善点等

本研究開発は、誘電体媒質中における反射、透過、散乱といった基本原理に基づいており、基盤となるシステムは同じで、

測定対象にしたがって構成の形態および周波数領域を変えることにより、様々な分野への活用を図ることができる。主なもの

として、1)非破壊検査・!探査装置、2)非侵襲医用診断装置、3)粉体の粒度分布モニター、4)リモートセンシング、5)車載

レーダー、を挙げることができる。各々についてその活用方法を記述する。

1)最近問題となっている食品中の異物検査装置としての利用がある。本応用については、周波数 70 GHzの検査システムを

構成し、異物検査に適用、ニューラルネットワーク学習法を用いることにより、波長の約二分の一までの異物の検出が可能な

ことを検証した。また、1-10 GHz のマイクロ波を使用することにより、建築関連産業での利用、例えば、トンネル、ビルディング

などのクラックや内部の鉄筋の検査への適用が、さらに、埋没された地雷を、金属、プラスチックにかかわらず、遠隔から探査

するシステムに適用することが考えられる。本システムの周波数の低いマイクロ波領域への適用については、準光学結像系

の困難さもあり、今後の検討課題となっている。

2)医学の分野では、X線や超音波と同様な用途に適用することが可能である。本システムは、これらと比較して極めてコンパクトかつ

安価にできるため、救急車などに常備可能で、緊急処置への対応に重要な役割を果たすことが期待される。具体的に実用化試験を

実施しているものとして、生体情報計測がある。マイクロ波は皮膚表面を透過して、反射面となる心臓自身ないし心臓近傍の筋肉の変

位による反射波の位相変化を検出することにより、微小変位を感度良く測定することができる。遠隔にて心拍および呼吸による変化を

同時に観測することができるため、臨床応用とともに、介護用モニター、無呼吸症候群の検知などへの応用が考えられる。生体情報計

測の更なる発展としては、脳機能などへの応用があり、現在医学分野の研究者とのプロジェクトチーム形成の準備を行っている。

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新方式マイクロ波プロフィールメータの開発

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3)~5)分野の応用については、本研究期間中での試験を行うことができなかったが、発展方向として実用化が期待されて

いる。

新方式マイクロ波プロフィールメータの開発

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新方式マイクロ波プロフィールメータの開発

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所要経費 (単位:百万円)

所要経費

研 究 項 目 担当機関等 研 究

担当者 H14年

H15年

H16年

度 合計

(提案機関)

1.二次元プロフィールメータのシステム

設計と性能評価に関する研究

(1)プロフィールメータのシステム設計と試

(2)送受信部の設計・製作に関する研究

(3)電磁波伝播の計算機シミュレーション

(4)試作品の性能評価

(5)実用化試験

九州大学産学連

携センター

間瀬 淳

25

24

20

69

所 要 経 費 (合 計) 25 24 20 69

(共同研究機関)

1.MIC および MMIC のプロフィールメー

タへの適用に関する研究

(1)MICおよびMMICマスクの試作とその改

(2) MICおよび MMIC とイメージングアレイ

の融合に関する研究

2.製品化のためのプロトタイプ試作と実用

化試験に関する研究

(1)信号処理部の設計・製作に関する研究

(2)プロトタイプ装置の試作に関する研究

九州日立マクセル

株式会社

株式会社松島機

械研究所

坂田栄二

重枝浩孝

13

6

20

12

17

3

50

21

所 要 経 費 (合 計) 19 32 20 71

提案機関経費は間接経費含まない

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新方式マイクロ波プロフィールメータの開発

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使用区分

【提案機関】

(単位:百万円)

サブテーマ1 サブテーマ2 サブテーマ3 計

人件費 15 15

備品費 30 30

消耗品費 21 21

旅費 3 3

計 69 69

【共同研究機関】

(単位:百万円)

サブテーマ1 サブテーマ2 サブテーマ3 計

人件費 26 2 28

備品費 18 2 20

消耗品費 4 16 20

旅費 2 1 3

計 50 21 71

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新方式マイクロ波プロフィールメータの開発

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研究成果の発表状況 (1) 研究発表件数

原著論文による発表 左記以外の誌上発表 口頭発表 合 計

国 内 17件 13件 45件 75件

国 際 15件 9件 23件 47件

合 計 32件 22件 68件 122件

(2) 特許など出願件数

4件 (内国内 4件、国外該当なし)

(3) 受賞数

該当なし

(4) 主な原著論文による発表の内容

国内誌 (国内英文誌を含む)

本研究に関連して発表した論文

1. M. Igantenko, A. Mase, L. Bruskin, Y. Kogi, and H. Hojo: 「Microwave Imaging Reflectometry of Corrugated Metal

Targets」 J. Plasma Fusion Res. 80巻, 2号, 87-89頁 (2004年).

2. H. Hojo and A. Mase: 「Dispersion Relation of Electromagnetic Waves in One-Dimensional Plasma Photonic

Crystals」 J. Plasma Fusion Res. 80巻, 2号, 89-90頁 (2004年).

3. H. Hojo, K. Akimoto, and A. Mase: 「Reflectionless Transmission of Electromagnetic Wave in One-Dimensional

Multi-Layer Plasmas」 J. Plasma Fusion Res. 80巻, 4号, 177-178頁 (2004年).

4. H. Hojo and A. Mase: 「A New Method of Electron Density Measurement by Fabry-Perot Interferometr」 J. Plasma

Fusion Res. 80巻, 5号, 358-359頁 (2004年).

5. H. Hojo, A. Shimamura, N. Uchida, Y. Yasaka, and A. Mase: 「Surface Wave Analysis with Plasma Resonance」 J.

Plasma Fusion Res. 80巻, 9号, 719-720頁 (2004年).

6. L. Bruskin and A. Mase: 「Microwave Reflectometry of Turnulence Spectrum in Tokamak Plasmas」 Jpn.J.Appl.

Phys.44巻 (2005年).印刷中

関連して発表した論文

1. H. Hojo, G. Uruta, K. Nakayama, and A. Mase: 「2D Full Wave Simulation on Electromagnetic Wave Propagation in

Toroidal Plasma」 J. Plasma Fusion Res. 78巻, 5号, 387-388頁 (2002年).

2. A. Mase, Y. Kogi, M. Ohashi, A. Yamamoto, S. Osako, L. Bruskin, and H. Hojo: 「Development and Application of

Millimeter-Wave Imaging Radar」 J. Plasma Fusion Res. 78巻, 5号, 439-446頁 (2002年).

3. H. Hojo, T. Watanabe, and K. Akimoto: 「Stationary Solitary Electromagnetic Waves Generated in Relativistic

Laser-Plasma Interaction」 J. Plasma Fusion Res. 78巻, 6号, 495-496頁 (2002年).

4. T. Watanabe and H. Hojo: 「The Marginally Stable Pressure Profile and a Possibility of High Beta Plasma

Confinement in LHD」 J. Plasma Fusion Res. SERIES 5巻, 487-490頁 (2002年).

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新方式マイクロ波プロフィールメータの開発

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5. L. Burskin and A. Mase: 「Effect of Plasma Profile Curvature on Microwave Scattering in Reflectometry」 J. Phys.

Soc. Jpn. 71巻, 5号, 1274-1279頁 (2002年).

6. Y. Tatematsu, T. Saito, and H. Hojo:「Evaluation of Absorption Rate by Using Full-Wave Maxwell Simulation for

Plug ECRH in the GAMMA 10 Tandem Mirror」J. Plasma Fusion Res. 80巻, 5号, 360-361頁 (2004年).

7. K. Akimoto and H. Hojo:「Cyclotron-Resonance Accelerations by a Generalized EM Wave」J. Plasma Fusion Res.

SERIES. 6巻, 446-448頁 (2004年).

8. H. Hojo, K. Akimoto, and T. Watanabe:「Fluid Simulation on Subcycle Wave Generation in Relativistic

Laser-Plasma Interactions」J. Plasma Fusion Res. SERIES, 6巻, 593 –596頁 (2004年).

海外誌

本研究に関連して発表した論文

1. L. Bruskin, N. Oyama, A. Mase, K. Shinohara, and Y. Miura: 「Reconstruction of Wavenumber Spectra of Plasma

Turbulence in Microwave Reflectometry」 Plasma Phys. Control. Fusion 46巻, 1313-1330頁 (2004年).

2. M. Ignatenko, A. Mase, L. G. Bruskin, Y. Kogi, and H. Hojo: 「Effects of Asymmetry and Target Location on

Microwave Imaging Reflectometry」 Rev. Sci. Instrum. 75巻, 10号, 3810-3812頁 (2004年).

3. H. Hojo, A. Fukuchi, A. Itakura, and A. Mase: 「Full-Wave Simulations on Ultrashort-Pulse Reflectometry for

Helical Plasmas」 Rev. Sci. Instrum. 75巻, 10号, 3813-3815頁 (2004年).

4. Y. Kogi, K. Uchida, A. Mase, L. Bruskin, M. Ignatenko, T. Tokuzawa, Y. Nagayama, and K. Kawahata:

「Ultrashort-Pulse Reflectometer on LHD」 Rev. Sci. Instrum. 75巻, 10号, 3837-3839頁 (2004年).

5. M. Ignatenko, A. Mase, L. Bruskin, Y. Kogi, and H. Hojo: 「Numerical Study of Microwave Imaging Reflectometer

for a Tandem Mirror Device」 Trans. Fusion Sci. Tech. 47巻, 1T号, 183-186頁 (2005年).

関連して発表した論文

1. K. Watabe, N. Oyama, A. Mase, and K. Mizuno: 「Millimeter-Wave Two-Dimensional Imaging Optical System for

Interferometer of the GAMMA 10 Tandem Mirror」 Rev. Sci. Instrum. 72巻, 6号, 2282-2286頁 (2002年).

2. A. Mase, Y. Kogi, K. Kawahata, Y. Nagayama, B. H. Deng, C. W. Domier, N. C. Luhmann, Jr.,E. Mazzucato, T.

Munsat, and H. K. Park: 「Progress in Millimeter-Wave Imaging Diagnostics」 Trans. Fusion Sci. Tech. 43巻, 1T

号, 237-242頁 (2003年).

3. A. Mase, Y. Kogi, M. Ohashi, S. Osako, Y. Nagayama, K. Kawahata, S. Aoi, and E. Sakata: 「Electron Cyclotron

Emission Imaging on LHD」 Rev. Sci. Instrum. 74巻, 3号, 1445-1448頁 (2003年).

4. L. Bruskin, N. Oyama, K. Shinohara, Y. Miura, Y. Kogi, A. Mase, M. Hasegawa, and K. Hanada: 「Measurement of

Density Fluctuations in Reflectometry of Cylindrical Plasma」 Rev. Sci. Instrum. 74巻, 3号, 1473-1476頁 (2003

年).

5. Y. Kogi, A. Mase, S. Osako, T. Yasuda, L. Bruskin, and H. Hojo: 「Ultrashort-Pulse Reflectometry for

Steady-State Plasmas」 Rev. Sci. Instrum. 74巻, 3号, 1510-1513頁 (2003年).

6. S. Sudo et al. : 「Recent Diagnostics Development on LHD」 Plasma Phys. Control. Fusion 45巻, 7号, 1227-1242

頁 (2003年).

7. L. Bruskin, A. Mase, N. Oyama, K. Shinohara, and Y. Miura: 「Reflectometry Study of Mode Coupling in Fusion

Plasma Turbulence」 Plasma Phys. Control. Fusion 45巻, 7号, 1222-1245頁 (2003年)。

8. H. Park, C. C. Chang, B. H. Deng, C. W. Domier, A. J. H. Donné, K. Kawahata, C. Liang, X. P. Liang, H. J. Lu, N.

C. Luhmann, Jr., A. Mase, H. Matsuura, E. Mazzucato, A. Miura, K. Mizuno, T. Munsat , Y. Nagayama, M. J. van

de Pol. J. Wang, Z. G. Xia, and W-K. Zhang: 「Recent Advancements in Microwave Imaging Plasma Diagnostics」

Rev. Sci. Instrum. 74巻, 10号, 4239-4262頁 (2003年).

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新方式マイクロ波プロフィールメータの開発

研究成果の詳細報告

11

1. 二次元プロフィールメータのシステム設計と性能評価に関する研究

1.1. プロフィールメータのシステム設計と評価

1.1.1. マイクロ波集積回路によるレベル計の設計・製作と評価

九州大学産学連携センター・間瀬研究室

間瀬 淳、近木 祐一郎

要 約

マイクロ波およびミリ波を用いたレーダーシステムは、超音波やレーザー等のレーダーシステムと比較し、水蒸気や温度な

どの伝播媒質に影響を受けにくいことから航空機の管制システムや軍事技術、産業技術に広く用いられてきた。最近では、

製品への異物混入等の検出から不良視界中での距離測定、表面および物体内部の非破壊検査まで注目を集めている。

本研究では、最初の応用として製鉄所内の高炉等の設備に用いられている溶融鉄面までの距離測定を目的としたマイ

クロ波レベル計の製作と食品中の異物検査システムの設計・製作とその評価を行った。

目 的

マイクロ波プロフィールメータの基本的な形態としてマイクロ波およびミリ波レーダーがある。レーダーシステムには周波数

領域で計測を行う FMCW 型レーダーと時間領域で計測を行うパルス型レーダーがある。本研究ではこの両方式について、

発振部および信号検出部の設計・製作し、性能評価を行いながら改良を重ねて、最適化を進めていくことを目的とした。

研究方法

レーダーシステムには周波数領域で計測を行う FMCW 型レーダーと時間領域で計測を行うパルス型レーダーがある。

本研究ではこの両者について開発を行った。それぞれの計測システム開発について、原理及び特徴を含めて述べる。

FM-CW 型はマイクロ波の伝播距離に対応した低い中間周波数を計測すればよいため簡便であるが、測定物が揺らい

でいる時は精度に影響が出やすい。図-1 に FM-CW レーダーのブロック図を示す。マイクロ波発振源として電圧制御発

振器を用い、図-2 の実験のように三角波で発振周波数を時間で変調する。その後方向性結合器で局部発振波(LO)と

送信波(RF)に分け、アンテナを用いて空中に放射する。測定対象物で反射したマイクロ波はサーキュレーターにより送信

経路から分離され LO と共にミキサーに入力される。RF 周波数は空中を特定の距離を伝播しミキサーに入力されるため、

図 2 に示すように LO の周波数と違いが生じる。LO 及び RF の周波数差がミキサー出力となるが、差周波数は測定対象

物の距離に比例し高くなるためこの方式により距離測定が可能となる。

図-1 FM-CW 方式のブロック図

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新方式マイクロ波プロフィールメータの開発

研究成果の詳細報告

12

図-2 電圧変調による各周波数の時間変化

パルス型レーダーは1 ns 程度の時間幅を持ったマイクロ波帯のパルスを入射し、被測定物により反射し戻ってきたパル

スの入射してからの時間遅れを測定することにより被測定物までの距離を計測する。パルスは光速で飛行するため、入射

して受信するまでの時間は非常に短くなる。このため、通常のパルス型レーダーはパルスを計測するための超高速の計測

システムが不可欠であるが、レーダーの産業応用を考慮した時コストがネックとなり問題であった。そこで我々は超高速の

計測システムが不要となるサンプリング方式パルスレーダーを考案した。その測定装置図を図-3 に示す。水晶発振器で

約 3 MHz のリファレンス信号を発振し、フェーズロックループ(PLL)に入力する。PLL で 2 つの信号を発振するが、一つの

信号(RF)は他方(LO)に比べて発振パルス幅が 4ps 異なる。PLL から出力された矩形波はスッテプリカバリーダイオード

(SRD)に入力され、100 ps 以下の立下り幅を持つ矩形波が生成される。

図-3 パルスレーダー

研究成果及び考察

図-4 に図-1 の FM-CW レーダーのブロック図をマイクロ波回路シミュレーターを用いて MIC 化した基板のレイアウトを

示す。右上にディレクショナルカプラー、左側の緑の部分にサーキュレーター、中央下から右下にかけてミキサーが配置さ

れており、それぞれの機能マイクロ波回路のシミュレーション、試作及び評価を個別に行った。本回路では発振回路は個

別に実装した。ミキサーダイオード等のチップ部分を実装し、実際にレーダーの機能テストを行った。測定時の写真を図-5

に示す。写真のように測定対象物として 30 cm 四方の鉄板ターゲットを用い、開発されたレーダーユニットに市販のホーン

アンテナを接続して実験を行った。

本システムは既に開発を終え 20 システム以上高炉に納められ計測及び制御に用いられている。尚、実際の製品は今回

開発された MIC 部分が金属のケースに収められ、オシロスコープに対応する A/D 変換ボードや FFT 演算を行う DSP ボ

ード部分は共同研究を行っている企業が基板化を担当した。また、アンテナはホーンアンテナを用いずゲインが得やすい

パラボラアンテナを用いている。

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新方式マイクロ波プロフィールメータの開発

研究成果の詳細報告

13

図-4 FM-CW 基板の回路パターン

図-5 FM-CW システムの測定

パルスレーダーでは、矩形波をバンドパスフィルター(BPF)に入力することにより 5-6 GHz の帯域を持つマイクロ波パ

ルス(パルス幅 1ns)を生成し、増幅器、サーキュレーター及びホーンアンテナを通し、被測定物に入射する。被測定物から

の反射パルスは同一のホーンアンテナにより受信され、サーキュレーターにより入射と分離された後に増幅されミキサーに

入力される。またミキサーには同時に空間中を伝播していない LO 側のマイクロ波パルスが入力され、2 つの信号の差周波

が IF 信号として出力される。前述の通り、パルスが入射されて再び受信されるまでの時間は、被測定物までの距離が 15 m

の時に 100 ns と非常に短い。サンプリング方式では 1 回のみのパルスの入射では測定は行わず、複数回のパルスの入射

を行い測定を行う。RF と LO のパルスの生成タイミングが、1 周期おきに 4 ps ずれる事を利用し、受信されたパルスがミキ

サーに入力される時間に LO 側のパルスが同時にミキサーに入力されるタイミングが生ずる。この同時にミキサーに入力さ

れた時のみ IF 信号が生成されるため、数 ns 程度の計測時間を数 ms の測定レンジで計測を行うことが可能となる。すな

わち、サンプリング方式は時間を百万倍程度伸張するのと同様な効果がある。パルスが入射されてからこの受信される時

間を測定することにより、被測定物までの距離を求めることが可能である。この原理に基づいて設計された MIC 基板を図

-6 に示す。このユニットを用いてレーダー機能の実証を行った。

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新方式マイクロ波プロフィールメータの開発

研究成果の詳細報告

14

図-6 パルスレーダー基板の写真.

本システムは既に開発を終え、製品化が行われている。株式会社松島機械研究所により製作され、現在までに 20 シス

テム以上高炉に納められ計測及び制御に用いられている。尚、実際の製品は今回開発された MIC 部分が金属のケース

に収められ、オシロスコープに対応する A/D 変換ボードや FFT 演算を行う DSP ボード部分は、株式会社松島機械研究所

が基板化を担当した。また、アンテナはホーンアンテナを用い、標準形の角錐ホーンおよびゲインが得やすいパラボラアン

テナを用いている。それらの図を図-7 に示した。

図-7 製品化されたマイクロ波レベル計

考 察

プロフィールメータの基本形であるマイクロ波レベル計の主要部(発振部、送受信部、検出部)にマイクロ波集積回路技

術を適用し、これらを基板上形成し、システムのコンパクト化と低価格化を実現することができた。本装置は共同研究機関

である(株)松島機械研究所により製品化されており、初期の目標を達成した。二次元プロフィールメータのためには、イメ

ージングアレイ検出器の搭載と受信回路の多チャンネル化など残された課題があるが、1.2 で進めてきた成果を組み合わ

せることにより原理的には可能と考えている。

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新方式マイクロ波プロフィールメータの開発

研究成果の詳細報告

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成果の発表

口頭発表

招待講演

1. 間瀬淳: 「マイクロ波プロフィールメータの開発と応用」 西日本総合展示場(北九州市), 産学実用化研究成果

発表会, 2004 年 11 月 18 日.

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新方式マイクロ波プロフィールメータの開発

研究成果の詳細報告

16

1. 二次元プロフィールメータのシステム設計と性能評価に関する研究

1.2. 送受信部の設計・製作に関する研究

1.2.1. 高性能イメージングアレイの設計・製作

九州大学産学連携センター・間瀬研究室

間瀬 淳、近木 祐一郎、ブルスキン レオニド

要 約

本研究では新方式マイクロ波プロフィールメータの受信素子であるイメージングアレイ(アンテナと一体となったディテク

ター)の高性能化に関する研究開発を行った。新たなの受信方式を提案し、X 帯(周波数 8-12 GHz)から E 帯(60-90

GHz)の周波数に対応したディテクターの開発をマイクロ波回路シミュレーターを用いて実際に行った。製作されたディテク

ターの受信パターンはガウス状の分布であり、かつ受信感度も非常に高いことから、プロフィールメータにおけるイメージン

グ素子として最適な特性を有することが確認された。

目 的

マイクロ波プロフィールメータにおいて、非測定対象物からの反射波を受信するディテクターは不可欠である。ディテクタ

ーは反射波を受信するアンテナ部及び信号を検出する検波部より構成される。プロフィールメータは測定対象までの距離

のみならず形状の計測も目的としているため、アンテナは前方に強い指向性を持つガウス状の受信パターンをもち、かつ

小型で誘電体基板上にアレイ状に配置可能な事が要求される。また、一般に反射波電力は微弱なため検波部の高感度

化は重要である。本研究はプロフィールメータに最適な上述の特性をもつ X 帯から E 帯のディテクターの開発を目的として

研究開発を行った。

研究方法

はじめに誘電体基板上に実現できるマイクロ波及びミリ波帯のアンテナの選定を受信パターン、指向性及びアンテナの

面積という点で行った。ダイポールアンテナはガウス状の受信パターンを持ち、かつ検波部のショットキバリアダイオードと

の接続に親和性のあることから採用した。ダイポールアンテナは受信するマイクロ波の 4 分の 1 波長の電気長を持つ 2 対

の導体より構成されるため、アンテナの占有面積は微小であり、誘電体基板上に容易にプリントし実現できる。ダイポール

アンテナで被測定物からの高周波(RF)信号及び局部発振器(LO)信号を受信し、ショットキバリアダイオードにより中間周

波数(IF)信号として検波できるが、このときダイオードからの IF 信号はバランス出力のため、一般的な同軸ケーブルを用い

て IF 信号を出力するにはバランが必要になる(引用文献 1 参照)。IF 信号はディテクターの後段で処理が容易なように低

周波の信号なため、基板上でのバランの占有面積は非常に大きくなりアンテナのアレイ配置が困難になる。バランを用い

ない時はディテクターを小型にできるが、アンテナ上の電流分布が理想状態から離れるため、ガウス状の受信パターンを

実現することができない。そこで本研究では新たな方式としてダイポールアンテナを 2 対直交に配置し中心部のギャップに

4 つのショットキバリアダイオードを実装するダブルバランスドミキサアンテナ(DBMA)を提案した。構成図を図-1 に示す。

DBMA 方式は電気的にダブルバランスドミキサと等価であり、IF 出力は非平衡出力であることからバランを使わずに同軸ケ

ーブルで出力することが可能となり、ディテクターの小型化及びアレイ化が達成できる。本研究では X 帯のディテクターを

マイクロ波回路シミュレーターを用いて設計し、基板製作システムを用いて製作を行い DBMA 方式の原理実証及び有用

性の確認を行った。図-2 に測定装置図を示す。製作されたディテクター基板に前後よりピラミッドホーンを用いて LO 及び

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新方式マイクロ波プロフィールメータの開発

研究成果の詳細報告

17

RF 信号を入射し IF 出力をスペクトルアナライザで観測する。LO 信号の強度を-10 dBm から 25 dBm の範囲で変化させ IF

信号の強度からディテクターの感度を見積もった。また、RF の送信ホーンの位置を変化させ、ディテクターの受信パターン

を評価した。続いてより高周波の信号を用いる E 帯の DBMA の開発を同様な手法により行った。

図-1 DBMA の構成図

図-2 DBMA の測定評価システム

研究成果及び考察

図-3 に開発された X 帯ディテクターの感度の LO パワーに対する依存性を示す。LO パワーの増加と共に 5dBm 程度か

らディテクターが動作しはじめ、20dBm 以上の LO パワーを印加したとき感度が飽和する現象が観測された。飽和状態で

は-12dB 程度のディテクターの変換損失であり、DBMA 方式は非常に高い感度を持つことが確認できた。図-4 にディテク

ターの受信パターンを示す。受信パターンは若干のサイドローブがあるものの、基板前面方向に軸対象の強い指向性を

持つことが確認された。DBMA 方式はこのことからプロフィールメータに最適な特性をもつことを実証することができた。

次に E 帯ディテクター評価機の概観を図-5 に示す。本評価機も X 帯ディテクターと同様にマイクロ波回路シミュレータ

ーを用いて設計されたが、回路パターンの線幅等が非常に微小なため日立マクセルの技術である Electro Fine Forming

(EF2)技術により実現されたものである。図 1-2 と同様の動作実証実験を行ったところ図 1-6 に示すように IF 出力が確認

され、E 帯においても DBMA 方式の動作を確認することができた。

考 察

直交型のデュアルダイポールアンテナをもつ新しいイメージングアンテナを設計・製作し、周波数 70 GHz での性能評価

により、アンテナの指向性、変換損失、および RF-LO-IF 間の独立性など、イメージングアレイとしての有効性を実証した。

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新方式マイクロ波プロフィールメータの開発

研究成果の詳細報告

18

図-3 X 帯ディテクターの感度の LO パワー依存性

図-4 ディテクターの受信パターン

図-5 E 帯 DBMA の概観

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新方式マイクロ波プロフィールメータの開発

研究成果の詳細報告

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図-6 E 帯ディテクターの出力確認

引用文献

1. H. Park, C. C. Chang, B. H. Deng, C. W. Domier, A. J. H. Donne, K. Kawahata, C. Liang, X. P. Liang, H. J. Lu, N.

C. Luhmann, Jr., A. Mase, H. Matsuura, E. Mazzucato, A. Miura, K. Mizuno, T. Munsat , Y. Nagayama, M. J. van de

Pol. J. Wang, Z. G. Xia, and W-K. Zhang: 「Recent Advancements in Microwave Imaging Plasma Diagnostics」 Rev.

Sci. Instrum. 74 巻, 10 号, 4239-4262 頁 (2003 年).

成果の発表

原著論文以外による発表(レビュー等)

国内誌(国内英文誌を含む)

1. 長山好夫, 間瀬淳: 「マイクロ波イメージング計測」 J. Plasma Fusion Res. 80 巻, 4 号 〔2005 年〕.

口頭発表

招待講演

1. Y. Kogi and A. Mase: 「Study of High Performance Array Antennas for Millimeter Wave Imaging」 KASTEC,

International Microwave Diagnostic Meeting. 2004 年 3 月 22 日.

2. A. Mase: 「Millimeter-Wave Imaging and Reflectometry on LHD」 Princeton University, US-Japan Microwave

Diagnostics Workshop, 2005 年 3 月 21 日.

一般講演

1. 近木祐一郎、間瀬 淳、工藤光生、松隈正明、マキシム イグナテンコ、長山好夫、川端一男、青井正司、坂田

栄二:「イメージングアンテナの高性能化の研究」, 静岡県コンベンションアーツセンター, プラズマ核融合学会

第 21 回年会, 2004 年 11 月 23 日.

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研究成果の詳細報告

20

1. 二次元プロフィールメータのシステム設計と性能評価に関する研究

1.2. 送受信部の設計・製作に関する研究

1.2.2. 中間周波数(IF)システムの集積化

九州大学産学連携センター・間瀬研究室

間瀬 淳、近木 祐一郎、ブルスキン レオニド

要 約

本研究は新方式プロフィールメータのためのイメージング計測におけるディテクターからの IF 信号を処理する多チャン

ネルの IF サブシステムを、マイクロ波集積回路技術(MIC)を用いて設計・製作した。IF 出力は C 帯(周波数 1-8 GHz)まで

のマイクロ波領域にわたるため、マイクロ波シミュレータを用いて広帯域低雑音増幅器、パワーデバイダ、バンドパスフィル

ターなどの開発を行った。開発された各マイクロ波機能素子の特性はシミュレーション結果と良く一致しており、今後のサ

ブシステム開発へ向けた準備が整った。

目 的

受動的なイメージング計測は、被測定物体からの放射光を受信し、ニ次元平面上のイメージングを行うミリ波帯のディテク

ターアレイ、ディテクターアレイより出力される多チャンネルのIF 信号を分解処理し、二、三次元空間イメージングへ発展させ

る IF システムよりなる(引用文献1 参照)。ディテクターでは後段での信号処理を行い易くするためミリ波帯から C 帯以下に周

波数変換して IF 信号を出力する。ディテクター出力を受信する IF システム内部では IF 信号を分割及び増幅しバンドパスフ

ィルターで周波数を更に選択することにより、径方向の放射位置の特定が実現できる。IF システムの構成図を図-1 に示す。

詳細な空間イメージングを達成するには数百点以上の空間測定点が必要であり、同数の IF 処理のためのチャンネル数が必

要となる。マイクロ波機能コンポーネントを組合わせた IF システムでは装置が大型となり、また高額になるため、本研究では

各機能素子を MIC 技術を用いて誘電体基板上に実現し IF システムの小型化を図るべく研究開発を行った。

図-1 IF システムの構成図

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新方式マイクロ波プロフィールメータの開発

研究成果の詳細報告

21

研究方法

IF システムを構成するパワーデバイダ、広帯域増幅器、バンドパスフィルターの各機能素子をマイクロ波回路シミュレータを

用いて設計し、基板製作システムを用いて製作を行った。評価機の入出力特性をベクトルネットワークアナライザで計測し、シ

ミュレーション結果と比較した。計測された特性とシミュレーション結果の差が最小となるようレイアウトの最適化を図った。

研究成果 図-2 及び図-3 にパワーデバイダの最適化されたレイアウト図、入出力特性のシミュレーション結果との比較を示す。

図-2 パワーデバイダのレイアウト

図-3 パワーデバイダの入出力特性のシミュレーション結果との比較

シミュレーション結果と実測値は若干の誤差があるものの良く一致した。得られたパワーデバイダの特性は2GHz から

6GHz までの広い帯域にわたり、バランス良く信号を分割できることを確認した。

次に図-4 及び図-5 に中心周波数 2.5GHz、帯域 400MHz で設計されたバンドパスフィルターのレイアウト図及びフィル

タ特性のシミュレーション結果との比較を示す。

図-4 バンドパスフィルターのレイアウト

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研究成果の詳細報告

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図-5 バンドパスフィルターの入出力特性のシミュレーション結果との比較

図に示すようにシミュレーション結果と実測地は非常に良く一致した。通過帯域における低い挿入損失及び阻止帯域に

おける急峻な信号の減衰が実現され、空間の 3 次元計測時における多チャンネル化に有効であることが確認された。図-1

に示される他の周波数帯域のバンドパスフィルターも同様な手法により開発することに成功した。

図-6 及び図-7 に広帯域増幅器のレイアウト、計測された入出力特性を示す。

図-6 広帯域低雑音増幅器のレイアウト

図-7 広帯域増幅器の入出力特性

IF システムで用いる 2-6 GHz の広い帯域にわたり発振することなく増幅できていることが確認できた。今後、これらの

開発されたマイクロ波機能素子を一体化し、多チャンネルシステムの構築を行う予定である。

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新方式マイクロ波プロフィールメータの開発

研究成果の詳細報告

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考 察

アクティブイメージング(イメージングレーダー)の実現のため、受信部の多チャンネル化は、システム全体のコンパクト化お

よび低価格化には不可欠となる。本課題については、平成16年度より研究を開始しており、現時点では最適化が実現してい

ない。現在も重点的に研究を進めており、早い時期に基板の決定と、多チャンネルシステムの構築が実現すると考えている。

引用文献

1. H. Park, C. C. Chang, B. H. Deng, C. W. Domier, A. J. H. Donne, K. Kawahata, C. Liang, X. P. Liang, H. J. Lu, N.

C. Luhmann, Jr., A. Mase, H. Matsuura, E. Mazzucato, A. Miura, K. Mizuno, T. Munsat , Y. Nagayama, M. J. van de

Pol. J. Wang, Z. G. Xia, and W-K. Zhang: 「Recent Advancements in Microwave Imaging Plasma Diagnostics」 Rev.

Sci. Instrum. 74 巻, 10 号, 4239-4262 頁 (2003 年).

成果の発表

口頭発表

招待講演

1. A. Mase: 「Millimeter-Wave Imaging and Reflectometry on LHD」 Princeton University, US-Japan Microwave

Diagnostics Workshop, 2005 年 3 月 21 日.

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研究成果の詳細報告

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1. 二次元プロフィールメータのシステム設計と性能評価に関する研究

1.3. 電磁波伝播の計算機シミュレーション

1.3.1. 新しい計算機コードの開発とアクティブイメージングへの適用

九州大学産学連携センター・間瀬研究室、筑波大学数理物質研究科*

間瀬 淳、ブルスキン レオニド、北條 仁士*

要 約

近年の計算機性能の進歩に伴い、種々の分野における計算機シミュレーションの重要性が高まっている。本研究では、

新方式マイクロ波プロフィールメータ、すなわち、アクティブイメージング計測をシミュレーションする新しい計算機コードの

開発を進めた。電磁波伝播シミュレーションのためマクスウェル方程式を有限差分時間領域法により解き、入射光源から被

測定物体に到達するまでの真空中の解析解と併用することにより、実験条件と対応する空間分解を維持しつつ計算時間

の短縮を実現した。

目 的

電磁波伝播の二次元・三次元シミュレーションを実行するための効率の良い計算機コードを開発し、実験をシミュレーシ

ョンし新方式マイクロ波プロフィールメータの設計・製作を実現していくための指針を与えること。特に、アクティブなイメー

ジングレーダー、すなわち、イメージング反射計のシミュレーションを実行し、従来形レーダー(反射計)との比較検討により、

その有効性を実証していくことを目的とする。

研究方法

真空中およびプラズマ中における電磁波の伝播は,マクスウエル方程式

, EHE

EH

σ−×−∇=∂

∂×−∇=

tt (1)

を解くことにより得られる。マクスウエル方程式の二次元・三次元解を得る計算機コードとして現在最も利用されているのは、

有限差分時間領域(Finite-Difference Time-Domain: FDTD)法と呼ばれている技法である。計算機の進歩と高速化により、

実験条件をほぼ再現するシミュレーションが可能となっているが、特に波長の短いミリ波領域(1-4 mm)を用いる場合、計

算の空間ステップを波長の 1/10、すなわち 0.1-0.4 mm とすると、計算空間が実験に近い>1 m の場合、相当な計算時間

(~10 時間)が必要となる。本研究では、これを解決するため、媒質と電磁波の相互作用が重要な領域は FDTD 計算を実

行し、実験の大半を占めるそれ以外の領域では、解析的に解き両者を整合させることにより計算時間の短縮を試みた。

研究成果

アクティブイメージングの理論計算例として、本研究では磁場閉じ込めプラズマにおけるイメージング反射計の計算機シ

ミュレーションを実行した。反射計は、カットオフ密度層からの反射を解析することによりカットオフ層の位置やその時間・空

間変位を測定し、プラズマの密度分布や密度揺動の分布を得るものである。核融合実験プラズマでは,プラズマのカットオ

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新方式マイクロ波プロフィールメータの開発

研究成果の詳細報告

25

フ周波数は 70-140 GHz(波長 2-4 mm)に分布しており、プラズマの大きさも半径>1 m を持つことが多い。プラズマ中の伝

播計算を全て FDTD 法を用いて計算すると前述の様に非常な計算時間を要することになる。ここで、周辺部の薄いプラズ

マ領域ではWKB近似(引用文献 1 参照)を用いることができるため、解析解を利用することができる。したがって、真空中

の解析解,周辺の薄いプラズマ領域では WKB 近似による解,カットオフ密度層近傍の FDTD 法による数値解を組み合わ

せることにより計算時間を大幅に短縮することができる。

イメージング反射計の特性を明らかにするため、密度揺動をもつ円筒プラズマを模擬し、波形表面を持つ金属円筒を反

射面とするモデル計算を行った。従来形反射形(Conventional system)と準光学結像系(レンズ)をもつイメージング反射

形(Two-lens system)について、金属表面と反射波位相の間の相互相関関数を反射面からの距離に対してプロット

したものを図-1 に示す。位置 80 および 230 における赤いラインは準光学レンズを示している。従来型反射計では反射

面から離れると揺らぎの情報が直ちになくなるが、イメージング反射計では、対物レンズの焦点面において揺ら

ぎの情報が得られることが検証された。

図-1 種々の反射計について、金属表面と反射波位相の間の相互相関関数を反射面からの距離に対してプロット

軸対称性を有する磁場閉じ込めプラズマに対して、従来形反射計とイメージング反射計の両者に対し同様な計

算を行った。イメージング反射計において、光源からプラズマ、プラズマ中、およびプラズマから受信点までの各部

における電磁波伝播の様子を図-2 に示す。二タイプの反射計を比較した結果、反射面の波動の波数が入射マイク

ロ波の波数と比較して十分小さい場合か揺動レベルが小さい(4 % 以下)場合にはいずれの反射計も波動を忠実

に反映するが,波数が同程度になるか揺動レベルが大きくなるとイメージング反射計に優位性が現れる。また、対物

レンズの口径が大きくなるに従い,揺動を良く反映するようになることが示された。

図-2 マイクロ波イメージング反射計各部における電磁波伝播の様子(右上:入射

波の解析解、右下:反射波の解析解、左:プラズマ中の FDTD 数値解)

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新方式マイクロ波プロフィールメータの開発

研究成果の詳細報告

26

考 察

マクスウエル方程式に有限差分時間領域法(FDTD)法を用いた数値解析解と真空中の解析解を整合させることにより、

新しい計算機コードを開発し、アクティブイメージングシステムに適用し結果を得ることができた。本研究成果は、種々の分

野を対象とした、今後の電磁波伝播シミュレーション解析の進展に貢献するものと考えている。

引用文献

1. L. G. Bruskin, A. Mase, T. Tamano, and K. Yatsu: 「Application of One-Dimensional Wentzel-Kramers-Brillouin

Application in Microwave Reflectometry of Plasma Density Profiles」 Rev. Sci. Instrum. 69 巻, 5 号, 2184-2185 頁

(1998 年).

成果の発表

原著論文による発表

国内誌(国内英文誌を含む)

1. M. Ignatenko, A. Mase, L. Bruskin, Y. Kogi, and H. Hojo: 「Microwave Imaging Reflectometry of Corrugated

Metal Targets」 J. Plasma Fusion Res. 80 巻, 2 号, 87-89 頁 (2004 年).

国外誌

1. M. Ignatenko, A. Mase, L. G. Bruskin, Y. Kogi, and H. Hojo: 「Effects of Asymmetry and Target Location on

Microwave Imaging Reflectometry」 Rev. Sci. Instrum. 75 巻, 10 号, 3810-3812 頁 (2004 年).

2. M. Ignatenko, A. Mase, L. Bruskin, Y. Kogi, and H. Hojo: 「Numerical Study of Microwave Imaging

Reflectometer for a Tandem Mirror Device」 Trans. Fusion Sci. Tech. 47 巻, 1T 号, 183-186 頁 (2005 年).

原著論文以外による発表(レビュー等)

国内誌(国内英文誌を含む)

1. 長山好夫, 間瀬淳: 「マイクロ波イメージング計測」 J. Plasma Fusion Res. 80 巻, 4 号 〔2005 年〕.

口頭発表

招待講演

1. M. Ignatenko, A. Mase, L. Bruskin, Y. Kogi, and H. Hojo: 「Numerical Study of Microwave Imaging

Reflectometer for a Tandem Mirror Device」 The 5th International Conference on Open Magnetic Systems for

Plasma Confinement,Novosibirsk, 2004 年 7 月.

2. A. Mase: 「Millimeter-Wave Imaging and Reflectometry on LHD」 Princeton University, US-Japan Microwave

Diagnostics Workshop, 2005 年 3 月 21 日.

一般講演

1. IGNATENKO Maxim, 間瀬淳, BRUSKIN Leonid, 近木祐一郎, 北條仁士: 「Simulation Study of Microwave

Imaging Reflectometry」 茨城県民文化センター, プラズマ・核融合学会第 20 回年会, 2003 年 11 月 28 日.

2. M. Ignatenko, A. Mase, L. Bruskin, and Y. Kogi: 「Effects of Asymmetry and Target Location on Microwave

Imaging Reflectometry」 The 15th Topical Conference on High-Temperature Plasma Diagnostics, San Diego, 2004

年 4 月.

3. IGNATENKO Maxim, 間瀬淳, BRUSKIN Leonid, 近木祐一郎, 北條仁士, PAVLICHENKO Rostislav, 川端一

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新方式マイクロ波プロフィールメータの開発

研究成果の詳細報告

27

男, 長山好夫: 「Simulation of Microwave Reflectometry with Optical System for Plasma Measurements」 プラズ

マ・核融合学会第 21 回年会,静岡県コンベンションアーツセンター, 2004 年 11 月 25 日.

4. PAVLICHENKO Rostislav, 長山好夫, 川端一男, IGNATENKO Maxim, 近木祐一郎、間瀬淳: 「Application of

Microwave Imaging System for Density Fluctuation Measurements on Large Helical Device」 プラズマ・核融合学

会第 21 回年会,静岡県コンベンションアーツセンター, 2004 年 11 月 25 日.

5. IGNATENKO Maxim, 間瀬淳, BRUSKIN Leonid, 近木祐一郎, PAVLICHENKO Rostislav, 川端一男, 長山好

夫, 北條仁士: 「光学システムを備えたマイクロ波反射計の数値モデルによるプラズマ計測」 九州大学, プラズ

マ・核融合学会 九州・沖縄・山口支部大会, 2004 年 12 月 3 日.

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新方式マイクロ波プロフィールメータの開発

研究成果の詳細報告

28

1. 二次元プロフィールメータのシステム設計と性能評価に関する研究

1.3. 電磁波伝播の計算機シミュレーション

1.3.2. 異物混入検査に関するシミュレーション研究

筑波大学大学院数理物質科学研究科,九州大学産学連携センター*

北條 仁士、間瀬 淳*

要 約

本研究では、被検査物体に電磁波を照射してその散乱波の散乱角依存性を測定することによって中に異物が混入され

ているか否かを判別する手法の開発を目的とした、電磁波照射に関する時間領域差分法を用いたマクスウェル方程式の

計算機シミュレーションを行い、被検査物体中に異物の有り無しで電磁波の散乱波の自己相関関数が大きく異なっている

ことが明らかになった。

目 的

本研究では、計算機シミュレーションを利用して、被検査物体中に異物が混入されているか否かを電磁波照射によって

判別する新たな手法の研究開発を行う。

研究方法

本研究では、電磁波の伝搬を記述するマクスウェル方程式を時間領域差分(FDTD)法と呼ばれる数値計算スキームを

用いて計算機シミュレーションするという手順で行った。

研究成果

ここでは、試料物体への電磁波照射において中にミリ単位の微小物体がある場合と無い場合とでは電磁波の散乱現象

にどのような影響が現れるのかに関する、計算機シミュレーションによる解析結果について報告する。照射する電磁波の周

波数は 70GHz であり、真空中の波長は約 4.3mm である。微小物体のサイズも電磁波の波長に同程度の数 m であると仮定

する。電磁波の波長が散乱体のサイズと同程度である場合の電磁波の散乱現象はミー散乱と呼ばれている。より周波数の

低い領域での電磁波散乱はレイリー散乱と呼ばれ、より長波長のレイリー散乱領域とより短波長領域の幾何光学散乱の中

間領域にある。

計算機シミュレーションのための基礎方程式はマクスウェル方程式であり、電磁場 E、H は

(1)

(2)

で記述される。ここで、µ は透磁率、εr は誘電率の実部、σ は電気伝導率である。電気伝導率は誘電率の虚部と関係している。空

気中では真空中の誘電率と透磁率の値:µ =µ0、ε =ε0 を仮定する。電磁波の周波数をω とすると、誘電率の虚部εI と電気伝導率

σ の間にはεI = σ/ω の関係がある。ここでは、試料物体や異物としての微小散乱体はその誘電率で特徴付けられると仮定する。

1t µ

∂= − ∇ ×

∂H E

r r

1t

σε ε

∂= ∇ × −

∂E H E

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新方式マイクロ波プロフィールメータの開発

研究成果の詳細報告

29

20( , ) exp sin( )y

z zE z t t

− = −

半径 4cm の試料 φ = 30º 異 物 無 中心に異物無し

φ = 30º φ = 60º φ = 60º 異 物 有 中心に異物(半径 1.5mm)有り

図-1 電磁波散乱シミュレーションにおける散乱波形のスナップショット(上段:異物無、下段:異物有り)

試料物体への電磁波照射に関する FDTD 法を用いた2次元シミュレーションの結果の一例を図-1 に示す。シミュレーシ

ョンボックスは長方形であり、下側境界(x=0)から電磁波を入射する。他の3境界に対しては、Murk の2次の吸収境界条

件を課している。x=0 の境界で入射する電磁波は

(3)

で与えられる(L = 3cm を仮定する)。中に置かれた試料の半径は 4cm であり、図-1 において上段は異物が無い場合の

電磁波の散乱波形のスナップショットであり、下段は半径 1.5mm の異物がある場合の散乱波形のスナップショットである。こ

こで、試料の平均誘電率は、ε/ε0 = 2.0 を、また異物としての微小散乱体の誘電率はε/ε0 = 10+10i を仮定している。図

-1 から分かるように、試料の空間不均一性を考慮して試料の誘電率に縦横で周期の異なる誘電率の周期的微小変動を

取り入れている。図-1 の右図が試料の誘電率の不均一性の様子を示している。従って、試料に対してどの方向から電磁

波を照射するかで散乱波の波形が異なってくる。図-1 には、二つの異なる照射角度φ = 30ºとφ = 60ºの場合の散乱波形

の様子が示されている。電磁波の散乱波形が照射角度の角度によって異なっていることは図から明らかである。また、試

料の中に異物がある場合と無い場合との散乱波形の違いも明らかである。異物がある場合には異物による散乱も重畳され

るので、散乱波形はより複雑なものとなっている。図-2 には、照射角度φ = 30ºとφ = 60ºの場合の透過波の振幅の計測角

度(θ)依存性を示している。θ = 90º が丁度直進波の信号に対応している。図-2 において青色の波形が異物が無い場合

で、赤色の波形が異物有りの場合である。異物がある場合、異物の存在によって前方散乱の信号が小さくなって、その代

わりに横方向への散乱信号が大きくなっていることが図から明らかである。試料への異なる照射角度 φ に対しても図2と同

様の結果が得られている。

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新方式マイクロ波プロフィールメータの開発

研究成果の詳細報告

30

E(θ) φ = 30º E(θ) φ = 60º

図-2 異物有り無しでの散乱振幅の角度依存性(青:異物無し、赤:異物有り)

次に、異物の存在による電磁波の散乱波形の相違を詳細に評価するために、ここで電磁波の散乱波形に対する自己

相関関数を計算してみる。電磁波の散乱波形は試料への照射角度 φ によって異なることから、ここでは照射角度 φ で平

均化した散乱波の振幅<E(θ)>を導入する。平均化振幅<E(θ)>は色々な照射角度での平均値

(4)

で定義される。この<E(θ)>を用いて自己相関関数

(5)

を定義する。図-3 に図-2 等のシミュレーション結果を用いた自己相関関数の計算結果を示す。青色曲線が試料に異物が

無い場合であり、緑色曲線が異物が無い場合でしかも試料の誘電率の微小変動を無視した場合である。緑色曲線は青色

曲線をよりなめらかにした曲線になっていることが図から分かる。一方、赤色曲線は異物がある場合であり、前方散乱に対

応するθ = 0 近傍の値は異物が無い場合の値より小さくなっているが、それ以外は散乱角θ の広い範囲にわたって異物が

無い場合の値より大きくなっていることが分かる。即ち、異物の有り無しで電磁波の散乱波振幅の自己相関関数に大きな

差が出ている。このことは,計測データから自己相関関数を評価することで試料中の異物の有り無しを判定できる可能性を

示している。

1

1( ) ( , )N

ii

E EN

θ θ φ=

< >= ∑

0

1( ) ( ) ( ) dF E x E x xπ

θ θπ

< >= < >< + >∫

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新方式マイクロ波プロフィールメータの開発

研究成果の詳細報告

31

異物有り

異物無し

異物無し(試料の誘電率 の変動が無い場合)

図-3 異物有り無しの場合の散乱波振幅の自己相関関数<F(・)>(青:異物無し、赤:異物有り)

考 察

本研究では、試料中の異物の有り無しを電磁波の散乱波信号データから求められる自己相関関数の特性の違いから

判定する可能性について論じた。この場合試料、及び異物を誘電体で置き換えて適当な誘電率を仮定している。試料の

中身が均一である場合には問題ないが、不均一である場合にはどのような誘電率の空間分布を仮定すればよいのかが分

からない。例えば、カップラーメンのような乾燥麺を試料とした場合、これに対してどのような誘電率の空間分布を仮定すれ

ばよいのかが分からず、現実性のあるシミュレーションモデルの構築が今後の課題である。

成果の発表

原著論文以外による発表(レビュー等)

国内誌

1. 北條仁士、西依幸一郎、近木祐一郎、L. Bruskin、間瀬淳 :「ミリ波非破壊検査システムの開発とシミュレーショ

ン研究」 超高速高周波エレクトロニクス実装研究会論文集, .4 巻, 1 号, 1-6 頁 (2004 年).

口頭発表

招待講演

1. 北條仁士、西依幸一郎、近木祐一郎、L. Bruskin、間瀬淳 :「ミリ波非破壊検査システムの開発とシミュレーショ

ン研究」 東京回路会館, 超高速高周波エレクトロニクス実装研究会, 2004 年 5 月 27 日.

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新方式マイクロ波プロフィールメータの開発

研究成果の詳細報告

32

1. 二次元プロフィールメータのシステム設計と性能評価に関する研究

1.3. 電磁波伝播の計算機シミュレーション

1.3.3. ファブリー・ペロー干渉法を用いた薄膜物質計測法

筑波大学大学院数理物質科学研究科、九州大学産学連携センター*

北條 仁士、間瀬 淳*

要 約

本研究では、被検査物体をエタロンとして有するファブリー・ペロー干渉計を考え、これに電磁波を照射して電磁波が共

鳴的に透過できる共鳴周波数を観測することによって、被検査物体としてのエタロンの誘電率や物性定数を決定するとい

う新しい薄膜物質計測法を考案した。この新手法によって、シートプラズマ中の電子密度、半導体薄膜や金属フィルム中

の伝導電子密度、フィルムの膜厚等をミリ波からテラヘルツ帯の周波数領域でもって精度良く決定することが可能であるこ

とが明らかになった。

目 的

本研究では、ファブリー・ペロー干渉法を利用して、被検査物体としてのエタロンの誘電率や物性定数を電磁波の透過

に関する共鳴周波数の測定から求めるという新しい計測手法の研究開発を行う。

研究方法

本研究では、被検査物体をエタロンとして有するファブリー・ペロー干渉計の理論モデルを構築し、電磁波の伝播を記

述する波動方程式を解析的に解くことによって透過率を計算し、透過率における共鳴周波数からエタロンの誘電率や物

性定数を決定するという手順で行った。

研究成果

ファブリー・ペロー干渉計は現在波長フィルターやモード選択器として広く用いられているが、物性定数の分かっている

エタロンを用いてファブリー・ペロー共鳴を利用して入射波の波長をセレクトしている。ここでは逆の発想をして、ファブリ

ー・ペロー干渉計を物質計測に利用することを考える。いまエタロンを未知試料と考えると、ファブリー・ペロー共鳴によっ

てエタロンの試料を透過してくる電磁波や光の周波数を直接計測することによって逆にエタロンの誘電率ε(ω) を決定でき

ることが分かる。もしエタロンの誘電率ε(ω) がドルーデモデル等でうまく近似できる場合、この誘電率ε(ω) の計測から電

子プラズマ周波数、そして伝導電子の密度等を求めることが可能となる。本研究では、例として図1に示すようなシートプラ

ズマをエタロンとして用いたファブリー・ペロー干渉計を考え、透過波の計測によるファブリー・ペロー共鳴周波数の測定か

らプラズマの電子密度を求める手法について報告する。本手法は、シートプラズマに限らず半導体薄膜や金属フィルム中

の伝導電子の密度計測にも適用することが可能である。

図-1に示すファブリー・ペロー干渉計は、二つの過密度シートプラズマとその間に挟まれた誘電体物質(εa)とで構成されてい

る。ここでは簡単のため、各シートプラズマを閉じ込めている容器は非常に薄く、かつ電磁波に対して透明であると仮定して無視

する。プラズマの誘電率がよく用いられるドルーデモデルでもって近似できると考える。ただし、プラズマ中での電磁波の散逸効

果はここでは無視して考える。このとき、ファブリー・ペロー干渉計を透過する電磁波は以下の波動方程式で記述される。

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新方式マイクロ波プロフィールメータの開発

研究成果の詳細報告

33

図-1 ファブリー・ペロー干渉計の理論モデル

, (1)

(2) ここで、k = ω/c であり、プラズマ振動数ωpe はプラズマ密度を n としてωpe = (e2n/ε0m)1/2 で定義される。また、εcore は、シー

トプラズマや金属フィルム(プラズマ)に対してはεcore = 1 であり、半導体薄膜(プラズマ)に対しては価電子帯の電子密度に

比例した量になっている。例えば、GaAs ではεcore = 13.13 となっている。本モデルは、前回報告した物理モデルを半導体

薄膜や金属フィルムに適用できるように拡張したモデルになっている。微分方程式(1)を解析的に解くことによって、このファ

ブリー・ペロー干渉計における電磁波の透過率 T を求めることができる。また同時に、ファブリー・ペロー共鳴の特性につい

ても詳細に解析することができる。

以下では、先ず GaAs の半導体薄板プラズマに対して適用した結果について述べる。間に挟む誘電体として、クオーツ

(εa = 4)を仮定する。電磁波の透過率 T と周波数ω との関係を図-2 に示す。計算に用いたパラメータは、ωpeL/c = 20、

また h/L = 0.01、0.1、0.3 である。h/L が大きくなるに従ってファブリー・ペロー共鳴が鋭くなっていくことが分かる。ファブ

リー・ペローの第1共鳴を利用して、パラメータ h/L = 0.1、L = 1mm の場合に対して得られる半導体薄膜プラズマ中の電

子密度 nc と周波数ω との関係を図-3 に示す。この場合マイクロ波、ミリ波帯の共鳴周波数に対応して、1013-16cm-3 台の電

子密度を計測することが可能であることが分かる。

22

2d ( , ) ( ) 0d

k z E zz

ε ω

+ =

2pe

core

a2

pecore

1 , 0

, 0

( , ) ,

, 2

1 , 2

z

z h

z h z h L

h L z h L

z h L

ωε

ω

ε ω ε

ωε

ω

<

− ≤ ≤

= < < +

− + ≤ ≤ +

> +

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新方式マイクロ波プロフィールメータの開発

研究成果の詳細報告

34

図-2 半導体薄膜を用いたファブリー・ペロー干渉計における電磁波の透過率 T と周波数ω の関係

図-3 半導体薄膜(プラズマ)中の伝導電子密度 nc と第1共鳴周波数ω との関係

次に、金属フィルム中の固体プラズマ(伝導電子プラズマ)に対して適用した結果について報告する。間に挟む誘電体と

して、前と同様にクオーツ(εa = 4)を仮定する。電磁波の透過率 T と周波数ω との関係を図-4 に示す。計算に用いたパラ

メータは、ωpeL/c = 1000、h/L = 0.001、0.0001 である。h/L が大きくなるに従って前と同様にファブリー・ペロー共鳴が鋭

くなっていくことが分かる。このファブリー・ペローの第1共鳴を利用して、パラメータ h/L = 0.0001、L = 0.1mm の場合に

対して得られる金属フィルム中の伝導電子密度 nc と周波数ω との関係は図-5 のようになる。この金属フィルムの場合には、

サブミリ波帯の共鳴周波数に対応して、1019-22cm-3 台の伝導電子密度を計測することが可能であることが分かる。 また、逆に金属薄膜中の伝導電子密度が分かっているとすると、ファブリー・ペロー第1共鳴周波数ω を測定することに

よって金属薄膜の厚さ h を決定することも可能である。図-6 は、伝導電子密度が nc = 1022cm-3 であると仮定して、金属

薄膜の厚さ h とファブリー・ペロー第1共鳴周波数ω の関係を求めたものである。青色曲線が L = 10µm の場合で、赤色

曲線が L = 20µm の場合である。この場合ファブリー・ペロー第1共鳴周波数はテラヘルツ帯になり、h = 0.01~0.1µm 領

域は精度良く決定できるが、h = 0.1µm を超えると計測は難しくなることが図から予想される。

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新方式マイクロ波プロフィールメータの開発

研究成果の詳細報告

35

図-4 金属フィルムを用いたファブリー・ペロー干渉計における電磁波の透過率 T と周波数ω の関係

図-5 金属フィルム(プラズマ)中の伝導電子密度 nc と第1共鳴周波数ω との関係

考 察

本研究では、ファブリー・ペロー干渉法を利用して、薄膜物質の誘電率や物性定数を精度良く計測することのできる手

法を新たに考案した。本手法を用いて、シートプラズマの電子密度、半導体薄膜や金属フィルム中の伝導電子密度をファ

ブリー・ペロー共鳴周波数の測定から精度良く測定できることが分かった。伝導電子密度が既知である金属フィルムの場

合には、サブミクロン以下の金属フィルムの膜厚を測定することも可能である。また、共鳴周波数を二つ以上同時に計測す

ることによって薄膜物質の物性定数を二つ以上同時に計測することも原理的には可能であることが分かった。

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新方式マイクロ波プロフィールメータの開発

研究成果の詳細報告

36

図-6 金属薄膜の厚さ h と第1共鳴周波数ω との関係(金属フィルム中の伝導電子密度は既知とする)

成果の発表

原著論文による発表

国内誌(国内英文誌を含む)

1. H. Hojo, K. Akimoto, and A. Mase:「Reflectionless Transmission of Electromagnetic Wave in One-Dimensional

Multi-Layer Plasmas」, J. Plasma Fusion Res. 80 巻, 177-178 頁 (2004 年).

2. H. Hojo and A. Mase:「A New Method of Electron Density Measurement by Fabry-Perot Interferometry」, J.

Plasma Fusion Res. 80 巻, 358-359 頁 (2004 年).

原著論文以外による発表(レビュー等)

1. 北條仁士, 間瀬淳: 「過密度プラズマを利用したファブリー・ペロー干渉計」, Optics Japan 2003, 230-231 頁

(2003).

2. 北條仁士, 間瀬淳: 「ファブリー・ペロー干渉法を用いた薄膜物質計測」, Optics Japan 2004, 330-331 頁

(2004).

口頭発表

応募・主催講演等

1. 北條仁士, 間瀬淳: 「過密度プラズマを利用したファブリー・ペロー干渉計」アクトシティ浜松, 日本光学会年

次学術講演会, 2003 年 12 月 9 日.

2. 北條仁士, 間瀬淳: 「ファブリー・ペロー干渉法を用いたプラズマ密度計測法」 東北学院大学, 第65回応用

物理学会学術講演会, 2004 年 9 月 3 日.

3. 北條仁士, 間瀬淳: 「ファブリー・ペロー干渉法を用いた薄膜物質計測」 大阪大学, 日本光学会次学術講演

会, 2004 年 11 月 5 日.

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新方式マイクロ波プロフィールメータの開発

研究成果の詳細報告

37

1. 二次元プロフィールメータのシステム設計と性能評価に関する研究

1.4. 試作品の性能評価

1.4.1. 試作されたマイクロ波レベル計の性能評価

九州大学産学連携センター・間瀬研究室

間瀬 淳、近木 祐一郎

要 約

マイクロ波集積回路技術(MIC)により設計・製作を行った新型マイクロ波レベルの機能テストを実施した。この機能評価

に基づき改良設計を進め、基板加工装置を用いて随時製作することにより、迅速かつ効率よく最適化をすすめることが可

能であった。レベル計としての空間分解は 2 cmであり、実用上支障がないことが検証された。

目 的

本研究では、プロフィールメータの要素である、アンテナ系、受信回路をマイクロ波集積回路技術(MIC および MMIC)

により設計・製作することを主要目的の一つとしている。本課題では、九州大学のグループが設計した平面アンテナアレイ、

および送受信回路を、それぞれ九州日立マクセル(株)および(株)松島機械研究所で製作したのち、評価設備の整った

九州大学で性能評価を行い、改良に資することを目的としている。

研究方法

機能テストは、FM-CW(周波数掃引形)レーダーおよびパルスレーダーの両者に対して実施した。主として電波暗室内に試

作品を持ち込み、ベクトルネットワークアナライザを用いて種々の周波数に対して伝播パラメータ測定を行うことで評価した。

研究成果

ホーンアンテナから鉄板ターゲットまでの距離が 2 m の時にオシロスコープにより観測された IF信号を図-1に示す。図

中には三角波の信号と正弦波状の信号の 2種類あるが、三角波の方は図 2 の LO側の発振周波数に対応し、正弦波状

の信号が IFである。図から IF信号は 2種類の周波数の信号で構成されていることが分かるが、遅い周波数の信号はホー

ンアンテナ前面での反射波に対応し、早い周波数の信号は鉄板ターゲットからの反射波信号にそれぞれ対応している。ホ

ーンからターゲットまでの距離を変化させながら、IF 信号を観測し FFT 解析を行い、得られる周波数を距離に換算する。

特定の点を基準とした実験の距離を横軸に換算された距離を縦軸にプロットしたものを図-2 上に示す。グラフ上に同時に

引かれた線はデータに対するフィッティング直線を表している。図に示すとおり、現実の距離と計算された距離が完全に線

形関係にあることが確かめられた。本実験時における誤差をフィッティング直線と換算された距離の差として定義したとき、

図-2 下に示すように±2 cm 以内の精度で距離が測定できることが確かめられた。理想的な精度の下限は測定に用いる

マイクロ波の波長(本実験では約 3 cm)程度であり、本システムは十分な精度で計測できていると考えられる。

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新方式マイクロ波プロフィールメータの開発

研究成果の詳細報告

38

図-1 IF信号の検出

図-2 上:位置測定の実験値と計算値の比較、下:FM-CWレーダーの周波数分解

パルスレーダーでは、FM-CW の時と同様に鉄板ターゲットを用いてアンテナからの距離を変えながら出力信号をオシ

ロスコープで観測した。観測された信号を図-3 に示す。5 つのグラフの右上にアンテナからターゲットまでの距離が示され

ている。全ての波形に二つのパルス状の信号が観測されていることが分かる。中心にある信号がホーン前面で反射してき

たパルス信号であり、右側の信号がターゲットで反射した信号である。ターゲットまでの距離に比例して、2つのパルス間の

時間が長くなっていることが確かめられ、システムの有用性が実証された。

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新方式マイクロ波プロフィールメータの開発

研究成果の詳細報告

39

図-3 パルスレ-ダー方式鉄板ターゲット測定結果(測定レンジ:2 ms/div、50 mV/div)

考 察

システムの主要要素をマイクロ波集積回路で設計し、株式会社松島機械研究所で製作された試作品の性能評価を行っ

た結果、当初の仕様を満足する空間分解が得られ、実用化が可能であることを示すことができた。

成果の発表

原著論文以外による発表(レビュー等)

外国誌

1. A. Mase: 「Microwave Diagnostics and Application」 Proc. 2nd Japan/Korea Seminar on Advanced Diagnostics for Steady-State Fusion Plasma, 381-396頁 (2004年).

口頭発表

招待講演

1. A. Mase: 「Microwave Diagnostics and Application」 Invited Lectures, Summer School for Diagnostics for Fusion Plasmas, Taejeong, Korea, 2004年 8月27日.

2. 間瀬淳: 「マイクロ波プロフィールメータの開発と応用」 西日本総合展示場(北九州市), 産学実用化研究成果

発表会, 2004年 11月 18日.

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新方式マイクロ波プロフィールメータの開発

研究成果の詳細報告

40

1. 二次元プロフィールメータのシステム設計と性能評価に関する研究

1.4. 試作品の性能評価

1.4.2. 超短パルスレーダーの試験

九州大学産学連携センター・間瀬研究室

間瀬 淳、近木 祐一郎、ブルスキン レオニド

要 約

アクティブイメージングシステムの入射光源として現在注目されている、超短パルス波を用いたレーダー(反射計)の特性

を調べるため、反射計システムを組み立てた。周波数領域がマイクロ波~ミリ波に分布しているため、磁場核融合プラズマ

を被測定対象として選択し、核融合科学研究所の大型ヘリカル装置(LHD)に適用し測定実験を行った。核融合科学研究

所と九州大学の間は超高速ネットワーク・スーパーSINET で結ばれており、この専用線を利用した遠隔実験が可能となって

おり、当該研究室にて実験参加ができるようになっている。

目 的

超短パルスを用いた計測装置は、計測結果に大きな情報をもたらす超広帯域(Ultra Wide Band: UWB)システムとして

注目を浴びている。本研究は、超短パルスをレーダー(反射計)光源に用い、従来の FM-CW レーダーあるいはパルスレ

ーダーと比較検討を行うことを目的とした。計測システムの接近性が困難になりつつある磁場核融合実験において反射計

測定の重要性が一層認識されている。本研究では,超短パルス反射計を LHD に適用し、実用性を検証することを目的と

している。超短パルス反射計により,LHDプラズマ周辺領域での密度勾配の存在,アイランド構造(径方向構造),ポロイダ

ル方向の構造を明らかにできる可能性がある。

研究方法

LHD に適用した超短パルス反射計装置とスーパーSINET を用いた遠隔実験システムの構成を図-1 に示す。本体地下

シールドボックス内に設置されているインパルス発生器からの超短パルス波(22 ps,3V)は,WRD-750導波管(帯域 7-20

GHz)により低周波成分がカットされると共に,導波管の分散特性によりチャ-プ化されたパルスとなる。これを 14 mの低損

失同軸ケーブルにより LHD 本体近傍まで伝送され,アクティブダブラーで逓倍された後さらにマイクロ波パワーアンプ

(26-40 GHz,30 dB)で増幅されたものを入射波として用いている。反射波信号は,同じ同軸ケーブルでシールドボックスま

で伝送されるが伝送損失を補償するため前後でマイクロ波低雑音アンプを使用している(26-40 GHz,28 dB)。信号波形

は周波数帯域 50 GHzの高速サンプリングスコープにより直接記録し,Signal Record Analysis (SRA)法(引用文献 1参照)

により解析される。本システムに関連して,平成 14 年度末にスーパーSINET を利用した遠隔実験システムが整備され,九

州大学から機器設定や信号収集が可能となっている。

研究成果

サンプリングスコープは波形のSN比を上げるため,積分を行っている。従って,本システムに入ることが可能な周波数領

域(26 GHz 以上)でノイズが混入すれば,波形の同定が困難となる。このようなノイズとしては,他の反射計信号や加熱マ

イクロ波が考えられ,それら周波数成分を抑制するためノッチフィルターを導入した。また,遠隔実験システムを発展させ,

反射計送受信アンテナの回転駆動も遠隔制御可能とし,実験条件に従って最適の位置に設定することもできるようになっ

た。その概観を図-2に示した。システムの遠隔制御は GPIBにより行うので,MATLABの Graphical User Interface (GUI)

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新方式マイクロ波プロフィールメータの開発

研究成果の詳細報告

41

を構築した。その画面を図-3に示す。左側が反射波とスペクトルの時間変化を,右側が制御パラメータを示す。

図-1 LHDにおける超短パルス反射計と遠隔実験制御システム

図-2 LHD本体に設置された送受信アンテナと遠隔制御システム

図-3 データ制御および解析ソフトMATLAB による GUI(Graphical User Interface)画面

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新方式マイクロ波プロフィールメータの開発

研究成果の詳細報告

42

プラズマが維持されている時間帯で反射波形にコヒーレントな成分が観測されている。SRA 法により再構成した密度分

布の例を図-4 に示す。セパラトリックスの位置を 0 cm としプラズマの境界とした。高密度運転と低密度運転で特徴的な差

が見られることが分かる。

図-4 密度分布再構成の例

考 察

超短パルス反射計システムの改良および遠隔実験制御の確立を図り,プラズマからの反射波信号を得ることができた。

また,波形の直接解析による再構成で,従来の手法では不可能な高分解の密度分布が得られた。周辺プラズマの密度分

布情報の詳細は、既設の遠赤外レーザー干渉計では困難であり,本システムを定常的に運転することにより有用なデータ

を提供できるものと考えている。

引用文献

1. L. G. Bruskin, A. Mase, A. Yamamoto, and Y. Kogi: 「Analytical Study of Ultra-Short Pulse Reflectometry」

Plasma Phys. Control. Fusion 43巻, 1333-1349頁 (2001年).

成果の発表

原著論文

外国誌

1. A. Mase, Y. Kogi, K. Kawahata, Y. Nagayama, B. H. Deng, C. W. Domier, N. C. Luhmann, Jr.,E. Mazzucato, T.

Munsat and H. K. Park: 「Progress in Millimeter-Wave Imaging Diagnostics」 Trans. Fusion Sci. Tech. 43巻, 1T

号, 237-242頁 (2003年).

2. Y. Kogi, A. Mase, S. Osako, T. Yasuda, L. Bruskin and H. Hojo: 「Ultrashort-Pulse Reflectometry for

Steady-State Plasmas」 Rev. Sci. Instrum. 74巻, 3号, 1510-1513頁 (2003年).

3. H. Hojo, A. Fukuchi, A. Itakura, and A. Mase: 「Full-Wave Simulations on Ultrashort-Pulse Reflectometry for

Helical Plasmas」 Rev. Sci. Instrum. 75巻, 10号, 3813-3815頁 (2004年).

4. Y. Kogi, K. Uchida, A. Mase, L. Bruskin, M. Ignatenko, T. Tokuzawa, Y. Nagayama, and K. Kawahata:

「Ultrashort-Pulse Reflectometer on LHD」 Rev. Sci. Instrum. 75巻, 10号, 3837-3839頁 (2004年).

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新方式マイクロ波プロフィールメータの開発

研究成果の詳細報告

43

原著論文以外の論文

国内誌(国内英文誌含む)

1. H. Hojo, A. Fukuchi, A. Mase H. Watanabe and A. Ejiri:「Ultrashort-Pulse Reflectometry for LHD Plasma」

Conference Digest of 28th International Conference on Infrared and Millimeter Waves, Ohtsu,49-50頁 (2003

年).

2. A. Mase, Y. Kogo, L. Bruskin, M. Ignatenko, T. Yasuda, K. Uchida, K. Nishiyori, K. Kawahata, Y. Nagayama, H.

Hojo, M. Matsukuma, S. Aoi, and E. Sakata: 「Advancement of Millimeter-Wave Imaging Diagnpstics on LHD」

Conference Digest of 28th International Conference on Infrared and Millimeter Waves, Ohtsu, 83-84頁 (2003

年) (invited talk)

3. A. Mase, Y. Kogi, K. Kudo, and L. Bruskin: 「Application of Microwave Reflectometry to Reactive Plasama

Diagnostics」 Proc. Plasma Science Symposium 2005 and 2nd Symposium on Plasma Processing, Nagoya, 729-730

頁 (2005年).

口頭発表

招待講演

1. A. Mase: 「Application of Ultrashort Pulse Reflectometry to LHD」 Princeton University, Princeton, Seminar at

Princeton Plasma Physics Laboratory, 2003年 3月 13日.

2. A. Mase: 「Microwave Diagnostics on LHD and Application to Industry」 Nieuwegein, The Netherland, Seminar

at FOM, Institute fur Plasma Physik, 2003年 4月 1日.

3. A. Mase: 「Application of Ultrashort-Pulse Reflectometry to LHD」 San Diego, The 6th International Workshop

on Microwave Reflectometry, 2003年 5月 6日.

4. A. Mase, Y. Kogi, L. Bruskin, M. Ignatenko, T. Yasuda, K. Uchida, K. Nishiyori, K. Kawahata, Y. Nagayama, H.

Hojo, M. Matsukuma, M. Aoi, and E. Sakata: 「Advancement of Millimeter-Wave Imaging Diagnostics on LHD」

The 28th International Conference on Infrared and Millimeter Waves, Ohtsu, 2003年 9月 29日.

一般講演

1. Y. Kogi, A. Mase, S. Osako, T. Yasuda L. Bruskin, and H. Hojo: 「Ultrashort-Pulse Reflectometry for

Steady-State Plasmas」 The 14th APS Topical Conference on High Temperature Plasma Diagnostics, Wisconsin,

2002年 7月 8日.

2. 大迫周平, 近木祐一郎, 安田泰造, 間瀬淳, Leonid Bruskin, 北條仁士: 「高密度プラズマへの超短パルス反

射計の適用」 犬山市観光センター・フロイデ, プラズマ・核融合学会第19回年会,2002年11月29日.

3. Y. Kogi, A. Mase, S. Ohsako, M. Ignatenko, T. Yasuda, L. Bruskin, H. Hojo, T. Tokuzawa, N. Inagaki, Y.

Nagayama, K. Kawahata: 「Application of Ultrashort Pulse Reflectometry to Large Helical Device」 The 30th

IEEE International conference on Plasma Science, Jeju, 2003年6月.

4. H. Hojo, A. Fukuchi, A. Mase, T. Watanabe, and A. Ejiri: 「Ultrashort-Pulse Reflectometry for LHD Plasma」The

28th International Conference on Infrared and Millimeter Waves, Ohtsu, 2003年9月29日.

5. 福知敦, 北條仁士, 板倉昭慶, 間瀬淳, 江尻晶, 渡邉二太: 「LHDプラズマに対する超短パルス反射法のシミ

ュレーション」 プラズマ・核融合学会第20回年会, 茨城県民文化センター, 2003年11月25日.

6. 内田和之, 近木祐一郎, 間瀬淳, BRUSKIN Leonid, 北條仁士, 江尻晶, 徳沢季彦, 川端一男, 田中謙治, 長

山好夫: 「LHDにおける超短パルス反射計実験」 プラズマ・核融合学会第 20回年会, 茨城県民文化センター,

2003年 11月 28日.

7. 安田泰造, 間瀬淳, 近木祐一郎, BRUSKIN Leonid, 松隈正明: 「ICPにおける反射計とプローブによる密度分

布測定の比較」 プラズマ・核融合学会第 20回年会, 茨城県民文化センター, 2003年 11月 28日.

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新方式マイクロ波プロフィールメータの開発

研究成果の詳細報告

44

8. A. Fukuchi, H. Hojo, A. Itakura, and A. Mase: 「Computer Simulations of Ultrashort-Pulse Reflectometry in

Helical Plasmas」 The 13th International Toki Conference on Plasma Physics and Controlled Nuclear Fusion

Research, Toki, 2003年 12月.

9. Y. Kogi, K. Uchida, A. Mase, L. Bruskin, and M. Ignatenko: 「Ultrashort-Pulse Reflectometer on LHD」 San

Diego, The 15th Topical Conference on High-Temperature Plasma Diagnostics, 2004年 4月 20日.

10. H. Hojo, A. Fukuchi, A. Itakura, and A. Mase: 「Full-Wave Simulations on Ultrashort-Pulse Reflectometry for

Helical Plasmas」 San Diego, The 15th Topical Conference on High-Temperature Plasma Diagnostics, 2004年 4

月 20日.

11. Y. Kogi, A. Mase, T. Yasuda, L. Bruskin, K. Uchida, M. Ignatenko : 「Development of Broadband

Ultrashort-Pulse Reflectometry for Inductivery Coupled Plasma」 Fukuoka, Asia Pacific Conference on Plasma

Science and Technology, 2004年 6月 29日.

12. 内田和之, 近木祐一郎, 間瀬淳, BRUSKIN Leonid, 北條仁士, 江尻晶, 徳沢季彦, 川端一男, 田中謙治, 長

山好夫: 「LHDにおける超短パルス反射計実験」 静岡県コンベンションアーツセンター, プラズマ・核融合学会

第 21回年会, 2004年 11月 25日.

13. 工藤光生, 間瀬淳, 近木祐一郎, BRUSKIN Leonid, 松隈正明: 「ICPにおける反射計とプローブによる密度分

布測定の比較」 静岡県コンベンションアーツセンター, プラズマ・核融合学会第 21回年会, 2004年 11月 25日.

14. 内田和之, 近木祐一郎, 間瀬淳, BRUSKIN Leonid, 北條仁士, 江尻晶, 徳沢季彦, 川端一男, 田中謙治,長

山好夫: 「LHD における超短パルス反射計装置の遠隔制御」 九州大学,プラズマ・核融合学会 九州・沖縄・

山口支部大会, 2004年 12月 3日.

15. 工藤光生, 間瀬淳, 近木祐一郎, BRUSKIN Leonid, 松隈正明: 「定常プラズマにおける反射計による密度分

布測定の高精度化」 九州大学,プラズマ・核融合学会 九州・沖縄・山口支部大会,2004年 12月 3日.

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新方式マイクロ波プロフィールメータの開発

研究成果の詳細報告

45

1. 二次元プロフィールメータのシステム設計と性能評価に関する研究

1.5. 実用化試験

1.5.1. 食品中の異物検査への応用

九州大学産学連携センター・間瀬研究室

間瀬 淳、近木 祐一郎、ブルスキン レオニド

要 約

現在物体内部を検査するシステムとして、透過性に優れた X 線を利用した装置が良く知られているが、エネルギーが高

いため数ミリ程度以下の微小物体を見分けることがむしろ困難となっている。本研究では、60-90 GHz領域のミリ波を用い、

物体からの透過波および散乱波を測定し解析することにより、物体内部を非接触・非破壊で評価する装置を開発した。異

物検査システムにニューラルネットワークを用いた信号解析法を適用し、異物の大きさ等を推定することを試みた結果、入

射波長の 1/2程度まで推定可能であることを検証した。

目 的

プロフィールメータの応用分野として最近問題となっている食品中の異物検査への適用を試み、電磁波を用いた検査装置の長

所および短所を見極めること、特に入射波長に対する測定限界などを評価し、製品化を行う際の指針とすることを目標とした。

研究方法

実験装置の概略図および外観を図-1 に示す。70 GHz、50 mW 発振器出力は、コルゲートホーンおよび誘電体レンズの

組合せにより 8 mm×40 mmのシート状ビームに整形され、被測定物体に照射される。透過波および散乱波は、誘電体レン

ズを取付けた同一コルゲートホーンにより受信され、ヘテロダイン検波システムにより 2-8 GHzの中間周波数信号となり、フ

ィルターを通り,マイクロ波アンプで増幅された後自乗検波される。本実験では、図のように散乱角を ±90 度変化させると

同時に、被測定物体も 360度回転可能なシステムを製作した。信号処理には、ニューラルネットワークなどを利用した。今回

測定に使用した試料は、直径 1-10 mmの金属球を挿入した粉末である。また、実験との比較のために FDTD法に基づく計

算機シミュレーションも並行して進めている。実験では、測定時間短縮のため検出ポイントを絞る。今回アンテナ角度+20 度

において被測定物を 360度回転させ測定を行った。

測定したデータは対数値に直し、パワースペクトル密度(Power Spectral Density)などの数値処理を行った後、そのパラメ

ータ値をニューラルネットワーク(backpropagation)を用いて解析し、異物の有無ならびにその大きさを判別する。ニューラル

ネットワーク解析を適用するにあたり、ネットワークが判断する上でパラメータが必要になる。今回、そのパラメータとして

測定電圧のパワースペクトル値の合計

測定電圧の対数値の合計

測定電圧の対数値の標準偏差

測定電圧の対数値の割合密度アスペクト比

の 4 点をネットワークに渡す。これを元にニューラルネットワークにおいてよく用いられる、階層型のバックプロパゲーション

法を使いシミュレーションを行う。また、ニューラルネットワークにとってパラメータの数が多すぎると計算に時間がかかり、か

えって的確な判断が下せない場合がある。よって、ニューラルネットワーク計算をするにあたり、散乱角+20 度と+40 度に

おける上記のパラメータを用いる。学習するべきデータ集合の中からいくつかのサンプルを選び訓練課題セットとしてニュ

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新方式マイクロ波プロフィールメータの開発

研究成果の詳細報告

46

ーラルネットワークに学習させる。このとき学習させた学習課題セット以外のデータをテスト課題として選び、このテスト課題

の成績を調べる事で学習したルールの一般化能力を見る。

Computer Oscilloscope

Spectrum Analyzer

Heterodyne

Focusing Lenz(Cylindrical)

Collimating Lenz(Paraboloidal)

Corrugate Horn

Oscillator(Probe Beam)

Sample

図-1 異物検査装置の概略図

研究成果

図-1 で示した装置で測定し、得られたデータを実測値の対数で表示した。図-2 にグラニュー糖に金属異物を混入した

ときの透過波・散乱波を示した。図において、グラフの縦軸は被測定物を回転した時の角度(360度)であり、横軸は受信ホ

ーンの方向、すなわち散乱角を±90 度の範囲で変化させた場合を表している。図の濃淡は測定電圧値の対数プロットと

なっている。この結果から、異物が無いものにおいては散乱波が小さいため受信信号が 0 度付近に集中しているのに対し、

異物があるものでは広い散乱角にわたって信号が認められる。

測定より、直径10mm~3mmの金属球を挿入した場合は、異物なしと比べ違いは明らかであったが、直径1mmの金属球

になるとデータからの判別は困難となる。これは、波長が約 4.3mmであるため、波長の二分の一以上に相当する 3mm球ま

ではその散乱強度は十分であるが、それ以下になると散乱断面積が小さくなり、散乱強度も小さくなると考えられる。

図-2 グラニュー糖内に金属異物を混入したときの透過・散乱波形(左上:異物なし、右上:1 mm、左下:3 mm、右下:5 mm)

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新方式マイクロ波プロフィールメータの開発

研究成果の詳細報告

47

グラニュー糖を被測定物として直径 1-10mm の金属球異物をそれぞれ挿入し、ニューラルネットワークにより判別

した結果を図-3に載せる。図中 outputはニューラルネットが推定した異物の大きさを示し、testはランダムに選んだ

パラメータのうち、訓練には用いないテスト課題である。Target は異物の実際の大きさである。これから、訓練課題セ

ットでは比較的正解を得ることができるが、テスト課題では誤差が目立つ。これは学習が進行しすぎるとしばしば観

察される現象で、過剰な学習がなされた事により、未知のデータに対する予測の精度が悪化した、と考えられる(過

学習 over-fitting)。しかし、異物の大きさが 3-10mmの時は、その判定がほぼ 100%に近い確立で可能であること、

1mmの異物では~50%で誤った判定を下すことが分かった。なお、異物の大きさが時により負を示す事があるが、こ

れはネットワークの層に用いる伝達関数に出力が-1 から+1の正接シグモイド伝達関数そして同じく線形伝達関

数を用いていることによる。

図-3 ニューラルネット解析結果

考 察 ミリ波を用いた非破壊検査システムの構築を目指し、被測定物としてグラニュー糖内に挿入した 1-10 mmの金属異物を

用いて、その検出を試みた。異物判定にはニューラルネットワークを使用した結果、異物の直径が 3-10mm の時は、ほぼ

100%正しい判別を示す事が分かった。しかし異物が 1mm の時にはその認識率は下がった。また、訓練課題セットでは比

較的正解を得ることができたが、テスト課題では誤差が目立った。これは、過学習によるものと考えられる。今後さらに異物

の検出感度を上げるため、ニューラルネットワークにおける誤差を小さくすることに努める。誤差の一因である過学習の対

策としては、適度な学習回数を設定する事が有用だと考えられる。またネットワークに渡すパラメータの選出も誤差減少に

は重要となる。本研究結果により、ミリ波の波長をさらに小さく(波長 2mm)する事により、1mm以下の異物検出も可能となる

ことが期待される。

成果の発表

原著論文以外の論文

国内誌(国内英文誌含む)

1. 北條仁士, 西依幸一郎, 近木祐一郎, L. Bruskin, 間瀬淳: 「ミリ波非破壊検査システムの開発とシミ

ュレーション研究」 超高速高周波エレクトロニクス実装研究会論文集, 4巻, 1号, 1-6頁 (2004年).

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新方式マイクロ波プロフィールメータの開発

研究成果の詳細報告

48

口頭発表

招待講演

1. 北條仁士, 西依幸一郎, 近木祐一郎, L. Bruskin, 間瀬淳: 「ミリ波非破壊検査システムの開発とシ

ミュレーション研究」 超高速高周波エレクトロニクス実装研究会, 2004年 5月 27日.

2. 間瀬淳: 「マイクロ波プロフィールメータの開発と応用」 西日本総合展示場(北九州市), 産学実用化研究成果

発表会, 2004年 11月 18日.

一般講演

1. 西依幸一郎, 間瀬淳, Leonid Bruskin, 北條仁士, 井手元浩, 坂本剛: 「ミリ波を用いた非破壊検査システムの

研究 I」 東京工業大学, 電子情報通信学会 2004年総合大会, 2004年 3月.

2. 西依幸一郎, 間瀬淳, L. Bruskin, 北條仁士: 「ミリ波を用いた非破壊検査システムの研究Ⅱ」 大阪大学, 電子

情報通信学会2005年総合大会, 大阪大学. 2005年3月21日

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新方式マイクロ波プロフィールメータの開発

研究成果の詳細報告

49

図-1 マイクロ波位相レーダー装置の概略

1. 二次元プロフィールメータのシステム設計と性能評価に関する研究

1.5. 実用化試験

1.5.2. 非侵襲生体情報計測への応用

九州大学産学連携センター・間瀬研究室

間瀬 淳、近木 祐一郎、ブルスキン レオニド

要 約

マイクロ波レーダーの応用の一つとして、電磁波の心臓近傍の皮膚や筋肉からの反射波を受信し、その位相及び振幅

変化を分離検出することにより心臓動態を情報化する非接触の心拍測定法を開発した。人体内での減衰を考慮して入射

波として周波数 10 GHzのマイクロ波を使用し、反射面の変位を位相変化として検出することにより、~1μW/cm2以下の微

小電力で <30μm の変動を観測することができた。また、反射波の時間変化をスペクトル解析することにより、呼吸および

心拍の変化を同時測定することに成功した。

目 的

本研究は、マイクロ波が誘電体を透過し、誘電率が不連続な面で反射するという特徴を利用するもので、心臓動態、呼

吸、さらには音声など生体信号の動的変化を非接触かつ遠隔で測定し、特に高年齢層を対象とした非侵襲診断技術の手

段として確立していくこと、また、生体反応を障害物越しに測定することにより、セキュリティ対策や災害救助などの分野で

も適用可能とすることを目的としている。

研究方法

本研究で用いるマイクロ波位相レーダー(反射計)システムの概略を図-1に示す。測定システムは、被測定対象にプローブ光

を入射するための発振器、伝送回路、および送信アンテナと、反射波信号を受信するための受信アンテナ、検出器、信号処理装

置、および表示装置で構成される。マイクロ波信号発生器の出力は方向性結合器により分離され、一方が20dBのアッテネータで

減衰された後、ホーンおよび集光系(レンズあるいはミラー)によりビーム整形され、被測定対象(現在の場合、人体の心臓近

傍)に照射される。媒質の不連続面で反射されてきた信号は、同一ホーンで受信され、サーキュレータにより入射波と分離された

後、マイクロ波アンプで増幅、方向性結合器のもう一方の信号(局部発振波)とミックスされ、干渉法により反射面の変動による位

相変化として検出される。通常はミキサー出力として ErcosΔφ に比例した信号が得られるため、直接位相変化 Δφに比例す

るわけでないが、クオドラチャー検出を利用することにより ErcosΔφ および ErsinΔφ の両者が得られ、計算機処理によりΔφ

に直接比例する成分を算出することができる。

また、振幅成分も計算できるため、両者を分

離検出することができる。位相変化Δφは反

射面の変位量に対応し、位相変化を感度良

く観測することができれば、心臓付近の皮膚

あるいは筋肉の微細変化、すなわち、心臓

動態を評価することが可能となる。

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新方式マイクロ波プロフィールメータの開発

研究成果の詳細報告

50

研究成果

研究の最初の過程として、まずは心臓の動きの検出の確認という目的から、できるだけ静かな状態で測定を行

った。図-2(a)にクオドラチャー検出器より得られた2つの信号を、(b)に両者から算出された位相変化のグラフをそれぞれ示す。

-0.21

-0.17

-0.13

-0.09

-0.05

ch1 (ErcosΔφ)ch2 (ErsinΔφ)

0 2 4 6 8 10 12 14 16time [sec]

Ampl

itude

[V]

(a)クオドラチャー検出器出力

1.1

1.12

1.14

1.16

1.18

1.2

1.22

0 2 4 6 8 10 12 14 16time [sec]

phas

e[a.u

.]

(b)位相の時間変化 図-2 検出された心拍信号

図-2より、2個のミキサーから出力された信号は、それぞれ周期的な信号であることが確認された。その周期は約 1秒で

あることから、心臓付近の筋肉あるいは心臓周辺の皮膚の面からの反射波信号に対応すると考えられる。ゆっくりした信号

は、呼吸による人体表面からの反射に起因すると考えられる。

図-3 に心電計と同時に測定した結果を示した。両者に対応が見られる。周波数 1-10 GHz のマイクロ波の照射は電力

防護基準より 1mW/cm2であることが推奨されている。携帯電話における電力照射hがおよそその程度の値であり、本装置

をモニターとして常時利用することを考えた場合、できるだけ微少電力での測定が望ましい。そこで、本システムにおいて

どの程度の照射電力で測定が可能か評価した。方法としては、マイクロ波入射位置から離れることにより、実効的に人体へ

の照射電力密度を小さくした。電力密度は、パワーメータによる測定値から評価した。図-4 に結果を示す。測定点におけ

る電力密度が 1[μW/cm2]程度でも心拍信号は充分に検知が可能であることが分かった。

遠隔モニターとして応用する場合、被測定者はX線胸部間接測定のように、息を止めて静かにした状態とは限らない。

反射波の周波数スペクトルを観測することにより、静かな状態でなく、しかも呼吸と心拍が分離できないか試みた。図-5 が

その結果で、両者によるピークが明確にあらわれている。。

図-3 心電計とマイクロ波法の比較

心電計 vs 心動計

-0.3

-0.2

-0.1

0.0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

317.0 317.5 318.0 318.5 319.0 319.5 320.0

時間 [sec]

Volt

age[V

]

市販心電計(ECG)

15GHz位相レーダー

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新方式マイクロ波プロフィールメータの開発

研究成果の詳細報告

51

-6.00E-04

-4.00E-04

-2.00E-04

0.00E+00

2.00E-04

4.00E-04

6.00E-04

0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4 4.5 5time[sec]

Am

plitu

de[V

]

0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4 4.5 5-6.00E-04

-4.00E-04

-2.00E-04

0.00E+00

2.00E-04

4.00E-04

6.00E-04

Am

plitu

de[V

]

time[sec]

図-5 反射波信号の周波数スペクトル

考 察

今回の測定で心臓近傍の筋肉及び周辺の皮膚での反射と思われる周期的な信号を得ることができた。本研究で用いた

装置は位相変化を解析するもので、極めて高感度なシステムである。(入射波として周波数 15 GHz を用い、位相分解が 0.

003フリンジとすれば空間分解は 30 µm)。また、µWレベル以下の微弱な入射電力で測定が可能であり、生体信号を骨格の

上から、かつ障害物を隔てて計測することが期待される。遠隔でのモニターとしての観点より、最近話題になっている無呼吸

症候群の感知などにも応用できる。また、本研究で開発してきた集積化されたイメージングアレイ検出器と準光学結像系を

組み合わせることにより,心臓動態を画像化する能動的なイメージング(撮像)装置として発展させて行くことが可能である。

成果の発表

口頭発表

招待講演

1. 間瀬淳: 「マイクロ波プロフィールメータの開発と応用」 西日本総合展示場(北九州市), 産学実用化研究成果

発表会, 2004年 11月 18日.

(a) 2.5 [μW/cm2] (b) 0.66 [μW/cm2]

図-4 パワー密度と信号強度の関係

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新方式マイクロ波プロフィールメータの開発

研究成果の詳細報告

52

一般講演

1. 西山恵介, 松隈正明, Leonid Bruskin, 間瀬淳: 「マイクロ波位相レーダー法による心拍測定」 琉球大学, 電気

学会・電子情報通信学会合同講演会, 2004年 12月 8日.

2. 西山恵介, 松隈正明, Leonid Bruskin, 近木祐一郎, 間瀬淳: 「マイクロ波位相レーダー法による生体信号の測

定」 大阪大学. 電子情報通信学会 2005年総合大会, 2005年 3月 21日.

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新方式マイクロ波プロフィールメータの開発

研究成果の詳細報告

53

2. MICおよび MMICのプロフィールメータへの適用に関する研究

2.1. MICおよび MMICマスクの試作とその改良

2.1.1. プロフィールメータ用パッチアレイアンテナの開発

九州日立マクセル株式会社新分野開発 PT、九州大学産学連携センター・間瀬研究室*

松隈 正明、伊藤 直樹、青井 正司、坂田 栄二、間瀬 淳*、近木 祐一郎

要 約

本研究では、ミリ波帯アクティブイメージングシステムの構築に不可欠な送信用アンテナの開発を行った。送信用アンテ

ナとしてもっとも重要なパラメータの一つはアンテナより放射されるビームの形状、すなわちアンテナの指向性である。そこ

で、本研究では送信用アンテナとして指向性に優れたパッチアンテナ選択し、76GHz 帯において良好な電気的性質を示

すテフロン基板上でアレイ化し更なる指向性の向上と小型化を目的とした。シミュレーションにおいてはエレメント数 256 個

(16×16)のパッチアレイアンテナで指向性 24.08dBi、利得 22.33dBiを得た。試作アンテナは 8×8及び 16×1アレイまでを作

製し遠方界と近傍界を測定した。

目 的

本研究では、パッチアンテナをテフロン基板上でアレイ化させ小型で高い指向性を持ったミリ波帯アクティブイメージン

グシステムの送信アンテナの開発研究を行う。

研究方法

本研究では、電磁界シミュレーションソフト IE3D(Zeland社製)を用いてアンテナを設計し、EF2Electro Fine Forming 九

州日立マクセル株式会社)を用いて試作アンテナの作製を行った。試作アンテナの評価は、九州大学産学連携センター

間瀬研究室の近傍界解析装置(東海テクノ社製)及び電波暗室を用いて近傍界と遠方界での伝播特性を測定した。

IE3D はモーメント法を用いた電磁界シミュレータである。シミュレーション対象物の入力は mgrid.exe と呼ばれる簡易

CADを用いて行う。mgrid.exeにより複数のレイヤを使用することで立体物の入力も可能である。また、mgrid.exeはシミュレ

ーションエンジンと連携して目標パラメータに対して入力形状を指定した範囲で変形させ最適化させることが出来る。最適

化法は遺伝的アルゴリズムを応用した高速なものから局所解に落ち込みにくいランダムな方法などから選択出来る。モーメ

ント法でシミュレーションを行うに当たって、対象物を小領域メッシュに分割する必要があるが、mgrid.exe では高周波が伝

播するマイクロストリップラインの特徴を捉えた不均等分割や三角形メッシュを使用することで大幅にメッシュ数を削減する

ことが出来る。これらの特徴により IE3D ではシミュレーション時間の短縮化が達成され、最適化パラメータを広く取ることが

可能となった。本研究では、mgrid.exe 上でフッ素基板の高周波特性パラメータ(誘電率 2.2、誘電正接 0.0001、基板厚み

0.254mm)を入力したレイヤを基板とし、その上に厚さ 0.05µmの導体でマイクロストリップラインのパターンを形成させた。高

周波ポートは 50Ω ウェーブポートを使用した。パッチアンテナエレメント部の最適化パラメータはリターンロス S11 が最小と

なる様にした。エレメントを並べたパッチアレイアンテナではリターンロスよりも放射パターンを重視して最適化を行った。

IE3D によって得られたアンテナデザインはガーバーデータ化され、九州日立マクセル株式会社の EF2技術により試作され

る。EF2 とは電鋳にベースを置く技術であり、処理対象の表面状態にもよるがサブミクロンオーダーの精度で加工出来る。電鋳

であることから処理対象物は表面に導体薄膜が載っていなければならない。アンテナデザインデータよりマスク(ガラスマスクま

たはメタルマスク)をおこしレジストを塗った基板にマスクパターンを転写する。パターン部分のレジストを剥がし、電鋳によりパ

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新方式マイクロ波プロフィールメータの開発

研究成果の詳細報告

54

ターンを成長させる。残っている非パターン部の導体をレジストともに取り去る。以上の行程が大まかな EF2 処理の内容である。

EF2 の精度は作成されるマスクの精度とマスクの転写精度によりほぼ決まる。マスクはレーザーとメタルマスクを選択することで

現時点での最良の精度が得られる。マスク転写時の精度は基板表面状態に大きく依存する。基板表面に一様にサブミクロン程

度の導体薄膜が形成されていることが望ましいが、テフロン表面への導体薄膜形成技術は確立されていない。また、余分な導

体やレジストを剥がす際には導体の厚みや基板との接着強度が重要なパラメータとなる。EF2 の処理出来る形状の制限として

鋭角を持つチャンネルがある。EF2は電鋳であるため、電解液が滲入しにくい形状は形成出来ない。

試作されたアンテナは九州大学産学連携センター間瀬研究室のアンリツ製ベクトルネットワークアナライザ 37297C、ブロー

ドバンドテストセット3738A、ミリ波モジュール 3740A-EWと 3741A-EW、東海テクノ製近傍界測定装置、電波暗室等を用いて放

射特性の試験がなされる。 ミリ波モジュール 3740A-EWおよび 3741A-EWを用いることで 65GHzから 110GHzまでを測定す

ることが出来る。近傍界測定装置と近傍界測定.exeを用いることで近傍界の測定および測定された近傍界から遠方界の算出を

行う。近傍界測定装置は 2次元駆動型のスキャナであるので、プローブの z位置における近傍界を 2次元で即位邸出来る。電

波暗室内にはターンテーブルが設置されており、アンテナを回転させることにより全周方向の遠方界測定が行える。ミリ波モジ

ュールのポートが導波管タイプであるため、試作アンテナへの電力供給は導波管-同軸変換を経てマイクロストリップライン上

へ同軸線を半田付けにより行った。また、初めてEF2技術を用いて試作された 6×2パッチアレイアンテナについては九州大学

産学連携センター間瀬研究室の卓上小型プローブ顕微鏡 Nanopics2100により基板表面状態の観察を行った。

以上述べた様に、設計-試作-試験を一つのサイクルとし、試作段階および測定段階で判明した問題点を次回の設計へ

フィードバックさせることで研究を進めた。

研究成果

パッチアンテナエレメントの設計に当たり IE3Dを用いて最適化を図った結果、76GHzにおいて絶対利得 6.6731dBi、指向

性利得 8.2171dBiを得た(図-1および図-2参照)。エレメントの全幅は約 1.985mm、全高は約 1.076mm、最小ギャップ開始幅

は 0.042mm、深さは 0.978mm、放射効率は 70.2851%、アンテナ効率は 70.081%であった。図-1に示される様に最適化された

パッチアンテナエレメントは従来のパッチアンテナよりも複雑な形状をしている。これはアンテナのリターンロスを低く保ちつ

つ放射パターンがガウシャン関数に近づく様に形状を変化させていったためである。最適化されたパッチアンテナエレメント

をアレイ化した結果、16×16エレメントで 76GHzにおいて絶対利得 22.3275dBi、指向性利得 24.0824dBiを得た。16×16エレ

メントのパッチアレイアンテナの外形図と放射特性を図-3、図-4 に示す。各エレメント部への電力供給が等位相になるように

フィードネットワークを調整することで天頂(φ= 0°)方向の放射を強めることが出来る。また、中心から外周方向へ向かって、適切に振幅を調整することで不要なサイドローブを低減出来る。今回はアレイファクターまで最適化した設計にはなっていない

が、サイドローブのレベルは許容出来る範囲内であった。図-3 を見ると、アンテナの中心部にパターンがない空間があり、空

間を挟んで上下に分かれていることが分かる。この空間部は導波管-マイクロストリップライン変換をアンテナに組み込むこと

が出来なかったため、アンテナ外周部までマイクロストリップラインを引き出す為に設計されている。実際の試作アンテナでは

図-3中心部のポートから右方向にアンテナ外周部まで 50Ωマイクロストリップラインが引き出される予定である。

図-1 パッチアンテナエレメント外形図 図-2 パッチアンテナエレメント放射特性

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新方式マイクロ波プロフィールメータの開発

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55

図-3 16×16エレメントパッチアレイアンテナ外形図 図-4 16×16エレメントパッチアレイアンテナ放射特性

パッチエレメントの最適化と同時に行っていたパッチアレイアンテナの試作では 6×2エレメント、8×8エレメント(ともにパッ

チエレメントは非最適化時のもの)と 16×1 エレメント(パッチエレメントは最適化済み)のパターンを EF2 を用いてテフロン基

板上に作成した。試作された 6×2 アンテナの顕微鏡写真を図-5 に示す。このアンテナは初めて EF2技術を用いてテフロ

ン基板上に形成されたミリ波帯アンテナであったため、EF2 技術のテストベンチの為に、最小ギャップ幅 10µm と最小線路

幅 20µm の微細なパターンが組み込まれている。アンテナ上の各部で線路幅およびギャップ幅を測定した結果、それぞれ

- 0.7µm以内、+ 2.3µmであった。また、EF2技術はその特性上、単位面積あたりのパターン密度によって成長する導体の

高さが変化する。すなわち、パターン密度が高いところでは一様に薄く成長し、パターン密度が低いところではその部分だ

けに高く導体が成長してしまう。このため、Nanopics2100を用いてアンテナパターン各部(図-6~8参照)の導体厚みを測定

した。膜厚はターゲット 5µmに対して+ 0.6µm以内、- 0.1µm以内であった。

図-5 6×2試作パッチアレイアンテナ

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新方式マイクロ波プロフィールメータの開発

研究成果の詳細報告

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図-6 膜厚測定 a 図-7 膜厚測定 b 図-8 膜厚測定 c

EF2 で試作されたアンテナは導体薄膜の基板密着性に置いて従来の基板に対し劣っているが、エッチング品では形成

出来なかった微細なパターンが精度良く形成出来ていることが確かめられた。次に試作アンテナのアンテナ特性を測定し

た。電波暗室内の固定されたポート 1 にコルゲート付きホーンアンテナを、ターンテーブル上のポート 2 に試作アンテナを

設置し、アンテナ間距離を 71~72cm として遠方界を測定した。測定結果を図-9に示す。図-9には比較のためにポート 2

にコルゲート付きホーンアンテナを付けた場合の結果も載せた。EF2 試作アンテナはコルゲート付きホーンアンテナと比較

するとピークの利得は少ないが広帯域であり、試作品間(No.1~No.5)のばらつきが少なかった。EF2試作アンテナ No.4は

試験の過程で給電部のパターンが損傷してしまったために他の No.1~3、No.5 と特性が異なってしまった。これは銅箔膜

の基板への密着強度不足に起因すると考えられる。

EF2技術を使用して試作された 8×8パッチアレイアンテナおよび 16×1パッチアレイアンテナについてもアンテナ特性の

測定を行った。図 9に作成した 8×8試作アンテナの基板写真を示す(同一パターンが 4つ形成されている)。基板の裏面に

も膜厚 5µmの銅箔が付けられている。アンテナエレメントに注目してみると中央の給電ラインを挟んでパッチエレメントの向

きが反転している。このため放射パターンは給電ラインを挟んで両方向に指向性を持つと予想される。図 10にシミュレーシ

ョンによる指向性と電波暗室内での指向性実測値の比較を示した。絶対値には大きな開きがあるが、概ね掃除的な指向

性を示していると言える。また、試作アンテナの反転しているパターンを削除し、パッチエレメントの向きを揃えた物の指向

性実測値を図 11 に示す。図 11 中に現れたピークは基板上に残した向きの揃ったパッチエレメントからの寄与であり、シミ

ュレーション結果と傾向が合った。6×2 アレイアンテナでは片方のポートにコルゲート付きホーンアンテナを使用した。測定

結果にはコルゲート付きホーンアンテナの指向性が含まれていた。そこで、8×8および 16×1 アレイアンテナでは受信ポー

トに無指向性のプローブを使用した。その結果、測定された利得は非常に低かった。また、指向性利得もシミュレーション

で得られたものより低かった。

試作アンテナの放射特性を測定した結果は、いずれの試作アンテナもシミュレーションで得られた結果よりも悪かった。

原因は考察の項で述べる。アンテナパターンの銅箔厚は 5±0.2µm で安定した。サイドエッジの形状はエッチング加工と比

較して切り立っており、サイドエッジでの損失が低減出来ていると考えられる。6×2エレメント、8×8エレメントのアンテナにつ

いては EF2作成のアンテナと基板加工機で作成したアンテナを比較した結果、EF2加工品は試作品間の性能ばらつきが

少なかった。

導体厚みの均一性やサイドエッジの形状、加工可能な最小ギャップ幅等が優れていることから EF2 がパッチアレイアン

テナの作成に適していることが確かめられた。

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図-9 8×8パッチアレイアンテナの試作基板写真

図-10 8×4パッチアレイアンテナの指向性(実験値)

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図-11 8×8パッチアレイアンテナの指向性(シミュレーションと実験値)

考 察

本研究では、ミリ波アクティブイメージングシステム用送信アンテナとしてテフロン基板を用いてパッチアレイアンテナの

研究開発を行った。EF2 により作成した試作アンテナの放射特性はシミュレーション結果には及ばないものであったが、ア

ンテナ個体間のばらつきは基板加工機により作成されたアンテナよりも少なく、寸法精度と形状精度がともに良好である事

が確かめられた。試作アンテナとシミュレーション結果を指向性で比較した場合、受信利得の絶対値は大きく異なっていた

が、指向性パターンはほぼ同一であった。このことから試作アンテナの実測値とシミュレーション結果との差違は主に給電

部によるものと考えられる。シミュレーション上ではアンテナ端の給電ポートから計算されるが、実験では測定器であるベク

トルネットワークアナライザのポートとアンテナ給電ポートの間に WR10-12変換、導波管-同軸変換が入るため、これによる

損失が考えられる。なかでも導波管-同軸変換の同軸線からアンテナ上のマイクロストリップラインへ給電しているため、こ

の接合部による損失や放射が考えられる。

今後の課題として、アンテナへの給電方法、特に効率よく導波管からマイクロストリップラインへの給電方法を開発する

必要がある。また、高周波基板としてミリ波帯での誘電正接特性が良好で入手性、取り扱いが容易なテフロン基板を選択

したが、テフロンの性質上、導体薄膜の接着強度が既存の基板よりも低いという問題が依然として残っている。アンテナ試

作の結果、EF2 技術は従前のエッチングによる基板加工と比較して 10 倍以上の寸法加工精度とエッジのシャープネスを

有し十分なアドバンテージがあることを確かめられた。テフロン基板の導体接着強度の更なる向上により寸法精度はサブ

µm の領域まで達する見込みがある。この観点からもテフロン基板の導体接着強度を向上させる必要がある。現在のところ、

改善手法としてプラズマ処理や原子線処理、グラフト重合処理をスパッタリングの前処理として用いることを検討している。

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成果の発表

口頭発表

招待講演

1. A. Mase: 「Microwave Diagnostics and Application」 Taejeong, Korea, Invited Lectures, Summer School for Diagnostics for Fusion Plasmas, 2004年 8月27日.

2. 間瀬淳: 「マイクロ波プロフィールメータの開発と応用」 西日本総合展示場(北九州市), 産学実用化研究成果

発表会, 2004年 11月 18日.

特許出願等

1. 2004.2.5:「制御可能な電磁波放射による生体高分子の反応促進方法およびその反応促進装置」佐々木功典、

平野隆、長尾正、坂田栄二、伊藤直樹, 特願 2004-29279.

2. 2004.7.6:「警報システム」坂田栄二、伊藤直樹, 特願 2004-199667.

3. 2004.8.26:「ハイブリダイゼーション装置」浅野正彦、八木仁、高橋司、寺山雅也、坂田栄二、伊藤直樹, 特願

2004-246049.

4. 2004.10.25:「セキュリティコントローラー」高橋司、坂田栄二、伊藤直樹, 特願 2004-316881.

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60

2. MIC および MMIC のプロフィールメータへの適用に関する研究

2.2. MIC および MMIC とイメージングアレイの融合に関する研究

2.2.1. MMIC 検出器とアクティブイメージング

九州大学産学連携センター・間瀬研究室、九州日立マクセル株式会社新分野開発 PT*

間瀬 淳、近木 祐一郎、青井 正司*

、坂田 栄二*

要 約

モノリシックマイクロ波集積回路(MMIC)技術により製作したアレイ検出器を九州日立マクセル株式会社で実装した後、

準光学結像系と組み合わせることによりイメージングシステムを構成し、磁場閉じ込めプラズマ(核融合科学研究所・大型

ヘリカル装置 LHD)の電子サイクロトロン放射イメージングの計測に適用した。ヘテロダイン周波数領域による半径方向情

報とアレイ検出器によるポロイダル方向情報によりプラズマの三次元情報が得られることを原理的に実証した。

目 的

新方式マイクロ波プロフィールメータの発展形としてのアクティブイメージングシステム(イメージングレーダー)の原理的

実証を行うことを主目的とする。測定の物理としては、電子サイクロトロン放射(Electron Cyclotron Emission:ECE)計測は、

受信周波数がプラズマ中の半径方向の局所位置に対応するという、他の計測法にはない特徴を有しており、等磁気面上

のプラズマを投影するイメージングアレイ(撮像装置)と結合させることによりプラズマ断面の分布情報を得ることができる。

また、2検出器間の信号の相関測定により、信号強度に比例する受信機のインコヒーレントな雑音に埋もれる電子温度揺

動の測定が可能となる。本実験は、この ECE イメージングを核融合科学研究所の大型ヘリカル装置(LHD)に適用し、電

子温度揺動のスペクトルおよび分布情報を得ることを目的としている。

研究方法

LHD における ECE イメージング装置の受光系は、真空容器内に設置された準光学結像系と、マイクロ波モノリシック集積

回路技術により製作された平面型検出器アレイで構成されている。検出器はシールドボックス内に並べられ、ECE および局

部発振器(LO)パワーがそれぞれ検出器面および基板面の両側から照射される。ECE 信号と LO 出力をミックスすることによ

り得られる中間周波数信号は、マイクロ波アンプ(周波数帯域 1-8GHz、利得 80dB)により増幅され、フィルターバンク(中心

周波数 1-8GHz、帯域幅 300MHz)により分割された後、それぞれの周波数ごとに第2検波器により自乗検波され、さらに低

周波アンプ(DC-1MHz、40dB)で増幅され信号の直流分、交流分に分けて CAMAC-A/D 変換器に入力される。

研究成果

LHD における実機適用により、多チャンネル測定および検出器間の相互相関関数の導出に成功した。イメージング信

号の SN 比改善と,イメージング反射計を本光学システムに同軸に加える際に必要なダイクロイック・フィルターおよびノッチ

フィルターの設計・製作とその特性測定を行い、パッシブイメージングである電子サイクロトロン放射イメージングとアクティ

ブイメージングであるイメージングの同時測定が可能であることを検証した。周波数帯としては,ECE 測定として 120-160

GHz,反射計測定として 60-80 GHz が予定されている。

NIFS-九大間の高速ネットワーク(スーパーSINET)を使用した信号転送および遠隔実験の検討を行ない,平成 16年度

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新方式マイクロ波プロフィールメータの開発

研究成果の詳細報告

61

初期にその設置が実現した。スーパーSINETのノードは九州大学箱崎キャンパスに設置されているため,現時点では箱崎

キャンパスから筑紫キャンパスの間はキャンパス間ネットワークを併用することになる。システム図を図-1 に示した。

図-1 LHD における ECE イメージング装置とスーパーSINET による遠隔実験参加

考 察

イメージング計測の確立のためには、アレイ化した際、隣接アンテナ間のクロストークを抑制するため、指向性が良くか

つ効率の良い平面形アンテナが重要となる。本研究では、プロフィールメータ用アンテナとしてダブルバランストミキサアン

テナを開発してきたが、周波数 70 GHz 帯においても良好な特性を有することが実証されている。ヘテロダインイ中間周波

数システムの集積化と組み合わせることによりミリ波帯におけるイメージング計測が実現するものと考えている。

成果発表

原著論文による発表

国外誌

1. A. Mase, Y. Kogi, K. Kawahata, Y. Nagayama, B. H. Deng, C. W. Domier, N. C. Luhmann, Jr.,E. Mazzucato, T.

Munsat and H. K. Park: 「Progress in Millimeter-Wave Imaging Diagnostics」 Trans. Fusion Sci. Tech. 43 巻, 1T

号, 237-242 頁 (2003 年).

2. A. Mase, Y. Kogi, M. Ohashi, S. Osako, Y. Nagayama, K. Kawahata, S. Aoi, and E. Sakata: 「Electron Cyclotron

Emission Imaging on LHD」 Rev. Sci. Instrum. 74 巻, 3 号, 1445-1448 頁 (2003 年).

3. H. Park, C. C. Chang, B. H. Deng, C. W. Domier, A. J. H. Donne, K. Kawahata, C. Liang, X. P. Liang, H. J. Lu,

N. C. Luhmann, Jr., A. Mase, H. Matsuura, E. Mazzucato, A. Miura, K. Mizuno, T. Munsat , Y. Nagayama, M. J.

van de Pol. J. Wang, Z. G. Xia, and W-K. Zhang: 「Recent Advancements in Microwave Imaging Plasma

Diagnostics」 Rev. Sci. Instrum. 74 巻, 10 号, 4239-4262 頁 (2003 年).

原著論文以外による発表

国内誌(国内英文誌含む)

1. A. Mase, Y. Kogo, L. Bruskin, M. Ignatenko, T. Yasuda, K. Uchida, K. Nishiyori, K. Kawahata, Y. Nagayama, H.

Hojo, M. Matsukuma, S. Aoi, and E. Sakata: 「Advancement of Millimeter-Wave Imaging Diagnostics on LHD」

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新方式マイクロ波プロフィールメータの開発

研究成果の詳細報告

62

Conf. Digest 28th Int. Conf. on Infrared and Millimeter Waves, Ohtsu, 83-84 頁 (2003 年) (invited talk).

2. Y. Nagayama, R. Pavlichenko, M. Ignatenko, K. Kawahata, A. Mase and Y. Kogi:「Microwave Imaging

Diagnostics in LHD」 Proceedings of Plasma Science Symposium 2005 and 2nd Symposium on Plasma Processing,

Nagoya,89-90 頁(2005).

3. R. Pavlichenko, Y. Nagayama, K. Kawahata, M. Ignatenko and A. Mase: 「Application of Microwave Imaging

System for Density Fluctuation Measurements on Large Helical Device」 Proceedings of 12th International

Congress on Plasma Physics, Nice (2004).

4. 長山好夫, 間瀬淳: 「マイクロ波イメージング計測」 J. Plasma Fusion Res. 80 巻, 4 号 〔2005 年〕.(印刷中)

口頭発表

招待講演

1. A. Mase: 「Microwave Diagnostics on LHD and Application to Industry」 Nieuwegein, The Netherland, Seminar

at FOM, Institute fur Plasma Physik, 2003 年 4 月 1 日.

2. A. Mase, Y. Kogi, L. Bruskin, M. Ignatenko, T. Yasuda, K. Uchida, K. Nishiyori, K. Kawahata, Y. Nagayama, H.

Hojo, M. Matsukuma, M. Aoi, and E. Sakata: 「Advancement of Millimeter-Wave Imaging Diagnostics on LHD」

Ohtsu , The 28th International Conference on Infrared and Millimeter Waves, 2003 年 9 月 29 日.

3. A. Mase: 「Microwave Diagnostics and Application」 Taejeong, Korea, Invited Lectures, Summer School for Diagnostics for Fusion Plasmas, 2004 年 8 月27 日.

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新方式マイクロ波プロフィールメータの開発

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63

3. 製品化のためのプロトタイプ装置の試作に関する研究

3.1. 信号処理部の設計・製作に関する研究

3.1.1. 新型マイクロ波レベル計のための信号処理部の試作と評価

株式会社松島機械研究所、九州大学産学連携センター・間瀬研究室*

村尾 友勝、山本 弘尚、重枝 浩孝、近木 祐一郎*、間瀬 淳

要 約

マイクロ波集積回路(MIC)技術により試作した新型レベル計の信号処理部を設計・製作した。入射マイクロ波が被測定

面(境界面)で反射されるときの反射波の周波数遅れ、および、時間遅れを評価する信号処理ソフト、解析データ表示ソフ

トを設計・製作し、性能評価を行った結果、製品化に必要な条件を満足していることを確認した。

目 的

マイクロ波レベル計として試作したプロトタイプ品の信号処理部を、従来製品を参考として構築し性能評価を行うことによ

り、実用化および製品化のための準備とする。

研究方法

信号処理部は、主にマイクロ波送受信部からのアナログ信号を入力し、A/D 変換・各種演算処理を行い、測定距離を算

出する。この測定距離から、距離に対応した電流信号をユーザーへ出力する処理を行う。また、自己診断機能とシリアル通

信によるステータス出力(測定距離データ、エラー情報等)、メンテナンス機能(パラメータ設定)を装備した信号処理を行う。

信号処理部のハードウエアは、電源ボード・I/Fボード・CPUボードで構成し、ユニバーサル基板を使用し製作評価する。

ただし I/Fボードについては、FM-CW型・パルスレーダー型のそれぞれの測定方式毎に試作を実施する。評価完了後に

CPU ボード部を I/F ボード(MAIN 基板)へ実装し小型化を実施する。図-1 のブロック図を基に試作を実施後、以下の通り

MAIN基板・CPUボード・SUB基板を製作した。製作された基板の写真を図-2に示した。

図-1 信号処理部ブロック図

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研究成果の詳細報告

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図-2 FM-CW方式信号処理基板

研究成果

1) 窓関数処理の効果

スペクトル分布平均の精度はスペクトル分布形状に依存されるため窓関数を使いピーク成分のスペクトル分布を広げ

(周波数分解能を下げ)、ピーク周辺ノイズ成分の影響を少なくする事について検証した。

図-3 窓関数処理なし 図-4 窓関数あり

窓関数処理なしの場合(図-3参照): 鉄板ターゲットからのマイクロ波ビート波 (IF) 信号を AD 変換し FFT 演算した

場合、実ピーク周辺にノイズ成分が確認される。これはビート波信号のひずみ等が考えられる。

窓関数処理ありの場合(図-4参照): 鉄板ターゲットからの IF信号を AD変換し、窓関数処理後 FFT演算した際、ピー

ク成分のみのスペクトル分布形状になっていることが確認できる。これは、窓関数によって周波数分解が下がり、ピーク成分

のスペクトル分布形状(メインローブ)が広がり、実ピーク周辺のノイズ成分が1つのなだらかなピーク成分となることによる。

以上のことから、窓関数を使用することによりピーク周辺ノイズ成分が緩和されピーク成分のみのスペクトル分布平均処

理が可能になった。

2) スペクトル分布平均の精度検証

窓関数で広げたピーク成分で分布平均処理を行った精度と、ピークのみの計算値の比較を行った。方法として、鉄板タ

ーゲットを 3mから 5mm毎に移動させてスペクトル分布平均周波数を確認した。

分布平均処理未使用時(図-5参照): IF信号は、FFTピークによる計算の為 FFT分解能に依存する。このため、

鉄板ターゲットを移動しても IFの変化を FFT分解能でしか追従できないため IFは階段状にしか変化しない。

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新方式マイクロ波プロフィールメータの開発

研究成果の詳細報告

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図-5 分布平均処理未使用時の測定距離と周波数の関係

分布平均処理使用時(図-6 参照): IF は、スペクトル分布の中心で算出しているため、IF 信号の変化をスペ

クトル分布全体で見ることになる。このことから mm単位での距離変化による IF信号の変化に追従可能である。

図-6 分布平均処理使用時の測定距離と周波数の関係.

他の FFT分解能での精度(図-7参照): FFT分解能を下げた場合でも、鉄板ターゲットを 3mから 5mm毎に移

動させてスペクトル分布平均周波数が鉄板ターゲットの移動に対し、追従するかを確認した。

図-7 分布平均処理使用時の測定距離と周波数の関係.

FFT 分解を下げた場合においても、分布平均値は距離変化によるビート波信号の変化に追従可能であり、mm 単位の

変化にも測定ビート周波数が変化していることを確認した。FFT 分解を下げることが可能となった事から、結果的に演算速

度についても向上させる事が可能となった。

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3. 製品化のためのプロトタイプ装置の試作に関する研究

3.2. プロトタイプ装置の試作に関する研究

3.2.1. 新型マイクロ波レベル計の試作と評価 株式会社松島機械研究所、九州大学産学連携センター・間瀬研究室

* 村尾 友勝、山本 弘尚、重枝 浩孝、近木 祐一郎

*、間瀬 淳

* 要 約

マイクロ波集積回路(MIC)技術により試作した新型レベル計に信号処理部を搭載し、全システムとしての評価を実施し、

目標性能を達成していることを確認した。周波数変調形(FM-CW)レーダー方式に対しては、実際に製品化を進めた。

目 的

マイクロ波レベル計の全システムを組み立てた後、所定の評価を行い、実用化レベルに達しているか確認することを目的

としている。

研究方法

最初に本用途(溶鉄の液面レベル測定)に適したアンテナの決定を行った後、FM-CW 方式レベル計の試験を行った。

アンテナ部は、比較的安価に製作可能で放射角が広いホーンアンテナと、指向性が鋭く高利得なパラボラアンテナのうち、

フィードホーンと副反射鏡を使用したカセグレンアンテナについて試作し評価を行う。ホーンアンテナは金属のみで形成さ

れていることから、高温環境化に対応可能であり、またアンテナ部の材質を変更することにより、腐食性ガスが発生する環

境下にも対応可能である。カセグレンアンテナは、既存のホーン給電と同軸ケーブルを組み合わせた物とは異なり、金属

のみで構成されていることから高利得、鋭い指向性を維持したまま、高温環境化でも対応可能なアンテナである。

研究成果

まず、アンテナについて特性測定を実施した。結果をそれぞれのアンテナ形態について記述する。

ホーンアンテナ: 試作した、ホーンアンテナに誘電体レンズの有無によるアンテナの放射パターン測定結果を示す。

誘電体レンズを使用することによりビーム幅が絞られていることを確認する事ができる (図-1参照)。

測定条件:INPUT=25 dBm, D=1 m

ディテクター=方形波

図-1 円錐ホーンアンテナ放射パターン測定結果

半値ビーム幅 レンズなし レンズあり

-10° -9° -3dB

+12° +9°

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カセグレンアンテナ: カセグレンアンテナは、既存製品のφ540mm主反射鏡を利用し、副反射鏡・フードホーンのそれ

ぞれの寸法及び取り付け位置を検討し製作した (図-2 参照)。また、アンテナ利得および半値ビーム幅は所望の特性を得

ることが可能である事を確認した (図-3参照)。

図-2 カセグレンアンテナ

図-3 カセグレンアンテナ放射パターン測定.

次に、FM-CW 方式のマイクロ波レベル計の試作と特性評価を行った。

鉄板ターゲット測定: FM-CW 方式については、今回製作したカセグレンアンテナと組み合わせ、3m→16m までの鉄

板ターゲット試験を行った。結果、既存製品±50mm の測定精度に対して、今回開発した製品は、±10mm の精度を達成

することが出来た。(表1参照)

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新方式マイクロ波プロフィールメータの開発

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表1 鉄板ターゲット試験. 3m→16m 測定時

距離(m) 測定距離(m) 測定誤差(m) 備考

3 3.010 +0.010

4 4.001 +0.001

5 5.004 +0.004

6 6.010 +0.010

7 7.001 +0.001

8 7.999 -0.001

9 8.999 -0.001

10 10.000 ±0.000

11 10.996 -0.004

12 11.991 -0.009

13 12.995 -0.005

14 13.997 -0.003

15 14.994 -0.006

16 15.998 -0.002

溶銑レベル測定: 製鉄所内の高炉設備におけるトピードカー溶銑レベル計測定を既存製品と同様の環境化で使用し、

測定値の比較を行った。実際取り付けた状態の写真と比較結果をそれぞれ図-4 および図-5 に示す。今回開発した製品

は既存製品の測定値とよく一致していることが確認できる。

図-4 溶銑レベル計測時の取付状態. 図-5 既存製品と開発品の溶銑レベル計測結果.(縦軸 1V:測定距離

6.2m 5V:測定距離 0m)

溶融物レベル測定: 高温ごみ焼却を行う設備における焼却炉内の溶融物のレベル計測を、接触型の従来製品(測

定錘が原料面に接触することによって計測を行う)と同様の環境化で使用し、測定値の比較を行った。その結果を

図 55 に示す。今回開発した製品は従来製品の測定値とよく一致しており、かつ連続測定が可能となっている。

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図-6 既存製品と開発品の溶融物レベル計測結果(赤:開発品、青:従来製品)

考 察 新方式レベル計の総合試験を行い、実用化レベルに達していることを確認することができた。レベル計は、非接触で液

体や固体などのレベルを測定するもので、装置のコンパクト化、低価格化,および高性能化を目標として、システム各部

(発振器、伝送線路、検出器、増幅器)の集積化(MIC 化)を進めた。入射波として周波数掃引波、短パルス波を用いたレ

ーダー方式に対して実地試験を行った結果、空間分解~1cm を実現することができた。特に周波数掃引(FM-CW)方式

は既に製品化が完了し 20システム以上販売されている。

成果の発表

口頭発表

招待講演

1. A. Mase: 「Microwave Diagnostics and Application」 Invited Lectures, Summer School for Diagnostics for Fusion Plasmas, Taejeong, Korea, 2004年 8月27日.

2. 間瀬淳: 「マイクロ波プロフィールメータの開発と応用」 西日本総合展示場(北九州市), 産学実用化研究成果

発表会, 2004年 11月 18日.