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受信空中線共用器ORA-19 シリーズの開発・装備
三波工業株式会社
吉武 和久
赤堀 武史
米山 俊一
1 はじめに
受信空中線共用器 ORA-19 シリーズ(以下「本装置」という)は、海上自衛隊艦船の地上波無線
通信において長年の懸案事項であった自艦搭載の送受信機相互間の干渉問題を解決すると共
に、優れた空中線共用の機能と性能によって、空中線装備数の大幅な削減が可能となった。これ
により、艦船の通信能力の著しい性能向上に貢献することができた。
2 開発の背景
2.1 本装置が装備される前の状況
(1) 艦船の短波通信における問題点
艦船で運用される短波通信(1.8~30MHz)は送信電力が極めて大きく、自艦が送信した電
波(以下、干渉波という。)によって受信空中線付近に強電界が発生し、受信空中線に接続さ
れた共用器または受信機に希望波(受信したい微弱な電波)よりも極めて大な信号が入力され
てしまい、受信機側で混変調や感度抑圧といった受信障害を起こす原因になっていた。
また、それまでの共用器は、空中線の受信信号を受信機が必要とする数に分配し、分配によ
って生じた損失分を増幅器で補償する分配増幅方式を採用していた。この方式は回路構成が
簡単で安価にできる一方、強力な干渉波によって増幅器やリミッター(過大入力保護回路)が
飽和し混変調を起こすという欠点とともに、受信信号の分配数にも制限があった。
これらの干渉波の影響は、送信空中線と受信空中線を離隔配置することで軽減されるが、艦
船の限られた装備スペースでは十分な離隔が困難であった。
(2) 通信回線の増加に伴う空中線共用化と性能の向上
63DDG「こんごう」(平成 5 年 3 月就役)では、日本初のイージスシステム導入と併せて、無線
通信能力の向上が必要となり、通信回線の増加による空中線の共用化と性能向上が重要な課
題となった。
2.2 新しい共用方式の開発
これらの解決策として狭帯域な通過特性を持つ周波数可変型バンドパスフィルタ(以下、BPF
という。)方式に着目し、その開発に着手することとなった。
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(1) BPF を使用した新しい共用方式の特徴
BPF 方式の特徴は、受信機1台に BPF を1台割当てて複数の BPF を本装置の筐体に組込
み、1本の受信空中線信号を複数の BPF にディジーチェーン方式で接続して共用回路を構
成するものである。
この方式は、BPF の同調周波数を受信周波数に合わせることによって、希望波だけを受信
機に伝送し、BPF の通過帯域外の信号除去機能によって干渉波を除去するものである。
更にこの方式では、受信感度の優れた1本の空中線を数多くの受信機で共用できるため、
通信能力向上と空中線装備数の削減が可能になる。
BPF ディジーチェーン接続方式を図 1 に示す。
図 1 BPF ディジーチェーン接続方式
(2) BPF と共用回路の開発
BPF と共用回路の開発にあたり、干渉波の信号強度や受信機の接続数、性能等を調査し、
BPF や共用回路の性能目標を立て、試作設計を開始した。
ここで課題となったのは、干渉波の信号強度が数十ワットと大きいため、BPF の周波数同調
回路に半導体が使用できず、代替となる素子を開発する必要があったことである。
一般的な受信系同調回路では、可変容量ダイオード等の半導体を使用して回路の小型化を
図るが、強力な干渉波が入ると半導体が飽和し高調波を発生して混変調を引起してしまうため、
半導体を使用しない小型の同調回路を開発する必要があった。
このため、当時としては既に使用されなくなってきた可変コンデンサ(通称、バリコン)やインダ
クタンスコイル等を、部品メーカの協力を得て新規に開発試作を繰り返した結果、約 1 年後に
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電気的性能を満足するものを完成することができた。
更に、量産時においても試作品の性能と同じチャンピオンデータが確保できるよう改良を加
え、艦船の振動や温湿度変化によって性能が劣化しないよう電線や筐体の材質にも気を配り
ながら試作品の改良と製品設計を行い、約1年半後に初号機が完成し、「こんごう」に装備され
た。
初号機のBPFは、短波帯(1.8~30MHz)を 4バンドに分け、1.8~6MHzで使用するBPF-L、
4~12MHz で使用する BPF-M、10~17MHz で使用する BPF-H、17~30MHz で使用する
BPF-S の 4 種類をカジュアルに接続替え可能なコネクタパネルを設けたが、BPF を手動で周
波数同調する必要があったため、BPF の広帯域化と自動同調機能の追加が望まれていた。
(3) ソフトウエア無線機と LAN の導入に合わせた開発
16DDH「ひゅうが」(平成 21 年 3 月就役)からソフトウエア無線機が装備されることになり、こ
れに併せて開発したのが新型の ORA-19B である。
ORA-19B では、これまでの BPF 同調回路を改良して 1種類の BPF で 1.8~30MHz の同調
を可能にした他、有線 LAN を使用することによって、BPF の周波数同調をソフトウエア無線機
と連動できる自動同調機能を追加すると共に、本装置の遠隔制御・監視機能、自己診断機能
等を追加した。
これによって、これまでの ORA-19 は1筐体であったが、ORA-19B からは、BPF を内蔵した
共用器を機器室等に装備し、遠隔制御と監視を行うための管制器を電信室に装備することが
可能となった。
3 ORA-19 シリーズのバリエーション
初号機は「N-CU-192 受信空中線共用器」という型式で 63DDG「こんごう」に装備され、2 号機
から「ORA-19 受信空中線共用器」に型式変更された。
ORA-19 シリーズは、装備する艦船の種類に応じて内蔵する BPF の台数が異なる型式を製造
し、15 年度艦までは ORA-19 及び ORA-19-1、16 年度艦以降は ORA-19B、ORA-19B-1 及び
ORA-19B-2 が装備されている。
本装置の装備艦船は、表1のとおりである。
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表1 ORA-19 シリーズ装備艦船 (H25 年 11 月現在)
番号 機器型式製造数
(式)装 備 艦 船
1 N-CU-192 1 63DDG
2 ORA-19 1902DDG,03DD,03DDG,04DD,05DDG,06DD×2,07DD×2,
08DD,09DD×2,10DD×2,11DD,12DD,13DD,14DDG,15DDG
3 ORA-19-1 1204TV,04ASE,06MST,07MST,05LST,08AGS,08ASR,09ATS,
10LST,11LST,12AOE,13AOE
4 ORA-19B 3 16DDH,18DDH,22DDH(建造中)
5 ORA-19B-1 5 17AGB,19DD,20DD,21DD×2
6 ORA-19B-2 2 19AGS,21ASR
合計 42
4 ORA-19 シリーズの役割
本装置の優れた干渉除去機能と空中線共用機能並びにその性能によって、送受信機相互間
の干渉問題と通信回線の増加による空中線の共用化と性能向上を一気に解決した。
これにより、短波通信能力の著しい性能向上に貢献するとともに、本装置によって艦艇の空中線
装備数の大幅な削減が実現できたため、他の艦載装備品の装備自由度の向上に大きく貢献でき
た。
艦船におけるORA-19シリーズの装備前と装備後の短波帯共用受信空中線の装備配置の比較
を表2に示し、ORA-19 及び ORA-19B の外観を図 2に示す。