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- - 初等理科 1 初等理科 問題解決の能力の育成を目指す理科学習 -考察する場面を重視した授業づくりを通して- 平成20年度 初等理科研究グループ 専門研究員 大和町立小野小学校 千葉 潤一 岩沼市立岩沼中学校 軽部 敦子 栗原市立築館小学校 八巻 石巻市立石巻小学校 武田 真弥 指導主事 企画研究班 狩野 孝信 企画研究班 和宏 本研究は,問題解決の能力の育成を目指して,問題解決の過程を 「つかむ 「調べ る 「考察する」の3つの場面ととらえ,特に 「考察する」場面を重視した授業づく りを提案していく。その際,問題解決の過程全体における児童の意識の流れを踏まえた 教師の働き掛けを工夫し,授業実践を通して,その有用性を検証していく。 主題設定の理由 我が国における教育の課題については,教育課程実施状況調査やTIMSS調査,PISA調査の結果の分 析を通して議論されてきた。理科教育においては,学習に対する意欲は他の教科と比較して高いが, 必要感の意識が低いことや自然の事物・現象を科学的に考えたり,説明したりすることに課題が見ら れる。そして,新学習指導要領では,理数教育において,考えたり説明したりする力の育成がより一 層求められていることが明示された。 また,本県の児童においては,平成19年度宮城県学習状況調査の結果から,読解力や表現力,活用 する力などが弱いことが明らかになっている。特に理科に関しては,図やグラフに示しながら,実験 結果を記録・処理する力,それぞれの実験の条件や結果を比較したり,関連付けたりして考える力, 考察したことを文章で表現する力などを身に付けさせていく必要がある。 一方,宮城県教育研修センターの初等理科研究グループでは,昨年度まで40年間にわたり,本県初 等理科教育の充実・改善を図ることを目的として科学巡回訪問を実施してきた。児童を対象にした理 科教室では,観察,実験や身近な素材を使ったものづくりを行ってきている。また,教員対象研修会 では,児童の学習意欲を高めるための授業展開例,観察,実験を確実に行わせるための留意点,効果 的な教材・教具の活用の仕方などを紹介してきている。その結果,児童の理科に対する興味・関心を 膨らませたり,教員の理科指導に対する意欲を高めたりすることに効果が見られた。しかし,授業づ くりの支援はできたものの,実際の授業がどのように実践されているのかは把握できなかった。 そこで,本年度,本センター小学校理科研修会受講者48名を対象にして理科指導に関するアンケー トを実施した。その結果を見ると,これまでの指導では,問題解決の過程の「観察,実験をする」や 「予想する」段階に重点を置いて授業づくりをしてきている教員が多いことが分かった。また,今 後は「考察する 「結果をまとめる」段階を大切にした授業づくりを行いたいと考えていることも分 かった。このことは,初等理科研究グループ4人のこれまでの実践を振り返ったときも同様である。 観察,実験は行わせるものの,結果が出たことや,結果を教師とともにまとめさせることで,学習の ねらいを達成したととらえることが多かった。結果を目の前にした児童が,それをどのように受け止 めているのかを十分に考えないまま 授業を進めてしまう傾向があった つまりこれまでの学習では

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- -初等理科 1

初等理科

問題解決の能力の育成を目指す理科学習

-考察する場面を重視した授業づくりを通して-

平成20年度 初等理科研究グループ

専門研究員 大和町立小野小学校 千葉 潤一

岩沼市立岩沼中学校 軽部 敦子

栗原市立築館小学校 八巻 秀

石巻市立石巻小学校 武田 真弥

指導主事 企画研究班 狩野 孝信

企画研究班 金 和宏

概 要

本研究は,問題解決の能力の育成を目指して,問題解決の過程を 「つかむ 「調べ, 」

る 「考察する」の3つの場面ととらえ,特に 「考察する」場面を重視した授業づく」 ,

りを提案していく。その際,問題解決の過程全体における児童の意識の流れを踏まえた

教師の働き掛けを工夫し,授業実践を通して,その有用性を検証していく。

1 主題設定の理由

我が国における教育の課題については,教育課程実施状況調査やTIMSS調査,PISA調査の結果の分

析を通して議論されてきた。理科教育においては,学習に対する意欲は他の教科と比較して高いが,

必要感の意識が低いことや自然の事物・現象を科学的に考えたり,説明したりすることに課題が見ら

れる。そして,新学習指導要領では,理数教育において,考えたり説明したりする力の育成がより一

層求められていることが明示された。

また,本県の児童においては,平成19年度宮城県学習状況調査の結果から,読解力や表現力,活用

する力などが弱いことが明らかになっている。特に理科に関しては,図やグラフに示しながら,実験

結果を記録・処理する力,それぞれの実験の条件や結果を比較したり,関連付けたりして考える力,

考察したことを文章で表現する力などを身に付けさせていく必要がある。

一方,宮城県教育研修センターの初等理科研究グループでは,昨年度まで40年間にわたり,本県初

等理科教育の充実・改善を図ることを目的として科学巡回訪問を実施してきた。児童を対象にした理

科教室では,観察,実験や身近な素材を使ったものづくりを行ってきている。また,教員対象研修会

では,児童の学習意欲を高めるための授業展開例,観察,実験を確実に行わせるための留意点,効果

的な教材・教具の活用の仕方などを紹介してきている。その結果,児童の理科に対する興味・関心を

膨らませたり,教員の理科指導に対する意欲を高めたりすることに効果が見られた。しかし,授業づ

くりの支援はできたものの,実際の授業がどのように実践されているのかは把握できなかった。

そこで,本年度,本センター小学校理科研修会受講者48名を対象にして理科指導に関するアンケー

トを実施した。その結果を見ると,これまでの指導では,問題解決の過程の「観察,実験をする」や

「予想する」段階に重点を置いて授業づくりをしてきている教員が多いことが分かった。また,今

後は「考察する 「結果をまとめる」段階を大切にした授業づくりを行いたいと考えていることも分」

かった。このことは,初等理科研究グループ4人のこれまでの実践を振り返ったときも同様である。

観察,実験は行わせるものの,結果が出たことや,結果を教師とともにまとめさせることで,学習の

ねらいを達成したととらえることが多かった。結果を目の前にした児童が,それをどのように受け止

, 。 ,めているのかを十分に考えないまま 授業を進めてしまう傾向があった つまりこれまでの学習では

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- -初等理科 2

問題解決の能力の育成を目指す理科学習

考察する場面が,教師の指示に従うだけの形式的なものになっていたのではないかと考えることがで

きる。

新小学校学習指導要領解説理科編では,理科の目標に「実感を伴った(理解 」という文言が付加)

された。実感を伴った理解とは,具体的な体験を通して形づくられる理解であること,主体的な問題

解決を通して得られる理解であること,実際の自然や生活との関係への認識を含む理解であることが

挙げられている。また,目標が問題解決の流れに沿って,大きく3つの重点に整理されている 「自。

然とのかかわりの中で,主体的に問題を見いだす学習活動 「自然の事物・現象と科学的にかかわる」

中で,問題解決の能力や態度を育成する学習活動 「学んだことを生活とのかかわりの中で見直し,」

実感を伴った理解を図る学習活動」である。

このことから,問題解決の過程に着目し,これらの3つの重点から問題解決の過程を整理していき

たいと考えた。その上で,実際の自然や生活との関係への認識を含む理解を図るためには,3つ目の

重点である「学んだことを生活とのかかわりの中で見直し,実感を伴った理解を図る」場面を考察す

, 。 , ,る場面ととらえ 重視していきたいと考える これは 国や県の課題や教員の意識とも合致するため

考察する学習活動の充実を図ることで,問題解決の能力を育成したいと考えた。

そのためには,問題解決の過程が,主体的な問題解決の活動でなければならない。それは,考察す

る学習活動が充実したとしても,児童自らが見いだした問題意識に沿って予想や方法などの見通しを

もち,主体的に観察,実験に取り組んでいなければ,考察する必要感が生まれないからである。問題

解決の過程を児童の意識の流れから見直し,新学習指導要領で3つの重点に整理されているそれぞれ

の場面の充実を図ることが,主体的な問題解決の活動となると考える。その上で,結果を整理し,考

え,結論を得るといった考察する場面を重視していきたいと考えた。

そこで,問題解決の過程全体を踏まえながら,考察する場面での教師の働き掛けを工夫していくこ

とで,問題解決の能力を育成していく。そのことにより,児童はさらに主体的に問題解決の活動に取

り組み,考えたり説明したりする力が高まり,小学校理科の目標である「科学的な見方や考え方を養

う」ことができるようになると考え,本主題を設定した。

2 研究目標

問題解決の能力を育成するために,問題解決の過程の考察する場面を重視し,児童の意識の流れを

踏まえた教師の働き掛けを工夫した授業づくりについて検証し,提案する。

3 主題,副題について

3.1 「問題解決の能力」とは

新小学校学習指導要領解説理科編によれば,児童が自然の事物・現象に親しむ中で興味・関心をも

ち,そこから問題を見いだし,予想や仮説の基に観察,実験などを行い,結果を整理し,相互に話し

合う中から結論として科学的な見方や考え方をもつようになる過程が問題解決の過程として考えられ

ており,このような過程の中で,問題解決の能力が育成される。そして,これが目標の中に位置付け

られている。表1は,新小・中学校学習指導要領解説理科編に示された目標の解説をまとめたもので

ある。これを,本研究では問題解決の能力とする。

表1 小学校・中学校で育成する問題解決の能力

第3学年 自然の事物・現象の差異点や共通点に気付いたり,比較したりする能力

小 第4学年 自然の事物・現象の変化とその要因とを関係付ける能力

学 第5学年 変化させる要因と変化させない要因を区別しながら,観察,実験などを計画的に

校 行っていく条件制御の能力

第6学年 自然の事物・現象の変化や働きについてその要因や規則性,関係を推論する能力

中 学 校 結果を分析して解釈する能力や,導き出した自らの考えを表現する能力

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- -初等理科 3

問題解決の能力の育成を目指す理科学習

これらの問題解決の能力は,その学年で重点的に育成するものだが,以降の学年における問題解決

の能力の基盤となるものであり,学年が進むにつれて積み上がっていく能力である。つまり第6学年

では,第3学年から第6学年までの問題解決の能力を身に付けた状態を目指すことになる。

理科の学習の最初である第3学年では,自然事象に出会ったときに,まず実際に見たりさわったり

するなど体感する。そして,自然事象の特徴やきまりに気付いていく。そのために,2つの事象を取

, 。 , ,り上げて 同じところや違うところを見付けていく活動が比較することである その際 形や育ち方

暖かさなど調べる視点を明確にもたせて学習を繰り返していくことで 「比較する能力」が育ってい,

くと考える。

例えば 「昆虫の体のつくりは,どれもチョウの体のつくりと同じだろうか」という問題を解決す,

るために,チョウといろいろな昆虫の体を比較していく。その際,体の分かれ方や足,はねの数など

を調べるように,比較の視点を与える。その結果,児童は昆虫の体の特徴やきまりに気付いていくよ

うになる。

第4学年では,比較することに加えて,自然事象の変化に着目する。そして,自然事象の性質や変

化,規則性に気付いていく。そのために,様々な変化にかかわる要因を見いだしていく活動が,変化

とその要因とを関係付けることである。その際,まず,自然事象で変化していることを見付けさせ,

それが何によって変化するのか考えさせる。そして,その変化と要因とをかかわらせながら観察,実

験に取り組ませることで 「変化とその要因とを関係付ける能力」が育っていくと考える。,

例えば 「水も,あたためられると,かさが大きくなるだろうか」という問題を解決するために,,

温度と水のかさの変化とを関係付けながら調べていく。その際,水を温めたり冷やしたりしたときの

水面の動きに着目させながら,水のかさの変化を調べさせていく。その結果,児童は温度変化と水の

体積変化との関係に気付いていくようになる。

第5学年では,自然事象の変化とその要因を関係付けることに加えて,自然事象の変化にかかわる

条件に着目する。そして,生命の連続性や変化の規則性に気付いていく。そのために,複数の要因の

中から,観察,実験の条件を選択する活動が条件を制御することである。その際,自然事象の変化に

関係する要因を,多様にとらえさせることが大切である。さらに,この条件で観察,実験を行えば,

問題が解決するだろうという予想や仮説を立てさせてから観察,実験に取り組ませる学習を繰り返し

ていくことで 「条件制御の能力」が育っていくと考える。,

例えば 「植物の発芽に必要なものは何か」という問題を解決するために,水や空気,養分,土な,

ど多様な要因の中から,観察,実験の条件を選択して調べていく。その際,観察,実験の結果を予想

させた上で,計画的に観察,実験に取り組ませていく。その結果,児童は植物の発芽条件や成長の規

則性に気付いていくようになる。

第6学年では,条件を制御することに加えて,自然事象の見えにくい現象や様子に着目する。そし

て,自然事象の性質や規則性,相互関係に気付いていく。そのために,見えにくい現象や様子を,経

験や観察,実験の結果から予測する活動が推論することである。その際,見えにくいものの状態や性

質を見えるようにしたり,確認したりするための方法などを考えさせることが大切である。さらに,

得られた結果を一般化したり,全体をとらえたりするために考察する学習を繰り返していくことで,

「推論する能力」が育っていくと考える。

例えば 「ものが燃えた後の空気はどうなっているか」という問題を解決するために,燃焼前と後,

の空気の違いを調べる。その際,石灰水で調べたり,気体検知管で測定したりすることによって,空

気の変化を確認し,その結果から言えることを考察させる。その結果,児童は燃焼における空気や物

質の変化,燃焼と空気の関係に気付いていくようになる。

これらの小学校で培った問題解決の能力は,中学校における結果を分析して解釈する能力や,導き

出した自らの考えを表現する能力を育成することにつながっていく。

以上のことから 「問題解決の能力」は,第3学年から第6学年,そして中学校へと発達段階に応,

じて育成していくことが大切だと考えられる。しかも,前学年で培った能力を土台にして,系統的に

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- -初等理科 4

問題解決の能力の育成を目指す理科学習

発展させていくことが必要である。また,内容区分や単元の特性によって扱い方が異なることにも留

意する必要がある。

3.2 「考察する場面を重視した」とは

本研究では,図1のように「自然事象と出会う」から始まり,児童の意識の流れにしたがって「広

げる」までの11の段階を,一連の問題解決の過程ととらえている。そして,この問題解決の過程を,

「つかむ 「調べる 「考察する」の大きく3つの場面として設定することにした。」 」

これらの場面を新学習指導要領の3つの重点で説明すると 「つかむ」は 「児童が身近な自然を, ,

対象として,自らの諸感覚を働かせ体験を通した自然とのかかわりの中で,自然に接する関心や意欲

を高め,そこから主体的に問題を見いだす場面」ととらえる 「調べる」は 「児童が見通しをもっ。 ,

て観察,実験などを行い,自然の事物・現象と科学的にかかわる中で,問題解決の能力や態度を身に

付ける場面」ととらえる 「考察する」は 「児童が観察,実験などの結果を整理し,考察,表現す。 ,

る活動を行い,学んだことを生活とのかかわりの中で見直し,自然の事物・現象についての実感を伴

った理解を得る場面」ととらえる。

この問題解決の過程の中で,問題解決の能力が育成される。しかし授業で考えると,いつでも一連

の問題解決の過程の11段階すべてを行うわけではない。また,問題解決の過程すべてを行うことだけ

に終始すると,過程だけが形式化され,主体的な問題解決の活動にならないことも考えられる。そこ

で 「つかむ 「調べる 「考察する」と大きい場面でとらえて 「何をどのようにつかませて,何を, 」 」 ,

どのように観察,実験させて,何をどのように考察させるのか」のように,それぞれの場面での図1

に示すような教師の働き掛けが大切であると考える。

,「 」「 」「 」 , ,また つかむ 調べる 考察する 場面のそれぞれの関係を 児童の意識の流れから考えると

次のようになる 「つかむ」ことにより,問題解決への意欲が高まり,方向性が見える。つまり 「何。 ,

。 」 ,「 」とかして~を調べたい きっと~になるのではないか のように焦点化された問題意識が 調べる

「考察する」場面への原動力となっていく。そして目的意識をもって「調べる 「考察する」必要感」

が生まれてくる。自ら「調べる 「考察する」ことで 「自分の予想通りだった 「自分の予想とは違」 , 」

っていた」と振り返ったり 「自分が最初にもった疑問や全員の問題が解決されてよかった」のよう,

に「つかむ」場面に戻り,満足感や充実感をもったりすることができる。このような振り返りや満足

感,充実感が次の問題解決へのさらなる原動力になっていくものと考える。児童の意識をこのように

高めていくためには,それぞれの場面での教師の働き掛けが重要である。

以上のように 「つかむ 「調べる 「考察する」の一連の問題解決の過程を授業のひとまとまりと, 」 」

考えている。このひとまとまりは,基本的に45分間の1単位時間で設定するが,常に1単位時間とい

うわけではなく,60分間や2単位時間などに設定する場合もある。それは,多様な児童の意識を,本

時のねらいに沿って方向付けていくために,調べる時間や話し合う時間などを十分に保障する必要が

あると考えるからである。ただし,単に多く時間を確保するという考えではなく,あくまでも児童の

意識を大切にして,ポイントを絞った働き掛けをしていく。

これらの問題解決の過程と時間配分を考えた上で,特に 「考察する」場面を重視していきたいと,

考える。これは,国や県の課題や教員の意識をとらえたこと,児童が主体的に問題解決の活動に取り

組むことによって,説明したり,考えたり,表現したりする力を高めていきたいと考えたことからで

ある。また,実際の授業場面では,観察,実験をして結果を出すものの 「どういうことが分かった,

のかな 「どのようにまとめればいいのかな」のように,一つ一つの学習活動を関係付けられずにい」

る児童が多いと感じている。さらに,小学校理科研修会受講者を対象にしたアンケートからは,時間

的余裕が少ないことや,指導の仕方がよく分からないなどの理由から 「考察する」場面に重点を置,

いていなかったという結果が見られた。

そこで 「考察する」場面を重視した授業を工夫していくことで 「つかむ 「調べる」場面に戻り, , 」

,「 」 「 」 , ,ながら 自然事象と出会う から 広げる までの学習が 一連の問題解決の過程としてつながり

主体的な問題解決の活動になるのではないかと考えた。

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- -初等理科 5

問題解決の能力の育成を目指す理科学習

段 階 ・児 童 の 意 識 □教師の働き掛け( 」は発問・指示)「

(既有の経験や知識との矛盾などを生み出す自然自然事象と ・見たことがないな 事象の提示)出会う ・これは見たことがある

( ,・じっくり見たことはない □自然事象で気付かせたいところ 矛盾を生む知識を掘り起こす,驚きや疑問をもたせる)つを見るための指示をする。

気付き・疑問を ・あれ?どうしてだろう? 「~のところを見てみましょう」もつ ・なぜ,そうなるの?か

□気付きや疑問を問題意識まで高めるために,話合いの観点(多様な気付きや疑問を集約す

問題を見いだす ・どうなるか確かめたい る観点,問題につながる観点)を提示して話む・何とかして~を調べたい し合わせる。・Aを~すると,Bになる 「~について話し合いましょう」のではないか

(本時の問題) ~は(~すると , ~なのだろうか。)

□根拠をもった予想を立てさせるため,生活経験や既習内容を振り返らせる発問をする。

予想する ・前に経験した~と似てい 「生活の中で経験したことや今まで習った学るから~だと思う 習から,理由を考えましょう」

・いや,~から考えると,多調分~だと思う □見通しをもって観察,実験させるために,仮

説を立てさせる発問をする。「もし,結果が~になれば,どんなことが言べ

方法を考える ・~すれば~になると思う えるのでしょうか」・もし~になれば~と考えればいいんだ □観察,実験の前に,見たり記録したりする観る

点(比較,要因,条件など)を指示する。「実験中は,~をよく見ましょう」

観察,実験する ・~に気を付け実験しよう 「~について記録しましょう」・~が変わってきたよ・時間を追って記録しよう

□項目(比較,要因,条件など)を吟味した表やグラフなどに記録させる指示をする。

結果を整理する ・分かりやすく表にしよう 「~と~について,表(グラフ)にまとめま・~と~に分けて記録する しょう」んだ

・調べたことはこうなんだ □問題解決の能力につながる発問をする。3年比較「 ( ) 」~と~の同じ 違う ところは何でしょう

考 4年変化と要因の関係付け「 」~が変わったとき~はどうなったでしょう5年条件制御

考える ・CとDを比べて考えると 「~の条件のとき,どうなったでしょうか」察 ~ということが言える 6年推論

・~の条件のとき~になる 「~から,どんなことが言えるでしょうか」・予想通りだった・疑問が解決してよかった □問題文を振り返って分かったことを簡潔に文

す にまとめる指示をする (3,4年生はキーワ。ードを提示,5,6年生はなし)

結論を得る ・問題文に合わせて書いて 「~の言葉を使ってまとめましょう」みよう

□個人でまとめた結論を基に,科学の言葉や用る ・分かったことは~だ語を適切に用いて,学級全体でまとめる指示をする。

まとめる ・先生と一緒にみんなでま 「今日のまとめは,~です」とめよう

・言葉を正しく使おう □生活や次の学習に目を向けさせる教材・教具を提示し,結論とかかわる発問をする。「~を利用した物には何がありますか」

広げる ・~に生かされているんだ 「~についてはどうなのでしょうか」・家でも~をやってみよう・次の勉強では~を試そう ( は,児童の意識を踏まえた教師の働き掛けの

かかわり)1

図1 本研究でおさえる問題解決の過程

「 ( ) 『 』( )」1

中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会 第4期第11回 配付資料4-2 問題解決の過程の例 平成19年9月25日

を参考に,初等理科研究グループが作成。

場 面

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- -初等理科 6

問題解決の能力の育成を目指す理科学習

そのために,図1で示したように 「考察する」場面を 「結果を整理する 「考える 「結論を得, , 」 」

る 「まとめる 「広げる」ととらえ,特に「結果を整理する 「考える 「結論を得る」の段階での」 」 」 」

教師の働き掛けを大切にしていきたい。

「 」 , , , 。結果を整理する 段階では 観察 実験の結果を 項目を吟味した表やグラフなどに記録させる

,「 , 」 , ,児童は 調べたことは こういうことだったんだ のように 調べる観点や条件を振り返りながら

結果を整理することによって,考える土台ができてくる。そして 「考える」段階では,観察,実験,

の結果を予想や方法に対応させながら,問題解決の能力(比較,変化と要因の関係付け,条件制御,

推論)につながる発問をする。そうすることによって,児童は 「結果から~が言える。予想通りだ,

った」のように,問題解決の能力を高めたり,予想の一致,不一致を確認したりする。最後の「結論

を得る」段階では,整理し,考えたことから分かったことを簡潔に文にまとめさせる。そうすること

, ,「 」 , 。で 児童は 今日の学習で分かったことは~だ のように 本時のねらいを達成することができる

また,これが,生活や次の学習につながる土台となる。

児童がこのような問題解決の活動を繰り返すことにより,児童自らが問題意識や見通しをもち,進

んで観察,実験を行い,結論を得て,問題解決の能力を身に付けるようになると考える。

4 研究の内容

4.1 調査研究

問題解決の過程の各段階での指導の実態を把握するために,本センター小学校理科研修会受講者を

対象に理科指導に関するアンケートを実施する。

4.2 実践研究

まず,授業案を作成し,本研究グループ専門研究員が所属校で授業実践を行う。そして,授業での

教師の働き掛けと児童の反応の記録やノートなどを基に,各学年で育成する問題解決の能力が高まっ

たかという点を中心に検証する。次に,科学巡回訪問の午後の教員対象研修会の場で模擬授業として

実践し,授業実践同様に検証する。さらに,専門研究員の所属校,科学巡回訪問校の教員に授業案を

活用してもらい,そのアンケート結果から,授業案の内容や「考察する」場面での教師の働き掛けを

考察する。

5 調査研究の実際

5.1 小学校理科研修会受講者を対象にした理科指導に関するアンケート結果から

本年度の小学校理科研修会受講者48名を対象に5月にアンケートを行った。その内容は,問題解決

の過程の流れを①課題を把握するから⑦新たな課題を見付けるまでの7つの段階とし,どの段階に重

点を置いて指導するかを,これまでと今

後に分けて調査したものである。

図2のアンケート結果より,これまで

の理科指導で,特に重点を置いてきた段

階は 「観察,実験をする」段階が最も,

多く 「考察する 「新たな課題を見付け, 」

る」段階に重点を置いてきた教員は少な

かった。一方,今後,重点を置いて指導

,「 」したいと考えている段階は 考察する

段階が最も多く,次いで 「方法を考え,

る」段階であった。また 「新たな課題,

を見付ける」段階に重点を置きたいと考

0 5 10 15 20 25(単位:人)人 数

①課題を把握する

②予想する

③方法を考える

④観察,実験をする

⑤結果をまとめる

⑥考察する

⑦新たな課題を見付ける

7

12

7

23

9

2

0

3

1216

4

11

21

7

【どの段階に重点を置いて指導しますか】

これまで

今後

図2 理科指導に関するアンケート結果

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- -初等理科 7

問題解決の能力の育成を目指す理科学習

えている教員も7名いた。

その理由を自由記述で回答した内容によると,これまでは,時間的余裕が少ないことや,指導の仕

方がよく分からないなどの理由から 「考察する」段階に重点を置いていなかったという意見が挙げ,

られた。また,今後は,結果を整理したり,考えたことを自分の言葉でまとめたり,結果がどのよう

なことと結び付いているのかを考えさせたりする授業づくりに重点を置いていきたいという意見が挙

げられた。さらに,実験方法をすぐ提示するより,児童にじっくり方法を考えさせれば,実験の取組

やそれ以降の学習が深められると思うという意見も挙げられた。

以上のアンケート結果から,本研究では,問題解決の過程全体を踏まえながら 「考察する 「結, 」

果をまとめる」段階を大切にした授業づくりを提案することが,県内の教員の願いにこたえることに

つながると考えた。

これまでの理科指導の実践を振り返ってみても,考察に時間をかけられないことから,教師がまと

めて終わってしまうことが多かったと思われる 限られた時間の中で 結果をまとめる 段階や 考。 ,「 」 「

察する」段階を大切にした授業づくりをしていくための手だての有効性を探りたいと考えた。

そこで 「考察する」場面を「結果を整理する 「考える 「結論を得る」という段階に設定し,そ, 」 」

こでの教師の働き掛けの在り方を研究していくことにした。

6 実践研究の実際

6.1 授業案について

「考察する」場面を重視した授業

づくりを進める際に,本時のねらい

に迫らせたり,各学年で育成する問

,題解決の能力を高めたりするために

授業案を作成した。

図3が単元の目標と単元の流れで

ある。単元の流れには,場面,学習

活動,それぞれの時間のねらいを記

載した。

,図4が1単位時間の本時のねらい

本時の問題解決の過程,発問・板書

例である。本時の問題解決の過程で

は,学習活動,児童の意識,教師の

働き掛けを具体的に記載した。この

本時の問題解決の過程を授業実践に

つなげるために,発問・板書例を作

成した。発問と板書は,一連の問題

「 」解決の過程をとらえ直した つかむ

「調べる 「考察する」の3つの場」

面で,児童の意識や活動を方向付け

たり支援したりするなどの点で,重

要な役割を果たすと考える。発問例

では,つかむための発問,調べるた

めの発問,考察するための発問に絞

って記載した。さらに,考察するた

めの発問では 「結果を整理する」→, 図3 授業案の内容(単元の目標と流れ)

学 習 活 動 ね ら い

単 元 の 目 標

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- -初等理科 8

問題解決の能力の育成を目指す理科学習

「考える」→「結論を得る」のように,段階を追った発問を記載した。

板書例では,1単位時間の完成した板書を記載した。板書の項目は,問題→予想→実験(観察)→

結果→分かったこと(3,4年生)または結論(5,6年生)とした。

6.2 授業づくりについて

授業案を基に,本センター内で模擬授業を行った後,所属校で授業実践を行った。実践後には,児

童が問題解決の能力を身に付けることができたかという点を中心に,分析を行った。そして,授業案

の見直しを図り,科学巡回訪問の教員対象研修会で,考察する場面の模擬授業として実践し,検証し

た。その後,訪問校の教員にアンケートを依頼し,授業案を活用しての感想や意見を集約し,授業案

の改善を行った。この一連の流れで, 授業づくり1,2,3として実践した。

6.3 授業づくり1

授業づくり1のねらいは 「問題解決の能力の育成につながるための 『考察する』場面での教師, ,

の発問や指示を工夫する」である。

このねらいに迫るために,第5学年「流れる水のはたらき」で授業実践を行った。本単元の特性と

して,流れる水の働きと土地の変化の関係について,野外での直接観察のほか,人工の流れをつくっ

たモデル実験を取り入れて,流れる水の働きについての理解の定着を図ることが挙げられる。

6.3.1 授業実践での検証

(1) 授業の様子( 考察する」場面)「

※ は授業案にある発問学習活動 教師の働き掛け(T)と児童の反応(C) 太字

流 れ る 水 は,地 面 の 様 子 を ど の よ う に 変 え る の だ ろ う か。

結果を整理する T1 どんな実験をしたか,水の流れはどうだったか,地面はどうだっ

たかをまとめましょう。○「実験方法→水の流

図4 授業案の内容(問題解決の過程と発問・板書例)

考察するための発問

1単位時間の板書例

つかむための発問 調べるための発問本時のねらい

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- -初等理科 9

問題解決の能力の育成を目指す理科学習

れ→地面の変化」の (板書から)

順に言葉で整理する C1 C2 C3 C4。

実験 山

カーブ山 山 山で

↓ ↓ ↓ ↓ ↓

○グループごとに結果 水 速い 速かった 速い,にごった カーブ速い

を話し合う。 ↓ ↓ ↓ ↓ ↓

地面 けずれた 山がくずれた くずれた けずれた

考える T2 結局,流れる水は,地面をどのように変えましたか。

○それぞれの実験結果 C5 削った。

から全体で話し合う C6 流れた。。

C7 地面が水をしみこませた。

(2) 考察

個人で結果を整理させるために,T1のように指示

をして,ノートにまとめさせた。その後,全体で話し

, , , ,合わせると C1 C3は 砂山で水を流したところ

水の流れは速く,地面を削ったことをまとめていた。

, , 。C2 C4は 道筋に角やカーブをつくり水を流した

すると,外側の水が速く流れて,外側を削ったことに

気付いていた。これらのことから,T1の指示で結果

を整理させたことで,どのような水の流れがあって,それにより地面がどうなったかのように,結果

を分けてとらえていることが分かる。

つまり 「考察する」場面の第一段階として結果を整理させることは,実験の様々な方法や要因,,

結果を焦点化することになり,次の段階での考えるための材料が明らかになるため,効果があると考

える。ただし,実験の際に 「水の速さを変える(速い,遅い 」という条件を明確にしなかったた, )

め,児童は「速さ」の速い流れだけに目がいき 「削る働き」しか気付くことができなかった。遅い,

流れも意識させれば 「積もらせる働き」に目が向いただろうと考える。人工の流れをつくったモデ,

ル実験では,確実な条件制御が大切であることが改めて分かった。

次に,考えるための発問として,T2のように発問した。すると,C5~C7のような反応が見ら

れた。C5は,削る働きに気付いていたが,C6は,水の流れと地面の変化を混同してとらえている

ことが分かる。また,C7の反応からは 「水が地面をどう変えたか」ではなく,地面の働きとして,

。 , 。 ,考えていることが分かる つまり 流す働きと積もらせる働きに目が向いていないのである これは

速さと量の条件を明確にしない実験であったことと,T2の発問が,これらの働きを引き出す役割を

していなかったためと考える。T2の発問は,整理した結果を再度確認するに過ぎない発問であった

ので,削る働きや他の要素の考えしか出てこなかったのである。

以上のことから 「考える」段階での発問は,本時のねらいに迫らせるものでなければならない。,

, , , ,本時では まず実験前に 水の速さや量の条件を明確にさせた上で 確実なモデル実験として行わせ

「考察する」場面につなげる必要があった。そしてその上で,本時のねらいである「水には削る,流

す,積もらせる働きがある」ということに気付かせる発問をすることが,問題解決の能力を育成する

ことにつながるのではないかということが明らかになった。

6.3.2 科学巡回訪問校での検証

授業実践を受けて 「考察する」場面での教師の働き掛けを変更して,科学巡回訪問校で模擬授業,

を実践した。まず,実験前に 「水の速さ」と「水の量」のどちらかだけを変えるといった条件を明,

確にさせ,どちらかの条件で実験に取り組むことを確認した。これは,この時点で「水の流れをどう

するのか」といった意識をしっかりもたせた上で実験に取り組ませれば,考察させる際,地面の変化

写真1 山を作って調べる 写真2 カーブで調べる

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- -初等理科 10

問題解決の能力の育成を目指す理科学習

に絞って考えることができると考えたからである。

実験後,まず,結果を整理する発問として 「地面のどこが,どうなったかを2段階で整理しまし,

ょう」と働き掛けた。ここでは 「削られた」という結果が多く出てくると考えた。それは,児童の,

意識は,水がもたらす大きな変化に目が向くと考えたからである。児童役の教員からは,予想通り,

「削られた」という意見が多数出てきた。

そこで考える発問として 「削られた土はどうなりましたか」と働き掛け 「流す働き 「積もらせ, , 」

る働き」を引き出したいと考えた。児童役の教員の中には 「結果を整理する」段階で2つの働きに,

気付いていた教員もいたが,この発問によって,全員が2つの水の働きに目を向けることができた。

以下は 「結果を整理する 「考える」段階における授業実践での発問と,科学巡回訪問校での変, 」

更後の発問である。

段 階 授業実践での発問 科学巡回訪問校での発問

「どんな実験をしたか,水の流れは 「地面のどこが,どうなったかを結果を整理する

どうだったか,地面はどう変わっ 2段階で整理しましょう」

たか,3段階で整理しましょう」

「結局,流れる水は,地面をどのよ 「削られた土は,どうなりました考える

うに変えましたか」 か」

授業実践と科学巡回訪問校での検証から,5年生の問題解決の能力の育成に迫らせるために,条件

を明確にした実験と 「結果を整理する 「考える」段階での本時のねらいに迫らせる発問や指示の, 」

大切さが明らかになった。

6.4 授業づくり2

授業づくり2のねらいは,授業づくり1の課題を踏まえて 「問題解決の能力の育成に迫らせるた,

めの観察,実験と考察のさせ方を工夫する」である。

このねらいに迫るために,第4学年「もののかさと温度」で授業実践を行った。本単元の特性とし

て,温度変化と金属,水及び空気の体積の変化との関係をとらえさせるために,これらの体積変化が

明確に見える実験を取り入れて,理解の定着を図ることが挙げられる。

6.4.1 授業実践での検証

(1) 授業の様子

※ は授業案にある発問学習活動 教師の働き掛け(T)と児童の反応(C) 太字

水 も, あ た た め ら れ る と, か さ が 大 き く な る の だ ろ う か。

観察,実験する T1 水面の動きをよく見てみよう。

○水を温めたり冷やした C1 あれ,水面が少しずつ上がっている。

りしてかさの変化を調 C2 ゆっくりと1㎝ぐらい上がった。

べる。 C3 氷水で冷やしたら,少しだけ下がった。

C4 本当だ。はじめの印より下がった。

。結果を整理する T2 実験の結果を表にまとめてみよう

○変化の結果を記録す T3 温められると水面の動きはどうなっ

る。 たか,矢印で示してみよう。

C5 ↑(上向き矢印) 上がった。

T4 水面が上がったということは,かさがどうなったの。

C6 かさが大きくなった。

,「 」「 」 。結論を得る T5 分かったことを 水 かさ という言葉を使って書いてみよう

○分かったことを文章で C7 水面が上下に変化した。

でまとめる。 T6 水面が上下に変化したということは,かさがどうなったというこ

とですか。

( )板書から

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- -初等理科 11

問題解決の能力の育成を目指す理科学習

C8 水は,温められるとかさが大きくなり,水面が上に上がった。冷

やされるとかさが小さくなり,水面が下に下がった。

「水もあまとめる T7 みんなの意見をもとに,先生と一緒にまとめましょう。

, 。○空気と水の変化を比較 たためられるとかさが大きくなり 冷やされるとかさが小さくなる

してまとめる。 かわり方は空気より小さい 」(板書)。

(2) 考察

本センター内での模擬授業から,試験管の水面の上下の動きが水のかさの変化であると児童の意識

を高めることが難しいと考えた。そこで 「観察,実験する」段階では,印を付けたガラス管の水面,

の動きだけに着目させるために,実験の前にT1の働き掛けを行った。その結果,C1~C4のよう

な反応が見られた。児童は,水面に着目することで,温度によるわずかな水面の上下の動きを確実に

とらえることができた 「結果を整理する」段階では,温度によって水面が上下に動いたという実験。

の結果を水のかさの変化と結び付けて考えさせるために,まず,T2の働き掛けを行った。しかし,

, 。どのように整理するかよく分からない様子が見られたため T3の働き掛けで教師と一緒に整理した

このことで,実験の結果をどのように整理すればよいか戸惑っていたC5は,温度によって水面がど

のように動いたのかという実際に目で見た事実を,矢印を使って表に整理することができた。そして

この後,T4の働き掛けを行った。その結果,C6のように温度によって水面が上下に動いたという

結果を,水のかさの変化と結び付けてとらえ,表に整理することができた。

これらの結果から,体積変化が明確に見える実験を取り入れたこと,最初の水面の位置に印を付け

させ,水面に着目するという実験の観点を与えたことは,温度による水のかさの変化の様子をとらえ

させ,理解の定着を図るための働き掛けとして有効であったと考える。また,温度による水面の上下

の動きと水のかさの変化を結び付けて表に整理させたことは,児童の意識を「水面の上下の動きは,

温度による水のかさの変化である」と高めるための働き掛けとして有効であったと考える。

次に,表に整理した結果をもとにT5の発問を行った。C8の児童の発表やノートの記述からは,

提示したキーワード「水 「かさ」を使って,自分の言葉で結論をまとめることができていたことが」

分かった。また,C7のように,文章でまとめる際に,印象の強かった実験結果に戻ってしまったと

考えられる児童に対しては,再度整理した表を用いてT6のように働き掛け,温度による水のかさの

変化をとらえさせることができた。

このことから「結論を得る」段階において「水 「かさ」というキーワードを提示して書かせたこ」

とは,児童自らが,温度と水のかさの変化を関係付けて結論を得るための働き掛けとして有効であっ

たと考える。

この後「まとめる」段階では,T7の働き掛けで教師と一緒にまとめを行った。しかし,C8のよ

うに,児童が自分で記述した結論と教師のまとめが多くの部分で重複してしまい,児童の思考の連続

性が途切れてしまった。また,児童の発表やノートに記述する時間を確保すると 「考察する」場面,

に20分を要した。これらのことは,科学巡回訪問校での検証に向けての課題となった。

<児童のノートから>21名分

・ 水 「かさ」という言葉を両方使った記述内容 13名「 」

(例)水はあたためるとかさが大きくなり,ひやすと小さくなる

・ 水 「かさ」という言葉を正しく使っていないが,水のかさの変化について気付 5名「 」

いている記述内容

(例)あたためると水がふくらんで,ひやすと水がちぢむ。

・水面の変化だけの記述内容 2名

(例)水はあたためられると上にいって,ひやされると下にいく。

・無回答 1名

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- -初等理科 12

問題解決の能力の育成を目指す理科学習

6.4.2 科学巡回訪問校での検証

授業実践の課題を受け,児童の思考が連続し,且つ時間的な効率性を高めるためには,重複してい

た「結論を得る」段階と「まとめる」段階を一つにまとめるとよいのではないかと考えた。そこで,

次のように「考察する」場面を変更して,科学巡回訪問校で模擬授業を行った。

段 階 授業実践での働き掛け 段 階 科学巡回訪問校での働き掛け

・「水」「かさ」という言葉を使 ・ 水 「かさ」という言葉を結論を得る 結論を得る 「 」

, 。って,結論を記述させる。 使って 結論を記述させる

・教師と一緒に,本時のまと その際,机間指導で個別にまとめる

めを記述させる。 働き掛けを行う (教師と。

一緒のまとめは行わない )。

科学巡回訪問校における模擬授業では 「結論を得る」段階で 「水 「かさ」という言葉を使って, , 」

結論を記述させる時に,すべての児童役の教員に対して机間指導で個別に働き掛けた。その結果,実

験結果を整理した表を基に,全員が「水 「かさ」という言葉を使って結論を得て,そのまま,授業」

。 ,「 」 「 」 ,を終えることができた このことから 結論を得る 段階と まとめる 段階を一つにすることで

児童の思考が連続することが分かった。また,教師と一緒に行うまとめを再度ノートに記述すること

がなくなるため 「考察する」場面の時間の効率性を高めることができることが分かった。,

しかし,実際の授業において,すべての児童に自分の言葉で結論を記述させるためには 「結論を,

得る」段階までの中で,教師の働き掛けをさらに工夫しなければならないことが次の授業づくりへの

課題となった。

6.5 授業づくり3

授業づくり3のねらいは,授業づくり2の課題を踏まえて 「自分の力で結論を得るための実験の,

見通しのもたせ方と考察のさせ方を工夫する」ことである。

このねらいに迫るために,第6学年「水よう液の性質とはたらき」で授業実践を行った。本単元の

特性として,直接見ることができない水溶液の性質について,溶けている物や金属との反応の実験を

取り入れて,水溶液の性質や働きを推論し,理解の定着を図ることが挙げられる。

6.5.1 授業実践での検証

(1) 授業の様子

※ は授業案にある発問学習活動 教師の働き掛け(T)と児童の反応(C) 太字

と け て い た も の は, も と の ア ル ミ ニ ウ ム だ ろ う か。

方法を考える T1 塩酸にアルミニウム箔を入れたとき,どうなりましたか。

○白い粉が,アルミニ C1 泡が出た。煙が出た。においがした。

ウムかどうかを調べ T2 もう一度塩酸に白っぽい粉を溶かして,何を見ますか。

る方法を考える C2 溶ける様子を見る。。

T3 白っぽい粉を水に溶かしたとき,どのようになれば,どんなこと

が言えますか。

C3 溶けなかったらアルミニウム。

C4 溶けたらアルミニウムではない。

, 。結果を整理する T4 溶けた 溶けないだけでなく気付いたことも自由に書きましょう

○溶かした結果を記録 <児童のノートから>36名分

する。 塩酸 とけた(20名),一しゅんでとけた(4名),あっという間にとけ

た(8名),とう明(2名),あわが出てとけた(2名)

水 とけた(20名),ふったらとけた(6名),とけたけどにごってい

る(4名),とけたかもしれない(3名),とけていない(3名)

考える T5 塩酸の中に溶けていた白っぽい粉は,もとのアルミニウムと同じ

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- -初等理科 13

問題解決の能力の育成を目指す理科学習

ものでしょうか。○塩酸の中に溶けてい

たものが,もとのア C5 もとのアルミニウムだったら水に入れても溶けないけど,これは

ルミニウム箔と同じ 水に入れたら溶けたので,もとのアルミニウムではないと思う。

ものか話し合う。 C6 塩酸には溶けると思うけど,水に入れたときに振ったら溶けたの

で,違うと思う。普通のアルミニウムは水に溶けないから。

結論を得る T6 問題文を振り返って,分かったことをノートに書きましょう。

○分かったことをノー <児童のノートから>36名分

トに書く。 ・とけていたものは,もとのアルミニウムではない(16名)

・とけていたものは,アルミニウムではない(18名)

・とけたアルミニウムは,もうちがうものに変わっている(1名)

・もとのアルミニウムとはちがう(1名)

(2) 考察

「考察する」場面で,全員に自分の力で結論を書かせたいと考えた。そこで 「方法を考える」段,

階において,一人一人が仮説を立てて実験に臨めるようにT1~T3の発問を行い,どのようになれ

ば,どんなことが言えるのかを明確にさせた。その結果,実験後の「考察する」場面で,C5,C6

のような発言を得た。これは,見通しをもって実験に取り組むことができたからだと考える。特に,

T3の発問によるC3,C4の発言で 「白い粉が水に溶けるかどうかで確かめる」と全員で確認し,

, , 。 ,ておいたことが C5 C6の水での溶け方の様子からとらえたことにつながったと考える さらに

児童がノートに書いた結論を見ると,36名全員がもとのアルミニウムではないという内容の結論を書

いている。このことから,問題をしっかりつかませ,見通しをもって観察,実験に取り組ませるため

のT1~T3の発問は,自分の力で結論を得る上で有効であったことが分かった。

「結果を整理する」段階では,T4の発問を行い,考えたことや感じたことなども自由に書くよう

に働き掛けた。30名の児童が塩酸にも水にも溶けたと考えていることから,もとのアルミニウムでは

ないと判断することができたと思われる。これは,T4の指示で自由に書かせたことで,単なる実験

結果だけでなく,実験の様子や経過も振り返ることができたからと考える。

次に 「考える」段階で,T5の発問によって全体に働き掛けた。しかし児童は,実験結果につい,

て 「なぜなのか 「これは何なのか」という意識が強かったようで,どのように答えればよいのか, 」

。 , 。 , ,迷っている姿が見られた そのため C6の後に発言が続かなかった そこで T5の発問に加えて

「グループで話し合いましょう」という指示を出していれば,自分の疑問を解決したり,新しい気付

きを得たりすることができたと思われる。あるいは実験結果の板書を振り返らせ,アルミニウム箔の

溶け方と違う事実を示すことで,児童の気付きを引き出すことができたのではないかと考える。そう

することで 「結論を得る」段階で 「泡が出なかったので,もとのアルミニウム箔とはどこか違う, ,

ようだ」と納得したり 「性質が変わった 「アルミニウムに何かが混じったものだ」のように,も, 」

っと深まりのある結論を得たりすることができたと考える。それが,水溶液には,金属を変化させる

ものがあることを推論するなど,問題解決の能力を育成することにつながるのではないかと考える。

以上のことから,多様な気付きを引き出し考えを深めるためには,児童の意識や授業の流れに応じ

て学習形態を変えたり,学習したことを振り返ったりする必要があるという課題が見えてきた。

6.5.2 科学巡回訪問校での検証

授業実践では,見通しをもって観察,実験に取り組ませたことが,自分の力で結論を得ることにつ

ながった。しかし「考える」段階で,多様な気付きを引き出すことができなかった。発言した2名の

意見が,全体の結論になってしまったように思われる。科学巡回訪問校では 「考える」段階で多様,

な気付きを引き出し,考えを深める発問や指示をすることをねらいとして模擬授業を行った。

「考える」段階では,授業実践同様に発言が少なかったので,結果の表を再確認させた。それによ

って,アルミニウム箔が塩酸に溶ける様子との違いに気付くことができた。しかし児童役の教員は,

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- -初等理科 14

問題解決の能力の育成を目指す理科学習

水には塩化アルミニウムは溶けないと考えている人が多く,そのことがもとのアルミニウムと同じも

のかどうかを判断する上で,問題となっていた。そこでグループごとに話合いをさせた。話し合った

結果の発表では 「白い粉のようなものは水には完全には溶けなかったが,塩酸や水に入れたときの,

様子が違うので,もとのアルミニウムではないと思う」という発言が得られた。このような結論を得

られたのは,根拠となるものがその他にもたくさん見いだせたことと,話合いによって考えを整理す

ることができたためであると考える。

授業実践と科学巡回訪問校での検証から 「つかむ 「調べる」場面での適切な働き掛けや,多様, 」

な気付きを引き出したり,結果から推論させたりするための発問や指示の工夫が大切であることが明

らかになった。

6.6 各授業づくりのねらいと成果・課題

授業づくり1,2,3のねらいと成果・課題をまとめたのが,表2である。

授業づくり1 第5学年「流れる水のはたらき」

ね 問題解決の能力の育成につながるための 「考察する」場面での教師の発問や指示をらい ,

。工夫する

「 」 , , 。成 果 ・ 結果を整理する ことが 実験の様々な方法や要因 結果を焦点化することになる

・ 結果を整理する 「考える」段階において,吟味した発問や指示により,本時のね「 」

らいに迫らせることができる。

課 題 ・条件を明確にした実験が必要である。

・ 結果を整理する 「考える」段階で問題解決の能力につながる発問が必要である。「 」

授業づくり2 第4学年「もののかさと温度」

ね 問題解決の能力の育成に迫らせるための観察,実験と考察のさせ方を工夫する。らい

成 果 ・変化が確実に分かる実験と項目を吟味した表に整理させる発問が,問題解決の能力の

育成につながる。

・ 結論を得る」段階に「まとめる」段階を含めると,児童の思考が連続する。「

課 題 ・全員に結論を書かせるため,教師の働き掛けの工夫として机間指導が必要である。

授業づくり3 第6学年「水よう液の性質とはたらき」

ね 自分の力で結論を得るための実験の見通しのもたせ方と考察のさせ方を工夫する。らい

成 果 ・ 方法を考える」段階で仮説を立てさせ,実験後にそれをもとに考えさせることが,「

自分の力で結論を得ることにつながる。

課 題 ・多様な気付きを引き出したり,結果から推論させたりするために,学習形態の工夫や

学習したことの振り返りが必要である。

6.7 授業案活用について

6.7.1 所属校,科学巡回訪問校での授業案活用のアンケート結果から

以下が,教員から寄せられた内容である。なお ・は意見,▲は改善すべき点である。,

①「本時の問題解決の過程」について

・問題解決の過程が吟味されている。

・教科書の展開を生かしつつ,児童の意識をとらえて発問に生かすなど,展開をマニュアル化

しながらも,授業者によって臨機応変に進めることができる。

・結果の考察に力を入れる(考える時間を確保する)という提案に納得した。

▲評価する場面と評価内容が過程の中に明記してあるとよかった。

②「発問例」について

・発問が精選されているので,そこに時間をかけて話し合わせることができる。

・ つかむための発問 「調べるための発問 「考察するための発問」と分類して,具体的に発「 」 」

問が記載されているので,すぐに授業に活用することができた。

表2 各授業づくりのねらいと成果・課題

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問題解決の能力の育成を目指す理科学習

・ 考察する発問」により,どのように意見をまとめていくかが大切だと思った。「

・ ~の言葉を使ってまとめよう」というように,考察のポイントが絞ってあるのがよい。「

・問題文の言葉(理科の用語)を児童が理解して使えるように大切に扱った。

▲この発問例で実践しても,時間配分,場の設定,児童の実態などの状況により,当初意図し

たものにならない場合もあると感じた。

③「板書例」について

・板書が構造化されているので,児童の考えを集約しやすく,思考や意識も焦点化できる。

・具体的に記載されているので,授業ですぐに活用できると思った。

・毎時間マニュアル化し,きちんと決まった様式で書くので,児童にとって分かりやすい。

▲多少,分量的に多いと感じる。

④授業案全体について

・日常の指導にすぐに役立つ資料として生かすことができる。

・保存版として活用できる。また,随時追加修正していくことで益々充実すると思う。

・授業案の板書計画がよい。これを基に,各自改善しつつ役立てたい。

「 」 。 ,・ 教師の演示実験 を加えて授業を進めた 授業案に別な内容をプラスしたことになったが

より深まったと感じた。

6.7.2 活用事例から

(1) 授業案を活用し,ほぼ同様に授業を進めたA校の例

「 」図5 4・5時間目の 発問・板書例 図6 4・5時間目の児童のノート

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図5は,第5学年「流れる水のはたらき」10時間扱いの4・5

時間目の「発問・板書例」である。この時間は 「川の水は,ど,

のように土地のようすを変えているのだろうか」という問題を解

決するために,写真資料を活用して,上流,中流,下流の川の流

れや土地,石の様子の違いについて調べる内容である。

図6は,この授業の児童のノートである。これを見ると,ほぼ

「 」 。 ,発問・板書例 に沿って授業が進められたことが分かる 特に

, , , , ,観察の際 上流 中流 下流に分けて調べ 記録していることや

板書例の結果の表の項目に従って整理していることから,授業案

の発問や板書の観点が役に立っていることがうかがえる。

また,図7のように,教科書のまとめの問題を家庭学習として

進んで行った児童も見られたということである。授業案の活用だ

けが,この児童の意欲を喚起したとは言い切れないが,児童の学

習への取組を助ける一つの手だてとなっていると考える。

(2) 学習の進め方や児童の実態に応じて授業案を改善して活用したB校の例

この活用例は,B校で実践した第4学年「もののかさと温度」の1時間目と2時間目である。

図8は,授業案の単元の流れである。この単元では,まず 「空気は,温められるとかさが大きく,

なるか」という問題をつかませ,調べ,考察させる。次に 「水も,温められるとかさが大きくなる,

か」という問題をつかませ,調べ,考察させる,という流れである。つまり,空気と水それぞれの体

積変化について,順に進めるという流れである。

図9は,B校でこの授業案の流れを変えて単元を進めたときの児童のノートである。1時間目に,

図9 1・2時間目の児童のノート図8 4年「もののかさと温度」の単元の流れ

図7 児童の家庭学習ノート

問題解決の能力の育成を目指す理科学習

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- -初等理科 17

問題解決の能力の育成を目指す理科学習

「水や空気は温められるとどうなるか」という問題を確認して,空気,水それぞれのかさの変化を予

想させた。そして2時間目に,空気,水それぞれの実験を同時に行い,それぞれのかさの変化とその

違いを考察させたということである。

このノートを見ると,空気と水の実験を同じように行い,結果を同じように記録していることが分

かる。なお,この記録のさせ方は,授業案の板書例で提案した内容と同じであった。また,水と空気

のかさの変化の違いとして 「空気はしっかり変わり方が見えたが,水はじっと見ていないと変わり,

方を見ることが難しい。水→小さい,空気→大きい」とまとめている。この授業を行った教員はアン

ケートで 「この進め方をしたことで,2つの実験の違いを比べることができた。しかし,より深い,

理解へつなげるためには,提案のように,1つずつ進めていった方が有効だったのかも知れないと思

った」と記入していた。

このことから,授業案を基に学習の進め方や児童の実態に合わせて,改善を加えて活用してもらっ

ていることが分かる。

また,県内の教員に使ってもらってこそ,授業案をよりよいものにしていくことができるというこ

とを確認した。

6.7.3 考察

教員のアンケート結果や授業案の活用事例から,次のようなことが言える。

「つかむ発問 「調べる発問 「考察する発問」として,精選した発問を掲載したことが,授業の」 」

どこを焦点化して活動させたり考えさせたりするかという点で,教員の助けになっていると考える。

, , 。板書例については 構造化された板書が 児童の意識や反応の取り上げ方で役に立っていると考える

さらに,授業案に別な内容を加えて授業を行ったという点から,授業案は,授業の流れの基になり,

学習の進め方や進度,時間配分,児童の実態や活動に応じて,この授業案に改善を加えて授業をより

よいものにできる可能性があるということが分かった。

6.8 授業づくりの提案

6.8.1 授業づくりを振り返って

授業案作成に始まり,授業実践・検証を行っていくことを,本研究の「授業づくり」ととらえ進め

てきた。

授業案に示した「問題解決の過程」の場面は 「つかむ 「調べる 「考察する」の3つの場面と大, 」 」

きくとらえて,それぞれの場面で,教師の働き掛けを行ったことが,問題解決の能力を育成すること

につながるということが明らかになった。また,当初 「自然事象と出会う」から「広げる」までの,

, ,「 」 「 」 ,11段階としていた問題解決の過程を 最終的に 結論を得る 段階の中に まとめる 段階を含め

3場面10段階とした。それは,児童自身がそれまでに身に付けた自然事象の規則性や変化のとらえ,

知識などを駆使してまとめた「結論」と,教師主体でまとめた「まとめ」が重複したり,児童の思考

の連続性が途切れたりしたからである 「結論を得る」段階で,児童一人一人に結論を書かせ,それ。

を全員で共有させ,本時のねらいを達成させる。そのために,教師の働き掛けを大切にしていく。そ

うすることで,児童は自分の言葉で結論を得ることになるということが明らかになった。

「発問・板書例」では,発問の精選,板書の構造化によって,児童の意識をどこで,どのように取

り上げるか,それに対して教師がどのように働き掛けるか,どこで,どのように話合いを深めるかな

どのように 授業で重視すべき点が明らかになった さらに 所属校や科学巡回訪問校の教員が 発, 。 , ,「

問・板書例」を基に改善を加えて授業実践を行っていることから,これが,理科の問題解決の活動の

基本形として,有効に活用されていることが分かった。

また,授業づくりを進めていく上で,所属校での授業実践の前に実施する模擬授業の重要性も明ら

かになってきた。模擬授業では,問題の設定の仕方が適切であるか,授業案に記載した発問や板書が

児童の意識の流れに沿ったものであるか,観察,実験のさせ方が問題解決の能力を高めるものになっ

ているか,などを主に確認した。そうすることによって,授業実践では 「つかむ 「調べる」場面, 」

「 」 , 。の児童の意識が 考察する 場面に結び付くということを押さえながら 指導にあたることができた

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- -初等理科 18

問題解決の能力の育成を目指す理科学習

これらの授業づくりを通して 「考察する」場面で明らかになってきたことがある。,

「結果を整理する」段階での教師の働き掛けは 「項目を吟味した表やグラフなどに記録させる指,

示をする」としていた。これは,観察,実験後に個人で記録させる際の働き掛けである。この段階ま

, , , 。でに児童は 観察 実験の経過や結果を目や頭に焼き付けたり ノートに自由に記録したりしている

そこで,経過や結果を項目ごとにまとめさせたことで,児童は,事実を類別したり整理したりするこ

とができた。項目については,比較した項目,変化とその要因の項目,条件制御し設定した項目,推

, 。論するための材料の項目などの 問題解決の能力の育成につながる項目が必要であることが分かった

また,児童一人一人にノートに整理させることに加えて,児童に発表させながら,教師が黒板上で整

理し共有化を図ることも大切であるということが分かった。

「考える」段階での教師の働き掛けは 「問題解決の能力(比較,変化と要因の関係付け,条件制,

御,推論)につながる発問をする」としていた。授業実践でこの発問を重視した結果,問題解決の能

力の育成に迫らせることができたととらえる。この段階では,教師の働き掛けが中心であるが,児童

の意識や思考の流れに合わせて,全員で事実を確認させたり,ペアやグループなどの少人数で考えを

話し合わせたりすることも必要であることが分かった。また,他と違う考えを取り上げ話し合わせた

り,意図的指名で全体の意識を高めたりすることも必要であることが分かった。

「結論を得る」段階での教師の働き掛けは 「分かったことを簡潔に文にまとめる指示をする」と,

。 , , 。していた ここでは 問題文を振り返らせながら まとめさせることが大事であることを確認できた

また,3,4年生では,問題文にある言葉を提示したことで,自分の力でまとめることができた。た

だし 「結果を整理する」段階 「考える」段階での働き掛けを確実にしていくことが,結論を得る, ,

前提条件であることも明らかになった。

以上のように 「考察する」場面を重視した授業づくりを行い,検証してきた結果,改めて見えて,

きたことがある。1つ目は 「考察する」場面を充実したものにするためには 「つかむ」場面と「調, ,

」 。「 」 , ,べる 場面も大切にするということである つかむ 場面で 児童の問題意識を十分に高めること

「調べる」場面で,観察,実験への見通しをもたせた上で,条件を明確にしたり,観察,実験の結果

が確実に表れる教材・教具を工夫したりすることである。2つ目は,問題解決の過程の「広げる」段

階の大切さである。図2の理科指導に関するアンケート結果から,今後 「新たな課題を見付ける」,

段階に重点を置いて指導したいと考えている教員が7名いた。また,授業づくりを通して,児童の興

味・関心を広げたり,日常生活と関連付けたりすることが大切であることが分かった。そうすること

で,次の時間の「つかむ」場面にもつなげていくことができると考える。

6.8.2 これからの授業づくり

授業づくりの実践,検証を経て,研究の成果物として「授業案2009」を完成させた。授業案の単元

は,各学年や新学習指導要領の2つの区分「A物質・エネルギー 「B生命・地球 ,教員の苦手意」 」

識の実態を考慮して取り上げ,表3に示す単元を作成した。

第3学年 第4学年 第5学年 第6学年

新A区分 ○明かりをつけよう ○もののかさと温度 ○もののとけかた ○水よう液の性質とはた

物質 ○水のすがたとゆくえ らき

エネルギー ○もののあたたまりかた

新B区分 ○チョウをそだてよう ○月の動き ○植物の発芽と成長 ○大地のつくりと変化

生命 ○こん虫をしらべよう ○星の動き ○花から実へ

地球 ○流れる水のはたらき

この「授業案2009」を県内の教員に活用してもらいたいと願っている。なお,これまで述べてきた

ように,この「授業案2009」はあくまでも授業の進め方の一例である。学習の進め方や児童の実態に

応じて改善して活用してもらいたいと考える。そうすることで,授業づくりについて考えたり児童の

問題解決の能力を育成したりする一助になればと考える。

表3 「授業案2009」に掲載した単元

区分学年

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問題解決の能力の育成を目指す理科学習

さらに,これから理科の授業づくりを行う際に授業案の作成を勧めたい。図1の問題解決の過程を

踏まえて,次のように授業案を作成していく。

まず,単元の目標を設定する。そして,その目標を達成できるように,単元の流れをつくる。ここ

では,各学校の指導計画や教科書を参考に,学習活動を設定する。その際 「つかむ 「調べる 「考, 」 」

察する」のどの場面にあたるのかを吟味・設定することで,単元内にいくつかの問題解決の過程のま

とまりが見えてくる。これを 「何をどのようにつかませて,何をどのように観察,実験させて,何,

をどのように考察させるのか」のようにとらえ,それぞれの時間で教師の働き掛けを考える第一歩と

する。それぞれの時間のねらいは,新小学校学習指導要領解説理科編に示されている内容を,単元内

にバランスよく配置する。

次に,1時間ごとに,本時のねらい,本時の問題解決の過程,発問・板書例を作成していく。

本時の問題解決の過程では,まず,図1の「自然事象と出会う」から「広げる」までの段階に合わ

せて,学習活動を設定していく。ただし,これらの段階は基本形であり,内容や児童の実態,時間配

分に応じて柔軟に設定する。次に,学習活動に合わせて,学級の児童の実態を考慮しながら,児童の

意識を洗い出す。この意識は,児童がそれまでにもっている意識や間違ってとらえている意識から,

高まっていく意識,最終的に期待する意識を,多様に記載していく。そして,様々な意識を高めてい

くための教師の働き掛けを,図1の「教師の働き掛け(発問・指示 」から授業の内容に応じて具体)

化していく。ここでの教師の働き掛けは,発問として具体化していくので,この時点で焦点化してお

くとよい。

発問・板書例では,まず,1時間の完成した板書を構造的に作成していく。板書の左には,問題,

予想,実験(観察 ,結果,分かったこと(3,4年生)または結論(5,6年生)の項目を記す。)

その項目に沿って,右には,児童の

考えや意見,観察,実験方法の言葉

, ,や図 結果を黒板上で整理する内容

児童の高まった考え,結論の内容な

どを,端的に焦点化して記載する。

その際,本時の問題解決の過程に記

載した児童の意識の流れを十分に考

慮する。

次に,本時の問題解決の過程に記

載した教師の働き掛けを発問や指示

に具体化したものを 「つかむため,

の発問 「調べるための発問 「考察」 」

」 , 。するための発問 として 記載する

ここでは,児童の意識を高めるため

の主要な発問に絞ると,授業を焦点

化することができる。さらに 「考,

察するための発問」を 「結果を整,

理する 「考える 「結論を得る」の」 」

3段階に設定する。そして,できあ

がった発問を,板書するタイミング

に合わせて,矢印で結ぶ。

このようにして作成した授業案を

基に,授業を行っていく。そして,

授業後には,設定した児童の意識と

照らし合わせて,実際の授業での児

1 授業案の作成(1) 単元の目標

(2) 単元の流れ・学習活動

場面…「つかむ 「調べる 「考察する」」 」

・ねらい

(3) 本時の問題解決の過程○学習活動…各段階に合わせて

・児童の意識

□教師の働き掛け(発問・指示)

(4) 発問・板書例板書(項目→内容)

発問…「つかむための発問 「調べるための発問」」「考察するための発問」

「結果を整理する 「考える 「結論を得る」」 」

2 授業実践

3 検証…児童の意識と教師の働き掛けから

4 次時以降の授業案の改善

図10 授業づくりの流れ

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問題解決の能力の育成を目指す理科学習

童の意識や反応を把握する。それを基に,教師の働き掛け(発問・指示)を改善し,次時以降の授業

案に生かしていく。このようなことを積み重ねていくことで,問題解決の能力の育成が図られていく

と考える。

7 研究の成果と今後の課題

7.1 研究の成果

研究の成果として,1つ目は,問題解決の過程についてである 「つかむ 「調べる 「考察する」。 」 」

ととらえたことで,授業の中での教師の働き掛けのポイントを大きな流れでつかみ,授業を焦点化す

ることができた。2つ目は 「考察する」場面についてである 「結果を整理する 「考える 「結論, 。 」 」

を得る」の3つの段階に設定し,児童の意識に応じて適切な発問や指示を行うことにより,児童の意

識をスムーズに高めたり,思考の連続性を図ったりすることができた。3つ目は,授業づくりについ

てである。授業案を作成し,授業実践や科学巡回訪問校での実践を通して検証してきたことで,問題

解決の能力を育成するための授業づくりの一方策を提案することができた。

7.2 今後の課題

今後の課題の1つ目は,問題解決の過程のそれぞれの場面で,多様な児童の意識や思考を見取った

適切な働き掛けをさらに考えていくことである。2つ目は 「考察する」場面で,教材の特性,時間,

配分に応じて発問や板書を工夫していくことである。3つ目は,内容区分や単元の特性の違いによる

問題解決の過程を吟味していくことである。

以上を踏まえて 「授業案2009」を活用して授業実践を行い,問題解決の能力を育成する理科学習,

についてさらに研究を深めていきたい。

主な参考文献

[1]文部省: 小学校学習指導要領解説 理科編 平成11年5月」 東洋館出版社 1999「

[2]文部科学省: 小学校学習指導要領解説 理科編 平成20年8月」「

大日本図書株式会社 2008

[3]文部科学省: 中学校学習指導要領解説 理科編 平成20年9月」「

大日本図書株式会社 2008

[4]国立教育政策研究所教育課程研究センター:

「平成15年度 小・中学校教育課程実施状況調査-理科-」 2005

[5]国立教育政策研究所教育課程研究センター:

「特定の課題に関する調査(理科)調査結果(小学校・中学校 」 2007)

[6]文部科学省: 小学校理科・中学校理科・高等学校理科 指導資料」東洋館出版社 2005「

[7]国立教育政策研究所: 生きるための知識と技能③」 ぎょうせい 2007「

[8]宮城県教育委員会: 平成20年度 学校教育の方針と重点」 2008「

[9]宮城県教育研修センター: 平成19年度 初等理科研究グループ研究報告書」 2008「

[10]宮城県教育研修センター: みやぎ理科指導ポイント集2008」 2008「

[11]角屋重樹編: 理科の学ばせ方・教え方事典」 教育出版 2005「

[12 「平成17年度 小学校用 新編新しい理科」 東京書籍 2005]

[13 「新編 新しい理科 移行期年間指導計画 小学校3~6年 [21・22年度用]」]

東京書籍 2008

[14 「理科の教育」 日本理科教育学会 2006~2008]

[15 「初等理科教育」 農文協 2006~2008]