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私は、脳機能における最も主要なプロセスである高速シナ
プス伝達の維持において、アストロサイトなどのグリア細胞
がどのような直接的関与をしているのか、どのように直接的
影響を及ぼしているのかを解き明かすことこそが現在までの
グリア研究がまだ答えていない重要な課題であると考え、こ
の問題に答えることを目指して本領域での研究を進めた。生
体内環境に関する感覚情報が収斂する神経核である延髄孤束
核は、低酸素や視床下部刺激によってATPもしくはアデノシンの放出が生じ、また、それらの受容体およびトランスポー
ターが高密度に発現しているため、ニューロン回路の活動制
御におけるグリオトランスミッターATPおよびその代謝産物アデノシンの役割と機構を同定する目的に適した領域であ
る。孤束核において細胞外ATPは、シナプス前P2X受容体を活性化して自発的グルタミン酸放出を促進するとともに、細
胞外でアデノシンに代謝されシナプス前アデノシンA1受容体を活性化し活動電位誘発グルタミン酸放出を抑制する
( Kato & Shigetomi, J Physiol, 530: 469-, 2001;Shigetomi & Kato, J Neurosci, 24: 3135-, 2004)。これらのシナプス前プリン受容体がシナプス近傍のアストロサイトか
ら放出されるATPによって活性化される可能性を検証し、以下の成績を得た。(1)免疫組織化学的方法によってラット孤束核におけるニューロンおよびアストロサイトを可視化した
ところ、高密度のアストロサイトの突起がニューロン周囲の
細胞間領域を充満していた。(2)孤束核シナプスを電子顕微鏡で観察したところ、全体の99%のシナプス前構造はアストロサイト突起と直接接触しており、さらに免疫電顕法で観
察したところ、それらのアストロサイト突起はGLT-1およびGLAST陽性であった。(3)細胞外ATPからアデノシンへの代謝に関与するecto-nucleotidase (CD73)とGFAPの共染色を行ったところ、前者は後者の突起上にpuncta状に発現していた。(4)GAFP-GFPマウスを用いて、アストロサイトへの選択的パッチクランプ法によってアストロサイト・ネット
ワークの空間的広がりと電気生理学的性質を解析したとこ
ろ、海馬のそれらと異なり、ギャップ・ジャンクションを介
したdye couplingは2~3個にとどまる一方、突起の伸張が水平方向(吻尾内外側)に多く、背腹側方向には少ないと
いう空間的特徴を見出した。(5)テトロドトキシン潅流下、脳幹スライス孤束核小型ニューロンから微小興奮性シナプス
後電流(mEPSC)を記録し、caged ATPと laser photolysis法を用いた時間・空間限局的ATP投与を用いて、シナプス前P2X受容体の活性化が即時的グルタミン酸放出を誘発する事実を見出し、シナプス近傍において放出される細胞外ATPが直接的シナプス伝達誘発因子として機能しうることを示し
た。(7)GFAP-GFPマウス孤束核におけるX-Rhod-2AMを用 い た Ca imagingに よ っ て 、 2-methyl-thioADP(2meSADP, 100µM)がアストロサイト選択的に細胞内Ca2+
ATPからアデノシンへの細胞外変換を介したアストロサイトによるシナプス前制御機構加藤総夫、井村泰子東京慈恵会医科大学・総合医科学研究センター・神経生理学研究室
神経伝達物質を介したグリア-ニューロン相互調節機構に関する研究A01-11 公募
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図 孤束核シナプス周囲におけるATP放出とP2X受容体活性化を介したアストロサイトによる直接的シナプス伝達制御
濃度を上昇させる事実を見出した。特に、2meSADPによって細胞体におけるCa2+濃度上昇はほとんど生じないにもかかわらず、その突起においてCa2+濃度上昇を示すアストロサイトが多く見出され、アストロサイトによる情報処理における
微細突起の本質的重要性が示唆された。これは、ニューロン
の中でも特にシナプス周囲にアストロサイトの突起が密に接
触している観察事実と合わせ興味深い重要な知見である。(8)α,β-methylene ATPを用いたシナプス前P2X受容体活性化によってmEPSC頻度が著明に増加するニューロンの約55%において、選択的P2Y1受容体作動薬2meSADP (100 µM)も高頻度グルタミン酸放出を誘発する事実を見出した。さらに
この2meSADPの作用は、P2X受容体遮断薬 trinitrophenylATP (10 µM) ならびにグリア細胞特異的にTCAサイクルを抑制する「グリア毒」fluoroacetate 5 mMの存在下には観察されなかった。以上より、アストロサイト・ネットワーク
の活性化がアストロサイト突起からのATP放出とそれによるシナプス前P2X受容体の活性化を介した自発的グルタミン酸放出を直接誘発してニューロンの活動なしにシナプス伝達を
促進する可能性が示された。
アストロサイトから放出されたATPが細胞外でアデノシンに代謝された後、間接的にシナプス前アデノシンA1受容体を活性化し、活動電位(つまりニューロンの活動)によって
放出されるグルタミン酸の量を低下させる事実はすでに報告
されている。しかし、これはあくまでニューロンによるシナ
プス伝達をアストロサイトが「修飾」しているに過ぎず、シ
ナプス伝達制御と生理的機能におけるその意義は2次的である。孤束核では、一次求心線維終末にP2X受容体が発現するため、おそらくはアストロサイト突起から放出されたATPによる活性化の後、そこからの直接的Ca2+流入によってニューロンでの活動電位の発生がなくともグルタミン酸放出が誘発
される。このような機構の存在は、グリア-ニューロン連関
における最もダイナミックな制御の場がシナプス前終末、シ
ナプス後膜、およびアストロサイト突起からなる微細領域で
ある可能性を示し、この発見は、これからのグリア-ニュー
ロン研究の重要な方向を示唆するものと期待される。
【文献】1) Yamazaki K, Shigetomi E, Ikeda R, Nishida M, Kiyonaka S, Mori Y,
Kato F* Blocker-resistant presynaptic voltage-dependent Ca2+ channelsunderlying glutamate release in mice nucleus tractus solitarii. Brain Res.1104: 103-113 (2006)
2) Ikeda R, Takahashi, Y, Inoue K, Kato F* NMDA receptor-independentsynaptic plasticity in the central amygdala in the rat model of neuropathicpain. Pain 127: 161-172 (2007)
3) Kono Y, Shigetomi E, Inoue K, Kato F* Facilitation of spontaneousglycine release by anoxia potentiates NMDA receptor current in thehypoglossal motor neurons of the rat. Eur J Neurosci. 25: 1748-1756(2007)
4) Yasui Y, Masaki E, Kato F* Sevoflurane directly excites locus coeruleusneurons in the rat. Anesthesiology 107: 992-1002 (2007)
5) Ohi Y, Kato F, Haji A* Codeine presynaptically inhibits the glutamatergicsynaptic transmission in the nucleus tractus solitarius of the guinea pig.Neuroscience 146: 1425-1433 (2007)
6) Okada T, Tashiro Y, Kato F, Yanagawa Y, Obata K, Kawai Y*Quantitative and immunohistochemical analysis of neuronal types inthe mouse caudal nucleus tractus solitarius: Focus on GABAergic neu-rons. J Chem Neuroanat. 35: 275–284
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別項1
別項2
別項3
別項4
別項5
別項6
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別項9
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最終研究成果報告書