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混合型睡眠時無呼吸に対するASV使用経験
16
が著しく向上するため選択した。これによりASVそのもののcomplianceを保持でき
るとともにResScan○Rで解析したAHIもマスク変更前10.7/hrから変更後8.7/hrと改善した。 ASVが極めて有効であったOSA/CSR-CSAの症
例を経験した。患者の訴えに応じてマスクなどのデバイス変更を適宜行うこともnCPAP/ASVを用いたSAS治療においては重要と考えられた。
〈参考文献〉1) Bradley TD, Floras JS. Sleep apnea and heart failure.
Part I: Obstructive sleep apnea. Circulation 2003;107:1671-1678.
2) Teschler H, Dohring J, Wang Y-M, et al. Adaptivepressure support servo-ventilation. A novel treatment forCheyne-Stokes respiration in heart failure. Am J RespirCrit Care Med 2001; 164:614-619.
3) Kasai T, Narui K, Dohi T, et al. First experience of usingnew adaptive servo-ventilation device for Cheyne-Stokes respiration with central sleep apnea amongJapanese patients with congestive heart failure; reportof 4 clinical cases. Circ J 2006; 70:1148-1154.
4) 陰下敏昭,前田均,日下部祥人 他.HEART PAPで改善したチェーンストークス呼吸を伴う慢性心不全患者の1例.日呼吸会誌 2008; 46:921-927.
5) Lanfranchi PA, Braghiroli A, Bosimini E, et al. Prognosticvalue of nocturnal Cheyne-Stokes respiration in chronicheart failure. Circulation 1999; 99:1435-1440.
6) Sin DD, Logan AG, Fitzgerald FS, et al. Effects ofcontinuous positive airway pressure on cardiovascularoutcomes in heart failure patients with and withoutCheyne-Stokes respiration. Circulation 2000; 102:61-66.
7) Morgenthaler TI, Kagramanov V, Hanak V, et al.Complex sleep apnea syndrome: is it a unique clinicalsyndrome? Sleep 2006; 29: 1203-1209.
8) Criner G J, Brennan K, Travaline JM, et al. Efficacy andcompliance with noninvasive posit ive pressureventilation in patients with chronic respiratory failure.Chest 1999; 116: 667-675.
◆ ◆ ◆
国立病院機構松江医療センター〒690-8556 島根県松江市上乃木5丁目8-31TEL 0852-21-6131
本症例におけるCSR-CSAの原因は不明であるが、心不全におけるCSR-CSAは治療ターゲットとして特に注目されている。CSR-CSAは心拍出量の低下に伴う慢性的な肺うっ血により生じる過換気と、中枢の換気応答の亢進が主な病態とされ、ある意味で心不全の結果として生じると考えられる。しかしながら、CSR-CSAの有無そのものが心不全の独立した予後因子であることも報告されている5-6)。ASVはCSR-CSAの治療目的に開発された。患者
の呼吸状態に合わせて吸気圧が変化する点が固定給気圧を供給するBilevel PAPと大きく異なる点である。また本症例のようにしばしば合併するOSAに対する呼気圧も設定可能であり、理論的には心不全に合併した睡眠呼吸障害に対する最適な治療といえる。本症例ではfull PSGで約2/3がOSAであり、残りの1/3がCSA、MSAであった。まずはnCPAPの導入が検討されたが、過去の報告4)によりnCPAPの導入によるCSR-CSAの増悪が懸念されたため、第一選択としてASVの導入に至った。本症例は定義と診断に曖昧な点はあるものの近年提唱されているComplexSAS7)の可能性も考えられた。本症例ではマスクの変更によりcomplianceの維持
ができ、わずかではあるがAHIも改善したことも特筆すべき点である。広義の非侵襲的陽圧換気では圧設定などの機器設定変更、酸素投与量の変更、マスク変更などが余儀なくされるケースがあり、過去の報告では全体の36%の患者が何らかの設定変更を要したとの報告もある8)。SAS治療において、症例や病態に応じた圧設定変更は言うまでもなく、必要に応じてマスクなどのデバイスの変更も適宜行っていくことも重要である。
図2 ウルトラミラージュマスク○R 図3 ミラージュスウィフトピローズシステム○R
考察
まとめ
No.1
在宅医療インフォメーション No.1
睡眠呼吸障害と循環器疾患との関連性が注目されており、閉塞性の睡眠時無呼吸症候群に対し
ては、CPAP(持続性陽圧療法)が有効な治療方法であることは、周知の事実であるが、慢性心不
全に多く合併していると言われるチェーンストークス呼吸を呈する中枢性の無呼吸症候群におい
ては、その効果が不十分の場合も見受けられていた。ASVによる呼吸療法は、中枢性の無呼吸症
に有効であり臨床応用されている。本稿では、この呼吸療法の理解を深め、臨床の場で有効かつ
効果的に活用していただくために、専門の医師の立場からASV適応導入の実際について執筆いた
だいた。また、メーカーからはASVのしくみについて解説していただいた。医療スタッフの方々
の参考になれば幸いである。
新しい陽圧換気療法ASV(アダプティブ・サーボ・ベンチレーション)の紹介
技術の進歩と医療への応用国立循環器病センター 病院長
友池 仁暢
1
ヒトはその生命の維持を有酸素代謝活動に依存しています。「大気中の酸素が取り込まれ、身体のすみずみまで運搬され、60兆個の細胞が機能を果たす」、一見あたりまえの過程の成熟に46億年もの日時を要したといわれています。どうりで、大気の環境制御からミトコンドリア呼吸に至るどの局面を見ても息をのむ程巧妙な仕組みになっています。生命維持の営みは、うまく行っている時ほどよく見えない。ところが、時には必然に、時には僅かの不調を契機に病的状態が症状・症候として顕在化します。医療が生体の仕組みに介入して病的状態からの離脱を助けるという、その仕組みも“人類の智恵”と感じ入る程絶妙です。さて、健康成人は安静時でさえ、毎分約250 mlの酸素を消費しています。気道から肺胞に至る生体の解剖学的構造と生理機能が合理的かつ無駄なく働いて初めて可能となる数値です。眠りの中で、ふと呼吸中枢が抑制されたり、舌根が沈下し気流が数10秒
妨げられたとする。生体は一定量の酸素を必要としているので、外からの酸素供給不足を一気に取り戻すべく大きな呼吸活動が自動的に発生します。SAS症状の特徴である無呼吸後の大きな呼吸という代償機転は、呼吸筋の疲労、慢性的低酸素化に伴う末梢抵抗亢進・高血圧の出現、多臓器の変調と連鎖的に健康体を蝕みはじめます。負に傾いたバラスを元に戻す治療法として生理的呼吸を強制するASVが開発され、その有効性が自覚症状の改善から心不全入院の減少などのエビデンスとして確認されています。ASV、ペースメーカー、ICD、ステント手術など医療器材による治療の原理は明解ですが、その成熟にはヒトと器械のインターフェイスが工学的に可能になるまでの試行錯誤は欠かせません。ITとその関連技術の進歩は様々の治療の可能性を現実のものとしつつあります。そう考えると、治療技術の開発とヒトにやさしい適用は今世紀に大きく成長する分野であると期待されます。
No.1
32
循環器領域における新しい陽圧換気療法への期待-循環器領域における有効性とエビデンス-
大阪医科大学 内科学Ⅲ准教授 同附属病院臨床治験センター長
林 哲也
1.慢性心不全と睡眠呼吸障害の背景
これまで睡眠呼吸障害(SDB)は呼吸器内科や精神神経科、いびきなどでは耳鼻咽喉科にて診断治療されてきました。しかしながら循環器領域においても、睡眠時無呼吸との関連性が示唆される病態が多く認められ、必然的に循環器専門医が診察する機会が増えてきました。最近では、慢性心不全患者が高率に睡眠時無呼吸を合併することが報告され、適応補助換気ASV(adaptive servo ventilator)による新たな治療法が注目されています。
心不全患者におけるSDBは多くの場合、閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)と中枢性睡眠時無呼吸(CSA)が混在しています。心不全の重症度、罹病期間、治療内容などによって病態は変化しますが、一般的に心不全の結果として発症するのはCSAが多いとされています。Oldenburgらは、ガイドラインに従った適切な治療を受けている症候性心不全患者(NYHAクラスⅡ以上、左室駆出率LVEF 40%以下)700名を対象に、睡眠ポリグラフ検査を行いSDBの有無について検索しました1)。その結果、76%の心不全患者にSDBが認められ、そのうちCSAが40%に対しOSAは36%であり、CSA患者の方がOSA患者より心不全症状が強く、また左室駆出率もより低値を示しました。さらに、6分間歩行試験でもCSA患者の運動能力は有意に低下していました。これらの事実より、心不全患者におけるSDB、特にCSAが重症度のマーカーとなる可能性が示唆されます。さらに、慢性心不全に合併するチェーンストークス呼吸(CSR)は予後不良因子であり、Javaheriらの最近の報告でもCSR-CSAを伴う心不全患者において生存率の有意な低下が認められました2)。したがって、睡眠時無呼吸のスクリーニングは心不全患者の評価およびフォローアップにおいて重要であり、定期的に実施されるべきであると考えられます。
2.薬物療法と非薬物療法
心不全は多くの心血管系疾患が最終的に到達する終末像的症候群であり、集学的・集約的医療を行う代表疾患といえます。次 と々新しい治療法が開発されていますが、残念ながら臨床的に満足できるものには至っていません。近年、心不全の治療として薬物治療だけでなく、心室同期ペーシング療法、 植込み型除細動器や心筋細胞シートなどの侵襲的な治療をはじめ、運動療法、温熱療法、そして在宅酸素療法などの非薬物治療が注目されています。篠山らはCSRを伴うCSAの患者に在宅酸素(HOT)療法(3 l/min)を行い、睡眠や生活の質、動脈血酸素飽和度や左室機能などが改善されたと報告しています3)。酸素療法や陽圧治療デバイスを用いた研究の結果、最近では前述のASVを用いた心不全治療における補助換気療法の有効性が注目されています。
3.非薬物療法の原理
心不全患者におけるCSRをはじめとするCSAの発症メカニズムは、(1)頸動脈小体や延髄呼吸中枢における二酸化炭素に対する感受性の増大、(2)心不全による左室駆出率の低下に伴う循環時間の延長、(3)肺うっ血による迷走神経刺激などが関与すると考えられます4-6)。心不全が重症化するとさらに交感神経系が亢進され、二酸化炭素に対する化学受容体の感受性が高まり、呼吸回数が増え(過呼吸)、低二酸化炭素血症となりCSR-CSAタイプの睡眠呼吸障害が増加、さらに心不全が進行するという悪循環に陥ります。
ここで、呼吸に注目して心不全病態を考えますと、無呼吸と過換気を繰り返すのであるならば、呼吸を制御することで睡眠呼吸障害を防げる可能性があります。すなわち、低呼吸・無呼吸の発生時に機器が適切にサポートすれば、通常の呼吸が維持できるためCSRはおこりません。つまり、呼吸状態を制御するこ
とで心機能低下を防ぐ、あるいは少なくとも悪化を防止することができるはずです。
他方、OSAは高血圧、糖尿病、最近ではメタボリックシンドロームなど心不全の危険因子との合併が多く、またOSAも独立した心不全の危険因子といわれています。重症OSA例のみならず軽症・中等症においても持続陽圧(continuous positive airwaypressure :CPAP)治療による心血管イベントの抑制効果が報告7)されていますが、CPAP導入やコンプライアンス維持は必ずしも容易ではありません。
4.CSR-CSAに対する治療エビデンスとASV
これまでは、CSR-CSAの治療にもCPAPが有効であると考えられてきました。改善のメカニズムは十分に解明されていませんが、CPAP使用中の気道陽圧による心室前負荷、後負荷の軽減、1回拍出量の増加、交感神経系の活動性低下など急性期効果が期待されます。しかしながら睡眠呼吸障害の改善が見られない“non-responder”が約50%存在し、このような症例では生命予後が不良であることが報告されています8)。
最近では、新しいデバイスASVが睡眠呼吸障害のイベント抑制により有効であることがわかってきました9)。Hastingらは、LVEF 45%未満の睡眠呼吸障害を認める慢性心不全患者に対し、ASVによる換気治療を6ヶ月続けた結果、LVEFが有意に改善し(図1)、しかもASVはあらゆるタイプの睡眠時無呼吸に有効であったと報告しています10)。同様に、LVEFの改善のみならず、N-terminal pro-brain natriureticpeptideの低下、運動能の向上、生活の質の改善なども認められています11)。ASVは、睡眠呼吸障害患者の呼吸状態と気流の
変化に適応して補助換気圧を同調させることにより、正常に近いなめらかな呼吸が得られます(図2)。これまでの二層性気道陽圧(bilevel PAP)では呼吸回数・換気量をはじめ多くの項目設定が必要でした。また、矩形波での送気(人工的に作られた直線的な送気)であるため、睡眠を妨げ覚醒させてしまうと同時に過換気中にバックアップ換気が入れば過換気を助長する危険性も示唆されていました。これに対しASVは、ほとんど全てが自動調整され、自然に近い快適な呼吸パターンを確保することができるため、コンプライアンスの維持からも期待される新しいデバイスです。
図1 ASV治療(6ヶ月間)は心不全患者の左室収縮率を有意に改善する10)。
循環器領域における新しい陽圧換気療法への期待-循環器領域における有効性とエビデンス-
No.1No.1
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循環器領域における新しい陽圧換気療法への期待-循環器領域における有効性とエビデンス-
大阪医科大学 内科学Ⅲ准教授 同附属病院臨床治験センター長
林 哲也
1.慢性心不全と睡眠呼吸障害の背景
これまで睡眠呼吸障害(SDB)は呼吸器内科や精神神経科、いびきなどでは耳鼻咽喉科にて診断治療されてきました。しかしながら循環器領域においても、睡眠時無呼吸との関連性が示唆される病態が多く認められ、必然的に循環器専門医が診察する機会が増えてきました。最近では、慢性心不全患者が高率に睡眠時無呼吸を合併することが報告され、適応補助換気ASV(adaptive servo ventilator)による新たな治療法が注目されています。
心不全患者におけるSDBは多くの場合、閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)と中枢性睡眠時無呼吸(CSA)が混在しています。心不全の重症度、罹病期間、治療内容などによって病態は変化しますが、一般的に心不全の結果として発症するのはCSAが多いとされています。Oldenburgらは、ガイドラインに従った適切な治療を受けている症候性心不全患者(NYHAクラスⅡ以上、左室駆出率LVEF 40%以下)700名を対象に、睡眠ポリグラフ検査を行いSDBの有無について検索しました1)。その結果、76%の心不全患者にSDBが認められ、そのうちCSAが40%に対しOSAは36%であり、CSA患者の方がOSA患者より心不全症状が強く、また左室駆出率もより低値を示しました。さらに、6分間歩行試験でもCSA患者の運動能力は有意に低下していました。これらの事実より、心不全患者におけるSDB、特にCSAが重症度のマーカーとなる可能性が示唆されます。さらに、慢性心不全に合併するチェーンストークス呼吸(CSR)は予後不良因子であり、Javaheriらの最近の報告でもCSR-CSAを伴う心不全患者において生存率の有意な低下が認められました2)。したがって、睡眠時無呼吸のスクリーニングは心不全患者の評価およびフォローアップにおいて重要であり、定期的に実施されるべきであると考えられます。
2.薬物療法と非薬物療法
心不全は多くの心血管系疾患が最終的に到達する終末像的症候群であり、集学的・集約的医療を行う代表疾患といえます。次 と々新しい治療法が開発されていますが、残念ながら臨床的に満足できるものには至っていません。近年、心不全の治療として薬物治療だけでなく、心室同期ペーシング療法、 植込み型除細動器や心筋細胞シートなどの侵襲的な治療をはじめ、運動療法、温熱療法、そして在宅酸素療法などの非薬物治療が注目されています。篠山らはCSRを伴うCSAの患者に在宅酸素(HOT)療法(3 l/min)を行い、睡眠や生活の質、動脈血酸素飽和度や左室機能などが改善されたと報告しています3)。酸素療法や陽圧治療デバイスを用いた研究の結果、最近では前述のASVを用いた心不全治療における補助換気療法の有効性が注目されています。
3.非薬物療法の原理
心不全患者におけるCSRをはじめとするCSAの発症メカニズムは、(1)頸動脈小体や延髄呼吸中枢における二酸化炭素に対する感受性の増大、(2)心不全による左室駆出率の低下に伴う循環時間の延長、(3)肺うっ血による迷走神経刺激などが関与すると考えられます4-6)。心不全が重症化するとさらに交感神経系が亢進され、二酸化炭素に対する化学受容体の感受性が高まり、呼吸回数が増え(過呼吸)、低二酸化炭素血症となりCSR-CSAタイプの睡眠呼吸障害が増加、さらに心不全が進行するという悪循環に陥ります。
ここで、呼吸に注目して心不全病態を考えますと、無呼吸と過換気を繰り返すのであるならば、呼吸を制御することで睡眠呼吸障害を防げる可能性があります。すなわち、低呼吸・無呼吸の発生時に機器が適切にサポートすれば、通常の呼吸が維持できるためCSRはおこりません。つまり、呼吸状態を制御するこ
とで心機能低下を防ぐ、あるいは少なくとも悪化を防止することができるはずです。
他方、OSAは高血圧、糖尿病、最近ではメタボリックシンドロームなど心不全の危険因子との合併が多く、またOSAも独立した心不全の危険因子といわれています。重症OSA例のみならず軽症・中等症においても持続陽圧(continuous positive airwaypressure :CPAP)治療による心血管イベントの抑制効果が報告7)されていますが、CPAP導入やコンプライアンス維持は必ずしも容易ではありません。
4.CSR-CSAに対する治療エビデンスとASV
これまでは、CSR-CSAの治療にもCPAPが有効であると考えられてきました。改善のメカニズムは十分に解明されていませんが、CPAP使用中の気道陽圧による心室前負荷、後負荷の軽減、1回拍出量の増加、交感神経系の活動性低下など急性期効果が期待されます。しかしながら睡眠呼吸障害の改善が見られない“non-responder”が約50%存在し、このような症例では生命予後が不良であることが報告されています8)。
最近では、新しいデバイスASVが睡眠呼吸障害のイベント抑制により有効であることがわかってきました9)。Hastingらは、LVEF 45%未満の睡眠呼吸障害を認める慢性心不全患者に対し、ASVによる換気治療を6ヶ月続けた結果、LVEFが有意に改善し(図1)、しかもASVはあらゆるタイプの睡眠時無呼吸に有効であったと報告しています10)。同様に、LVEFの改善のみならず、N-terminal pro-brain natriureticpeptideの低下、運動能の向上、生活の質の改善なども認められています11)。ASVは、睡眠呼吸障害患者の呼吸状態と気流の
変化に適応して補助換気圧を同調させることにより、正常に近いなめらかな呼吸が得られます(図2)。これまでの二層性気道陽圧(bilevel PAP)では呼吸回数・換気量をはじめ多くの項目設定が必要でした。また、矩形波での送気(人工的に作られた直線的な送気)であるため、睡眠を妨げ覚醒させてしまうと同時に過換気中にバックアップ換気が入れば過換気を助長する危険性も示唆されていました。これに対しASVは、ほとんど全てが自動調整され、自然に近い快適な呼吸パターンを確保することができるため、コンプライアンスの維持からも期待される新しいデバイスです。
図1 ASV治療(6ヶ月間)は心不全患者の左室収縮率を有意に改善する10)。
循環器領域における新しい陽圧換気療法への期待-循環器領域における有効性とエビデンス-
No.1No.1
循環器領域における新しい陽圧換気療法への期待-循環器領域における有効性とエビデンス-
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respiration and periodic breathing in chronic stablecongestive heart failure secondary to ischemic oridiopathic dilated cardiomyopathy. Am J Cardiol 1999;84: 900-4.
6)Solin P, Bergin P, Richardson M, et al. Influence ofpulmonary capillary wedge pressure on central apnea inheart failure. Circulation 1999; 99: 1574-9.
7)Marin JM, Carrizo SJ, Vicente E, et al. Long-termcardiovascular outcomes in men with obstructive sleepapnoea-hypopnoea with or without treatment withcontinuous positive airway pressure: an observationalstudy. Lancet 2005; 365: 1046-53.
8)Arzt M, Floras JS, Logan AG, et al. Suppression ofcentral sleep apnea by continuous positive airwaypressure and transplant-free survival in heart failure: apost hoc analysis of the Canadian continuous positiveairway pressure for patients with central sleep apneaand heart failure trial (CANPAP). Circulation 2007; 115:3173-80.
9)Teschler H, D_hring J, Wang YM, et al. Adaptivepressure support servo-ventilation. A novel treatment forCheyne-Stokes respiration in heart failure. Am J RespirCrit Care Med 2001; 164: 614-9.
10)Hasting PC, Vazir A, Meadows GE, et al. Adaptiveservo-ventilation in heart failure patients with sleepapnea: a real world study. Int J Cardiol 2008(doi:10.1016/j.ijcard.2008.08.022)
11)Oldenburg O, Schmidt A, Lamp B, et al. Adaptiveservoventilation improves cardiac function in patientswith chronic heart fai lure and Cheyne-Stokesrespiration. Eur J Heart Fail 2008; 10: 581-6.
◆ ◆ ◆
Adaptive ServoVentilation(ASV)のアルゴリズムについて
レスメド株式会社 統括本部長
中原 康雄
ASV療法の目的は、周期性呼吸を弱める、または防ぐために自動的に調整された換気サポートを提供して、そして共存する閉塞性睡眠時無呼吸も同時にサポートする事です。療法は適切な換気目標(睡眠中を含む)を持って、周期性呼吸下でも患者の呼吸と同調します。治療の対象とされる患者はComplex SAS、中枢性の睡眠時無呼吸、及びチェーン・ストークス呼吸(心不全でしばしば観測される)などがあげられます。
ASVの一般的治療目標をまとめます:●EEP圧力を提供することによって、上気道を安定させる。
●プレッシャーサポートを提供して、周期性呼吸を発生する患者の呼吸を安定させる。これは換気量をサポートするという意味ではなく、患者の呼吸努力の最高圧と最低圧の揺らぎを解決出来る「サーボ換気装置」を意味します。そうすることによって、血液ガス(PCO2、PO2)の安定性は達成されます。そして、サポート換気は必要最小限に抑えられるのです。
●患者機械換気の同期を提供。●ある程度のリークを許容。●患者のコンフォタビリティを提供。上記の全てがASVの最小限の自動タイトレーションで達成されます。
1.1 ASVモード
ASVモードはサーボ人工呼吸器療法です。図1下はサーボコントロール装置の原則を例証します。図1(a):一般的なサーボ制御装置であって、また、
閉ループ制御か負のフィードバック制御システムの目標は、自動的に何か指定された目標と実際の振る舞い(誤差項)の違いを最小とならせるものをコントロールする事によって達成されます。
図1(a) 一般的なフィードバック制御システムのブロック図
図1(b) ASVの療法目標を示している適応型の閉ループ陽圧呼吸療法
図1(b):ASVに於けるフィードバックループ図
従来のBi-levelでの換気補助が不十分である理由
これまでの自発換気(S)モード二層陽圧の換気補助で周
期性呼吸は、より悪くなる場合があります。呼吸サイクルの
過換気部分の間、患者の努力を増幅してしまい、また自発
換気がない場合は、サイクルの無呼吸の部分の間サポート
を全く提供しない事も考えられます。また、(ST)モードBi-
levelに設定されたサポートは、換気を維持するのにおいて
は大きな利益がありますが、同時に過換気を促進してしま
っているかもしれません。
ASVモードには、以下の主要な要素があります:●サーボ呼吸ターゲット●圧力プロフィール●同期を維持する手段以下のセクションでこれらそれぞれの要素について議論します。
SPO2の変動
呼吸波形
ASV サポート圧
SPO2
サポート圧により安定した呼吸
CSRの再出現
図2 ASVは呼吸状態にあわせて補助換気の度合いを自動調整する。圧補助解除にてCSRが再出現した。
現在、国際的に大規模臨床試験が行われており、数年後にはASVの有効性についての科学的根拠が明らかにされる見込みです。一方、国内においても臨床試験が進行中であり、欧米人と骨格・体格などが異なる日本人のデータ集積が期待されます。しかしながら、ASVは既に保険適応を得た治療法であり、薬物治療に難渋する慢性心不全患者に対する次のステップとして、侵襲の少ないASV治療を積極的に検討したいと考えています。
〈参考文献〉1)Oldenburg O, Lamp B, Faber L, et al. Sleep-disordered
breathing in patients with symptomatic heart failure. Acontemporary study of prevalence in and characteristicsof 700 patients. Eur J Heart Fail 2007; 9: 251-7.
2)Javaheri S, Shukla R, Zeigler H, et al. Central sleepapnea, right ventricular dysfunction, and low diastolicblood pressure are predictors of mortality in systolicheart failure. J Am Coll Cardiol 2007; 49: 2028-34.
3)Sasayama S, Izumi T, Seino Y, et al. Effects of nocturaloxygen therapy on outcome measures in patients withchronic heart failure and Cheyne-Stokes respiration.Circ J 2006; 70: 1-7.
4)Javaheri S. A mechanism of central sleep apnea inpatients with heart failure. N Eng J Med. 1999;341:949-54.
5)Mortara A, Sleight P, Pinna GD, et al. Associationbetween hemodynamic impairment and Cheyne-Stokes
5.今後の期待
No.1No.1
循環器領域における新しい陽圧換気療法への期待-循環器領域における有効性とエビデンス-
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respiration and periodic breathing in chronic stablecongestive heart failure secondary to ischemic oridiopathic dilated cardiomyopathy. Am J Cardiol 1999;84: 900-4.
6)Solin P, Bergin P, Richardson M, et al. Influence ofpulmonary capillary wedge pressure on central apnea inheart failure. Circulation 1999; 99: 1574-9.
7)Marin JM, Carrizo SJ, Vicente E, et al. Long-termcardiovascular outcomes in men with obstructive sleepapnoea-hypopnoea with or without treatment withcontinuous positive airway pressure: an observationalstudy. Lancet 2005; 365: 1046-53.
8)Arzt M, Floras JS, Logan AG, et al. Suppression ofcentral sleep apnea by continuous positive airwaypressure and transplant-free survival in heart failure: apost hoc analysis of the Canadian continuous positiveairway pressure for patients with central sleep apneaand heart failure trial (CANPAP). Circulation 2007; 115:3173-80.
9)Teschler H, D_hring J, Wang YM, et al. Adaptivepressure support servo-ventilation. A novel treatment forCheyne-Stokes respiration in heart failure. Am J RespirCrit Care Med 2001; 164: 614-9.
10)Hasting PC, Vazir A, Meadows GE, et al. Adaptiveservo-ventilation in heart failure patients with sleepapnea: a real world study. Int J Cardiol 2008(doi:10.1016/j.ijcard.2008.08.022)
11)Oldenburg O, Schmidt A, Lamp B, et al. Adaptiveservoventilation improves cardiac function in patientswith chronic heart fai lure and Cheyne-Stokesrespiration. Eur J Heart Fail 2008; 10: 581-6.
◆ ◆ ◆
Adaptive ServoVentilation(ASV)のアルゴリズムについて
レスメド株式会社 統括本部長
中原 康雄
ASV療法の目的は、周期性呼吸を弱める、または防ぐために自動的に調整された換気サポートを提供して、そして共存する閉塞性睡眠時無呼吸も同時にサポートする事です。療法は適切な換気目標(睡眠中を含む)を持って、周期性呼吸下でも患者の呼吸と同調します。治療の対象とされる患者はComplex SAS、中枢性の睡眠時無呼吸、及びチェーン・ストークス呼吸(心不全でしばしば観測される)などがあげられます。
ASVの一般的治療目標をまとめます:●EEP圧力を提供することによって、上気道を安定させる。
●プレッシャーサポートを提供して、周期性呼吸を発生する患者の呼吸を安定させる。これは換気量をサポートするという意味ではなく、患者の呼吸努力の最高圧と最低圧の揺らぎを解決出来る「サーボ換気装置」を意味します。そうすることによって、血液ガス(PCO2、PO2)の安定性は達成されます。そして、サポート換気は必要最小限に抑えられるのです。
●患者機械換気の同期を提供。●ある程度のリークを許容。●患者のコンフォタビリティを提供。上記の全てがASVの最小限の自動タイトレーションで達成されます。
1.1 ASVモード
ASVモードはサーボ人工呼吸器療法です。図1下はサーボコントロール装置の原則を例証します。図1(a):一般的なサーボ制御装置であって、また、
閉ループ制御か負のフィードバック制御システムの目標は、自動的に何か指定された目標と実際の振る舞い(誤差項)の違いを最小とならせるものをコントロールする事によって達成されます。
図1(a) 一般的なフィードバック制御システムのブロック図
図1(b) ASVの療法目標を示している適応型の閉ループ陽圧呼吸療法
図1(b):ASVに於けるフィードバックループ図
従来のBi-levelでの換気補助が不十分である理由
これまでの自発換気(S)モード二層陽圧の換気補助で周
期性呼吸は、より悪くなる場合があります。呼吸サイクルの
過換気部分の間、患者の努力を増幅してしまい、また自発
換気がない場合は、サイクルの無呼吸の部分の間サポート
を全く提供しない事も考えられます。また、(ST)モードBi-
levelに設定されたサポートは、換気を維持するのにおいて
は大きな利益がありますが、同時に過換気を促進してしま
っているかもしれません。
ASVモードには、以下の主要な要素があります:●サーボ呼吸ターゲット●圧力プロフィール●同期を維持する手段以下のセクションでこれらそれぞれの要素について議論します。
SPO2の変動
呼吸波形
ASV サポート圧
SPO2
サポート圧により安定した呼吸
CSRの再出現
図2 ASVは呼吸状態にあわせて補助換気の度合いを自動調整する。圧補助解除にてCSRが再出現した。
現在、国際的に大規模臨床試験が行われており、数年後にはASVの有効性についての科学的根拠が明らかにされる見込みです。一方、国内においても臨床試験が進行中であり、欧米人と骨格・体格などが異なる日本人のデータ集積が期待されます。しかしながら、ASVは既に保険適応を得た治療法であり、薬物治療に難渋する慢性心不全患者に対する次のステップとして、侵襲の少ないASV治療を積極的に検討したいと考えています。
〈参考文献〉1)Oldenburg O, Lamp B, Faber L, et al. Sleep-disordered
breathing in patients with symptomatic heart failure. Acontemporary study of prevalence in and characteristicsof 700 patients. Eur J Heart Fail 2007; 9: 251-7.
2)Javaheri S, Shukla R, Zeigler H, et al. Central sleepapnea, right ventricular dysfunction, and low diastolicblood pressure are predictors of mortality in systolicheart failure. J Am Coll Cardiol 2007; 49: 2028-34.
3)Sasayama S, Izumi T, Seino Y, et al. Effects of nocturaloxygen therapy on outcome measures in patients withchronic heart failure and Cheyne-Stokes respiration.Circ J 2006; 70: 1-7.
4)Javaheri S. A mechanism of central sleep apnea inpatients with heart failure. N Eng J Med. 1999;341:949-54.
5)Mortara A, Sleight P, Pinna GD, et al. Associationbetween hemodynamic impairment and Cheyne-Stokes
5.今後の期待
No.1No.1
Adaptive ServoVentilation(ASV)のアルゴリズムについて Adaptive ServoVentilation(ASV)のアルゴリズムについて
76
アルゴリズムは、現在の換気について計算します。そして、ターゲットを設定します。ASVサーボ制御装置は、圧力サポートを調節するの
にこれらの差異を使用します。これは以下図3で例証されます。図3(a)はerror-signalの特徴を示しています。図3(b)
は圧力サポートを調節するためにこれがどう統合しているかを示しています。
図4(a)はより長い期間にわたって療法を例証します。マスク圧(青)、呼吸流量(赤)、および換気目標(緑)。圧力サポートは現在の換気とターゲットの違いに比例し即座に調整されます。おおよそt=440で患者換気が徐 に々適応していくのが観察されます。
図3 圧力サポート調整の過程(a)目標(緑)と現在の換気(赤)間の差異(エラーシグナル・青)。(b)圧力サポートの大きさ(赤)、エラーシグナル(青)。網掛け領域は圧サポートが増加されている(3cmH2Oの最低圧サポートを超えた赤信号増加)ところです、エラーシグナル(青)を統合しています。
図4 圧力support(a)の調整は、療法後に軽微な呼吸障害を安定させました。(b)圧力サポート応答の速度を示している仮定例。初めは、セラピーはオフですが、他のすべてのパラメータが計算されています。約t=350あたりで療法を開始して換気は正常化されます。
410 420 430 440 450 460 470 480
4.2
4
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(a) (b)(a)
(b)
(a) (b)
図2 チェーン・ストークス呼吸のシミュレート。約t=350から療法を開始。(b):換気(赤)、長期の平均換気(緑・上線)、療法目標(青・下線)
図5 ASV療法圧の例
患者の自発呼吸に適応する人工呼吸器治療において、患者の自発呼吸努力に同期することは、快適性の面で大変重要です。呼吸を安定させることを目指すASVなどのサーボ人工呼吸器療法において、同期しないことが不安定性につながるため、同期はさらに重要です。右に標準的なBi-levelの同期方法がまとめられてい
ます。ASVには標準的なBi-levelより複数の異なった動作があります。まず第一に、適用される圧はBi-levelの様に一定ではありません。 それは、吸気の最後に、
圧のピークに、そして呼気の最後にその圧力の底に達することを目指す連続的圧力プロフィールであるので、圧力テンプレートはあらかじめTiとTeを見積もることを必要とします。
従来のBi-level同期の概要
標準的なBi-levelの人工呼吸器は、吸気か呼気のどちら
かとして患者の呼吸段階を追跡して、それに従って、IPAP
かEPAPどちらかの治療圧を加えるでしょう。IPAPは呼吸
フローが固定の‘Trigger threshold'を超えることによって引
き起こされます。一方、フローが‘Cycle threshold’を下回
ると一般的にEPAPへと戻ります。
吸気フローが検出されない場合、標準的なSTのBi-level
装置は、手動であらかじめ設定されたレートでバックアップ
呼吸を挿入します。
ASV装置は、患者の自己の長期の平均した呼吸をサンプリングします。この平均に基づいて、装置は長期の平均(3分の時定数)の90%になるように患者の現在の呼吸を安定させるように換気サポートを調整することを目指します。非常に快適な圧力プロフィールを通して、必要となる分だけのサポート圧力調整を瞬時に行っています。図2(a)はシミュレートされたチェーン・ストークス呼吸
の患者フローの図ですが、初期の時点で周期性呼吸が観測されます。次に、ASVは約t=350から作動を開始しています。患者を安定させるために、最初に、装置は長期の平
均換気量を計算します。以後、換気は絶え間なく計算されます(図2(b),赤)。また、この信号は長期の換気見積もり(図2(b),緑)のローパスフィルタを与えます。次に、サーボコントロール装置の目標が3分のローパスフィルタの値の90%をターゲットにします(図2(b),青)。
1.1.1 サーボ呼吸ターゲット 1.1.2 波形プロファイル
1.1.3 患者の呼吸との同期
-6
-4
-2
0
2
4
6
8
10
12
14
Time (sec)
Patient Effort
Therapy Pressure
-30
-20
-10
0
10
20
30
40
Time (sec)
Respiratory Flow
Seamless insertion of machine breaths during central apnea
図6 バックアップ呼吸
第二に、「バックアップ呼吸」に関する従来の考え方は実際には適用されません。装置による定められたバックアップの呼吸回数を送気する時に生じるかもしれない呼吸タイミングの遅延を待つより、ASVは最近の平均値に基づいて絶え間なく呼吸を送気します。これは、療法の始めに15回/分に初期化され、最近検出された呼吸の簡単なローパスフィルタ(8秒の時定数)で効果的に患者の換気回数の変化に適応します。予測されて機械から絶え間なく送気される呼吸は、従来のBi-level装置で見られるバックアップ呼吸のような遅れがないため、患者の自発呼吸努力と区別がつかない場合があります(図6)。
第三に、従来の様なTrigger/Cycle thresholdを採用するのではなく、吸気の始めを0、呼気の始めを0.5、呼気の終わりを(ほぼ)1に定義した連続型変数として、患者の呼吸段階を見積もります。この定義は呼気と吸気の相対的な長さにかかわらず成立します。この呼吸段階の見積もりは、ファジー理論を用いて、以下の要素によって決定されます。
No.1No.1
ASVの圧力サポートは右例のように、圧の優しい増加と減少を提供します(図5)。「オーシャンウェーブ」と呼ばれるこの波形の効果は、自然な呼吸パターンを維持することによって最大の安らぎを患者に提供することです。通常、このような波形は呼吸仕事量を抑えるのには有効ですが、肺機能疾患を持った患者を換気するにのにはあまり効率が良くないと思われます。そのようなタスクに関しては、従来のスクエアな圧力サポートプロフィールが最も効果的です。ASV療法は周期性呼吸の不安定な過換気の部位をさらに増悪させないところで呼吸させるコントロールです。最小の圧力サポート(3cmH2O)は患者の快適性のために提供されます。最小3cmH2OのPSでは、患者を自然呼吸下におきながら、換気装置は呼吸仕事量の(1/3から半分と言われている)をサポートしています。●コンピュータモデルでは、3cmH2Oの最小PSサポートが、CSA-CSRを安定させるのを示しました。
●このサポートが中枢性の無呼吸を引き起こす要因となる過換気を促進しない理由は、ASVの波形は従来の矩形波とは違う、優しい「オーシャンウェーブ波形」の為と、PS自体が呼吸をサポートするのに必要である値のおおよそ50%未満であるからです。
●主観的にかなり快適です。
Adaptive ServoVentilation(ASV)のアルゴリズムについて Adaptive ServoVentilation(ASV)のアルゴリズムについて
76
アルゴリズムは、現在の換気について計算します。そして、ターゲットを設定します。ASVサーボ制御装置は、圧力サポートを調節するの
にこれらの差異を使用します。これは以下図3で例証されます。図3(a)はerror-signalの特徴を示しています。図3(b)
は圧力サポートを調節するためにこれがどう統合しているかを示しています。
図4(a)はより長い期間にわたって療法を例証します。マスク圧(青)、呼吸流量(赤)、および換気目標(緑)。圧力サポートは現在の換気とターゲットの違いに比例し即座に調整されます。おおよそt=440で患者換気が徐 に々適応していくのが観察されます。
図3 圧力サポート調整の過程(a)目標(緑)と現在の換気(赤)間の差異(エラーシグナル・青)。(b)圧力サポートの大きさ(赤)、エラーシグナル(青)。網掛け領域は圧サポートが増加されている(3cmH2Oの最低圧サポートを超えた赤信号増加)ところです、エラーシグナル(青)を統合しています。
図4 圧力support(a)の調整は、療法後に軽微な呼吸障害を安定させました。(b)圧力サポート応答の速度を示している仮定例。初めは、セラピーはオフですが、他のすべてのパラメータが計算されています。約t=350あたりで療法を開始して換気は正常化されます。
410 420 430 440 450 460 470 480
4.2
4
3.8
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図2 チェーン・ストークス呼吸のシミュレート。約t=350から療法を開始。(b):換気(赤)、長期の平均換気(緑・上線)、療法目標(青・下線)
図5 ASV療法圧の例
患者の自発呼吸に適応する人工呼吸器治療において、患者の自発呼吸努力に同期することは、快適性の面で大変重要です。呼吸を安定させることを目指すASVなどのサーボ人工呼吸器療法において、同期しないことが不安定性につながるため、同期はさらに重要です。右に標準的なBi-levelの同期方法がまとめられてい
ます。ASVには標準的なBi-levelより複数の異なった動作があります。まず第一に、適用される圧はBi-levelの様に一定ではありません。 それは、吸気の最後に、
圧のピークに、そして呼気の最後にその圧力の底に達することを目指す連続的圧力プロフィールであるので、圧力テンプレートはあらかじめTiとTeを見積もることを必要とします。
従来のBi-level同期の概要
標準的なBi-levelの人工呼吸器は、吸気か呼気のどちら
かとして患者の呼吸段階を追跡して、それに従って、IPAP
かEPAPどちらかの治療圧を加えるでしょう。IPAPは呼吸
フローが固定の‘Trigger threshold'を超えることによって引
き起こされます。一方、フローが‘Cycle threshold’を下回
ると一般的にEPAPへと戻ります。
吸気フローが検出されない場合、標準的なSTのBi-level
装置は、手動であらかじめ設定されたレートでバックアップ
呼吸を挿入します。
ASV装置は、患者の自己の長期の平均した呼吸をサンプリングします。この平均に基づいて、装置は長期の平均(3分の時定数)の90%になるように患者の現在の呼吸を安定させるように換気サポートを調整することを目指します。非常に快適な圧力プロフィールを通して、必要となる分だけのサポート圧力調整を瞬時に行っています。図2(a)はシミュレートされたチェーン・ストークス呼吸
の患者フローの図ですが、初期の時点で周期性呼吸が観測されます。次に、ASVは約t=350から作動を開始しています。患者を安定させるために、最初に、装置は長期の平
均換気量を計算します。以後、換気は絶え間なく計算されます(図2(b),赤)。また、この信号は長期の換気見積もり(図2(b),緑)のローパスフィルタを与えます。次に、サーボコントロール装置の目標が3分のローパスフィルタの値の90%をターゲットにします(図2(b),青)。
1.1.1 サーボ呼吸ターゲット 1.1.2 波形プロファイル
1.1.3 患者の呼吸との同期
-6
-4
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Time (sec)
Patient Effort
Therapy Pressure
-30
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Time (sec)
Respiratory Flow
Seamless insertion of machine breaths during central apnea
図6 バックアップ呼吸
第二に、「バックアップ呼吸」に関する従来の考え方は実際には適用されません。装置による定められたバックアップの呼吸回数を送気する時に生じるかもしれない呼吸タイミングの遅延を待つより、ASVは最近の平均値に基づいて絶え間なく呼吸を送気します。これは、療法の始めに15回/分に初期化され、最近検出された呼吸の簡単なローパスフィルタ(8秒の時定数)で効果的に患者の換気回数の変化に適応します。予測されて機械から絶え間なく送気される呼吸は、従来のBi-level装置で見られるバックアップ呼吸のような遅れがないため、患者の自発呼吸努力と区別がつかない場合があります(図6)。
第三に、従来の様なTrigger/Cycle thresholdを採用するのではなく、吸気の始めを0、呼気の始めを0.5、呼気の終わりを(ほぼ)1に定義した連続型変数として、患者の呼吸段階を見積もります。この定義は呼気と吸気の相対的な長さにかかわらず成立します。この呼吸段階の見積もりは、ファジー理論を用いて、以下の要素によって決定されます。
No.1No.1
ASVの圧力サポートは右例のように、圧の優しい増加と減少を提供します(図5)。「オーシャンウェーブ」と呼ばれるこの波形の効果は、自然な呼吸パターンを維持することによって最大の安らぎを患者に提供することです。通常、このような波形は呼吸仕事量を抑えるのには有効ですが、肺機能疾患を持った患者を換気するにのにはあまり効率が良くないと思われます。そのようなタスクに関しては、従来のスクエアな圧力サポートプロフィールが最も効果的です。ASV療法は周期性呼吸の不安定な過換気の部位をさらに増悪させないところで呼吸させるコントロールです。最小の圧力サポート(3cmH2O)は患者の快適性のために提供されます。最小3cmH2OのPSでは、患者を自然呼吸下におきながら、換気装置は呼吸仕事量の(1/3から半分と言われている)をサポートしています。●コンピュータモデルでは、3cmH2Oの最小PSサポートが、CSA-CSRを安定させるのを示しました。
●このサポートが中枢性の無呼吸を引き起こす要因となる過換気を促進しない理由は、ASVの波形は従来の矩形波とは違う、優しい「オーシャンウェーブ波形」の為と、PS自体が呼吸をサポートするのに必要である値のおおよそ50%未満であるからです。
●主観的にかなり快適です。
●ASVは、最後の数呼吸、特にごく最近の呼気と吸気の持続時間(値)を絶え間なく観察します。これによりある種の運動があたえられます。特に「問題」がなければ、これが呼吸フェーズの最初の見積りとなります。ASVのアルゴリズムにおいて「問題」とは、喚起がターゲットを下回る場合、大きなリークがある場合、もしくはリークに突然大きな変化があった場合を指します。
●次にASVは、1秒に50回呼吸の特徴を観察し、それらの特徴に基づいて、この瞬間の呼吸のどこにあるのかを見積もります。図7にあるように、ウェーブフォーム上に13の特徴が特定されています。ここに示された特徴は、フェーズを増加して調整するためにより重要な運動に結合されます。この結果はそれぞれの傾向がどれくらい強いかに依存します。
●上記の補足として、大きく誤った段階があるとみなされた場合(例えば、現在の段階が呼気を示しているにもかかわらず、フローが突然はっきりと吸気として見られた場合など)、ほぼ即座にこれを解決する他の規則があります。これらの「スイッチ」規則は、吸気から呼気に、または呼気から吸気に段階を切り換える強い傾向があります。
●また、15回/分のデフォルトの「バックアップレート」にも、ある重要性があります。患者の努力が強いときには、この効果は最小限です。「問題」の量が増加するのに従って、運動と呼吸の特徴は次第に効果が弱くなり、バックアップレートがより効力を持ちます。したがって、ASVが目標の換気を維持できて、リークが少なく安定している間は、最近の呼吸値と呼吸の特徴がバックアップレートの主な決定因となります。そうでなければ、アルゴリズムは次第に15回/分のデフォルトバックアップレートに近づけられます。測定された換気が再び目標を越えると、患者との完全な同期は回復します。
●治療の最初では、アルゴリズムのデフォルト呼吸数15回/分が採用されます。
Adaptive ServoVentilation(ASV)のアルゴリズムについて
98
正確に同期を維持して換気量を測定するために、治療装置は、呼吸流量を見積もる必要があります。図8にあるように、非侵襲換気下では、治療装置はフローの総量を確認します。これには呼吸フローだけでなく、マスクリークや口からのリークなどさまざまなリークが含まれ
ます。装置は、ベントフロー(マスクメニュー・セッティングを通した)とリーク(未確認)の両方の見積りを引き算することによって、呼吸フローを見積もらなければなりません。したがって、リークの見積りは、どんな非侵襲換気においても課題であります。ASVアルゴリズムの特に優れた点は、療法の間、リークを絶え間なく総合的に見積れる機能です。それは、長期の圧と長期のフローに関連させることによって行われます。ここでの長期とは、通常複数の呼吸サイクルにわたっています。その結果、平均のリークコンダクタンスの見積りが可能です。平均したリークコンダクタンスとマスク圧を学習しながら、この装置は、瞬時のリークフローを正確に見積もることができます。ご存知の様に、リークには急激に変化するもの、または一時的なものもあります。リークが不安定だとみなされた場合は、ASV独自のファジー理論方法ですばやく検出し、コンダクタンスの計算において短縮平均期間を用いてリークを計算・見積もります。
2. まとめ
1.1.4 呼吸気流量に関する見積もり
当機の最大の特徴は、「患者の呼吸パターンを学習する」ASV機能にあります。従来の制御方法と大きく違う点は、圧制御もしくは換気量制御だけに着眼するのではなく、この機器を提供された患者がその瞬間まで行っていた、「自身の呼吸の形」や「呼吸のタイミング」をベストな状態で機器と同調させ、安定した呼吸をデザインするところにあります。上手くマスク換気に適応した患者は、自分の呼吸と機械換気の差を感じなくなる経験を持たれると事と思われますが、これは、患者の治療に於けるコンプライアンスを最大に出来うる可能性を示唆しております。また、この機器が適応する疾患に於いて、患者換気のバランスを日夜、自動的に取り続けられるというメリットは、医療現場から従来のBi-Levelタイトレーションに於ける様 な々困難や失敗を取り除き、患者を自宅に帰した後も患者自身にとってベストな換気を常にタイトレーションし続けてくれるという、計り知れないメリットがあると我 は々自負しております。是非、ASVの有用性を医療現場において、在宅医療の現場に於いて、確認していただき、治療のお役に立ててていただきたいと我 R々esMedは願っております。
図8 フローとリークの定義
睡眠時無呼吸症候群(SAS)はさまざまな循環器疾患の原因および増悪因子として注目されていますが、SASの治療により基礎心疾患のコントロールが可能となった症例を経験しましたので報告します。
●症例1症例1は広範囲前壁中壁梗塞の60歳男性。1年余りの経過で心筋のリモデリングの進行を認
め、beta-blockerの導入、利尿剤の増量にも拘らず、BNPの増加、心拡大および心不全症状の悪化を認めたため、心不全のコントロール目的に入院しました。入院時の胸部X線写真および12誘導心電図を図1に、急性心筋梗塞発症から心不全入院までのBNPの推移を図2に示します。左室造影では左室駆
出率20%と全周性の著明な壁運動低下を認めました(図3)。睡眠時無呼吸検査では無呼吸低呼吸指数(AHI)37と重症に近いSASを認め、Cheyne-Stokes呼吸を主体としていました(図4)。この症例は本邦にてAdaptive-Servo-Ventilation
(ASV)が使用可能となる以前の例であり、最初に酸素療法による治療を試みましたが、SASの十分な治療は難しく、心不全の改善も認められませんでした。最終的に非侵襲的持続陽圧呼吸(NPPV)療法と酸素療法を組み合わせることでAHIは2.5へと低下し(表1)、その3ヶ月後よりBNPおよび自他覚症状は著明な改善を認めました(図5)。胸部X線写真上CTRは46%と正常化し、この時点でのBNPは80pg/mlでした(図6)。心エコーでは、左室壁運動の改善を認めました(図7)。
睡眠時無呼吸症候群を伴う心不全患者および慢性心房細動患者に対するASVの使用経験
厚生連高岡病院 循環器内科
藤本 学
図1 心不全で入院時の胸部X線写真および12誘導心電図
図2 BNPの推移(急性心筋梗塞発症より心不全入院まで)AMI:acute myocardial infarction, PCI:percutaneus transluminalintervention, CAG:cardiac angiography, CHF:congestive heart failure
図3 左室造影A:左室造影(拡張末期), B:左室造影(収縮末期)EDV:end diastolic volume, ESV:end systolic volume, EF:ejectionfraction
ESV 174mlEF=20%
EDV218ml
図4 睡眠時無呼吸検査(検査装置帝人社製Morpheus)SpO2:saturation of oxygen
◆ ◆ ◆レスメド株式会社〒113-0033 東京都文京区本郷3丁目35-3TEL 03-5840-6781
図7 呼吸フェーズの特徴
No.1No.1
●ASVは、最後の数呼吸、特にごく最近の呼気と吸気の持続時間(値)を絶え間なく観察します。これによりある種の運動があたえられます。特に「問題」がなければ、これが呼吸フェーズの最初の見積りとなります。ASVのアルゴリズムにおいて「問題」とは、喚起がターゲットを下回る場合、大きなリークがある場合、もしくはリークに突然大きな変化があった場合を指します。
●次にASVは、1秒に50回呼吸の特徴を観察し、それらの特徴に基づいて、この瞬間の呼吸のどこにあるのかを見積もります。図7にあるように、ウェーブフォーム上に13の特徴が特定されています。ここに示された特徴は、フェーズを増加して調整するためにより重要な運動に結合されます。この結果はそれぞれの傾向がどれくらい強いかに依存します。
●上記の補足として、大きく誤った段階があるとみなされた場合(例えば、現在の段階が呼気を示しているにもかかわらず、フローが突然はっきりと吸気として見られた場合など)、ほぼ即座にこれを解決する他の規則があります。これらの「スイッチ」規則は、吸気から呼気に、または呼気から吸気に段階を切り換える強い傾向があります。
●また、15回/分のデフォルトの「バックアップレート」にも、ある重要性があります。患者の努力が強いときには、この効果は最小限です。「問題」の量が増加するのに従って、運動と呼吸の特徴は次第に効果が弱くなり、バックアップレートがより効力を持ちます。したがって、ASVが目標の換気を維持できて、リークが少なく安定している間は、最近の呼吸値と呼吸の特徴がバックアップレートの主な決定因となります。そうでなければ、アルゴリズムは次第に15回/分のデフォルトバックアップレートに近づけられます。測定された換気が再び目標を越えると、患者との完全な同期は回復します。
●治療の最初では、アルゴリズムのデフォルト呼吸数15回/分が採用されます。
Adaptive ServoVentilation(ASV)のアルゴリズムについて
98
正確に同期を維持して換気量を測定するために、治療装置は、呼吸流量を見積もる必要があります。図8にあるように、非侵襲換気下では、治療装置はフローの総量を確認します。これには呼吸フローだけでなく、マスクリークや口からのリークなどさまざまなリークが含まれ
ます。装置は、ベントフロー(マスクメニュー・セッティングを通した)とリーク(未確認)の両方の見積りを引き算することによって、呼吸フローを見積もらなければなりません。したがって、リークの見積りは、どんな非侵襲換気においても課題であります。ASVアルゴリズムの特に優れた点は、療法の間、リークを絶え間なく総合的に見積れる機能です。それは、長期の圧と長期のフローに関連させることによって行われます。ここでの長期とは、通常複数の呼吸サイクルにわたっています。その結果、平均のリークコンダクタンスの見積りが可能です。平均したリークコンダクタンスとマスク圧を学習しながら、この装置は、瞬時のリークフローを正確に見積もることができます。ご存知の様に、リークには急激に変化するもの、または一時的なものもあります。リークが不安定だとみなされた場合は、ASV独自のファジー理論方法ですばやく検出し、コンダクタンスの計算において短縮平均期間を用いてリークを計算・見積もります。
2. まとめ
1.1.4 呼吸気流量に関する見積もり
当機の最大の特徴は、「患者の呼吸パターンを学習する」ASV機能にあります。従来の制御方法と大きく違う点は、圧制御もしくは換気量制御だけに着眼するのではなく、この機器を提供された患者がその瞬間まで行っていた、「自身の呼吸の形」や「呼吸のタイミング」をベストな状態で機器と同調させ、安定した呼吸をデザインするところにあります。上手くマスク換気に適応した患者は、自分の呼吸と機械換気の差を感じなくなる経験を持たれると事と思われますが、これは、患者の治療に於けるコンプライアンスを最大に出来うる可能性を示唆しております。また、この機器が適応する疾患に於いて、患者換気のバランスを日夜、自動的に取り続けられるというメリットは、医療現場から従来のBi-Levelタイトレーションに於ける様 な々困難や失敗を取り除き、患者を自宅に帰した後も患者自身にとってベストな換気を常にタイトレーションし続けてくれるという、計り知れないメリットがあると我 は々自負しております。是非、ASVの有用性を医療現場において、在宅医療の現場に於いて、確認していただき、治療のお役に立ててていただきたいと我 R々esMedは願っております。
図8 フローとリークの定義
睡眠時無呼吸症候群(SAS)はさまざまな循環器疾患の原因および増悪因子として注目されていますが、SASの治療により基礎心疾患のコントロールが可能となった症例を経験しましたので報告します。
●症例1症例1は広範囲前壁中壁梗塞の60歳男性。1年余りの経過で心筋のリモデリングの進行を認
め、beta-blockerの導入、利尿剤の増量にも拘らず、BNPの増加、心拡大および心不全症状の悪化を認めたため、心不全のコントロール目的に入院しました。入院時の胸部X線写真および12誘導心電図を図1に、急性心筋梗塞発症から心不全入院までのBNPの推移を図2に示します。左室造影では左室駆
出率20%と全周性の著明な壁運動低下を認めました(図3)。睡眠時無呼吸検査では無呼吸低呼吸指数(AHI)37と重症に近いSASを認め、Cheyne-Stokes呼吸を主体としていました(図4)。この症例は本邦にてAdaptive-Servo-Ventilation
(ASV)が使用可能となる以前の例であり、最初に酸素療法による治療を試みましたが、SASの十分な治療は難しく、心不全の改善も認められませんでした。最終的に非侵襲的持続陽圧呼吸(NPPV)療法と酸素療法を組み合わせることでAHIは2.5へと低下し(表1)、その3ヶ月後よりBNPおよび自他覚症状は著明な改善を認めました(図5)。胸部X線写真上CTRは46%と正常化し、この時点でのBNPは80pg/mlでした(図6)。心エコーでは、左室壁運動の改善を認めました(図7)。
睡眠時無呼吸症候群を伴う心不全患者および慢性心房細動患者に対するASVの使用経験
厚生連高岡病院 循環器内科
藤本 学
図1 心不全で入院時の胸部X線写真および12誘導心電図
図2 BNPの推移(急性心筋梗塞発症より心不全入院まで)AMI:acute myocardial infarction, PCI:percutaneus transluminalintervention, CAG:cardiac angiography, CHF:congestive heart failure
図3 左室造影A:左室造影(拡張末期), B:左室造影(収縮末期)EDV:end diastolic volume, ESV:end systolic volume, EF:ejectionfraction
ESV 174mlEF=20%
EDV218ml
図4 睡眠時無呼吸検査(検査装置帝人社製Morpheus)SpO2:saturation of oxygen
◆ ◆ ◆レスメド株式会社〒113-0033 東京都文京区本郷3丁目35-3TEL 03-5840-6781
図7 呼吸フェーズの特徴
No.1No.1
睡眠時無呼吸症候群を伴う心不全患者および慢性心房細動患者に対するASVの使用経験 睡眠時無呼吸症候群を伴う心不全患者および慢性心房細動患者に対するASVの使用経験
1110
ASVが使用可能となった昨年4月以降にASVへの変更を検討しました。従来のNPPV単独(圧設定をコントロール時より高く設定)と比較したところ、NPPV単独ではAHI12でしたが、ASVではAHI2と良好な結果を得られ、NPPV+酸素療法を同等な効果でした(表2)。睡眠時無呼吸検査を詳細に検討すると、NPPVでは周期的の増減する呼吸パターンを完全に消失させることはできず、間歇的な呼吸補助が入る部分が存在しました(図8)。
一方、ASVは周期的に増減する呼吸パターンが完全に消失していました(図9)。また、呼吸換気の圧パターンもNPPVは矩形波を呈していましたが、ASVの場合にはより自発呼吸に近い波形を認めました(図10)。この圧パターンの違いはマスク機器使用のコンプライアンスに影響を及ぼし、使用対象者からはNPPVに比較し、ASVのほうが呼吸し易いといった意見がよく聞かれます。
●症例2症例2は79歳の慢性心房細動の男性。2年前の検診の際に心房細動を認め、Ⅰ群薬や
bepridilによる除細動を試みましたが除細動されず、以後、レートコントロールで経過を診ていました(図11)。昼の眠気の訴えがあり、睡眠時無呼吸検査を行ったところ、AHI40と重症のSASを認めました(図12)。中枢性無呼吸を主体としていたためにNPPVを使用したところ、使用開始から2日目に心房細動は停止しました(図13)。この症例もASVへ変更しましたが、AHIが16より10へ、いびき指数も286から127へ改善しました。
両症例とも、ASVが使用可能であれば最初からASVを考慮したケースです。両症例の様に、SASの治療により基礎心疾患がコントロールし易くなるケースはかなり多く存在することが予想されます。特にCheyne-Stokes呼吸や中枢性無呼吸を主体と
したSASを合併することの多い心不全例においては、ASVの使用が理想的であると考えられます。
◆ ◆ ◆
厚生連高岡病院〒933-8555 富山県高岡市永楽町5番10号TEL 0766-21-3930
表1 睡眠時無呼吸の治療と各指標の推移1AHI:apnea hypopnea index, ODI:oxygen desaturation index,NIPPV:noninvasive positive pressure ventilation, EPAP:expiratoryposit ive airway pressure, IPAP:inspiratory posit ive pressure,ASV:adaptive servo-ventilation, PS:pressure support
図5 BNPの推移(ASV導入後)
図6 心不全改善後の胸部X線写真(2007/09/13)
図7 心エコー図検査の推移(M モード)A:心不全にて入院時(2006/04/27), EF20% B:心不全改善後(2007/06/17), EF37%
表2 睡眠時無呼吸の治療と各指標の推移2
図9 Morpheus data with ASV.
図8 Morpheus data with conventional NPPV.
図10 呼吸換気の圧パターンA:自発呼吸, B:ASV使用時,C:従来のNPPV使用時
図11 SAS治療前の12誘導心電図(症例2)
図13 SAS治療後の12誘導心電図(症例2)
図12 睡眠時無呼吸検査(症例2)
No.1No.1
adapt SVTM:FUKUDA DENSHI)を開始した。設定はデフォルトであるが、その後、自覚症状、BNPは著明に改善し、AHIはASV内部データのみであるが5以下に改善し、睡眠中の明らかな低酸素も認めなかった。ASV導入後は心不全出現なく外来通院中である。
〈症例2〉M.Sさん,男性,68歳心筋梗塞後のうっ血性心不全にて当院循環器科に
通院中。心不全のコントロールが悪く、入退院を繰り返していたが、入院中に夜間の無呼吸を指摘され、当科に紹介となりPSG試行した。PSGでは、入眠後まもなくCSR様の周期性頻呼吸-無呼吸を認めた。呼吸振幅が次第に低下するとともにdesaturationを伴う中枢性無呼吸、その後閉塞性無呼吸を呈する、いわゆるcomplex SASの状況であった(図2)。PSGの結果はAHI 41.5回/時間の重症無呼吸で、CSR様無呼吸を呈することからASVの適応と判断し、翌日にVPAP adapt SVTMを開始した。ASV開始後には本人は久しぶりによく眠れたとのことであった。内部データの解析では、AHIは4.8回/時間まで改善していた。ただ、心不全での身体障害者の認定が困難なため経済的負担がきついとのことで、ASVではなくCPAP(REMstar○R Auto M Seris with A-FlexTM:RESPIRONICS)に変更した。CPAPの内部データ上AHIは18.4回/時間でASVに比して不十分な結果であったがCPAP継続として退院した。しかし、外来経過観察中、心不全悪化あり入院、急性期管理後にASVをデフォルト設定で導入した。その後次第に労作時の息切れ感や倦怠感などが改善し、さらにBNPも改善をしてきた(表1)。導入後2か月後に簡易睡眠時無呼吸検査LS-300にてASVの効果を評価したところ、CSR/CSA出現に対して適正にサポート圧が上がり(図3)、その後CSR/CSAが解消され、呼吸が安定している所見が得られた(図4)。今回、心不全による身体障害の認定も得られ現在もASVを継続している。
1312
睡眠呼吸障害(SDB)は循環系などの異常の原因となる重要な疾病であると認識されるようになった。SDBの診断のためには終夜睡眠ポリソムノグラフィ(PSG)が必要であり、昨今、各医療施設においても広く普及してきている。当院は729床の総合病院で、病床数44床の救命救急センターをもつ新潟県中越地方の中核病院である。当院では年間80~100件ほどのPSGは全例を呼吸器内科で実施されているが、最近ではSDBに関する認識も深まり、他科通院・入院中や他院の患者の無呼吸検査依頼も多くなっている。特に循環器科に通院・入院中の患者でのPSGを行うことも多くなり、慢性心不全の患者でCheyne-Stokes型の無呼吸(Cheyne-Stokes respiration :CSR)/中枢性無呼吸(CSA)を呈する患者も認めるようになった。慢性心不全では、しばしば睡眠呼吸障害を合併す
ることは知られており、CSR/CSAの出現は予後不良因子と考えられている1)。その治療方針に関して今までのところ定まっていなかった。2007年に慢性心不全におけるCSRにadaptive servo-ventilation(ASV)の保険適応が認められた。ただASV導入にあたり明確な適応基準が今のところ定まっていないのが現状のようである。しかし、いままでの酸素療法、
CPAPや、Bilevel PAPでは十分にコントロールできなかったCSR/CSAに対してASVが有効であることがわかり、にわかに注目されるようになった2)。当院でもこの1年間で5名の心不全患者にASV導入を試みた。今回、我々のASV経験を紹介するとともに、今後、慢性心不全の患者にASVを使用したいと考えられている先生方にお役に立てれば幸いと考える。
当院では、この1年で表1に示すとおりの5名の患者にASVを導入している。AHIなどの改善に関しては個々に差があるが、自覚症状、特に息切れ感や、睡眠の質の改善に関しては全例ある程度の満足を得られている。以下に、導入1例目と、最もAHIの改善している症例2に関してPSGデータを提示し考察する。
〈症例1〉K.Kさん,男性,78歳本症例は他院で高血圧治療中であったが、心不全
を発症し、当院へ入院し、大動脈閉鎖不全症に伴う心不全と診断された。入院中に睡眠時の無呼吸もあるとのことで当科に紹介、簡易無呼吸検査(LS-300:FUKUDA DENSHI)を施行し、周期性呼吸変動と無呼吸を認め(図1)、CSR/CSA疑いでASV(VPAP
ASVの効果を経験して-呼吸器科としての取り組み-
長岡赤十字病院 呼吸器内科・救命救急センター
江部 佑輔
※内部データを表示
表1 ASV導入5症例の導入前と導入1か月後のAHIおよびBNP
症例番号
患者イニシャル
年齢 性別心不全の原因疾患
AHI
ASV導入前値
ASV導入1か月後値※
BNP
ASV導入前値
ASV導入1か月後値※
自覚症状の変化
1 K.K 77歳 男 弁膜症 49.6 4.8 644.6 109.3 改善
M.K 67歳 男 心筋梗塞 41.5 4.2 1497.3 456.9 改善
I.Y 74歳 男 HCM 42.8 8.2 1047.6 827.4 改善
S.Y 82歳 男 心筋梗塞 30.5 10.4 129.9 90.7 改善
D.Y 74歳 男 心筋梗塞 46.2 22.6 264.2 データなし 改善
2
3
4
5
ASVの効果を経験して-呼吸器科としての取り組み-
図1 症例1のASV導入前のPSG(LS-300)CSR/CSAが疑われるパターンを呈している。
図2 症例2のASV導入前のPSG(ソムノトラックプロシステム)CSR/CSAの発現とdesaturationを認める。
図3 症例2のASV導入後のPSG(LS-300)CSR/CSA発現に対してASVの応答でサポート圧を上げて換気を保障している。
図4 症例2のASV導入後のPSG(LS-300)図3の続き。CSR/CSAに対するASVの応答でCSR/CSAが消失し、呼吸が
安定している。
はじめに
当院での経験
No.1No.1
adapt SVTM:FUKUDA DENSHI)を開始した。設定はデフォルトであるが、その後、自覚症状、BNPは著明に改善し、AHIはASV内部データのみであるが5以下に改善し、睡眠中の明らかな低酸素も認めなかった。ASV導入後は心不全出現なく外来通院中である。
〈症例2〉M.Sさん,男性,68歳心筋梗塞後のうっ血性心不全にて当院循環器科に
通院中。心不全のコントロールが悪く、入退院を繰り返していたが、入院中に夜間の無呼吸を指摘され、当科に紹介となりPSG試行した。PSGでは、入眠後まもなくCSR様の周期性頻呼吸-無呼吸を認めた。呼吸振幅が次第に低下するとともにdesaturationを伴う中枢性無呼吸、その後閉塞性無呼吸を呈する、いわゆるcomplex SASの状況であった(図2)。PSGの結果はAHI 41.5回/時間の重症無呼吸で、CSR様無呼吸を呈することからASVの適応と判断し、翌日にVPAP adapt SVTMを開始した。ASV開始後には本人は久しぶりによく眠れたとのことであった。内部データの解析では、AHIは4.8回/時間まで改善していた。ただ、心不全での身体障害者の認定が困難なため経済的負担がきついとのことで、ASVではなくCPAP(REMstar○R Auto M Seris with A-FlexTM:RESPIRONICS)に変更した。CPAPの内部データ上AHIは18.4回/時間でASVに比して不十分な結果であったがCPAP継続として退院した。しかし、外来経過観察中、心不全悪化あり入院、急性期管理後にASVをデフォルト設定で導入した。その後次第に労作時の息切れ感や倦怠感などが改善し、さらにBNPも改善をしてきた(表1)。導入後2か月後に簡易睡眠時無呼吸検査LS-300にてASVの効果を評価したところ、CSR/CSA出現に対して適正にサポート圧が上がり(図3)、その後CSR/CSAが解消され、呼吸が安定している所見が得られた(図4)。今回、心不全による身体障害の認定も得られ現在もASVを継続している。
1312
睡眠呼吸障害(SDB)は循環系などの異常の原因となる重要な疾病であると認識されるようになった。SDBの診断のためには終夜睡眠ポリソムノグラフィ(PSG)が必要であり、昨今、各医療施設においても広く普及してきている。当院は729床の総合病院で、病床数44床の救命救急センターをもつ新潟県中越地方の中核病院である。当院では年間80~100件ほどのPSGは全例を呼吸器内科で実施されているが、最近ではSDBに関する認識も深まり、他科通院・入院中や他院の患者の無呼吸検査依頼も多くなっている。特に循環器科に通院・入院中の患者でのPSGを行うことも多くなり、慢性心不全の患者でCheyne-Stokes型の無呼吸(Cheyne-Stokes respiration :CSR)/中枢性無呼吸(CSA)を呈する患者も認めるようになった。慢性心不全では、しばしば睡眠呼吸障害を合併す
ることは知られており、CSR/CSAの出現は予後不良因子と考えられている1)。その治療方針に関して今までのところ定まっていなかった。2007年に慢性心不全におけるCSRにadaptive servo-ventilation(ASV)の保険適応が認められた。ただASV導入にあたり明確な適応基準が今のところ定まっていないのが現状のようである。しかし、いままでの酸素療法、
CPAPや、Bilevel PAPでは十分にコントロールできなかったCSR/CSAに対してASVが有効であることがわかり、にわかに注目されるようになった2)。当院でもこの1年間で5名の心不全患者にASV導入を試みた。今回、我々のASV経験を紹介するとともに、今後、慢性心不全の患者にASVを使用したいと考えられている先生方にお役に立てれば幸いと考える。
当院では、この1年で表1に示すとおりの5名の患者にASVを導入している。AHIなどの改善に関しては個々に差があるが、自覚症状、特に息切れ感や、睡眠の質の改善に関しては全例ある程度の満足を得られている。以下に、導入1例目と、最もAHIの改善している症例2に関してPSGデータを提示し考察する。
〈症例1〉K.Kさん,男性,78歳本症例は他院で高血圧治療中であったが、心不全
を発症し、当院へ入院し、大動脈閉鎖不全症に伴う心不全と診断された。入院中に睡眠時の無呼吸もあるとのことで当科に紹介、簡易無呼吸検査(LS-300:FUKUDA DENSHI)を施行し、周期性呼吸変動と無呼吸を認め(図1)、CSR/CSA疑いでASV(VPAP
ASVの効果を経験して-呼吸器科としての取り組み-
長岡赤十字病院 呼吸器内科・救命救急センター
江部 佑輔
※内部データを表示
表1 ASV導入5症例の導入前と導入1か月後のAHIおよびBNP
症例番号
患者イニシャル
年齢 性別心不全の原因疾患
AHI
ASV導入前値
ASV導入1か月後値※
BNP
ASV導入前値
ASV導入1か月後値※
自覚症状の変化
1 K.K 77歳 男 弁膜症 49.6 4.8 644.6 109.3 改善
M.K 67歳 男 心筋梗塞 41.5 4.2 1497.3 456.9 改善
I.Y 74歳 男 HCM 42.8 8.2 1047.6 827.4 改善
S.Y 82歳 男 心筋梗塞 30.5 10.4 129.9 90.7 改善
D.Y 74歳 男 心筋梗塞 46.2 22.6 264.2 データなし 改善
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3
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5
ASVの効果を経験して-呼吸器科としての取り組み-
図1 症例1のASV導入前のPSG(LS-300)CSR/CSAが疑われるパターンを呈している。
図2 症例2のASV導入前のPSG(ソムノトラックプロシステム)CSR/CSAの発現とdesaturationを認める。
図3 症例2のASV導入後のPSG(LS-300)CSR/CSA発現に対してASVの応答でサポート圧を上げて換気を保障している。
図4 症例2のASV導入後のPSG(LS-300)図3の続き。CSR/CSAに対するASVの応答でCSR/CSAが消失し、呼吸が
安定している。
はじめに
当院での経験
No.1No.1
1514
ASVは自発呼吸の減衰に対して自動的に目標換気量を設定し、患者の1呼吸ごとに適正補助圧を供給する。その結果、陽圧呼吸管理でありながら、比較的自然な呼吸に近い呼吸パターンが維持されるため患者コンプライアンスも高くなる。ASVは適切なサポート圧を維持するために、具体的には、患者の気流を連続的に記録し、直近の3分間の平均分時換気量を算出し、その90%の値を目標換気量とする。目標換気量は夜間を通じて自動調整され、睡眠中の快適な呼吸を維持する3)。当院の経験でも5名ともデータ上の無呼吸の改善には差があるが、全員の装着時の違和感を訴えることなく、満足感は高く、コンプライアンスはほぼ100%を維持している。まだ当科ではASVの経験は浅く、その使用設定に
関しては現在のところ全例デフォルト設定で行っている。導入後はASV内の内部データで経過を追っているが、現在は適宜タイトレーションも行っている。デフォルト設定では呼気終末圧(EEP)は5cmH2O
で、サポート圧を最低3cmH2O、最大10cmH2Oに自動的に調節される(EEPに上乗せなので実際の圧力は8~15cmH2O)。実際に5症例ともデフォルトで効果は出ているが、PSGもしくは内部データでの評価では十分に無呼吸を制御できない症例もある。そのような場合には閉塞性の部分がコントロールできていないことがあるため、必ず導入後も適宜PSGを行い、処方圧の調節を行う必要がある。症例5では、最近PSGをASV下で実施したが、AHIがASV導入前46.2回/時間に対し、導入1か月後の内部データがおおよそAHI 15回/時間前後であったにも拘わらず、PSGではAHIが26.4回/時間であった。おそらく加圧不足による閉塞性部分の残存と考えられた(データ未提示)。本症例は今後、再度入院でタイトレーションを行う予定である。ただ現実的には、当院ではPSG専
用の病室はなく、検査技師の労力も考えると、なかなかCPAP導入患者でもPSGによる定期的なタイトレーションをできないのが現状である。しかし、ASV導入患者の病態を考えると、できれば当院でも定期的なタイトレーションを行えるようにしたい。今回、症例2ではASV導入後検査でLS-300を使用したが、ASVのCSR/CSAに対する効果を判定するには一般臨床上は十分であると考える。心不全患者の睡眠呼吸障害の管理は、呼吸器内科
だけでできるものではない。急性期の循環管理などを含めて心不全患者を日常診療している循環器内科の先生と協力して、効率のよい連携医療を行いたい(図5)。
CSR/CSAは慢性心不全に伴う呼吸パターンであり、その管理の基本は心不全、心疾患の治療である。生活習慣、水分や塩分管理、薬物治療などがしっかり行われていることが前提である。当院で今のところASV導入患者全例を呼吸器内科で管理しているが、あくまで循環器内科との連携のもと治療は継続されるべきである。今後さらにASV導入患者が増えることは必至であるが、自己の反省も含めて、ただ闇雲に導入するのではなく、治療開始前後のPSGでの評価、定期的な観察を怠らないことが大切であると考える。
〈参考文献〉
1) Lanfranchi PA, Braghiroli A,Bosimini E, et al. Prognotic
value of nocturnal Cheyne-Stokes respiration in chronic
heart failure. Circulation 1999; 99: 1435-1440.
2) Takatoshi Kasai, Koji Narui, et al. First Experience of
Using New Adaptive Servo-Ventilation Device for
Cheyne-Stokes Respiration with Central Sleep Apnea
Among Japanese Patients with Congestive Heart
Failure _Report of 4 clinical cases-. Circulation Journal
2006; 70: 1148-1154.
3) Sherrill Burden. オートセットCSの概要.THERAPUTIC
RESEARCH . Symposium Series No.11012007; vol 29
no.9.
◆ ◆ ◆
長岡赤十字病院〒940-2085 新潟県長岡市千秋2丁目297番地1TEL 0258-28-3600
心不全患者
循環器科 呼吸器科
PSG試行CSR/CSAの診断、評価ASV導入、管理
心不全管理(薬物、生活指導など)
図5 循環器科と呼吸器科によるCSR/CSAを呈する心不全患者治療の連携
混合型睡眠時無呼吸に対するASV使用経験
国立病院機構松江医療センター 呼吸器科
門脇 徹
はじめに
最後に
ASVに関して
症例提示
症例:72才男性 主訴:夜間無呼吸現病歴:高血圧・耐糖能異常・脂肪肝にて近医で
経過観察中であった。心エコーでは明らかな左心機能低下は指摘されていなかった。数年来家人に睡眠時無呼吸を指摘されていたが、放置していた。2008年8月4日に近医にて簡易型PSGを施行され、AHIが62.2/hrであった。無呼吸低呼吸回数は472回であったが、そのうち中枢性が6回、閉塞性が237回、混合性が229回であった。当科受診時のEpwor thSleeping Scoreは5点であった。Full PSGによる確定診断目的で同年10月6日に入院した。入院の上行ったFull PSGの結果ではAHIは
60.3/hrであり、うち無呼吸回数は347回(低呼吸回数14回)であった。無呼吸の内訳は中枢性32回、閉塞性205回、混合性110回であった。またCSRと考えられる波形が認められた(図1)。翌10月7日ASV(VPAP Adapt SV○R)を装着(設定圧:PEEP5cmH2O MINPS 3cmH2O MAXPS 12cmH2O)し、再度PSGを施行したところ、無呼吸回数は6回(低呼吸回数11回)であった。無呼吸の内訳は中枢性0回、閉塞性4回、混合性2回であり、SASの著明な改善が認められた。睡眠の質の向上も得られ、10月8日に退院し、以後在宅にてASVを継続した。家人に指摘されていた夜間無呼吸も消失したため導入当初は患者本人のASVに対するcomplianceは極めて良好であったが、退院後2週後にマスクの不快感を訴えるようになった。ASV導入はウルトラミラージュマスク○R
(図2)で行ったがマスクcomplianceの改善を図るためミラージュスウィフトピローズシステム○R(図3)に変更した。本来ミラージュスウィフトピローズシステム○Rは、製
造販売元からは使用を制限されているが、治療効果図1 当院で施行したPSG結果
ASVの効果を経験して-呼吸器科としての取り組み-
心不全に合併する睡眠時無呼吸症候群は、①睡眠中の上気道閉塞によって無呼吸となる閉塞型睡眠時無呼吸(obstructive sleep apnea:OSA)と、②中枢性に無呼吸と過呼吸を繰り返す中枢型睡眠時無呼吸を伴うチェーン-ストークス呼吸(Cheyne-Stokes respirationwith central sleep apnea:CSA-CS)とに大別される1)。実際にはこれらが単一の病態として存在するのではなく、混在する場合が多い。これらの病態を改善するものとして、心不全に対する薬物治療、酸素療法、鼻マスク式持続陽圧呼吸(nCPAP)、二層式陽圧換気(Bilevel positive pressureventilation:Bilevel PAP)などの有効性がこれまでに報告されている。しかしながら、これらの治療では心不全にみられるOSAとCSR-CSAの合併症例についてはこれら両者を完全に抑えることは困難とされてきた。順応性自動制御換気(A d a p t i v e - S e r v o
Ventilation:ASV)は供給圧を自動的に変動させ、呼吸状態に合わせて呼吸調節をすることを可能にしたものであり、近年注目されている。現時点ではASVによるCSR-C SAの長期予後の改善をみたデータはないが、TeschlerらはASVが心不全に合併したCSR-CSAの治療として酸素療法、nCPAP、Bilevel PAPのどれよりもarousal index、AHIを有意に改善したと報告している2)。本邦でもKasaiらが、nCPAP、Bilevel PAP使用下でもCSR-CSAの残存する慢性心不全患者に対してASVを導入し、呼吸指標の有意な改善を認め、睡眠指標についても改善傾向を認めたことを報告している3)。また
CPAP不適応症例に対するASV有効症例4)など、有効性の報告が散見される。今回我 は々明らかな心不全兆候は認めないものの、ポリソムノグラフィー(PSG)にて頻発するCSA-CSR・混合型睡眠時無呼吸(MSA)を呈し、ASVが著効した症例を経験したので報告する。
No.1No.1
情報の共有と連携
1514
ASVは自発呼吸の減衰に対して自動的に目標換気量を設定し、患者の1呼吸ごとに適正補助圧を供給する。その結果、陽圧呼吸管理でありながら、比較的自然な呼吸に近い呼吸パターンが維持されるため患者コンプライアンスも高くなる。ASVは適切なサポート圧を維持するために、具体的には、患者の気流を連続的に記録し、直近の3分間の平均分時換気量を算出し、その90%の値を目標換気量とする。目標換気量は夜間を通じて自動調整され、睡眠中の快適な呼吸を維持する3)。当院の経験でも5名ともデータ上の無呼吸の改善には差があるが、全員の装着時の違和感を訴えることなく、満足感は高く、コンプライアンスはほぼ100%を維持している。まだ当科ではASVの経験は浅く、その使用設定に
関しては現在のところ全例デフォルト設定で行っている。導入後はASV内の内部データで経過を追っているが、現在は適宜タイトレーションも行っている。デフォルト設定では呼気終末圧(EEP)は5cmH2O
で、サポート圧を最低3cmH2O、最大10cmH2Oに自動的に調節される(EEPに上乗せなので実際の圧力は8~15cmH2O)。実際に5症例ともデフォルトで効果は出ているが、PSGもしくは内部データでの評価では十分に無呼吸を制御できない症例もある。そのような場合には閉塞性の部分がコントロールできていないことがあるため、必ず導入後も適宜PSGを行い、処方圧の調節を行う必要がある。症例5では、最近PSGをASV下で実施したが、AHIがASV導入前46.2回/時間に対し、導入1か月後の内部データがおおよそAHI 15回/時間前後であったにも拘わらず、PSGではAHIが26.4回/時間であった。おそらく加圧不足による閉塞性部分の残存と考えられた(データ未提示)。本症例は今後、再度入院でタイトレーションを行う予定である。ただ現実的には、当院ではPSG専
用の病室はなく、検査技師の労力も考えると、なかなかCPAP導入患者でもPSGによる定期的なタイトレーションをできないのが現状である。しかし、ASV導入患者の病態を考えると、できれば当院でも定期的なタイトレーションを行えるようにしたい。今回、症例2ではASV導入後検査でLS-300を使用したが、ASVのCSR/CSAに対する効果を判定するには一般臨床上は十分であると考える。心不全患者の睡眠呼吸障害の管理は、呼吸器内科
だけでできるものではない。急性期の循環管理などを含めて心不全患者を日常診療している循環器内科の先生と協力して、効率のよい連携医療を行いたい(図5)。
CSR/CSAは慢性心不全に伴う呼吸パターンであり、その管理の基本は心不全、心疾患の治療である。生活習慣、水分や塩分管理、薬物治療などがしっかり行われていることが前提である。当院で今のところASV導入患者全例を呼吸器内科で管理しているが、あくまで循環器内科との連携のもと治療は継続されるべきである。今後さらにASV導入患者が増えることは必至であるが、自己の反省も含めて、ただ闇雲に導入するのではなく、治療開始前後のPSGでの評価、定期的な観察を怠らないことが大切であると考える。
〈参考文献〉
1) Lanfranchi PA, Braghiroli A,Bosimini E, et al. Prognotic
value of nocturnal Cheyne-Stokes respiration in chronic
heart failure. Circulation 1999; 99: 1435-1440.
2) Takatoshi Kasai, Koji Narui, et al. First Experience of
Using New Adaptive Servo-Ventilation Device for
Cheyne-Stokes Respiration with Central Sleep Apnea
Among Japanese Patients with Congestive Heart
Failure _Report of 4 clinical cases-. Circulation Journal
2006; 70: 1148-1154.
3) Sherrill Burden. オートセットCSの概要.THERAPUTIC
RESEARCH . Symposium Series No.11012007; vol 29
no.9.
◆ ◆ ◆
長岡赤十字病院〒940-2085 新潟県長岡市千秋2丁目297番地1TEL 0258-28-3600
心不全患者
循環器科 呼吸器科
PSG試行CSR/CSAの診断、評価ASV導入、管理
心不全管理(薬物、生活指導など)
図5 循環器科と呼吸器科によるCSR/CSAを呈する心不全患者治療の連携
混合型睡眠時無呼吸に対するASV使用経験
国立病院機構松江医療センター 呼吸器科
門脇 徹
はじめに
最後に
ASVに関して
症例提示
症例:72才男性 主訴:夜間無呼吸現病歴:高血圧・耐糖能異常・脂肪肝にて近医で
経過観察中であった。心エコーでは明らかな左心機能低下は指摘されていなかった。数年来家人に睡眠時無呼吸を指摘されていたが、放置していた。2008年8月4日に近医にて簡易型PSGを施行され、AHIが62.2/hrであった。無呼吸低呼吸回数は472回であったが、そのうち中枢性が6回、閉塞性が237回、混合性が229回であった。当科受診時のEpwor thSleeping Scoreは5点であった。Full PSGによる確定診断目的で同年10月6日に入院した。入院の上行ったFull PSGの結果ではAHIは
60.3/hrであり、うち無呼吸回数は347回(低呼吸回数14回)であった。無呼吸の内訳は中枢性32回、閉塞性205回、混合性110回であった。またCSRと考えられる波形が認められた(図1)。翌10月7日ASV(VPAP Adapt SV○R)を装着(設定圧:PEEP5cmH2O MINPS 3cmH2O MAXPS 12cmH2O)し、再度PSGを施行したところ、無呼吸回数は6回(低呼吸回数11回)であった。無呼吸の内訳は中枢性0回、閉塞性4回、混合性2回であり、SASの著明な改善が認められた。睡眠の質の向上も得られ、10月8日に退院し、以後在宅にてASVを継続した。家人に指摘されていた夜間無呼吸も消失したため導入当初は患者本人のASVに対するcomplianceは極めて良好であったが、退院後2週後にマスクの不快感を訴えるようになった。ASV導入はウルトラミラージュマスク○R
(図2)で行ったがマスクcomplianceの改善を図るためミラージュスウィフトピローズシステム○R(図3)に変更した。本来ミラージュスウィフトピローズシステム○Rは、製
造販売元からは使用を制限されているが、治療効果図1 当院で施行したPSG結果
ASVの効果を経験して-呼吸器科としての取り組み-
心不全に合併する睡眠時無呼吸症候群は、①睡眠中の上気道閉塞によって無呼吸となる閉塞型睡眠時無呼吸(obstructive sleep apnea:OSA)と、②中枢性に無呼吸と過呼吸を繰り返す中枢型睡眠時無呼吸を伴うチェーン-ストークス呼吸(Cheyne-Stokes respirationwith central sleep apnea:CSA-CS)とに大別される1)。実際にはこれらが単一の病態として存在するのではなく、混在する場合が多い。これらの病態を改善するものとして、心不全に対する薬物治療、酸素療法、鼻マスク式持続陽圧呼吸(nCPAP)、二層式陽圧換気(Bilevel positive pressureventilation:Bilevel PAP)などの有効性がこれまでに報告されている。しかしながら、これらの治療では心不全にみられるOSAとCSR-CSAの合併症例についてはこれら両者を完全に抑えることは困難とされてきた。順応性自動制御換気(A d a p t i v e - S e r v o
Ventilation:ASV)は供給圧を自動的に変動させ、呼吸状態に合わせて呼吸調節をすることを可能にしたものであり、近年注目されている。現時点ではASVによるCSR-C SAの長期予後の改善をみたデータはないが、TeschlerらはASVが心不全に合併したCSR-CSAの治療として酸素療法、nCPAP、Bilevel PAPのどれよりもarousal index、AHIを有意に改善したと報告している2)。本邦でもKasaiらが、nCPAP、Bilevel PAP使用下でもCSR-CSAの残存する慢性心不全患者に対してASVを導入し、呼吸指標の有意な改善を認め、睡眠指標についても改善傾向を認めたことを報告している3)。また
CPAP不適応症例に対するASV有効症例4)など、有効性の報告が散見される。今回我 は々明らかな心不全兆候は認めないものの、ポリソムノグラフィー(PSG)にて頻発するCSA-CSR・混合型睡眠時無呼吸(MSA)を呈し、ASVが著効した症例を経験したので報告する。
No.1No.1
情報の共有と連携
混合型睡眠時無呼吸に対するASV使用経験
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が著しく向上するため選択した。これによりASVそのもののcomplianceを保持でき
るとともにResScan○Rで解析したAHIもマスク変更前10.7/hrから変更後8.7/hrと改善した。 ASVが極めて有効であったOSA/CSR-CSAの症
例を経験した。患者の訴えに応じてマスクなどのデバイス変更を適宜行うこともnCPAP/ASVを用いたSAS治療においては重要と考えられた。
〈参考文献〉1) Bradley TD, Floras JS. Sleep apnea and heart failure.
Part I: Obstructive sleep apnea. Circulation 2003;107:1671-1678.
2) Teschler H, Dohring J, Wang Y-M, et al. Adaptivepressure support servo-ventilation. A novel treatment forCheyne-Stokes respiration in heart failure. Am J RespirCrit Care Med 2001; 164:614-619.
3) Kasai T, Narui K, Dohi T, et al. First experience of usingnew adaptive servo-ventilation device for Cheyne-Stokes respiration with central sleep apnea amongJapanese patients with congestive heart failure; reportof 4 clinical cases. Circ J 2006; 70:1148-1154.
4) 陰下敏昭,前田均,日下部祥人 他.HEART PAPで改善したチェーンストークス呼吸を伴う慢性心不全患者の1例.日呼吸会誌 2008; 46:921-927.
5) Lanfranchi PA, Braghiroli A, Bosimini E, et al. Prognosticvalue of nocturnal Cheyne-Stokes respiration in chronicheart failure. Circulation 1999; 99:1435-1440.
6) Sin DD, Logan AG, Fitzgerald FS, et al. Effects ofcontinuous positive airway pressure on cardiovascularoutcomes in heart failure patients with and withoutCheyne-Stokes respiration. Circulation 2000; 102:61-66.
7) Morgenthaler TI, Kagramanov V, Hanak V, et al.Complex sleep apnea syndrome: is it a unique clinicalsyndrome? Sleep 2006; 29: 1203-1209.
8) Criner G J, Brennan K, Travaline JM, et al. Efficacy andcompliance with noninvasive posit ive pressureventilation in patients with chronic respiratory failure.Chest 1999; 116: 667-675.
◆ ◆ ◆
国立病院機構松江医療センター〒690-8556 島根県松江市上乃木5丁目8-31TEL 0852-21-6131
本症例におけるCSR-CSAの原因は不明であるが、心不全におけるCSR-CSAは治療ターゲットとして特に注目されている。CSR-CSAは心拍出量の低下に伴う慢性的な肺うっ血により生じる過換気と、中枢の換気応答の亢進が主な病態とされ、ある意味で心不全の結果として生じると考えられる。しかしながら、CSR-CSAの有無そのものが心不全の独立した予後因子であることも報告されている5-6)。ASVはCSR-CSAの治療目的に開発された。患者
の呼吸状態に合わせて吸気圧が変化する点が固定給気圧を供給するBilevel PAPと大きく異なる点である。また本症例のようにしばしば合併するOSAに対する呼気圧も設定可能であり、理論的には心不全に合併した睡眠呼吸障害に対する最適な治療といえる。本症例ではfull PSGで約2/3がOSAであり、残りの1/3がCSA、MSAであった。まずはnCPAPの導入が検討されたが、過去の報告4)によりnCPAPの導入によるCSR-CSAの増悪が懸念されたため、第一選択としてASVの導入に至った。本症例は定義と診断に曖昧な点はあるものの近年提唱されているComplexSAS7)の可能性も考えられた。本症例ではマスクの変更によりcomplianceの維持
ができ、わずかではあるがAHIも改善したことも特筆すべき点である。広義の非侵襲的陽圧換気では圧設定などの機器設定変更、酸素投与量の変更、マスク変更などが余儀なくされるケースがあり、過去の報告では全体の36%の患者が何らかの設定変更を要したとの報告もある8)。SAS治療において、症例や病態に応じた圧設定変更は言うまでもなく、必要に応じてマスクなどのデバイスの変更も適宜行っていくことも重要である。
図2 ウルトラミラージュマスク○R 図3 ミラージュスウィフトピローズシステム○R
考察
まとめ
No.1
在宅医療インフォメーション No.1
睡眠呼吸障害と循環器疾患との関連性が注目されており、閉塞性の睡眠時無呼吸症候群に対し
ては、CPAP(持続性陽圧療法)が有効な治療方法であることは、周知の事実であるが、慢性心不
全に多く合併していると言われるチェーンストークス呼吸を呈する中枢性の無呼吸症候群におい
ては、その効果が不十分の場合も見受けられていた。ASVによる呼吸療法は、中枢性の無呼吸症
に有効であり臨床応用されている。本稿では、この呼吸療法の理解を深め、臨床の場で有効かつ
効果的に活用していただくために、専門の医師の立場からASV適応導入の実際について執筆いた
だいた。また、メーカーからはASVのしくみについて解説していただいた。医療スタッフの方々
の参考になれば幸いである。
新しい陽圧換気療法ASV(アダプティブ・サーボ・ベンチレーション)の紹介
技術の進歩と医療への応用国立循環器病センター 病院長
友池 仁暢
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ヒトはその生命の維持を有酸素代謝活動に依存しています。「大気中の酸素が取り込まれ、身体のすみずみまで運搬され、60兆個の細胞が機能を果たす」、一見あたりまえの過程の成熟に46億年もの日時を要したといわれています。どうりで、大気の環境制御からミトコンドリア呼吸に至るどの局面を見ても息をのむ程巧妙な仕組みになっています。生命維持の営みは、うまく行っている時ほどよく見えない。ところが、時には必然に、時には僅かの不調を契機に病的状態が症状・症候として顕在化します。医療が生体の仕組みに介入して病的状態からの離脱を助けるという、その仕組みも“人類の智恵”と感じ入る程絶妙です。さて、健康成人は安静時でさえ、毎分約250 mlの酸素を消費しています。気道から肺胞に至る生体の解剖学的構造と生理機能が合理的かつ無駄なく働いて初めて可能となる数値です。眠りの中で、ふと呼吸中枢が抑制されたり、舌根が沈下し気流が数10秒
妨げられたとする。生体は一定量の酸素を必要としているので、外からの酸素供給不足を一気に取り戻すべく大きな呼吸活動が自動的に発生します。SAS症状の特徴である無呼吸後の大きな呼吸という代償機転は、呼吸筋の疲労、慢性的低酸素化に伴う末梢抵抗亢進・高血圧の出現、多臓器の変調と連鎖的に健康体を蝕みはじめます。負に傾いたバラスを元に戻す治療法として生理的呼吸を強制するASVが開発され、その有効性が自覚症状の改善から心不全入院の減少などのエビデンスとして確認されています。ASV、ペースメーカー、ICD、ステント手術など医療器材による治療の原理は明解ですが、その成熟にはヒトと器械のインターフェイスが工学的に可能になるまでの試行錯誤は欠かせません。ITとその関連技術の進歩は様々の治療の可能性を現実のものとしつつあります。そう考えると、治療技術の開発とヒトにやさしい適用は今世紀に大きく成長する分野であると期待されます。
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