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国語科
古典を身近に感じ理解を深めさせる指導の一試み
ー 古文の自作の解説文づくりを通して ー
宮城県石巻女子高等学校 吉田玲子
概 要
古文の自作の解説文づくりを通して,古典を身近に感じ理解を深めさせる指導の試み
である。古文に表現されている内容を的確に読み取り,そこに表れている人間,社会,
自然などに対する考えを,生徒自身が調べ,知ることによって古典に表現されている内
容をより深く理解し,現代との共通点や相違点を知り,ものの見方,考え方,感じ方を
深める指導の在り方を研究する。
1 主題設定の理由
学習指導要領に示された古典の目標は「古典としての古文と漢文を読む能力を養うとともに,もの
の見方,感じ方,考え方を広くし,古典に親しむことによって人生を豊かにする態度を育てる」こと
である。つまり古典の授業の目指すものは,生徒自身がものの見方,考え方,感じ方を深め,思考力
を伸ばし豊かなものにしてゆくことである。そのためには古典に表現されている内容を読み取る能力
を養い,そこに表れている人間,社会,自然などに対する考えを深め,現代との共通点や相違点を知
る必要がある。
ところが今「古典嫌い」の生徒が多いという。我が校の2学年の実態調査においても約6割弱の生
徒は「古典が嫌いだ」と感じており,生徒は受験に必要だから学習すると考えている。そのうえ「嫌
い」という感情が苦手意識を増幅し,古典科目のない大学を受験する傾向にある。自分の希望する大
学受験の入試科目から「古典」が削除されると古典の学習はしなくなる。
では,なぜ生徒は「古典が嫌い」かというと,第一に文法事項,語句の意味や用法が現代語と違う
ため書いてある内容が分からないからである。文語文法を学習しても,文語文法の知識を的確に使い
こなせず,現代語訳と文法が結びついていない状態にある。第二に時代背景やその当時の社会体制,
, 。 ,様々な慣習や風習を知らないために 内容理解が表面的なことで終わっているからである その結果
「古典はつまらない」と考え,古典をなぜ学習するのか,何の役に立つのかという疑問をもつ生徒も
いる。このことは指導者が授業を行って特に感じることである。
また,指導者自身も,生徒の進路希望をかなえることに力点を置いてしまい,受験を意識した授業
展開にならざるをえない状況があった。文法指導が中心の受験対策用の授業となり,作者が表現して
いる思想や感情を理解させることができていなかった。生徒自身が古典の時代背景などを学びたいと
思えるような働き掛けをすることは少なかったと感じている。結果として生徒に古典の楽しさや魅力
を伝えられずに,授業が終わってしまいがちであった。そのため生徒は文法を学びさえすればいいと
いう思いを抱き,受け身の姿勢に陥りやすかった。
以上のような生徒の実態と自分自身の授業の反省を踏まえ,古典への関心・意欲を引き出し,生徒
の主体的な活動を盛り込んだ授業を工夫できないだろうかと考えていた。生徒の多くは辞書を引くこ
とを嫌がらず,辞書を引きながら,パズルの答えを見つけ出す古語パズルづくりという活動の場を与
えると意欲的に行う。そこで,古文の授業で主体的活動を盛り込んだ自作の解説文づくりに取り組ま
せたいと考えた。古文は日本文化を伝えているものの一つであり,そのうえ生徒にとっては漢文より
身近に感じられる。古文の自作の解説文をつくることによって内容を的確に読み取り,考えを深め,
理解することにつなげられるのではないかと考えた。そのため自作の解説文は基礎・基本となる文法
事項の解説や品詞分解,現代語訳にとどまらないものにしたい。生徒自身が調べ考え,その調べ考え
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たものを自作の解説文づくりに生かすようにしたい。そうすることによって生徒一人一人が古文作品
の時代背景を知り,古文に描かれている世界と現代の相違点を見付けることができる。また現代にも
通じる作者の思想や生き方に共感したり,優れた洞察力や創造性に感動することができる。そして表
現されている世界をより深く理解し,古典を身近に感じる心を自ら育てることとなると考えた。
2 研究の目標
古典の古文授業において,自作の解説文づくりの過程を通して,古文の世界を身近に感じ理解を深
めさせる指導の在り方を明らかにする。
3 研究の仮説
古文の自作の解説文づくりの過程において,次のような工夫を行えば,古文を身近なものと感じ,
理解がより深まるであろう。
( )生徒が調べたり,考えたりすることができ,自作の解説文作成に生かせる予習プリントの工夫1を図る。
( )予習プリントを生かし自作の解説文づくりにつながる授業展開の工夫を探る。2( )自作の解説文づくりの構成内容とその作成過程を工夫する。3
4 研究の対象と方法
4.1 研究対象
宮城県石巻女子高等学校 第2学年 1,5,6組
4.2 研究方法
( )国語教育や古典の授業に関する文献研究を行う。1( )実態調査を行い,分析し,古典授業の課題と改善点を明らかにする。2( )自作の解説文づくりに生かせる予習プリントの工夫を探る。3( ) 予習プリントを生かし,自作の解説文につながる効果的な授業展開を探る。4( )自作の解説文の内容と作成過程の工夫を探る。5( )指導案作成と実践授業。6( )実践授業後の分析と仮説の検証。7( ) 研究のまとめと今後の課題。8
5 研究の概要
5.1 研究主題・副題について
5.1.1 「古典を身近に感じ理解を深めさせる」について
菅原敬三氏は「古典教育の探究」という著書の中で,古典の理解を下記のように述べている。
「その時代状況を,まずはしっかり把握することである。そして,その時代に生きた人間の様々な
生き方に目を向けることである。その中には,厳しい時代状況に負けず果敢に生きた人間もいれば,
時代状況に流されて無為に終わった人間もいる。作品に登場する人間は,良きにつけ悪しきにつけ,
, , 。」我々に感動を与えるか 示唆を与えるか または人間理解を深めさせてくれるかの役割をもっている
つまり古典における理解は,様々な時代の様々な状況を見つめ,その時代を反映した内容や登場人
物,作者などの考え方や生き方を把握し,今現在の自分の視点で考察することである。古人のものの
見方や考え方が,現代にも通じることを知り,身近に感じ,親しみをもつことである。古典を理解す
ることは,古典を通して自分を見つめ直すことでもある。
したがって高校古典の授業においても,文法や語句・語法の理解や現代語訳するだけの学習ではな
古典を身近に感じ理解を深めさせる指導の一試み
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古典を身近に感じ理解を深めさせる指導の一試み
く,古典そのものに興味・関心を抱き,読み取り,その時代に生きた人達を理解し,自己との比較を
通して,古典を理解することが重要である。そのためには時代状況の把握が欠かせない。つまり,政
的背景,死生観,宗教観,年中行事や冠婚葬祭などの生活習慣,当
時の戦いなど様々な事柄と関連づけて広く学習することが大切であ
る。様々な事柄を学習することによって作品に描かれている作者の
生き方や考え方,登場人物の心情が理解できる。
ところが生徒の古典理解は語句・語法,文法理解だけに終わって
しまいがちである。本来は図1で示したように語句・語法,文法理
解を駆使し,古典文学にむかい解釈する。解釈したことによって,
内容理解になる。その後古典文学を取り巻く状況を知り,授業など
の内容理解の後に,内容をより分析することによって,主題や心情
理解を得る。その理解した主題や心情に対して自分自身はどう考え
たのか,ということを考察する。つまり,その時代に生きた作者や
描かれている登場人物を通して感じられる人間の生き方や考え方に
共感したり相違点を感じたりしながら,現代に生きている自分自身
の視点で考察する。その自己との比較を通して考察する過程におい
て,時代状況の把握が大切な理解要素となる。時代状況等の把握を
参考にしながら,この当時の人間の考え方等を知り,自分と比較対
照することによって古典をより深く理解することにつながる。これ
が古典の理解となる。
.1.2 「自作の解説文づくり」について5 .
古典理解のために生徒に自作の解説文をつくらせたいと考えた。
古典を身近に感じ,理解を深めるためには,自分自身で調べ,整理
しまとめ上げ,考察するという過程が大事である。既存の解説文を
ただ単に写したのではなく,自分で調べ,それによって考えたこと
を書くという過程において,作品と真摯に向かい合い,古文の中の
図1 生徒の古典理解図表現方法や語句の用法,時代背景等を知り,作者が表現しようとし
たことを読み取ろうとする。
また,漠然と調べるのではなく自分で課題を見付け,調べた内容を自作の解説文としてまとめ,作
成する。自分で調べることは,古文理解の助けとなると考えた。そして解説文を作成するということ
は自分の頭の中で考えていたことを具体的に表現することであり,どこまで理解しているか,何を理
解しているかなどの確認にもつながると考えた。
図2 自作の解説文作成と理解の関係図
古典の授業予習において
予習プリントや
現代語訳・文法事
項の予習
自作の解説文作成
作品の時代背景等を調べ
作品の様々なことを考え、
まとめる
自 作 の 解 説 文
古文に表現されてある
内容を現代語訳を確認
しながら正確に
読み取る
文法・語句
語法の理解内容理解 主題や心情理解 自己との比較を
通して考えた人間理解
自己との比較を
通して考えた
人間理解
主題や心情
理解
内容理解分析
語句
語法
文法
理解解釈
考察
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古典を身近に感じ理解を深めさせる指導の一試み
解説文をつくる過程においては図2で示したように授業で利用した予習プリントや学習したものを
活用する。授業で理解したものをより深く理解するために,作品を取り巻く様々な事柄を調べ,自分
はどう考えたのかということや,自分だったらどうするかということを考え,内容をより深く考察し
ようとする。そして登場人物,作者の心情や意図に感動したり,驚嘆したりすることが,本当の意味
での古文理解となり,古文表現の面白さや魅力に触れることになると考えた。その面白いと感じるこ
とや魅力に触れることにより,更に古文を身近に感じてくれることになると期待したい
5.2 実態調査
5.2.1 実態調査のねらい
古典授業に対する意識や予習時間等を調査し,問題点を確認すると同時に生徒の理解の傾向を分析
し,指導の手掛かりを得るための一助とする。
5.2.2 調査対象
宮城県石巻女子高等学校 第2学年 名2425.2.3 調査方法
古典に対する生徒の意識調査(質問紙法,選択肢法と一部自由記述式)
5.2.4 調査期日
平成 年5月 日(金)16 285.2.5. 調査結果と考察
( )古典の授業に対しての意識調査について1古典の授業に対してどのような意識を抱いているかという問いに対して 「嫌いである 「どちらか, 」
といえば嫌いである」という回答が 「好きである 「どちらかといえば好きである」という回答より, 」
%も上回っている。図3「嫌いである 「どちらかといえば嫌いである」と回答した理由として,15 」,何が書いてあるか分からないことや文法事項
語句の意味・用法のつまずきを挙げている。
文法の理解不足で苦手意識をもっている生徒
が多数いることが分かる 「好きである」とい。
う生徒も文法が理解できたために好きになっ
たと回答している。生徒にとって文法が大き
な関門になっているということであり,文法
中心の授業展開の結果だと考える 一方で 好。 ,「
きである」と回答した生徒の中には,作者の
気持ちを知ることによって,面白いなと感じ
たことがあり,そのことがきっかけで,好き
になったと答えている者もいる。文法の知識
を理解し,文法への苦手意識を少なくするだけ図3 古典の授業に対しての意識
でなく,作者の心情や表現されている事柄を
理解する授業展開が必要だと再認識した。
( )古典の予習時間について2図4から,大部分の生徒が新しい教材が始
まる前に予習を行っていることが分かる。ど
んな内容を予習してくるかという問いには,
ほとんどの生徒が,現代語訳と品詞分解と答
えている 「作者について」や「時代背景」は。
全く予習していない。また,文法事項につい
, ,ても 品詞分解し助動詞の意味を分析するが
なぜその意味なのか,作者がどんな意図で表現図4 古典の予習時間について
5
10
4045
好きである5%
どちらかといえば好きである40%
嫌いである10%
どちらかといえば嫌いである45%
4
60
23
310
30分 4%
1時間 60%
2時間 23%
3時間 3%
しない 10%
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古典を身近に感じ理解を深めさせる指導の一試み
しているかまでは考えてきていない。今までの授業展開がそこまで求めていなかったということが分
かる。また,予習はしないと回答している生徒も %程いる 「しようとしても何をしていいか分か10 。らない」と答えている。予習の意欲がないわけではない。その意欲を生かすような予習課題の必要性
を感じた。
( )古典の理解について3生徒達が古典で何を理解すべきと考
え,何を理解したいと考えているかを
知る糸口として,このアンケートを行
ってみた。結果は予想していた以上に
文法への関心が高かった 「理解すべ。
き」は % 「理解したい」 %の回33 34,答で,生徒が古文の授業において文法
の学習には積極的に取り組み,理解し
。 ,ようとしていることが分かる やはり
生徒にとって文法の学習が古典学習の
中で大きな比重を占めていることが分
かった。一方で内容の読解力を身に付
①現代文②作者について③主題④時代背景⑤文化・伝統 けたいと考えている生徒も %おり,23⑥文法⑦語句の相違・用法⑧日本語の歴史⑨読解力 文法も含めた内容理解の授業がなされ
れば,古典の理解が深まると考えた。図5 古典で理解すべきこと・理解したいこと
「時代背景」や「日本の文化・伝統」は内容理解には必要不可欠だと考えるが,アンケートの結果を
見ると,生徒はどちらも重要な要素とは見ていない。このことが古典の理解を不十分なものにしてい
る要因の一つだと分かる。多くの生徒が理解したいと考えている文法事項も含めた古典の理解を深め
る手だてが必要だと考える。
5.3 指導対策
研究仮説と実態調査の結果を踏まえて,対策を考えた。
5.3.1 「自作の解説文づくり」に生かせる予習プリントについて
表1 予習プリント
7
11
29
16
11
2 2 21
33
34
20
17
1 1
18
23
0
5
10
15
20
25
30
35
① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦ ⑧ ⑨
古典で理解すべきと考えていること
古典で理解したいこと
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古典を身近に感じ理解を深めさせる指導の一試み
授業の予習を行っている生徒が多いという実態を踏まえ,予習の課題を充実させたい。文法や現代
語訳に留まらず,一歩進めて,予習課題の内容は,何のためにその表現がされているかなどを知る手
掛かりとなるものにしたい。また内容理解のポイントとなるものであり,読みを深めるものにしたい
と考えた。生徒が授業の前に,予習課題を通し,古文をより深く探ることは大事なことである。予習
してきたことを授業において確認し,読み取りに活用することによって理解が更に深まると考えた。
例えば同じ「る 「らる」という助動詞であっても,主語が違えば受け身だったり,尊敬だったりす」
ることがあり,物語の重要な読み取りにつながることがある。なぜ助動詞の使い方が違うのかを理解
することは,生徒自身が一番理解したいと考えている文法事項を,単に文法事項としての理解ではな
く,古文の表現にどう生かされているのかを知ることになる。それは作者の意図を読み取ることにつ
ながり,現代語訳から読み取っていた理解が一歩深まることとなる。そのことを考えてくるような予
習プリントを与えていきたい。そしてその課題の中で考えたことやまとめたことが,自作の解説文構
成要素の一つとなるようにしたい。
, 。指導者自身も授業のねらいを見据え 授業展開において活用できるプリントにしなければいけない
授業により活用しやすくするために,授業での発問を考え,予習プリントの問いとして与える。そう
することによってより授業に生かしやすいのではないかと考えた。
5.3.2 「予習プリントを生かした授業展開の工夫」について
授業では現代語訳や文法事項の確認だ表2 予習プリントを活用する授業展開例
けでなく,予習プリントを生かし,読
み取りを行う。例えば随筆ならば 「な,
ぜ作者がここでこの例を挙げたのか」
「 」何の効果を期待して書いてあるのか
などを把握し,理解することである。
また,物語においても「この登場人物
のこの言葉は,誰にどのような目的で
語られたのか 「どんな心情を表現して」
いるのか」などを知ることは,読み取
りには大事である。
授業では読み取りの過程で予習プリ
ントを活用する。予習プリントを使い
予習を行い,答えとして考え書いてき
たものを授業において確認したり,考
え直したりすることにより自然に読み
取りができる。しかしただ単に予習プ
リントの解答を行っているような授業
展開ではいけない。予習プリントは補
助的な役割であって,プリント学習を
するわけではない。そのためには,予
習プリントに生徒が書いてきた内容を
確認することが大事である。書いてき
た内容を確認することによって,授業
の展開を工夫することができる。事前
に集めることができる場合は提出させ
る。どこにどんなことが書かれてある
か,また分からなくて書いていないと
ころはどこかなどを確認し,授業展開
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古典を身近に感じ理解を深めさせる指導の一試み
に反映しなければならない。生徒の解答状況を見て,授業の流れを構成し直すこともできる。問いが
不適切であったと感じられる箇所は,授業を行う場合より分かりやすい発問に変更する。特に重要な
, , ,読み取り部分を行う場合は 生徒の予習プリントを生かし 読み取ったことを沢山の生徒に発表させ
お互いの読み取りを聞き,生徒自身に考えさせ,答えを見つけ出させたい。そうすることによって,
理解の深まりにつながると考える。理解の深まりにつなげるためにも,指導者が何の準備もなしに,
このような展開をすることはできない。生徒が考えてきた解答を生かすことができずに終わってしま
う。したがって,なるべく事前に集めることを目標とする。時間に余裕のない場合は,大事な読み取
りに関する問いだけでも事前に予習してくるように生徒に指示する。文法中心で現代語訳の確認が多
くの時間支配した授業展開から,文法事項の学習や現代語訳の確認をしながら,予習プリントを利用
し読み取りを進めてゆく展開に変化しなければならない。
5.3.3 「自作の解説文づくり」の内容と活動の展開について
( ) 自作の解説文の内容について1実際に生徒が自作の解説文をつくるに当たっては,生徒自身が興味を抱いたことを自ら調べる。調
べた内容をもとに考察したことを自作の解説文としてまとめてゆくことが必要な構成要素となる。ま
とめていくに当たって注意するのは,自分で調べたことや授業での理解,文法事項をすべて解説文と
して書くのではないということ,つまり登場人物の心理描写や随筆の主題の読み取りに大事な部分を
抽出して,まとめていくことである。特に大切な構成要素は,予習や授業での読み取りだけでなく,
自分の興味・関心から調べたもの,そこからどんなことを考えたか,どんな感想をもったかというこ
とをまとめて書くことである。
まとめる場合は自作の解説文として共通にまとめる項目と,生徒個人の興味・関心によって調べた
ものをまとめる項目がある。表3のように整理した。共通項目は解説文として,その古文作品を読む
に当たり,最低必要な項目を入れる。特に「初めて読んだ感想 (予習プリントに課題として与えて」
おく)と「考察」は必ず書き入れることを説明する。自作の解説文作成によってどのように生徒自身
の考えが変化したかを知る手掛かりとするためである。
表3 自作の解説文の内容項目
共 通 項 目 生徒自身の興味・関心で調べ考察する項目
・調べた章段の古文 (例)
・調べた章段の要約(現代語訳から) 登場人物の心情変化 (主人公以外)
・主要な文法事項 貴族とはどんな人達
・ 仕事は何していたのか初めて読んだ感想
・作品の主題と主人公の心情 作者について
・ この当時結婚形態について考察
(例) 女御・更衣とは何か
自分だったらどうする 平安時代ってどんな時代
現代と共通するところについて 住居について
現代と違うところについて 服装について
作者についてどう考えた など 楽器について
しきたりや風習について
この章段で推薦すべきところ
(例)この古文によって教えられたことは
おもしろかったところは
この物語の味わいどころ
( )自作の解説文づくりの活動展開2生徒は自作の解説文作成の目的と作成過程を聞き,調べる章段を選択する。随筆単元を授業で行う
, 。 ,場合3~5の章段があり 物語では2~4の章段がある それぞれ一つの随筆や物語が終了した後に
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古典を身近に感じ理解を深めさせる指導の一試み
解説文づくりを設定する。生徒によって一つの章段に絞って作成する場合もあり,何か一つのテーマ
に絞り,そのテーマごとに2~3章段にわたって調べ作成する場合もある。調べるという学習過程に
おいても,生徒が正確に調べられるように資料の紹介や図書館の協力も必要となる。
指導者は,生徒が既存の解説文を丸写ししないように,配慮しなければならない。自作の解説文を
作成するという目的過程を説明し,調べる過程において正確に調べられるように指導しなければなら
ない。そのためには,草稿をつくるために草稿準備プリントと草稿プリントを配布する。準備プリン
トには,どの章段をつくるのか,何をどのように調べるのかなどを書かせ提出させる。指導者は点検
し,生徒の挙げた課題と調べる方法を確認する。草稿プリントに調べたものをまとめる場合も,一人
一人草稿を提出させ,生徒の意図が反映されているかどうか確認しながら,助言する。
草稿ができ上がった時点で,同じ章段を選んだ人達とグループになり,草稿を持ち寄る。お互いの
草稿を参照し合いながら,自分で疑問に思ったことを質問し,調べたことについて自作の解説文とし
ては説明が不足だと考えられる点を確認し合う。話し合い後,その結果を参考に,草稿を書き直した
り,資料を調べ直したり,考察し直したりする。
それぞれの草稿プリントを見ただけの鑑賞会で終わるのではなく,清書につながる話し合いができ
るようにする。その後,自分なりの構成とアイディアで清書して仕上げる。見やすくするために,色
を塗ったり,図を入れたりすることはかまわないことを,説明する。でき上がったものは,印刷製本
し,冊子にする。そして授業の予習やその後の学習に活用する。
表4 源氏物語の解説文を作成する授業展開例
図9 自作の解説文作成と作成後の展開
5.3.4 実践授業の結果と考察
授業での生徒の様子等を参考に次のような結果を得た。
( )「自作の解説文づくり」に生かせる予習プリントについて1
作成過程①
個人で調べ
学習を行い、
草稿を作る
作成過程②
同じ章段を選んだ人
達とグループになり
草稿を持ち寄り清書に
向けての話し合いを
行う。
作成過程③
自分なりの構成
とアイディアで
清書し仕上げる
作成後
印刷製本し、冊子
にする。授業の予習
やその後の学習に
活用する
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古典を身近に感じ理解を深めさせる指導の一試み
予習プリントは生徒にとっては,比較的それほどの負担にはならずに活用できた。授業への展開が
示されてある形式であったため,何をどのように予習してくればいいのかが明確になり,予習しやす
かったようである。予習状況はプリントの回答の難易によって変化した。クラスによってばらつきが
あるものの,平均約9割の生徒が行ってきており,考えていたよりも容易に予習プリントを行う姿勢
が身に付いた。しかし,問題の内容が難しく,そのため空欄のまま提出のことがあったため,問題の
工夫が必要だと感じた。
また,事前に提出させる形をとったために,時間的余裕がない場合もあったが,生徒達は自分ので
きる範囲だけでも提出しようとする気持ちが見られ,予習プリントをやってくると授業の内容が理解
しやすいと感じているようだ。実際に予習プリントを使用したことによってどんなメリット,デメリ
ットがあったかという一部自由記述式アンケートを行った。メリットがあったかという問いに対して
は, %の生徒がメリットがあったと答えている。下記の表は生徒が記述した一部であるが,予習92プリントを活用したほうが,授業がより理解しやすいと考えていることが分かった。
表5 予習プリントのメリット・デメリットについて
メリット デメリット
・授業の中で何を重視して受ければいいのかが,分かる ・調べるのに時間のかかるのがあって大
ようになった 変だった。
・文法の事項があるため,文法の事項の大切な部分がよ ・問いの中で何を答えたらいいのか,分
く分かった。 からないのがあって,答えたくても答え
・ただ訳だけの予習ではなく,いろいろなことを考えた られず,イライラした。
り,調べたりするようになった。 ・予習の量が多くて,できないことがあ
・予習の負担にもならず,結構楽しめた。 った。
・いろいろ調べたことによって,古文独特の語句を知る ・難しかった。
ことができた。 ・辞書だけで調べるのに,限界のあるの
・授業だけ聞いていたのでは分からないことを,調べる があって,図書館へ行って調べなければ
ことによって,理解し納得することができた。 ならなかった。
( )予習プリントを生かした授業の展開について2( )で述べたように,予習プリントの授業に生かすことによって,よりスムーズに展開がなされるよ1うになった。生徒が自分で現代語訳や品詞分解だけでなく,より一歩深まった予習をしてくることだ
けで,授業の展開が変化することを身をもって感じた。また,プリントをやらせたままではなく,プ
リントへの指導者側の添削や確認印を示すことによって,生徒のプリントの活用状況も変化した。
( )自作の解説文づくりの構成内容と作成過程について3「 」 「 」 。源氏物語 の授業を始める前に 源氏物語 をどの程度知っているかというアンケートを行った
初めて読んだという答えは %であった。2%は漫画で読んだと答えている 「源氏物語」の名前も98 。知らなかったという生徒が5%おり,主人公は知らないと答えた生徒は %もいる。また「源氏物25語」は物語ではなく,実際にあった歴史だと思っていた生徒が %もいた。作者については文学史44の関係で生徒達はよく知っており,面白いことに「枕草子」の作者「清少納言」との対比において知
っている生徒がかなりいた。この状態の中で生徒の自作の解説文をつくるに当たり,つくった後の変
化を知るため,初めて読んだ感想と考察を必ず書くようにした。初めて読んだ感想には,分からない
という感想が多く約 %の生徒が書いていたが,自作の解説文をつくった後は,自分なりに調べた80ことについては詳しくなったせいか,分かるようになってきたという感想は %になっていた。ま90た今まで遠い存在であった古典の登場人物が自分達と変わらない人間であることを理解したようで,
親しみを感じたという感想も多く,約 %の生徒が何らかの表現でこの感想を書いており,生徒達70が理解を深めてくれたことを確信した。
作成過程については,調べ学習の部分のほとんどが家庭学習ということになってしまい,今後考え
なければならないことだと感じた。清書においても,長い休暇を利用する形式になってしまったクラ
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古典を身近に感じ理解を深めさせる指導の一試み
スもあった。予習プリントを利用し,予習表6 生徒の初めて読んだ感想と考察の一部
プリントで調べたことを,更に大きく膨
まらせ,解説文として活用する作成方法
は生徒にとって課題が見付けやすく,調
べやすかったと感想を書いている。また
調べたものを,じっくりと考え,整理し
まとめ上げる時間も少なかったようであ
る。生徒の中には,調べる時間だけでな
く,整理や作成する時間も少なかったと
不満を漏らすものもおり,もっと時間を
かけ,丁寧に仕上げていきたいと感じて
いるようである。それだけ,自作の解説
文づくりに興味があるのだと感じた。
表7 自作の解説文づくり活動展開と評価計画
6 研究のまとめと今後の課題
実践を行い,生徒自身から「古典が面白くなった」という返事が返ってくることとなり,大変うれ
しく感じた。予習プリントの活用は手だてとして有効だったと考えられる 「自作の解説文づくり」。
については,一人一人が丁寧に熱心に取り組んでいる姿が見られ,古典の興味・関心が深まったので
はないかと感じる。
今後の課題としては,より理解を深めさせる授業展開の更なる工夫が必要だと考えている。授業時
間数に制限があり,その中でより質の高い授業をしなければならない。そのためには自作の解説文づ
くりの活動展開も精選していかなければならないと感じた。また解説文をつくった後の効果的な生か
し方も考えなければ,つくっただけで終わってしまう危険性がある。そのためには,さらに生徒がよ
り古典を好きになり,面白いと感じる授業展開の工夫が必要であり,それが古典の力を付けることに
つながると感じている。