デジタル表現 (Digital Presentation...

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講義概要 第 1時間目(平成 21年 4月 18日)

デジタル表現 (Digital Presentation Theory)担当 新潟大学 田中  環

放送大学 2009年度第1学期面接授業E-mail: prtana@gs.niigata-u.ac.jp

1 マルチメディア通信と画像の扱い

メディア (media)とは,「媒体」,「手段」を意味する英語 “medium” の複数形で,一般には物や情報などを運ぶ媒体を意味します。しかし,最近では「情報を運ぶ媒体 (情報媒体)」という意味で使用されることが多くなってきました。特に,テレビ,ラジオ,電話,新聞,ビデオ,CDやDVDなどはメディアの代表的なものです。また,通信や処理といった人間の情報活動の視点から見ると,次のような分類が考えられます。

そして,これらの情報は通信において同時に扱われるようになってきています。その結果,「マルチメディア通信」という概念が生まれたのです。

• 音声情報(電話やラジオのような音声とレコードや CDのような楽音があります。)

• 画像情報(静止画と動画および図形)

• 文字情報

• 数値情報(データベース)

この中でも,画像情報の色情報についての知識を深めるために,右の図のようなパソコンのペイント(お絵かきソフト)を利用して光の三原色に基づいた色光作成を体験します。これは,線形数学で学ぶ,「ベクトル空間」でのベクトルの基底と一次結合の考え方を利用しています。例えば,(2次元)平面上に互いに直交する 2つのベクトルが与えられているとしましょう。する

と,任意のベクトルはその2つのベクトルへ成分を分解して表現することができます。このように,互いに直交するいくつかのベクトルに分解して表現する原理は「内積」を利用しているわけですが,このような考え方は,社会の様々なところで利用されています。特に,テレビ放送,ラジオ放送,携帯電話などに代表される信号処理技術,病院の診療で利用されるコンピューター断層撮影(CTスキャン)などが主な応用分野です。

※左の図では,2つのベクトル x = (x1, x2) と v =(v1, v2) の内積を 〈x, v〉 = x1v1 + x2v2 で表し,v の大きさを 1 とする時,このベクトルに直交するベクトルx − 〈x, v〉v を計算している。

マルチメディア通信サービスの実現形態については,各種のメディアをディジタル化1することによって,1つのディジタル通信網で実現されるようになって来ました。これが,ISDN (IntegratedServices Digital Network: サービス総合ディジタル通信網)です。最近では,ネットワークの仕様も様々になり,光ケーブルなどが利用されるようになりました。しかし,それでも動画のような画像情報は情報の量が多すぎるので,いろいろな符号化方法と情報圧縮技術が開発されて利用されてきています。

1「デジタル」とも「ディジタル」とも書きます。ディジタル化には,標本化と量子化(および符号化)があります。また,標本化には時間の標本化と位置の標本化があります。第4時間目に学習します。

1

講義概要 第 2時間目(平成 21年 4月 18日)

2 光の色の表現法(混色系,顕色系,色の三色性)

2.1 混色系と顕色系による光の色の表現法

1. 混色系. . . . . .「加法混色」と「減法混色」があります。

加法混色 異なる色の光をスクリーン上に重ねて投影し,別の色を作る混色法。テレビの映像はそのような原理に基づいて映し出されています。

減法混色 白色光の前に色フィルターを重ねておき,透過光の色を変える混色法。パソコンのプリンタのトナーはこのような仕組みを利用しています。例えば,赤色の光を吸収する物質は,他の色を反射するのでシアン色になります。

加法混色 減法混色

2. 顕色系. . . . . .主なものに「マンセル表色系」と「オストワルト表色系」があります。※表色系(ひょうしょくけい)とは,一般に,物体の色や光源の色を数値や記号で表現する方法を指します。

マンセル表色系 すべての色を色相 (hue),彩度 (chroma),明度 (value)の3つで表現します。

(1) 色相は赤,黄,緑,青,紫の5色を基本とし,1つの円(色相環)の円周上に5等分になるように配列される。

(2) 明度は,黒 (0)から白 (10)までの 11段階。

(3) 彩度は,各明度ごとに鮮やかさの度合いを決める指標。無彩色(灰色)を彩度0として何段階かに分けている。

オストワルト表色系 すべての色を白,黒,純色(各色相)の混合色として表します。

(1) 色相は赤,黄,緑,青の4色を基本とて 24色相を選び, 円周上に混色して無彩色になるような補色色相同士が対向位置にくるように配列される。

(2) 各色相の等色相断面は白,黒,純色(各色相)をそれぞれ頂点とする正三角形で表される。

2

マンセル色立体2

オストワルト色立体2

2.2 色の三色性

ヤング-ヘルムホルツの3原色説あらゆる色は,異なる3色を適当な割合で混色することで作り出すことができる。ここでいう「異なる3色」とは,数学の言葉を使うと「一次独立な3色」ということになります。

つまり,色を “ベクトル”とみなして,色の世界を “ベクトル空間”と考えて,「どの色も他の2色からどのように混ぜ合わせようとも作り出すことが出来ない関係」にある3色を意味しています。通常は,加法混色では3原色の「赤 (Red)」,「緑 (Green)」,「青 (Blue)」を用いますし,減法混色では,「シアン (Cyan)」,「マゼンタ (Magenta)」,「黄 (Yellow)」を使用します。

2.3 等色実験

ヤング-ヘルムホルツの3原色説に基づき,光の3原色として「赤 (R)」,「緑 (G)」,「青 (B)」を用意して試料光 C と同じになるようにそれらの強度を適当に調整してその割合を求めることです。

~C = α~R + β ~G + γ ~B

ここで,~R,~G, ~B は色刺激(原刺激)を表します。通常は「光の重ね合わせ」で考えるので,α,β,γ は非負の実数となりますが,実際に,等色実験をすると負のスカラーになる場合があり,試料光の方へ原刺激を加える必要が出てきます。

2.4 グラスマンの法則

1. すべての色は,互いに独立な3つの色を混色すれば表現できる。(3次元のベクトル空間の基底の概念と比較して考えて見ましょう。)

2. 加法混色の1つの成分が連続的に変化すれば,混色された色も連続的に変化する。(連続性の法則。線形位相空間の性質。ユークリッド空間はその特別な例である。)

3. 等色している光は,その分光分布がどのような形をしていても加法混色において同一の効果を与える。(色の等価性の法則。ベクトルの和と比較して考えて見ましょう。)

4. 混色の明るさは,元の色光の明るさの総和である。(明るさの加法性の法則。)

2ここでのマンセル色立体とオストワルト色立体は,それぞれ,マンセル表色系とオストワルト表色系における「色立体」(物体の色や光源の色を空間的に配置した図形)を表しています。http://www.icoffice.co.jp/zukan/c color.htm または http://www.daicolor.co.jp/color/color 02.html を参照してください。

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講義概要 第 3時間目(平成 21年 4月 18日)

3 色光の定量的表現と各表色系による表現

3.1 色光の定量的表現

(1) 白色光による単位明度係数の決定白色光として分光密度が可視波長域に渡って一定であるもの(基礎刺激と呼ぶ)を選び,原刺激 ~R,~G, ~B を加法混色してこの基礎刺激 ~CB を等色した時の各原刺激の輝度(明度係数と呼ぶ)を lR, lG, lB とします。つまり,lR, lG, lB を明度係数として

~CB = lR ~R + lG ~G + lB ~B

と表され,e1 := lR ~R,e2 := lG ~G, e3 := lB ~B とするとき,これら {e1, e2, e3} を色光の基底とすることができます。このとき,lR, lG, lB は,原刺激 ~R,~G,~B の1単位と考えることができるのです。

(2) 任意の色光 ~C の座標表示ある色光を等色したとき,その各原刺激の輝度を LR, LG, LB とすると,次のように表されます。

~C = LR~R + LG

~G + LB~B

=LR

lRlR ~R +

LG

lGlG ~G +

LB

lBlB ~B

= Re1 + Ge2 + Be3 =(

e1, e2, e3

) RGB

(ただし,R =

LR

lR, G =

LG

lG, B =

LB

lBとおきます。

)(3) (2)での色光 ~C の輝度 LC

グラスマンの法則 (4)により,次のようになります。

LC = LR + LG + LB = (lRR) + (lGG) + (lBB)

(4) 任意の色光 ~C の3次元空間表示(1), (2) で考えたように,{e1, e2, e3} を色光の基底として選ぶことで色光の3次元空間表示が可能となります。つまり,{e1,e2, e3} を3次元のユークリッド空間 R3 の基本ベクトル(1, 0, 0)T , (0, 1, 0)T , (0, 0, 1)T と同一視して考えると,任意の色光 ~C はこれらの一次結合となり,3次元のユークリッド空間のベクトルとして表現することができるのです。そのときの座標は,(R,G,B)T となります。ここで,T という記号は,行列の転置記号を表します。

実際に色光を再現する際には,「一次結合」の変わりに「非負一次結合」でしか実現できませんので,再現可能な色がなるべく多くなるように色光の基底を選ぶ必要があります。実は,光の三原色の赤,緑,青はこの条件を満足するようになっています。

(5) 単位面の決定と色三角形(4)で考えた3次元のユークリッド空間 R3 の基本ベクトル (1, 0, 0)T , (0, 1, 0)T , (0, 0, 1)T (の終点)を通る平面を H とすると,H は次のような集合となります。

H =

x

yz

∣∣∣∣∣∣ x + y + z = 1

4

なぜでしょうか?

また, xyz

= x

100

+ y

010

+ z

001

なので,これは先の基本ベクトルの特別な一次結合(その係数の和が 1 となる)で,アフィン結合 (affine combination)と呼ばれています。H はそのような基本ベクトルのアフィン結合全体からできていて,(1, 0, 0)T , (0, 1, 0)T , (0, 0, 1)T のアフィン包 (affine hull) と呼ばれています。2点の場合は,その2点を通る直線となります。

さらに,上記の H の部分集合で,その基本ベクトルの頂点を結んでできる三角形は次のような集合となっています。これを「色三角形」と呼んでいます。

T =

x

yz

∣∣∣∣∣∣ x + y + z = 1, x ≥ 0, y ≥ 0, z ≥ 0

ただし,各アフィン結合は,その係数の和が 1 となるだけでなく,すべての係数が非負である必要があります。このような特別なアフィン結合を (1, 0, 0)T , (0, 1, 0)T , (0, 0, 1)T の凸結合 (convex combination) と呼んでいて,その凸結合全体の集合は,(1, 0, 0)T , (0, 1, 0)T ,(0, 0, 1)T の凸包 (convex hull)と呼ばれています。2点の場合は,その2点を結ぶ線分となります。

(6) 任意の色光 ~C の色三角形中での表現色光 ~C = (R,G,B)T が単位面 H を貫く点が色三角形上にあるとき,この交点を C0 とすると,点 C0 の座標は,

C0 =

rgb

=

R/(R + G + B)G/(R + G + B)B/(R + G + B)

で表されます。なぜでしょうか?

【理由】ベクトル ~C から張られる1次元の直線と平面 H の交点 C0 := (r, g, b)T を求めることを考えると,C0 は ~C の定数倍(スカラー倍)であると同時に,その座標成分は,r+g+b = 1, r ≥ 0,g ≥ 0, b ≥ 0を満足しなければならない。従って,C0 = t ~C と考えると,(r, g, b)T = t(R,G,B)T

となり,r + g + b = 1 であることから t(R +G+B) = 1,つまり t = 1/(R +G+B) となる。

特に,色三角形の高さを1とすると,C0から3辺までのそれぞれの長さは,b, r, g に一致します。【理由】まず,頂点 e1 と e2 を結ぶ直線(辺)を l1 とすると,l1 はその2点のアフィン包となるので,

a1 − a

0

∣∣∣∣∣∣ a ∈ R

と表される。そこで,点 C0 から辺 l1 までの距離を x とすると,

x = min0≤a≤1

√(a − r)2 + (1 − a − g)2 + b2

x2 = min0≤a≤1

((a − r)2 + (1 − a − g)2 + b2

)=

32b2

5

となり,結局,x =√

32b となる。同様にして,頂点 e2 と e3 を結ぶ直線(辺)を l2,頂点

e3 と e1 を結ぶ直線(辺)を l3 とし,点 C0 から辺 l2,l3 までの距離を y, z とすると,

y =√

32r,z =

√32g となる。ここで,色三角形の高さを1とすれば(つまり,

√23 倍する

と),それぞれの距離は,b, r, g となる。

3.2 色光の各表色系による表現

色三角形を RG平面へ投影すると任意の色光 ~C の座標

rgb

は (rg

)と同一視できます。こ

こで,b = 1 − r − g となっています。この色三角形を RG平面へ投影した図形を色度図といいます。実際には,光の三原色の赤・緑・青を結ぶ色三角形の内部ではすべての色を再現することは不可能で,下の図のように馬蹄型の領域になることが知られています。

(1) RGB表色系による色度図国際照明学会 CIE1931:波長 700.0 nm(赤),546.1 nm(緑),435.8 nm(青)の3つの単色光を原刺激として選んだもので,明度係数を

lR : lG : lB = 1 : 4.5907 : 0.0601

として等エネルギーの各単色光を2度の視野(50cm の距離から直径約 1.7cmのものを見る視野)で等色したもの。

(2) XYZ表色系による色度図国際照明学会 CIE1931:座標変換によりRGB表色系の欠点をなくす表色系が提案された。

XYZ表色系による色度図3

等色関数

W.G.Wrightと J.Guildの等色実験に基づき,国際照明学会(CIE)で定められた,等エネルギースペクトルに対する目の感度をスペクトル刺激値といい,この感度曲線を等色関数といいます。つまり,光の波長ごとに等エネルギーの単色光を決められた三原色(原刺激 ~R,~G,~B)で等色して得た3刺激値のことで,通常,r(λ), g(λ), b(λ) と表され,それぞれ波長 λ の実数値関数になっています。波長は可視光線から選ばれ,380nm ≤ λ ≤ 780nmです。 XYZ表色系による等色関数4

3色度図は,明るさの情報を犠牲にして2つの数値で色を表し,2次元の図に表現したものを表しています。詳しくは,http://konicaminolta.jp/instruments/colorknowledge/part1/09.html を参照してください。

4詳しくは,http://konicaminolta.jp/instruments/colorknowledge/part2/06.html を参照してください。

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講義概要 第 4時間目(平成 21年 4月 18日)

4 画像情報のデジタル化(標本化,量子化,符号化)

(1) 画像情報のディジタル化には,時間の標本化と 位置の標本化の他,量子化 があります。

(i) 時間の標本化 (Time Sampling)とは,1次元の時間軸上に,特定の時間間隔で離散的な時刻を設定し,時間的に変化する映像から各時刻での一瞬の画面を切り出すことを指します。

(ii) 位置の標本化 (Space Sampling)とは,2次元の画像空間内に,特定の間隔で離散点を設定し,それらの離散点での輝度値で画像を表現することを指します。

(iii) 量子化 (Quantization)とは,連続的な輝度値の変化範囲内にあらかじめ離散的な複数個の輝度値を設定して,対象とする画素の輝度値をその設定した離散的な輝度値の一つで近似表現することを指します。

(2) 情報の符号化 (Coding)符号化とは,ディジタル処理・伝送・記録(蓄積)を容易にするために,情報を何らかの仕組みを利用してディジタルデータへ変換することです。変換されたデータを符号と呼び,符号から元の情報へ戻すことを復号と呼びます。例えば,画像信号の情報量は極めて多く,コンピュータ(処理)や光ケーブル(伝送),メモリ・ディスクなどの記録媒体(蓄積)で扱いやすくするために,これらを圧縮する技術が用いられています。情報の符号化には,情報源符号化と 通信路符号化の2つの方法が利用されています。

(a) 情報源符号化 (Source Coding)文字・画像・音声などの元情報の符号化です。符号化の対象となる情報の性質に応じた符号化方式が選択されます。情報圧縮技術はこちらに分類されます。

(b) 通信路符号化 (Channel Coding)—伝送路符号化ともいいます。ネットワークや伝送路の特性に合わせた符号化です。情報を送る伝送路の帯域, 雑音や妨害などの性質に応じて, すでに情報源符号化された情報を再度符号化するものです。例えば,データの信頼性を高めるための誤り検出,誤り訂正符号の付加や畳み込み符号化などがあります。変調技術もこちらに分類されます。

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講義概要 第 5時間目(平成 21年 4月 19日)

5 ディスプレイとテレビジョンの仕組み

テレビの受像管をブラウン管,パソコンのディスプレイを CRTと呼んで異なるもののような気がしますが,走査方式の違いを除けばまったく一緒のものです。

(1) 走査方式 (scanning)1843年イギリスのベインが考案した走査概念のことで,標本化と量子化の原理に基づき,画像情報などの2次元情報を1次元情報に変換する操作を「走査」と呼んでいます。画面を左から右へ一方向に移動しながら画面上の各画素位置での輝度値や色情報を走査して光の情報として集めることを水平走査 (horizontal scannning)と呼び,この水平走査を画面の上から下へ順にずらすことを垂直走査 (vertical scannning)と呼んでいます。テレビジョンでは,水平走査と垂直走査をうまく組み合わせて(ラスター走査),1画面の光の情報を集め1次元情報にして,それらを光電変換5 により電気信号に変換しています。受信側では,送られてきた電気信号を電光変換により,再び光の信号に変換することを行っています。

走査方式には,プログレッシブ走査(順次走査)(sequential scanning)とインターレース走査(飛越し走査)(interlaced scanning)の 2種類があります。パソコンのディスプレイはプログレッシブ方式でテレビの受像管(テレビモニター)はインターレース方式です。

(2) テレビジョンの表示装置1897年ストラスブルグ大学(独)の物理学者,カール・フリードリッヒ・ブラウンが CRT(Cathode Ray Tube, 陰極線管)を発明したとされているため,CRTをブラウン管と呼んでいます。ブラウン管の発明により,真空放電という物理現象を利用して,テレビという電化製品が生み出されました。

現在ではデジタル放送が開始され,地上波のアナログ放送は 2011年 7月 24日終了,衛星放送 (BS)のアナログ放送も 2011年までに終了とされ,ブラウン管方式のテレビは国内では姿を消して,液晶やプラズマを利用した平板形表示装置に代わっています。

ブラウン管テレビ 液晶表示装置

(a) CRT形(Cathode Ray Tube,ブラウン管テレビ)真空放電を利用した陰極線管を応用したテレビジョン。

(b) 液晶表示装置(LCD,Liquid Crystal Display,液晶テレビ)ねじれ配向された液晶セルを一対の偏光板ではさみ電圧を加えてシャッター機能を用いたテレビジョン。

51817 年にセレン元素が発見され,1873 年にセレンの光電現象がイギリスのスミスとメイによって発見されました。

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(c) プラズマ表示装置(PDP, Plasma Display Panel,プラズマテレビ)2枚のガラス板の間にネオンやキセノンのような希ガスを封入して,放電で発生する紫外線で蛍光体を励起する方式のテレビジョン。

液晶に電気を通さない場合 液晶に電気を通した場合

(3) 放送テレビジョン方式現在,日本国内で使用されているテレビ放送は,アナログ地上波,デジタル地上波,アナログ衛星放送,デジタル衛星放送などが混在していて,NTSC方式から HDTV方式(ハイビジョン)への過渡期となっています。以下の表を埋めてみましょう。

放送方式 標準テレビジョン (NTSC方式) 高精細テレビジョン (HDTV)

走査線数

操作方式

アスペクト比

フレーム周波数

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講義概要 第 6時間目(平成 21年 4月 19日)

6 テレビジョン放送の送信・受信の仕組み

(1) 送信・受信の仕組み映像情報,音声情報は,下の図のように別々にディジタル化(標本化,量子化)され,それぞれ別の形式の変調方式によって電波(搬送波)に乗せられて電波塔から送信されています。この電波を各家庭でアンテナを利用して捉えて,テレビ受信機で見ることができる仕組みになっています。

(2) 放送テレビジョン方式世界の放送方式は大きく 3つに分類されます。

(a) NTSC方式6(National Television System Committee)走査線数 525 本,毎秒フレーム数 29.97 で,日本の標準テレビジョン方式です。米国で開発され,日本の他,カナダ,韓国,台湾などで使用されています。

(b) PAL方式7(Phase Alternating Line)走査線数 625 本,毎秒フレーム数 25 で,イギリス,イタリア,オランダ,ドイツ,オーストラリア,インド,中国などで使用されています。

(c) SECAM方式8(仏 Sequentiel couleur a memoire)走査線数 625 本,毎秒フレーム数 25 で,ロシアやチェコなどの東ヨーロッパ,フランス,エジプトで使用されています。

6アメリカの “National Television System Committee”(国家テレビ標準化委員会)の略称。アメリカではデジタルテレビ放送用の “Advanced Television Standards Committee”(ATSC)規格が設定された。日本では,日本が開発した放送規格 “Integrated Services Digital Broadcasting”(ISDB)を利用したデジタル放送に 2011年 7月 24日までに完全移行する予定である。

7PAL(Phase Alternating Line,位相反転線)の略称。走査線毎に色信号の位相を反転している。8フランス語で Sequentiel couleur a memoire(順次式カラーメモリ)の略称。NTSC にあるようなカラー付加の際の

副作用を防ぐため,カラー信号の情報を周波数変調(FM)して多重している。

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講義概要 第 7時間目(平成 21年 4月 19日)

7 電波の性質

(1) 電波の周波数と波長電波も光も電磁波の1種類なので,その速さは光の速さと同じです。(毎秒○○万キロメートルでした。メートルの由来から思い出してください。)電波の速さと周波数,波長の間には次のような関係が知られています。

(2) 正弦波信号信号とは,「物理系の状態に関する情報を何らかの方法で伝達する量」と定義されます。信号を数学的に表すために,次のような三角関数で記述される,正弦波信号 (sinusoidal signal) を用いることが基本となります。

x(t) = A sin (ω0t + φ)

ただし, ω0 ラジアン (rad)は角周波数 (angular frequency)(または角振動数ともいう),φ ラジアン (rad)は位相 (phase),Aは(最大)振幅 (amplitude)を表しています。

(a) 三角関数の性質から sin は位相をずらせば, cos でも表すことができます。

(b) 角周波数 ω0 は一秒間に回転する角度を表していて,その単振動の1回転から1周期の波が生成されると考えると,角周波数 (毎秒角度)を 2π(一回り)で割った値が一秒間に送り出される波の数になります。これが周波数 (frequency) f0 :=

ω0

2πです。周波数は振

動数とも呼ばれます。

(c) また,T :=1f0を周期と呼び,1つの波が進む速さを表しています。これも,1秒を周

波数 (一秒間に送り出される波の数)で割ることで,一つの波の進む速さになります。

(d) 上のことから,T = 2πω0あるいは ω0 = 2π

T が成立するので,各地点の時刻 t による変位を表す単振動は次のように表されます。

y = A sin2π

Tt または周波数 f0を使って, y = A sin 2πf0t

角周波数(ω)

周期(T = 2π/ω) 振幅が1の単振動

ω= 1 T= 2π x1(t)= sin tω= 2 T= π x2(t)= sin 2tω= 3 T= 2π

3 x3(t)= sin 3t...

......

ω= n T= 2πn xn(t)= sin nt

(3) 周波数 (振動数)とは,「1秒間に送り出せる波の数」を意味します。単位は,「ヘルツ (Hz)」を使うので,100MHzといったら,1秒間に 100× 106 個の波を送り出すことになります。別の言い方をすれば,1秒間に1億周期の波のことを意味します。問題 100MHzの電波の波長は何メートルか?計算して求めなさい。

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(4) 信号の種類標本化・量子化によって,信号の種類は,次の4つに分類されます。第4時間目(7ページ参照)に学習した内容から表にしましょう。

(5) 変調の種類変調には,大きく分けてアナログ変調とデジタル変調の2つがあります。もともと,ラジオ放送とテレビ放送が発明された時には,どちらも振幅変調 (AM: Amplitude modulation)であったようです。その後,周波数変調 (FM: Frequency modulation)が発明されてラジオ放送で採用され,その後テレビ放送でも利用されるようになりました。現在の地上波デジタル放送とは,この「デジタル変調方式」によって送信しているテレビ放送のことを指します。つまり,変調方式が「アナログ変調」から「デジタル変調」へ移行したということです。受信機はもちろん買い換えるか,コンバータを必要とします。

(入力信号)\変調方式

アナログ変調

(アナログ信号)

デジタル変調

(デジタル信号) (振幅偏移変調) (周波数偏移変調) (位相偏移変調)

(6) テレビジョン信号の最高画周波数1周期の信号波に1つの情報を対応させて変調すると,1秒間に送信したい情報量は周波数では,4.2 MHz となります。なぜでしょうか。この情報を位相も振幅もそろった正弦波の電波(搬送波と呼ぶ)に乗せることを 変調 と呼びます。

また,波の性質上,基本になる周波数の電波にこの情報を乗せると周波数が変化して上側と下側に変動します。この幅のことを帯域幅と呼んでいます。

(7) NTSC方式の変調方式のしくみ振幅変調の場合では,1つの波に1つの情報のみしか載せられなかったので,4.2 MHzの2倍の帯域幅が必要になるが,NTSC方式では,電波の有効利用のために片方の側波帯 (sideband)9

を少し残してあとは抜き取って送信しています(残留側波方式,VSB; Vestigial Side Band)。片方の側波帯を少し残すのは,画面の直流分を確実に伝送するためです。また,音声信号も同時に周波数変調して,映像信号とともに送っています。このとき,映像信号の搬送波周波数を中心にして,1.25MHz下の下側波帯と 4.2MHz上の上側波帯,および 4.5MHz上の音声信号搬送波を幅 250KHzの合計 6MHzのビデオ信号として多重送信しています。

9周波数 f0 の搬送波を f1~f2 (f1 < f2) の周波数帯を持った信号波で変調すると,搬送波の周波数を中心として,これより低い周波数成分 f0 − f2~f0 − f1 と,これより高い成分 f0 + f1~f0 + f2 が生ずる。これが側波帯である。周波数が低い方を下側波帯 (LSB),高いほうを上側波帯 (USB) という。

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講義概要 第 8時間目(平成 21年 4月 19日)

8 変調方式の原理とテレビ放送

8.1 変調方式の原理

振幅変調は,送信信号の波形を包絡線 に持つような一定周期の電波を変調波として送信します。

信号波 Vs = As cos 2πfst搬送波 Vc = Ac sin 2πfct

振幅変調波 Vam = (Ac + Vs ) sin 2πfct

8.2 テレビ放送

(1) チャンネルはどのように決められたか?第7時間目(12ページ)の (7)の側波帯の脚注で説明したように,変調を行うとどうしてもいくらかの帯域幅が必要となり,(6)で考察したようにNTSC方式では,4.2MHzの帯域幅は最低確保しなければいけません。また,シャノンの標本化定理により,約10倍程度の周波数を使えば,同程度の品質に復元できることが知られてます。そこで,両側の側波帯を考えて,4.2MHz×2× 10 =84MHz という計算式が成り立つので,日本ではきりのよい,90MHz からテレビ放送用の電波使用領域となっているようです。ただし,(5)でみたように,残留側波方式と音声信号の部分も含めて,6MHzあれば十分なので,6MHz刻みでチャンネルを決めているようです。つまり,1チャンネルは 90MHz~96MHz,2チャンネルは 96MHz~102MHzという具合です。

(2) テレビ放送とチャンネルの歴史10

日本では 90MHz からテレビ放送用の電波を使用しています。FMラジオ放送は,76MHz~90MHzを使用しています。現在のテレビ電波としては,波長が 3.23–1.37mの超短波 (VeryHigh Frequency)である VHFと波長が 0.63–0.39mの極超短波 (Ultra High Frequency)であるUHFを利用していますが,50年前はVHFだけだったので,各放送局のチャンネル権争いは激しいものでした。

そもそも電波の利用は,政府の専有を原則としていたが,昭和 25年 4月 26日に電波三法(電波法,放送法,電波管理委員会設置法)が成立し,同年 5月 2日公布,6月 1日施行に至ったことで,広く国民に解放されました。それまでは,大正 12年 12月 20日に公布施行された無線電信法によって規律されていました。しかし,放送事業の経営主体の要件について特に規定していなかったため,民間業者から多数の申請がされるようになり問題化していったようです。まず,1950年 (昭 25)11月 10日に NHK東京テレビ実験局が定期実験放送を開始しました。昭和 31年,「テレビジョン放送用周波数の割当計画基本方針の決定」により 6チャンネル制が確立しましたが,その後すぐに足りなくなって,昭和 32年「テレビジョン放送用周波数の割当計画表(第 1次チャンネルプラン)」により 11チャンネル制に移行しました。現在の 12チャンネルの周波数帯には,GHQの使用する帯域があり,当時は最大 11チャンネルしか計画できなかったようです。

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CH 周波数 放送事業所 (現在名) 開局年月日とコールサイン

1 90~ 96 日本放送協会 (NHK) 1953年 (昭 28)2月 1日

NHK東京テレビジョン (JOAK-TV)11

2 96~102

3 102~108 日本放送協会 (NHK) 1959年 (昭 34)1月 10日

~ NHK東京教育テレビ (JOAB-TV)

4 170~176 日本テレビ放送網 (NTV) 1953年 (昭 28)8月 28日 JOAX-TV

5 176~182

6 182~188 東京放送 (TBS) 1955年 (昭 30)4月 1日 現在 JORX-TV12

7 188~194

8 192~198 フジテレビジョン (CX) 1959年 (昭 34)3月 1日 JOCX-TV

9 198~204

10 204~210 テレビ朝日 (EX) 1959年 (昭 34)2月 1日 JOEX-TV13

11 210~216

12 216~222 科学テレビ 1964年 (昭 39)4月 12日

科学技術学園工業高等学校の授業放送

(財団法人日本科学技術振興財団)

テレビ東京 1968(昭 43)7月 1日 JOTX-TV

~ �東京 12チャンネルプロダクション設立14

10本資料をまとめるにあたって,財団法人電気通信振興会発行『電波・放送五十年の軌跡』,フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』を参考にしました。

11GHQが第 1,第 2チャンネルを使用していたため,NHK 総合テレビは,最初は 3チャンネルとして開局し,その後,1 チャンネルに変更されました。

12最初は「ラジオ東京テレビ」(JOKR-TV) として開局13最初は「日本教育テレビ」として開局14テレビ東京は,最初は財団法人日本科学技術振興財団テレビ事業本部が運営していましたが,その後,1969年 (昭 44)10月 27 日から日本経済新聞社に引き継がれました。また,1973 年(昭 48)10 月には,�株式会社東京 12 チャンネルに社名を変更し,財団法人日本科学技術振興財団から放送事業を譲り受けました。

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