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研究開発成果の最大化 に向けた取り組み 2015年10月6日 宇宙科学研究所長 常田 佐久 (本資料はJAXA内部での使用に限る) 本日の講演内容 課題の提起 自分の一般職新人育成経験 相模原の人材育成機能 相模原の人材育成機能の全社展開 教育職の意識改革 相模原以外の研究者への期待 2

"「研究開発成果の最大化に向けた取り組み」 創立記念日講演,2015年10月6日 "

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研究開発成果の最大化に向けた取り組み

2015年10月6日宇宙科学研究所長

常田 佐久(本資料はJAXA内部での使用に限る)

本日の講演内容

• 課題の提起

• 自分の一般職新人育成経験

– 相模原の人材育成機能

– 相模原の人材育成機能の全社展開

– 教育職の意識改革

– 相模原以外の研究者への期待

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今後の課題• プロジェクト実施における工学系教員の役割

• 宇宙研における技術系職員の役割– PO・SEの強化、実験現場を支える技術系職員の

維持、及びDE組織の再定義

• 専門技術組織(DE)と技術者教育における全JAXAレベルの貢献– JAXA新人育成場所の一つとして、DEのフレーム

ワークを活用した、学術研究と密接に連携した実験現場を提供すること等を含め検討を開始

2014年度創立記念日講演「宇宙科学プロジェクトの実行改善について」の最後のページ

DE: Disciplinary Engineer

宇宙研に所属するDEの課題

• 専門技術組織であるにも関わらず、宇宙研でのプロジェクトへの参画と研究開発が何に繋がっていくのかが、DE内外で

共有されておらず、従って、将来目標に向かって、組織においても、個人においても、今何を成すべきかが明確でないまま運営されてきた。

• 明確かつ具体的な目標がないため、JAXAにとっても、組織的・戦略的に機能していなかった。

• DEの人材育成方針が無い。DEメンバが将来どのような人材になることを期待しているのか、それがJAXAの発展にどうつながるのかという観点からの議論がなかった。

• その結果、どのようなレベルを目指せば良いのか、教育職とどういう関係を築けば良いのか、ロールモデルのない状態に置かれていた。 4

一般職の課題?

• メーカーへ丸投げしたり、「とりまとめ」だけの機関になっており、優秀で志の高い職員が多い中、せっかくの能力を発揮していないのではないか?(メーカーに投げることも時としては必要だし、「とりまとめ」も重要であることを認めつつあえて言うが、)– 仕様書を書くことすらもメーカへの役務やメーカからの出向者

が担当するケースがないか?

– 若いうちから「「メーカが仕様書を作成するための契約」の仕様書」の体裁の整えやこれの予算取りに多くの時間を使っていることはないか?

• 自分達の衛星・自分達の開発品として、思い入れを持って取り組めているか? そのような環境がJAXAにあるか?

• その結果、仕事の醍醐味や成功体験を味わう機会が少ないのではないか?

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国立天文台での経験

• 組織の長として:国立天文台・先端技術センター(60人規模)長として、平成17~24年の8年間、組織改革、技術系職員の技能向上と意識改革に傾注し、かなりの改善を実現した。

• 教育職の一人として:国立天文台で一般職2名の新人教育を約5年間担当し、さらに、ベテラン一般職4名と長期に渡っていっしょに仕事をした。プロジェクト終了後、全員を他プロジェクトに送り出した。自分にとって、大学院生の指導も、一般職のアドバイザーも、そのやり方は異なるが、同じように重要であった。

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SIS超伝導素子 (Nb – AlO2 –Nb)

500μm

電波カメラ用シリコンレンズ

ALMAバンド8受信機

ひので搭載赤外フィルター

完全空乏型CCD

超低雑音・大規模センサー回路GaAs 4K FF

直径82cmのレンズすばる搭載超広視野カメラ

116枚の2Kx4K CCD

国立天文台先端技術センター長

としての活動

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2003年7月12日 「天文学最前線」 8

1981「ひのとり」硬X線望遠鏡

1991「ようこう」軟X線望遠鏡

2006「ひので」可視光望遠鏡

1997観測ロケットドップラー望遠鏡

2001気球硬X線スペクトル計

2015 米国ロケット実験CLASP

NAOJ/MSFC/CNES CLASP7年がかりで完成

2015年1月国立天文台

研究者、技術者が自ら手を下して開発することにより、技術力、マネジメント力を身に着ける

ケーススタディ:Aさん気球実験からALMA経由すばるへ

• 学部卒・大手半導体メーカー2年在籍、国立天文台技術系職員として採用

• 「ひので」や気球実験の基礎実験(サンセンサー開発、コンタミ関連の基礎実験)などで約5年間新人教育

• その後、ALMA計画で量産超伝導素子製造プロセス技術開発に約5年従事し、「God hand」と高い評価を受ける。

• 現在ハワイ観測所にてNew development/Instrumentグループ所属(米国人上司)し、東大IPMUなどの国際チームによるすばる望遠鏡搭載「主焦点分光装置」の冷却システムの設計・製作担当。

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• 「ひので」衛星開発で、多くの時間を実験室で過ごした。 その後に所属したプロジェクトでも様々な分野の異なる実験を行った。 「ひので」時代に実験に興味を持ち、ある程度の結果が出たことで、自分の適性を理解し、その後の仕事につながった。

• 台報論文を3本書いた(ひので2、気球1)。 実験論文なので、論文を書く際に、それぞれの実験の目的、方法、実験の正確さ、 データの精度などを改めて見直す機会になる。論文を書くようになってから、「 これは文書に残せる実験方法、実験精度であるか?」ということを 常に意識しながら実験を行うようになった。

• これにより、自分の仕事を文書として残すことは重要だと認識した。その後、ALMAでは天文台報1本、 IEEEの英語論文1本を書いた。 11

Aさんの新人教育期間5年間についての所感(1)

Aさんの新人教育期間5年間についての所感(2)

• 衛星は、装置開発またはスケジュールなどで厳しい要求がある。「ひので」の開発では厳しいスケジュールの中でも常に出来る限りのことをやろうしていた。 自分自身も、

「自分の仕事でいい加減な結果は出せない。開発スケジュールを 遅らせてはいけない。」という非常な緊張感の中で仕事をしていたように思う。

• 「ひので」は国際プロジェクトであったので、衛星開発に

関しても多くの国際設計会議があった。そのうちのいくつかでプレゼンを行った。 英語の必要性は、この時、認識した。昨年、ハワイ観測所に異動したのは、 英語で仕事ができるようになる必要があると思ったのも理由である。

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自分の仕事を文書にまとめること(=論文)の重要性

• 「ひので」プロジェクトでは、まず日本語報告に必ずまとめてもらうルール(国立天文台報)

• SOLAR-B可視光・X線望遠鏡の開発・試験における汚染評価とフライト部品のベーキング結果報告

• Solar-B X線カメラの温度制御試験装置の開発

• 気球観測用太陽姿勢センサーの開発と飛翔結果

• Solar-B可視光望遠鏡で使用する複合材料及び接着剤のアウトガス放出に起因するコンタミネーションの定量的評価(I)

• 乗鞍コロナ観測所における液晶遅延素子を用いた汎用偏光解析装置の開発

• Solar-B X線望遠鏡搭載の裏面照射型CCDの評価

• 太陽観測用ロケット搭載可動鏡の開発と飛翔結果

• 次期太陽観測衛星用光学ガラスの放射線耐性試験

ケーススタディ:Bさん観測ロケットからすばる望遠鏡へ

• 宇宙研で修士号、民間企業(人工衛星の追跡管制業務)に勤務後、国立天文台研究技師に採用

• 「ひので」プロジェクトで新人教育後、ハワイ観測所望遠鏡エンジニアリング部門研究技師

• CLASP観測ロケット実験という比較的コンパクトなプロジェクトマネジャーを務め、ロケット実験に関する個々の技術だけでなく、全体を見渡してバランスをとるシステムズエンジニアとしての能力を磨いた。この能力を買われて、現在は、すばる望遠鏡という巨大システムの機能更新に参画。

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Bさんの新人教育• 教育職との良好かつ密接な関係を構築

– 「ひので」もCLASPも、科学目的にドライブされて、よりよい装置の開発意欲にあふれた教育職が身近に存在し、一般職もそれを感じることができる環境にあったことと、ともにプロジェクトの検討・試験を行っていくことで、業務を単にこなすのではなく、創意工夫を以て仕事にあたる意識が生み出されていった。

• 実験と現場作業に没頭

– CLASPや「ひので」では、どのメンバーも机上検討のみではなく、自ら体を動かして組立・試験にあたるのは当たり前であり、頭でっかちにならずに、プロジェクトの醍醐味と成功体験を味わうことができた。

– 天文台にはマシンショップ(試作工場)があり、相談や製作依頼などを通じて製造段階も直接感じ取れる環境も良い効果を与えた。

• 明確な長期目標設定と達成度の確認

– 年度毎の目標設定と達成度確認の制度が、惰性で何となく進んでいくのを避けるのに有効に働きつつある。

– 「プロジェクト・マネージメント能力を持つ」という全体の目標をキープして進んでいくという本人の強い意志があった。

2012/2/21 採用時研修成果発表会 16

今後の抱負、計画

1. 先進的な機器開発を行っている国立天文台でプロジェクトエンジニアとして貢献すること。

教育職が本来の研究活動、開発研究に専念・開発の現場における品質の維持・向上・教育職の論文生産性向上への寄与

サイエンス、観測機器の高度化↓

人工衛星の高機能化・大型化↓

システムの複雑化

国立天文台の関与する人工衛星・地上大型施設の開発:

•教育職の中のスーパーマンに頼る開発にも限界。•教育職が科学研究に専念できる時間が益々減少し、日本の国際競争力が低下する懸念。

専門職としての

プロジェクトエンジニアとして貢献

Bさんの採用時研修成果発表会資料(2012年)

2012/2/21 採用時研修成果発表会 17

今後の抱負、計画

2. “国立天文台における”プロジェクトエンジニア職のキャリアモデルを構築すること。

観測機器“運用”を研究者以外が行うという、日本の科学衛星では新しい形態を「ひので」衛星で具現化した。これを観測機器“開発”の場へも拡大し、国立天文台におけるプロジェクトエンジニアの先駆けとなる。

プロジェクトの規模、母体組織の規模(予算、人的リソース等)によって、プロジェクトエンジニアの必要性や求められる職務は異なってくる。

この職種を国立天文台内に持つことの意義を示し、キャリアモデルとしての道筋をつける。

観測ロケット実験(CLASP)

適切な規模のプロジェクトでマネジメントの経験を積む

次期太陽観測衛星SOLAR-Cプロジェクト

・太陽分野以外への貢献・継続的な技術交流

光赤外、電波 等

国立天文台の次期大型プロジェクト

実務経験を積む その後は、太陽以外の国立天文台のプロジェクトで活動

Bさんの採用時研修成果発表会資料(2012年)

宇宙科学研究所と研究開発部門間の協力基本計画書(2015年10月1日付け)

• 相模原の有する高い人材育成機能を全社的に位置付け、そこで育った人材が全社的に有効活用されるようにする。

• 相模原に在勤する研究員が、自らのキャリアパスを全社的観点から把握し、筑波在勤の研究者との協力・連携を行いながら成長することを促す。

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教育職にとってJAXA一般職の人材育成はやりがいのある仕事でありその投資効果は大きい

• 良くある質問1:手塩にかけて育てても他部門に持っていかれるのか?

– 同じように手塩をかけた大学院生もほとんどは外部に出ていく。それと、どこが異なるのか。

– 他部門で一段と成長して、いずれブーメランのように戻ってきて、さらに活躍する人材となる。この良い循環を作るべき。

• 良くある質問2:プロジェクトの途中で引き抜かれる懸念があるのでは?

– それが起きないように制度設計。一方、プロジェクトが一段落したら、宇宙研から出て全社人材として活躍すべし。

• 良くある質問3:研究開発部門の所属となり、一体感が失われるのでは?

– リーダーの教育職の力量と魅力で引き付けるべき。 20

名前 配属

石田 貴行 第一U通信・データ処理G

テーマ SLIM BBM開発 他

指導担当 ○福田(教)

杉本 諒 第二U熱・流体G

テーマ 衛星熱設計解析の高度化研究他

指導担当 ○小川(教)・岡崎

武井 悠人 第一U航法・誘導・制御G

テーマ 惑星探査ミッション計画の研究

指導担当 ○津田(教)・廣瀬史子・川勝(教)・石井(教)

吉川 健人 第一U航法・誘導・制御G

テーマ 探査ロボット・サンプル技術研究

指導担当 ○大槻(教)・澤田・久保田(教)

竹崎悠一郞 第二U推進系G

テーマ 再使用ロケットシステム/推進系研究

指導担当 ○野中(教)・丸(教)・成尾(教)

岩淵 頌太 基盤技術G テーマ 構造・機構解析及び試験技術の高度化研究

指導担当 ○峯杉(教)・石村(教)

石丸 貴博 第一U

電子部品・デバイス・電源G

半導体の放射線効果と超高感度赤外センサ技術の研究他

○小林(教)・和田(教)・廣瀬(教)

相模原の人材育成機能

所全体で新人育成• 指導教員の責任

は重大• 研究所会議にて、

宇宙科学基盤技術統括(廣瀬先生)より、新人育成計画の説明。

• 年内に新人による短期計画と長期計画について発表会開催。

• 毎年度末に成果発表会を開催。

一般職研究者へ

• 人に負けない専門分野を一つ持つ。ある分野についての深い専門知識と技術を持つ。

• その際、学問的基礎も重要。

• 大きな学術成果の出る研究だけが研究でない。小さい工夫の積み重ねが、プロジェクトや開発研究で大きな成果や高い信頼性をもたらす。

• 現場を経験し腕を磨いて、その上で、実感としてプロジェクトマネジメントやシステムズエンジニアリングの重要性を認識すること。

• プロジェクトや開発研究において、ささやかでも、成功体験を持つこと。

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